説明

脱塩重縮合系重合体の製造方法

【課題】脱塩重縮合反応を安定的にかつ効率よく行って、所望の分子量を有する重合体を容易に得ることができるとともに、脱塩重縮合反応後の精製工程をより短時間で簡易に行うことができる脱塩重縮合系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属塩触媒の存在下に脱塩重縮合反応を行って脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液を得る工程を含む脱塩重縮合系重合体の製造方法であって、該製造方法は、加圧濾過器を用いて脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液から塩を除去する工程を含み、該加圧濾過器は、その内部が、濾過面を有する仕切りによって、少なくとも2つの領域に分けられており、該濾過面のうち少なくとも一部が濾液排出面と異なる向きに設けられている脱塩重縮合系重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱塩重縮合系重合体の製造方法に関する。より詳しくは、工業的な製造設備によって生産されるフッ素系重合体等の製造に好適に用いられる脱塩重縮合系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体の製造方法の一つとして、単量体中の反応性官能基どうしが縮合反応して重合していく重縮合が知られており、その一つとして塩基性金属塩を触媒として用いて脱塩しながら重縮合を行う脱塩重縮合が工業的に行われている。
脱塩重縮合反応として、例えば、2つ以上のハロゲン元素を置換基として有する化合物と、2つ以上の水酸基やチオール基を有する化合物とからハロゲン化水素が脱離してエーテル重合体やスルフィド重合体を生成する反応等が挙げられる。脱離したハロゲン化水素は塩基性金属塩と反応し、副生塩が析出する。これらの反応から、ポリエーテルケトンやポリエーテルスルホン等のエンジニアリングプラスチックが得られることはよく知られている。更に、芳香族基にフッ素を有するフッ素含有アリールエーテル系重合体は、耐熱性や電気的特性、及び、光学特性に優れた化合物であることから、高周波用配線基板や多層配線基板等の電子材料用途、液晶表示素子等の表示基板用途、表示装置用の光学フィルム材料として知られている。
【0003】
このような脱塩重縮合反応を用いた含フッ素アリールエーテルケトン重合体の製造において、有機溶媒中で塩基性化合物を触媒として単量体を重縮合することにより製造することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。基本的には、塩基性金属塩を触媒として用いて脱塩重縮合系重合体を製造するような不均一系の反応では、比表面積の大きい塩基性金属塩を用いた方が容易に反応が進み、製造を円滑に進めることができる。そこで、比表面積を大きくするために、一般的には微粉化した塩基性金属塩が用いられる。例えば、重合体を再現性良くかつ短時間で製造することを目的として、有機溶媒中でジハロゲノジフェニル化合物と二価フェノール化合物を重縮合してポリアリールエーテルを製造する際に、比表面積が0.3m/g以上であるアルカリ金属化合物粒子を触媒に使用する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。このように、微粉化した塩基性金属塩は、重合への効果は大きい。しかしながら、微粉化した塩基性金属塩を用いると、塩基性金属塩及び反応により大量に生成する副生塩を反応後に除去するための精製工程として濾過を行った時に長時間を要する場合や、反応系内から取り除くのが困難な場合があり、これらでは、反応後に反応系内に多量に存在する塩を簡易的に取り除くことが考慮されていない。
【0004】
また、脱塩重縮合反応後の生成物の精製を抽出により行うことも行われており、脱塩重縮合反応を用いて重合体を製造する場合において、脱塩重縮合反応後に非極性溶媒を用いて、生成した重合体を抽出する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)が、析出している副生成物を再度水に溶解して除くということは効率が悪い。これらのように、脱塩重縮合反応を用いた脱塩重縮合系重合体の製造方法において、反応効率の上昇、精製純度の向上という観点から技術の改善が進んではいるものの、脱塩重縮合反応に用いる塩基性金属塩触媒及び脱塩重縮合反応により生成する副生塩を反応後に煩雑な工程を経ず短時間に除去するということに関しては必ずしも充分な改善が行われてはいなかった。しかしながら、実際の製造時においては生成物である重合体の精製工程における塩基性金属塩触媒及び副生塩の除去は、重合体の生産における律速段階となり得る。したがって、高い反応効率で重合体を製造しながら、より短時間に、かつ、より簡易に反応後に反応系内に存在する塩を除去し、重合体の精製工程をより効率化することができる製造方法とする工夫の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−64226号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開平6−32895号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開2007−119756号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脱塩重縮合反応の反応効率を高くするためには、塩基性金属塩の触媒能を上げて反応時間を短くすることが必要であり、そのためには塩基性金属塩を微粉化して、比表面積を大きくすることが必要である。しかしながら、微粉化した塩基性金属塩を用いて反応を行った場合、精製工程を濾過によって行うと、塩基性金属塩の微粉、及び、副生塩と生成した重合体とによって濾過膜上に膜状物質が形成され、この膜状物質で濾過膜が覆われて濾過効率が著しく低下する。これは、生成した重合体が微粉粒子間でバインダー的に働くため、粒子が細かいときに凝集のような現象が起こり、濾過膜上に貼りついて膜が形成され、目詰まりした状態になっているものと考えられる。このような場合、通常はフィルター交換をして対応することが考えられるが、この反応の場合、副生成物等の塩が非常に多く、フィルター上に濾物層が形成されている。したがって、通常のフィルター交換とは異なり、非常に煩雑な作業となり現実的ではなく、また、工業的な製造工程においてフィルター交換をすることは難しい。また、濾過面積を大きくし、目詰まりを起こしにくくすることが考えられるが、通常の工業的な製造工程においては現実的でない。その他、濾過器を何台も並列し、目詰まりが起こり始め濾過速度が遅くなった時点で新しい濾過器に移して濾過することも可能であるが、工業的には好ましくなく、一台の濾過器で行うことが好ましい。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、脱塩重縮合反応を安定的にかつ効率よく行って、所望の分子量を有する重合体を容易に得ることができるとともに、脱塩重縮合反応後の精製工程をより短時間で簡易に行うことができる脱塩重縮合系重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、脱塩重縮合反応を用いて重合体を製造する場合において、脱塩重縮合反応を安定的にかつ効率よく行うことができ、また、生成する重合体と未反応の反応原料、触媒として用いた塩基性金属塩及び副生塩とを分離する精製工程を短時間で簡易に行うことができるような脱塩重縮合系重合体の製造方法について種々検討し、反応効率を上げるために、微粉化した塩基性金属塩を触媒として用いた場合でも、反応後の精製工程を短時間に、かつ、簡易に行う事ができないか、という点に着目した。そして、濾過を行うための加圧濾過器の構造について種々検討した結果、加圧濾過器の内部を、濾過面を有する仕切りによって少なくとも2つの領域に分け、その濾過面のうち少なくとも一部を、加圧濾過器から濾液が排出される濾液排出面とは異なる向きに設けるようにすると、加圧濾過器内部に、重合体、未反応の反応原料、塩基性金属塩粒子及び副生塩によって形成される濾物層が濾過不能になる程厚くならないような濾過面が存在することとなり、濾物層の厚くない濾過面を通じて濾過が進行するために、微粉化した塩基性金属塩を触媒として用いた場合でも、濾過効率が大きく損なわれることがなく、結果、重合体の精製工程を短時間に、かつ、簡易に行うことができるようになることを見出した。これによって、脱塩重縮合反応における反応効率と塩基性金属塩及び副生塩の除去効率とを両立させることができ、上記課題をみごとに解決できることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、金属塩触媒の存在下に脱塩重縮合反応を行って脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液を得る工程を含む脱塩重縮合系重合体の製造方法であって、上記製造方法は、加圧濾過器を用いて脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液から塩を除去する工程を含み、上記加圧濾過器は、その内部が、濾過面を有する仕切りによって、少なくとも2つの領域に分けられており、上記濾過面のうち少なくとも一部が濾液排出面と異なる向きに設けられている脱塩重縮合系重合体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の脱塩重縮合系重合体の製造方法は、金属塩触媒の存在下に脱塩重縮合反応を行って、脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液を得る工程、及び、加圧濾過器を用いて脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液から塩を除去する工程を含むものである。脱塩重縮合反応とは、2つ又は2つ以上の官能基を有する単量体間の反応であって、1つの単量体の官能基と、別の単量体の官能基間の反応において、酸が脱離し、官能基間に新たな結合が形成される反応が連続して起こることにより、重合体が形成される反応のことである。脱離した酸は金属塩触媒と反応し、副生塩が生成する。脱塩重縮合反応により重合体を製造する反応としては,例えば、2つ以上のハロゲン元素を置換基として有する化合物と、2つ以上の水酸基を有する化合物から、ハロゲン化水素が脱離してエーテル系重合体が生成する反応等が挙げられる。脱塩重縮合反応に用いられる単量体は1種であってもよく、2種以上であってもよい。また、本発明の重合体の製造方法は、上記工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
本発明の重合体の製造方法は、脱塩重縮合反応を行う工程、及び、脱塩重縮合反応後に反応溶液から塩を除去する工程を含むものであるが、本発明の本質的特徴は、反応溶液から塩を除去する工程にあるため、まず反応溶液から塩を除去する工程について説明し、次に脱塩重縮合反応を行う工程について説明する。
なお、本発明において、塩とは脱塩重縮合反応後の溶液中に存在する未反応の反応原料、塩基性金属塩、及び、副生塩を意味する。
【0011】
本発明の製造方法における重合体と塩とを含有する溶液から塩を除去する工程は、加圧濾過器を用いて行われるものである。塩を除去する方法として直接抽出を行ったり、再沈殿を行い分離することも可能であるが、廃液を考慮すると、析出している塩類をそのまま除くことは理に適っている。なお、本発明において用いることができる加圧濾過器の大きさは任意に選択することができる。重合体の精製工程として、加圧濾過器を用いて濾過を行うことで、脱塩重縮合系重合体と塩とを充分に分離することが可能となる。該加圧濾過器は、その内部が、濾過面を有する仕切りによって、少なくとも2つの領域に分けられており、該濾過面のうち少なくとも一部が濾液排出面と異なる向きに設けられているものである。加圧濾過器の内部は、濾過面を有する仕切りによって、少なくとも2つの領域に分けられていれば、いくつの領域に分けられていてもよい。また、濾過面を有する仕切りは、加圧濾過器の内部を少なくとも2つの領域に分け、該濾過面のうち少なくとも一部が濾液排出面と異なる向きを向いている限り、特に制限されない。
【0012】
本発明において、少なくとも2つの領域に分けられているとは、濾過器の中に、濾過前の溶液が入れられる部分と、当該部分に入れられた溶液が濾過膜を通過することなしに侵入することができない他の部分が少なくとも1つ存在することを意味し、そのような構造となっている限り、該2つ以上の領域が完全に分離されているものであってもよく、濾過器の中で該2つ以上の領域の上面が開放されて空間的につながっている構造となっているものであってもよい。
濾過器の上面が空間的につながっている構造のものである場合、仕切りの高さは、濾過器の槽内の高さの50%以上であることが好ましい。より好ましくは、65%以上であり、更に好ましくは、80%以上である。
【0013】
本発明において用いられる加圧濾過器を用いずに、通常の加圧濾過器を用いて加圧濾過を行うと、濾液排出面の上に塩及び副生塩が堆積する。本発明における脱塩重縮合系重合体を製造するための精製工程として、通常の加圧濾過器を用いて加圧濾過を行った際の濾過の様子を図5に示す。図5では、加圧濾過器上部から脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液1を投入し、下向きに加圧して、加圧濾過器の下部から濾液2を排出させている。この場合、塩が先に沈み濾液排出面6の上に堆積する。そして、塩に生成した重合体が絡むことで濾物層4が形成され、その濾物層が厚くなることにより濾液排出面の目詰まりが起こってしまい、濾過不能となる。
それに対して、本発明において用いられる加圧濾過器は、その内部が、濾過面を有する仕切りによって、少なくとも2つの領域に分けられており、該濾過面のうち少なくとも一部が濾液排出面と異なる向きに設けられているものであるために、複数個の領域に分けられたうちの少なくとも1つの領域には入らないように、脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液を投入すると、該脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液は、濾液排出面と同じ向きの濾過面からとともに、濾液排出面とは異なる向きの濾過面からも濾過されることとなる。加圧を行うと、濾過器内で濾液排出面方向に濾液が流れてゆくため、濾物は濾液排出面と同じ向きの濾過面に多く堆積することになり、濾液排出面と異なる向きの濾過面においては、濾物層が、濾液排出面と同じ向きの濾過面に比べて厚くならない。そのため、濾過を続けても一定の濾過性を確保することができ、濾過することが可能となる。その結果、液面が沈降している濾物層の高さになるまで濾過がスムーズに行われることとなる。液面が濾物層まで達すると、更に少し濾液が排出されることで濾物層が割れる。その結果、濾物層中に濾過液が流れる空間が確保され、濾過液はスムーズに濾過されていく。
このように、加圧濾過器の内部を、濾過面を有する仕切りによって、少なくとも2つの領域に分け、該濾過面のうち少なくとも一部を濾液排出面と異なる向きに設けることによって、脱塩重縮合反応後に生成した重合体と多量に存在する塩とを分離するための濾過をスムーズに、かつ、簡易に行うことが可能となる。
このような濾過器を用いた濾過は、反応によって当量の副生塩が生成する脱塩重縮合反応後の溶液のような、溶液内に大量の塩が存在する溶液の濾過に特に好適に用いることができるものである。
【0014】
本発明において用いられる加圧濾過器の内部構造の特徴を示すために、一例として、加圧濾過器の上部から重合体と塩とを含有する溶液を投入し、下向きに加圧して、加圧濾過器の下部から濾液を排出させる形態を図1に示す。図1では、重合体と塩とを含有する溶液1が、濾液排出面6に対して垂直な向きの濾過面7に囲まれた中央の領域に投入され、下向きに加圧を行うことで、濾過器内で濾液排出面方向に濾過液3が流れていき、濾物が濾液排出面と同じ向きの濾過面8上に多く堆積し、濾物層4が形成されている。しかし、濾液排出面に対して垂直な向きの濾過面7には濾物層が濾過不能となる程厚く形成されない。そのため、濾過を続けても濾液排出面に対して垂直な向きの濾過面7を通じて、濾過液は、濾液排出面に対して垂直な向きの濾過面に囲まれた中央の領域の外側へと移動し、濾液排出面から排出されている。
なお、本発明において用いられる加圧濾過器の内部の構造は、制限されない。その他の構造としては、例えば、図1の濾液排出面に対して垂直な向きの濾過面に囲まれた中央の領域の外側に重合体と塩とを含有する溶液を投入し、下向きに加圧を行うことで、濾液排出面に対して垂直な向きの濾過面に囲まれた中央の領域に濾過液が移動し、濾液排出面から排出される形態等を挙げることができる。
【0015】
本発明において用いられる加圧濾過器の濾過面、及び、上記濾過面を有する仕切りの濾過面は、目開き(孔径)が100μm以下であることが好ましい。このような目開きのものを用いると大きな凝集している塩やモレキュラーシーブ等を取り除くことができる。より好ましくは、45μm以下であり、更に好ましくは、30μm以下である。また、目開きが細かすぎると濾液排出面での目詰まりが起こりやすくなる。そのため、目開きは1μm以上であることが好ましい。より好ましくは、3μm以上である。
【0016】
上記濾過面を有する仕切りは、濾過槽又は濾過袋であることが好ましい。これらのいずれかを使用することによって、脱塩重縮合反応後に生成した重合体と多量に存在する塩とを分離するための濾過をスムーズに、かつ、より簡易に行うことが可能となる。具体的には、濾過袋を濾過面を有する仕切りとして用いて、図2のように加圧濾過器内部に設置して加圧濾過を行うことができる。
【0017】
上記濾過槽は、濾過器内に設置された場合に、濾液排出面とは異なる向きの濾過面を少なくとも1カ所有していればよいが、濾液排出面、及び、濾液排出面とは異なる向きの濾過面を有するものであることが好ましい。より好ましくは、濾液排出面とは異なる向きの面が全て濾過面であるものである。
また、濾過槽の高さは、濾過器内の該濾過槽が設置される槽内の高さの50%以上であることが好ましい。より好ましくは、65%以上であり、更に好ましくは、80%以上である。
また、濾過槽の容積は、濾過器内の該濾過槽が設置される槽内の容積の30〜95%であることが好ましい。より好ましくは、40〜90%である。
本発明において用いられる濾過槽としては、特に限定されないが、例えば、底が円形、直方形、正方形又は多角形(星形)の筒状メッシュ籠を用いて、内部に所定の目開きの金属メッシュを設けたものを利用することができる。
【0018】
上記濾過袋は、濾過器内に設置された場合に、濾液排出面とは異なる向きの濾過面を少なくとも1カ所有していればよいが、濾過袋の全面が濾過面であることが好ましい。
また、濾過袋の容積は、濾過器の該濾過袋が設置される槽内の容積の30〜95%であることが好ましい。より好ましくは、40〜90%である。
本発明において用いられる濾過袋としては、特に限定されないが、例えば、適当なメッシュサイズの金網又は濾布を袋状に形成したものを利用することができる。
【0019】
また、本発明において用いられる加圧濾過器は、その内部に、気体充填部と溶液充填部とを有し、気体充填部及び/又は溶液充填部に圧力をかけて濾液を取り出すものであることが好ましい。加圧濾過器には、濾過器内を溶液のみで満たし、濾過する溶液を投入する口から圧力をかけ、濾過器の該溶液投入口と同じ側に設けられた濾液排出口から濾液を排出する形態のものがあり、例えば、濾過器の溶液投入口と濾液排出口とがともに濾過器の上側に設けられた濾過器がある。そのような濾過器の一例を図3に示す。図3に示す濾過器は、濾過する溶液を濾過器の上部から投入し、下向きに加圧して、加圧濾過器の上部から濾液を排出させる形態となっており、加圧方向と濾液排出方向とが逆になっている。また、溶液の投入口と濾液排出口が濾過器の同じ側にあることから、濾過器内部で濾過液が循環するような流れとなり、濾過器内部で塩が溶液中に舞った状態になりやすい。その結果、濾過面9の全てに均等に濾物層4が堆積することになってしまい、濾過が進むと、一定の濾過性を確保することが難しくなる場合がある。本発明の濾過器は、このような形態のものではないもの、すなわち、圧力をかける側と異なる側に濾液排出口を設けたものであることが好ましい。例えば、右側から圧力をかける場合には、濾過器の中心よりも左側に濾液排出口を設けた形態のものであることが好ましい。このようにすることで、濾過器内部で塩が溶液中に舞うのを抑制し、濾物の堆積が少ない濾過面を確保することが可能となる。
【0020】
本発明において用いられる加圧濾過器は、加圧濾過器の上部から濾過溶液を投入し、加圧濾過器の下部から濾液を排出するものであることが好ましい。このような形態とすることにより、加圧する圧力の向きを重力の方向と同じ鉛直下向きにすることができ、重力とは異なる方向に加圧する場合よりも低い圧力で、加圧濾過を行うことが可能となる。
本発明において用いられる加圧濾過器としては、特に限定されないが、例えば、加圧濾過器 KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製)を利用することができる。その外観を図4に示す。
なお、加圧濾過器 KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製)は、濾過容器の周囲にジャケットが設けられており、ジャケット内に加熱媒体又は冷却媒体を供給することで、濾過器内を加温したり冷却したりしながら加圧濾過を行うことも可能である。
【0021】
次に、本発明の脱塩重縮合反応を行う工程について説明する。本発明の脱塩重縮合反応は、金属塩触媒の存在下に行われるものである。該金属塩触媒は、該反応を安定的にかつ効率よく行うことができるものであれば、特に制限されないが、該金属塩触媒の粒子の大きさは、篩法による粒子径測定で目開き45μmの篩を通過する量が50質量%以上であることが好ましい。触媒としてこのような微粉を用いることによって、脱塩重縮合反応の効率がよくなり、脱塩重縮合系重合体の製造を円滑に進めることが可能となる。ただし、該反応後の精製工程に濾過を行うと、生成した重合体が触媒等の微粉粒子表面に密着し粒子同士を結着させ、締まった膜状生成物が形成され、その膜状形成物が濾過膜上を覆うことで濾過が阻害されることとなり、濾過に非常に時間がかかったり、目詰まり状態になったりしてしまう。これに対して、濾過に本発明において用いられる加圧濾過器を用いることで、上述の通り、精製工程が短時間で簡易に行われることとなる。したがって、該金属塩触媒の粒子の大きさが、篩法による粒子径測定で目開き45μmの篩を通過する量が50質量%以上であった場合に、本発明の効果がより顕著に表れることとなる。
該金属塩触媒の粒子の大きさとしては、篩法による粒度測定で目開き45μmの篩を通過する量が65質量%以上であるものがより好ましい。更に好ましくは、80質量%以上である。
なお、金属塩触媒の粒子の嵩比重は、粒子の大きさに比例することから、粒子の大きさを好ましい範囲とすることにより、粒子の嵩比重も好ましい範囲とすることができる。
【0022】
また、本発明の脱塩重縮合反応において用いる金属塩触媒の比表面積は、0.8m/g以上であることが好ましい。比表面積が0.8m/g以上であるものを用いることによって、脱塩重縮合反応を高い効率で行うことができる。金属塩触媒の比表面積は、1.0m/g以上であることがより好ましい。更に好ましくは1.1m/g以上である。より大きな比表面積をもった金属塩触媒を用いることによって、触媒と反応原料との接触機会がより増加し、更に高い効率で脱塩重縮合反応を行うことが可能となる。比表面積が0.8m/gより小さい場合、触媒量を増やさなければ脱塩重縮合反応を充分に高い効率で行うことができないことになるが、反応の効率が同程度であるならば、反応後の濾過工程を考慮すると、触媒の量はより少なくて済む方が好ましい。
上記比表面積は、一般的にBET法と云われる方法を用いて測定できる。触媒として用いられる金属塩を真空で温度をかけて乾燥し、その窒素吸着量を測定することによって求めることができる。
【0023】
すなわち、本発明の脱塩重縮合系重合体の製造方法において、脱塩重縮合反応は、金属塩触媒の存在下に行われ、該金属塩触媒は、篩法による粒子径測定で目開き45μmの篩を通過する量が50質量%以上であり、かつ、比表面積が0.8m/g以上のものであることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法に用いられる金属塩触媒は、脱塩重縮合反応により生成する酸を補集することにより脱塩重縮合反応を促進させる作用を有するものであることが好ましい。そのような作用を有する金属塩触媒としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム、フッ化カリウム等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、炭酸カリウムを用いることが好ましい。
【0025】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において用いられる金属塩触媒の使用量としては、単量体成分が有する反応性官能基に対して0.8〜4当量が好ましい。より好ましくは、0.9〜3.0当量である。更に好ましくは1.0〜2.0当量である。これにより、脱塩重縮合反応が急激に進行することを防ぐことができ、所望の分子量を有する重合体を容易に得ることができる等の効果に優れることになる。
【0026】
上記単量体成分が有する反応性官能基とは、脱塩重縮合反応の原料として用いられる単量体が有する官能基であって、金属塩触媒によって架橋反応を生じる求核種を意味するものである。反応性官能基は、水酸基、チオール基の何れかであることが好ましい。更に好ましくは、水酸基である。
なお、単量体成分が有する反応性官能基に対して0.8〜4当量の触媒を用いるとは、例えば炭酸カリウムを触媒に用いる場合、炭酸カリウムは2個のカリウムイオンを有するので、2官能の単量体(例えば、ビスフェノール)1モルに対して、0.8〜4モルの炭酸カリウムを用いることである。
【0027】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において製造される重合体は、重量平均分子量が10000以上であることが好ましい。製造される重合体の重量平均分子量が10000以上である場合、脱塩重縮合反応後の精製工程として濾過を行うと、微粉化した金属塩触媒と製造される重合体とによる膜状物質の形成がより顕著に見られることになる。したがって、重量平均分子量が10000以上である重合体を製造する場合に、本発明の製造方法の効果がより顕著に発揮されることになる。また、分子量がある程度高くないと、重合体を用いる用途において膜又は成形体としての性能が充分ではなくなる恐れがある。
上記重量平均分子量は、より好ましくは、20000以上である。この場合、重合体の自立膜としての性能がより向上し、可撓性、耐ワレ性といった性能面で有利なものとなる。
また、重量平均分子量が300000を超えると、ポリマー溶液の粘度が高くなり取り扱いが難しくなるため、製造される重合体の重量平均分子量は、300000以下であることが好ましい。より好ましくは、200000以下である。
上記重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;テトラヒドロフラン)によって測定することができる。使用カラム等のその他の測定条件は、本願明細書の実施例及び比較例に用いられているものを用いることが好適である。
【0028】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において原料として用いられる単量体としては、脱塩重縮合反応の原料となるものであれば特に制限されず、ハロゲン原子や水酸基、チオール基、メルカプト基、及び、アミノ基等の置換基を2つ以上有する化合物の中から、脱塩重縮合反応が起こる単量体を適宜選択して1種類、又は、2種類以上を組み合わせて用いることができる。1種類の単量体のみで脱塩重縮合反応が起こる単量体としては、例えば、1つの分子中にハロゲン元素と水酸基との両方を置換基として有する化合物、1つの分子中にハロゲン元素とチオール基との両方を置換基として有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、1分子中に同一の置換基を2つ以上有する単量体同士の2種類以上の組み合わせとしては、例えば、臭素、塩素、フッ素等ハロゲン元素を2つ以上有する化合物と2つ以上の水酸基を有する化合物の組み合わせ、ハロゲン元素を2つ以上有する化合物とチオール基を2つ以上有する化合物との組み合わせ等が挙げられる。
なお、本発明の重合体の製造によって得られる重合体は、得られる重合体の重合鎖の少なくとも一部が脱塩重縮合反応により形成されるものである限り、重合鎖の他の部分が脱塩重縮合反応以外の反応により形成されるものであってもよい。すなわち、本発明の重合体の製造方法に原料として用いられる単量体は、脱塩重縮合反応により重合鎖を形成する単量体を含むものである限り、その他の単量体を含んでいてもよい。
【0029】
上記1種類の単量体のみで脱塩重縮合反応が起こる単量体としては、4−ヒドロキシ−4’−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(HPDE)等の1つの分子中にハロゲン元素と水酸基との両方を置換基として有する化合物等が挙げられる。1分子に同一の置換基を2つ以上有する単量体同士を組み合わせて脱塩重縮合反応を行う場合に用いられる単量体としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BisAF)、2,2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BisA)等のビスフェノール類等の2つ以上の水酸基を有する化合物;4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(BPDE)、4−フェノキシ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル(PTFBN)、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル(BPDEs)、2,2−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA)等の2つ以上のハロゲン原子を有する化合物等が挙げられる。
例えば、1分子に同一の置換基を2つ以上有する単量体同士を組み合わせて脱塩重縮合反応を行う場合、単量体の有効利用の観点から、1つの単量体1モルに対して、他の単量体0.8〜1.2モルの比率で用いることが好ましい。より好ましくは、1つの単量体1モルに対して他の単量体0.9〜1.1モルの比率で用いることである。
【0030】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において製造される重合体は、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルアミド、及び、ポリエーテルエステルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
なお、上記ポリエーテルスルホンは、分子中にエーテル結合とスルホン酸基とを少なくとも1つずつ有する化合物であればよく、エーテル結合とスルホン酸基との比率は特に制限されない。上記ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルアミド、及び、ポリエーテルエステルについても同様に、分子中のエーテル結合とケトン基との比率、エーテル結合とニトリル基との比率、エーテル結合とアミド基との比率、及び、エーテル結合とエステル結合との比率は、特に制限されない。
また本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において製造される重合体は、フッ素含有重合体であることが好ましい。フッ素含有重合体とは、フッ素原子を必須とする重合体である。
【0031】
更に本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において製造される重合体は、フッ素含有芳香族系重合体であることが好ましい。フッ素含有芳香族系重合体とは、芳香環を有する重合体であって、フッ素原子を必須とする重合体である。
したがって、本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において製造される重合体としては、芳香環を有しフッ素原子を必須とするポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルアミド、及び、ポリエーテルエステルからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、フッ素含有ポリアリールエーテル系、及び、フッ素含有ポリアリールスルフィド系のものが更に好ましい。
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法においては、これらの重合体が製造されることとなるように、上述した単量体の中から、適宜単量体を選択して脱塩重縮合反応が行われることが好ましい。
【0032】
上記フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体は、フッ素原子を必須とし、芳香環及びエーテル結合を有する重合体であり、上記フッ素含有ポリアリールスルフィド系重合体は、フッ素原子を必須とし、芳香環及びチオール結合を有する重合体であって、共にその結合順序やフッ素原子の結合している位置には特に制限はないが、繰り返し単位における芳香環の少なくとも1つにフッ素原子を有する重合体であることが好ましい。
【0033】
上記のものの中でも、本発明のフッ素含有芳香族系重合体は、下記式(1);
【0034】
【化1】

【0035】
(式中、Zは、同一若しくは異なって、2価の有機基又は直接結合を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Yは、同一若しくは異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体である、及び/又は、下記式(2);
【0036】
【化2】

【0037】
(式中、Rは、同一又は異なって、2価の有機基である。Rは、同一若しくは異なって、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、又は、炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表し、これらは置換基を有していてもよい。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であることがより好ましい。
これらの繰り返し単位は、同一であっても異なっていてもよく、異なる繰り返し単位により構成される場合には、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体がフッ素含有ポリアリールエーテルケトン構造を含む繰り返し単位、フッ素含有ポリアリールスルフィド構造を含む繰り返し単位の両方を有するものである場合、両者の構成比率は特に制限されない。
【0038】
上記一般式(1)中、Zは、2価の有機基又はベンゼン環が直接結合していることを表す。2価の有機基として、C、S、N及び/又はO原子を含むことが好ましい。より好ましくはカルボニル基、スルフィド基、スルホン基、複素環を含有する2価の有機基であり、更に好ましくは下記式(3−1)〜(3−10)である。これらの中で(3−5)〜(3〜7)が特に好ましい。
【0039】
【化3】

【0040】
Xは、2価の有機基であるが、例えば下記式(4−1)〜(4−19)であることが好ましい。
【0041】
【化4】

【0042】
上記式(4−1)〜(4−19)中、Y、Y、Y及びYにおける置換基として、例えば、水素、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基が好適である。より好適なものとしては、炭素原子数1〜30であって、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基である。
【0043】
上記Xとしてより好ましくは、下記(5−1)〜(5−20)であり、更に好ましくは下記(5−6)、(5−7)、(5−15)、(5−20)である。
【0044】
【化5】

【0045】
上記式(1)中、Rは上記Xと同様である。なお、Rが上記Xと同様であるとは、Rと上記Xとが同じ基であることが好ましいことを意味するのではない。Rと上記Xとは、同一又は異なっていてもよい。
【0046】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において製造される重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、5以下であることが好ましい。より好ましくは4以下である。
【0047】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において脱塩重縮合反応の溶媒として非プロトン性極性溶媒を用いることは、本発明の好適な実施形態の1つである。非プロトン性極性溶媒は、一般に非プロトン性極性溶媒に分類される溶媒であれば特に制限されないが、水への溶解度が10質量%以上のものであるほうが好ましい。水への溶解度が10質量%以上の非プロトン性極性溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が好ましい。また、水と任意に混合するものは、濾過工程の後に行う抽出の際に影響があるので、10質量%以上溶解する一方で、水と任意には混合しない溶液、例えば、MEK等がより好ましい。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0048】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において脱水剤としてモレキュラーシーブを使用することは、本発明の好適な実施形態の1つである。モレキュラーシーブの使用量は、脱塩重縮合反応で発生する水(単量体と同モル当量)の5〜50倍重量であることが好ましい。より好ましくは8〜30倍重量であり、更に好ましくは10〜20倍重量である。
【0049】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において脱塩重縮合反応の反応温度は、任意である。通常、脱塩重縮合を用いて作製するフッ素を含有しない重合体の場合、通常系中の反応温度を100℃以上の高温で行うか、又は、共沸溶媒を用いて脱水を行う。これに対して、本発明における脱塩重縮合工程は100℃以下で行う場合に特に効果を発現する。特に、フッ素含有芳香族系重合体を作製する場合には、0〜100℃であることが好ましい。反応温度が0℃より低い場合、反応が進みにくく分子量が上がりにくい。また、100℃より大きい場合、重合体がゲル化するおそれがある。反応温度は、好ましくは40〜95℃であり、より好ましくは60〜90℃である。100℃以下で行う場合、水が系中に存在しやすく、反応を円滑に進める為にモレキュラーシーブのような脱水剤が必須となる。
【0050】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において脱塩重縮合反応の反応時間は、2〜10時間とすることが好ましい。
反応時間が10時間より長い場合、例えば4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテルのように5個のフッ素原子を有する芳香環において、ベンゾイル基の4位のフッ素だけでなくベンゾイル基の2位のフッ素も反応可能な状態に置かれていることから、重合体がゲルするおそれがある。反応時間としてより好ましくは4〜8時間である。
【0051】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法においては、重合濃度が10質量%以上であることが好ましい。なお、上記重合濃度は、触媒及びモレキュラーシーブを除いた固形分濃度である。これより低い場合、重合効率が悪く、また最終的に得られる生産性も低くなる。より好ましくは15質量%以上である。上記製造方法は、攪拌しながら脱塩重縮合反応を行うことにより、このような重合濃度であっても、各単量体成分の残存量を少なくすることができ、また、所望の分子量を有する重合体を得ることができる。
【0052】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において、脱塩重縮合反応し濾過を行った後、非極性溶媒を用いて抽出を行う工程を行うことは、本発明の好ましい実施形態のひとつである。電子材料や光学材料用途では純度を重視する為、濾過後に抽出を行うことで充分な効果をえることができる。非極性溶媒としては、任意に水と混和しないものであれば特に制限されず、溶媒は1種用いてもよく、2種以上用いてもよい。非極性溶媒としては、例えば、エステル系、芳香族系、ケトン系が好ましい。また、非極性溶媒としては、上述したものの中でも、沸点が150℃以下の溶媒が好ましい。非極性溶媒が150℃以上になると、重合体から溶媒を完全に除くことに時間が掛かったり、溶媒置換が困難となったりする。より好ましくは、130℃以下のものであり、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、メチルイソブチルケトン(MIBK)等を用いることができる。更に好ましくは、酢酸エチル、酢酸ブチル、MIBKである。
沸点の低い溶媒を抽出溶媒に選ぶことにより、それ以上の沸点の溶媒への溶媒置換が容易となるため、溶媒を選択できる。抽出に用いる非極性溶媒の使用量としては、重合溶媒の2倍以上であることが好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0053】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法において、パドル翼を備えた重合槽中で単量体成分を含む反応溶液を攪拌しながら脱塩重縮合を行う工程を含むものであることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
本発明の製造方法が上記実施形態を有すると、脱塩触媒として用いる金属塩触媒が重合槽内で分散した状態が維持され、有効触媒量が高く維持されることになり、脱塩重縮合反応を更に効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法は、上述の構成よりなり、脱塩重縮合反応を安定的にかつ効率よく行って、所望の分子量を有する重合体を得ることができる。また、脱塩重縮合反応後の重合体の精製工程において、特定の加圧濾過器を用いて濾過を行うことにより、濾過がスムーズに行われることとなるために、精製工程を短時間で簡易に行うことができる製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明において用いられる加圧濾過器の内部構造の一例を示す図である。
【図2】図2(1)は、加圧濾過器の内部に濾過袋を設置した様子を、加圧濾過器の上部を取り除いて示した図である。図2(2)は、加圧濾過器の内部に濾過袋を設置した様子を、加圧濾過器の胴体部を取り除いて示した図である。
【図3】濾過する溶液の投入口と濾液の排出口が同じ側に設けられた加圧濾過器の内部構造の一例を示す図である。
【図4】加圧濾過器の一例の外観を示す図である。
【図5】本発明において用いられる加圧濾過器を用いずに、通常の加圧濾過器を用いて加圧濾過を行った際の濾過の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」意味するものとする。
【0057】
下記実施例及び比較例では、下記の装置を用いて測定を行った。
<測定装置>
(1)炭酸カリウムの粒子径測定
炭酸カリウム 50gを、300メッシュ(アサダメッシュ社製 目開き約45μm)を用いて篩にかけて、篩を通過した炭酸カリウム粒子の重量を測定した。
(2)比表面積測定
比表面積計NOVA2000(QUANTACHROME CORPORATION製)を用いて測定した。具体的には、200℃で真空乾燥した炭酸カリウムをサンプルとし、窒素吸着量を測定することで比表面積を求めた。
(3)嵩比重
50mlのメスシリンダーに重量を測定した炭酸カリウムを約30ml投入し、30回軽く床にタップさせた。炭酸カリウムの重量をタップ後の容量で除することにより、嵩比重を求めた。
(4)分子量測定
高速GPC装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)を用いて測定した。
測定条件:展開溶媒 THF
カラム TSK−gel GMHXL ×2本
溶離液流量 1ml/min
カラム温度 40℃
【0058】
実施例1
BPDE−BisAF系 炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)を用いた場合
BPDE 150.7g(270mmol)、BisAF 90.8g(270mmol)、モレキュラーシーブス3A 20×30 70g、MEK 650gを混合した。BPDE及びBisAFの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)41.0g(297mmol)を投入して79℃で重合を5時間行った。得られた重合体の分子量Mwは72,000であった。その後、MIBK 700gを投入した。
冷却後、加圧濾過器(KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製))の内部に500メッシュ(目開き約25μm)の金網で作製した袋を設置し、この内部に重合溶液を投入し、圧力0.03MPaで加圧濾過(濾過面積φ142mm)を行った。装置の都合上、2回に分けて濾過器に投入し、その際の濾過時間(2回合計)を表に示した。濾過後の溶液を、MIBKと水を用いて分液洗浄し、MIBKを濃縮することでポリマー溶液を得た。
【0059】
比較例1
BPDE−BisAF系 炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)を用いた場合
BPDE 150.7g(270mmol)、BisAF 90.8g(270mmol)、モレキュラーシーブス3A 20×30 70g、MEK 650gを混合した。BPDE及びBisAFの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)41.0g(297mmol)を投入して79℃で重合を5時間行った。得られた重合体の分子量Mwは75,000であった。その後、MIBK 700gを投入した。
冷却後、この溶液を500メッシュの金網を用いて圧力0.03MPaで加圧濾過(濾過器(KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製))、濾過面積φ142mm)を行った。装置の都合上、2回に分けて濾過器に投入した。2回目の濾過の途中で1.5時間経過したので、作業を中断した。
【0060】
実施例2
BPDE−BPF系 炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)を用いた場合
BPDE 111.7g(200mmol)、BPF 70.1g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A 20×30 60g、MEK800gを混合した。BPDE及びBPFの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)44.2g(320mmol)を投入して79℃で重合を6時間行った。得られた重合体の分子量Mwは106,000であった。その後、MIBK600gを投入した。
冷却後、加圧濾過器(KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製))の内部に500メッシュの金網で作製した袋を設置し、この内部に重合溶液を投入し、圧力0.03MPaで加圧濾過(濾過面積φ142mm)を行った。装置の都合上、2回に分けて濾過器に投入し、その際の濾過時間(2回合計)を表に示した。濾過後の溶液を、MIBKと水を用いて分液洗浄し、MIBKを濃縮することでポリマー溶液を得た。
【0061】
比較例2
BPDE−BPF系 炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)を用いた場合
BPDE 111.7g(200mmol)、BPF 70.1g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A 20×30 60g、MEK 800gを混合した。BPDE及びBPFの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)44.2g(320mmol)を投入して79℃で重合を6時間行った。得られた重合体の分子量Mwは104,000であった。その後、MIBK 600gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網を用いて、圧力0.03MPaで加圧濾過(濾過器(KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製))、濾過面積φ142mm)を行った。装置の都合上、2回に分けて濾過器に投入した。しかし、2回目の投入後、目詰まりしており作業を中断した。
【0062】
比較例3
BPDE−BPF系 炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)、濾過時ビーズ使用の場合
BPDE 111.7g(200mmol)、BPF 70.1g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A 20×30 60g、MEK 800gを混合した。BPDE及びBPFの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)44.2g(320mmol)を投入して79℃で重合を6時間行った。得られた重合体の分子量Mwは100,000であった。その後、MIBK600gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網の上にφ1mmのガラスビーズを約1cm程度敷き詰めた加圧濾過器(KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製))を用いて、圧力0.03MPaで加圧濾過(濾過面積φ142mm)を行った。装置の都合上、2回に分けて濾過器に投入した。その際の濾過時間(2回合計)を表に示した。濾過後の溶液を、MIBKと水を用いて分液洗浄し、MIBKを濃縮することでポリマー溶液を得た。
【0063】
比較例4
BPDE−BPF系 炭酸カリウムFG(旭硝子社製)使用の場合
BPDE 111.7g(200mmol)、BPF 70.1g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A 20×30 60g、MEK800gを混合した。BPDE及びBPFの溶解を確認後、炭酸カリウムFG(旭硝子社製)77.4g(560mmol)を投入して79℃で重合を9.5時間行った。得られた重合体の分子量Mwは105,000であった。その後、MIBK 600gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網を用いて、圧力0.03MPaで加圧濾過(濾過器(KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製))、濾過面積φ142mm)を行った。装置の都合上、2回に分けて濾過器に投入し2回目の途中で2時間を経過したので作業を中断した。
【0064】
実施例3
BPDE−BPF系 炭酸カリウムFG(旭硝子社製)使用の場合
BPDE 111.7g(200mmol)、BPF70.1g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A 20×30 60g、MEK800gを混合した。BPDE及びBPFの溶解を確認後、炭酸カリウムFG(旭硝子社製)77.4g(560mmol)を投入して79℃で重合を9時間行った。得られた重合体の分子量Mwは101,000であった。その後、MIBK600gを投入した。
冷却後、加圧濾過器(KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製))の内部に500メッシュの金網で作製した袋を設置し、この内部に重合溶液を投入し、圧力0.03MPaで加圧濾過(濾過面積φ142mm)を行った。装置の都合上、2回に分けて濾過器に投入し、その際の濾過時間(2回合計)を表に示した。濾過後の溶液を、MIBKと水を用いて分液洗浄し、MIBKを濃縮することでポリマー溶液を得た。
【0065】
実施例4
BPDEs−BisAF系 炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)を用いた場合
BPDEs(4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル)118.0g(200mmol)、BisAF 67.3g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A 20×30 60g、MEK 720gを混合した。BPDEs及びBisAFの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製)29.0g(21mmol)を投入して79℃で重合を4時間行った。得られた重合体の分子量Mwは70,000であった。その後、MIBK650gを投入した。
冷却後、加圧濾過器(KST−142−JA(商品名、アドバンテック社製))の内部に500メッシュの金網で作製した袋を設置し、この内部に重合溶液を投入し、圧力0.03MPaで加圧濾過(濾過面積φ142mm)を行った。装置の都合上、2回に分けて濾過器に授入し、その際の濾過時間(2回合計)を表に示した。濾過後の溶液を、MIBKと水を用いて分液洗浄し、MIBKを濃縮することでポリマー溶液を得た。
【0066】
これらの結果を下記表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の結果より、比較例1及び2では、加圧濾過を行う際に、加圧濾過器の内部に濾過袋を設置せずに、通常の加圧濾過器を用いて加圧濾過を行ったが、それぞれ、濾過に長時間を要することとなったり、目詰まりを起こし濾過不能となったりした。また、比較例3では、濾液排出面の上にガラスビーズを敷き詰め、濾物層がある程度粗な状態になるようにして、加圧濾過を行ったが、濾過に長時間を要することとなった。それに対して、実施例1〜4では、加圧濾過を行う際に、加圧濾過器の内部に濾過袋を設置して加圧濾過を行ったために、短時間で濾過工程を終了することが可能であった。また、実施例3及び比較例4では、金属塩触媒として、粒子径が大きく比表面積の大きい炭酸カリウムを用いて脱塩重縮合系重合体の製造を行った。その場合、粒子径が小さく比表面積の大きい炭酸カリウムを用いた場合に比べ、重合時間が長くなった。しかし、粒子径の大きい触媒を用いて重合体を製造した場合でも、反応後の精製工程として、加圧濾過器の内部に濾過袋を設置せずに、通常の加圧濾過器を用いて加圧濾過を行うと、濾過に長時間を要することとなった。
上記のように、重合反応後の精製工程として、加圧濾過を行う際に、加圧濾過器の内部に濾過袋を設置して加圧濾過を行うことで、濾過工程を短時間に終了させることが可能となった。
【符号の説明】
【0069】
1:脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液
2:濾液
3:濾過液
4:濾物層
5:支持板
6:濾液排出面
7:濾液排出面に対して垂直な向きの濾過面
8:濾液排出面と同じ向きの濾過面
9:濾過面
10:加圧弁
11:開圧弁(安全弁)
12:ジャケット用送液口
13:液出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩触媒の存在下に脱塩重縮合反応を行って脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液を得る工程を含む脱塩重縮合系重合体の製造方法であって、
該製造方法は、加圧濾過器を用いて脱塩重縮合系重合体と塩とを含有する溶液から塩を除去する工程を含み、該加圧濾過器は、その内部が、濾過面を有する仕切りによって、少なくとも2つの領域に分けられており、該濾過面のうち少なくとも一部が濾液排出面と異なる向きに設けられていることを特徴とする脱塩重縮合系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記濾過面を有する仕切りは、濾過槽又は濾過袋であることを特徴とする請求項1に記載の脱塩重縮合系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記加圧濾過器は、その内部に、気体充填部と溶液充填部とを有し、気体充填部及び/又は溶液充填部に圧力をかけて濾液を取り出すものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱塩重縮合系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属塩触媒は、篩法による粒子径測定で目開き45μmの篩を通過する量が50質量%以上であり、かつ、比表面積が0.8m/g以上のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脱塩重縮合系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記脱塩重縮合反応工程は、非プロトン性極性溶媒を使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脱塩重縮合系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記脱塩重縮合系重合体は、フッ素含有芳香族系重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の脱塩重縮合系重合体の製造方法。
【請求項7】
前記フッ素含有芳香族系重合体は、下記一般式(1):
【化1】

(式中、Zは、同一若しくは異なって、2価の有機基又は直接結合を表す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。R1は、同一又は異なって、2価の有機基である。Yは、同一若しくは異なって、酸素原子又は硫黄原子を表す。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体である、及び/又は、下記一般式(2):
【化2】

(式中、R1は、同一又は異なって、2価の有機基である。R2は、同一若しくは異なって、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、又は、炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表し、これらは置換基を有していてもよい。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の脱塩重縮合系重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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