説明

脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法

【課題】高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを高い蒸留収率で生産する製造方法を提供する。
【解決手段】動植物油脂を含む原料を、アルカリ触媒を使用し、低級アルコールでエステル交換反応を行うエステル交換工程(A)と、前記エステル交換工程(A)で得られた油相を水洗後、油相と水相を分離する精製工程(B)と、前記精製工程(B)で得られた油相を減圧蒸留する蒸留工程(C)、とを含む脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法であって、前記精製工程(B)の油相の水洗における水の添加量が油相100質量部に対して5〜20質量部であり、油相と水相の分離方法がフィルター分離であることを特徴とする脂肪酸低級アルキルエスエルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動植物に由来する有機物をエネルギー源としたバイオマス燃料が、軽油又はガソリンの代替燃料として注目されている。バイオマス燃料には、たとえば脂肪酸低級アルキルエステルが利用されている。一般的に、脂肪酸低級アルキルエステルは、動植物油脂などの天然油脂を原料とし、該原料と、メタノール等の低級アルコールとのエステル交換反応により、脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相を得て、該油相を蒸留して分離することにより製造されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、前記従来の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法においては、エステル交換反応時に、脂肪酸低級アルキルエステルとともにグリセリンおよび石鹸が副生するため軽油代替燃料などとして使用する場合には精製除去を行う必要がある。
副生したグリセリンや石鹸の多くは、一般的に、エステル交換反応後の反応液を、静置分離又は遠心分離等により2層(脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相とグリセリンや石鹸等を含むグリセリン相)に分離し、グリセリン相を排出することにより除去されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−176973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記エステル交換反応においては、原油由来の遊離脂肪酸とアルカリ触媒である水酸化ナトリウムなどから石鹸が副生するが、この石鹸は水洗・静置分離により大部分は除去されるものの、微量の石鹸が残存し、これが油相の蒸留時に蒸留ボトム中に濃縮されることで蒸気圧降下が生じ、蒸留収率が低下する問題がある。このため、動植物油脂などの原料の使用量に対する脂肪酸低級アルキルエステルの生産量の割合(歩留まり)が不十分となる問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、迅速かつ安価に前記脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相中の石鹸を低減でき、脂肪酸低級アルキルエステルの蒸留収率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、精製工程で特定量の水を添加し、フィルター分離を行うことにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の脂肪酸低級アルキルエスエルの製造方法は、動植物油脂を含む原料を、アルカリ触媒を使用し、低級アルコールとエステル交換反応を行うエステル交換工程(A)と、前記エステル交換工程(A)で得られた油相を水洗後、油相と水相とを分離する精製工程(B)と、前記精製工程(B)で得られた油相を減圧蒸留する蒸留工程(C)とを含む脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法であって、前記精製工程(B)における水の添加量が油相100質量部に対して5〜20質量部であり、油相と水相の分離方法がフィルター分離であることを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明の動植物油脂がパーム油およびヤシ油であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法により、高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを高い蒸留収率で生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法は、動植物油脂を含む原料を使用し、エステル交換工程(A)、精製工程(B)および蒸留工程(C)を行うことにより脂肪酸低級アルキルエステルを製造する方法である。
【0011】
原料に含まれる動植物油脂は、動物(微生物を含む。)や植物に由来し、油脂(脂肪酸トリグリセライド)を主成分とするものである。原料には、動植物油脂の他に、脂肪酸、リン脂質、糖脂質、タンパク質、カロチン等を含んでいてもよい。ここで「主成分」とは、少なくとも50質量%以上を占める成分のことを指す。
【0012】
動物に由来するものとしては、牛脂、豚脂などが挙げられ、植物に由来するものとしては、ヤシ油、パーム核油、パーム油、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、コーン油等が挙げられる。また、動植物油脂は、1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。さらに、動植物油脂には、例えば、他の物質などの製造過程で回収された脂肪酸を混合して使用してもよい。このような脂肪酸が多すぎると、各工程に悪影響が及ぶ場合があるため、動植物油脂100質量部に対して5質量部以下が好ましい。
【0013】

未精製油脂としては、例えば、粗パームなどが好適に使用できる。粗パーム油は、アブラヤシの果肉を圧搾して得られ、炭素数16〜18の脂肪酸の油脂(たとえば脂肪酸トリグリセライド等)を主成分とする未精製の混合物である。粗パーム油としては、市販のものを使用できる。
粗パーム油の組成(各成分の割合、油脂における脂肪酸組成)は、「基準油脂分析試験法2.4.2.1−1996 脂肪酸組成」等の従来公知の方法により確認できる。粗パーム油の遊離脂肪酸の含有量および過酸化物価は、それぞれ、「基準油脂分析試験法2.3.1−1996 酸価」および「基準油脂分析試験法2.5.2.1−1996 過酸化物価(酢酸−イソオクタン法)」等の従来公知の方法により確認できる。
【0014】

[エステル交換工程(A)] エステル交換工程(A)(以下「工程(A)」ということがある。)では、アルカリ触媒の存在下、動植物油脂と低級アルコールのエステル交換反応を行う公知の方法を目的に応じて適宜選択し使用できる。エステル交換反応により、脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相と、副生するグリセリン、石鹸等を含む相(グリセリン相)が得られ、工程(A)ではさらに、該油相とグリセリン相を分離する。分離は静置分離、遠心分離など公知の方法を目的に応じて適宜選択し実施できる。
【0015】

アルカリ触媒としては目的に応じて公知のものを使用でき、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラートが好適なものとして挙げられ、1種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、コストの点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、さらに操作性の点からは水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0016】
アルカリ触媒は、動植物油脂を含む原料に含まれる遊離脂肪酸に由来するの酸価や生産性など目的に応じて使用量を適宜選択する。アルカリ触媒の添加量が多いほどエステル交換反応の進行には有利であるが、アルカリ触媒量が多くなるにつれて、副生する石鹸の量も多くなり、後述する精製工程(B)への負荷が過大となるおそれがある。また原料の酸価が大きいときにも触媒の使用量を増やす必要があるため、石鹸の副生量が多くなる。より少ないアルカリ触媒量で石鹸の副生量を抑えつつエステル交換反応を実施するうえで、原料の酸価は小さいほど好ましく、そのために原料の動植物油について予め脱酸処理を行うことが好ましい。脱酸処理は公知の方法で実施できる。
【0017】

具体的には、動植物油脂を含む原料100質量部に対して、アルカリ触媒量が0.1〜1.0質量部の範囲内が好ましく、0.2〜0.6質量部の範囲内がより好ましい。
【0018】

低級アルコールとしては、炭素数4以下のアルコールを使用することが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよく、メタノールが特に好ましい。 低級アルコールの使用量は、動植物油脂を含む原料100質量部に対し、10〜50質量部が好ましく、20〜40質量部がより好ましく、30〜40質量部がさらに好ましい。
【0019】

反応温度は、40〜120℃が好ましく、50〜100℃がより好ましく、60〜80℃がさらに好ましい。また、処理時間は、15〜120分間が好ましく、30〜70分間がより好ましく、40〜60分間がさらに好ましい。
【0020】

工程(A)のエステル交換反応により、脂肪酸低級アルキルエステルと、副生物であるグリセリン、石鹸等が生成する。反応後には、脂肪酸低級アルキルエステルを主成分とする油相と、グリセリン、石鹸等を含むグリセリン相とを分離する。油相とグリセリン相との分離は、静置分離、遠心分離等公知の方法で行えばよく、静置分離の場合には、温度は30〜70℃とすることが好ましく、30〜50℃とすることがより好ましく、静置時間は30〜90分間とすることが好ましく、30〜60分間とすることがより好ましい。また、油相の石鹸分含有量は1000ppm好ましくは500ppm以下であることが好ましい。また、油相とグリセリン相とを分離する前にアルカリ触媒を水洗するための水を後述する精製工程(B)において添加する水とは別に添加してもよい。エステル交換反応の反応率を高めるために分離した油相を原料に再度エステル交換反応を繰り返してもよい。
【0021】

[精製工程(B)] 精製工程(B)(以下「工程(B)」ということがある。)では、前記工程(A)で得られた脂肪酸低級アルキルエステルを主成分とする油相に特定量の水を添加した後に攪拌するなど公知の方法で油相の水洗を行い、つづいて油水分離フィルターに通液して、油相と水相を分離して油相を得る。
【0022】
工程(B)で添加する水の量は、工程(A)で得られた油相に対し、5〜20質量部であり、好ましくは5〜10質量部である。5質量部未満では十分な石鹸低減の効果が得られず、また、場合によっては油相と水相の分離が不十分となるため好ましくなく、20質量部を超えると排水処理量が多くなり環境負荷が大きくなるため好ましくない。
【0023】
工程(B)で使用する油水分離フィルターは、織布、編布、不織布のいずれでも良い。この油水分離フィルターを構成する繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系共重合体の繊維、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリカプラミド等のポリアミド繊維、ポリアミド・イミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラオキシベンゾエート等のポリエステルエーテルの繊維、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン含有重合体の繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの繊維、各種アクリル繊維およびポリビニルアルコール系繊維、再生セルロース、アセテート、木綿、麻、絹、羊毛、等の天然繊維が挙げられる。これらの繊維は単独あるいは組み合わせて使用される。また、これら繊維をジメチルポリシロキサンやパーフルオロアルキル基を持ったフッ素系樹脂等で撥水加工処理したものも使用可能である。工程(B)で得られる油相の主成分である脂肪酸低級アルキルエステルの種類によって、油水分離フィルターの最適繊維の種類を目的に合わせて適宜選択する。例えば、原料油脂がパーム油の場合はポリエステル系共重合体の繊維が好ましく、原料油脂がヤシ油の場合はポリアミド繊維が好ましい。
【0024】

油水分離フィルターを構成する繊維の単繊維直径は油水分離性が損なわれない範囲であれば特に限定はないが、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは単繊維直径2μm以下のものである。ここでの単繊維直径は前記範囲の繊維の総重量が50%以上であることを意味している。
【0025】
本発明で用いる油水分離フィルターの形態や、通液方法は目的に合わせて適宜公知の形態及び方法を選択して使用することができる。本発明で用いる油水分離フィルターの具体的例としては、SEFAR社製の商標「PETEX」であるメッシュクロスや旭化成(株)より商標「ユーテック」として販売されている油水分離フィルター等が挙げられる。その中でも、旭化成(株)より商標「ユーテック」として販売されている油水分離フィルターが特に好ましい。
【0026】
工程(B)を行った後の、脂肪酸低級アルキルエステルを主成分とする油相に含有される石鹸の量(石鹸量)は150ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。該石鹸量が上限値以下であると、次の蒸留工程(C)での蒸留収率がより高くなる。
【0027】
[蒸留工程(C)]
蒸留工程(C)(以下「工程(C)」ということがある。)では、前記工程(B)で得られた油相の減圧蒸留を行う。
具体的には、工程(C)において、工程(B)で得られた油相の減圧蒸留を行うことにより、油相に含まれる不純物を蒸留残留物として蒸留塔の塔底に残し、目的物である脂肪酸低級アルキルエステルを留出液として高純度で得ることができる。
【0028】
不純物としては、原料に使用した動植物油脂の種類によって異なるが、例えばモノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライド等の未反応のグリセライド;炭素数20、22の脂肪酸の低級アルキルエステル、アルカリ石鹸などのアルカリ金属に由来した成分、カロチンの分解物等が挙げられる。
【0029】
減圧蒸留は目的に合わせて適宜公知の方法を選択し行うことができる。減圧蒸留の前に低沸点分の水、低級アルコールなどを除去するために常圧のフラッシュ蒸留工程(通常120〜170℃)を行うことが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法によれば、精製工程(B)において迅速かつ安価にエステル交換反応におけるアルカリ触媒に由来する脂肪酸低級アルキルエステルを含む油相中の石鹸を低減でき、蒸留工程(C)における蒸留塔の塔底への残留物の物性が改善され高い蒸発効率が得られるため、高純度の脂肪酸低級アルキルエステルを高い歩留まりで、かつ、安定に生産することができる。
本発明の製造方法により得られた脂肪酸低級アルキルエステルは、例えば、自動車、船舶、農業機械、建設機械、発電、暖房などのあらゆる用途の軽油代替燃料として使用できる。また、必要に応じて、他の脂肪酸アルキルエステルや軽油などと混合して使用できる。また、洗浄剤組成物等に用いられるスルホ脂肪酸エステルや、脂肪酸アルキロールアマイド、脂肪酸ニトリル化合物等を製造するための原料として用いることもできる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
下記の各例において、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0032】
<評価方法>
以下の実施例において、油水分離性、石鹸量、グリセリン量、蒸発率の評価は、以下に示す方法により行った。
【0033】
[油水分離性]
油水分離フィルター通過後の液の油相と水相の界面を下記の基準で目視判定した。
○:油相と水相の界面が明瞭である。
×:油相と水相の界面に白濁した乳化相が形成される。
【0034】
[石鹸量]
石鹸量の測定は「基準油脂分析試験法2.6.2−1996 セッケン」に記載の方法に準拠した。
【0035】
[グリセリン量]
油相0.05gにピリジン0.500g(ドトリアコンタン500ppm含有)とシリル化剤0.50mLを添加し、70℃で30分加熱したものを下記条件でガスクロマトグラフ分析を行い、グリセリン分を定量した。
・装 置 : Agilent 6890N
・カラム :DB−1HT
・温 度 : 50℃−350℃(昇温速度 10℃/分)、350℃(10分間保持)
【0036】
[蒸発率]
蒸留工程(C)において、メタノールを留去した油相に対する第1および第2の蒸留における流出エステルの合計量の割合を蒸発率(質量%)として求めた。かかる蒸発率が高いほど、高い歩留まりであるといえる。
【0037】
<ヤシエステル混合油の製造>
マレーシア産ヤシ油(油脂として、炭素数6の成分を0.2%、炭素数8の成分を6.0%、炭素数10の成分を5.6%、炭素数12の成分を47.2%、炭素数14の成分を17.8%、炭素数16の成分を8.9%、炭素数18の成分を14.2%、炭素数20の成分を0.1%含有し、さらに、遊離脂肪酸を2.4%、ガム質を0.2%含有していた。また、水分含有量は800ppm、酸価は6.4であった。)100部を60℃に加熱しパーライト(トプコパーライト#38、東興パーライト工業株式会社、平均粒子径36μm)0.4部を添加して20分間混合した。これをフィルター式濾過機(濾過面積25m、温度60℃)に移送しプレコート相を形成した。新たにヤシ油100部を60℃に加熱してパーライトを0.05部添加して10分間混合した。これを、プレコート相を形成したフィルター式濾過機でろ過し、濾過物を得た。濾過物の水分は0.13%であった。
【0038】
前記濾過物100部に対してメタノール20部を添加した混合物を、強酸性陽イオン交換樹脂SK104H(三菱化学株式会社製、架橋度4%)が充填された塔に、65℃、滞留時間120分で通液して反応混合物を得た。反応混合物中、エステル混合油(油脂と脂肪酸メチルエステルとの混合油)の割合は84%であった。また、エステル混合油の酸価は0.80であった。この反応混合物を「ヤシエステル混合油」として、以下の実施例で使用するが、石鹸量は236ppm、グリセリン量は685ppmであった。
【0039】
<パームエステル混合油の製造>

マレーシア産粗パーム油(油脂として、炭素数12の成分を0.3%、炭素数14の成分を1.0%、炭素数16の成分を44.0%、炭素数18の成分を53.8%、炭素数20の成分を0.9%含有し、さらに、遊離脂肪酸を3.74%、ガム質を0.5%含有していた。また、水分含有量は500ppm、酸価は8.2であった)100部を60℃に加熱し、75%リン酸水溶液0.1部とパーライト(トプコパーライト#38、東興パーライト工業株式会社;平均粒子径36μm)0.4部とを添加して20分間混合した。これを、フィルター式濾過機(濾過面積25m、温度60℃)に移送しプレコート相を形成した。 あらたに、粗パーム油100部を60℃に加熱して75%リン酸水溶液0.1部とパーライト0.05部とを添加して10分間混合した。これを、プレコート相を形成したフィルター式濾過機でろ過し、濾過物を得た。濾過物の水分含有量は0.13%であった。
【0040】
前記濾過物100部にメタノール20部を添加した混合物を、ゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK104H、三菱化学株式会社製;架橋度4%)が充填された塔に、65℃、滞留時間120分間で通液して反応混合物を得た。反応混合物中、エステル混合油(油脂と脂肪酸メチルエステルとの混合油)の割合は84%であった。また、エステル混合油の酸価は0.40であった。この反応混合物を「パームエステル混合油」として、以下の実施例で使用するが、石鹸量は305ppm、グリセリン量は438ppmであった。
【0041】
(実施例1)
「ヤシエステル混合油」100部に対してメタノール15部、水酸化ナトリウム0.26部を添加し、撹拌機付き多段連続式反応装置(段数10段、温度70℃、滞留時間60分)を用いて油脂のエステル交換反応を行った。これにより、脂肪酸メチルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とを生成させ、40℃で60分間静置した後、油相とグリセリン相に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル濃度(エステル交換反応率)は96.3%であった。
【0042】
次いで、得られた油相100部に対してメタノール5部、水酸化ナトリウム0.1部を添加し、60℃で5分間エステル交換反応を行った。得られた混合物100部に対して水14質量部を添加し、5分間攪拌を行った後、40℃で60分間静置した。その後、これを油相と水相に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル反応率は99.1%であった。
【0043】
前記エステル交換工程(A)で得られた油相100部に対して水5質量部を添加し、5分間攪拌した。これを攪拌しながら、油水分離フィルター(旭化成せんい(株)製、材質:ナイロン、目開き:2μm)を取り付けたディスクホルダーKS−90−UH(アドバンテック東洋(株)製)に流速45mL/分で通液して油相を分離した。この油相と水相の界面状態を目視判定し油水分離性を評価した。さらに、この分離した油相について石鹸量、グリセリン量を測定した。
【0044】
前記精製工程(B)で得られた油相を、7.0kPa、110℃で加熱し、水およびメタノールを留去した。続いて、第1の減圧蒸留工程として圧力2.0kPa、トップ温度185℃で蒸留を行い、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出物を得た。ついで、第1の減圧蒸留工程の残留物に対して、第2の減圧蒸留工程として圧力0.5kPa、トップ温度170℃で蒸留を行い、炭素数16、18に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液を得た。さらに、メタノールを留去した油相に対する第1および第2の蒸留における流出エステルの合計量の割合を蒸発率(質量%)として求めた。
【0045】
(実施例2)
実施例2は、油水分離フィルターの目開きを10μmに変更した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0046】
(実施例3)
実施例3は、油水分離フィルターの目開きを50μmに変更した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0047】
(比較例1)
比較例1は、「ヤシエステル混合油」に対し、前記エステル交換工程(A)および前記精製工程(B)を行わず、続いて、第1の減圧蒸留工程として圧力2.0kPa、トップ温度185℃で蒸留を行い、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出物を得た。ついで、第1の減圧蒸留工程の残留物に対して、第2の減圧蒸留工程として圧力0.5kPa、トップ温度170℃で蒸留を行い、炭素数16、18に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液を得た。さらに、メタノールを留去した油相に対する第1および第2の蒸留における流出エステルの合計量の割合を蒸発率(質量%)として求めた。
【0048】
(比較例2)
比較例2は、エステル交換工程(A)で得られた油相100部に対して水3質量部の添加に変更した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0049】
(比較例3)
比較例3は、油水分離フィルター(旭化成せんい(株)製、材質:PET、目開き:10μm)を変更した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0050】
(実施例4)

「パームエステル混合油」100部に対してメタノール15部、水酸化ナトリウム0.19部を添加し、撹拌機付き多段連続式反応装置(段数10段、温度70℃、滞留時間60分)を用いて、油脂のエステル交換反応を行った。その後、40℃で60分間静置し、脂肪酸メチルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とに分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル反応率(エステル交換反応率)は96.3%であった。
【0051】

次いで、得られた油相100部に対してメタノール5部、水酸化ナトリウム0.1部を添加し、60℃で5分間エステル交換反応を行った。得られた混合物100部に対して水14部を添加し、5分間撹拌を行った後、40℃で60分間静置した。その後、これを油相とグリセリン相に分離した。油相中の脂肪酸メチルエステル反応率は99.1%であった。
【0052】
前記エステル交換工程(A)で得られた油相100部に対して水5質量部を添加し、5分間攪拌した。これを攪拌しながら、油水分離フィルター(旭化成せんい(株)製、材質:PET、目開き:10μm)を取り付けたディスクホルダーKS−90−UH(アドバンテック東洋(株)製)に流速45mL/分で通液して油相を分離した。この油相と水相の界面状態を目視判定し油水分離性を評価した。さらに、この分離した油相について石鹸量、グリセリン量を測定した。
【0053】
前記精製工程(B)で得られた油相を、7.0kPa、110℃で加熱し、水およびメタノールを留去した。続いて、第1の減圧蒸留工程として圧力2.0kPa、トップ温度180℃で蒸留を行い、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出物を得た。ついで、第1の減圧蒸留工程の残留物に対して、第2の減圧蒸留工程として圧力0.5kPa、トップ温度170℃で蒸留を行い、炭素数16、18に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液を得た。さらに、メタノールを留去した油相に対する第1および第2の蒸留における流出エステルの合計量の割合を蒸発率(質量%)として求めた。
【0054】
(実施例5)
実施例5は、油水分離フィルターの目開きを50μmに変更した以外は、実施例4と同様にして行った。
【0055】
(実施例6)
実施例6は、エステル交換工程(A)で得られた油相100部に対して水15質量部の添加に変更した以外は、実施例4と同様にして行った。
【0056】
(比較例4)
比較例4は、「パームエステル混合油」に対し、前記エステル交換工程(A)および前記精製工程(B)を行わず、続いて、第1の減圧蒸留工程として圧力2.0kPa、トップ温度180℃で蒸留を行い、炭素数12、14の脂肪酸に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出物を得た。ついで、第1の減圧蒸留工程の残留物に対して、第2の減圧蒸留工程として圧力0.5kPa、トップ温度170℃で蒸留を行い、炭素数16、18に由来する脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液を得た。さらに、メタノールを留去した油相に対する第1および第2の蒸留における流出エステルの合計量の割合を蒸発率(質量%)として求めた。
【0057】
(比較例5)
比較例5は、油水分離フィルター(旭化成せんい(株)製、材質:ナイロン、目開き:2μm)を変更した以外は、実施例4と同様にして行った。
【0058】
(比較例6)
比較例6は、油水分離フィルター(旭化成せんい(株)製、材質:ナイロン、目開き:50μm)を変更した以外は、実施例4と同様にして行った。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果から、油水分離フィルターを選定し、精製工程(B)で一定範囲の水を添加することで、油水分離性が著しく良好となり、蒸発率が向上することが確認できた。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物油脂を含む原料を、アルカリ触媒を使用し、低級アルコールとエステル交換反応を行うエステル交換工程(A)と、
前記エステル交換工程(A)で得られた油相を水洗後、油相と水相を分離する精製工程(B)と、
前記精製工程(B)で得られた油相を減圧蒸留する蒸留工程(C)とを含む脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法であって、
前記精製工程(B)の油相の水洗における水の添加量が油相100質量部に対して5〜20質量部であり、油相と水相の分離方法がフィルター分離であることを特徴とする脂肪酸低級アルキルエスエルの製造方法
【請求項2】
動植物油脂がパーム油およびヤシ油であることを特徴とする請求項1記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法