説明

脱臭装置

【課題】悪臭ガスに含有される悪臭成分を、効率的に除去できるようにする。
【解決手段】悪臭成分を含有したガスを脱臭するための装置である。この装置は、生物脱臭用担体を充填した脱臭塔を備え、この脱臭塔がばっ気槽側壁の上段あるいはばっ気槽間の通路部の上段に設けられ、前記生物脱臭用担体は、活性炭素繊維と熱可塑性合成繊維とを含む繊維収束体であって、嵩密度0.05〜0.15g/cm、空隙率70〜98%、断面の最大直径5〜25mm、長さ5〜30mmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱臭装置に関し、たとえば、ばっ気槽から大量に発生する硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化メチル、アンモニア、有機酸などを含有した悪臭ガスのための脱臭装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より下水処理場の大きな問題点の一つは、周辺住民からの悪臭の苦情である。そのため、各下水処理場においては、臭気の強い最初沈殿池などを覆蓋し、発生した悪臭ガスを臭気ダクトにより1ヶ所に集め、薬液洗浄法、活性炭吸着法や生物脱臭法を利用した脱臭装置で悪臭成分を除去した後、脱臭ファンから大気中に放出している。
【0003】
このうち、生物脱臭法は、臭気成分を栄養源として繁殖する微生物を接触材の表面に担持させ、この微生物により臭気成分を分解、脱臭する方法であり、これらの接触材としては、土壌、腐植土、プラスチック、セラミックやその加工品、およびそれらに微生物を固着させたものが使用されている(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−137536号公報
【特許文献2】特開2002−336639号公報
【特許文献3】特開平8−10557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、脱臭性能を高めるためには、ガスとの接触表面積が大きく、処理効率が高い密な生物脱臭用担体を使用する必要があるため、ガス通過の際の圧力損失が大きくなる。また、脱臭装置に充填する生物脱臭用担体が粗な場合には、ガス通過の際の圧力損失は低く、脱臭装置をたとえばばっ気槽に設置する場合は槽内への吹き込み空気圧を利用して容易に通過させることが可能である。しかしながら、かかる場合は、ガスとの接触面積が小さいため、担体すなわち接触材と接触できずに脱臭処理されなかったガスが多量に大気中に放出される。これを防止するためには、脱臭塔を大規模なものとしてガスとの接触の機会を多くするなどの対策が必要である。
【0006】
本発明は、ばっ気槽などから発生するガスに含有される悪臭成分を、効率的に除去できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、上記の課題を解決するために鋭意検討し、到達した発明の要旨は、悪臭成分を含有したガスを脱臭するための装置であって、生物脱臭用担体を充填した生物脱臭塔を備え、この生物脱臭塔はばっ気槽側壁の上段あるいはばっ気槽間の通路部の上段に設けられ、前記生物脱臭用担体は、活性炭素繊維と熱可塑性合成繊維とを含む繊維収束体であって、嵩密度0.05〜0.15g/cm、空隙率70〜98%、断面の最大直径5〜25mm、長さ5〜30mmであることを特徴とする脱臭装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、活性炭素繊維製の充填材を微生物担体として使用することにより、吸着効果を併用した微生物による生物脱臭効果を得ることができ、このため効率的な脱臭が可能となり、悪臭ガスを、高速かつ安い運転コストで高効率に処理できるのみならず、その担体が、活性炭素繊維と熱可塑性合成繊維とを含む繊維収束体であって、嵩密度0.05〜0.15g/cm、空隙率70〜98%であるため、圧力損失の少ない状態で効率よく脱臭を行うことができる。
【0009】
さらに、本発明によると、生物脱臭塔がばっ気槽側壁の上段あるいはばっ気槽間の通路部の上段に設けられているため、生物脱臭塔の重量による耐荷重の問題を防止することができる。また、生物脱臭塔への臭気ダクトも非常に短いものとなるため、被処理ガスが臭気ダクト中を流れる間の温度変化もほとんどなく、脱臭性能が良好な状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】生物脱臭塔およびその周辺部の一例の一部切欠斜視図である。
【図2】図1の生物脱臭塔を備えた脱臭装置の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、生物脱臭塔に充填されて微生物を固定化する接触材としては、活性炭素繊維と熱可塑性合成繊維とを主成分とする成形体を用いる必要がある。本発明で使用する活性炭素繊維は、石炭ピッチ、石油ピッチ、レーヨン、フェノール、アクリル、ビニロン系材料あるいはセルロース系材料等を原料とし、通常の方法で不融、賦活処理して微細孔を形成したもので、比表面積がBET法による測定値で500m/g以上のものが好ましい。比表面積が500m/g未満であると、細孔が小さくなり臭気成分との接触が困難となる。
【0012】
この接触材は、活性炭素繊維と熱可塑性合成繊維と混合して複数本の繊維束を形成した繊維収束体の形態とされる。
活性炭素繊維とともに充填材を構成する熱可塑性合成繊維としては、たとえば、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステルなどからなる単成分繊維、あるいは、芯部にポリエステルを用いるとともに、鞘部にポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリエステルなどを用いた芯鞘型複合繊維などがある。
【0013】
活性炭素繊維と熱可塑性合成繊維との混合質量比は、90:10〜10:90、特に85:15〜15:85の範囲が好ましい。活性炭素繊維の割合が大きすぎると、構造体あるいは充填材の成形性が悪くなり、逆に少なすぎると臭気成分との接触が悪くなる。
【0014】
本発明で用いられる繊維収束体は、活性炭素繊維を開繊・混合した後、繊維束を形成させ、この繊維束を熱処理して熱可塑性合成繊維により繊維間を接着して棒状に形成し、次いで、任意の長さに切断することにより得ることができる。
【0015】
棒状の繊維収束体の大きさは、断面の最大直径が5〜25mmであることが必要であり、8〜20mmの範囲が好ましい。また、棒状の繊維収束体の断面が円状、楕円状、ドーナツ状、トリローバル状、十字形状、星形状等のものが、取り扱いやすく、生物脱臭用担体として適している。なお、ここにいう最大直径とは、球状、ドーナツ状の場合は直径、楕円状の場合は長軸の長さ、その他の形状の場合はその最大長さを意味するものである。棒状の繊維収束体の長さは、5〜30mmであることが必要であり、10〜20mmの範囲が好ましい。
【0016】
最大直径と長さが上記の範囲を超えて大き過ぎると、ガス通過の際の圧力損失は低いが、ガスとの接触面積が小さいため、処理効率は低下する。逆に棒状の繊維収束体が上記の範囲を超えて小さ過ぎると、ガス通過の際の圧力損失が大きく、たとえばばっ気槽における吹き込み空気圧を利用した自然通風は困難となる。
【0017】
本発明において、繊維収束体の嵩密度は0.05〜0.15g/cmであることが必要である。嵩密度が0.15g/cmよりも大きいと、この繊維収束体にて形成される担体が密になり過ぎ、空隙率が低下して微生物の付着容量が減少し、処理効率が低下する結果となる。さらに装置重量も重くなり、装置設置場所の制限を受けるため、実用性が低下する。反対に嵩密度が0.05g/cmよりも小さいと、被処理ガスとの接触効率が低下し、処理効率の大きな低下につながる。このため嵩密度は0.05〜0.085g/cmの範囲が好ましい。
【0018】
棒状の繊維収束体の空隙率は70〜98%であることが必要である。この空隙率は、通気性や強度のほか、水分保持量にも関連性があり、空隙率が98%より大きい場合は、繊維収束体にて形成される担体が脆くなるため、高く積むと下部の担体が潰れる可能性があり、実用性が低下する。空隙率が70%より小さいと、通気性が不良となるのに加え、水分保持量も少なくなり、散水停止の影響が脱臭性能に大きな影響を及ぼす。このため、80〜95%の範囲が好ましい。
【0019】
図1は、生物脱臭塔およびその周辺部の一例を示す図である。図1において、生物脱臭塔1には、生物脱臭用担体が充填された充填層2が配設されており、充填層2の上方には散水器3が、充填層2の下方には受水槽4が配設されている。受水槽4の上部における空間の部分には悪臭ガス導入口5が連通されており、受水槽4の底部には、散水器3からの散水にもとづき充填層2から流下した水を排出するための排水口6が連通されている。散水器3よりも上方の位置には、排気口7が設けられている。充填層2は、上下方向および並列に複数配列させてもよく、3段以上の複数段とすることもできる。
【0020】
上記の構成によると、生物脱臭用担体を充填した充填層2の上方に散水器3を配設して連続的または間欠的に散水することにより、担体の表面が湿潤状態に保持され、微生物の付着と繁殖が促進されるとともに、酸化生成物が洗浄除去される。間欠的に散水する場合には、散水間隔は、0.5〜4時間に1回程度が適当であり、一回当たりの散水時間は、散水器3の形状及び吐出水量により異なるが、0.2〜15分が適当である。なお、充填層2が複数の場合は、各充填層2ごとに散水器3を配設してもよく、あるいは一つの散水器3ですべての充填層2に散水するようにしてもよい。
【0021】
脱臭の効果は、臭気成分の種類と濃度によって異なるが、悪臭ガスの通気速度(LV)と空塔速度(SV)とによって決定される。本発明の脱臭装置によれば、上述のように、担体を構成する繊維収束体の嵩密度が0.01〜0.10g/cmであるとともにその空隙率70〜98%であることにもとづき、悪臭ガス通過速度(LV)が0.4m/s以下のときに、生物脱臭塔内の圧力損失を15mmHO以下とすることができる。
【0022】
上述のように、生物脱臭用担体を充填した生物脱臭塔を、ばっ気槽側壁の上段あるいはばっ気槽間の通路部の上段に設けた本発明の脱臭装置は、このばっ気槽への吹き込み空気を利用した自然通風だけで良好に脱臭させることができる。空塔速度は、2000h-1以下であれば、良好な処理を行うことができる。
【0023】
また、生物脱臭塔の生物脱臭用担体は繊維製であるため、比表面積が大きく臭気物質との接触効率がよく、さらに、通気性が優れており、そのため上記のように圧力損失が非常に小さいため、ファンを用いて通風させる場合にも低動力のファンにて運転することができる。また、生物脱臭用担体は、活性炭素繊維と熱可塑性合成繊維とを含むものであり、空隙率が大きく軽量にできる。そのため、たとえば図1における充填層2を1段で2000mm程度積層しても、圧密化することなく良好な処理が可能である。
【0024】
図2は、生物脱臭塔1を備えた脱臭装置の具体例を示す図である。図2においては、ばっ気槽11、11、…が直列に複数ステージ設けられている。12は各ばっ気槽11の側壁であり、隣り合うばっ気槽11、11の側壁12、12どうしの間には通路13が形成されている。14はばっ気槽11の覆蓋、15はばっ気のためのブロワ、16はばっ気槽11における散気装置である。ばっ気槽11、11、…を直列に複数ステージ設けて処理を行う場合には、特に最初のステージで悪臭が発生しやすい。このため覆蓋14は、第1ステージと第2ステージとのばっ気槽11、11にのみ設けられている。
【0025】
生物脱臭塔1は、隣り合う第1ステージと第2ステージのばっ気槽11、11の側壁12、12の上段どうしの間に跨るようにして配置されており、すなわち通路13の上方に設けられており、その重量は側壁12、12によって支持されている。
【0026】
このような構成において、ばっ気槽7にて発生した悪臭成分を含有する被処理ガス17は、散気装置12からの吹き込み空気18の圧力を利用して生物脱臭塔1に導入され、その内部で脱臭処理され、図1に示す排気口7から大気中に放出される。
【0027】
上記のように生物脱臭塔1は、ばっ気槽11、11の側壁12、12の上段どうしの間に跨って設けられており、その重量は側壁12、12によって支持されているため、耐荷重の面での問題とはならない。また、生物脱臭塔1への臭気ダクトも非常に短いものとなるため、被処理ガス17が臭気ダクト中を流れる間の温度変化もほとんどなく、脱臭性能が良好な状態に維持される。
【0028】
上記に代えて、生物脱臭塔1は、一つのばっ気槽11の側壁12の上段のみに設けることもできる。このようなものであると、単数のばっ気槽しか有しない下水処理場などにも生物脱臭塔1を設置することができる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例・比較例を示す。
(実施例1)
比表面積1000m/gのピッチ系繊維状活性炭20質量%と、芯鞘型ポリエステル未延伸繊維80質量%とをカーディングマシンで開繊、混合し、1mあたり6gのカードスライバーとした。このカードスライバーを熱処理したのち切断し、最大直径8mm、長さ10mmの六葉柱状繊維収束体を得て、生物脱臭用担体とした。この生物脱臭用担体の嵩密度は0.085g/cm、その空隙率は92%であった。
【0030】
上記の生物脱臭用担体へ微生物を植種した後、該生物脱臭用担体を生物脱臭塔1中の充填層2に充填し、図1に示されるような生物脱臭塔を得た。この生物脱臭塔を、図2に示すようにばっ気槽間の通路部の上段に設け、脱臭装置を得た。
【0031】
図2に記載されたばっ気槽における吹き込み空気18の圧力を利用して、悪臭を有する被処理ガス17を生物脱臭塔1の内部における充填層2よりも下部に導入し、処理後に大気中に放出した。そのときの各種の硫黄化合物の濃度は、ガスクロマトグラフ法にて分析した。表1にその運転条件を示し、表2にその処理結果を示すが、処理結果は非常に良好であった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

(実施例2)
比表面積1300m/gのピッチ系繊維状活性炭25質量%と、芯鞘型ポリエステル未延伸繊維75質量%とをカーディングマシンで開繊、混合し、1mあたり6gのカードスライバーとした。このカードスライバーを熱処理したのち切断し、最大直径8mm、長さ10mmの六葉柱状繊維収束体を得て、生物脱臭用担体とした。この生物脱臭用担体の嵩密度は0.090g/cm、その空隙率は92%であった。
【0034】
上記で得られた六葉柱状繊維収束体からなる生物脱臭用担体を使用して、実施例1と同様に生物脱臭塔を得、この生物脱臭塔を用いた脱臭装置により悪臭ガスを処理した。運転条件は、実施例1と同じにした。表2にその処理結果を示すが、処理結果は非常に良好であった。
(比較例1)
芯鞘型ポリエステル未延伸繊維100質量%の繊維をカーディングマシンで開繊、混合し、1mあたり6gのカードスライバーとした。そして、このカードスライバーから製造した最大直径8mm、長さ8mmの六葉柱状繊維収束体を得て、生物脱臭用担体とした。この生物脱臭用担体の嵩密度は0.105g/cm、その空隙率は92%であった。
【0035】
上記で得られた六葉柱状繊維収束体からなる生物脱臭用担体を使用して、実施例1と同様に生物脱臭塔を得、この生物脱臭塔を用いた脱臭装置により被処理ガスを処理した。運転条件は、実施例1と同じにした。表2にその処理結果を示すが、活性炭素繊維が用いられていなかったため、処理結果は実施例1、2のものに比べて劣っていた。
(比較例2)
芯鞘型ポリエステル未延伸繊維100質量%の繊維をカーディングマシンで開繊、混合し、1mあたり6gのカードスライバーとした。そして、このカードスライバーから製造した最大直径25mm、長さ25mmの六葉柱状繊維収束体を得て、生物脱臭用担体とした。この生物脱臭用担体の嵩密度は0.04g/cm、その空隙率は95%であった。
【0036】
上記で得られた六葉柱状繊維収束体からなる生物脱臭用担体を使用して、実施例1と同様に生物脱臭塔を得、この生物脱臭塔を用いた脱臭装置により被処理ガスを処理した。運転条件は、実施例1と同じにした。表2にその処理結果を示すが、活性炭素繊維が用いられておらず、嵩密度が低かったため、処理結果は実施例1、2のものに比べて劣っていた。
(比較例3)
実施例1のものと同じカードスライバーを熱処理したのち切断し、外径25mm、長さ25mmの六葉柱状繊維収束体を得て、生物脱臭用担体とした。この生物脱臭用担体の嵩密度は0.035g/cm、その空隙率は96%であった。
【0037】
上記で得られた六葉柱状繊維収束体からなる生物脱臭用担体を使用して、実施例1と同様に生物脱臭塔を得、この生物脱臭塔を用いた脱臭装置により被処理ガスを処理した。運転条件は、実施例1と同じにした。表2にその処理結果を示すが、嵩密度が低かったため、処理結果は実施例1、2のものに比べて劣っていた。
【符号の説明】
【0038】
1 生物脱臭塔
2 充填層
3 散水器
4 受水槽
5 悪臭ガス導入口
6 排水口
7 排気口
11 ばっ気槽
12 側壁
13 通路
14 ばっ気槽11の覆蓋
15 ばっ気のためのブロワ
16 ばっ気槽11における散気装置
17 被処理ガス
18 吹き込み空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪臭成分を含有したガスを脱臭するための装置であって、生物脱臭用担体を充填した生物脱臭塔を備え、この生物脱臭塔はばっ気槽側壁の上段あるいはばっ気槽間の通路部の上段に設けられ、前記生物脱臭用担体は、活性炭素繊維と熱可塑性合成繊維とを含む繊維収束体であって、嵩密度0.05〜0.15g/cm、空隙率70〜98%、断面の最大直径5〜25mm、長さ5〜30mmであることを特徴とする脱臭装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−11288(P2012−11288A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148407(P2010−148407)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】