説明

脈動発生装置

【課題】電気エネルギーを消費することなく水流に脈動を発生させることができ、コストも安価で装置もコンパクトに構成でき、更に脈動発生に際してモータ振動等の騒音を発生させることのない水流の脈動発生装置を提供する。
【解決手段】流入口45及び流出口46を備えた弁ケーシング40と、弁ケーシング40内部に往復運動可能に設けられた弁体50と、弾性力で弁体50を閉弁方向に押圧するコイルばね51と、弁体50と弁座64との間を水密に止水する止水部材58とを有し、コイルばね51の弾性力を適宜に設定することで、弁体50に対する開弁方向の力と閉弁方向の力の大小関係を交互に変化させ、以て弁体50を往復運動させて水流に脈動を発生させる脈動発生弁38を含んで脈動発生装置32を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は水流の脈動発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水流に脈動を発生させる脈動発生装置が公知である。
この脈動発生装置は、例えば便器に備えられて人体局部に洗浄水を噴射し、局部洗浄する局部洗浄装置の噴射ノズルからの噴射水に脈動を持たせる場合等に使用されている。
このように洗浄ノズルからの噴射流に脈動を持たせることでマッサージ効果を与えて使用感を高めたり、或いは洗浄効率を高めたりすることができる。
【0003】
従来において、この種の脈動発生装置は電気的な駆動力にて脈動を発生させるものが一般的である。
例えば下記特許文献1には電磁ポンプ式の脈動発生装置、詳しくは電磁コイルへのパルス通電によってプランジャを往復動させ、そしてプランジャの往復運動により一方向性の弁体を往復運動させることによって、吐出水流に脈動を持たせるようになしたものが開示されている。
しかしながらこのものは電気的に水流に脈動を発生させるものであることから、脈動発生に際して電気エネルギーを消費する問題があり、また構造が複雑で必然的にコストも高くなり、更に装置も大型化してしまう。
【0004】
その他に、脈動発生装置として電動モータにより羽根車を回転させ、脈動を発生させるものもあるが、この場合も上記と同様の問題があるのに加えてモータが振動を生じ、そのモータの振動が騒音源となってしまうといった問題がある。
また上記何れのものも停電時には使用できなかったり或いは別途の電源を必要とするといった問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−123506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、電気エネルギーを消費することなく水流に脈動を発生させることができ、コストも安価で装置もコンパクトに構成でき、更に脈動発生に際してモータ振動等の騒音を発生させることのない水流の脈動発生装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して請求項1のものは、(イ)1次側の水を流入させる流入口及び流入した水を2次側に流出させる流出口を備えた弁ケーシングと、(ロ)該流入口を開閉する向きに該弁ケーシング内部に往復運動可能に設けられた弁体と、(ハ)該弁体を該流入口とは反対側の背後において往復運動可能に弾性支持するとともに、弾性力で該弁体を閉弁方向に押圧する弾性体と、(ニ)閉弁時において、前記弁体と前記流入口周りの弁座との間を水密に止水する止水部材と、を有し、前記弁体の閉弁状態で前記1次側の水圧による該弁体の開弁方向の力が、前記弾性体の弾性力に基づく閉弁方向の力に打ち勝ち、該弁体の開弁後には該弾性力に基づく該弁体の閉弁方向の力が、該水圧による該弁体の開弁方向の力に打ち勝つように該弾性体の弾性力が設定してあり、該弁体に対する開弁方向の力と閉弁方向の力の大小関係を交互に変化させることで該弁体を往復運動させ、水流に脈動を発生させる脈動発生弁を含んでいることを特徴とする。
【0008】
請求項2のものは、請求項1において、吐水部に到る途中に該吐水部に連通可能な複数の流路が設けてあり、各流路に脈動周波数の異なった前記脈動発生弁が設けてあり、何れかの脈動発生弁を選択して作動可能となしてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0009】
以上のように本発明は、1次側の水を流入させる流入口及び流入した水を2次側に流出させる流出口を備えた弁ケーシングと、その内部に往復運動可能に設けられた弁体と、弁体を背後において弾性力で閉弁方向に押圧する弾性体と、閉弁時に弁体と流入口周りの弁座との間を水密に止水する止水部材とを有し、1次側の水圧による弁体の開弁方向の力と、弾性体の弾性力に基づく閉弁方向の力の大小関係を交互に変化させることで弁体を往復運動させ、水流に脈動を発生させる脈動発生弁を含んで脈動発生装置を構成したものである。
【0010】
このような本発明の脈動発生装置は、弁体に対して開弁方向に作用する1次側の水圧による力と、閉弁方向に作用する弾性体の弾性力に基づく力の大小関係を交互に変化させて水流に脈動を発生させるものであることから、脈動発生のために電気的な駆動力を必要とせず、脈動発生に際して電気エネルギーを消費してしまう問題を解消することができる。
【0011】
また1次側の水圧による力と弾性体の弾性力に基づく力の関係で脈動を発生させるものであるため装置の構造も簡素であり、所要コストも安価となすことができる。加えて装置をコンパクトに構成することができる。
その他に、本発明の脈動発生装置は弾性体の弾性力(ばね定数)を調節することで、脈動周波数を様々に変化させ、制御することができる利点を有する。
【0012】
請求項2は、吐水部に到る途中に、吐水部に連通可能な複数の流路を設け、各流路に互いに脈動周波数の異なった脈動発生弁を設けて何れかの脈動発生弁を選択して作動可能となしたもので、この請求項2の脈動発生装置によれば、使用者の好みに応じて吐水部からの吐水流に所望の周波数の脈動を付与することができる。
【0013】
本発明は、便器に備えられて人体局部に洗浄水を噴射する人体局部洗浄装置の洗浄ノズルを吐水部として、脈動発生装置により洗浄ノズルからの噴射流に脈動を生ぜしめる場合に好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の脈動発生装置の適用対象である局部洗浄装置付の便器を示した図である。
【図2】図1の局部洗浄装置の流路と構成要素を示した図である。
【図3】同実施形態の脈動発生装置を示した断面図である。
【図4】図3の脈動発生装置を各部品に分解して示す斜視図である。
【図5】同実施形態の脈動発生装置の作用説明図である。
【図6】同実施形態の脈動発生装置と異なる脈動周波数で構成した例を示す図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態の脈動発生装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において10は便器で、12は便器本体、14は便座、16は便蓋で、18は内部に便器の洗浄水を貯える洗浄タンクである。
この便器10には、洗浄ノズル20から人体局部に向けて洗浄水を噴射し局部洗浄する局部洗浄装置22が備えられている。
尚23は、壁Wに取り付けられたリモコン操作部である。
【0016】
図2において、24は洗浄ノズル20に給水を行う流路で、この流路24上に図中左から止水栓26,止水弁(開閉弁)28,温水タンク30及び本実施形態の水流の脈動発生装置32が設けられている(脈動発生装置32は図中2点鎖線で示す位置、即ち止水弁28と温水タンク30との間の位置であっても良い)。
ここで止水弁28は流路24を開閉する弁であって、洗浄ノズル20から洗浄水を噴射するときにはこの止水弁28が開放される。
この止水弁28は局部洗浄装置22の流路全体を開閉する主弁としての働きを有する。
【0017】
流路24からは別途の圧抜路34が分岐して延び出しており、この圧抜路34上に水圧制御弁36が設けられている。
この水圧制御弁36は安全弁(リリーフ弁)としてのもので、流路24の圧力が一定圧力以上に高くなろうとしたときに開弁して圧力を逃し、流路24の圧力が過大になるのを防止する働きをなす。
【0018】
図2に示す局部洗浄装置22では、止水弁28が開かれることによって流路24を通じ温水タンク30に水が流入し、それにより温水タンク30に貯えられている温水が洗浄ノズル20へと送られて、そこから洗浄水が噴射される。
その際、温水タンク30と洗浄ノズル20との間に設けられた脈動発生装置32にて、洗浄ノズル20に送られる水流に脈動が発生せしめられ、洗浄ノズル20からの洗浄水が脈動を伴って人体局部に噴射される。
【0019】
図3に脈動発生装置32の構成が具体的に示してある。
この例では脈動発生装置32が脈動発生弁38単体にて構成される。
40はこの脈動発生弁38における弁ケーシングで、断面円形の筒状をなすケーシング本体42と、ケーシング本体42の図中右端の開口を閉鎖する栓体44とから成っている。
【0020】
この弁ケーシング40には、1次側流路24Aからの水を流入させる流入口45と、流入した水を2次側流路24Bへと流出させる流出口46とが設けられており、そしてそれら流入口45と流出口46との間に弁室48が形成されていて、そこに弁体50と、その背後において弁体50を図中左右方向に往復運動可能に弾性支持し且つ弁体50を図中左向きの閉弁方向に押圧する、金属製のコイルばね(弾性体)51とが収容されている。
【0021】
図4にも示しているように弁体50は円筒状をなしていて図中左端側に大径部52を有し、その大径部52が、弁室48の内面に摺動可能に嵌合されている。
この大径部52には周方向に沿って所定間隔で弁体50の軸方向に延びるリブ54が設けられており、それらリブ54と54との間に溝が形成されていて、その溝が軸方向に貫通の流路56(図3参照)を成している。
【0022】
58は弁体50に保持されたゴム製の止水部材で、円板状をなす大径の頭部60と、小径且つ軸状の嵌入部62とを有しており、その嵌入部62が弁体50の内部に嵌入され、弁体50にて一体移動状態に保持されている。
止水部材58は、弁体50の閉弁時に流入口45周りに形成された弁座64に弾性的に当接して流入口45を水密にシールし、止水を行う。
【0023】
この実施形態において、弁体50を図中左向き即ち閉弁方向に弾性押圧するコイルばね51の弾性力は以下のように設定されている。
弁体50に対して図中左側の1次側の水圧は、弁体50が閉弁状態から図中右向きに移動して開き、1次側の水が流入口45から弁室48内部に流入し、弁室48を経由して2次側に流動することで圧力低下する。
【0024】
そこでここでは、弁体50の閉弁状態で1次側の水圧による弁体50の図中右向きの開弁方向の力が、コイルばね51の弾性力に基づく閉弁方向の力に打ち勝ち、また一方弁体50の開弁により水圧低下して弁体50を開弁方向に押す力が低下したとき、弁体50を閉弁方向に押す力が打ち勝つように、コイルばね51の弾性力、詳しくは弾性荷重が設定してある。
【0025】
その結果、弁体50に対する図中右向きの開弁方向の力と、図中左向きの閉弁方向の力との大小関係が交互に変化し、これにより弁体50は図5(I)→(II)→(III)→(I)に示す状態に順に動作して図中左右方向に往復運動し、弁体50を通過して流れる水流に脈動を発生させ、洗浄ノズル20からの洗浄水の噴射流に脈動を生ぜしめる。
【0026】
尚そのような脈動、即ち弁体50の図3及び図4中左右方向の往復運動を生ぜしめるために、ここでは弁体50閉弁状態においてコイルばね51による弁体50の図中左向きの閉弁方向の弾性押圧力を、1次側の水圧による弁体50の図中右向きの開弁方向の力(流入口45の面積×水圧)以下とし、また弁体50開弁後において、コイルばね51の図中左向きの閉弁方向の弾性押圧力を、1次側の水圧による弁体50の開弁方向の力より大とするのに加えて、流入口45の面積を流出口46の面積以上としておく。
尚、弁ケーシング40と弁体50との間の隙間(流路56の深さ)は0.5mm以下としておくことが望ましい。
【0027】
尚当然ながら、閉弁状態においてコイルばね51による図中左向きの閉弁方向の弾性押圧力が、1次側の水圧による図中右向きの開弁方向の力以上の大きさであるときには、弁体50は閉弁状態から開弁することはなく、また逆に、開弁後においてコイルばね51による閉弁方向の弾性押圧力が、1次側の水圧による開弁方向の力以下であるときには、弁体50の上記の往復運動は生じない。
【0028】
以上のように本実施形態の脈動発生装置32は、弁体50に対して開弁方向に作用する1次側の水圧による力と、閉弁方向に作用するコイルばね51の弾性力に基づく力との大小関係を交互に変化させて、水流に脈動を発生させるものであることから、脈動発生のために電気的な駆動力を必要とせず、脈動発生に際して電気エネルギーを消費してしまう問題を解消することができる。
【0029】
また1次側の水圧による力と、コイルばね51の弾性力に基づく力の大小関係で脈動を発生させるものであるため、装置の構造も簡素であり、所要コストも安価となすことができる。加えて装置をコンパクトに構成することができる。
【0030】
本実施形態においては、コイルばね51の弾性力(ばね定数)を調整することで脈動周波数を種々変化させることが可能である。
図6の(B)は、(A)に対してコイルばね51の弾性力を大きくした例で、この場合には脈動周波数は(A)に示すものに比べて高周波数となる。
例えば(A)のものが脈動周波数40Hzであったとすると、(B)のものはこれよりも高周波数の例えば70Hzとすることができる。
一方(C)のものは、コイルばね51の弾性力を(A)のものに比べて小さくした例で、この場合には脈動周波数は(A)のものに比べて低周波数(例えば10Hz)となる。
【0031】
図7は、本発明の他の実施形態を示している。
この例は、洗浄ノズル20に到る途中で流路24を複数の互いに並列な分岐流路24-1,24-2,24-3に分岐させて、それぞれに脈動周波数の互いに異なった脈動発生弁38-1,38-2,38-3、及び各分岐流路24-1,24-2,24-3を開閉する開閉弁66-1,66-2,66-3を設けたものである。
【0032】
この例では、開閉弁66-1〜66-3の何れかを開弁させて他を閉弁状態としておくことで、互いに脈動周波数の異なった複数の脈動発生弁38-1〜38-3の何れかを作動させ、ノズル20からの洗浄水の噴射流の脈動周波数を使用者の好みの周波数に選択することができる。
【0033】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば、上記実施形態は本発明の脈動発生装置を局部洗浄装置に適用した場合の例であるが、本発明は他の様々な吐水部から吐水を行う装置に適用することが可能であるし、また脈動発生装置を上例以外の他の様々な形態で構成することが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0034】
20 洗浄ノズル
22 局部洗浄装置
24 流路
32 脈動発生装置
38 脈動発生弁
40 弁ケーシング
45 流入口
46 流出口
50 弁体
51 コイルばね(弾性体)
58 止水部材
64 弁座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)1次側の水を流入させる流入口及び流入した水を2次側に流出させる流出口を備えた弁ケーシングと、
(ロ)該流入口を開閉する向きに該弁ケーシング内部に往復運動可能に設けられた弁体と、
(ハ)該弁体を該流入口とは反対側の背後において往復運動可能に弾性支持するとともに、弾性力で該弁体を閉弁方向に押圧する弾性体と、
(ニ)閉弁時において、前記弁体と前記流入口周りの弁座との間を水密に止水する止水部材と、
を有し、前記弁体の閉弁状態で前記1次側の水圧による該弁体の開弁方向の力が、前記弾性体の弾性力に基づく閉弁方向の力に打ち勝ち、該弁体の開弁後には該弾性力に基づく該弁体の閉弁方向の力が、該水圧による該弁体の開弁方向の力に打ち勝つように該弾性体の弾性力が設定してあり、該弁体に対する開弁方向の力と閉弁方向の力の大小関係を交互に変化させることで該弁体を往復運動させ、水流に脈動を発生させる脈動発生弁を含んでいることを特徴とする脈動発生装置。
【請求項2】
請求項1において、吐水部に到る途中に該吐水部に連通可能な複数の流路が設けてあり、各流路に脈動周波数の異なった前記脈動発生弁が設けてあり、何れかの脈動発生弁を選択して作動可能となしてあることを特徴とする脈動発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−255667(P2010−255667A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103442(P2009−103442)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】