脱色活性を有するペルオキシターゼ、当該ペルオキシターゼをコードするDNA、当該ペルオキシターゼが発現可能な形態で導入された微生物、および、脱色剤の製造方法
【課題】 大腸菌を用いた大量生産可能な、脱色活性を有する新規ペルオキシターゼを提供すること。
【解決手段】 (A)又は(B)に示すタンパク質。(A)Anabaena Pcc7120のゲノミックDNA由来の特定なアミノ酸配列を有するタンパク質。(B)Anabaena Pcc7120のゲノミックDNA由来の特定なアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【解決手段】 (A)又は(B)に示すタンパク質。(A)Anabaena Pcc7120のゲノミックDNA由来の特定なアミノ酸配列を有するタンパク質。(B)Anabaena Pcc7120のゲノミックDNA由来の特定なアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシターゼに関し、特に、バクテリア由来の脱色活性を有するペルオキシターゼに関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシダーゼは過酸化水素を用いて物質の酸化反応を触媒するヘム酵素であり、高等生物から微生物に至るまで生物界に広く分布している。生体内における役割としては、代謝過程で生じる過酸化水素の除去が知られ、たとえば光合成により多量の過酸化水素が発生する植物細胞中では葉緑体に存在するアスコルビン酸ペルオキシダーゼがこれを分解・無毒化することがよく知れている。また、リグニンの生合成や分解、さらに、チロキシンその他の特定のホルモンの生合成にも関与していることも知られている。
【0003】
また、ペルオキシダーゼは、試薬としても非常によく用いられており、たとえば、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay:酵素標識免疫吸着測定法)用の標識酵素や、グルコースやコレステロールなどの生体成分の定量用酵素としても用いられている。
【0004】
さらに、近年ではペルオキシターゼの産業用酵素としての用途開発が進んでいる。たとえば、糸状菌由来のペルオキシターゼは洗剤用色移り防止酵素や着色排水の脱色酵素として大きな注目を集めてきている。特に、アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系などの有機合成染料は、褪せないことが条件であるため、難分解性化合物とならざるを得ないところ、できるだけ環境負荷のかからない、低コスト低投入エネルギーの脱色分解方法としてペルオキシターゼの利用が注目されつつある。
【0005】
【特許文献1】再公表特許WO00/50582号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のペルオキシターゼでは以下の不具合があった。
現在最も脱色能力(分解能力)が高いと報告されている糸状菌Geotrichum candidium Dec 1由来のペルオキシターゼ(以降において適宜DyPと表示することとする)は、カビ由来すなわち真核生物由来であり、かつ、糖タンパクであるので、大腸菌により効率よく生産することは極めて困難であるという問題点があった。従って、大量生産できず、また、製造単価が極めて高くなるという問題点があった。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、大腸菌を用いた大量生産可能な、脱色活性を有する新規ペルオキシターゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の蛋白質は、次の(A)又は(B)に示すタンパク質であることを特徴とする。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【0009】
また、請求項2に記載の蛋白質は、次の(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【0010】
また、請求項3に記載の微生物は、請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のDNAによりコードされる蛋白質が発現可能な形態で導入された微生物であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の微生物は、請求項3に記載の微生物において、微生物として大腸菌を用い、当該大腸菌を膜透過性付与大腸菌に調製したことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の脱色剤の製造方法は、請求項3または4に記載の微生物を培地で培養し、培養物中に脱色活性を有するペルオキシターゼを生成蓄積させ、該培養物より脱色活性を有するペルオキシターゼを採取することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の脱色剤の製造方法は、請求項3または4に記載の微生物を、5−アミノレブリン酸を添加した培地で培養し、培養物中に脱色活性を有するペルオキシターゼを生成蓄積させ、該培養物より脱色活性を有するペルオキシターゼを採取することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大腸菌を用いた大量生産可能な、脱色活性を有する新規ペルオキシターゼないし脱色剤を得ることができる。なお、バクテリア由来のペルオキシターゼは無いとされていたところ、本発明は数少ない例外報告例となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
(大腸菌の形質転換)
まず、Anabaena PCC7120のゲノミックDNAを抽出した。続いて、PCR法を用いて、alr1585遺伝子を増幅した。このとき用いたプライマーの配列を配列番号3および配列番号4に示す。増幅に際しては、余分なPCR断片が増幅しないように、あらかじめゲノミックDNAを制限酵素(Hpa I,Cla I)処理し、Taq polymeraseとしてTaKaRa Ex Taqを用いた。なお、アニーリング温度は40℃と設定した。PCR産物の電気泳動像を図1に示す。ここで、目的のサイズである約1500bpの単一バンドが確認できた。
【0016】
続いて、PCRにより増幅させたDNA断片を、発現用ベクターであるpUC18のEcoRIサイト並びにPstIサイトへ挿入した。これを、大腸菌 MV1184株にトランスフォーメーションした。形質転換した大腸菌中のプラスミドの塩基配列を実際に確認して、目的のalr1585の挿入を確認した。確認には、ABI PRSM 3100 Genetic Analyzerを用いた。また、別途制限酵素処理によっても挿入を確認した。このときの電気泳動図を図2に示す。
【0017】
(Anabaena PCC7120alr1585由来タンパク質の発現確認および精製)
次に、タンパク質を精製すると共に発現を確認した。具体的には、まず、形質転換された大腸菌を、LB培地中で37℃で1晩培養した。このとき、培地へIPTG(isopropyl-thio-β-D-galactoside)を添加して、目的タンパク質を誘導した。目的タンパク質以外にも大腸菌由来の夾雑タンパク質が多く存在するため、精製により発現を確認することとした。
【0018】
精製に関しては、まず、リコンビナント大腸菌をフレンチプレスにより破砕し、DEAE-Toyopearlイオン交換クロマトグラフィー(東ソー株式会社製)、Butyl-Toyopearl疎水性クロマトグラフィー(東ソー株式会社製)、Superdex200ゲル濾過クロマトグラフィー(アマシャムバイオサイエンス株式会社製)をおこなうことにより、均一にまで精製した。図3は、SDS-PAGE電気泳動法により精製を確認した図である。また、SDS-PAGEの結果より、分子量マーカーからキャリブレーションカーブを作成したところ、分子量が約54kDaであった(図4参照)。MALDI-TOF−Massスペクトル解析による分子量は53.3kDaであった(図5参照)。これらの値は、アミノ酸配列(配列番号2参照)から求めた計算分子量53,499Daとよく一致した。以上から、目的タンパク質が得られたことが確認できた。
【0019】
一方、ゲル濾過により、ネイティブ分子量の測定を行ったところ、210KDaであり、このタンパク質は、四量体構造であることが確認できた。なお、以降ではこのタンパク質をalr1585タンパク質と称することとする。
【0020】
(alr1585タンパク質の性質)
次に、精製されたalr1585タンパク質のペルオキシダーゼとしての基質特異性を調べた。図6に、alr1585タンパク質の基質特異性を測定した結果を示す。なお、植物由来のペルオキシターゼとしてよく知られているHRP(Horseradish roots peroxidase:西洋わさびペルオキシターゼ)と比較した。測定に際して使用した過酸化水素水濃度は、0.2〜0.6mMであり、酵素を添加することで反応を開始させた。また、反応温度は、37℃とした。なお、pHは4.0に調整した。
【0021】
図から明らかなようにalr1585タンパク質は、ペルオキシターゼ活性を示し、HRPと比較して、Ascorbate(AsA)、D-iso-AsA、NADH、NADPH、4-aminoantipyrine、および、Reactive Blue5に対して良好な反応性を示すことがわかった。
【0022】
なお、alr1585タンパク質がカタラーゼ活性を有するか、すなわち、ペルオキシターゼであるのか、それとも、カタラーゼペルオキシターゼであるのかを検討した。図7に、各精製過程におけるカタラーゼ活性とペルオキシターゼ活性とを測定した結果を示した。図から明らかなように、精製するにつけカタラーゼ活性は低くなり、ペルオキシターゼ活性が大きくなっていく様子が確認できる。すなわち、alr1585タンパク質は、カタラーゼ活性を持たない、バクテリア由来(原核生物由来)の新規なペルオキシターゼであることが確認できた。
【0023】
図8は、alr1585タンパク質の吸収スペクトルを示した図である。波長λ=404nmにヘム特有の吸収が確認されたことから、alr1585タンパク質は、ヘムタンパク質であることが確認できた。ヘムタンパク質である事実に基づいて、大腸菌をトランスフォーメーションする際に、培地に、ヘムの原料物質である5―アミノレブリン酸を添加したところ、alr1585タンパク質の発現量が20〜30%増大することが確認できた。なお、吸収スペクトルのRz(λ408/λ280)値を比較したところ、alr1585タンパク質は、Rz=1.3であり、HRPのRz値3.0とも大きく相違し、この点からもalr1585タンパク質は新規なペルオキシターゼであることが確認できた。
【0024】
(alr1585タンパク質の性質:脱色活性)
続いて、alr1585タンパク質の脱色活性を調べることとした。色素としては、Reactive Blue 5(RB5)を用いることとした。反応組成を図9に示す。脱色活性の評価は、37℃における600nmの吸光度の減少から算出することとし、1ユニットを、1分で1μmolのRB5を脱色した酵素量として定義することとした。図10に、ユニット計算式を示す。
【0025】
まず、至適pHを検討した。図11は、alr1585タンパク質とHRPの至適pHを検討した結果を示した図である。図から明らかなように、alr1585タンパク質は、至適pHが4.0で、HRPの至適pHである3.8と比較して中性寄りであり、かつ、広いレンジにわたって活性が高いことが確認できた。
【0026】
次に、25℃〜45℃の範囲の活性を調べることにより最適温度を測定した。図12は、最適温度を調べた結果を示した図である。図からalr1585タンパク質の最適温度は、37℃付近であることが確認できた。また、検討した25℃〜45℃の範囲でも、HRPと比較しても同等程度の活性を有することが確認できた。
【0027】
次に、alr1585タンパク質の温度安定性を測定した。これは、alr1585タンパク質を30分間所定温度に保った後、37℃、pH3.8雰囲気下の活性を測定することにより検討した。検討結果を図13に示す。図示したように、30℃または40℃では、活性が長期間にわたり損なわれないことが確認できたが、50℃を超えると1時間程度で活性が半減してしまうことが分かった。
【0028】
次に、過酸化水素水耐性を検討した。これは、alr1585タンパク質およびHRPを37℃pH3.8雰囲気下で所定濃度の過酸化水素水に30分さらした後の活性を測定することによりおこなった。測定結果を図14に示す。図示したように、HRPに比して、過酸化水素水耐性が高いことが確認できた。
【0029】
次に、RB5を基準として各種色素に対して、脱色活性を測定した。測定結果を図15に示す。図示したように、種々の色素に対して脱色活性が見られた。従って、alr1585タンパク質は、脱色酵素として使用でき、脱色活性を有するペルオキシターゼであることが確認できた。
【0030】
なお、過酸化水素水に対するKm値を測定したところ、HRPやDyPの値がそれぞれ26μM、36μMであったのに対し、alr1585タンパク質の値は5.8μMであり、過酸化水素水との親和性が非常に高いことが確認できた。また、RB5に対するKm値を測定したところ、HRPやDyP(参考文献1記載のペルオキシターゼ)の値がそれぞれ54μM、58μMであったのに対し、alr1585タンパク質の値は3.6μMであり、RB5に対しても非常に親和性が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、染料工場廃水を脱色することができる。また、髪の脱色剤としての応用も可能となる。なお、廃水の脱色に際しては、精製まで至らない大腸菌を用いることもできる。このとき、膜透過性を付与した大腸菌が好ましく、廃液に投入して使用可能である。なお、膜透過性付与大腸菌はトルエン処理することにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】PCR産物の電気泳動像を示した図である。
【図2】DNA断片がpUC18へ組み込まれたことを確認する電気泳動図である。
【図3】SDS-PAGE電気泳動法により精製を確認した図である。
【図4】SDS-PAGEの結果より、分子量マーカーからキャリブレーションカーブを作成した様子を示した図である。
【図5】TOF−Massスペクトルを示した図である。
【図6】alr1585タンパク質の基質特異性を調べた結果を示した図である。
【図7】alr1585タンパク質の各精製過程におけるカタラーゼ活性とペルオキシターゼ活性とを測定した結果を示した図である。
【図8】alr1585タンパク質の吸収スペクトルを示した図である。
【図9】RB5を用いた脱色活性を測定する際の反応組成を示した図である。
【図10】脱色活性を判定するユニットの計算式を示した図である。
【図11】alr1585タンパク質とHRPの至適pHを検討した結果を示した図である。
【図12】alr1585タンパク質の最適温度を調べた結果を示した図である。
【図13】alr1585タンパク質の温度安定性を測定した結果を示した図である。
【図14】alr1585タンパク質の過酸化水素水耐性を検討した結果を示した図である。
【図15】alr1585タンパク質の各種色素に対する脱色活性をRB5を基準として比較した測定図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシターゼに関し、特に、バクテリア由来の脱色活性を有するペルオキシターゼに関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシダーゼは過酸化水素を用いて物質の酸化反応を触媒するヘム酵素であり、高等生物から微生物に至るまで生物界に広く分布している。生体内における役割としては、代謝過程で生じる過酸化水素の除去が知られ、たとえば光合成により多量の過酸化水素が発生する植物細胞中では葉緑体に存在するアスコルビン酸ペルオキシダーゼがこれを分解・無毒化することがよく知れている。また、リグニンの生合成や分解、さらに、チロキシンその他の特定のホルモンの生合成にも関与していることも知られている。
【0003】
また、ペルオキシダーゼは、試薬としても非常によく用いられており、たとえば、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay:酵素標識免疫吸着測定法)用の標識酵素や、グルコースやコレステロールなどの生体成分の定量用酵素としても用いられている。
【0004】
さらに、近年ではペルオキシターゼの産業用酵素としての用途開発が進んでいる。たとえば、糸状菌由来のペルオキシターゼは洗剤用色移り防止酵素や着色排水の脱色酵素として大きな注目を集めてきている。特に、アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系などの有機合成染料は、褪せないことが条件であるため、難分解性化合物とならざるを得ないところ、できるだけ環境負荷のかからない、低コスト低投入エネルギーの脱色分解方法としてペルオキシターゼの利用が注目されつつある。
【0005】
【特許文献1】再公表特許WO00/50582号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のペルオキシターゼでは以下の不具合があった。
現在最も脱色能力(分解能力)が高いと報告されている糸状菌Geotrichum candidium Dec 1由来のペルオキシターゼ(以降において適宜DyPと表示することとする)は、カビ由来すなわち真核生物由来であり、かつ、糖タンパクであるので、大腸菌により効率よく生産することは極めて困難であるという問題点があった。従って、大量生産できず、また、製造単価が極めて高くなるという問題点があった。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、大腸菌を用いた大量生産可能な、脱色活性を有する新規ペルオキシターゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の蛋白質は、次の(A)又は(B)に示すタンパク質であることを特徴とする。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【0009】
また、請求項2に記載の蛋白質は、次の(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【0010】
また、請求項3に記載の微生物は、請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のDNAによりコードされる蛋白質が発現可能な形態で導入された微生物であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の微生物は、請求項3に記載の微生物において、微生物として大腸菌を用い、当該大腸菌を膜透過性付与大腸菌に調製したことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の脱色剤の製造方法は、請求項3または4に記載の微生物を培地で培養し、培養物中に脱色活性を有するペルオキシターゼを生成蓄積させ、該培養物より脱色活性を有するペルオキシターゼを採取することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の脱色剤の製造方法は、請求項3または4に記載の微生物を、5−アミノレブリン酸を添加した培地で培養し、培養物中に脱色活性を有するペルオキシターゼを生成蓄積させ、該培養物より脱色活性を有するペルオキシターゼを採取することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大腸菌を用いた大量生産可能な、脱色活性を有する新規ペルオキシターゼないし脱色剤を得ることができる。なお、バクテリア由来のペルオキシターゼは無いとされていたところ、本発明は数少ない例外報告例となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
(大腸菌の形質転換)
まず、Anabaena PCC7120のゲノミックDNAを抽出した。続いて、PCR法を用いて、alr1585遺伝子を増幅した。このとき用いたプライマーの配列を配列番号3および配列番号4に示す。増幅に際しては、余分なPCR断片が増幅しないように、あらかじめゲノミックDNAを制限酵素(Hpa I,Cla I)処理し、Taq polymeraseとしてTaKaRa Ex Taqを用いた。なお、アニーリング温度は40℃と設定した。PCR産物の電気泳動像を図1に示す。ここで、目的のサイズである約1500bpの単一バンドが確認できた。
【0016】
続いて、PCRにより増幅させたDNA断片を、発現用ベクターであるpUC18のEcoRIサイト並びにPstIサイトへ挿入した。これを、大腸菌 MV1184株にトランスフォーメーションした。形質転換した大腸菌中のプラスミドの塩基配列を実際に確認して、目的のalr1585の挿入を確認した。確認には、ABI PRSM 3100 Genetic Analyzerを用いた。また、別途制限酵素処理によっても挿入を確認した。このときの電気泳動図を図2に示す。
【0017】
(Anabaena PCC7120alr1585由来タンパク質の発現確認および精製)
次に、タンパク質を精製すると共に発現を確認した。具体的には、まず、形質転換された大腸菌を、LB培地中で37℃で1晩培養した。このとき、培地へIPTG(isopropyl-thio-β-D-galactoside)を添加して、目的タンパク質を誘導した。目的タンパク質以外にも大腸菌由来の夾雑タンパク質が多く存在するため、精製により発現を確認することとした。
【0018】
精製に関しては、まず、リコンビナント大腸菌をフレンチプレスにより破砕し、DEAE-Toyopearlイオン交換クロマトグラフィー(東ソー株式会社製)、Butyl-Toyopearl疎水性クロマトグラフィー(東ソー株式会社製)、Superdex200ゲル濾過クロマトグラフィー(アマシャムバイオサイエンス株式会社製)をおこなうことにより、均一にまで精製した。図3は、SDS-PAGE電気泳動法により精製を確認した図である。また、SDS-PAGEの結果より、分子量マーカーからキャリブレーションカーブを作成したところ、分子量が約54kDaであった(図4参照)。MALDI-TOF−Massスペクトル解析による分子量は53.3kDaであった(図5参照)。これらの値は、アミノ酸配列(配列番号2参照)から求めた計算分子量53,499Daとよく一致した。以上から、目的タンパク質が得られたことが確認できた。
【0019】
一方、ゲル濾過により、ネイティブ分子量の測定を行ったところ、210KDaであり、このタンパク質は、四量体構造であることが確認できた。なお、以降ではこのタンパク質をalr1585タンパク質と称することとする。
【0020】
(alr1585タンパク質の性質)
次に、精製されたalr1585タンパク質のペルオキシダーゼとしての基質特異性を調べた。図6に、alr1585タンパク質の基質特異性を測定した結果を示す。なお、植物由来のペルオキシターゼとしてよく知られているHRP(Horseradish roots peroxidase:西洋わさびペルオキシターゼ)と比較した。測定に際して使用した過酸化水素水濃度は、0.2〜0.6mMであり、酵素を添加することで反応を開始させた。また、反応温度は、37℃とした。なお、pHは4.0に調整した。
【0021】
図から明らかなようにalr1585タンパク質は、ペルオキシターゼ活性を示し、HRPと比較して、Ascorbate(AsA)、D-iso-AsA、NADH、NADPH、4-aminoantipyrine、および、Reactive Blue5に対して良好な反応性を示すことがわかった。
【0022】
なお、alr1585タンパク質がカタラーゼ活性を有するか、すなわち、ペルオキシターゼであるのか、それとも、カタラーゼペルオキシターゼであるのかを検討した。図7に、各精製過程におけるカタラーゼ活性とペルオキシターゼ活性とを測定した結果を示した。図から明らかなように、精製するにつけカタラーゼ活性は低くなり、ペルオキシターゼ活性が大きくなっていく様子が確認できる。すなわち、alr1585タンパク質は、カタラーゼ活性を持たない、バクテリア由来(原核生物由来)の新規なペルオキシターゼであることが確認できた。
【0023】
図8は、alr1585タンパク質の吸収スペクトルを示した図である。波長λ=404nmにヘム特有の吸収が確認されたことから、alr1585タンパク質は、ヘムタンパク質であることが確認できた。ヘムタンパク質である事実に基づいて、大腸菌をトランスフォーメーションする際に、培地に、ヘムの原料物質である5―アミノレブリン酸を添加したところ、alr1585タンパク質の発現量が20〜30%増大することが確認できた。なお、吸収スペクトルのRz(λ408/λ280)値を比較したところ、alr1585タンパク質は、Rz=1.3であり、HRPのRz値3.0とも大きく相違し、この点からもalr1585タンパク質は新規なペルオキシターゼであることが確認できた。
【0024】
(alr1585タンパク質の性質:脱色活性)
続いて、alr1585タンパク質の脱色活性を調べることとした。色素としては、Reactive Blue 5(RB5)を用いることとした。反応組成を図9に示す。脱色活性の評価は、37℃における600nmの吸光度の減少から算出することとし、1ユニットを、1分で1μmolのRB5を脱色した酵素量として定義することとした。図10に、ユニット計算式を示す。
【0025】
まず、至適pHを検討した。図11は、alr1585タンパク質とHRPの至適pHを検討した結果を示した図である。図から明らかなように、alr1585タンパク質は、至適pHが4.0で、HRPの至適pHである3.8と比較して中性寄りであり、かつ、広いレンジにわたって活性が高いことが確認できた。
【0026】
次に、25℃〜45℃の範囲の活性を調べることにより最適温度を測定した。図12は、最適温度を調べた結果を示した図である。図からalr1585タンパク質の最適温度は、37℃付近であることが確認できた。また、検討した25℃〜45℃の範囲でも、HRPと比較しても同等程度の活性を有することが確認できた。
【0027】
次に、alr1585タンパク質の温度安定性を測定した。これは、alr1585タンパク質を30分間所定温度に保った後、37℃、pH3.8雰囲気下の活性を測定することにより検討した。検討結果を図13に示す。図示したように、30℃または40℃では、活性が長期間にわたり損なわれないことが確認できたが、50℃を超えると1時間程度で活性が半減してしまうことが分かった。
【0028】
次に、過酸化水素水耐性を検討した。これは、alr1585タンパク質およびHRPを37℃pH3.8雰囲気下で所定濃度の過酸化水素水に30分さらした後の活性を測定することによりおこなった。測定結果を図14に示す。図示したように、HRPに比して、過酸化水素水耐性が高いことが確認できた。
【0029】
次に、RB5を基準として各種色素に対して、脱色活性を測定した。測定結果を図15に示す。図示したように、種々の色素に対して脱色活性が見られた。従って、alr1585タンパク質は、脱色酵素として使用でき、脱色活性を有するペルオキシターゼであることが確認できた。
【0030】
なお、過酸化水素水に対するKm値を測定したところ、HRPやDyPの値がそれぞれ26μM、36μMであったのに対し、alr1585タンパク質の値は5.8μMであり、過酸化水素水との親和性が非常に高いことが確認できた。また、RB5に対するKm値を測定したところ、HRPやDyP(参考文献1記載のペルオキシターゼ)の値がそれぞれ54μM、58μMであったのに対し、alr1585タンパク質の値は3.6μMであり、RB5に対しても非常に親和性が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、染料工場廃水を脱色することができる。また、髪の脱色剤としての応用も可能となる。なお、廃水の脱色に際しては、精製まで至らない大腸菌を用いることもできる。このとき、膜透過性を付与した大腸菌が好ましく、廃液に投入して使用可能である。なお、膜透過性付与大腸菌はトルエン処理することにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】PCR産物の電気泳動像を示した図である。
【図2】DNA断片がpUC18へ組み込まれたことを確認する電気泳動図である。
【図3】SDS-PAGE電気泳動法により精製を確認した図である。
【図4】SDS-PAGEの結果より、分子量マーカーからキャリブレーションカーブを作成した様子を示した図である。
【図5】TOF−Massスペクトルを示した図である。
【図6】alr1585タンパク質の基質特異性を調べた結果を示した図である。
【図7】alr1585タンパク質の各精製過程におけるカタラーゼ活性とペルオキシターゼ活性とを測定した結果を示した図である。
【図8】alr1585タンパク質の吸収スペクトルを示した図である。
【図9】RB5を用いた脱色活性を測定する際の反応組成を示した図である。
【図10】脱色活性を判定するユニットの計算式を示した図である。
【図11】alr1585タンパク質とHRPの至適pHを検討した結果を示した図である。
【図12】alr1585タンパク質の最適温度を調べた結果を示した図である。
【図13】alr1585タンパク質の温度安定性を測定した結果を示した図である。
【図14】alr1585タンパク質の過酸化水素水耐性を検討した結果を示した図である。
【図15】alr1585タンパク質の各種色素に対する脱色活性をRB5を基準として比較した測定図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)又は(B)に示すタンパク質。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【請求項2】
下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のDNAによりコードされる蛋白質が発現可能な形態で導入された微生物。
【請求項4】
微生物として大腸菌を用い、当該大腸菌を膜透過性付与大腸菌に調製したことを特徴とする請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の微生物を培地で培養し、培養物中に脱色活性を有するペルオキシターゼを生成蓄積させ、該培養物より脱色活性を有するペルオキシターゼを採取することを特徴とする脱色剤の製造方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の微生物を、5−アミノレブリン酸を添加した培地で培養し、培養物中に脱色活性を有するペルオキシターゼを生成蓄積させ、該培養物より脱色活性を有するペルオキシターゼを採取することを特徴とする脱色剤の製造方法。
【請求項1】
下記(A)又は(B)に示すタンパク質。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【請求項2】
下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ペルオキシターゼ活性および脱色活性を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のDNAによりコードされる蛋白質が発現可能な形態で導入された微生物。
【請求項4】
微生物として大腸菌を用い、当該大腸菌を膜透過性付与大腸菌に調製したことを特徴とする請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の微生物を培地で培養し、培養物中に脱色活性を有するペルオキシターゼを生成蓄積させ、該培養物より脱色活性を有するペルオキシターゼを採取することを特徴とする脱色剤の製造方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の微生物を、5−アミノレブリン酸を添加した培地で培養し、培養物中に脱色活性を有するペルオキシターゼを生成蓄積させ、該培養物より脱色活性を有するペルオキシターゼを採取することを特徴とする脱色剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−61063(P2006−61063A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246751(P2004−246751)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月29日 社団法人日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会2004年度(平成16年度)大会」において文書をもって発表
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月29日 社団法人日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会2004年度(平成16年度)大会」において文書をもって発表
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]