説明

脂肪族ポリエステルの製造方法

水を積極的に開始剤または/及び分子量調節剤として得られた脂肪族ポリエステルの耐水性を改善する。より詳しくは、80ppmを超える水分を含むプロトン源化合物を開始剤または/及び分子量調節剤として含む環状エステルを、環状エステル中の全プロトン濃度を指標として、開環重合し、得られた脂肪族ポリエステルにカルボキシル基封止剤を配合することにより脂肪族ポリエステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、グリコリドなどの環状エステルを開環重合して、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステルを製造する方法に関し、さらに詳しくは、水を開始剤または/及び分子量調節剤として積極的に使用する環状エステルの開環重合による脂肪族ポリエステルの製造方法の改良に関する。
【背景技術】
ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。また、脂肪族ポリエステルは、生体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。
脂肪族ポリエステルの中でも、ポリグリコール酸は、酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性、水蒸気バリア性などのガスバリア性に優れ、耐熱性や機械的強度にも優れているので、包装材料などの分野において、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
脂肪族ポリエステルは、例えば、グリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができるが、高分子量の脂肪族ポリエステルを効率よく合成するには、一般に、α−ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、ポリグリコール酸が得られる。乳酸の二分子間環状エステルであるラクチドを開環重合すると、ポリ乳酸が得られる。
環状エステルは、一般に、原料として使用したα−ヒドロキシカルボン酸や直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーなどの遊離カルボン酸化合物、水などの不純物を含んでいる。水などの不純物は、微量であっても、環状エステルの開環重合に悪影響を及ぼすので、開環重合に際して、可能な限り不純物を除去した高純度の環状エステルを使用することが提案されている。
他方、脂肪族ポリエステルの分子量を制御するために、環状エステルの開環重合に際し、分子量調整剤として高級アルコールなどのアルコール類が使用されている。環状エステルに含まれている遊離カルボン酸化合物の量に基づいて、アルコール類の添加量を定める方法も提案されている。
例えば、従来、グリコリドを開環重合するに際し、再結晶などで精製した実質的に純粋なグリコリドを使用し、かつ、分子量調整剤としてラウリルアルコールなどの高級アルコールを使用する方法が採用されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
また、環状エステルから水などの不純物を除去するための精製方法が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。この文献には、環状エステルに含まれている水、α−ヒドロキシカルボン酸やその低分子量オリゴマーなどの不純物は、開始剤、連鎖移動剤、触媒失活剤等の様々な作用を及ぼして、開環重合を阻害するので、これらの不純物を除去すべきことが指摘されている。
水分含有量が80ppm以下で、酸価が0.10mgKOH/g以下の環状エステルを開環重合させる脂肪族ポリエステルの製造方法が提案されている(例えば、下記特許文献3参照。)。この文献には、環状エステル中の水分量を減少させると、重合速度を速くして、高分子量のポリマーが得られること、また、アルコールを重合系に存在させると、水分の作用を抑制して、品質のよい脂肪族ポリエステルを製造できることが記載されている。
環状エステルを開環重合して脂肪族ポリエステルを製造する方法において、環状エステル中に含まれる遊離カルボン酸化合物の量に基づいて、反応系に添加する水酸基化合物の量を定めることを特徴とする製造方法が提案されている(例えば、下記特許文献4参照。)。該文献には、遊離カルボン酸化合物として、環状エステルの製造時に用いたα−ヒドロキシカルボン酸や直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーが示されており、水酸基化合物として、炭素数12〜18の一価の直鎖状飽和脂肪族アルコールが好ましいことが記載されている。
該文献には、環状エステル中に水分や遊離カルボン酸化合物などの不純物が含まれていると、重合反応に悪影響を及ぼして、同一重合条件下でも、狙った分子量のポリマーを製造するというターゲッティングが不可能であることが指摘されている。該文献には、水分の含有量が多いと脂肪族ポリエステルの分子量の制御が困難となる傾向を示すので、分子量を精度良く制御するために、環状エステル中の水分を100ppm以下にすることが好ましいと記載されている。
さらに、該文献には、環状エステル中の水分については、重合直前の精製・乾燥工程において除去することが容易であるが、遊離カルボン酸化合物は、除去することが困難であり、重合反応に与える影響も大きく、しかも貯蔵中に微量の水分により環状エステルが開環して新たな遊離カルボン酸化合物を生成し易いことが指摘されている。該文献には、環状エステルに含まれる遊離カルボン酸化合物を定量して、それに見合う量の水酸基化合物(例えば、高級アルコール)を添加することにより、目標どおりの分子量を有する脂肪族ポリエステルを製造する方法が提案されている。
【特許文献1】米国特許第3,442,871号明細書
【特許文献2】特開平8−301864号公報
【特許文献3】特開平10−158371号公報
【特許文献4】特許第3075665号明細書
【特許文献5】特開2001−261797号公報
上述したように、従来、水は環状エステルの開環重合を阻害する不純物として可能な限り除去することが必要であるとされていた。しかし、水は自然界に存在する最も普遍的な化合物であり、これを不純物として排除することには限界がある。本発明者等は、環状エステルの開環重合系における水の役割について詳細な検討を行った結果、水を含むプロトン源化合物を分子量調節剤として用い、環状エステル中の全プロトン濃度を制御することにより環状エステルの開環重合を円滑に進行させ、生成する脂肪族ポリエステルの分子量制御が可能であることを見出し、この知見に基づき脂肪族ポリエステルの製造方法を既に提案している(WO2004/033527号公報)。
【発明の開示】
本発明は、上記した脂肪族ポリエステルの製造方法を改善することを主要な目的とする。
すなわち、本発明者らの研究によれば上述した脂肪族ポリエステルの製造方法には、耐水性に問題があり、本発明は耐水性を改善した脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等の研究によれば、上述した脂肪族ポリエステルの製造方法における生成脂肪族ポリエステルの耐水性が低い理由は、生成する脂肪族ポリエステル中のカルボキシル基の存在にあり、本発明はカルボキシル基封止剤の配合によりこの問題を解決するものである。
すなわち、本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法においては、水分を含むプロトン源化合物を開始剤または/及び分子量調節剤として制御された分子量の脂肪族ポリエステルを製造し、そのカルボキシル基を封止することにより耐水性を向上することを意図する。より具体的には、本発明は、80ppmを超える水分を含むプロトン源化合物を開始剤または/及び分子量調節剤として含む環状エステルを、環状エステル中の全プロトン濃度を指標として、開環重合し、得られた脂肪族ポリエステルにカルボキシル基封止剤を配合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の製造方法により得られる脂肪族ポリエステルの重量平均重分子量(Mw)と環状エステル中の全プロトン濃度との相関を示すデータ・プロットを示す。
第2図は、本発明の製造方法により得られる脂肪族ポリエステルの溶融粘度と環状エステル中の全プロトン濃度との相関を示すデータ・プロットを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法は、端的に云って、上記したWO2004/033527号公報の発明(以下「先願発明」という)で生成した脂肪族ポリエステルに、カルボキシル基封止剤を配合することを特徴とするものである。以下、先願発明の記載に沿って本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法を説明する。
1.環状エステル
本発明で用いる環状エステルとしては、α−ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステル、ラクトンおよび環状エーテルエステルが好ましい。二分子間環状エステルを形成するα−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、L−及び/またはD−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。
ラクトンとしては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。また環状エーテルエステルとしては、例えばジオキサノン等が挙げられる。
環状エステルは、不斉炭素を有する物は、D体、L体、メソ体及びラセミ体のいずれでもよい。これらの環状エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上の環状エステルを使用すると、任意の脂肪族コポリエステルを得ることができる。環状エステルは、所望により、共重合可能なその他のコモノマーと共重合させろことができる。他のコモノマーとしては、例えば、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサンなどの環状モノマーなどが挙げられる。
環状エステルの中でも、グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリド、L−及び/またはD−乳酸の二分子間環状エステルであるL−及び/またはD−ラクチド、及びこれらの混合物が好ましく、グリコリドがより好ましい。グリコリドは、単独で使用することができるが、他の環状モノマーと併用してポリグリコール酸共重合体(コポリエステル)を製造することもできる。ポリグリコール酸共重合体を製造する場合、生成コポリエステルの結晶性、ガスバリア性などの物性上の観点から、グリコリドの共重合割合は、好ましくは60重量%、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上とすることが望ましい。また、グリコリドと共重合させる環状モノマーとしては、ラクチド、ε−カプロラクトン、ジオキサノン、トリメチレンカーボネートが好ましい。
環状エステルの製造方法は、特に限定されない。例えば、グリコリドは、グリコール酸オリゴマーを解重合する方法により得ることができる。グリコール酸オリゴマーの解重合法として、例えば、米国特許第2,668,162号明細書に記載の溶融解重合法、特開2000−119269号公報に記載の固相解重合法、特開平9−328481号公報や国際公開第02/14303A1パンフレットに記載の溶液相解重合法等を採用することができる。K.ChujoらのDie Makromolekulare Cheme,100(1967),262−266に報告されているクロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。
グリコリドを得るには、上記解重合法の中でも、溶液相解重合法が好ましい。溶液相解重合法では、(1)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該オリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して、(2)該オリゴマーの融液相の残存率(容積比)が0.5以下になるまで、該オリゴマーを該溶媒に溶解させ、(3)同温度で更に加熱を継続して該オリゴマーを解重合させ、(4)生成した2量体環状エステル(すなわち、グリコリド)を高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、(5)溜出物からグリコリドを回収する。
高沸点極性有機溶媒としては、例えば、ジ(2−メトキシエチル)フタレートなどのフタル酸ビス(アルコキシアルキルエステル)、ジエチレングリコールジベンゾエートなどのアルキレングリコールジベンゾエート、ベンジルブチルフタレートやジブチルフタレートなどの芳香族カルボン酸エステル、トリクレジルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、ポリエチレンジアルキルエーテルなどのポリアルキレングリコールエーテル等を挙げることができ、該オリゴマーに対して、通常、0.3〜50倍量(重量比)の割合で使用する。高沸点極性有機溶媒と共に、必要に応じて、該オリゴマーの可溶化剤として、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを併用することができる。グリコール酸オリゴマーの解重合温度は、通常、230℃以上であり、好ましくは230〜320℃である。解重合は、常圧下または減圧下に行うが、0.1〜90.0kPa(1〜900mbar)の減圧下に加熱して解重合させることが好ましい。
環状エステルとしては、水分含有率が60ppm(重量基準)以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下の精製した環状エステルを使用することが好ましい。使用する環状エステル中の初期水分含有率が高すぎると、分子量調整剤として水を添加して制御できる生成脂肪族ポリエステル分子量の幅が抑制される。
環状エステル中に不純物として含まれるヒドロキシカルボン酸化合物の含有率は、できるだけ低い方が好ましい。環状エステル中のα−ヒドロキシカルボン酸の含有率は、好ましくは200ppm(重量基準)以下、より好ましくは150ppm以下、さらに好ましくは130ppm以下、特に好ましくは100ppm以下である。
環状エステル中には、通常、直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーが含まれている。このオリゴマーは、殆んどが直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸二量体である。環状エステル中の直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの含有率は、好ましくは2,000ppm以下、より好ましくは1,500ppm以下、さらに好ましくは1,200ppm以下、特に好ましくは1,000ppm以下である。
グリコリドやラクチドなどの環状エステルは、不純物として含まれている微量の水分によって、貯蔵中に加水分解反応や重合反応が起り、α−ヒドロキシカルボン酸や直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの含有率が上昇傾向を示す。そのため、精製直後の環状エステルは、水分含有率が50ppm以下、α−ヒドロキシカルボン酸含有率が100ppm、直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマー含有率が1,000ppm以下であることが望ましい。なお,環状エステルの精製は、常法に従って、粗環状エステルの再結晶処理や乾燥処理などを組み合わせることによって行うことができる。
2.脂肪族ポリエステルの製造方法
環状エステルを用いて脂肪族ポリエステルを製造するには、環状エステルを加熱して開環重合させる方法を採用することが好ましい。この開環重合法は、実質的に塊状による開環重合法である。開環重合は、触媒の存在下に、通常100〜270℃、好ましくは120〜260℃の範囲内の温度で行われる。
触媒としては、各種環状エステルの開環重合触媒として使用されているものであればよく、特に限定されない。このような触媒の具体例としては、例えば、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)など金属化合物の酸化物、塩化物、カルボン酸塩、アルコキシドなどが挙げられる。より具体的に、好ましい触媒としては、例えば、ハロゲン化スズ(例えば、二塩化スズ、四塩化スズなど)、有機カルボン酸スズ(例えば、2−エチルヘキサン酸スズなどのオクタン酸スズ)などのスズ系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
触媒の使用量は、一般に、環状エステルに対して少量でよく、環状エステルを基準として、通常0.0001〜0.5重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲内から選択される。
本発明では、開環重合に先立って、環状エステル中に不純物として含まれる水分やヒドロキシカルボン酸化合物の含有量を測定し、それぞれの含有量に基づいて、不純物の全プロトン量を算出し、特に環状エステル中の水分量が80ppmを超える量、更には、100ppmを超える量となるように設定する。環状エステル中の水分含有率は、カールフィッシャー水分計を用いて測定する。環状エステル中に含まれるα−ヒドロキシカルボン酸や直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーは、それぞれのカルボキシル基をアルキルエステル基に変換した後、ガスクロマトグラフィ分析などにより定量する。
環状エステル中に含まれる不純物の全プロトン濃度は、環状エステル中に不純物として含まれるヒドロキシカルボン酸化合物と水分との合計量に基づいて算出する。例えば、グリコリドの場合は、微量の水分と、グリコール酸及び直鎖状のグリコール酸オリゴマーからなるヒドロキシカルボン酸化合物とが不純物として含まれている。精製グリコリドに含まれる直鎖状のグリコール酸オリゴマーの殆んどは、グリコール酸二量体である。ラクチドの場合には、水分、乳酸、直鎖状の乳酸オリゴマーが不純物として含まれている。これらのヒドロキシカルボン酸化合物に基づくプロトン濃度(モル%)は、それぞれの含有量と分子量と水酸基数(通常1個)とに基づいて算出される。水分のプロトン濃度(モル%)は、水分の含有量と分子量とに基づいて算出される。プロトン濃度は、環状エステルと不純物との合計量を基準とするモル%として算出される。
環状エステル中に含まれる不純物の全プロトン濃度は、好ましくは0.01〜0.5モル%、より好ましくは0.02〜0.4モル%、特に好ましくは0.03〜0.35モル%である。不純物全プロトン濃度は、精製によるヒドロキシカルボン酸化合物の低減化に限界があり、極度に低くすることは困難である。不純物全プロトン濃度が高すぎると、水の添加による溶融粘度や分子量などの正確な制御が困難になる。
本発明では、望ましくは水分含有率が60ppm以下の精製した環状エステルに水を添加して、環状エステル中の全プロトン濃度を調整することにより、生成する脂肪族ポリエステルの分子量を制御する。精製した環状エステルに水を添加して、環状エステル中の全プロトン濃度を好ましくは0.09モル%超過2.0モル%未満、より好ましくは0.1〜1.0モル%の範囲内に調整する。
生成脂肪族ポリエステルの分子量を基準として、成形条件の設定、および成形物の機械的強度、黄色度などを予測することができる。
精製環状エステルに水を添加することなく開環重合を行うと、生成ポリマー中に未反応モノマーが残留し易くなる。残留モノマーを主成分とする揮発分の含有量が多くなると、ポリマーの品質が低下することに加えて、溶融粘度が低下し、黄色度も大きくなる。環状エステルの精製の程度を制御するだけでは、ポリマーの溶融粘度等まで制御することは困難である。
精製した環状エステルに水を添加して、環状エステル中の全プロトン濃度を調整すると、生成ポリマーの溶融粘度、分子量、黄色度などの物性を正確に制御することができる。分子量調整剤として水を使用すると、開環重合の反応効率が高く、残留モノマーを主成分とする揮発分の含有量を顕著に低減できる。つまり、分子量調整剤として水を用いると、高分子量かつ高溶融粘度のポリマーを合成することができる。水の添加により、環状エステル中の全プロトン濃度を変化させると、揮発分(残留モノマー)量を低水凖に抑えたままで、生成ポリマーの溶融粘度と分子量を所望の範囲に制御することができる。その結果、環状エステル中の全プロトン濃度とポリマーの溶融粘度や分子量との間に緊密な相関関係が生じる。
具体的に、水の添加量を変化させて環状エステル中の全プロトン濃度を変化させたこと以外は、同じ重合条件(反応容器、重合温度、重合時間、モノマーの種類と精製度など)で開環重合を行い、得られた脂肪族ポリエステルの溶融粘度や分子量、黄色度を測定した結果をデータベースとして、前記の如き相関関係を明らかにすることができる。
例えば、グリコリドに水を添加して全プロトン濃度を変化させ、そして、グリコリドの開環重合によって得られたポリグリコール酸の溶融粘度、重量平均分子量、及び黄色度を測定したところ、これら各物性と全プロトン濃度との間に関連性のあることが判明した。
例えば図1に、水の添加量を変化して得られた生成脂肪族ポリエステルの重量平均分子量(Mw)と全プロトン濃度の関係のプロット(先願発明実施例結果を「●」で示し、本発明実施例結果を「△」で示す)を示す。
データベースに基づく回帰分析の例を説明する。独立変数(説明変数)としてグリコリドの全プロトン濃度(x)を使用し、従属変数(被説明変数)としてポリグリコール酸の溶融粘度(y)を使用する。回帰分析の結果、これらの間には、線形モデル、両対数モデル、半対数モデルの関係式が成立することが分かった。これらの中でも、下記式(1)
y=a・b (1)
(a及びbは、パラメータである。)
で表わされる半対数モデルの関係式が重相関R及び重決定R2が最も高いことが判明した。図2に、このようにして得られた相関曲線を含む溶融粘度と全プロトン濃度との相関データ・プロットを示す。
また、水の添加量を多くして、環状エステル中の全プロトン濃度を高くしていくと、生成ポリマーの溶融粘度と分子量が低下していくが、黄色度(イエローインデックス;YI)がそれに逆比例して小さくなり、着色度が改善されることが分かった。したがって、環状エステルの全プロトン濃度を水の添加により調整することにより、射出成形などに適した低溶融粘度で黄色度の小さな脂肪族ポリエステルを製造することができる。このように分子量調節剤として水を用いることにより、ポリマーの着色を抑えることができるので、カルボキシル基封止剤を配合することによる着色の増加を抑制して、耐水性の改善とバランスさせることができる。
環状エステルの開環重合は、重合容器を用いて行うか、モノマーの種類によっては押出機の中で行うなど任意であるが、通常は、重合容器内で塊状開環重合する方法を採用することが好ましい。例えば、グリコリドを加熱すると溶融して液状になるが、加熱を継続して開環重合させると、ポリマーが生成する。重合温度がポリマーの結晶化温度以下の場合は、重合途中でポリマーが析出し、最終的には固体のポリマーが得られる。重合時間は、開環重合法や重合温度などによって変化するが、容器内での開環重合法では、通常10分間〜100時間、好ましくは30分間〜50時間、より好ましくは1〜30時間である。重合転化率は、通常95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上であり、未反応モノマーの残留を少なくし、かつ、生産効率を高める上で、フル・コンバージョンとすることが最も好ましい。
したがって、本発明では、精製した環状エステルに水を添加して、環状エステル中の全プロトン濃度を調整した後、環状エステルを触媒の存在下に加熱溶融させ、次いで、溶融状態の環状エステルを開環重合する方法を採用することが好ましい。この重合法は、塊状での開環重合法である。溶融状態の環状エステルの開環重合は、反応缶や管型あるいは塔型、押出機型反応装置を用い、バッチ式あるいは連続式で行うことができる。
さらに、本発明によれば、溶融状態の環状エステルを複数の管(両端が開閉可能な管も好ましく用いられる)を備えた重合装置に移送し、各管内で気密状態で開環重合して生成ポリマーを析出させる方法がより好ましい。また溶融状態の環状エステルを攪拌機付き反応缶中で開環重合を進行させた後、精製したポリマーを取り出し、一度ポリマーを冷却固化させた後、ポリマーの融点以下で固相重合反応を継続する方法も好ましい。これらの方法は、バッチ式または連続式のいずれの方法によっても行うことができる。いずれにしても、気密状態(すなわち、気相の無い反応系)で重合温度を制御する方法をとることにより、目標とする分子量、溶融粘度などの物性を有するポリマーを安定的に、かつ、再現性良く製造することができる。
本発明の方法では、環状エステル(例えば、グリコリドまたはグリコリドを主成分とする環状エステル)の開環重合により、温度240℃及び剪断速度121sec−1で測定した溶融粘度が好ましくは50〜6,000Pa・s、より好ましくは100〜5,000Pa・sのポリグリコール酸を得ることができる。また、本発明の方法によれば、重量平均分子量が好ましくは50,000以上、より好ましくは80,000以上、特に好ましくは100,000以上の高分子量の脂肪族ポリエステルを製造することができる。重量平均分子量の上限は、500,000程度である。
上記のようにして生成した脂肪族ポリエステルに、カルボキシル基封止剤を配合する。カルボキシル基封止剤としては、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られているもの(例えば、上記特許文献5参照。)を一般に用いることができ、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2−フェニル−2オキサゾリン、スチレン−イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロヘキセンオキシドなどのエポキシ化合物などが挙げられる。
なかでもカルボジイミド化合物が好ましく、特に純度の高いものが耐水安定化効果を与える。
これらカルボキシル基封止剤は、必要に応じて2種以上を併用することが可能であり、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、0.01〜10重量部、より好ましくは0.05〜5重量部、特に0.1〜3重量部の割合で配合することが好ましい。
また脂肪族ポリエステルには、上記カルボキシル基封止剤に加えて、その100重量部に対して、0.003〜3重量部、好ましくは0.005〜1重量部の熱安定剤を配合することもできる。熱安定剤としては、ペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル、リン酸アルキルエステルが、単独で、又は併用により好ましく用いられる。
上記したカルボキシル基封止剤(及び必要に応じて加えられる熱安定剤)は、重合中に加えてもよいが、重合により生成した脂肪族ポリエステルのペレット化に際して配合することが好ましい。ペレット課の段階と重合中の両方に加えることもできる。
【実施例】
以下に、合成例、実施例、及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。分析法、測定法、計算法などは、以下の通りである。
(1)不純物定量分析:
高純度アセトン10mlの中に、約1gを精秤したグリコリドと内部標準物質として4−クロロベンゾフェノン25mgとを加え、十分に溶解させた。その溶液約1mlを採取し、該溶液にジアゾメタンのエチルエーテル溶液を添加した。添加量の目安は、ジアゾメタンの黄色が残るまでとする。黄色く着色した溶液に2μlをガスクロマトグラフ装置に注入し、内部標準物質の面積比とグリコリド及び内部標準物質の添加量を基にメチルエステル化されたグリコール酸及びグリコール酸二量体を定量した。
<ガスクロマトグラフィ分析条件>
装置:日立G−3000、
カラム:TC−17(0.25mmφ×30m)、
気化室温度:290℃、
カラム温度:50℃で5分間保持後、20℃/分の昇温速度で270℃まで昇温し、270℃で4分間保持、
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、温度:300℃。
ラクチドについても、グリコリドと同様の方法により、不純物を定量できる。
(2)水分測定:
気化装置付カールフィッシャー水分計〔三菱化学社製CA−100(気化装置VA−100)〕を用い、予め140℃に設定し加熱した気化装置に、精密に秤量した約2gのモノマーサンプルを入れた。気化装置からカールフィッシャー水分測定器に流速250ml/分で乾燥窒素ガスを流した。サンプルを気化装置に導入した後、気化した水分をカールフィッシャー液に導入し、電気伝導度がバックグラウンドより+0.05μg/Sまで下がった時点を終点とした。ポリマーの水分測定については、気化装置の温度を220℃にし、電気伝導度がバックグラウンドより+0.1μg/Sまで下がった時点を終点とした。
(3)モノマー溶解槽内の水分測定:
モノマー溶解槽内部に予め乾燥空気を流しておき、その雰囲気の相対湿度を湿度計で求めた。その雰囲気の温度から絶対温度を算出し、それと槽容積から、槽内部の水分量を算出した。
(4)プロトン濃度の算出法:
環状エステル中の全プロトン濃度は、環状エステル中に含まれるヒドロキシカルボン酸化合物と水との合計量に基づいて算出する。ヒドロキシカルボン酸化合物に基づくプロトン濃度(モル%)は、それぞれの含有量と分子量と水酸基数とに基づいて算出される。他方、水に基づくプロトン濃度は、環状エステル中に含まれている不純物の水分、処理槽などの雰囲気中に含まれている水分、及び添加水の合計量と分子量とに基づいて算出される。
後記ポリマー合成例1についての計算法の詳細は次の通りである:
<分子量>
グリコリド(環状エステル)モノマー中の各成分の分子量については下記の値を用いた、
グリコリド:116.07、
グリコール酸:76.05、
グリコール酸二量体:134.09、
水:18.02。
<仕込みモノマー中不純物のプロトン濃度>
仕込みグリコリド中の不純物濃度(重量基準)は、グリコール酸50ppm、グリコール酸二量体:360ppm、水:33ppmであった。グリコリド分子量は116.07であるから、それぞれの与えるプロトン濃度は、以下のように計算される。
グリコール酸:50ppm
116.07×50×10−6÷76.05×100=0.0076mol%
…(i)
グリコール酸二量体:360ppm
116.07×360×10−6÷134.09×100=0.031mol%
…(ii)
水:33ppm
116.07×33×10−6÷18.02×100=0.021mol%
…(iii)
不純物の与える全プロトン濃度
(i)+(ii)+(iii)=0.0076+0.031+0.021=0.0596≒0.060mol% …(iv)
<モノマー溶解槽中水分>
乾燥空気を吹き込んでできるだけ水分を除去した後の溶解槽(容積:50リットル)中の雰囲気は、温度:22.5℃、相対湿度:31%であった。
化学工学便覧から22.5℃の水の飽和蒸気圧は2726Paで、相対湿度31%は、絶対蒸気圧として2276×0.31=845.1Paに相当。標準状態(0℃=273.2K、1a tm=101325Pa)で1モル(18.02g)の水は22.4リットル=0.0224mの容積に相当するので絶対湿度(1mあたりのg数)としては、
18.02×(845.1/101325)×1/(0.0224×(273.2+22.5)/273.2)
=0.00794×845.1/(1+0.0366×22.5)
=6.199≒6.2g/m(なお、この絶対湿度は、湿度計(例えばVASALA社製「HMI 41T」での直接測定によっても求められる。)
内容積56リットルの溶解槽中の水分量としては、6.2×0.056=0.347g。後から仕込むグリコリドモノマー22,500g(=194.0mol)に対しては、
0.347/22500×10=15ppm
(0.347/18.02)÷194×100=0.010mol%…(v)
<添加水>
水3.85gを添加。グリコリドモノマー22500g(=194.0mol)に対しては、
3.85/22500×10=171.11ppm
(3.85/18.02)÷194×100=0.110mol%…(vi)
<全プロトン濃度>
(iv)+(v)+(vi)=0.060+0.010+0.110=0.180mol%、
なお、モノマー溶解槽にグリコリドを仕込み、さらに添加水を加え加熱し均一状態になった後に、一部をサンプリングし、不純物(水分およびグリコール酸、グリコール酸二量体)を分析した結果に基づく仕込み溶解後のグリセリド中の全プロトン濃度は、仕込み前のグリコリドの不純物(水分およびグリコール酸、グリコール酸二量体)および添加水量から計算された全プロトン濃度と良好な一致を示した。
(5)溶融粘度:
ポリマーサンプルを120℃の乾燥器に入れ乾燥空気を接触させ、水分含有量を100ppm以下にまで低減させた。その後、乾燥器で十分に乾燥した。溶融粘度測定は、キャピラリー(1mmφ×10mmL)を装着した東洋精機製キャピログラフ 1−Cを用いて測定した。設定温度240℃に加熱した装置に、サンプル約20gを導入し、5分間保持した後、剪断速度121sec−1での溶融粘度を測定した。
(6)色調:
東京電色技術センター製TC−1800を使用し、標準光C、2゜視野、及び表色系の条件で、反射光測定法により測定した。装置は、標準白色板(No.88417)により校正した。測定は、専用のシャーレ(直径3cm、高さ1.3cm)に微粉が入らないように粉砕品サンプルを最密充填し、測定ステージに載せ、サンプルの位置を変えて3回行い、その平均値を算出した。色調は、黄色度を示すYI(イエローインデックス)値を用いた。
(7)分子量測定:
ポリマーサンプルを分子量測定で使用する溶媒に溶解させるために、非晶質のポリマーを得る。すなわち、十分乾燥したポリマー約5gをアルミニウム板に挟み、275℃のヒートプレス機に載せて90秒間加熱した後、2MPaで60秒間加圧した。その後、直ちに氷水に入れ急冷した。このようにして、透明な非晶質のプレスシートを作製した。
上記操作により作製したプレスシートからサンプル10mgを切り出し、このサンプルを5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液に溶解させて、10mlの溶液とした。サンプル溶液をメンブランフィルターで濾過後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置に注入し、分子量を測定した。なお、サンプルは、溶解後30分以内にGPC装置に注入した。
<GPC測定条件>
装置:Shimazu LC−9A、
カラム:HFIP−806M、2本(直列接続)プレカラム、
カラム温度:40℃、
溶離液:5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたHFIP溶液、
流速:1ml/分、
検出器:RI(Refractive Index:示差屈折計)
分子量校正:分子量の異なる標準PMMA5種を用いた。
(8)カルボキシル基定量
分子量測定用サンプルと同様に作成したプレスシートから、サンプル約0.3gを精秤して、特級ジメチルスルホキシド10mlに150℃のオイルバス中で約3分かけて完全に溶解する。その溶液に指示薬(ブロモチモールブルー/アルコール溶液)を2,3滴加えた後、0.02規定の水酸化ナトリウム/ベンジルアルコール溶液を加えていき、目視で溶液の色が黄色から緑色に変わった点を終点とした。その時の滴下量よりカルボキシル基濃度を算出した。
(9)耐水性評価
ペレットを120℃の乾燥空気で十分に乾燥し、250℃のヒートプレス機にのせ、3分間加熱後、8MPaで1分間加圧した。その後、直ちに、水が循環しているプレス機に移し、5MPaに加圧し、約5分間保持し、冷却し透明な非晶質のプレスシートを作成した。
上記操作により作成したプレスシートを一定大きさに切り出し、枠に固定し、70℃に加熱した乾燥機に入れ加熱し、1分後、空気を送り、面積で10−15倍になるようにブロー延伸した。このフィルムを緊張下200℃で1分間熱処理した。
上記操作により作製したフィルム状のサンプルを約10mg切り出し、温度80℃、相対湿度95%に維持した恒温恒湿器に入れ、所定時間放置した。所定時間後、取り出した後、サンプルの分子量をGPCにより測定した。
得られた数平均分子量値から重合度を算出し、その重合度の逆数を暴露時間に対して対数プロットし、そのプロットの近似直線の傾きを加水分解速度定数とした。
(10)カルボジイミド純度定量
高純度アセトン10mlに、約50mgを精秤したN、N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを完全に溶解する。その溶液を2μl採取し、ガスクロマトグラフ装置に注入し、測定を行った。溶媒由来ピークを除いた総ピーク面積に対するN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドの主ピークの面積の比率を基に算出した。
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
装置:島津GC−14A
カラム:TC−17 0.25mmφ×30m
気化室温度:290℃
カラム温度:150℃5分保持後20℃/分で270℃まで昇温し、270℃で6分間保持
検出器:FID(水素炎イオン化検出器) 温度:300℃
[モノマー合成例1]
ジャケット付き撹拌槽(「反応缶」ともいう)に70重量%グリコール酸水溶液を仕込み、常圧で攪拌しながら、ジャケット内に熱媒体油を循環することにより缶内液を200℃まで加熱昇温し、生成水を系外に留出させながら縮合反応を行った。次いで、缶内液を200℃に維持した状態で、缶内圧を段階的に3kPaまで減圧しながら、生成水、未反応原料などの低沸点物質を留去し、グリコール酸オリゴマーを得た。
上記で調製したグリコール酸オリゴマーをSUS304製ジャケット付き攪拌槽に仕込み、溶媒としてジエチレングリコールジブチルエーテルを加え、さらに、可溶化剤としてポリエチレングリコールを加えた。グリコール酸オリゴマーと溶媒との混合物を加熱及び減圧下、解重合反応させて、生成グリコリドと溶媒とを共留出させた。留出物は、温水を循環させた二重管式コンデンサーで凝縮した。凝縮液は、常温の受器に受けた。反応液中の溶媒量を一定に保つために、留出した溶媒量に見合う分の溶媒を連続的に反応槽に供給した。
前記反応を継続し、グリコリドと溶媒との混合物を留出させ、凝縮させた。凝縮液から析出しているグリコリドを固液分離し、2−プロパノールで再結晶し、次いで、減圧乾燥した。示差走査熱量計(DSC)で測定したグリコリドの純度は、99.99%であった。
[モノマー合成例2]
可溶化剤をポリエチレングリコールからオクチルテトラトリエチレングリコールに代えたこと以外は、合成例1と同様にして、凝縮液を得た。凝縮液は、温水をジャケットに循環させた受器に受けた。受器内の凝縮液は、二液に層分離し、上層が溶媒で、下層がグリコリド液体であった。二液の層を形成後も解重合反応を続け、かつ、共留出を続けると、コンデンサーにより冷却されたグリコリドは、液滴となって溶媒層を通過し、下層のグリコリド層に凝縮されていった。反応液中の溶媒量を一定に保つため、上層の溶媒層を反応槽内に連続的に戻した。反応系の圧力を一時的に常圧に戻し、受器の底部から液状グリコリドを抜き出し、再び圧力を元に戻し、解重合反応を続けた。この操作を数回繰り返した。
さらに、合成例1においては、解重合反応系から回収したグリコリドを再結晶により精製したのに対し、塔型精製装置を用いて精製した。解重合後、塔型精製装置の下部に設けた原料結晶の仕込み口へ固液分離した粗グリコリド結晶を一定速度で連続的に投入した。塔型精製装置内部に装着された撹拌装置で該グリコリドを上昇させながら撹拌し、精製装置内での精製結晶成分の降下融解液と上昇粗グリコリド結晶との向流接触により精製した。この精製装置の上部に設けられた取出口から精製後の結晶を、一定速度で連続的に取り出した。回収した精製グリコリドは、DSC測定による純度が99.99%以上であった。
[ポリマー合成例1]PGAサンプルA製造例
スチームジャケット構造と撹拌機を備え、密閉可能な56リットルのSUS製容器(溶融槽)内に、合成例1で製造したグリコリド(グリコール酸50ppm、グリコール酸二量体360ppm、水33ppm、従って不純物全プロトン濃度0.060mol%)22,500g,二塩化スズ2水和物0.068g(30ppm)、及び水3.85g〔容器内の雰囲気に含まれる水分(湿気)0.34gを考慮〕を加え、全プロトン濃度(設定プロトン濃度)を0.18mol%に調整した。
容器を密閉し、攪拌しながらジャケットにスチームを循環させて、内容物の温度が100℃になるまで加熱した。この内容物は、加熱途中で溶融し均一な液体になった。内容物の温度を100℃に保持したまま、内径24mmの金属(SUS304)製管からなる装置に移した。この装置は、管が設置されている本体部と金属(SUS304)製の上下板からなり、本体部と上下板のいずれもジャケット構造を備えており、ジャケット部に熱媒体油を循環させる構造になっている。内容物を該装置に移送する際には、下板を取り付けてあり、各管内に移送が終了したら、直ちに上板を取り付けた。本体部及び上下板のジャケット部に170℃の熱媒体油を循環させ、7時間保持した。所定時間後、ジャケットに循環させている熱媒体油を冷却することにより、重合装置を冷却した。室温付近まで冷却し、下板を取り外し、生成ポリグリコール酸の塊状物を取り出した。この重合方式によれば、収率は、ほぼ100%になる。塊状物を粉砕機により粉砕し、PGAサンプルAとした。
サンプルAは、水分34ppmを含み、重量平均分子量(Mw)が193000、溶融粘度(MV)が2690Pa・s、黄色度(YI)が11であった。
[ポリマー合成例2]PGAサンプルB製造例
モノマー合成例2で製造したグリコリド22,500g(グリコール酸70ppm、グリコール酸二量体420ppm、水10ppm、不純物全プロトン濃度は0.053mol%)を用い、全プロトン濃度(設定プロトン濃度)0.22mol%に調整するために水5.54g(容器内の雰囲気に含まれる水分(湿気)0.27gを考慮)を加えたこと以外は、ポリマー合成例1と同様に行って、PGAサンプルBを得た。
サンプルBは水分を35ppm含み、Mwが184000、MVが2200Pa・s、黄色度(YI)が8.7であった。
[ポリマー合成例3]PGAサンプルC製造例
全プロトン濃度(設定プロトン濃度)0.32mol%に調整するために水11.5g(容器内に含まれる水分(湿気)0.4gを考慮)を加えた以外はポリマー合成例2と同様の操作を行って、PGAサンプルCを得た。
サンプルCは水分を30ppm含み、Mwが154000、MVが1100Pa・s、黄色度(YI)が6.2であった。
[ポリマー合成例4]PGAサンプルD製造例
モノマーとして、合成例2で製造したグリコリド21,375g(グリコール酸60ppm、グリコール酸二量体460ppm、水21ppm、従って不純物全プロトン濃度は0.063mol%)とL−ラクチド1,125g(乳酸0ppm、乳酸二量体270ppm、水8ppm、不純物全プロトン濃度は0.030mol%)を用い、全プロトン濃度(設定プロトン濃度)0.18mol%に調整するために水3.85g〔容器内の雰囲気に含まれる水分(湿気)0.27gを考慮〕を加え、重合装置のジャケット部に170℃熱媒体油を循環させ、また、上下板の温度も170℃に保温し、24時間保持したこと以外は、合成例1と同様に行った。重合終了後、生成ポリ(グリコール酸/L−乳酸)共重合体の塊状物の収率はほぼ100%であった。この塊状物を粉砕機により粉砕し、PGAサンプルDとした。
サンプルDは水分を25ppm含み、Mwが181000、MVが2300Pa・s、黄色度(YI)が18であった。
実施例、比較例
(実施例1−4及び比較例1、2)
十分に乾燥したポリマー合成例1で製造したPGAサンプルA100重量部に対して、純度の異なるN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI−A、CDI−B)をそれぞれ1重量部ブレンドし、小型2軸押出機を用いて溶融混練しながらペレットを得た。温度を2条件にして押出を行った。尚、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを添加しないで得られたペレットを比較例1、2とした。
押出条件
押出機:東洋精機製作所製LT−20
温度条件:条件−1:最高温度240℃
条件−2:最高温度280℃
それぞれのペレットから、耐水性評価用フィルムを形成した。
得られたペレット及びフィルムの物性を表−1に示す。
(実施例5−10及び比較例3−5)
十分に乾燥したポリマー合成例1で製造したPGAサンプルA重量100部に対して、アデカスタブPEP−8(旭電化工業株式会社製サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))またはアデカスタブAX−71(旭電化工業株式会社製のモノ及びジ−ステアリルアシッドホスフェート)0.03重量部、純度の異なるN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI−A、CDI−B、CDI−C)をそれぞれ1重量部ブレンドし、押出機の最高温度を240℃(条件−1)にしたこと以外は実施例1と同様に行った。尚、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを添加しないものを比較例3−5とした。
ペレット及びフィルムの物性を表−2に示す。
(実施例11−16及び比較例6)
十分に乾燥したポリマー合成例2で製造したPGAサンプルB100重量部に対して、アデカスタブPEP−8(旭電化工業株式会社製サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))0.03重量部、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI−B)を0.1〜5重量部ブレンドし、押出機の最高温度を240℃(条件−1)にしたこと以外は実施例1と同様に行った。尚、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを添加しないものを比較例6とした。
ペレット及びフィル厶の物性を表−3に示す。
(実施例17,18及び比較例7,8)
十分に乾燥したポリマー合成例3で製造したPGAサンプルC100重量部に対して、アデカスタブPEP−8(旭電化工業株式会社製サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))またはアデカスタブAX−71(旭電化工業株式会社製のモノ及びジ−ステアリルアシッドホスフェート)0.03重量部、純度の異なるN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドをそれぞれ1重量部ブレンドし、押出機の最高温度を240℃(条件−1)にしたこと以外は実施例1と同様に行った。尚、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを添加しないものを比較例7,8とした。
ペレット及びフィルムの物性を表−4に示す。
(実施例19,20及び比較例9)
十分に乾燥したポリマー合成例1で製造したPGAサンプルA100重量部に対して、アデカスタブPEP−8(旭電化工業株式会社製サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))0.03重量部、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI−B)を1重量部または2重量部をブレンドし、大型2軸押出機を用いて溶融混練しながらペレットを得た。
押出条件
押出機:東芝機械株式会社製TEM−41SS(40mmφ)
スクリュウ:同方向L/D=4.15 回転数40rpm
温度条件:最高温度240℃
押出速度:30kg/h
得られたペレットは120℃の乾燥空気で十分に乾燥し、単軸押出機を用いて厚さ約100μの単層シートを成形した。
押出条件
押出機:プラ技研社製ユニットルーダー PEX−40−24H型(40mmφ)
スクリュウ:シングルフルフライト型 L/D=24、回転数30rpm
ダイ:T−ダイ
温度条件:最高温度270℃
押出速度:10kg/h
その後、得られたシートを二軸延伸試験装置(東洋精機社製)を用いて、以下の条件で延伸し、厚さ約6μの非結晶フィルムを作成した。
延伸条件
シートサイズ:100mm×100mm
予熱温度:60℃
予熱時間:20秒
延伸倍率:4×4倍(縦4倍、横4倍)
得られたフィルムを枠に固定し200℃で1分間熱処理した。ペレット及びフィルムの物性を表−5に示す。尚、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを添加しないものを比較例9とした。
(実施例21及び比較例10)
十分に乾燥したポリマー合成例4で製造したPGAサンプルD100重量部に対して、アデカスタブPEP−8(旭電化工業株式会社製サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))0.03重量部、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを1重量部ブレンドし、2軸押出機を用いて、押出条件における最高温度を230℃に設定したこと以外は実施例1と同様に行った。尚、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを添加しないものを比較例10とした。
ペレット及びフィルムの物性を表−6に示す。
(実施例22−24)
十分に乾燥したポリマー合成例2で製造したPGAサンプルB100重量部に対して、アデカスタブPEP−8(旭電化工業株式会社製サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))0.03重量部、3種類のカルボジイミド化合物を1重量部ブレンドし、押出機の最高温度を240℃(条件−1)にしたこと以外は実施例1と同様に行った。
ペレット及びフィルムの物性を表−7に示す。
(実施例25−27)
十分に乾燥したポリマー合成例2で製造したPGAサンプルB100重量部に対して、アデカスタブPEP−8(旭電化工業株式会社製サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))0.03重量部、2種類のエポキシ化合物を1重量部ブレンドし、押出機の最高温度を240℃(条件−1)にしたこと以外は実施例1と同様に行った。
ペレット及びフィルムの物性を表−8に示す。
(実施例28−32及び比較例11)
十分に乾燥したポリマー合成例1で製造したPGAサンプルA100重量部に対して、アデカスタブPEP−8(旭電化工業株式会社製サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト))0.03重量部、5種類のエポキシ化合物を0.3〜1重量部ブレンド、押出機の最高温度を250℃に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。尚、エポキシ化合物を添加しないものを比較例11とした。
ペレット及びフィルムの物性を表−9に示す。









産業上の利用可能姓
上記表1〜表9の結果はいずれも、本発明に従い水を開始剤または/及び分子量調節剤として積極的に含む環状エステルの開環重合により得られた脂肪族ポリエステルに各種カルボキシル基封止剤を配合することにより、得られる脂肪族ポリエステルのカルボン酸濃度ならびにこれから得られるフィルムの加水分解速度が有効に低減されていること、すなわち耐水性の改善された脂肪族ポリエステルが製造されていることを示している。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
80ppmを超える水分を含むプロトン源化合物を開始剤または/及び分子量調節剤として含む環状エステルを、環状エステル中の全プロトン濃度を指標として、開環重合し、得られた脂肪族ポリエステルにカルボキシル基封止剤を配合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
カルボキシル基封止剤がモノカルボジイミド、ポリカルボジイミド、オキサゾリン、オキサジンおよびエポキシ化合物よりなる群より選ばれる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
カルボキシル基封止剤がモノカルボジイミドである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
水分含有率が60ppm以下の精製した環状エステルに水を添加して80ppmを超える水分を含む全プロトン濃度を調整する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
環状エステル中の全プロトン濃度が、環状エステル中に不純物として含まれるヒドロキシカルボン酸化合物と水との合計量に基づいて算出されるものである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
ヒドロキシカルボン酸化合物が、α−ヒドロキシカルボン酸及び直鎖状のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーである請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
環状エステル中の全プロトン濃度を0.09モル%超過2.0モル%未満の範囲内に調整する請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
環状エステルが、グリコリド単独またはグリコリド60重量%以上とグリコリドと開環共重合可能な他の環状モノマー40重量%以下との混合物である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
環状エステル中の全プロトン濃度を調整した後、環状エステルを触媒の存在下に加熱溶融させ、次いで、溶融状態の環状エステルを開環重合して生成ポリマーを析出させる請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
環状エステル中の全プロトン濃度を調整した後、環状エステルを触媒の存在下に溶融槽内で加熱溶融させ、次いで、溶融状態の環状エステルを複数の管を備えた重合装置に移送し、各管内で密閉状態で開環重合して生成ポリマーを析出させる請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記重合装置の複数の管が、両端が開閉可能な管である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
環状エステル中の全プロトン濃度を調整した後、環状エステルを触媒の存在下に溶融槽内で加熱溶融させ、次いで、溶融状態の環状エステルを攪拌機付き反応缶中で開環重合を進行させた後、精製したポリマーを取り出し、一度ポリマーを冷却固化させた後、ポリマーの融点以下で固相重合反応を継続する請求項9に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/035623
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514691(P2005−514691)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015557
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】