説明

脂肪組織洗浄装置

【課題】粘性の高い脂肪組織を簡易にかつ無菌的に取り出すことを可能にする。
【解決手段】脂肪組織Aを収容する容器2と、該容器2内に洗浄液Bを供給する洗浄液供給手段3と、容器2内に収容された脂肪組織Aと洗浄液Bとを攪拌することで脂肪組織Aを洗浄する攪拌手段4と、洗浄された脂肪組織Aの少なくとも一部を容器2から取り出す取り出し手段5とを備え、該取り出し手段5が、容器2の上部に設けられた取り出し口5aと、洗浄液Bの液面に浮遊する脂肪組織Aが取り出し口5aから押し出されるまで洗浄液供給手段3により容器2内に洗浄液Aを供給する供給制御部6とを備える脂肪組織洗浄装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、容器内に収容された脂肪組織を洗浄液とともに攪拌することにより脂肪組織を洗浄する脂肪組織処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この脂肪組織処理装置では、洗浄された脂肪組織に対して、消化酵素液を添加して攪拌することにより、脂肪組織を分解して脂肪由来細胞を単離させるようになっている。
【0003】
近年、脂肪由来幹細胞群を形成外科に応用する場合に、脂肪組織から単離された脂肪由来幹細胞を脂肪組織と混合して移植材を生成することが考えられている。この場合には、洗浄された脂肪組織の一部を消化酵素液による分解前に容器から取り出しておく必要がある。
【0004】
【特許文献1】国際公開第05/012480号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脂肪組織は粘性が高いため、シリンジ等の吸引ノズルを容器内に挿入しても回収が困難であるとともに、吸引ノズルを挿入することにより容器内に残る脂肪組織や取り出される脂肪組織に塵埃や細菌が混入しないように配慮する必要もある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、粘性の高い脂肪組織を簡易にかつ無菌的に取り出すことができる脂肪組織洗浄装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、脂肪組織を収容する容器と、該容器内に洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記容器内に収容された脂肪組織と洗浄液とを攪拌することで脂肪組織を洗浄する攪拌手段と、洗浄された脂肪組織の少なくとも一部を容器から取り出す取り出し手段とを備え、該取り出し手段が、前記容器の上部に設けられた取り出し口と、洗浄液の液面に浮遊する脂肪組織が前記取り出し口から押し出されるまで前記洗浄液供給手段により容器内に洗浄液を供給する供給制御部とを備える脂肪組織洗浄装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、容器内に収容した脂肪組織および洗浄液を攪拌手段により攪拌することにより脂肪組織が洗浄され、脂肪組織に付着していた血液や塵埃等が洗浄液によって洗い流される。汚れた洗浄液の排出と新鮮な洗浄液の供給とを繰り返すことにより脂肪組織を清浄な状態にすることができる。
【0009】
そして、清浄な脂肪組織が得られた状態で、取り出し手段を作動させることにより、清浄な脂肪組織の少なくとも一部が容器から取り出される。この場合に、取り出し手段は、供給制御部によって洗浄液供給手段を作動させ、容器内に洗浄液を供給することで、該洗浄液よりも比重の小さい脂肪組織を洗浄液の液面上に浮遊させる。そして、洗浄液を供給し続けることにより、洗浄液の液面上の脂肪組織を上昇させ続け、容器の上部に配置されている取り出し口から押し出す。すなわち、脂肪組織は、吸引ノズルを容器内に挿入して吸引により取り出すのではなく、容器内の洗浄液によって押し出されるので、粘性が高く取り扱い難い脂肪組織であっても、簡易にかつ無菌的に取り出すことができる。
【0010】
上記発明においては、容器内に収容された脂肪組織の量を測定する脂肪測定手段を備え、前記制御部が、前記脂肪測定手段により測定された脂肪組織量に基づいて容器内に供給する洗浄液量を算出することとしてもよい。
このようにすることで、余分な脂肪組織が取り出し口から取り出されてしまうことを防止して所望の量の脂肪組織を正確に取り出すことができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記取り出し口に、取り出された脂肪組織を収容する回収容器が接続されていてもよい。
このようにすることで、取り出し口から押し出された脂肪組織が回収容器に収容されるので、取り出された脂肪組織を無菌的に回収することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記回収容器が、取り出される脂肪組織量に応じて内部容積を変化させるシリンジまたは柔軟な密封容器であることが好ましい。
このようにすることで、シリンジまたは柔軟な密封容器のように取り出される脂肪組織量に応じて内部容積を変化させて、回収容器内の内圧上昇を防止し、取り出しをスムーズに行うことができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記回収容器に、排気口が設けられていてもよい。
このようにすることで、回収容器内に脂肪組織が収容されて行くに連れて排気口から回収容器内の空気が外部に放出されるので、回収容器内の内圧上昇を防止し、取り出しをスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粘性の高い脂肪組織を洗浄し、簡易にかつ無菌的に取り出すことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る脂肪組織洗浄装置1について、図1〜図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る脂肪組織洗浄装置1は、図1に示されるように、脂肪組織Aを収容する容器2と、該容器2内に洗浄液Bを供給する洗浄液供給手段3と、容器2内に収容された脂肪組織Aと洗浄液Bとを攪拌することで脂肪組織Aを洗浄する攪拌手段4と、洗浄された脂肪組織Aの少なくとも一部を容器2から取り出す取り出し手段5と、これらを制御する制御手段6とを備えている。
【0016】
容器2内の空間はフィルタ7によって上下に区画されている。フィルタ7は、脂肪組織Aが通過できず、洗浄液Bが通過できる程度の多数の透孔を有している。
容器2の底面には、洗浄液供給手段3と、洗浄後の洗浄液Bを排出する廃液口8とが設けられている。また、容器2の上面には、取り出し手段5と、容器2内の圧力を調節するための通気口9とが設けられている。さらに、容器2の底面の下方にはロードセル10が配置され、該ロードセル10によって、容器2および容器2内に収容される収容物の重量が測定されるようになっている。
【0017】
洗浄液供給手段3は、洗浄液Bを貯留する洗浄液容器3aと、該洗浄液容器3aと容器2とを接続する洗浄液供給配管3bと、該洗浄液供給配管3bの途中位置に設けられたポンプ3cとを備えている。洗浄液供給配管3bは容器2の底面に接続されている。洗浄液容器3a内の洗浄液Bはポンプ3cの作動により洗浄液供給配管3bを介して容器2内に底面から供給されるようになっている。
【0018】
攪拌手段4は、任意の方法のものでよいが、図1に示す例では、容器2の底面に配置される磁性材料からなる攪拌羽根4aと、該攪拌羽根4aを容器2内で回転させ、容器2内に旋回流を発生させるマグネット4bとを備えるマグネットスターラが採用されている。
【0019】
取り出し手段5は容器2の上面に設けられた取り出し口5aと、該取り出し口5aに接続され、取り出し口5aから押し出される脂肪組織Aを収容するシリンジ5bとを備えている。
制御手段6は、洗浄液供給手段3を制御して必要量の洗浄液Bを容器2内に供給させるとともに、廃液口8のバルブ8aを開閉して容器2内の洗浄後の洗浄液Bを排出させ、攪拌手段4を作動させて、脂肪組織Aを洗浄させ、取り出し手段5を作動させて、取り出し口5aから脂肪組織Aを取り出させるようになっている。
【0020】
制御手段(供給制御部)6は、容器2内の洗浄液Bを全て排出した状態でロードセル10により測定される容器2、攪拌手段4および容器2内に収容されている脂肪組織Aの重量に基づいて、脂肪組織Aの一部、例えば、脂肪組織Aの半分が取り出し口5aから押し出されるために必要とされる洗浄液Bの量を算出し、算出された量の洗浄液Bを洗浄液供給手段3によって容器2の下部から供給させるようになっている。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る脂肪組織洗浄装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る脂肪組織洗浄装置1を用いて脂肪組織Aを洗浄し、洗浄された脂肪組織Aの一部を回収するには、図2に示されるように、まず、容器2内のフィルタ7上方の空間に脂肪組織Aを収容した状態(ステップS1)で、ロードセル10からの測定信号に基づいて制御手段6が脂肪組織Aの重量を算出する(ステップS2)。容器2および攪拌手段4の重量は既知であるので、ロードセル10による測定値から容器2および攪拌手段4の重量を減算することにより容器2内の脂肪組織Aの重量を算出することができる。制御手段6は、算出された脂肪組織Aの重量に基づいて、適正な洗浄液Bの量を算出することができる(ステップS3)。
【0022】
次いで、制御手段6が洗浄液供給手段3を作動させ、洗浄液容器3aから洗浄液供給配管3bを介して洗浄液Bを容器2内に供給させる(ステップS4)。洗浄液供給配管3bは容器2の下部に接続されているので、洗浄液Bは容器2下部から容器2内に供給される。洗浄液Bの液面がフィルタ7の上方に達すると、洗浄液Bより比重の小さい脂肪組織Aは洗浄液Bの液面に浮遊するようになる。
【0023】
この状態で、制御手段6が、攪拌手段4を作動させ、容器2内において攪拌羽根4aを回転させて容器2内に旋回流を発生させることにより、洗浄液Bと脂肪組織Aとを攪拌し、脂肪組織Aに付着している組織片や血液等を洗い落とし(ステップS5)、洗浄後に廃液口8のバルブ8aを開放して、洗浄液Bを容器2外に排出する(ステップS6)。ステップS4〜S6は複数回繰り返してもよい。
【0024】
次に、洗浄液Bが排出された状態で、再度ロードセル10からの測定信号に基づいて制御手段6が脂肪組織Aの重量を算出する(ステップS7)。このとき、制御手段6は、算出された脂肪組織Aの例えば、半分の量を取り出すために必要な洗浄液Bの量を算出する(ステップS8)。洗浄液Bの量は、容器2の容積から脂肪組織Aの半分の容積を減算することにより算出することができる。
【0025】
その後、制御手段6は、洗浄液供給手段3を作動させ、洗浄液容器3aから洗浄液供給配管3bを介して洗浄液Bを容器2内に供給させる(ステップS9)。容器2内に供給された洗浄液Bは、フィルタ7上に留まっている洗浄された清浄な脂肪組織Aを容器2の上部まで浮上させる。そして、洗浄液Bがさらに供給されることにより、図3に示されるように、脂肪組織Aが取り出し口5aから外部に接続されているシリンジ5b内に押し出される(ステップS10)。
【0026】
これにより、必要量の脂肪組織Aが容器2外に取り出される。この場合に、容器2内に吸引ノズルを挿入せずに済むので、容器2内に細菌等が混入する虞がなく、無菌的に脂肪組織Aを取り出すことができる。また、容器2内に残る脂肪組織Aについても健全性を維持することができる。また、吸引ノズルを用いて吸引する場合には、脂肪組織Aの粘性により吸引作業をスムーズに行うことが困難であるが、本実施形態に係る脂肪組織洗浄装置1によれば、そのような不都合はなく、スムーズに押し出されてシリンジ5b内に回収することができる。
【0027】
なお、本実施形態に係る脂肪組織洗浄装置1においては、取り出し口5aに取り付けたシリンジ5b内に脂肪組織Aを取り出すこととしたが、これに代えて、図4に示されるように、取り出し口5aに取り付けた容積変更可能な弾性材料からなる密封容器11に脂肪組織Aを取り出すこととしてもよい。
また、本実施形態においては、ロードセル10により重量を測定することで、脂肪組織Aの量を測定することとしたが、これに代えて、容器2を透過する検出光により脂肪組織Aの表面位置を検出する光センサや、容器2内の脂肪組織Aの画像を取得するカメラにより取得された情報に基づいて脂肪組織Aの量を検出することとしてもよい。
【0028】
また、容器2の上面が図5に示されるように取り出し口5aに向かって先細になるように傾斜していることが好ましい。これにより、脂肪組織Aを取り出し口5aからさらに容易に押し出すことができる。
さらに、本実施形態においては、取り出し口5aを容器2の上面に設けることとしたが、これに代えて、図6に示されるように、上面近傍の側面に設けることにしてもよい。
【0029】
また、図6に示されるように、取り出した脂肪組織Aの量を検出する手段を設けることとしてもよい。図6に示す例では、シリンジ5aのピストン5cの移動量を光センサ12により検出することとしている。また、図7に示す例では、取り出された脂肪組織Aが収容される回収容器14の重量をロードセル13により検出することとしている。これにより、さらに正確に所望量の脂肪組織Aを回収することができる。
【0030】
また、本実施形態においては、シリンジ5aや弾性材料からなる密封容器11のように、容積を変更可能な回収容器5a,11に脂肪組織Aを回収することとしたが、これに代えて、容積固定の回収容器14に排気口14aを設け、脂肪組織Aが取り出されるに連れて回収容器14内の空気を抜くことにより、スムーズに脂肪組織Aを回収することとしてもよい。
また、本実施形態においては、脂肪組織洗浄装置1について説明したが、洗浄後の脂肪組織Aに対して消化酵素液を供給して攪拌することにより脂肪組織Aを分解して脂肪由来細胞を単離させる生体組織処理装置に適用することにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る脂肪組織洗浄装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の脂肪組織洗浄装置の動作順序を説明するフローチャートである。
【図3】図1の脂肪組織洗浄装置による脂肪組織の取り出し作業を説明する図である。
【図4】図1の脂肪組織洗浄装置の第1の変形例を示す図である。
【図5】図1の脂肪組織洗浄装置の第2の変形例を示す図である。
【図6】図1の脂肪組織洗浄装置の第3の変形例を示す図である。
【図7】図1の脂肪組織洗浄装置の第4の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
A 脂肪組織
B 洗浄液
1 脂肪組織洗浄装置
2 容器
3 洗浄液供給手段
4 攪拌手段
5 取り出し手段
5a 取り出し口
5b シリンジ(回収容器)
6 制御手段(供給制御部)
10 ロードセル(脂肪測定手段)
11 密封容器(回収容器)
14a 排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織を収容する容器と、
該容器内に洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、
前記容器内に収容された脂肪組織と洗浄液とを攪拌することで脂肪組織を洗浄する攪拌手段と、
洗浄された脂肪組織の少なくとも一部を容器から取り出す取り出し手段とを備え、
該取り出し手段が、前記容器の上部に設けられた取り出し口と、洗浄液の液面に浮遊する脂肪組織が前記取り出し口から押し出されるまで前記洗浄液供給手段により容器内に洗浄液を供給する供給制御部とを備える脂肪組織洗浄装置。
【請求項2】
容器内に収容された脂肪組織の量を測定する脂肪測定手段を備え、
前記制御部が、前記脂肪測定手段により測定された脂肪組織量に基づいて容器内に供給する洗浄液量を算出する請求項1に記載の脂肪組織洗浄装置。
【請求項3】
前記取り出し口に、取り出された脂肪組織を収容する回収容器が接続されている請求項1または請求項2に記載の脂肪組織洗浄装置。
【請求項4】
前記回収容器が、取り出される脂肪組織量に応じて内部容積を変化させるシリンジまたは柔軟な密封容器である請求項3に記載の脂肪組織洗浄装置。
【請求項5】
前記回収容器に、排気口が設けられている請求項3に記載の脂肪組織洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−291170(P2009−291170A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150853(P2008−150853)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】