説明

脱窒基質保持体、脱窒基質用ノズル、及び、水質浄化方法

【課題】 脱窒処理のための操作や管理が容易で、しかも、十分な脱窒効果を得易い脱窒基質保持体を提供する。
【解決手段】 多数の繊維状物からなる容器壁11により囲まれた基質収容部12を備え、基質収容部12に細粒脱窒基質14が収容された状態で、窒素含有水を含む被処理系内に配置される脱窒基質保持体10であって、容器壁11が、窒素含有水の透過を許容すると共に、細粒脱窒基質14の透過を阻害するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水や養液栽培排水のような脱窒菌密度の比較的低い被処理水や畜産廃水・下水道二次処理水のようなBOD成分を比較的多く残存する被処理水のいずれにおいても効率のよい脱窒素を実現するための脱窒基質保持体及び水質浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の排水等の被処理液中に含まれる窒素成分を除去するために、微生物を用いて生物学的に脱窒する方法が知られている。この方法では、主として嫌気状態で脱窒菌により硝酸態窒素等を窒素ガスに還元することにより窒素成分を除去する。
【0003】
脱窒菌により脱窒を行うには、脱窒菌に応じた脱窒基質が必要である。例えば、従属栄養細菌ではメタノール等の有機物が必要であり、独立栄養細菌の硫黄酸化細菌では硫黄や炭酸カルシウム等の炭素源が必要である。
これらの脱窒基質は、多くの場合、処理時に液体或いは固体として被処理水に添加されている。
【0004】
液体脱窒基質の場合、添加された基質の全量が被処理水中に混合されるため、脱窒菌や窒素成分の濃度等に応じた適切な量を添加する必要があり、過剰な場合、処理済水に残留して水質を悪化させることがある。例えばメタノール等を用いる場合には、処理済水にメタノールが残留することは好ましくない。
そのため、液体脱窒基質を用いる場合には、脱窒処理の期間中添加量を繰り返し調整する必要があり、脱窒処理のために相応の機械設備を備えるか、簡易型の場合は操作や管理に手間がかかる。
【0005】
一方、塊状固体の脱窒基質の場合には、基本的には脱窒に必要な量のみ消費されるため、添加量を繰り返し調整せずとも脱窒処理を継続させることができ、脱窒処理のための操作や管理が比較的容易である。
このような塊状固体の脱窒基質として、例えば下記特許文献1のような微生物活性能付与組成物が提案されている。この微生物活性能付与組成物では、脱窒基質の硫黄と炭酸カルシウムとを単一の体内に共存させることにより、脱窒効果を向上させている。
【0006】
【特許文献1】特許第3430364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような固体の脱窒基質では、脱窒菌の活動領域が固体の表面又はその近傍に限られ易く、脱窒菌の増殖や脱窒効果を更に向上させ難いという問題点があった。
【0008】
そこで、この発明は、脱窒処理のための操作や管理が容易で、しかも、十分な脱窒効果を得易い脱窒基質保持体を提供すると共に、それを用いた水浄化方法を提供することを課題とする。
また、十分な脱窒効果を得易い脱窒基質保持体に脱窒基質を供給するのに適したノズルを提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するには、固体脱窒基質と被処理水との接触面積をより広く確保すればよい。ところが、固体脱窒基質を細粒化して被処理水中に添加すると、浮遊して流失したり、沈降堆積して多数の細粒が集合し、集合状態の上面等一部分だけが被処理液と接触するため、十分な接触面積を確保し難い。そのため、特定の構成を有する脱窒基質保持体を用いることにより本発明に到達するに至った。
【0010】
即ち、本発明の請求項1に記載の脱窒基質保持体は、多数の繊維状物からなる容器壁により囲まれた基質収容部を備え、基質収容部に細粒脱窒基質が収容された状態で、窒素含有水を含む被処理系内に配置される脱窒基質保持体であって、容器壁が、窒素含有水の透過を許容すると共に、細粒脱窒基質の透過を阻害するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の脱窒基質保持体は、被処理系が液体からなる被処理液であり、脱窒基質保持体が被処理液中に浸漬されるものであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の脱窒基質保持体は、繊維状物が炭素繊維からなることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の脱窒基質保持体は、脱窒基質保持体の外周囲に基質収容部と連通する開口部が開設されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の脱窒基質保持体は、脱窒基質保持体が扁平形状もしくは円筒形状を呈し、基質収容部が脱窒基質保持体の長手方向に伸びるスリット状もしくは円筒状に形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の脱窒基質用ノズルは、請求項5に記載の脱窒基質保持体に細粒脱窒基質を供給するための基質用ノズルであって、開口部に挿入可能な外形を備えると共に、細粒脱窒基質を含有するスラリーが供給される内部流路と、内部流路と連通して先端部及び/または側周面に複数開口し、スラリーを排出可能な排出口とを備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の水質浄化方法は、細粒脱窒基質を窒素含有水に供給することにより、種々の脱窒菌による脱窒処理を行う水質浄化方法であって、多数の繊維状物により、窒素含有水の透過を許容すると共に細粒脱窒基質の透過を阻害する容器壁を形成すると共に、この容器壁により囲まれた基質収容部を形成して脱窒基質保持体を作製し、脱窒基質保持体の基質収容部に細粒脱窒基質を収容した後、窒素含有水を含む被処理系内に配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の脱窒基質保持体又は請求項7に記載の水質浄化方法によれば、細粒脱窒基質を用いるので、液体脱窒基質のように管理が煩雑ではないと同時に、固体でありながら窒素含有水との接触面積を大きく確保し易い。
【0018】
そして、このような細粒脱窒基質を収容する基質収容部が、窒素含有水の透過を許容して細粒化された脱窒基質の透過を阻害する多数の繊維状物からなる容器壁により囲まれているので、細粒脱窒基質を脱窒基質保持体内に保持することができ、被処理水中で浮遊して流出したり、多量の細粒脱窒基質が密に堆積することにより脱窒効果が著しく低下することがない。
本発明では、基質収容部内で収容された細粒脱窒基質が集合状態となったとしても、窒素含有水が基質収容部に多数の方向から浸入して、集合状態の細粒脱窒基質の表面に多数の方向から接触することができる。そのため、細粒の脱窒基質を用いていても、これにより十分な接触面積を確保し易い。同時に、細粒であるので、消費され易く、表面側の細粒脱窒基質が消費されることにより順次内部の細粒脱窒基質が露出消費され、十分な接触面積を維持し易い。
【0019】
しかも、容器壁が多数の繊維状物からなると、例えば、細粒脱窒基質が多数の繊維状物の表面部分に絡んで保持され、細粒脱窒基質を被処理水や脱窒菌と接触させ易くでき、脱窒効果を向上させることなども期待できる。
従って、基質収容部に細粒脱窒基質を収容しておくことで、十分な脱窒効果を得易く、脱窒処理のための操作や管理も容易である。
【0020】
請求項2に記載の脱窒基質保持体では、被処理系が液体からなる被処理液であるため、細粒脱窒基質を用いると沈降堆積したり、流出し易いが、細粒脱窒基質が基質収容部に収容されて被処理液中に浸漬されるので、接触面積を確保して高い脱窒効率を維持できる状態で、被処理系内に固定することができ、被処理液の処理に好適に用いることができる。
【0021】
請求項3に記載の脱窒基質保持体によれば、容器壁が炭素繊維からなるので、生物に対する親和性が高いとされる炭素繊維が微細な間隙を形成して配置されており、脱窒菌の活性を向上できる環境を得易く、より脱窒効果を向上させ易い。同時に、脱窒基質保持体の耐腐食性を確保することができ、脱窒基質保持体がへたり難くて、耐久性を確保し易い。
【0022】
請求項4に記載の脱窒基質保持体によれば、脱窒基質保持体が基質収容部と連通する開口部が開設されているので、使用に伴い細粒脱窒基質が消耗した際、開口部から再度、基質収容部に細粒脱窒基質を収容することができる。そのため、被処理系内に一旦配置した後、開口部から繰り返し細粒脱窒基質を収容するだけで、長期間脱窒処理を継続することができ、使い勝手がよい。また、該開口部から細粒脱窒基質が外部へ流出しないように設置するか、開口部を狭小化するので、使用時に開口部が問題となることはない。
【0023】
請求項5に記載の脱窒基質保持体が円筒形状もしくは扁平形状を呈し、基質収容部が脱窒基質保持体の長手方向に伸びる円筒状もしくはスリット状に形成されているので、基質収容部に収容された細粒脱窒基質の量に対する細粒脱窒基質の集合の表面積をより広く確保することができ、より効率よく脱窒を行うことができる。
【0024】
請求項6に記載の脱窒基質用ノズルによれば、内部流路と連通してスラリーを排出可能な排出口が先端及び/または側周面に複数開口しているので、幅は狭いが面積の広いスリット状の基質収容部の広い範囲に細粒脱窒基質を供給し易く、便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
[実施の形態1]
図1はこの実施の形態1の脱窒基質保持体を示す。
この脱窒基質保持体10は、容器壁11により側周面全周及び底面が囲まれた基質収容部12を有し、外周囲の頂部には基質収容部12と連通する開口部13が設けられ、内部には細粒脱窒基質14が収容されている。
この実施の形態1では、脱窒基質保持体10は扁平形状を呈しており、基質収容部12は脱窒基質保持体10の長手方向に伸びるスリット状に、開口部13と同一断面形状で一体的な空間として形成されている。
【0026】
この脱窒基質保持体10により脱窒処理される対象となる被処理系は、各種の液体からなる被処理液や汚泥等の湿潤固体など、硝酸態窒素や亜硝酸態窒素などの窒素成分を含有する窒素含有水を含むものであれば特に限定されない。また、窒素含有水が滞留していても、流動していてもよい。
被処理液としては、例えば、地下水、養液栽培排水や暗渠排水等の農業排水、畜産廃水やその処理水、下水処理水、養殖漁業排水、食品加工廃水やその処理水、イオン交換樹脂再生処理水、金属加工廃水などが挙げられ、脱窒菌密度の低い液体であってもよく、BOD成分や固形分を比較的多く含有する液体であってもよい。
【0027】
この脱窒基質保持体10に用いる脱窒基質は、脂肪酸や生分解性樹脂のような従属栄養細菌の基質、硫黄等の独立栄養細菌の基質のいずれでもよいが、固体の細粒であることを要する。固体であれば、液体脱窒基質のように過剰供給による水質の悪化が発生し難く、また、細粒であれば窒素含有水との接触面積を大きく確保できると共に、集合状態となった場合でも、表面側に配置される基質が消費されることにより内部の基質も逐次露出し消費され易いからである。
【0028】
このような固体の脱窒基質としては、脱窒菌に応じて適宜選択して用いることができるが、例えば、従属栄養細菌による場合には、脂肪酸、生分解性樹脂等の細粒を用いてもよい。
【0029】
また、独立栄養細菌による場合には、石油脱硫や石炭脱硫プラントの回収硫黄や天然硫黄などの硫黄の細粒、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属などの炭酸塩細粒を用いることができ、これらを混合し、或いは特許文献1の特許第3430364号公報による方法で一体化した上で細粒化し使用することもできる。さらに、硫黄と炭酸カルシウム、脂肪酸等を併用し、独立栄養細菌と従属栄養細菌の両方を脱窒菌として用いてもよい。
【0030】
これらの細粒脱窒基質14は微細である程好ましいが、製造及び取り扱いの観点から、例えば、10μm以上2.5mm以下の粒径を有するものが好適に使用できる。
【0031】
このような細粒脱窒基質14を収容する脱窒基質保持体10では、容器壁11が、多数の繊維状物から構成されている。ここでは、多数の繊維状物が三次元的に集合した構造を有し、多数の繊維状物間に微細な間隙が多数形成されている。そのため、この容器壁11は、被処理系の窒素含有水の透過を許容できると同時に、細粒脱窒基質14が容器壁11内表面及び容器壁11内部に保持して、その透過を阻害し、好ましくは完全に阻止することが可能である。
多数の繊維状物は、規則的に配列したものであってもよいが、好ましくは三次元的にランダムに配置されて互いに絡まった状態となった三次元網目構造を有するのが好適である。繊維状物の配置密度を低下して、適度な間隙を形成し易いからであり、細粒脱窒基質14が容器壁11内表面及び内部に保持され易くなることが期待できるからである。これにより、窒素含有水をより透過し易く、且つ、細粒脱窒基質14の透過をより阻害し易くできる。
【0032】
繊維状物としては、例えば、ロックウール等の鉱物繊維、炭素繊維、アクリル繊維等の各種の有機繊維等が挙げられる。
このうち、微生物に対する親和性に優れると共に、耐腐食性に優れるという理由で、炭素繊維を用いることが好適である。
【0033】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維の短繊維からなるものが好ましく、捲縮性を有し、直径20μm以下の短繊維が特に好適である。このような炭素繊維であれば、適度な間隙を有する三次元網目構造を得やすいからである。
このような炭素繊維の集合体としては、例えば、株式会社ドナックのドナカーボS−210系フェルト(商標)などのフェルト状炭素を挙げることができる。
また、この炭素繊維の集合体により容器壁11を形成する場合、特に、嵩密度0.02〜0.06g/cc、空隙率96〜99%とするのが好適である。このような範囲であれば、窒素含有水の透過性を確保しつつ、細粒脱窒基質14を容器壁11の内表面や内部に保持し易くできる。
【0034】
多数の繊維状物で容器壁11を形成する場合、繊維状物間に形成される間隙は不均一な大きさとなり易く、微細な細粒脱窒基質14の一部が内部に進入することもある。そのため、容器壁11の肉厚は細粒脱窒基質14を容器壁11の内部で保持できる程度に厚肉に形成されるのが好ましい。
例えば、前述のようなドナカーボ(登録商標)を用いる場合には、厚さ3〜30mm、好ましくは10mm程度のものを用いることが好ましい。
【0035】
なお、粒径の大きな脱窒基質を用いる場合には、より太い繊維からなる繊維状物を使用することが可能であり、脱窒基質の透過を阻害或いは阻止することができる限り、繊維状物を適宜選択して使用することが可能である。
【0036】
このような構成の脱窒基質保持体10を製造するには、まず、予め平面的に形成された多数の繊維状物の集合体を折り曲げ成形したり、2枚を縫合したり、予め立体成形することにより、例えば側周面となる容器壁11aと底面となる容器壁11bとを形成し、その後、これらの容器壁11aと容器壁11bとを縫合、接着等の適宜な手段により接合し、基質収容部12を形成する。
【0037】
次いで、基質収容部12内に予め細粒に形成された細粒脱窒基質14を収容する。その際、この実施の形態1の場合、その脱窒基質保持体10の基質収容部12はスリット状に形成されて、その幅が狭いため、細粒脱窒基質14を粉粒体状態で収容することが容易でない。
そのため、細粒脱窒基質14を水等の液体に混合してスラリーとし、この状態で、開口部13へ挿入可能な程度の細い外形を有する図2に示すノズル15を用いて、開口部13から供給することにより収容する。
【0038】
ノズル15は、図示しない供給手段から細粒脱窒基質14のスラリーが供給される内部流路16と、ノズル15の側周面に開口して内部流路16と連通する複数の排出口17とを備えている。ここでは、供給手段はスラリーを排出可能な圧が得られるものであればよく、例えばノズル15より上方に配置されてチューブ等によりノズル15と連結されたタンクであってもよい。
【0039】
このノズル15によれば、側周面に複数の排出口17を備えているため、ノズル15の側周面から広い範囲にスラリーを供給することができ、スリット状の基質収容部12の広い範囲にスラリーを容易に供給することができる。
【0040】
スラリーが基質収容部12に供給されると、水分が容器壁11を透過して排出され、細粒脱窒基質14が、例えば、図3に示すように、容器壁11の各内表面毎の広い範囲に付着した状態で残留し、これにより細粒脱窒基質14を基質収容部12に収容することができる。なお、可能であれば、基質収容部12内全体に
細粒脱窒基質14を収容してもよい。
【0041】
以上のようにして得られた脱窒基質保持体10を用い、被処理系の窒素含有水を脱窒処理して水質を浄化するには、脱窒基質保持体10の基質収容部12に細粒脱窒基質14を収容した後、被処理系に応じた数の脱窒基質保持体10を被処理系内に配置することにより行う。即ち、被処理系が液体からなる被処理液の場合には、脱窒基質保持体10を被処理液に浸漬すればよく、また、被処理系が湿潤固体からなる場合には、脱窒基質保持体10を湿潤固体中に埋設すればよい。
【0042】
その際、この実施の形態1の脱窒基質保持体10では、開口部13を被処理系から露出させた状態で配置するのが好ましい。このように配置すれば、脱窒処理の進行に伴い、基質収容部12内の細粒脱窒基質14が消費された際、開口部13から新たな細粒脱窒基質14を容易に供給することができる。そのため、長期間継続して脱窒処理を継続する場合、細粒脱窒基質14が消費される度に、脱窒基質保持体10を被処理系から取出して供給し、再び、被処理系に配置するという手間をなくすことが可能である。
【0043】
そして、このように脱窒基質保持体10を被処理系内に配置すれば、被処理系の窒素含有水が容器壁11を透過して基質収容部12内に収容された細粒脱窒基質14に接触することにより、細粒脱窒基質14を用いて脱窒菌による脱窒及び増殖が起り、脱窒処理が進行する。
【0044】
以上のような脱窒基質保持体10を用いて脱窒処理すれば、細粒の脱窒基質14を用いているので、比表面積を広く確保することができ、被処理系の窒素含有水との接触面積をより広く確保し易く脱窒効率は高いが、液体脱窒基質のように管理が煩雑となることがない。
【0045】
ここでは、細粒脱窒基質14を収容している基質収容部12が、窒素含有水を透過して細粒脱窒基質14の透過を阻害する容器壁11により囲まれているので、細粒脱窒基質14を脱窒基質保持体10内に保持することができ、窒素含有水中で浮遊流出して消失することがない。
【0046】
同時に、収容された細粒脱窒基質14が仮に集合状態で沈降したとしても、個々の脱窒基質保持体10の基質収容部12内で沈降するだけであるため、被処理系の底部に集合状態で堆積することはなく、窒素含有水が基質収容部12に多数の方向から浸入することにより、集合状態の細粒脱窒基質14の多数の方向の表面に接触することができる。そのため、細粒の脱窒基質14を用いていても、接触面積を広く確保することができる。
【0047】
しかも、細粒であるため、脱窒により消費され易く、集合状態の細粒脱窒基質14の表面側に配置された細粒脱窒基質14が消費されることにより、順次内部に配置された細粒脱窒基質14を露出させることができるため、閉塞され難く、接触面積を維持し易い。
【0048】
また、容器壁11が多数の繊維状物からなることにより、例えば、細粒脱窒基質14が多数の繊維状物表面に絡み、また一部は繊維間に保持され、細粒脱窒基質14を窒素含有水及び脱窒菌と接触させ易くして脱窒効果を向上させることなども期待できる。
【0049】
この脱窒基質保持体10では、容器壁11が炭素繊維からなると、脱窒基質保持体10の耐腐食性を確保することができ、脱窒基質保持体10がへたり難くて容器壁11内の多数の微細な間隙を維持し易く、脱窒基質保持体の破損を防止し易い。同時に、生物に対する親和性が高い炭素繊維が微細な間隙を形成して配置されているため、嫌気条件の形成等、脱窒菌の活性を向上し易い環境を得易く、より脱窒処理の効果を向上できる。しかも、被処理系に汚泥等が含有されていても、それによる脱窒基質や炭素繊維の閉塞も生じ難く、長期間高い脱窒効果を維持させることが可能である。
【0050】
更に、この脱窒基質保持体10は扁平形状を呈し、基質収容部12が脱窒基質保持体10の長手方向に伸びたスリット状の形状を呈しているので、基質収容部12に収容された細粒脱窒基質14の量に対する細粒脱窒基質の集合体の表面積をより広く確保することができる。そのため、より効率よく脱窒を行うことができる。
【0051】
なお、上記実施の形態では、底面及び側周面全体が多数の繊維状物からなる単一の容器壁11により形成された例について説明したが、一部の面が他の壁材により形成されたものであっても本願発明を適用できる。
【0052】
[実施の形態2]
図4は、この実施の形態2の脱窒基質保持体を示す。
この脱窒基質保持体20は、一端側が閉塞して他端側に開口部23を有する筒形状を呈しており、基質収容部22の側周面及び底面全体の容器壁21は、実施の形態1と同様の多数の繊維状物から構成されている。また、この脱窒基質保持体20の基質収容部22には、実施例と同様の細粒脱窒基質14が収容されている。
【0053】
このような構成の脱窒基質保持体20であっても、同様の作用効果が得られる上、開口部23及び基質収容部22がスリット状ではなく、横断面形状が縦横に広がりを有する形状となっているため、細粒脱窒基質14を基質収容部22に収容させ易く、細粒脱窒基質14をスラリー状にすることなく直接収容させることが可能である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例について説明する。
[実施例]
図1に示す脱窒基質保持体10を用いて、下水処理水の脱窒処理を行った。
【0055】
脱窒基質保持体10の容器壁11は、ドナカーボ・Sフェルト S−221(株式会社ドナック製、商標、厚さ10mm、目付500g/m、密度0.05g/cm)により形成した。横断面における基質収容部12及び開口部13の短径は10cm、長径は10cm、容積は約30cmであった。
【0056】
細粒脱窒基質14としては、炭酸カルシウムT−200(株式会社ニッチツ製、商標、平均粒径10μm)と、粉末硫黄(軽井澤精錬所製、200メッシュパス)を1.2:1の比率で混合し、特許文献1の特許第3430364号公報による方法で一体化し、2.5mm以下の粒径に破砕したものを用いた。
そして、この細粒脱窒基質14を水によりスラリーとし、図2に示すようなノズル15を用いて、細粒脱窒基質14が20gとなるように基質収容部12内に収容することにより、脱窒基質保持体10を完成させた。
【0057】
この脱窒基質保持体10を1リットルの被処理液内に浸漬し、バッチによる脱窒処理試験を実施した。
被処理液の硝酸態窒素濃度は13mg/Lで、硝酸態窒素の濃度変化を24時間毎に測定した。
【0058】
[比較例]
脱窒基質保持体を用いることなく、実施例と同一の細粒脱窒基質を、実施例と同量、1リットルの被処理液内に添加し、硝酸態窒素の濃度の変化を測定した。
【0059】
以上の実施例及び比較例の結果を表1に示す。
(表1)
硝酸態窒素濃度の変化(mg/L、水温20℃)
開始 3日 4日 5日 6日
実施例 13 5 0 − −
比較例 13 10 6 3 0

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態1の脱窒基質保持体を示す斜視図である。
【図2】実施の形態1の脱窒基質保持体に好適に使用可能なノズルの先端部を示す斜視図である。
【図3】実施の形態1の脱窒基質保持体の部分断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2の脱窒基質保持体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
10、20 脱窒基質保持体
11、21 容器壁
12、22 基質収容部
13、23 開口部
14 細粒脱窒基質
15 ノズル
16 内部流路
17 排出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の繊維状物からなる容器壁により囲まれた基質収容部を備え、基質収容部に細粒脱窒基質が収容された状態で、窒素含有水を含む被処理系内に配置される脱窒基質保持体であって、容器壁が、窒素含有水の透過を許容すると共に、細粒脱窒基質の透過を阻害するように構成されていることを特徴とする脱窒基質保持体。
【請求項2】
被処理系が液体からなる被処理液であり、脱窒基質保持体が被処理液中に浸漬されるものであることを特徴とする請求項1に記載の脱窒基質保持体。
【請求項3】
繊維状物が炭素繊維からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱窒基質保持体。
【請求項4】
脱窒基質保持体の外周囲に基質収容部と連通する開口部が開設されていることを特徴とする請求項3に記載の脱窒基質保持体。
【請求項5】
脱窒基質保持体が扁平形状もしくは円筒形状を呈し、基質収容部が脱窒基質保持体の長手方向に伸びるスリット状もしくは円筒状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の脱窒基質保持体。
【請求項6】
請求項5に記載の脱窒基質保持体に細粒脱窒基質を供給するための基質用ノズルであって、開口部に挿入可能な外形を備えると共に、細粒脱窒基質を含有するスラリーが供給される内部流路と、内部流路と連通して先端部及び/または側周面に複数開口し、スラリーを排出可能な排出口とを備えていることを特徴とする脱窒基質用ノズル。
【請求項7】
細粒脱窒基質を窒素含有水に供給することにより、種々の脱窒菌による脱窒処理を行う水質浄化方法であって、
多数の繊維状物により、窒素含有水の透過を許容すると共に細粒脱窒基質の透過を阻害する容器壁を形成すると共に、この容器壁により囲まれた基質収容部を形成して脱窒基質保持体を作製し、
脱窒基質保持体の基質収容部に細粒脱窒基質を収容した後、窒素含有水を含む被処理系内に配置することを特徴とする水質浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−231254(P2006−231254A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52211(P2005−52211)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(391054268)株式会社ニッチツ (8)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】