説明

脳波計測のための乾式電極帽

本発明は、頭皮と電極そのものとの間に導電性のジェルを使用することなしに人間もしくは動物の頭部に接触することを可能とする、脳波計測における電極帽に関する。請求項1は、脳波計測において頭皮に接触するための電極帽に関し、当該電極帽は、頭皮に接触するためのピン形状の複数の電極(12)と、電極保持手段と、を備える。複数の電極は、少なくともひとつの弾性的なジョイント(8、11、13、17、20)を介して電極保持手段に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭皮と電極そのものとの間に導電性のジェルを使用することなしに人間もしくは動物の頭部に接触することを可能とする、脳波計測(electro-encephalography)のための電極帽に関する。
【背景技術】
【0002】
脳波計測(EEG)データを収集するための非侵襲的な手段として生物医学的な研究や病院において最も良く用いられているものとしては、湿式電極帽がある。この湿式電極帽は、銀(Ag)でコーティングされた金属板を含む。この湿式電極帽を使用する場合、接触部分でのイオン交換のために肌と電極との間にジェルを塗布する必要がある。電極を日々使用する上では、そのようなジェルの使用は利便性に欠ける。つまり、ジェルを使用することにより、EEG計測が行われる前はいつでも時間のかかる準備を行う必要がある。また、時間が経過するとジェルは乾いてしまうので、頭皮へ電極を長い間装着しておく場合はジェルを再充填する必要がある。また、肌に長い間接触していると炎症を引き起こすという報告もある。
【0003】
EEGデータを収集するための代替的なアプローチとしては、上述の例の場合のように電荷の流れを利用するセンサの代わりに、電流変位、つまり容量変換(capacitive transduction)を利用するセンサを使用することがある。この種の電極は、信号源に物理的に接触する必要はない。しかしながら、体に接触する必要がないという利点は、生理学上の信号と一緒に記録される背景雑音がより大きくなるという不利な点と共にもたらされる。
【0004】
他の全ての手段は肌との接触を行う。いくつかの手段では、NASICONセラミック材料が使用される。特にNASICON(Na Super Ionic Conductorの頭字語である)材料が使用される理由は、Naイオンの電気伝導性が室温においても非常に高いことにある。この材料を使用することのマイナス面は、通常の湿式電極よりも肌とのインピーダンスのミスマッチが高いことである。
【0005】
微細加工技術は、実サイズのセンサの小型化において良い結果を生み出している。興味深い例として、Griss他は、電解質ジェルを使用せず、同時に動きによる人為的な影響を避けるのに十分な信頼性で頭蓋骨表面に電極を固定する乾式電極を開発した。ここでGriss他は、電極表面に微細加工されたスパイクを使用している(Griss, P他、「Characterization of micromachined spiked biopotential electrodes」、バイオメディカルエンジニアリング、IEEEトランザクション ボリューム49、2002年6月6日発行)。
【0006】
そのような電極の対の間で計測される電位差は、標準的な湿式電極の場合よりも高くなる。これは、真皮の中にある汗管膜の電位の影響のためであると考えられる。このような事実があるとしても、肌に付着する汗は、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極の場合に生じる程の電極インピーダンスの変動は引き起こさないようである。スパイクは肌の外側の層をちくりと刺すが、真皮を貫通して神経や血管に達することはない。このようにして、痛みを伴わない電位計測が達成される。この電位計測では、肌の外側の層起因の高いインピーダンスを避けることができる。
【0007】
別の手段では、カーボンナノチューブが使用される。一群のカーボンナノチューブは、上と同様の配置構成において、真皮の表面層をちくりと刺す際にそれ自身がトランスデューサとして働くプローブとして使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明が解決すべき課題は、数分で頭部に装着可能であり、苦痛がなく、長期間に亘る信頼性の高い肌との無痛接触を可能とし、脳−コンピュータインタフェースなどのアプリケーションのための脳の活動の計測において十分な正確さを提供する、容易に製造可能、入手可能なデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載の電極帽、請求項29に記載の接触方法および請求項28に記載の電極帽の使用によって解決される。この電極帽およびこの方法の有利な実施の形態が、従属請求項のそれぞれによって与えられる。
【0010】
本発明は、それぞれのピンが患者の頭皮におよぼす力が全ての電極もしくは電極の全てのグループに亘って一様であり、且つ調整可能である場合に、脳波計測(EEG)における最適な結果と患者の装着感の最良化とが同時に得られるという思想に基づく。
【0011】
本発明によるとこれは、複数の電極を少なくともひとつの弾性的なジョイントを介して電極保持手段に取り付けもしくは電極保持手段上で支持することによって達成される。複数の電極は、バネや空気圧などによる弾性力によって頭皮の表面に押し当たる。
【0012】
電極保持手段は、頭部固定手段を含むことが好ましい。このような頭部固定手段としては例えば、調節可能なヘッドストラップがある。このヘッドストラップは、額、側頭部および後頭部の周りで締まり、電極帽を調節可能な圧力で頭部に固定することを可能とする。
【0013】
複数の電極は、ひとつ以上の接続手段を介して電極保持手段に取り付けられることが好ましい。その接続手段は、少数、例えば2から30個の保持アームであるかもしくはそのような保持アームを含むことが好ましい。互いに物理的に邪魔をせずに取り付け可能である程度に多くの数のアームが使用されうる。これらの保持アームは、その一端が頭部固定手段もしくはヘッドストラップに固定され、他端が電極を担持する。電極は保持アームに直接的に、もしくは他の部材を介して間接的に取り付けられうる。
【0014】
保持アームは、弾性的なジョイントを介して互いに接続されるふたつの脚部を含むことが好ましい。アームの下部は、頭部固定手段に接続される脚部であり、電極アーム支持部と呼ばれる。電極アーム移動梁は、複数の電極を担持する脚部であり、回転ジョイントもしくは直動ジョイントによって電極アーム支持部に取り付けられる。この構成により、アームの末梢端が頭皮の表面に対して直角に移動することができることが好ましい。アームの脚部が真っ直ぐである場合は、頭部に向けて開いた角度を含むことが好ましい。アームの脚部の間の弾性的なジョイントは、その回転軸が脚部の長さ方向と垂直でありかつ頭部に対する接線方向となる回転ジョイント、もしくはその回転軸が脚部の長さ方向と垂直でありかつ頭部に対する接線方向となるピボットジョイントであってもよい。
【0015】
トルク生成用の弾性ひももしくは同様に調整可能なねじりバネが、アームの隣接する脚部の対の間に引き伸ばされることが好ましい。その隣接する脚部は、弾性的なジョイントによって互いに接続される。これにより、それらふたつの脚部を接続する当該弾性的なジョイントの回りに曲げモーメントを印加することができる。そのようなひももしくはバネの長さを調節することによって、複数の電極が頭皮に及ぼす圧力を調節できる。ひももしくはバネは、ある弾性剛性KEAFCとゼロ点X0EAFCとを有してもよい。弾性剛性KEAFCまたはゼロ点X0EAFCのいずれか一方は、締め付け用のネジもしくはギア機構によって手動で調整可能とされてもよい。
【0016】
ふたつの隣接する脚部の間のジョイントは、直動ジョイントとされてもよい。この直動ジョイントは、患者の頭部に向けて可動とされることが好ましい。そのような直動ジョイントでは、ひとつの脚部はボアもしくは円筒を有し、そのボアもしくは円筒の中に他方の脚部の一部が、例えばその脚部の長さ方向に沿ってガイドされる。
【0017】
ふたつの脚部の間にバネもしくは他の弾性要素が設けられてもよい。このバネもしくは他の弾性要素は、それらふたつの脚部が相対的に動くと伸縮する。さらには、ピボットジョイントの場合について上で概説されたのと同様に、アームの隣接するふたつの脚部を弾性ひもによって接続することも可能である。これにより、直動ジョイントが移動可能とされる方向に力を印加することができる。この力は、弾性要素の弾性力の向き、もしくはそれと反対の向きに働きうる。そのようなひもの長さを調節することによって、複数の電極が頭皮に及ぼす圧力を調節できる。このひもは、ある弾性剛性KEAFCとゼロ点X0EAFCとを有してもよい。弾性剛性KEAFCまたはゼロ点X0EAFCのいずれか一方は、締め付け用のネジもしくはギア機構によって手動で調整可能とされてもよい。
【0018】
個々の電極はグループ分けされ、各グループが複数の電極の一部を含むことが好ましい。各グループの電極の数は等しいことが好ましいが、異なっていてもよい。
【0019】
同じグループに属する複数の電極は、このグループの全ての電極を保持する共通のグループ保持手段によって保持される。グループ保持手段はそれぞれ、少なくともひとつの弾性的なジョイントを介して電極保持手段に直接的にもしくは間接的に取り付けられる。上で説明したように、この保持手段は電極保持アームであってもよく、そこでは異なる脚が弾性的なジョイントを介して接続される。
【0020】
グループ保持手段は、少なくともひとつの弾性的なジョイントを含むことが好ましい。この弾性的なジョイントを介して、グループ保持手段が電極保持手段もしくは保持アームに取り付けられる。この弾性的なジョイントは、セミリジッド球面ジョイントもしくは仮想ボールジョイントであってもよい。このセミリジッド球面ジョイントもしくは仮想ボールジョイントは、そのジョイントに取り付けられた脚の末梢端にボールジョイントの場合と同じ動きをその弾性によって提供する弾性構造である。その偏位への応答は、バネ搭載のボールジョイントのそれと同等である。このジョイントは複数の電極の長さ方向、つまり複数の電極を頭部に対して押し当てる力の方向と平行な第1の軸の回りで可動とされてもよい。この方向に対してジョイントはねじり剛性Kを有する。さらに、ジョイントは頭部に圧力を加える力が働く方向と直交する少なくともひとつの軸の回りで可動とされてもよい。この方向に対してジョイントはねじり剛性Kを有する。ジョイントが複数の電極の長さ方向と直交する軸の回りで可動とされる場合、複数の電極が当てられている場所において、その複数の電極の先端によって画定される面の向きを頭部のスロープに対して調節できる。複数の電極の長さ方向と直交する軸の回りのねじり剛性Kは、複数の電極の長さ方向と平行な軸の回りのねじり剛性Kよりもはるかに大きいことが好ましい。これにより、グループ保持手段が頭皮表面に対して垂直な方向の回りに必要以上に回転することを防ぐことができる。
【0021】
所与のグループの電極は、サブグループもしくは束にグループ分けされることが好ましい。このサブグループもしくは束のそれぞれは、同様な長さの同数のもしくはほぼ等しい数の電極を含む。電極は、それが配置される面に対して直交する。ひとつのグループにつき電極の束が2つもしくは3つ以上存在してもよい。ひとつの束のなかでは、複数の電極は円状、楕円状、三角形状もしくは矩形状に配置されてもよい。ひとつの束のなかの複数の電極は、同心回路状に配置されてもよく、またいくつかの電極は中心電極の周囲に配置されてもよい。しかしながら、ひとつの束のなかの複数の電極の他の配置も可能である。必要であれば、電極は束保持手段に設けられてもよい。この束保持手段は、弾性的なジョイントであってもよいジョイントを介してグループ保持手段に設けられてもよい。電極が束ねられる場合、髪や表面の不規則性にかかわらず肌への接触が確保される。ピンを加えるごとに金属と肌との間の潜在的な接触面積が増加するので、電極の有効インピーダンスが減少する。
【0022】
グループ保持手段は、電極の束を2つもしくは3つ以上有してもよい。3つ束を有する場合、それらの束は三角形の頂点にそれぞれ配置されてもよい。その三角形は正三角形であることが好ましい。この配置では、グループ保持手段はY字構造を有しうる。このY字構造とはつまり、真っ直ぐな3つの脚を有する構造であり、それら3つの脚の一端は一点で接する。また、それら3つの脚は同じ長さを有することが好ましい。それらの脚の間の角度は全て等しいことが好ましい。
Y字形状のグループ保持手段によると、球面ジョイントが許す限りにおいてY字のそれぞれの枝が独立に頭皮に接触できる。
【0023】
束に含まれる電極の相対的な剛性は高い。一方で、束全体の電極アームの移動梁の剛性は相対的に低い。
【0024】
束が3つの電極を有する場合、それらの3つの電極もまたそれぞれ三角形の頂点に置かれてもよい。この三角形は、正三角形であることが好ましい。この三角形の中心が束の位置を表す。
【0025】
電極ひとつひとつが弾性的に支持されることが好ましい。ここでは、電極はガイド部材によってガイドされてもよい。このガイド部材は、基本的には頭皮に向いた方向であるその長さ軸方向に沿って電極をガイドする。そのガイドの中では、電極は弾性要素によって支持される。この弾性要素は、電極がガイドの中で移動できる方向に沿って弾性的である。したがって、電極はシリンダの中のピストンのように設けられる。弾性要素は、電極の長さ軸方向に沿って、ガイド部材の中で電極の下に配置されるバネであってもよい。
【0026】
代替的には、電極は仮想的に圧縮可能であってもよい。つまり、電極は弾性的に変形可能であってもよい。ここでは、電極は薄い金属のピンであってもよい。
【0027】
複数の電極は、高導電性の材料によって覆われているかもしくはメッキされていることが好ましい。このような材料としては例えば、金、白金、銀、塩化銀、貴金属、合金かつ/または導電性のナノ粒子がある。
【0028】
複数の電極については、脳波計測において電気信号を計測することが意図されている。この目的のため、複数の電極は、ひとつの束の中の全てのピンが互いに接続される構成である単極構成に配線されてもよい。電圧はグランドを基準として測定されうる。これに代えて、複数の電極は二極構成に配されてもよい。この二極構成では、束、グループもしくは全ての電極はふたつのグループに分けられ、一方のグループの電極は互いに電気的に接続され、他方のグループの電極は互いに電気的に接続され、そのふたつのグループの電極間の電圧が測定されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】患者の頭部に取り付けられる本発明に係る電極帽を示す図である。
【図2】ピボットジョイントを含む保持アームと共にヘッドストラップを示す図である。
【図3】直動ジョイントを含む保持アームと共にヘッドストラップを示す図である。
【図4】電極の3つの束と共にグループ保持手段を示す図である。
【図5】電極の長さ方向と平行な軸の回りに変形可能なグループ保持手段を示す図である。
【図6】患者の頭部に取り付けられる電極帽を上から見た図である。
【図7】3つの弾性的に支持される電極を示す図である。
【図8】グループ保持手段に取り付けられた仮想的に圧縮可能な電極を示す図である。
【図9】ひとつの電極束の単極構成を示す図である。
【図10】ひとつの束の中の複数の電極の二極構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、人間の頭部2に取り付けられる本発明に係る電極帽を示す。電極帽は、頭部2の周りを回るヘッドストラップ1を備える。ヘッドストラップ1の対向する辺にはふたつの保持アーム3aおよび3bが取り付けられる。保持アーム3aおよび3bは、ふたつの脚部4aおよび5a、ふたつの脚部4bおよび5bをそれぞれ含む。ふたつの脚部4aおよび5aは、回転ジョイント6aを介して互いに接続される。ふたつの脚部4bおよび5bは、回転ジョイント6bを介して互いに接続される。下部脚部4aおよび4bは支持用の脚部であり、一方の側においてヘッドストラップ1に取り付けられ、また、他方の側においてジョイント6aおよび6bにそれぞれ取り付けられる。第2の脚部5aおよび5bは、電極アーム移動梁であり、グループ保持手段7a、7bを担持する。それらのグループ保持手段は3つの枝を有する木の形状を有し、電極の3つの束がその脚の端部にそれぞれ配されている。
【0031】
電極アーム支持部4a、4bおよび電極アーム移動梁5a、5bは、頭部に向けて開いた角度でそれぞれ設けられている。ふたつの脚部4aおよび5aの間、並びにふたつの脚部4bおよび5bの間には、弾性ひも8a、8bが引き伸ばされている。これらの弾性ひも8a、8bによって、複数の電極が頭部2に押し当てられる圧力を調節することができる。
【0032】
図2は、電極アーム3aを詳細に示す。電極アーム3aは、ヘッドストラップ1に取り付けられる。電極アーム3aは、ピボットジョイント6aを介して互いに接続される第1の脚部4aおよび第2の脚部5aを含む。電極アーム支持部4aと電極アーム移動梁5aとの間には、弾性ひも8aが引き伸ばされる。弾性ひも8aは、ジョイント6aの周りに電極アーム3aを曲げる。脚部4aおよび5aの間の角度は、ひも8aの張力を変えることで調節可能である。弾性ひも8aは、弾性剛性KEAFCで自身が弾性的であってもよい。ひも8aの張力は、締め付け用のネジ9を用いて手動で調節されうる。
【0033】
図3は、図1および図2のアーム3aおよび3bに対応するアーム3の代替的な構成を示す。第1の脚部4aは電極アーム支持部であり、直動ジョイント10を介して第2の脚部5aに接続される。直動ジョイント10は、第1のアーム4aにドリルによって孔をあけ、その孔の中に第2のアーム5aをその長さ方向に沿ってガイドすることによって与えられる。繰り返すが、脚部4aおよび5aは頭部に向けて開いた角度を成す。電極アーム支持部もまた、頭部に向けて開いた角度を有してもよい。第2のアーム5aは、セミリジッド球面ジョイント13を介してグループ保持手段7を担持する。グループ保持手段7は、電極12を担持する。グループ保持手段7と第1のアーム4aとの間には、バネ11が第2のアーム5aと平行に設けられる。バネ11は、第2のアーム5aを環囲することが好ましい。これにより、第2のアーム5aにその長さ方向に力が加えられた場合にこのバネ11は伸縮する。このことは、例えば電極12が患者の頭部に押し当てられた場合に起こる。
【0034】
図4は、電極12の3つの束を担持するグループ保持手段を示す。各束は3つの電極12を含み、その3つの電極12は正三角形などの三角形の頂点にそれぞれ配置される。図の上部は電極の長さ方向と直交する方向から見た図を示し、一方で、図の下部は上から見た図を示す。図の下部から理解される通り、グループ保持手段7は等しい長さを有する3つの脚14a、41b、14cを有するY字構造を有し、それら3つの脚14a、41b、14cは、互いに等しい角度で配置される。保持構造7は、セミリジッド球面ジョイント13を有し、このセミリジッド球面ジョイント13を介して保持アーム3と接続される。
【0035】
セミリジッド球面ジョイント13は電極12と平行な軸16の周りで弾性的に可動であり、また、電極12の方向と直交するひとつもしくはふたつの軸15aおよび15bの周りで弾性的に可動である。動きに応答して弾性的なUジョイントが生成するトルクの場合と同様に、第1の軸のねじり剛性Kは、第2の軸のねじり剛性Kよりも非常に大きい。
【0036】
図5は、グループ保持手段7の代替的な構成を示す。ここでは、保持手段7は仮想ボールジョイント17において固定されている。仮想ボールジョイントは、そのジョイントに取り付けられた脚の末梢端にボールジョイントの場合と同じ動きをその弾性によって提供する弾性構造である。その偏位への応答は、バネ搭載のボールジョイントのそれと同等である。
【0037】
要素17は、電極12と直交する少なくともひとつの軸の周りに曲がることができ、また、電極12と平行な軸の周りに弾性的であってもよい。
【0038】
図6は、患者の頭部の上から見た本発明に係る電極帽を示す。ここに示される構成は、運動イメージ(motor imagery)を利用するBCIアプリケーションにおける例である。ヘッドストラップ1は、患者の頭部の周りを回り、締結手段18によって締結される。これにより、ヘッドストラップ1の調節が可能となる。電極アーム3aおよび3bは、グループ保持手段7aおよび7bを担持し、電極12がグループ保持手段7aおよび7bに配設される。示される例では、グループ保持手段7aおよび7bは、上述のY字構造を有する。この構成によると、頭皮、したがって脳の中央部および側部へのアクセスが可能となる。
【0039】
図7は、可動部材および弾性要素によってその軸に沿って弾性的に支持される電極を示す。電極12a、12bおよび12cは保持手段7に配設され、ガイド部材19a、19bおよび19cの中にそれぞれ配置される。ガイド部材19a、19bおよび19cは、電極をその軸長さ方向に沿ってのみ移動させる。電極は、バネ20a、20bおよび20cなどの弾性要素と接触して支持される。バネ20a、20bおよび20cは、一端がガイド手段19a、19b、19cにそれぞれ固定され、他端が電極12a、12bおよび12cにそれぞれ接触する。したがって電極12a、12bおよび12cは円筒チューブ19a、19bおよび19cの中をシリンダのピストンのように動くことができる。ここに示される例では3つの電極しか示されていないが、任意の数の電極が束やグループや電極帽に設けられてもよい。
【0040】
図8は、弾性的に支持される電極の代わりに仮想的に圧縮可能な電極を示す。図8の左側は、保持手段7に取り付けられた電極12a、12b、12cに力が加えられていない場合を示す。図8の右側は、同じセットアップにおいて電極12aから12cに力が加えられる場合を示す。ここで、電極は自身が弾性的である。つまり、力が加えられた場合に電極自身が弾性的に曲がる。言い換えると、電極は、その形状や材質由来の弾性によって、上述の場合と同様に屈曲できる。
【0041】
図9は、ひとつの束の電極の単極構成を示す。6つの電極12aから12fが、3つの電極12gから12iの周りでグループ化されている。全ての電極は互いに電気的に接続される。グランドを基準とした電圧Vuが測定される。
【0042】
図10は、ひとつの束の電極の二極構成を示す。電極はふたつの部分に分けられ、そのふたつの部分はふたつの極を形成し、そのふたつの極の間で電圧Vbが測定可能である。電極12aおよび12bは一方の極に属し、電極12cおよび12dは他方の極に属する。各部分の電極は互いに電気的に接続される。
【0043】
本発明に係る電極帽は、最小の準備と例えば2時間よりも長い計測時間とを伴う脳波計測を行いたい場合にはいつでも適用できる。そのような場合としては例えば、医学的な診断や監視、脳−コンピュータインタフェース(BCI)、嘘発見、安全性がクリティカルである機器の操作においてユーザの注意を監視する場合などがある。本発明に係る電極帽によると、頭皮と電極との間に導電性のジェルは必要ない。また、各電極ピンが頭皮に及ぼす力は一様であり、患者に痛みを感じさせず、一方で電極は肌と安定的に接触する。全体的な力のレベルもしくは電極のあるグループによって及ぼされる力は、調節可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳波計測において頭皮に接触するための電極帽であって、当該電極帽は、頭皮に接触するためのピン形状の複数の電極と、電極保持手段と、を備え、
前記複数の電極は、少なくともひとつの弾性的なジョイントを介して前記電極保持手段に取り付けられることを特徴とする電極帽。
【請求項2】
前記複数の電極は、少なくともひとつの接続手段を介して前記電極保持手段に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の電極帽。
【請求項3】
前記複数の電極は、ひとつ以上のグループに分けられ、
各グループの電極は共通のグループ保持手段に取り付けられ、
前記グループ保持手段はそれぞれ、少なくともひとつの弾性的なジョイントを介して前記電極保持手段に取り付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の電極帽。
【請求項4】
前記電極保持手段は、前記電極帽を頭部に固定する頭部固定手段を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電極帽。
【請求項5】
前記頭部固定手段は、ヘッドストラップを含むことを特徴とする請求項4に記載の電極帽。
【請求項6】
前記接続手段は、少なくともひとつの保持アームを含み、
前記少なくともひとつの保持アームの一端は前記頭部固定手段に固定され、他端は直接的にもしくは間接的に少なくともいくつかの前記電極もしくは電極の少なくともひとつのグループを担持することを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の電極帽。
【請求項7】
前記少なくともひとつの保持アームは、前記少なくともひとつの弾性的なジョイントのうちのひとつを介して一列に互いに接続される少なくともふたつの脚部を含み、
第1の脚部は、他の脚部のうちのひとつだけと接続されており、前記第1の脚部は前記弾性的なジョイントから離れた端部において前記頭部固定手段に固定され、前記弾性的なジョイントによって前記第1の脚部は前記他の脚部のうちのひとつと接続され、
第2の脚部は、他の脚部のうちのひとつだけと接続されており、前記第2の脚部は少なくともいくつかの電極もしくは電極の少なくともひとつのグループを担持することを特徴とする請求項6に記載の電極帽。
【請求項8】
前記少なくともふたつの脚部は、頭部に向けて開いた角度で互いに接続されることを特徴とする請求項7に記載の電極帽。
【請求項9】
前記弾性的なジョイントは、その回転軸が前記脚部の長さ方向と垂直でありかつ頭部に対する接線方向となる回転ジョイント、もしくはその回転軸が前記脚部の長さ方向と垂直でありかつ頭部に対する接線方向となるピボットジョイントであることを特徴とする請求項7または8に記載の電極帽。
【請求項10】
前記少なくともひとつの保持アームのふたつの隣接する脚部を接続する少なくともひとつの弾性ひもまたはねじりバネもしくはその両方によって特徴付けられ、
前記ふたつの隣接する脚部は、ジョイントによって互いに接続され、
前記少なくともひとつの弾性ひもまたはねじりバネもしくはその両方によって、前記ふたつの隣接する脚部を接続する前記弾性的なジョイントの回りに曲げモーメントを印加可能であることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の電極帽。
【請求項11】
前記少なくともひとつの弾性的なジョイントのうちの少なくともひとつは直動ジョイントであり、
前記直動ジョイントは、頭部に向けて可動とされることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の電極帽。
【請求項12】
少なくともひとつの弾性要素もしくはバネによって特徴付けられ、
前記少なくともひとつの弾性要素もしくはバネは、前記少なくともひとつの保持アームのふたつの隣接する脚部を接続し、
前記ふたつの隣接する脚部は、直動ジョイントを介して互いに接続され、
前記少なくともひとつの弾性要素もしくはバネは、前記直動ジョイントが可動とされる方向に伸縮することを特徴とする請求項11に記載の電極帽。
【請求項13】
前記少なくともひとつの保持アームのふたつの隣接する脚部を接続する少なくともひとつの弾性ひもによって特徴付けられ、
前記ふたつの隣接する脚部は、直動ジョイントを介して互いに接続され、
前記少なくともひとつの弾性ひもによって、前記直動ジョイントが可動とされる方向に力を印加可能であることを特徴とする請求項11または12に記載の電極帽。
【請求項14】
前記グループ保持手段は、少なくともひとつの第2の弾性的なジョイントを含み、
前記グループ保持手段は、前記第2の弾性的なジョイントを介して前記電極保持手段もしくは前記接続手段に取り付けられることを特徴とする請求項3から13のいずれかに記載の電極帽。
【請求項15】
前記第2の弾性的なジョイントは、セミリジッド球面ジョイントもしくは仮想ボールジョイントであり、
前記セミリジッド球面ジョイントもしくは仮想ボールジョイントは、当該グループの電極の長さ方向と平行な第1の軸の回りでねじり剛性Kで可動とされ、かつ/または、その電極の長さ方向と直交する少なくともひとつの軸の回りでねじり剛性Kで可動とされることを特徴とする請求項14に記載の電極帽。
【請求項16】
はKよりも大きいことを特徴とする請求項15に記載の電極帽。
【請求項17】
少なくともひとつのグループの電極は、少なくともふたつの束に分けられることを特徴とする請求項3から16のいずれかに記載の電極帽。
【請求項18】
あるグループの電極は3つの束に分けられ、その3つの束は三角形の頂点にそれぞれ配置されることを特徴とする請求項3から17のいずれかに記載の電極帽。
【請求項19】
前記グループ保持手段はY字構造を有し、
それにより、前記3つの束は前記Y字構造の脚の端部にそれぞれ配置されることを特徴とする請求項18に記載の電極帽。
【請求項20】
それぞれの束は、三角形の頂点にそれぞれ配置される3つの電極を有することを特徴とする請求項17から19のいずれかに記載の電極帽。
【請求項21】
ひとつの束の電極またはひとつのグループの電極または全ての電極のうちの少なくともひとつの電極または大部分の電極は、それぞれ別個にガイド部材によってガイドされ弾性要素によって支持され、
前記ガイド部材は、その長さ軸方向に沿って電極をガイドし、
前記弾性要素は、その長さ方向に弾性的であることを特徴とする請求項1から20のいずれかに記載の電極帽。
【請求項22】
前記弾性要素はバネであり、
前記バネの一端は前記電極保持手段に固定され、他端は前記電極と接することを特徴とする請求項21に記載の電極帽。
【請求項23】
前記複数の電極は、可動部かつ/またはバネかつ/または前記複数の電極が仮想的に圧縮可能であることによって弾性的に支持されることを特徴とする請求項1から22のいずれかに記載の電極帽。
【請求項24】
全ての電極もしくは少なくともひとつのグループの全ての電極もしくは少なくともひとつの束の全ての電極は、互いに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1から23のいずれかに記載の電極帽。
【請求項25】
前記電極もしくはそれぞれのグループの電極もしくはそれぞれの束の電極はふたつの部分に分けられ、
それぞれの部分の電極は互いに電気的に接続され、
前記ふたつの部分の間に電圧を印加できることを特徴とする請求項1から23のいずれかに記載の電極帽。
【請求項26】
前記複数の電極は、高導電性の材料によって覆われているかもしくはメッキされていることを特徴とする請求項1から25のいずれかに記載の電極帽。
【請求項27】
前記複数の電極は、金、白金、銀、塩化銀、貴金属、合金もしくは導電性のナノ粒子によって覆われているかもしくはメッキされていることを特徴とする請求項1から26のいずれかに記載の電極帽。
【請求項28】
脳波計測のために請求項1から27のいずれかに記載の電極帽を使用すること。
【請求項29】
脳波計測において頭皮に接触する方法であって、
ピン形状の複数の電極を備える電極帽によって頭皮は接触され、
前記複数の電極は、少なくともひとつの弾性的なジョイントを介して電極保持手段に取り付けられることを特徴とする方法。
【請求項30】
前記電極帽は、請求項1から27のいずれかに記載の電極帽であることを特徴とする請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−511444(P2010−511444A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539609(P2009−539609)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011843
【国際公開番号】WO2008/067839
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(504380482)フラウンホファー−ゲゼルシャフト ツア フェデルンク デア アンゲヴァンテン フォルシュンク エーファウ (5)
【Fターム(参考)】