説明

脂環式炭化水素共重合体

【課題】低吸湿性と耐熱性に優れ、光学材料として有用な透明熱可塑性樹脂の提供。
【解決手段】一般式(1)及び一般式(2)を含む脂環式炭化水素共重合体。




[R1及びR2は、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式炭化水素共重合体用に関する。更に詳しくは、光学材料として有用な、耐熱性に優れた脂環式炭化水素共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明熱可塑性樹脂は、その成型加工性や軽量性、量産性の高さから、光学素子やディスプレイ用光学フィルムに広く用いられている。従来、光学用高分子材料としてポリメタクリル酸メチルやポリカーボネート等が使用されてきたが、前者は吸湿性が大きく、耐熱性も十分でなく、また後者は、成形品の複屈折が大きい等の問題を抱えており、ますます高度化する光学用高分子材料に対する要求に応えることが困難になってきている。
【0003】
これらの欠点を改良した高分子材料として、多環式オレフィン等の脂環式炭化水素単量体を重合させて得られる透明熱可塑性樹脂が開発されている。例えば、ノルボルネン系単量体モノマーの開環メタセシス重合体の水素添加物(例えば、特許文献1参照)や、ノルボルネン系単量体とエチレンとの付加型共重合体(例えば、特許文献2参照)等が開発されており、透明性、耐熱性、低吸湿性、低複屈折性及び成形性等に優れた光学用高分子材料として、カメラ用レンズやDVD等の光ディスク用ピックアップレンズに代表される精密光学部品に使用されている。
【0004】
また、車載用カメラレンズや次世代高密度光ディスク用ピックアップレンズには、より耐熱性の高い光学用高分子材料が必要とされており、高いガラス転移温度を有する透明熱可塑性樹脂が求められている。
【0005】
高いガラス転移温度を有する環状オレフィンポリマーとして、エステル基等の極性基の導入により凝集力を高めたノルボルネン系単量体の開環メタセシス重合体水素添加物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、これらの極性ノルボルネン重合体は吸湿性が高いため、高温高湿下において変形が大きく、光学特性に悪影響を及ぼす問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−26024号公報
【特許文献2】特開昭60−168708号公報
【特許文献3】特開平09−221577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低吸湿性と耐熱性に優れ、光学材料として有用な透明熱可塑性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、
一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位を含む脂環式炭化水素共重合体である。
【0010】
【化1】

[式中、m及びnは、それぞれ独立に1又は2である。]
【0011】
【化2】

[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。]
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低吸湿性等の物性を損なうことなく高い耐熱性を有する脂環式炭化水素重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の脂環式炭化水素共重合体は、少なくとも1種類の一般式(1)で表される構造単位及び少なくとも1種類の一般式(2)で表される構造単位を有する。
【0014】
【化3】

【0015】
一般式(1)中、m及びnは、それぞれ独立に1又は2である。即ち、本発明の脂環式炭化水素共重合体は、シクロペンタン環又はシクロヘキサン環より構成される二環式飽和炭化水素骨格を含有する。耐熱性の観点から、シクロペンタン環とシクロヘキサン環が縮環した二環式飽和炭化水素骨格であることが好ましい。即ち、m=1、n=2で表される二環式飽和炭化水素骨格又はm=2、n=1で表される二環式飽和炭化水素骨格であることが好ましい。
【0016】
【化4】

【0017】
一般式(2)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。耐熱性の観点から、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0018】
本発明の脂環式炭化水素共重合体中の、一般式(1)で表わされる構造単位と一般式(2)で表される構造単位の合計の含有割合は、通常60モル%以上、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは、80モル%以上である。60モル%未満であると、耐熱性が不十分となる場合がある。
【0019】
また、一般式(1)で表される構造単位と、一般式(2)で表される構造単位のモル比は、耐熱性及び可とう性の両立の観点から、1/99〜99/1であることが好ましく、更に好ましくは5/95〜95/5である。
【0020】
本発明の脂環式炭化水素共重合体は、例えば、少なくとも1種類の、一般式(3)で表される二環式共役ジエン単量体及び一般式(4)で表されるアルキリデンノルボルネン単量体を含有する混合物をカチオン重合開始剤の存在下で重合させた後、水素添加することにより製造することができる。
【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
一般式(3)におけるm及びnはそれぞれ独立に1又は2である。即ち、本発明に用いられる二環式共役ジエン単量体は、シクロペンテン環又はシクロヘキセン環より構成される二環式共役ジエンである。
【0024】
二環式共役ジエン単量体の具体例としては、ビシクロ[4,4,0]−1,9−デカジエン[一般式(3)における(以下同様)m=n=2]、ビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエン(m=1、n=2)、ビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエン(m=2、n=1)及びビシクロ[3,3,0]−1,7−オクタジエン(m=n=1)が挙げられる。これらの二環式共役ジエン単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
二環式共役ジエン単量体の内、容易に製造でき、かつ高い耐熱性を有する重合体が得られる点で、ビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエン及びビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエンが好ましく、特にビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエンが好ましい。
【0026】
本発明に用いられる二環式共役ジエン単量体は、二環式非共役ジエンの異性化により製造できる。例えば、工業的に大量生産されているビシクロ[4,3,0]−3,7−ノナジエンを二塩化チタノセン/水素化リチウムアルミニウム触媒で異性化させることにより、ビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエン及びビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエンの混合物を簡便に製造できる(例えば、テトラへドロンレターズ1980,Vol.21,637−640参照)。混合比は、異性化条件により制御可能であり、精密蒸留等の方法により各成分を分取することも可能である。
【0027】
アルキリデンノルボルネン単量体の具体例としては、5−メチリデンノルボルネン、5−エチリデンノルボルネン、5−プロピリデンノルボルネン、5−イソプロピリデンノルボルネン及び5−イソ部チリデンノルボルネン等が挙げられる。これらのアルキリデンノルボルネン単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
一般式(4)で表されるアルキリデンノルボルネン単量体の内、工業的に大量生産されており、かつカチオン重合性が高い点で、5−エチリデンノルボルネン及び5−プロピリデンノルボルネンが好ましく、特に5−エチリデンノルボルネンが好ましい。
【0029】
重合を行うにあたり、最終的に得られる水素添加共重合体の成型加工性、可とう性、機械的強度等の特性を改善する目的で、二環式共役ジエン単量体及びアルキリデンノルボルネン単量体以外のカチオン重合性単量体を混合して共重合させることも可能である。
【0030】
二環式共役ジエン単量体及びアルキリデンノルボルネン単量体以外のカチオン重合性単量体の具体例としては、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン及びβ−ピネン等の炭素数3〜10のモノオレフィン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン及びノルボルナジエン等の炭素数4〜10のジエン、スチレン、α−メチルスチレン及びビニルナフタレン等の炭素数8から12のビニル芳香族化合物、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,4−ジオキサン、トリオキサン、1,3−ジオキソラン、シクロヘキセンオキシド及びテトラヒドロフラン等の炭素数2〜8の環状エーテル類が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
本発明の脂環式炭化水素共重合体における、二環式共役ジエン単量体及びアルキリデンノルボルネン単量体以外のカチオン重合性単量体由来の構造単位の含有割合は、通常40モル%未満、好ましくは30モル%未満、更に好ましくは20モル%未満である。20モル%を超えると、共重合体のガラス転移温度が低くなるため耐熱性が不十分となる。
【0032】
カチオン重合で用いる触媒には特に制限がなく、ルイス酸や、プロトン酸等通常用いられるものが使用できる。
【0033】
ルイス酸の具体例としては、塩化アルミニウム、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテル錯体、四塩化チタン、四塩化スズ及び三塩化鉄等のハロゲン化金属類、二塩化エチルアルミニウム及び塩化ジエチルアルミニウム等の塩化アルキルアルミニウム類、トリエチルアルミニウム及びトリイソブチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム類、トリフェニルボラン及びトリスペンタフルオロフェニルボラン等の芳香族ホウ素類等が挙げられる。
【0034】
プロトン酸の具体例としては、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硝酸及び過塩素酸等が挙げられる。
【0035】
これらのカチオン重合触媒の内、好ましいのはルイス酸、更に好ましいのはハロゲン化金属類又は塩化アルキルアルミニウム類、特に好ましいのは塩化アルキルアルミニウム類である。
【0036】
カチオン重合触媒としてルイス酸及びプロトン酸から選ばれる少なくとも1種類からなる触媒を用いる場合、その使用量は、単量体に対して0.0001〜1モル%、好ましくは0.001〜0.1モル%である。
【0037】
カチオン重合触媒としてルイス酸を用いる場合には、分子量を制御する目的で、添加剤を併用してもよい。添加剤の具体例としては、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルホウ酸テトラブチルアンモニウム及びテトラキスペンタフルオロフェニルホウ酸テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩や、塩化−tert−ブチル、2−メトキシ−2−フェニルプロパン、2−フェニル−2−プロパノール、1,4−ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン及び1,3,5−トリス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン等の、一般にケネディ触媒として知られている化合物、トリエチルアミン、ピリジン、トリフェニルホスフィン、ジエチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド及びN,N−ジメチルホルムアミド等の電子供与性化合物等が挙げられる。添加剤の使用量は、通常の範囲であれば特に限定されない。
【0038】
重合は溶媒存在下又は非存在下に行うことができる。重合に用いる溶媒に特に制限はなく、通常の溶媒を用いることができる。溶媒の具体例としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン及びテトラクロロエタン等の塩素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン及びo−ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、ニトロメタン及びニトロベンゼン等のニトロ系溶媒、ペンタン、ヘキサン、へプタン、シクロヘキサン及びデカヒドロナフタレン等の脂肪族系溶媒が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
これらの溶媒の内、生成する重合体の溶解性の観点から、塩素系溶媒及び芳香族系溶媒が好ましく、特に好ましくは塩化メチレン又はトルエンである。
【0040】
溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、単量体の総量の仕込み濃度が1〜50重量%となるよう調整されることが望ましい。
【0041】
重合温度は、−150℃から100℃の間で行うことが好ましい。好ましくは−100℃から80℃、更に好ましくは、−80℃から60℃である。
【0042】
重合時間は、用いる触媒や反応温度にもよるが、通常0.1〜24時間である。
【0043】
本発明の脂環式炭化水素共重合体の分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)で、通常3000〜500000、好ましくは5000〜300000である。分子量が3000より小さい場合、成膜性や膜の機械強度が不十分となり、500000より大きい場合、溶融粘度が高くなり、成形が困難になる場合がある。また、分子量分布(Mw/Mn)は10以下、好ましくは5以下である。分子量分布が大きすぎると、低分子量成分の割合が大きくなり、成膜性や膜の機械強度が不十分となる場合がある。分子量は、上記のようにカチオン重合触媒と単量体の仕込み比や、分子量を制御する添加剤の有無、反応温度等の条件を適宜選択することで調整することができる。
【0044】
水素添加反応は、通常の方法、即ち、カチオン重合体の溶媒溶液に水素添加触媒を加え、これに常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを0から200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることにより行われる。水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用できる。この水素添加触媒としては、不均一系触媒及び均一系触媒が挙げられる。
【0045】
不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム等の貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニア等の担体に担持させた固体触媒が挙げられる。
【0046】
均一系触媒としては、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム等の遷移金属触媒が挙げられる。
【0047】
水素添加触媒の使用量は、通常、カチオン重合で得られた重合体に対して0.0001〜100重量%である。
【0048】
水素添加反応に用いる溶媒は、特に制限はなく、カチオン重合に使用できる溶媒をそのまま用いることができる。溶解性の観点から、塩素系溶媒及び芳香族系溶媒が好ましく、特に好ましくは塩化メチレン又はトルエンである。
溶媒の使用量に特に制限はないが、カチオン重合で得られた重合体の仕込み濃度が1〜50重量%となるよう調整されることが望ましい。
【0049】
水素添加反応は、カチオン重合で得られた重合体を単離した後に適切な溶媒に再溶解させて行ってもよいし、カチオン重合で得られた反応溶液に直接水素添加触媒を加えて続けて行ってもよい。操作が簡便である点で、後者が好ましい。
【0050】
水素添加により得られる水素添加重合体は、優れた熱安定性を有するものとなり、成型加工時や製品としての使用時の加熱によっても、その特性が劣化することはない。水素添加率は、重合体の不飽和結合のモル数に対して通常70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。水素添加率は、1H−NMRスペクトルによるオレフィン性のプロトン由来の積分値より求めることができる。
【0051】
このようにして得られた水素添加重合体は、反応溶液を貧溶媒と混合し沈殿させることで固体として単離できる。
【0052】
貧溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、エチレングリコール等の極性溶媒が挙げられる。これらの貧溶媒は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよいが、触媒残渣等の不純物を効率よく除去できる点で、2種類以上を併用することが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に規定しない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0054】
[測定方法]
重合体のガラス転移温度は、示差熱走査熱量計(パーキンエルマー製 DSC−7)を使用して、毎分10℃の昇温速度で70から250℃まで昇温したときの変曲点から求めた。
重合体中の、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位の比及び水素添加率は、1H−NMR(日本電子製 lambda400)を使用して、それぞれの構造単位に由来するプロトンの積分比から算出した。
重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所製 RID−6A)を使用して、標準ポリスチレン換算の値として求めた。カラムはShodexGPC AD802−S、AD803−S、AD804−S及びAD805−S(東ソー製)を用いた。溶離液にはトルエンを用い、カラム温度40℃、流速1.0mL/分の条件下、検出器にはRIを用いた。
成型体の光線透過率(%)は、分光光度計(日本分光社製 V−570)を用いて、波長830nm及び光路長2mmで測定した。
また、吸水率(%)は、成型体を25℃の水中に24時間浸漬した後の重量増加から求めた。
【0055】
[製造例1]<二環式共役ジエン単量体の製造>
二環式共役ジエン単量体であるビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエン及びビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエンをテトラへドロンレターズ1980,Vol.21,637−640を参考にして次のように合成した。窒素で置換したフラスコ内にビシクロ[4,3,0]−3,7−ノナジエン100部、二塩化チタノセン0.8部及び水素化リチウムアルミニウム0.5部を仕込んだ。攪拌しながらゆっくりと昇温させ、165℃で6時間反応させた。反応終了後、665Pa(5mmHg)でフラッシュ蒸留し、単黄色透明の液体80部を得た。得られた液体を532Pa(4mmHg)、オイルバス温度80℃の条件で精密蒸留を行い、無色透明の液体50部を得た。この液体は、1H−NMR測定により、ビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエンとビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエンのモル比88:12の混合物であった。
【0056】
[実施例1]
窒素で置換したフラスコ内にトルエン60部、上記製造例1で得られたビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエンとビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエンのモル比88:12の混合物10部、5−エチリデンノルボルネン10部を仕込んだ。攪拌しながら0℃まで冷却した後、二塩化エチルアルミニウムの17%ヘキサン溶液0.6部を加え、0℃で3時間攪拌して、共重合体溶液を得た。
【0057】
得られた共重合体溶液80部をオートクレーブに入れ、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.1部を加え、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度150℃の条件で4時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。得られた水素添加重合体溶液を冷却後、400部のメタノール中に注ぎ、生じた白色沈殿を濾別、乾燥させて脂環式炭化水素共重合体14部を得た。
【0058】
得られた脂環式炭化水素共重合体のDSC測定によるガラス転移温度は186℃であった。1H−NMRスペクトルによる解析の結果、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位の比は62:38であった。オレフィン性のプロトンは認められなかったことから、水素添加率は実質100%であった。GPC測定による数平均分子量(Mn)は24800、重量平均分子量(Mw)は54000、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。
【0059】
この脂環式炭化水素共重合体を230℃で圧縮成形し、4cm角、厚さ2mmの試験片を作成した。成形した試験片は強靭で、無色透明であり、830nmにおける光透過率は、90%であった。25℃の水中に24時間浸漬した後の吸水率は0.01%以下であった。
【0060】
[実施例2]
ビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエンとビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエンのモル比88:12の混合物の部数を13部に、5−エチリデンノルボルネンの部数を7部に代える以外は実施例1と同様にして、脂環式炭化水素共重合体15部を得た。
【0061】
得られた脂環式炭化水素共重合体のDSC測定によるガラス転移温度は195℃であった。1H−NMRスペクトルによる解析の結果、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位の比は74:26であった。オレフィン性のプロトンは認められなかったことから、水素添加率は実質100%であった。GPC測定による数平均分子量(Mn)は26600、重量平均分子量(Mw)は62000、分子量分布(Mw/Mn)は2.3であった。
【0062】
この脂環式炭化水素共重合体を用いて、実施例1と同様にして厚さ2mmの試験片を作成した。830nmにおける光透過率は、89%であった。25℃の水中に24時間浸漬した後の吸水率は0.01%以下であった。
【0063】
[実施例3]
ビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエンとビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエンのモル比88:12の混合物の部数を7部に、5−エチリデンノルボルネンの部数を13部に代える以外は実施例1と同様にして、脂環式炭化水素共重合体13部を得た。
【0064】
得られた脂環式炭化水素共重合体のDSC測定によるガラス転移温度は178℃であった。1H−NMRスペクトルによる解析の結果、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位の比は44:56であった。オレフィン性のプロトンは認められなかったことから、水素添加率は実質100%であった。GPC測定による数平均分子量(Mn)は23000、重量平均分子量(Mw)は58200、分子量分布(Mw/Mn)は2.6であった。
【0065】
この脂環式炭化水素共重合体を用いて、実施例1と同様にして厚さ2mmの試験片を作成した。830nmにおける光透過率は、91%であった。25℃の水中に24時間浸漬した後の吸水率は0.01%以下であった。
【0066】
[実施例4]
ビシクロ[4,3,0]−2,9−ノナジエンとビシクロ[4,3,0]−1,8−ノナジエンのモル比88:12の混合物の部数を9部に、5−エチリデンノルボルネン10部を5−エチリデンノルボルネン9部及びイソブテン2部に代える以外は実施例1と同様にして、脂環式炭化水素共重合体13部を得た。
【0067】
得られた脂環式炭化水素共重合体のDSC測定によるガラス転移温度は172℃であった。1H−NMRスペクトルによる解析の結果、一般式(1)で表される構造単位、一般式(2)で表される構造単位及びイソブテン由来の構造単位の比は56:36:8であった。オレフィン性のプロトンは認められなかったことから、水素添加率は実質100%であった。GPC測定による数平均分子量(Mn)は19200、重量平均分子量(Mw)は44400、分子量分布(Mw/Mn)は2.3であった。
【0068】
この脂環式炭化水素共重合体を用いて、実施例1と同様にして厚さ2mmの試験片を作成した。830nmにおける光透過率は、90%であった。25℃の水中に24時間浸漬した後の吸水率は0.01%以下であった。
【0069】
[比較例1]
市販のノルボルネン重合体[日本ゼオン(株)製、ガラス転移温度138℃]を用いて、実施例1と同様にして厚さ2mmの試験片を作成した。830nmにおける光透過率は、90%であった。25℃の水中に24時間浸漬した後の吸水率は0.01%以下であった。
【0070】
[比較例2]
市販の極性ノルボルネン重合体[JSR(株)製、ガラス転移温度164℃]を用いて、実施例1と同様にして厚さ2mmの試験片を作成した。830nmにおける光透過率は、90%であった。25℃の水中に24時間浸漬した後の吸水率は0.4%であった。
【0071】
実施例1〜4で得られた脂環式炭化水素共重合体は高い透明性を有し、比較例1のノルボルネン重合体よりも大幅に高いガラス転移温度を示し、優れた耐熱性を有することがわかる。また、実施例1〜4で得られた重合体は、比較例2のノルボルネン重合体よりも大幅に吸湿性が低く、従来になく優れた特性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の脂環式炭化水素重合体は、低吸湿性や透明性等の物性を損なうこと無く高い耐熱性を有するため、光学材料として有用である。特に、高い耐熱性と寸法安定性が求められる車載用カメラレンズ、次世代高密度光ディスク用ピックアップレンズ及びプロジェクタレンズ等の精密光学部品用高分子材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位を含む脂環式炭化水素共重合体。
【化1】

[式中、m及びnは、それぞれ独立に1又は2である。]
【化2】

[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表される構造単位が、前記一般式(1)におけるmが1でnが2である構造単位及び/又はmが2でnが1である構造単位からなる請求項1記載の脂環式炭化水素共重合体。
【請求項3】
前記一般式(1)で表わされる構造単位と前記一般式(2)で表される構造単位の合計の含有割合が、全構造単位の60モル%以上である請求項1又は2記載の脂環式炭化水素共重合体。

【公開番号】特開2011−57945(P2011−57945A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212300(P2009−212300)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】