説明

脱酸素剤包装体

【課題】 マイクロ波を照射しても包装材料が破けたり火花が飛ぶことのない、かつ酸素吸収性能に優れた脱酸素剤包装体を提供する。
【解決手段】 酸素吸収剤組成物を包装してなる脱酸素剤包装体において、該包装材料を構成する部材または層状の酸素吸収剤組成物の少なくとも片面に導電性不織布をもちいることを特徴とする脱酸素剤包装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素剤を袋内に収納してなる脱酸素剤包装体に関する。本発明の脱酸素剤包装体は、包装された食品をそのまま電子レンジを用いて加熱調理や解凍を行う、電子レンジ加熱調理用食品の品質保持に使用される。
【背景技術】
【0002】
物品の保存方法の一つとして、脱酸素剤を用いた保存技術が確立され、多種多様な物品へ適用範囲が拡大している。脱酸素剤を用いた保存技術とは、物品を包装した容器内に脱酸素剤を同封し、容器内の酸素を除去して嫌気状態に保つことにより、食品、飲料、医薬品、医療品、化粧品、金属製品および電子製品に代表される、酸素の影響を受けて変質あるいは劣化し易い各種物品の酸素酸化を防止し、これらの品質を長期に保持するものである。この脱酸素剤の形態は、粉状また粒状もしくはシート状の鉄粉やアスコルビン酸などの酸素吸収剤組成物を通気性の包装材料からなる小袋に収納したものであり、これらは脱酸素剤包装体と呼ばれる。
【0003】
一方、電子レンジの普及に伴い、包装された食品をそのまま電子レンジを用いてマイクロ波を照射し、加熱調理したり解凍したりすることが一般化している。消費者向けに、電子レンジ加熱調理用として予備調理した多種の包装食品が販売されている。また、食品製造業者、流通業者および販売業者等では、冷蔵または冷凍保存することにより食品の品質劣化を防止しつつ、生産と在庫を調整し、マイクロ波照射による加熱調理または解凍を行い、出荷あるいは消費者へ提供することも行われている。加えて、殺菌、酵素の失活および害虫駆除等を目的として、マイクロ波照射による食品の保存方法も注目されている。
【0004】
電子レンジ加熱調理用食品の普及に伴いその保存性の向上が望まれ、電子レンジ加熱調理用包装食品への脱酸素剤の適用は益々重要性が増している。この場合、電子レンジ加熱調理用包装食品は、調理に際し包装容器から同封した脱酸素剤包装体を一々取り除くことなく、そのまま電子レンジでマイクロ波を照射できることが望ましい。
【0005】
しかしながら、一般に用いられる小袋型の脱酸素剤包装体にマイクロ波を照射すると、小袋が破袋して酸素吸収剤組成物が噴出し、食品等が汚染されてしまうことが起こる問題があった。これは、マイクロ波の大部分が脱酸素剤包装体の包装材料を透過して内部の酸素吸収剤組成物に吸収され、酸素吸収剤組成物の急速な発熱を招き、包装材料が焼損したり、酸素吸収剤組成物に含まれる水分が急速に気化膨張したりするためである。
【0006】
そこで、小袋型の脱酸素剤包装体の包装材料を金属箔等の導電性の層を有するものにすることにより、マイクロ波を反射して酸素吸収剤組成物が発熱しない工夫がなされている(特許文献1)。しかし、この方法では、マイクロ波照射により包装材料の金属箔内に渦電流が生じ、包材の端部から火花が飛ぶことがあった。
【0007】
また、鉄粉と粉末フィラ−を混合した脱酸素剤組成物を通気性包装材料に充填したマイクロ波照射食品用脱酸素剤包装体が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この脱酸素剤包装体は、渦電流を生じないように鉄粉をフィラ−で希釈することによりマイクロ波耐性の向上を図るものであり、体積当たりの酸素吸収量が低い問題があった。さらに、粉体の脱酸素剤内容物の取扱いに難があり、充填包装する際に汚れ等が生じ易い問題、および脱酸素剤を長期間保存すると固化してマイクロ波耐性が低下する等の問題があった。
【0008】
また、鉄系脱酸素剤組成物と熱可塑性樹脂とからなる脱酸素シートを通気性包材で被覆した、電子レンジ調理用食品包装体用の脱酸素剤包装体が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この脱酸素シートは、酸素吸収剤が比較的多量の樹脂中に分散しているため、体積当たりの酸素吸収速度と酸素吸収性量が著しく低い問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−82967号公報
【特許文献2】特開平2−413号公報
【特許文献3】特開平8−198342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術における上記の課題を解決し、電子レンジでマイクロ波を照射しても全く問題がなく、かつ酸素吸収性能に優れた脱酸素剤包装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、電子レンジ加熱調理食品用の脱酸素剤包装体について鋭意研究を重ねた結果、導電性不織布を構成の一部とする包装材料で酸素吸収剤組成物を包めば、酸素吸収性能を低下させることなく、マイクロ波照射によって包装材料が破けたり火花が飛ぶようなことが無くなることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明は、酸素吸収剤組成物を包装してなる脱酸素剤包装体において、該包装材料を構成する部材または層状の酸素吸収剤組成物の少なくとも片面に導電性不織布をもちいることを特徴とする脱酸素剤包装体である。また、好ましい態様においては、前記導電性不織布が、金属を被覆した合成繊維であること、前記酸素吸収剤組成物が、鉄粉を主剤とするものである脱酸素剤包装体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の脱酸素剤包装体は、食品等の被加熱物または被殺菌物と一緒に包装された状態のまま電子レンジでマイクロ波を照射しても全く問題がなく、かつ酸素吸収性能に優れる。本発明の脱酸素剤包装体を用いて保存された食品を購入した消費者は、簡便に電子レンジでマイクロ波を照射し、加熱調理または解凍し、食することができる。加えて、食品製造業者、流通業者および販売業者等は、生産と在庫の調整が容易になり、しかも解凍後も脱酸素剤の効果により品質を保持できる。さらに、本発明の脱酸素剤包装体と食品を包装した容器の外部よりマイクロ波を照射することにより殺菌、酵素の失活および害虫駆除等を実施し、その後の保存流通時には脱酸素剤の効果により食品の品質を保持することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、酸素吸収剤組成物の包装材料を構成する部材に導電性不織布を用いること、または層状の酸素吸収剤組成物の少なくとも片面に導電性不織布をもちいることを特徴とする脱酸素剤包装体である。
導電性不織布は、酸素吸収性組成物が粉状または粒状ならびにシート状の場合には、これらの個体を収納する小袋形状の包装材料を構成する一部となる。導電性不織布は、脱酸素剤包装体の多層化された包装材料のどの層の位置に配置しても良いが、熱シール性を考慮すれば最内層を除く最外層または中間層の位置に配置するのが好ましい。さらに、導電性不織布で従来の脱酸素剤包装体をさらに二重に包装してもよい。あるいは導電性不織布の層を有する脱酸素剤包装体を、さらに他の通気性包装材料を用いて二重に包装しても良い。また、導電性不織布を脱酸素剤包装体の袋の片面のみに使用し、他方の面に従来用いられていた微多孔膜などの耐水性包装材料を使用することも可能である。ただし、この場合はマイクロ波が導電性不織布を用いた面から当たるように使用する必要がある。
【0014】
また、本発明は、層状の酸素吸収剤組成物を用いる場合、少なくとも片面に導電性不織布をもちいることからなる脱酸素剤包装体である。これは、例えば、鉄粉を含む粘稠な液体を導電性不織布上に塗布し、塗布面を導電性不織布で覆い、乾燥することにより得られる。この鉄粉を主とする酸素吸収性組成物が不織布に挟まれた構成が、包装機を用いた脱酸素剤包装体の製造には最も適しているが、塗布面を導電性不織布で覆わない片面不織布の構成にすることもできる。また、片面を通常の絶縁性不織布にすることも、あるいは片面を紙やプラスチック等の基材にすることも可能である。ただし、この場合はマイクロ波が導電性不織布を用いた面から当たるように使用する必要がある。
【0015】
本発明の導電性不織布は、導電性を有してマイクロ波を反射する不織布であり、不織布の合成繊維の表面を金属で被覆することにより得られる。また、不織布の繊維にカーボンブラック、金属、金属酸化物などの微粒子を大量に含ませることにより得ることもできる。不織布の合成繊維の表面を金属で被覆する方法として、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、衝撃めっき、真空蒸着、スパッタリングおよび化学蒸着などがあげられる。金属の種類としては、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル等があげられ、抗菌性を有する銀が最も好ましい。
【0016】
本発明の酸素吸収組成物としては、鉄粉や銅粉などの金属粉、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、第一鉄塩、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、没食子酸、ロンガリット、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、イソアスコルビン酸、イソアスコルビン酸塩、ソルボース、グルコースおよびリグニン等が用いられる。これらの中で好ましくは、鉄粉およびをアスコルビン酸塩が用いられる。
【0017】
また、鉄粉等の粉体の酸素吸収剤組成物は、繊維状樹脂等で固めて基材と一体となったシート形状に加工しても用いられる。繊維状樹脂は、適度な剪断力を与えることによって極微細な繊維状になり、鉄粉等の粉体を物理的に結束できるポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂が好ましい。さらに化学的接着力を有する種々のセルロース誘導体やポリビニルアルコール等の合成高分子等を結合剤として加えることもできる。このシート状の基材と一体となった酸素吸収剤組成物は、鉄粉等の粉体と繊維状樹脂等および溶剤等を混合して得られる粘稠な液体を、紙や不織布等の基材上に塗布し、必要に応じて塗布面を別の基材で覆い、乾燥することにより作製できる。ここで、鉄粉等の粉体を固める繊維状樹脂等は、極微細化することにより極めて少量で有効に働くため、シート中の酸素吸収剤の含有量を多くすることができる。従って、本発明の脱酸素剤包装体は、鉄粉と粉末フィラ−を混合した脱酸素剤組成物および鉄系脱酸素剤組成物と熱可塑性樹脂とからなる脱酸素シートを通気性包装材料に充填したマイクロ波照射食品用脱酸素剤包装体に比べ、優れた酸素吸収性能を示す。
【0018】
本発明の脱酸素剤包装体が適用される食品は、半調理、調理食品をはじめ、電子レンジで加熱調理に供される各種食品である。例えば、赤飯、チャ−ハン、炊飯米、まぜご飯等で例示される米麦加工食品、ハンバ−グ、ナゲット、コロッケ、一口カツ、アメリカンドッグ、各種フライ等の揚物類、魚の焼物、蒸し物、包み焼、角煮等で代表される水産加工食品、ギョウザ、シュウマイ等の蒸し物類、煮豆、たまごやき、煮物、空揚げ、野菜炒め等で代表される惣菜類、いかの一夜干し、ウインナ焼、枝豆、ヤキトリ等で代表される生珍味類、パイ菓子、どら焼、饅頭、等で代表される和洋菓子類や焼き芋、焼きそば、焼うどん、スパゲッティ、等で例示される各種麺類、カレ−、シチュ−等で代表されるレトルト食品類等、マイクロ波照射による加熱、調理が有効な食品が挙げられる。特に、予備調理された惣菜類、生珍味類、揚物等の食品は、家庭で電子レンジにより加熱調理されて食卓に供されることが多く、本発明による電子レンジ食品包装体として有効に利用できる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例と比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0020】
実施例1
(1.酸素吸収剤組成物の調製)
乾燥後に酸素吸収剤組成物となる塗工液として、鉄粉を含む粘稠な液体を調製した。
この塗工液は、平均粒径70μmの鉄粉100重量部、ポリテトラフルオロエチレン2重量部、メチルセルロース2重量部、活性炭2重量部、塩化カルシウム1重量部および水60重量部の組成からなり、先に鉄粉とポリテトラフルオロエチレンを混合した後に、他の成分と合わせて混合することにより得た。混合には二軸遊星式混合機を用いた。
【0021】
(2.酸素吸収剤シートの作製)
調製した塗工液を不織布にドクターブレードを用いて塗布し、さらに別の不織布を被せ、減圧乾燥機を用いて乾燥することにより、厚みが約250μmの酸素吸収剤組成物が不織布で挟まれた酸素吸収剤シートを作製した。ここで、始めに塗布された不織布には目付60g/mで厚み210μmのポリエステル不織布(ユニチカ(株)製、商品名「マリックス(70600WTO)」)を用い、被せた不織布は目付50g/m2で厚み360μmの銀被覆繊維からなる導電性不織布(三菱マテリアル(株)製、商品名「エミクロス」)を用いた。
【0022】
(3.脱酸素剤包装体の作製)
作製した酸素吸収剤シートを20mm×20mmの四角形に打ち抜き、これを40mm×40mmの袋状の通気性包装材料に入れることにより、脱酸素剤包装体を作製した。通気性包装材料は、ガーレー式透気度が15秒/100mLで、和紙と有孔ポリエチレンフィルムを積層接着した袋の外側を、さらにポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムを積層接着し穿孔した袋で覆ったものを用いた。なお、この脱酸素剤包装体は、温度25℃・湿度100%RHの条件において、24hで32mLの酸素を吸収した。
【0023】
(4.電子レンジ耐性の評価)
作製した脱酸素剤包装体の電子レンジ耐性を評価した。すなわち、銀被覆の導電性不織布を構成の一部とする鉄系脱酸素剤包装体を、導電性不織布を用いた面を上にして、出力500Wの電子レンジ(三菱電機(株)製、商品名「RR−S2」)に入れ、マイクロ波を照射し、脱酸素剤包装体の外観の変化を目視により観察した。この脱酸素剤包装体はマイクロ波を5分以上照射しても変化が無かった。
【0024】
実施例2
実施例1の銀被覆繊維からなる導電性不織布に代えて、目付量が32g/mで厚みが70μmのニッケル被覆の不織布(セーレン(株)製、導電性繊維(Sui−80−301))を用いた以外は実施例1と同様にして脱酸素剤包装体を作製し、実施例1と同様にマイクロ波を照射し、その電子レンジ耐性を評価した。この脱酸素剤包装体はマイクロ波を5分以上照射しても変化が無かった。
【0025】
比較例1
実施例1の銀被覆繊維からなる導電性不織布に代えて、目付量60g/mで厚み200μmの電気絶縁性ポリエステル不織布(ユニチカ(株)製、商品名「マリックス(70600WTO)」)を用いた以外は実施例1と同様にして脱酸素剤包装体を作製し、実施例1と同様にマイクロ波を照射し、その電子レンジ耐性を評価した。この脱酸素剤包装体はマイクロ波を照射後5〜10秒で火花が発生し、煙を出して燃えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素吸収剤組成物を包装してなる脱酸素剤包装体において、該包装材料を構成する部材または層状の酸素吸収剤組成物の少なくとも片面に導電性不織布をもちいることを特徴とする脱酸素剤包装体。
【請求項2】
前記導電性不織布が、金属を被覆した合成繊維である請求項1記載の脱酸素剤包装体。
【請求項3】
前記酸素吸収剤組成物が、鉄粉を主剤とするものである請求項1記載の脱酸素剤包装体。

【公開番号】特開2008−213862(P2008−213862A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50965(P2007−50965)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】