説明

胸部圧迫システム

【課題】使いやすく、堅牢で、可搬性があり、軽量で、安全で信頼性が高く、感覚的に分かるユーザ・インタフェースを有し、患者の安定性が確保でき手頃な価格である蘇生装置を提供する。
【解決手段】患者の胸部を繰り返し圧迫し、胸郭を強制的または自然に拡張させる胸部圧迫装置1と、電源装置20と、前記胸部圧迫装置の動作を制御するために、前記胸部圧迫装置に接続された信号処理装置4とを備える蘇生システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蘇生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
突然の心拍停止は、米国およびカナダなどの西欧の先進国における主要な死因の1つである。
【0003】
心拍停止からの生存の機会を増やすための重要な態様は、事故後の最初の危険な数分間に行われるCPR(心肺蘇生法)および心臓除細動である。
【0004】
CPRは、救命呼吸と組み合わせた外部胸郭圧迫によって生命維持に必要な器官に十分な量の酸素飽和血液を送出することで実行される。心臓除細動は、外部電気ショックを送達することで正常な心臓律動を再確立することで実行される。
【0005】
CPRの質は生存に必須である。胸部圧迫は、最小の中断と共に、十分な深さと速度で実行しなければならない。手動での胸部圧迫は、極端に疲れる作業であり、患者の搬送中に十分な質の手動CPRを実行することは事実上不可能である。
【0006】
この問題を克服するために、心肺蘇生のためのいくつかの自動および手動機械式外部胸郭圧迫装置が開発されている。
【0007】
ミシガン・インスツルメンツ(Michigan Instruments)社は、ベース・プレートに取り付けた垂直の柱からなる自動機械式外部胸郭圧迫装置を製造している。この装置は、米国特許第6171267号および米国特許第5743864号に記載されている。シリンダおよびピストン・アセンブリを備えるカンチレバー・アームが柱を上下動してピストンの位置を患者に合わせる。このシステムは、患者の胸(胸郭)の奥行きを計測する計測装置を備える。圧迫深さをそれぞれの患者に合わせるために深さを台と比較することができる。この結果、圧迫開始が遅れ、手技によって治療時に起こる可能性のある胸部虚脱を補償することができない。圧縮気体(酸素または空気)が装置を駆動する。この装置は、患者の換気をする換気装置を備えることができる。
【0008】
米国特許出願第2003181834号には、別の胸部圧迫装置が記載されている。この装置は、患者の心臓の後方で患者の背中の後ろに位置する背板と、患者の心臓の前方で患者の胸部周囲に位置する前部とを備える。前部は、背板に結合できる2本の脚部を備える。前部は、患者の胸部を自動的に圧迫または圧迫解除する(持ち上げる)圧迫装置を備える。この装置の幅および圧迫深さは固定され、各患者に適合することができない。この装置は気体駆動式である。すなわち、圧縮気体が必要なために、装置は大型で重い。例えば、気体がなくなった時に圧縮空気を圧縮酸素で置換することができるが、発火の危険性は増加する。
【0009】
米国特許第6398745号は、自動CPR装置の別の例である。この装置は、患者の胸部に巻き付ける圧迫ベルトを使用する。この圧迫ベルトは、電気モータから動力を得るベルト締め付けスプールの働きによって締め付けと弛緩とを繰り返す。使用時に、圧迫ベルトは、胸部を圧迫または圧迫解除し、患者の服の内側に容易に巻き込まれる。この理由から、胸部圧迫手技開始前に患者を脱衣させなければならず、貴重な時間が失われる。さらに、ベルトが患者の胸部の大きな部分を覆い、除細動電極と干渉し(ベルトの配置前に患者に対して除細動電極を配置するか、または除細動開始前にベルトを取り外す必要がある)、挿管が正確か否かの聴診器検査と胸部上昇の検査とが煩雑になる。モータは、圧迫を調節し、モータをベルト・スプールに接続しているクラッチとブレーキのアセンブリを介して圧迫を制御する制御システムにより制御される。
【0010】
上記装置は、使用に限界があり、自動機械式CPRがCPR時の脳と心臓への適切な血流循環が送達されると記録されていても、そのようなシステムは医療従事者によって広く使用されてはいない。その理由は、特に、システムを適用するのが複雑で時間がかかるか、設置して操作するのが煩雑か、または胸部上で安定しないかである。上記装置は、さらに重量があり高価である。
【0011】
【特許文献1】米国特許第6171267号
【特許文献2】米国特許第5743864号
【特許文献3】米国特許出願第2003181834号
【特許文献4】米国特許第6398745号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、使いやすく、堅牢で、可搬性があり、軽量で、安全で信頼性が高く、感覚的に分かるユーザ・インタフェースを有し、患者の安定性が確保でき手頃な価格である蘇生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記および他の目的は、患者の胸部を繰り返し圧迫し、胸郭を強制的または自然に拡張させる胸部圧迫装置と、電源装置と、胸部圧迫装置の動作を制御する胸部圧迫装置に接続された信号処理装置とを備える蘇生システムによって達成される。
【0014】
上記胸部圧迫装置としては、空気圧、油圧、または電気駆動式ピストン、ベルト、ストラップなどの患者の胸部を圧迫するのに適した任意の装置を使用することができる。胸部圧迫装置はテープまたは真空などの締結装置によって患者の胸部/皮膚に固定することができるか、または胸部に固定されることなく胸部に単に接触することができるものであってもよい。胸部圧迫装置は胸郭を強制的または自然に拡張させる、すなわち、胸郭を能動的に持ち上げるか、胸郭を自由に拡張させるように設計されている。
【0015】
さらに、胸部圧迫装置は、胸部圧迫装置を患者の胸部上にほぼ常時配置させておくために支持体を備えるかまたは支持体に接続されている。胸部圧迫装置を患者の胸部上にほぼ常時配置させておくことは、圧迫の必要な質を得るため、および安全上の理由から重要である。
【0016】
上記支持体は、患者の下に、両側の一方にまたは患者に巻き付けるように配置することができる。
【0017】
一実施形態では、支持体は背板および横板に接続された2本の脚部を備える。背板は、患者が横臥している時に患者の下に配置することができ、2本の脚部は患者の両側に配置することができる。この区画の幅と高さは、各患者に合わせて調整することができる。
【0018】
支持体を安定させ、圧迫装置を正しく配置し、患者の圧迫を確保するために、支持体は左右対称であり患者に密着して巻き付ける必要がある。
【0019】
本発明の一実施形態では、圧迫装置は患者の胸部上に正確に配置できる位置で横板に堅固に固定接続される。代替実施形態では、圧迫装置は完全に、または一部が横板を構成する。圧迫装置は圧迫装置の圧迫動作の方向が胸部の両乳首間の領域にほぼ垂直であるように支持体に接続される。これは例えば、圧迫装置の動きが胸骨を備える平面にほぼ垂直であり、背板にほぼ平行しているということを意味する。
【0020】
支持体に対する患者の配置は、部分的にまたは完全に支持体に固有の特性である。脚部を備える支持体の実施形態では、患者の幅を基準とする配置は、支持体の脚部を患者の両側に密着させることで実行される。患者の身長を基準とする患者の配置は、支持体上の図またはその他の表示装置によって実行でき、オペレータがこれを管理できる。一実施形態では、システムは例えば、患者の両肩への距離を示す棒によって患者の腋窩に上記脚部を配置することで、患者を基準とするシステムの配置を示し、および/または案内する物理装置または構成を備えることができる。
【0021】
他の実施形態では、支持体は、適した設計の枠、台、ラック、三脚などであってもよい。
【0022】
支持体は、使用していない時のシステムの体積を最小限にするために引き込み式、着脱式または折り畳み式であってもよい。好適には、組み立てと設置に使う時間を最小限にするために、支持体は容易に組み立てられ使用できることが好ましい。これは、例えば、最大サイズに展開するばね内蔵要素を用いて達成できる。組み立ての誤りの危険を最小限にし、組み立て時間を最小限にするため、システムは独立部品の数を最小限にすべきである。一実施形態では、システムは組み立てる独立部分が2つしかない。
【0023】
本発明の蘇生システムは電源装置を備える。電源装置はリチウムイオン化学タイプ・バッテリーなどのバッテリー、または救急車、病院、またはバッテリーまたはコンデンサなどの外部電力蓄積装置内の電源、またはその他の利用可能な電源装置に接続する装置を備えることができる。蘇生システムは、異なる電圧、周波数などの異なる特徴/特性を備えた電源を使用できるように電源アダプタ/変換器を備えることができる。
【0024】
本発明の蘇生システムは、圧迫装置に制御信号を提供するための胸部圧迫装置に接続されたプロセッサを備える。制御信号は、胸部圧迫装置の駆動を制御し、例えば、電気モータを制御する信号である。制御信号は、開始/停止信号および/または圧迫の深さ/力/頻度などを制御する信号である。制御信号は、例えば測定した患者の胸部の高さ/奥行き、患者の年齢、ECG測定値などの患者特性に基づくことができる。このように、蘇生システムは、特定の患者に特に適合するパルス・パターンを使用することができる。
【0025】
本発明の一実施形態では、システムは、蘇生プロセスの特性を測定する測定装置を備え、信号プロセッサは、測定装置からの入力信号を処理することができる。
【0026】
測定装置は、任意のセンサ、または蘇生プロセスの特性と、システムおよび/または患者体内のCPRに関する他の情報とを測定するのに適した他の測定装置である。上記センサ/測定装置は、例えば、圧迫装置が及ぼす/移動する力/深さを測定する力センサおよび/または深さセンサ、圧迫カウンタ、圧迫頻度カウンタ、患者の血流量をモニタする血流量センサ、患者換気の流れ、量、および/または時間間隔をモニタする換気センサ、胸郭のインピーダンスを測定して患者の換気状態を示すインピーダンス測定手段、心電図(ECG)装置、患者の角度(患者が横臥しているか、座っているか/立っているか)を測定する傾きセンサ、胸部圧迫手段の位置および/または位置の変化を検知する位置検出装置、バッテリー電源測定手段、内蔵モータ温度測定手段などである。測定装置から得られる結果を用いてユーザおよび/または圧迫装置への制御信号を調整/変更するためのフィードバック情報としてプロセッサに提供することができる。
【0027】
また、本発明の蘇生システムは、換気装置を備えることができる。換気装置は、オペレータが操作可能な通常の換気装置であってもよく、自律/自動換気装置であってもよい。換気装置がオペレータによって操作される場合、蘇生システムは、換気速度および量などの換気の特性(質)を測定するセンサを備えることができる。蘇生システムは、また、実行される換気、胸部圧迫装置の位置の安定性、バッテリーの残り時間、患者胸郭の硬さの変化、またはシステムまたは患者に関する他の態様についてのフィードバックをオペレータに与えるスピーカまたはディスプレイなどのフィードバック装置を備えることができる。
【0028】
また、本発明の蘇生システムは、患者に対して除細動を実行する除細動器を備えることができる。除細動器は、手動式または自動式(AED)である。除細動器は、ECG測定装置を備えることができる。また、システムは、除細動器を操作する最適な時点と除細動の最適な特性とを計算し、除細動器を起動し、またはこれらの値に基づいて正確な起動時間を示すことができる別個のまたは内蔵プロセッサを備えることができる。
【0029】
本発明の蘇生システムは、測定された特性の値を格納するデータ格納装置をさらに備えることができる。これらの格納された値は、後に蘇生現象の評価に用いることができる。こうして系統的または偶発的なオペレータ・エラーも明らかにでき、この知識を用いて手技の調整および/または要員の訓練を行うことができる。また、格納された値を用いて装置の故障を明らかにして点検を開始することができる。
【0030】
本発明の蘇生システムは、蘇生に関する情報を補助要員に提供するユーザ・インタフェースをさらに備えることができる。ユーザ・インタフェースは、フィードバック装置内に組み込むことができ、または独立させることもできる。ユーザ・インタフェースは、システムの保守レベル、電源残余量、除細動ステータス、換気ステータスまたは蘇生中または蘇生後にオペレータにとって有用な他の情報を提供することができる。
【0031】
例示の装置によって、添付の図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1は、本発明のある実施形態による蘇生システムのブロック図である。このブロック図は、患者2の胸部を繰り返し圧迫し、胸郭を強制的または自然に拡張させる胸部圧迫装置1と、蘇生プロセスの特性を測定する測定装置3と、電源装置20と、測定装置3および/または胸部圧迫装置1に接続され胸部圧迫装置1の動作を制御する信号処理装置4を示す。本発明のこの実施形態では、信号プロセッサ4は、測定値を格納でき、それ故履歴データを提供することができるデータ格納装置5、蘇生プロセスの特性を表示する表示装置6、および/またはアラームに接続されている。
【0033】
図2は、本発明の一実施形態の斜視図である。本発明のこの実施形態では、胸部圧迫装置1と、信号プロセッサ4と、電源とが横板10上に配置されている。
【0034】
本発明のこの実施形態の胸部圧迫装置は、ピストン11と、ピストン11にエネルギーを伝達する伝達機構19と、モータ12とを備える。電源は、バッテリー13と、起動電子回路14とを備える。ピストン11は、圧迫を実行し、患者の胸部の圧迫解除を可能にするかまたは実行する役割を果たす。起動電子回路の目的は、モータ12の電力入力部に高エネルギーの短いパルスを提供することである。
【0035】
本発明のこの実施形態の信号プロセッサ4は、所定の特性および/または測定装置(図示せず)によって測定される特性に基づいて胸部圧迫装置の動作を制御する装置を備える。これらの特性は、上記のようにピストンが及ぼす力、ピストンの移動深さ、圧迫頻度、患者の体内の血流量、換気の流れなどである。
【0036】
上記装置は横板10上に配置されている。横板10はほぼ矩形であり、短辺の縁部で2本の横向きの脚部に接続されている。横板10と脚部の接続は蝶番15によって実施され、脚部を横板に向けて回転させて蘇生システムのための収納位置を提供できる。脚部は、上部16と下部17とを備える。上部16は、横板10に蝶番で繋がれ、下部17の内部に縮めて収納される。この構成によって脚部の長さを容易に変更することができる。脚部は、患者の身体の両側に配置することができる。下部17の下縁は、患者の背中の下に配置するように構成された背板18に接続されている。脚部は、左右に動かして患者を密着状態で覆うことができる。
【0037】
脚部の下部17は背板18に固定でき、移動式に接続でき、または回転可能に接続できる。本発明の一実施形態では、下部17は患者の体に接触するように左右に移動可能になっており、正確な位置に達すると板18に固定接続される。移送および保管時に脚部を背板から分離して、横板と横板上の上記装置および脚部とを備える1つの部分と、背板18を備える1つの部分との2つの別々の部分にすることができる。分離された各部分は、平らに折り畳んで装置を容易に保管することができる。
【0038】
図3は、図2の実施形態の折り畳んだ状態の斜視図である。この実施形態では、蓋30がバッテリー、処理装置、モータおよび電子回路を覆い、横板10に接続されている。脚部16、17は、ベース・プレート10の下に蝶番15で折り畳まれ、折り畳まれた上部は背板18上に載る。これによって保管と移送とが容易な極めて小型のユニットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のある実施形態のブロック図である。
【図2】本発明のある実施形態の斜視図である。
【図3】図2の実施形態の折り畳んだ状態の斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の胸部を繰り返し圧迫し、胸郭を強制的または自然に拡張させる胸部圧迫装置と、
電源装置と、
前記胸部圧迫装置の動作を制御するために、前記胸部圧迫装置に接続された信号処理装置とを備える蘇生システム。
【請求項2】
蘇生プロセスの特性を測定する測定装置を備え、信号プロセッサが前記測定装置からの入力信号を処理することができることを特徴とする、請求項1に記載の蘇生システム。
【請求項3】
前記測定装置が力センサまたは深さセンサを備える、請求項2に記載の蘇生システム。
【請求項4】
前記測定装置が血流量センサを備える、請求項2に記載の蘇生システム。
【請求項5】
前記測定装置が換気センサを備える、請求項2に記載の蘇生システム。
【請求項6】
換気装置を備える、請求項1に記載の蘇生システム。
【請求項7】
除細動器を備える、請求項1に記載の蘇生システム。
【請求項8】
前記電源装置が電力蓄積装置または救急車、病院もしくは外部電力蓄積装置内の電源に接続する装置を備えることを特徴とする、請求項1に記載の蘇生システム。
【請求項9】
前記測定装置によって測定された前記特性の値を格納するための前記測定装置に接続されたデータ格納装置をさらに備える、請求項2に記載の蘇生システム。
【請求項10】
前記蘇生に関する情報をオペレータに提供するユーザ・インタフェースをさらに備える、請求項1に記載の蘇生システム。
【請求項11】
前記除細動器が自動外部除細動器(AED)である、請求項7に記載の蘇生システム。
【請求項12】
前記胸部圧迫装置に接続された支持体をさらに備える、請求項1に記載の蘇生システム。
【請求項13】
2つの独立した部分を備える、請求項1に記載の蘇生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−132312(P2008−132312A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−272353(P2007−272353)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(507154664)レルダル メディカル アクティーゼルスカブ (13)
【Fターム(参考)】