説明

脂肪族ポリエステル仮撚加工糸およびその製造方法

【課題】生分解性を有し、織物または編物とした際に、光沢、触感、発色性および風合いに優れ、かつ高捲縮で低沸収率である脂肪族ポリエステル仮撚加工糸およびそれを安定して製造する方法を提供できる。
【解決手段】融点が130℃以上の脂肪族ポリエステルからなり、伸縮復元率CRが15%以上かつ沸騰水収縮率10%以下である脂肪族ポリエステル仮撚加工糸。脂肪族ポリエステル糸を仮撚加工する際、熱付与ヒータの有効長の3〜30%を脂肪族ポリエステル糸に接触させ、該有効長の残りは非接触とする脂肪族ポリエステル仮撚加工糸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、脂肪族ポリエステルからなる仮撚加工糸とその製造方法に関する。さらに詳しくは、光沢、触感、発色性および風合いに優れた衣料用繊維および車両内装等に用いられる産業用繊維として特に好適に用いられる脂肪族ポリエステル仮撚加工糸、すなわち高捲縮で低沸収率である脂肪族ポリエステル仮撚加工糸およびそれを安定して製造する製造方法ならびに脂肪族ポリエステル加工糸からなる織編物に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリエチレンテレフタレートなどのテレフタル酸を主たるカルボン酸成分とする芳香族ポリエステルからなる合成繊維は、その寸法安定性、ウオッシュアンドウエア性等の特徴を有するために、衣料用素材として薄地から中厚地に至るまで幅広く用いられている。
【0003】これら芳香族ポリエステルは自然環境中に於ける耐久性が極めて高く、自然環境中で容易に分解しないため破棄に際しては焼却処理を行わない限り、半永久的に残存してしまうという欠点がある。
【0004】一方、生分解性を有する捲縮糸が、特開平7−11516号公報、特開平10−88425号公報や特開2001−192947号公報に提案されている。
【0005】しかし、捲縮付与の手段として特開平7−11516号公報は加熱空気による捲縮ノズルを使用しているため衣料用に適した細繊度の加工が極めて困難であり、また特開平10−88425号公報は収縮発現差のあるポリマーをサイドバイサイド状態あるいは偏心的に複合紡糸する提案であり、工業的には製糸性に難があるものであった。また、特開2001−192947号公報に記載されている加工糸の製造方法は、高捲縮、低沸収率な糸特性を得ようとすると加工毛羽や糸切れが多く、加工性に劣る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、高捲縮で低沸収率である脂肪族ポリエステル仮撚加工糸およびそれを安定して製造するための製造方法ならびに脂肪族ポリエステル仮撚加工糸からなる織編物を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決する本発明は、次の構成を有するものである。
【0008】すなわち、融点が130℃以上の脂肪族ポリエステルからなり、伸縮復元率(CR)が15%以上かつ沸騰水収縮率10%以下である脂肪族ポリエステル仮撚加工糸である。
【0009】また、脂肪族ポリエステル糸を仮撚加工する際、熱付与ヒータの有効長の3〜30%を脂肪族ポリエステル糸に接触させ、該有効長の残りは非接触とする脂肪族ポリエステル仮撚加工糸の製造方法である。
【0010】さらにまた、前記脂肪族ポリエステル仮撚加工糸を用いてなる織編物である。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる脂肪族ポリエステルは、融点が130℃以上であることが必要である。融点が130℃よりも低い場合には、単糸間の融着発生による延伸不良や、仮撚加工時の融着、糸切れなど、糸品位が著しく低いものとなるため、衣料用途に用いることができない。本発明で用いられる脂肪族ポリエステルの融点は好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上である。
【0012】ここで融点とは、DSC測定によって得られる融点ピークのピーク温度を意味する。
【0013】本発明で用いる脂肪族ポリエステルとしては、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシブチレートバリレート、およびこれらのブレンド物、変性物等を用いることができる。これらの脂肪族ポリエステルは、生分解性或いは加水分解性が高いため、自然環境中で容易に分解されるという利点も有している。ポリ乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。なかでも特に好ましいのは、高融点、低屈折率の観点から、L−乳酸を主成分とするポリエステルであるポリ乳酸、およびグリコール酸を主成分とするポリエステルであるポリグリコール酸をあげることができる。ここで、L−乳酸を主成分にするとは、構成成分の60重量%以上がL−乳酸よりなっていることを意味しており、40重量%を超えない範囲でD−乳酸を含有するポリエステルであってもよい。
【0014】ポリ乳酸に共重合可能な他の成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類またはその誘導体、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはその誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはその誘導体があげられる。
【0015】ポリ乳酸の平均分子量は30万を越えない程度に高いほど望ましく、好ましくは5万以上さらに好ましくは10万以上とする。平均分子量を5万以上とすることで、実用的な繊維強度物性を得られやすく、または30万以下とすることでポリマーの粘度の上昇を抑えることができるのでポリマーの熱分解を防ぎ、安定した紡糸を行いやすい。
【0016】また、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを、内部可塑剤または外部可塑剤として用いることができる。さらには、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。
【0017】本発明の脂肪族ポリエステル仮撚加工糸は、前記の脂肪族ポリエステルからなる糸に仮撚加工を施すことにより3次元捲縮を有するものである。ここで、織編物に十分なふくらみ感、ストレッチ性を付与するために、伸縮復元率(CR)が15%以上であることが重要である。伸縮復元率(CR)は、18%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。伸縮復元率(CR)が15%以上であることで、織編物にしたときのふくらみ感、ストレッチ性を得ることができる。
【0018】また、沸騰水収縮率は10%以下とすることが重要である。10%以下にすることで、織編物の染色仕上げ加工時のシワ寄りの軽減、寸法安定性が向上する。また、パッケージ糸染めの際にも染色中の巻締まりを軽減させ、染め不良のない高品質な先染め糸を得ることができる。好ましくは沸騰水収縮率を9%以下、より好ましくは8%以下とする。
【0019】得られる加工糸には高次工程通過性を向上させるなどの目的のため、インターレースノズルやタスランノズルに代表される圧縮空気ノズルを使用して、マルチフィラメント単繊維間に混繊あるいは交絡が付与されていてもよい。
【0020】次に、本発明の脂肪族ポリエステル仮撚加工糸の製造方法について説明する。
【0021】本発明は、脂肪族ポリエステル糸に仮撚加工する際の熱付与を、熱付与ヒータの有効長の3〜30%接触させ、有効長の残りは非接触で行うものである。
【0022】また、その仮撚加工において好ましくは熱付与時間Ti(分)が(1.5/V)以下となるように行う。ここで、Vは仮撚加工速度(m/分)である。
【0023】さらにまた、その仮撚加工において熱付与ヒータの設定温度から下記式にて求められる熱付与後の糸温度が170℃以下であることが好ましい。
【0024】
T=T1−(T1−T2)/e(19L/60V/0.45/dt)ここで、T:熱付与後の糸温度(℃)、T1:熱付与ヒータの設定温度(℃)、T2:外気温(℃)、L:ヒータ有効長(m)、V:仮撚加工速度(m/分)、dt:糸繊度(dtex)
このように仮撚加工を行うことにより、低沸収率で高捲縮な脂肪族ポリエステル加工糸を安定して製造することができる。
【0025】脂肪族ポリエステルは、融点が低く、加熱時に軟化し易い、ぜい化し易いといった特性を有するので、仮撚加工時に熱が付与されたときに加撚張力が低下しやすい。そのため、安定して仮撚加工を行える加撚張力まで張力を上げようすると必然的に加工温度は低温とならざるを得なくなり、その結果、得られる加工糸は高沸収率、低捲縮のものとなる。一方、低沸収率、高捲縮な加工糸を得るために仮撚加工時の加工温度を高くすると、従来の全接触式熱付与仮撚加工方法で加工温度を高くした場合、加撚張力が低下した状態で熱付与ヒータの熱板上を走行することから、熱板との抵抗による糸切れの発生や熱板抵抗が更なる張力低下を招き、仮撚加工が不安定となる。
【0026】本発明においては、糸と熱板の接触長が小さいため、加撚張力が低くても安定して加工することができる。また、従来の全接触式熱付与仮撚加工方法より加工温度が高くても安定して仮撚加工することができる。
【0027】また、仮撚加工温度が高くなると、加熱時の脂肪族ポリエステルのポリマーの特性から、糸切れの発生や仮撚加工後の糸強度が著しく低下する。これを防止するために、熱付与時間Ti(分)が(1.5/V)以下にすることが好ましい。仮撚加工速度により熱付与時間は異なるが、熱付与時間は、例えば仮撚加工速度300m/分の場合は熱付与時間0.005分以下、仮撚加工速度1000m/分ならば熱付与時間0.0015分以下とすることが好ましい。
【0028】また、同じく加熱時の脂肪族ポリエステルのポリマーの特性から熱付与後の糸温度を170℃以下とすることが、熱による融着からの低捲縮化やぜい化による糸切れ、糸強度の低下が防止できるので好ましい。
【0029】なお、本発明の仮撚加工に供給する糸としては、高配向未延伸糸や延伸糸が使用可能である。
【0030】ここで仮撚施撚方式としては通常使用されているスピンドルタイプやベルトニップ、3軸フリクションといった摩擦加撚タイプのいずれも採用できる。
【0031】
【実施例】次に、本発明を実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例および比較例の仮撚加工条件および得られた仮撚加工糸の特性を表1にまとめた。
【0032】なお、本文中および実施例中の各特性は次の方法により求められるものである。
(1)融点パーキンエルマー社製の示差走査熱量計(DSC−7)を用いて、昇温速度15℃/分の条件で測定し、得られた溶融のピーク温度を融点とした。
(2)伸縮復元率(CR)
加工糸をパッケージのまま1週間放置したサンプルについて、JIS規格L1090−1992 5.8に従い小カセを作り、24時間放置後、ガーゼで包んだまま98℃の熱水中で30分間浸せきする。その後、試料を取り出し、濾紙上で24時間自然乾燥させた試料をJIS規格L1090−1992 5.8伸縮復元率に従い測定する。
(3)沸騰水収縮率加工糸をカセ取りし、98℃の沸騰水で15分間処理した後、処理前後の寸法変化を測定し、次の計算式から計算する。
【0033】沸騰水収縮率(%)=[(処理前の長さ−処理後の長さ)/処理前の長さ]×100(実施例1)融点が172℃で、屈折率が1.45であるポリL−乳酸のチップを60℃に設定した真空乾燥機で48hr乾燥し、乾燥したチップを紡糸温度220℃、紡糸速度3000m/minで引き取って122dtex−36フィラメントの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を延伸温度80℃、熱セット温度115℃、延伸倍率1.45倍で延伸し、84dtex−36フィラメントの延伸糸とした。
【0034】得られた延伸糸を2本双糸(実質168dtex−72フィラメント)にし有効長880mm接触長48mm(有効長の5.5%)の熱付与ヒータ搭載3軸フリクション仮撚機を使用して、仮撚加工速度400m/min、熱付与時間0.003分、熱付与ヒーター設定温度270℃、加工延伸倍率1.2倍の条件で仮撚加工を実施した。
【0035】得られた加工糸は伸縮復元率(CR)が18.0%、沸騰水収縮率が9.0%であった。
【0036】この糸を、タテ、ヨコ糸に使用して、平織物を作成し、100℃の浴中でリラックス精練し、140℃のテンターでセット後、分散染料を使用して115℃で染色し、130℃で仕上げセットをした。得られた織物は、見た目の光沢感、発色性に優れ、かつ膨らみがあり良好なストレッチ性を有するものであった。
【0037】また、この織物を家庭用コンポストの中に2ヶ月間埋没しておいたところ、一般衣料用生地としての実用的な強度がなくなるレベルに分解変化していた。
(比較例1)実施例1で得たものと同じ84dtex−36フィラメント延伸糸の2本双糸を用い、有効長2500mm接触長2500mmの全接触式熱付与ヒータ搭載3軸フリクション仮撚機を使用して仮撚加工速度400m/min、熱付与時間0.0063分、熱付与ヒーター温度110℃、加工延伸倍率1.2倍の条件で仮撚加工を実施した。
【0038】得られた加工糸は伸縮復元率(CR)が22.0%、沸騰水収縮率が22.0%だった。
【0039】この糸を、タテ、ヨコ糸に使用して、平織物を作成し、100℃の浴中でリラックス精練を施した。このリラックス精練において、生地表面にシワが確認された。引き続き140℃のテンターでセット後、分散染料を使用して115℃で染色し、130℃で仕上げセットをした。得られた織物はリラックス精練に見られたシワが残存した表面品位の悪いものであった。
(比較例2)実施例1で得たものと同じ84dtex−36フィラメント延伸糸の2本双糸を用い、有効長2500mm接触長2500mmの全接触式熱付与ヒータ搭載3軸フリクション仮撚機を使用して仮撚加工速度400m/min、熱付与時間0.0063分、熱付与ヒーター温度170℃、加工延伸倍率1.2倍の条件で仮撚加工を実施した。しかし糸切れが多発し、満足に加工することができなかった(比較例3)実施例1で得たものと同じ84dtex−36フィラメント延伸糸の2本双糸を用い、有効長2500mm接触長136mm(有効長の5.5%)の熱付与ヒータ搭載3軸フリクション仮撚機を使用して、仮撚加工速度400m/min、熱付与時間0.0063分、熱付与ヒーター設定温度270℃、加工延伸倍率1.2倍の条件で仮撚加工を実施した。しかし、糸切れが多発し満足に加工することができなかった。
(比較例4)実施例1で得たものと同じ84dtex−36フィラメント延伸糸の2本双糸を用い、有効長880mm接触長48mm(有効長の5.5%)の熱付与ヒータ搭載3軸フリクション仮撚機を使用して、仮撚加工速度400m/min、熱付与処理時間0.003分、仮撚ヒーター設定温度290℃、加工延伸倍率1.2倍の条件で仮撚り加工を実施した。得られた加工糸は伸縮復元率(CR)が3.0%、沸騰水収縮率が10.0%だった。また、糸が熱融着してしまい、糸形態が大きく変化した。また、糸切れも発生した。
【0040】
【表1】


【0041】
【発明の効果】本発明により、生分解性を有し、織物または編物とした際に、光沢、触感、発色性および風合いに優れ、かつ高捲縮で低沸収率である脂肪族ポリエステル仮撚加工糸およびそれを安定して製造する方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】融点が130℃以上の脂肪族ポリエステルからなり、伸縮復元率(CR)が15%以上かつ沸騰水収縮率10%以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル仮撚加工糸。
【請求項2】脂肪族ポリエステルがL−乳酸を主成分とするポリエステルである請求項1または2記載の脂肪族ポリエステル仮撚加工糸。
【請求項3】脂肪族ポリエステル糸を仮撚加工する際、熱付与ヒータの有効長の3〜30%を脂肪族ポリエステル糸に接触させ、該有効長の残りは非接触とすることを特徴とする脂肪族ポリエステル仮撚加工糸の製造方法。
【請求項4】仮撚加工する際の熱付与時間Tiが下記式(1)を満たす請求項3に記載の脂肪族ポリエステル仮撚加工糸の製造方法。
Ti≦1.5/V・・・(1)
ここで、Ti:熱付与時間(分)
V:仮撚加工速度(m/分)
【請求項5】仮撚加工する際の熱付与のための熱付与ヒータの設定温度から下記式(2)で求められる熱付与後の糸温度Tが下記式(3)を満足する請求項3または4記載の脂肪族ポリエステル仮撚加工糸の製造方法。
T=T1−(T1−T2)/e(19L/60V/0.45/dt)・・・(2)
T≦170・・・(3)
ここで、T:熱付与後の糸温度(℃)
T1:熱付与ヒータの設定温度(℃)
T2:外気温(℃)
L:ヒータ有効長(m)
V:仮撚加工速度(m/分)
dt:糸繊度(dtex)
【請求項6】請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル仮撚加工糸を用いてなる織編物。

【公開番号】特開2003−247132(P2003−247132A)
【公開日】平成15年9月5日(2003.9.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−41309(P2002−41309)
【出願日】平成14年2月19日(2002.2.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】