説明

脚状態診断システムとその診断方法

【課題】乳牛の脚状態診断システムにおいて、乳牛の脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行う。
【解決手段】診断対象の乳牛の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きを、健康な乳牛(正常牛)の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きと比較することにより、診断対象の乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定を客観的、かつ、容易に行う。また、患肢の治療後における診断対象の乳牛の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きを、治療前における同じ乳牛の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きと比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳牛の脚の状態を診断する脚状態診断システムとその診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乳牛等の家畜の生産現場では、家畜の脚と蹄の問題がクロース・アップされてきている。これは、3つの理由に起因する。1つ目の理由は、家畜の居住環境が土の床からセメント床に変わってきたということである。この背景には、家畜の飼育戸数が減少していることから、一戸当たりの飼育頭数が増加(家畜飼育が高密度化)してきており、家畜の飼育方法を放牧飼育から舎内飼育に切り替えざるをえないという事情がある。2つ目の理由は、家畜を大型化させるように品種改良した結果、家畜の四肢が虚弱化したということである。3つ目の理由は、家畜の成長をスピード化させるように品種改良した結果、家畜の歩行様式がアンバランスになったということである。
【0003】
特に、乳牛の生産現場では、蹄を含む脚の状態が乳牛の全身の健康を左右し、さらには乳量にも影響を及ぼすと言われている。すなわち、乳牛が、蹄底潰瘍等の脚の病気にかかると、歩く際に痛みをも伴う状態となるため、乳牛の運動量が減ってしまうだけではなく、乳牛のストレスが大きくなる。このため、脚以外の病気(乳房炎等)にもなり易くなると共に、乳量も低下してしまう。従って、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定を容易に行うことができれば、乳量の増加を図ることができる。また、患肢の治療後における治り具合を客観的に評価することができれば、治療を受けた乳牛の乳量の推定が容易となる。
【0004】
しかしながら、従来は、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的に行うことができないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができるようにして、乳牛の乳量の増加と乳量の推定を行うことが可能な脚状態診断システムとその診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、乳牛の脚の状態を診断する脚状態診断システムにおいて、前記乳牛の歩行時に、該乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向のうちの少なくともいずれかの方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとを検出する加速度センサと、前記加速度センサにより検出された加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける加速度の大きさと向きのデータを記録する加速度データ記録手段と、前記加速度データ記録手段に記録された複数の検出ポイントにおける加速度の大きさと向きのデータに基づいて、前記乳牛の脚の状態を診断する脚状態診断手段とを備えたものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の脚状態診断システムにおいて、前記加速度センサを前記乳牛の最後位胸椎上背部に装着したものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載の脚状態診断システムにおいて、前記加速度センサは、無線型の加速度センサであるものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1に記載の脚状態診断システムにおいて、前記加速度データ記録手段に記録されている加速度の大きさと向きのデータには、複数の検出ポイントにおける前記乳牛の前後方向の加速度の大きさと向きのデータが含まれており、前記脚状態診断手段は、前記加速度データ記録手段に記録された前後方向の加速度の大きさと向きのデータに基づき、前方向の加速度の大きさの総和と後方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、前後方向比率という)を求めて、この前後方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断するものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1に記載の脚状態診断システムにおいて、前記加速度データ記録手段に記録されている加速度の大きさと向きのデータには、複数の検出ポイントにおける前記乳牛の左右方向の加速度の大きさと向きのデータが含まれており、前記脚状態診断手段は、前記加速度データ記録手段に記録された左右方向の加速度の大きさと向きのデータに基づき、左方向の加速度の大きさの総和と右方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、左右方向比率という)を求めて、この左右方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断するものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1に記載の脚状態診断システムにおいて、前記加速度データ記録手段に記録されている加速度の大きさと向きのデータには、複数の検出ポイントにおける前記乳牛の上下方向の加速度の大きさと向きのデータが含まれており、前記脚状態診断手段は、前記加速度データ記録手段に記録された上下方向の加速度の大きさと向きのデータに基づき、上方向の加速度の大きさの総和と下方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、上下方向比率という)を求めて、この上下方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断するものである。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1に記載の脚状態診断システムにおいて、前記加速度センサは、前記乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きを検出する3次元加速度センサであるものである。
【0013】
請求項8の発明は、請求項7に記載の脚状態診断システムにおいて、前記加速度記録手段に記録されている加速度の大きさと向きのデータには、複数の検出ポイントにおける前記乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きのデータが含まれており、前記前後方向の加速度の大きさと向きのデータ、左右方向の加速度の大きさと向きのデータ、及び上下方向の加速度の大きさと向きのデータのうち、いずれか2方向の加速度の大きさと向きのデータに基づいて、リサージュ図形を作成するリサージュ図形作成手段と、前記リサージュ図形作成手段により作成されたリサージュ図形を出力する出力手段とをさらに備えたものである。
【0014】
請求項9の発明は、乳牛の脚の状態を診断する脚状態診断方法において、前記乳牛の歩行時に、該乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向のうちの少なくともいずれかの方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとを検出し、前記検出した加速度の大きさと向きに基づき、前記乳牛の脚の状態を診断するものである。
【0015】
請求項10の発明は、請求項9に記載の脚状態診断方法において、前記乳牛の最後位胸椎上背部において、前記加速度の大きさと向きを検出するものである。
【0016】
請求項11の発明は、請求項9に記載の脚状態診断方法において、前記検出した加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける前後方向の加速度の大きさと向きのデータを記録し、これらのデータに基づき、前方向の加速度の大きさの総和と後方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、前後方向比率という)を求めて、この前後方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断するものである。
【0017】
請求項12の発明は、請求項9に記載の脚状態診断方法において、前記検出した加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける左右方向の加速度の大きさと向きのデータを記録し、これらのデータに基づき、左方向の加速度の大きさの総和と右方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、左右方向比率という)を求めて、この左右方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断するものである。
【0018】
請求項13の発明は、請求項9に記載の脚状態診断方法において、前記検出した加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける上下方向の加速度の大きさと向きのデータを記録し、これらのデータに基づき、上方向の加速度の大きさの総和と下方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、上下方向比率という)を求めて、この上下方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断するものである。
【0019】
請求項14の発明は、請求項9に記載の脚状態診断方法において、前記検出した加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける前後方向、左右方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きのデータを記録し、これら3方向の加速度の大きさと向きのデータのうち、いずれか2方向の加速度の大きさと向きのデータに基づいて、リサージュ図形を作成して、このリサージュ図形を画面表示又は印刷するようにしたものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1及び請求項9の発明によれば、乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向のうちの少なくともいずれかの方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとに基づき、乳牛の脚の状態を診断するようにした。ここで、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症している場合には、体の揺れを脚でうまく止めることができなくなってしまうので、患肢の側における加速度が大きくなる。従って、上記乳牛の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きを、健康な乳牛の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きと比較することにより、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定を客観的、かつ、容易に行うことができる。これにより、乳牛の脚の疾患を早期に発見して治すことが可能になるので、乳牛の健康状態を良好に維持して乳量の増加を図ることができる。また、患肢の治療後における乳牛の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きを、治療前における同じ乳牛の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きと比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。これにより、該当の乳牛の乳量の推定を行うことができる。
【0021】
請求項2及び請求項10の発明によれば、乳牛の最後位胸椎上背部において、加速度の大きさと向きを検出するようにした。ここで、乳牛の最後位胸椎上背部で加速度の大きさと向きを検出すると、乳牛の尻尾の動きや、頭の動きの影響を受け難く、体全体の動きの加速度の大きさと向きを検出することができるので、この加速度の大きさと向きに基いて体全体の動きのバランスがとれているか否かを把握することができる。
【0022】
請求項3の発明によれば、上記の加速度センサを無線型の加速度センサとしたことにより、上記の加速度データ記録手段及び脚状態診断手段を、加速度センサが装着された乳牛の歩みに合わせて移動させる必要がなくなるので、乳牛の脚の状態の診断処理が容易になる。
【0023】
請求項4及び請求項11の発明によれば、前方向の加速度の大きさの総和と後方向の加速度の大きさの総和との比率である、前後方向比率に基いて、乳牛の脚の状態を診断するようにした。ここで、上記のように、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症している場合には、体の揺れを脚でうまく止めることができなくなってしまうので、健康な乳牛に比べて、患肢の側における加速度が大きくなる。従って、上記乳牛の前後方向比率を健康な乳牛の前後方向比率と比較することにより、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢が前肢と後肢のうちのいずれであるかの特定を、客観的、かつ、容易に行うことができる。また、患肢の治療後における乳牛の前後方向比率を、治療前における同じ乳牛の前後方向比率と比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。
【0024】
請求項5及び請求項12の発明によれば、左方向の加速度の大きさの総和と右方向の加速度の大きさの総和との比率である、左右方向比率に基いて、乳牛の脚の状態を診断するようにした。ここで、上記のように、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症している場合には、体の揺れを脚でうまく止めることができなくなってしまうので、健康な乳牛に比べて、患肢の側における加速度が大きくなる。従って、上記乳牛の左右方向比率を健康な乳牛の左右方向比率と比較することにより、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢が左肢と右肢のうちのいずれであるかの特定を、客観的、かつ、容易に行うことができる。また、患肢の治療後における乳牛の左右方向比率を、治療前における同じ乳牛の左右方向比率と比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。
【0025】
請求項6及び請求項13の発明によれば、上方向の加速度の大きさの総和と下方向の加速度の大きさの総和との比率である、上下方向比率に基いて、乳牛の脚の状態を診断するようにした。ここで、上記のように、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症している場合には、体の揺れを脚でうまく止めることができなくなってしまうので、健康な乳牛に比べて、上方向の加速度の大きさと下方向の加速度の大きさとのバランスが崩れる。従って、上記乳牛の上下方向比率を健康な乳牛の上下方向比率と比較することにより、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別を、客観的、かつ、容易に行うことができる。また、患肢の治療後における乳牛の上下方向比率を、治療前における同じ乳牛の上下方向比率と比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。
【0026】
請求項7の発明によれば、上記の加速度センサを、乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きを検出する3次元加速度センサとしたことにより、乳牛の前後、左右、及び上下の全ての方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとに基づいて、乳牛の脚の状態を診断することができる。これにより、上記請求項1に記載の発明の効果を的確に得ることができる。
【0027】
請求項8及び請求項14の発明によれば、前後方向の加速度の大きさと向きのデータ、左右方向の加速度の大きさと向きのデータ、及び上下方向の加速度の大きさと向きのデータのうち、いずれか2方向の加速度の大きさと向きのデータに基づいて、リサージュ図形を作成して、このリサージュ図形を画面表示又は印刷することができる。ここで、健康な乳牛の場合は、上記のリサージュ図形が円形状又は楕円形状となるが、脚に疾患を有する乳牛の場合は、上記のリサージュ図形が、不規則に歪み、患肢側に棘上波形を示す。従って、上記乳牛のリサージュ図形を健康な乳牛のリサージュ図形と比較することにより、乳牛のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定を、客観的、かつ、容易に行うことができる。また、患肢が、ある程度治ると、リサージュ図形の面積が大きくなるので、患肢の治療後、ある程度の期間が経過した後の乳牛のリサージュ図形の面積を、治療直後における同じ乳牛のリサージュ図形の面積と比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。本発明は、乳牛の脚の状態を診断する脚状態診断システムとその診断方法に関するものであり、乳牛の歩行時に検出した、体軸の動きの加速度の大きさと向きのデータに基づいて、乳牛の脚の状態を診断するものである。なお、以下に記載した実施形態は、本発明を網羅するものではなく、本発明は、下記の形態だけに限定されない。
【0029】
図1(a)(b)は、本発明の脚状態診断システムにおいて用いられる無線型3次元加速度センサを乳牛に装着した様子を示す。乳牛1の最後位胸椎上背部2には、無線型3次元加速度センサ3(以下、無線加速度センサと略す)が取り付けられている。この乳牛1を綱で引っ張って、直線通路を10メートル歩かせながら、測定間隔5ミリ秒で、乳牛1の前後、左右、及び上下の全ての方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとを検出する。なお、この場合の加速度の「向き」とは、例えば、前後方向における加速度の場合は、前方向か後方向かということであり、+の方向を前方向、−の方向を後方向とした場合における、加速度の符号(+か−かということ)を意味する。本実施形態では、無線加速度センサ3による加速度の検出ポイントを1024ポイントとするが、上記のように、測定間隔が5ミリ秒であり、乳牛1の4つの脚の歩みが1サイクルするのに要する時間が2秒弱であることから、加速度の検出ポイントを400ポイント(2秒÷5ミリ秒=400)(計算上の都合を考慮すると512ポイント)以上にすることが望ましい。また、同様な理由から、測定間隔が1ミリ秒である場合には、加速度の検出ポイントを2048ポイント以上にすることが望ましく、また、測定間隔が2ミリ秒である場合には、加速度の検出ポイントを1024ポイント以上にすることが望ましい。
【0030】
上記のように、無線加速度センサ3を乳牛1の最後位胸椎上背部2に装着した理由は、この位置が、図1(a)(b)に示されるように、乳牛1の体の中心に近似した位置であるため、この位置で乳牛1の動きの加速度を検出することにより、検出された加速度が、乳牛1の前肢と後肢の両方の状態を反映したものとなるからである。また、最後位胸椎上背部2が、乳牛1のセンターライン(体軸)上に位置することから、無線加速度センサ3を最後位胸椎上背部2に装着することにより、乳牛1の体全体の動きを反映した加速度を採取することができ、従って、採取した加速度の大きさと向きに基いて、乳牛1の体全体の動きのバランスがとれているか否かを把握することができる。さらにまた、もし、無線加速度センサ3を乳牛1の尻尾に近い部分や、頭部近傍に装着した場合には、検出された加速度が、乳牛1の尻尾の動きや、頭の動きの影響を受け易い。これに対して、無線加速度センサ3を最後位胸椎上背部2に装着すると、検出された加速度が、乳牛1の尻尾の動きや、頭の動きの影響を受け難い。
【0031】
また、従来は、人や動物のモーションキャプチャーを行うのに、検出対象となる動物にリフレクタ3を取り付けてビデオカメラで撮影する方法が採られることが多いが、乳牛1の最後位胸椎上背部2にリフレクタを取り付けた場合には、乳牛1の前面、背面、及び側面からリフレクタを判別することが難しいため、リフレクタを用いて、乳牛1の体軸の動きの加速度を採取することは難しい。
【0032】
次に、上記の無線加速度センサ3を用いて検出した加速度の大きさと向きのデータに基づいて、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を行う方法について説明する。まず、上記の加速度の大きさと向きのデータに基づいて作成した、リサージュ図形(単振動合成2次元図形)を利用して、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を行う方法(以下、第1の脚状態診断方法という)について説明する。なお、以下の説明では、左後肢12の外蹄に蹄底潰瘍を患った乳牛1にヒールレス・メソッド処置を行った場合の例について説明するが、上記第1の脚状態診断方法は、ヒールレス・メソッド処置以外の治療を施した乳牛1に対しても適用することができる。従って、下記の説明において、「ヒールレス・メソッド処置」と記載されている部分は、「治療」と書き換えてもよい。
【0033】
図2、図3、図4、及び図5は、それぞれ左後肢12の外蹄に蹄底潰瘍を患った乳牛1のヒールレス・メソッド処置直前、処置直後、処置後10日、及び処置後21日における上下方向と左右方向の加速度の大きさと向きのデータに基づいて作成したリサージュ図形10を示す。一般に、乳牛1が、いずれかの脚に疾患を有する場合には、歩行時における左右の体の揺れを脚でうまく止めることができなくなってしまうので、患肢の側における加速度が大きくなる。例えば、上記のように、乳牛1が、左後肢12に疾患を有する場合には、歩行時における左側への体の揺れを左後肢12でうまく止めることができなくなってしまうので、左側における加速度が大きくなる。このため、図2に示されるように、リサージュ図形10中の左側(患肢側)に、棘状波形11が現れる。また、上記のように、乳牛1が、いずれかの脚に疾患を有する場合には、歩行時における左右の体の揺れを脚でうまく止めることができなくなってしまうので、図2に示されるように、ヒールレス・メソッド処置直前における乳牛1のリサージュ図形10は、不規則に歪んでいる。
【0034】
これに対して、図3に示されるヒールレス・メソッド処置直後のリサージュ図形10の左側には、棘状波形11が存在せず、円形(又は楕円形)に近い形状となる。これは、ヒールレス・メソッド処置を行うことによって、乳牛1が、歩行時における左側への体の揺れを左後肢12で止めることができるようになるからである。ただし、ヒールレス・メソッド処置直後においては、乳牛1の歩行時における左右方向及び上下方向のバランスが若干崩れるので、図3に示されるように、リサージュ図形10の波形は、若干乱れている。また、ヒールレス・メソッド処置直後の乳牛1は、包帯を巻かれており、しかも、未だ痛みが残っているので、慎重な動きをする。従って、図3に示されるように、ヒールレス・メソッド処置直後のリサージュ図形10の面積は、図2に示されるヒールレス・メソッド処置直前のリサージュ図形10の面積よりも小さい。
【0035】
また、図4に示されるヒールレス・メソッド処置後10日のリサージュ図形10は、図3に示されるヒールレス・メソッド処置直後のリサージュ図形10と比べて、波形の乱れが少なく、より円形(又は楕円形)に近い形状となる。これは、左後肢12の疾患が、ある程度治ってきたので、乳牛1が、歩行時における左側への体の揺れを左後肢12でしっかり止めて、バランスよく歩くことができるようになるからである。ただし、ヒールレス・メソッド処置後10日の時点では、乳牛1は、未だ包帯が取れておらず、しかも、未だ痛みが若干残っているので、慎重な動きをする。従って、図4に示されるように、ヒールレス・メソッド処置後10日のリサージュ図形10の面積は、リサージュ図形10の波形の乱れが少なくなる分だけ、図3に示されるヒールレス・メソッド処置直後のリサージュ図形10の面積よりも、むしろ小さくなっている。
【0036】
これに対して、図5に示されるように、ヒールレス・メソッド処置後21日のリサージュ図形10の面積は、図4に示されるヒールレス・メソッド処置後10日のリサージュ図形10の面積と比べて、大きくなる。これは、乳牛1の包帯が取れ、蹄が伸びて、乳牛1が、痛みを感じず、通常通り、大胆に歩くことができるようになったからである。このように、患肢が、ある程度治ると、リサージュ図形10の面積が大きくなるので、患肢の治療後、ある程度の期間が経過した後の乳牛1のリサージュ図形10の面積を、治療直後における同じ乳牛1のリサージュ図形10の面積と比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。
【0037】
また、図6、図7、図8、及び図9は、それぞれ上記乳牛1のヒールレス・メソッド処置直前、処置直後、処置後10日、及び処置後21日における上下方向と前後方向の加速度の大きさと向きのデータに基づいて作成したリサージュ図形20を示す。上記のように、乳牛1が、左後肢12に疾患を有する場合には、歩行時における体の揺れを脚でうまく止めることができなくなってしまうので、図6に示されるように、ヒールレス・メソッド処置直前における乳牛1のリサージュ図形20は、不規則に歪んでいる。
【0038】
これに対して、図7に示されるヒールレス・メソッド処置直後のリサージュ図形20は、楕円形に近い形状となる。これは、ヒールレス・メソッド処置を行うことによって、乳牛1が、歩行時における体の揺れを左後肢12で止めることができるようになるからである。また、ヒールレス・メソッド処置直後の乳牛1は、包帯を巻かれており、しかも、未だ痛みが残っているので、慎重な動きをする。従って、図7に示されるように、ヒールレス・メソッド処置直後のリサージュ図形20の面積は、図6に示されるヒールレス・メソッド処置直前のリサージュ図形20の面積よりも小さい。
【0039】
また、図8に示されるヒールレス・メソッド処置後10日のリサージュ図形20は、図7に示されるヒールレス・メソッド処置直後のリサージュ図形20と比べて、より楕円形に近い形状となる。これは、左後肢12の疾患が、ある程度治ってきたので、乳牛1が、歩行時における体の揺れを左後肢12でしっかり止めて、バランスよく歩くことができるようになるからである。ただし、ヒールレス・メソッド処置後10日の時点では、乳牛1は、未だ包帯が取れておらず、しかも、未だ痛みが若干残っているので、慎重な動きをする。従って、図8に示されるように、ヒールレス・メソッド処置後10日のリサージュ図形20の面積は、リサージュ図形20の波形の乱れが少なくなる分だけ、図7に示されるヒールレス・メソッド処置直後のリサージュ図形20の面積よりも、むしろ小さくなっている。
【0040】
これに対して、図9に示されるように、ヒールレス・メソッド処置後21日のリサージュ図形20の面積は、図8に示されるヒールレス・メソッド処置後10日のリサージュ図形20の面積と比べて、大きくなる。これは、乳牛1の包帯が取れ、蹄が伸びて、乳牛1が、痛みを感じず、通常通り、大胆に歩くことができるようになったからである。このように、患肢が、ある程度治ると、リサージュ図形20の面積が大きくなるので、患肢の治療後、ある程度の期間が経過した後の乳牛1のリサージュ図形20の面積を、治療直後における同じ乳牛1のリサージュ図形20の面積と比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。
【0041】
次に、上記の無線加速度センサ3を用いて検出した、乳牛1の前後方向、左右方向、及び上下方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きのデータを、時間を横軸とするグラフに表して、このグラフの波形に現れる特徴に基き、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定を行う方法(以下、第2の脚状態診断方法という)について説明する。図10、図11、及び図12は、それぞれ右後肢43(図13参照)の外蹄に白帯病を患った乳牛1の、治療前における左右方向、前後方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きのグラフを示す。乳牛1が、右後肢43に疾患を有する場合には、歩行時における右側への体の揺れを右後肢43でうまく止めることができなくなってしまうので、右側における加速度が大きくなる。このため、図10に示される左右方向のグラフ31には、右方向への棘状波形32が現れる。また、上記のように、乳牛1が、歩行時における右側への体の揺れを右後肢43でうまく止めることができず、左右のバランスを崩し易いことから、左右方向のグラフ31の波形は、不規則なものになる。
【0042】
また、一般に、乳牛1が、いずれかの脚に疾患を有する場合には、歩行時に患肢の側にバランスを崩し易いことから、患肢の側における加速度が大きくなる。従って、上記のように、乳牛1が、右後肢43に疾患を有する場合には、後側における加速度が大きくなる。このため、図11に示される前後方向のグラフ35には、後方向への棘状波形37が現れる。
【0043】
次に、リサージュ図形を用いて、乳牛1が、右後肢43に疾患を有する場合には、右方向と後方向への棘状波形が現れるということを確認する。図13、図14、及び図15は、それぞれ上記図10乃至図12のグラフの作成に用いられた加速度の大きさと向きのデータに基いて作成したリサージュ図形41、44、46を示す。図13に示されるリサージュ図形41には、右方向への棘状波形42が現れている。また、図14に示されるリサージュ図形44にも、右方向への棘状波形45が現れている。さらにまた、図15に示されるリサージュ図形46には、後方向への棘状波形47が現れている。
【0044】
図16、図17、及び図18は、それぞれ右後肢43の外蹄に白帯病を患った乳牛1の、治療(抗生物質塗布)後における左右方向、前後方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きのグラフを示す。図16に示される治療後における左右方向の加速度のグラフ51の波形は、図10に示される治療前における左右方向の加速度のグラフ31の波形と比べて、規則的であり、このグラフ51の波形には、右方向への棘状波形32が存在しない。また、図17に示される治療後における前後方向の加速度のグラフ55の波形には、後方向への棘状波形37が存在しない。これは、治療を行うことによって、乳牛1が、歩行時における体の揺れを右後肢43で止めることができるようになるからである。
【0045】
次に、リサージュ図形を用いて、右後肢43の疾患の治療後には、右方向と後方向への棘状波形がなくなるということを確認する。図19、図20、及び図21は、それぞれ上記図16乃至図18のグラフの作成に用いられた加速度の大きさと向きのデータに基いて作成したリサージュ図形61、64、66を示す。図13に示される治療前のリサージュ図形41と異なり、図19に示される治療後のリサージュ図形61には、右方向への棘状波形42が存在しない。また、図14に示される治療前のリサージュ図形44と異なり、図20に示される治療後のリサージュ図形64にも、右方向への棘状波形45が存在しない。さらにまた、図15に示される治療前のリサージュ図形46と異なり、図21に示される治療後のリサージュ図形66には、後方向への棘状波形47が存在しない。
【0046】
次に、上記の無線加速度センサ3を用いて検出した加速度の大きさと向きのデータに基づいて、前方向の加速度の大きさの総和と後方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、前後方向比率という)と、左方向の加速度の大きさの総和と右方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、左右方向比率という)と、上方向の加速度の大きさの総和と下方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、上下方向比率という)とを求めて、これらの比率に基づき、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を行う方法(以下、第3の脚状態診断方法という)について説明する。上記の前後方向比率、左右方向比率、及び上下方向比率は、乳牛1の歩行時における前後方向、左右方向、及び上下方向における加速度の偏りを、健康な乳牛と比較するために算出される。
【0047】
図22、図23、及び図24は、それぞれ上記図10、図11及び図12と同じ加速度の大きさと向きのデータに基いて計算した、乳牛1の治療前における左右方向比率、前後方向比率、及び上下方向比率を示す。また、図25、図26、及び図27は、それぞれ上記図16、図17及び図18と同じ加速度の大きさと向きのデータに基いて計算した、乳牛1の治療後における左右方向比率、前後方向比率、及び上下方向比率を示す。これらの図中の60は、0レベルのラインを示す。また、図25、図26、及び図27中の括弧内の数字は、乳牛1の治療前における左右方向比率、前後方向比率、及び上下方向比率を示す。図22及び図25に示される左右方向比率は、(右方向の加速度の総和+左方向の加速度の総和の絶対値)を分母とする100分率で表されており、図23及び図26に示される前後方向比率は、(後方向の加速度の総和+前方向の加速度の総和の絶対値)を分母とする100分率で表されている。また、図24及び図27に示される上下方向比率は、(上方向の加速度の総和+下方向の加速度の総和の絶対値)を分母とする100分率で表されている。ここで、左方向の加速度の総和、前方向の加速度の総和、及び下方向の加速度の総和について絶対値を用いるのは、左方向、前方向、及び下方向の加速度が、無線加速度センサ3により−成分の値として検出されるからである。
【0048】
図22及び図25に示されるように、乳牛1の治療後における左右方向比率は、治療前における左右方向比率と比べて、右方向への加速度の偏りが小さくなっている。これは、乳牛1が、右後肢43に疾患を有する場合には、歩行時における右側への体の揺れを右後肢43でうまく止めることができなくなってしまうので、右側における加速度が大きくなるが、疾患を治療すると、乳牛1が、歩行時における右側への体の揺れを右後肢43でうまく止めることができるようになるので、右側における加速度が小さくなるからである。
【0049】
また、図23及び図26に示されるように、乳牛1の治療後における前後方向比率は、治療前における前後方向比率と比べて、後方向への加速度の偏りが小さくなっている。これは、乳牛1が、右後肢43に疾患を有する場合には、歩行時に後側にバランスを崩すことが多くなるため、後側における加速度が大きくなるが、疾患を治療すると、乳牛1が、歩行時に後側にバランスを崩すことが少なくなるため、後側における加速度が小さくなるからである。さらにまた、図24及び図27に示されるように、乳牛1の治療後における上下方向比率は、治療前における上下方向比率と比べて、上方向への加速度の偏りが小さくなっている。これは、乳牛1が、右後肢43に疾患を有する場合には、歩行時にバランスを崩すことが多くなるため、上方向と下方向の加速度のバランスも崩れるが、疾患を治療すると、乳牛1が、歩行時にバランスを崩すことが少なくなるため、上方向と下方向の加速度のバランスがとれるようになるからである。
【0050】
上記の乳牛1の左右方向比率、前後方向比率、及び上下方向比率を、健康な乳牛の左右方向比率、前後方向比率、及び上下方向比率と比較することにより、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定を、客観的、かつ、容易に行うことができる。具体的には、乳牛1の右後肢に疾患が発生している場合には、右方向と後方向への加速度の偏りが大きくなり、右前肢に疾患が発生している場合には、右方向と前方向への加速度の偏りが大きくなる。また、乳牛1の左後肢に疾患が発生している場合には、左方向と後方向への加速度の偏りが大きくなり、左前肢に疾患が発生している場合には、左方向と前方向への加速度の偏りが大きくなる。また、患肢の治療後における乳牛1の左右方向比率、前後方向比率、及び上下方向比率を、治療前における乳牛1の左右方向比率、前後方向比率、及び上下方向比率と比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。
【0051】
次に、上記の前後方向比率、左右方向比率、及び上下方向比率のうちの2つの比率を組み合わせて、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否か(は行牛であるか否か)の判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を行う方法(以下、第4の脚状態診断方法という)について説明する。
【0052】
図28は、上記の左右方向比率のうちの右方向比率と、前後方向比率のうちの後方向比率とを組み合わせて表示したものであり、図29は、上記の上下方向比率のうちの上方向比率と、左右方向比率のうちの右方向比率とを組み合わせて表示したものである。これらの図28及び図29中には、複数頭の正常牛(健康な牛)についてのデータと、複数頭のは行牛についてのデータと、上記のは行牛の治療後におけるデータとが含まれている。図28中の70及び図29中の73は、正常牛のデータがプロットされ得る範囲を示す。これらの図に示されるように、正常牛のデータとは行牛のデータとの間には、有意な差が存在するので、図28と図29とを用いることにより、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別を行うことが可能である。また、図28中の矢印A,B、及び図29中の矢印C,Dに示されるように、患肢の治療後における乳牛1のデータは、正常牛のデータが存在する範囲70、73に近づくので、図28及び図29を用いることにより、患肢の治療後における治り具合の評価を行うことができる。
【0053】
上記の第1乃至第4の脚状態診断方法を用いることにより、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定を、客観的、かつ、容易に行うことができる。これにより、乳牛1の脚の疾患を早期に発見して治すことが可能になるので、乳牛1の健康状態を良好に維持して乳量の増加を図ることができる。
【0054】
図30は、乳牛1の脚の疾患の治療直前(治療前日)と治療後1週間目とにおける平均乳量の変化を示す。図中の78は、治療直前における平均乳量のデータのSD(標準偏差)を示し、79は、治療後1週間目における平均乳量のデータのSD(標準偏差)を示す。図中のグラフ76、77に示されるように、乳牛1の治療後1週間目における平均乳量は、治療直前における平均乳量と比べて、有意に多くなった。この実験では、p(優位差検定による危険率)<0.01である。
【0055】
また、上記の第1乃至第4の脚状態診断方法を用いることにより、乳牛1の患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。これにより、該当の乳牛1の乳量の推定を行うことができる。
【0056】
図31は、上記の第1乃至第4の脚状態診断方法を採用した脚状態診断システム80の電気的ブロック構成を示す。図に示されるように、この脚状態診断システム80は、主に無線加速度センサ3とパソコン90とより構成されている。無線加速度センサ3は、乳牛1の前後、左右、及び上下の全ての方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとを検出するための3次元加速度センサ81と、3次元加速度センサ81から送られた信号を処理するための信号処理回路82と、信号処理回路82による処理後の信号をパソコン90に送信するための無線信号送信部83と、アンテナ84と、無線加速度センサ3内の各部に電源を供給するためのバッテリ85とを有している。
【0057】
また、上記のパソコン90は、パソコン全体を制御するためのCPU91と、無線加速度センサ3内の無線信号送信部83からアンテナ92を介して無線信号を受信するための無線信号受信部93と、無線加速度センサ3から受信した加速度の大きさと向きのデータを含む各種のデータやプログラムを格納するためのHDD94(加速度データ記録手段)と、ビデオカメラで撮影した乳牛1の撮影画像をパソコン内に取り込むためのキャプチャボード95と、各種のプログラム等がローディングされるRAM96と、各種の制御用のプログラムを記憶したROM97と、パソコン内の各ブロックに電源を供給するための電源部98とを備えている。
【0058】
上記のHDD94には、ビデオカメラで撮影した乳牛1の撮影画像をパソコン内に取り込む際に使用される画像取込プログラム101と、主に上記第3及び第4の脚状態診断方法を用いて乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を自動的に行うための脚状態診断プログラム102とが格納されている。また、HDD94には、上記第1の脚状態診断方法に用いられるリサージュ図形や、上記第2の脚状態診断方法に用いられる3方向の加速度の大きさと向きのグラフを作成するためのグラフ作成プログラム103と、乳牛1の歩行時に無線加速度センサ3から受信した加速度の大きさと向きのデータを格納した歩様DB104とが格納されている。上記のCPU91と脚状態診断プログラム102とグラフ作成プログラム103とが、請求項における脚状態診断手段に相当する。また、上記のCPU91とグラフ作成プログラム103とが、請求項におけるリサージュ図形作成手段に相当する。また、上記の歩様DB104内に定期的に乳牛1の加速度の(大きさと向きの)データを格納しておいて、各時点における加速度のデータを比較することにより、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症したことや、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。
【0059】
また、パソコン90は、上記のグラフ作成プログラム103により作成されたグラフ等を表示するためのディスプレイ99(出力手段)と、各種の指示入力を行うための操作部100とを備えている。
【0060】
ユーザが、操作部100を用いて、乳牛1の脚の状態の診断をパソコン90のCPU91に指示すると、パソコン90のCPU91は、歩様DB104に格納された加速度の大きさと向きのデータに基き、上記の第1乃至第4の脚状態診断方法を用いて、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を自動的に行う。すなわち、乳牛1の脚の状態の自動診断処理を行う。これにより、獣医以外のユーザが、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定や、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。また、パソコン90のCPU91は、上記の自動診断処理の実行の際に、歩様DB104に格納された加速度の大きさと向きのデータに基き、第1の脚状態診断方法に用いられるリサージュ図形や、上記第2の脚状態診断方法に用いられる3方向の加速度の大きさと向きのグラフを作成して、ディスプレイ99に表示する。ユーザは、上記のリサージュ図形やグラフを確認することにより、パソコン90による診断結果が正しいことを確認することができる。
【0061】
上記のように、本実施形態による脚状態診断システムとその診断方法によれば、乳牛1の前後方向、左右方向、及び上下方向のうちの少なくともいずれかの方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとに基づき、乳牛1の脚の状態を診断するようにした。ここで、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症している場合には、体の揺れを脚でうまく止めることができなくなってしまうので、患肢の側における加速度が大きくなる。従って、上記乳牛1の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きを、健康な乳牛1の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きと比較することにより、乳牛1のいずれかの脚に疾患が発症しているか否かの判別や、患肢の特定を客観的、かつ、容易に行うことができる。これにより、乳牛1の脚の疾患を早期に発見して治すことが可能になるので、乳牛1の健康状態を良好に維持して乳量の増加を図ることができる。また、患肢の治療後における乳牛1の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きを、治療前における同じ乳牛1の体軸の動きの加速度の大きさ及び向きと比較することにより、患肢の治療後における治り具合の評価を客観的、かつ、容易に行うことができる。これにより、該当の乳牛1の乳量の推定を行うことができる。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、加速度センサとして、無線信号を送信可能な加速度センサを用いたが、有線の加速度センサを用いてもよい。また、上記実施形態では、加速度センサとして、乳牛の前後、左右、及び上下の全ての方向における加速度の大きさと向きとを検出することが可能な3次元加速度センサを用いたが、加速度センサとして、乳牛の前後方向及び左右方向のみを検出可能な2次元加速度センサを用いてもよい。さらにまた、加速度センサの乳牛への装着位置は、必ずしも乳牛の最後位胸椎上背部に限られず、乳牛の前肢と後肢の両方の状態を反映した加速度のデータを採取可能な位置であればよい。また、上記の実施形態では、パソコン90が乳牛1の脚の状態を自動的に診断する場合の例を示したが、パソコンが、第1の脚状態診断方法に用いられるリサージュ図形や、第2の脚状態診断方法に用いられる3方向の加速度の大きさと向きのグラフや、第3の脚状態診断方法に用いられる左右方向比率、前後方向比率、及び上下方向比率や、第4の脚状態診断方法に用いられる右方向比率と後方向比率とを組み合わせて表示した図等のうちの少なくともいずれかのデータをディスプレイに表示して、ユーザが、これらのデータに基いて、乳牛の脚の状態を診断するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】(a)(b)は、それぞれ本発明の脚状態診断システムにおいて用いられる無線型3次元加速度センサを装着した乳牛の側面図と背面図。
【図2】上記乳牛のヒールレス・メソッド処置直前における上下方向と左右方向の加速度のデータに基づいて作成したリサージュ図形を示す図。
【図3】上記乳牛のヒールレス・メソッド処置直後における上下方向と左右方向の加速度のデータに基づいて作成したリサージュ図形を示す図。
【図4】上記乳牛のヒールレス・メソッド処置後10日目における上下方向と左右方向の加速度のデータに基づいて作成したリサージュ図形を示す図。
【図5】上記乳牛のヒールレス・メソッド処置後21日目における上下方向と左右方向の加速度のデータに基づいて作成したリサージュ図形を示す図。
【図6】上記乳牛のヒールレス・メソッド処置直前における上下方向と前後方向の加速度のデータに基づいて作成したリサージュ図形を示す図。
【図7】上記乳牛のヒールレス・メソッド処置直後における上下方向と前後方向の加速度のデータに基づいて作成したリサージュ図形を示す図。
【図8】上記乳牛のヒールレス・メソッド処置後10日目における上下方向と前後方向の加速度のデータに基づいて作成したリサージュ図形を示す図。
【図9】上記乳牛のヒールレス・メソッド処置後21日目における上下方向と前後方向の加速度のデータに基づいて作成したリサージュ図形を示す図。
【図10】右後肢を患った乳牛の、治療前における左右方向の加速度の大きさと向きのグラフ。
【図11】上記乳牛の治療前における前後方向の加速度の大きさと向きのグラフ。
【図12】上記乳牛の治療前における上下方向の加速度の大きさと向きのグラフ。
【図13】上記図10及び図12のグラフの作成に用いられた加速度の大きさと向きのデータに基いて作成したリサージュ図形を示す図。
【図14】上記図10及び図11のグラフの作成に用いられた加速度の大きさと向きのデータに基いて作成したリサージュ図形を示す図。
【図15】上記図11及び図12のグラフの作成に用いられた加速度の大きさと向きのデータに基いて作成したリサージュ図形を示す図。
【図16】右後肢を患った乳牛の、治療後における左右方向の加速度の大きさと向きのグラフ。
【図17】上記乳牛の治療後における前後方向の加速度の大きさと向きのグラフ。
【図18】上記乳牛の治療後における上下方向の加速度の大きさと向きのグラフ。
【図19】上記図16及び図18のグラフの作成に用いられた加速度の大きさと向きのデータに基いて作成したリサージュ図形を示す図。
【図20】上記図16及び図17のグラフの作成に用いられた加速度の大きさと向きのデータに基いて作成したリサージュ図形を示す図。
【図21】上記図17及び図18のグラフの作成に用いられた加速度の大きさと向きのデータに基いて作成したリサージュ図形を示す図。
【図22】上記乳牛の治療前における左右方向比率を示す図。
【図23】上記乳牛の治療前における前後方向比率を示す図。
【図24】上記乳牛の治療前における上下方向比率を示す図。
【図25】上記乳牛の治療後における左右方向比率を示す図。
【図26】上記乳牛の治療後における前後方向比率を示す図。
【図27】上記乳牛の治療後における上下方向比率を示す図。
【図28】上記左右方向比率のうちの右方向比率と、上記前後方向比率のうちの後方向比率とを組み合わせて表示した図。
【図29】上記上下方向比率のうちの上方向比率と、上記左右方向比率のうちの右方向比率とを組み合わせて表示した図。
【図30】乳牛の脚の疾患の治療直前と、治療後1週間目における平均乳量の変化を示すグラフ。
【図31】上記脚状態診断システムの電気的ブロック構成図。
【符号の説明】
【0064】
1 乳牛
2 最後位胸椎上背部
3 無線加速度センサ
91 CPU(脚状態診断手段、リサージュ図形作成手段)
94 HDD(加速度データ記録手段)
99 ディスプレイ(出力手段)
102 脚状態診断プログラム(脚状態診断手段)
103 グラフ作成プログラム(脚状態診断手段、リサージュ図形作成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳牛の脚の状態を診断する脚状態診断システムにおいて、
前記乳牛の歩行時に、該乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向のうちの少なくともいずれかの方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとを検出する加速度センサと、
前記加速度センサにより検出された加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける加速度の大きさと向きのデータを記録する加速度データ記録手段と、
前記加速度データ記録手段に記録された複数の検出ポイントにおける加速度の大きさと向きのデータに基づいて、前記乳牛の脚の状態を診断する脚状態診断手段とを備えたことを特徴とする脚状態診断システム。
【請求項2】
前記加速度センサを、前記乳牛の最後位胸椎上背部に装着したことを特徴とする請求項1に記載の脚状態診断システム。
【請求項3】
前記加速度センサは、無線型の加速度センサであることを特徴とする請求項1に記載の脚状態診断システム。
【請求項4】
前記加速度データ記録手段に記録されている加速度の大きさと向きのデータには、複数の検出ポイントにおける前記乳牛の前後方向の加速度の大きさと向きのデータが含まれており、
前記脚状態診断手段は、前記加速度データ記録手段に記録された前後方向の加速度の大きさと向きのデータに基づき、前方向の加速度の大きさの総和と後方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、前後方向比率という)を求めて、この前後方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断することを特徴とする請求項1に記載の脚状態診断システム。
【請求項5】
前記加速度データ記録手段に記録されている加速度の大きさと向きのデータには、複数の検出ポイントにおける前記乳牛の左右方向の加速度の大きさと向きのデータが含まれており、
前記脚状態診断手段は、前記加速度データ記録手段に記録された左右方向の加速度の大きさと向きのデータに基づき、左方向の加速度の大きさの総和と右方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、左右方向比率という)を求めて、この左右方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断することを特徴とする請求項1に記載の脚状態診断システム。
【請求項6】
前記加速度データ記録手段に記録されている加速度の大きさと向きのデータには、複数の検出ポイントにおける前記乳牛の上下方向の加速度の大きさと向きのデータが含まれており、
前記脚状態診断手段は、前記加速度データ記録手段に記録された上下方向の加速度の大きさと向きのデータに基づき、上方向の加速度の大きさの総和と下方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、上下方向比率という)を求めて、この上下方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断することを特徴とする請求項1に記載の脚状態診断システム。
【請求項7】
前記加速度センサは、前記乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きを検出する3次元加速度センサであることを特徴とする請求項1に記載の脚状態診断システム。
【請求項8】
前記加速度記録手段に記録されている加速度の大きさと向きのデータには、複数の検出ポイントにおける前記乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きのデータが含まれており、
前記前後方向の加速度の大きさと向きのデータ、左右方向の加速度の大きさと向きのデータ、及び上下方向の加速度の大きさと向きのデータのうち、いずれか2方向の加速度の大きさと向きのデータに基づいて、リサージュ図形を作成するリサージュ図形作成手段と、
前記リサージュ図形作成手段により作成されたリサージュ図形を出力する出力手段とをさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載の脚状態診断システム。
【請求項9】
乳牛の脚の状態を診断する脚状態診断方法において、
前記乳牛の歩行時に、該乳牛の前後方向、左右方向、及び上下方向のうちの少なくともいずれかの方向における、体軸の動きの加速度の大きさと向きとを検出し、
前記検出した加速度の大きさと向きに基づき、前記乳牛の脚の状態を診断することを特徴とする脚状態診断方法。
【請求項10】
前記乳牛の最後位胸椎上背部において、前記加速度の大きさと向きを検出することを特徴とする請求項9に記載の脚状態診断方法。
【請求項11】
前記検出した加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける前後方向の加速度の大きさと向きのデータを記録し、これらのデータに基づき、前方向の加速度の大きさの総和と後方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、前後方向比率という)を求めて、この前後方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断することを特徴とする請求項9に記載の脚状態診断方法。
【請求項12】
前記検出した加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける左右方向の加速度の大きさと向きのデータを記録し、これらのデータに基づき、左方向の加速度の大きさの総和と右方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、左右方向比率という)を求めて、この左右方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断することを特徴とする請求項9に記載の脚状態診断方法。
【請求項13】
前記検出した加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける上下方向の加速度の大きさと向きのデータを記録し、これらのデータに基づき、上方向の加速度の大きさの総和と下方向の加速度の大きさの総和との比率(以下、上下方向比率という)を求めて、この上下方向比率に基づき、前記乳牛の脚の状態を診断することを特徴とする請求項9に記載の脚状態診断方法。
【請求項14】
前記検出した加速度の大きさと向きのうち、複数の検出ポイントにおける前後方向、左右方向、及び上下方向の加速度の大きさと向きのデータを記録し、これら3方向の加速度の大きさと向きのデータのうち、いずれか2方向の加速度の大きさと向きのデータに基づいて、リサージュ図形を作成して、このリサージュ図形を画面表示又は印刷するようにしたことを特徴とする請求項9に記載の脚状態診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2006−218122(P2006−218122A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35120(P2005−35120)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】