説明

脊髄の手術における導かれた細胞内殖及び制御された組織再生の方法

本発明は、哺乳動物の脊柱組織、硬膜及び脊髄神経からなる群より選択される組織の傷害を受けた表面における術後又は外傷後癒着、及び線維形成を防止するための導かれた細胞内殖及び制御された組織再生の方法であって、組織に対して、生体活性、生体機能性の非多孔性微視的多層コラーゲンホイル生物基質を提供し、それで覆い、それで分離する工程を含む方法、並びに、哺乳動物において欠損を処置する方法であって、前記組織に対して、生体活性、生体機能性の非多孔性微視的多層コラーゲンホイル生物基質を提供し、それで覆い、それで分離する工程を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、脊柱組織、硬膜及び脊髄神経からなる群より選択される組織の表面における術後又は外傷後細胞癒着を防止する方法であって、組織を、多層生体活性及び生体機能性コラーゲン生物基質ホイルで覆い、分離する工程を含む方法、並びに、細胞増殖及び組織修復を導く及び哺乳動物において障害を処置する方法であって、多層コラーゲンホイル生物基質により前記組織を覆い、分離する工程を含む方法に関する。本発明の方法は、導かれた細胞の内殖及び制御された組織再生のために生体機能性基質を提供することによって、硬膜周囲及び神経周囲癒着、並びに瘢痕組織形成を防止する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
脊髄手術後の内部瘢痕、硬膜周囲及び神経周囲の線維化及び癒着は、よく知られており、前記手術の望ましくない副作用である。これらの状態は、高い率で疼痛、運動の困難さをもたらし、多くの場合に追加の手術を必要とする。脊髄手術後に硬膜外付着を低減するために、カルボキシメチルセルロース及びポリエチレンオキシドを含むゲルの使用が、非特許文献1;非特許文献2;及び非特許文献3において開示されている。これらの例では、ゲルは、適用領域において非制御的方法で分布され、いったん適用されると、ゲル分布は、容易に操作又は修正することができない。更に、これらの癒着防止ゲルは、バリアとして限られた成功しか収めておらず、非画定の層厚を有する。これらの癒着防止ゲルは、あったとしても低い止血特性を有し、創傷治癒支持機能を提供せず、細胞増殖及び組織再生を導かない。さらに、ADCON−Lの使用に伴って生じるCSF(脳脊髄液)漏れの速度が増加したことが、報告されている(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。
【0003】
市販されている一つの癒着防止製品は、DURAGEN PLUSである。ウシ由来のDURAGEN PLUSバリアは、あまり形状安定性がなく、これは、その形状及び位置を適用後に修正することが困難であることを意味する。更に、DURAGEN PLUSバリアは、高い引っ張り強さ及び弾性を有さない。DURAGEN PLUSバリアが多孔性であることによって、結果的に流体密封性(流体に対して不浸透性)がなく、したがって、バリア機能として限られた成功しか収めていない。また、DURAGEN PLUSは血液を吸収し、それは、癒着形成の病因において主な役割を果たすフィブリン帯をもたらす可能性があり、その多孔質構造は、制御されない線維性組織の形成及び癒着にも寄与しうる導かれない細胞の内殖を促進する。
【0004】
したがって、血液を吸収せず、再構築、再生及び創傷治癒プロセスを支持し、細胞の増殖及び内殖を導き、そして生体機能性分離層として効果的に作用する、外科的及び外傷性障害後の組織治癒及び再生プロセスにおける術後又は外傷後の硬膜周囲及び神経周囲癒着形成を防止するための、導かれ、制御された組織再生の新たな系の必要性が強く存在する。
【非特許文献1】Kim et al: “Reduction in leg pain and lower− extremity weakness with Oxiplex/SP Gel for 1 year after laminectomy, laminotomy, and discectomy. Neurosurg Focus” 17(1): Clinical Pearl 1: 1−6, (2004)
【非特許文献2】Porchet et al: “Inhibition of epidural fibrosis with ADCON−L: effect on clinical outcome one year following re−operation for recurrent lumbar radiculopathy.” Neurol Res 21 (Suppl 1): 51−S60, (1999)
【非特許文献3】Ross et al:“Association between peridural scar and recurrent radicular pain after lumbar discectomy: magnetic resonance evaluation. ADCON−L European Study Group.”Neurosurgery 38:855−863, (1996)
【非特許文献4】Hieb, L. D. & Stevens, D. L.:(2001)Spontaneous postoperative cerebrospinal fluid leaks following application of anti− adhesion barrier gel: case report and review of the literature. Spine, 26(7), 748−751
【非特許文献5】Kuhn, J., Hofmann, B., Knitelius, H. O., Coenen, H. H., & Bewermeyer, H. (2005). Bilateral subdural haematomata and lumbar pseudomeningocele due to a chronic leakage of liquor cerebrospinalis after a lumbar discectomy with the application of ADCON−L gel. J Neurol Neurosurq Psychiatry, 76(7), 1031−1033
【非特許文献6】Le, A. X., Rogers, D. E., Dawson, E. G., Kropf, M. A., De Grange, D. A., & Delamarter, R. B. (2001). Unrecognized durotomy after lumbar discectomy: a report of four cases associated with the use of ADCON−L. Spine. 26(1), 115−7; discussion 118
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、脊柱組織を覆い、分離する生体機能性コラーゲンホイル基質を使用して、術後又は外傷後の硬膜周囲又は神経周囲癒着及び線維化を防止し、細胞の内殖を導き、組織再生を制御する新たな方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
本発明は、脊柱組織のような組織を覆い、分離する多層コラーゲンホイル生基質を使用して、術後又は外傷後の硬膜周囲又は神経周囲癒着及び線維形成を防止し、細胞増殖及び細胞内殖を導き、手術又は外傷後の細胞再生を制御する組成物及び方法を対象とする。脊柱組織には、脊柱管組織、硬膜及び脊髄神経のようなものが含まれる。本発明の方法は、例えば、哺乳動物、例えばヒトにおける脊髄の手術の際に使用することができ、組織を微視的な多層コラーゲンホイル生物基質で覆い、分離する工程を含む。上記の方法の一つの例において、多層コラーゲンホイル生物基質は、修復細胞及び再生細胞からなる群より選択される細胞を誘引する。上記の方法の別の例において、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の多層構造は、表面において細胞増殖を導き、修復細胞及び再生細胞のような細胞の内殖を導き、前記内殖の後で天然の組織に再構築され、再吸収される。更に、本発明は、脊柱組織の欠損により特徴付けられる哺乳動物の障害を処置する方法であって、制御されない組織形成を抑制するために、前記組織及び/又は周囲組織を、多層コラーゲンホイル生基質で覆い、分離する工程を含む方法に関する。
【0007】
コラーゲンに基づいた組成物を治療的に使用するには、コラーゲンに基づいた組成物は、通常、宿主により異物として認識され、多くの場合に被包される。したがって、対応する解剖学的組織への再細胞形成及び再構築は生じないか又は不可能であり、導かれる細胞内殖がなく、そして再生プロセスの制御がなく、単に「生適合性」移植片として許容されている。対照的に、本発明の多層コラーゲンホイル生物基質は、多層コラーゲンホイル生物基質内及びコラーゲンホイル生物基質の表面に細胞増殖を導く、一時的な生体活性分離層として機能する膜(例えば、脊髄膜)として作用する。細胞増殖に対して単独でバリアとして作用するのではなく、大部分の癒着防止組成物がそうであるように、本発明の多層コラーゲンホイル生物基質は、著しく生体活性があり、組織の再構築を支持する。例えば、移植の2週間後、本発明の多層コラーゲンホイル生物基質は、硬膜周囲組織の回復した解剖学的構造と既に十分に一体化している。更に、手術の間及び後、本発明のコラーゲン膜の非多孔性流体密封(例えば、血液)多層構造は、手術後の初期期間における癒着形成の状態を支持することに関与する、硬膜周囲創傷領域からの血液(例えば、フィブリノーゲン/フィブリン)及び壊死物質の制御されない分布を(多孔性組成物と対照的に)防止することができる。本発明のコラーゲン生物基質は、また、硬膜と、瘢痕形成及び線維化の主要な領域である硬膜周囲創傷領域との直接的な接触を防止する。このことは、制御されない癒着及び瘢痕形成、並びに硬膜周囲線維化の防止及び最小化を伴う、解剖学的構造への制御された再構築にも寄与する。
【0008】
本発明は部分的には以下を対象とする:
1.哺乳動物の組織の表面において、細胞増殖及び制御された組織再生を導き、術後又は外傷後癒着及び線維形成を防止する方法であって、組織に対して、微視的な非多孔性多層コラーゲンホイル生物基質を提供し、それで覆い、それで分離する工程を含む方法。
【0009】
2.組織が脊柱組織、硬膜及び脊髄神経からなる群より選択される、段落1の方法。
【0010】
3.細胞増殖が多層コラーゲンホイル生物基質の層間の隙間において導かれる、段落1又は2の方法。
【0011】
4.哺乳動物がヒトである、段落1、2又は3の方法。
【0012】
5.組織を非多孔性多層コラーゲンホイル生物基質で覆い、分離する工程が、脊髄の手術の際に実施される、段落2記載の方法。
【0013】
6.多層コラーゲンホイル生物基質が、修復細胞及び再生細胞からなる群より選択される細胞を誘引する、段落1、2、3、4又は5記載の方法。
【0014】
7.多層コラーゲンホイル生物基質の多層構造が、多層コラーゲンホイル生物基質の表面内及び表面上、並びに多層コラーゲンホイル生物基質内で修復細胞及び再生細胞の内殖を導く、段落1、2、3、4又は5記載の方法。
【0015】
8.多層コラーゲンホイル生物基質が、手術後2〜約12週間以内で細胞内殖の際に天然の組織に再吸収され、再構築される、段落5、6又は7記載の方法。
【0016】
9.コラーゲンホイルが、次のウシ、ブタ、ウマ又はヒトコラーゲン及びこれらの混合物からなる群より選択される供給源のうちの1つから誘導され、フィブリンシーラントを使用して哺乳動物の組織と結合する、段落1〜8記載の方法。
【0017】
10.組織に対して、生体機能性非多孔性多層コラーゲンホイル生物基質を提供し、それで覆い、それで分離する工程を含み、多層コラーゲンホイルが、多層コラーゲンホイル生物基質内及び上において細胞増殖を導く層間の隙間を有する、哺乳動物において癒着を防止する方法。
【0018】
11.方法が、術後癒着又は外傷により引き起こされる癒着を防止する、段落10の方法。
【0019】
12.方法が、組織の表面における線維形成を防止する、段落10又は11の方法。
【0020】
13.組織が脊柱組織、硬膜及び脊髄神経からなる群より選択される、段落10、11又は12の方法。
【0021】
14.コラーゲンホイルの個々の層が平滑であり、実質的に非多孔性である、段落10の方法。
【0022】
15.コラーゲンホイルの個々の層が完全に非多孔性である、段落14の方法。
【0023】
16.多層コラーゲンホイル生物基質が、多層コラーゲンホイルの層間の隙間で細胞増殖を導き、コラーゲンホイルの層が、宿主により天然組織に再吸収され、再構築される、段落10、11又は12の方法。
【0024】
17.多層コラーゲンホイルが、新たな細胞の細胞増殖を導く一時的な脊髄膜として作用し、同時に、手術又は外傷後の癒着及び線維化を防止する、段落10、11又は12の方法。
【0025】
18.コラーゲンホイルが、次のウシ、ブタ、ウマ又はヒトコラーゲン及びこれらの混合物からなる群より選択される供給源のうちの1つから誘導される、段落10〜17の方法。
【0026】
19.コラーゲンホイルが組み換え的に生成される、段落18の方法。
【0027】
20.組織が、腹部、卵巣、肺、筋肉及び腱組織からなる群より選択される、段落1、10、11、12、17又は18の方法。
【0028】
21.生体活性作用物質(例えば、プラスミノーゲンアクティベーター)、成長因子、抗生物質、細胞増殖抑制薬及びこれらの組み合わせを加える工程を更に含む、段落1、9、10又は18の方法。
【0029】
22.方法が、骨又は腱の表面間の癒着の成長を防止する、段落1、9、10又は18の方法。
【0030】
23.微視的な多層コラーゲンホイル生物基質を含み、多層コラーゲンホイルが、多層コラーゲンホイル生物基質のコラーゲン層間の隙間において及び外面において細胞増殖を導く、癒着の防止及び線維形成の防止に使用される組成物。
【0031】
24.多層コラーゲンホイル生物基質が、ウシ、ブタ、ウマ又はヒトコラーゲンからなる群より選択される物質から誘導される、段落23の組成物。
【0032】
25.多層コラーゲンホイルがウマコラーゲンから誘導される、段落23の組成物。
【0033】
26.多層コラーゲンホイル生物基質の個々の層が平滑であり、非多孔性である、段落23又は25の組成物。
【0034】
27.多層コラーゲンホイル生物基質の個々の層が平滑であり、実質的に非多孔性である、段落23又は25の組成物。
【0035】
28.多層コラーゲンホイル生物基質の層が多孔性であり、場合により孔が相互連結している、段落23又は25の組成物。
【0036】
29.組成物が微視的な多層コラーゲンホイル生物基質からなり、多層コラーゲンホイルがコラーゲン層間の隙間において修復及び/又は再生細胞の増殖を導き、コラーゲンがウシ、ブタ、ウマ又はヒトコラーゲン及びこれらの混合物よりなる群のうちの1つから選択される、哺乳動物における癒着の防止及び線維形成の防止のための薬剤の製造における組成物の使用。
【0037】
30.癒着が、硬膜周囲又は神経周囲の癒着のような、術後癒着又は外傷により引き起こされる癒着である、段落29の使用。
【0038】
31.組成物が、層間の隙間で細胞増殖を導く、段落29の使用。
【0039】
32.コラーゲンホイルが、一次液密及び細胞密封性シール又はバリアを作り出す、段落29の使用。
33.コラーゲンホイルが、外科用シーラントの使用により又は縫合により組織に結合している、段落29、30、31又は32の使用。
34.組成物がキットの形態で利用可能である、段落29〜33の使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(発明の詳細な説明)
本発明の一つの態様は、哺乳動物の脊柱管組織、硬膜及び脊髄神経からなる群より選択される組織を含む脊柱組織の表面における術後又は外傷後の硬質周辺又は神経周辺癒着及び線維形成を防止する方法であって、微視的な多層コラーゲンホイル生物基質で組織を覆い、組織を他の周囲組織から分離する工程を含む方法に関する。
【0041】
本発明の多層コラーゲンホイル生物基質は、例えば国際特許出願WO04/108179(この開示は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる)に記載されている非天然に生じる生物基質中のコラーゲン原線維から構成される実質的に非多孔性のホイルの複数層からなる、コラーゲン性未変性架橋微視的多層生物基質である。本発明で使用されるコラーゲンホイルは、生体機能性、生体活性、機械的安定性、弾性、非多孔性及び流体密封性、特に血液及び細胞密封性のある、血液、フィブリノーゲン、壊死性物質及び損傷を受けた組織の制御されない分布に対する一時的なバリアである。したがって、脊柱組織間の画定された生体活性分離層は、最初に、その一方が又は両方とも擦過しているか、そうでなければ損傷を受けている場合がある脊柱組織及び周囲の組織を遮蔽する。多層コラーゲンホイル生物基質は、止血剤として作用し、制御されないフィブリン帯の形成及び分布を抑制し、並びに硬膜又は脊髄神経に隣接又は近接して位置する解剖学的領域における線維及び癒着形成の主な原因の一つである血腫を抑制する。
【0042】
本発明の一つの例において、脊髄神経及び/又は硬膜への癒着が本発明により防止されている細胞は、連結組織細胞から選択される。哺乳動物は、ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌなどのような任意の哺乳動物であることができる。
【0043】
組織を多層生体機能性コラーゲンホイル生物基質で覆い、分離する工程は、脊髄硬膜又は脊柱のあらゆる傷害又は欠損の処置の際に実施することができる。本発明の一つの例において、組織を多層コラーゲンホイル生物基質で覆い、分離することは、脊髄手術の際に実施することができる。別の例において、多層コラーゲンホイル生物基質は、修復細胞及び再生細胞のような細胞を誘引し、ホイル生物基質を通して及びその上でそれらの内殖を導く。多層コラーゲンホイル生物基質は、細胞の内殖により天然の組織に再吸収され、再構築される。コラーゲンホイル生物基質は、インビボでの細胞内殖のための生体活性及び生体機能性骨格として作用し、再生及び回復の際に哺乳動物の組織に交換される。コラーゲンホイル生物基質は、それが移植された哺乳動物により再吸収される。この特性は、図5〜6で示されているように、未変性架橋コラーゲン線維及びコラーゲンホイル生物基質の多層構造の生体機能性により強化することができる。
【0044】
本発明で使用されるコラーゲンホイル生物基質を生成するのに利用されるプロセスは、コラーゲン原線維の積層を形成する。それぞれの層の間には、患者の細胞及び血管系が移動し、新たなコラーゲン構造及び非変性高次構造組織を形成することができる隙間がある。コラーゲンホイル生物基質の生体機能性未変性コラーゲン線維及び非多孔性層状構造が、コラーゲンホイル生物基質の全体にわたり、そしてその複数の層の間に存在する隙間において、細胞、血管系の内殖及び新たなコラーゲン構造の形成を促進することは、本発明の方法の有益な特性である。創傷又は欠損における無作為で非誘導的な制御されない細胞内殖と比較して、本発明の方法により導かれた内殖及び再生は、癒着及び線維の形成を防止し、脊柱の解剖学的構造において組織の分離を維持する。したがって、硬膜周囲又は神経周囲の癒着及び線維化に関連する疼痛及び合併症が回避される。
【0045】
語句「組織を多層コラーゲンホイル生物基質で覆う」とは、一般に組織を多層コラーゲンホイル生物基質と物理的に接触させることを意味する。本発明の一つの例において、組織と多層コラーゲンホイル生物基質との接触は、前記ホイルの移植をもたらす。多層コラーゲンホイル生物基質の位置決めの例は、図7〜8に例示されている。
【0046】
本明細書において使用されるとき、語句「多層コラーゲンホイル生物基質」又は「コラーゲン生物基質」又は「コラーゲンホイル」とは、非コラーゲン性成分を除去し、顕微鏡レベルで多層の層状構造を有するコラーゲン原線維のシートを形成するように処理されている、非変性コラーゲン原線維の生物基質(すなわち、生体適合性及び生体機能性物質の基質)を意味する。多層コラーゲンホイルは、非コラーゲン性成分を除去し、同じ物理的特性を有するコラーゲン原線維のシートを形成するように処理されている、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ又はヒト由来のようなあらゆる供給源からであることができる。本発明のコラーゲンホイル生物基質は、走査電子顕微鏡法により決定されるように、実質的に非多孔性である。
【0047】
生体機能性多層ホイル生物基質の文脈において本明細書で使用されるとき、用語「生体機能性」は、生体基質が、動物における非変性コラーゲン原線維と同様の方法で動物の細胞により認識され、利用される非変性コラーゲン原線維からなることを意味する。例えば、限定することなく、そのような機能には、修復及び再生細胞を、生体機能性コラーゲン原線維及び多層構造に沿って移動すること、並びに生体機能性コラーゲン原線維を含む又は交換する細胞により新たな細胞外基質を付着することが含まれる。
【0048】
本明細書で使用されるとき、語句「非天然に生じる生体基質」とは、(i)天然の物質に含有されているコラーゲン原線維が、天然の物質のコラーゲン構造内の天然に生じる配置から移動又は再配置されているような方法で処理又は加工されている天然に存在している物質(すなわち、天然の物質)から、又は(ii)コラーゲン原線維の配置を操作するように処理又は加工されている天然に存在しない物質(すなわち、組み換え物質のような非天然の人工の物質)から形成される非変性コラーゲン原線維を含む製造された基質又は骨組みを意味する。例えば、非天然に生じる生体基質は、機械的又は化学的に加工されている(例えば、粉砕されている、細断されている、など)コラーゲンを含む出発物質から形成することができる。天然に生じるコラーゲン骨組みの構造を保存するような方法で出発物質を処理又は加工することにより形成されるコラーゲン生物基質は、非天然に生じる生物基質ではない(例えば、細胞成分を除去するが、天然に生じるコラーゲン構造を保存するように処理された上皮組織)。
【0049】
本発明の一つの実施態様において、コラーゲンホイル生物基質は、コラーゲン原線維からなる結合組織タンパク質から構成される。例えば、コラーゲンホイル生物基質は、I型コラーゲン原線維からなる結合組織タンパク質から構成されることができる。コラーゲン原線維から構成されることに加えて、コラーゲンホイル生物基質は、更に、賦形剤、防腐剤、成長因子、又は最終生成物の柔軟性及び弾性に役立つ添加剤を含むことができる。
【0050】
コラーゲン原線維のそれぞれの層は、実質的に非多孔性である。本明細書で使用されるとき、語句「実質的に非多孔性」とは、コラーゲンシートを形成するコラーゲン原線維の沈殿によりもたらされるコラーゲンホイル生物基質に存在する任意の孔が、大部分、互いに隔離していることを意味する。孔は、コラーゲンホイルの厚さを横断するような方法で相互連結していない。コラーゲンホイル生物基質に穴を作り出す機械的穿孔は、孔ではない。本発明の一つの例において、物質は、1500×倍率の走査電子顕微鏡を使用して目に見える孔を実質的に含まないように見える。図1〜4のように、走査電子顕微鏡画像は、コラーゲンホイル生物基質の非多孔性の性質を例示する。
【0051】
本発明の一つの実施態様において、本発明で利用されるコラーゲンホイル生物基質は、多数の多方向でからみ合うコラーゲン原線維の層からなる非天然に生じる多層コラーゲン膜である。したがって、コラーゲン原線維は、多方向の様式で平面に配置され、これらの面はシートを形成し、多層構造を作り出す。乾性コラーゲンホイル生物基質の例示を、顕微鏡写真(SEM)で見ることができ、コラーゲン原線維が埋め込まれているコラーゲンホイル生物基質の表面を例示する(図1)。コラーゲン原線維を、僅かに湿気のある環境が天然に近い条件を提供する、ESEM(環境制御型走査電子顕微鏡法)条件下での、コラーゲンホイル生物基質の上面の写真の表面で見ることができる。表面は平滑であり、実質的に非多孔性であるように見える(図2)。コラーゲンホイル生物基質の下面の写真(ESEM)は、図3においてコラーゲンホイル生物基質の実質的な非多孔性を例示する。
【0052】

複数層における二次元方向へのコラーゲン線維の特有の配向は、主に、高静水圧下であっても液密であることに関与し、高弾性を有する強い力を提供する。コラーゲンホイル生物基質の多数の平行配向薄コラーゲン原線維層のために、この物質は、欠損を覆った後に閉鎖し、分離して、体の自己の組織を一時的に交換するのに適しており、新たな組織を形成する細胞内殖のために生体機能性骨格を提供する。本発明の複数層構造は、コラーゲンホイル生物基質の液密特性を増強する。
【0053】
コラーゲンホイル生物基質は、実質的に非多孔性であるが、コラーゲン原線維の層間には隙間が存在する。コラーゲンホイル生物基質は、それぞれの頁が実質的に平滑であり、非多孔性であり、それぞれの頁の間に空間がある、頁の積み重ねと類似している。その乾燥形態である場合、隙間はより顕著である。隙間は、コラーゲンホイル生物基質が僅かに湿気のある環境で天然に近い条件で観察されたとき、低減する。コラーゲンホイル生物基質の隙間の低減は、図5において湿気のある環境下でのコラーゲンホイル生物基質の断面の画像で例示されている。液密特性の促進に加えて、コラーゲンホイル生物基質の多数の平行配向薄コラーゲン原線維層は、同時に、体の自己組織の新規構造における細胞内殖のための生物学的に同等な生体機能性骨格として機能する。
【0054】
水和された場合、本発明で使用されるコラーゲンホイル生物基質の容量の変化は、小さいか無視できる。多孔性の代替生成物と対照的に、コラーゲンホイル生物基質は、水和されたときに実質的にその大きさ及び形状を保持し、水和された後でも優れた安定性を有し、組織と接触した後で膨張又は収縮の問題を起こさない。水和され、移植されると、コラーゲンホイル生物基質は、コラーゲンホイル生物基質を患者の組織に保持する縫合糸を引き裂くか又はフィブリン若しくは他の生体適合性接着剤シールを分裂させる程度に、領域又は厚さにおいて著しく拡大又は縮小しない。
【0055】
本発明の一つの例において、乾燥コラーゲンホイル生物基質の領域の収縮又は膨張は、完全に水和された場合、約−5%〜約20%に変わることができる。別の例において、乾燥コラーゲンホイル生物基質の領域は、完全に水和された場合、約−5%〜約10%に変わることができる。更なる例において、乾燥コラーゲンホイル生物基質の領域は、完全に水和された場合、約−5%〜約5%に変わる。例えば、乾燥コラーゲンホイル生物基質の領域は、完全に水和された場合、約4%以下で増加する。
【0056】
本発明の一つの例において、コラーゲンホイル生物基質は、完全に水和された場合、乾燥厚の約6倍まで増加する。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、完全に水和された場合、乾燥厚の約3倍まで増加する。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、完全に水和された場合、乾燥厚の約2倍に増加する。
【0057】
本発明で使用されるコラーゲンホイル生物基質の厚さは、特定の用途により必要とされるように変わることができる。特定の大きさのコラーゲンホイル生物基質を生成するために、利用される出発物質の量を変えることによって、コラーゲンホイル生物基質の厚さを制御することができる。本発明の一つの例において、本発明で使用されるコラーゲンホイル生物基質は、乾燥形態の場合、約0.01mm〜約3.0mmの厚さを有する。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、約0.02mm〜約2.0mmの厚さを有する。更なる例において、コラーゲンホイル生物基質は、約0.03mm〜約1.5mmの厚さを有する。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、約0.05mm〜約1mmの厚さを有する。なお別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、約1.0mm以下の厚さを有する。
【0058】
コラーゲンホイル生物基質の乾燥重量は、所望の厚さによって決まる。一つの例において、コラーゲンホイル生物基質の乾燥重量は、約1mg/cm〜約50mg/cmである。別の例において、コラーゲンホイル生物基質の乾燥重量は、約1.5mg/cm〜約30mg/cmである。なお別の例において、コラーゲンホイル生物基質の乾燥重量は、約2mg/cm〜約20mg/cmである。更なる例において、コラーゲンホイル生物基質の乾燥重量は、約2.5mg/cm〜約15mg/cmである。例えば、コラーゲンホイル生物基質の乾燥重量は、約3mg/cm〜約10mg/cmである。
【0059】
本発明の一つの例において、コラーゲンホイル生物基質の重量は、水和されたとき、乾燥重量の約15倍まで増加する。別の例において、コラーゲンホイル生物基質の重量は、水和されたとき、乾燥重量の約10倍まで増加する。別の例において、コラーゲンホイル生物基質の重量は、水和されたとき、乾燥重量の約7倍まで増加する。なお別の例において、コラーゲンホイル生物基質の重量は、水和されたとき、乾燥状態の約5倍まで増加する。
【0060】
本発明で使用されるコラーゲンホイル生物基質は、有益なことに、高い引っ張り強さを有し、このことは、例えば手術適用の際にコラーゲンホイル生物基質の取り扱いを改善及び支持し、例えば移植後に機械的安定性の増加をもたらす。加えて、コラーゲンホイル生物基質の厚さを増加することによって、引っ張り強さを有意に増加することができる。
【0061】
コラーゲンホイル生物基質を加圧下で引き裂く傾向は、「極限引張荷重」又は「極限引張力」として測定することができる(本明細書以降では、「極限引張力」と呼ぶ)。コラーゲンホイル生物基質の極限引張力は、特定の幅を有するコラーゲンホイル生物基質のストリップに圧力を受けさせ、コラーゲンホイル生物基質の破損(例えば、裂け又は破断)をもたらした付加された圧力の量を決定することによって、決定することができる。極限引張力は、次の方程式:「極限引張力」=付加圧力/コラーゲンホイル生物基質ストリップの幅=ニュートン/ストリップcmを使用して定量化することができる。
【0062】
本発明の一つの例において、コラーゲンホイル生物基質は、約1〜約30ニュートン/ストリップcm、例えば、約1.5〜約15ニュートン/ストリップcm、例えば約2〜約10ニュートン/ストリップcm、例えば、約3〜約6ニュートン/ストリップcmの極限引張力を有する。
【0063】
本発明で使用されるコラーゲンホイル生物基質は、高い引っ張り強さを有し、水和された場合、弾性及び弾力性を維持する。この特徴は、コラーゲンホイル生物基質が、接触部位に存在する解剖学的状態(例えば、曲線)に最適に適合することを可能にする。
【0064】
水和状態の場合、コラーゲンホイル生物基質を、例えば手術部位において容易に移動することができ、例えばそれが移植される欠損の形状及び位置に最適に成形し、適合することができる。いったん移植されると、コラーゲンホイル生物基質移植片は、平滑を維持し、必要であれば位置を変えることができる。時間をかけて、細胞及び血管系が、多層コラーゲンホイル生物基質の複数層の全体を通して導かれるように移動し、最終的に、多層コラーゲンホイル生物基質を新たな組織に交換する。コラーゲンホイル生物基質の層内に細胞が移動し、血管系が形成されると、組織は導かれた方向でコラーゲンホイル生物基質の形態を取る。新たに形成された結合組織を有するコラーゲンホイル生物基質の細胞が組織された後では、脊髄硬膜組織又は脊髄神経組織への癒着形成は最小化される。
【0065】
コラーゲンホイル生物基質を製造するのに使用されるコラーゲンは、あらゆる適切な供給源から得ることができる。例えば、限定することなく、コラーゲンはウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ又はヒト由来のものであることができる。コラーゲンは、腱、真皮若しくは別のコラーゲンリッチ組織のような天然に生じる組織から採取することができるか、又は組み換え遺伝子的な方法により生成することができる。下記に記載するように、本発明の一つの例示的な実施態様は、アキレス腱から誘導されるウマコラーゲンを利用する。
【0066】
例えば、WO04/108179に記載されている製造プロセスの際に、コラーゲン原線維は、原線維が溶液に沈殿してコラーゲンホイルを形成するように自然に架橋する。化学薬品又は放射線(例えば、イオン化又は紫外線放射)によりコラーゲン原線維を架橋するのではなく、コラーゲン原線維の自然な架橋を可能にすることによって、その生体機能性を確実にし、加速された再生を促進し、コラーゲンホイル生物基質が組織と接触したときに吸収時間の低減を促進する。化学薬品又は放射線によるコラーゲン原線維の架橋は、吸収時間の増加をもたらすか、さらには非吸収、被包及び瘢痕形成をもたらす可能性がある。本発明で利用されるコラーゲンホイル生物基質における原線維の自然の架橋は、自然の、生理学的様手段により生じる。主に、この自然の架橋は、非共有相互作用(例えば、ファンデルワールス若しくは双極子−双極子相互作用)によって、又はコラーゲン分子のアミノ酸側鎖間の容易に分離可能なシッフ塩基結合の形成によって終了する。コラーゲンの分子間架橋が、物理的及び化学的安定性に関与している。コラーゲン架橋の形成における主要な工程は、リシン又はヒドロキシリシン残基の酵素的変換に依存し、アルデヒド、アリシン及びヒドロキシアリシンを生じる。こられのアルデヒド基は、反応性アミノ基と自発的に反応して、不安定なアルジミン結合(例えば、−CH=N−)を有する不安定なアルドール縮合物を含有するシッフ塩基成分の形成をもたらす。したがって、本発明の生成物の原線維は、例えば弱酸を用いる処理によって分離することができる。化学架橋剤の使用により生じる架橋は、安定した共有的に架橋した架橋部分の存在により検出することができる。一般的に、このことは、シッフ塩基試薬(例えば、グルタルアルデヒド)を使用して、シッフ塩基反応生成物を形成し、次に、アマドリ転位又は還元条件のいずれかによって結合を安定化することで達成される。加えて、コラーゲンを、多様な生体機能性カルボジイミド試薬で架橋することができる。放射線の使用により生じる架橋は、照射の際に生じた遊離ラジカル部分の反応により引き起こされる、コラーゲン原線維間の安定した共有結合の存在により検出することができる。一方、本発明の生成物における原線維は、あらゆる安定した共有結合と実質的に非架橋しており、化学的又は放射線的手段で処理されていない。したがって、本発明の生成物における原線維間のあらゆる関連性は、実質的に非共有的であるか又は容易に可逆的であり、安定して架橋していない。シアンアミド、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アクリルアミド、カルボジイミドジオン、ジイミデート、ビスアクリルアミドなどのような化学薬品が、過去に、コラーゲン原線維を化学的に架橋するために利用されてきた。しかしそのような化学薬品の使用は、神経組織と、コラーゲンホイル生物基質における残留化学薬品との不注意な接触に関連する毒性の危険性をもたらしうる。したがって、沈殿プロセスは、架橋化学薬品の毒性の危険性を回避し、化学薬品又は放射線によるコラーゲン原線維の架橋に関連するより長い吸収時間を回避する。
【0067】
誘導された乾燥沈殿コラーゲン組成物は、二次元の多方向で天然にからみ合うコラーゲン原線維の多数の層からなる高分子量多層コラーゲン膜から構成されるコラーゲンホイル生物基質を形成する。コラーゲンホイル生物基質は、主に、間質I型コラーゲンを含有する。コラーゲンホイル生物基質は、実質的に孔を有さず、主に液密である。免疫拡散試験を生成物において実施して、外来性タンパク質の不在を確実にすることができる。コラーゲンホイル生物基質は、エチレンオキシド(ETO)若しくは同様の滅菌ガスによりガス滅菌するか、又は照射により滅菌することができる。
【0068】
本発明のウマコラーゲンホイル生物基質を使用する有意な利点は、前記ホイルと接触する患者に疾患を伝染する危険性が実質的に低いことである。コラーゲン原線維を、酸(例えば、塩酸、酢酸など)又は水酸化ナトリウムのような塩基により処理してウマコラーゲンホイルを生成する製造プロセスは、有益には、存在しうる細菌、ウイルス及びプリオンを不活性化するか、又はそれらの感染レベルを低減するように作用する。塩酸、水酸化ナトリウム、エチレンオキシド(ETO)などによる生体材料の処理は、従来技術において、プリオン及びウイルスを不活性化する薬剤及び生体材料の規制内の承認された方法として認可されている。そのような処理は、一部の規制下において、バッチ毎でウマコラーゲンホイルを試験する規制要件を軽減することができる。したがって、製造プロセスでのコラーゲン原線維の処理は、製品の安定性を増強し、患者への疾患の伝染の危険性を低減する。
【0069】
上記の製造プロセスに付されたウマ物質は、あらゆる病原体を患者に伝染しないことが知られている。したがって、製造プロセスに加えて、ウマに基づくコラーゲンの利用は、以前はヒト死体物質と関連していた海綿状脳炎を伝染する危険性を更に回避する。ウマアキレス腱から得られるコラーゲンのようなウマ由来物から誘導されるコラーゲンの使用は、ウシ海綿状脳症(BSE)又はスクレイピーとしても知られている、伝染性海綿状脳症(TSE)を伝染する危険性を回避する。この疾患の伝染は、反芻動物供給源から得た生物学的物質(例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジなどからの生物学的物質)の使用に関連している。
【0070】
コラーゲンがウマ由来物から誘導され、(例えば、酵素により)処理されている、本発明で使用されるコラーゲンホイル生物基質は、追加的に、免疫反応を誘発する危険性を低減する。
【0071】
ウマ誘導コラーゲンホイル生物基質は、また、炎症性反応の低減をもたらす。ヒト大腿筋膜のような供給源から誘導されるコラーゲンを含有するホイルと比較すると、ウマコラーゲンホイル生物基質との接触によりもたらされる炎症性細胞の数は、有意に少ない。
【0072】
使用する前に、乾燥コラーゲンホイル生物基質を、例えば生理食塩水で水和することができる。一つの例において、生理食塩水は、0.9%塩化ナトリウム溶液を含む。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、賦形剤又は薬剤含有溶液で水和される。コラーゲンホイル生物基質を水和するのに必要な時間の長さは、ホイルの厚さに関係する。コラーゲンホイル生物基質は、全領域にわたって厚さが一定になるまで水和される。一つの例において、コラーゲンホイル生物基質は、生理食塩水で約0.5秒から約1時間水和される。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、生理食塩水で約0.5秒から約30分間水和される。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、生理食塩水で約0.5秒から約20分間水和される。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、生理食塩水で約0.5秒から約10分間水和される。なお別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、生理食塩水で約0.5秒から約2分間水和される。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、例えばコラーゲンホイル生物基質を生理食塩水に浸けることにより、生理食塩水で約0.5秒から約10秒間水和される。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、組織と接触する前に水和されない。
【0073】
コラーゲンホイル生物基質は、外科的技術を確立することにより、例えばフィブリンシーラント、組織接着剤、縫合糸により、又は圧力適合外科技術により、患者の組織に結合することができる。あるいは、コラーゲンホイル生物基質と、組織又は組織の表面の血液との自然な誘引を使用して、コラーゲンホイル生物基質を、あらゆるシーラント、接着剤、縫合又は圧力適合技術を使用することなく組織と結合することができる。いったん水和されると、コラーゲンホイル生物基質を、例えば患者の組織における外科的開口部よりも僅かに大きく切断することができる。それにより、コラーゲンホイル生物基質が、それが結合する患者の組織から僅かにはみ出す。一つの例において、水和コラーゲンホイル生物基質を、組織からおよそ0.5cm〜約1cmはみ出すような大きさにする。はみ出し量は、外科医の好み及び技術に応じて変わることができる。
【0074】
一つの例において、コラーゲンとフィブリノーゲン及びフィブロネクチンとの周知の相互作用によって、コラーゲンホイル生物基質を、フィブリンシーラントを用いて所定の場所に固定することができる。外科的使用に承認されているフィブリンシーラントの例には、TISSUCOL及びTISSEELフィブリンシーラント(Baxter AG, Vienna, Austria)が挙げられる。あるいは、広範囲な炎症反応を誘発せず、脊髄の手術における使用が承認されている組織接着剤を利用することもできる。フィブリンシーラント又は組織接着剤を、液密シールを形成するために、組織からはみ出しているコラーゲンホイル生物基質の周囲部分に連続線で起用することができる。液密シール固定は、隣接組織と出血との接触に関連する合併症、例えば、フィブリンによる癒着形成の誘発を回避するので、有益である。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、フィブリンシーラント又は組織接着剤の連続線により組織と結合する場合、液密シールを生じる。更なる例において、組織からはみ出しているコラーゲンホイル生物基質に、組織に結合するために、フィブリンシーラント又は組織接着剤を点在させることができる。なお別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、いったん所望の接触部位に位置決めされると、それを組織に外科的に縫合することによって結合される。コラーゲンホイル生物基質が縫合される場合、ホイルを引き裂くのを防止するために無緊張縫合技術を使用しなければならない。縫合線を例えばフィブリンシーラントで封鎖することが推奨される。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、当該技術で既知の圧力適合技術により位置決めされ、移植される。この技術において、コラーゲンホイル生物基質は、所望の移植部位に位置決めされ、周囲組織のより所定の場所に保持される。したがって、移植片は、縫合糸、フィブリンシーラント又は組織接着剤を使用することなく、所定の場所にとどまる。別の例において、コラーゲンホイル生物基質は、あらゆるシーラント、接着剤、縫合又は圧力適合技術を使用することなく、位置決めされ、移植される。この技術において、コラーゲンホイル生物基質は、所望の移植部位に位置決めされ、コラーゲンホイル生物基質と哺乳動物の組織との間に生じる自然な誘引又は接着により所定の場所に保持される。別の例において、コラーゲンホイル生物基質を、組織に適用し、上記の方法のいずれかにより固定することができ、次に、別のコラーゲンホイル生物基質を、隣接組織に適用し、上記の方法のいずれかにより適用することができ、したがって、コラーゲンホイル生物基質の隣接シートをもたらすことができる。
【0075】
場合により、本発明のコラーゲンホイル生物基質を、他の生成物と共に利用することができる。例えば、コラーゲンホイル生物基質を組織に適用し、上記に記載された方法のいずれかにより固定した後、癒着防止生成物をコラーゲンホイル生物基質又は隣接組織の上面又は下面に適用することができる。一つの実施態様において、CoSeal(登録商標)(Baxter Healthcare corporationから入手可能)のようなPEGに基づいた生成物を、コラーゲンホイル生物基質又は隣接組織の上面又は下面に適用することができる。本発明のコラーゲンホイル生物基質は、「滑りやすい」表面を作り出すのではなく、組織を分離することにより及び組織再生を導くことにより癒着を防止するので、その作用は、細胞が癒着しない「滑りやすい」表面を一時的に作り出す生成物を利用することにより補足されることができる。別の実施態様において、PEGに基づく生成物で一面又は両面が既に被覆されている、直ぐに使用できるコラーゲンホイル生物基質を使用することができる。
【0076】
加えて、本発明は、脊柱及び硬膜、並びに周囲組織からなる群より選択される組織の連絡切断により特徴付けられる、哺乳動物における、例えば傷害、手術又は病原体に基づく疾患のような障害を処置する薬剤、すなわち医学的に適用可能な物質の製造における多層コラーゲンホイル生物基質の使用に関する。
【実施例】
【0077】
実施例:癒着及び線維形成、基本及び研究目標
過剰な瘢痕組織形成及び癒着は、頻繁に根性痛及び身体的機能障害を引き起こす、脊髄の手術における重篤な問題であり、例えば腰椎椎間板の手術の失敗又は椎間板切除後症候群である。修正手術の場合の硬膜損傷の症例が、文献において5〜10%報告されている。
【0078】
癒着形成の術後発生及び程度についての最も重要な臨界パラメーターは、以下である:
−手術領域の術前状態(患者の遺伝的素因を含む癒着/線維化の存在);
−手術の術中活動(創傷の程度、組織及び特定の解剖学的構造(例えば、膜)の傷害の回避、止血の注意、組織の乾燥の回避など);
−術後癒着の防止及び最小化の術中処置、例えば、スポンジ、ホイル又はゲルのような癒着防止移植物の移植。
【0079】
癒着には複数の原因があるので、外科的処置は、全ての患者において100%の癒着防止を達成することはあり得ないが、上記のパラメーターの前提条件に影響を与えることはできる。外科的目標は、術後期間の間及び初期における外科的創傷状態の最適化である。この期間における創傷状態は、主に、あらゆる術後癒着の形成及び線維形成に関与することが知られている。
【0080】
癒着/硬膜周囲線維化の病因について考えると、硬膜周囲背側創傷領域における生理学的瘢痕形成の際の、潜在的な、硬膜を保護し、癒着を防止し、最小化する方法及び生成物の調査行為は、最初の術後期間(およそ、手術後1〜2週間)に集中している。これは、特定の組成物が、背側の外科的欠損領域における瘢痕形成から硬膜を保護し、分離する機能、並びに、あらゆる制御されない瘢痕/癒着/線維形成の主な要因及び基本的な原因である、血液、フィブリノーゲン、フィブリン及び壊死物質の制御されない術後分布を回避する機能を果たすかを決定するためには、最も重要な期間である。
【0081】
術後2週間目の状態は、移植物の一体化についての評価、並びに移植物の種類及び生体活性、生体機能性及び組織適合性についての潜在性における結論を可能にする。例えば、2週間後、移植物は、背側の解剖学的構造において十分に許容され、細胞化し、一体化しているか、又は対照的に、長期間異物として作用し、被包及び瘢痕形成を誘発するか。以下の実施例の目的は、術後期間における生物学的コラーゲンホイル生物基質の一時的な分離層として及び細胞増殖及び組織再生のための生物基質としての生体機能性を評価すること、並びに臨床的に関連性のある癒着及び制御されない瘢痕組織形成の防止及び最小化の値を評価することである。
【0082】
実施例I:物質及び方法:生体機能性コラーゲンホイル生物基質を使用する脊髄手術において癒着の低減を示した動物実験
A)図7〜9に示されている物質及び方法:
動物:ニュージーランド白色ウサギ、両方の性別、体重4kg。由来:Charles River, Sulzfeld, Deutschland or Harlan Winkelmann, D−33178 Borchen。
【0083】
モデル及び群:
生体機能性コラーゲンホイル生物基質の使用:椎弓板切除、脊髄神経根の露出及びコラーゲンホイル生物基質の適用。各群は20匹の動物を含む。
【0084】
群1:椎弓板切除、皮膚閉鎖(対照)。
【0085】
群2:椎弓板切除、コラーゲンホイル生物基質で覆う。
【0086】
手術:
動物を腹臥位で位置決めし、剃毛した手術領域(脊柱腰椎部)を固定した。滅菌条件下で、皮膚の正中切開後、脊椎傍筋組織を棘状突起から分離し、腰椎脊柱の椎弓板を露出した。第3及び第4腰椎の半側椎弓板切除を実施した。対応する2つの脊髄神経根及び根チャンネルの露出。異なる群における手術の継続も記載される。
【0087】
一般的な麻酔:Ketavetを60mg/kg
Rompunを16mg/kg(皮下)
チオペンタールを効果に基づいて耳静脈から静注
Narkosis、挿管法、人工呼吸
疼痛投薬:2×日。Temgesicを0.05mg/kg(皮下)で手術後3〜4日間。
【0088】
安楽死:静注でのバルビツール過剰投与による全身麻酔。
【0089】
評価及び病理学的試験:
各群の動物を次のように安楽死させた:10日後に動物10匹、4週間後に動物10匹、及び3か月後に動物10匹。評価パラメーター:癒着及び線維化の程度。その後、広範囲な組織学的処置を行った。実験は、生体機能性コラーゲンホイル生物基質を利用した群において癒着形成の低減を示した。
【0090】
実施例II:ヒト患者における移植後1週間のコラーゲンホイル生物基質
ヒト患者(年齢:18歳、性別:女性)を、日常的な外科的処置(てんかん)の枠内で7日間の間隔を置いて手術した。コラーゲンホイル生物基質を、1回目の手術の際に硬膜外に移植した(CSFの漏れの防止)。2回目の手術の際に、硬膜の再開口の前に、コラーゲンホイル生物基質を日常的に移動した。硬膜外移植の1週間後、コラーゲンホイル生物基質は、図10に示されているように、依然として機械的に安定しており、移動可能であった。
【0091】
図11は、移植後1週間の図10のコラーゲンホイル生物基質の断面図である。見て分かるように、線維芽細胞は、多層構造に導かれてコラーゲンホイル生物基質の中へ増殖する。縦方向の貫入は、約220〜320μmである。
【0092】
多層構造に沿って導かれた修復細胞の内殖の速度は、横断方向(「図10」)と比較して縦方向では約10〜15倍速かった。最小限の炎症性浸潤が示され、継続中の再生プロセスを表している。
【0093】
実施例III:脊髄手術におけるコラーゲンホイル生物基質の移植後の細胞増殖、組織再生、並びに硬膜周囲癒着及び線維化の防止
物質:
精製し、細かく刻んだ、ウマのアキレス腱から生成し、沈殿して原線維にした非変性ウマコラーゲン原線維(主にI型コラーゲン)。柔軟な形状安定性及び弾性の生物基質を特別に設計し、非多孔性の流体密封性多層構造を有する。乾燥多層コラーゲンホイル膜の厚さは、約0.1mmであった。湿潤条件では、膜厚は、0.3mmに成長した。
【0094】
一般的な麻酔:Ketavetを60mg/kg
Rompunを16mg/kg(皮下)
チオペンタールを効果に基づいて耳静脈から静注
Narkosis、挿管法、人工呼吸
疼痛投薬:2×日。Temgesicを0.05mg/kg(皮下)で手術後3〜4日間。
【0095】
安楽死:静注でのバルビツール過剰投与による全身麻酔。
【0096】
動物モデル:
本発明の研究は、体重が手術時で平均3kgであり、平均年齢が4か月であるニュージーランド白色(「NZW」)ウサギにより実施した。全てのウサギは雌であり、動物研究は、オーストリア、ウイーン市の正式な承認の後で実施した。このウサギの動物実験モデルにおける手術の設計は、ヒトにおける最も一般的な手術介入と同様であった。椎弓板切除及び摘除は、第4から第5脊柱腰椎部(L4/5)の椎間関節で実施した。Posterior Lumbar Interbody Fusion(PLIF)手術のような実際の手術を完全に実施するために、黄色靱帯を摘除した。脊髄の上にある硬膜はそのまま残しておいた。椎弓板切除領域を、本発明の生物学的コラーゲンホイル生物基質で覆った。脊椎傍筋肉を所定の場所に戻し、筋膜を吸収性縫合糸で閉鎖した。皮膚をsyntofil縫合糸で閉鎖した。
【0097】
ウサギは、最初の3日間は術後疼痛投薬及び流体注入を受け、混合食餌を摂取した。ウサギをチオペンタールの過剰投与により安楽死させ、脊椎の手術領域を取り出し、組織学的評価のために単離した。
【0098】
組織学的方法:
脊柱を一括切除し、固定のために10%ホルマリン溶液に浸漬した。脱灰した後、各腰椎を薄片に切断し、脱水し、パラフィンの中に埋め込んだ。7個の3μm厚の切片を各試料から取った。
【0099】
切片を、全細胞及び骨成分を染色する全体的な組織学のために、Haematoxilin−Eosinにより染色した。スライドを、硬膜と硬膜周囲背側外科的創傷領域との関係、コラーゲンホイル生物基質への細胞内殖と癒着形成及び硬膜周囲線維創傷形成の不在/存在及び程度との関係のような解剖学的構造を評価することによって検査した。
【0100】
結果/組織学的所見:
切片を、全細胞及び骨成分を染色する全体的な組織学のために、Haematoxilin−Eosinにより染色した。スライドを、硬膜と硬膜周囲背側外科的創傷領域との関係のような解剖学的構造を評価することによって検査した。コラーゲンホイル生物基質の中への及び上での細胞増殖、並びに生物基質及び周囲組織における炎症性反応の量及び質を分析した。一体化/組み込みプロセス、並びに癒着形成及び硬膜周辺結合組織の組織化の不在/存在及び程度も分析した。
【0101】
研究は以下の組織学的所見を示す:
術後直後:コラーゲンホイル生物基質を、硬膜と背側欠損領域との間に置き、硬膜と背側創傷領域との間に生物学的分離層を形成する。背側欠損の組織に固定しない。血液(赤血球)は、コラーゲンホイル生物基質の表面の薄層に付着し、止血物質としての機能を証明する。非多孔性であり、血液に対して流体密封性であるコラーゲンホイル生物基質の微視的な平行多層構造が、はっきりと目に見える。コラーゲンホイル生物基質の厚さは、約0.3mmである(図12)。
【0102】
術後1週間:膜は、周囲組織とほぼ一体化している。血液細胞、特にリンパ球の浸潤がある(図13A)。硬膜下腔には、細胞浸潤又は癒着組織がない。背側表面において、細胞は、表面に沿って導かれ、コラーゲンホイル生物基質の表面にほとんど貫入していない。欠損の端部では、コラーゲン生物基質は、骨に適用されている。接触領域(a)は、生体活性(生物基質/細胞相互作用)の優先領域であり、多層構造に沿って導かれた細胞浸潤の開始地点である。多層コラーゲンホイル生物基質と硬膜との間の領域は、図13Aにおいて示されているように、脂肪細胞を含有する疎性組織(b)からなり、解剖学的構造が手術により影響を受けなかった領域における硬膜外腔の組織(c)に匹敵する。
【0103】
図13Aは、欠損の端部における多層コラーゲンホイル生物基質と骨との接触領域(a)を示す。細胞と多層コラーゲンホイル生物基質との強い交互作用。多層コラーゲンホイル生物基質の再構築は、多層コラーゲンホイル生物基質の平行多層構造への細胞(線維芽細胞、顆粒球)の導かれた浸潤によって開始する。
【0104】
図13Bは、欠損の端部における多層コラーゲンホイル生物基質と骨との接触領域(a)を示す。
【0105】
図13Cは、椎弓板切除欠損の中央における多層コラーゲンホイル生物基質を示す。コラーゲン生物基質は一体化しており、腹側硬膜外腔を背側創傷形成から分離している。細胞は、背側表面に沿って導かれており、コラーゲン生物基質の表面に貫入していない。コラーゲン生物基質と硬質との間の領域(a)は、脂肪細胞を含有する疎性組織からなる。
【0106】

図13Dは、術後1週間のNZWウサギを示す。多層コラーゲンホイル生物基質は、椎弓板切除欠損を閉鎖し、硬膜を、細胞リッチ背側創傷形成の開始地点から分離している。細胞は、コラーゲン生物基質の表面に貫入していない。コラーゲン生物基質の端部では、多層構造(a)への修復細胞の導かれた浸潤の始まりが見られる。
【0107】
図13Eは、術後1週間のNZWウサギを示す。コラーゲンスポンジ(DURAGEN)を使用して椎弓板切除欠損を覆った。本発明と対照的に、硬膜外腔と背側創傷領域との間に明確な非多孔性分離層がない。コラーゲンスポンジは、血液で浸されている。
【0108】
術後2週間:膜と周囲組織との一体化は、毛細血管構造の内殖により改善されている。分葉核顆粒球であるリンパ球の量が増加している。コラーゲンホイル生物基質の構造は、周囲組織と区別することができる。膜の上方においてリンパ球及び顆粒級の滲出による炎症性反応がある。硬膜下腔には、細胞浸潤又は癒着組織がない。
【0109】
図14A〜Cは、術後2週間のNZWウサギを示す。多層コラーゲンホイル生物基質は完全に一体化している。組織修復細胞は、コラーゲン生物基質に浸潤し、多層構造に沿って導かれている。硬膜は、脂肪細胞を有する疎性組織によって、創傷形成及び再構築コラーゲン生物基質から分離されている。
【0110】
結論:
本発明の非多孔性多層コラーゲンホイル生物基質は、硬膜と背側手術欠損との間に即効性の優れた分離及び保護機能を有し、硬膜周囲領域への血液、フィブリン及び壊死性物質の制御されない分布を回避し、背側表面上方の創傷の始まりにおいて細胞増殖を導き、分離することを実証した。生体機能性コラーゲンホイルは、また、多層構造の中へ細胞内殖を導く。多層構造に沿った内殖の速度は、背側表面から生物基質の中への細胞の内殖よりも速い。第1周目ではコラーゲンホイル生物基質の腹側表面への細胞の内殖はない。多層構造に沿って又はそれを横断する細胞内殖の異なる速度は、術後1週間における多層コラーゲンホイル生物基質の硬膜周囲移植後の臨床観察(実施例II)と一致している。
【0111】
2週間後、多層生物基質は修復細胞により浸潤されている。生物基質と背側手術創傷領域の生理学的創傷形成との完全な一体化が存在する。硬膜は、硬膜を脊柱管から生理学的に分離する、脂肪細胞と同様に見える疎性脂肪組織により分離されている。細胞リッチ生物基質の徐々に消滅する多層構造に沿って導かれる修復細胞の高い生体活性が存在する。生物基質は、正常な解剖学的構造に再構築され、一体化される。
【0112】
本発明の多層コラーゲンホイル生物基質は、多層構造内で細胞の内殖及び背側表面の上方で細胞増殖を導く、硬膜と背側欠損領域との間の有効な生体適合性及び生体機能性の迅速な保護及び分離層であることを実証した。細胞増殖を導くことによって、コラーゲンホイル生物基質は、再構築及び組織再生プロセスを有効に制御し、臨床的に関連する癒着の防止及び最小化のために最適な条件を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の表面を例示するSEM(走査電子顕微鏡)写真である。コラーゲン原繊維が明確に例示されている。実質的に非多孔性の表面が画像から明らかである。
【図2A】図2は、僅かに湿気のある環境の天然に近い条件を意味する、ESEM(環境制御型走査電子顕微鏡法)条件下で撮影された写真であり、生体機能性コラーゲンホイル生物基質を側面から見た上面を例示している。実質的な非多孔性が写真から明らかである。
【図2B】図2Bは、僅かに湿気のある環境の天然に近い条件を意味する、ESEM(環境制御型走査電子顕微鏡法)条件下で撮影された写真であり、生体機能性コラーゲンホイル生物基質を側面から見た上面を例示している。実質的な非多孔性が写真から明らかである。
【図3A】図3A及び3Bは、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の下面を例示している、ESEM条件下で撮影された写真である。コラーゲン原線維が図3Aに例示されている。実質的に非多孔性の表面が画像から明らかである。
【図3B】図3A及び3Bは、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の下面を例示している、ESEM条件下で撮影された写真である。コラーゲン原線維が図3Aに例示されている。実質的に非多孔性の表面が画像から明らかである。
【図4】図4は、水和された生体機能性コラーゲンホイル生物基質の表面を例示するSEM写真である。コラーゲン原線維が図4に明確に例示されている。実質的に非多孔性の表面が画像から明らかである。
【図5A】図5A、5B及び5Cは、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の断面を例示している、ESEM条件下(湿気のある環境)で撮影された写真である。この物質は、非常に固く束ねられているシートの積み重ねのような構造を明らかにする。コラーゲン層間の隙間が画像において見られる。
【図5B】図5A、5B及び5Cは、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の断面を例示している、ESEM条件下(湿気のある環境)で撮影された写真である。この物質は、非常に固く束ねられているシートの積み重ねのような構造を明らかにする。コラーゲン層間の隙間が画像において見られる。
【図5C】図5A、5B及び5Cは、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の断面を例示している、ESEM条件下(湿気のある環境)で撮影された写真である。この物質は、非常に固く束ねられているシートの積み重ねのような構造を明らかにする。コラーゲン層間の隙間が画像において見られる。
【図6A】図6A及び6Bは、乾燥生体機能性コラーゲンホイル生物基質の断面を例示するSEM写真である。コラーゲンの複数層及びコラーゲン層間の隙間が画像において例示されている。
【図6B】図6A及び6Bは、乾燥生体機能性コラーゲンホイル生物基質の断面を例示するSEM写真である。コラーゲンの複数層及びコラーゲン層間の隙間が画像において例示されている。
【図7】図7は、生体機能性コラーゲンホイル生物基質が、細胞内殖を導き、かつ組織再生を制御するために、脊椎における外科的に生じた欠損の端部及び硬膜の上を覆って配置され、故に、脊髄硬膜及び脊髄神経への再生創傷組織の癒着を防止する、本発明の一つの実施態様の例示である。この実施態様において、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の端部は、脊椎の側部外面創傷表面に固定されている。
【図8】図8は、生体機能性コラーゲンホイル生物基質が、脊髄硬膜及び脊髄神経への再生創傷組織の癒着を防止するために、脊椎における外科的に生じた欠損及び硬膜の上に配置される本発明の別の実施態様の例示である。この実施態様において、生体機能性コラーゲンホイル生物基質の端部は、脊柱管における脊椎の内面に固定されている。
【図9】図9は、術後1週間のコラーゲンホイル生物基質の断面図である。表面の構造は、非多孔性であり、一時的なバリアを形成する。血液(赤血球)が分離され、多層コラーゲンホイル生物基質に貫入しなかった。
【図10】図10は、移植後1週間のコラーゲンホイル生物基質を示す。ヒト患者(年齢:18歳、性別:女性)を、日常的な外科的処置(てんかん)の枠内で7日間の間隔を置いて手術した。コラーゲンホイル生物基質を、1回目の手術の際に硬膜外に移植した(CSFの漏れの防止)。2回目の手術の際に、硬膜の再開口の前に、コラーゲンホイル生物基質移植物を日常的に除去した。硬膜外移植の1週間後、コラーゲンホイル生物基質は、依然として機械的に安定しており、除去可能であった。
【図11】図11は、移植後1週間のコラーゲンホイル生物基質縁の断面図である。線維芽細胞が、生体基質の下方側面から約25μmまで侵入し、平行多層構造に導かれて縦方向に内殖して拡散し、多層構造に導かれてコラーゲンホイル生物基質の中へ増殖した。縦方向の貫入は、約220〜320μmである。多層構造に沿って導かれた修復細胞の内殖の速度は、横断方向(「図10」)と比較して縦方向では約10〜15倍速い。最小限の炎症性浸潤があり、継続中の再生プロセスを表す。
【図12】図12は、実施例Iで教示されたように、HE染色されたニュージーランド白色(「NZW」)ウサギの術後スライドを倍率×20で示す。多層コラーゲンホイル生物基質は、硬膜と背側創傷領域との間の分離層であり、非多孔性及び血液に対して流体密封性である生体活性多層構造を提供する。
【図13A】図13Aは、術後1週間のNZWウサギを示す;倍率:×2.5;HE染色。多層コラーゲンホイル生物基質は、椎弓板切除欠損を閉鎖し、硬膜外腔を、細胞リッチ背側創傷形成の開始地点から分離している。
【図13B】図13Bは、術後1週間のNZWウサギを示す;倍率:×20;HE染色。この図は、欠損の端部における多層コラーゲンホイル生物基質と骨との接触領域(a)を示す。
【図13C】図13Cは、術後1週間のウサギを示す;倍率:×20;HE染色。多層コラーゲンホイル生物基質は、椎弓板切除欠損の中央にある。多層コラーゲン生物基質は一体化しており、腹側硬膜外腔を背側創傷形成から分離している。
【図13D】図13Dは、術後1週間のNZWウサギを示す;倍率:×2.5;HE染色。多層コラーゲンホイル生物基質は、椎弓板切除欠損を閉鎖し、硬膜を、細胞リッチ背側創傷形成の開始地点から分離している。細胞は、コラーゲン生物基質の表面に貫入していない。コラーゲン生物基質の端部では、多層構造への修復細胞の導かれた浸潤が始まっている(a)。
【図13E】図13Eは、術後1週間のNZWウサギを示す;倍率:×2.5;HE染色。コラーゲンスポンジ(DURAGEN)を使用して椎弓板切除欠損を覆った。硬膜外腔と背側創傷領域との間に明確な非多孔性分離層はない。スポンジは血液で浸されている。
【図14A】図14Aは、術後2週間のウサギを示す;倍率:×2.5;HE染色。多層コラーゲンホイル生物基質は完全に一体化している。組織修復細胞は、コラーゲンホイル生物基質に浸潤し、硬膜は、脂肪細胞を有する疎性組織によって創傷形成及び再構築コラーゲン生物基質から分離されている。
【図14B】図14Bは、術後2週間のウサギを示す;倍率:×4;HE染色;多層コラーゲンホイル生物基質は完全に一体化している。組織修復細胞は、コラーゲン生物基質の多層構造に浸潤した。硬膜は、脂肪細胞を有する疎性組織によって創傷形成及び再構築コラーゲン生物基質から分離されている。
【図14C】図14Cは、術後2週間のウサギを示す;倍率×10;HE染色;多層コラーゲンホイル生物基質は完全に一体化している。組織修復細胞は、コラーゲン生物基質の多層構造に浸潤した(a)。硬膜は、脂肪細胞を有する疎性組織によって、創傷形成及び再構築コラーゲン生物基質から分離されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の脊柱組織、硬膜及び脊髄神経からなる群より選択される組織の表面における術後又は外傷後癒着及び線維形成を防止するための導かれた細胞の内殖及び制御された組織再生の方法であって、組織に対して、微視的な非多孔性多層コラーゲンホイル生物基質を提供し、それで覆い、そしてそれで分離する工程を含む方法。
【請求項2】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
組織を、非多孔性多層コラーゲンホイル生物基質で覆う工程及び分離する工程が、脊髄の手術の際に実施される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が、修復細胞及び再生細胞からなる群より選択される細胞を誘引し、それによって新たな組織増殖を誘発する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記多層コラーゲンホイル生物基質の多層構造が、多層コラーゲンホイル生物基質の表面において細胞の増殖を、そして隙間において細胞の内殖を導き、ここで該細胞が修復細胞及び再生細胞からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が、修復細胞及び再生細胞からなる群より選択される細胞の内殖の際に天然の組織に再吸収され、再構築される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
脊髄及び硬膜、並びに周囲の組織からなる群より選択される組織の欠損により特徴付けられる哺乳動物における障害を処置する方法であって、脊髄及び硬膜からなる群より選択される組織に対して、多層コラーゲンホイル生物基質の隙間内で細胞増殖を導く生体機能性非多孔性多層コラーゲンホイル生物基質を提供し、それで覆い、そしてそれで分離する工程を含む方法。
【請求項8】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が、次のウシ、ブタ、ウマ、ヒトコラーゲン及びこれらの混合物からなる群より選択される供給源のうちの1つから誘導される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が、フィブリンシーラントを使用して哺乳動物の組織と結合する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
細胞の内殖が、前記多層コラーゲンホイル生物基質の層間の隙間において、及び該多層コラーゲンホイル生物基質の外面において導かれる、請求項7記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物における癒着の防止及び線維形成の防止のための薬剤の製造における組成物の使用であって、ここで該組成物が微視的な多層コラーゲンホイル生物基質からなり、該多層コラーゲンホイル生物基質がコラーゲン層間の隙間において細胞の増殖を導き、ここでコラーゲンがウシ、ブタ、ウマ又はヒトコラーゲン及びこれらの混合物よりなる群のうちの1つから選択される。
【請求項12】
前記癒着が、硬膜周囲又は神経周囲癒着のような、術後癒着又は外傷により引き起こされる癒着である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が、該多層コラーゲンホイル生物基質の層の隙間間において及び表面において細胞増殖を導く、請求項11記載の使用。
【請求項14】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が、一次液密シール及び分離層を作り出す、請求項11記載の使用。
【請求項15】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が平滑で実質的に非多孔性である、請求項14記載の使用。
【請求項16】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が平滑で非多孔性である、請求項14記載の使用。
【請求項17】
前記多層コラーゲンホイル生物基質が天然の組織に再吸収され、再構築される、請求項11記載の使用。
【請求項18】
多層ホイル生物基質が14日間で天然の組織に再吸収され、再構築される、請求項17記載の使用。
【請求項19】
コラーゲンホイルがウマコラーゲンから誘導される、請求項11記載の使用。
【請求項20】
前記組成物がキットの形態で利用可能である、請求項11記載の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【公表番号】特表2009−538649(P2009−538649A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512489(P2009−512489)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004791
【国際公開番号】WO2007/137839
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】