説明

脳波測定方法及び脳波測定装置並びに記録媒体

【課題】心拍数による雑音を最小化できる脳波測定方法等を提供する。
【解決手段】脳波測定方法は、心拍数情報を反映するEKG信号から正のピークと負のピークを抽出し、心拍数による雑音情報と脳波情報を反映するEEG信号から正のピークを抽出するピーク情報抽出ステップ100と、EEG信号の正のピークをEKG信号の正のピークを基に、心拍数の影響が脳波の影響より大きい第1ピークグループと脳波の影響が心拍数の影響より大きい第2ピークグループに分類するEEG信号分類ステップ200と、EEG信号から第1ピークグループ及び第2ピークグループの雑音を除去する雑音除去ステップ300とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波測定方法及び装置並びにその脳波測定方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床分野では多くの医療機器が用いられている。磁気共鳴映像(MRI、Magentic Resonance Imaging)装置は、他の医療機器より空間的な解像度に優れた映像を提供することが可能なので、人体の脳の形状をより詳細に観察し、患者の治療や脳機能の研究に多く寄与する。しかしながら、空間的解像度の高い磁気共鳴映像については、時間的解像度が落ちる。これに対し、脳電図(EEG、Electroencephalogram)は、時間的解像度が優れているから、てんかん波や睡眠研究など、多く活用されている。しかしながら、脳電図の場合は、空間的な解像度が落ちるので、脳の空間的な特性を研究するのが難しくなる。このため、現在、空間的な解像度に優れた磁気共鳴映像と、相対的に時間的な解像度に優れた脳電図とを共に活用し、磁気共鳴映像および脳電図の短所を補完して、長所を兼ね備えるものとする研究が盛んに進められている。
【0003】
磁気共鳴映像と脳電図を同時に利用するためには、まず、これらがどのような方法で測定されるかを把握しておかなければならない。
【0004】
磁気共鳴映像の場合であれば、金属を所持していない患者が、磁気共鳴室(Magentic Resonance Room)内のベットに横になり、頭を固定させた後に測定が行われる。他方、脳電図の場合であれば、患者が、脳電図キャップをかぶり、その上で、キャップに連結されたケーブルを介して得られる電気信号が測定される。したがって、磁気共鳴映像および脳電図を同時に利用する場合、被験者が、脳電図キャップをかぶったまま、磁気共鳴室内に入ることになる。そして、磁気共鳴映像と脳電図信号を用いて測定が行われることになる。しかしながら、このように2種類の機器を同時に使用し、磁気共鳴映像と脳電図に基づいて測定を行う場合、各機器を別々に利用して磁気共鳴映像と脳電図を別々に測定する場合と異なり、脳電図データ上にアーチファクト(artifact)が発生する。このときに発生するアーチファクトのうち、最も深刻なものは、被験者の心拍数によって脳電図データ上に発生するBA(Ballistocardiac Artifact)である。
【0005】
従来、このようなアーチファクトを除去するためのアルゴリズムが多数あり、そのうち、平均サブトラクション(Mean Subtraction)法、適応的フィルタリング(Adaptive filtering)法、ICA(Independent Component Analysis)法、PCA(Principle Component Analysis)法がある。
【0006】
平均サブトラクション法は、脳電図信号から、心拍とほぼ同じ周期で現れるBAを平均化して得た平均BAを、心拍に合せて脳電図信号から減算してBAを除去する。平均BAを得るためには、心拍数が発生した時点を得なければならず、心拍数が発生した後、脳電図信号から発生したBAを探索しなければならない。まず、心拍数が発生した時点を得るために、心電図(Electrocardiogram、EKG)を基準(Reference)信号として使用する。心電図は、脳電図を測定するときに測定される。心電図は、心臓の大動脈を通じて測定されるものであるから、心拍数が正確に示される。心拍(心臓拍動)が生じた時点は、個々の心拍が発生する時に現れるP_QRS_Tピーク(peak)のうち、Rピークを使用する。また、脳電図信号からBAが現れる時点は、各心拍拍動が生じた時点から、一定の時間後になるという仮定の下で、その心臓拍動後、一定の時間後にBAを探索する。平均BAを得るために持ってくるBAの時間的大きさ、すなわちウィンドウサイズ(window size)は、隣接したRピーク間の時間的差の平均値を使用する。このような平均サブトラクション法の特徴は、心電図信号を基準信号として活用するという点と脳電図信号上のBAを除去する時に平均BAを使用するという点、そして脳電図信号から平均BAを得るために、心拍数により心電図信号に発生するRピークの時点から一定の時間後に、一定のウィンドウサイズ分だけのBAを使用するという点にある。
【0007】
適応的フィルタリング(Adaptive filtering)法は、平均サブトラクション法のように、心電図信号を基準信号として活用する。すなわち、心電図信号から脳電図信号中にあるBAのみからなる信号成分を推定し、この成分を本来の脳電図信号から減算してBAを除去する方式である。
【0008】
PCAとICAは、脳電図信号を複数の信号の組み合わせで作ったものである。ICAの場合は、脳電図信号を独立成分に分解する。PCAの場合は、ICAとは異なり、脳電図信号を重要成分(principal component)に分解する。それぞれの方法により分解した後、各成分のうち、BAと関連のあるような成分を直接選んで除去する。除去するとき、BAと関連のある成分と個数は、任意に決めることができる。成分を除去してから残った成分を組み合わせて、BAが除去された脳電図信号を得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記平均サブトラクション法は、心拍数が発生した後に常に一定の時間差で一定のウィンドウサイズでBAが現れるという仮定をしたが、実際の被験者の心拍数が一定の時間差で脳電図信号に影響を及ぼすことができず、常に全く同じ心拍数がおきることができないため、BAのウィンドウサイズが常に同じではありえない。したがって、平均サブトラクション法では、BAを効果的に除去し難いという問題がある。
【0010】
上記適応的フィルタリング法の場合、フィルタリングのためフィルタ係数を決めなければならず、フィルタ係数が増加するほど、計算量が幾何級数的に増加するという問題がある。
【0011】
上記PCAとICA法によれば、ユーザが直接BAと関連のあるような成分を選ぶことになり、この場合、ユーザの主観的な観点がBA除去過程に反映され、実際のPCAとICAを経て出力された結果が、実際はどのような成分かが不明になる。この不明性は、BAを除去して得た信号が実際の脳電図信号を歪曲させる可能性も引き起こす。また、成分を除去した後、脳電図信号を復元すれば、復元された信号が実際に測定した脳電図信号ではない人為的に歪曲された形態になり得るという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、上述した従来の技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、被験者の心拍数による雑音を最小化できる脳波測定方法などを提供することにある。
【0013】
あるいは、本発明の他の目的は、磁気共鳴映像装置内で被験者の脳波を測定する場合に発生する心拍数による雑音を最小化することにある。
【0014】
あるいは、本発明のさらに他の目的は、心拍数の不均一性にもかかわらず、心拍数に応じる雑音を効果的に除去することにある。
【0015】
あるいは、本発明のさらに他の目的は、心拍数に応じる雑音を除去するための過程での演算量を減少させて、脳波測定時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するための本発明に係る脳波測定方法は、心拍数情報を反映するEKG(Electrocardiogram)信号から正のピークと負のピークを抽出し、前記心拍数による雑音情報と脳波情報を反映するEEG(Electroencephalogram)信号から正のピークを抽出するピーク情報抽出ステップと、前記EEG信号の正のピークを前記EKG信号の正のピークを基に、前記心拍数の影響が前記脳波の影響より大きい第1ピークグループと前記脳波の影響が前記心拍数の影響より大きい第2ピークグループに分類するEEG信号分類ステップと、前記EEG信号から前記第1ピークグループ及び第2ピークグループの雑音を除去する雑音除去ステップと、を含む。
【0017】
前記ピーク情報抽出ステップで抽出される前記EKG信号の正のピークは、k−TEO方法により抽出されるRピークであることが好ましい。
【0018】
前記ピーク情報抽出ステップで抽出される前記EKG信号の負のピークは、隣接した2個のRピーク間の最低値であることが好ましい。
【0019】
前記EEG信号分類ステップでは、前記EEG信号の正のピークは、前記EKG信号の隣接した正のピークの時間的距離の平均と標準偏差により、前記第1ピークグループと前記第2ピークグループに分類されることが好ましい。
【0020】
前記雑音除去ステップは、前記EKG信号の正のピークと負のピークを基に、前記EKG信号の正のピークごとに時間軸上のウィンドウサイズを生成するウィンドウサイズ生成ステップと、前記第1ピークグループに含まれたピークとこのピークに時間上最も近いEKG信号の正のピークとの時間差を演算する時間差演算ステップと、前記第1ピークグループに含まれたピークの平均BA(Ballistocardiac Artifact)を演算する第1ピークグループ平均BA演算ステップと、前記第1ピークグループに含まれたピークの対応するウィンドウサイズと時間差により、前記第1ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する1次雑音除去ステップと、前記ウィンドウサイズと前記時間差の平均値により、前記第2ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する2次雑音除去ステップと、を含むことが好ましい。
【0021】
前記ウィンドウサイズ生成ステップでは、前記ウィンドウサイズは、前記EKG信号の正のピークと前記EKG信号の正のピークから最も近接した負のピークとの時間軸上の距離の3倍であることが好ましい。
【0022】
前記EKG信号の正のピークは、対応するウィンドウサイズの前の1/3地点に位置することが好ましい。
【0023】
前記1次雑音除去ステップでは、前記第1ピークグループに含まれたピークに対応するウィンドウサイズ分だけの第1ピークグループ平均BAを前記EKG信号の正のピークから前記時間差分だけ遅延させて、前記第1ピークグループに含まれたピークから減算することが好ましい。
【0024】
本発明に係る脳波測定装置は、心拍数情報を反映するEKG(Electrocardiogram)信号から正のピークと負のピークを抽出し、前記心拍数による雑音情報と脳波情報を反映するEEG(Electroencephalogram)信号から正のピークを抽出するピーク情報抽出部と、前記EEG信号の正のピークを前記EKG信号の正のピークを基に、前記心拍数の影響が前記脳波の影響より大きい第1ピークグループと前記脳波の影響が前記心拍数の影響より大きい第2ピークグループに分類するEEG信号分類部と、前記EEG信号から前記第1ピークグループ及び第2ピークグループの雑音を除去する雑音除去部と、を含む。
【0025】
前記ピーク情報抽出部から抽出される前記EKG信号の正のピークは、k−TEO方法により抽出されるRピークであることが好ましい。
【0026】
前記ピーク情報抽出部から抽出される前記EKG信号の負のピークは、隣接した2個のRピーク間の最低値であることが好ましい。
【0027】
前記EEG信号分類部は、前記EEG信号の正のピークを前記EKG信号の隣接した正のピークの時間的距離の平均と標準偏差により、前記第1ピークグループと前記第2ピークグループに分類することが好ましい。
【0028】
前記雑音除去部は、前記EKG信号の正のピークと負のピークを基に、前記EKG信号の正のピークごとに時間軸上のウィンドウサイズを生成するウィンドウサイズ生成部と、前記第1ピークグループに含まれたピークと前記第1ピークグループに含まれたピークと時間上最も近いEKG信号の正のピークとの時間差を演算する時間差演算部と、前記第1ピークグループに含まれたピークの平均BA(Ballistocardiac Artifact)を演算する第1ピークグループ平均BA演算部と、前記第1ピークグループに含まれたピークの対応するウィンドウサイズと時間差により、前記第1ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する1次雑音除去部と、前記ウィンドウサイズと時間差の平均値により、前記第2ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する2次雑音除去部と、を含むことが好ましい。
【0029】
前記ウィンドウサイズ生成部で生成される前記ウィンドウサイズは、前記EKG信号の正のピークと前記EKG信号の正のピークから最も近接した負のピークとの時間軸上の距離の3倍であることが好ましい。
【0030】
前記EKG信号の正のピークは、対応するウィンドウサイズの前の1/3地点に位置することが好ましい。
【0031】
前記1次雑音除去部は、前記第1ピークグループに含まれたピークに対応するウィンドウサイズ分だけの第1ピークグループ平均BAを前記EKG信号の正のピークから前記時間差分だけ遅延させて、前記第1ピークグループに含まれたピークから減算することが好ましい。
【0032】
本発明に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体には、心拍数情報を反映するEKG信号から正のピークと負のピークを抽出し、前記心拍数による雑音情報と脳波情報を反映するEEG信号から正のピークを抽出するピーク情報抽出ステップと、前記EEG信号の正のピークを前記EKG信号の正のピークを基に、前記心拍数の影響が前記脳波の影響より大きい第1ピークグループと前記脳波の影響が前記心拍数の影響より大きい第2ピークグループに分類するEEG信号分類ステップと、前記EEG信号から前記第1ピークグループ及び第2ピークグループの雑音を除去する雑音除去ステップと、を含む脳波測定方法を実行させるためのプログラムが記録されている。
【0033】
この場合、前記ピーク情報抽出ステップで抽出される前記EKG信号の正のピークは、k−TEO方法により抽出されるRピークであることが好ましい。
【0034】
前記ピーク情報抽出ステップで抽出される前記EKG信号の負のピークは、隣接した2個のRピーク間の最低値であることが好ましい。
【0035】
前記EEG信号分類ステップでは、前記EEG信号の正のピークは、前記EKG信号の隣接した正のピークの時間的距離の平均と標準偏差により、前記第1ピークグループと前記第2ピークグループに分類されることが好ましい。
【0036】
前記雑音除去ステップは、前記EKG信号の正のピークと負のピークを基に、前記EKG信号の正のピークごとに時間軸上のウィンドウサイズを生成するウィンドウサイズ生成ステップと、前記第1ピークグループに含まれたピークとこのピークに時間上最も近いEKG信号の正のピークとの時間差を演算する時間差演算ステップと、前記第1ピークグループに含まれたピークの平均BAを演算する第1ピークグループ平均BA演算ステップと、前記第1ピークグループに含まれたピークの対応するウィンドウサイズと時間差により、前記第1ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する1次雑音除去ステップと、前記ウィンドウサイズと時間差の平均値により、前記第2ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する2次雑音除去ステップと、を含むことが好ましい。
【0037】
前記ウィンドウサイズ生成ステップでは、前記ウィンドウサイズは、前記EKG信号の正のピークと前記EKG信号の正のピークと最も近接した負のピークとの時間軸上の距離の3倍であることが好ましい。
【0038】
前記EKG信号の正のピークは、対応するウィンドウサイズの前の1/3地点に位置することが好ましい。
【0039】
前記1次雑音除去ステップでは、前記第1ピークグループに含まれたピークに対応するウィンドウサイズ分だけの第1ピークグループ平均BAを前記EKG信号の正のピークから前記時間差分だけ遅延させて、前記第1ピークグループに含まれたピークから減算することが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、被験者の心拍数に応じる雑音による歪みが最小化された脳波を測定できる。
【0041】
あるいは、本発明によれば、磁気共鳴映像装置内で被験者の脳波を測定する場合に発生する心拍数による雑音を最小化できたり、心拍数の不均一性にもかかわらず、心拍数に応じる雑音を効果的に除去できたりする。あるいは、心拍数に応じる雑音を除去するための過程での演算量を減少させて脳波測定時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る脳波測定方法を示す図である。
【図2】EEG信号とEKG信号上の互いに異なる時間差を示す図である。
【図3】ウィンドウサイズを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の好的な実施形態を図面を参照して説明する。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係る脳波測定方法を示す図である。
【0045】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る脳波測定方法(脳波測定装置)は、ピーク情報抽出ステップ(ピーク情報抽出部)100と、EEG信号分類ステップ(EEG信号分類部)200と、雑音除去ステップ(雑音除去部)300と、を含む。
【0046】
<ピーク情報抽出ステップ>
ピーク情報抽出ステップ100において、心拍数情報を反映するEKG信号から正のピーク(Positive Peak)と負のピーク(Negative Peak)を抽出し、心拍数による雑音情報と脳波情報を反映するEEG信号から正のピークを抽出する。
【0047】
ピーク情報抽出ステップ100で抽出されるEKG信号の正のピークは、例えば、k−TEO方法により抽出されるRピークであり、ピーク情報抽出ステップ100で抽出されるEKG信号の負のピークは、例えば、隣接した2個のRピークの間の最低値である。
【0048】
一般に、一回の心臓拍動(心拍)によって、P_QRS_Tピークが発生する。このようなピークのうち、最も大きい正の値を有するRピークを、EKG信号の正のピークとして決定する。このようなRピークは、ピークが発生する時に生じる形状を利用して、ピークを探す方法であるk−TEO方法を活用して抽出する。この抽出式を数1に示す。
【0049】
【数1】

【0050】
kは経験的な値であり、120である。EEG信号を式1に適用して得た結果のうち、負の値は0とした後、例えばフィルタ次数90のバートレットフィルタ(Bartlett filter)に適用する。バートレットフィルタを経て出た結果から傾斜が正から負に変わる変曲点を探す(ピーク検索)。各変曲点に該当する値は、その値の中間値に閾値化(thresholding)して、概略的なRピークを探す。そして、k−TEO方法を経る前の本来のEEG信号から閾値化を経て出た変曲点を中心に、例えば、変曲点の前の0.6sと後の0.6sとの間の値のうち、最も大きい値を探す。この最も大きい値は、Rピークとする。
【0051】
EKG信号の場合、後述するウィンドウサイズ(window size)を得るために、隣接した2つのRピーク間の最も小さな値を有する負のピークを探す(ピーク検索)。このように探した負のピークをEKG信号の負のピークという。
【0052】
EEG信号の場合、EKG信号の正のピークであるRピークを探す過程(ピーク検索)を行って、EEG信号の正のピークを探す。EEG信号では、EKG信号とは異なり、ウィンドウサイズを探さないため、負のピークを探さない。
【0053】
<EEG信号分類ステップ>
EEG信号分類ステップ200では、EEG信号の正のピークをEKG信号の正のピークを基に、心拍数の影響が脳波の影響より大きい第1ピークグループ(BA signal)と脳波の影響が心拍数の影響より大きい第2ピークグループ(Non−BA signal)とに分類する。
【0054】
EEG信号、特に磁気共鳴映像装置内で測定されたEEG信号の場合、心拍数による雑音だけでなく、脳波信号も含まれているので、EEG信号の正のピークを心拍数による雑音であるBAの影響を支配的に受けているか否かによって、第1ピークグループ(BA signal)と第2ピークグループ(Non−BA signal)に分類する(ピークの分類)。EEG信号の正のピークを分類する基準として用いられる値は、EKG信号から探した隣接したRピーク間の時間的距離の平均(μ)と標準偏差(σ)である。表1は、EEG信号から探した正のピークを分類する方法を示している。
【0055】
【表1】

【0056】
表1において「d」は、EEG信号から探した隣接した正のピーク間の時間的な距離である。表1を参照すれば、Rピーク間の時間的距離の平均(μ)と標準偏差(σ)値との合計と差との間にdが存在するとき、このdをRとし、この範囲を超える値は、IRとする。EEG信号から探した各正のピークに対しては、以前の正のピークとのdi−1と以後の正のピークとの間のdが存在する。この2つのdを利用して探したEEG信号の正のピークが心拍数による雑音であるBAの影響を支配的に受けているか否かに応じて、第1ピークグループと第2ピークグループとに分類する。表1中、BA signalは、心拍数による雑音であるBAの影響を支配的に受ける第1ピークグループに含まれた信号を示し、Non−BA signalは、脳信号の影響を多く受けて、BAの影響が支配的ではない第2ピークグループに含まれた信号を示す。
【0057】
<雑音除去ステップ>
雑音除去ステップ300では、EEG信号から第1ピークグループ(BA signal)及び第2ピークグループ(Non−BA signal)の雑音を除去する。
【0058】
このような雑音除去ステップ300は、ウィンドウサイズ生成ステップ(ウィンドウサイズ生成部)301と、時間差演算ステップ(時間差演算部)302と、第1ピークグループの平均BA演算ステップ(平均BA演算部)303と、1次雑音除去ステップ(1次雑音除去部)304と、2次雑音除去ステップ(2次雑音除去部)305と、を含む。
【0059】
ウィンドウサイズ生成ステップ301において、EKG信号の正のピークと負のピークを基に、EKG信号の正のピークごとに時間軸上のウィンドウサイズを生成する。ウィンドウサイズは、例えば、EKG信号の正のピークとこのピークから最も近接した負のピークとの時間軸上の距離の3倍とし、EKG信号の正のピークは、例えば、対応するウィンドウサイズの前の1/3地点に位置するものとする。
【0060】
このようなウィンドウサイズ生成方法を、図2を参照して詳述する。
【0061】
EKG信号から探したRピークRPを中心に、最も近い距離にあるEKG信号の負のピークNPを探し、EKG信号のRピークRPとEKG信号の負のピークNPとの間の時間軸上の距離(T)の3倍をウィンドウサイズにする。また、EKG信号のRピークRPは、ウィンドウサイズの前の1/3地点に位置し、ウィンドウが始まる地点t1とEKG信号のRピークRPとの間の時間的な距離Tが全体ウィンドウサイズ(3T)の1/3になるようにする。
【0062】
時間差演算ステップ302では、第1ピークグループに含まれたピークとこのピークに時間上最も近いEKG信号の正のピークとの時間差を演算する。このような時間差演算方法を、図3を参照して詳述する。
【0063】
図3に示すように、時間差は、EEG信号の第1ピークグループに含まれたピークP1、P2、すなわち、心拍数による雑音であるBAの影響を支配的に受けるピークP1、P2に対して求める。このような時間差は、まず(1)EKG信号のRピークRP1、RP2から時間上最も近いEEG信号の第1ピークグループに含まれたピークP1、P2を探し、次に(2)これらピークP1、P2と当該各ピークP1、P2から時間上最も近いEKG信号のRピークRP1、RP2との間の時間的距離t1、t2を計算して得られる。
【0064】
第1ピークグループ平均BA演算ステップ303では、第1ピークグループに含まれたピークの平均BAを演算する。これをさらに詳述する。心拍数による雑音であるBAの影響を支配的に受ける第1ピークグループに含まれたピークに対して、各ピークに対応する時間差とウィンドウサイズを利用して第1ピークグループに含まれたピークの平均BAを求める。第1ピークグループに含まれたピークに対応するウィンドウサイズは、それぞれ異なる値を有するようになるが、平均を求めるために、ウィンドウサイズの最高値にウィンドウサイズを統一する。最高値より小さな大きさのウィンドウサイズを有する場合、ウィンドウサイズから外れた値は0とする。
【0065】
1次雑音除去ステップ304では、第1ピークグループに含まれたピークの対応するウィンドウサイズと時間差に応じて、第1ピークグループに含まれたピークから第1ピークグループ平均BAを減算する。これをさらに詳細に説明すれば、次のとおりである。すなわち、1次雑音除去ステップ(304)において、第1ピークグループに含まれたピークに対応するウィンドウサイズ分だけの第1ピークグループ平均値をEKG信号の正のピークから前記時間差分だけ遅延させて、第1ピークグループに含まれたピークから減算する。これをさらに詳述する。本実施形態において、EEG信号の第1ピークグループとEEG信号の第2ピークグループから心拍数による雑音であるBAを除去する方式は異なる。
【0066】
EEG信号の第1ピークグループから心拍数による雑音であるBAを除去する場合、第1ピークグループに含まれたピークの平均BAを求めるとき、0とした部分を除去し、各ピークに対応するウィンドウサイズ分だけの第1ピークグループ平均値をEKG信号のRピークを中心に時間差分だけ遅延させて、EEG信号から減算する。
【0067】
2次雑音除去ステップ305では、ウィンドウサイズと時間差の平均値により、第2ピークグループに含まれたピークから第1ピークグループ平均BAを減算する。EEG信号の第2ピークグループから心拍数による雑音であるBAを除去する場合、EEG信号の第1ピークグループから心拍数による雑音であるBAを除去する場合とは異なり、適応ウィンドウサイズと異なる時間差を利用せずに、その値の平均値を利用して除去する。
【0068】
以上説明したとおり、本発明の実施形態によれば、EEGとfMRIを利用して実験するときの最も難しい部分である心拍数による雑音成分であるBAを既存の方法より効果的に除去できる。なお、現在は、EEGとfMRIを同時に使用して実験するステップまで行われている。このステップが、実際の病院で診断に直接使用できないのは、BAがEEG信号に及ぼす影響が大きいため、BAを除去せずに診断に使用する場合、誤診するおそれがあるからである。しかしながら、本実施形態で説明した方法を利用する場合、BAを除去し正確な診断が可能となる。このため、今後は、この方法を利用したソフトウェアが商用化され、経済的な利得が得られることが期待できる。
【0069】
本実施形態においては、脳波測定装置及び脳波測定方法を主に説明したが、これらの脳波測定装置及び脳波測定方法は、プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の当該プログラムをコンピュータ(脳波測定装置)上で実行することにより実現することができる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない限り、変更してもよい。
【符号の説明】
【0071】
100 ピーク情報抽出ステップ
200 EEG信号分類ステップ
300 雑音除去ステップ
301 ウィンドウサイズ生成ステップ
302 時間差演算ステップ
303 第1ピークグループ平均BA演算ステップ
304 1次雑音除去ステップ
305 2次雑音除去ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心拍数情報を反映するEKG(Electrocardiogram)信号から正のピークと負のピークを抽出し、心拍数による雑音情報と脳波情報を反映するEEG(Electroencephalogram)信号から正のピークを抽出するピーク情報抽出ステップと、
前記EEG信号の正のピークと前記EKG信号の正のピークとを基に、前記心拍数の影響が脳波の影響より大きい第1ピークグループと前記脳波の影響が前記心拍数の影響より大きい第2ピークグループに分類するEEG信号分類ステップと、
前記EEG信号から前記第1ピークグループ及び第2ピークグループの雑音を除去する雑音除去ステップと
を含む脳波測定方法。
【請求項2】
前記ピーク情報抽出ステップで抽出される前記EKG信号の正のピークは、k−TEO方法により抽出されるRピークである請求項1に記載の脳波測定方法。
【請求項3】
前記ピーク情報抽出ステップで抽出される前記EKG信号の負のピークは、隣接した2個のRピーク間の最低値である請求項2に記載の脳波測定方法。
【請求項4】
前記EEG信号分類ステップでは、
前記EEG信号の正のピークは、前記EKG信号の隣接した正のピークの時間的距離の平均と標準偏差により、前記第1ピークグループと前記第2ピークグループに分類される請求項1に記載の脳波測定方法。
【請求項5】
前記雑音除去ステップは、
前記EKG信号の正のピークと負のピークとを基に、前記EKG信号の正のピークごとに時間軸上のウィンドウサイズを生成するウィンドウサイズ生成ステップと、
前記第1ピークグループに含まれたピークとこのピークに時間上最も近いEKG信号の正のピークとの時間差を演算する時間差演算ステップと、
前記第1ピークグループに含まれたピークの平均BA(Ballistocardiac Artifact)を演算する第1ピークグループ平均BA演算ステップと、
前記第1ピークグループに含まれたピークの対応するウィンドウサイズと前記時間差により、前記第1ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する1次雑音除去ステップと、
前記ウィンドウサイズと前記時間差の平均値により、前記第2ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する2次雑音除去ステップと、
を含む請求項1に記載の脳波測定方法。
【請求項6】
前記ウィンドウサイズ生成ステップでは、
前記ウィンドウサイズは、前記EKG信号の正のピークと前記EKG信号の正のピークから最も近接した負のピークとの時間軸上の距離の3倍である請求項5に記載の脳波測定方法。
【請求項7】
前記EKG信号の正のピークは、対応するウィンドウサイズの前の1/3地点に位置した請求項6に記載の脳波測定方法。
【請求項8】
前記1次雑音除去ステップでは、
前記第1ピークグループに含まれたピークに対応するウィンドウサイズ分だけの第1ピークグループ平均BAを前記EKG信号の正のピークから前記時間差分だけ遅延させ、前記第1ピークグループに含まれたピークから減算する請求項5に記載の脳波測定方法。
【請求項9】
心拍数情報を反映するEKG(Electrocardiogram)信号から正のピークと負のピークを抽出し、前記心拍数による雑音情報と脳波情報を反映するEEG(Electroencephalogram)信号から正のピークを抽出するピーク情報抽出部と、
前記EEG信号の正のピークを前記EKG信号の正のピークを基に、前記心拍数の影響が前記脳波の影響より大きい第1ピークグループと前記脳波の影響が前記心拍数の影響より大きい第2ピークグループに分類するEEG信号分類部と、
前記EEG信号から前記第1ピークグループ及び第2ピークグループの雑音を除去する雑音除去部と、
を含む脳波測定装置。
【請求項10】
前記ピーク情報抽出部から抽出される前記EKG信号の正のピークは、k−TEO方法により抽出されるRピークである請求項9に記載の脳波測定装置。
【請求項11】
前記ピーク情報抽出部から抽出される前記EKG信号の負のピークは、隣接した2個のRピーク間の最低値である請求項10に記載の脳波測定装置。
【請求項12】
前記EEG信号分類部は、
前記EEG信号の正のピークを前記EKG信号の隣接した正のピークの時間的距離の平均と標準偏差により、前記第1ピークグループと前記第2ピークグループに分類する請求項9に記載の脳波測定装置。
【請求項13】
前記雑音除去部は、
前記EKG信号の正のピークと負のピークとを基に、前記EKG信号の正のピークごとに時間軸上のウィンドウサイズを生成するウィンドウサイズ生成部と、
前記第1ピークグループに含まれたピークとこのピークに時間上最も近いEKG信号の正のピークとの時間差を演算する時間差演算部と、
前記第1ピークグループに含まれたピークの平均BA(Ballistocardiac Artifact)を演算する第1ピークグループ平均BA演算部と、
前記第1ピークグループに含まれたピークの対応するウィンドウサイズと前記時間差により、前記第1ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する1次雑音除去部と、
前記ウィンドウサイズと時間差の平均値により、前記第2ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する2次雑音除去部と、
を含む請求項9に記載の脳波測定装置。
【請求項14】
前記ウィンドウサイズ生成部で生成される前記ウィンドウサイズは、前記EKG信号の正のピークと前記EKG信号の正のピークから最も近接した負のピークとの時間軸上の距離の3倍である請求項13に記載の脳波測定装置。
【請求項15】
前記EKG信号の正のピークは、対応するウィンドウサイズの前の1/3地点に位置した請求項14に記載の脳波測定装置。
【請求項16】
前記1次雑音除去部は、
前記第1ピークグループに含まれたピークに対応するウィンドウサイズ分だけの第1ピークグループ平均BAを前記EKG信号の正のピークから前記時間差分だけ遅延させて、前記第1ピークグループに含まれたピークから減算する請求項13に記載の脳波測定装置。
【請求項17】
心拍数情報を反映するEKG信号から正のピークと負のピークを抽出し、前記心拍数による雑音情報と脳波情報を反映するEEG信号から正のピークを抽出するピーク情報抽出ステップと、
前記EEG信号の正のピークを前記EKG信号の正のピークを基に、前記心拍数の影響が前記脳波の影響より大きい第1ピークグループと前記脳波の影響が前記心拍数の影響より大きい第2ピークグループに分類するEEG信号分類ステップと、
前記EEG信号から前記第1ピークグループ及び第2ピークグループの雑音を除去する雑音除去ステップと、を含む脳波測定方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項18】
前記ピーク情報抽出ステップで抽出される前記EKG信号の正のピークは、k−TEO方法により抽出されるRピークである請求項17に記載の記録媒体。
【請求項19】
前記ピーク情報抽出ステップで抽出される前記EKG信号の負のピークは、隣接した2個のRピーク間の最低値である請求項18に記載の記録媒体。
【請求項20】
前記EEG信号分類ステップでは、
前記EEG信号の正のピークは、前記EKG信号の隣接した正のピークの時間的距離の平均と標準偏差により、前記第1ピークグループと前記第2ピークグループに分類される請求項17に記載の記録媒体。
【請求項21】
前記雑音除去ステップは、
前記EKG信号の正のピークと負のピークを基に、前記EKG信号の正のピークごとに時間軸上のウィンドウサイズを生成するウィンドウサイズ生成ステップと、
前記第1ピークグループに含まれたピークとこのピークに時間上最も近いEKG信号の正のピークとの時間差を演算する時間差演算ステップと、
前記第1ピークグループに含まれたピークの平均BAを演算する第1ピークグループ平均BA演算ステップと、
前記第1ピークグループに含まれたピークの対応するウィンドウサイズと時間差により、前記第1ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する1次雑音除去ステップと、
前記ウィンドウサイズと時間差の平均値により、前記第2ピークグループに含まれたピークから前記第1ピークグループ平均BAを減算する2次雑音除去ステップと、を含む請求項17に記載の記録媒体。
【請求項22】
前記ウィンドウサイズ生成ステップでは、
前記ウィンドウサイズは、前記EKG信号の正のピークと前記EKG信号の正のピークと最も近接した負のピークとの時間軸上の距離の3倍である請求項21に記載の記録媒体。
【請求項23】
前記EKG信号の正のピークは、対応するウィンドウサイズの前の1/3地点に位置した請求項22に記載の記録媒体。
【請求項24】
前記1次雑音除去ステップでは、
前記第1ピークグループに含まれたピークに対応するウィンドウサイズ分だけの第1ピークグループ平均BAを前記EKG信号の正のピークから前記時間差分だけ遅延させて、前記第1ピークグループに含まれたピークから減算する請求項21に記載記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−30111(P2012−30111A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242826(P2011−242826)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2007−129656(P2007−129656)の分割
【原出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】