説明

脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法および脱硫触媒用活性炭素繊維

【課題】脱硫効率が高く、かつ活性寿命の長い脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法および該方法により得られる脱硫触媒用活性炭素繊維を提供する。
【解決手段】低pH値に制御した金属溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、該活性炭素繊維に前記金属溶液を十分に含浸させた後、前記活性炭素繊維を洗浄し、乾燥することによって、前記活性炭素繊維の表面積を低下させることなく、触媒として使用時の金属流出量が低減された脱硫触媒用活性炭素繊維を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ゴミ焼却炉、産業廃棄物焼却炉、汚泥焼却炉等の各種焼却炉、溶融炉、ボイラ、ガスタービン、エンジンなどから排出される排ガス中に含有されるイオウ酸化物(SOx)を除去するための脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法および該方法による得られる脱硫触媒用活性炭素繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガス中のSOxを除去する装置として、活性炭素繊維に排ガス中のSOxを吸着させ、該活性炭素繊維の触媒作用を利用して排ガス中に含まれる酸素により硫黄成分を酸化させ、これを水分に吸収させて硫酸として前記活性炭素繊維から除去することが提案されている(特許文献1)。この活性炭素繊維を用いた排ガス処理装置では、排ガス中のSOxを吸着するための活性炭素繊維槽を吸着塔内に配設し、排ガスを下方から供給して活性炭素繊維の表面でSO2をSO3に酸化し、生成したSO3が塔内に供給された水と反応して、硫酸(H2SO4)を生成するようにしている。
【0003】
前記排ガス処理装置により、石炭や重油等の燃料を燃焼させるボイラからの排ガスを処理する場合を考えると、これらの排ガス量は膨大であるため、排ガス処理装置の脱硫効率の向上が必要になる。脱硫効率を上げるためには、装置を大型化するばかりでなく、触媒として用いられている活性炭素繊維自体の脱硫効率を向上させることが必要となる。
【0004】
これに対して、従来、活性炭素繊維に金属材料を添加することによって活性炭素繊維の脱硫効率を向上させる方法が提案されている(特許文献2)。この方法では、活性炭素繊維に金属材料を添加する方法は限定されておらず、例えば、金属原料を溶液にして活性炭素繊維に含浸させる方法、金属粉末を活性炭素繊維に散布等により添加する方法、熱処理時に金属または金属化合物のバルク体(固形物)とともに焼成する方法、容器や炉の部品を添加する金属から構成し、活性炭素繊維の熱処理時に繊維に金属を移行させる方法等が例示されている。この文献2では、前記活性炭素繊維への金属材料の添加方法の具体的事例として、Cr、Fe、Ag、Pt、Ir、Pd、Mn、Niの各金属の水溶液に活性炭素繊維を浸漬し、その後、窒素雰囲気中で焼成処理することにより、脱硫効率がほぼ2倍に向上した実施例が開示されている。
【0005】
また、脱硫を目的にするのではなく、大気などのガス中から窒素酸化物(NOx)を除去する目的に用いる活性炭素繊維が提案されている(特許文献3)。この活性炭素繊維には、金属銅と酸化銅とからなる銅化合物が添着されている。この活性炭素繊維の調製方法としては、銅塩の水溶液に活性炭素繊維を浸漬し、該銅塩の水溶液に塩基性水溶液を加えることにより活性炭素繊維に銅の水酸化物を添着させ、該活性炭素繊維を不活性ガスの雰囲気下で600〜800℃の温度で処理する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−347350号公報
【特許文献2】特開2004−66009号公報
【特許文献3】特開平5−103986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献2に開示の活性炭素繊維の調製方法では、金属水溶液に活性炭素繊維を浸漬し、その後、熱処理する方法が開示されているが、より詳細な処理条件が開示されておらず、単純にこの方法に従って得られた活性炭素繊維の脱硫効率には、製品ごとにバラツキが生じ、性能安定性に欠ける点がある。そのため、安定した脱硫効率特性を得ることができる改良された活性炭素繊維の調製方法が望まれる。
【0008】
また、前記特許文献3に開示の活性炭素繊維の調製方法では、酸性の銅水溶液にアルカリを加えて生成させた銅水酸化物微粒子を活性炭素繊維上に沈殿させて、前記銅水酸化物微粒子を添着するので、繊維の微小孔に銅が入り込まず、繊維の表面部分に付着した状態になり、さらに沈殿により添着させた銅水酸化物粒子が繊維の微細孔を塞ぐ場合があり、触媒に重要な要件である繊維の表面積を低下させる虞がある。これらの結果、活性炭素繊維から銅化合物粒子が剥離しやすく、添着金属による効果(この場合、脱硝効率)が比較的早期に低下してしまうことになり、また、表面積低下により脱硝効率が低下する場合もある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、金属を添着することにより脱硫効率を向上させた活性炭素繊維において、その脱硫効率をさらに向上させるとともに活性寿命の延長を図ることにある。すなわち、本発明の課題は、脱硫効率が高く、かつ活性寿命の長い脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法および該方法により得られる脱硫触媒用活性炭素繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項[1]に係る脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、低pH値に制御した金属溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、該活性炭素繊維に前記金属溶液を十分に含浸させた後、前記活性炭素繊維を洗浄し、乾燥することによって、前記活性炭素繊維の表面積を低下させることなく、触媒として使用時の金属流出量が低減された脱硫触媒用活性炭素繊維を得ることを特徴とする。
なお、前記乾燥後の活性炭素繊維は、さらに不活性雰囲気中で加熱処理することが、望ましい。この不活性雰囲気中での加熱処理(焼成)によって、付着金属の繊維への定着を増強することができる。
【0011】
本発明の請求項[2]の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、前記請求項[1]に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法において、前記金属溶液を前記活性炭素繊維に十分に含浸させた後に、前記金属溶液にアルカリを加えて該溶液中に金属化合物を析出、沈降させ、その後、前記活性炭素繊維の洗浄および乾燥を行うことによって、さらに前記活性炭素繊維に対する金属担持量を増加させることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項[3]の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、前記請求項[2]に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法において、前記金属溶液の金属含有量を調節することによって前記金属化合物の前記活性炭素繊維に対する担持量を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項[4]の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、前記請求項[1]〜[3]のいずれか1項に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法において、前記活性炭素繊維を前記金属溶液に浸漬した後、前記活性炭素繊維を浸漬したままで前記金属溶液を減圧環境下に置くことによって、前記低pH値の金属溶液を前記活性炭素繊維中に十分に含浸させることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項[5]の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、前記請求項[2]または[3]に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法において、前記金属溶液にアルカリを加えて該溶液中に金属化合物を析出、沈降させた後、前記活性炭素繊維を浸漬したままで前記金属溶液を減圧環境下に置くことによって、前記金属化合物の析出粒子の前記活性炭素繊維への添着を確実にすることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項[6]の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、前記請求項[1]〜[5]のいずれか1項に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法において、前記活性炭素繊維に担持させる金属がFeであることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項[7]は脱硫触媒用活性炭素繊維に係るもので、この脱硫触媒用活性炭素繊維は、前記請求項[1]〜[6]のいずれか一項の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法により得られたことを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項[8]は脱硫触媒用活性炭素繊維に係るもので、この脱硫触媒用活性炭素繊維は、低pH値に制御した金属溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、該活性炭素繊維に前記金属溶液を十分に含浸させた後、前記活性炭素繊維を洗浄し、乾燥することによって得られた脱硫用活性炭素繊維であって、各活性炭素繊維が有する微細孔の内面に該微細孔を閉塞することなく前記金属の非晶質微粒子が付着していることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項[9]は脱硫触媒用活性炭素繊維に係るもので、この脱硫触媒用活性炭素繊維は、低pH値に制御した金属溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、該活性炭素繊維に前記金属溶液を十分に含浸させた後、前記金属溶液にアルカリを加えて該溶液中に金属化合物を析出、沈降させ、その後、前記活性炭素繊維を洗浄し、乾燥することによって得られた脱硫用活性炭素繊維であって、各活性炭素繊維が有する微細孔の内部の少なくとも一部に前記金属の結晶性粒子が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、脱硫触媒用活性炭素繊維の脱硫効率向上と長寿命化を実現する。また、本方法によれば、金属添加で起きる活性炭素繊維の微細孔の閉塞を抑制し、該繊維が有する高い表面積を維持させることができ、それにより、脱硫触媒としての活性炭素繊維の処理性能の向上を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
前述のように、本発明に係る脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、低pH値に制御した金属溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、該活性炭素繊維に前記金属溶液を十分に含浸させた後、前記活性炭素繊維を洗浄し、乾燥することによって、前記活性炭素繊維の表面積を低下させることなく、触媒として使用時の金属流出量が低減された脱硫触媒用活性炭素繊維を得ることを特徴とする。
【0021】
本発明で用いられる活性炭素繊維としては、例えば、ピッチ系活性炭素繊維、ポリアクリロニトリル系活性炭素繊維、フェノール系活性炭素繊維、セルロース系活性炭素繊維を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明に用いる金属としては、脱硫反応および生成硫酸により劣化しにくく、酸化活性の高い金属であるCr,Mn,Feなどの元素周期律表上で3族から12族の金属元素が好ましく、その中でも(コスト)対(性能)面からFeがより好ましい。
【0023】
本発明の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法では、活性炭素繊維へ金属を担持する際に用いる金属溶液を少なくとも当初において低pH値に調整することを特徴としている。この低pH値としては、pH2以下が好ましく、この範囲に金属溶液を調整することにより、金属を完全に溶解させることができ、活性炭素繊維の多数の微細孔内面への金属の付着が可能になる。これによって、活性炭素繊維の高い表面積値を維持しつつ、金属担持による脱硫性能の向上を図ることができる。脱硫触媒に用いる活性炭素繊維において、金属担持による脱硫性能の向上は、活性炭素面と金属とが共存している部分において脱硫反応が活性化されるためであると考えられている。活性炭素繊維の径寸法は〜10μmであり、この各繊維の表面に形成されている微細孔の径寸法は〜10Åである。このような微細孔を多数有する活性炭素繊維に対して、本発明の方法では、かかる活性炭素繊維の多数の微細孔を塞ぐことなく、その内面に金属を付着させることができる。その結果、本発明方法により得られた活性炭素繊維は、脱硫反応に活性を持つ領域が大変広い面積を有することになり、その脱硫効率を大幅に向上させることができる。しかも、金属は、繊維の微細孔内に付着しているので、流出しにくく、触媒として使用している間に活性炭素繊維から流出する金属量は大幅に低減される。
【0024】
前記多数の微細孔内面への金属の付着は、前記低pH値の金属溶液を繊維の微細孔内部にまで含浸させることによって可能になるが、そのためには、浸漬時間を十分にとることも一つの手段であるが、効率的には、活性炭素繊維を浸漬したままで金属溶液を減圧下におくことによって、微細孔から気体を排除して、溶液の含浸を促進することが、好ましい。
【0025】
また、本発明の方法では、必要に応じて、中間処理工程として、金属溶液にアルカリを加えて金属化合物の析出を促進させる工程を設けてもよい。このpH調整による金属析出促進工程により、担持する金属微粒子の数と粒径を増加する方向に調節し、活性炭素繊維の表面に担持する金属の担持量を増やすことも可能である。
【0026】
さらに、本発明の方法では、前記金属溶液の金属含有量を調節することによって前記金属化合物の前記活性炭素繊維に対する担持量を制御することも、可能である。金属溶液の金属含有量の調節は、具体的には、別途濃度調製した別濃度の金属溶液中に前記金属溶液含浸後の活性炭素繊維を移すことにより実現することができる。あるいは、活性炭素繊維に十分金属溶液を含浸させた後の金属溶液を減量させることによって、実現することもできる。この場合の金属溶液の減量は、一気に行ってもよいし、少しずつ連続的に行ってもよい。
【0027】
上述の本発明に係る脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法の基本構成を、金属がFeである場合を例にとって、図面を用いて、以下にさらに説明する。
【0028】
図1に示すように、容器1内のH2S04水溶液にFe(NH3)(SO42を溶解させてpH1.5の鉄水溶液2を調製し、この鉄水溶液2中に活性炭素繊維3を浸漬する。Fe(NH3)(SO42はpH1.5という酸性溶液中で溶解させることによって完全に溶解させることができる。その結果、金属鉄を、溶液が浸入可能で、鉄イオン(Fe3+,イオン半径:0.67Å)より大きな径のものあれば、どのような微細な空間にも送り込むことができる。一旦、鉄水溶液を付着させることができれば、その後、乾燥処理を行うことにより、その微細空間に鉄化合物を付着させることができる。
【0029】
前述の微細空間である活性炭素繊維3の多数の微細孔に鉄水溶液2を十分に浸入させるために、次に、図2に示すように、前記鉄水溶液2と活性炭素繊維3とを満たした容器1を減圧環境4の下に置く。この間、鉄水溶液2は撹拌により濃度を均一に保っておくことが好ましい。多数の微細孔に鉄水溶液2が浸入すると、鉄水溶液2中の鉄成分が微細孔内面に吸着することになる。
【0030】
容器1中で活性炭素繊維2に十分に鉄水溶液2を含浸させた後、活性炭素繊維3を取り出し、図3に示すように、吸引濾過装置5を用いて、pH1.5のH2SO4溶液にて洗浄する。これにより活性炭素繊維2の表面に定着していない金属成分は洗い流される。
【0031】
洗浄後の活性炭素繊維2を減圧乾燥機6中に入れて乾燥させる。乾燥の結果、活性炭素繊維2の微細孔に吸着した鉄成分は微細な粒子となって微細孔内面に定着する。
【0032】
前記鉄成分の定着、すなわち、吸着担持は、活性炭素繊維の微細孔内面に行われるので、鉄が吸着担持する面積は広大であり、鉄の担持量は格段に増加することになる。しかも、担持の形態は吸着であるので、担持の鉄微粒子は凝集することも、結晶化して粒径が大きくなることもがなく、微細孔を鉄の二次粒子により塞いでしまうことがない。また、凝集や結晶成長による金属粒子自体の活性低下も防止できる。
【0033】
前記調製方法では、鉄成分が完全に溶解した鉄水溶液を活性炭素繊維の微細孔を含む全表面に付着させ、これを乾燥させることによって、活性炭素繊維の表面に鉄成分の微粒子を吸着担持させている。この鉄成分の担持量を増やすように調節するために、前記調製方法において、前記図2にて説明した減圧環境4の下に置くことによる鉄水溶液2の微細孔への浸入促進工程の後に、鉄成分の析出促進工程を設けても良い。この鉄成分の析出促進工程では、図5に示すように、容器1内の鉄水溶液2にNH3水溶液7を添加して、鉄水溶液2のpH値を例えばpH4に調整することにより、鉄水溶液2に含まれる鉄成分の析出を促し、活性炭素繊維2の表面に付着する金属成分の微粒子の数および粒径をともに増加する方向に制御する。この場合、金属成分の微粒子は結晶化しやすくなるので、アルカリの添加量の調整が重要となる。アルカリ添加による析出量が多くなると、添着金属粒子は結晶化後、成長して粒径が大きくなり、活性炭素繊維の微細孔を閉塞するからである。
【0034】
前記鉄成分の析出促進工程におけるpH調整値は、pH4に限定されるものではなく、任意である。このpH値を適宜に調整することによって、鉄成分の析出量、析出粒子の粒径を制御することができる。前述のように、析出量が多くなったり、析出粒径が大きくなると、微細孔を閉塞する虞があり、また、析出粒子が凝集したり、結晶化後、成長しやすくなり、鉄成分粒子の析出量全体における表面積が低下傾向になる。このようなマイナス効果が発生しない範囲内でpH値の調整を行う必要がある。
【0035】
従来の金属水溶液への浸漬、含浸方法では、通常、活性炭素繊維への担持量として10質量%を超えるように設定すると、活性炭素繊維の微細孔を閉塞する結果となるが、本発明でのように、当初、低pH値の金属水溶液に活性炭素繊維を浸漬して、活性炭素繊維に十分に金属水溶液を含浸させた後、金属水溶液のpHを中性寄りに適切に調整することにより、活性炭素繊維の微細孔を閉塞させることなく、金属担持量を10質量%を超える量に調節することができる。
【0036】
前記析出促進工程の後は、前記図3を用いて説明した洗浄工程を行うが、この場合、洗浄溶液として前記NH3水溶液7を用いることが異なる。この洗浄工程の後には、先に図4にて説明した減圧乾燥処理を行う。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を説明するが、以下に説明する実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0038】
(実施例1)
本発明の実施例1を図1〜図4を参照しつつ説明する。H2S04水溶液にFe(NH3)(SO42を溶解させてpH1.5の鉄水溶液2を容器1内に調製した。鉄水溶液2として、1.5〜500mモル/Lまでの8種の濃度の鉄水溶液を調整した。
【0039】
上記濃度の異なる8種の各鉄水溶液120mL中にそれぞれ活性炭素繊維3を浸漬した。この活性炭素繊維3としては、アドール社製の活性炭素繊維(商品名A−15)をそれぞれ2.0gずつ用いた。最も鉄濃度の高い500mモル/Lの鉄水溶液においても、pH値をpH1.5という低pH値に制御したので、Fe(NH3)(SO42は完全に溶解していた。
【0040】
次に、図2に示すように、前記活性炭素繊維3の多数の微細孔に各鉄水溶液2を十分に浸入させるために、各容器1を減圧環境4の下に置いた。この減圧条件は、〜50mmHg、60分間であった。この間、鉄水溶液2は撹拌により濃度を均一に保った。
【0041】
次に、鉄水溶液の濃度の異なる各容器1からそれぞれ活性炭素繊維3を取り出し、図3に示すように、吸引濾過装置5を用いて、pH1.5のH2SO4溶液〜360mLにて洗浄した。続いて、図4に示すように、洗浄後の各活性炭素繊維3を減圧乾燥機6中に入れて乾燥させた。減圧、乾燥の条件は、〜50mmHg、70℃、18時間であった。
【0042】
前記乾燥後の各炭素繊維3を、Ar雰囲気中で、1100℃の温度で、1時間焼成した。
【0043】
(実施例2)
前記実施例1と同様にして、H2S04水溶液にFe(NH3)(SO42を溶解させてpH1.5の鉄水溶液2を容器1内に調製した。鉄水溶液2としては、1.5〜9mモル/Lまでの4種の濃度の鉄水溶液を調整した。これら濃度の異なる4種の各鉄水溶液120mL中にそれぞれ活性炭素繊維3を浸漬した。ここで用いた活性炭素繊維は、前記実施例1で用いたものと同様であった。すなわち、アドール社製の活性炭素繊維(商品名A−15)をそれぞれ2.0gずつ用いた。
【0044】
次に、実施例1と同様に、図2に示すように、前記活性炭素繊維3の多数の微細孔に各鉄水溶液2を十分に浸入させるために、各容器1を減圧環境4の下に置いた。この減圧条件は、〜50mmHg、60分間であった。この間、鉄水溶液2は撹拌により濃度を均一に保った。
【0045】
次に、実施例1とは異なり、図5に示すように、各容器1内の鉄水溶液2に、濃度2.5%のNH3水溶液7を添加して、鉄水溶液2のpH値をpH4に調整した。pH4に調整の結果、鉄水溶液2中に鉄水酸化物の析出が確認された。pH4に調整後、10分攪拌して、析出物を活性炭素繊維2に担持させた。
【0046】
前記析出促進工程の後の各容器1からそれぞれ活性炭素繊維3を取り出し、吸引濾過装置を用いて、pH4.0のNH3水溶液〜360mLにて洗浄した。続いて、図4に示すように、洗浄後の各活性炭素繊維3を減圧乾燥機6中に入れて乾燥させた。減圧、乾燥の条件は、〜50mmHg、70℃、18時間であった。前記乾燥後の各炭素繊維3を、Ar雰囲気中で、1100℃の温度で、1時間焼成した。
【0047】
(比較例1)
前記実施例1において鉄水溶液2のpH値をpH4.0としたこと以外、実施例1と同様にして、鉄を担持させた活性炭素繊維3を得た。
【0048】
(評価1)
前記実施例1,2および比較例1の鉄水溶液濃度に対する活性炭素繊維における鉄担持量(wt%)は、次のようにして算出した。
【0049】
2S04水溶液にFe(NH3)(SO42を溶解させて調整した鉄水溶液2,吸引濾過工程の濾液及び洗浄液のFe濃度を吸光光度法にて測定し、下記式(1)に示すように、鉄水溶液2のFe含有量減少分、すなわち、鉄水溶液2のFe含有量A(g)から、吸引濾過工程の濾液中のFe含有量B(g)と洗浄液中のFe含有量C(g)の合計を差し引いた分がACFに担持されたものとして、ACF重量W(g)に対する重量比を求め、鉄担持量X(wt%)とした。
X(wt%)={[A−(B+C)/W]}×100 (1)
【0050】
吸光光度法によるFe濃度の測定は次のようにして行った。測定試料となるFe溶液を濃硫酸でpH1.5以下に調整し,Fe3+の特異的吸収ピーク(290nm)の吸光度を測定した。予め濃度既知のFe溶液で測定した測定値を用いて作成した検量線を用いて、試料の測定値からFe濃度を算出した。測定結果を図6に示した。
【0051】
(評価2)
次に、前記実施例1,2および比較例1の各サンプルと、鉄未担持の活性炭素繊維とを用いて、活性炭素繊維における鉄担持量(wt%)と、活性炭素繊維を用いた脱硫処理における脱硫率との関係を、ガラス反応管を用いて、測定した。条件は、反応温度:50℃、触媒(活性炭素繊維)量:0.2g、処理ガス量:100sccm、入口S02濃度:1000ppm、酸素濃度:4%、水分濃度:13%相当、窒素バランスであった。測定結果を図7に示した。
【0052】
(評価3)
次に、前記実施例1と比較例1の各サンプルを用いて、触媒として使用した場合の流出鉄濃度(mモル/L)を測定した。測定開始時の実施例1サンプルの鉄担持量は、12.5wt%であり、比較例1サンプルの鉄担持量は、2.7wt%であった。測定方法は、ガラス反応管下部に設けた液溜りに捕集した凝集水のFe濃度を前記(評価1)に記載の方法で測定し、流出鉄濃度を算出した。
【0053】
前記図6から分かるように、鉄溶液の濃度増加に対する鉄の担持量は、実施例1では、活性炭素繊維を鉄溶液に浸漬した直後で急激に増加した後、緩やかに推移しており、80.0mモル/L濃度でも10.0wt%弱の担持量に留まっている。これに対して、鉄成分を析出して担持させる工程を有する実施例2および比較例1では、濃度に比例して比較的急激に担持量が増加し続け、30.0mモル/Lの鉄水溶液で既に担持量が10.0wt%に到達している。
【0054】
前記図7から分かるように、脱硫率が鉄担持量の増加に比例して増加するのは、実施例1のサンプルだけであり、実施例2では、増加傾向は認められるものの、脱硫率が不安定であり、比較例1では、担持量が増加すると、脱硫率が低下してしまう。
【0055】
前記図8から分かるように、実施例1のサンプルでは、触媒として使用中の鉄分の流出は時間の経過に伴って一定であり、しかも0.1mモル/L以下の微量に抑えられている。これに対して、比較例1のサンプルでは、流出量が0.7mモル/Lという比較的大きな値となっており、時間が経過してもその流出量は低減されない。したがって、実施例1の活性寿命は高くなるが、比較例1の活性寿命はかなり短いものとなる。
【0056】
(評価4)
前記実施例1と実施例2のサンプルを、X線回折による結晶性分析、走査型電子顕微鏡による表面観察、および比表面積測定にかけた。その結果を下記表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
上記表1に示す結果から次のことが推測される。すなわち、低pH値にて鉄溶液を調製することにより鉄成分を完全に溶解させた金属溶存濃度の高い溶液の活性炭素繊維を浸漬し、十分に溶液を繊維に含浸させることにより、鉄成分を粒子ではなくイオンの状態で活性炭素繊維の微細孔内面に吸着させることができること、溶液の含浸後、洗浄、乾燥させることにより、イオン状態の金属は結晶化せずにアモルファス状態で微細孔内面に担持して容易に剥離しないことが、推測される。一方、中間工程において、アルカリを添加して残りの鉄溶液中に鉄析出物を生じさせる実施例2では、アルカリによる析出物が結晶化して比較的粒径の大きな鉄結晶粒子となり、これら結晶粒子が活性炭素繊維の表面および微細孔に付着するものと思われる。この場合、繊維への担持量は増えるものの、微細孔へ結晶化した後の粒子形状の鉄成分が入り込むため、微細孔が少なくとも部分的に閉塞されることになる。したがって、アルカリ添加量を適宜に調整して、析出量を抑制することにより、微細孔の閉塞を避けるようにすれば、実施例2により、脱硫活性率向上の重要な因子である表面積を低減させることなく、脱硫反応に寄与する鉄分量を増やすことが可能となることが分かる。
【0059】
以上の結果から結論づけられることは、実施例1の担持方法によれば、活性炭素繊維の微細孔にこの微細孔を閉塞することなく鉄成分を吸着担持させることになるため、鉄溶液の濃度増加に伴って急激な担持量の増加はないものの、担持される鉄成分がアモルファス状態で微細かつ均等に担持されることである。これに対して、比較例1では、当初から析出した鉄成分を活性炭素繊維の表面に沈積させて担持させることになるため、鉄溶液の濃度増加に伴って急激な担持量の増加があるが、担持される鉄成分が凝集もしくは結晶化後に成長しており、二次粒子的なバルクとなって、かつ不均等に担持されることである。実施例2では、アルカリによる析出量を高くすると、表面積の低減化が発生し始めるので、析出量を抑制することによって、実施例1における作用効果を維持しつつ、金属担持量を増やすことが可能である。したがって、本発明の調製方法により活性炭素繊維を製造すれば、長寿命かつ高活性特性の脱硫触媒用の活性炭素繊維を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明に係る脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法は、金属を添着することにより脱硫効率を向上させた活性炭素繊維において、その脱硫効率をさらに向上させるとともに活性寿命の延長を図ることができる。すなわち、本発明によれば、脱硫効率が高く、かつ活性寿命の長い脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法および該方法により得られる脱硫触媒用活性炭素繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施例1を説明するためのもので、担持しようとする金属の溶液に活性炭素繊維を浸漬する過程を示す図である。
【図2】本発明の実施例1を説明するためのもので、金属溶液の活性炭素繊維への含浸を高めるために減圧処理を行っている状態を示す図である。
【図3】本発明の実施例1を説明するためのもので、金属溶液を含浸した活性炭素繊維を減圧洗浄している状態を示す図である。
【図4】本発明の実施例1を説明するためのもので、洗浄後の活性炭素繊維を減圧乾燥している状態を示す図である。
【図5】本発明の実施例2を説明するためのもので、一旦金属溶液を活性炭素繊維に含浸させた後に、金属溶液のpHを上げて金属成分を析出させる工程を示す図である。
【図6】本発明の効果を説明するためのもので、鉄溶液の鉄濃度と、活性炭素繊維における鉄担持量との関係を示す図である。
【図7】本発明の効果を説明するためのもので、活性炭素繊維における鉄担持量と活性炭素繊維を用いた脱硫率との関係を示す図である。
【図8】本発明の効果を説明するためのもので、担持方法の違いによる活性炭素繊維に担持の鉄成分の経時的流出量を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 容器
2 鉄水溶液
3 活性炭素繊維
4 減圧環境
5 吸引濾過装置
6 減圧乾燥機
7 NH3水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低pH値に制御した金属溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、該活性炭素繊維に前記金属溶液を十分に含浸させた後、前記活性炭素繊維を洗浄し、乾燥することによって、前記活性炭素繊維の表面積を低下させることなく、触媒として使用時の金属流出量が低減された脱硫触媒用活性炭素繊維を得ることを特徴とする脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法。
【請求項2】
前記金属溶液を前記活性炭素繊維に十分に含浸させた後に、前記金属溶液にアルカリを加えて該溶液中に金属化合物を析出、沈降させ、その後、前記活性炭素繊維の洗浄および乾燥を行うことによって、さらに前記活性炭素繊維に対する金属担持量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法。
【請求項3】
前記金属溶液の金属含有量を調節することによって前記金属化合物の前記活性炭素繊維に対する担持量を制御することを特徴とする請求項2に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法。
【請求項4】
前記活性炭素繊維を前記金属溶液に浸漬した後、前記活性炭素繊維を浸漬したままで前記金属溶液を減圧環境下に置くことによって、前記低pH値の金属溶液を前記活性炭素繊維中に十分に含浸させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法。
【請求項5】
前記金属溶液にアルカリを加えて該溶液中に金属化合物を析出、沈降させた後、前記活性炭素繊維を浸漬したままで前記金属溶液を減圧環境下に置くことによって、前記金属化合物の析出粒子の前記活性炭素繊維への添着を確実にすることを特徴とする請求項2または3に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法。
【請求項6】
前記活性炭素繊維に担持させる金属がFeであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれか一項の脱硫触媒用活性炭素繊維の調製方法により得られた脱硫触媒用活性炭素繊維。
【請求項8】
低pH値に制御した金属溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、該活性炭素繊維に前記金属溶液を十分に含浸させた後、前記活性炭素繊維を洗浄し、乾燥することによって得られた脱硫用活性炭素繊維であって、
各活性炭素繊維が有する微細孔の内面に該微細孔を閉塞することなく前記金属の非晶質微粒子が付着していることを特徴とする脱硫触媒用活性炭素繊維。
【請求項9】
低pH値に制御した金属溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、該活性炭素繊維に前記金属溶液を十分に含浸させた後、前記金属溶液にアルカリを加えて該溶液中に金属化合物を析出、沈降させ、その後、前記活性炭素繊維を洗浄し、乾燥することによって得られた脱硫用活性炭素繊維であって、
各活性炭素繊維が有する微細孔の内部の少なくとも一部に前記金属の結晶性粒子が充填されていることを特徴とする脱硫触媒用活性炭素繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−307373(P2006−307373A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130460(P2005−130460)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】