説明

脱泡装置

【課題】本発明は、簡単な構造によって良好なメンテナンス性を有しながら、確実な消泡効果を発揮する脱泡装置を提供するものである。
【解決手段】液体を導入し大きな気泡を除去するための液体導入槽と、超音波振動によって脱泡処理を行う脱泡処理槽を少なくとも有し、液体導入槽には、液体を導入する液体導入配管と、液体を脱泡処理槽に移送する脱泡処理槽移送配管と、余分な液体を導入先に戻す第1のリターン配管が接続されており、脱泡処理槽には、前記脱泡処理槽移送配管と、脱泡処理の完了した液体を排出する排出配管と、余分な液体を導入先に戻す第2のリターン配管が接続されており、第1のリターン配管は、液体導入槽の上部に開口しており、脱泡処理槽移送配管は、第1のリターン配管より低位置に開口しており、第2のリターン配管は、脱泡処理槽の上部に開口しており、排出配管は、脱泡処理槽の下部に開口していることを特徴とする脱泡装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種塗工機や印刷機で使用される、塗工材料やインキ等に含まれる気泡を除去するために用いられる脱泡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工機や印刷機で使用される塗工材料やインキ(以下単にインキと称する)としては、非水系、水系など多くの種類のインキがあり、種類によっては発泡しやすいものが存在する。特に、近年環境面に配慮された水系のインキにおいては、泡立ちやすく、かつ一度発生した泡が消えにくいものが多いという問題がある。
また、非水系のインキにおいても発泡しやすいインキが存在する。
【0003】
印刷機において、インキが発泡した場合の弊害としては、インキの転移不良による印刷抜けや、ドクターすじ、印刷汚れ等、印刷仕上がり品質に及ぼす直接的な弊害の他、インキ粘度コントローラを使用した場合に、インキ粘度測定装置が、インキ中の泡の影響を受けるため、粘度が実際よりも低く測定されてしまい、その結果、本来ならばインキ受けから蒸発する溶剤分を供給しなければならない場合においても、溶剤が添加されないといった不具合が生じる。
【0004】
これを解決するために、材料面からの対策として、インキに消泡剤を添加するという方法が用いられるが、消泡剤を添加することで、インキの発色の仕方、ブロッキング性などが悪影響を受けるために、消泡剤を添加することができない場合が存在する。
【0005】
この場合には、装置面からの対策として、例えばインキパンからインキ受けまでの液面高さを揃えることにより、インキが落下する際の発泡を抑制したり、インキの攪拌をしないようにして泡が発生しないようにするなどの対策を採る方法がある。
【0006】
しかしながら、インキの構成材料として溶解しない微粒子を用いるインキ、例えば滑り性を持たせるためにフィラーを添加したようなインキなどについては、たとえインキが泡立ちやすかったとしても、液成分が均一になるようにするために、攪拌もある程度は、行わなければならない。
【0007】
これらの問題を解決する方法として、特許文献1には、泡捕捉部材を用いて泡を捕捉することにより液中の気泡を除去するという消泡装置が提案されている。
この装置によれば、インキ中の泡を除去することができるが、定期的な泡捕捉部材の交換が必須になることと、インキの種類を変更した時には異なる成分の混入を防ぐために泡捕捉部材をそれぞれのインキ専用のものに交換しなければならないという必要性があり、メンテナンス性とコストの両面において問題がある。
【0008】
特にインキとして、染料を含有するようなインキを用いた場合には、装置内部に染料が多数付着するため、泡捕捉部材の交換時において作業者に汚れが付着する可能性が無視できないものである。
【0009】
特許文献2に記載された超音波消泡装置は、発泡性液体を循環使用する際にタンク内に発生した泡に、空中から超音波を照射して消泡するものであり、構造も簡単であるが、この方法では原理的に完全な消泡は困難であり、特に印刷作業時や粘度測定時においては問題となる微細な気泡までを完全に除去することはできなかった。
【特許文献1】特開2006-320800号公報
【特許文献2】特開平5-317606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の技術における上記の問題点を解決し、簡単な構造によって良好なメンテナンス性を有しながら、確実な消泡効果を発揮する脱泡装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、液体中の気泡を除去するための脱泡装置であって、気泡を含んだ液体を導入し大きな気泡を除去するための液体導入槽と、超音波振動によって脱泡処理を行う脱泡処理槽を少なくとも有し、液体導入槽には、液体を導入する液体導入配管と、大きな気泡が除去された液体を脱泡処理槽に移送する脱泡処理槽移送配管と、大きな気泡を含む余分な液体を導入先に戻す第1のリターン配管が接続されており、脱泡処理槽には、前記脱泡処理槽移送配管と、脱泡処理の完了した液体を排出する排出配管と、余分な液体を導入先に戻す第2のリターン配管が接続されており、第1のリターン配管は、液体導入槽の上部に開口しており、脱泡処理槽移送配管は、第1のリターン配管より低位置に開口しており、第2のリターン配管は、脱泡処理槽の上部に開口しており、排出配管は、脱泡処理槽の下部に開口していることを特徴とする脱泡装置である。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記脱泡処理槽が、細孔を有する、垂直に設置された1枚以上の仕切り板で区分されていることを特徴とする請求項1に記載の脱泡装置である。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記排出配管が、粘度コントローラに接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の脱泡装置である。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記液体が感熱転写記録媒体用インキであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱泡装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の脱泡装置は、気泡を含んだ液体を導入し大きな気泡を除去するための液体導入槽と、超音波振動によって脱泡処理を行う脱泡処理槽を少なくとも有する構造であるから、基本的に槽が2つという簡単な構造であり、またポンプも1つで済むため、遠心分離機などを用いた脱泡装置と比較した場合、安価に作成することができる。また、脱泡除去のために、フィルターなどを使わないので、消耗品が存在しない。よって、ランニングコストを抑えることができる。また、消耗品がないため、インキ種類の変更などに伴う装置の洗浄においては、洗浄液を通じるだけでよい。したがって、メンテナンス性に優れている。
【0016】
液体導入槽には、液体を導入する液体導入配管と、大きな気泡が除去された液体を脱泡処理槽に移送する脱泡処理槽移送配管と、大きな気泡を含む余分な液体を導入先に戻す第1のリターン配管が接続されており、脱泡処理槽には、前記脱泡処理槽移送配管と、脱泡処理の完了した液体を排出する排出配管と、余分な液体を導入先に戻す第2のリターン配管が接続されており、第1のリターン配管は、液体導入槽の上部に開口しており、脱泡処理槽移送配管は、第1のリターン配管より低位置に開口しており、第2のリターン配管は、脱泡処理槽の上部に開口しており、排出配管は、脱泡処理槽の下部に開口していることを特徴とする脱泡装置であるから、液体導入配管より導入された液体に含まれる大きな気泡は、液体導入槽の上部に上昇して第1のリターン配管によって導入先に戻され、大きな気泡が除去された液体のみが脱泡処理槽に移送され、液体に含まれる細かい気泡は、超音波振動によって効率よく除去され、上部に集まる。この気泡を含んだ液体は、第2のリターン配管によって導入先に戻されるため、排出配管からは、気泡が完全に除去された液体のみが排出される。
【0017】
また前記脱泡処理槽が、細孔を有する、垂直に設置された1枚以上の仕切り板で区分されている場合には、脱泡処理槽内の液体が不必要に攪拌されることがなく、超音波振動によって水面に上昇する細かい気泡は、仕切り板によって区分された区画内で上昇するので、脱泡効率がさらに良好となる。
【0018】
また前記排出配管が、粘度コントローラに接続されている場合には、粘度コントローラに供給される液体には気泡が混在しないので、液体の粘度を低く誤認することがなく、常に正確な粘度を検知するため、液体の粘度が上昇することに起因する脱泡効率の低下が生じることがない。
【0019】
また前記液体が感熱転写記録媒体用インキであり、本発明に係る脱泡装置が印刷機におけるインキ循環経路において使用される場合には、上に述べてきたような効果を最も顕著に発揮することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る脱泡装置の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明に係る脱泡装置の一実施形態を示す断面説明図である。
【0021】
本発明の脱泡装置は、図1に示すように、液体導入槽11と脱泡処理槽21を有し、液体導入槽11には、気泡を含んだ液体を導入するための液体導入配管12と、液体を脱泡処理層へ移すための脱泡処理槽移送配管13と、余分な液体を導入側へ戻すための第1のリターン配管14が接続されており、脱泡処理槽21には、超音波振動子22が設置され、脱泡処理槽移送配管13と、液を外部へ排出するための排出配管23と、余分な液体を導入側へ戻すための第2のリターン配管24が接続されている。
【0022】
以降は図1を元にして、液の流れを説明するとともに装置の説明を行う。
液体は液体を導入するための液体導入配管12を通して、液体導入槽11に溜まっていく。液がある程度溜まると、脱泡処理層21へ液体を移すための脱泡処理槽移送配管13を通じ脱泡処理槽21へ移動する。
【0023】
液体導入配管12における流量は、脱泡処理層移送配管13における最大流量よりも多く設定されている。このため定常状態においては、第1のリターン配管14からは常に液が流れるようになっている。このことにより、液体導入配管12から送られてきたインキ中に存在する大きな泡は、この第1のリターン配管14を伝わって、液体と一緒に除去される。
【0024】
なお、液体導入配管12は液体導入槽11の側面下側に取り付けられている。このことにより、液体の落ち込みがないため液体導入時に泡が立たないようになる。また、液体導入槽11は、脱泡処理槽21へ泡を含む液体が直接流れ込み、脱泡された液と混ざらないようにするために設けられている。
ついで、脱泡処理層移送配管13を通じて液体は脱泡処理槽21に溜められ、超音波振動子22から発せられた超音波により脱泡がなされる。なお、図1では液体導入槽11から脱泡処理槽21へ液体を移送する脱泡処理槽移送配管13は切り離しとなっているが、液体導入配管12の流量が多く、脱泡処理層移送配管13から流れる液体量が多い場合には、配管を脱泡処理槽21の下部まで下ろし、液の落ち込みによる再発泡を防ぐようにしても良い。
【0025】
図2は、本発明に係る脱泡装置の他の実施形態を示す断面説明図である。
本実施形態においては、脱泡処理槽21は、直径数ミリ程度の穴が無数に開いた仕切り板25によって区分されている。仕切り板25は、垂直に設置されている。このように、脱泡処理槽21を小分けすることにより、気泡が不必要に槽内を循環することなく、小区画内を上昇するので、脱泡をより効率よく行うことができる。
【0026】
超音波振動子22から発生する超音波の周波数は20KHzから3MHzまで多数ある内のいずれを用いてもよい。20kHz以下の場合は動作ノイズや、労働安全の見地から用いられない。また、3MHz以上においては、発生する超音波からインキへキャビテーションを起こすことにならないため不適である。
【0027】
超音波を用いて脱泡する機構としては、超音波を用い、インキ中の顔料や、インキ中に巻き込まれた気泡とインキの界面からキャビテーションを起こさせ、泡を大きくし、上方の液面に逃がすことを主眼としているため、より好適な周波数としては、25〜100KHzが好適である。
【0028】
また、脱泡処理槽移送配管13の流量は、排出配管23よりも多くなるように設定されているため、第2のリターン配管24には定常状態においては、液が常に流れるようになっている。
このため、超音波により凝集し、液面へ向かう気泡は、第2のリターン配管24を伝わり液体と一緒に排出される。よって脱泡処理槽21の側面にある、排出配管23からは脱泡された液が排出される。
【0029】
排出配管23を粘度コントローラに接続した場合、外部へ排出された液体は、脱泡された状態で、粘度コントローラの測定部に供給される。したがって、泡のない状態の液として正確な粘度を測定することができる。
【0030】
なお、粘度コントローラの形式としては、超音波を用いて測定する方式、流量をポンプの回転数から割り出して求める方式などあり、各々に組み合わせて脱泡装置を用いることができる。
【0031】
なお上記においては、液体としてインキの種類について特に限定をせずに記述してきたが、感熱転写記録媒体用に用いるインキの中でも、発色層を形成させるための染料とバインダーを含むインキや、サーマルヘッドの熱によって基材フィルムが変形することを防ぐためのバインダーと顔料を含むインキ、或いは色剤を熱転写した後に、色剤が経時により変色することを防ぐために用いられるインキ等に対して該脱泡装置を特に有効に用いることができる。これらのインキは、特にインキ中の微粒子に泡が巻き込まれやすいために本脱泡装置による脱泡が特に有効となる。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の脱泡装置の具体的な実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
脱泡装置として図1の構造を有する脱泡装置を、液体導入槽、脱泡処理槽各々についてSUS304を用いて作成した。
【0033】
これらの槽の容量は、この脱泡装置の直後に接続する粘度測定器が有するポンプの最大液流量(4L/min)にあわせ、液体導入層を8L、脱泡処理槽を12Lとなるように設計した。
また、液体導入配管12から供給される液量は16L/minとなるように、吐出量が16L/minのポンプ(MD-15R-N)を用いた。
【0034】
また、脱泡処理槽移送配管13の流量は、6L/min程度となるよう、配管径を調整した。本発明の脱泡装置の効果を調べるため、本発明の脱泡装置を用いた場合と用いなかった場合における、粘度コントローラの挙動及び動作について調査を行った。
ここで用いたインキは染料を含む感熱転写記録媒体用の気泡をかみやすいインキである。サンプルとなるインキの採取はインキをプロペラで攪拌しているすぐ脇の部分から液を導入した。この時、粘度コントローラが表示する粘度を記録した。
なお、粘度コントローラは、GP-10型(メイセイ社製)を用い、設定値は179とした。
また、コントローラを用いた溶剤の供給はONとし、また、測定時間内にプロペラ攪拌の強さを変化させた。
この時の粘度の挙動について測定した結果を表1に示した。粘度の単位は回/分であり、数値が大きい程、粘度が低いことを示している。
【0035】
【表1】

表1から分かるとおり、気泡をかみやすいインキを用いて測定を行った場合、比較例においてはプロペラ攪拌により発生した泡の影響を受けて、粘度が下がったように計測された。また、攪拌を弱くした際には気泡が減少したため、1分間で粘度が上がったように計測された。
一方、実施例においては、脱泡ができているために、発生した泡の影響を受けることなく安定した粘度計測値を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る脱泡装置の一実施形態を示す断面説明図である。
【図2】本発明に係る脱泡装置の他の実施形態を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0037】
11・・・液体導入槽
12・・・液体導入配管
13・・・脱泡処理槽移送配管
14・・・第1のリターン配管
21・・・脱泡処理槽
22・・・超音波振動子
23・・・排出配管
24・・・第2のリターン配管
25・・・仕切り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中の気泡を除去するための脱泡装置であって、気泡を含んだ液体を導入し大きな気泡を除去するための液体導入槽と、超音波振動によって脱泡処理を行う脱泡処理槽を少なくとも有し、液体導入槽には、液体を導入する液体導入配管と、大きな気泡が除去された液体を脱泡処理槽に移送する脱泡処理槽移送配管と、大きな気泡を含む余分な液体を導入先に戻す第1のリターン配管が接続されており、脱泡処理槽には、前記脱泡処理槽移送配管と、脱泡処理の完了した液体を排出する排出配管と、余分な液体を導入先に戻す第2のリターン配管が接続されており、第1のリターン配管は、液体導入槽の上部に開口しており、脱泡処理槽移送配管は、第1のリターン配管より低位置に開口しており、第2のリターン配管は、脱泡処理槽の上部に開口しており、排出配管は、脱泡処理槽の下部に開口していることを特徴とする脱泡装置。
【請求項2】
前記脱泡処理槽は、細孔を有する、垂直に設置された1枚以上の仕切り板で区分されていることを特徴とする請求項1に記載の脱泡装置。
【請求項3】
前記排出配管は、印刷機用粘度コントローラに接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の脱泡装置。
【請求項4】
前記液体が感熱転写記録媒体用インキであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱泡装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−285526(P2009−285526A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137696(P2008−137696)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】