説明

脂環族二価アルコールエステル

【課題】
耐熱性に優れた新規有用な脂環族二価アルコールエステルを提供する。
【解決手段】
一般式(1)


[式中、nは0又は1の整数を表す。]で表される脂環族二価アルコールエステル、具体的には1,2−シクロヘキサンジイルジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)など6化合物が例示できる。耐熱性に優れ、合成樹脂可塑剤、潤滑油基油、エラストマー添加剤等として新規有用な化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた脂環族二価アルコールエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への意識が高まるなか、塩化ビニル樹脂などの可塑剤として広く用いられてきたフタル酸エステルは、環境ホルモンに似た作用があるとの疑いにより、その使用が敬遠される傾向にある。低毒性の可塑剤として脂環族ポリカルボン酸のエステルを合成樹脂の可塑剤として用いる発明が開示されている(特許文献1)。これらの脂環族ポリカルボン酸エステル類は、樹脂に低温での耐衝撃性及び柔軟性を与える点では優れるものの耐熱性(耐揮発性、酸化安定性)の点では未だ改善の余地があった。更に、可塑化塩化ビニル樹脂の代替として、可塑化ポリオレフィン系樹脂、可塑化ポリエステル系への応用が検討されているが、これらの樹脂は、塩化ビニル樹脂に比較して加工温度が高く、より耐熱性の高い可塑剤が求められている(特許文献2)。
【0003】
また、これらのエステル類を潤滑油などの用途に用いる場合にも、近年の機械類の高効率化、省エネルギー化、メンテナンスフリー化の影響により、これら機械類の摺動部品は長期間にわたり、高負荷、高速回転での使用されるため、その潤滑油には、耐熱性(耐揮発性、酸化安定性、粘度安定性)が強く求められているが、環境毒性や粘度特性等の要求も含めて全てを満足するようなエステル化合物は知られていなかった。
【0004】
【特許文献1】特表2003−503526号公報
【特許文献2】特開平7−11074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規有用な、耐熱性に優れた脂環族二価アルコールエステルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討の結果、特定の構造を有する脂環族二価アルコールエステルが、文献未記載の化合物であり、耐熱性(耐揮発性、酸化安定性)に優れ、潤滑油基油、合成樹脂可塑剤、エラストマー添加剤として有用なことを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、一般式(1)で表される脂環族二価アルコールエステルを提供することである。
【0008】
【化1】

[式中、nは、0又は1の整数を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂環族二価アルコールエステルは、耐熱性に優れ、合成樹脂可塑剤、潤滑油基油、エラストマー添加剤等として新規有用な化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
脂環族二価アルコールエステル
本発明の脂環族二価アルコールは、一般式(1)で表され、具体的には、1,2−シクロヘキサンジイル ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)、1,3−シクロヘキサンジイル ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)、1,4−シクロヘキサンジイル ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)、1,2−シクロヘキシレンジメチレン ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)、1,3−シクロヘキシレンジメチレン ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)、1,4−シクロヘキシレンジメチレン ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)が例示される。
【0011】
脂環族二価アルコールエステルの製造方法
本発明の脂環族二価アルコールエステルとしては、例えば、酸成分である3,5,5−トリメチルヘキサン酸と、二価アルコール成分であるシクロヘキサンジオール又は、シクロヘキサンジメタノールとを、エステル化することによって調製される。製造方法には、特に制限がなく、従来公知のエステルの製造方法を用いることができ、例えば、酸成分である3,5,5−トリメチルヘキサン酸と、シクロヘキサンジオール又はシクロヘキサンジメタノールとを好ましくは、窒素等の不活性ガス雰囲気下、触媒の存在下或いは無触媒で、加熱脱水することにより得ることができる。
【0012】
上記酸成分及び二価アルコール成分は、何れも従来公知のものであり、入手容易な化合物である。
【0013】
エステル化の際、3,5,5−トリメチルヘキサン酸は、例えば、化学当量として、二価アルコール成分1モルに対し2.01〜2.10モル、好ましくは二価アルコール成分1モルに対し2.01〜2.05モル用いられる。
【0014】
エステル化触媒としては、ルイス酸類、アルカリ金属類、スルホン酸類等が例示され、具体的にルイス酸類としては、アルミニウム誘導体、錫誘導体、チタン誘導体が例示され、アルカリ金属類としては、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等が例示され、更にスルホン酸類としてはパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等が例示される。その使用量は、例えば原料である酸成分及びアルコール成分の総重量に対して0.1〜1.0重量%程度用いられる。
【0015】
エステル化反応は、通常120〜250℃、好ましくは140〜230℃の反応温度で、不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。反応時間としては、通常3〜30時間である。必要に応じて、生成してくる水をベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の水同伴剤を用いて系外に共沸留去させてもよい。
【0016】
エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下又は常圧下にて留去する。引き続き慣用の精製方法、例えば、中和、水洗、液液抽出、減圧蒸留、活性炭等の吸着剤精製により本エステルを精製することができる。
【0017】
また、本発明の脂環族二価アルコールエステルの製造においては、3,5,5−トリメチルヘキサン酸に代えて、3,5,5−トリメチルヘキサン酸メチル、3,5,5−トリメチルヘキサン酸エチル等の炭素数1〜4の低級アルキルエステルを用いることも可能である。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を掲げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1
撹拌器、温度計及び冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに3,5,5−トリメチルヘキサン酸483.5g(3.06モル)、1,4−シクロヘキサンジメタノール216g(1.5モル)、キシレン(酸及び二価アルコールの総量に対し5重量%)及び触媒として酸化スズ(酸及びアルコールの総量に対し0.2重量%)を仕込み、窒素雰囲気下、徐々に220℃まで昇温した。理論生成水量(72g)を目安にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながら減圧下でエステル化反応を約8時間行った。反応終了後、過剰の酸を蒸留で除去した。次いで、反応終了後の全酸価に対して過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗してエステル化反応粗物を得た。さらに得られたエステル化反応粗物は活性炭で処理後、濾過をして、1,4−シクロヘキシレンジメチレン ジ(3,5,5,−トリメチルヘキサノエート)568gを得た。本化合物の構造は、プロトン核磁気共鳴スペクトル、IRスペクトル及び元素分析により決定した。
【0020】
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図1に、IRスペクトルを図2に示した。
【0021】
また、本化合物の元素分析値は、以下のとおりであった。
測定値(%) 理論値(%)
炭素 73.49 73.54
水素 11.37 11.39
酸素 15.14 15.07
【0022】
実施例2
1,4−シクロヘキサンジメタノールに代えて1,3−シクロヘキサンジメタノール216g(1.5モル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、1,3−シクロヘキシレンジメチレン ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)559gを得た。本化合物の構造は、プロトン核磁気共鳴スペクトル、IRスペクトル及び元素分析により決定した。
【0023】
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図3に、IRスペクトルを図4に示した。
【0024】
本化合物の元素分析値は、以下のとおりであった。
測定値(%) 理論値(%)
炭素 73.46 73.54
水素 11.44 11.39
酸素 15.10 15.07
【0025】
実施例3
1,4−シクロヘキサンジメタノールに代えて1,2−シクロヘキサンジオール174g(1.5モル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、1,2−シクロヘキサンジイル ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)514gを得た。本化合物の構造は、プロトン核磁気共鳴スペクトル、IRスペクトル及び元素分析により決定した。
【0026】
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図3に、IRスペクトルを図4に示した。
【0027】
本化合物の元素分析値は、以下のとおりであった。
測定値(%) 理論値(%)
炭素 72.62 72.68
水素 11.21 11.18
酸素 16.17 16.14
【0028】
実施例4
1,4−シクロヘキサンジメタノールに代えて1,3−シクロヘキサンジオール174g(1.5モル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、1,3−シクロヘキサンジイル ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)511gを得た。本化合物の構造は、プロトン核磁気共鳴スペクトル、IRスペクトル及び元素分析により決定した。
【0029】
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図3に、IRスペクトルを図4に示した。
【0030】
本化合物の元素分析値は、以下のとおりであった。
測定値(%) 理論値(%)
炭素 72.62 72.68
水素 11.21 11.18
酸素 16.17 16.14
【0031】
実施例5
1,4−シクロヘキサンジメタノールに代えて1,4−シクロヘキサンジオール174g(1.5モル)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、1,4−シクロヘキサンジイル ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノエート)526gを得た。本化合物の構造は、プロトン核磁気共鳴スペクトル、IRスペクトル及び元素分析により決定した。
【0032】
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図3に、IRスペクトルを図4に示した。
【0033】
本化合物の元素分析値は、以下のとおりであった。
測定値(%) 理論値(%)
炭素 72.59 72.68
水素 11.24 11.18
酸素 16.27 16.14
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の脂環族二価アルコールエステルは、耐熱性に優れ、潤滑油基油、合成樹脂用可塑剤、エラストマー添加剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1のNMRスペクトルである。
【図2】実施例1のIRスペクトルである。
【図3】実施例2のNMRスペクトルである。
【図4】実施例2のIRスペクトルである。
【図5】実施例3のNMRスペクトルである。
【図6】実施例3のIRスペクトルである。
【図7】実施例4のNMRスペクトルである。
【図8】実施例4のIRスペクトルである。
【図9】実施例5のNMRスペクトルである。
【図10】実施例5のIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、nは0又は1の整数を表す。]
で表される脂環族二価アルコールエステル。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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