説明

脱インクパルプの製造方法

【課題】 古紙を原料とする脱インクパルプの製造方法を提供する。
【解決手段】 (i)古紙を水中で離解し、異物を除去し、脱水し低含水比繊維を調製する。
(ii)低含水比繊維に漂白薬品を加え、ステーターとローターからなるミキサーを用い、ステーターとローターとの間の空隙部で該繊維に該繊維を実質上損傷しない範囲の剪断力を加えて繊維を解繊し乍ら漂白薬品を混入する。
(iii)解繊工程で得られた生成物を熟成タワーで熟成する。
(iv)熟成工程で得られた生成物を、ステーターとローターからなるニーディング装置を用い、ステーターとローターとの間の空隙部で、ミキサーで加える剪断力よりも4〜400倍大きい剪断力を加えて繊維からインクを剥離させるニーディング工程、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、古紙を原料とする脱インクパルプ(以下、単にDIPとも略記する)の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】製紙産業にとっては、省資源、省エネルギー、地球環境保護等の観点から、古紙を再利用することは不可欠となっている。新聞紙や雑誌等の古紙からDIPを製造するために各種の方法が提供されている。それらの方法は、いずれも、その基本工程として、離解工程、除塵工程、脱墨工程、漂白工程等を包含するものである。しかしながら、従来の方法においては、古紙を離解し、除塵し、脱墨して得られる古紙パルプスラリーを脱水した後の低含水比の含水繊維(パルプ)をDIPにするまでの処理工程の数が多く、省エネルギー的にも、設備的にも未だ満足するものではなかった。例えば、特開昭63−28992号公報では、ニーディング後、熟成を行い再度ニーディングを行う脱墨方法を提案しているが、繊維内部へのインクのすり込みによる白色度の低下を防止するために、繊維濃度25%以下でニーディングを行うことを提案している。また、紙パ技協誌1990.9.P21〜36に示される脱墨パルプのフローによれば、離解繊維をフローテーション、洗浄処理し、ニーディング、熟成を行った後に、繊維濃度を約1%まで希釈し、再度フローテーション、洗浄処理を行い、繊維濃度を約30%まで脱水し、ニーディング処理をくり返している。しかし、これら方法では、繊維に大きい剪断力を加えるニーディング処理を2回行うことから、設備コストが高い上に、後段のニーディングにおいて、繊維から剥離したインクが繊維内部にすり込まれ、繊維中に残留し、DIPの白色度を低下させる等の懸念がある。しかも、これら方法の場合、設備コストが高い上に、機器の電力消費量が大きくなるという問題がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、古紙を原料とする脱インクパルプの製造方法において、高白色度の脱インクパルプを、低い設備コストで製造する方法を提供することをその課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば、古紙を原料として用いて脱インクパルプを製造する方法において、(i)古紙を水中で離解し、離解した繊維中に含まれる異物を除去し、次いで脱水することからなる低含水比の含水繊維を調製する工程、(ii)該低含水比の含水繊維に漂白薬品を加え、ステーターとローターからなるミキサーを用い、そのステーターとローターとの間の空隙部で該繊維に該繊維を実質上損傷しない範囲の剪断力を加えて該繊維を解繊するとともに、該繊維に漂白薬品を混入することからなる解繊工程、(iii)該解繊工程で得られた生成物を熟成タワーで熟成する熟成工程、(iv)該熟成工程で得られた生成物を、ステーターとローターからなるニーディング装置を用い、そのステーターとローターとの間の空隙部で、前記ミキサーで加える剪断力よりも4〜400倍大きい剪断力を加えて該繊維からインクを剥離させるニーディング工程、を包含することを特徴とする脱インクパルプの製造方法が提供される。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明を図面を参照して詳述する。図1は本発明の方法を実施する場合のフローシートを示す。1は低含水比の含水繊維調製工程、2は解繊工程、3は熟成工程、4はニーディング工程、5はスチーム、6は漂白薬品を示す。低含水比の含水繊維調製工程1は、古紙を原料とし、これから低含水比の含水繊維を調製する工程で、従来公知のDIP製造方法に採用されているのと同じ工程である。この工程1は、古紙を離解し、繊維化(パルプ化)して高含水比の含水繊維(繊維スラリー)を得る離解工程と、得られた高含水比のスラリー状繊維中に含まれている異物を除去する除塵工程と、除塵された高含水比のスラリー状繊維を脱水して低含水比の含水繊維とする脱水工程からなる。
【0006】前記離解工程は、例えば、パルパーを用い、水中で古紙を離解することにより実施される。この場合、通常、苛性ソーダや界面活性剤を併用して、古紙の離解とともにインクを剥離させる。前記除塵工程は、古紙の離解により得られた高含水比のスラリー状繊維を除塵機を用いて処理し、それに含まれる異物(プラスチック、粘着物等)を除去することにより実施される。この場合、除塵機としては、クリーナーやスクリーンが一般的に用いられる。このスクリーンには、丸孔スクリーンやスリットスクリーン等が用いられる。除塵されたスラリー状繊維は、フローテータを用いて水中でフローティング処理する。これにより、繊維に付着しているインクが除去される。前記脱水工程は、除塵された高含水比のスラリー状繊維を一段又は2段の脱水工程を用いて脱水処理することにより実施される。この場合、脱水装置としては、シックナーやスクリュープレス等が用いられる。この脱水工程により、固形分濃度が1〜2重量%の高含水比の繊維スラリーから、固形分濃度が28〜33重量%の低含水比の含水繊維が得られる。
【0007】本発明は、前記のようにして調製された低含水比の含水繊維に、スチーム5及び漂白薬品6を加え、解繊工程2において、ステーターとロータからなるミキサーを用い、そのステーターとローターとの間の空隙部で、その繊維に圧縮力と剪断力を加えながら、繊維フロックを解繊するとともに、漂白薬品を繊維に混入する。本発明の場合、繊維に加える剪断力は、その繊維を実質上損傷しない範囲の剪断力である。従って、本発明の場合、解繊工程2の前後における繊維長分布は実質上同じであり、その繊維のフリーネスも解繊工程前後で実質上同じである。このような解繊により、最終的に得られる製品DIPが高品質化される。この解繊工程で用いるミキサーにより繊維に加えられる剪断力は、主に、ステーターとローターとの間の空隙、ステーターとローターとがすれ違う回数(接触回数)により決定される。ステーターとローターとの接触回数が多くなれば、それだけ繊維に加えられる剪断力は大きくなる。本発明では、前記したように、繊維が実質上損傷しない範囲の剪断力を用いることから、その剪断力は、従来のニーディング装置を用いる解繊の場合よりも、小さな剪断力である。本発明による前記解繊工程2は、比較的小さな剪断力を与える消費電力の小さなミキシング装置、例えば、消費電力が0.8〜1.5kw/pulp−ton、好ましくは約1kw/pulp−ton程度のミキシング装置を用いることによって好ましく実施される。このようなミキシング装置としては、例えば、(株)丸石製作所社製のケミカルミキサー等が挙げられる。
【0008】前記漂白薬品としては、従来公知の各種のものが用いられる。このようなものには、過酸化水素(H22)等の酸化薬品が包含される。好ましくは過酸化水素が用いられる。また、漂白薬品には、水酸化ナトリウムや脱墨剤等の補助薬品が併用される。この漂白薬品の使用により、白色度の高められたDIPを得ることができる。その添加量は、所望するDIPの白色度に応じて適宜選定される。
【0009】本発明においては、前記のようにして得られた漂白薬品を混入した低含水比の解繊繊維(固形分濃度:25〜30重量%)は、これを熟成工程3において、熟成する。この熟成工程3は、円筒体からなる熟成タワーを用いて実施される。この場合、熟成タワーでの滞留時間は40分以上、好ましくは2時間以上である。その上限値は、特に制約されないが、通常、5時間程度である。熟成温度は、通常、60〜80℃である。この温度の調整は、前記解繊工程2において、スチームを繊維に加えるとともに、そのスチームの温度及び量により行うことができる。この熟成工程3により、繊維の膨潤が起るとともに、繊維からのインクの剥離が起る。
【0010】本発明においては、前記熟成工程で得られた低含水比の含水繊維(固形分濃度:25〜30重量%)は、これをニーディング工程4において、ニーディング処理する。このニーディング処理は、ステーターとローターからなるニーディング装置を用い、そのステーターとローターとの間の空隙部で、繊維に圧縮力と剪断力を加えることにより実施される。この場合、その剪断力は、前記解繊工程2の場合によりも大きなものである。従って、このニーディング工程4では、その繊維は幾分の損傷を受け、繊維(パルプ)強度の低下を生じる。ニーディング工程4において繊維に加えられる剪断力は、前記解繊工程2において繊維に加えられる剪断力の4〜400倍、特に、20〜100倍程度である。このニーディング工程4で用いる装置としては、従来一般的に採用されているニーディング装置、例えば、消費電力が1.7〜5.2kw/pulp−ton、好ましくは3〜4kw/pulp−ton程度の装置が用いられる。このようなニーディング装置としては、例えば、(株)新浜ポンプ製のニーダや相川鉄工(株)製のディスパーザー等が挙げられる。前記ニーディング工程により、繊維の解繊とともに、繊維中に含まれていたインクの剥離が起こる。
【0011】このニーディング工程4で得られた低含水比の含水繊維は、浮選工程で、フローテーション処理することにより製品DIPとして使用することも可能であるが、必要に応じ、さらに後処理を施す。この後処理は、従来の方法の場合と同様に、精選工程(除塵工程)、晒工程を経て高白色度の製品DIPとされる。前記精選工程は、フローテーション処理された高含水比繊維(固形分濃度:0.8〜1.2重量%)中に含まれる粘着異物等を除去する工程で、精選スクリーンと軽量クリーナとの組合せ等により実施される。前記精選工程で得られた高含水比の含水繊維(固形分濃度:0.8〜1.2)重量%)を脱水して低含水比の含水繊維(固形分濃度:10〜15重量%)とした後、晒工程に送る。
【0012】晒工程においては、低含水比の含水繊維に、漂白薬品とスチームを加え、これをポンプで混合し、晒タワーに送り、繊維を漂白することにより実施される。漂白薬品としてはハイドロサルファイトやFAS(二酸化チオ尿素)等の還元漂白薬品が用いられるが、高効率でCODおよびAOX発生量の少ないFASが好ましく使用される。前記ポンプとしては、MCポンプが一般的に用いられる。前記晒工程において、その繊維の滞留時間は30分以上、好ましくは1時間以上である。その上限値は、特に制約されないが、通常、5時間程度である。その温度は60〜80℃である。前記晒工程で得られた高白色度の繊維は、チェストを経由して、高白色度の製品DIPとして使用される。本発明で用いられる古紙としては、新聞古紙、雑誌古紙、上質系古紙等が挙げられる。
【0013】
【実施例】次に本発明を実施例により詳述する。
実施例1新聞古紙に苛性ソーダ0.5重量%、脱墨剤(花王社製DI−600R)0.2重量%添加し、固形分濃度15重量%にて、高濃度パルパーを用いて45℃で20分間離解した。次に、得られた生成物を、ラボフローテーター(熊谷理機工業社製)で処理してインキを除去した後、固形分濃度が33重量%になるまで脱水し、これに苛性ソーダ0.8重量%、珪酸ソーダ3.0重量%、過酸化水素1.2重量%、および脱墨剤(花王社製DI−600R)0.3重量%を添加し、PFIミル(熊谷理機工業社製)を用いて700rpmで10秒間混合した後、得られた生成物をポリエチレン製の袋に脱気した後に詰め、恒温槽内で70℃に保持しながら2時間熟成した。このようにして得られた生成物をPFIミル(熊谷理機工業社製)を用いて700rpmで3分間ニーディング処理を行ない、次いで得られたニーディング生成物を、固形分濃度が1.0重量%になるまで希釈して、フローテーション(熊谷理機工業社製ラボフローテーター)処理して、白色度61.9%、残インク面積6.9cm2/m2、フリーネス380mlの新聞古紙からのDIPを得た。
【0014】なお、前記白色度はハンター白色度法(JIS P8123)により測定した。残インク面積はルーゼックス(ニレコ社製)で測定した。フリーネスはカナダ標準型(JIS P8121)で測定した。
【0015】
【発明の効果】本発明による古紙からのDIPの製造方法においては、高剪断力によるニーディング処理工程の数は1つであり、これにより、例えば新聞古紙の場合、還元漂白との組み合わせにより、白色度70%以上のDIPを低められた設備コスト及び運転コストで得ることができる。従って、本発明によれば、従来の方法よりも低コストで高白色度のDIPを得ることができ、その産業的意義は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を実施する場合のフローシートを示す。
【符号の説明】
1 低含水比の含水繊維調整工程
2 解繊工程
3 熟成工程
4 ニーディング工程
5 スチーム
6 漂白薬品

【特許請求の範囲】
【請求項1】 古紙を原料として用いて脱インクパルプを製造する方法において、(i)古紙を水中で離解し、離解した繊維中に含まれる異物を除去し、次いで脱水することからなる低含水比の含水繊維を調製する工程、(ii)該低含水比の含水繊維に漂白薬品を加え、ステーターとローターからなるミキサーを用い、そのステーターとローターとの間の空隙部で該繊維に該繊維を実質上損傷しない範囲の剪断力を加えて該繊維を解繊するとともに、該繊維に漂白薬品を混入することからなる解繊工程、(iii)該解繊工程で得られた生成物を熟成タワーで熟成する熟成工程、(iv)該熟成工程で得られた生成物を、ステーターとローターからなるニーディング装置を用い、そのステーターとローターとの間の空隙部で、前記ミキサーで加える剪断力よりも4〜400倍大きい剪断力を加えて該繊維からインクを剥離させるニーディング工程、を包含することを特徴とする脱インクパルプの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2000−282381(P2000−282381A)
【公開日】平成12年10月10日(2000.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−92508
【出願日】平成11年3月31日(1999.3.31)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】