説明

能動型振動騒音抑制装置

【課題】実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれの許容範囲を拡大することができる能動型振動騒音抑制装置を提供する。
【解決手段】実残留信号検出部140は、評価点20において、実際の第一伝達関数Gを介して伝達された制御信号yと実際の第二伝達関数Hを介して伝達された発生源10による振動または騒音との干渉による実残留信号erealを検出する。仮想残留信号算出部170は、仮想評価点21において、第一推定伝達関数Ghを介して伝達された制御信号yと第二推定伝達関数Hhを介して伝達された発生源10による振動または騒音との干渉による仮想残留信号ehimagを算出する。適応フィルタ係数更新部180は、実残留信号erealおよび仮想残留信号ehimagに基づき設定された評価関数Jを最小とするように適応フィルタ係数Wを更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応制御を用いて、能動的に振動や騒音を抑制することができる能動型振動騒音抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、適応制御を用いて能動的に振動や騒音を抑制する装置として、特許文献1〜2に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−44377号公報
【特許文献2】特開平5−61483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1においては、適応フィルタ係数の更新に際して、制御信号の出力から観測点までの伝達関数の推定値を用いている。この伝達関数は、振幅と位相により表される。ここで、推定伝達関数の位相と実際の伝達関数の位相とにずれが生じた場合には、振動や騒音が収束せずに発散するおそれがある。そのため、振動や騒音が発散しないようにするためには、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれが許容範囲内にある場合に、適応制御を実行することにせざるを得ない。そこで、ずれの許容範囲を拡大することにより、適応制御をより実行できるようにすることが望まれている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれの許容範囲を拡大することができる能動型振動騒音抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の能動型振動騒音抑制装置は、制御信号に応じた制御振動または制御音を出力して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、振動または騒音の発生源の周波数、適応フィルタ係数により構成される前記制御信号を生成する制御信号生成部と、前記制御信号生成部と前記評価点との間の第一伝達系における第一伝達関数Gの推定値Ghを記憶する第一伝達関数推定値記憶部と、前記振動または騒音の発生源と前記評価点との間の第二伝達系における第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶する第二伝達関数推定値記憶部と、前記評価点において、実際の前記第一伝達関数Gを介して伝達された前記制御信号と実際の前記第二伝達関数Hを介して伝達された前記発生源による振動または騒音との干渉による実残留信号erealを検出する実残留信号検出部と、前記仮想評価点において、前記第一伝達関数Gの推定値Ghを介して伝達された前記制御信号と前記第二伝達関数Hの推定値Hhを介して伝達された前記発生源による振動または騒音との干渉による仮想残留信号ehimagを算出する仮想残留信号算出部と、前記実残留信号erealおよび前記仮想残留信号ehimagに基づき設定された評価関数を最小とするように前記適応フィルタ係数を更新する適応フィルタ係数更新部とを備える。
【0007】
本発明により、制御が発散せずに収束することが可能な、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれの許容範囲を拡大することができる。具体的には、従来においては、実際の伝達関数の位相と推定伝達関数の位相とのずれが90deg程度を超えた場合に、制御が発散してしまい、却って振動または騒音を大きくしてしまう状況になっていた。これに対して、本発明によれば、位相のずれが90degを超えたとしても、制御を収束させることができるようになる。
【0008】
また、前記適応フィルタ係数更新部は、前回更新された前記適応フィルタ係数に対して、前記第一伝達関数Gの推定値Ghおよび前記実残留信号erealに基づき算出される第一更新項を加減算すると共に、前記第一伝達関数Gの推定値Ghおよび前記仮想残留信号ehimagに基づき算出される第二更新項を加減算することにより、前記適応フィルタ係数を更新するようにしてもよい。これにより、確実に、上記効果を得ることができる。
【0009】
また、前記適応フィルタ係数更新部は、前記第一更新項の第一ステップサイズパラメータと前記第二更新項の第二ステップサイズパラメータとを異なる値として、前記適応フィルタ係数を更新するようにしてもよい。このように、第一更新項のステップサイズパラメータと第二更新項のステップサイズパラメータを異なる値とすることで、所望の制御効果を得ることができるようになる。
【0010】
また、前記制御信号生成部は、前記振動または騒音の発生源の周波数、前記適応フィルタ係数としての振幅フィルタ係数および位相フィルタ係数により構成される前記制御信号を生成し、前記適応フィルタ係数更新部は、前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して、前記第一伝達関数Gの推定値Gh、前記実残留信号erealおよび振幅用第一ステップサイズパラメータμに基づき算出される振幅更新式の第一更新項を加減算すると共に、前記第一伝達関数Gの推定値Gh、前記仮想残留信号ehimagおよび振幅用第二ステップサイズパラメータμahに基づき算出される振幅更新式の第二更新項を加減算することにより、前記振幅フィルタ係数を更新する振幅フィルタ係数更新部と、前回更新された前記位相フィルタ係数に対して、前記第一伝達関数Gの推定値Gh、前記実残留信号erealおよび位相用第一ステップサイズパラメータμφに基づき算出される位相更新式の第一更新項を加減算すると共に、前記第一伝達関数Gの推定値Gh、前記仮想残留信号ehimagおよび位相用第二ステップサイズパラメータμφhに基づき算出される位相更新式の第二更新項を加減算することにより、前記位相フィルタ係数を更新する位相フィルタ係数更新部とを備えるようにしてもよい。このように、振幅更新式と位相更新式のそれぞれのステップサイズパラメータを設定することで、所望の制御効果を得ることができるようになる。
【0011】
また、前記第二伝達関数推定値記憶部は、前記第二伝達系の状態をそれぞれ変更した複数の状態における前記第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶し、前記能動型振動騒音抑制装置は、複数の前記第二伝達関数Hの推定値Hhの中から、前記第一伝達関数推定値記憶部に記憶されている前記第一伝達関数Gの推定値Ghの共振周波数fG0に最も近い共振周波数fH0を有する前記第二伝達関数Hの推定値Hhを選択する第二伝達関数推定値選択部を備え、前記仮想残留信号算出部は、前記第二伝達関数推定値選択部により選択された前記第二伝達関数Hの推定値Hhに基づいて、前記仮想残留信号ehimagを算出するようにしてもよい。
【0012】
ここで、第一伝達関数Gの推定値Ghは、能動型振動騒音抑制装置を対象物に搭載後においても、比較的任意のときに容易に算出できる。従って、第一伝達関数Gの推定値Ghは、現在の真の第一伝達関数Gに近い状態のものとなる。これに対して、第二伝達関数Hの推定値Hhは、製造初期や点検時以外では容易に算出できるものではないため、現在の真の第二伝達関数Hに近い状態のものを得ることは容易ではない。
【0013】
そこで、例えば製造初期や点検時において、第二伝達系の状態を予め複数の状態について再現して、複数の第二伝達関数Hの推定値Hhを算出しておく。そして、算出した複数の第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶しておく。これであれば、複数の第二伝達関数Hの推定値Hhを算出することができる。
【0014】
そして、現在における第二伝達関数Hの推定値Hhを、予め記憶した複数の第二伝達関数Hの推定値Hhの中から選択する。この第二伝達関数Hの推定値Hhの選択に際して、比較的容易に算出可能な第一伝達関数Gの推定値Ghを用いる。ここで、第一伝達関数Gと第二伝達関数Hには、共通する振動または騒音の影響要素を含んでいる。そのため、第一伝達関数Gと第二伝達関数Hとは、相関を有する。具体的には、第一伝達関数Gの共振周波数fG0と第二伝達関数Hの共振周波数fH0とは、ほぼ一致する。そこで、まずは、第一伝達関数推定値記憶部に記憶されている第一伝達関数Gの推定値Ghの共振周波数fG0を取得する。そして、第二伝達関数推定値記憶部に記憶されている複数の第二伝達関数Hの推定値Hhの中から、第一伝達関数Gの推定値Ghの共振周波数fG0に最も近い共振周波数fH0を有する第二伝達関数Hの推定値Hhを選択するようにしている。これにより、現在の第二伝達関数Hを推定することができる。つまり、選択された第二伝達関数Hの推定値Hhは、経年変化を考慮したものを得ることができる。
【0015】
そして、経年変化を考慮した第二伝達関数Hの推定値Hhに基づいて仮想残留信号ehimagを算出する。つまり、制御信号は、現在の第一伝達関数Gおよび第二伝達関数Hの状態に応じたものとなり、第一伝達関数Gおよび第二伝達関数Hが経年変化したとしても、評価点における振動または騒音を確実に抑制することができる。
【0016】
また、前記第一伝達関数Gの推定値Ghの共振周波数fG0は、前記第一伝達関数Gの推定値Ghの振幅成分および位相成分の少なくとも一方に基づいて導出し、前記第二伝達関数Hの推定値Hhの共振周波数fH0は、前記第二伝達関数Hの推定値Hhの振幅成分および位相成分の少なくとも一方に基づいて導出するようにしてもよい。
【0017】
これにより、第一推定伝達関数Ghの共振周波数fG0および第二推定伝達関数Hhの共振周波数fH0を確実に算出できる。例えば、第一推定伝達関数Ghにおける振幅成分がピーク値となる周波数が、共振周波数fG0となる。また、第一推定伝達関数Ghにおける位相成分が−90degとなる周波数が、共振周波数fG0となる。このようにして、共振周波数fG0を得ることができる。また、例えば、第二推定伝達関数Hhにおける振幅成分がピーク値となる周波数が、共振周波数fH0となる。また、第二推定伝達関数Hhにおける位相成分が−90degとなる周波数が、共振周波数fH0となる。このようにして、共振周波数fH0を得ることができる。
【0018】
また、前記第二伝達関数推定値記憶部は、前記第二伝達系の支持ばねのばね定数を複数に区分したばね定数範囲毎に、前記第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶するようにしてもよい。つまり、支持ばねのばね定数が経年変化した場合に、現在のばね定数に応じた第二推定伝達関数Hhを選択することができる。これにより、現在の支持ばねのばね定数を考慮した制御信号を出力することができる。
【0019】
また、前記第一伝達関数推定値記憶部は、前記第一伝達系の温度状態を複数に区分した温度範囲毎の前記第一伝達関数Gの推定値Ghを記憶し、前記第二伝達関数推定値記憶部は、前記第二伝達系の温度を前記第一伝達系と同一の複数に区分した温度範囲毎の前記第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶し、前記能動型振動騒音抑制装置は、前記第一伝達系の温度を検出する温度検出部と、複数の前記第一伝達関数Gの推定値Ghの中から、前記温度検出部により検出された前記第一伝達系の温度に応じた前記第一伝達関数Gの推定値Ghを選択する第一伝達関数推定値選択部と、を備え、前記第二伝達関数推定値選択部は、複数の前記第二伝達関数Hの推定値Hhの中から、前記温度検出部により検出された前記第一伝達系の温度と前記共振周波数fH0とに応じた前記第二伝達関数Hの推定値Hhを選択し、前記適応フィルタ係数更新部は、前記第一伝達関数推定値選択部により選択された前記第一伝達関数Gの推定値Ghと前記第二伝達関数推定値選択部により選択された前記第二伝達関数Hの推定値Hhとに基づいて、前記適応フィルタ係数を更新するようにしてもよい。
【0020】
ここで、伝達系の温度が変化すると、当該伝達系の伝達関数が変化することが知られている。従って、第一伝達系の第一伝達関数Gおよび第二伝達系の第二伝達関数Hは、温度によって変化する。そこで、第一伝達関数Gの推定値Ghおよび第二伝達関数Hの推定値Hhをそれぞれの温度範囲毎に記憶しておき、現在の温度に対応する第一伝達関数Gの推定値Ghおよび第二伝達関数Hの推定値Hhを用いて適応フィルタ係数を更新することで、現在温度における第一伝達関数Gおよび第二伝達関数Hに応じた制御信号を生成することができる。従って、評価点における振動または騒音を確実に抑制することができる。
【0021】
また、前記能動型振動騒音抑制装置は、エンジンを有する車両に適用され、前記第二伝達関数推定値記憶部は、前記エンジンの駆動トルク変動を複数に区分したトルク変動範囲毎の前記第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶し、前記能動型振動騒音抑制装置は、前記エンジンの駆動トルク変動を検出するトルク変動検出部を備え、前記第二伝達関数推定値選択部は、複数の前記第二伝達関数Hの推定値Hhの中から、前記トルク変動検出部により検出された前記駆動トルク変動と前記共振周波数fH0とに応じた前記第二伝達関数Hの推定値Hhを選択するようにしてもよい。
【0022】
ここで、車両において、エンジンの駆動トルク変動に応じて第二伝達関数Hは変化する。そこで、第二伝達関数Hの推定値Hhについてそれぞれの駆動トルク変動毎に記憶しておき、現在の駆動トルク変動に対応した第二伝達関数Hの推定値Hhを用いて適応フィルタ係数を更新することで、現在の駆動トルク変動における第二伝達関数Hに応じた制御信号を生成することができる。従って、評価点における振動または騒音を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】能動型振動騒音抑制装置の制御ブロック概念図である。
【図2】能動型振動騒音抑制装置の実際の制御ブロック図である。
【図3】第一実施形態:能動型振動騒音抑制装置の機能ブロック図である。
【図4】解析条件として変化させるステップサイズパラメータ(A〜I)を示す表である。
【図5】ステップサイズパラメータをA〜Iに変化させた場合の実残留信号を示すグラフである。
【図6】第二実施形態:能動型振動騒音抑制装置の機能ブロック図である。
【図7】周波数に対する第一推定伝達関数の振幅成分を示す図である。
【図8】周波数に対する第一推定伝達関数の位相成分を示す図である。
【図9】Ghマップデータの分類を示す図である。
【図10】周波数に対する第二推定伝達関数の振幅成分を示す図である。
【図11】周波数に対する第二推定伝達関数の位相成分を示す図である。
【図12】Hhマップデータの分類を示す図である。
【図13】第一推定伝達関数のマップデータの算出更新処理を示す機能ブロック図である。
【図14】第二推定伝達関数のマップデータの算出処理を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<1.制御概念>
(1.1)能動型振動騒音抑制装置の制御概念
能動型振動騒音抑制装置の制御概念について図1を参照して説明する。能動型振動騒音抑制装置は、種々の発生源10が振動または騒音(以下、「抑制対象振動等」と称する)を発生する場合に、所望の位置(評価点)20において当該振動または騒音を能動的に抑制するために、制御振動または制御音(以下、「制御振動等」と称する)を発生させる装置である。つまり、抑制対象振動等に対して制御振動等を合成させることで、評価点20において、制御振動等が抑制対象振動等を打ち消すように作用する。その結果、評価点20において、抑制対象振動等が抑制されることになる。
【0025】
ここで、自動車を例にあげて説明する。自動車において、エンジン(内燃機関)が振動騒音発生源10となり、エンジンによって発生した振動や騒音が車室内に伝達されないようにすることが望まれる。そこで、エンジンによって発生した振動や騒音(抑制対象振動等)を能動的に抑制するために、制御振動制御音発生装置100によって制御振動等を発生させることとしている。なお、以下において、能動型振動騒音抑制装置100は、自動車に適用し、エンジンによって発生される振動または騒音を抑制する装置を例に挙げて説明するが、これに限られるものではない。能動型振動騒音抑制装置100は、抑制すべき振動や騒音を発生するものであれば、全てに適用できる。
【0026】
能動型振動騒音抑制装置の制御概念は、図1に示すように、適応最小平均自乗フィルタ(Filtered-X LMS)を用いた適応制御を適用する。具体的には、制御信号生成部120(記号Wにて記載されるブロック)により、式(1)により表される制御信号y(n)を生成する。そして、適応フィルタ係数更新部180(記号ΔWにて記載されるブロック)により、制御信号y(n)を構成する適応フィルタ係数としての振幅フィルタ係数a(n)の更新値Δa(n)および位相フィルタ係数φ(n)の更新値Δφ(n)を算出する。つまり、制御信号生成部120は、適応フィルタ係数更新部180により算出された振幅フィルタ係数a(n)の更新値Δa(n)および位相フィルタ係数φ(n)の更新値Δφ(n)に基づいて、振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)を更新して、次の時間ステップにおける制御信号y(n)を生成する。
【0027】
【数1】

【0028】
そして、一般的な適応制御においては、適応フィルタ係数更新部180において、実残留信号erealの二乗を評価関数として、当該評価関数を最小となるような振幅フィルタ係数a(n)の更新値Δa(n)および位相フィルタ係数φ(n)の更新値Δφ(n)を算出する。しかし、本実施形態においては、評価関数Jを式(2)のように、それぞれ重み付けを行った、実残留信号erealの二乗および仮想残留信号ehimagの二乗の和とする。つまり、本実施形態においては、式(2)にて表される評価関数Jが最小となるような振幅フィルタ係数a(n)の更新値Δa(n)および位相フィルタ係数φ(n)の更新値Δφ(n)を算出する。なお、記載の都合上、明細書の本文において、推定値「ハット(^)」は、「h」と記載する。
【0029】
【数2】

【0030】
実残留信号erealは、図1に示すように、実際の評価点20における実際の残留振動または残留騒音である。この実残留信号erealは、式(3)により表される。つまり、実残留信号ereal(n)は、振動騒音発生源10により発生された振動等が第二伝達関数Hを介して評価点20に伝達された実抑制対象振動等Xreal(n)と、制御信号y(n)が第一伝達関数Gを介して評価点20に伝達された制御振動等Zreal(n)とを合成した値となる。換言すると、実残留信号ereal(n)は、実抑制対象振動等Xreal(n)と制御振動等Zreal(n)との残留信号である。
【0031】
【数3】

【0032】
仮想残留信号ehimagは、図1に示すように、仮想評価点21における仮想的な残留振動または残留騒音である。この仮想残留信号ehimagは、式(4)により表される。つまり、仮想残留信号ehimagは、振動騒音発生源10により発生された振動または騒音が第二推定伝達関数Hhを介して仮想評価点21に伝達された仮想抑制対象振動等Xhimagと、制御信号yが第一推定伝達関数Ghを介して仮想評価点21に伝達された仮想制御振動等Zhimagとを合成した値となる。換言すると、仮想残留信号ehimag(n)は、仮想抑制対象振動等Xhimag(n)と仮想制御振動等Zhimag(n)との残留信号である。
【0033】
【数4】

【0034】
つまり、上述した式(2)にて表される評価関数Jを最小とするような振幅フィルタ係数a(n)の更新式および位相フィルタ係数φ(n)の更新式は、式(5)のように表される。
【0035】
【数5】

【0036】
(1.2)能動型振動騒音抑制装置の実際の制御ブロック
ここで、図1において、符号90で囲む部分、すなわち第一推定伝達関数Gh、第二推定伝達関数Hhおよび仮想評価点21における仮想残留信号ehimagは、演算により取得できる部分である。つまり、符号90で囲む部分、疑似マップ制御として取り扱うことができる部分である。そこで、実際の制御においては、図2に示すように、符号90で囲む部分を疑似マップ制御(フィードフォワード制御)として適応することができる。ここで、図2において、仮想残留信号算出部170(記号Ehにて記載されるブロック)が、制御信号y(n)、第一推定伝達関数Ghおよび第二推定伝達関数Hhに基づいて、仮想残留信号ehimagを算出する。そして、適応フィルタ係数更新部180にて、実残留信号erealおよび仮想残留信号ehimagに基づいて、振幅フィルタ係数a(n)の更新値Δa(n)および位相フィルタ係数φ(n)の更新値Δφ(n)を算出する。
【0037】
<2.第一実施形態>
(2.1)第一実施形態の構成説明
次に、図2に示す制御ブロックを実際に実現する際の能動型振動騒音抑制装置100について、図3を参照して説明する。図3に示すように、能動型振動騒音抑制装置100は、振動騒音発生源としてのエンジン10によって発生される抑制対象振動等が第二伝達関数Hを介して評価点20に伝達する場合に、評価点20における振動または騒音を低減するための装置である。
【0038】
能動型振動騒音抑制装置100は、周波数算出部110と、制御信号生成部120と、発生装置130と、実残留信号検出部140と、第一推定伝達関数選択部(以下、「Ghデータ選択部」と称する)150と、第二推定伝達関数選択部(以下、Hhデータ選択部)と称する)160と、仮想残留信号算出部170と、適応フィルタ係数更新部180とを備えている。
【0039】
周波数算出部110は、エンジン10の回転数を検出する回転検出器(図示せず)から周期性のパルス信号を入力し、当該パルス信号に基づいて、エンジン10が発生する振動または騒音(抑制対象振動等)の主成分の周波数fを算出する。
【0040】
制御信号生成部120は、周波数算出部110にて算出された周波数fに基づいて、式(6)に従って得られる正弦波としての制御信号y(n)を適応制御によって生成する。ここで、添字の(n)は、サンプリング数(時間ステップ)を表す添字である。つまり、式(6)より明らかなように、制御信号y(n)は、周波数fと、適応フィルタ係数W(n)としての振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)とを構成成分に含む、時刻t(n)における信号である。そして、振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)は、後述する適応フィルタ係数更新部180により適応的に更新される。
【0041】
【数6】

【0042】
発生装置130は、実際に振動や音を発生する装置である。この発生装置130は、制御信号生成部120によって生成された制御信号y(n)に基づいて駆動する。例えば、制御振動を発生させる発生装置130としては、例えば、駆動系につながるフレームやサブフレーム(図示せず)などに配置される振動発生装置である。また、制御音を発生させる発生装置130としては、例えば、スピーカー等である。発生装置130が例えば磁力を用いて制御振動や制御音を発生させる装置の場合には、コイル(図示せず)に供給する電流、電圧または電力を、各時刻t(n)における制御信号y(n)に応じるように制御することで、発生装置130が制御信号y(n)に応じた制御振動または制御音を発生する。
【0043】
そうすると、評価点20においては、発生装置130によって発生された制御振動等が伝達系Bを介して伝達された制御振動等Zreal(n)と、エンジン10によって発生された抑制対象振動等が第二伝達関数Hを介して伝達された振動騒音Xreal(n)とが合成される。
【0044】
そこで、実残留信号検出部140は、評価点20に配置されており、評価点20における実残留振動または実残留騒音(本発明における「実残留信号」に相当する)ereal(n)を検出する。この実残留振動ereal(n)は、式(7)で表される。例えば、実残留振動ereal(n)を検出する実残留信号検出部140としては、加速度センサなどを適用できる。また、実残留音ereal(n)を検出する実残留信号検出部140としては、吸音マイクなどを適用できる。実残留信号検出部140によって検出される実残留信号ereal(n)がゼロになることが理想状態である。なお、第一伝達関数Gは、制御信号生成部120と評価点20との間の伝達系の伝達関数である。つまり、第一伝達関数Gは、発生装置130そのものの伝達関数と、発生装置130と評価点20との間の伝達系Bの伝達関数とを含む。
【0045】
【数7】

【0046】
Ghデータ選択部150は、予め記憶された第一推定伝達関数Ghのマップデータの中から、周波数算出部110にて算出された周波数fに応じた第一推定伝達関数Ghを選択する。第一推定伝達関数Ghのマップデータには、第一伝達関数Gの推定値Ghが記憶されている。第一伝達関数Gは、周波数fに応じた振幅成分Aと位相成分Φとにより表される。
【0047】
そこで、式(8)に示すように、第一推定伝達関数Ghとしては、周波数fに応じた振幅成分Ahと位相成分Φhとにより表される。なお、式(8)においては、第一推定伝達関数Gh、振幅成分Ahおよび位相成分Φhは、周波数fに応じたものとなるため、fの関数であることを明記するために、それぞれGh(f)、Ah(f)およびΦh(f)と記載している。この第一推定伝達関数Ghは、後述する仮想残留信号算出部170および適応フィルタ係数更新部180にて用いる。
【0048】
【数8】

【0049】
Hhデータ選択部160は、予め記憶された第二推定伝達関数Hhのマップデータの中から、周波数算出部110にて算出された周波数fに応じた第二推定伝達関数Hhを選択する。第二推定伝達関数Hhのマップデータには、第二伝達関数Hの推定値Hhが記憶されている。第二伝達関数Hは、周波数fに応じた振幅成分Aと位相成分Φとにより表される。
【0050】
そこで、式(9)に示すように、第二推定伝達関数Hhとしては、周波数fに応じた振幅成分Ahと位相成分Φhとにより表される。なお、式(9)においては、第二推定伝達関数Hh、振幅成分Ahおよび位相成分Φhは、周波数fに応じたものとなるため、fの関数であることを明記するために、それぞれHh(f)、Ah(f)およびΦh(f)と記載している。
【0051】
【数9】

【0052】
仮想残留信号算出部170は、図1に示す仮想評価点21における仮想残留信号ehimagを算出する。この仮想残留信号ehimagは、式(10)で表される。つまり、仮想残留信号ehimagは、制御信号生成部120により生成された制御信号y(n)が第一推定伝達関数Ghを介して伝達された仮想制御振動等Zhimag(n)と、エンジン10によって発生された抑制対象振動等が第二推定伝達関数Hhを介して伝達された仮想抑制対象振動等Xhimag(n)とが合成された値である。ここで、仮想抑制対象振動等Xhimag(n)および仮想制御振動等Zhimag(n)は、式(11)により表される。
【0053】
【数10】

【0054】
【数11】

【0055】
つまり、式(10)および式(11)より、仮想残留信号ehimag(n)は、式(12)のように表される。従って、仮想残留信号ehimag(n)は、第一推定伝達関数Gh、第二推定伝達関数Hh、周波数f、制御信号y(n)の振幅成分a(n)および制御信号y(n)の位相成分φ(n)により算出できる。
【0056】
【数12】

【0057】
適応フィルタ係数更新部180は、上述した制御信号y(n)を構成するための適応フィルタ係数W(n)を適応的に更新する。適応フィルタ係数W(n)は、式(13)に示すように、振幅フィルタ係数a(n)と位相フィルタ係数φ(n)とにより構成される。
【0058】
【数13】

【0059】
この適応フィルタ係数更新部180は、実残留信号ereal(n)および仮想残留信号ehimag(n)に基づき設定された評価関数Jを最小とするように適応フィルタ係数Wを更新する。以下に、適応フィルタ係数更新部180において、適応フィルタ係数Wを更新する更新式の導き方について説明する。
【0060】
評価関数Jを式(14)のように定義する。つまり、評価関数Jは、それぞれ重み付けを行った、実残留信号検出部140により検出される実残留信号erealの二乗と、仮想残留信号算出部170により算出される仮想残留信号ehimagの二乗との和とする。この評価関数Jが最小となるような制御信号y(n)を求める。
【0061】
【数14】

【0062】
勾配ベクトル▽(n)を式(15)に従って算出する。勾配ベクトル▽(n)は、評価関数J(n)を適応フィルタ係数W(n)で偏微分して得られる。そうすると、勾配ベクトル▽(n)は、右辺のように表される。
【0063】
【数15】

【0064】
このようにして算出した勾配ベクトル▽(n)にステップサイズパラメータμを乗じた項を、前回更新された適応フィルタ係数W(n)から減算することにより、適応フィルタ係数W(n+1)を導き出す。このようにして、式を展開すると、式(16)のように表される。
【0065】
【数16】

【0066】
ここで、適応フィルタ係数W(n)は、式(13)にて示したように、振幅フィルタ係数a(n)と位相フィルタ係数φ(n)とにより構成される。つまり、振幅フィルタ係数a(n)の更新式は式(17)のように表され、位相フィルタ係数φ(n)の更新式は式(18)のように表される。ここで、式(17)の(1/Ah)は、振幅フィルタ係数a(n)の更新に対して正規化処理を加えたものである。
【0067】
【数17】

【0068】
つまり、適応フィルタ係数更新部180(本発明の「振幅フィルタ係数更新部」に相当)は、前回更新された振幅フィルタ係数a(n)に対して、第一推定伝達関数Gh、実残留信号ereal(n)および振幅用第一ステップサイズパラメータμに基づき算出される振幅更新式の第一更新項を加減算すると共に、第一推定伝達関数Gh、仮想残留信号ehimag(n)および振幅用第二ステップサイズパラメータμahに基づき算出される振幅更新式の第二更新項を加減算することにより、振幅フィルタ係数a(n+1)を更新する。
【0069】
また、適応フィルタ係数更新部180(本発明の「位相フィルタ係数更新部」に相当)は、前回更新された位相フィルタ係数φ(n)に対して、第一推定伝達関数Gh、実残留信号ereal(n)および位相用第一ステップサイズパラメータμφに基づき算出される位相更新式の第一更新項を加減算すると共に、第一推定伝達関数Gh、仮想残留信号ehimag(n)および位相用第二ステップサイズパラメータμφhに基づき算出される位相更新式の第二更新項を加減算することにより、位相フィルタ係数φ(n+1)を更新する。
【0070】
(2.2)数値解析
次に、上述したように、適応フィルタ係数W(n)を更新した場合に、実際の第一伝達関数Gの位相成分Φと第一推定伝達関数Ghの位相成分Φhとのずれの許容範囲を拡大することについて検証するために解析を行った。ここで、解析条件としてのステップサイズパラメータμ,μah,μφ,μφhを図4に示すように変化させた場合について、解析を行った。また、実抑制制御対象振動等Xrealの大きさを100とした。
【0071】
この解析の結果を図5に示す。ここで、図4の解析条件(A)は、振幅用第二ステップサイズパラメータμahおよび位相用第二ステップサイズパラメータμφhをゼロとしている。つまり、解析条件(A)は、実質的に、従来における適応制御を実行した場合に相当する。
【0072】
解析条件(A)(B)(G)(H)より、適応制御の影響比率と疑似マップ制御の影響比率とを比較した場合に、適応制御の影響比率が低いほど、第一伝達関数Gの位相成分Φと第一推定伝達関数Ghの位相成分Φhとのずれ(以下、「位相ずれ」と称する)が大きくなった場合に、発散しにくくなることが分かる。つまり、ロバスト性が向上する。しかしながら、位相ずれが0deg以上90deg未満の場合における振動騒音抑制効果が低減する。
【0073】
また、解析条件(B)(C)(D)および解析条件(B)(E)(F)より、振幅用第一,第二ステップサイズパラメータμ,μahの方が、位相用第一,第二ステップサイズパラメータμφ,μφhに比べて、影響度が大きい。つまり、解析条件(C)は解析条件(D)に比べて、適応制御に近い状態、すなわち解析条件(A)に近い状態となる。一方、解析条件(E)は、解析条件(F)に比べて、適応制御から遠い状態、すなわちマップ制御に近い状態となる。そこで、制御対象系の第一伝達関数Gの発散させない位相ずれと振動騒音抑制効果とのバランスから、それぞれのステップサイズパラメータμ,μah,μφ,μφhを決定することになる。
【0074】
<3.第二実施形態>
(3.1)第二実施形態の概要
次に、第二実施形態は、第一実施形態における第一推定伝達関数Ghおよび第二推定伝達関数Hhを変更した場合である。ここで、実際の第一伝達関数Gおよび第二伝達関数Hは、外乱や経年変化などの種々の要因によって変化する。そして、上述したように、実際の第一伝達関数Gの位相成分Φと第一推定伝達関数Ghの位相成分Φhとのずれ、および、実際の第二伝達関数Hの位相成分Φと第二推定伝達関数Hhの位相成分Φhとのずれが大きくなると、評価点20における抑制対象振動等を抑制することができなくなるおそれがある。
【0075】
そこで、第一実施形態にて説明した構成とすることにより、実際の第一伝達関数Gと第一推定伝達関数Ghとの位相ずれの許容範囲を拡大することとした。そして、現在の第一推定伝達関数Ghおよび第二推定伝達関数Hhの推定精度を向上することができれば、第一実施形態にて説明した振動騒音の抑制効果を効果的に発揮できる。
【0076】
以下に、第一実施形態におけるGhデータ選択部150にて用いる第一推定伝達関数GhおよびHhデータ選択部160にて用いる第二推定伝達関数Hhを、現在の状態に適合することができるようにした場合の能動型振動騒音抑制装置200について説明する。
【0077】
(3.2)能動型振動騒音抑制装置による振動騒音抑制制御
次に、能動型振動騒音抑制装置200による振動騒音抑制処理について、図6を参照して説明する。当該振動騒音抑制処理は、例えば、車両が走行中やアイドリング中において、エンジン制御部30によりエンジン10が駆動されているとき、評価点20におけるエンジン10により発生した振動または騒音を抑制する制御処理である。
【0078】
能動型振動騒音抑制装置200において、振動騒音抑制処理に用いられる構成は、周波数算出部110と、制御信号生成部120と、発生装置130と、実残留信号検出部140と、Ghマップデータ記憶部210と、Hhマップデータ記憶部220と、温度検出部230と、トルク変動検出部240と、Ghデータ選択部250と、Hhデータ選択部260と、仮想残留信号算出部170と、適応フィルタ係数更新部180とを備えている。ここで、第二実施形態における能動型振動騒音抑制装置200において、第一実施形態における能動型振動騒音抑制装置100と同一構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0079】
Ghマップデータ記憶部210は、第一推定伝達関数Ghのマップデータ(以下、「Ghマップデータ」と称する)を記憶している。Ghマップデータ記憶部210に記憶されているGhマップデータは、製造初期の他、例えば、エンジン10の停止の都度、Ghマップデータの算出更新処理を行うことにより逐次更新される。このGhマップデータ記憶部210に記憶されるGhマップデータの算出更新処理については、後述する。
【0080】
Ghマップデータ記憶部210は、周波数fに応じた第一推定伝達関数Ghの振幅成分Ahおよび位相成分Φhと、制御信号y(n)を発生したときの第一伝達系の温度範囲Teとを関連づけて、複数枚のGhマップデータとして記憶する。
【0081】
詳細には、1枚のGhマップデータには、図7に示すような周波数fに応じた第一推定伝達関数Ghの振幅成分Ah、および、図8に示すような周波数fに応じた第一推定伝達関数Ghの位相成分Φhが設定されている。また、1枚のGhマップデータには、共振周波数fG0の情報が含まれている。
【0082】
ここで、第一推定伝達関数Ghの共振周波数fG0は、Ghマップデータの振幅成分Ahに基づいて導出することもでき、Ghマップデータの位相成分Φhから導出することもできる。例えば、図7に示すように、第一推定伝達関数Ghにおける振幅成分Ahがピーク値となる周波数fが、共振周波数fG0となる。また、図8に示すように、第一推定伝達関数Ghにおける位相成分Φhが−90degとなる周波数が、共振周波数fG0となる。
【0083】
そして、それぞれのGhマップデータは、図9に示すように、例えば、第一伝達系の温度状態を9つに区分した温度範囲毎について、更新前情報と更新後情報の2種を記憶されている。すなわち、Ghマップデータ記憶部210には、18枚のGhマップデータが記憶されている。つまり、第一推定伝達関数Ghは、式(19)に示すように、周波数fおよび温度範囲Teに応じた振幅成分Ahおよび位相成分Φhにより表される。
【0084】
【数18】

【0085】
Hhマップデータ記憶部220は、第二推定伝達関数Hhのマップデータ(以下、「Hhマップデータ」と称する)が記憶されている。このHhマップデータは、通常は更新されるものではないが、点検などの際に更新されるようにしてもよい。
【0086】
Hhマップデータ記憶部220は、周波数fに応じた第二推定伝達関数Hhの振幅成分Ahおよび位相成分Φhと、温度検出部230により検出された第一伝達系の温度範囲Teと、トルク変動検出部240により検出されたトルク変動態様とを関連づけて、複数枚のHhマップデータとして記憶する。
【0087】
詳細には、1枚のHhマップデータには、図10に示すような周波数fに応じた第二推定伝達関数Hhの振幅成分Ah、および、図11に示すような周波数fに応じた第二推定伝達関数Hhの位相成分Φhが設定されている。
【0088】
そして、図10および図11に示すように、第二推定伝達関数Hhの共振周波数は、fH0である。つまり、1枚のHhマップデータには、共振周波数fH0の情報が含まれている。ここで、第二推定伝達関数Hhの共振周波数fH0は、Hhマップデータの振幅成分Ahに基づいて導出することもでき、Hhマップデータの位相成分Φhから導出することもできる。例えば、図10に示すように、第二推定伝達関数Hhにおける振幅成分Ahがピーク値となる周波数が、共振周波数fH0となる。また、図11に示すように、第二推定伝達関数Hhにおける位相成分Φhが−90degとなる周波数が、共振周波数fH0となる。
【0089】
そして、それぞれのHhマップデータは、図12に示すように、例えば、第二伝達系の支持ばねのばね定数を大、中、小の3つに区分したばね定数範囲毎、第二伝達系の温度状態を9つに区分した温度範囲毎、かつ、エンジン10の駆動トルク変動態様を2つに区分したトルク変動範囲毎に記憶されている。すなわち、Hhマップデータ記憶部220には、54枚(=3×9×2)のHhマップデータが記憶されている。つまり、第二推定伝達関数Hhは、式(20)に示すように、周波数f、ばね状態K、温度範囲Te、トルク変動態様ΔTrに応じた振幅成分Ahおよび位相成分Φhにより表される。なお、トルク変動態様として、エンジン10の暖気前と暖気後の2種類としているが、より細分化してもよい。そして、トルク変動は、例えば、アクセル開度などに相関を有する。つまり、例えば、トルク変動として、アクセル開度を用いて判定してもよい。このHhマップデータ記憶部220に記憶されるHhマップデータの算出更新処理については、後述する。
【0090】
【数19】

【0091】
温度検出部230は、第一伝達系(制御信号生成部120と評価点20との間における伝達系)の温度Teを検出する。例えば、温度検出部230は、温度センサが適用され、発生装置130あるいはその近傍に設けられ、第一伝達系(制御信号生成部120と評価点20との間における伝達系)の雰囲気温度を検出する。ここで、温度検出部230は、図9および図12に示すように9つに区分した温度範囲のいずれの範囲に位置するかを検出する。
【0092】
トルク変動検出部240は、エンジン制御部30からエンジン10のトルク変動態様に関する情報を受け取り、エンジン10のトルク変動態様を検出する。本実施形態においては、トルク変動検出部240は、エンジン10が暖気前状態であるか暖気後状態であるかを検出する。
【0093】
Ghデータ選択部250は、温度検出部230により検出された温度Teに基づいて、Ghマップデータ記憶部210に記憶されている更新後の9枚のGhマップデータの中から、温度Teに対応するGhマップデータを選択する。ここで、選択されたGhマップデータは、現在の第一伝達系の温度Teに応じたGhマップデータとなる。従って、選択されたGhマップデータは、第一伝達関数Gの経年変化に追従したGhマップデータであると共に、現在の第一伝達系の温度Teに応じたGhマップデータとなる。さらに、Ghデータ選択部250は、選択されたGhマップデータの中から、周波数算出部110にて算出された周波数fに応じた第一推定伝達関数Ghの振幅成分Ahと位相成分Φhを選択する。
【0094】
Hhデータ選択部260は、Hhマップデータ記憶部220に記憶されている54枚のHhマップデータの中から、温度検出部230により検出された温度Teおよびトルク変動検出部240により検出されたトルク変動態様ΔTrに対応する3枚のHhマップデータを選択する。さらに、Hhデータ選択部260は、温度Teおよびトルク変動態様ΔTrに応じて選択された3枚のHhマップデータの中から、Ghデータ選択部250により選択されたGhマップデータを用いて、1枚のHhマップデータを選択する。
【0095】
具体的には、Hhデータ選択部260は、3枚のHhマップデータの中から、選択されたGhマップデータの共振周波数fG0に最も近い共振周波数fH0を有するHhマップデータを選択する。
【0096】
ここで、例えば、FR(フロントエンジン、リヤドライブ)車において、本実施形態の能動型振動騒音抑制装置200をリヤサブフレームに搭載した能動型ダイナミックダンパとし、リヤサブフレームの振動を抑制するように制御した場合を考える。このとき、第一伝達関数Gは、主としてリヤサブフレームの車両本体に対する支持ばねのばね定数の影響を受ける。一方、第二伝達関数Hも、主としてリヤサブフレームの車両本体に対する支持ばねのばね定数の影響を受ける。このように、第一伝達関数Gと第二伝達関数Hとは、同一の支持ばねのばね定数の影響を受ける。従って、リヤサブフレームの支持ばねのばね定数が経年変化した場合には、第一伝達関数Gが変化すると共に、第二伝達関数Hも変化することになる。
【0097】
より詳細には、第一伝達関数Gの共振周波数fG0と第二伝達関数Hの共振周波数fH0とは、ほぼ一致するか、もしくは、ある程度近似する。つまり、第一伝達関数Gが経年変化して第一伝達関数Gの共振周波数fG0が変化したときに、第二伝達関数Hの共振周波数fH0も同様に変化している。
【0098】
なお、この現象は、例えば、本実施形態の能動型振動騒音抑制装置100をエンジン10のサブフレームに搭載した能動型エンジンマウントとし、エンジン10のサブフレームの振動を抑制するように制御した場合についても同様となる。
【0099】
そこで、上述したように、Hhデータ選択部260は、3枚のHhマップデータの中から、選択されたGhマップデータの共振周波数fG0に最も近い共振周波数fH0を有するHhマップデータを選択する。これにより、経年変化した現在の第二伝達関数Hの状態に応じたHhマップデータを選択できる。さらに、Hhデータ選択部260は、選択されたHhマップデータの中から、周波数算出部110にて算出された周波数fに応じた第二推定伝達関数Hhの振幅成分Ahと位相成分Φhを選択する。
【0100】
そして、能動型振動騒音抑制装置200は、Ghデータ選択部250により選択された第一推定伝達関数Ghの振幅成分Ahと位相成分Φhと、Hhデータ選択部260により選択された第二推定伝達関数Hhの振幅成分Ahと位相成分Φhとを用いて、適応制御および疑似マップ制御を行う。従って、経年変化した現在の第一伝達関数Gおよび第二伝達関数Hに近い状態の情報を用いることができる。つまり、経年変化に追従することができる。
【0101】
(3.3)第一推定伝達関数Ghのマップデータの算出更新処理
第一推定伝達関数Ghのマップデータの算出更新処理について、図13を参照して説明する。Ghマップデータの算出更新処理は、製造初期において行うと共に、例えば、エンジン10の停止の都度行うようにする。つまり、Ghマップデータ記憶部210に記憶されるGhマップデータは、逐次更新される。
【0102】
図13に示すように、能動型振動騒音抑制装置200において、第一推定伝達関数Ghのマップデータの算出更新処理に用いられる構成は、周波数設定部310と、フィルタ係数設定部320と、制御信号生成部120と、発生装置130と、実残留信号検出部140と、Ghマップデータ算出更新部330と、温度検出部230と、Ghマップデータ記憶部210とを備えている。
【0103】
周波数設定部310は、Ghマップデータを算出(同定)するための制御信号y(n)に用いる周波数fを設定する。例えば、エンジン10の周波数帯のうち30Hz〜70Hzの範囲を制御対象周波数とする。フィルタ係数設定部320は、Ghマップデータを算出(同定)するための制御信号y(n)に用いる振幅フィルタ係数a(n)および位相フィルタ係数φ(n)を設定する。
【0104】
制御信号生成部120は、上述した制御信号生成部120と実質的には同一であり、周波数設定部310にて設定された周波数fおよびフィルタ係数設定部320にて設定された各フィルタ係数a(n)(n)に基づいて、式(1)に従って得られる制御信号y(n)を生成する。ここで、制御信号生成部120により制御信号y(n)を発生させるとき、図9および図12に示すように、第一伝達系の温度状態を9つに区分した温度範囲毎に行う。
【0105】
発生装置130は、上述した発生装置130と同一であり、制御信号生成部120によって生成された制御信号y(n)に応じた制御振動や制御音を発生する。そして、評価点20においては、発生装置130によって発生された制御振動等が伝達系Bを介して振動または音Zreal(n)が伝達される。この振動または音Zreal(n)は、式(21)で表される。
【0106】
【数20】

【0107】
実残留信号検出部140は、上述したとおり、評価点20に配置されており、評価点20における振動または音ereal(n)を検出する。ここでは、実残留信号検出部140により検出される振動または音ereal(n)は、Zreal(n)に等しい。
【0108】
Ghマップデータ算出更新部330は、制御信号生成部120により生成された制御信号y(n)と、実残留信号検出部140により検出された評価点20における振動または音ereal(n)とに基づいて、第一推定伝達関数Ghの振幅成分Ahおよび位相成分Φhを算出する。このGhマップデータ算出更新部330は、Ghマップデータ記憶部210に初期状態としてGhマップデータを記憶した後においても、Ghマップデータ記憶部210に既に記憶されているGhマップデータを新たに算出したGhマップデータに更新する。
【0109】
Ghマップデータ記憶部210は、Ghマップデータ算出更新部330により算出された周波数fに応じた第一推定伝達関数Ghの振幅成分Ahおよび位相成分Φhと、制御信号y(n)を生成したときの第一伝達系の温度範囲Teとを関連づけて、複数枚のGhマップデータとして記憶する。
【0110】
このように、Ghマップデータ記憶部210に記憶されるGhマップデータは、例えばエンジン10の停止の都度、更新するようにしているため、現在の第一伝達関数Gの状態に適合したマップデータとなる。つまり、現在記憶されているGhマップデータは、第一伝達関数Gが経年変化したとしても、その経年変化に追従して更新されている。
【0111】
(3.4)第二推定伝達関数Hhのマップデータの算出処理
第二推定伝達関数Hhのマップデータの算出処理について、図14を参照して説明する。ここで、製造初期や点検時に予め複数の状態について再現して、複数のHhマップデータの算出を行う。
【0112】
図14に示すように、能動型振動騒音抑制装置200において、第二推定伝達関数Hhのマップデータの算出処理に用いられる構成は、実残留信号検出部140と、Hhマップデータ算出部410と、周波数算出部110と、温度検出部230と、トルク変動検出部240と、Hhマップデータ記憶部220とを備えている。
【0113】
エンジン制御指令部40は、Hhマップデータの算出を行うために、エンジン制御部30に指令を出力して、エンジン制御部30によってエンジン10駆動させる。ここで、エンジン制御指令部40により指令を出力する前に、第二伝達系の状態を予め変更した複数の状態を再現しておく。そして、それぞれの状態について、エンジン制御指令部40が、エンジン制御部30に指令を出力する。当該指令には、エンジン10により発生される振動または騒音の周波数が30Hz〜70Hzの制御対象周波数fの範囲内となるようにするための情報が含まれている。つまり、当該指令を受けたエンジン制御部30は、エンジン10の振動または騒音の周波数が制御対象周波数fの各周波数となるように、順次周波数を変化させて行う。さらに、当該指令には、エンジン10の暖気前状態と暖気後状態の2種類について実行する情報が含まれている。
【0114】
そして、第二伝達関数Hの系は、図12に示したように、3つの支持ばねのばね定数範囲、および、9つの温度範囲により表されるおよび27種類の状態を再現する。例えば、第二伝達関数Hの系の状態を、支持ばねのばね定数を大の状態であり、第二伝達関数Hの系の温度範囲を70℃〜80℃の範囲として、Hhマップデータの算出処理を実行する。
【0115】
実残留信号検出部140は、上述した実残留信号検出部140と同一である。ただし、Hhマップデータの算出において、実残留信号検出部140は、エンジン10により発生した振動または騒音が第二伝達関数Hを介して伝達された評価点20における振動または音ereal(n)を検出する。つまり、実残留信号検出部140により検出する振動または音ereal(n)は、現在再現された第二伝達関数Hの状態に応じた、エンジン10の振動または騒音が伝達された評価点20における振動または音Xreal(n)に等しい。なお、第二伝達関数Hは、エンジン10から評価点20までの第二伝達系の第二伝達関数である。
【0116】
Hhマップデータ算出部410は、実残留信号検出部140により検出された評価点20における振動または音ereal(n)に基づいて、第二推定伝達関数Hhの振幅成分Ahおよび位相成分Φhを算出する。
【0117】
周波数算出部110は、上述した周波数算出部110と同一であり、エンジン10の回転パルス信号に基づいて、エンジン10により発生される振動または騒音の主成分の周期(爆発周期)を算出する。つまり、周波数算出部110は、エンジン制御指令部40によりエンジン制御部30がエンジン10を駆動した場合に、実際のエンジン10の振動または騒音の周波数fを算出することになる。
【0118】
温度検出部230は、上述した温度検出部230と同一である。つまり、温度検出部230は、第一伝達系(制御信号生成部120と評価点20との間における伝達系)の温度Teを検出する。
【0119】
トルク変動検出部240は、エンジン制御部30からエンジン10のトルク変動態様に関する情報を受け取り、エンジン10のトルク変動態様を検出する。本実施形態においては、トルク変動検出部240は、エンジン10が暖気前状態であるか暖気後状態であるかを検出する。
【0120】
Hhマップデータ記憶部220は、Hhマップデータ算出部410により算出された周波数fに応じた第二推定伝達関数Hhの振幅成分Ahおよび位相成分Φhと、周波数算出部110により算出された周波数fと、温度検出部230により検出された第一伝達系の温度範囲Teと、トルク変動検出部240により検出されたトルク変動態様とを関連づけて、複数枚のHhマップデータとして記憶する。
【0121】
このように、Hhマップデータ記憶部220に記憶されるHhマップデータは、例えばGhマップデータに応じて更新するようにしているため、現在の第二伝達関数Hの状態に適合したマップデータとなる。つまり、現在適用するHhマップデータは、第二伝達関数Hが経年変化したとしても、その経年変化に追従したデータとなる。
【符号の説明】
【0122】
20:評価点、 21:仮想評価点
100,200:能動型振動騒音抑制装置
110:周波数算出部、 120:制御信号生成部、 130:発生装置
140:実残留信号検出部、 150:Ghデータ選択部、 160:Hhデータ選択部
170:仮想残留信号算出部、 180:適応フィルタ係数更新部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号に応じた制御振動または制御音を出力して、評価点における振動または騒音を能動的に抑制する能動型振動騒音抑制装置であって、
振動または騒音の発生源の周波数、適応フィルタ係数により構成される前記制御信号を生成する制御信号生成部と、
前記制御信号生成部と前記評価点との間の第一伝達系における第一伝達関数Gの推定値Ghを記憶する第一伝達関数推定値記憶部と、
前記振動または騒音の発生源と前記評価点との間の第二伝達系における第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶する第二伝達関数推定値記憶部と、
前記評価点において、実際の前記第一伝達関数Gを介して伝達された前記制御信号と実際の前記第二伝達関数Hを介して伝達された前記発生源による振動または騒音との干渉による実残留信号erealを検出する実残留信号検出部と、
前記仮想評価点において、前記第一伝達関数Gの推定値Ghを介して伝達された前記制御信号と前記第二伝達関数Hの推定値Hhを介して伝達された前記発生源による振動または騒音との干渉による仮想残留信号ehimagを算出する仮想残留信号算出部と、
前記実残留信号erealおよび前記仮想残留信号ehimagに基づき設定された評価関数を最小とするように前記適応フィルタ係数を更新する適応フィルタ係数更新部と、
を備える能動型振動騒音抑制装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記適応フィルタ係数更新部は、前回更新された前記適応フィルタ係数に対して、前記第一伝達関数Gの推定値Ghおよび前記実残留信号erealに基づき算出される第一更新項を加減算すると共に、前記第一伝達関数Gの推定値Ghおよび前記仮想残留信号ehimagに基づき算出される第二更新項を加減算することにより、前記適応フィルタ係数を更新する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記適応フィルタ係数更新部は、前記第一更新項の第一ステップサイズパラメータと前記第二更新項の第二ステップサイズパラメータとを異なる値として、前記適応フィルタ係数を更新する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記制御信号生成部は、前記振動または騒音の発生源の周波数、前記適応フィルタ係数としての振幅フィルタ係数および位相フィルタ係数により構成される前記制御信号を生成し、
前記適応フィルタ係数更新部は、
前回更新された前記振幅フィルタ係数に対して、前記第一伝達関数Gの推定値Gh、前記実残留信号erealおよび振幅用第一ステップサイズパラメータμに基づき算出される振幅更新式の第一更新項を加減算すると共に、前記第一伝達関数Gの推定値Gh、前記仮想残留信号ehimagおよび振幅用第二ステップサイズパラメータμahに基づき算出される振幅更新式の第二更新項を加減算することにより、前記振幅フィルタ係数を更新する振幅フィルタ係数更新部と、
前回更新された前記位相フィルタ係数に対して、前記第一伝達関数Gの推定値Gh、前記実残留信号erealおよび位相用第一ステップサイズパラメータμφに基づき算出される位相更新式の第一更新項を加減算すると共に、前記第一伝達関数Gの推定値Gh、前記仮想残留信号ehimagおよび位相用第二ステップサイズパラメータμφhに基づき算出される位相更新式の第二更新項を加減算することにより、前記位相フィルタ係数を更新する位相フィルタ係数更新部と、
を備える能動型振動騒音抑制装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記第二伝達関数推定値記憶部は、前記第二伝達系の状態をそれぞれ変更した複数の状態における前記第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶し、
前記能動型振動騒音抑制装置は、複数の前記第二伝達関数Hの推定値Hhの中から、前記第一伝達関数推定値記憶部に記憶されている前記第一伝達関数Gの推定値Ghの共振周波数fG0に最も近い共振周波数fH0を有する前記第二伝達関数Hの推定値Hhを選択する第二伝達関数推定値選択部を備え、
前記仮想残留信号算出部は、前記第二伝達関数推定値選択部により選択された前記第二伝達関数Hの推定値Hhに基づいて、前記仮想残留信号ehimagを算出する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記第一伝達関数Gの推定値Ghの共振周波数fG0は、前記第一伝達関数Gの推定値Ghの振幅成分および位相成分の少なくとも一方に基づいて導出し、
前記第二伝達関数Hの推定値Hhの共振周波数fH0は、前記第二伝達関数Hの推定値Hhの振幅成分および位相成分の少なくとも一方に基づいて導出する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項7】
請求項5または6において、
前記第二伝達関数推定値記憶部は、前記第二伝達系の支持ばねのばね定数を複数に区分したばね定数範囲毎に、前記第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか一項において、
前記第一伝達関数推定値記憶部は、前記第一伝達系の温度状態を複数に区分した温度範囲毎の前記第一伝達関数Gの推定値Ghを記憶し、
前記第二伝達関数推定値記憶部は、前記第二伝達系の温度を前記第一伝達系と同一の複数に区分した温度範囲毎の前記第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶し、
前記能動型振動騒音抑制装置は、
前記第一伝達系の温度を検出する温度検出部と、
複数の前記第一伝達関数Gの推定値Ghの中から、前記温度検出部により検出された前記第一伝達系の温度に応じた前記第一伝達関数Gの推定値Ghを選択する第一伝達関数推定値選択部と、
を備え、
前記第二伝達関数推定値選択部は、複数の前記第二伝達関数Hの推定値Hhの中から、前記温度検出部により検出された前記第一伝達系の温度と前記共振周波数fH0とに応じた前記第二伝達関数Hの推定値Hhを選択し、
前記適応フィルタ係数更新部は、前記第一伝達関数推定値選択部により選択された前記第一伝達関数Gの推定値Ghと前記第二伝達関数推定値選択部により選択された前記第二伝達関数Hの推定値Hhとに基づいて、前記適応フィルタ係数を更新する能動型振動騒音抑制装置。
【請求項9】
請求項5〜7の何れか一項において、
前記能動型振動騒音抑制装置は、エンジンを有する車両に適用され、
前記第二伝達関数推定値記憶部は、前記エンジンの駆動トルク変動を複数に区分したトルク変動範囲毎の前記第二伝達関数Hの推定値Hhを記憶し、
前記能動型振動騒音抑制装置は、前記エンジンの駆動トルク変動を検出するトルク変動検出部を備え、
前記第二伝達関数推定値選択部は、複数の前記第二伝達関数Hの推定値Hhの中から、前記トルク変動検出部により検出された前記駆動トルク変動と前記共振周波数fH0とに応じた前記第二伝達関数Hの推定値Hhを選択する能動型振動騒音抑制装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−168283(P2012−168283A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27632(P2011−27632)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】