説明

脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法

【課題】本発明は、収率よく、脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法は、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールとを、エステル交換触媒を用いて生成する(メタ)アリルアルコールを留去しながらエステル交換反応させて、対応する1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、脂環基内部にエポキシ基を含有するカルボン酸(メタ)アリルエステルと1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールを原料に用いた脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物は、反応性の高いモノマーである。該エステル化合物は、各種架橋剤や反応性希釈剤として用いられるほか、そのもの自体の重合物も、電気特性、寸法安定性、耐熱性、耐候性、耐薬品性、機械的特性に優れ各種成形品或いは光学材料としての使用も期待されている。
【0003】
従来、グリシジル基を有するエポキシ化合物は、電気絶縁材、接着剤、塗料、複合材料のマトリックス樹脂等の有用な架橋剤として広く用いられている。中でも、グリシジル基を、エステル結合を介して有するグリシジルエステル系化合物が、硬化反応性が高いことが知られており、例えば、グリシジルメタクリレート、トリメリット酸トリグリシジル等のグリシジルエステル化合物が上記各分野で多く用いられている。
【0004】
近年、グリシジル基を、エステル結合を介して有するエポキシ化合物の耐水性、耐候性、又は耐熱性を改善する目的で、脂環式エポキシ基を有するアルコール及びカルボン酸エステルを原料に用いて、脂環式エポキシ基を有するエステル化合物の製造方法が提案されている(特許文献1〜3)。
【0005】
しかし、これらの製造方法では、反応収率が悪く、あるいは、1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を効率よく製造できない。
また、他の解決方法として、脂環式エポキシ基を有するカルボン酸低級アルキルエステルと多価アルコールとのエステル交換反応による脂環式エポキシ基を有するエステル化合物の製造方法も提案されている(特許文献4)。
【0006】
しかし、特許文献4の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物の製造方法では、エステル交換反応の速度が遅く、触媒を多く使用する場合には、煩雑な精製工程を必要とすることになり、効率的ではない。
【0007】
なお、本明細書に記載の「脂環式エポキシ基」とは、例えば、シクロヘキセンオキサイドのような脂環基内部に存在するエポキシ基を意味する。
【特許文献1】特開平4−283575号公報
【特許文献2】特開2002−371072号公報
【特許文献3】特開2002−371073号公報
【特許文献4】特開平5−170753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では上記のような従来の技術の欠点を考慮し、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールを原料として、エステル交換触媒の存在下で、生成する(メタ)アリルアルコールを留去しながらエステル交換反応させて、収率よく、対応する脂環式エポキシ基を有するエステルを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、対応する脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールとを、エステル交換反応により(メタ)アリルアルコールを留去しながら反応させることで、効率良く、目的とする1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を合成できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]の実施態様を含む。
[1] 脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールとを、エステル交換触媒を用いて生成する(メタ)アリルアルコールを留去しながらエステル交換反応させて、対応する1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を製造することを特徴とする脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
[2] 前記エステル交換触媒が、ジアルキル錫オキサイド、テトラアルキルチタネート、金属アセチルアセトナト錯体及び炭酸カリウムの群の中から選ばれる少なくとも1種以上の化合物であることを特徴とする[1]に記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
[3] 前記エステル交換触媒が、ジブチル錫オキサイド又はジオクチル錫オキサイドであることを特徴とする[1]に記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
[4] 前記エステル交換触媒の使用量が、前記脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと水酸基を1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールの総量に対して、0.01〜3質量%であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
[5] 前記1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールが、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、及びビュウレット構造またはイソシアヌレート構造に由来するNH構造の中から選ばれる少なくとも1種以上の構造を分子中に2つ以上有する化合物にエチレンオキシドを付加させて合成された多価アルコールであることを特徴とする[1]〜[
4]のいずれかに記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
[6] 前記1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールが、炭素数9以上の炭化水素鎖を有する多価アルコールであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
[7] 前記脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルが、下記一般式(I)であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の脂環式エポキシ基含
有エステル化合物の製造方法。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1は(メタ)アリル基を表し、R2〜R10はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明では、対応する脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールとでエステル交換反応を行い、(メタ)アリルアルコールを留去しながら反応させることにより、効率良く、目的とする1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を製造することにより、安価な工業的製造方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールとを、エステル交換触媒を用いて生成する(メタ)アリルアルコールを留去しながらエステル交換反応させて、対応する1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を製造することを特徴とするエステル化合物の製造方法である。本明細書において(メタ)アリルエステルとは、アリルエステル及び/またはメタリルエステルを意味する。また、本明細書において(メタ)アリル基とは、アリル基及び/またはメタリル基を意味する。さらに、本明細書において(メタ)アリルアルコールとは、アリルアルコール及び/またはメタリルアルコールを意味する。
【0015】
まず、最初に、本発明の製造方法の原料成分である、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルについて説明する。
本発明の製造方法の原料成分である、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルは、同一分子内に1個以上の脂環式エポキシ基と1個以上の(メタ)アリルエステル結合を有する化合物であれば、特に制限はない。
【0016】
脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルの中で、合成の容易さ、或いは入手の容易さを考慮すると、好ましい化合物としては、以下の一般式(I)〜(I
V)で表される化合物を挙げることができる。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R1は(メタ)アリル基を表し、R2〜R10はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を表す。)
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、R11は(メタ)アリル基を表し、R12〜R20はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を表す。)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、R21、R22はそれぞれ独立に(メタ)アリル基を表し、R23〜R30はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を表す。)
【0023】
【化6】

【0024】
(式中、R31、R32はそれぞれ独立に(メタ)アリル基を表し、R33〜R40はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を表す。)
これらの化合物の中で、特に好ましいものは、一般式(I)で表される化合物である

【0025】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記の構造式(1)〜(
30)の化合物を挙げることができる。
【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

【0033】
【化14】

【0034】
【化15】

【0035】
【化16】

【0036】
【化17】

【0037】
【化18】

【0038】
【化19】

【0039】
【化20】

【0040】
【化21】

【0041】
【化22】

【0042】
【化23】

【0043】
【化24】

【0044】
【化25】

【0045】
【化26】

【0046】
【化27】

【0047】
【化28】

【0048】
【化29】

【0049】
【化30】

【0050】
【化31】

【0051】
【化32】

【0052】
【化33】

【0053】
【化34】

【0054】
【化35】

【0055】
【化36】

【0056】
次に、本発明の製造方法の原料成分である、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールについて説明する。
本発明の製造方法の原料成分である、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールは、同一分子内に2つ以上のアルコール性水酸基を有する化合物であれば、特に制限はない。
【0057】
1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールの具体例としては、例えば、以下の構造式(31)〜(44)の化合物を挙げることができる。
【0058】
【化37】

【0059】
【化38】

【0060】
【化39】

【0061】
【化40】

【0062】
【化41】

【0063】
【化42】

【0064】
【化43】

【0065】
【化44】

【0066】
【化45】

【0067】
【化46】

【0068】
【化47】

【0069】
【化48】

【0070】
【化49】

【0071】
【化50】

【0072】
1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールは、エステル交換反応の反応速度を考慮すると、立体障害がないものが好ましい。また、エステル交換反応の反応速度を考慮した場合、1級水酸基であることが望ましい。これらのことを考慮すると、特に好ましいものとして、前記構造式(31)〜(35)、(41)および(42)で示されるようなアルコール性水酸基、フェノール性水酸基、及びビュウレット構造またはイソシアヌレート構造に由来するNH構造の中から選ばれる少なくとも1種以上の構造を分子中に2つ以上有する化合物にエチレンオキシドを付加させて合成された多価アルコールや、前記構造式(36)〜(40)で示されるような炭素数9以上の炭化水素鎖を有する多価アルコールを挙げることができる。
【0073】
なお、ここでいう「ビュウレット構造またはイソシアヌレート構造に由来するNH構造」としては、下記構造式(IX)で示されるビュウレット構造の下線を付したNHやイソシアヌレート構造の有するNHが挙げられ、これらの構造を有する化合物の具体例としては、イソシアヌル酸やモノアリルイソシアヌル酸を例示できる。
【0074】
【化51】

【0075】
次に、本発明の製造方法の必須成分である、エステル交換触媒について説明する。
本発明の製造方法で用いるエステル交換触媒としては、エステル基を活性化させアルコールとの反応を起こさせるものなら、基本的にはどのような触媒でも用いることが出来る。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化
物、及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属の弱酸塩、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコラート、アルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物、また、Hf、Mn、U、Zn、Cd、Zr、Pb、Ti、CoおよびSnの酸化物、Hf、Mn、U、Zn、Cd、Zr、Pb、Ti、CoおよびSnの水酸化物、Hf、Mn、U、Zn、Cd、Zr、Pb、Ti、CoおよびSnの無機酸塩、Hf、Mn、U、Zn、Cd、Zr、Pb、Ti、CoおよびSnのアルコキシド、Hf、Mn、U、Zn、Cd、Zr、Pb、Ti、CoおよびSnの有機酸塩、Hf、Mn、U、Zn、Cd、Zr、Pb、Ti、CoおよびSnのアセチルアセトナトのような有機錯体、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ジクロライド等の有機錫化合物、ジメチルアニリン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン等の3級アミン等である。
【0076】
これらの中で、ジブチル錫オキサイド,ジオクチル錫オキサイド,ジブチル錫ジクロライド等のジアルキル錫化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のテトラアルキルチタネート、マンガンアセチルアセトナト、ジルコニウムアセチルアセトナト、ハフニウムアセチルアセトナト等の金属アセチルアセトナト錯体、炭酸カリウムを用いることが好ましい。
【0077】
これらの中で、特に好ましいものとしては、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ジクロライド等のジアルキル錫化合物、マンガンアセチルアセトナト、ジルコニウムアセチルアセトナト、ハフニウムアセチルアセトナト等の金属アセチルアセトナト錯体であり、最も好ましいものとしては、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイドである。
【0078】
反応の形態としては、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールとをエステル交換触媒の存在下に加熱するという方法をとる。反応温度は、使用するエステル交換触媒の種類によっても異なるが、30〜200℃、好ましくは50〜160℃の範囲から選ばれ、常圧または加圧下、または必要に応じて減圧下で、不活性ガス雰囲気中で行われることが望ましい。反応を効率的に行うために、生成する(メタ)アリルアルコールは反応系外に速やかに留出させる。
【0079】
脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルの使用量としては、反応を完結させる(即ち、原料である多価アルコールの水酸基のほとんどをエステルに変換する)ためには、原料である1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールに対して理論量以上必要であるが、反応速度、平衡等を考慮すれば、更に過剰モル使用したほうがよい。しかし、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルをあまりに大過剰用いても、その過剰量に見合う効果が出ないので経済的に好ましくない。
【0080】
また、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルの使用量は、反応を完結させる必要のない場合(即ち、原料である多価アルコールの水酸基の一部は反応せずに残っても良い場合)には、原料である1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールに対して理論量未満の量を使用してもいっこうに差し支えない。
【0081】
よって、通常脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルは、原料である1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールの理論量に対して、0.8〜5.0倍モル、より好ましくは0.9〜4倍モル程度を使用する。その際の仕込み方法としては反応の最初に仕込んでもよいし、反応途中に順次加えてもよい。
【0082】
エステル交換触媒の使用量としては、脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールの総量に対して、0.01〜3質量%、好ましくは0.02〜0.4質量%である。0.01質量%未満の場合に
は反応速度が遅くなり、3質量%より多い場合にはその量に見合う効果が得られないばかりか、着色がひどくなり、また副反応のためにかえって収率が低下してしまう場合がある。また、使用するエステル交換触媒の種類によっては、過剰の使用は、エステル交換触媒との分離に多大な時間や労力を要するという問題がある。
【0083】
本反応系で生成した、1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物の単離法としては、使用する触媒の種類によって異なるが、例えば、ジブチル錫オキサイドを使用した場合には、(メタ)アリルアルコール及び未反応の脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルを減圧留去後、生成した1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物が蒸留可能な化合物の場合には、蒸留精製を行うだけで、製品として使用できる精製品を得ることが出来る。また、生成した1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物が蒸留できない化合物の場合には、水洗等手段を使用して精製することが可能である。しかし、本発明の製造方法における触媒の使用量は非常に少ないので、(メタ)アリルアルコール及び未反応の脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルを減圧留去したものをそのまま使用することもできる。なお、反応物中には通常複数種類のエポキシ基含有エステル化合物が含有される。これらは場合によっては各々単離せず混合物のまま使用することもできる。
【0084】
本発明の製造方法によって製造された、1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物は、通常の脂環式エポキシ基を有する化合物と同様に、カチオン重合開始剤を用いて、カチオン重合を行うことにより硬化物を得ることができる。
【0085】
カチオン重合開始剤は、大きく、熱によって活性種を生ずる熱カチオン重合開始剤と、光照射されることによって活性種を生ずる光カチオン重合開始剤に分けられるが、本発明の製造方法によって製造された、1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物をカチオン重合させるためのカチオン重合開始剤としては、熱カチオン重合開始剤と光カチオン重合開始剤のいずれのものを用いてもよく、また、併用してもいっこうにかまわない。
【0086】
光カチオン重合開始剤は、紫外線の照射によってエポキシ基のカチオン重合を開始する化合物である。例えば、カチオン部分が、スルホニウム、ヨードニウム、ジアゾニウム、アンモニウム、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Feカチオンであり、アニオン部分が、BF4-、PF6-、SbF6-、[BX4-(ただし、Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)で構成されるオニウム塩が挙げられる。具体的に、スルホニウム塩には、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート
、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロアン
チモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビステトラフ
ルオロボレート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド テトラキ
ス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニル
スルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェ
ニルスルホニウム テトラフルオロボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニ
ルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルスルホ
ニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロホスフ
ェート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒ
ドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビステトラフルオロ
ボレート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が、ヨードニウ
ム塩には、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニ
ウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウム テトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ド
デシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム テトラフルオロボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム テトラキス(ペンタ
フルオロフェニル)ボレート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエ
チル)フェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、4−メチルフェニル−4
−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム テトラフルオロボレート、4−メチルフ
ェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロ
フェニル)ボレート等、ジアゾニウム塩には、フェニルジアゾニウム ヘキサフルオロホ
スフェート、フェニルジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、フェニルジアゾニ
ウム テトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が、アンモニウム塩には、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム ヘ
キサフルオロホスフェート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム ヘキサフルオロア
ンチモネート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム テトラフルオロボレート、1−
ベンジル−2−シアノピリジニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、1−
(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウム テトラフルオロボレート、1−(ナフチルメ
チル)−2−シアノピリジニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等、
(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe塩には、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロホスフェート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロアンチモネート、2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)テトラフルオロボレート、2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0087】
これら光カチオン重合開始剤の市販品として、例えば、UVI−6990、UVI−6974(ダウケミカル社製)、オプトマーSP−150、オプトマーSP−170((株)ADEKA社製)、FC−508、FC−512(3M社製)、イルガキュア261(チバ・スペシャルティーケミカルス社製)、R HODORSIL PHOTOINITIATOR2074(Rhodia社製)、CD−1012(SARTOMER社製)、PCI−019、PCI−021(日本化薬(株)社製)、CPI−100P、CPI−100A(サンアプロ(株)社製)、TEPBI−S(日本触媒(株)社製)、サンエイドSI−60L、SI−80L及びSI−100L(三新化学工業(株)社製)、UVE−1014及びUVE−1016(ジェネラル・エレクトリック(General Electric)社製)、KI−85(デグサ(Degussa)社製)等が入手できる。
【0088】
熱カチオン重合開始剤として、トリフル酸(Triflic acid)塩、三弗化硼素エーテル錯化合物、三弗化硼素等のようなカチオン系又はプロトン酸触媒、アンモニウム塩、ホスホニウム塩およびスルホニウム塩等の各種オニウム塩を用いることができる。
【0089】
トリフル酸塩の例としては、3M社からFC−520として入手できるトリフル酸ジエ
チルアンモニウム、トリフル酸トリエチルアンモニウム、トリフル酸ジイソプロピルアンモニウム、トリフル酸エチルジイソプロピルアンモニウム等(これらの多くはR.R.Almによって1980年10月発行のモダン・コーティングス(Modern Coatings)に記載されている)がある。
【0090】
アンモニウム塩としては下記一般式(V)で表されるものが挙げられる。
【0091】
【化52】

【0092】
式中、R41〜R44は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、叉は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、さらに、置換基を有していてもよい。また、R41〜R44のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、又はS原子を含む複素環を形成していてもよい。X-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-
等)などから選ばれる。
【0093】
具体的には、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムハイドロジェンサルフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホネート、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジメチル−N−ベンジルピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジエチル−N−ベンジルトリフルオロメタンスルホネート、N,N−ジメチル−N−(4−メトキシベンジル)ピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジエチル−N−(4−メトキシベンジル)トルイジニウムヘキサフルオロアンチモネートなどが好ましいものとして挙げられる。
【0094】
ホスホニウム塩としては下記一般式(VI)で表されるものが挙げられる。
【0095】
【化53】

【0096】
式中、R45〜R48は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、叉は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、さらに、置換
基を有していてもよい。また、R45〜R48のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、又はS原子を含む複素環を形成していてもよい。Y-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-
等)などから選ばれる。)
具体的には、エチルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネートなどが好ましいものとして挙げられる。
【0097】
スルホニウム塩としては、下記一般式(VII)及び下記一般式(VIII)で示されるスルホニウム塩で表されるものが挙げられる。
【0098】
【化54】

【0099】
式中、R49〜R51は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、叉は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、さらに、置換基を有していてもよい。また、R49〜R51のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、又はS原子を含む複素環を形成していてもよい。Z-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-
等)などから選ばれる。
【0100】
【化55】

【0101】
式中、R52〜R53は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、叉は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、さらに、置換基を有していてもよい。また、R52〜R53のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、又はS原子を含む複素環を形成していてもよい。また、Arは置換基を有してよいアリール基を表す。A-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-
、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-等)などから選ばれる。
【0102】
具体的には、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルシ
ネート、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアルシネート、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアルシネートなどが挙げられる。
【0103】
上記オニウム塩類には市販品があり、例えば、アデカオプトンCP−66およびアデカオプトンCP−77((株)ADEKA社製)、サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80LおよびサンエイドSI−100L(三新化学工業(株)社製)、およびCIシリーズ(日本曹達(株)社製)などを好ましく用いることができる。
【0104】
これらの光及び熱カチオン重合開始剤の中で、オニウム塩が、取り扱い性および潜在性と硬化性のバランスに優れるという点で好ましく、その中で、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩及びホスホニウム塩が取り扱い性及び潜在性のバランスに優れるという点で特に好ましい。
【0105】
カチオン重合開始剤の使用量は特に限定されず、当該開始剤の反応性や、使用する1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物の粘度、該エステル化合物中のエポキシ基の量に応じて適宜設定すればよいが、一般的には、使用する1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物100質量部に対し、0.01〜15質量部、より好ましくは0.05〜5質量部の量で添加する。この範囲を外れると、カチオン重合後の硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなるため好ましくはない。
【0106】
また、硬化物には、必要に応じて、ポリオール、熱可塑性樹脂、レベリング剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、無機化合物、有機−無機複合材等を併用することができる。
【0107】
カチオン重合開始剤として、光カチオン重合開始剤を使用する場合、光カチオン重合開始剤に対し、硬化性を一層向上するために、増感剤として、例えば、ビレン、ペリレン、2,4−ジエチルチオキサントン、フェノチアジンの他、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等の光ラジカル重合開始剤を併用することもできる。
【0108】
カチオン重合開始剤として、光カチオン重合開始剤を使用する場合には、硬化の際に紫外線の照射を行う。硬化のために用いられる紫外線照射光源に特に制限はなく、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプなどを用いることができる。この際の光の照射量は、組成物の種類及び厚みにより異なるが、一般的には、100mJ〜5000mJの範囲であることが多い。
【0109】
カチオン重合開始剤として、熱カチオン重合開始剤を使用する場合には、本発明に記載のエステル化合物を含む組成物の硬化反応は、その熱カチオン重合開始剤がカチオン種やルイス酸の発生を開始する温度以上で行われ、好ましくは50〜200℃にて実施され、さらに好ましくは75〜180℃である。硬化時間は用いる熱カチオン重合開始剤の種類、組成物の配合比にもよるが、10分以上加熱することが好ましく、さらに好ましくは1時間以上加熱することが望ましい。また、硬化温度は段階的に上昇されることが好ましく、例えば100℃×3時間の加熱後に、120℃×3時間の加熱を行うと、単純に110℃×6時間の加熱より機械的強度に優れた硬化物が得られる。また、例えば液状の組成物を固体化する工程である本硬化の後に、得られた硬化物を本硬化より低い温度で加熱する後硬化も、機械的強度に優れた硬化物が得られるため好ましい。
【実施例】
【0110】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限
されるものではない。
<エポキシ当量の測定>
エポキシ当量の測定はJIS K7236に準拠して測定した。
【0111】
(実施例1)
攪拌機、温度計および精留塔のついた1000ml三ッ口丸底フラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル 600.0g(3.29モル)、トリシク
ロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール323.2g(1.65モル)及びジブチ
ル錫オキサイド 1.84gを入れ、窒素気流下、130℃に調節した油浴により加熱し
反応を行った。反応の進行とともに、生成してくるアリルアルコールを精留塔から留出させて300mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々に1000ml三ッ口丸底フラスコ内を減圧にして行き、10時間反応を行った。アリルアルコールの留出量は、180g(理論量の92.1%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルを留去して、淡黄色粘稠液状の生成物を得た。
【0112】
この生成物のガスクロマトグラフィー分析(以下「GC分析」とも記す)により、5.8質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルが残存していることが確認した。また、この生成物のエポキシ当量は250.5g/eqVであった。
【0113】
1H−NMRによって分析したところ、得られた生成物のうち78.0質量%が構造式
(45)で表される化合物、16.0質量%が構造式(46)で表される化合物であった。
【0114】
【化56】

【0115】
【化57】

【0116】
(実施例2)
攪拌機、温度計および精留塔のついた2000ml三ッ口丸底フラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル 900.0g(4.94モル)、ビスフェ
ノールAのエチレンオキシド付加物(商品名:BA−2グリコール、日本乳化剤(株)社製) 803.1g(2.47モル)及びジブチル錫オキサイド 3.406gを入れ、140℃に調節した油浴により加熱し反応を行った。反応の進行とともに、生成してくるアリルアルコールを精留塔から留出させて300mlナス型フラスコで取得し、反応進行に
伴い、徐々に2000ml三ッ口丸底フラスコ内を減圧にして行き、10時間反応を行った。アリルアルコールの留出量は、240.0g(理論量の83.7%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルを留去して、淡黄色粘稠液状の生成物を得た。
【0117】
この生成物のGC分析により3.3質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルが残存していることを確認した。また、この生成物のエポキシ当量は316.2g/eqVであった。
【0118】
1H−NMRによって分析したところ、得られた生成物のうち74.1質量%が構造式
(47)で表される化合物であった。
【0119】
【化58】

【0120】
(実施例3)
攪拌機、温度計および精留塔のついた2000mlセパラブルフラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル 1555.03g(8.53モル)、1,
4−ブタンジオール384.70g(4.27モル)及びジブチル錫オキサイド 3.8
6gを入れ、フラスコ内の内温が127〜128℃になるように油浴を調整して加熱し反応を行った。反応の進行とともに、生成してくるアリルアルコールを精留塔から留出させて500mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々にフラスコ内を、液体窒素トラップを介して接続したダイヤフラムポンプを用いて減圧にし、5時間反応を行った。アリルアルコールの留出量は、456.7g(理論量の92.1%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルを留去し、淡赤褐色粘調液体の生成物を得た。
【0121】
この生成物のGC分析により4.9質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルが残存していることを確認した。また、この生成物のエポキシ当量は185.5g/eqVであった。
【0122】
1H−NMRによって分析したところ、得られた生成物のうち91.2質量%が構造式
(48)で表される化合物、3.7質量%が構造式(49)で表される化合物であることが確認された。
【0123】
【化59】

【0124】
【化60】

【0125】
(比較例1)
攪拌機、温度計、精留塔のついた1000ml三ッ口丸底フラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸エチル 560.5g(3.29モル)、トリシクロ[
5.2.1.02,6]デカンジメタノール323.2g(1.65モル)及びチオシアン
酸カリウム 1.84gを入れ、窒素気流下、130℃に調節した油浴により加熱し反応
を行った。反応の進行とともに、生成してくるエタノールを精留塔から留出させて300mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々に1000ml三ッ口丸底フラスコ内を減圧にして行き、10時間反応を行った。エタノールの留出量は、118.0g(理
論量の77.8%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシ
シクロヘキサン−1−カルボン酸エチルを留去した。生成物は、褐色の濁った粘稠液であった。
【0126】
生成物のGC分析により5.2質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸エチルが残存していることを確認した。また、生成物のエポキシ当量は280.3g/eqVであった。2L分液ロートを用いて、生成物をトルエン700mlと混合し、水200mlで3回洗浄し、次いでトルエン溶液を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、室温で13.3Paの減圧下でトルエン及び少量の水を除去した。真空引きは、トルエン及
び少量の水の留去が停止した後15分間保持した。精製物は透明な褐色粘稠液であった。(比較例2)
攪拌機、温度計および精留塔のついた2000mlセパラブルフラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸エチル 1453.12g(8.53モル)、1,
4−ブタンジオール384.70g(4.27モル)及びチオシアン酸カリウム 3.8
6gを入れ、フラスコ内の内温が127〜128℃になるように油浴を調整して加熱し反応を行った。反応の進行とともに、生成してくるエタノールを精留塔から留出させて500mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々にフラスコ内を、液体窒素トラップを介して接続したダイヤフラムポンプを用いて減圧にし、5時間反応を行った。エタノールの留出量は、298.0g(理論量の75.7%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸エチルを留去し、褐色の濁った粘稠液体の生成物を得た。
【0127】
この生成物のGC分析により4.0質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸エチルが残存していることを確認した。また、この生成物のエポキシ当量は200.5g/eqVであった。3L分液ロートを用いて、生成物をトルエン1300mlと混合し、水300mlで3回洗浄し、次いでトルエン溶液を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、室温で13.3Paの減圧下でトルエン及び少量の水を除去した。真空引きは、
トルエン及び少量の水の留去が停止した後15分間保持した。精製物は透明な褐色粘稠液であった。
【0128】
比較例1、2では、実施例1、3に比べて、反応率が低く、また得られた生成物中に触媒であるチオシアン酸カリウムの析出が認められ、透明な精製物を得るために煩雑な精製工程を要した。本発明では、高い収率で1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有する
エステル化合物を煩雑な精製工程なしで製造することができる。
(比較例3)
攪拌機、温度計、精留塔のついた1000ml三ッ口丸底フラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸エチル 560.5g(3.29モル)、トリシクロ[
5.2.1.02,6]デカンジメタノール323.2g(1.65モル)及びジブチル錫
オキサイド 1.84gを入れ、窒素気流下、130℃に調節した油浴により加熱し反応
を行った。反応の進行とともに、生成してくるエタノールを精留塔から留出させて300mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々に1000ml三ッ口丸底フラスコ内を減圧にして行き、10時間反応を行った。エタノールの留出量は、120g(理論量の79.1%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸エチルを留去した。
【0129】
生成物のGC分析により5.2質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸エチルが残存していることが確認した。また、生成物のエポキシ当量は280.3g/eqVであった。
【0130】
実施例1におけるアリルエステルの代わりにエチルエステルを使用した上記比較例3では、反応率が低く、目的とする脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を収率よく得ることはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと、1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールとを、エステル交換触媒を用いて生成する(メタ)アリルアルコールを留去しながらエステル交換反応させて、対応する1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物を製造することを特徴とする脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記エステル交換触媒が、ジアルキル錫オキサイド、テトラアルキルチタネート、金属アセチルアセトナト錯体及び炭酸カリウムの群の中から選ばれる少なくとも1種以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記エステル交換触媒が、ジブチル錫オキサイド又はジオクチル錫オキサイドであることを特徴とする請求項1に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記エステル交換触媒の使用量が、前記脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルと1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールの総量に対して、0.01〜3質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールが、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、及びビュウレット構造またはイソシアヌレート構造に由来するNH構造の中から選ばれる少なくとも1種以上の構造を分子中に2つ以上有する化合物にエチレンオキシドを付加させて合成された多価アルコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記1分子中に2つ以上の水酸基を有する多価アルコールが、炭素数9以上の炭化水素鎖を有する多価アルコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記脂環式エポキシ基含有カルボン酸(メタ)アリルエステルが、下記一般式(I)
であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の脂環式エポキシ基含有エステル化合物の製造方法。
【化1】

(式中、R1は(メタ)アリル基を表し、R2〜R10はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を表す。)

【公開番号】特開2010−6754(P2010−6754A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168621(P2008−168621)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】