説明

脂肪組織または胎盤組織に由来する接着性細胞および治療におけるその使用

虚血をその必要性のある対象において処置する方法であって、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の治療効果的な量を対象に投与し、それにより、虚血を対象において処置することを含む方法。結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を処置する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織または胎盤組織に由来する接着性細胞を使用して疾患を処置する方法に関し、より具体的には、虚血、ならびに/あるいは、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を、そのような接着性細胞を使用して処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発展し続ける医学界では、非常に多量の成体幹細胞が細胞移植および組織工学のためにますます求められている。加えて、成体幹細胞治療は、様々な状態を処置および治療するために、例えば、造血系障害、心臓疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳卒中、火傷、筋ジストロフィー、自己免疫障害、糖尿病および関節炎などを処置および治療するために途切れることなく発展し続けている。
【0003】
近年では、かなりの活動が、損傷した器官(例えば、脳、心臓、骨および肝臓など)の組織修復を含む様々な医学的用途のための間葉系間質細胞(MSC)の治療的可能性、および、骨髄移植(BMT)の支持におけるその治療的可能性に集中している。MSCは、例えば、骨髄、脂肪組織、胎盤および血液から得られる不均一な細胞集団であり、様々な生物活性因子からの影響に依存して、異なるタイプの間葉系の成熟細胞(例えば、細網内皮細胞、線維芽細胞、脂肪細胞、骨形成性前駆体細胞)に分化することができる。したがって、MSCが、新しい組織(例えば、骨、軟骨および脂肪など)を傷害の修復または病的組織の置換のために作るための基礎として、また、遺伝的疾患および後天的疾患のための処置として再生医療において広範囲に研究されている[FibbeおよびNoort、Ann NY Acad Sci(2003)、996:235〜44;Horwitz他、Cytotherapy(2005)、7(5):393〜5;ZimmetおよびHare、Basic Res Cardiol(2005)、100(6):471〜81]。さらに、MSCの多能的能力、その容易な単離および培養、ならびに、その大きい潜在的なエクスビボ拡大能はMSCを魅力のある治療ツールにしている[FibbeおよびNoort、上掲;Minguell他、Exp Biol Med(Maywood)(2001)、226(6):507〜20]。
【0004】
胎盤由来のMSCは、他の組織から単離されるMSCに共通する多くのマーカー(例えば、CD105、CD73、CD90およびCD29)を示し、造血系細胞マーカー、内皮細胞マーカーおよび栄養膜特異的な細胞マーカーの発現を示さない。脂肪生成分化、骨形成分化および神経形成分化が、胎盤由来MSCを適切な条件のもとで培養した後で達成されている[Yen他、Stem Cells(2005)、23(1):3〜9]。さらに、胎盤から単離され、インビトロ培養されたMSCは、MSCと類似する様式で免疫特権を有することが明らかにされている。したがって、胎盤は、実験および臨床での様々な用途のためのMSCの倫理的に議論の余地のない、容易に入手可能な供給源を提供する[Zhang他、Exp Hematol(2004)、32(7):657〜64]。
【0005】
本発明者らは、胎盤由来MSCを拡大するために好適な三次元(3D)培養条件を以前に考案している(PCT出願番号IL2007/000380)(これはその全体において参照によって本明細書中にすべてが組み込まれる)。
【0006】
MSCの主たる臨床的使用が下記にまとめられる。
【0007】
虚血
末梢動脈疾患(PAD)
末梢動脈疾患(PAD)は、重篤な医学的合併症を引き起こし得る、四肢における血流を徐々に制限する慢性疾患である。この疾患は多くの場合、高血圧、心臓血管疾患、高脂血症、糖尿病、肥満および脳卒中を含む、他の臨床的状態に付随する。重症虚血肢(CLI)が、慢性的な虚血により誘導される四肢における痛み、潰瘍、組織喪失または組織壊疽を有する患者を説明するために使用される。CLIは、血管手術または血管専門家による包括的処置を必要とするPAD患者の末期段階を表す。冠状動脈疾患および脳動脈疾患とは対照的に、末梢動脈疾患(PAD)は依然として、重篤であり、かつ、患者数が極めて多いにもかかわらず、診断されることが希であり、したがって、処置されることが一層より少ない、正当に評価されていない状態である。結果として、CLIは、四肢の切断または死に至ることが多く、PAD患者における死亡率が心筋梗塞および脳卒中の患者の死亡率を超えている。
【0008】
虚血状態を処置するための試みでは、様々な成体幹細胞が使用されている。例えば、脂肪組織由来の間質細胞(ADSC)と、内皮細胞(EC)との共培養は、主にVEGFおよびHGFの分泌により、ECの生存性、遊走および管形成における著しい増大をもたらした。間質細胞が虚血マウスの後肢に移植された4週間後、血管形成スコアが改善された[Nakagami他、J Atheroscler Thromb(2006)、13(2):77〜81]。Moon他[Cell Physiol Biochem(2006)、17:279〜90]は、脂肪組織由来の始原体細胞(ADSC)により、四肢の虚血が免疫不全マウスにおいて処置され得るかを試験しており、レーザードップラー灌流指数における著しい増大をADSC移植群において明らかにしている。
【0009】
加えて、臍帯血(UCB)由来の間葉系幹細胞が、医学的処置および外科的治療を既に受けていたバーガー病の4名の男性に移植されたとき、虚血性休息痛が男性の冒された四肢から突然に消失した[Kim他、Stem Cells(2006)、24(6):1620〜6]。そのうえ、満期胎盤の胎膜から単離されたヒト間葉系幹細胞(FMhMSC)の、梗塞を生じさせたラット心臓への移植では、増大した毛細管密度、左心室機能の正常化、および、瘢痕組織における著しい減少を伴い、このことが、幹細胞が酪酸およびレチノイン酸とのヒアルロナンの混合エステルにより前処理されたときに高まった[Ventura他(2007)、J.Biol.Chem.、282:14243〜52]。
【0010】
脳卒中
脳卒中は世界中で主要な死亡原因の1つであり、脳卒中により、全死亡のおよそ9%が引き起こされ、医療費全体の約2%〜4%が費やされる。脳卒中の死亡率が、おそらくは脳卒中の危険因子(特に、高い血圧、糖尿病および喫煙)の改善された抑制のために先進国では絶えず低下しているが、脳卒中は依然として、永続的な損傷(例えば、組織損傷、神経学的損傷)を引き起こしている。
【0011】
脳卒中のための新しい処置療法には、幹細胞治療が含まれる。幹細胞または始原体を、局所的であっても、または、静脈内経路を介してであっても、傷害を受けた部位に移植して、機能しない細胞に取って代わり、内因性の幹細胞または始原体細胞の増殖および/または分化を高め、かつ、必要な免疫調節因子を供給することが、細胞に基づく主たる戦略として意図されており、細胞に基づく主たる戦略としての立場である。脳卒中のための幹細胞/始原体細胞の潜在的供給源には、胎児神経幹細胞、胚性幹細胞、神経奇形腫細胞、臍帯血由来非造血系幹細胞、骨髄由来幹細胞および胎盤由来間葉系幹細胞が含まれる[Andres他、Neurosurg Focus(2008)、24(3−4):E16]。
【0012】
近年の研究において、Koh他[Koh他、Brain Res.(2008)]は、移植されたヒト臍帯血由来間葉系幹細胞(hUC−MSC)の神経保護効果および神経保護機構を虚血性脳卒中ラットモデルにおいて調べた。インビトロでのニューロン分化が誘導された20日後、hUC−MSCはニューロンの形態学的特徴を示し、ニューロン細胞マーカーおよびニューロン因子(例えば、神経膠細胞系由来神経栄養因子、脳由来神経栄養因子)を発現した。さらに、免疫抑制された虚血性脳卒中ラットの損傷した半球へのhUC−MSCのインビボ移植は、コントロールラットと比較して、神経行動学的機能を改善し、梗塞体積を低下させた。移植の3週間後、hUC−MSCが、損傷を受けた半球に存在し、かつ、ニューロン特異的マーカーを発現したが、それにもかかわらず、これらの細胞は、機能的に活性なニューロン細胞になっていなかった。
【0013】
整形外科用途
様々な状態および病変が結合組織(例えば、骨、腱および靱帯)の再生および/または修復を必要とする。これらには、例えば、骨折、火傷、熱傷、深部創傷、変性骨、結合組織の喪失を伴う様々なガン(例えば、骨ガン、骨肉腫、骨転移)、および、関節軟骨欠損が含まれる。
【0014】
骨治癒を高めるための自家BM−MSCの使用が動物およびヒトの様々な整形外科用途のために記載されており、そのような使用には、靱帯治癒のための骨髄の経皮注入(Carstanjcn他、2006)、整形外科診療所における骨髄の自家移植片または同種移植片による骨欠損の処置(Horwitz他、1999;Horwitz他、2002)、臨界サイズの骨欠損の再生で、イヌにおいて、ヒドロキシアパタイト−リン酸三カルシウムからなるセラミック円柱に負荷された同種骨髄MSC[Arinzeh TL他、J Bone Joint Surg Am(2003)、85−A(10):1927〜35]または自家骨髄MSC[Bruder SP他、J Bone Joint Surg Am、1998(Jul)、80(7):985〜96]を使用する再生、あるいは、ウサギにおいて同種末梢血由来MSCを使用する再生(Chao他、2006)、および、ヒヒにおいてMSC移植を使用する広範囲の骨形成(Livingston他、2003)が含まれる。
【0015】
ウマの整形外科分野において、BMおよび脂肪を供給源とする間葉系幹細胞が、実験的には、軟骨下骨嚢胞の外科的処置、骨折修復[KrausおよびKirker−Head、Vet Surg(2006)、35(3):232〜42]および軟骨修復[Brehm他、Osteoarthritis Cartilage(2006)、14(12):1214〜26;Wilke他、J Orthop Res(2007)、25(7):913〜25]のために使用されており、また、臨床的には、ウマにおける、酷使により誘導される腱の傷害の処置において使用されている。さらに、様々な異なる治療的取り組みが、ウマにおける提靱帯治癒を促進させるために使用されている(Herthel、2001)。Herthel(2001)は、自然の靱帯再生を刺激するための、自家幹細胞および関連する骨髄成分の病変部内注入を伴う、提靱帯治癒を容易にするための新規な生物学的取り組みを明らかにしている。
【0016】
傷害を受けた腱についてのウサギモデルにおいて、MSC処置された組織が、自然の修復された組織よりも強く、堅かったことが示された(Gordon他、2005)。加えて、腱のすき間への培養MSCの播種は、著しく改善された修復生体力学をもたらした(Young他、1998;Osiris Therapeutics、www.osiris.com)。
【0017】
Osiris社のChondrogen(成体間葉系幹細胞)が現在、安全性および効力を評価するために患者において試験されている。MSC処置を受けた動物において、コントロール動物との比較では、手術により除かれた半月板組織が再生され、軟骨表面が保護され、かつ、緩和された関節損傷が認められた。これらの利益が、少なくとも1年間を通して動物モデルにおいて持続した(Osiris Therapeutics、www.osiris.com)。
【発明の概要】
【0018】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、虚血をその必要性のある対象において処置する方法が提供され、この場合、この方法は、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の治療効果的な量を対象に投与し、それにより、虚血を対象において処置することを含む。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態をその必要性のある対象において処置する方法が提供され、この場合、この方法は、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の治療効果的な量を対象に投与し、それにより、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を対象において処置することを含む。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、虚血を処置するために特定される医薬品を製造するための、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の使用が提供される。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を処置するために特定される医薬品を製造するための、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の使用が提供される。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、虚血を処置することにおける使用のための表示を含む包装材を含む製造物であって、包装材により、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の医薬的に効果的な量が包装される製造物が提供される。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を処置することにおける使用のための表示を含む包装材を含む製造物であって、包装材により、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の医薬的に効果的な量が包装される製造物が提供される。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によれば、接着性細胞は免疫反応を対象において抑制することができる。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によれば、接着性細胞の少なくとも10%が増殖期にある。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によれば、虚血は末梢動脈疾患(PAD)である。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、末梢動脈疾患(PAD)は重症虚血肢(CLI)である。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、虚血は中枢神経系(CNS)の虚血を含む。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、虚血が、末梢動脈疾患、虚血性血管疾患、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性腎臓疾患および虚血性胎盤からなる群から選択される。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によれば、接着性細胞は三次元(3D)培養から得られる。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によれば、三次元(3D)培養は3Dバイオリアクターを含む。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞を3D培養において培養することが灌流下で行われる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態によれば、三次元培養の培養条件が、ポリエステルおよびポリプロピレンからなる群から選択される接着性材料を含む。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞を培養することが少なくとも3日間にわたって行われる。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によれば、細胞を培養することが、細胞の少なくとも10%が増殖中になるまで行われる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態によれば、接着性細胞は、CD37、CD90、CD29およびCD105からなる群から選択される陽性のマーカー発現を含む。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態によれば、接着性細胞は、CD3、CD4、CD45、CD80、HLA−DR、CD11b、CD14、CD19、CD34およびCD79からなる群から選択される陰性のマーカー発現を含む。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、接着性細胞は、本質的には本明細書中で記載されるような発現プロフィルを含む。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態によれば、接着性細胞は、間質幹細胞表現型を含む細胞を含む。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態によれば、間質幹細胞表現型はT細胞抑制活性を含む。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態によれば、結合組織は、腱、骨および/または靱帯を含む。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態によれば、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態が、骨折、骨ガン、熱傷、関節軟骨欠損および深部創傷からなる群から選択される。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態によれば、医学的状態が、軟骨下骨嚢胞、骨折、骨粗鬆症、変形性関節炎、変性骨、骨ガン、軟骨損傷、関節軟骨欠損、変性椎間板疾患、骨形成不全症(OI)、火傷、熱傷、深部創傷、遅れた創傷治癒、傷害を受けた腱、および、傷害を受けた靱帯からなる群から選択される。
【0044】
別途定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本明細書では本発明を単に例示し図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施形態を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【0046】
【図1A−G】図1A〜Gは、3D担体を含有するバイオリアクターシステムにおいて作製される骨様微小環境を示す。図1A〜Bは、天然骨(図1A)と、骨の微小環境を模倣する、接着性細胞を播種した7日後のPluriX(商標)3D担体の構造(図1B)との比較を示す電子顕微鏡写真である。図1C〜Fは、骨髄から作製される接着性細胞が播種されたPluriX(商標)3Dマトリックスを播種後20日で示す電子顕微鏡写真(図1C〜D、それぞれ150倍および250倍に拡大)および播種後40日で示す電子顕微鏡写真(図1E〜F、それぞれ350倍および500倍に拡大)である。図1Gは、個々の部分を数字で定義したPlurix3Dプラグフローバイオリアクターの略図である:培養培地リザーバー(1)、ガス混合物供給(2)、フィルター(3)、注入点(4)、3D担体が設置されるカラム(5)、流量モニター(6)、流量バルブ(6a)、分離用容器(7)、細胞成長分析計(8)、蠕動ポンプ(9)、サンプル採取点(10)、溶存O測定電極(11)、pH測定電極(12)、制御システム(13)、新鮮な成長培地(14)、使用後の成長培地(15)。
【0047】
【図2】図2は、バイオリアクターシステム内の3D成長条件で成長させた、胎盤由来の接着性細胞の異なる製造ロット(ロット5〜8)を示すグラフである。接着性細胞(2×10個)を10000〜15000細胞/担体の密度でバイオリアクターに播種した。12日間の培養の後、3D接着性細胞は150000〜250000細胞/担体の密度、すなわち、150個の担体を含有するバイオリアクターにおいて22.5〜37.5×10個に達した。
【0048】
【図3A−B】図3A〜Bは、従来の2D培養条件で培養された胎盤細胞における膜マーカー(明紫色)に対して比較されたときの、胎盤由来の3D接着性細胞における発現した膜マーカー(暗紫色)の発現レベルにおける差を示す棒グラフである。接着性細胞をフラスコ(2D)において4〜6週間成長させ、または、ポリスチレン担体(3D)でバイオリアクターシステムにおいて2〜3週間成長させた。細胞をフラスコまたは担体のいずれかから集めた後、細胞をインキュベートし、接着性細胞に特徴的な膜マーカー(図3A)または造血細胞に特徴的な膜マーカー(図3B)を認識するモノクローナル抗体(MAb)のパネルに結合させた。3D培養の接着性細胞において発現されるMSC膜マーカーと比較して、CD90、CD105、CD73およびCD29の膜マーカーについて示されるように、2D培養の細胞におけるMSC膜マーカーが著しく高く発現することに留意すべきである。特に、2D培養の細胞における87%に対して、CD105は3D培養の細胞において56%の発現を示した(図3A)。2Dおよび3D培養両者の接着性細胞は造血系の膜マーカーを何ら発現しなかった(図3B)。
【0049】
【図4A】図4Aは、2Dおよび3D条件のもとで培養された、胎盤から作製される接着性細胞、または、そのような接着性細胞の馴化培地におけるタンパク質レベルの比較を示す棒グラフである。図4Aは、2Dおよび3D培養接着性細胞の馴化培地においてELISAによって分析されたときの、1×10細胞/mlについて正規化されたFlt−3リガンドのレベルをpg/ml単位で示す。結果は3回の独立した実験のうちの1つを表す。タンパク質サンプルを、2D条件下で成長させた接着性細胞(白色棒)、および、3D条件下で成長させた接着性細胞(灰色棒)から採取した。図は2つの反復実験の1つを表す。2Dおよび3D培養条件の細胞および馴化培地でのいくつかのタンパク質の発現レベルにおける差に留意すべきである。
【0050】
【図4B】図4Bは、2Dおよび3D条件のもとで培養された、胎盤から作製される接着性細胞、または、そのような接着性細胞の馴化培地におけるタンパク質レベルの比較を示す棒グラフである。図4Bは、2Dおよび3D培養接着性細胞の馴化培地においてELISAによって分析されたときの、1×10細胞/mlについて正規化されたIL−6のレベルをpg/ml単位で示す。結果は3回の独立した実験のうちの1つを表す。タンパク質サンプルを、2D条件下で成長させた接着性細胞(白色棒)、および、3D条件下で成長させた接着性細胞(灰色棒)から採取した。図は2つの反復実験の1つを表す。2Dおよび3D培養条件の細胞および馴化培地でのいくつかのタンパク質の発現レベルにおける差に留意すべきである。
【0051】
【図4C】図4Cは、2Dおよび3D条件のもとで培養された、胎盤から作製される接着性細胞、または、そのような接着性細胞の馴化培地におけるタンパク質レベルの比較を示す棒グラフである。図4Cは、2Dおよび3D培養接着性細胞の馴化培地においてELISAによって分析されたときの、1×10細胞/mlについて正規化されたSCFのレベルをpg/ml単位で示す。結果は3回の独立した実験のうちの1つを表す。タンパク質サンプルを、2D条件下で成長させた接着性細胞(白色棒)、および、3D条件下で成長させた接着性細胞(灰色棒)から採取した。図は2つの反復実験の1つを表す。2Dおよび3D培養条件の細胞および馴化培地でのいくつかのタンパク質の発現レベルにおける差に留意すべきである。
【0052】
【図4D】図4Dは、2Dおよび3D条件のもとで培養された、胎盤から作製される接着性細胞、または、そのような接着性細胞の馴化培地におけるタンパク質レベルの比較を示す棒グラフである。図4Dは、両者間で比較される、iTRAQ試薬により標識されたタンパク質サンプルを用いた質量分析法によって分析されたときの、種々の細胞タンパク質の発現レベルを示す。タンパク質サンプルを、2D条件下で成長させた接着性細胞(白色棒)、および、3D条件下で成長させた接着性細胞(灰色棒)から採取した。図は2つの反復実験の1つを表す。2Dおよび3D培養条件の細胞および馴化培地でのいくつかのタンパク質の発現レベルにおける差に留意すべきである。
【0053】
【図5A−D】図5A〜Dは、骨芽細胞への胎盤由来3D接着性細胞のインビトロ分化能を示す顕微鏡写真である。ヒトの胎盤由来接着性細胞を、骨形成誘導培地(10%のFCS、100nMのデキサメタゾン、0.05mMのアスコルビン酸2−リン酸、10mMのB−グリセロリン酸を含有するDMEM)で3週間の期間、培養した。図5A〜Bは、アリザリンレッドS染色によって示されるように、石灰化したマトリックスを発現する細胞を示す。図5C〜Dは、骨形成誘導培地により処理されず、線維芽細胞様の表現型を維持したコントロール細胞を示し、石灰化を表していない。
【0054】
【図6】図6は、移植後3.5週間で化学療法(連続した2週間にわたる25mg/kgのブスルファンの腹腔内注入)により処置されたNOD−SCIDマウスの骨髄(BM)において検出されるヒトCD45+細胞の割合を示すグラフである。単核の臍帯血由来細胞から精製されたCD34+細胞(100000個)だけを移植し(5匹のマウス、a)、または、2D条件で培養された0.5×10個の胎盤由来の接着性細胞(2D接着性細胞)と同時移植し(2匹のマウス、b)、または、pluriX(商標)バイオリアクターにおいて3D条件で培養された胎盤由来の接着性細胞(3D接着性細胞)と同時移植した(5匹のマウス、c)。その後、BMをマウスの大腿骨および脛骨から回収した。BMにおけるヒト細胞をフローサイトメトリーによって検出した。CD45を発現するヒト細胞の割合を、細胞を抗ヒトCD45−FITCとインキュベートすることによって求めた。HSCだけにより処置されたマウス(a)におけるヒト細胞の割合と比較して、2D接着性細胞が同時移植されたマウス(b)、同様にまた、3D接着性細胞が同時移植されたマウス(c)の骨髄におけるヒト細胞(hCD45+)の割合がより高いことに留意すべきである。3D接着性細胞培養細胞により処置されたマウスにおいて、2D接着性細胞培養細胞により処置されたマウスと比較してより大きい生着が認められ、このことは、3D培養の接着性細胞に特有なより大きい治療上の利点を示している。
【0055】
【図7A−B】図7A〜Bは、脂肪組織由来の接着性細胞が同時移植された場合のCD34+細胞(図7B)と比較した、CD34+細胞のみが移植されたマウス(図7A)におけるヒト移植片のCD45+細胞のFACS分析である。ヒトCD34+だけにより処置されたマウス(7B、約12%)と比較して、脂肪組織由来の接着性細胞が同時移植されたマウスにおけるヒト造血集団(hCD45+)の割合が著しく高い(7A、約29%)ことに留意すべきである。
【0056】
【図8A】図8Aは、ヒト臍帯血単核細胞(CB)と、等量の放射線照射(3000Rad)された臍帯血細胞(iCB)、ヒト末梢血由来単球(PBMC)、2D培養(2D)もしくは3D培養(3D)の胎盤由来の接着性細胞、または、PBMC、および2Dおよび3D培養の胎盤由来の接着性細胞の混合物(PBMC+2DおよびPBMC+3D)との間で行われた混合リンパ球反応を示すグラフである。CB細胞集団のサイズが、培養の最後の18時間の期間中に測定された(CPM単位で測定される)H−チミジン取り込みによって表される。刺激されたCB細胞増殖が上昇するので、免疫応答のレベルがより大きくなる。接着性細胞とインキュベートされた細胞によって示される免疫応答レベルがより低くなること、および、特に、接着性細胞と同時インキュベートされたときにPBMCに対するCB免疫応答が低下することに留意すべきである。3回の反復がそれぞれの反応について行われた。
【0057】
【図8B】図8Bは、Celligen(商標)による胎盤由来の3D接着性細胞(PLX−C細胞と称される)の作製を示す流れ図である。
【0058】
【図8C】図8Cは、The New Brunswick Scientific社のウエブサイトから改作された、Celligen(商標)バイオリアクター槽およびポートの略図である。
【0059】
【図9A】図9Aは、Celligenによって作製される3D接着性細胞(PLX−Cと称される)の細胞周期分析を示す。細胞を70%EtOHにおいて一晩固定処理し、遠心分離し、ヨウ化プロピジウム(PI)溶液に再懸濁し、その後、FACSによって分析した。
【0060】
【図9B】図9Bは、Plurixによって作製される3D接着性細胞(PLXと称される)の細胞周期分析を示す。細胞を70%EtOHにおいて一晩固定処理し、遠心分離し、ヨウ化プロピジウム(PI)溶液に再懸濁し、その後、FACSによって分析した。
【0061】
【図10A−C】図10A−Cは、内皮に典型的なマーカーのPLX−C表面での発現ではなく、線維芽細胞に典型的なマーカーのPLX−C表面での発現を示す。図10Aは内皮マーカーCD31の陰性の発現を示し、図10Bは内皮マーカーKDRの陰性の発現を示し、図10Cはヒト線維芽細胞マーカー(D7−FIB)の陽性の発現を示す。イソ型IgG1(FITC)についての赤色ヒストグラムは陰性コントロールを表し、一方、青色ヒストグラムは、陽性に染色された細胞を表すことに留意すること。
【0062】
【図11A−D】図11A−Dは、PLX−C細胞表面における刺激分子および共刺激分子の発現を示す。図11AはCD80のPLX−C発現を示し、図11BはCD86のPLX−C発現を示し、図11CはCD40のPLX−C発現を示し、図11DはHLA−A/B/CのPLX−C発現を示す。陰性コントロールが、関連したイソ型蛍光分子により調製された。赤色ヒストグラムは細胞のPLX−Cマーカー発現集団を示し、青色ヒストグラムは細胞の骨髄(BM)マーカー発現集団を示し、緑色ヒストグラムは細胞の単核細胞(MNC)マーカー発現集団を示すことに留意すること。
【0063】
【図12A−B】図12Aは、PLX−Cによるリンパ球増殖の阻害を示す。図12Aは、2×10個の末梢血(PB)由来MNC(ドナーA)が等量の放射線照射(3000Rad)されたPB由来MNC(ドナーB)により刺激され、その後、増大する量のPLX−C細胞が培養物に加えられたことにより行われたMLR試験を示す。各群の3つの反復反応物が96ウエルプレートに播種された。増殖速度が[H]チミジン取り込みによって測定された。図12Bは、ConA(1.5mg/ml)により刺激された末梢血(PB)由来MNCを示す。増大する量のPLX−C細胞が培養物に加えられた。各群の3つの反復反応物が96ウエルプレートに播種された。増殖速度が[H]チミジン取り込みによって測定された。
【0064】
【図13A−B】図13A−Bは、末梢血細胞との共培養の後での前炎症性サイトカイン分泌および抗炎症性サイトカイン分泌のPLX−C調節を示す。図13A〜図13Bは、ConAにより刺激される(末梢血から単離された)ヒト由来MNCをPLX−Cと共培養した後でのIFNγの分泌(図13A)およびTNFαの分泌(図13B)を示す。
【0065】
【図13C】図13Cは、末梢血細胞との共培養の後での前炎症性サイトカイン分泌および抗炎症性サイトカイン分泌のPLX−C調節を示す。図13Cは、LPSにより刺激される(末梢血から単離された)ヒト由来MNCをPLX−Cと共培養した後でのIFNγ、TNFαおよびIL−10の分泌を示す。上清が集められ、ELISAを使用するサイトカイン分析に供された。
【0066】
【図14】図14は、PLX−C細胞に感染させるために使用されたルシフェラーゼ発現ベクターを示す。OmicsLinkから得られる発現ベクターLv33をこの場合には使用した。ルシフェラーゼ遺伝子がORF内にクローン化された。
【0067】
【図15】図15は、感染PLX−C細胞による高いルシフェラーゼ発現を示す。細胞にルシフェラーゼ発現ベクターを感染させ、細胞を感染後48時間でIVISシステムによって可視化した。様々な細胞が高いレベルのルシフェラーゼ発現を示したことに留意すること。
【0068】
【図16A−B】図16A−Bは、SCID/Beigeマウスへの2×10個のルシフェラーゼ発現PLX−C細胞の注射を示す。1匹のマウスがIM注射され、1匹のマウスがIV注射された。注射を受けたマウスを、PLX−Cのインビボ生体分布を評価するためにIVISシステムを使用してモニターした。1日目のIVIS結果(図16A)および4日目のIVIS結果(図16B)が示される。
【0069】
【図16C−D】図16C−Dは、SCID/Beigeマウスへの2×10個のルシフェラーゼ発現PLX−C細胞の注射を示す。1匹のマウスがIM注射され、1匹のマウスがIV注射された。注射を受けたマウスを、PLX−Cのインビボ生体分布を評価するためにIVISシステムを使用してモニターした。6日目のIVIS結果(図16C)および22日目のIVIS結果(図16D)が示される。
【0070】
【図17】図17は、本発明の接着性細胞(PLX−Cと称される)により処置されたマウスの腰および足における増大した灌流を示すグラフである。図はマウスの腰および足における灌流パーセントのメジアンを示す。腰および足での血流を、手術後0日目、6日目、9日目、14日目および21日目に両側から非接触レーザードップラーを使用して測定した(示されるのは、21日目における測定結果である)。結果が、実験期間中の正常な肢における血流に対する虚血肢における血流の比率として表される。
【0071】
【図18】図18は、肢機能および虚血性損傷のインビボ評価を示すグラフである。虚血肢の損なわれた使用の半定量的評価を、下記のスコアシステムを使用して連続的に行った:3=足の引きずり、2=引きずりがないが、足底屈もない、1=足底屈、および、0=足指を曲げて、尾の穏やかな牽引に抵抗する。
【0072】
【図19A−C】図19A−Cは、PLX−C処置の後での増大した毛細管密度を示す。図19Aは、PBSにより処置されたマウスにおける毛細管密度を示し、図19Bは、PLX−C細胞により処置されたマウスにおける毛細管密度を示し、図19Cは、筋肉細胞あたりの毛細管の数を示す棒グラフである。増大した毛細管密度が、特異的な毛細管染色によって明らかにされるように、誘導された肢虚血の後、コントロールマウスにおいてではなく、PLX−C処置マウスにおいて認められたことに留意すること。
【0073】
【図20A−B】20A−Bは、PLX−C投与の後での低下した酸化ストレスおよび内皮炎症を示す。図20Aは、酸化ストレスを示す棒グラフであり(ニトロチロシン染色)、図20Bは、内皮炎症を示す棒グラフである(VCAM評価)。低下した酸化ストレスおよび内皮炎症が、PLX−Cにより処置されたマウスにおいて認められることに留意すること。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本発明は、いくつかの実施形態において、組織における血管形成を、胎盤組織または脂肪組織の接着性細胞を使用して増大させる方法、ならびに、虚血、あるいは、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を、胎盤組織または脂肪組織の接着性細胞を使用して処置する方法に関する。
【0075】
本発明の原理および作用が、図面および付随する説明を参照してより十分に理解されることができる。
【0076】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または、実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または、様々な方法で実施または実行される。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであって、限定であると見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0077】
本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、胎盤組織または脂肪組織から得られる接着性細胞が、組織における血管形成を増大させることにおいて、また、虚血、ならびに、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を処置することにおいて非常に効率的であることを発見している。
【0078】
本明細書中下記において、また、下記の実施例の節の実施例1〜実施例8において例示されるように、本発明者らは、間質幹細胞の性質を含む脂肪由来接着性細胞および胎盤由来接着性細胞を拡大することができた。それに従って拡大された細胞は、接着アッセイおよび再集団化アッセイによって立証されるように、凍結保存後、生存可能であることが見出された(実施例1を参照のこと)。胎盤由来接着性細胞のフローサイトメトリー分析では、全く異なったマーカー発現プロフィルが明らかにされた(図3A〜図3Bを参照のこと)。下記の実施例の節の実施例6においてさらに示されるように、胎盤由来接着性細胞の移植は、動脈結紮を受けたマウス(虚血後肢モデル)の腰および足における血流を著しく誘導し(図17)、肢の機能を著しく改善し(図18)、毛細管密度を増大させ(図19A〜図19C)、また、酸化ストレスおよび内皮炎症を低下させた(図20A〜図20B)。
【0079】
したがって、本発明の1つの局面によれば、組織における血管形成を増大させる方法が提供される。この方法は、組織を、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞と接触させ、それにより、組織における血管形成を増大させることによって行われる。
【0080】
本明細書中で使用される表現「組織における血管形成を増大させる」は、新しい毛細血管を組織において生成するプロセスを増大させること(誘導すること、アップレギュレーションすること)を示す。
【0081】
本明細書中で使用される表現「接着性細胞」は、足場依存的で、すなわち、インビトロで成長するために表面への付着を必要とする細胞の均一集団または不均一集団を示す。
【0082】
本明細書中で使用される表現「脂肪組織」は、脂肪細胞(fat cell、adipocyte)を含む結合組織を示す。
【0083】
本明細書中で使用される用語「胎盤組織」は、子宮壁の内側を覆い、妊娠期間中は胎児を包む、胎児が臍帯によって結び付けられる哺乳動物の雌性器官の任意の部分を示す。出産後、胎盤は排出される(これは分娩後胎盤と呼ばれる)。例示的な実施形態では、胎盤は胎盤全体を示す。
【0084】
胎盤組織または脂肪組織に由来する接着性細胞を、二次元または三次元の培養条件を使用して増殖させることができる。
【0085】
接着性細胞を2D培養において増殖させるための条件が、本明細書中下記において、また、下記の実施例の節においてさらに記載される。
【0086】
本明細書中で使用される表現「三次元培養」は、細胞成長との適合性を有し、同時に、細胞が2層以上の層で成長することを可能にする条件に細胞が配置される培養を示す。生きている生物(または組織)における細胞のインシトゥー環境が三次元構造にあることが十分に理解される。細胞が他の細胞によって取り囲まれる。細胞が、様々な局所的微小環境の確立を可能にする細胞外マトリックスのナノスケール繊維の複雑なネットワークで保持される。それらの細胞外リガンドが、基底膜への結合だけでなく、様々な血管およびリンパ管への接近もまた媒介する。酸素、ホルモンおよび栄養分が細胞に運ばれ、老廃物が運び去られる。本発明の三次元培養における条件は、下記においてさらに例示されるように、そのような環境を模倣するために設計される。
【0087】
三次元培養の条件は、接着性細胞の拡大を可能にするような条件であることが理解される。
【0088】
本明細書中で使用される用語「拡大する」および用語「拡大」は、細胞および最終的には細胞成長の、実質的に分化がない維持、すなわち、細胞集団の増大(例えば、少なくとも2倍)で、そのような増大に随伴する分化がないことを示す。
【0089】
本明細書中で使用される用語「維持する」および用語「維持」は、実質的に分化がない細胞更新、すなわち、実質的に定常的な細胞集団で、そのような定常性に随伴する分化がないことを示す。
【0090】
述べられたように、本発明のこの局面の接着性細胞は脂肪組織または胎盤組織から取り出される。
【0091】
胎盤の細胞を満期または早産の胎盤から得ることができる。胎盤は、好ましくは、胎盤が完全に放血されると集められる。胎盤は、好ましくは、残存する細胞を除くために十分な期間にわたって灌流される。本明細書中で使用される用語「灌流する」または用語「灌流」は、流体を器官または組織に浴びせるか、または通すという行為を示す。胎盤組織は任意の哺乳動物に由来し得る。例えば、胎盤組織はヒト由来である。胎盤組織の好ましい供給源は分娩後の胎盤(例えば、1〜6時間)に由来する。しかしながら、胎盤組織もしくは胎盤細胞の供給源、または、胎盤組織を単離する方法は本発明にとって重要でない。
【0092】
胎盤由来の接着性細胞を胎盤の胎児部分(すなわち、羊膜または胎盤の内側部分、実施例1参照)および母体部分(すなわち、基底脱落膜および壁側脱落膜)の両方から得ることができる。組織試料は生理学的緩衝液[例えば、リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)またはハンクス緩衝液]で洗浄される。単細胞懸濁物が、組織を消化酵素により処理すること(下記参照)、または/および、組織部分を細かく刻み、ナイロンフィルターに通すことによって、あるいは、洗浄媒体とともに穏やかなピペッティングすること(Falcon、Becton,Dickinson、San Jose、CA)によって作製される。
【0093】
脂肪組織由来の接着性細胞を、当業者に知られている様々な方法によって単離することができる。例えば、そのような方法が米国特許第6153432号に記載されている。脂肪組織は、大網/内臓部位、乳房部位、性腺部位または他の脂肪組織部位に由来し得る。脂肪組織の一つの供給源は大網脂肪である。ヒトでは、脂肪は典型的には脂肪吸引によって単離される。
【0094】
脂肪組織からの単離された接着性細胞は、組織を消化酵素(例えば、コラゲナーゼ、トリプシンおよび/またはジスパーゼなど)、および/または、効果的な濃度のヒアルロニダーゼもしくはDNAse、および、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)により、25℃〜50℃の間での温度で10分〜3時間にわたって処理することによって取り出すことができる。その後、細胞は20ミクロン〜1mmの間のナイロンまたはチーズクロスのメッシュフィルターに通すことができる。その後、細胞は直接に媒体での分画遠心法に供されるか、あるいは、FicollまたはPercollまたは他の微粒子の勾配による分画遠心法に供される。細胞は100〜3000xgの間での速度において1分〜1時間にわたって4〜50℃の間の温度で遠心分離される(米国特許第7078230号参照)。
【0095】
胎盤組織または脂肪組織に由来する接着性細胞に加えて、本発明ではまた、(本明細書中下記においてさらに記載されるように)間質幹細胞表現型によって特徴づけられる他の細胞供給源からの接着性細胞の使用が想定される。接着性細胞を回収することができる組織供給源には、臍帯血、毛嚢[例えば、米国特許出願第20060172304号に記載されるように]、精巣[例えば、Guan K.et al.、Nature、2006(4月27日)、440(7088):1199〜203に記載されるように]、ヒト嗅粘膜[例えば、Marshall,CT.et al.、Histol Histopathol、2006(Jun)、21(6):633〜43に記載されるように]、胚性卵黄嚢[例えば、Geijsen N、Nature、2004(1月8日)、427(6970):148〜54に記載されるように]および羊水[Pieternellaet al.(2004)、Stem Cells、22:1338〜1345]が含まれるが、これらに限定されない。これらはすべて、間葉系幹細胞を含むことが知られている。これらの組織供給源からの接着性細胞は、細胞を接着性の表面で培養する。従って、接着性細胞を最初の集団における他の細胞から単離することによって単離することができる。
【0096】
起源(例えば、胎盤組織または脂肪組織)にかかわらず、細胞の回収は、好ましくは、無菌条件下で行われる。単離された細胞が得られると、単離された細胞は、接着性細胞をそれにより単離するために接着性材料(例えば、表面として構成される接着性材料)に接着させることができる。培養は、実施例の節の実施例4に記載のように2D条件下で行われることができ、細胞は、3D条件にさらに移されることができる。
【0097】
本明細書中で使用される「接着性材料」は、細胞を表面に保持することができる化学的構造(例えば、荷電を帯びた表面露出基)を有する細胞非毒性(すなわち、生物学的に適合した)材料の合成物、天然物、または、それらの組合せを示す。
【0098】
本発明のこの態様に従って使用することができる接着性材料の例には、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアルキレン、ポリフルオロクロロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ガラス繊維、セラミック粒子、マトリゲル、細胞外マトリックス成分(例えば、フィブロネクチン、コンドロネクチン、ラミニン)、コラーゲン、ポリL乳酸および不活性金属繊維が含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
間質幹細胞についての精製または富化のさらなる工程を、この分野では広く知られている方法を使用して、(例えば、本明細書中下記にさらに記載するように、間質幹細胞マーカーの発現を使用するFACSなどによって)行うことができる。
【0100】
本発明に従って培養することにおいて有用な基礎培地の限定されない例には、培地199、CMRL1415、CMRL1969、CMRL1066、NCTC135、MB75261、MAB8713、DM145、ウイリアムズG、ノイマン&タイテル、ヒグチ、MCDB301、MCDB202、MCDB501、MCDB401、MCDB411、MCDB153をはじめとして、数多くの中で、最少必須培地イーグル、ADC−1、LPM(ウシ血清アルブミン非含有)、F10(HAM)、F12(HAM)、DCCM1、DCCM2、RPMI1640、BGJ培地(フィトン・ジャクソン改変を含む培地および含まない培地)、基礎培地イーグル(BME、アール塩基礎の添加を伴う培地)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM−血清非含有)、ヤマネ、IMEM−20、グラスゴー改変イーグル培地(GMEM)、ライボビッツL−15培地、マッコイ5A培地、培地M199(M199E、アール塩基礎を伴う)、培地M199(M199H、ハンクス塩基礎を伴う)、最少必須培地イーグル(MEM−E、アール塩基礎を伴う)、最少必須培地イーグル(MEM−H、ハンクス塩基礎を伴う)、および、最少必須培地イーグル(MEM−NAA、非必須アミノ酸を伴う)が含まれる。本発明において使用される好適な培地はDMEMである。これらの培地および他の有用な培地を、とりわけ、GIBCO(Grand Island、N.Y.、米国)およびBiological Industries(Bet HaEmek、イスラエル)から入手することができる。これらの培地のいくつかが、William B.JakobyおよびIra H.Pastanによって編集され、Academic Press,Inc.によって発行されるMethods in Enzymology(第LVIII巻、“Cell Culture“、62頁〜72頁)に要約される。
【0101】
培地には、例えば、血清(例えば、ウシまたは他の種の胎児血清など)、ならびに、場合により、または、代替として、ピコグラム/ml〜ミリグラム/mlの間の濃度での増殖因子、ビタミン(例えば、アスコルビン酸)、サイトカイン、塩(例えば、B−グリセロリン酸)、ステロイド(例えば、デキサメタソン)、およびホルモン(例えば、成長ホルモン、エリスロポイエチン、トロンボポイエチン、インターロイキン3、インターロイキン6、インターロイキン7、マクロファージコロニー刺激因子、c−kitリガンド/幹細胞因子、オステオプロテゲリンリガンド、インスリン、インスリン様増殖因子、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経成長因子、毛様体神経栄養因子、血小板由来増殖因子および骨形態形成タンパク質)などを補充することができる。
【0102】
さらなる成分が培養培地に加えられ得ることがさらに認識される。そのような成分は、抗生物質、抗真菌剤、アルブミン、アミノ酸、および、細胞の培養のためにこの分野で知られている他の成分であり得る。加えて、様々な成分を、必要とされるときには分化プロセスを強化するために加えることができる(さらには下記参照)。
【0103】
本発明の接着性細胞がヒト対象に投与される場合に備えて、細胞および培養培地(例えば、上記で記載される培地添加物を伴う培養培地)は実質的に異物非含有でなければならず、すなわち、何らかの動物由来混入物(例えば、マイコプラズマ)を有してはならないことが理解される。例えば、培養培地には、血清代替物、ヒト血清、および/または、合成もしくは組換え産生された因子を補充することができる。
【0104】
述べられたように、接着性細胞が得られると、接着性細胞は二次元環境または三次元環境に継代することができる(下記の実施例の節の実施例1および実施例4を参照のこと)。だが、細胞は、(本明細書中上記で述べられたように)、単離直後に3D形態のマトリックスに移され得るか、または、代替として、二次元条件の後で三次元環境に継代され得ることが理解される。
【0105】
したがって、本発明のこの局面の接着性材料は3D培養のために構成され、それにより、組織(例えば、胎盤)の構造基盤を模倣するように細胞の接着のための利用可能な付着表面を実質的に増大させる生育マトリックスを提供する。
【0106】
高規模産生のために、培養を3Dバイオリアクターで行うことができる。
【0107】
そのようなバイオリアクターの例には、プラグフローバイオリアクター、連続撹拌型タンクバイオリアクター、定常床バイオリアクター、CelliGen Plus(登録商標)バイオリアクターシステム(New Brunswick Scientific(NBS))またはBIOFLO310バイオリアクターシステム(New Brunswick Scientific(NBS))が含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
実施例の節の実施例4において示されるように、Celligenバイオリアクターでは、接着性細胞を、制御された条件(例えば、pH、温度および酸素レベル)のもと、一定の細胞成長培地灌流により3D拡大することができる。さらに、細胞培養は、グルコース、乳酸、グルタミン、グルタミン酸およびアンモニウムの濃度レベルについて直接的にモニターすることができる。接着性細胞のグルコース消費速度および乳酸形成速度は、細胞成長速度を測定すること、および、回収時期を決定することを可能にする。
【0109】
本発明とともに使用され得る他の3Dバイオリアクターには、下記のバイオリアクターが含まれるが、これらに限定されない:時定数定常状態をリアクター内で維持するために、培養培地がバイオリアクターに連続的に供給され、生成物が連続的に抜き取られる連続撹拌槽型バイオリアクター。繊維状床バスケットを有する撹拌槽型バイオリアクターを、例えば、New Brunswick Scientific Co.(Edison、NJ)から入手することができる。定常床バイオリアクター、エアーリフトバイオリアクター(このバイオリアクターでは、空気が、典型的には、中央通気管の底部に供給され、気泡を形成しながら上に流れ、排気ガスをカラムの上部から放出する)、ポリアクティブ発泡体を有する細胞播種灌流バイオリアクター[Wendt,D.et al.、Biotechnol Bioeng、84:205〜214(2003)に記載されるようなバイオリアクター]、ラジアルフロー灌流バイオリアクターにおける管状のポリL−乳酸(PLLA)の多孔性足場[Kitagawaet al.、Biotechnology and Bioengineering、93(5):947〜954(2006)に記載されるようなバイオリアクター]。本発明に従って使用することができる他のバイオリアクターが、米国特許第6277151号、同第6197575号、同第6139578号、同第6132463号、同第5902741号および同第5629186号に記載される。
【0110】
細胞の播種が好ましくは、播種時において100000細胞/mm〜1500000細胞/mmで行われる。合計で150±30×10個の細胞が播種される1つの例示的な実施形態において、3〜5×10細胞/g担体が播種されるか、または、0.015〜0.1×10細胞/mlが播種される。
【0111】
細胞は、制御されない分化および老化を避けながら、細胞の少なくとも約10%が増殖中であるときに回収することができる。
【0112】
培養することが、少なくとも2日間、3日間、4日間、5日間、10日間、20日間、1ヶ月間程度、または、一層より長い期間にわたって行われる。バイオリアクターにおける培養はこの期間を延ばすことができることが理解される。3D培養における接着性細胞の培養は培養培地の連続流通のもとで行うことができる。継代培養もまた、細胞数を増大させるために行うことができる。培養培地が、培養条件を延ばし、また、培養条件を改善するために取り替えられ得ることが理解される。
【0113】
本発明のいくつかの実施形態の接着性細胞は、(S期およびG2/M期をFACSモニタリングすることによってアッセイされ得るように)少なくとも約10%、28%、30%、50%、80%またはそれ以上の増殖性細胞を含む。
【0114】
本発明のいくつかの実施形態の接着性細胞は、好ましくは、少なくとも1つの「間質幹細胞表現型」を含むことができる。
【0115】
本明細書中で使用される「間質幹細胞表現型」は、骨髄由来の間質幹細胞(すなわち、間葉系幹細胞)に典型的な構造的表現型または機能的表現型を示す。
【0116】
本明細書中で使用される表現「幹細胞」は、最終分化していない細胞を示す。
【0117】
従って、例えば、細胞は紡錘体形状を有することができる。代替として、または、加えて、細胞は、間質幹細胞に典型的な1つのマーカーまたは一連のマーカー(例えば、表面マーカー)を発現することができる。間質幹細胞表面マーカー(陽性および陰性)の例には、CD105+、CD29+、CD44+、CD73+、CD90+、CD3−、CD4−、CD34−、CD45−、CD80−、CD19−、CD5−、CD20−、CD11B−、CD14−、CD19−、CD79−、HLA−DR−およびFMC7−が含まれるが、これらに限定されない。他の間質幹細胞マーカーには、チロシンヒドロキシナーゼ、ネスチンおよびH−NFが含まれるが、これらに限定されない。
【0118】
本発明の教示に従って作製される胎盤組織の接着性細胞は、本質的には下記の実施例の節の実施例4において記載されるような遺伝子発現プロフィルを有する。
【0119】
間質幹細胞に典型的な機能的表現型の例には、T細胞抑制活性(これはT細胞を刺激せず、逆に、T細胞を抑制する)、造血幹細胞支持活性、ならびに、脂肪生成性分化、肝性分化、骨形成性分化および神経性分化が含まれるが、これらに限定されない。
【0120】
これらの構造的特徴または機能的特徴はどれも、本発明の細胞を適格とするために使用することができる(下記の実施例の節の実施例1〜2参照)。
【0121】
本発明の教示に従って作製された細胞の集団は、実施例の節の実施例1において示されるような特異なタンパク質発現プロフィルを特徴とする。従って、例えば、発明の教示に従って作製された胎盤組織または脂肪組織の接着性細胞は、高いレベルの選択された因子を発現および/または分泌することができる。例えば、そのような細胞は、SCF、Flt−3、H2Aヒストンファミリー(H2AF)またはアルデヒドデヒドロゲナーゼX(ALDH X)を、2D培養で成長させられた胎盤組織または脂肪組織の接着性細胞によって発現または分泌されるレベルよりも少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、または、好ましくは12倍大きく発現または分泌する。加えて、または、代替として、本発明の細胞の集団は、IL−6、真核細胞翻訳伸長因子(EEEF2)、レチクロカルビン3、EF−ハンドカルシウム結合ドメイン(RCN2)またはカルポニン1塩基性平滑筋(CNN1)を、2D培養で成長させた胎盤組織または脂肪組織の接着性細胞によって発現または分泌されるレベルよりも少なくとも2倍、3倍または5倍大きいレベルで分泌または発現する。加えて、または、代替として、本発明の細胞の集団は、2D培養の細胞に対して比較されたとき、様々な他のタンパク質発現レベルがより低いことを特徴とする。従って、例えば、2D培養で成長させられた胎盤組織または脂肪組織の接着性細胞によって発現または分泌されるヘテロ核リボヌクレオタンパク質H1(Hnrph1)、CD44抗原イソ型2前駆体、3−ホスホアデノシン5−ホスホスルフェートシンターゼ2イソ型a(Papss2)またはリボソームタンパク質L7a(rpL7a)の発現レベルの0.6、0.5、0.25または0.125未満を分泌または発現する。
【0122】
下記の実施例の節の実施例3〜実施例4において示されるように、接着性細胞、具体的には、3D接着性細胞は、混合リンパ球反応(MLR)アッセイにおいてヒト臍帯血単核細胞の免疫反応を抑制すること、したがって、臨床において優先的に使用され得る生物学的活性(例えば、T細胞抑制活性、造血幹細胞支持活性)を示すことが見出された。
【0123】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明の接着性細胞は、免疫反応を対象において抑制することができる。
【0124】
本明細書中で使用される表現「免疫反応を対象において抑制する」は、抗原(例えば、外来細胞またはその一部)に応答して対象において生じる免疫反応を低下させるか、または阻害することを示す。接着性細胞によって抑制され得る免疫応答には、体液性免疫応答および細胞性免疫応答が含まれ、これらは、抗体およびTリンパ球(T細胞の増殖)による病原体抗原の特異的な認識をそれぞれ伴う。
【0125】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明の接着性細胞は、二次元(2D)培養で成長させられた胎盤組織または脂肪組織の接着性細胞の免疫抑制活性よりも大きい免疫抑制活性によって特徴づけられる。
【0126】
本発明の1つの実施形態によれば、そのような免疫抑制活性は、T細胞増殖における低下を含む。
【0127】
本明細書中上記で述べられたように、また、下記の実施例の節の実施例6において記載されるように、本発明の接着性細胞はインビボでの血管形成(例えば、腰および足における血流)を誘導し、動脈結紮を受けた動物の肢機能を著しく改善し、毛細管密度を増大させ、また、酸化ストレスおよび内皮炎症を低下させた。さらに、下記の実施例の節の実施例7において詳しく記載されるように、本発明の接着性細胞は、脳卒中からの回復をラットモデルにおいて著しく改善した。
【0128】
したがって、本発明の別の局面によれば、虚血をその必要性のある対象において処置する方法が提供される。この方法は、本発明の接着性細胞の治療効果的な量を対象に投与し、それにより、虚血を対象において処置することによって行われる。
【0129】
用語「虚血」は、本明細書中で使用される場合、不十分な血管形成によって特徴づけられるか、または、不十分な血管形成に関連する何らかの病理(疾患、状態、症候群または障害)を示す。例には、末梢動脈疾患(PAD)(例えば、肢虚血および重症虚血肢(CLI)など)、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、遅れた創傷治癒、遅れた潰瘍治癒、生殖関連障害、動脈硬化、虚血性血管疾患、虚血性心臓疾患、心筋梗塞、冠状動脈疾患(CAD)、アテローム動脈硬化性心臓血管疾患、左主冠状動脈疾患、動脈閉塞性疾患、末梢虚血、末梢血管疾患、腎臓の血管疾患、末梢動脈疾患、肢虚血、下肢虚血、脳虚血、脳血管疾患、網膜症、腎修復、再構築障害、フォンヒッペル・リンダウ症候群、遺伝性出血性毛細管拡張症、虚血性血管疾患、バーガー病、虚血性腎臓疾患および虚血性胎盤が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
本明細書中で使用される用語「処置する」は、病理(例えば、虚血)の発達を阻害するか、もしくは停止させること、および/または、病理の軽減、寛解もしくは退行を生じさせることを示す。当業者は、様々な方法論およびアッセイが、病理の発達を評価するために使用され得ること、また、同様に、様々な方法論およびアッセイが、病理の軽減、寛解もしくは退行を評価するために使用されるかもしれないことを理解する。用語「処置する」はまた、病理に関連する症状を緩和または軽減することを示す場合がある。
【0131】
本明細書中で使用される表現「その必要性のある対象」は、任意の対象(例えば、哺乳動物)を示し、例えば、病理と診断されるか、または病理に苦しむヒト対象などを示す。
【0132】
本明細書中上記で述べられたように、また、下記の実施例の節の実施例8において記載されるように、本発明者らは、本発明の接着性細胞が結合組織の再生および/または修復を可能にすることを見出している。
【0133】
したがって、本発明のさらにさらなる局面によれば、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態をその必要性のある対象において処置する方法が提供される。この方法は、本発明の接着性細胞の治療効果的な量を対象に投与することによって行われる。
【0134】
表現「結合組織」は、コラーゲンの線維、弾性繊維(例えば、筋肉および血管の間およびそれらの回りの弾性繊維)および単純な細胞を含む支持用骨格組織を示す。結合組織の例には、密性結合組織(例えば、靱帯、腱、歯周靱帯)、輪紋状結合組織(例えば、タンパク質性繊維(例えば、コラーゲンおよびエラスチンなど)を伴う輪紋状結合組織)、網様結合組織、脂肪組織、血液、骨、軟骨、皮膚、椎間板、歯髄、象牙質、歯肉、細胞外マトリックス(ECM)形成細胞、疎性結合組織および平滑筋細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0135】
本明細書中で使用される表現「結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態」は、結合組織の損傷(すなわち、機能しない組織、ガン性または前ガン性の組織、破壊された組織、破砕された組織、線維症性組織または虚血性組織)または喪失(例えば、外傷、感染性疾患および遺伝的疾患の後での喪失)によって特徴づけられる何らかの病理を示す。そのような病理の限定されない例には、骨折、骨ガン(例えば、骨肉腫、骨ガン転移)、熱傷、関節軟骨欠損および深部創傷が含まれる。
【0136】
表現「対象に投与する」は、本発明の細胞を標的組織に導入することを示す。細胞はレシピエントに由来し得るか、あるいは、同種ドナーまたは異種ドナーに由来し得る。この表現はまた、対象への本発明の細胞の「移植(transplantation)」、「細胞置換」または「移植(grafting)」を包含する。
【0137】
対象は、ヒトまたは飼育されている様々な動物(これらには、ウマ(すなわち、ウマ科動物)、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラクダ、アルパカ、ラマおよびヤクが含まれるが、これらに限定されない)を含めて、結合組織の再生および/または修復の必要性のある任意の哺乳動物であり得る。
【0138】
本発明の教示の1つの実施形態によれば、本発明の接着性細胞は、(上記で言及されたように)、軟骨下骨嚢胞、骨折、骨粗鬆症、変形性関節炎、変性骨、結合組織の喪失を伴う様々なガン(例えば、骨ガン、骨肉腫、骨転移)、軟骨損傷、関節軟骨欠損、変性椎間板疾患、骨形成不全症(OI)、火傷、熱傷、深部創傷、遅れた創傷治癒、傷害を受けた靱帯、および、傷害を受けた腱(例えば、その必要性のあるウマおよび他の対象における、酷使により誘導される腱の傷害)を含めて、様々な状態を処置するために使用することができる。
【0139】
本発明のこの態様に従って投与することができる細胞には、二次元環境または三次元環境で培養され得る上記の接着性細胞、ならびに、その接着性細胞の間葉系および非間葉系の部分的に分化した誘導体または最終分化した誘導体が含まれる。
【0140】
系列特異的な細胞を本発明の間質幹細胞から誘導する様々な方法がこの分野では広く知られている。例えば、米国特許第5486359号、同第5942225号、同第5736396号、同第5908784号および同第5902741号参照。
【0141】
細胞は未感作であるか、または、目的とする系列を誘導するように遺伝子操作され得る(米国特許出願公開第20030219423号参照)。
【0142】
細胞および培地は、新鮮な調製物または凍結(例えば、冷凍保存)された調製物の自己供給源または非自己供給源(すなわち、同種または異種)のものであり得る。
【0143】
医学的状態に依存して、対象には、さらなる化学的薬物(例えば、免疫調節、化学療法など)または細胞が投与され得る。
【0144】
非自己細胞は、身体に投与されたとき、免疫反応を誘導する可能性があるので、いくつかの取り組みが、非自己細胞の拒絶の可能性を軽減するために開発されている。これらには、レシピエントの免疫系を抑制すること、または、非自己細胞を、移植前に、免疫隔離する半透膜でカプセル化することのいずれかが含まれる。
【0145】
カプセル化技術は一般には、小さい球状賦形剤を伴うマイクロカプセル化)およびより大きいフラットシート膜および中空繊維膜を伴うマクロカプセル化に分類される(Uludag,H.et al.、“Technology of mammalian cell encapsulation.”、Adv Drug Deliv Rev、2000、42:29〜64)。
【0146】
マイクロカプセルを調製する様々な方法がこの分野では知られており、これらには、例えば、Lu MZet al. “Cell encapsulation with alginate and alpha− phenoxycinnamylidene−acetylated poly(allylamine).“、Biotechnol Bioeng、2000、70:479〜83)、Chang TMおよびPrakash S”Procedures for microencapsulation of enzymes, cells and genetically engineered microorganisms.“、Mol Biotechnol、2001、17:249〜60)、および、Lu MZet al.”A novel cell encapsulation method using photosensitive poly(allylamine alpha−cyanocinnamylideneacetate).”、J Microencapsul、2000、17:245〜51)によって開示される方法が含まれる。
【0147】
例えば、マイクロカプセルが、修飾コラーゲンを、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリル酸(MAA)およびメタクリル酸メチル(MMA)のターポリマー外皮により複合体化し、これにより、2〜5μmのカプセル厚さを生じさせることによって調製される。そのようなマイクロカプセルはさらに、負荷電の滑らかな表面を与えるために、また、血漿タンパク質の吸収を最小限に抑えるために、2〜5μmのさらなるターポリマー外皮によりカプセル化することができる(Chia,S.M.et al.、“Multi−layered microcapsules for cell encapsulation“、Biomaterials、2002、23:849〜56)。
【0148】
他のマイクロカプセルはアルギン酸塩(海洋多糖類)(Sambanis,A、“Encapsulated islets in diabetes treatment.“、Diabetes Technol.Ther.、2003、5:665〜8)またはその誘導体に基づく。例えば、マイクロカプセルを、塩化カルシウムの存在下における、ポリカチオンのポリ(メチレン−co−グアニジン)塩酸塩との、ポリアニオンのアルギン酸ナトリウムおよびセルロース硫酸ナトリウムの間での多電解質複合体化によって調製することができる。
【0149】
細胞のカプセル化は、より小さいカプセルが使用されるときには改善されることが理解される。従って、カプセルサイズが1mm〜400μmに減少したとき、カプセル化細胞の品質管理、機械的安定性、拡散特性およびインビトロ活性が改善された(Canaple L.et al.、“Improving cell encapsulation through size control.“、J Biomater Sci Polym Ed、2002、13:783〜96)。そのうえ、7nmもの小さい十分に制御された細孔サイズ、目的に合わせて調節された表面化学および精密な微小構造を有するナノ多孔性バイオカプセルは、細胞のための微小環境を首尾良く免疫隔離することが見出された(Williams D、”Small is beautiful: microparticle and nanoparticle technology in medical devices.”、Med Device Technol、1999、10:6〜9;Desai,T.A.、“Microfabrication technology for pancreatic cell encapsulation.“、Expert Opin Biol Ther、2002、2:633〜46)。
【0150】
免疫抑制剤の例には、メトトレキサート、シクロホスファミド、シクロスポリン、シクロスポリンA、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン(スルファサラゾピリン)、金塩、D−ペニシラミン、レフルノミド、アザチオプリン、アナキンラ、インフリキシマブ(REMICADE)、エタネルセプト、TNF.アルファ.遮断剤、炎症性サイトカインを標的とする生物学的製剤、および、非ステロイド抗炎症剤(NSAID)が含まれるが、これらに限定されない。NSAIDの例には、アセチルサリチル酸、サリチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサル、サリチル酸マグネシウム、サルサラート、サリチル酸ナトリウム、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナマート、ナプロキセン、ナブメトン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、Cox−2阻害剤およびトラマドールが含まれるが、これらに限定されない。
【0151】
本明細書中に記載される方法のいずれかにおいて、細胞または培地はそれ自体で投与することができ、または、好ましくは、医薬的に許容され得る担体をさらに含む医薬組成物の一部として投与することができる。
【0152】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本発明の接着性細胞(即ち、三次元培養から得られる、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞)と、他の化学的成分(例えば、医薬的に好適な担体および賦形剤)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、対象に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0153】
以降、用語「医薬的に許容され得る担体」は、対象に対する著しい刺激を生じさせず、かつ、投与された化合物の生物学的活性および生物学的性質を阻害しない担体または希釈剤を示す。担体の非限定的な例には、プロピレングリコール、生理食塩水、エマルジョンおよび有機溶媒と水の混合物がある。
【0154】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、化合物の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0155】
本発明の好ましい実施形態によれば、医薬用担体は塩類の水溶液である。
【0156】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)(これは参考として本明細書中に組み込まれる)に見出され得る。
【0157】
医薬組成物を(本明細書中上記に詳述されるように)全身的な方法で投与することができる。あるいは、例えば、患者の組織領域に直接的に医薬組成物の注射をすることによって、局所的に医薬組成物を投与することができる。
【0158】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られている様々なプロセスによって、例えば、混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥の従来のプロセスによって製造することができる。
【0159】
本発明に従って使用するための医薬組成物は活性な化合物を医薬として使用可能な製剤にする加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む一つ以上の医薬的に許容され得る担体を使用して従来のように配合されてもよい。適切な配合は選択された投与経路に依存する。
【0160】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合し得る、緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、生理学的な食塩水緩衝液、または凍結培地含有凍結保存物など)において配合することができる。経粘膜投与の場合、浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0161】
本発明の方法において使用される任意の調製物について、治療効果的な量または用量は、最初はインビトロでアッセイおよび細胞培養アッセイから推定することができる。好ましくは、用量は所望の濃度または滴定量を得るために動物モデルにおいて配合される。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。
【0162】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、細胞培養または実験動物における、インビトロで標準的な薬学的手法によって、決定されることができる。
【0163】
これらのインビトロでの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用に対する投薬量範囲を決定するために使用することができる。投薬量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に依存して変化し得る。正確な配合、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(Fingl他、(1975)「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Ch.1p.1参照)。例えば、パーキンソン病の患者は、処置に対する肯定反応を示す改善された運動機能について症候的に監視されることができる。
【0164】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合し得る、緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な食塩水緩衝液など)において配合することができる。
【0165】
投薬量および投薬間隔は、移植された細胞による神経伝達物質の合成を効果的に制御するために十分である有効成分のレベルまで個々に調節することができる。所望の効果を達成するために必要な投薬量は、個体の特徴、および、投与経路に依存する。検出アッセイを、血漿中濃度を決定するために使用することができる。
【0166】
処置される状態の重篤度および応答性に依存して、投薬は単回投与であることも複数回投与であることも可能であり、処置の経過が、数日から数週間まで、あるいは、疾患状態の縮小が達成されるまで続く。
【0167】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている対象、苦痛の重篤度、投与様式、主治医の判断などに依存する。投薬量および投与のタイミングは、個々に変化する状態の慎重かつ継続的な監視に対応する。例えば、処置されているパーキンソン病の患者は、監視している徴候に基づいて、疾患の症状を緩和するのに十分な量の細胞を投与されるだろう。
【0168】
靱帯傷害についてのモデルには、間葉系幹細胞を使用する前十字靱帯再建のウサギモデル[Jit−Kheng他、Arthroscopy(2004)、20(9):899〜910]、長期間の生体再吸収性足場を前十字靱帯修復のために使用するためのヤギモデル[Altman他、J Am Acad Orthop Surg(2008)、16(4):177〜187]が含まれるが、これらに限定されない。腱修復についてのモデルには、腱の自家間葉系幹細胞媒介修復のための成体ニュージーランド白ウサギモデル[Awad他、Tissue Eng(1999)、5(3):267〜77]が含まれるが、これに限定されない。骨修復についてのモデルが、例えば、間葉系幹細胞を骨修復のために操作することを記載する、Stem Cells in Endocrinology、Humana Press(2005)、183〜206に記載された。
【0169】
移植の後、本発明の細胞は好ましくは、治療効果が観察されるように、疾患領域においてある期間(例えば、約1ヶ月)にわたって生存する。
【0170】
適合し得る医薬用担体に配合された本発明の調製物を含む組成物はまた、適応される状態を処置するために、調製され、適切な容器に入れられ、かつ表示され得る。
【0171】
本発明の組成物は、所望される場合には、有効成分を含有する1つまたは複数の単位投薬形態物を含有し得るパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キットなど)で提供され得る。パックは、例えば、金属箔またはプラスチック箔を含むことができ、例えば、ブリスターパックなどである。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が添付され得る。パックまたはディスペンサーにはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局により定められた形式で容器に付けられた通知が伴うことがあり、この場合、そのような通知は、組成物の形態またはヒトもしくは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物についての米国食品医薬品局により承認されたラベル書きであり得るか、または承認された製品添付文書であり得る。
【0172】
本発明の接着性細胞は、製造物として好適に包装され得る医薬組成物として好適に配合することができる。そのような製造物は、組織における血管形成を増大させること、虚血を処置すること、ならびに/あるいは、結合組織の再生および/または修復を必要とする病理を処置することにおける使用のための表示を含む包装材を含み、この場合、包装材により、本発明の接着性細胞が包装される。
【0173】
本発明の接着性細胞は免疫抑制および/または寛容性を対象において誘導することができる。したがって、本発明の接着性細胞は、免疫抑制および/または寛容性を必要とする何らかの状態を処置するために使用することができる。そのような状態には、心臓血管疾患、リウマチ様疾患、腺疾患、胃腸疾患、皮膚疾患、肝疾患、神経学的疾患、筋疾患、腎疾患、生殖に関連づけられる疾患、結合組織疾患および全身性疾患(これらに限定されない)を含めて、様々な自己免疫疾患および炎症性疾患(急性および慢性の炎症性疾患を含む)が含まれるが、これらに限定されない。
【0174】
自己免疫性心臓血管疾患の例には、アテローム性動脈硬化(Matsuura E.他、Lupus、1998、7(Suppl 2):S135)、心筋梗塞(Vaarala O.、Lupus、1998、7(Suppl 2):S132)、血栓症(Tincani A.他、Lupus、1998、7(Suppl 2):S107〜9)、ヴェーゲナー肉芽腫症、高安動脈炎、川崎症候群(Praprotnik S.他、Wien Klin Wochenschr、2000(Aug 25)、112(15−16):660)、抗第VIII因子自己免疫疾患(Lacroix−Desmazes S.他、Semin Thromb Hemost、2000、26(2):157)、壊死性小血管血管炎、顕微鏡的多発血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、寡免疫性巣状壊死性および半月体形成性の糸球体腎炎(Noel LH.、Ann Med Interne(Paris)、2000(May)、151(3):178)、抗リン脂質症候群(Flamholz R.他、J Clin Apheresis、1999、14(4):171)、抗体誘導による心不全(Wallukat G.他、Am J Cardiol、1999(Jun 17)、83(12A):75H)、血小板減少性紫斑病(Moccia F.、Ann Ital Med Int、1999(Apr−Jun)、14(2):114;Semple JW.他、Blood、1996(May 15)、87(10):4245)、自己免疫性溶血性貧血(Efremov DG.他、Leuk Lymphoma、1998(Jan)、28(3−4):285;Sallah S.他、Ann Hematol、1997(Mar)、74(3):139)、シャーガス病における心臓自己免疫性(Cunha−Neto E.他、J Clin Invest、1996(Oct 15)、98(8):1709)、および、抗ヘルパーTリンパ球自己免疫性(Caporossi AP.他、Viral Immunol、1998、11(1):9)が含まれるが、これらに限定されない。
【0175】
自己免疫性リウマチ様疾患の例には、リウマチ様関節炎(Krenn V.他、Histol Histopathol、2000(Jul)、15(3):791;Tisch R.、McDevitt HO.、Proc Natl Acad Sci units SA、1994(Jan 18)、91(2):437)、および、強直性脊椎炎(Jan Voswinkel他、Arthritis Res、2001、3(3):189)が含まれるが、これらに限定されない。
【0176】
自己免疫性腺疾患の例には、膵臓疾患、I型糖尿病、甲状腺疾患、グレーヴズ病、甲状腺炎、自発性自己免疫性甲状腺炎、橋本甲状腺炎、特発性粘液水腫、卵巣自己免疫性、自己免疫性抗精子不妊症、自己免疫性前立腺炎およびI型自己免疫性多腺性症候群が含まれるが、これらに限定されない。疾患には、膵臓の自己免疫疾患、I型糖尿病(Castano L.およびEisenbarth GS.、Ann.Rev.Immunol.、8:647;Zimmet P.、Diabetes Res Clin Pract、1996(Oct)、34(Suppl):S125)、自己免疫性甲状腺疾患、グレーヴズ病(Orgiazzi J.、Endcrinol Metab Clin North Am、2000(Jun)、29(2):339;Sakata S.他、Mol Cell Endocrinol、1993(Mar)、92(1):77)、自発性自己免疫性甲状腺炎(Braley−Mullen H.およびYu S、J Immunol、2000(Dec 15)、165(12):7262)、橋本甲状腺炎(Toyoda N.他、Nippon Rinsho、1999(Aug)、57(8):1810)、特発性粘液水腫(Mitsuma T.、Nippon Rinsho、1999(Aug)、57(8):1759)、卵巣自己免疫性(Garza KM.他、J Reprod Immunol、1998(Feb)、37(2):87)、自己免疫性抗精子不妊症(Diekman AB.他、Am J Reprod Immunol、2000(Mar)、43(3):134)、自己免疫性前立腺炎(Alexander RB.他、Urology、1997(Dec)、50(6):893)およびI型自己免疫性多腺性症候群(Hara T.他、Blood、1991(Mar 1)、77(5):1127)が含まれるが、これらに限定されない。
【0177】
自己免疫性胃腸疾患の例には、慢性炎症性腸疾患(Garcia Herola A.他、Gastroenterol Hepatol、2000(Jan)、23(1):16)、セリアック病(Landau YE.およびShoenfeld Y.Harefuah、2000(Jan 16)、138(2):122)、大腸炎、回腸炎およびクローン病が含まれるが、これらに限定されない。
【0178】
自己免疫性皮膚疾患の例には、自己免疫性水疱性皮膚疾患、例えば、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡および落葉状天疱瘡(これらに限定されない)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0179】
自己免疫性肝疾患の例には、肝炎、自己免疫性慢性活動性肝炎(Franco A.他、Clin Immunol Immunopathol、1990(Mar)、54(3):382)、原発性胆汁性肝硬変(Jones DE.、Clin Sci(Colch)、1996(Nov)、91(5):551;Strassburg CP.他、Eur J Gastroenterol Hepatol、1999(Jun)、11(6):595)および自己免疫性肝炎(Manns MP.、J Hepatol、2000(Aug)、33(2):326)が含まれるが、これらに限定されない。
【0180】
自己免疫性神経学的疾患の例には、多発性硬化症(Cross AH.他、J Neuroimmunol、2001(Jan 1)、112(1−2):1)、アルツハイマー病(Oron L.他、J Neural Transm Suppl、1997、49:77)、重症筋無力症(Infante AJ.およびKraig E、Int Rev Immunol、1999、18(1−2):83;Oshima M.他、Eur J Immunol、1990(Dec)、20(12):2563)、神経障害、運動神経障害(Kornberg AJ.、J Clin Neurosci、2000(May)、7(3):191)、ギラン・バレー症候群および自己免疫性神経障害(Kusunoki S.、Ann J Med Sci、2000(Apr)、319(4):234)、筋無力症、ランバート・イートン無筋力症症候群(Takamori M.、Am J Med Sci、2000(Apr)、319(4):204)、腫瘍随伴性神経学的疾患、小脳萎縮、腫瘍随伴性小脳萎縮およびスティッフマン症候群(Hiemstra HS.他、Proc Natl Acad Sci units SA、2001(Mar 27)、98(7):3988);腫瘍非随伴性スティッフマン症候群、進行性小脳萎縮、脳炎、ラスムッセン脳炎、筋萎縮性側索硬化症、シドナム舞踏病、ジル・ド・ラ・ツレット症候群および自己免疫性多腺性内分泌障害(Antoine JC.およびHonnorat J.、Rev Neurol(Paris)、2000(Jan)、156(1):23);免疫異常神経障害(Nobile−Orazio E.他、Electroencephalogr Clin Neurophysiol Suppl、1999、50:419);後天性神経性筋強直症、先天性多発性関節拘縮症(Vincent A.他、Ann NY Acad Aci、1998(May 13)、841:482)、神経炎、視神経炎(Soderstrom M.他、J Neurol Neurosurg Psychiatry、1994(May)、57(5):544)および神経変性疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0181】
自己免疫性筋疾患の例には、筋炎、自己免疫性筋炎および原発性シェーグレン症候群(Feist E.他、Int Arch Allergy Immunol、2000(Sep)、123(1):92)および平滑筋自己免疫疾患(Zauli D.他、Biomed Pharmacother、1999(Jun)、53(5−6):234)が含まれるが、これらに限定されない。
【0182】
自己免疫性腎疾患の例には、腎炎および自己免疫性間質性腎炎(Kelly CJ.、J Am Soc Nephrol、1990(Aug)、1(2):140)が含まれるが、これらに限定されない。
【0183】
生殖に関連づけられる自己免疫疾患の例には、繰り返される胎児消失(fetal loss)(Tincani A.他、Lupus、1998、7(Suppl 2):S107〜9)が含まれるが、これに限定されない。
【0184】
自己免疫性結合組織疾患の例には、耳疾患、自己免疫性耳疾患(Yoo TJ.他、Cell Immunol、1994(Aug)、157(1):249)および内耳の自己免疫疾患(Gloddek B.他、Ann NY Acad Sci、1997(Dec 29)、830:266)が含まれるが、これらに限定されない。
【0185】
自己免疫性全身疾患の例には、全身性エリテマトーデス(Erikson J.他、Immunol Res、1998、17(1−2):49)および全身性硬化症(Renaudineau Y.他、Clin Diagn Lab Immunol、1999(Mar)、6(2):156;Chan OT.他、Immunol Rev、1999(Jun)、169:107)が含まれるが、これらに限定されない。
【0186】
さらに、接着性細胞は、移植片拒絶、慢性的移植片拒絶、亜急性移植片拒絶、超急性移植片拒絶、急性移植片拒絶および移植片対宿主病(これらに限定されない)を含めて、移植片の移植に関連する様々な疾患を処置するために使用することができる。
【0187】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0188】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0189】
下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0190】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい:「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrook他(1989);Ausubel,R.M.編「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻(1994)、Ausubel他著;「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア(1989);Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク(1988);Watson他、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birren他編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク(1998);米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号および5272057号に記載される方法;Cellis,J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻(1994);Coligan,J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻(1994);Stites他編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク(1994);MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク(1980);また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている:米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号および5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」(1984);Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」(1985);Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Transcription and Translation」(1984);Freshney,R.I.編「Animal Cell Culture」(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal,B.著(1984)および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ(1990);Marshak他、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、(1996);なおこれらの文献の全ては、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである。その他の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。それらの文献に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。それらの文献に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0191】
実施例1
骨髄、胎盤組織および脂肪組織からの接着性細胞の作製および培養
接着性細胞を、3D担体を含有するバイオリアクターにおいて培養して、特異的な細胞マーカー発現プロフィルにより特徴づけられる3D接着性細胞を作製した。成長効率を細胞計数によって調べた。これらの細胞の分化能を、分化培地で培養することによって調べた。
【0192】
材料および実験手順
骨髄接着性細胞−骨髄(BM)接着性細胞を、開心術またはBM生検を受ける血液学的に健康なドナーの吸引された胸骨骨髄から得た。骨髄吸引物をハンクス平衡塩溶液(HBSS;GIBCO BRL/Invitrogen、Gaithersburg、MD)で3倍希釈し、Ficoll−Hypaque(Robbins Scientific Corp.、Sunnyvale、CA)密度勾配遠心分離に供した。その後、骨髄単核細胞(1.077gm/cm未満)を集め、HBSSで3回洗浄し、成長培地[10%のFCS(GIBCO BRL)、10−4Mのメルカプトエタノール(Merck、White House Station、NJ)、Pen−Strep−ナイスタチン混合物(100U/ml:100μg/ml:1.25un/ml;Beit Ha’Emek)、2mMのL−グルタミン(Beit Ha’Emek)が補充されたDMEM(Biological Industries、Beit Ha’emek、イスラエル)]に再懸濁した。個々のドナーからの細胞を、培養培地を毎週交換しながら、37℃(5%CO)で組織培養フラスコ(Corning、Acton、MA)において別々にインキュベートした。細胞を、0.25%トリプシン−EDTA(Beit Ha’Emek)を使用して3〜4日毎に剥がした。2〜40回の継代培養の後、60〜80%のコンフルエンスに達したとき、細胞を、分析のために、または、バイオリアクターにおける培養のために集めた。
【0193】
胎盤由来の接着性細胞。満期出産胎盤の内側部分(Bnei Zionメディカルセンター、Haifa、イスラエル)を無菌条件下で切断し、ハンクス緩衝液により3回洗浄し、0.1%のコラゲナーゼ(1mg/ml組織;Sigma−Aldrich、St.Lewis、MO)とともに37℃で3時間インキュベートした。その後、穏やかなピペッティングを使用して、懸濁された細胞を、10%のFCS、Pen−Strep−ナイスタチン混合物(100U/ml:100μg/ml:1.25un/ml)および2mMのL−グルタミンが補充されたDMEMにより洗浄し、75cmフラスコに播種し、5%COを伴う加湿条件のもとで組織培養インキュベーターにおいて37℃でインキュベートした。その後、細胞をプラスチック表面に72時間接着させ、その後、培地を3〜4日毎に交換した。60〜80%のコンフルエンスに達したとき(通常、10〜12日)、細胞を、0.25%トリプシン−EDTAを使用して成長フラスコから剥離し、新しいフラスコに播種した。その後、培養細胞を、分析のために、または、バイオリアクターにおける培養のために集めた。
【0194】
脂肪由来の接着性細胞−接着性細胞を脂肪吸引法のヒト脂肪組織から得た(Rambam Haifa、イスラエル)。脂肪組織を等体積のPBSにより徹底的に洗浄し、コラゲナーゼ(20mg/ml)により37℃で30分間消化した。その後、細胞を、10%のFCS、Pen−Strep−ナイスタチン混合物(100U/ml:100μg/ml:1.25un/ml)およびL−グルタミンを含有するDMEMにより洗浄し、1200rpmにおいて室温(RT)で10分間遠心分離し、溶解液(1:10;Biological Industries、Beit Ha’emek、イスラエル、赤血球を除くために)により再懸濁し、遠心分離し、10%のFCS、Pen−Strep−ナイスタチン混合物(100U/ml:100μg/ml:1.25un/ml)およびL−グルタミンを含有するDMEMにより再懸濁した。その後、洗浄された細胞を無菌の組織培養培地フラスコに3〜10×10細胞/フラスコで播種した。翌日、細胞をPBSにより洗浄して、残留RBCおよび死細胞を除いた。細胞を、5%COを伴う加湿条件のもとで組織培養インキュベーターにおいて37℃で保った。培地を3〜4日毎に交換した。60〜80%のコンフルエンスで、細胞を、0.25%トリプシン−EDTAを使用して成長フラスコから剥離し、新しいフラスコに播種した。2〜40回の継代培養の後、60〜80%のコンフルエンスに達したとき、細胞を、分析のために、または、バイオリアクターにおける培養のために集めた。
【0195】
PluriX(商標)プラグフローバイオリアクター−PluriX(商標)プラグフローバイオリアクター(Pluristem、Haifa、イスラエル;図1Gに例示されるようなもの;米国特許第6911201号もまた参照のこと)に、ポリエステルの不織布マトリックスから作製された1〜100mlの充填された3Dポロシブ担体(直径、4mm)を負荷した。これらの担体は大きい細胞数の増殖を比較的小さい体積において可能にする。ガラス器具はPluristem(Pluristem、Haifa、イスラエル)によって設計および製造された。バイオリアクターは37℃のインキュベーターにおいて維持され、流量がバルブ(図1Gにおける6a)および蠕動ポンプ(図1Gにおける9)によって調節およびモニターされた。バイオリアクターは、細胞の連続した播種を可能にするサンプリングおよび注入点(図1Gにおける4)を含有する。培養培地がリザーバー(図1Gにおける1)からpH6.7〜7.4で供給された。リザーバーには、空気/CO/Oを異なる割合で含有するろ過されたガス混合物(図1Gにおける2、3)が、バイオリアクターにおける細胞密度に依存して供給された。Oの割合は、モニター(図1Gにおける6)によって求められるバイオリアクターの出口での溶存Oのレベルに合わせられた。ガス混合物がシリコーンチューブまたはディフューザー(Degania Bet,Emek Hayarden、イスラエル)を介してリザーバーに供給された。培養培地は、循環している非接着性細胞の捕集を可能にする分離用容器(図1Gにおける7)に通された。培地の循環が蠕動ポンプ(図1Gにおける9)によって得られた。バイオリアクターはさらに、さらなるサンプリング点(図1Gにおける10)、および、連続した培地交換のための容器を備えた。
【0196】
3D接着性細胞の作製−上記のように成長させた非コンフルエントな初代ヒト接着性2D細胞培養物をトリプシン処理し、洗浄し、10%のFCS、Pen−Strep−ナイスタチン混合物(100U/ml:100μg/ml:1.25un/ml)および2mMのL−グルタミンが補充されたDMEMに再懸濁し、注入点を介して無菌のプラグフローバイオリアクター(図1G参照)における3D担体に播種した(10〜10細胞/ml)。接種前に、バイオリアクターはPBS−Ca−Mg(Biological Industries、Beit Ha’emek、イスラエル)で満たされ、オートクレーブ処理され(120℃、30分)、10%の熱不活化ウシ胎児血清およびPen−Strep−ナイスタチン混合物(100U/ml:100μg/ml:1.25un/ml)を含有するダルベッコ成長培地により洗浄された。流れが0.1〜5ml/分の速度で保たれた。播種プロセスでは、2〜48時間にわたる循環の中断が伴い、それにより、細胞が担体に留まることを可能になった。バイオリアクターは、無菌の空気およびCOが必要に応じて供給されるインキュベーターを使用して、制御された温度(37℃)およびpH(pH=6.7〜7.4)の条件のもとで保たれた。成長培地を週に2〜3回取り替えた。循環培地を、4時間毎〜7日毎に、新鮮なDMEM培地により取り替えた。1×10〜1×10細胞/mlの密度で(12〜40日の成長の後)、全培地体積をバイオリアクターから取り出し、バイオリアクターおよび担体をPBSにより3〜5回洗浄した。その後、3D接着性細胞をトリプシン−EDTA(Biological Industries、Beit Ha’emek、イスラエル;穏やかな撹拌とともに3〜15分、1〜5回)により担体から剥離し、その後、DMEMに再懸濁し、凍結保存した。
【0197】
3D接着性細胞の性状の生物学的アッセイ−凍結保存された3D接着性細胞を解凍し、計数した。細胞生存能の評価のために、2×10個の細胞を150cm組織培養フラスコに播種し、その接着能および再増殖を播種後7日以内に評価した。その後、3D接着性細胞の膜マーカー表現型を、蛍光モノクローナル抗体フローサイトメーター(Beckman Coulter、Fullerton、CA)を使用して分析した。
【0198】
フローサイトメトリーアッセイを使用する3D培養の接着性細胞および2D培養の接着性細胞の細胞膜マーカープロフィルの比較−2D培養および3Dフローシステム培養からの100000〜200000個の接着性細胞を5mlのチューブにおいて0.1mlの培養培地に懸濁し、下記MAb、FITCコンジュゲート化抗ヒトCD90(Chemicon International Inc.、Temecula、CA)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD73(Bactlab Diagnostic、Ceasarea、イスラエル)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD105(eBioscience、San Diego、CA)、FITCコンジュゲート化抗ヒトCD29(eBioscience、San Diego、CA)、Cy7−PEコンジュゲート化抗ヒトCD45(eBioscience)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD19(IQProducts、Groningen、オランダ)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD14 MAb(IQProducts)、FITCコンジュゲート化抗ヒトCD11b(IQProducts)およびPEコンジュゲート化抗ヒトCD34(IQProducts)のそれぞれの飽和濃度と、または、FITCコンジュゲート化抗ヒトHLA−DR MAb(IQProducts)とインキュベートした(4℃、30分、暗所)。インキュベート後、細胞を、1%の熱不活化FCSを含有する氷冷PBSで2回洗浄し、500μlホルムアルデヒド(0.5%)に再懸濁し、FC−500フローサイトメーター(Beckman Coulter、Fullerton、CA)を使用して分析した。
【0199】
質量分析法による分析を使用する3D培養の接着性細胞および2D培養の接着性細胞のタンパク質プロフィルの比較−2D由来培養手法および3D由来培養手法の接着性細胞を上記のように胎盤から作製した。簡単に記載すると、2D培養物を、0.3〜0.75×10個の細胞を、60〜80%のコンフルエンスに達するまで、加湿5%CO雰囲気のもと、37℃で、175cmフラスコにおいて4日間培養することによって作製した。2〜10×10細胞/mlを、2000個の担体を含有するバイオリアクターに播種し、18日間培養することによって、3D培養物を作製した。回収後、細胞を(3回)洗浄して、全血清を除き、ペレット化し、凍結した。タンパク質を製造者のプロトコルに従ってペレットから単離した[Tri試薬キット(Sigma、Saint Louis、米国)を使用し、トリプシンにより消化し、iTRAQ試薬(Applied Biosciences、Foster City、CA)により標識した]。簡単に記載すると、iTRAQ試薬は、非ポリマーの、等重核のタグ化試薬である。それぞれのサンプルに含まれるペプチドが、それらのN末端および/またはリシン側鎖を介して4つの等重核の同位体コードタグのうちの1つにより標識される。4つの標識されたサンプルが混合され、ペプチドが質量分析法により分析される。ペプチドがフラグメント化されたとき、それぞれのタグが、異なった質量レポーターイオンを放出する。従って、4つのレポーターの比率により、サンプルにおける所与ペプチドの相対的な存在量が与えられる(http://docs.appliedbiosystems.com/pebiodocs/00113379.pdfにおける情報)。
【0200】
胎盤由来接着性細胞の2D培養対3D培養のプロテオミックス分析を、QTOF−PremierでのLC−MS/MS(Waters、San Francisco、CA)を使用してSmolerプロテオミックセンター(Biology部門、Technion、Haifa、イスラエル)において行い、同定および分析をnrデータベースのヒト部分に対してPep−Minerソフトウエア[Beer,I.et al.、Proteomics、4、950〜60(2004)]によって行った。分析されたタンパク質は、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質H1(Hnrph1、GeneBankアクセション番号NP_005511)、H2Aヒストンファミリー(H2AF、GenBankアクセション番号NP_034566.1)、真核生物翻訳伸長因子2(EEEF2、GeneBankアクセション番号NP_031933.1)、レチクロカルビン3、EF−ハンドカルシウム結合ドメイン(RCN2、GeneBankアクセション番号NP_065701)、CD44抗原イソ型2前駆体(GeneBankアクセション番号NP_001001389)、カルポニン1塩基性平滑筋(CNN1、GeneBankアクセション番号NP_001290)、3ホスホアデノシン5ホスホ硫酸シンターゼ2イソ型a(Papss2、GeneBankアクセション番号NP_004661)、リボソームタンパク質L7a(rpL7a、GeneBankアクセション番号NP_000963)およびアルデヒドデヒドロゲナーゼX(ALDH X、GeneBankアクセション番号P47738)であった。すべての実験が2回行われた。分析の性質のために、すべてのタンパク質は、サンプルにおいて現れたペプチドの数に従って分析された(それぞれの分析において1つのタンパク質から2〜20個のペプチドが出現した)。
【0201】
ELISAを使用する3D培養の接着性細胞および2D培養の接着性細胞における分泌タンパク質の比較−胎盤から作製された2D由来培養手法および3D由来培養手法の接着性細胞を上記のように作製した(3D培養物は24日の期間にわたった)。その後、馴化培地を集め、Flt−3リガンド、IL−6、トロンボポエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)について、3回の独立した実験で、ELISA(R&D Systems、Minneapolis、MN)を使用して分析した。結果を1×10細胞/mlについて正規化した。
【0202】
骨芽細胞分化培地−細胞を、10%のFCS、100nMのデキサメタゾン、0.05mMのアスコルビン酸2−リン酸、10mMのB−グリセロリン酸が補充されたDMEMを含有する骨芽細胞分化培地で3週間の期間、培養することによって、骨形成性分化を評価した。石灰化したマトリックスがアリザリンレッドS染色によって示され、アルカリホスファターゼがアルカリホスファターゼアッセイキットによって検出された(すべての試薬がSigma−Aldrich(St.Lewis、MO)から得られた)。
【0203】
実験結果
PluriX(商標)バイオリアクターシステムは生理学的な類似する微小環境をもたらす。
接着性細胞のための効率的な培養条件を与えるために、生理学的に類似する微小環境(図1Aに示す)が、PluriX(商標)バイオリアクター(Pluristem、Haifa、イスラエル;担体が図1Gに例示され、播種前が図1Bに示される)を使用して人工的に作製された。図1C〜Fに示されるように、播種後の20日(図1C〜D、それぞれ150倍および250倍に拡大)および40日(図1E〜F、それぞれ350倍および500倍に拡大)において、骨髄から作製された3D接着性細胞が首尾良く培養され、3Dマトリックス上で拡大培養された。
【0204】
PluriXバイオリアクターシステムで成長させた細胞は著しく拡大培養された。胎盤由来3D接着性細胞の種々の製造ロットをPluriXバイオリアクターシステムで成長させた。播種密度は13300細胞/担体であった(合計で2×10細胞)。播種後14日で、細胞密度は15倍になり、およそ200000細胞/担体に達し(図2)、すなわち、150個の担体のバイオリアクターにおいて30×10個に達した。異なる実験において、細胞が1.5×10細胞/mlの密度でバイオリアクターに播種され、播種後30日で、担体は、50倍を超える大きい細胞数、すなわち、およそ0.5×10細胞/担体または0.5×10細胞/mlを含有した。成長カラムの様々なレベルでの担体上の細胞密度は一致していた。このことは、細胞への酸素および栄養分の均一な移動を示している。従って、この3D培養システムは、生着および成功した移植を支持するという目的のために十分な量に効率的に成長させることができる、高密度の間葉系細胞培養の成長および長期にわたる維持のための支持条件を提供することが判明した。
【0205】
3D接着性細胞は特異な膜マーカー特徴を示す。骨環境を模倣する3D培養手法によって行われたとき、可溶性分子の分泌プロフィルおよびタンパク質産生における違いを明確にするために、FACS分析を行った。図3Aに示すように、細胞マーカーのFACS分析は、3D接着性細胞が、2D条件で成長させた接着性細胞とは異なるマーカー発現パターンを呈示することを示す。2D培養の細胞は、3D培養の細胞と比較して、陽性の膜マーカー(CD90、CD105、CD73およびCD29の膜マーカー)のレベルが著しく上昇した。例えば、CD105は、2D培養の細胞における87%に対して、3D培養の細胞では56%の発現を示した。2Dおよび3Dの両方の胎盤培養の接着性細胞は造血系の膜マーカーを何ら発現しなかった(図3B)。
【0206】
3D接着性細胞は可溶性因子の特異なプロフィルを示す。造血陥凹部は、大量のサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子を産生するサポーター細胞を含む。2D培養の接着性細胞と、3D培養の接着性細胞との違いをさらに明確にするために、2Dおよび3Dの接着性細胞培養物の馴化培地における4つの主要な造血系分泌タンパク質のプロフィルをELISAによって行った。図4A〜Cは、3D条件で成長させられた細胞が、より高いレベルのFlt−3リガンド(図4A)、IL−60(図4B)およびSCF(図4C)を含む馴化培地をもたらし、一方、低いレベルのIL−6、ゼロに近いレベルのFlt−3リガンドおよびSCFが2D培養物の馴化培地において検出されたことを示す。トロンボポエチン(TPO)の産生は両方の培養物において非常に低く、等しかった。
【0207】
3D接着性細胞は特異なタンパク質プロフィルを質量分析法による分析において示す。2D培養の接着性細胞と、3D培養の接着性細胞との違いをさらに明確にするために、これらの細胞のタンパク質プロフィルを質量分析法によって分析した。図4Dは、2D培養の接着性細胞および3D培養の接着性細胞が顕著に異なるタンパク質発現プロフィルを示すことを示す。下記の表1に示されるように、3D培養の細胞では、H2AFおよびALDH Xの発現レベルがはるかにより大きいこと(それぞれ、9倍超および12倍超)、また、EEEF2、RCN2およびCNN1のタンパク質のレベルがより大きいこと(それぞれ、約3倍、2.5倍および2倍)が示される。加えて、3D培養の細胞では、Hnrph1およびCD44抗原イソ型2前駆体のタンパク質の発現レベルが約1/2であり、Papss2およびrpL7aの発現レベルが約1/3であることが示される。

【0208】
3D接着性細胞は、骨芽細胞に分化する能力を有する。−3D接着性細胞をさらに特徴づけるために、細胞を骨芽細胞分化培地で3週間の期間、培養した。その後、カルシウム沈殿を行った。分化した細胞は、カルシウム(これは図5A〜Bにおいて赤色に示される)を産生することが示され、これに対して、コントロール細胞は線維芽細胞様の表現型を維持し、石灰化を示さなかった(図5C〜D)。これらの結果は、胎盤由来の3D接着性細胞が、骨芽細胞にインビトロで分化する能力を有することを示す。
【0209】
実施例2
HSCの生着を改善する胎盤由来の3D接着性細胞の能力の評価
3D接着性細胞がHSC生着を支持することを、亜致死量の放射線が照射された免疫欠損NOD−SCIDマウス、または、化学療法により前処理された免疫欠損NOD−SCIDマウスにおいて検出されるヒト造血細胞(hCD45+)のレベルによって評価した。
【0210】
材料および実験手順
CD34+細胞の単離−臍帯血サンプルを出産時に無菌条件下で採取し(Bnei Zion Medical Center、Haifa、イスラエル)、単核細胞を、Lymphoprep(Axis−Shield PoC As、Oslo、ノルウェー)密度勾配遠心分離を使用して分画し、冷凍保存した。解凍した単核細胞を洗浄し、抗CD34抗体とインキュベートし、midiMACS(Miltenyl Biotech、Bergish Gladbach、ドイツ)を使用して単離した。2つ以上のサンプルからの細胞を、所望の数(50000〜100000個の細胞)を達成するためにプールした。
【0211】
放射線照射マウスにおける移植細胞の検出−7週齢のオスおよびメスのNOD−SCIDマウス(NOD−CB17−Prkdcscid/J;Harlan/Weizmann Inst.、Rehovot、イスラエル)を無菌の開放系ケージにおいて維持し、無菌の餌およびオートクレーブ処理の酸性水が与えられた。マウスには、亜致死量の放射線(350cGy)が照射され、その後(放射線照射後48時間で)、50000〜100000個のhCD34+細胞が、胎盤組織または脂肪組織に由来するさらなる接着性細胞(0.5×10個〜1×10個)とともに、または、伴うことなく(それぞれの群において3〜7匹のマウス)、側尾静脈への静脈内注入によって移植された。移植後4〜6週間で、マウスを脱臼によって屠殺し、BMを、大腿骨および脛骨の両方をFACS緩衝液(50mlのPBS、5mlのFBS、0.5mlの5%アジ化ナトリウム)により洗い流すことによって集めた。マウスBMにおけるヒト細胞をフローサイトメトリーによって検出し、処置されたNOD−SCIDマウスにおけるヒトおよびマウスのCD45造血細胞マーカー発現細胞の割合を、細胞を抗ヒトCD45−FITC(IQ Products、Groningen、オランダ)とインキュベートすることによって求めた。明確なヒト生着についての最低の閾値が0.5%で示された。
【0212】
化学療法により処置されたマウスにおける移植細胞の検出−6.5週齢のオスのNOD−SCIDマウス(NOD.CB17/JhkiHsd−scid;Harlan、Rehovot、イスラエル)を、放射線照射マウスについて本明細書中上記で記載されたように維持し、ブスルファンを腹腔内注射した(25mg/kg、2日間連続)。2回目のブスルファン注射の2日後、マウスには、CD34+細胞が単独で、または、胎盤から作製された0.5×10個の接着性細胞と一緒に注入された。移植後3.5週間で、マウスを屠殺し、ヒト造血細胞の存在を、放射線照射マウスについて本明細書中上記で記載されたように求めた。
【0213】
実験結果
3D接着性細胞は放射線照射マウスにおいてHSCの生着を改善した−ヒトCD34+造血細胞と、胎盤組織または脂肪組織に由来する3D接着性細胞とを、放射線照射されたNOD−SCIDマウスに同時移植した。生着効率を同時移植後4週間で評価し、HSCが単独で移植されたマウスと比較した。表2に示すように、3D接着性細胞およびUCB CD34+細胞の同時移植は、UCB CD34+細胞だけにより処置されたマウスと比較したとき、レシピエントマウスのBMにおける相当高い生着率およびより高いレベルのヒト細胞をもたらした。

【0214】
3D接着性細胞は、化学療法により処置されたマウスにおいてHSCの生着を改善した−ヒトCD34+造血細胞を、化学療法により前処置されたNOD−SCIDマウスに、胎盤に由来する500000個の2D接着性細胞または3D接着性細胞とともに同時移植した。生着効率を同時移植後3.5週間で評価し、HSCだけが移植されたマウスと比較した。表3および図6に示すように、接着性細胞およびUCB CD34+細胞の同時移植は、UCB CD34+細胞の単独と比較したとき、レシピエントマウスのBMにおいてより高い生着レベルをもたらした。そのうえ、表3に示すように、生着の平均レベルが、PluriXバイオリアクターシステムで成長させた胎盤由来の接着性細胞(3D接着性細胞)が同時移植されたマウスの方が、従来の静的な2D培養条件(フラスコ)で成長させた、同じドナーからの細胞によるマウス同時移植の場合よりも大きかった。

【0215】
図7A〜Bに示すFACS分析結果により、接着性細胞をhHSCと同時移植することの利点(図7B)、および、接着性細胞はHSC移植後の造血系の回復を改善することができることが明らかになる。
【0216】
まとめると、これらの結果は、接着性細胞が、HSC移植(自家または同種)の後の造血回復を改善するための支持細胞として役立ち得ることを示す。HSC移植後の造血幹細胞および/または前駆体細胞の生着を高める3D接着性細胞の能力は、移植された細胞のホーミング能、自己再生能および増殖能を改善し得るHSC支持サイトカインを分泌する3D接着性細胞の能力から生じ得るか、または、移植可能なHSCのホーミングおよび増殖のために必要とされる損傷した造血微小環境を再建するそのような細胞の能力から生じ得る。
【0217】
実施例3
2D培養の接着性細胞および3D培養の接着性細胞によるリンパ球応答の抑制
接着性細胞、具体的には、3D接着性細胞は、ヒト臍帯血単核細胞の免疫反応をMLRアッセイにおいて抑制することが見出された。
【0218】
材料および実験手順
混合リンパ球反応(MLR)アッセイ−胎盤から作製された、2D由来培養手法の接着性細胞および3D由来培養手法の接着性細胞の免疫抑制特性および免疫特権特性を、応答(増殖性)細胞および刺激(非増殖性)細胞の混合培養における不適合リンパ球の増殖率によって行われるような、HLA座における組織適合性を測定するMLRアッセイによって求めた。ヒト臍帯血(CB)単核細胞(2×10個)を応答細胞として使用し、等量(10個)の放射線照射(3000Rad)されたヒト末梢血由来単球(PBMC)と、あるいは、胎盤から作製された2D培養もしくは3D培養の接着性細胞、または、接着性細胞およびPBMCの組合せと同時培養することによって刺激した。それぞれのアッセイを3回繰り返した。細胞を96ウエルプレートにおいてRPMI1640培地(20%のFBSを含有する)で(加湿5%CO雰囲気のもと、37℃で)4日間にわたって同時培養した。プレートを、培養の最後の18時間、1μCのH−チミジンによりパルス処理した。その後、細胞をガラス繊維フィルター上に集め、チミジンの取り込みをシンチレーションカウンターにより定量した。
【0219】
実験結果
図8Aは、PBMCにより刺激されたとき、これらの細胞の増殖の高まりによって表されるようなCB細胞の免疫応答を示す。これは、理論によって拘束されることはないが、おそらくは、HLA不適合性に対する応答におけるT細胞の増殖に関連する。しかしながら、相当低いレベルの免疫応答が、本発明の接着性細胞とインキュベートされたとき、これらの細胞によって示された。そのうえ、PBMCに対するCBの免疫応答が、これらの接着性細胞と同時インキュベートされたとき、実質的に減少した。従って、MSCに類似した様式で、接着性細胞は、GvHDに典型的なドナー細胞のT細胞増殖を減少させる潜在的能力を有することが見出された。両方の培養物(2Dおよび3D)はリンパ球の免疫応答を減少させたが、また、本明細書中上記で記載される3D接着性細胞の他の利点と一致して、3D接着性細胞はより免疫抑制的である。
【0220】
(実施例4)
Celligenによって製造される3D接着性細胞と比較される、Plurixによって製造される3D接着性細胞
大規模3D接着性細胞を提供するために、本明細書中ではCelligenとして示される新しい製造システムを利用した。
【0221】
材料および実験方法
PluriX(商標)プラグフローバイオリアクター−本明細書中上記の実施例1において記載される通り。
【0222】
Plurixによる3D接着性細胞(PLX細胞)の作製−本明細書中上記の実施例1において記載される通り。
【0223】
Celligen(商標)プラグフローバイオリアクター−Celligen(商標)による接着性細胞(PLX−C細胞)の作製は、図8Bに例示されるようないくつかの主要な工程から構成される。このプロセスは、胎盤を予定された満期での帝王切開から集めることによって始まる。
【0224】
その後、接着性細胞が胎盤全体から単離され、組織培養フラスコにおいて成長させられ(2D培養)、集められ、2D細胞ストック(2DCS)として液体窒素中に貯蔵され、そして、適量の2DCSが3D培養としてのさらなる拡大のために解凍され、洗浄され、バイオリアクター内の担体上に播種される。1週間〜3週間のバイオリアクターにおける成長の後、細胞が集められ、PLX−Cとして液体窒素の気相中に凍結保存される。
【0225】
ヒト組織の受け取り
得られたすべての胎盤を、医療施設のヘルシンキ委員会の承認のもと、産科病室から受け取った。したがって、すべての胎盤ドナーがインフォームドコンセントに署名し、ドナースクリーニングおよびドナー試験が行われた(IPC1)。胎盤を(帝王切開手技中に)ドナーから受け取った後直ちに、胎盤は無菌のプラスチックバッグに入れられ、その後、氷嚢とともにStyrofoamボックスに入れられた。胎盤が届けられ、品質管理(QC)および品質保証(QA)によって使用が解除されるまで隔離区域に直ちに置かれた。マイコプラズマ検査結果のQC承認が届き、細胞が2D細胞成長のために取り出されるまでその後の作製工程のすべてが、隔離区域のクリーンルーム施設で行われた。
【0226】
接着性細胞の回収および処理
プロセスを開始するために、胎盤全体を層流フード下の無菌条件のもとで切り刻み、ハンクス緩衝溶液により洗浄し、0.1%のコラゲナーゼ(1mgコラゲナーゼ/ml組織)とともに37℃で3時間インキュベーションした。2D細胞培地(10%のFBS、0.25μg/mlのファンギゾンおよび50μg/mlのゲンタマイシンが補充されたDMEMを含む2D培地)を加え、消化された組織を無菌の金属性漉し器で粗くろ過し、無菌ビーカーに集め、遠心分離した(10分間、1200RPM、4℃)。その後、穏やかなピペッティングを使用して、懸濁された細胞を、抗生物質が補充された2D培地により洗浄し、80cmフラスコに播種し、5%COが補充された加湿条件のもと、組織培養インキュベーターにおいて37℃でインキュベーションした。細胞がフラスコ表面に接着させられた2日間〜3日間の後、細胞をPBSにより洗浄し、2D培地を加えた。
【0227】
二次元(2D)細胞成長
最初の継代の前に、隔離区域にある総フラスコ数の10%の成長培地サンプルをマイコプラズマ検査(IPC2)のためにプールし、採取した。細胞が、マイコプラズマについて陰性であることが見出されたならば(EZ−PCマイコプラズマキット、Biological industries、イスラエル)、細胞を隔離区域から取り出した。1回〜2回のさらなる継代の後、細胞を2D作製用クリーンルーム(2DP)に移した。2DP室に入れられると、培養をさらに3回〜5回の継代のために続けた。IPC−3サンプルを4代目の継代の後で免疫表現型のために採取した。このプロセスの始めから終わりまで、培養物は、37℃で、5%のCOを伴う加湿条件のもとでの組織培養インキュベーターにおいて、抗生物質を含まない2D培地で成長させられた。合計で6回〜8回の継代(9回〜16回の細胞倍加)の後、細胞を集め、2D細胞ストック(2DCS)として凍結保存した。
【0228】
最初の継代が通常、10日後〜15日後に行われた。2代目の継代から始め、6代目〜8代目の継代まで継続して、細胞を、培養が70%〜80%のコンフルエンスに達したときに、通常の場合には3日〜5日(1.5〜2の倍加)の後で継代した。細胞を、0.25%トリプシン−EDTA(37℃で4分)を使用してフラスコから剥がし、3±0.2×10細胞/cmの培養密度で播種した。組織培養フラスコのサイズを、継代が進むにつれて大きくした。培養プロセスが80cmの組織培養フラスコにおいて始まり、175cmにおいて継続し、その後、500cm(Tripleフラスコ)において継続し、最後に、細胞がCell Factory10トレー(6320cm)に播種された。
【0229】
凍結保存の前において、2DSC成長期間が終了したとき、成長培地を集め、サンプルを調製して、マイコプラズマ検査(IPC4)のための認可されたGLP研究室に送った。
【0230】
2D細胞ストック製造物のための凍結保存手順
2DSCの凍結保存のために、2D培養された細胞を、0.25%トリプシン−EDTAを使用して無菌条件のもとで集めた。細胞を遠心分離し(1200RPM、10’、4℃)、計数し、2D培地に再懸濁した。
【0231】
凍結のために、細胞懸濁物を2D凍結用混合物により1:1で希釈した(最終濃度は、10%DMSO、40%FBSおよび50%2D培地であった)。およそ1.5〜2.5×10個の細胞が1つの胎盤から製造された。4mlの細胞を5mlの凍結保存用ポリプロピレンバイアルにおいて10×10個/mlの最終濃度で貯蔵した。バイアルに印を付け、バイアルを段階的な温度低下プロセス(1℃/分)のための制御された速度の冷凍庫に移し、その後で、細胞を、低温貯蔵室に置かれた液体窒素冷凍庫の気相中での貯蔵に移した。この材料が2D細胞ストック(2DCS)として示された。
【0232】
3次元(3D)培養手順の開始
3D培養を開始するために、2DCSからの適量(150±30×10個)の細胞を2DP室において解凍し、3D培地(10%のFBSおよび20mMのHepesを含むDMEM)により洗浄して、事前に準備されたバイオリアクターシステムにおける播種の前にDMSOを除いた。それぞれの2DCSバイアルの内容物をピペットで取り、予め加温された(37℃の)3D培地により1:9で希釈した。細胞を遠心分離し(1200RPM、10’、4℃)、250mlの無菌ボトルにおける50ml〜100mlの予め加温された(37℃の)3D培地に再び再懸濁した。細胞数および細胞生存性を求めるために、サンプルを採取し、細胞を、トリパンブルー染色を使用して計数した。細胞懸濁物を層流フードのもとで0.5Lの播種用ボトルに移した。この播種用ボトルから、細胞懸濁物を、無菌の配管を介して重力作用によってバイオリアクターに移した。
【0233】
Celligenバイオリアクターにおける3D接着性細胞(PLX−C)の作製
バイオリアクターの説明
3D成長期が、図8Cに示される自動のCelliGen Plus(登録商標)バイオリアクターシステムまたはBIOFLO310バイオリアクターシステム[(New Brunswick Scientific(NBS))を使用して行われた。このバイオリアクターシステムを、条件が高い細胞濃度のために好適であった細胞培養の培養のために使用した。培養プロセスを、バイオリアクターを灌流モードで使用して行った。この実験室規模のバイオリアクターは、2つの主要なシステムから、すなわち、制御システムおよびバイオリアクター自体(槽および付属品)から構築された。プロセスのパラメーターが、プローブ、モーターおよびポンプのためのコネクター、溶存酸素(DO)、pH、灌流および撹拌(モーターによる)のための制御ループ、ガス制御システム、温度制御のための水循環および加熱システム、ならびに、操作者インターフェースを含む制御卓によってモニターされ、制御された。制御されたプロセスパラメーター(例えば、温度、pH、DOなど)は操作者インターフェースに表示することができ、示された制御装置によってモニターすることができる。
【0234】
バイオリアクターにおける細胞培養成長手順
本明細書中上記の節で記されたように、凍結保存された2DSCからの150±30×10個の細胞が解凍され、洗浄され、無菌のバイオリアクターに播種された。バイオリアクターは、ポリエステルおよびポリプロピレンから作製された30g〜50gの担体(FibraCel(登録商標)ディスク、NBS)と、1.5±0.1Lの3D培地とを含有した。バイオリアクターにおける成長培地は下記の条件で保たれた:37℃、70%溶存酸素(DO)およびpH7.3。ろ過されたガス(空気、CO、NおよびO)が、DO値を70%で保ち、かつ、pH値を7.3で保つために、制御システムによって決定されるように供給された。最初の24時間は培地を50回転/分(RPM)で撹拌し、2日目までに200RPMにまで増大させた。最初の2日間〜3日間、細胞を回分様式で成長させた。灌流を、培地のグルコース濃度が550mg/l未満に低下したときに開始した。培地を、無菌のシリコーン配管を使用して供給容器からバイオリアクターにポンプ送液した。すべての配管接続が、無菌コネクターを使用して層流下で行われた。灌流は、グルコース濃度をおよそ550±50mg/lで一定に保つために毎日調節された。成長培地のサンプルを、グルコース、乳酸、グルタミン、グルタミン酸およびアンモニウムの濃度測定(BioProfile400分析計、Nova Biomedical)のために1日毎〜2日毎に採取した。細胞培養のグルコース消費速度および乳酸形成速度は、細胞成長速度を測定することを可能にした。これらのパラメーターを使用して、回収時期を蓄積された実験データに基づいて決定した。
【0235】
バイオリアクターからの3D成長させたPLX−X細胞の回収
細胞回収プロセスを、成長期(4日〜10日)が終了したときに開始した。成長培地の2つのサンプルを集めた。1つのサンプルが、USPおよびEuの基準に従ったマイコプラズマ検査のための認可されたGLP研究室に送るために調製され、もう一方のサンプルが、再度のマイコプラズマ検査験が必要であった場合に備えて、段階的な温度低下プロセス(1℃/分)のための制御された速度の冷凍庫に移され、その後で、細胞が、低温貯蔵室に置かれた液体窒素冷凍庫の気相中での貯蔵に移された。これらの培地サンプルは最終製造物のマイコプラズマ検査の一部として考慮され、それらの結果が製造物の使用解除のための判断基準の一部として考慮された。
【0236】
3D成長させた培養物を下記のように3DP室におけるクラス100の層流区域において回収した:
バイオリアクター槽を、廃棄物容器への配管により重力作用を使用して空にした。槽を、ヘッドプレートを外すことによって開け、担体を、無菌の鉗子を使用してバスケットから上部バスケットネットに無菌で移した(図8Cを参照のこと)。その後、バイオリアクター槽を閉じ、1.5Lの予め加温されたPBS(37℃)で再充填した。撹拌速度を、2分間、150RPMに上げた。PBSを、圧力または重力によって配管を介して廃液ボトルに排出した。この洗浄手順を2回繰り返した。
【0237】
細胞を担体から遊離させるために、37℃に予め加温された1.5Lのトリプシン−EDTA(0.25%トリプシン、1mM EDTA)をバイオリアクター槽に加え、担体を37℃において150RPMで5分間撹拌した。細胞懸濁物を、250mlのFBSを含有する5Lの無菌容器に集めた。細胞懸濁物を4つの500ml無菌遠心分離チューブに分け、マイコプラズマ検査サンプルを抜き取った。閉じた遠心分離チューブを、細胞が無菌的に充填され、PLX−Cとして凍結保存されたクラス10000の充填室(FR1)に3DPの作動している通し窓を介して移した。
【0238】
細胞周期分析。Celligenによって得られるPLX−C細胞、および、Plurixによって得られるPLX細胞を70%EtOHにより一晩固定処理し、遠心分離し、2μg/mlのPI(Sigma)、0.2mg/mlのRnase A(Sigma)および0.1%(v/v)のTriton(Sigma)を含有するヨウ化プロピジウム(PI)溶液に30分間再懸濁した。細胞周期をFACSによって分析した。
【0239】
遺伝子発現アレイ(マイクロアレイ)。接着性細胞をヒトの満期胎盤から得て、PlurixまたはCelligenによって拡大した。3つの異なるバッチの細胞をさらなる実験のために拡大方法のそれぞれから得た。
【0240】
RNAを細胞から抽出し(Qiagen−Rneasyミクロキット)、Affymetrix社の全ゲノム発現アレイに加えた。チップは、GeneChip(登録商標)ヒトエキソン1.0STアレイ(Affymetrix、Santa Clara、California、アメリカ合衆国)を使用した。
【0241】
膜マーカーのFACS分析。細胞を、以前に記載されたようにモノクローナル抗体により染色した。要約すれば、400000個〜600000個の細胞を5mlの試験管において0.1mlのフローサイトメーター緩衝液に懸濁し、下記のモノクローナル抗体(MAb)のそれぞれと暗所において室温(RT)で15分間インキュベーションした:FITCコンジュゲート化抗ヒトCD29 MAb(eBioscience)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD73 MAb(Becton Dickinson)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD105 MAb(eBioscience)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD90 MAb(Becton Dickinson)、FITCコンジュゲート化抗ヒトCD45 MAb(IQProducts)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD19 MAb(IQProducts)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD14 MAb(IQProducts)、FITCコンジュゲート化抗ヒトHLA−DR MAb(IQProduct)、PEコンジュゲート化抗ヒトCD34 MAb(IQProducts)、FITCコンジュゲート化抗ヒトCD31 MAb(eBioscience)、FITCコンジュゲート化抗ヒトKDR MAb(R&D systems)、抗ヒト線維芽細胞マーカー(D7−FIB)MAb(ACRIS)、FITCコンジュゲート化抗ヒトCD80 MAb(BD)、FITCコンジュゲート化抗ヒトCD86 MAb(BD)、FITCコンジュゲート化抗ヒトCD40 MAb(BD)、FITCコンジュゲート化抗ヒトHLA−ABC MAb(BD)、FITCコンジュゲート化されたイソ型IgG1(IQ Products)、PEコンジュゲート化されたイソ型IgG1(IQ Products)。
【0242】
細胞をフローサイトメーター緩衝液により2回洗浄し、500μlのフローサイトメーター緩衝液に再懸濁し、FC−500フローサイトメーター(Beckman Coulter)を使用するフローサイトメトリーによって分析した。陰性コントロールを、関連性があるイソ型の蛍光分子により調製した。
【0243】
混合リンパ球反応(MLR)
2×10個の末梢血(PB)由来MNC(ドナーA由来)を等量の放射線照射(3000rad)されたPB由来MNC(ドナーB由来)により刺激した。増大する量のPLX−Cを培養物に加えた。それぞれの群の3つの反復反応物を96ウエルプレートに播種した。細胞を、20%FBSを含有するRPMI1640培地において培養した。プレートを、5日間の培養の最後の18時間、1μCのH−チミジンによりパルス処理した。細胞をガラス繊維フィルターで集め、チミジン取り込みをシンチレーションカウンターにより定量した。
【0244】
CFSE染色のために、PB−MNC細胞を培養前の増殖測定のためのCFSE(Molecular Probes)について染色した。細胞を5日後に集め、CFSE染色の強度をフローサイトメトリーによって検出した。
【0245】
ELISA
ELISAを、以前に記載されたように行った。要約すれば、(末梢血から単離された)MNCを、37℃で、加湿された5%CO雰囲気のもと、PLX−Cの存在下において、5μg/mlのConA(Sigma)、0.5μg/mlのLPS(SIGMA)または10μg/mlのPHA(SIGMA)により刺激した。上清を集め、IFNγ用ELISAキット(DIACLONE)、TNFα用ELISAキット(DIACLONE)およびIL−10用ELISAキットを使用するサイトカイン分析に供した。
【0246】
実験結果
Plurixと比較したときの、Celligenによる製造における変化は、(下記の表4にまとめられる)いくつかの大きな違いをもたらした。





【0247】
製造プロセスにおけるこれらの変化は、得られた3D接着性細胞の特性における様々な変化をもたらした。これらの違いが下記にまとめられる。
【0248】
Celligenによって製造されるPLX−Cと比較される、Plurixによって製造されるPLXの細胞周期分析。細胞周期の異なる期における細胞の分布を調べるために、Celligenによって得られるPLX−C細胞を、Plurixによって得られるPLX細胞と比較した。図9A〜図9Bから明らかであるように、Celligenによって拡大されたPLX−C細胞は、典型的な増殖プロフィル(細胞周期の異なる期における細胞の分布)を示した。具体的には、細胞の28%がS期およびG2/M期であった(図9A)。これらの結果は、細胞が増殖期間中に回収されたこと、および、Celligenバイオリアクターの条件は細胞成長を支援したことを示していた。
【0249】
Plurixにより得られた細胞と、Celligenにより得られた細胞との間におけるマイクロアレイ比較。遺伝子発現アレイは、Plurix(PLX)またはCelligen(PLX−C)によって拡大された、ヒトの満期胎盤に由来する接着性細胞のゲノム全域にわたる発現プロフィルを同時にモニターすることを可能にした。これらの結果は、これらの異なる成長方法によって得られる細胞の間における表現型変化の根底にある分子的機構を評価することを可能にした(下記の表5を参照のこと)。














【0250】
PLX−C細胞表面における細胞マーカーの発現。PLX−Cによって発現される表面抗原を、モノクローナル抗体を使用して調べた。結果は、PLX−C細胞が、CD73、CD29およびCD105の陽性マーカー、ならびに、CD34、CD45、CD19、CD14およびHLA−DRの陰性マーカーによって特徴づけられたことを示していた(データは示されず)。免疫表現型試験の各項目は、すべての陽性マーカーについては90%以上として設定され、すべての陰性マーカーについては3%以下として設定された。
【0251】
さらに、図10A〜図10Bに示されるように、PLX−C培養物は、CD31およびKDRの2つの内皮マーカーについての陰性の染色によって示されるように、内皮マーカーを発現していなかった。しかしながら、線維芽細胞に典型的なマーカーのPLX−C発現が明白であった(D7−fibの発現、図10C)。
【0252】
PLX−C細胞の免疫原性および免疫調節性。PLX−Cは、胎盤に由来する接着性細胞から構成されるので、身体のすべての細胞によって発現され、そして、同種反応性の免疫応答を誘導することが知られているI型HLAを発現することが予想される。II型HLAおよび他の共刺激分子は典型的には、抗原提示細胞(APC)の表面でのみ発現される。
【0253】
得られたPLX−C細胞の免疫原性を調べるために、これらの細胞膜の表面における共刺激分子の発現を行った。FACS分析では、CD80、CD86およびCD40がPLX−C細胞膜に存在しないことが明らかにされた(図11A〜図11C)。そのうえ、PLX−Cは、HLA A/B/Cについて染色することによって検出されるように、低いレベルのHLAクラスIを発現した(図11D)。刺激分子および共刺激分子の発現は、(図11A〜図11Dに示されるように)骨髄(BM)由来のMSCと類似していた。
【0254】
PLX−C細胞の免疫原性、ならびに、免疫調節特性をさらに調べるために、混合リンパ球反応(MLR)試験を行った。図12A〜図12Bに示されるように、PLX−C細胞は非自己認識(allorecognition)を逃れ、かつ、チミジン取り込みによって測定されるように、T細胞応答を低下させる。さらに、リンパ球増殖における低下が、(CPM測定によって評価された場合)、PLX−C細胞の数が増大するにつれて、(用量依存的な様式で)大きくなった。PLX−Cはまた、リンパ球の増殖を、有糸分裂促進刺激剤(例えば、コンカナバリンA(ConA、図12B)およびフィトヘマグルチニン(PHA)など)の後で、また、抗CD3、抗CD28による非特異的刺激の後で低下させた(データは示されず)。
【0255】
PLX−Cがリンパ球増殖を免疫調節する作用機構を調べるために、また、この作用が細胞間の相互作用またはサイトカインの分泌を介して媒介されるかを確認するために、PB由来の単核細胞(MNC)を、(細胞同士の接触を妨げ、しかし、2つの区画の間におけるサイトカインの拡散を可能にする)トランスウエル法を使用してPHAによって刺激した。結果は、細胞同士の接触が阻害されたときでさえ、増殖の阻害が維持されたことを示した(データは示されず)。
【0256】
サイトカインの分泌。本明細書中上記で示されたように、PLX−Cは、おそらくは可溶性因子により、リンパ球の増殖速度を低下させる。PLX−Cに応答してリンパ球によって分泌されるサイトカインのさらなる調査を、PLX−Cの作用機構を解明するために行った。図13A〜図13Bに示されるように、単核細胞をPLX−Cとともに培養することにより、(少量のPLX−Cの存在下でさえ)、前炎症性サイトカインIFNγの分泌が減少し、TNFαの分泌が劇的に減少する。加えて、リポ多糖(LPS)刺激の後では、IL−10の、PB由来MNCからの分泌がPLX−Cの存在下で増大し、一方、TNFαの分泌レベルが低下し、これらは用量依存的な様式であった(図13C)。
【0257】
(実施例5)
PLX−Cの体内分布
材料および実験方法
ルシフェラーゼ発現ベクターによるPLX−C細胞のトランスフェクション
PLX−C細胞に、ルシフェラーゼ遺伝子をCMVプロモーターの制御下で発現するレンチウイルス構築物(図14)を安定的に感染させた。
【0258】
感染性ウイルスの作製
293TN産生株細胞を、血清および抗生物質が補充されたDMEM培地(Gibco)において、トランスフェクション前の2日間〜3日間成長させた(50%〜70%のコンフルエンシー)。10μgのパッケージングプラスミドおよび2μgの発現構築物の混合物と、20μlのPlus(商標)試薬(Invitrogen)とを、補充物を含まない400μlのDMEMに加えた。混合物を室温(RT)で15分間インキュベーションし、Lipofectamine(商標)(400μlのDMEMにおける30μl希釈物)が加えられた。混合物をRTで15分間インキュベーションした。293TN細胞を洗浄し、2%血清培地に移し、トランスフェクション混合物を加えた。細胞をCOインキュベーターにおいて37℃で一晩インキュベーションし、培地を感染後24時間〜60時間で集めた。最大のウイルス産生が48時間後に達成された。培地を集め、室温において3000rpmで5分間遠心分離して、細胞破片をペレット化した。遠心分離後、上清をMillex−HVの0.45μmのPVDFフィルター(Millipore、Cat.#SLHVR25LS)によりろ過した。
【0259】
PLX−Cの感染
PLX−C細胞を、ウイルス感染の24時間前に、完全培地においてウエルあたり0.6〜1×10細胞の密度で24ウエルプレートに播種した。24時間後、0.5mlのウイルス懸濁物(Polybreneを5〜8μg/mlの最終濃度で伴う完全培地で希釈されたもの)を加えた。細胞を24時間インキュベーションし、その後、培地を完全DMEM培地によって置き換え、細胞を37℃で5%COとともに一晩インキュベーションした。4日目に、培養はコンフルエンシーに達し、培養物を1:3〜1:5によって分割し、細胞を完全DMEMにおいて48時間成長させ、その後、細胞をルシフェラーゼ発現について分析した。
【0260】
感染効率比率は100%に近かった。生細胞および生存マウスにおけるルミネセンスの評価を、ルシフェラーゼのルミネセンスシグナルを捕獲する高感度CCDカメラを含む、IVIS Lumina Imagingシステムを使用して行った。
【0261】
感染の2週間後、2×10個の細胞を、SCID/Beigeマウス、NOD/SCIDマウス、SCIDマウスおよびBalb/CマウスにIM注射またはIV注射した。注射を受けたマウスを、記載されたIVISシステムを使用してモニターした。
【0262】
実験結果
結果から明白であるように、CXL細胞は感染後も分裂し続け、成長している細胞におけるルシフェラーゼの発現レベルは、強く、かつ、安定したままであった(図15)。
【0263】
PLX−C細胞がBalb/Cマウスに注射されると、体内分布パターンが調べられた。結果から明白であるように、細胞がIM注射後72時間で消失した(データは示されず)。しかしながら、PLX−C細胞は、インビトロでは、一定の高レベルのルシフェラーゼ発現を3週間以上にわたって保持した(データは示されず)。
【0264】
図16A〜図16Dに示されるように、SCID/Beigeマウスの免疫不全マウスにIM注射された細胞は5日までは注射部位に留まり、それ以降は観測されなかった。SCID/BeigeマウスにIV注射されたCXL細胞は24時間後には肺に遊走し、その後、注射部位に遊走した(これは、おそらくは傷害部位へのホーミングであった)。その後、細胞は徐々に消失し、3週間後〜4週間後には観測されなかった。
【0265】
(実施例6)
接着性細胞は肢虚血をインビボで処置することができる
胎盤由来接着性細胞の移植により、虚血性損傷が軽減され、かつ、臨床的機能および運動機能が改善され得るかどうかを明らかにするために、後肢虚血モデルを下記のように使用した。
【0266】
材料および実験方法
後肢虚血モデル。後肢虚血を、8週齢〜10週齢の、免疫不全でない20匹のオスのBalb/Cマウス(体重、およそ25g±20%)において誘導した。動物の取扱いは国立衛生研究所(NIH)および実験動物管理公認協会(AAALAC)に従った。動物は標準的な実験室条件のもとで収容された。動物は、温度および湿度が制御された環境で飼育された。温度範囲が20℃〜24℃の間であり、相対湿度(RH)が30%〜70%の間であり、12時間の照明および12時間の消灯のサイクルが伴った。
【0267】
動物を、コンピューター作製乱数生成プログラム「Research Randomizer」を使用してランダム化し、10匹の動物からなる2つの群に分けた。一方の群が1×10個の胎盤由来接着性細胞(PLX−C細胞)の筋肉内(IM)注射を受け、もう一方の群がコントロールとして役立ち、これには、PBSが注射された。
【0268】
手術手順。1cm〜1.5cmの切開を鼠蹊部領域における皮膚において行った。大腿動脈を6−0絹糸により2回結紮し、結紮の遠位側で横切開した。創傷部を3−0絹糸により閉じ、マウスを回復させた。一方の大腿動脈の手術による切除の5時間後、マウスは1×10個の胎盤由来接着性細胞(PLX−C)のIM注射を2つの投与部位に50μlの総体積で受けた。コントロール群の動物には、PBS(Gibco)が同じように注射された。下記の表6を参照のこと。

【0269】
経過観察。両側からの足における血流を、手術後、ならびに、手術後6日目、9日目、14日目および21日目に非接触式レーザードップラーにより3回連続して測定した。血流が、正常肢における流れに対する虚血肢における流れの比率して表される[Tokai.J.他]。
【0270】
虚血重篤度の肉眼評価。虚血肢を、壊死領域についての下記のグレードによる形態学的尺度を使用することによって研究終了まで、1日目、6日目、9日目、14日目、21日目に肉眼により評価した;グレード0:壊死の非存在、グレードI:足指に限定的な壊死(足指喪失)、グレードII:足背に広がる壊死(足喪失)、グレードIII:すねに広がる壊死(膝喪失)、グレードIV:腿に広がる壊死(後肢全喪失)[Tokai.J.他]。
【0271】
肢機能および虚血性損傷のインビボ評価。虚血肢の損なわれた使用の半定量的評価を下記のように連続的に行った:3=足の引きずり、2=引きずりがないが、足底屈もない、1=足底屈、および、0=足指を曲げて、尾の穏やかな牽引に抵抗する(Rutherford他、1997)。
【0272】
分子的分析および生化学的分析。臨床的評価に加えて、分子的および生化学的なサンプルを、胎盤由来接着性細胞(PLX−C)注射群における改善された治癒の根底にある分子的機構をより良く理解するために21日目に得た。これらは現在、分析中である。
【0273】
実験結果
胎盤由来接着性細胞の移植は虚血後肢モデルの腰および足における血流を著しく誘導する。接着性細胞の効力をインビボで試験するために、マウスを動脈結紮に供し、その後、胎盤由来接着性細胞を筋肉内注射して、血流を、処置後の所定の期間で、非接触式レーザードップラーを使用して腰および足(身体の両側)において測定した。図17に示されるように、PLX−Cの注射は、血流の評価、肢機能における増大、毛細管密度における増大、酸化ストレスおよび内皮損傷における低下によって明らかにされるように、損傷を受けた肢に対する血流(BF)を顕著に改善させた。血流に関して、効果が注射後9日で明らかにされ、全研究期間を通して観測された。PLX−C処置群では、腰/移植領域において、BFが24±2.3%から80±4.7%にまで増大し、一方、コントロールのビヒクル処置群では、BFが35±2%〜54±4.5%の範囲にあった(それぞれ、0日目対21日目)。腰領域と同様に、しかし、より小さい程度であったが、BFにおける増大がまた、PLX−C処置マウスの足領域において明らかにされた。例えば、図17に示されるように、ビヒクル処置群では、BFが12±0.6%から46±4.9%にまで増大し、一方、PLX−C群では、BFが10±0.7%から52±5.5%にまで増大した(それぞれ、0日目対21日目)。
【0274】
接着性細胞は肢機能をインビボで改善することができる。胎盤由来接着性細胞のインビボ効果をさらに評価するために、処置されたマウスにおける肢機能を、本明細書中上記の材料および実験方法のところで記載されたスコア化システムを使用して評価した。図18に示されるように、接着性細胞により処置されたマウスは肢機能における著しい改善を示した(2.5±0.2対2.1±0.2、それぞれ、コントロール群対PLX−C群;処置後21日目における著しい効果に留意すること)。しかしながら、21日間の観察の期間中での肢機能における改善の程度は同程度であった。このことは、PLX−Cが、本研究の条件のもとでは、機能回復の大きな変化を示さなかったことを示唆する。
【0275】
虚血重篤度の肉眼評価では、コントロールのビヒクル処置群において、足指に限定される壊死が6日目に2匹の動物において観測されたことが明らかにされた。PLX−C処置群では、足指に限定される壊死が、1匹の動物においてだけで、しかも、14日後にだけ観測された。PLX−Cにより処置された肢の死後の免疫組織化学的分析では、肢に供給し、かつ、PLX−Cが、血管形成を促進させる能力を有することを示唆する新しい毛細管(血管)の数における著しい増大が示された(図19)。
【0276】
最後に、処置された動物における低下した酸化ストレスおよび内皮炎症における低下(これは、改善された内皮機能についての代替パラメーターであった)が、PLX−C処置マウスにおいて観測された(図20A〜図20B)。これは、PBSにより処置されたコントロールマウスにおいてではなく、PLX−C細胞により処置されたマウスにおける増大した酸素供給に起因すると考えられた。
【0277】
結論として、コントロールのPBS注射マウスと比較されたとき、PLX−C注射を受けたマウスはどれも、筋肉内(i.m.)の細胞投与に対する応答において何らかの有害な臨床的徴候または症状を示さなかった。したがって、PLX−Cは血流における増大を誘導し、これは、損傷を受けた肢の組織学的評価によって裏付けられるように、血管形成から生じると考えられる。加えて、壊死の発生における遅れ、および、影響を受けた動物の数における差は、臨床的応答を示唆する。
【0278】
胎盤由来接着性細胞の移植
別の効力研究がBalb/Cマウスにおいて行われ、これは、上記の材料および方法の節で記載されたように、安全性の終点(すなわち、全体的な検死、および、選択された器官の組織病理学的分析)を含んでいた。
【0279】
この研究では、各群が10匹のオスのBalb/Cマウス(虚血後肢)からなる7つのマウス群が、本明細書中下記の表7に詳しく記載されるように使用された。10匹のマウスからなる1つの群だけは、(正常で、健康な動物におけるPLX−C細胞の全体的な安全性および寛容性を試験するために)虚血が誘導されなかった。虚血を誘導した後、コントロール緩衝液またはPLX−C細胞が、影響を受けた肢にi.m.投与され、マウスが投与後1ヶ月までの期間にわたって観察された。1つのマウス群だけが、影響を受けた肢における2つの別の注射を1週間離して受けた(1日目および8日目)。血流をレーザードップラー分析によってモニターし、虚血重篤度を投与後30日まで肉眼および行動により評価し、投与後30日でマウスを屠殺し、組織を組織学的分析のために保持した。

【0280】
この研究では、3つの濃度での異なるPLX−Cバッチが投与された。結果は、0.1×10個および0.5×10個のPLX−Cがわずかな治療的効果を有したことを示した。血流における注目に値する改善が、1×10個により処置された動物において29日目(実験終了)までに観測された。血流におけるこの改善は、コントロールのビヒクル注射マウスとの比較では2M群(バッチG.C25)において有意であった(p<0.05)。加えて、1回だけの注射と比較して、同じバッチの細胞の2回目の注射は15日目においてBFを著しく改善した(それぞれ、31±12.9%および27±12.5%と比較して、55±24%)。虚血重篤度の肉眼評価では、1×10個を受ける群(1Mおよび2M)における改善についての傾向がコントロールのビヒクル処置群(6M)との比較において認められたことが明らかにされた。
【0281】
全体的に見ると、これらの結果は、血管新生(例えば、血流)を誘導すること、および、肢機能を改善することにおける接着性細胞の効力を後肢虚血マウスモデルにおいて明らかにしており、また、虚血性肢疾患を処置するためのこれらの細胞(例えば、胎盤由来接着性細胞)の使用を示唆している。
【0282】
(実施例7)
脳卒中の処置のためのPLX−C
本研究の目的は、全身的(静脈内)ヒトPLX−Cの治療的効力、すなわち、脳卒中の処置における胎盤由来接着性細胞の移植を評価することであった。
【0283】
材料および実験方法
被験体、手術および移植
高血圧、高コレステロール血症、糖尿病および微小血管障害を患うオスの自然発症高血圧ラットを使用した。動物は、温度、空気湿度および照明/消灯サイクルに関する一定の条件のもとで飼育された。被験体を実験群にランダムに割り当てた(下記の表8を参照のこと)。

【0284】
動物は、異なるバッチの1×10個のPLX−Cの1回だけの投与または2回の投与を受けた。すべての移植手順が静脈内に行われた。2回の注入を受けた群は、脳虚血の10時間後および24時間後に移植が行われ、一方、1回だけの移植は脳卒中の24時間後に行われた。すべての移植された細胞は蛍光色素PHK26により事前に標識された。
【0285】
実験的脳虚血が右大脳動脈の永続的閉塞によって行われた。1匹の動物が麻酔後に死亡したことに留意すること。
【0286】
磁気共鳴調査(MRI)
病変発達のMRIを、1.5Tのスキャナー(Philips)を使用して、1日目、8日目、29日目および60日目に行った。梗塞体積測定および脳萎縮が測定され、冠状T2シーケンスを使用して、実験内容が知らされていない3名の研究者によって得られた値の平均として計算された。
【0287】
行動試験
機能的変化を、2つの独立した行動試験アレイを使用することによって測定した。梁歩行(Beam Walk)試験は、感覚・運動欠損を定量するために使用される一般的な試験である。ラットを、ラットのホームケージが終点にある水平の固定された棒を渡るように条件づけした。通過時間が5回について測定され、昼間平均値として記録された。梁からのぶら下がりを20秒により評価し、落下を30秒により評価した。測定を最初の1週間においては毎日行い、観測期間の終了までは7日毎に行った。
【0288】
第2の試験、すなわち、改変された神経学的重篤度スコア(mNSS)は、感覚、運動および反射のさらなる項目を含有した。mNSSの結果が1〜18の間のスコアとして表され、1〜6の間の点数が軽度を意味し、7〜12が中程度を意味し、13〜18が重篤な傷害を意味した。mNSSスコアの評価を、脳虚血後1日目、4日目、7日目、14日目、21日目、28日目、35日目、42日目、49日目および56日目に行った。
【0289】
組織学
実験期間終了後、すべてのラットを屠殺し、心臓を介して4%ホルマリン溶液により灌流した。摘出された脳を凍結保存し、30μm厚の切片に切断した。神経膠反応の評価のために、免疫組織化学的調査を、GFAPに対する一次抗体により行った。750μmの広い領域を、GFAP+の細胞の密度について梗塞境界の近くで(半定量的に)調べた。星状膠細胞の反応性の調査については、15の領域が0.6mmの平均間隔により含まれた。
【0290】
統計学
体重、MRI分析および組織学的検査に関するすべてのデータがガウス分布について調べられ、また、ANOVA、従って、順位でのANOVAを使用して統計学的有意差について分析された。
【0291】
梁歩行試験およびmNSS試験で集められたデータは、被験体の反復測定について、同様にまた、被験体の時間的発達について個々に考慮する詳細な統計学的分析(階層化分析)に供された。脳損傷の程度に関する個体間の差を相殺するために、ランダム・インターセプト・モデルを使用した。したがって、梁歩行試験において集められたデータはカテゴリー的システムに変換しなければならなかった。ここでは、5秒未満の時間値がカテゴリー(0)と見なされ、5秒〜10秒がカテゴリー(1)と見なされ、10秒〜15秒がカテゴリー(2)と見なされ、15秒〜20秒がカテゴリー(3)と見なされ、ぶら下がりがカテゴリー(4)と見なされ、落下がカテゴリー(5)と見なされた。
【0292】
実験結果
体重
定期的な体重測定は被験体の全身的な健康状態の良好な推定を可能にした。体重の初期減少が、麻酔および手術介入のためにすべての群において観測された(データは示されず)。その後、体重の迅速な正常化、および、60日目での実験終了までの安定した経過が観測された(データは示されず)。実験群は体重の一致する進行を示した。
【0293】
梁歩行試験
すべての実験群が梁歩行カテゴリーの著しい低下を実験の経過中に示した(データは示されず)。梁歩行カテゴリーの著しいより低い低下が、実験群1(PLX−C、バッチ1、1回だけの投与)において、コントロール群と比較して観測された(それぞれ、−0.01247対−0.02931)。統計学的有意差についての証拠が、実験群3(PLX−C、バッチ2、1回だけの投与)と、コントロール群との間には認められなかった(データは示されず)。
【0294】
改変された神経学的重篤度スコア(mNSS)
すべての実験群が神経学的スコア点数の著しい低下を示した(データは示されず)。PLX−2(PLX−Cの2回の投与)により処置された被験体のmNSS結果を比較することにより、統計学的に著しい優越が、コントロール群と比較して明らかにされた。バッチ2の二重移植(群3)は、同じバッチの1回だけの注射と比較して、mNSS試験における著しい改善を示した(データは示されず)。
【0295】
梗塞体積測定
磁気共鳴画像化は、脳損傷の程度および失われた組織をインビボで推定するための非常に精巧な方法である。個体間の変動を考慮に入れて、梗塞体積の発達が、1日目での梗塞体積の百分率として個々に示された。1日目での梗塞体積は実験群の間で著しく異ならなかった。梗塞体積の全体的な発達は、1日目と、8日目との間で、50%のおおよその低下を示した。これは主に、初期脳水腫の退行のためであった。MRIを使用するインビボでの病変発達の検査は、群4(PLX−C、バッチ2、2回の投与)の被験体が、著しく低下した梗塞商を60日目に示したことを明らかにした(それぞれ、0.48±0.02対0.60±0.03、データは示されず)。
【0296】
まとめると、これらの結果は、PLX−Cの静脈内投与が脳卒中の処置における両方の行動試験において機能的回復における著しい改善をもたらしたことを示している。そのうえ、PLX−Cを2回移植することの、相当、かつ、しかも、統計学的に有意な優越が、類似した1回だけの注射と比較して観測された。
【0297】
測定された行動改善の、MRIによる裏付けが、PLX−Cにより2回処置された被験体において明白であった。加えて、梗塞体積および脳萎縮の著しい減少が実験終了時に観測された。そのうえ、両方の機能的試験では、PLX−Cの2回施された移植の後での機能回復の安定した改善が、コントロール、および、1回だけの注射での確認できない効果と比較して観測された。
【0298】
(実施例8)
結合組織の再生および/または修復を必要とする病理の処置
骨の再生および/または修復を必要とする病理を、本発明の接着性細胞を使用して処置すること
動物モデル(例えば、成熟したニュージーランド白ウサギ)が、大腿骨における臨界的サイズの部分的欠損の治癒に対する、(胎盤組織または脂肪組織に由来し、3D培養から得られる)本発明の接着性細胞(例えば、PLX−C細胞)の影響を調べるために使用される。動物が3つの群の1つにランダムに割り当てられる。A群の動物には、1〜10×10個の接着性細胞(PLX−C細胞)が欠損部位内に注射される。B群の動物には、PBSが注射される。C群の動物においては、欠損部が処置されないままにされた。X線写真が手術直後および1週間間隔で撮影される。12週で、動物は屠殺され、関与した大腿骨が取り出され、欠損部および隣接する骨からの非脱灰の組織学的切片が調製される。機構的研究、組織学的研究および組織形態学的研究が、欠損部の治癒および骨の形成を欠損部位およびその回りにおいて調べるために行われる。加えて、逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)が、I型コラーゲンおよびII型コラーゲンのmRNAを検出するために行われる。
【0299】
腱の再生および/または修復を必要とする病理を、本発明の接着性細胞を使用して処置すること
動物モデル(例えば、骨格的に成熟したニュージーランド白ウサギ)が、腱の治癒に対する本発明の接着性細胞(例えば、PLX−C細胞)の影響を調べるために使用される。長母趾腱が2.5mmの直径の踵骨トンネルの中に移動させられる。骨トンネルがPLX−Cにより処置されるか、または、PLX−Cを用いることなく処置される。動物が3つの群の1つにランダムに割り当てられる。A群の動物には、1〜10×10個のPLX−C細胞が欠損部位内に注射されるか、または、IV注射される。B群の動物には、PBSが注射される。C群の動物においては、欠損部が処置されないままにされる。それぞれの群からの3つの試料が、手術後2週間、4週間および6週間で集められ、骨界面に対する治癒途中の腱の形態学的特徴についての評価が、従来の組織学、ならびに、I型コラーゲン、II型コラーゲンおよびIII型コラーゲンの免疫組織化学的位置特定の使用によって行われる。
【0300】
軟骨の再生および/または修復を必要とする病理を、本発明の接着性細胞を使用して処置すること
動物モデル(例えば、骨格的に成熟したニュージーランド白ウサギ)が、軟骨の治癒に対する本発明の接着性細胞(例えば、PLX−C細胞)の影響を調べるために使用される。左遠位大腿の膝蓋骨溝の関節軟骨の全層欠損が行われる。約6mmの皮弁が、大腿四頭筋に重なる筋膜から除かれ、6−0腸線により人為的欠損部の周辺の縁に縫合される。動物が3つの群の1つにランダムに割り当てられる。A群の動物には、1〜10×10個のPLX−C細胞が欠損部位内に注射されるか、または、IV注射される。B群の動物には、PBSが注射される。C群の動物においては、欠損部が処置されないままにされる。動物が屠殺される。PLX−C細胞が骨軟骨の欠損部に移植された14週間後、遠位大腿が切除され、組織学的評価が行われ、試料が、修復組織の優勢な性質、マトリックス染色、表面の規則性、構造的一体性、修復部の厚さ、修復された軟骨と、周囲の正常な軟骨との間での付着、変性徴候が修復組織にないこと、および、周囲の正常な軟骨の変性変化がないことに基づいて半定量的に階級評価される。
【0301】
靱帯の再生および/または修復を必要とする病理を、本発明の接着性細胞を使用して処置すること
動物モデル(例えば、骨格的に成熟したニュージーランド白ウサギ)が、靱帯の治癒に対する本発明の接着性細胞(例えば、PLX−C細胞)の影響を調べるために使用される。直径が8mmの単皮質(unicortical)円形欠損が行われる。動物が3つの群の1つにランダムに割り当てられる。A群の動物には、1〜10×10個のPLX−C細胞が欠損部位内に注射されるか、または、IV注射される。B群の動物には、PBSが注射される。C群の動物においては、欠損部が処置されないままにされる。動物が、靱帯欠損部へのPLX−C細胞の移植の14週間後に屠殺される。組織学的評価が行われ、試料が、修復組織の優勢な性質に基づいて半定量的に階級評価される。
【0302】
明確にするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施態様に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施態様で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0303】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。本明細書中で言及した刊行物、特許および特許願ならびにGenBankアクセッション番号はすべて、個々の刊行物、特許もしくは特許願またはGenBankアクセッション番号が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【0304】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血をその必要性のある対象において処置する方法であって、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の治療効果的な量を対象に投与し、それにより、虚血を対象において処置することを含む方法。
【請求項2】
結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態をその必要性のある対象において処置する方法であって、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の治療効果的な量を対象に投与し、それにより、結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を対象において処置することを含む方法。
【請求項3】
虚血を処置するために特定される医薬品を製造するための、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の使用。
【請求項4】
結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を処置するために特定される医薬品を製造するための、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の使用。
【請求項5】
虚血を処置することにおける使用のための表示を含む包装材を含む製造物であって、前記包装材により、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の医薬的に効果的な量が包装される製造物。
【請求項6】
結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態を処置することにおける使用のための表示を含む包装材を含む製造物であって、前記包装材により、胎盤組織および脂肪組織からなる群から選択される組織の接着性細胞の医薬的に効果的な量が包装される製造物。
【請求項7】
前記接着性細胞は免疫反応を対象において抑制することができる、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項8】
前記接着性細胞の少なくとも10%が増殖期にある、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項9】
前記虚血は末梢動脈疾患(PAD)である、請求項1,3または5に記載の方法、使用または製造物。
【請求項10】
前記末梢動脈疾患(PAD)は重症虚血肢(CLI)である、請求項9に記載の方法、使用または製造物。
【請求項11】
前記虚血は中枢神経系(CNS)の虚血を含む、請求項1,3または5に記載の方法、使用または製造物。
【請求項12】
前記虚血が、末梢動脈疾患、虚血性血管疾患、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性腎臓疾患および虚血性胎盤からなる群から選択される、請求項1,3または5に記載の方法、使用または製造物。
【請求項13】
前記接着性細胞は三次元(3D)培養から得られる、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項14】
前記三次元(3D)培養は3Dバイオリアクターを含む、請求項13に記載の方法、使用または製造物。
【請求項15】
前記細胞を3D培養において培養することが灌流下で行われる、請求項13に記載の方法、使用または製造物。
【請求項16】
前記三次元培養の培養条件が、ポリエステルおよびポリプロピレンからなる群から選択される接着性材料を含む、請求項13に記載の方法、使用または製造物。
【請求項17】
前記細胞を培養することが少なくとも3日間にわたって行われる、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項18】
前記細胞を培養することが、前記細胞の少なくとも10%が増殖中になるまで行われる、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項19】
前記接着性細胞は、CD37、CD90、CD29およびCD105からなる群から選択される陽性のマーカー発現を含む、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項20】
前記接着性細胞は、CD3、CD4、CD45、CD80、HLA−DR、CD11b、CD14、CD19、CD34およびCD79からなる群から選択される陰性のマーカー発現を含む、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項21】
前記接着性細胞は、本質的には本明細書中で記載されるような発現プロフィルを含む、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項22】
前記接着性細胞は、間質幹細胞表現型を含む細胞を含む、請求項1,2,3,4,5または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項23】
前記間質幹細胞表現型はT細胞抑制活性を含む、請求項22に記載の方法、使用または製造物。
【請求項24】
前記結合組織は、腱、骨および/または靱帯を含む、請求項2,4または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項25】
前記結合組織の再生および/または修復を必要とする医学的状態が、骨折、骨ガン、熱傷、関節軟骨欠損および深部創傷からなる群から選択される、請求項2,4または6に記載の方法、使用または製造物。
【請求項26】
前記医学的状態が、軟骨下骨嚢胞、骨折、骨粗鬆症、変形性関節炎、変性骨、骨ガン、軟骨損傷、関節軟骨欠損、変性椎間板疾患、骨形成不全症(OI)、火傷、熱傷、深部創傷、遅れた創傷治癒、傷害を受けた腱、および、傷害を受けた靱帯からなる群から選択される、請求項2,4または6に記載の方法、使用または製造物。

【図1A−G】
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【図2】
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【図3A−B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A−D】
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【図6】
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【図7A−B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A−C】
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【図11A−D】
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【図12A−B】
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【図13A−B】
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【図13C】
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【図14】
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【図15】
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【図16A−B】
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【図16C−D】
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【図17】
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【図18】
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【図19A−C】
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【図20A−B】
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【公表番号】特表2010−539228(P2010−539228A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525491(P2010−525491)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【国際出願番号】PCT/IL2008/001185
【国際公開番号】WO2009/037690
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(508286670)プルリステム リミテッド (3)
【Fターム(参考)】