説明

脂肪組織移替装置および脂肪由来細胞分離装置

【課題】シリンジ本体内に採取された脂肪組織をシリンジ本体等を破損することなく確実に脂肪処理容器に移し替える。
【解決手段】脂肪組織を収容したシリンジ本体2を固定するシリンジ保持部12と、シリンジ本体2に対してピストン5を進退させるモータ22と、シリンジ本体2に対してピストン5を前進させたときにピストン5にかかる押圧力を検出するトルク計28と、トルク計28により検出された押圧力が所定の閾値を超えたときにピストン5を後退させるようモータ22を制御するモータ制御部23とを備える脂肪組織移替装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織移替装置およびこれを備える脂肪由来細胞分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪組織から脂肪由来細胞を分離する場合、例えば、脂肪組織をシリンジによって採取し、採取した脂肪組織を脂肪処理容器に注入して分離処理を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような場合においては、脂肪処理容器への注入に先立って、脂肪組織の採取量を確認するために、シリンジ本体の吐出口を上向きにして静置することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吐出口を上向きにして静置することで、塊の大きな脂肪組織がシリンジ本体の上方に移動して吐出口が脂肪組織の塊によって塞がれた状態となり、脂肪組織を吐出口から押し出すために大きな力が必要になることがある。このような場合に、ピストンを大きな力で押すと固まった状態の脂肪組織が吐出されてしまい、その後の消化工程において脂肪組織から脂肪由来細胞を分離することが不十分になったり、時間がかかったりする不都合がある。また、ピストンを手動で無理に押したのでは、シリンジ本体が破損したり、シリンジ本体と脂肪処理容器とを接続する配管が破損したりする不都合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、シリンジ本体内に採取された脂肪組織をシリンジ本体等を破損することなく確実に脂肪処理容器に移し替えることができる脂肪組織移替装置およびこれを備える脂肪由来細胞分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、脂肪組織を収容したシリンジ本体を固定する固定部と、前記シリンジ本体に対してピストンを進退させる駆動部と、前記シリンジ本体に対して前記ピストンを前進させたときに該ピストンにかかる押圧力を検出する押圧力検出部と、該押圧力検出部により検出された押圧力が所定の閾値を超えたときに前記ピストンを後退させるよう前記駆動部を制御する制御部とを備える脂肪組織移替装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、駆動部により、脂肪組織が収容されているシリンジ本体に対してピストンを前進させることで、シリンジ本体内の脂肪組織を加圧して吐出口から外部に押し出すことができる。
【0008】
この場合に、ピストンの前進中にシリンジ本体内に脂肪組織の塊等が詰まり、押圧力検出部によって所定の閾値を超えたピストンの押圧力が検出されると、制御部により、ピストンを後退させる方向に移動させるよう駆動部が制御される。これにより、ピストンに過大な押圧力が作用することを防止することができるとともに、吐出口を介して外部からシリンジ本体内にエア等を吸引し、その勢いで脂肪組織の塊等をほぐしたり分散させたりすることができる。この結果、シリンジ本体等を破損することなく、脂肪組織を大きな塊等が存在しない状態で確実に脂肪処理容器等に移し替えることができる。
【0009】
上記発明においては、前記ピストンに振動を与える振動部を備えることとしてもよい。
振動部により、ピストンに振動を与えながら脂肪組織を加圧することで、シリンジ本体の吐出口に脂肪組織が詰るのを防ぎ外部に押し出し易くすることができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記シリンジ本体内に前記脂肪組織が詰ったことを検知する詰り検知部を備え、前記振動部が、前記詰り検知部により前記脂肪組織が詰ったことを検出すると前記ピストンに振動を与えることとしてもよい。
このように構成することで、シリンジ本体から脂肪組織をスムーズに押し出せないときに効率的に脂肪組織を押し出し易くすることができる。
【0011】
本発明は、上記本発明の脂肪組織移替装置と、該脂肪組織移替取装置により採取された前記脂肪組織が移送されて脂肪由来細胞の分離処理が行われる脂肪処理容器とを備える脂肪由来細胞分離装置を提供する。
【0012】
本発明によれば、脂肪組織移替装置により、シリンジ本体内の脂肪組織を大きな塊等がない状態で確実に脂肪処理容器に移し替えることができ、脂肪処理容器において、脂肪組織から脂肪由来細胞に容易かつ迅速に分離させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリンジ本体内に採取された脂肪組織をシリンジ本体等を破損することなく確実に脂肪処理容器に移し替えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る脂肪組織移替装置および脂肪由来細胞分離装置の概略図である。
【図2】図1の脂肪組織移替装置にシリンジを取り付けた状態を示した概略図である。
【図3】図1の脂肪組織移替装置による脂肪組織の移送工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る脂肪組織移替装置およびこれを備える脂肪由来細胞分離装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る脂肪由来細胞分離装置100は、生体内から採取した脂肪組織から脂肪由来細胞を分離するものであり、図1に示すように、生体内からシリンジ1によって採取した脂肪組織を移送する脂肪組織移替装置10と、脂肪組織移替装置10により移送された脂肪組織から脂肪由来細胞の分離処理が行われる脂肪処理容器50とを備えている。
【0016】
本実施形態において、シリンジ1は、例えば、図2に示すように、脂肪組織を収容する円筒状のシリンジ本体2と、シリンジ本体2内に収容されている脂肪組織を外部に押し出すピストン5とを備えている。シリンジ本体2は、長手方向の一端に内部に収容されている脂肪組織を吐出するための先端開口(吐出口)3aを有する円筒状の先端部3を備え、他端にピストン5が挿入される基端開口2bが形成されている。ピストン5は、シャフト6の一端に配置されてシリンジ本体2内を揺動させられる弾性部材(図示略)と、シャフト6の他端に形成された半径方向外方に延びるフランジ部7とにより構成されている。なお、シリンジ1としては、例えば、60mLのツーミーシリンジ等が用いられる。
【0017】
脂肪組織移替装置10は、シリンジ本体2を保持するシリンジ保持部(固定部)12と、シリンジ保持部12により固定された状態のシリンジ本体2に対してピストン5を進退させるピストン駆動機構20と、ピストン5がシリンジ本体2内の先端部3側まで押し込まれた状態を検知するピストン位置センサ14と、シリンジ本体2の先端部3と脂肪処理容器50とを接続する接続流路16と、接続流路16を固定する流路固定部18とを備えている。
【0018】
ピストン駆動機構20は、モータ(駆動部)22と、モータ22に接続され回転方向の駆動力を発生する回転駆動部24と、回転駆動部24により発生した回転方向の駆動力を直線方向の駆動力に変えてピストン5に伝える直線駆動部26とを備えている。この直線駆動部26は、ピストン5のフランジ部7を固定するピストン固定部27を備え、シリンジ本体2に対してピストン5を前進させて押し込んだり、後退させて引き抜いたりすることができるようになっている。
【0019】
また、ピストン駆動機構20には、回転駆動部24の回転力を計測するトルク計(押圧力検出部)28と、トルク計28により計測された回転駆動部24の回転力に基づいてモータ22の作動を制御するモータ制御部(制御部)23とが備えられている。
【0020】
トルク計28は、モータ22のCW駆動時の回転駆動部24の回転力を計測することで、シリンジ本体2に対してピストン5を前進させたときにピストン5にかかる押圧力を検出するようになっている。
【0021】
モータ制御部23は、ピストン5にかかる押圧力、すなわち、トルク計28により計測される回転駆動部24の回転力が所定の閾値を超えたときに、モータ22をCW駆動からCCW駆動に切り替えてピストン5を後退させるようになっている。
【0022】
ピストン位置センサ14は、シリンジ本体2の基端開口2b近傍に配置され、例えば、ピストン5がシリンジ本体2内に押し込まれて基端開口2bにフランジ部7が近接、あるいは、到達すると作動し、ピストン5の押し込みが終了したことをモータ制御部23に出力するようになっている。
【0023】
脂肪処理容器50は、容器本体52と、容器本体52に配置され、脂肪を投入するための脂肪投入口54と、容器本体52に消化液酵素を投入するための酵素投入口56と、エアフィルタ(図示略)が取り付けられた空気口58とを備えている。脂肪投入口54には、接続流路16が接続されている。
【0024】
このように構成された本実施形態に係る脂肪組織移替装置10およびこれを備える脂肪由来細胞分離装置100の作用について、図3のフローチャートを参照して以下に説明する。
本実施形態に係る脂肪組織移替装置10および脂肪由来細胞分離装置100を用いて生体内から採取した脂肪組織から脂肪由来細胞を分離するには、予め、脂肪吸引用のカニューレ(図示略)を取り付けたシリンジ1により生体内から脂肪組織を吸引し、シリンジ本体2内に脂肪組織を収容しておく。
【0025】
脂肪組織が収容されたシリンジ1の先端部3を接続流路16に嵌め込み、シリンジ保持部12によりシリンジ本体2を保持させる。そして、直線駆動部26のピストン固定部27によりピストン5のフランジ部7を固定する(ステップS0)。
【0026】
この状態で、モータ22をCW駆動させ、トルク計28により回転駆動部24の回転力を計測しながら、シリンジ本体2に対して一定の速度(約10mL/s)でピストン5を前進させる(ステップS1)。
【0027】
ピストン位置センサ14が作動していない状態では(ステップS2「YES」)、モータ制御部23により、トルク計28によって検出される回転駆動部24の回転力が所定の閾値、例えば、30kgより大きいか否か判断される(ステップS3)。
【0028】
計測値が閾値を超えていない場合は(ステップS3「NO」)、ステップS1へと戻る。そして、ピストン5がシリンジ本体2内に押し込まれ、シリンジ本体2内の脂肪組織が加圧されて先端開口3aから押し出されると、脂肪組織が接続流路16を通って脂肪処理容器50の容器本体52内に移送される。
【0029】
一方、脂肪組織の塊等がシリンジ本体2の先端開口3aに詰まり、ピストン5にかかる押圧力、すなわち、トルク計28によって検出される計測値が30kgを超えると(ステップS3「YES」)、モータ制御部23の作動によりモータ22のCW駆動が停止され、ピストン5の押し込みが停止する(ステップS4)。
【0030】
そして、モータ制御部23の作動により、ピストン5を後退させるようモータ22がCCW駆動に切り替えられ(ステップS5)、ピストン5がシリンジ本体2から引き抜かれる方向に、例えば、約10mL量分移動させられる。ピストン5を後退させることで、容器本体52内の空気が接続流路16を介してシリンジ本体2内に供給され、先端開口3aに詰まっていた脂肪組織の塊等が空気の勢いでほぐされる。これにより、シリンジ本体2内の脂肪組織のつまり状態を変化させることができる。
【0031】
ピストン5が約10mL量分後退させられると、ステップS1に戻り、モータ制御部23の作動によりモータ22がCW駆動に切り替えられる。そして、ピストン5が再びシリンジ本体2内へと押し込まれる。シリンジ本体2内の脂肪組織は、塊等がほぐれた状態となっているので、先端開口3aに塊等が詰まることなく脂肪組織を押し出すことができる。
【0032】
シリンジ本体2内の脂肪組織が完全に押し出され、ピストン5のフランジ部7がシリンジ本体2の基端開口2bに近接、あるいは、到達してピストン位置センサ14が作動すると(ステップS2「NO」)、モータ制御部23によりモータ22の作動が終了する。
【0033】
脂肪処理容器50においては、脂肪組織移替装置10によって移送され容器本体52に収容された脂肪組織が、酵素投入口56から投入される消化酵素液と混合されて、脂肪由来細胞の分離処理が行われる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る脂肪組織移替装置10およびこれを備える脂肪由来細胞分離装置100によれば、ピストン5の前進中にシリンジ本体2内に脂肪組織の塊等が詰まり、ピストン5に30kgを超える押圧力がかかると、モータ制御部23により、ピストン5を後退させる方向に移動させるようモータ22が制御されるので、ピストン5に過大な押圧力が作用することを防止することができる。また、ピストン5を後退させることで、先端開口3aを介して外部からシリンジ本体2内にエアを吸引し、その勢いで脂肪組織の塊等をほぐしたり分散させたりすることができる。この結果、シリンジ本体2等を破損することなく、脂肪組織を大きな塊等が存在しない状態で確実に脂肪処理容器50に移し替えることができ、脂肪処理容器50において脂肪組織から脂肪由来細胞に容易かつ迅速に分離させることができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、脂肪組織移替装置10が、ピストン5に振動を与える振動部を備えることとしてもよい。振動部により、ピストン5に振動を与えながら脂肪組織を加圧することで、シリンジ本体2の先端開口3aに脂肪組織が詰るのを防ぎ外部に押し出し易くすることができる。
また、脂肪組織移替装置10が、振動部に加えて、シリンジ本体2内に脂肪組織が詰ったことを検知する詰り検知部を備え、詰り検知部により脂肪組織が詰ったことを検知されると振動部がピストン5に振動を与えることとしてもよい。このようにすることで、シリンジ本体2から脂肪組織をスムーズに押し出せないときに効率的に脂肪組織を押し出し易くすることができる。
【符号の説明】
【0036】
2 シリンジ本体
5 ピストン
10 脂肪組織移替装置
12 シリンジ保持部(固定部)
22 モータ(駆動部)
23 モータ制御部(制御部)
28 トルク計(押圧力検出部)
50 脂肪処理容器
100 脂肪由来細胞分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織を収容したシリンジ本体を固定する固定部と、
前記シリンジ本体に対してピストンを進退させる駆動部と、
前記シリンジ本体に対して前記ピストンを前進させたときに該ピストンにかかる押圧力を検出する押圧力検出部と、
該押圧力検出部により検出された押圧力が所定の閾値を超えたときに前記ピストンを後退させるよう前記駆動部を制御する制御部と
を備える脂肪組織移替装置。
【請求項2】
前記ピストンに振動を与える振動部を備える請求項1に記載の脂肪組織移替装置。
【請求項3】
前記シリンジ本体内に前記脂肪組織が詰ったことを検知する詰り検知部を備え、前記振動部が、前記詰り検知部により前記脂肪組織が詰ったことを検出すると前記ピストンに振動を与える請求項2に記載の脂肪組織移替装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の脂肪組織移替装置と、
該脂肪組織移替取装置により採取された前記脂肪組織が移送されて脂肪由来細胞の分離処理が行われる脂肪処理容器と
を備える脂肪由来細胞分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−239907(P2010−239907A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93054(P2009−93054)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】