説明

脳温管理装置および脳温管理装置の制御方法

【課題】相対的に温度が低い媒体および相対的に温度が高い媒体を予め調製し、これらの媒体を混合することで冷却体を温度調節しつつ、エネルギ効率に優れた脳温管理装置、および脳温管理装置の制御方法を提供すること。
【解決手段】脳温管理装置101は、対象者の脳温を検出する脳温検出センサー、対象者を冷却する対象者冷却部20、および対象者冷却部20の温度を制御する温度制御装置を備える。対象者冷却部20は、冷却体を昇温させる昇温部23と、冷却体を降温させる降温部21と、昇温部23および降温部21で温度設定された冷却体を混合して流通させる流通系25とを備える。温度制御装置の出力部は、昇温部23および降温部21を、その一方が駆動している駆動期間中、他方が駆動しない非駆動期間が存在するように制御する駆動期間調節部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外傷により生命維持が困難な状況にある対象者の生命維持等のために、脳を低温状態にして保護する脳低温療法に用いられる脳温管理装置および脳温管理装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ICUでは、生死の境界にある患者を治療するため、患者の生理状態は厳密に管理されている。具体的には、患者の呼吸数、心拍数、血圧、体温、意識レベル等の指標を測定し、この測定値に従って、個々の医師が経験に基づき調節する。
【0003】
たとえば、脳低温療法では、患者の頭部、頸部、胴体の温度および深部体温を測定して、これらの温度を低温に維持することにより、脳温および体温を低温で管理する。また、麻酔療法では、患者の体温、心拍数、血圧を測定して、麻酔ガスの濃度や量を調節している。また、人工呼吸では、患者の末梢動脈血酸素飽和度を測定して、空気量やこの空気に含まれる酸素量を調節している。
【0004】
本発明者は、脳低温療法に用いられる脳温管理装置として、脳温の目標値を設定する目標値設定手段と、脳温検出センサーで検出した現状値と目標値との差に基づいて、対象者冷却手段のパラメータを数学的に推定するパラメータ推定手段と、パラメータに基づいて、対象者冷却手段を駆動させることにより、脳温の現状値を目標値に近づける出力手段と、を備える脳温管理装置を開示している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−130124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、脳を迅速に低温状態へ移行させるには、充分に低温の冷却体で対象者を冷却する必要がある。しかし、冷却体の温度調節を迅速に行うことが困難であるため、低温状態への移行後、脳が過剰に低温化されやすい。
【0007】
そこで、降温手段で相対的に温度が低い媒体を、昇温手段で相対的に温度が高い媒体を、それぞれ予め調製しておき、これらの媒体を適切な比率で混合することにより、冷却体を温度調節する方法が考えられる。しかし、この態様によれば、冷却体が迅速に変温するため、脳の過剰な低温化が抑制されることを期待できるものの、降温手段および昇温手段が常時稼動し続けるため、エネルギ効率が悪い。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、相対的に温度が低い媒体および相対的に温度が高い媒体を予め調製し、これらの媒体を混合することで冷却体を温度調節しつつ、エネルギ効率に優れた脳温管理装置、および脳温管理装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、昇温手段および降温手段を、その一方が駆動している駆動期間中、他方が駆動しない非駆動期間が存在するように制御することで、冷却体を迅速に温度調節しつつ、エネルギ効率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 対象者の脳を低温状態にして保護する脳低温療法に用いられる脳温管理装置であって、
前記対象者の脳温を検出する脳温検出センサー、前記対象者を冷却する対象者冷却手段、および、この対象者冷却手段の温度を制御する温度制御装置を備え、
前記対象者冷却手段は、前記対象者の脳を冷却するための冷却体を昇温させる昇温手段と、前記冷却体を降温させる降温手段と、前記昇温手段および降温手段で温度設定された冷却体を混合して流通させる流通手段と、を備え、
前記温度制御装置は、前記脳温の目標値を設定する目標値設定手段と、
前記脳温検出センサーで検出した現状値と前記目標値との差に基づいて、前記対象者冷却手段を駆動させることにより、前記脳温の現状値を前記目標値に近づける出力手段と、を備え、
前記出力手段は、前記昇温手段および前記降温手段を、その一方が駆動している駆動期間中、他方が駆動しない非駆動期間が存在するように制御する駆動期間調節手段を有する脳温管理装置。
【0011】
(2) 前記駆動期間調節手段は、前記昇温手段および前記降温手段を、各々の駆動期間が互いに重複しない非重複期間が存在するように制御する(1)記載の脳温管理装置。
【0012】
(3) 前記冷却体に対して殺菌処理を行う殺菌処理手段をさらに備える(1)または(2)記載の脳温管理装置。
【0013】
(4) 前記冷却体の漏れを検知する漏れ検知手段と、この漏れ検知手段による漏れの検知に基づいて前記流通手段を停止する停止制御手段と、をさらに備える(1)から(3)いずれか記載の脳温管理装置。
【0014】
(5) 前記流通手段は、前記昇温手段および降温手段から導出された冷却体を、前記昇温手段および降温手段へと戻して導入する循環路を有し、
前記漏れ検知手段は、前記昇温手段および降温手段からの導出量と、前記昇温手段および降温手段への導入量との差を監視する監視手段を有し、この監視手段により差が感知されたことに基づいて前記冷却体の漏れを検知する(4)記載の脳温管理装置。
【0015】
(6) 対象者の脳を低温状態にして保護する脳低温療法に用いられる脳温管理装置の制御方法であって、
前記脳温管理装置は、前記対象者の脳温を検出する脳温検出センサー、前記対象者を冷却する対象者冷却手段、および、この対象者冷却手段の温度を制御する温度制御装置を備え、
前記対象者冷却手段は、前記対象者の脳を冷却するための冷却体を昇温させる昇温手段と、前記冷却体を降温させる降温手段と、前記昇温手段および降温手段で温度設定された冷却体を混合して流通させる流通手段と、を備え、
前記温度制御装置が、
前記脳温の目標値を設定する目標値設定手段を備え、
前記脳温検出センサーで検出した現状値と前記目標値との差に基づいて、前記対象者冷却手段を駆動させることにより、前記脳温の現状値を前記目標値に近づける出力手順を行い、
前記出力手順において、前記昇温手段および前記降温手段を、その一方が駆動している駆動期間中、他方が駆動しない非駆動期間が存在するように制御する駆動期間調節手順を行う制御方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、昇温手段および降温手段の一方が駆動している駆動期間中、他方が駆動しない非駆動期間が存在するため、相対的に温度が低い媒体および相対的に温度が高い媒体を予め調製し、これらの媒体を混合することで冷却体を温度調節しつつ、エネルギ効率を向上できる。また、冷却体の昇温は降温手段が稼動していなくても支障なく行われ、冷却体の降温は昇温手段が稼動していなくても支障なく行われるので、冷却体の温度調節への悪影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る脳温管理装置の構成図である。
【図2】図1の脳温管理装置のブロック図である。
【図3】図2の脳温管理装置を構成する制御手段のブロック図である。
【図4】図2の脳温管理装置を構成する皮膚温度測定用センサーと呼吸管理用マスクの説明図である。
【図5】本発明の別の実施形態に係る脳温管理装置を構成する成人冷却用インキュベータの説明図である。
【図6】脳温の自動制御システムの説明図である。
【図7】脳温の患者温熱モデルのブロック図である。
【図8】マネキンによる実験装置のブロック図である。
【図9】脳温のモデル参照型適応制御のブロック図である。
【図10】脳温管理装置を用いた脳低温療法における脳温の推移、ならびに脳温管理装置を構成する昇温手段および降温手段の駆動期間および非駆動期間のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る脳温管理装置101の構成図であり、図2は脳温管理装置101のハードウェアの概要図である。脳温管理装置101は、対象者の脳を低温状態にして保護する脳低温療法に用いられるものであり、対象者の脳温を検出する脳温検出センサー、対象者を冷却する対象者冷却部20、および、この対象者冷却部20の温度を制御する温度制御装置を有する制御装置50を備える。この脳温管理装置101は、モニタリングした患者生理データと、プログラム化した生命維持の手順にもとづいて体熱調節システムにより患者の脳を低体温に維持する。
【0020】
対象者冷却部20は、体表面側から冷却体を対象者に接触させて対象者の脳を間接的に冷却する接触冷却装置であり、この接触冷却装置は、冷却体を昇温させる昇温部23と、冷却体を降温させる降温部21と、昇温部23および降温部21で温度設定された冷却体の混合液が流通しかつ対象者に接触する流通系25と、を備える。なお、冷却体は、液体(たとえば水)または気体(たとえば空気)であってよい。
【0021】
降温部21は、冷却体が一時的に貯留される冷媒槽211を有し、この冷媒槽211に貯留された冷却体は冷却器213によって降温され、冷媒供給路214を通じて冷媒槽211から導出される。また、昇温部23は、冷却体が一時的に貯留される温媒槽231を有し、この温媒槽231に貯留された冷却体は加熱器233によって昇温され、温媒供給路234を通じて温媒槽231から導出される。冷媒供給路214および温媒供給路234は合流し、この合流地点より下流側(図1では合流地点)において分配弁253が設けられている。この分配弁253の開度に応じて、冷媒供給路214および温媒供給路234の各々から導出される冷却体の混合比率が変化し、この混合比率で混合された冷却体が、分配弁253に連通された潅流パイプ105へと流れる。なお、冷却器213および加熱器233は、後述の制御部51に接続されている。
【0022】
ここで、潅流パイプ105の途中には断水弁254、ポンプ255が設けられていて、断水弁254の開度に応じた量の冷却体が、ポンプ255の駆動力により胴体冷却装置102(冷却ブランケット)、頸部冷却装置103(冷却マフラー)、頭部冷却装置104(冷却帽子)へと供給され、対象者を間接的に冷却する。したがって、脳温の目標値を考慮し、冷却体を昇温すべき場合には分配弁253の温媒供給路234側への開度を増し、冷却体を昇温すべき場合には分配弁253の冷媒供給路214側への開度を増せばよい。なお、分配弁253および断水弁254は、後述の制御部51に接続されている。
【0023】
胴体冷却装置102、頸部冷却装置103、頭部冷却装置104を通過した冷却体は、還流パイプ106を通じて降温部21および昇温部23へと戻される。本実施形態では、還流パイプ106の下流には分配弁259が設けられていて、この分配弁259の開度により、冷媒回収路215および温媒回収路235の各々への冷却体の分配率が変化する。冷媒回収路215へ分配された冷却体は冷媒槽211に導出され貯留される一方、温媒回収路235へ分配された冷却体は温媒槽231に導出され貯留され、それぞれ再利用される。このように、胴体冷却装置102、頸部冷却装置103、頭部冷却装置104、潅流パイプ105、還流パイプ106は循環路を形成する。
【0024】
なお、259は、制御されずに一定の開度で保持されてもよいし、開度を制御されてもよい。後者の場合、たとえば、潅流パイプ105へと導出する冷却体を降温すべき場合には、温媒回収路235側への開度を増し、潅流パイプ105へと導出する冷却体を昇温すべき場合には、冷媒回収路215側への開度を増す制御を行ってもよい。これにより、冷却器213および加熱器233の必要消費エネルギをより低減することができる。
【0025】
冷却体を再利用する場合には、冷却体が衛生的であることが望まれる。そこで、潅流パイプ105の途中には導出量メータ256が、還流パイプ106の途中には導入量メータ258がそれぞれ設けられていて、導出量メータ256は降温部21および昇温部23からの冷却体の導出量を検出し、導入量メータ258は降温部21および昇温部23への冷却体の導入量を検出し、漏れ検知部70の監視部71へと送信する。監視部71は、導出量メータ256および導入量メータ258から受信した情報に基づいて冷却体の導入量および導出量の差を監視し、漏れ検知部70は監視部71により差が感知されたことに基づいて冷却体の漏れを検知し、その情報を制御部51へと送信する。制御部51の停止制御部516は、冷却体の漏れを検知すると、断水弁254を閉じる等によって対象者冷却部20を停止する。これにより、冷却体の漏れが生じたときに、汚染した冷却体が再利用されるのを抑制することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、冷却体の漏れを、冷却体の導入量および導出量の差に基づいて検知したが、これに限られず、潅流パイプ105または還流パイプ106内の冷却体の圧力低下などに基づいて検知してもよい。また、対象者冷却部20の停止は、冷却体の循環を阻害する限りにおいて、断水弁254を閉じることによるものに限られず、たとえば還流パイプ106に弁を設け、この弁を閉じることによってもよく、あるいは冷却体を循環路以外へと逃避させることによってもよい。
【0027】
また、冷却体の漏れを検知した情報が制御部51へ送信されると、制御部51の報知制御部517は報知部80を制御して、漏れを報知させる。これにより、汚染した冷却体の再利用を人為的に抑制することを促すことができ、また、不具合のない接触冷却装置への交換または他の手段の代用などの措置を講じることができる。なお、報知部80による漏れの報知は、視覚、聴覚等に刺激を与えるものであれば特に限定されず、漏れを直接的に意味する内容(たとえば、「漏れが発生しました」等の警報音)に限らず、漏れを間接的に示唆する内容(たとえば単なる人工音や光)であってもよい。報知制御部517および報知部80は報知手段を構成する。
【0028】
また、冷却体の衛生向上の観点で、脳温管理装置101は、冷却体に対して殺菌処理を行う殺菌処理部60をさらに備えることが好ましい。本実施形態における殺菌処理部60は、殺菌効率の観点で、冷媒槽211および温媒槽231に設けられており、冷媒槽211および温媒槽231内に貯留されている冷却体に対して殺菌処理を行う。殺菌処理は、紫外線照射、殺菌剤添加、フィルタ濾過などの従来公知の方法で行われてよいが、処理の簡便性および効率のバランス等の観点では紫外線照射によることが好ましい。なお、殺菌処理部の設置点数は単数でも複数でもよく、設置箇所は冷媒槽211および温媒槽231に限られず任意であってよいが、衛生性の観点で胴体冷却装置102、頸部冷却装置103、頭部冷却装置104よりも上流側であることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態では、混合された冷却体を胴体冷却装置102、頸部冷却装置103、頭部冷却装置104に供給し、対象者を間接的に冷却している。しかし、これに限られず、冷却体としてたとえば晶質溶液(リンゲル液のようなもの)を用い、混合された冷却晶質溶液を内頸動脈や椎骨動脈から注入し、直接脳血管内に潅流させてもよい。これにより、脳組織を迅速かつ選択的に冷却することができる。
【0030】
[成人冷却用インキュベータ]
成人脳低温療法のための脳冷却インキュベータの概要が図5に示されている。このインキュベータは、前述の通り、冷却ブランケット(胴体冷却装置102)、冷却帽子(人体頭部冷却装置104)、冷却マフラー(人体の頸部を冷却する頸部冷却装置103)に代わって、人体を冷却することができる。
【0031】
脳低温療法の患者は網状支持体の上に置かれ、全身の空気冷却が可能となる。インキュベータ内へ送気する冷却空気は加湿器を通し、湿度がほぼ100%となるように制御されるが、その温度は冷却の目的に応じて調節可能である。また、インキュベータ内で冷却空気の流速を高めることによって、冷却装置内の空気温度の均一性を図ると同時に冷却効率を高める。インキュベータ本体はほぼ真空状態に減圧した二層透明な材質よりなるので、断熱性に優れている。したがって、インキュベータの内部温熱環境は外部環境温度にほとんど影響されない。
【0032】
このようなインキュベータの変形例としては、たとえば患者の病室全体をエア・コンディショナーで冷却することによって、患者の体温、特に脳温を管理するシステムが挙げられる。また、救急車の車内においても、同様に全体空気を冷却することにより、患者の脳温管理が可能となる。
【0033】
[最適適応制御を適用したインキュベータ]
以下、図6〜図10に基づいて、「最適制御」を、脳温管理装置101としての成人冷却用インキュベータに適用した場合を説明する。なお、「最適制御」は、冷却ブランケット、冷却帽子、冷却マフラーの組合せによるシステムにも適用可能であるが、ここでは、「最適制御」の具体的適用例として、成人冷却用インキュベータに適用した場合を説明する。
【0034】
[最適適応制御とは]
図6に示した、最適制御による脳温自動制御システムは、モデル参照型適応制御により実現される。その際、制御入力である冷却体温度を如何に定めるかを、図9に示すように、信号合成適応制御系と最適レギュレータを用いて行う。すなわち、参照モデルの脳温出力と目標脳温とを比較して、その差をもとに参照モデルの冷却温度入力を定め、参照モデルの脳温出力を目標脳温冷却曲線に追従させる最適追従制御方式を採用する。同時に、信号合成適応制御系は臨床のP−I生体温熱システム(患者−インキュベータを常に一体のものとして取り扱った温熱物理系)の脳温出力と参照モデルの脳温出力との差および参照モデルの冷却体温度入力を基に、リアルタイムで、P−I生体温熱システムの冷却空気温度入力を調整する。それにより、P−I生体温熱システムの脳温出力を参照モデルの脳温出力に追従する制御を行う。よって、P−I生体温熱システムの脳温出力が目標とする脳温冷曲線に追従できる。
【0035】
すなわち、「最適制御」とは、特定のパラメータによって特徴付けられる制御システムにおいて、システムへのある入力値に対する出力値と目標値との差を数学的に分析して、ある制約条件(評価関数)の下でその差が最小になるように、前述のパラメータを計算し、その計算結果のパラメータをシステムに反映させることを入力値毎に繰り返すことによって、システムの出力値が目標値に追従することが可能となる制御である。
【0036】
以下では、参照モデルに対する最適制御とP−I生体温熱システムに対する適応制御のアルゴリズムを示す。
【0037】
[P−B(患者−ブランケット)伝達関数温熱モデル]
冷却体ブランケットの温度変化に対して、患者の脳温には特徴的な変化が現れる。脳低温療法の温度管理過程は脳温のレベルと治療の過程の進行によって、冷却期、維持期、復温期、管理期の4期に分けられる。たとえば、冷却期では、冷却ブランケットの冷却体温度を低下させても、最初は脳温がほとんど変化せず、しばらくして急に変化する。その後はゆっくりとした変化となり、最後に一定値となる。このような脳温変化の時間遅れは脳低温療法の復温期にも存在する。
【0038】
よって、システム論的視点から、冷却ブランケットの冷却体温度Twaterと患者の脳温Tbrainをそれぞれシステムの温度入力と温度出力とし、P−B生体温熱システムの動特性を一次遅れとむだ時間要素からなる次のP−B伝達関数温熱モデルG(s)で近似表現する。
【0039】
【数1】

【0040】
ここでは、Tbrain(s)とTwater(s)はそれぞれ脳温と冷却体温度の変化量に対するラプラス変換値である。sはラプラス演算子であり、K、Lとτはそれぞれシステムのゲイン、むだ時間と時定数である。
【0041】
[患者−ブランケット伝達関数温熱モデルの検証]
P−B伝達関数温熱モデルの妥当性を検証するために、このモデルを用いて脳温のPID制御のシミュレーション実験を行う。PIDレギュレータの各定数の最適調整値はZigler−Nicholsの方法に従い次のように与える。
【0042】
【数2】

【0043】
目標脳温Rとモデルの脳温出力Tbrainとの差(e=R−Tbrain)に基づいて、モデルの冷却体温度入力Twaterを次のような制御則により定める。
【0044】
【数3】

【0045】
[参照モデルの離散時間表現]
デジタル制御およびコンピュータプログラムの利便性から、以下では全て離散時間システムに変換した形で説明する。
【0046】
P−B伝達関数温熱モデルでは時定数に比べて、そのむだ時間が極めて小さいので、実質的に、むだ時間を無視できる。よって、式(1)から次の差分方程式(3)を得ることができる。
【0047】
【数4】

【0048】
ここでは、添字modelは参照モデルを意味する。iはサンプル数であり、時系列の番号iはサンプリング周期νとする時サンプル時刻iνに対応する。なお、次式が成り立つ。
【0049】
【数5】

【0050】
[最適追従型アルゴリズム]
参照モデルであるP−B伝達関数温熱モデルに対して最適追従制御を施すことを考える。ここでは、次のように定義する。
【0051】
【数6】

【0052】
この定義に従えば、次の誤差システムを得ることができる。
【0053】
【数7】

【0054】
ただし、状態変数X(i)と係数行列A、G、Gは次のようになる。
【0055】
【数8】

【0056】
よって、最適追従制御を行うために参照モデルへの冷却体温度入力は次のように算出できる。
【0057】
【数9】

【0058】
ここでは、Tmodel,brain(0)とTmodel,water(0)はそれぞれ平衡状態にある参照モデルの脳温出力と冷却体温度入力である。
【0059】
また、hとhは最適追従制御のための状態フィードバック係数であり、次のように予め与えることができる。
【0060】
【数10】

【0061】
なお、パラメータq、qとrは最適追従効果を得られるように定める。(6)はRiccati方程式であるので、式(6)からPを求めることができる。
【0062】
[モデル参照型適応制御アルゴリズム]
生体システムを扱う場合には、個体差のみならず、経時的なその特性の変動および環境の変化がある。したがって、臨床上患者の全ての特性を把握し、完全に記述することは不可能である。このような生体システムに対して、どのサンプル時刻にあっても、絶えずシステムの特性を把握する同定機能を有するモデル参照型適応制御が有効と考えられる。
【0063】
ここでは、目標脳温冷却過程を実現するために、次のようなアルゴリズムに従ってP−I生体温熱システム(実際はP−I物理温熱モデル)の冷却空気温度入力を調整する。すなわち、P−I生体温熱システムの同定モデルを、次のように仮定する。
【0064】
【数11】

【0065】
このとき、適応パラメータベクトル、適応状態ベクトルおよび適応ゲインの初期値を次のようにする。
【0066】
【数12】

【0067】
このとき、パラメータ調整則および適応ゲインは以下のように与えることができる。
【0068】
【数13】

【0069】
【数14】

【0070】
よってP−I生体温熱システムの冷却空気温度入力は次のように与えられる。
【0071】
【数15】

【0072】
なお、パラメータf、fとhは望ましい適応制御効果を与えられるように任意に決めることができる。
【0073】
[脳温の自動制御システム]
図10は、脳温の自動制御システムの構成概念図である。自動制御と手動制御による冷却体温度調整の流れはそれぞれ実線と点線により示されている。自動制御メカニズムはソフトウェアで実現されている。
【0074】
[患者温熱モデルの構造]
図7は、患者温熱モデルを示す。この図では、患者の体を、頭部、顔面部、頸部、上肢、胸部、腹部、下肢、心臓の8区分で表す。頭部、胸部、腹部の各組織は、それぞれ、脳、肺、内臓のような核心層と、骨格と筋肉からなる内層と、皮膚と皮下脂肪からなる外層の3層に区分する。また、顔面部、頸部、上下肢は、内層と外層の2層に区分する。
【0075】
生体の外部環境である冷却装置は患者温熱モデルの一部分とみなす。
【0076】
血流からみて、モデルの全ての層は並列の接続関係にあるとする。その理由は、生体内において、血液と組織との間の対流性熱交換が、主に内径0.2mm〜0.5mmの細い血管床で発生することによる。心臓は肺を含む各層に血液を送り、また各層から血液を収容するとした。心臓自身への冠循環を無視すれば、肺に循環する血液の量が他の層への循環血液の総量に等しいとみなせる。
【0077】
熱交換的にみて、代謝性エネルギは各区分の外層から冷却装置へと伝達する。肺では肺実質の代謝性熱産生が行われるとともに、呼吸による一定の熱損失が生ずる。また、層間熱交換は同じ区分の層同士の間のみに存在するとし、区分同士の間には熱伝導がないものとする。なお、心臓と各々の層には、それぞれ均一の生理パラメータと代表温度を仮定する。すなわちここで構築する患者温熱モデルは、集中定数モデルである。
【0078】
[患者温熱モデルの状態空間表現]
前述の全ての層において、層内蓄熱E、層内代謝性熱産生Q、循環血液による熱収支W、隣接層との熱交換C、冷却装置への熱伝達Dなどのエネルギ収支関係から各々の代表温度を定める方程式を次のように記述できる。
【0079】
【数16】

【0080】
ここで、各層の代表温度をT[℃]、血液温度をTbl[℃]、隣接区分の温度をT[℃]、冷却装置の温度をTapparatus[℃]、表面積をS[m]、各層の体積をV[m]、各隣接区分の間の伝導熱交換比率をk[W/m/℃]、人体から冷却装置への対流熱交換比率をksa[W/m/℃]、密度をρ[kg/m]、ρbl=1069[kg/m]、熱容量をc[J/kg/℃]、cbl=3650[J/kg/℃]、血液潅流率をw[mblood/s/mtissue]、代謝性熱産生をq[W/m]とすると、式(8)の各項は次のように表せる。
【0081】
【数17】

【0082】
ただし、式(8)においては、Dは外層のみに表れ、Cは頭部と胸部と腹部の内層の場合は二つの項となる。また、Qは肺において、代謝性熱産生と呼吸による熱損失との差となる。
【0083】
心臓においては、式(8)は次のようになる。
【0084】
【数18】

【0085】
ここでは、ΣWが循環血液による心臓と各層との熱収支の和を意味する。よって、頭部3層(脳、内層、外層)、顔面部2層(内層、外層)、頸部2層(内層、外層)、上肢部2層(内層、外層)、胸部3層(心臓、内層、外層)、腹部3層(内臓、内層、外層)、下肢部2層(内層、外層)、心臓全体について、併せて18個の微分方程式を得る。さらにこれらの方程式をまとめて次の状態方程式を得る。
【0086】
【数19】

【0087】
ただし、T(18×1)は脳温Tbrainをはじめとする各層の代表温度からなるベクトルであり、Tapparatus(3×1)は冷却装置の温度からなるベクトルである。A(18×18)とB(18×3)はその要素が生理パラメータより計算できる係数行列であり、それぞれシステムの内部の動特性と外部からの影響を表す。Q(18×1)は組織の代謝性熱産生および呼吸による熱損失からなるベクトルである。また、C=[1、0、・・・、0](1×18)である。
【0088】
システムの係数行列AとBを求めるには、各層の形状パラメータおよび生理パラメータが必要である。
【0089】
形状パラメータは、本実施例ではFialaらの分布定数モデルを基に各区分の各層の比例配分を決め、それぞれの長さと半径を得る。それをもとに、各層の密度、体積、質量、比熱、体積あたり血液潅流率および正常状態の代謝性熱産生率などの生理パラメータを定める。
【0090】
また、同一区分内の層同士における層間熱交換係数については、LouとYangによる方法に従って算出する。その際、各層の熱伝導率は主にWernerとWebbのデータを利用する。これらのデータを用いて解析に必要な全ての形状・生理パラメータを算出できる。
【0091】
生体表面から冷却装置への熱伝達は、式(13)に示したように、両者の温度差、および表面熱伝達係数の大きさにより決まる。脳低温療法の場合では、正常の静止状態の大気中の環境と比べて、その熱伝達が大きい。その理由は、生体表面と冷却装置との間の大きな温度差および熱伝達係数にある。
【0092】
ところで、生体表面と冷却装置との間の熱伝達係数に関する正確なデータは存在しないため、静止水槽中の裸体マネキンに関する実験データを参考にして、適切な値を与える。
【0093】
一方、冷却装置への熱伝達を高めた結果、平衡状態にある各層の代表温度が大気環境下の正常体温に比べて低くなることが、式(8)から分かる。したがって、初期温度として、患者温熱モデルの各層に正常の体温の設定が困難である。そのため、本実施例では、患者温熱モデルの各層における代謝性熱産生を正常より高く設定し、次式により患者温熱モデルの初期温度を定める。
【0094】
【数20】

【0095】
ただし、T(0)(18×1)は各層の初期代表温度からなるベクトルである。αは代謝性熱産生率の補正係数である。
【0096】
[実験装置の構成]
図8は、本実施例における、マネキンを使った実験装置の構成を示した図である。
【0097】
この実験では、マネキンを箱型のインキュベータに収めてインキュベータを冷却し、マネキンの脳温とインキュベータ内の空気温度および風速を計測し、その計測結果に基づきインキュベータの冷却を制御する。
【0098】
インキュベータには、インキュベータの内部に2箇所とインキュベータの外部に1箇所、送風のためのファンが備えられている。インキュベータの内部のファンは、1つはマネキンに直接送風するためのものである。もう1つのファンは、冷却フィン(放熱板)に取り付けられており、冷却フィン周辺に送風するためのものである。
【0099】
インキュベータの底の外部には、Peltier(ペルチェ)素子が備えられている。このPeltier素子を挟むように、上方には冷却フィンが面で接している。一方、Peltier素子の下方には、散熱フィン(放熱板)が面で接している。Peltier素子と散熱フィンは、インキュベータの外部にあり、冷却フィンはインキュベータの内部にある。
【0100】
Peltier素子に通電すると、ペルチェ効果により、冷却フィン側の面から散熱フィン側の面へ熱が移動する。したがって、冷却フィンの周辺の空気は温度が相対的に低く、散熱フィン側の空気は温度が相対的に高い。冷却フィンの周辺の空気は、冷却フィンに取り付けられたファンにより、インキュベータ内部に拡散される。散熱フィンの周辺の空気は、散熱フィンに取り付けられたファンにより、インキュベータ外部に拡散される。このようにして、インキュベータ内部と外部の熱交換が行われる。
【0101】
インキュベータ内に取り付けられた空気温度および風速を検知するセンサー、マネキンの脳温を検知するセンサーは、それぞれ検知信号を制御装置へ送信する。この検知信号を受信した制御装置は、A/D変換を行って検知信号をデジタル情報に変換する。次いで、このデジタル情報を入力して制御プログラムを実行する。この制御プログラムは、「最適適応制御」理論に基づくアルゴリズムで制御を行うプログラムである。このプログラムは、マネキンの脳温が、目標とする値に追従するように実行結果を求める。さらに、制御プログラムの実行結果である制御情報をD/A変換を行って制御信号に変換する。さらに、制御信号を電圧可変直流電源に送信し、電圧可変直流電源では、この制御信号に基づき、電圧を制御することにより、Peltier素子と3つのファンの出力を調節する。このようにして、「最適適応制御」理論を用いて、インキュベータ内の温度が制御され、その結果、マネキンの脳温が目標とする値に追従するようになる。
【0102】
本発明において用いるマネキンは、実際の対象者に近似した比熱、代謝熱産生率、血液循環率、体表熱交換特性を有することが望ましい。そこで、マネキンは、生体と同様の比熱を有する含水性ゲルで骨格が構成されること、頭頚部、胸部、腹部、上肢(好ましくは左右とも)、下肢(好ましくは左右とも)の各部位が独立していること、代謝熱産生を模擬するためのヒータを各部位が内蔵すること、血液による熱拡散を模擬するために血管の代用としてのチューブ部材を内蔵すること、チューブ部材に心臓の代用としてのポンプを接続し流体を流すこと、体表面の毛細血管網を模擬するために熱交換シート(柔軟性を有する樹脂製シート(たとえば、信幸産業社製のプラスチック製マイクロ熱交換シート)であり、中に形成された複数の中空孔にチューブ部材が挿通されている)を皮下に内蔵すること、皮膚としてブタ皮または鹿皮を使用すること、の各条件を具備することが好ましい。
【0103】
なお、このような実験装置を応用して、インキュベータなどの冷却装置の温度変化に応じた人体の脳温の推移をシミュレートする、シミュレータの実現が可能である。
【0104】
[脳温のモデル参照型適応制御]
信号合成適応は生体温熱システムの脳温出力を参照モデルの脳温出力に追従させる。図9の点線内の制御アルゴリズムは、図6の自動制御メカニズムに相当し、ソフトウェアにより実現可能である。
【0105】
患者の人体の代謝比率(Metabolic Rate)が5%上昇したとき、脳温Tbrain(Temperature)が上昇してTmodel,brain(Temperature)よりやや高く変化する。このときインキュベータ内空気温度Tair(Temperature)が一時的に25℃付近から15℃付近へ下げられる。そうすると、一時的に脳温Tbrainは目標脳温Tmodel,brainより低い温度に下がり、その後Tmodel,brainに漸近する。インキュベータ内空気温度Tairを15℃から上昇させて25℃付近に保っても、脳温Tbrainは徐々に上昇し、Tmodel,brainに漸近していく。
【0106】
次に、患者の人体の代謝比率が元の状態へ戻ると、脳温Tbrainが下降して32℃付近まで変化している。このときインキュベータ内空気温度Tairが一時的に25℃から30℃近くまで上げられる。そうすると、一時的に脳温TbrainはTmodel,brainに漸近するように上昇していく。インキュベータ内空気温度Tairを30℃付近から下降させて25℃付近に保っても、脳温Tbrainは徐々に上昇し、Tmodel,brainに漸近していく。
【0107】
このようにインキュベータ内空気温度を制御することによって、人体の代謝比率の変化に従って脳温を適応的に調整して、目標脳温にほぼ近い状態に保つことができる。
【0108】
従来の装置では、冷却体の温度がヒータで調節されていて、冷却体の温度調節を迅速に行うことが困難であるため、低温状態への移行後、脳が過剰に低温化されやすい。しかし、本発明の脳温管理装置101によれば、降温部21で相対的に温度が低い媒体を、昇温部23で相対的に温度が高い媒体を、それぞれ予め調製しておき、これらの媒体を出力部514が分配弁253を介して適切な比率で混合する。これにより、冷却体が迅速に変温するため、脳の過剰な低温化および高温化が抑制される。すなわち、図10において、脳の過剰な低温化の期間(t〜t、t〜t)および高温化の期間(t〜t、t〜t)が短く、また脳温の目標値Tからの振れ幅が速やかに減退する。
【0109】
また、図10に示されるように、脳温管理装置101では、駆動期間調節部515が、加熱器233および冷却器213の一方が駆動している駆動期間(図10中、「ON」で表される)中、他方が駆動しない非駆動期間(図10中、「OFF」で表される)が存在するように、冷却器213および加熱器233を制御する。これにより、エネルギ効率を向上することができる。ここで、冷却体の昇温は冷却器213が稼動していなくても支障なく行われ(期間t〜t、t〜t)、冷却体の降温は加熱器233が稼動していなくても支障なく行われる(期間t〜t、t〜t)ので、冷却体の温度調節への悪影響は、意外にも許容範囲におさまる。
【0110】
すなわち、冷却体を昇温しようとする際、温媒槽231に貯留されている冷却体の温度が従来よりも若干低いおそれはあるが、それに応じて分配弁253を温媒供給路234側へと開き、温媒槽231からの冷却体の導出割合を増すことで、冷却体をほぼ問題なく所望の温度へと昇温できる。同様に、冷却体を降温しようとする際、211に貯留されている冷却体の温度が従来よりも若干高いおそれはあるが、それに応じて分配弁253を冷媒供給路214側へと開き、211からの冷却体の導出割合を増すことで、冷却体をほぼ問題なく所望の温度へと降温できる。なお、「駆動期間中に非駆動期間が存在する」とは、駆動期間同士または非駆動期間同士が重複する期間が存在することを除外するものではない。
【0111】
駆動期間調節部515は、冷却器213および加熱器233を、各々の駆動期間が互いに重複しない非重複期間が存在するように制御することが好ましい。すなわち、図10に示されるように、冷却器213が駆動している間には加熱器233は駆動しておらず、冷却器213の駆動が終了すると、間を空けもしくは間を空けずに加熱器233が駆動を開始し、その間、冷却器213は駆動を停止し続ける。そして、加熱器233の駆動が終了すると、間を空けもしくは間を空けずに加熱器233が駆動を再開する。これにより、エネルギ効率をさらに向上することができる。
【0112】
なお、図10では説明の便宜もかねて、脳温が目標値Tよりも高い期間と降温部21が駆動する期間とを一致させ、脳温が目標値Tよりも低い期間と昇温部23が駆動する期間とを一致させたが、降温部21および昇温部23の駆動制御は、推定されるパラメータを考慮してなされるのが前提であり、必ずしも図10のようなタイミングでなされるとは限らない。なお、目標値設定部511、パラメータ推定部513および出力部514は、温度制御装置を構成する。
【0113】
本発明は、以上の脳温管理装置に加えて、対象者の脳を低温状態にして保護する脳低温療法に用いられる脳温管理装置の制御方法も包含する。この制御方法では、制御装置が、脳温の目標値を設定する目標値設定手段を備え、脳温検出センサーで検出した現状値と目標値との差に基づいて、対象者冷却手段を駆動させることにより、脳温の現状値を前記目標値に近づける出力手順を行い、出力手順において、昇温手段および降温手段を、その一方が駆動している駆動期間中、他方が駆動しない非駆動期間が存在するように制御する駆動期間調節手順を行う。
【0114】
制御装置は、駆動期間調節手順において、昇温手段および降温手段を、各々の駆動期間が互いに重複しない非重複期間が存在するように制御する手順を行うことがより好ましい。
【0115】
制御装置は、冷却体に対して殺菌処理を行うように殺菌処理手段を制御する手順を行うことがより好ましい。
【0116】
制御装置は、冷却体の漏れを検知する漏れ検知手順と、この漏れ検知手順による漏れの検知に基づいて、接触冷却装置を停止する停止制御手順と、を行うことがより好ましい。
【0117】
制御装置は、漏れ検知手順において、昇温手段および降温手段からの導出量と、昇温手段および降温手段への導入量との差を監視する監視手順を行い、この監視手順により差が感知されたことに基づいて冷却体の漏れを検知する手順を行うことがより好ましい。
【0118】
制御装置は、漏れ検知手順での漏れの検知に基づいて、この漏れを報知する報知手順を行うことが好ましい。
【0119】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0120】
101 脳温管理装置
105 潅流パイプ
106 還流パイプ
20 対象者冷却部(対象者冷却手段)
21 降温部
211 冷媒槽
213 冷却器(降温手段)
214 冷媒供給路
215 冷媒回収路
23 昇温部
231 温媒槽
233 加熱器(昇温手段)
234 温媒供給路
235 温媒回収路
25 流通系(流通手段)
253 分配弁
254 断水弁
255 ポンプ
256 導出量メータ
258 導入量メータ
259 分配弁
50 制御装置
51 制御部
511 目標設定部(目標設定手段)
513 パラメータ推定部(パラメータ推定手段)
514 出力部(出力手段)
515 駆動期間調節部(駆動期間調節手段)
516 停止制御部(停止制御手段)
517 報知制御部(報知手段)
60 殺菌処理部(殺菌処理手段)
70 漏れ検知部(漏れ検出手段)
71 監視部(監視手段)
80 報知部(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の脳を低温状態にして保護する脳低温療法に用いられる脳温管理装置であって、
前記対象者の脳温を検出する脳温検出センサー、前記対象者を冷却する対象者冷却手段、および、この対象者冷却手段の温度を制御する温度制御装置を備え、
前記対象者冷却手段は、前記対象者の脳を冷却するための冷却体を昇温させる昇温手段と、前記冷却体を降温させる降温手段と、前記昇温手段および降温手段で温度設定された冷却体を混合して流通させる流通手段と、を備え、
前記温度制御装置は、前記脳温の目標値を設定する目標値設定手段と、
前記脳温検出センサーで検出した現状値と前記目標値との差に基づいて、前記対象者冷却手段を駆動させることにより、前記脳温の現状値を前記目標値に近づける出力手段と、を備え、
前記出力手段は、前記昇温手段および前記降温手段を、その一方が駆動している駆動期間中、他方が駆動しない非駆動期間が存在するように制御する駆動期間調節手段を有する脳温管理装置。
【請求項2】
前記駆動期間調節手段は、前記昇温手段および前記降温手段を、各々の駆動期間が互いに重複しない非重複期間が存在するように制御する請求項1記載の脳温管理装置。
【請求項3】
前記冷却体に対して殺菌処理を行う殺菌処理手段をさらに備える請求項1または2記載の脳温管理装置。
【請求項4】
前記冷却体の漏れを検知する漏れ検知手段と、この漏れ検知手段による漏れの検知に基づいて前記流通手段を停止する停止制御手段と、をさらに備える請求項1から3いずれか記載の脳温管理装置。
【請求項5】
前記流通手段は、前記昇温手段および降温手段から導出された冷却体を、前記昇温手段および降温手段へと戻して導入する循環路を有し、
前記漏れ検知手段は、前記昇温手段および降温手段からの導出量と、前記昇温手段および降温手段への導入量との差を監視する監視手段を有し、この監視手段により差が感知されたことに基づいて前記冷却体の漏れを検知する請求項4記載の脳温管理装置。
【請求項6】
対象者の脳を低温状態にして保護する脳低温療法に用いられる脳温管理装置の制御方法であって、
前記脳温管理装置は、前記対象者の脳温を検出する脳温検出センサー、前記対象者を冷却する対象者冷却手段、および、この対象者冷却手段の温度を制御する温度制御装置を備え、
前記対象者冷却手段は、前記対象者の脳を冷却するための冷却体を昇温させる昇温手段と、前記冷却体を降温させる降温手段と、前記昇温手段および降温手段で温度設定された冷却体を混合して流通させる流通手段と、を備え、
前記温度制御装置が、
前記脳温の目標値を設定する目標値設定手段を備え、
前記脳温検出センサーで検出した現状値と前記目標値との差に基づいて、前記対象者冷却手段を駆動させることにより、前記脳温の現状値を前記目標値に近づける出力手順を行い、
前記出力手順において、前記昇温手段および前記降温手段を、その一方が駆動している駆動期間中、他方が駆動しない非駆動期間が存在するように制御する駆動期間調節手順を行う制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate