説明

脳機能改善用組成物および脳機能を改善する方法

【課題】脳機能を改善するための低用量で経口摂取可能な組成物および方法を提供する。
【解決手段】X-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(式中Xは存在しないか、またはProを表す)またはその塩を有効成分とする、脳機能改善用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能を改善するための組成物および脳機能を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳機能の低下に起因する症状及び疾患には、うつ病、統合失調症、せん妄、認知症(脳血管性認知症、アルツハイマー病など)などがある。現代社会の高齢化に伴って、特に認知症患者の増加は大きな社会問題となってきている。認知症の症状は人によって様々であるが、共通して見られる症状としては、記憶障害、見当識障害、判断力・思考力の低下などが挙げられる。認知症の中で患者数の多いのは脳血管性認知症とアルツハイマー病である。例えば、脳血管性認知症は、脳血流障害により大脳皮質や海馬の神経細胞が損傷されるために認知・記憶障害が現れる。そのために、脳血管障害を生じる可能性のある高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの基礎疾患を治療することに加え、脳血流を改善する薬物や脳神経細胞を保護する薬物が適用される。一方、アルツハイマー病は、原因が未だはっきりと解明されていないが、その患者には脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンのレベルの低下が認められることから、コリン作動性神経の機能低下が原因の一つであると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。そのため、アルツハイマー病においては、アセチルコリンの濃度を高めてコリン作動性神経の機能低下を防ぐことを目的とする治療方法が主流となっている。
現在、アルツハイマー病の治療薬として、例えば塩酸ドネペジル等のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が市販されている。しかし、塩酸ドネペジル等のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は肝臓毒性や強い副作用を有するため長期間服用できず、また高価であるという問題があった。
また、ペプチドに関して健忘改善効果を示した報告として、例えばXPLPR(XはL、I、M、F、W)が300mg/kgの側脳室内投与または経口投与によりスコポラミン誘発健忘に対する改善効果を示すことが報告されており、そのメカニズムの一つとして脳内C3aレセプターによるアセチルコリンの放出が示唆されている(特許文献1)。スコポラミンはムスカリン受容体拮抗薬としてコリン作動性神経の機能低下を引き起こすとされており、脳機能障害誘発剤として働くため、アルツハイマー病治療薬開発の際のモデル動物作製に用いられている。このスコポラミンの作用による脳機能障害の予防および/または改善作用については、例えばY字迷路試験、八方向迷路試験、受動的回避試験などの行動薬理試験により効果を実証することができる。また、正常動物を用いた同様の行動薬理試験によって、脳機能の改善および/または強化の効果を実証することができる。しかし、何れのペプチドも、作用を示すために大量の経口投与、もしくは腹腔内投与、脳室内投与等の投与をする必要があり、経口摂取可能な物質として十分な効果を示すものではない。また、本発明におけるペプチドおよびその類縁体について評価した報告はなく、脳機能改善に関わる作用は不明であった。
したがって、高齢化社会の進行に伴い、脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患を予防し、さらに改善効果を示すような医薬品、さらには食品への適用に優れたより安全な化合物の開発がますます強く要望されている。
また、ペプチドPVRGPFPIIVにはヒトの苦味受容体T2Rレセプターに結合する苦味物質として働くという報告がある(特許文献2)。しかし、この効果からは脳機能改善に関わる作用を推定することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3898389号公報
【特許文献2】国際公開第2008/057470号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Science, 217, 408-414(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、脳機能を改善するために低用量で経口摂取可能な組成物が提供される。また、本発明は、脳機能を改善する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、X-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(式中Xは存在しないか、またはProを表す)またはその塩を有効成分とする、脳機能改善用組成物である。
(2)本発明は、Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valまたはその塩を有効成分とする、脳機能改善用組成物である。
(3)本発明は、Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valまたはその塩を有効成分とする、脳機能改善用組成物である。
(4)本発明は、経口摂取用である、(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物でもある。
(5)特に本発明は、脳機能改善が健忘予防である、(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物でもある。
(6)本発明は、非ヒト動物にX-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(式中Xは存在しないか、またはProを表す)またはその塩を投与することを含む、脳機能を改善する方法でもある。
(7)本発明は、非ヒト動物にVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valまたはその塩を投与することを含む、脳機能を改善する方法でもある。
(8)本発明は、非ヒト動物にPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valまたはその塩を投与することを含む、脳機能を改善する方法でもある。
(9)本発明は、投与が経口投与である、(6)〜(8)のいずれかに記載の方法でもある。
(10)特に本発明は脳機能を改善することが健忘予防である、(6)〜(9)のいずれかに記載の方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1はペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(PVRGPFPIIV)のスコポラミン誘発健忘予防効果を示す。水(対照)、または、スコポラミン単独、または、PVRGPFPIIV 3nmol/kg体重若しくは30nmol/kg体重をスコポラミンと共にマウスに投与し、それぞれ実施例1記載の方法によって健忘予防効果を評価した。図1の縦軸は自発的交替行動変化率を示す。健忘が誘発されているかを確認するため、水投与対照群とスコポラミンを単独投与したスコポラミン対照群間の有意差検定をスチューデントのt検定によって行った。**は水投与対照群に対しP<0.01であることを示す。PVRGPFPIIV投与群とスコポラミン対照群との有意差検定はダネット型多重比較検定によって行った。##はスコポラミン対照群に対してP<0.01であること、#はP<0.05であることを示す。
【図2】図2はペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(PVRGPFPIIV)、Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(VRGPFPIIV)、またはArg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(RGPFPIIV)のスコポラミン誘発健忘予防効果を示す。水(対照)、または、スコポラミン単独、または、PVRGPFPIIV 3nmol/kg体重若しくはVRGPFPIIV 3nmol/kg体重若しくはRGPFPIIV 3nmol/kg体重をスコポラミンと共にマウスに投与し、それぞれ実施例2記載の方法によって健忘予防効果を評価した。図2の縦軸は自発的交替行動変化率を示す。健忘が誘発されているかを確認するため、水投与対照群とスコポラミンを単独投与したスコポラミン対照群間の有意差検定をスチューデントのt検定によって行った。**は水投与対照群に対しP<0.01であることを示す。ペプチド投与群とスコポラミン対照群との有意差検定はダネット型多重比較検定によって行った。##はスコポラミン対照群に対してP<0.01であること、#はP<0.05であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の組成物はペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valを有効成分とする。有効成分であるペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valは有機化学的に合成したペプチドであってもよく、また天然物由来のペプチドであってもよい。これらのペプチドの有機化学的合成法としては、固相法(t-Boc法、Fmoc法)や液相法といった一般的な方法を用いることができ、例えば、島津製作所製のペプチド合成装置(PSSM-8型)といったペプチド自動合成装置を用いて合成したものであってもよい。ペプチド合成の反応条件等については、当業者の技術常識に基づき、選択する合成方法や適切な反応条件等を任意で設定することができる。化学的に合成されたペプチドの精製方法も当業者にはよく知られたものである。
本明細書において、ペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valについて言及する場合、特に明示した場合および文脈上除外されることが明らかである場合を除き、「Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val」および「ペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val」にはその塩が含まれる。そのような塩には、例えばナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩などの生理的条件下で存在しえる塩が含まれる。また、本発明の組成物は、本発明の組成物の有効成分であるペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val以外に他のペプチドおよび遊離アミノ酸またはその塩を含んでいても良い。なお、本発明との関連において、アミノ酸の三文字表記および一文字表記ならびにペプチドの表記は当業者によく知られた一般的規則に従う。
【0009】
本発明の組成物またはペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valの脳機能改善作用は、例えばY字型迷路を用いた、アルツハイマー病治療薬の評価系に準じた系を用いて確認することができる。具体的には、ラットまたはマウスにスコポラミンのようなムスカリン受容体拮抗薬を用いることでコリン作動性神経の機能低下を起こし、脳機能障害を引き起こすことで健忘症を誘発する薬剤単独または本発明の組成物またはペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val をそのような薬剤と同時に投与、またはそのような薬剤の投与に先立って本発明の組成物またはペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val を投与し、Y字型迷路を用いた試験において異なるアームへの自発的交替行動変化率や迷路への総進入回数を指標として本発明の組成物の健忘予防作用を確認することができる。
これらの試験において陰性対照としてはたとえば水のみを投与した動物を用いることができる。薬剤によって誘導した健忘に対するペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val の予防作用を確認する実験の際には、スコポラミンのような脳機能障害を引き起こすことで健忘症を誘発する薬剤のみを投与した動物も対照として加えることができる。
【0010】
本発明の組成物はその有効成分がペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val であり、経口投与または経口摂取することにより上述の所望の効果を達成することができる。本発明の組成物の投与又は摂取期間は、投与又は摂取する対象、たとえばヒトや非ヒト動物の年齢やその対象の健康状態等を考慮して種々調整することができる。非ヒト動物には非ヒト高等脊椎動物、特に非ヒト哺乳類が含まれ、イヌ、ネコ等の愛玩動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ等の家畜が含まれるがこれらに限られない。本発明の組成物は1回の投与でも効果が見られるが、1日1回以上、継続摂取することで継続した効果が期待できる。本発明の組成物を医薬として用いる場合の形態は、経口投与用の製剤の形態とすることができる。例えば、錠剤、丸剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル、散剤、顆粒剤、液剤等が挙げられる。医薬として製造する場合は、例えば、適宜必要に応じて、製薬的に許容される担体、賦形剤、補形剤、防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調節剤、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、保存剤、抗酸化剤等を用い、一般に認められた製剤投与に要求される単位用量形態で製造することができる。
本発明の組成物は飲食品用素材または動物用飼料素材として用いることもでき、例えば、本発明の組成物または本発明の組成物の有効成分であるペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valを脳機能改善の効能を有する特定保健用食品等の機能性食品とすることができる。
所望の効果を得るための本組成物またはペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valの投与または摂取量は、1回あたり有効成分であるペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valの量として一般に0.003mg/kg体重〜0.03mg/kg体重が好ましい。1日あたりの摂取回数に応じて、食品、例えば機能性食品における1回あたりの摂取量を前記量より更に低くすることも可能である。適切な摂取量は、上述の通り種々の要因を考慮して更に調整することができる。
【0011】
本発明の組成物またはその有効成分であるペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valを含む食品、例えば機能性食品は、必要に応じて、食品に用いる他の成分、例えば、糖類、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、フレーバー、例えば、各種炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、甘味料、香料、色素、テクスチュア改善剤等又はこれらの混合物等の添加物を添加し、栄養的バランスや風味等を改善してもよい。本発明の組成物またはその有効成分であるペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valを含む動物用飼料もヒト用食品と同様にして調製することができる。
例えば前述の機能性食品は、固形物、ゲル状物、液状物の何れの形態とすることができ、例えば、各種加工飲食品、乾燥粉末、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等が挙げられ、更には各種飲料、ヨーグルト、流動食、ゼリー、キャンディ、レトルト食品、錠菓、クッキー、カステラ、パン、ビスケット、チョコレート等とすることができる。
本発明の組成物を含む特定保健用食品等の機能性食品を製造する場合、添加形態や製品形態によるが、最終製品に対して、含有される有効成分であるペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valの含有量が100g当り1μg〜10g、好ましくは10μg〜1g、さらに好ましくは100μg〜100mgとなるように調製する。
【0012】
本発明の組成物またはその有効成分であるペプチドPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val、またはペプチドVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valは、脳機能を改善することで、健忘を予防し、記憶能力を増強させることができる。また、本発明の組成物またはその有効成分である前記ペプチドは脳機能の低下に起因する症状及び疾患であるうつ病、統合失調症、せん妄、認知症(脳血管性認知症、アルツハイマー病など)などの治療および予防に使用することもできる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【実施例1】
【0013】
Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(PVRGPFPIIV)の健忘予防作用
ddY系雄性マウス(約7週齢)を用い(n=15-30)、餌及び水は自由摂取させた。被験物質として、Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val 3nmol/kg体重(3μg/kg体重)、30nmol/kg体重(30μg/kg体重)を用いた。被験物質は自発的交替行動を評価するY字迷路試験の実施60分前にマウスに単回経口投与した。また、Y字迷路試験の実施30分前には、マウスに脳機能障害(記憶障害および/または認知障害)を誘発するため、スコポラミンを1mg/kg体重となるよう背部に皮下投与した。Y字迷路試験では、一本のアームの長さが40cm、壁の高さが12cm、床の幅が3cm、上部の幅が10cmで3本のアームがそれぞれ120度の角度で接続されたY字迷路を実験装置として用いた。マウスをY字迷路のいずれかのアームの先端に置き、8分間にわたって迷路内を自由に探索させ、マウスが移動したアームを順に記録した。マウスが測定時間内に各アームに移動した回数をカウントし、これを総進入数とし、この中で連続して異なる三つのアームを選択した組み合わせ(例えば、3本のアームをそれぞれA、B、Cとした際に、進入したアームの順番がABCBACACBの場合は重複も含めて4とカウントする)を調べ、この数を自発的交替行動数とした。自発的交替行動数を総進入数から2を引いた数で割り、それに100を掛けて求めた値を自発的交替行動変化率とし、これを自発的交替行動の指標とした。本指標が高値である程、短期記憶が保持されていたことを示す。測定値は群毎に平均値±標準誤差で表した。対照群とスコポラミン対照群間の有意差検定はスチューデント(Student)のt検定で行った。また、スコポラミン対照群とPVRGPFPIIV投与群との有意差検定は、一元配置分散分析後にダネット(Dunnett)型多重比較検定で行った。結果を図1に示す。PVRGPFPIIVは3nmol/kg体重〜30nmol/kg体重(3μg/kg体重〜30μg/kg体重)の範囲で健忘予防作用を有することが示された。
【実施例2】
【0014】
Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val部分ペプチドの健忘予防作用
ddY系雄性マウス(約7週齢)を用い(n=15-45)、餌及び水は自由摂取させた。被験物質として、Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val 3nmol/kg体重(3μg/kg体重)、Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(VRGPFPIIV) 3nmol/kg体重(3μg/kg体重)、またはArg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(RGPFPIIV) 3nmol/kg体重(3μg/kg体重)を用いた。被験物質は自発的交替行動を評価するY字迷路試験の実施60分前にマウスに単回経口投与した。また、Y字迷路試験の実施30分前には、マウスに脳機能障害(記憶障害および/または認知障害)を誘発するため、スコポラミンを1mg/kg体重となるよう背部に皮下投与した。Y字迷路試験では、一本のアームの長さが40cm、壁の高さが12cm、床の幅が3cm、上部の幅が10cmで3本のアームがそれぞれ120度の角度で接続されたY字迷路を実験装置として用いた。マウスをY字迷路のいずれかのアームの先端に置き、8分間にわたって迷路内を自由に探索させ、マウスが移動したアームを順に記録した。マウスが測定時間内に各アームに移動した回数をカウントし、これを総進入数とし、この中で連続して異なる三つのアームを選択した組み合わせ(例えば、3本のアームをそれぞれA、B、Cとした際に、進入したアームの順番がABCBACACBの場合は重複も含めて4とカウントする)を調べ、この数を自発的交替行動数とした。自発的交替行動数を総進入数から2を引いた数で割り、それに100を掛けて求めた値を自発的交替行動変化率とし、これを自発的交替行動の指標とした。本指標が高値である程、短期記憶が保持されていたことを示す。測定値は群毎に平均値±標準誤差で表した。対照群とスコポラミン対照群間の有意差検定はスチューデント(Student)のt検定で行った。また、スコポラミン対照群とPVRGPFPIIV、VRGPFPIIV、RGPFPIIV投与群との有意差検定は、一元配置分散分析後にダネット(Dunnett)型多重比較検定で行った。結果を図2に示す。PVRGPFPIIV及びVRGPFPIIVは3nmol/kg体重で健忘予防作用を有することが示されたが、RGPFPIIVは作用を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(式中Xは存在しないか、またはProを表す)またはその塩を有効成分とする、脳機能改善用組成物。
【請求項2】
Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valまたはその塩を有効成分とする、脳機能改善用組成物。
【請求項3】
Pro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valまたはその塩を有効成分とする、脳機能改善用組成物。
【請求項4】
経口摂取用である、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
脳機能改善が健忘予防である、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
非ヒト動物にX-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Val(式中Xは存在しないか、またはProを表す)またはその塩を投与することを含む、脳機能を改善する方法。
【請求項7】
非ヒト動物にVal-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valまたはその塩を投与することを含む、脳機能を改善する方法。
【請求項8】
非ヒト動物にPro-Val-Arg-Gly-Pro-Phe-Pro-Ile-Ile-Valまたはその塩を投与することを含む、脳機能を改善する方法。
【請求項9】
投与が経口投与である、請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
脳機能を改善することが健忘予防である、請求項6〜9のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−136930(P2011−136930A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297023(P2009−297023)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】