説明

脳疾患を治療するための抗タウpS422抗体の使用

配列番号9で表されるリン酸化タウ断片及びタウpS422には特異的に結合するがタウ及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片には結合しないことを特徴とする、セリン422がリン酸化されているタウ(pS422)に結合する抗体は、タウオパシーの治療において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳疾患を治療するための、配列番号9で表されるリン酸化タウ断片(pS422)に特異的に結合する抗体の使用に関する。
【0002】
発明の背景
ヒトタウ(微小管結合タンパク質タウ(神経原線維変化タンパク質、対らせん状線維−タウ、PHF−タウ)は、軸索で主にみられ、チューブリン重合を促進し、そして微小管を安定させる機能を有するニューロンの微小管結合タンパク質である。ヒト脳では、6つのアイソフォーム(アイソフォームA、B、C、D、E、F、G、胎児−タウ)がみられ、最長のアイソフォームは、441アミノ酸を含む(アイソフォームF、Uniprot P10636-8)。タウ及びその特性については、Reynolds, C.H. et al., J. Neurochem. 69 (1997) 191-198にも記載されている。
【0003】
過剰リン酸化タウは、アルツハイマー病(AD)脳における神経原線維病変の構成要素である対らせん状線維(PHF)の主成分である。タウは、GSK3ベータ、cdk5、MARK及びMAPキナーゼファミリーのメンバーを含む幾つかの異なるキナーゼによって、そのセリン残基又はトレオニン残基がリン酸化され得る。
【0004】
タウオパシーは、タウの異常な過剰リン酸化を特徴とし、Iqbal, K. et al. (Biochimica et Biophysica Acta (BBA) 1739 (2005) 198-210)によれば以下:
・神経原線維型を含むアルツハイマー病
・ダウン症候群、成人症例
・グアムパーキンソン認知症複合
・ボクサー認知症
・ピック病
・嗜銀顆粒性認知症
・前頭側頭型認知症
・皮質基底核変性症
・淡蒼球−橋−黒質変性(Pallido-ponto-nigral degeneration)
・進行性核上性麻痺
・神経原線維変化を伴うゲルストマン−シュトロイスラー−シャインカー病
のものである。
【0005】
これまでに、アルツハイマー病脳のタウにおいて約40個のセリン(S)/スレオニン(T)リン酸化部位が見出されている(Hanger, D.P. et al., J. Biol. Chem 282 (2007) 23645-23654)。アルツハイマー病におけるタウ病変の発現は、そのリン酸化状態に関係する。しかし、40個のリン酸化部位のうちのほとんどは、健常な胎児脳組織から抽出されたタウでもみられるので、疾患の病態には関係していない。ほんの少数のリン酸化が病状に特有であり、アルツハイマー病脳のPHFにおけるタウを定義付ける異常で特徴的な不溶性及び凝集に関与していると推測される(Morishima-Kawashima, M. et al., J. Biol. Chem 270 (1995) 823-829)。Pei, J.J. et al., Journal of Alzheimer's Disease 14 (2008) 385-392によれば、既存文献は、これら部位のうちのどの部位がAD脳に特異的であるかに関して、限定された不明瞭な情報しか提供していない。Peiは、タウに対するリン酸化部位特異的抗体のリストを使用し、22個のAD及び10個の対照の内側側頭葉のホモジネートにおいてそれらの量を測定した。
【0006】
Bussiere, T. et al. (Acta Neuropathol. 97 (1999) 221-230)には、タウタンパク質におけるリン酸化セリン422が神経原線維変性を伴う幾つかの疾患でみられる病理学的エピトープであると記載されている。Augustinack, J.C. et al., (Acta Neuropathol 103 (2002) 26-35)には、pS422がアルツハイマー病における神経病変の重篤度と相関していると記載されている。Guillozet-Bongaarts, A. (J. Neurochem 97 (2006) 1005-1014)には、S422におけるタウのリン酸化がPHFの成熟過程の一部であると記載されている。また、タウpS422は、アルツハイマー病の様々なトランスジェニックマウスモデルにおける病変の発現と関連していることが見出されている。したがって、Deters, N.らは、Biochem. Biophys. Res. Commun. 379 (2009) 400-405にて、ダブルトランスジェニックDom5/pR5マウスにおいて病理学的S422エピトープが特異的にリン酸化されているタウを含む海馬ニューロン数が7倍増加したと述べている。Goetz, J. et al. (Science 293 (2001) 1491-1495)は、Abeta42原線維を注射されたタウP301Lトランスジェニックマウスの脳において、S422がリン酸化されているタウが出現したことを報告した。
【0007】
EP 2 009 104は、アルツハイマー病PHFのタウタンパク質のリン酸化状態で生じるタウタンパク質のエピトープ、及びアルツハイマータウタンパク質を特異的に検出する抗体を産生するための前記エピトープの使用に関する。WO 2002/062851及びUS 7,446,180は、異常に切断された形態のタウタンパク質に対して特異性を有する抗体、並びにアルツハイマー病及び関連するタウオパシーに関する診断的局面及び治療的局面に関する。
【0008】
WO 98/22120は、リン酸化タウ断片のアミノ酸約207〜約222、アミノ酸約224〜約240、及びアミノ酸約390〜約408に対する抗体を患者に投与する工程を含むアルツハイマー病患者を治療する方法に関する。Asuni, A.A. et al., J. Neuroscience 27 (2007) 9115-9129には、リン酸化タウ断片379〜408[P-Ser396,404]を用いてタウトランスジェニックマウスにワクチン接種する動物実験にについて述べられている。US 2008/0050383は、タウタンパク質断片を投与することにより被験体のアルツハイマー病又は他のタウオパシーを治療及び予防する方法に関する。
【0009】
例えば、EP 1 876 185には、タウpS422に対するモノクローナル抗体が記載されている。タウpS422に対するポリクローナル抗体は市販されている(例えば、ProSci Inc.及びBiosource International)。
【0010】
発明の概要
本発明は、タウオパシーの治療で使用するための、リン酸化タウ断片Ser-Ile-Asp-Met-Val-Asp-Ser(PO3H2)-Pro-Gln-Leu-Ala-Thr-Leu-Ala-Asp(配列番号9)及びタウpS422には特異的に結合するが、タウ及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片には結合しないことを特徴とする、セリン422がリン酸化されているタウ(タウpS422)に結合する抗体、並びにこのような治療方法を含む。
【0011】
本発明は、タウオパシーを治療する医薬を製造するための、配列番号9で表されるリン酸化タウ断片及びタウpS422には特異的に結合するが、タウ及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片には結合しないことを特徴とする、セリン422がリン酸化されているタウ(タウpS422)に結合する抗体、並びにこのような製造方法を含む。
【0012】
本発明は、Mab2.10.3(抗タウpS422抗体)が結合するのと同じエピトープに特異的に結合することを特徴とする、リン酸化タウに結合する抗体を含む。
【0013】
本発明は、タウオパシーの治療で使用するための、又はタウオパシーを治療する医薬の製造を製造するための、Mab2.10.3(抗タウpS422抗体)が結合するのと同じエピトープに特異的に結合することを特徴とする、リン酸化タウに結合する抗体の使用を含む。
【0014】
本発明に係る抗体は、タウpS422及び凝集した(原線維状)リン酸化タウに特異的に結合する。本発明に係る抗体は、非リン酸化タウ、配列番号10で表される非リン酸化タウ断片、及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片には結合しない。
【0015】
本発明に係る抗体は、好ましくはヒトIgG1サブタイプである。本発明の更なる態様では、本発明に係る抗体は、好ましくはヒトIgG4サブタイプである。
【0016】
本発明は、以下:
a)配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、及び配列番号8で表されるCDR3H、
b)配列番号23で表されるCDR1H、配列番号24で表されるCDR2H、及び配列番号25で表されるCDR3H、
c)配列番号31で表されるCDR1H、配列番号32で表されるCDR2H、及び配列番号33で表されるCDR3H、
d)配列番号39で表されるCDR1H、配列番号40で表されるCDR2H、及び配列番号41で表されるCDR3H、
e)配列番号47で表されるCDR1H、配列番号48で表されるCDR2H、及び配列番号49で表されるCDR3H、
f)配列番号55で表されるCDR1H、配列番号56で表されるCDR2H、及び配列番号57で表されるCDR3H、又は
g)配列番号63で表されるCDR1H、配列番号64で表されるCDR2H、及び配列番号65CDR3H
を含むことを特徴とする抗タウpS422抗体を含む。
【0017】
好ましくは、前記抗体は、以下:
a)配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、配列番号8で表されるCDR3H、及び配列番号3で表されるCDR1L、配列番号4で表されるCDR2L、配列番号5で表されるCDR3L、
b)配列番号23で表されるCDR1H、配列番号24で表されるCDR2H、配列番号25で表されるCDR3H、及び配列番号27で表されるCDR1L、配列番号28で表されるCDR2L、配列番号29で表されるCDR3L、
c)配列番号31で表されるCDR1H、配列番号32で表されるCDR2H、配列番号33で表されるCDR3H、及び配列番号35で表されるCDR1L、配列番号36で表されるCDR2L、配列番号37で表されるCDR3L、
d)配列番号39で表されるCDR1H、配列番号40で表されるCDR2H、配列番号41で表されるCDR3H、及び配列番号43で表されるCDR1L、配列番号44で表されるCDR2L、配列番号45で表されるCDR3L、
e)配列番号47で表されるCDR1H、配列番号48で表されるCDR2H、配列番号49で表されるCDR3H、及び配列番号51で表されるCDR1L、配列番号52で表されるCDR2L、配列番号53で表されるCDR3L、
f)配列番号55で表されるCDR1H、配列番号56で表されるCDR2H、配列番号57で表されるCDR3H、及び配列番号59で表されるCDR1L、配列番号60で表されるCDR2L、配列番号61で表されるCDR3L、
g)配列番号63で表されるCDR1H、配列番号64で表されるCDR2H、配列番号65で表されるCDR3H、及び配列番号67で表されるCDR1L、配列番号68で表されるCDR2L、配列番号69で表されるCDR3L
を含むことを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記抗体は、以下:
a)配列番号1で表される可変軽鎖及び配列番号2で表される可変重鎖、
b)配列番号26で表される可変軽鎖及び配列番号22で表される可変重鎖、
c)配列番号34で表される可変軽鎖及び配列番号30で表される可変重鎖、
d)配列番号42で表される可変軽鎖及び配列番号38で表される可変重鎖、
e)配列番号50で表される可変軽鎖及び配列番号46で表される可変重鎖、
f)配列番号58で表される可変軽鎖及び配列番号54で表される可変重鎖、又は
g)配列番号66で表される可変軽鎖及び配列番号62で表される可変重鎖
を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明は、抗タウpS422抗体Mab2.10.3のヒト化変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab2.10.3のキメラ変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab2.10.3のT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。Mab2.10.3は、その可変鎖が配列番号1及び配列番号2で表されることを特徴とする。
【0020】
本発明は、抗タウpS422抗体Mab005のヒト化変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab005のキメラ変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab005のT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。Mab005は、その可変鎖が配列番号26及び配列番号22で表されることを特徴とする。
【0021】
本発明は、抗タウpS422抗体Mab019のヒト化変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab019のキメラ変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab019のT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。Mab019は、その可変鎖が配列番号34及び配列番号30で表されることを特徴とする。
【0022】
本発明は、抗タウpS422抗体Mab020のヒト化変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab020のキメラ変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab020のT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。Mab020は、その可変鎖が配列番号42及び配列番号38で表されることを特徴とする。
【0023】
本発明は、抗タウpS422抗体Mab085のヒト化変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab085のキメラ変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab085のT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。Mab085は、その可変鎖が配列番号50及び配列番号46で表されることを特徴とする。
【0024】
本発明は、抗タウpS422抗体Mab086のヒト化変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab086のキメラ変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab086のT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。Mab086は、その可変鎖が配列番号58及び配列番号54で表されることを特徴とする。
【0025】
本発明は、抗タウpS422抗体Mab097のヒト化変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab097のキメラ変異体を含む。本発明は、抗タウpS422抗体Mab097のT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。Mab097は、その可変鎖が配列番号66及び配列番号62で表されることを特徴とする。
【0026】
本発明は、配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、配列番号8で表されるCDR3H、及び配列番号3で表されるCDR1L、配列番号4で表されるCDR2L、配列番号5で表されるCDR3L、又は配列番号1で表される可変軽鎖及び配列番号2で表される可変重鎖を含む抗タウpS422抗体のキメラ変異体、ヒト化変異体、又はT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。
【0027】
本発明は、配列番号23で表されるCDR1H、配列番号24で表されるCDR2H、配列番号25で表されるCDR3H、及び配列番号27で表されるCDR1L、配列番号28で表されるCDR2L、配列番号29で表されるCDR3L、又は配列番号26で表される可変軽鎖及び配列番号22で表される可変重鎖を含む抗タウpS422抗体のキメラ変異体、ヒト化変異体、又はT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。
【0028】
本発明は、配列番号31で表されるCDR1H、配列番号32で表されるCDR2H、配列番号33で表されるCDR3H、及び配列番号35で表されるCDR1L、配列番号36で表されるCDR2L、配列番号37で表されるCDR3L、又は配列番号34で表される可変軽鎖及び配列番号30で表される可変重鎖を含む抗タウpS422抗体のキメラ変異体、ヒト化変異体、又はT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。
【0029】
本発明は、配列番号39で表されるCDR1H、配列番号40で表されるCDR2H、配列番号41で表されるCDR3H、及び配列番号43で表されるCDR1L、配列番号44で表されるCDR2L、配列番号45で表されるCDR3L、又は配列番号42で表される可変軽鎖及び配列番号38で表される可変重鎖を含む抗タウpS422抗体のキメラ変異体、ヒト化変異体、又はT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。
【0030】
本発明は、配列番号47で表されるCDR1H、配列番号48で表されるCDR2H、配列番号49で表されるCDR3H、及び配列番号51で表されるCDR1L、配列番号52で表されるCDR2L、配列番号53で表されるCDR3L、又は配列番号50で表される可変軽鎖及び配列番号46で表される可変重鎖を含む抗タウpS422抗体のキメラ変異体、ヒト化変異体、又はT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。
【0031】
本発明は、配列番号55で表されるCDR1H、配列番号56で表されるCDR2H、配列番号57で表されるCDR3H、及び配列番号59で表されるCDR1L、配列番号60で表されるCDR2L、配列番号61で表されるCDR3L、又は配列番号58で表される可変軽鎖及び配列番号54で表される可変重鎖を含む抗タウpS422抗体のキメラ変異体、ヒト化変異体、又はT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。
【0032】
本発明は、配列番号63で表されるCDR1H、配列番号64で表されるCDR2H、配列番号65で表されるCDR3H、及び配列番号67で表されるCDR1L、配列番号68で表されるCDR2L、配列番号69で表されるCDR3L、又は配列番号66で表される可変軽鎖及び配列番号62で表される可変重鎖を含む抗タウpS422抗体のキメラ変異体、ヒト化変異体、又はT細胞エピトープ枯渇変異体を含む。
【0033】
本発明は、配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、配列番号8で表されるCDR3H、及び配列番号3で表されるCDR1L、配列番号4で表されるCDR2L、配列番号5で表されるCDR3L、又は配列番号1で表される可変軽鎖及び配列番号2で表される可変重鎖を含むことを特徴とする、抗タウpS422抗体をヒト化、又はT細胞エピトープ枯渇化、又はキメラ化する方法を含む。
【0034】
本発明は、配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、配列番号8で表されるCDR3H、及び配列番号3で表されるCDR1L、配列番号4で表されるCDR2L、配列番号5で表されるCDR3L、又は配列番号1で表される可変軽鎖及び配列番号2で表される可変重鎖を含むことを特徴とする、抗タウpS422抗体をヒト化、又はT細胞エピトープ枯渇化、又はキメラ化する方法を含む。
【0035】
本発明は、配列番号23で表されるCDR1H、配列番号24で表されるCDR2H、配列番号25で表されるCDR3H、及び配列番号27で表されるCDR1L、配列番号28で表されるCDR2L、配列番号29で表されるCDR3L、又は配列番号26で表される可変軽鎖及び配列番号22で表される可変重鎖を含むことを特徴とする、抗タウpS422抗体をヒト化、又はT細胞エピトープ枯渇化、又はキメラ化する方法を含む。
【0036】
本発明は、配列番号31で表されるCDR1H、配列番号32で表されるCDR2H、配列番号33で表されるCDR3H、及び配列番号35で表されるCDR1L、配列番号36で表されるCDR2L、配列番号37で表されるCDR3L、又は配列番号34で表される可変軽鎖及び配列番号30で表される可変重鎖を含むことを特徴とする、抗タウpS422抗体をヒト化、又はT細胞エピトープ枯渇化、又はキメラ化する方法を含む。
【0037】
本発明は、配列番号39で表されるCDR1H、配列番号40で表されるCDR2H、配列番号41で表されるCDR3H、及び配列番号43で表されるCDR1L、配列番号44で表されるCDR2L、配列番号45で表されるCDR3L、又は配列番号42で表される可変軽鎖及び配列番号38で表される可変重鎖を含むことを特徴とする、抗タウpS422抗体をヒト化、又はT細胞エピトープ枯渇化、又はキメラ化する方法を含む。
【0038】
本発明は、配列番号47で表されるCDR1H、配列番号48で表されるCDR2H、配列番号49で表されるCDR3H、及び配列番号51で表されるCDR1L、配列番号52で表されるCDR2L、配列番号53で表されるCDR3L、又は配列番号50で表される可変軽鎖及び配列番号46で表される可変重鎖を含むことを特徴とする、抗タウpS422抗体をヒト化、又はT細胞エピトープ枯渇化、又はキメラ化する方法を含む。
【0039】
本発明は、配列番号55で表されるCDR1H、配列番号56で表されるCDR2H、配列番号57で表されるCDR3H、及び配列番号59で表されるCDR1L、配列番号60で表されるCDR2L、配列番号61で表されるCDR3L、又は配列番号58で表される可変軽鎖及び配列番号54で表される可変重鎖を含むことを特徴とする、抗タウpS422抗体をヒト化、又はT細胞エピトープ枯渇化、又はキメラ化する方法を含む。
【0040】
本発明は、配列番号63で表されるCDR1H、配列番号64で表されるCDR2H、配列番号65で表されるCDR3H、及び配列番号67で表されるCDR1L、配列番号68で表されるCDR2L、配列番号69で表されるCDR3L、又は配列番号66で表される可変軽鎖及び配列番号62で表される可変重鎖を含むことを特徴とする、抗タウpS422抗体をヒト化、又はT細胞エピトープ枯渇化、又はキメラ化する方法を含む。
【0041】
好ましくは、タウpS422に結合し、そして、上述のアミノ酸配列及びアミノ酸配列断片を特徴とする抗体は、ヒトIgG1サブタイプである。好ましくは、タウpS422に結合し、そして、上述のアミノ酸配列及びアミノ酸配列断片を特徴とする抗体は、ヒトIgG4サブタイプである。
【0042】
本発明の更なる態様は、本発明に係る抗体を含む医薬組成物である。
【0043】
本発明の更なる態様は、医薬組成物を製造するための本発明に係る抗体の使用である。
【0044】
本発明の更なる態様は、神経原線維型を含むアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群(成人症例)、グアムパーキンソン認知症複合、ボクサー認知症、ピック病、嗜銀顆粒性認知症、前頭側頭型認知症、皮質基底核変性症、淡蒼球−橋−黒質変性、進行性核上性麻痺、及び神経原線維変化を伴うゲルストマン−シュトロイスラー−シャインカー病からなる群より選択されるタウオパシーを治療するための、本発明に係る抗体の使用である。
【0045】
本発明の更なる態様は、本発明に係る抗体を含む医薬組成物を製造するための方法である。
【0046】
本発明の更なる態様は、本発明に係る抗体の重鎖可変ドメイン及び/又は軽鎖可変ドメインをコードする核酸である。
【0047】
本発明は、更に、原核生物又は真核生物のホスト細胞において本発明に係る核酸を発現することができる前記核酸を含む発現ベクター、及びこのような抗体の組換え体を産生するためにこのようなベクターを含むホスト細胞を提供する。
【0048】
本発明は、更に、本発明に係るベクターを含む原核生物又は真核生物のホスト細胞を含む。
【0049】
本発明は、更に、原核生物又は真核生物のホスト細胞において本発明に係る核酸を発現させ、そして、前記細胞又は前記細胞培養上清から前記抗体を回収することを特徴とする、本発明に係る組換え型ヒト抗体又はヒト化抗体を産生する方法を含む。本発明は、更に、このような組み換え法によって入手可能な抗体を含む。
【0050】
本発明は、本発明に係るモノクローナル抗体を選択する方法であって、タウpS422に結合する多数のモノクローナル抗体を提供し、配列番号9で表されるリン酸化タウ断片、タウ、及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片に対する前記抗体の特異的結合を測定し、そして、前記タウに対する結合と比較して少なくとも10,000倍、前記リン酸化タウ断片に対して特異的に結合し、且つ前記リン酸化MCAK断片Ile-Gln-Lys-Gln-Lys-Arg-Arg-Ser(PO3H2)-Val-Asn-Ser-Lys-Ile-Pro-Ala(配列番号17)に対する結合と比較して少なくとも100倍、前記リン酸化タウ断片に対して特異的に結合する抗体を選択することを特徴とする方法を含む。
【0051】
好ましくは、本発明は、本発明に係るモノクローナル抗体を選択する方法であって、タウpS422に結合する多数のモノクローナル抗体を提供し、配列番号9で表されるリン酸化タウ断片、タウpS422、タウ、及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片に対する前記抗体の特異的結合を測定し、そして、前記タウに対する結合と比較して少なくとも10,000倍、前記リン酸化タウ断片及び前記タウpS422に対して特異的に結合し、且つ前記リン酸化MCAK断片Ile-Gln-Lys-Gln-Lys-Arg-Arg-Ser(PO3H2)-Val-Asn-Ser-Lys-Ile-Pro-Ala(配列番号17)に対する結合と比較して少なくとも100倍、前記リン酸化タウ断片に対して特異的に結合する抗体を選択することを特徴とする方法を含む。
【0052】
好ましくは、本発明は、本発明に係るモノクローナル抗体を選択する方法であって、タウpS422に結合する多数のモノクローナル抗体を提供し、配列番号9で表されるリン酸化タウ断片、タウpS422、タウ、及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片に対する前記抗体の特異的結合を測定し、そして、前記タウに対する結合と比較して少なくとも10,000倍、前記リン酸化タウ断片及び前記タウpS422に対して特異的に結合し、且つ前記リン酸化MCAK断片Ile-Gln-Lys-Gln-Lys-Arg-Arg-Ser(PO3H2)-Val-Asn-Ser-Lys-Ile-Pro-Ala(配列番号17)に対する結合と比較して少なくとも100倍、前記リン酸化タウ断片及び前記タウpS422に対して特異的に結合する抗体を選択することを特徴とする方法を含む。
【0053】
本発明に係る抗体は、タウターゲティング療法を必要としている患者に恩恵をもたらす。本発明に係る抗体は、タウオパシー、特にADに罹患している患者に恩恵をもたらす新規且つ創造的な特性を有する。
【0054】
本発明は、更に、タウオパシー、特にADに罹患している患者を治療する方法であって、このような疾患に罹患していると診断された患者(したがって、このような療法を必要としている患者)に本発明に係るpS422に結合する抗体を投与することを含む方法を提供する。前記抗体は、好ましくは医薬組成物で投与される。
【0055】
本発明の更なる態様は、タウオパシー、特にADに罹患している患者を治療する方法であって、前記患者に本発明に係る抗体を投与することを特徴とする方法である。
【0056】
本発明は、更に、タウオパシー、特にADに罹患している患者を治療するための本発明に係る抗体の使用、及び本発明に係る医薬組成物を製造するための本発明に係る抗体の使用を含む。更に、本発明は、本発明に係る医薬組成物を製造するための方法を含む。
【0057】
本発明は、更に、本発明に係る抗体と共に、任意で、薬学的目的のために抗体の製剤化にとって有用なバッファ及び/又は佐剤を含む医薬組成物を含む。
【0058】
本発明は、更に、薬学的に許容しうる担体中に本発明に係る抗体を含む医薬組成物を提供する。1つの態様では、前記医薬組成物は、製品又はキットに含まれていてもよい。
【0059】
本発明の抗体は、リン酸化タウポリペプチドを検出することによって、アルツハイマー病等の神経障害を診断するために使用することができる。本発明の抗体は、タウpS422又は凝集したリン酸化タウの特異的検出にも使用することができる。
【0060】
発明の詳細な説明
本発明に係る「タウ」という用語は、441アミノ酸を含むヒトタウの最長アイソフォーム(アイソフォームF、Uniprot P10636-8)を包含する。
【0061】
本発明に係る「リン酸化タウ(pタウ)」という用語は、キナーゼERK2によるS422のリン酸化によって生成される、441アミノ酸を含むヒトタウの最長アイソフォーム(アイソフォームF、Uniprot P10636-8)のリン酸化された形態を包含する。
【0062】
本発明に係る「凝集したリン酸化タウ」又は「凝集した(原線維状)リン酸化タウ」という用語は、キナーゼERK2による凝集したタウのリン酸化によって生成される、441アミノ酸を含むヒトタウの最長アイソフォーム(アイソフォームF、Uniprot P10636-8)の凝集及びリン酸化された形態を包含する。
【0063】
本発明に係る「タウ断片」という用語は、タウ断片Ser-Ile-Asp-Met-Val-Asp-Ser-Pro-Gln-Leu-Ala-Thr-Leu-Ala-Asp(配列番号10)を包含する。
【0064】
本発明に係る「リン酸化タウ断片」という用語は、リン酸化タウ断片Ser-Ile-Asp-Met-Val-Asp-Ser(PO3H2)-Pro-Gln-Leu-Ala-Thr-Leu-Ala-Asp(配列番号9)を包含する。
【0065】
本発明に係る「MCAK」という用語は、ヒトの有糸分裂セントロメア関連キネシン(キネシン様タンパク質KIF2C、UniProt Q99661)を包含する。MCAK_ヒト(88-102)[95-pSer]は、セリン95がリン酸化されたアミノ酸88〜102からなるリン酸化MCAK断片(配列番号17)である。このリン酸化MCAK断片は、配列番号9で表されるリン酸化タウ断片に対して配列同一性又は類似性を有しない。本発明者らは、リン酸化タウ断片に対する当技術分野の状況に係る抗体が、無関係のリン酸化ヒトペプチド及びタンパク質と顕著な交差反応性を示す場合があることを認識していた。リン酸化MCAK断片に結合しない本発明に係る抗体については、このような望ましくない交差反応性を検出することはできなかった。
【0066】
電気化学発光を読み取るELISAによって、タウpS422に対する結合及びタウに対する結合を調べる。2μg/mLの濃度でタウ又はタウpS422を固定化し、試験抗体(例えばヒト又はマウス)を添加する。結合した試験抗体を検出するために、それぞれルテニウムタグ付の抗ヒトIgG又は抗マウスIgGを0.5μg/mLの濃度で添加する。タウpS422及びタウを使用した検出シグナルの関係が、タウpS422の最大結合シグナルにおいて少なくとも10,000倍である場合、タウpS422に対して特異的に結合すると考えられる。
【0067】
配列番号9で表されるリン酸化タウ断片に対する結合、配列番号10で表される非リン酸化タウ断片に対する結合、及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片に対する結合をELISAによって調べる。前記固定化されたリン酸化タウ断片、及び比較のために前記固定化された非リン酸化タウ断片又はMCAK断片と共に試験抗体をインキュベートする。抗体を標識し、前記標識を検出する。リン酸化タウ断片及び非リン酸化タウ断片を使用した検出シグナルの関係が、リン酸化タウ断片の最大結合シグナルにおいて少なくとも100である場合、そして、リン酸化タウ断片及びリン酸化MCAK断片を使用した検出シグナルの関係が、リン酸化タウ断片の最大結合シグナルにおいても少なくとも100である場合、リン酸化タウ断片に対する特異的結合が見出される。
【0068】
「Mab2.10.3のエピトープ」という用語は、Mab2.10.3によって特異的に認識される、リン酸化タウ断片Ser-Ile-Asp-Met-Val-Asp-Ser(PO3H2)-Pro-Gln-Leu-Ala-Thr-Leu-Ala-Asp(配列番号9)内に位置するエピトープを包含する。本発明に係るタウ抗体の前記エピトープ結合特性は、Mab2.10.3がpタウに対する試験抗体の結合を立体的に妨害する能力を測定するためのBiacore(商標)インビトロクロスブロッキング結合アッセイ等のインビトロクロスブロッキング結合アッセイによって判定される。このようなアッセイでは、Mab2.10.3をBiacoreセンサの一次抗体として捕捉し、次いで、pタウ及び試験する二次抗体を順次注入する。前記二次抗体が任意の検出可能な結合シグナルを示さない場合、前記二次抗体はMab2.10.3と同じエピトープに結合する。
【0069】
本発明に係る抗体は、上記Biacore(商標)分析によって測定されるとき、5×10−8−1〜10−12−1の親和性でタウpS422に結合する。
【0070】
タウpS422の原線維状凝集体に対する結合をBiacore分析によって調べる。このアッセイでは、凝集したタウpS422を固定化し、そして、希釈係数2を用いて最高濃度200nMの様々な濃度の試験抗体を添加した。本発明に係る抗体は、0.1〜30のKdで、好ましくは10〜20nMのKdで原線維状タウpS422に結合する。
【0071】
用語「モノクローナル抗体又は抗体」という用語は、様々な形態の抗体を包含し、好ましくはモノクローナル抗体であり、特に好ましくはIgG1又はIgG4モノクローナル抗体である。本発明に係る抗体は、好ましくは、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、又は本発明に係る特性を保持している限り更に遺伝子的に改変されている抗体である。WO98/08097に記載されている方法を使用することによりT細胞エピトープ枯渇抗体を産生することができる。
【0072】
「抗体断片」は、完全長抗体の一部、好ましくは、その可変ドメイン、又は少なくともその抗原結合部位を含む。抗体断片の例としては、ダイアボディ、単鎖抗体分子、及び抗体断片から形成された多特異性抗体が挙げられる。scFv抗体は、例えば、Huston, J.S., Methods in Enzymol. 203 (1991) 46-88に記載されている。更に、抗体断片は、Vドメインの特性を有する、即ち、Vドメインと会合することができる単鎖ポリペプチド、又はタウpS422に対して結合するVドメインの特性を有する、即ち、Vドメインと共に機能抗原結合部位に対して会合することができる単鎖ポリペプチドを含む。「ヒト化抗体」という用語は、親免疫グロブリンと比較して、異なる種の免疫グロブリンのCDRを含むようフレームワーク及び/又は「相補性決定領域」(CDR)が改変されている抗体を指す。好ましい態様において、
a)配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、配列番号8で表されるCDR3H、及び配列番号3で表されるCDR1L、配列番号4で表されるCDR2L、配列番号5で表されるCDR3L、
b)配列番号23で表されるCDR1H、配列番号24で表されるCDR2H、配列番号25で表されるCDR3H、及び配列番号27で表されるCDR1L、配列番号28で表されるCDR2L、配列番号29で表されるCDR3L、
c)配列番号31で表されるCDR1H、配列番号32で表されるCDR2H、配列番号33で表されるCDR3H、及び配列番号35で表されるCDR1L、配列番号36で表されるCDR2L、配列番号37で表されるCDR3L、
d)配列番号39で表されるCDR1H、配列番号40で表されるCDR2H、配列番号41で表されるCDR3H、及び配列番号43で表されるCDR1L、配列番号44で表されるCDR2L、配列番号45で表されるCDR3L、
e)配列番号47で表されるCDR1H、配列番号48で表されるCDR2H、配列番号49で表されるCDR3H、及び配列番号51で表されるCDR1L、配列番号52で表されるCDR2L、配列番号53で表されるCDR3L、
f)配列番号55で表されるCDR1H、配列番号56で表されるCDR2H、配列番号57で表されるCDR3H、及び配列番号59で表されるCDR1L、配列番号60で表されるCDR2L、配列番号61で表されるCDR3L、又は
g)配列番号63で表されるCDR1H、配列番号64で表されるCDR2H、配列番号65で表されるCDR3H、及び配列番号67で表されるCDR1L、配列番号68で表されるCDR2L、配列番号69で表されるCDR3L
をヒト抗体のフレームワーク領域に移植して、「ヒト化抗体」を調製する。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;及びNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照されたい。
【0073】
「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(V)、重鎖の可変ドメイン(V))は、本明細書で使用するとき、抗原に対する抗体の結合に直接関与する、軽鎖ドメインと重鎖ドメインとの各対を意味する。可変軽鎖ドメイン及び重鎖ドメインは、同じ一般構造を有し、そして、各ドメインは、3つの「超可変領域」(又は相補性決定領域、CDR)によって連結されている、配列が広く保存されている4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域は、β−シート高次構造を採用し、そして、CDRは、β−シート構造を連結するループを形成することができる。各鎖のCDRは、フレームワーク領域により三次元構造が保持され、そして、他方の鎖のCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖及び軽鎖のCDR3領域は、本発明に係る抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たしているので、本発明の更なる目的を提供する。
【0074】
「抗体の抗原結合部分」という用語は、本明細書で使用するとき、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。抗体の抗原結合部分は、「相補性決定領域」又は「CDR」のアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」又は「FR」領域は、本明細書で定義されるとき、超可変領域の残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖及び重鎖の可変ドメインは、N末端からC末端に向かって、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4を含む。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与し、そして抗体の特性を規定する領域である。CDR及びFR領域は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準定義及び/又は「超可変性ループ」の残基に従って決定される。
【0075】
「CDR1H」という用語は、Kabat法に従って計算された重鎖可変領域のCDR1領域を意味する。CDR2L、CDR3H等は重(H)鎖、又は軽(L)鎖のそれぞれの領域を意味する。例えば、配列番号6で表されるCDR1Hを含むことを特徴とする抗体とは、前記抗体がその可変重鎖における重鎖可変鎖CDR1領域としてこのアミノ酸配列を含むことを意味する。例えば、配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、配列番号8で表されるCDR3Hを含むことを特徴とする抗体は、前記抗体がCDR1の配列として配列番号6を、CDR2の配列として配列番号7を、及びCDR3の配列として配列番号8を重鎖中に含むことを意味する。
【0076】
「核酸」又は「核酸分子」という用語は、本明細書で使用するとき、DNA分子及びRNA分子を含むことを意図する。核酸分子は、単鎖であっても二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0077】
「アミノ酸」という用語は、本願で使用するとき、アラニン(3文字表記:ala、1文字表記:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リシン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、及びバリン(val、V)を含む、天然に存在するカルボキシα−アミノ酸の群を意味する。
【0078】
別の核酸と機能的関係に配置されるとき、核酸は「機能的に連結されている」。例えば、ポリペプチドの分泌に関与する前駆体タンパク質として発現する場合、プレシークエンス又は分泌リーダーのDNAがポリペプチドのDNAに機能的に連結されていたり;配列の転写に影響を与えるとき、プロモーター又はエンハンサーがコード配列に機能的に連結されていたり;翻訳を促進するように位置付けられるとき、リボソーム結合部位がコード配列に機能的に連結されていたりする。一般的に、「機能的に連結される」は、連結されたDNA配列が共直線性であることを意味し、そして、分泌リーダーである場合は、隣接し且つインフレームである。しかし、エンハンサーは、隣接していなくてもよい。都合のよい制限酵素部位においてライゲーションすることによって連結が行われる。そのような部位が存在しない場合、常法に従って合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを使用する。
【0079】
本明細書で使用するとき、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養物」という表現は互換的に使用され、このような表記は全て後代を含む。したがって、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という語句は、対象初代細胞及び継代数に関係なくそれから誘導された培養物を含む。また、全ての後代は、故意の又は偶発的な突然変異により、DNA含量が正確に同一であるとは限らないことを理解されたい。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングしたものと同じ機能又は生物活性を有する変異体後代も含まれる。
【0080】
抗体の「Fc部」は、抗原に対する抗体の結合に直接関与しないが、様々なエフェクター機能を示す。「抗体のFc部」は、当業者に周知の用語であり、抗体のパパイン切断に基づいて定義される。その重鎖の定常領域のアミノ酸配列に依存して、抗体又は免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMのクラスに分類され、そして、これらクラスのうちの幾つかは、例えばIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4、IgA1及びIgA2等のサブクラス(サブタイプ)に更に分類することができる。重鎖定常領域によって、異なるクラスの免疫グロブリンは、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。本発明に係る抗体は、好ましくは、IgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプであるヒト起源のFc部を含む。
【0081】
ヒト定常軽鎖及び重鎖、並びにIgG1サブタイプ及びIgG4サブタイプの定常鎖は、当技術分野において周知であり、例えば、Kabatによって記載されている(例えば、Johnson, G. and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218を参照されたい)。例えば、有用なヒト重鎖定常領域は、配列番号13若しくは14(IgG1)、又は配列番号15若しくは16(IgG4)のアミノ酸配列を含む。例えば、有用なヒト軽鎖定常領域は、配列番号11で表されるカッパ軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。抗体がマウス起原であり、そして、Kabat法に従ってマウス抗体の抗体可変配列枠を含むことが更に好ましい(例えば、Sequences of Proteins of Immunological Interest, Kabat, E.A. et al., 5thedition, DIANE Publishing (1992)を参照されたい)。
【0082】
本発明は、本発明に係る抗体を患者に投与することを特徴とする、治療を必要としている患者を治療するための方法を含む。
【0083】
本発明は、治療のための本発明に係る抗体の使用を含む。
【0084】
本発明は、タウオパシー、特にADを治療する医薬を調製するための本発明に係る抗体の使用を含む。
【0085】
本発明は、脳疾患を治療するための、好ましくは、タウオパシー、特にADを治療するための本発明に係る抗体の使用を含む。
【0086】
本発明の更なる態様は、本発明に係る抗体を生成するための方法であって、本発明に係る抗体の重鎖をコードする核酸の配列、及び前記抗体の軽鎖をコードする核酸を1つ又は2つの発現ベクターに挿入し、前記ベクターを真核生物のホスト細胞に挿入し、コードされている抗体を発現させ、そして、前記ホスト細胞又は上清から回収することを特徴とする方法である。
【0087】
本発明に係る抗体は、好ましくは、組換え手段によって生成される。このような方法は、当技術分野において広く知られており、原核生物及び真核生物の細胞においてタンパク質を発現させ、次いで、抗体ポリペプチドを単離し、そして、通常、薬学的に許容しうる純度に精製することを含む。タンパク質を発現させるために、軽鎖及び重鎖又はこれらの断片をコードする核酸を標準的な方法によって発現ベクターに挿入する。CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母又は大腸菌細胞等の適切な原核生物又は真核生物のホスト細胞において発現させ、細胞から(上清から、又は細胞溶解後に)抗体を回収する。
【0088】
抗体の組換え体生成は、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S. et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の総説に記載されている。
【0089】
抗体は、全細胞中、細胞溶解物中に存在してもよく、部分的に精製された形態で存在してもよく、又は実質的に純粋な形態で存在してもよい。標準的な技術によって(Ausubel, F. et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照されたい)、他の細胞成分又は他の夾雑物、例えば、他の細胞の核酸又はタンパク質を取り除くために精製を行う。
【0090】
NS0細胞における発現は、例えばBarnes, L.M. et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123; Barnes, L.M. et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270に記載されている。一過的発現は、例えば、Durocher, Y. et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9に記載されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289; Norderhaug, L. et al., J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-87に記載されている。好ましい一過的発現系(HEK293)は、Schlaeger, E.-J. and Christensen, K.によってCytotechnology 30 (1999) 71-83に、そして、Schlaeger, E.-J.によってJ. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199に記載されている。
【0091】
モノクローナル抗体は、例えば、プロテインAセファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析又はアフィニティークロマトグラフィー等の従来の免疫グロブリン精製手順によって、培養培地から適切に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNA及びRNAは、従来の手順を使用して容易に単離され、そして配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNA及びRNA源として機能することができる。一旦単離した後、DNAを発現ベクターに挿入し、次いで、HEK293細胞、CHO細胞、又は他の免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄細胞等のホスト細胞にトランスフェクトして、ホスト細胞で組換え型モノクローナル抗体を合成させることもできる。
【0092】
抗pS422抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当技術分野において公知である様々な方法によって調製される。これらの方法は、天然資源(天然に存在するアミノ酸配列変異体の場合)からの単離、ヒト化抗pS422抗体の既に調製されている変異体又は非変異体バージョンのオリゴヌクレオチド媒介性(又は部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、及びカセット式変異誘発による調製を含むが、これらに限定されない。
【0093】
本発明に係る重鎖及び軽鎖可変ドメインは、プロモーター、翻訳開始、定常領域、3’非翻訳領域、ポリアデニル化、及び転写終結の配列と組み合わせられて、発現ベクターのコンストラクトを形成する。重鎖及び軽鎖発現コンストラクトは、単一のベクターに組み込まれてもよく、コトランスフェクトされてもよく、連続的にトランスフェクトされてもよく、又は別々にホスト細胞にトランスフェクトし、次いで、融合させて両鎖を発現する単一のホスト細胞を形成してもよい。
【0094】
別の局面では、本発明は、薬学的に許容しうる担体と共に製剤化される、本発明のモノクローナル抗体のうちの1つもしくは本発明のモノクローナル抗体の組合せ、又はこれらの抗原結合部分を含有する組成物、例えば、医薬組成物を提供する。
【0095】
本明細書で使用するとき、「薬学的に許容しうる担体」は、生理学的に適合する任意の及び全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌性及び抗真菌性の物質、等張剤、並びに吸収/再吸収遅延剤等を含む。好ましくは、担体は、注射又は注入に適している。
【0096】
本発明の組成物は、当技術分野において公知である様々な方法によって投与することができる。当業者によって認識されるように、投与の経路及び/又は方法は、望ましい結果に依存して変化する。
【0097】
薬学的に許容しうる担体は、無菌の水溶液もしくは分散液、又は無菌の注射溶液又は分散液を調製するための無菌粉末を含む。薬学的活性物質のためにこのような媒体及び剤を使用することは、当技術分野において公知である。水に加えて、担体は、例えば等張の緩衝生理食塩水であってもよい。
【0098】
選択された投与経路にかかわらず、適切な水和形態で用いてもよい本発明の化合物、及び/又は本発明の医薬組成物は、当業者に公知である従来の方法によって薬学的に許容しうる剤形に製剤化される。
【0099】
患者にとって毒性ではなく、特定の患者、組成物及び投与方法にとって望ましい治療応答を達成するのに有効な活性成分の量(有効量)を得るために、本発明の医薬組成物中における活性成分の実際の投与量レベルを変更してもよい。選択される投与量レベルは、使用される本発明の特定の組成物、又はそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排泄速度、使用される特定の組成物と併用される他の医薬、化合物、及び/又は物質、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康、及び病歴、並びに医学分野において周知である類似要因を含む様々な薬物動態学的要因に依存する。
【0100】
本発明は、タウオパシー、特にADに罹患している患者を治療するための本発明に係る抗体の使用を含む。
【0101】
また、本発明は、本発明に係る抗体を患者に投与することにより、このような疾患に罹患している患者を治療するための方法を含む。
【0102】
本発明は、更に、薬学的に許容しうる担体と共に本発明に係る抗体を含む医薬組成物を製造するための方法、及びこのような方法における本発明に係る抗体の使用を提供する。
【0103】
本発明は、更に、タウオパシー、特にADに罹患している患者を治療する医薬品を、好ましくは薬学的に許容しうる担体と共に製造するための本発明に係る抗体の使用を提供する。
【0104】
また、本発明は、癌、特にタウオパシー、特にADに罹患している患者を治療する医薬品を、好ましくは薬学的に許容しうる担体と共に製造するための本発明に係る抗体の使用を提供する。
【0105】
本発明についての理解を助けるために以下の実施例、配列表及び図面を提供し、その真の範囲を特許請求の範囲に記載する。本発明の趣旨から逸脱することなく記載されている手順を変更できることが理解される。
【0106】
配列表の説明
配列番号1 Mab2.10.3の可変軽鎖
配列番号2 Mab2.10.3の可変重鎖
配列番号3 CDR1L
配列番号4 CDR2L
配列番号5 CDR3L
配列番号6 CDR1H
配列番号7 CDR2H
配列番号8 CDR3H
配列番号9 リン酸化タウ断片
配列番号10 配列番号9の非リン酸化
配列番号11 ヒトカッパ軽鎖定常領域
配列番号12 ヒトラムダ軽鎖定常領域
配列番号13 ヒトγ1(アロタイプG1m1,17)定常領域
配列番号14 ヒトγ1(アロタイプG1m117)定常領域
配列番号15 ヒトIgG4定常領域
配列番号16 ヒトIgG4 SPLE−突然変異体定常領域
配列番号17 リン酸化MCAK断片(MCAK_ヒト(88-102)[95-pSer])
配列番号18 プライマー
配列番号19 プライマー
配列番号20 プライマー
配列番号21 プライマー
配列番号22 Mab005の可変重鎖
配列番号23 CDRH1
配列番号24 CDRH2
配列番号25 CDRH3
配列番号26 Mab005の可変軽鎖
配列番号27 CDRL1
配列番号28 CDRL2
配列番号29 CDRL3
配列番号30 Mab019の可変重鎖
配列番号31 CDRH1
配列番号32 CDRH2
配列番号33 CDRH3
配列番号34 Mab019の可変軽鎖
配列番号35 CDRL1
配列番号36 CDRL2
配列番号37 CDRL3
配列番号38 Mab020の可変重鎖
配列番号39 CDRH1
配列番号40 CDRH2
配列番号41 CDRH3
配列番号42 Mab020の可変軽鎖
配列番号43 CDRL1
配列番号44 CDRL2
配列番号45 CDRL3
配列番号46 Mab085の可変重鎖
配列番号47 CDRH1
配列番号48 CDRH2
配列番号49 CDRH3
配列番号50 Mab085の可変軽鎖
配列番号51 CDRL1
配列番号52 CDRL2
配列番号53 CDRL3
配列番号54 Mab086の可変重鎖
配列番号55 CDRH1
配列番号56 CDRH2
配列番号57 CDRH3
配列番号58 Mab086の可変軽鎖
配列番号59 CDRL1
配列番号60 CDRL2
配列番号61 CDRL3
配列番号62 Mab097の可変重鎖
配列番号63 CDRH1
配列番号64 CDRH2
配列番号65 CDRH3
配列番号66 Mab097の可変軽鎖
配列番号67 CDRL1
配列番号68 CDRL2
配列番号69 CDRL3
配列番号70 ウサギ免疫グロブリン定常領域(カッパ)
配列番号71 ウサギ免疫グロブリン定常領域(ガンマ)
配列番号72 マウス免疫グロブリン定常領域(カッパ)
配列番号73 マウス免疫グロブリン定常領域(ガンマ)
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】タウPS2APPマウスモデルにip投与した後のpS422 IgG1の大脳内局在。Alexa488をコンジュゲートしたIgG1に対する一次抗体、及びAlexa555をコンジュゲートした抗pタウ抗体AT8で多重蛍光染色した後の共焦点顕微鏡写真は、細胞核のDAPI染色(C)と共に、IgG1の結合(A)及びpタウの沈着(B)を示した。マージされた画像は、幾つかのpタウ陽性細胞における、抗IgG1及びpタウの共局在化染色を示す(D)。
【図2】タウPS2APPマウスモデルにおけるIgG1の大脳内局在のビヒクル対照。海馬体のCA1領域の概観を示す、タウPS2APP脳切片を多重蛍光染色した後の共焦点顕微鏡写真。Alexa488をコンジュゲートしたIgG1に対する一次抗体による多重染色は陰性である(A)。Alexa555をコンジュゲートした抗pタウ抗体AT8は、pタウの沈着を示す(B)。細胞核のDAPI染色(C)。マージされた画像を(D)に示す。ビヒクルを注射した後のタウPS2APPマウスにおいて、感知できるほどの抗IgG1免疫蛍光は観察されなかった。
【図3】タウPS2APPマウスモデルにip投与した後のIgG1の細胞内局在。前頭前皮質内の陽性標識された細胞を示す、タウPS2APP脳切片を多重蛍光染色した後の共焦点顕微鏡写真。Alexa488をコンジュゲートしたIgG1に対する一次抗体、及びAlexa555をコンジュゲートした抗pタウ抗体AT8による多重染色は、IgG1の結合(A)及びpタウの沈着(B)を示した。マージされた画像は、青による細胞核のDAPI染色(C)と共に、抗IgG1及びpタウが共局在化した核周囲及び樹状の染色を示す。
【図4】タウPS2APPマウスモデルにip投与した後のpS422 IgG1の細胞内局在。海馬のCA1領域の錐体細胞層内の陽性標識された細胞を示す、タウPS2APP脳切片を多重蛍光染色した後の共焦点顕微鏡写真。Alexa488をコンジュゲートしたIgG1に対する一次抗体、及びAlexa555をコンジュゲートした抗pタウ抗体AT8による多重染色は、IgG1の結合(A)及びpタウの沈着(B)を示した。マージされた画像は、細胞核のDAPI染色(C)と共に、抗IgG1及びpタウが共局在化した核周囲及び樹状の染色を示す。
【図5】タウPS2APPマウスモデルにip投与した後のIgG2aの細胞内局在。海馬のCA1領域の錐体細胞層内の陽性標識された細胞を示す、タウPS2APP脳切片を多重蛍光染色した後の共焦点顕微鏡写真。Alexa488をコンジュゲートしたIgG2aに対する一次抗体、及びAlexa555をコンジュゲートした抗pタウ抗体AT8による多重染色は、IgG2aの結合(A)及びpタウの沈着(B)を示した。マージされた画像は、細胞核のDAPI染色(C)と共に、抗IgG2a及びpタウが共局在化した核周囲及び樹状の染色を示す。
【図6】タウPS2APPマウスモデルにip投与した後のIgG2bの細胞内局在。前頭前皮質領域内の陽性標識された細胞を示す、タウPS2APP脳切片を多重蛍光染色した後の共焦点顕微鏡写真。Alexa488をコンジュゲートしたIgG2bに対する一次抗体、及びAlexa555をコンジュゲートした抗pタウ抗体AT8による多重染色は、IgG2bの結合(A)及びpタウの沈着(B)を示した。マージされた画像は、矢印(C)によって示されるように、抗IgG2b及びpタウが共局在化した核周囲の染色を示す。
【図7】タウPS2APPマウスの分析。A:16月齢のタウPS2APPマウスの矢状脳切片のGallyas銀染色。典型的なもつれ状ニューロン内構造が黒く見え、免疫蛍光顕微鏡検査法によって明らかにされたpタウ陽性ニューロンを裏付ける。B:16月齢のタウPS2APPマウスの免疫金標識された超薄切片。10nmのコロイド金(矢印)をコンジュゲートした二次抗体によって明らかにされるように、抗タウpS422 mAbは海馬のCA1領域内の樹状突起における原線維状構造に特異的に結合する。標識された原線維の大きさ及び密度は、前記原線維がアルツハイマー病の変性ニューロンでみられるリン酸化タウタンパク質の対らせん状線維に相当することを示唆する。
【図8】AD脳切片に対する抗タウpS422抗体のインビトロ結合。陽性標識されたpタウ沈着物を示す、指定の濃度の抗タウpS422モノクローナル抗体(クローン2.10.3、2.20.4及び5.6.11)によりヒト皮質AD脳切片を染色した後の蛍光顕微鏡写真。大きな神経原線維変化及び細長い糸屑状構造物のような、細胞内のpタウ沈着が顕著である。
【図9a】タウと比較した、抗タウpS422抗体のタウpS422に対する選択性。タウ(▲)又はタウpS422(●)でコーティングされたプレートを使用した、ELISAによる抗タウpS422抗体の選択性の測定。レファレンスとして、左上のパネルにタウ選択的抗体4/2を示す。
【図9b】タウと比較した、抗タウpS422抗体のタウpS422に対する選択性。タウ(▲)又はタウpS422(●)でコーティングされたプレートを使用した、ELISAによる抗タウpS422抗体の選択性の測定。レファレンスとして、左上のパネルにタウ選択的抗体4/2を示す。
【図10】インビトロにおいて凝集したタウは原線維である。陰性染色されている凝集したタウの電子顕微鏡写真。
【図11】陽性標識されたpタウ沈着物及び線維を示す、抗タウpS422ウサギモノクローナル抗体であるMab005(第1列)、Mab019(第2列)、Mab020(第3列)、Mab085(第4列)、Mab086(第5列)及びMab097(第6列)で染色されたヒト皮質のAD脳切片の蛍光顕微鏡写真。IgGの連続希釈物を、2.0μg/mL(左)から始めて、0.4μg/mL、0.08μg/mL及び0.016μg/mLと各列に示す。
【0108】
実施例1
抗体の調製及び精製
a)抗体生成
タウの最長のヒトアイソフォームのアミノ酸416〜430に相当する配列番号9で表されるタウ断片(Ser-Ile-Asp-Met-Val-Asp-Ser(PO3H2)-Pro-Gln-Leu-Ala-Thr-Leu-Ala-Asp)でマウスを免疫した。チオールを介してKLHに直接カップリングさせるために、タウ断片のN末端にシステインを付加した。後続の免疫プロトコール、融合、及びクローニング、並びに抗タウpS422特異的抗体のスクリーニングについては、EP 1 876 185に記載されている。
【0109】
b)クローン2.10.3、2.20.4及び5.6.11の精製
50mMのTrisCl(pH8.0)で平衡化された25mLのMEP Hypercellカラム(pall Biosciences)に無細胞ハイブリドーマ培養上清(250〜300mL)をロードした。平衡バッファで洗浄した後、30mMのクエン酸ナトリウム、100mMのNaCl(pH4.1)で抗体を溶出した。抗体を含有している画分をプールし、次いで、10mMのTrisCl(pH8.0)5リットルに対して4℃で一晩Spectra-Por 6-8000の透析チューブにて透析した。10mMのTrisCl(pH8.0)(バッファA)で平衡化した10mLのSource 17Qカラム(GE Healthcare)に、透析された材料をロードした。バッファAで洗浄した後、10カラム体積の0〜25%バッファBで抗体を勾配溶出した。バッファBは、10mMのTrisCl、1MのNaCl(pH8.0)を含有していた。約200mMのNaClで抗体を溶出した。SDS-PAGEによって個々の画分の純度をチェックし、最も純度の高い画分をプールした。
【0110】
マウスに注射する前日、PBSに対して各抗体を透析し、そして、抗体濃度を3.2mg/mLに調整した。
【0111】
実施例2
タウ、タウpS422、凝集したタウ、及び凝集したタウpS422の調製
N末端に(His)6-SUMO融合タグを有するタウをE.coliで発現させ、そして、HiTrapQ (GE Healthcare, Switzerland)上でイオン交換クロマトグラフィーによって、次いで、Ni-NTA Sepharose (Qiagen, Switzerland)上でアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。次いで、SUMOプロテアーゼ(Invitrogen, Netherlands)で消化することによって融合タグを切断し、次いで、2回目のNi-NTA Sepharoseクロマトグラフィー工程を行って、融合タグを除去する。
【0112】
ERK2プロテインキナーゼと共にタウをインキュベートすることによってタウ-pSer422を調製した。1mMのMgCl及び2mMのATPを含有している10mMのTrisCl(pH8.0)中で37℃にて一晩インキュベートした後にS422が最も多くリン酸化されるERK2:タウのモル比(計算値1:10)を選択した。次いで、これが422の部位における化学量論的リン酸化を表すと仮定した。タウのpS422に特異的なインハウスのモノクローナル抗体を使用して、ウエスタンブロットによってリン酸化をチェックした。
【0113】
50μMのアラキドン酸(Sigma, Switzerland)を含有している10mMのTrisCl(pH8.0)中で最終濃度5μMの精製タウをインキュベートすることにより、凝集した(原線維状)タウを調製した。16時間37℃でインキュベートを行った。10μMのチオSの存在下において蛍光分光法によって(Barghorn and Mandelkow [2002] Biochemistry 41:14885-14896)、及び電子顕微鏡(図10)によって凝集状態を調べた。図10が示すように、凝集したタウは、原線維状の外観を有する。上記の通り、予め凝集しているタウをERK2キナーゼと共にインキュベートすることによって、凝集したリン酸化タウを調製した。
【0114】
実施例3
抗タウpS422モノクローナル抗体は、S422がリン酸化されているタウに対する選択性が高い
a)ペプチド合成
Fmoc化学反応を使用して、自動ペプチド合成機においてペプチド合成を行った。反復サイクルにおいて、対応するFmocアミノ酸を順次カップリングすることによりペプチド配列を組立てた。全てのカップリング工程において、N−メチルピロリドン中20%ピペリジンを含む樹脂で処理することによってN末端のFmoc基を除去した。DMF中HBTU/HOBt(1mmol、各々)及びDIPEA(2mmol)によって活性化されたFmoc保護アミノ酸(1mmol)を使用して、カップリングを実行した。全てのカップリング工程後、NMP中酢酸(0.5M)、DIPEA(0.125M)及びHOBt(0.015M)の混合物で処理することによって(10分間、ボルテックス)、未反応アミノ基をキャッピングした。各工程間に、N−メチルピロリドン及びDMFで樹脂を洗浄した。立体障害アミノ酸の取込みは、自動ダブルカップリングにおいて達成された。この目的のために、カップリングサイクルにおいてキャッピング工程を行うことなく、1mmolの活性化された構成単位で樹脂を2回処理した。リン酸化ペプチド配列では、対応するセリン誘導体をFmoc-Ser(PO(OBzl)OH)-OH構成単位として組込んだ。標的配列が完成したら、標準的なアミノ酸カップリング条件を使用して、Fmoc-Glu(ビオチニル-PEG)-OH(PEGスペーサーを介して結合されたビオチン)をMCAKペプチドにカップリングし、一方、標準的な条件を使用して、4×β−アラニン(U)及び1×ε−リジンをホスホ−タウ配列に結合させた。次いで、DMTr−ビオチンをホスホ−タウペプチドにコンジュゲートさせて、ビオチン化された標的配列を得た。最後のFmoc脱保護(MCAKのみ)後、フィルターフリットに全てのペプチド樹脂を別々に入れ、そして、トリフルオロ酢酸、水及びトリイソプロピルシラン(19mL:0.5mL:0.5mL)の混合物で2.5時間処理した。切断溶液を濾過し、冷(0℃)ジイソプロピルエーテル(300mL)を添加することによってペプチドを沈殿させて、無色の固体を得、これをジイソプロピルエーテルで繰り返し洗浄した。粗生成物を酢酸/水の混合物に再溶解させ、凍結乾燥させ、次いで、0.1%のTFAを含有しているアセトニトリル/水勾配を使用して、分取逆相HPLCによって精製した。
【0115】
HBTU:2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート
HOBt:ヒドロキシベンゾトリアゾール
DIPEA:N,N−ジイソプロピルエチルアミン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0116】
b)リン酸化タウペプチドを用いたアッセイ
タウpS422配列416−430(リン酸化及び非リン酸化)及びMCAK_ヒト(88-102)[95-pSer]を表すペプチドを合成し、ビオチン化して、ストレプトアビジンで標識されたマイクロタイタープレートをコーティングさせた。アッセイプレートに対するタウリンペプチドの最大結合を試験するために、1ng/mLから2000ng/mLに及ぶ様々な濃度のタウリンペプチドをコーティングに使用した。最終的に、室温で60分間コーティングするために50ng/mLのタウリンペプチドを使用した。1000ng/mL以下の濃度で60分間、ペプチドで標識されたマイクロタイタープレート内で、抗タウpS422抗体2.10.3、2.20.4.及び5.6.11をインキュベートした。洗浄後、PODで標識された抗マウス−IgG Fc抗体を使用して、抗体の結合を検出した。室温で20分間ABTS(登録商標)と共にインキュベートした後、405nm〜492nmの吸収度(O.D.)を測定した。EC50によって抗体結合を測定した。2.10.3については100ng/mL、2.20.4については8ng/mL、及び5.6.11については1ng/mLの範囲において典型的なEC50値を決定することができた。非リン酸化タウ断片、及び(MCAK_ヒト(88-102)[95-pSer])を対照として使用した。対照ペプチドの結合は、観察することができなかった。典型的なバックグラウンド値は約30mE(表1)であり、これは、リン酸化タウ断片で測定された最大値の約1%である。したがって、Mab2.10.3は、配列番号10で表される非リン酸化タウペプチド及びMCAK_ヒト(88-102)[95-pSer]と比較して少なくとも100倍の選択性でリン酸化タウ断片に結合する。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
c)完全長タウ及びタウpS422を用いたアッセイ
Meso Scale Discovery(商標)アッセイプラットフォーム(MSD, Gaithersburg, Maryland, USAMD)を使用してアッセイを行った。室温で1時間、PBSバッファ中2μg/mLの濃度のタウ又はタウpS422でMSD96ウェルマイクロタイタープレートをコーティングした。次いで、1時間5%のBSA及び1%のTween20を含有しているPBSを添加することにより、プレートをブロッキングした。0.1%のBSA及び0.1%のTween(登録商標)20を含有しているLow Crossバッファ(MSD)で抗体を(濃度域が3ng/mL〜250ng/mLであったクローン2.10.3を除いて)30pg/mL〜20ng/mLの濃度に希釈し、コーティング及びブロッキングされたプレートに添加し、そして、室温で3時間インキュベートした。次いで、1%のTweenを含有しているPBSバッファでプレートを3回洗浄した。結合した抗体の検出については、0.5μg/mLの濃度のSULFOタグ付抗マウスIgG(MSD)を添加し、そして、室温で1時間プレートをインキュベートした。Readバッファ(MSD)を添加した後、MSD Sector Imager 600プレートリーダでプレートを読み取った。図9は、抗タウpS422モノクローナル抗体(クローン5.6.11、2.20.4及び2.10.3)の結合パートナーとしてタウ又はタウpS422のいずれかを用いて得られたデータを示す。タウ及びタウpS422の両方を認識する抗タウ抗体(クローン4/2)を参照としてタウpS422抗体と比較する。タウpS422及びタウに対する結合と比較することによって、タウに対する結合のシグナルは、バックグラウンドシグナルと識別することができなかったので、タウに対する結合は検出されなかったことが分かった。したがって、タウと比較して、少なくとも10,000倍の選択性でタウpS422に対して3つの各抗タウpS422抗体が結合すると推定された。
【0119】
実施例4
抗タウpS422抗体はタウpS422の原線維状凝集体に結合する
Biacore(商標)分析を用いて、凝集した原線維状タウpS422の調製物に対する抗タウpS422(クローン2.10.3)の結合を測定した。リン酸化原線維は、インビトロにおける、アルツハイマー病脳に生じるタウのPHF形態を表すと考えられる。実施例2に記載されているように原線維状物質を調製し、リン酸化した。
【0120】
センサチップ上への固定:
CM5センサチップ上でアミンカップリングすることによって、凝集したタウpS422を共有結合的に固定化した。この目的のために、凝集したタウpS422を10mMの酢酸ナトリウム(pH5.0)で19倍に希釈した。チップ上に望ましい量のタンパク質が固定化されるまで、活性化されたセンサ表面をタンパク質溶液と接触させた。その後、1Mのエタノールアミン(pH8.0)を注入することにより、残りの反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステルをブロッキングした。抗タウpS422(クローン2.10.3)の結合挙動の特性評価を行うために、450反応単位(RU)のタンパク質を固定化した。RTで固定アッセイを実行し、ランニングバッファとしてPBSを使用した。
【0121】
動的滴定:
抗体の特性評価については、ランニングバッファを10mMのトリス−Cl(pH8.0)、250mMのNaClに変更し、以下の一連の濃度の抗体を調製した:5つの異なる濃度、希釈係数2、最大濃度200nM。最低濃度で開始して、抗体の異なる溶液を連続的に注入した。所謂動的滴定の後に、100mMのHPOでセンサ表面を再生した。この測定を3回行った。
【0122】
Biaevalソフトウェアによってデータ評価を行った。パラメータの計算は、凝集したタウpS422に対する抗体の結合が完全に一価であるという仮定に基づく。固定化されたタンパク質の抗体の結合挙動を特徴づける動的及び熱力学的パラメータを表2に示す。
【0123】
【表2】

【0124】
したがって、抗タウpS422(クローン2.10.3)は、17nMのKで原線維のホスホタウに結合する。
【0125】
実施例5
アルツハイマー病患者の脳切片における細胞内pタウに対する抗タウpS422モノクローナル抗体のインビトロ結合
AD患者のヒト脳組織の低温切片を用いる免疫組織化学的染色実験によって、アルツハイマー病脳組織における病理学的に関連するpタウ病変の免疫装飾(immunodecoration)の特異性及び感受性について調べた。Braak VIとして神経病理学に病期分類されたAD患者の凍結死後脳組織を使用することにより評価を行った。任意の化学薬品、即ち、アルデヒドで固定することなく、免疫組織化学法のために脳組織を低温切片化し、そして、処理した。マウスIgGに特異的な蛍光標識された二次抗体を用いてpタウ沈着物の検出を行い、そして、蛍光光学顕微鏡によってモニタした。
【0126】
簡潔に述べると、アルツハイマー病陽性であると診断された患者の死後に得られた皮質脳領域の固定されてない脳組織のクライオスタット切片を間接免疫蛍光法によって標識した。本報告では、AD患者(症例01−05;国内の脳バンク)の眼窩前頭組織から得られた画像を示す。連続2段階インキュベーションを用いて様々なクローンから結合したマウス抗体を検出したが、これはCy3(Jackson Immuno Research)をコンジュゲートしたアフィニティー精製されたヤギ抗マウスIgG(H+L)によって明らかになった。切片化、染色、及び蛍光顕微鏡観察は、標準的な手順に従って行った。
【0127】
pタウ病変が特異的且つ高感度で染色されることは、クローン2.10.3、2.20.4及び5.6.11について明らかである(図8)。全ての種類のpタウ沈着物(即ち神経原線維変化)、糸屑状構造物及び異栄養性神経突起が安定して染色されていることが、明らかに視認できる。調査したクローン全てについて最小有効濃度は0.05μg/mLであると決定され、これは、純粋なヒトpタウ沈着物に対して高感度で結合することを示す。
【0128】
また、pタウ沈着物の検出は、本発明に係るIgG4抗体、及びヒトIgG4に特異的な蛍光標識された二次抗体を用いることによって行い、そして、蛍光光学顕微鏡によってモニタしてもよい。
【0129】
実施例6
タウPS2APPトリプルトランスジェニックマウスの作製
B6.172H系統のホモ接合体PS2APP雌(Ozmen, L. et al., Neurodegen. Dis. 6 (2009) 29-36)をタウP301L系統のホモ接合体タウ雄(Goetz et al., Science 293 (2001) 1491-1495)と交配することによってトランスジェニックタウPS2APPマウスを作製した。得られたトランスジェニックマウスは全て、ヒトAPPスウェーデン型突然変異、ヒトプレセニリン2 N141I突然変異及びヒトタウP301L突然変異についてヘテロ接合体である。ヒトAPP及びタウトランスジーンの場合にはマウスThy−1プロモーターによって、そして、ヒトプレセニリン2トランスジーンの場合にはプリオンプロモーターによって、トランスジーンの発現が駆動される。
【0130】
12時間明暗サイクルで動物を飼育し、自由に食餌及び水を与えた。飼育施設は、Accreditation of Laboratory Animal Careによって認証された。全ての手順は、Swiss federal regulations on animal protection及びAssociation for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Careの規則を厳守し、国内の獣医学の専門家による明示的承認を受けて実施した。
【0131】
免疫組織化学法のためのマウスの処理:4%のイソフルランを使用してマウスに麻酔をかけ、断頭術によって屠殺した。EDTANaFでコーティングされたチューブ(Milian)に血液を回収した。脳を摘出し、ドライアイス上で直ちに凍結させ、更に使用するまで−80℃で保存した。
【0132】
実験では、20月齢の雄及び雌のマウスを用いた。この月齢では、これまでに試験した全てのマウスの脳で、細胞内の過リン酸化タウの蓄積及び神経原線維の病変が増加していることが明らかである。
【0133】
実施例7
タウPS2APPマウスモデルにおけるpタウ沈着物の組織学的及び超微細構造的解析
タウPS2APPマウスは、幾つかの脳領域において検出可能な神経原線維変化に類似する構造を有するニューロン内のpタウ沈着を伴う、年齢依存性且つ進行性の表現型を発現する。24月齢で実質的なpタウ病変が観察される。典型的に、細胞内のタウpS422について陽性である幾つかのニューロンは、海馬のCA1領域の前頭前皮質及び錐体細胞層内、及び隣接する鉤状回でみられる。この月齢においてpタウは、多形細胞層に、そして、海馬の白板境界に沿ってCA3及び海馬采領域に、また線条に広がることが分かった。
【0134】
記載されている方法(Gallyas, F., Acta Morphologica Acad. Sci. Hung. 19 (1971) 1-8)に軽微な変更を施してGallyas銀染色を行った、即ち、3%の過ヨウ素酸中でプレインキュベートし、0.5%の酢酸で洗浄した後、更に5%のチオ硫酸ナトリウムで更に2分間洗浄した。標準的なヘマトキシリン及びエオシンを用いて対比染色を行った。Gallyas銀染色によって、タウPS2APPマウスの海馬及び皮質において多数のもつれ状沈着物が発生していることが確認された(図7A)。
【0135】
免疫電子顕微鏡によってpタウ沈着物の超微細構造を調べた。PBS中2%のホルムアルデヒド及び0.5%のグルタルアルデヒドで16月齢のタウPS2APPマウスを灌流した。Lowicryl HM20に脳切片を包埋し、そして、既に記載されている通り超薄切片を調製した(Richards, J.G. et al., J. Neurosci. 23 (2003) 8989-9003)。簡潔に述べると、1時間2%のBSAを含むPBS中10μg/mLの抗タウpS422と共に切片をインキュベートした。PBS/2%BSAで6回洗浄した後、二次ヤギ抗マウスIgG(Amersham, Arlington Heights, IL)と共に切片をインキュベートし、1時間PBS/2%BSA/0.1%Tween(登録商標)20中1:20にて10nmの金にコンジュゲートさせ、そして、2%のBSAを含むPBSで洗浄した。対照として、正常マウス血清で処理された切片を使用したところ、10μmの面積に金粒子が10個未満という無視できる程度のバックグラウンドしか生じなかった。100kVでJEOL 1210を用いて電子顕微鏡写真を撮影した。
【0136】
多数のpタウ陽性ニューロンを有する16月齢のタウPS2APPの海馬の超微細構造を観察したところ、樹状突起内で対らせん状線維(PHF)に典型的な沈着物が免疫金標識されていることが明らかになった(図7B)。抗タウpS422 mAbで標識された超薄切片によって、黒い点として視認できる10nmのコロイド金にコンジュゲートされた二次抗体によって明らかである通り、海馬のCA1領域の樹状突起内の原線維状構造物に対して特異的に結合することが明らかになった(図7B)。免疫金標識によって、調べたタウPS2APPマウスのニューロンにおける細胞内原線維状構造物にタウのpS422エピトープが局在していることが立証された。標識された原線維の大きさ及び密度は、前記原線維がAD患者の変性ニューロンにおいて観察されるPHFに構造上相当することを示唆する。pタウPHFの局在は、トランスジェニックタウPS2APPマウスにおける凝集したpタウ沈着物の細胞内分布を明白に実証する。
【0137】
実施例8
免疫組織化学及び共焦点レーザー走査顕微鏡によって明らかにされたアルツハイマー病のpタウマウスモデルの脳内の細胞内pタウに対する抗タウpS422モノクローナル抗体のインビボ結合
選択した抗タウpS422抗体(表1を参照)を24月齢のタウPS2APPトリプルトランスジェニックマウスにおいて試験し、そして、インビボにおけるpタウ沈着物に対する結合について評価した。実施例4に記載されているように、幾つかの脳領域において検出可能な神経原線維変化に類似する構造を有するニューロン内pタウ沈着を伴う年齢依存性及び進行性の表現型を発現するタウPS2APPマウスモデルにおいて研究を行った。
【0138】
使用されたタウpS422に対する抗体を20mg/kgの用量でi.p投与した。ip投与の2日後に免疫組織化学的染色を行って、pタウ沈着及び結合しているマウスIgGサブタイプ抗体を検出した。投与の2日後に各群3匹のマウスを屠殺した。マウスに深く麻酔をかけ(5%v/vのForene(商標)で約2分間、ほとんど窒息状態に達するまで)、次いで、胸部を切開し、心膜を摘出し、PBSで灌流し、断頭し、脳を半分にし、そして、ドライアイスにおいてスナップ冷凍した。新鮮凍結脳の傍矢状クライオスタット切片をクライオスタット(CM3050S, Leica)で20μmの厚さに切断し、予冷したHistobondスライド(Marienfeld, Lauda-Konigshofen, Germany)に載せて、−20℃で保存した。
【0139】
結合している抗タウpS422抗体を検出するために三重免疫蛍光染色を適用した。PBSで切片を水和し、2分間−20℃に予冷した100%アセトンで処理した。室温にて染色オートマット(Autostainer Plus DakoCytomation, High Wycombe, UK)において全ての更なる工程を順次行った。0.01%のTween20を含有しているPBS(pH7.4)で5分間、脳切片を載せたスライドを洗浄し、そして、1%のウシ血清アルブミン、1%のオバルブミン及び1%の正常ヤギ血清を含むPBS中で20分間順次インキュベートすることによって非特異的な結合部位のブロッキングを行った。PBS及び0.01%のTween20で洗浄した後、IgGアイソタイプ特異的検出抗体、即ち、PBS中の1%のBSA(pH7.4)中20μg/mLでAlexa Fluor(登録商標)488色素(A21121、A21131又はA21141、Molecular Probes)に共有結合しているアフィニティー精製ヤギ抗マウスIgG1、IgG2a又はIgG2bと共に1時間スライドをインキュベートした。0.01%のTween20を含むPBSで洗浄した後、5μg/mLの抗pタウ抗体(AT−8、Pierce Biotechnology)、即ち、Alexa Fluor(登録商標)555色素に共有結合したタウタンパク質におけるリン酸化S202/S205エピトープに対するマウスモノクローナル抗体で標識し、1時間1%のウシ血清アルブミン、1%のオバルブミン及び1%の正常ヤギ血清を含むPBSに適用することによってpタウの局在を評価した。0.01%のTween20を含むPBSで洗浄した後、5分間PBS中の1μg/mLの4,6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で細胞核を対比染色した。0.01%のTween(登録商標)20を含むPBSで洗浄した後、50mMの酢酸アンモニウム中4mMのCuSO4(pH5)において30分間インキュベートしてクエンチすることによって、リポフスチンの自己蛍光を低下させた。再蒸留水でスライドをすすぎ、そしてPBS及び0.01%のTween(登録商標)20で最後に洗浄した後、蛍光封入剤(S3023 DakoCytomation, High Wycombe, UK)でスライドを包埋した。ピンホールが1Airyに設定されたLeica SP2, AOBS共焦点レーザー走査顕微鏡で記録された、重複していない放射チャネルにおける最大投影像(Maximum projection image)を連続して記録した。
【0140】
24月齢のタウPS2APPマウスにおいて実質的なpタウ病変がみられた。典型的に、細胞内のタウpS422について強陽性である幾つかのニューロンは、海馬のCA1領域の前頭前皮質及び錐体細胞層内、及び隣接する鉤状回にみられた。この月齢では、pタウは、多形細胞層に広がり、そして、海馬白板に沿ってCA3及びフィンブリア領域、そして分界条へも広がっていることが分かった。
【0141】
24月齢のタウPS2APPマウスの海馬体からの前頭前皮質及びCA1領域における免疫染色を共焦点顕微鏡画像(図1〜6)で示す。明らかに、細胞内pタウ及び投与されたIgGサブタイプ抗体を検出可能であり、実質的なpタウ病変を含む脳領域の細胞に共局在していることが見出された。細胞内のIgG1局在についての例示を、ビヒクル対照(図2)と共に図1、3、及び4に示す。幾つかの細胞でIgG2a陽性細胞(図5)及びIgG2b(図6)もみられた。pタウ陽性細胞のうちの幾つかは、AD患者の脳組織の変性ニューロンでみられる神経原線維変化に類似する典型的な神経原線維の形態を示した。マウスIgGサブタイプ抗体、特にIgG1及びpタウの共局在した免疫反応性が、樹状突起、典型的には海馬体のCA1領域の前頭前皮質及び顆粒細胞層において観察された(図3及び4)。
【0142】
試験した抗タウpS422抗体は全て、細胞内pタウ沈着物に対する特異的結合を示した。しかし、表3に示されるように、3つのIgGアイソタイプ間で結合の程度は異なっていた。
【0143】
【表3】


表中、X=軽度、XX=中等度、及びXXX=強いIHC反応性である。
【0144】
実施例9
抗タウpS422モノクローナル抗体による長期間処理がアルツハイマー病のマウスモデルにおけるタウ病変を減少させる
マウス抗タウpS422 Mabがアルツハイマー病マウスのマウスモデルにおけるタウ病変を減少させる能力について、タウ.PS2APPトリプルトランスジェニックマウスに前記抗体を4ヶ月間にわたって投与することにより試験する。したがって、20匹のタウ.PS2APPトリプルトランスジェニックマウスの群(7月齢)を、マウス抗タウpS422Mab(クローン2.10.3)のip投与によって週1回処理する。最終用量が20mg/kgになるようにビヒクル(20mMのヒスチジン、140mMのNaCl(pH6.0))中2mg/mLの濃度で抗体を投与する。20匹のトリプルトランスジェニックのマウスの第2の群には、等体積のビヒクルを投与する。4か月後に、マウスを全て屠殺し、実施例5に記載されている通り脳を摘出した。次いで、脳をそれぞれ2つの半球に分割し、そのうち1つを、実施例5に記載されている通り免疫組織化学法用に調製する。第2の半球は、下記のようなイムノアッセイによりpタウ量を定量するために使用する。
【0145】
1. タウ及びpタウアッセイのためのマウス脳の抽出
脳を計量し、25mMのTrisCl、800mMのNaCl、10%のスクロース(pH7.5)を含む氷冷バッファ10体積中にてガラスホモジナイザーを用いてホモジネートする。次いて、20,000×gでホモジネートを遠心分離する。得られる上清を、PBS/1%BSA/1%Tween(登録商標)20で1:100(タウアッセイの場合)又は1:10(pタウアッセイの場合)に希釈する。
【0146】
2. タウ及びpタウのアッセイ
Meso Scale Discovery(商標)アッセイプラットフォーム(MSD, Gaithersburg, Maryland, USAMD)を使用して全てのアッセイを行った。MSDによって提供される標準プロトコールに従って、捕捉抗体及び検出抗体をそれぞれビオチン及びSULFO-Tag(商標)で標識する。以下の抗体をアッセイで使用した:(i)Johnson, G.V. et al., J. Neurochem 68 (1997) 430-433に記載されている、タウのアミノ酸19〜46に対するマウス抗体である5A6;(ii)タウのpT231に対して検出されたマウス抗体であるAT180[Innogenetics, Belgium];(iii)EP1876185A1に記載されているマウス抗タウpS422クローン2.5.2;(iv)完全長タウに対するマウス抗タウクローン4/53。捕捉抗体として抗体5A6を使用し、残りの抗体は検出抗体として使用する。
【0147】
ストレプトアビジンでコーティングされた96ウェルMSDプレートを5%のBSAでRTにて1時間ブロッキングする。洗浄バッファ(PBS、0.05%のTween(登録商標)20)でプレートを3回洗浄する。次いで、アッセイバッファ(PBS/1%BSA/1%Tween(登録商標)20)で希釈した捕捉抗体を添加し、そして、プレートを30分間4℃でインキュベートした。続いてプレートを1回洗浄する。次いで、75μLのアッセイバッファを各ウェルに添加し、次いで、25μLの希釈した脳上清及び25μLのSulfoタグ付検出抗体を添加した。1時間4℃でプレートを振盪し、続いて、1回洗浄した。最後に、170μLのMSDリードバッファを添加し、MSD Sector Imager 6000でプレートを読み取った。
【0148】
マウス脳抽出物におけるタウ及びタウpS422を定量するために、実施例2に記載されているように調製されたタウ及びタウpS422を使用して検量線を作成した。
【0149】
抗タウpS422モノクローナル抗体で長期間処理することによるタウ.PS2APPトリプルトランスジェニックマウスのタウ病変の減少は、同月齢のビヒクル処理マウスと比べて、11月齢の抗体で処理されたマウスで典型的なタウ病変の減少が観察されたことによって証明される。この減少は、免疫組織化学によって検出される神経原線維変化量の減少、及び定量的イムノアッセイによって測定される脳抽出物中に存在する様々なpタウ種の量の減少によって表される。
【0150】
実施例10
ウサギ抗体の調製及び精製
a)免疫
Charles River Laboratories International, Inc製のNZWウサギを免疫に使用した。KLHにカップリングしたリンペプチドタウ(416-430)[pS422]を1mg/mLの濃度でK3PO4バッファ(pH7.0)に溶解させ、安定なエマルションが生成されるまで完全フロイントアジュバント(CFA)と混合した(1:1)。3匹のウサギに、2mLのエマルションを皮内(i.d.)注射し、次いで、1週間間隔でそれぞれ1mLを2回目は筋肉内(i.m.)、3回目は皮下(s.c.)に注射した。4回目の1mLのi.m.注射を2週間後に実施し、次いで、4週間間隔で1mLのs.c.注射を更に2回行った。各動物の末梢全血サンプル10mLを3、4、5、及び6回目の注射の4〜6日後に採取し、FACSにおける単一細胞選別に用いた。同時に各動物から更に0.5mLの血清を採取し、タウ(416-463)[pS422]に特異的な抗体応答の決定に使用した。
【0151】
b)抗体応答
ELISAを用いて血清の連続希釈物によって免疫に対する抗体応答を決定し、ここでは、予めストレプトアビジンでコーティングされた96ウェルマイクロタイタープレート(MC1347, Micro Coat Biotechnologie GmbH, Bernried, Germany)上で一晩4℃にて1×PBS中において、1ウェルあたり30ngのビオチン化タウ(416-430)[pS422]をインキュベートした。検出については、ワサビペルオキシダーゼ(The Jackson laboratory)に結合したヤギ抗ウサギIgGを1:16000希釈して使用した。可視化のために、Roche Diagnostics GmbH製の既製溶液であり、テトラメチルベンジジン(TMB)を沈殿させるBM Blue POD Substratを使用した。1NのHClを用いて反応を停止させ、450/690nmでTecan製Infiniteによって測定した。
【0152】
c)B細胞クローニング
プレートのコーティング
無菌のストレプトアビジンコーティングされた6ウェルプレート(細胞培養グレード)を、1時間室温で、それぞれPBS中0.5〜1μg/mLの濃度の3つのビオチン化された対照ペプチド(非リン酸化タウ(416-430)、MCAK_ヒト(88-102)[95-pSer]及びMAP2_ヒト(1802-1816)[pSer-1802])の混合物又はビオチン化リンペプチドタウ(416-430)[pS422]と共にインキュベートした。使用前に無菌PBSでプレートを3回洗浄した。4℃で一晩、炭酸塩バッファ(0.1Mの重炭酸ナトリウム、34mMの炭酸水素二ナトリウム、pH9.55)中2μg/mLのKLH(キーホールリンペットヘモシアニン)で細胞培養用6ウェルプレートをコーティングした。使用前に無菌PBSでプレートを3回洗浄した。
【0153】
ウサギ末梢血単核細胞(PBMC)の単離
ウサギPBMCを単離するために実施したlympholyte mammal (Cedarlane Laboratories)による密度遠心分離の前に、1×PBSでEDTA含有全血を2倍に希釈した。抗体で染色する前に2回PBMCを洗浄した。
【0154】
EL−4 B5培地
10%のFCS(Hyclone, Logan, UT, USA)、2mMのグルタミン、1%のペニシリン/ストレプトマイシン溶液(PAA, Pasching, Austria)、2mMのピルビン酸ナトリウム、10mMのHEPES(PAN Biotech, Aidenbach, Germany)及び0.05mMのベータ−メルカプトエタノール(Gibco, Paisley, Scotland)を添加したRPMI 1640(Pan Biootech, Aidenbach, Germany)。
【0155】
マクロファージ/単球の枯渇
無菌6ウェルプレート(細胞培養グレード)を使用して、非特異的な付着によってマクロファージ及び単球を枯渇させた。KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)か又はストレプトアビジン及び対照ペプチドのいずれかでウェルをコーティングした。各ウェルに最大4mLの培地及び免疫したウサギの6×10以下の末梢血単核細胞を充填し、インキュベータにおいて37℃で1時間結合させた。パニング工程のために上清中の細胞の50%を使用した;残りの50%の細胞は、免疫蛍光染色及び単一細胞選別に直接供した。
【0156】
ペプチドにおけるB細胞のパニング
6ウェル組織培養プレートをストレプトアビジン及びビオチン化されたペプチドタウ(416-430)[pS422]でコーティングし、4mLの培地につき6×10以下の細胞になるように播種し、インキュベータにおいて37℃で1時間結合させた。1×PBSで1〜2回ウェルを慎重に洗浄することにより、非付着細胞を除去した。インキュベータにおいて37℃で10分間、トリプシンによって残りの粘着性細胞を剥がし、次いで、培地で2回洗浄した。免疫蛍光染色まで細胞を冷凍しておいた。
【0157】
免疫蛍光染色及び単一細胞選別
単一細胞選別に使用した抗ウサギIgG FITCは、AbD Serotec (STAR121F, Dusseldorf, Germany)製であった。表面の染色については、枯渇及びパニング工程から得られた細胞を暗条件下の4℃の冷温室で回転させながら、30分間PBS中で抗ウサギIgG FITC抗体と共にインキュベートした。遠心分離後、吸引によって上清を除去した。PBMCを2サイクルの遠心分離に供し、氷冷PBSで洗浄した。最後に、氷冷PBSにPBMCを再懸濁させ、直ちにFACS分析に供した。死細胞と生細胞とを識別するために、FACS分析前に5μg/mLの濃度のヨウ化プロピジウム(BD Pharmingen, San Diego, CA, USA)を添加した。FACSDivaソフトウェア(BD Biosciences, USA)を備えるBecton Dickinson FACSAriaを用いてFACSを実施したところ、FITCで標識された生細胞が1個、96ウェルプレートに付着した。
【0158】
B細胞の培養
Zubler, R.H. et al., J Immunol. 134 (1985) 3662-3668によって記載されている方法に類似の方法によってB細胞培養物を調製した。簡潔に述べると、インキュベータにおいて5%CO雰囲気、37℃で7日間、Pansorbin細胞(1:20000)(Calbiochem (Merck), Darmstadt, Deutschland)、5%のウサギ胸腺細胞上清及びガンマ線を照射したEL-4 B5マウス胸腺腫細胞(2×10/ウェル)を含む210μL/ウェルのEL-4 B5培地と共に、単一選別されたB細胞を96ウェルプレートで培養した。スクリーニングのためにB細胞培養液上清を除去し、そして、可変領域遺伝子クローニングのために直ちに細胞を収集したか、又は100μLのRLTバッファ(Qiagen, Hilden, Germany)中にて−80℃で凍結させた。
【0159】
d)B細胞クローンのスクリーニング
ELISAによって、ビオチン化されたタウ(416-430)[pS422]に対する結合についてB細胞培養液上清をスクリーニングした。対照抗原として非リン酸化タウ(416-430)、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)及び無関係なリンペプチドMCAK_ヒト(88-102)[95-pSer]を使用した。ELISAプレートの調製については、室温で1時間50ng/mLのビオチン化されたタウ(415-430)[pS422]と共に、ストレプトアビジンで予めコーティングされたマイクロタイタープレートをインキュベートした。KLH又は対照のペプチドによるコーティングは、1μg/mLで行った。B細胞上清を1:5〜1:10で希釈し、60分間、抗原でコーティングされたマイクロタイタープレートにおいてインキュベートした。激しく洗浄した後、ヒツジ抗ウサギIgGジゴキシゲニンがコンジュゲートした検出抗体(Chemicon AQ301D)を使用して、ウサギ抗体の結合を検出した。室温でTMBと共にインキュベートした後、370nm〜492nmで吸光度を測定した。ビオチン化タウ(416-430)[pS422]ではバックグラウンドを超えるシグナルが得られたが、KLH及びMCAK_ヒト(88-102)[95-pSer]では得られなかったB細胞クローンを更に検討し、可変領域遺伝子クローニングに供した。
【0160】
e)VドメインのPCR増幅及び配列決定
製造業者のプロトコールに従ってNucleoSpin(登録商標)8/96 RNA kit (Macherey&Nagel;740709.4, 740698)を使用して、全RNAを調製した。工程は全てepMotion 5075液体ハンドリングシステム(Eppendorf)で行った。60μLのRNase不含水でRNAを溶出した。製造業者の指示に従ってSuperscript III First-Strand Synthesis SuperMix(Invitrogen 18080-400)及びoligo dT−プライマーを使用して、逆転写酵素反応によってcDNAを生成するために6μLのRNAを使用した。重鎖にはプライマーrbHCfinal.up及びrbHCfinal.do、軽鎖にはrbLCfinal.up及びrbLCfinal.doを使用して(表4)、最終体積50μLのAccuPrime Supermix(Invitrogen 12344-040)で免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域(VH及びVL)を増幅するために4μLのcDNAを使用した。PCR条件は以下の通りであった:94℃で5分間ホットスタート;94℃で20秒間、70℃で20秒間、68℃で45秒間を35サイクル、及び68℃で7分間最終伸長。
【0161】
【表4】

【0162】
48E-Gel 2%(Invitrogen G8008-02)に50μLのPCR溶液のうち8μLをロードした。製造業者のプロトコールに従ってNucleoSpin(登録商標)Extract IIキット(Macherey&Nagel;740609250)を使用して陽性PCR反応物を精製し、50μLの溶出バッファに溶出した。12μLの精製PCR生成物を、重鎖にはrbHCfinal.up及びrbHCfinal.do、軽鎖にはrbLCfinal.up及びrbLCfinal.doを使用して(表4)、両方向に直接配列決定した。
【0163】
d)ウサギモノクローナル抗体及びウサギ/マウスキメラ抗体の組み換え発現
ウサギモノクローナル抗体の組み換え発現については、オーバーハングクローニング法(Haun, R.S. et al., Biotechniques 13 (1992) 515-518; Li, M.Z., et al., Nature Methods 4 (2007) 251-256)によってVH又はVLをコードするPCR生成物をcDNAとして発現ベクターにクローニングした。重複するプライマーを使用するPCRによって、VH挿入物のウサギのカッパ又はガンマ定常領域及びVLをコードする線形化された発現プラスミドを増幅させた。一本鎖オーバーハングを生成するT4 DNAポリメラーゼと共に精製されたPCR生成物をインキュベートした。dCTPを添加することにより反応を停止させた。次の工程で、プラスミド及び挿入物を組換え、部位特異的組換を誘導するrecAと共にインキュベートした。組換えされたプラスミドをE.coliに形質転換した。翌日、増殖したコロニーを取り、プラスミド調製、制限解析及びDNA配列決定によって正確な再結合されたプラスミドについて試験した。抗体発現については、単離されたHC及びLCプラスミドを一過的にHEK293細胞へコトランスフェクトし、1週間後に上清を収集した。ウサギマウスキメラ抗体のクローニング及び発現については、PCRによってVH及びVLの領域を増幅し、マウス定常カッパ又はマウス定常ガンマ1領域を含む発現ベクターへサブクローニングした。ウサギ/マウスキメラHC及びLCプラスミドを単離し、正確に挿入するために制限解析及びDNA配列決定によって試験し、HEK293細胞へ一過的にコトランスフェクトした。トランスフェクションの1週間後に上清を収穫した。
【0164】
e)抗体精製
組換え発現したウサギ抗体をMabSelectSuRe(商標)カラム(GE Healthcare)で細胞培養上清から精製した。サンプルをカラムにロードする前に、25mmol/LのTris-HCl、25mmol/LのNaCl(pH7.4)でカラムを平衡化した。50mmol/Lの酢酸塩(pH3.14)で抗体を溶出した。溶出されたサンプルを直ちに脱塩カラム(Sephadex G25, GE Healthcare)にロードし、20mmol/LのHis-HCl、140mmol/LのNaCl(pH6.0)に溶出した。精製された抗体の保存にもこのバッファを使用した。一般的な保存温度は4℃であり、精製工程後は室温であり、分注後は−80℃であった。細胞培養上清から得られた組換え発現したウサギ/マウスキメラ抗体をMabSelectSuRe(商標)カラム(GE Healthcare)で精製した。サンプルをロードする前に、1×PBS(pH7.4)でカラムを平衡化した。100mmol/Lのクエン酸塩(pH3.0)で抗体を溶出した。溶出されたサンプルを直ちに2mol/LのTris/HCl(pH9.0)で中和した。サイズ排除カラム(Superdex 200, GE Healthcare)に抗体をロードした後、20mmol/LのHis-HCl、140mmol/LのNaCl(pH6.0)に溶出した。精製された抗体の保存にもこのバッファを使用した。一般的な保存温度は4℃であり、精製工程後は室温であり、分注後は−80℃であった。
【0165】
実施例11
抗タウpS422モノクローナルウサギ抗体は、pS422がリン酸化されたタウに対して高度に選択的であり、タウpS422の原線維状凝集体に結合する
a)ELISA
HEK293細胞においてウサギモノクローナル抗体を組み換え発現させた。ELISAにより、ビオチン化タウ(416-430)[pS422]、非リン酸化タウ(416-430)、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)及び無関係なリンペプチドMCAK_ヒト(88-102)[95-pSer]に対する結合について、細胞培養上清又は精製されたウサギ抗体を試験した。ELISAプレートの調製については、室温で1時間50ng/mLのビオチン化タウ(415-430)[pS422]と共に、ストレプトアビジンで予めコーティングされたマイクロタイタープレートをインキュベートした。KLH又は対照ペプチドによるコーティングは、1μg/mLで行った。様々な濃度で60分間、抗原で標識されたマイクロタイタープレートにおいて、ウサギ抗タウpS422抗体(Abcam AB51071)又は上清を含有しているウサギ抗体をインキュベートした。激しく洗浄した後、ヒツジ抗ウサギIgGジゴキシゲニンがコンジュゲートした検出抗体(Chemicon AQ301D)を使用して、ウサギ抗体の結合を検出した。室温でTMBと共にインキュベートした後、370nm〜492nmで吸光度を測定した。EC50値によって抗体結合の特性評価を行った。ビオチン化タウ(416-430)[pS422]及び非リン酸化タウ(416-430)ペプチドに対する抗体結合を、そのEC50値によって特性評価した。高濃度、即ち、1:5で希釈された細胞培養上清における一点測定によって、KLH又はMCAKリンペプチドの交差反応性を推定した。結果を表5に示す。リンタウペプチドに対する結合のEC50値は、タウペプチドに対する結合のEC50値の100分の1未満であることが見出され、これは、非リン酸化タウペプチドに比べてリン酸化タウ断片に対する選択性が少なくとも100位であることを示唆する。KLH及びMCAK対照リンペプチドに対する結合は、全ての抗体でバックグラウンドレベルであり、これは、タウリンペプチドの最大値測定の約1<3%である。
【0166】
【表5】

【0167】
可溶性であり、そして凝集した完全長タウpS422に対する特異性も試験した。室温で一晩、タウpS422(300μg/mL)の原線維状凝集体をポリスチレン系MaxiSorbマイクロタイタープレート(Nunc)にコーティングした。同様の方法で、MaxiSorbマイクロタイタープレートに可溶性の完全長タウ及びタウpS422をコーティングした。ウサギ抗タウpS422抗体対照(Abcam AB51071)又は精製されたウサギ抗体を添加し、そして、1000ng/mL以下の濃度で60分間インキュベートした。激しく洗浄した後、ヒツジ抗ウサギIgGジゴキシゲニンがコンジュゲートした検出抗体(Chemicon AQ301D)を使用して、ウサギ抗体の結合を検出した。室温でTMBと共にインキュベートした後、370nm〜492nmで吸光度を測定した。EC50値によって抗体結合の特性評価を行った。結果を表6に示す。
【0168】
【表6】

【0169】
ウサギモノクローナル抗体は、1ng/mL未満のEC50値でタウ−pS422タンパク質に結合した。0.4ng/mL〜14ng/mLのEC50値で原線維状タウpS422を検出した。非リン酸化の完全長タウタンパク質に対する結合のシグナルは、バックグラウンドレベルと判別不可能であった。したがって、タウと比較して、少なくとも100倍の選択性で、それぞれの抗体がタウpS422及び原線維状タウpS422に結合すると評価された。
【0170】
b)Biacore(商標)
BIAcore(商標)分析によって、原線維状タウpS422凝集体に対する結合について更に調べ、確認した。37℃でBIAcore 3000機器を使用して測定を行った。システム及びサンプルのバッファは、HBS-EP(10mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%のポリソルベート20(v/v))であった。BIAcore(商標)CM5センサチップをプレコンディショニング手順に供した。連続して、フローセルFC1、FC2、FC3及びFC4上に30秒間0.1%のSDS、50mMのNaOH、10mMのHCl及び100mMのH3PO4を注入した。アミンカップリング手順は、BIAcore 3000(商標)ウィザードv.4.1を使用して、製造業者の指示に従って行った。センサ表面をEDC/NHSで活性化した後、センサのフローセルFC2、FC3及びFC4上に非リン選択性抗タウ抗体mAb<TAU>M-4/53-IgGを固定化した。対照として、無関係の抗原を認識するCK-MM(クレアチンキナーゼアイソタイプ)に対する抗体をFC1上に捕捉した。10mMのNaAc(pH5.0)中30μg/mLになるようにmAb<TAU>M-4/53-IgG及びCK-MMに対する抗体を希釈し、10.000RUの抗体捕捉系を固定化するために、7分間の接触時間で10μL/分にて注入した。1Mエタノールアミンで飽和させることによって表面を不活化した。2分間10μL/分で溶液中のアナライトとしてリン酸化線維状タウタンパク質(原液0.3mg/mLをHBS-EPで1:100に希釈した)を用いて5サイクル、センサをコンディショニングした。3分間、30μL/分で10mMのグリシン(pH2.5)で再生を行った。mAb 4/53からのpタウ線維の解離を観察することができなかったので、mAb 4/53に対するアナライトの結合はpタウ線維を解離させないと仮定する。全ての更なる測定サイクルについては、0.3mg/mLのpタウ線維をHBS-EPバッファで1:100に希釈し、不均一なサンドイッチ法において各抗体アナライトにpタウを提示するために、1分間、10μL/分で注入した。抗体アナライトをHBS-EPバッファで100nMの濃度に希釈し、3分間20μL/分で系に注入した。3分間の解離後、100μL/分で1分間、10mMのグリシン(pH2.5)を2回注入し、次いで、100μL/分で15秒間HBSで洗浄することによってセンサ表面を再生した。相互作用の会合及び解離相をモニタした。溶液中の抗体アナライトが二価であるので、アビディティに重み付けした(avidity-burdened)抗体―pタウカイネティクスを、速やかな親和性に基づく早期解離工程と、後半の錯体解離におけるアビディティは安定化しているが、律速であるカイネティック工程からなる二相解離モデルによって特性評価した。アナライト注入が終了した10秒後(早期)及び50秒後(後期)、可能な場合kd及びt/2 dissを定量した。ダブルレファレンシング手順を使用して、カイネティクス測定値を評価した。先ず、FC1レファレンスからのシグナルを減じて、バッファの溶液効果及び非特異的結合を補正した。次に、0nMのアナライト注入を減じて、それぞれの捕捉系からの一次抗体の解離を補正した。Biacore(商標)評価ソフトウェアv.4.1に従ってラングミュア1.1解離適合モデルを使用して、反応速度を評価した。式ln(2)/60×kdに従って抗原/抗体複合体安定半減期(分)を計算した。
【0171】
結果を表7に要約する。
【0172】
【表7】

【0173】
実施例12
アルツハイマー病患者の脳切片における細胞内pタウに対する抗タウpS422モノクローナルウサギ抗体の結合
AD患者のヒト脳組織の低温切片を用いる免疫蛍光染色実験によって、モノクローナルウサギ抗タウpS422抗体によるアルツハイマー病脳組織のpタウ病変の免疫組織化学的検出の特異性及び感受性について調べた。この手順は基本的に実施例X(マウス抗体)に記載されているのと同じ手順であった。ヤギ抗ウサギAlexa Fluor488(登録商標)をコンジュゲートした二次抗体(Invitrogen/MolecularProbes A11034)によってウサギIgGを検出した。pタウ沈着物及び線維は、クローンMab005、Mab019、Mab020、Mab085、Mab086及びMab097についての特異的且つ高感度に染色されていることが明らかである。大きな神経原線維変化及び細長い糸屑状構造物のような、細胞内のpタウ沈着が顕著である。調査したクローン全てについて最小有効濃度は0.08〜0.016μg/mLであると測定され、これは、純粋なヒトpタウ沈着物に対して高感度で結合することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウオパシーの治療で使用するための、配列番号9で表されるリン酸化タウ断片及びタウpS422には特異的に結合するが、タウ及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片には結合しないことを特徴とする、セリン422がリン酸化されているタウ(タウpS422)に結合する抗体。
【請求項2】
前記抗体が、ヒトのIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプの抗体であることを特徴とする請求項1に記載の通り使用するための抗体。
【請求項3】
タウオパシーを治療する医薬を製造するための、配列番号9で表されるリン酸化タウ断片及びタウpS422には特異的に結合するが、タウ及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片には結合しないことを特徴とする、セリン422がリン酸化されているタウ(タウpS422)に結合する抗体の使用。
【請求項4】
前記抗体が、ヒトのIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプの抗体であることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
以下:
a)配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、及び配列番号8で表されるCDR3H、
b)配列番号23で表されるCDR1H、配列番号24で表されるCDR2H、及び配列番号25で表されるCDR3H、
c)配列番号31で表されるCDR1H、配列番号32で表されるCDR2H、及び配列番号33で表されるCDR3H、
d)配列番号39で表されるCDR1H、配列番号40で表されるCDR2H、及び配列番号41で表されるCDR3H、
e)配列番号47で表されるCDR1H、配列番号48で表されるCDR2H、及び配列番号49で表されるCDR3H、
f)配列番号55で表されるCDR1H、配列番号56で表されるCDR2H、及び配列番号57で表されるCDR3H、又は
g)配列番号63で表されるCDR1H、配列番号64で表されるCDR2H、及び配列番号65CDR3H
を含むことを特徴とする、セリン422がリン酸化されているタウ(タウpS422)に結合する抗体。
【請求項6】
以下:
a)配列番号6で表されるCDR1H、配列番号7で表されるCDR2H、配列番号8で表されるCDR3H、及び配列番号3で表されるCDR1L、配列番号4で表されるCDR2L、配列番号5で表されるCDR3L、
b)配列番号23で表されるCDR1H、配列番号24で表されるCDR2H、配列番号25で表されるCDR3H、及び配列番号27で表されるCDR1L、配列番号28で表されるCDR2L、配列番号29で表されるCDR3L、
c)配列番号31で表されるCDR1H、配列番号32で表されるCDR2H、配列番号33で表されるCDR3H、及び配列番号35で表されるCDR1L、配列番号36で表されるCDR2L、配列番号37で表されるCDR3L、
d)配列番号39で表されるCDR1H、配列番号40で表されるCDR2H、配列番号41で表されるCDR3H、及び配列番号43で表されるCDR1L、配列番号44で表されるCDR2L、配列番号45で表されるCDR3L、
e)配列番号47で表されるCDR1H、配列番号48で表されるCDR2H、配列番号49で表されるCDR3H、及び配列番号51で表されるCDR1L、配列番号52で表されるCDR2L、配列番号53で表されるCDR3L、
f)配列番号55で表されるCDR1H、配列番号56で表されるCDR2H、配列番号57で表されるCDR3H、及び配列番号59で表されるCDR1L、配列番号60で表されるCDR2L、配列番号61で表されるCDR3L、又は
g)配列番号63で表されるCDR1H、配列番号64で表されるCDR2H、配列番号65で表されるCDR3H、及び配列番号67で表されるCDR1L、配列番号68で表されるCDR2L、配列番号69で表されるCDR3L
を含むことを特徴とする請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
以下:
a)配列番号1で表される可変軽鎖及び配列番号2で表される可変重鎖、
b)配列番号26で表される可変軽鎖及び配列番号22で表される可変重鎖、
c)配列番号34で表される可変軽鎖及び配列番号30で表される可変重鎖、
d)配列番号42で表される可変軽鎖及び配列番号38で表される可変重鎖、
e)配列番号50で表される可変軽鎖及び配列番号46で表される可変重鎖、
f)配列番号58で表される可変軽鎖及び配列番号54で表される可変重鎖、又は
g)配列番号66で表される可変軽鎖及び配列番号62で表される可変重鎖
を含むことを特徴とする請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
ヒトのIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプの抗体であることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の抗体。
【請求項9】
請求項5から8のいずれかに記載の抗体のキメラ抗体変異体、ヒト化抗体変異体、又はT細胞エピトープ枯渇抗体変異体。
【請求項10】
タウオパシーを治療する医薬を製造するための、請求項5から9のいずれかに記載の抗体の使用。
【請求項11】
前記抗体が、ヒトのIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプの抗体であることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項5から9のいずれかに記載の抗体を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項13】
医薬組成物を製造するための、請求項5から9のいずれかに記載の抗体の使用。
【請求項14】
神経原線維型アルツハイマー病を含むアルツハイマー病(AD)、ダウン症候群(成人症例)、グアムパーキンソン認知症複合、ボクサー認知症、ピック病、嗜銀顆粒性認知症、前頭側頭型認知症、皮質基底核変性症、淡蒼球−橋−黒質変性、進行性核上性麻痺、及び神経原線維変化を伴うゲルストマン−シュトロイスラー−シャインカー病からなる群より選択されるタウオパシーを治療するための、請求項5から9のいずれかに記載の抗体の使用。
【請求項15】
請求項5から9のいずれかに記載の抗体を含むことを特徴とする医薬組成物を製造するための方法。
【請求項16】
請求項5から9のいずれかに記載の抗体の重鎖可変ドメイン及び/又は軽鎖可変ドメインをコードすることを特徴とする核酸。
【請求項17】
請求項5から9のいずれかに記載の組換えヒト抗体又は組換えヒト化抗体を生成するための方法であって、原核生物又は真核生物のホスト細胞において請求項16に記載の核酸を発現させ、前記細胞又は細胞培養上清から前記抗体を回収することを特徴とする方法。
【請求項18】
タウオパシー、特にADに罹患している患者を治療するための方法であって、請求項5から9のいずれかに記載の抗体を前記患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項19】
タウオパシーを治療する医薬を製造するための、配列番号1で表される可変軽鎖及び配列番号2で表される可変重鎖を含む抗体が結合するのと同じエピトープでセリン422がリン酸化されているタウに特異的に結合することを特徴とする抗体の使用。
【請求項20】
抗体が、ヒトのIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプの抗体であることを特徴とする請求項19に記載の使用。
【請求項21】
タウオパシーの治療に用いるための、配列番号1で表される可変軽鎖及び配列番号2で表される可変重鎖を含む抗体が結合するのと同じエピトープでセリン422がリン酸化されているタウに特異的に結合することを特徴とする抗体。
【請求項22】
ヒトのIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプの抗体であることを特徴とする請求項20に記載の使用のための抗体。
【請求項23】
配列番号9で表されるリン酸化タウ断片及びタウpS422には特異的に結合するがタウ及び配列番号17で表されるリン酸化MCAK断片には結合しない、セリン422がリン酸化されているタウ(タウpS422)に結合する抗体の治療有効量と、薬学的に許容しうる担体とを含む医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−529275(P2012−529275A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514380(P2012−514380)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003437
【国際公開番号】WO2010/142423
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】