説明

脂肪族ジケトンの製造方法

【課題】容易かつ経済的に脂肪族ジケトンを得ることができる脂肪族ジケトンの製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪族ジヨウ化物と、ケトン類とを、無機アルカリ化合物の存在下にて反応して、脂肪族ジケトンを製造する。脂肪族ジケトンは、一般式がI(CHIであり、nは4以上12以下の整数である。無機アルカリ化合物は、一般式がMAであり、Mはアルカリ金属であり、Aは水素、アミノ、アルコキシ、ヒドロキシおよび炭酸基のいずれかである。また、ケトン類として一般式CH3COCH2COORであり、Rは炭素数1から4の脂肪族アルキル基であるアセト酢酸エステルを用い、反応後に、脱炭酸反応を行うことにより、容易かつ経済的であり、さらに高収率で脂肪族ジケトンを製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ジケトンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、脂肪族ジケトンは、種々の医薬品や化学品の合成原料として有用であり、特に、2,15−ヘキサデカンジオンは、天然麝香の香気成分である香料ムスコンの製造中間原料として極めて有用な物質である。
【0003】
従来、この種の脂肪族ジケトンの製造方法としては、ケト酸の塩をコルベ反応にしたがい電気分解する方法(例えば、特許文献1参照。)、ブタジエンを出発原料とする方法(例えば、非特許文献1参照。)、ジカルボン酸クロライドをハロゲン化メチル亜鉛またはグリニヤール試薬を用いてメチル化する方法(例えば、特許文献2および3参照。)、1,9−デカジエンにアセトンを付加させる方法(例えば、特許文献4参照。)、1,9−デカジエンにアセト酢酸エステルを付加させた後、脱炭酸を行う方法(例えば、特許文献5参照。)、1,10−ジブロモデカンとアセト酢酸エステルとを反応させた後、脱炭酸を行う方法(例えば、非特許文献2、特許文献6および7参照。)等が知られている。
【特許文献1】特公昭37−16708号公報
【特許文献2】特開昭59−104339号公報(第1−3頁)
【特許文献3】特開昭59−199650号公報(第2−4頁)
【特許文献4】特表2002−519396号公報(第6−13頁、図1,図2)
【特許文献5】特開2001−328963号公報(第3−5頁)
【特許文献6】中国特許出願公開第1059709A号公報
【特許文献7】特開平6−192161号公報(第2−4頁)
【非特許文献1】ジロー・ツジ(Jiro・Tsuji),外2名,ブリテン・オブ・ザ・ケミカル・ソサエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of the Chemical Society of Japan),社団法人日本化学会,1978年、第51巻,第2号,p547−549
【非特許文献2】ヘルベチカ・キミカ・アクタ(Helvetica Chimica Acta),1947年,第30巻,第7号,2019−2023頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した種々の脂肪族ジケトンの製造方法では、製造工程が多いことや製造工程に危険性が伴うことにより容易に製造できない問題や、高価な原料や触媒の使用によりコストが高騰し経済的ではない等の問題が考えられる。
【0005】
例えば上記特許文献1の方法の場合、原料のケト酸を得るためにレブリン酸とアジピン酸とのコルベ反応を必要とするので、危険なコルベ反応が2段となり容易に製造できない問題を有している。
【0006】
非特許文献1の方法では、5工程から9工程と工程数が多いので、煩雑であり容易に製造できない問題を有している。
【0007】
特許文献2および特許文献3の方法では、副原料として高価なヨウ化メチルまたはグリニヤール試薬が必要であるので、コストが高騰し経済的ではない問題を有している。
【0008】
特許文献4の方法では、原料として高価な1,9−デカジエンを使用するので、コストが高騰し経済的ではない問題を有している。
【0009】
特許文献5の方法では、原料として高価な1,9−デカジエンを使用するのでコストが高騰し経済的ではなく、また、触媒として危険な過酸化物を必要とするので容易に製造できない問題を有している。
【0010】
非特許文献2、特許文献6および特許文献7の方法では、触媒として高価な四級塩およびヨウ化カリウム等を使用するので、コストが高騰し経済的ではない問題を有している。
【0011】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、容易かつ経済的に脂肪族ジケトンを得ることができる脂肪族ジケトンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載された脂肪族ジケトンの製造方法は、脂肪族ジヨウ化物と、ケトン類とを、無機アルカリ化合物の存在下にて反応させるものである。
【0013】
請求項2に記載された脂肪族ジケトンの製造方法は、請求項1記載の脂肪族ジケトンの製造方法において、ケトン類がアセトンまたはアセト酢酸エステルであるものである。
【0014】
請求項3に記載された脂肪族ジケトンの製造方法は、請求項1または2記載の脂肪族ジケトンの製造方法において、脂肪族ジヨウ化物は、一般式I(CHIで示され、前記nは4以上12以下の整数であり、ケトン類は、アセトンであり、無機アルカリ化合物は、一般式MAで示され、前記Mはアルカリ金属であり、前記Aは水素、アミノ、アルコキシ、ヒドロキシおよび炭酸基のいずれかであって、脂肪族ジヨウ化物とアセトンとを無機アルカリ化合物の存在下にて下記反応式(1)にしたがって反応させるものである。
【0015】
反応式(1):I(CHI+2CHCOCH+2MA→CHCO(CHn+2COCH+2MI+2HA
【0016】
請求項4に記載された脂肪族ジケトンの製造方法は、請求項1または2記載の脂肪族ジケトンの製造方法において、脂肪族ジヨウ化物は、一般式I(CHIで示され、前記nは4以上12以下の整数であり、ケトン類は、一般式CH3COCH2COORで示され、前記Rは炭素数1から4の脂肪族アルキル基であるアセト酢酸エステルであり、無機アルカリ化合物は、一般式MAで示され、前記Mはアルカリ金属であり、前記Aは水素、アミノ、アルコキシ、ヒドロキシおよび炭酸基のいずれかであって、脂肪族ジヨウ化物とアセト酢酸エステルとを無機アルカリ化合物の存在下にて下記化3に示す反応式(2)にしたがって反応させた後、下記化4に示す反応式(3)にしたがって脱炭酸反応を行うものである。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
請求項5に記載された脂肪族ジケトンの製造方法は、請求項3または4記載の脂肪族ジケトンの製造方法において、反応式(1)または反応式(2)の反応で副生するヨウ素の無機アルカリ塩と、一般式X(CHXで示され、前記Xは塩素または臭素であり、前記nは4以上12以下の整数である脂肪族ジハライドとを反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成し、この脂肪族ジヨウ化物を反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用するものである。
【0020】
請求項6に記載された脂肪族ジケトンの製造方法は、請求項3または4記載の脂肪族ジケトンの製造方法において、反応式(1)または反応式(2)の反応で副生するヨウ素の無機アルカリ塩から回収したヨウ化水素酸と、一般式HO(CHOHで示され、前記nは4以上12以下の整数である脂肪族グリコールとを反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成し、この脂肪族ジヨウ化物を反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用するものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載された発明によれば、脂肪族ジヨウ化物と、ケトン類とを無機アルカリ化合物の存在下にて反応させることにより、容易かつ経済的に脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0022】
請求項2に記載された発明によれば、ケトン類がアセトンまたはアセト酢酸エステルであるので、容易かつ効果的に脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0023】
請求項3に記載された発明によれば、脂肪族ジヨウ化物とアセトンとを反応式(1)にしたがって反応させることにより、容易かつ経済的に脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0024】
請求項4に記載された発明によれば、脂肪族ジヨウ化物とアセト酢酸エステルとを反応式(2)にしたがって反応させた後、反応式(3)にしたがって脱炭酸反応を行うことにより、容易かつ経済的であり、さらに高収率で脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0025】
請求項5に記載された発明によれば、反応式(1)または反応式(2)で副生するヨウ素の無機アルカリ塩と、一般式X(CHXで示される脂肪族ジハライドとを反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成し、この脂肪族ジヨウ化物を反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用することにより、容易かつ経済的であり、さらに高収率で脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0026】
請求項6に記載された発明によれば、反応式(1)または反応式(2)で副生するヨウ素の無機アルカリ塩から回収したヨウ化水素酸と、一般式HO(CHOHで示される脂肪族グリコールとを反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成し、この脂肪族ジヨウ化物を反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用することにより、容易かつ経済的であり、さらに高収率で脂肪族ジケトンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る脂肪族ジケトンの製造方法の第1の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
脂肪族ジケトンの製造方法は、脂肪族ジヨウ化物とケトン類とを無機アルカリ化合物の存在下にて反応させるものである。また、この反応で副生するヨウ素の無機アルカリ塩をそのまま回収またはヨウ化水素酸として回収し、ヨウ素の無機アルカリ塩と一般式がX(CHXで示される脂肪族ジハライドとを反応させるか、または、ヨウ化水素酸と一般式がHO(CHOHで示される脂肪族グリコールとを反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成し、この脂肪族ジヨウ化物を無機アルカリ化合物の存在下でのケトン類との反応に循環利用するものである。
【0029】
使用される脂肪族ジヨウ化物は、一般式I(CHIで示される。なお、一般式I(CHI中のnは4以上12以下の整数である。具体的にこの脂肪族ジヨウ化物としては、1,10−ジヨードデカン、1,4−ジヨードブタン、1,6−ジヨードヘキサン、1,12−ジヨードドデカン、1,8−ジヨードオクタン等がある。
【0030】
使用されるケトン類としては、アセトンまたはアセト酢酸エステルが好ましく、アセト酢酸エステルは副反応が少ないので特に好ましい。このアセト酢酸エステルは、一般式CH3COCH2COORで示される。なお、一般式CH3COCH2COOR中のRは炭素数1から4の脂肪族アルキル基である。
【0031】
使用される無機アルカリ化合物は、一般式MAで示される。なお、一般式MAのMはアルカリ金属であり、Aは水素、アミノ、アルコキシ、ヒドロキシおよび炭酸基のいずれかである。具体的に無機アルカリ化合物としては、水素化ナトリウム、水素化カリウム、ナトリウムアミド、カリウムアミド、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等がある。
【0032】
そして、脂肪族ジケトンとケトン類とを下記反応式(1)または下記化5に示す反応式(2)にしたがって反応させる。
【0033】
反応式(1):I(CHI+2CHCOCH+2MA→CHCO(CHn+2COCH+2MI+2HA
【0034】
なお、反応式(1)は、ケトン類としてアセトンを使用した場合を示す。
【0035】
【化5】

【0036】
なお、反応式(2)は、ケトン類としてアセト酢酸エステルを使用した場合を示す。
【0037】
反応式(1)および反応式(2)の反応では、反応系の攪拌を円滑にするために、通常、有機溶媒が使用される。使用有機溶媒として、一方の原料であるケトン類を過剰に用いることもできる。原料ケトン類以外の有機溶媒としては、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、ケトン類、アミド類等から適宜選択でき、具体的には、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド等が用いられる。
【0038】
脂肪族ジヨウ化物とケトン類および無機アルカリ化合物との仕込みモル比は、脂肪族ジヨウ化物1モルに対するケトン類および無機アルカリ化合物のモル比が理論量で2モル以上20モル以下の範囲であり、好ましくは、2.5モル以上10モル以下の範囲である。
【0039】
有機溶媒の使用量は、少ないと原料の無機アルカリ化合物が攪拌されにくく、多いとコストが高騰し経済的ではないので、無機アルカリ化合物1モルに対して100ml以上3000ml以下の範囲が好ましく、より好ましくは、200ml以上2000ml以下の範囲である。
【0040】
脂肪族ジヨウ化物とケトン類とを無機アルカリ化合物の存在下で反応させる際の反応温度は、低いと反応が遅くなるので30℃以上が好ましく、高いと副生物が多くなるので40℃以上100℃以下の範囲がより好ましい。また、反応時間は、原料の種類および反応温度に起因するが、通常は1時間から24時間である。
【0041】
反応式(1)および反応式(2)の反応での反応生成物は、そのままあるいは酸にて中和し、副生するヨウ素の無機アルカリ塩を濾過または水洗にて分離した後、蒸留により有機溶媒および過剰に用いた未反応のケトン類を回収する。
【0042】
ここで、反応式(1)の場合、すなわち、ケトン類としてアセトンを用いた場合には、引き続き蒸留またはカラムクロマトグラフィを行うことにより、目的とする脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0043】
そして、このような脂肪族ジケトンの製造方法によれば、危険性が伴う工程が不用であるとともに工程が多くなることがなく、また、特別高価な原料や溶媒が必要ないので、容易かつ経済的に脂肪族ジケトンを製造できる。
【0044】
また、反応式(2)の場合、すわなち、ケトン類としてアセト酢酸エステルを用いた場合には、下記化6に示す反応式(3)にしたがって、脱炭酸工程にて脱炭酸反応を行うことにより、目的とする脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0045】
【化6】

【0046】
次に、脱炭酸反応工程について説明する。
【0047】
脱炭酸工程では、反応式(2)の反応生成物から、反応にて副生するヨウ素の無機アルカリ塩、有機溶媒および過剰に用いた未反応のアセト酢酸エステルを分離した液体へ、公知の方法にしたがって無機アルカリ水溶液を添加してケン化反応を行った後、無機酸を添加して脱炭酸反応を行う。
【0048】
ケン化反応で使用する無機アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液である。この無機アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、5重量%以上20重量%以下の範囲であり、使用量は、最初の反応で使用する脂肪族ジヨウ化物1モルに対し、理論量で2モル以上とし、通常は2.5モル以上5モル以下の範囲である。
【0049】
ケン化反応の反応温度は、高いと副反応が生じやすいので、室温以上100℃以下の範囲が好ましい。また、ケン化反応の反応時間は、原料の種類および反応温度に起因するが、1時間から24時間である。
【0050】
ケン化反応後の脱炭酸反応で使用する無機酸は、無機強酸であればよく、通常は塩酸または硫酸が使用される。無機酸の使用量は、ケン化反応で使用した無機アルカリ水溶液に対して当量以上であり、通常は1当量以上2当量以下である。
【0051】
脱炭酸反応の反応温度は、通常、還流温度であり、反応時間は1時間から10時間である。
【0052】
そして、脱炭酸反応による反応生成物を冷却することにより、油状物または固形物として、目的とする脂肪族ジケトンの粗製品を得ることができ、さらに、蒸留または再結晶精製を行うことにより脂肪族ジケトンの精製品を得ることができる。
【0053】
そして、このように反応式(2)の反応後、反応式(3)にしたがって脱炭酸反応を行うことにより、脂肪族ジケトンの収率を向上でき、容易かつ経済的であり、さらに高収率で脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0054】
次に、反応式(1)または反応式(2)で副生するヨウ素の無機アルカリ塩による脂肪族ジヨウ化物の生成およびこの脂肪族ジヨウ化物の循環利用について説明する。
【0055】
反応式(1)または反応式(2)の反応で副生するヨウ素の無機アルカリ塩は、反応生成液からそのままあるいは中和後、濾過または水洗にて分離する。なお、この分離物は、ヨウ素の無機アルカリ塩以外に、反応で過剰に用いた無機アルカリ化合物またはその塩や水を含む。
【0056】
このヨウ素の無機アルカリ塩を含有する分離物は、そのまま乾燥または濃縮後に乾燥することにより無水の粉体または固体にする。
【0057】
次いで、ヨウ素の無機アルカリ塩を含有する分離物を、公知の方法にしたがいヨウ素の無機アルカリ塩の溶解度が大きくかつ他の無機アルカリ塩の溶解度が小さい有機溶媒の中で、一般式X(CHXで示される脂肪族ジハライドと反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成する。なお、一般式X(CHX中のXは塩素または臭素であり、nは4以上12以下の整数である。また、分離物と脂肪族ジハライドとの反応に用いられる有機溶媒としては、ヨウ素の無機アルカリ塩の溶解度が大きくかつ他の無機アルカリ塩の溶解度が小さいものであればよい。例えば、アルコール類、エーテル類、二トリル類、ケトン類、環状ケトン類、ヒドロキシエーテル類、エステル類、炭酸エステル類、ラクトン類、アミド類等から適宜選択でき、具体的には、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、炭酸ジメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド等が用いられる。
【0058】
ヨウ素以外のハロゲンの脂肪族ジハライドに対するヨウ素の無機アルカリ塩の仕込みモル比は、理論量で2以上である。
【0059】
有機溶媒の使用量は、少ないと原料であるヨウ素の無機アルカリ塩の溶解性が悪化し、多いとコストが高騰して経済的でないので、ヨウ素の無機アルカリ塩1モルに対して200ml以上2000ml以下の範囲が好ましい。
【0060】
反応温度は、低いと反応が遅くなってしまい、高いと副生物が多くなってしまうので、50℃以上130℃以下が好ましい。また、反応時間は、脂肪族ジハライドの種類および反応温度に起因するが、通常は1時間から10時間である。
【0061】
反応生成物は、析出するヨウ素以外のハロゲンの無機アルカリ塩を濾過した後、そのままあるいは蒸留精製して、最初の無機アルカリ化合物の存在下での脂肪族ジヨウ化物とケトン類との反応、すなわち、反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用される。
【0062】
そして、このように反応式(1)または反応式(2)で副生するヨウ素の無機アルカリ塩を含む分離物を脂肪族ジハライドと反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成し、この脂肪族ジヨウ化物を反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用することにより、ヨウ素をほとんど消費することがなく、脂肪族ジケトンの収率を向上でき、容易かつ経済的であり、さらに高収率で脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0063】
次に、反応式(1)または反応式(2)で副生するヨウ素の無機アルカリ塩から分離回収したヨウ化水素酸による脂肪族ジヨウ化物の生成およびこの脂肪族ジヨウ化物の循環利用について説明する。
【0064】
反応式(1)または反応式(2)の反応で副生するヨウ素の無機アルカリ塩を上記と同様に分離する。
【0065】
分離物を水に溶解して水溶液とし、この水溶液を公知の電気透析法、例えば、特開2005−58896号公報記載の電気透析方法により、ヨウ素の無機アルカリ塩を含有する水溶液からヨウ化水素酸が分離回収される。すなわち、陽極と陰極との間に陽イオン交換膜および陰イオン交換膜が交互に配置された透析装置を用い、陽極と陰極との間に電圧を印加することにより、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とによって陽イオンおよび陰イオンの移動を規制し、水溶液の濃縮および脱塩を行って、水溶液からヨウ化水素酸を分離回収する。
【0066】
このように電気透析法にて分離回収されたヨウ化水素酸の粗製品を、そのまま、濃縮後または蒸留にて高濃度化後、一般式HO(CHOHで示される脂肪族グリコールと反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成する。なお、一般式HO(CHOH中のnは4以上12以下の整数である。
【0067】
ヨウ化水素酸と一般式HO(CHOHで示される脂肪族グリコールとの反応は、公知の方法、例えば、ジャーナル・オブ・ザ・ケミカル・ソサイエティ(Journal of the Chemical Society),1952年,p144に記載の方法にて行う。すなわち、ヨウ化水素酸を含有する液体へ脂肪族グリコールを加え、水を留去しながらヨウ化水素酸と脂肪族グリコールとを反応させる。
【0068】
ヨウ化水素酸と一般式HO(CHOHで示される脂肪族グリコールとの反応による反応生成物を冷却することにより、脂肪族ジヨウ化物が油状または固形物として分離するので、この脂肪族ジヨウ化物をそのままあるいは蒸留精製して、反応式(1)または反応式(2)の反応へ循環利用される。
【0069】
そして、このように反応式(1)または反応式(2)で副生するヨウ素の無機アルカリ塩から電気透析法によってヨウ化水素酸を分離回収し、ヨウ化水素酸を脂肪族グリコールと反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成して、この脂肪族ジヨウ化物を反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用することにより、脂肪族ジケトンの収率を向上でき、容易かつ経済的であり、さらに高収率で脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0070】
なお、上記の各製造方法は、回分法や連続法にも適宜対応できる。
【0071】
以下、本発明の脂肪族ジケトンの製造方法の実施例および比較例を説明する。
【0072】
[実施例1]
攪拌機、温度計、還流冷却器を付した100ml三つ口フラスコに、脂肪族ジヨウ化物である1,10−ジヨードデカン15.8g(0.04モル)と、ケトン類であるアセトン23.2g(0.4モル)を秤取し、40℃攪拌下で、無機アルカリ化合物である水酸化カリウム7.04g(0.12モル)を添加して、その後10時間反応させた。
【0073】
この反応の終了後、反応生成液の組成をガスクロマトグラフにて分析した結果、1,10−ジヨードデカンの濃度が0.65重量%、13−ヨード−2−トリデカノンの濃度が1.1%、2,15−ヘキサデカンジオンの濃度が9.5%であった。したがって、1,10−ジヨードデカンの転化率は98%で、選択率は13−ヨード−2−トリデカノンが4.0%、2,15−ヘキサデカンジオンが44%となり、仕込みの1,10−ジヨードデカンに対する13−ヨード−2−デカノンの収率は3.9%であり、2,15−ヘキサデカンジオンの収率は43%であった。
【0074】
[実施例2]
攪拌機、滴下ロート、温度計、還流冷却器を付した200ml四つ口フラスコに、無機アルカリ化合物である50〜72%水素化ナトリウム6.4g(0.16モル)と、有機溶媒であるテトラヒドロフラン60mlとを秤取し、室温の攪拌下にてケトン類であるアセト酢酸エステルの一種のアセト酢酸エチル20.8g(0.16モル)を1時間かけて滴下した。次いで、温度を上げ、還流下にて1,10−ジヨードデカン15.8g(0.04モル)を3時間かけて滴下して、その後7時間反応させた。
【0075】
この反応が終了すると、室温まで冷却して5%塩酸50mlを添加し分液した。分液後、上層の有機相を飽和食塩水にて洗浄し、減圧蒸留により有機溶媒として用いたテトラヒドロフランおよび過剰に用いたアセト酢酸エチルを留去して、ジエチル−2,13−ビスアセチル−1,14−テトラデカンジオエート含有油状物を26.2g得た。
【0076】
この油状物の全量および10%水酸化ナトリウム水溶液64g(0.16モル)を、攪拌機、温度計、還流冷却器を付した200ml三つ口フラスコに加えて室温にて8時間攪拌してケン化反応を行った後、50%硫酸15.7g(0.08モル)を添加して3時間全還流して脱炭酸反応を行った。
【0077】
脱炭酸反応終了後、室温まで冷却し、固形物を濾過または水洗にて分離した。また、その分離物を乾燥させて微黄色の結晶12.5gを得た。得られた結晶の組成をガスクロマトグラフにて分析した結果、1,10−ジヨードデカンの濃度が0重量%であり、2,15−ヘキサデカンジオンの濃度が77.5重量%であった。したがって、1,10−ジヨードデカンの転化率は100%で、2,15−ヘキサデカンジオンの選択率は95.3%となり、仕込みの1,10−ジヨードデカンに対する2,15−ヘキサデカンジオンの収率は95.3%であった。
【0078】
[比較例1および比較例2]
比較例1は、原料の1,10−ジヨードデカンを1,10−ジクロライドに変更した以外は実施例2と同様であり、比較例2は、原料の1,10−ジヨードデカンを1,10−ジブロモデカンに変更した以外は実施例2と同様である。これらの条件および結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、比較例1および比較例2は、原料以外は同様の方法で反応させた実施例2に比べて脂肪族ジケトンの収率が悪化する。
【0081】
[実施例3ないし実施例8]
実施例3ないし実施例8は、本発明に係る条件内で原料の無機アルカリ化合物を変更するとともに、有機溶媒および反応時間を変えた以外は、実施例2と同様とし、各種無機アルカリ化合物について検討した。これらの条件および結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
表2に示すように、実施例3ないし実施例8は、実施例2と同様にいずれも脂肪族ジケトンの収率が良好である。
【0084】
[比較例3および比較例4]
比較例3および比較例4は、原料のアルカリ種を本発明に係る条件以外のアルカリ種に変更した以外は、実施例2と略同様である。これらの条件および結果を表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
表3に示すように、比較例3および比較例4は、脂肪族ジケトンの収率が著しく悪化する。
【0087】
[実施例9ないし実施例14]
実施例9ないし実施例14は、原料の無機アルカリ化合物を水酸化カリウムとし、各種有機溶媒を使用して、反応時間を3時間とした以外は、実施例2と同様とし、各種有機溶媒について検討した。これらの条件および結果を表4に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
表4に示すように、実施例9ないし実施例14は、実施例2と同様にいずれも脂肪族ジケトンの収率が良好である。
【0090】
[実施例15ないし実施例17]
原料の無機アルカリ化合物を水酸化カリウムとし、脂肪族ジヨウ化物として種々の化合物を使用した以外は、実施例2と同様である。これらの条件および結果を表5に示す。
【0091】
【表5】

【0092】
表5に示すように、実施例15ないし実施例17は、実施例2と同様にいずれも脂肪族ジケトンの収率が良好である。
【0093】
[実施例18]
攪拌機、滴下ロート、温度計、還流冷却器を付した1000mlの四つ口フラスコに50〜72%水素化ナトリウム32g(0.8モル)、テトラヒドロフラン300mlを秤取し、室温の攪拌下にてアセト酢酸エチル104g(0.8モル)を1時間かけて滴下した。次いで、温度を上げて還流下にて、脂肪族ジヨウ化物である1,8−ジヨードオクタン73.2g(0.2モル)を2時間かけて滴下し、その後8時間反応させた。
【0094】
この反応が終了すると、室温まで冷却して5%塩酸250mlを添加して分液する。分液後、上層の有機相を飽和食塩水にて洗浄し、減圧蒸留により有機溶媒として用いたテトラヒドロフランおよび過剰に用いたアセト酢酸エチルを留去して、ジエチル−2,11−ビスアセチル−1,12−ドデカンジオエート含有油状物を124g得た。
【0095】
この油状物の全量および10%水酸化ナトリウム水溶液320g(0.8モル)を、攪拌機、温度計、還流冷却器を付した1000ml三つ口フラスコに加え、室温にて8時間攪拌してケン化反応を行った後、50%硫酸78.4g(0.4モル)を添加して3時間全還流して脱炭酸反応を行った。
【0096】
脱炭酸反応終了後、室温まで冷却し、固形物を濾過または水洗にて分離した。また、その分離物を乾燥させて微黄色の結晶55.2gを得た。得られた結晶の組成をガスクロマトグラフにて分析した結果、1,8−ジヨードオクタンの濃度が0重量%であり、2,13−テトラデカンジオンの濃度が78.4重量%であった。したがって、1,8−ジヨードオクタンの転化率は100%で、2,13−テトラデカンジオンの選択率は95.5%となり、仕込みの1,8−ジヨードオクタンに対する2,13−テトラデカンジオンの収率は95.5%であった。
【0097】
また、上記の水素化ナトリウムの存在下での1,8−ジヨードオクタンとアセト酢酸エチルとの反応後、中和および分離により得られた副生ヨウ化ナトリウム含有水溶液の全量を500mlナス型フラスコに加え、減圧蒸発により水を完全に除去した。
【0098】
次いで、脂肪族ジハライドである1,8−ジブロモオクタン51.7g(0.19モル)およびアセトン250mlを加え、全還流下で4時間攪拌して反応させた。反応終了後、冷却し、析出する無機塩を濾過して少量のアセトンで洗浄した。また、ろ液と洗液を合わせると315gであった。この液組成をガスクロマトグラフにて分析したところ、1−ブロモ,8−ヨードオクタンの濃度が0.38重量%で、1,8−ジヨードオクタンの濃度は21.6重量%であった。したがって、1,8−ジブロモオクタンの転化率は100%で、選択率は、1−ブロモ,8−ヨードオクタンが2%で、1,8−ジヨードオクタンは98%となり、仕込みの1,8−ジブロモオクタンに対する1−ブロモ,8−ヨードオクタンの収率は2%で、1,8−ジヨードオクタンの収率は98%であった。
【0099】
なお、この1−ブロモ,8−ヨードオクタンおよび1,8−ジヨードオクタン含有のアセトン溶液は、濃縮後または濃縮蒸留後、最初の水素化ナトリウム存在下での1,8−ジヨードオクタンとアセト酢酸エチルとの反応に循環利用可能であり、循環利用することによって、より経済的に脂肪族ジケトンを製造できる。
【0100】
[実施例19]
攪拌機、温度計、還流冷却器を付した2000mlの四つ口フラスコに1,10−ジヨードデカン197g(0.5モル)、アセト酢酸エチル520g(4モル)、エタノール1000mlおよび炭酸カリウム89.8g(0.65モル)を秤取し、全還流下にて4時間反応させた。
【0101】
この反応が終了すると、溶媒として使用したエタノールを留去し、室温まで冷却して5%硫酸700mlを添加して分液する。分液後、上層の有機相の減圧蒸留により過剰に用いたアセト酢酸エチルを留去し、ジエチル−2,13−ビスアセチル−1,14−テトラデカンジオエート含有油状物を237g得た。
【0102】
この油状物の全量および10%水酸化ナトリウム水溶液800g(2モル)を、攪拌機、温度計、還流冷却器を付した2000ml三つ口フラスコに加え、室温にて5時間攪拌してケン化反応を行った後、50%硫酸206g(1.05モル)を添加して3時間全還流して脱炭酸反応を行った。
【0103】
脱炭酸反応終了後、室温まで冷却し、固形物を濾過または水洗にて分離した。また、その分離物を乾燥させて微黄色の結晶129.6gを得た。得られた結晶の組成をガスクロマトグラフにて分析した結果、1,10−ジヨードデカンの濃度が0重量%であり、2,15−ヘキサデカンジオンの濃度が91.3重量%であった。したがって、1,10−ジヨードデカンの転化率は100%で、2,15−ヘキサデカンジオン選択率は93.2%となり、仕込みの1,10−ジヨードデカンに対する2,15−ヘキサデカンジオンの収率は93.2%であった。
【0104】
また、上記の炭酸カリウム存在下での1,10−ジヨードデカンとアセト酢酸エチルとの反応後、酸の添加および分液により得られた副生ヨウ化カリウム含有水溶液へ水を加え、全量を1500gとした。この水溶液全量を原液Dとし、特開2005−58896号公報の実施例3に準じ、図1に示す旭化成株式会社製のG4型透析装置1(4室/組、組込数10組、有効膜断面積0.02m/枚)を用いて電気透析を行った。なお、陽イオン交換膜Kとして陽イオン交換膜であるアシプレックスK−501(旭化成株式会社製)を用い、陰イオン膜Aとして一価陰イオン選択透過膜であるアシプレックスA−192(旭化成株式会社製)を透析装置にセットした。
【0105】
透析装置1は、両側に一対の電極2a,2bが配設されている。これら一対の電極2a,2bの一方、例えば電極2aが陽極とされ、他方、例えば電極2bが陰極とされる。
【0106】
そして、ヨウ化カリウム11重量%、硫酸カリウム1.7重量%の副生ヨウ化カリウム含有水溶液である原液D1500gを原液室3に供給した。同時に、1重量%ヨウ化水素酸水溶液500gを濃縮液室4に供給し、10重量%硫酸水素ナトリウム水溶液1000gを酸室5に供給し、1重量%硫酸水素ナトリウム水溶液500gを塩室6に供給した。また、5重量%硫酸水素ナトリウム水溶液1000gを各電極室7a,7bに供給した。
【0107】
この状態で、10V定電圧で2時間電気透析処理を行った後、原液室3の原液Dおよび濃縮液室4の濃縮液Cの液量を秤量し、液組成(イオン濃度)をイオンクロマトグラフィにて分析した。この結果、原液D1200gのイオン濃度は、ヨウ素イオンが0.4重量%で、硫酸イオンが1.0重量%であった。また、濃縮液C780gのイオン濃度は、ヨウ素イオンが16.2重量%で、硫酸イオンが0.2重量%であった。
【0108】
これらの結果、原液Dからのヨウ化水素酸分離率が96%であり、濃縮液Cへ移動した酸に対するヨウ化水素酸の選択率は98モル%であった。
【0109】
電気透析により生成されたヨウ化水素酸含有液全量へ脂肪族グリコールである1,10−デカンジオール43.6g(0.25モル)を加え、水を留去しながら5時間還流を行った。なお、この間、フラスコ内温度は105℃から130℃へ上昇した。反応終了後、冷却するとフラスコの下部に固形物が分離した。この分離した固形物を秤量した結果、重量は98.9gであり、ガスクロマトグラフにて組成を分析した結果、1,10−デカンジオールの濃度が0重量%で、1−ヨード−10−デカノールの濃度が0重量%で、1,10−ジヨードデカンの濃度が98重量%であった。したがって、1,10−デカンジオールの転化率は100%で、1,10−ジヨードデカンの選択率は98.4%となり、仕込みの1,10−デカンジオールに対する1,10−ジヨードデカンの収率は、98.4%であった。
【0110】
なお、この1,10−ジヨードデカン粗結晶は、そのままあるいは蒸留精製後、最初の炭酸カリウム存在下での1,10−ジヨードデカンとアセト酢酸エチルとの反応に循環利用可能であり、循環利用することによって、より経済的に脂肪族ジケトンを製造できる。また、1,10−ジヨードデカンと粗結晶分離後の未反応ヨウ化水素酸含有水相は、さらに次の電気透析後のヨウ化水素酸含有液と1,10−デカンジオールとの反応に使用可能であるので、ヨウ化水素酸基準での1,10−ジヨードデカンの収率は、実質的に非常に向上できる。
【0111】
以上の結果、上記各実施例および各比較例から、一般式I(CHIで示され、nは4以上12以下の整数である一般式脂肪族ジヨウ化物と、アセトンやアセト酢酸エステル等のケトン類とを、一般式MAで示され、Mはアルカリ金属であり、Aは水素、アミノ、アルコキシ、ヒドロキシおよび炭酸基のいずれかである無機アルカリ化合物の存在下にて反応させることにより、容易かつ経済的に脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0112】
特に、上記の脂肪族ジヨウ化物と、一般式CH3COCH2COORで示され、Rは炭素数1から4の脂肪族アルキル基であるケトン類としてのアセト酢酸エステルとを、上記の無機アルカリ化合物の存在下にて反応させた後、脱炭酸反応を行うことにより、容易かつ経済的でありさらに高収率で脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0113】
また、上記の脂肪族ジヨウ化物とケトン類との無機アルカリ化合物の存在下での反応にて副生するヨウ素の無機アルカリ塩と、一般式X(CHXで示され、Xは塩素または臭素であり、nは4以上12以下の整数である脂肪族ジハライドとを反応させることにより脂肪族ジヨウ化物を生成でき、この脂肪族ジヨウ化物を最初の脂肪族ジヨウ化物とケトン類との無機アルカリ化合物の存在下での反応に循環利用することにより、より経済的に脂肪族ジケトンを得ることができる。
【0114】
さらに、上記の脂肪族ジヨウ化物とケトン類との無機アルカリ化合物の存在下での反応にて副生するヨウ素の無機アルカリ塩から回収したヨウ化水素酸と、一般式HO(CHOHで示され、nは4以上12以下の整数である脂肪族グリコールとを反応させることにより脂肪族ジヨウ化物を生成でき、この脂肪族ジヨウ化物を最初の脂肪族ジヨウ化物とケトン類との無機アルカリ化合物の存在下での反応に循環利用することにより、より経済的に脂肪族ジケトンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の脂肪族ジケトンの製造方法における実施例19にて使用した電気透析装置を示す構造図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジヨウ化物と、
ケトン類とを、
無機アルカリ化合物の存在下にて反応させる
ことを特徴とする脂肪族ジケトンの製造方法。
【請求項2】
ケトン類がアセトンまたはアセト酢酸エステルである
ことを特徴とする請求項1記載の脂肪族ジケトンの製造方法。
【請求項3】
脂肪族ジヨウ化物は、一般式I(CHIで示され、前記nは4以上12以下の整数であり、
ケトン類は、アセトンであり、
無機アルカリ化合物は、一般式MAで示され、前記Mはアルカリ金属であり、前記Aは水素、アミノ、アルコキシ、ヒドロキシおよび炭酸基のいずれかであって、
脂肪族ジヨウ化物とアセトンとを無機アルカリ化合物の存在下にて
反応式(1):I(CHI+2CHCOCH+2MA→CHCO(CHn+2COCH+2MI+2HA
にしたがって反応させる
ことを特徴とする請求項1または2記載の脂肪族ジケトンの製造方法。
【請求項4】
脂肪族ジヨウ化物は、一般式I(CHIで示され、前記nは4以上12以下の整数であり、
ケトン類は、一般式CH3COCH2COORで示され、前記Rは炭素数1から4の脂肪族アルキル基であるアセト酢酸エステルであり、
無機アルカリ化合物は、一般式MAで示され、前記Mはアルカリ金属であり、前記Aは水素、アミノ、アルコキシ、ヒドロキシおよび炭酸基のいずれかであって、
脂肪族ジヨウ化物とアセト酢酸エステルとを無機アルカリ化合物の存在下にて下記化1に示す反応式(2)
【化1】

にしたがって反応させた後、下記化2に示す反応式(3)
【化2】

にしたがって脱炭酸反応を行う
ことを特徴とする請求項1または2記載の脂肪族ジケトンの製造方法。
【請求項5】
反応式(1)または反応式(2)の反応で副生するヨウ素の無機アルカリ塩と、一般式X(CHXで示され、前記Xは塩素または臭素であり、前記nは4以上12以下の整数である脂肪族ジハライドとを反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成し、
この脂肪族ジヨウ化物を反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用する
ことを特徴とする請求項3または4記載の脂肪族ジケトンの製造方法。
【請求項6】
反応式(1)または反応式(2)の反応で副生するヨウ素の無機アルカリ塩から回収したヨウ化水素酸と、一般式HO(CHOHで示され、前記nは4以上12以下の整数である脂肪族グリコールとを反応させて脂肪族ジヨウ化物を生成し、
この脂肪族ジヨウ化物を反応式(1)または反応式(2)の反応に循環利用する
ことを特徴とする請求項3または4記載の脂肪族ジケトンの製造方法。

【図1】
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