説明

脂質代謝改善剤

【課題】 脂質代謝改善剤の提供。
【解決手段】 オキアミタンパク質を有効成分とする脂質代謝改善剤。及びそれを含有する医薬あるいは食品。オキアミタンパク質を有効成分として含有する脂質代謝改善用機能性食品、また脂質代謝改善に有効であることを表記したものである、前記脂質代謝改善用機能性食品。本発明の脂質代謝改善剤は、コレステロール吸収阻害あるいは胆汁酸排泄効果を有し、血中コレステロールを低下する医薬、あるいは食品として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキアミタンパク質を有効成分とする脂質代謝改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の死亡原因の上位を占めるガン、心臓病、脳卒中、動脈硬化、高血圧、高脂血症、糖尿病といった生活習慣病の罹患増加は、相対的な高脂肪食、低食物繊維の長期継続に加え、現代社会における慢性的運動不足やストレスがアクセレートしてくると考えられている。特に、高血圧症、高脂血症や糖尿病は初期段階では自覚症状がなく、その後に様々な疾患発症の温床となる。1970年代のDyerbergらの疫学調査以降、これらの予防・軽減に水産物の摂取が有効であり、わが国においては研究以外の発想としても経験的に日本古来の魚介類を中心とした食生活を見直す動きが出てきた。(非特許文献1、2等)
【0003】
機能性成分の確認という研究作業過程において、魚介類摂取の有益性は魚油に含まれているIPA、DHAといったn-3系不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)が動脈硬化予防、血圧低下作用を有し機能性を発現しているとのみ解は間違いではないが、ことコレステロール代謝については、n-3 PUFAの付加的摂取によって無応答というほか評価できない。高脂血症のうちある病態においては、低密度リポタンパク質の増加を来すという報告もある
(非特許文献3、4等)。
【0004】
一方、魚肉タンパク質の効果は見落とされがちであった。年代別食事調査によると、n-6/n-3比はこの四半世紀変化していないにもかかわらず、畜肉乳製品に対する魚介類タンパク質摂取量の相対的減少は全く指摘されたことがない(非特許文献5)。しかし、魚肉タンパク質には、血中コレステロールや血糖値に対する有用な効果について、様々な報告がなされている(非特許文献6、7、8等)。
【0005】
【非特許文献1】Kantha SS.,「Dietary effects of fish oils onhuman health: a review of recent studies. 」,Yale J Biol Med. ,1987年,60(1),p.37-44
【非特許文献2】Takeda S, Aoyagi I, Amano M, Takahashi H.,「Healthstatus and care of the urban elderly.」,Nippon KoshuEisei Zasshi,1992年,39(12),p.920-926
【非特許文献3】Harris WS.,「Fish oils and plasma lipid andlipoprotein metabolism in humans: acritical.」,J Lipid Res.,1989年,30(6),p.785-807
【非特許文献4】Harris WS, Connor WE, Alam N, Illingworth DR.,「Reduction of postprandial triglyceridemia in humans by dietary n-3fatty acids.」,J Lipid Res.,1988年,29(11),p.1451-1460
【非特許文献5】福永健治,森下敏子,「コレステロールと健康[2]」,食生活研究,2004年,第24号,p.17-22.
【非特許文献6】Zhang XZ, Beynen AC.,「Dietary fish proteinsand cholesterol metabolism.」,Monogr Atheroscler.,1990年,16,p.148-152
【非特許文献7】Demonty I, Deshaies Y, Jacques H.,「Dietary proteinsmodulate the effects of fish oil on triglyceridemia in the rat.」,Lipids,1998年,33(9),p.913-921
【非特許文献8】Tremblay F, Lavigne C, Jacques H, Marette A.,「Dietarycod protein restores insulin-induced activation of phosphatidylinositol 3-kinase/Akt andGLUT4 translocation to the T-tubules in skeletal muscle of high-fat-fed obeserats.」,Diabetes, 2003年,52(1),p.29-37
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、オキアミタンパク質を有効成分とする脂質代謝改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の状況に鑑み魚介類のタンパク質に脂質代謝を改善する物質を求め鋭意研究、探索した結果、オキアミタンパク質に優位な血中コレステロール低下効果を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、下記(1)ないし(5)に記載の内容を要旨とする。
(1) オキアミタンパク質を有効成分とする脂質代謝改善剤。
(2) 前記(1)の脂質代謝改善剤を含有する医薬。
(3) 前記(1)請求項1記載の脂質代謝改善剤を含有する食品。
(4) オキアミタンパク質を有効成分として含有する脂質代謝改善用機能性食品。
(5) 脂質代謝改善に有効であることを表記したものである、前記(4)の脂質代謝改善用機能性食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、オキアミタンパク質を有効成分とする脂質代謝改善剤が提供される。本発明の脂質代謝改善剤は、コレステロール吸収阻害あるいは胆汁酸排泄効果を有し、血中コレステロールを低下する医薬あるいは食品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、オキアミタンパク質を有効成分とする脂質代謝改善剤に関する。本発明で用いるオキアミタンパク質とは、オキアミ、特にナンキョクオキアミであり、これをそのまま、あるいは生ムキミやスリミ、さらには乾燥したもの、乾燥物を脱脂したもの等を用いることができる。乾燥物は、加熱乾燥あるいは凍結乾燥等常法により乾燥すれば良く、これらをボールミル等で粉砕してたものでも良い。また、前記乾燥物、乾燥粉砕物を適当な溶媒を用いて脱脂しても良い。この時、用いる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、トルエン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等を単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、好ましくは酢酸エチル=エタノール混液を用いて抽出する。この時、溶媒混合比、あるいは原料:溶媒比は任意に設定すれば良い。
【0011】
本発明の脂質代謝改善剤は、コレステロール吸収阻害あるいは胆汁酸排泄効果を有し、脂質代謝の改善剤として有用である。本発明剤は、本発明の有効成分であるオキアミタンパク質を有効成分とし、ヒト及び動物に対し安全に投与することができる。本発明剤を医薬として用いる場合、本発明の有効成分である化合物は、薬理学的に許容される塩としても良い。薬理学的に許容される酸との塩としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等との無機酸、あるいはギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸との酸付加塩が挙げられる。また塩基との塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基、またはリジン、アルギニン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との塩やアンモニウム塩が挙げられる。この化合物またはその薬理学的に許容される塩は、ヒト及び動物に対し、医薬として経口的あるいは非経口的に安全に投与される。非経口的投与には、例えば静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与、経粘膜投与等の投与方法が挙げられ、剤型としては例えば注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤、坐剤等が挙げられる。また、経口投与製剤として、例えば糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠、チュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤、ソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、あるいは懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、エリキシル剤等の液剤が挙げられる。さらに、これらの製剤学的に許容され得る徐放化製剤等が挙げられる。
【0012】
これらの製剤は公知の製剤学的製法に準じ、製剤として薬理学的に許容され得る基剤、担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等と共に医薬組成物として投与される。これらの製剤に用いる担体や賦形剤としては、例えば乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース等、結合剤としては、例えばデンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等、崩壊剤としては例えばデンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムなど、滑沢剤としては例えばステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルク、マクロゴールなど、着色剤としては医薬品に添加することが許容されているものを、それぞれ用いることができる。錠剤、顆粒剤は必要に応じ白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などで、1以上の層で被膜しても良い。さらにゼラチンやエチルセルロース等のカプセルでも良い。また、注射剤を調製する場合は、主薬に必要に応じpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加して、常法により各種注射剤とする。
【0013】
本発明剤を医薬として患者に投与する場合、症状の程度、患者の年齢、体重、健康状態などの条件により異なり特に限定はされないが、成人であれば100μg〜1000mg/kg/日を経口あるいは非経口的に1日1回もしくはそれ以上投与する。食品として摂取する場合、前記投与量に従いあらゆる食品に添加、混入、塗布等することができる。また、いわゆる健康食品として、前記医薬の経口投与製剤と同様にすることも可能である。
【0014】
本発明剤はまた、オキアミタンパク質を含有する食品に関する。本発明剤をそのまま、あるいは食品素材として食品に添加、混合、塗布等することにより、本発明剤の効果である脂質代謝改善機能を付与した食品が提供可能となる。又、食品の他に化粧品、餌料等に用いることも可能である。
さらに本発明は、オキアミタンパク質を有効成分として含有する脂質代謝改善用機能性食品、及び脂質代謝改善に有効であることを表記したものである、脂質代謝改善用機能性食品に関する。
【0015】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
[製造例1]
オキアミタンパク質の調製
本発明オキアミタンパク質は、以下の通り調製した。即ち、原料としてニッスイ冷凍オキアミムキミ(日本水産株式会社製)を用い、これを凍結乾燥機にて凍結乾燥した。次に、ボールミルにて凍結乾燥されたオキアミを粉砕した。この粉砕されたオキアミムキミ1kgに対しに酢酸エチル:エタノール混液(2:1)を3L添加し、1時間攪拌した後吸引ろ過を3回行うことにより、本発明オキアミタンパク質を得た。尚、得られた本発明オキアミタンパク質の組成を、表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
[試験例1]
本発明成分の脂質代謝改善効果
製造例1にて得られたオキアミタンパク質を用いて、脂質代謝効果を確認した。即ち、オキアミタンパク質を餌料(AIN-93;日本農産株式会社製、対照群用餌料)のタンパク質部分であるカゼインの50%をオキアミタンパク質に置換した餌料を本発明餌料とした(以下、本発明成分を含有する餌料を本発明餌料と示す)。調製にあたっては、試料タンパク質の主要成分表(表1)をもとに、それぞれ対照群用餌料とタンパク質含量、脂質含量、その他成分が対照群と等量となるようにした。タンパク質含量は、それぞれケルダール方で窒素含量を求め、タンパク質態窒素が等量となるように調製した。さらに、高コレステロールモデルとして、コレステロール(0.5%(w/w))及びコール酸(0.2%(w/w))を添加した群も設定した。
【0019】
対照群餌料で1週間予備飼育を行った4週齢のWistar系ラット(雄)に本発明餌料及び対照群餌料をそれぞれ28日間摂餌させた。各群7匹ずつ大型のポリカーボネートゲージに体重の平均及び標準偏差が同様になるように分けて飼育した。餌及び水は自由摂取とし、摂餌量ならびに摂水量は毎日、体重は1週間に1回測定した。また飼育22〜28日の間は個別に代謝ゲージに収容し同様に飼育しながら、糞の定量採取を行った。28日間飼育後、エーテル麻酔下でラットの最終体重を測定し、開腹後、腹部下行静脈から採血し、血清を得た。その後、肝臓を摘出して重量を測定し、生理食塩水で灌流した。
【0020】
血清脂質組成である総脂質、中性脂質、総コレステロール、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)、また栄養状態指標である総タンパク質、A/G比、さらに肝機能指標であるGOT、GPTを、自動分析計(AU5431、オリンパス社製)を用いて分析した。
また、肝臓総脂質含量はBligh&Dyer法によって抽出し、重量を測定して求めた。中性脂肪(トリグリセリド)含量は、シリカゲルカートリッジによる固相抽出法により分画し、重量を測定して求めた。総コレステロール含量は5α−コレスタンを用い、直接ケン化した後、不ケン化物を充填カラムガスクロマトグラフィに供し、内部標準法で測定した。
また、糞の総コレステロールは肝臓の総コレステロールと同様に、総胆汁酸は3α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼを用いる酵素法によって測定した。
【0021】
この結果、本発明餌料群と対照群餌料群の間には、餌料摂取量、体重、解剖時肝臓重量、及び白色脂肪細胞重量に有意な差は無かった。コレステロール摂取群においては、肝臓重量が増加し白色脂肪細胞重量は低下傾向にあった。血清総タンパク質並びに肝機能指標であるGOT、GPTに各群間の差は全く見られなかった。従って、本発明の有効成分であるオキアミタンパク質は、安全かつタンパク質源として有用であることが確認された。次に、血清脂質成分に及ぼす試験餌料の影響を、図1に示す。本発明餌料群は、総脂質及び総コレステロールを有意に低下させることが確認された。一方、中性脂肪に有意な変化は見られなかった。また、コレステロール負荷時の血清脂質成分に及ぼす試験餌料の影響を、図2に示す。コレステロール負荷によって、僅かに総脂質及び総コレステロールの増加が認められ、本発明餌料群ではコレステロール非負荷時と同様にこれらを有意に低下させることが確認された。さらに、血清リポタンパク質画分に及ぼす試験餌料の影響を、図3に示す。コレステロールの負荷の有無に関わらず、本発明餌料群は有意にLDL-Cを低下させることが確認された。
【0022】
また、肝臓脂質成分に及ぼす試験餌料の影響を、図4に示す。この結果、本発明餌料において、総脂質及び総コレステロールの低下が見られ、特に総コレステロールを有意に低下させることが確認された。
【0023】
また、糞中胆汁酸及びコレステロール含量に及ぼす試験餌料の影響を、図5に示す。この結果、本発明餌料において、コレステロールの負荷の有無に関わらず、胆汁酸の排泄量を有意に増加させることが確認された。さらに、コレステロール負荷時でも、糞中のコレステロールが有意に増加し、よってコレステロールの吸収阻害効果が確認された。
【0024】
以上の結果より、本発明成分はコレステロール吸収阻害、あるいは胆汁酸排泄効果を有し、よって血中コレステロールを有意に低下させるものとして有効であることが確認された。

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、オキアミタンパク質を有効成分とする脂質代謝改善剤が提供される。本発明の脂質代謝改善剤は、コレステロール吸収阻害あるいは胆汁酸排泄効果を有し、医薬あるいは食品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】試験例1における、血清脂質成分に及ぼす試験餌料の影響を示す。*:p<0.1で有意差あり、**:p<0.05で有意差あり。
【図2】試験例1における、コレステロール負荷時の血清脂質成分に及ぼす試験餌料の影響を示す。*:p<0.05で有意差あり。
【図3】試験例1における、血清リポタンパク質画分に及ぼす試験餌料の影響を示す(右グラフはコレステロール負荷時)。*:p<0.05で有意差あり。
【図4】試験例1における、肝臓脂質成分に及ぼす試験餌料の影響を示す(右グラフはコレステロール負荷時)。**:p<0.01で有意差あり。
【図5】試験例1における、糞中胆汁酸及びコレステロール含量に及ぼす試験餌料の影響を示す(右グラフはコレステロール負荷時)。*:p<0.05で有意差あり、*:p<0.01で有意差あり。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキアミタンパク質を有効成分とする脂質代謝改善剤。
【請求項2】
請求項1記載の脂質代謝改善剤を含有する医薬。
【請求項3】
請求項1記載の脂質代謝改善剤を含有する食品。
【請求項4】
オキアミタンパク質を有効成分として含有する脂質代謝改善用機能性食品。
【請求項5】
脂質代謝改善に有効であることを表記したものである、請求項4記載の脂質代謝改善用機能性食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−95456(P2010−95456A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265472(P2008−265472)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】