腎症の進行度の判定方法並びに線維化抑制剤。
【課題】コラーゲン産生能を有する骨髄由来の白血球系細胞であるfibrocyteが、心臓、肺、肝臓、腎臓および皮膚といった各種臓器線維化の進展過程に関与することが明らかとなり注目されている。しかしながら、fibrocyteが各種臓器の繊維化にどのように関与しているかが不明である。
【解決手段】腎におけるfibrocyteは腎症の進展に関与することを見出したことにより、fibrocyteをマーカーとした腎症の進行度の判定方法、末梢血中のfibrocyteの濃度が膠原病性間質性肺炎と相関あることを見出したことにより、fibrocyteをマーカーとした膠原病性間質性肺炎の検査方法、並びに、プロパゲルマニウムを含む腎繊維化抑制剤を完成した。
【解決手段】腎におけるfibrocyteは腎症の進展に関与することを見出したことにより、fibrocyteをマーカーとした腎症の進行度の判定方法、末梢血中のfibrocyteの濃度が膠原病性間質性肺炎と相関あることを見出したことにより、fibrocyteをマーカーとした膠原病性間質性肺炎の検査方法、並びに、プロパゲルマニウムを含む腎繊維化抑制剤を完成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、fibrocyteをマーカーと腎症の進行度の判定方法、膠原病性間質性肺炎の検査方法、並びにプロパゲルマニウムを含む線維化抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
線維化は、病因を問わず臓器不全に至る共通進展である。したがって、臓器線維化の早期診断とその治療の確立が、臓器不全への進展阻止を考える上で重要である。
【0003】
腎臓病を例に挙げると、本邦における末期腎臓不全による慢性透析患者は28万人を超え、毎年約1万人増加し続いている。この透析患者の増加は医学的、社会的並びに医療経済上大きな問題となっており、腎線線維化制御は重要な課題である。また、腎臓病の存在が末期腎不全の危険因子であるばかりでなく、心臓病や動脈硬化といった心血管障害の危険因子となることも近年明らかとなり、この心腎連関の診断・治療法確立は緊急の問題である。
さらに、全身性強皮症や多発性筋炎/皮膚筋炎をはじめとした膠原病において、呼吸不全に至る間質性肺炎/肺線維症の合併は予後不良因子となることも知られており、その制御は重要である。
【0004】
一方で、臓器線維化に対して早期に治療することで、以降の臓器不全進展を抑制できることが、腎臓病、心血管病をはじめ明らかになってきた。しかしながら、各種臓器線維化を正確、迅速、および簡便に評価する技術はこれまで存在しなかった(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci USA 103(38):14098-14103, 2006
【非特許文献2】Biochem Biophys Res Commun 353(1):104-108, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コラーゲン産生能を有する骨髄由来の白血球系細胞であるfibrocyteが、心臓、肺、肝臓、腎臓および皮膚といった各種臓器線維化の進展過程に関与することが明らかとなり注目されている。
しかしながら、fibrocyteが各種臓器の線維化にどのように関与しているかが不明である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、fibrocyteが各種の疾患の進行に影響を与えるかどうかを検討した。
そして、本発明者らは、腎におけるfibrocyteは腎症の進展に関与することを見出し、fibrocyteをマーカーとした腎症の進行度の判定方法を完成した。
さらに、本発明者らは、末梢血中のfibrocyteの濃度が膠原病性間質性肺炎と相関あることを見出し、fibrocyteをマーカーとした膠原病性間質性肺炎の検査方法を完成した。
加えて、本発明者らは、プロパゲルマニウムを含む線維化抑制剤を完成した。
【0008】
本発明は以下からなる。
(1)腎症患者から取得した腎臓試料におけるfibrocyteの浸潤度を測定することにより、腎症の進行度を判定する方法。
(2)前記腎症は、糖尿病性腎症である前項1の方法。
(3)末梢血中のfibrocyteの濃度を測定することを特徴とする、膠原病性間質性肺炎の検査方法。
(4)プロパゲルマニウムを含む腎繊維化抑制剤。
(5)プロパゲルマニウムを含む糖尿病性腎症患者用腎線維化抑制剤。
(6)プロパゲルマニウムを含む1型糖尿病性腎症患者用腎線維化抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、腎症の進行度の判定方法、膠原病性間質性肺炎の検査方法、並びに糖尿病性腎症患者用腎線維化抑制剤を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】高糖条件下及びMCP-1存在下でのfibrocyteの挙動の確認(実施例1)
【図2】高糖刺激と高浸透圧刺激時のfibrocyteにおけるI型コラーゲン及びTGF-β1の発現機構の解明(実施例1)
【図3】fibrocyteにおけるMCP-1/CCR2の系の確認(実施例1)
【図4】腎線維化が心線維化を増悪させるかの確認(実施例2)
【図5】心線維化に腎線維化が加わった場合のfibrocyteの心への浸潤の確認(実施例2)
【図6】fibrocyteが線維化、アルブミン尿及び腎機能に関与するかの確認(実施例3)
【図7】末梢血のfibrocyteの挙動の確認(実施例4)
【図8】糖尿病性腎症におけるfibrocyteの浸潤の確認(実施例5)
【図9】糖尿病性腎症におけるfibrocyteが線維化に関与するかの確認(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(fibrocyte)
fibrocyteは、末梢血白血球中の0.1-0.5%を占め、ヒトおよびマウス血中から分離可能である。fibrocyteの特徴的マーカーとして、白血球系細胞マーカーであるCD45陽性であり、同時にI型コラーゲン陽性であることが挙げられる。
また、fibrocyteは、炎症性サイトカイン、細胞遊走を誘導するケモカイン、増殖因子等の様々なサイトカインを放出する。このことは、fibrocyteが炎症及びその後に起こる線維化の拡大に重要な役割を果たしていることを示している。
【0012】
(fibrocyteの測定方法)
fibrocyteは、自体公知の測定方法を利用することができる。
例えば、末梢血中のfibrocyte濃度を測定する場合には、抗ヒトCD45抗体及び抗ヒトI型コラーゲン抗体を用いて、フローサイトメトリー法にてCD45/I型コラーゲン二重陽性細胞数を測定する。
例えば、組織のfibrocyteの浸潤度を測定する場合には、取得した生検組織中のfibrocyteを染色して、組織中のfibrocyte染色細胞数の割合を測定する。
【0013】
(腎症の進行度を判定する方法)
本発明の腎症の進行度を判定する方法は、腎症患者から取得した腎臓試料(腎生検)におけるfibrocyteの浸潤度を測定する。
例えば、予め腎症の進行度がわかる腎臓試料(初期、中期及び末期)中のfibrocyteの浸潤度を測定して、各腎症の進行度におけるfibrocyteの浸潤度の指標を作成する。
そして、腎症患者のfibrocyteの浸潤度を、該指標と比較して、腎症の進行度を判定する。
なお、好ましくは、腎症患者は、糖尿病性腎症患者を対象とする。
【0014】
(膠原病性間質性肺炎の検査方法)
本発明の膠原病性間質性肺炎の検査方法は、患者から取得した末梢血中のfibrocyteの濃度を測定する。
例えば、患者から取得した末梢血中のfibrocyteの濃度が、健常者から取得した末梢血中のfibrocyteの濃度と比較して、約1.5〜約10倍高い場合には、膠原病性間質性肺炎である可能性が高い。
【0015】
(本発明の腎線維化抑制剤)
本発明の腎線維化抑制剤は、有効成分として、プロパゲルマニウムを含む。なお。プロパゲルマニウムは、市販品(例えば、株式会社三和化学研究所の商品名セルシオン)を利用することができる。
特に、本発明の腎線維化抑制剤は、糖尿病性腎症患者、特に1型糖尿病性腎症患者を対象としている。
【0016】
本発明の腎線維化抑制剤には、有効成分以外として、担体を含有しても良い。担体としては、乳糖、ショ糖、デキストラン類等の糖類、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系高分子性物質、アルブミン等の天然性高分子物質が例示される。
また、プロパゲルマニウムを0.001重量%〜10重量%に対して担体を0.001重量%〜60重量%を含有するように調製された組成物として使用することが好ましい。
【0017】
本発明の腎線維化抑制剤は、通常は経口製剤として用いられるが、座剤、鼻腔製剤、注射製剤等としても利用することができる。本発明の腎線維化抑制剤をヒトに投与する場合の投与量は、剤型・患者の年齢等に依存するが、一日当たり1mg〜1500mgの範囲内であり、体重50kgの成人に対する経口投与では、一日当たり60mg〜120mgが好ましい。
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
高糖条件下及びMCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)存在下でのfibrocyteの挙動を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0020】
(高糖条件下のfibrocyteにおける、I型コラーゲン及びTGF-β1の発現の確認)
1.方法
公知の方法にて正常ヒト末梢血より単核球分画を分離・培養し、fibrocyteを得た(J Hypertens 2008)。ここに、ブドウ糖濃度(5mM、15mM、または30mM)による影響、または浸透圧コントロールとしてのマニトールによるI型コラーゲンおよびTGF-β1の産生に及ぼす影響を、リアルタイムRT-PCR法にて確認した。また、時間的影響(0、12、または24時間)も同様に確認した。
【0021】
2.結果
上記確認結果を図1に示す。fibrocyteにおいて、高糖濃度刺激により濃度および時間依存的にI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現が亢進した。この発現の一部はマニトールによる浸透圧刺激によっても認められた。
【0022】
(高糖刺激と高浸透圧刺激時のfibrocyteにおけるI型コラーゲン及びTGF-β1の発現機構の解明)
1.方法
高糖刺激と高浸透圧刺激時のfibrocyteにおけるI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現に差を認めたことから、これらの分子発現における糖特異的経路の有無について確認した。
まず、培養ヒトfibrocyteにおけるグルコーストランスポータ(GLUT)の存在とそのisotypeについてRT-PCR法で確認した。次に、GLUTの阻害剤(cytochalasin B)を用いて、高糖または高浸透圧状態におけるI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現の変化をリアルタイムRT-PCR法で確認した。
【0023】
2.結果
上記確認結果を図2に示す。培養ヒトfibrocyteにはGLUT1および3のmRNAが発現することを確認した。また、cytochalasin Bを用いたGLUT阻害実験では、高糖におけるI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現は高浸透圧状態におけるレベルまで低下することを確認した。
以上により、高糖条件下でのfibrocyteによるI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現はGLUTを介していることを確認した。
【0024】
(fibrocyteにおけるMCP-1/CCR2の系の確認)
1.方法
試験管内で培養したヒトfibrocyteにおけるMCP-1/CCR2の系を検討した。
はじめに、培養ヒトfibrocyteにおけるCCR2のmRNA発現をRT-PCR法にて確認した。次に、高糖下でMCP-1を添加し、そのI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現におよぼす影響をリアルタイムRT-PCR法で確認した。同様に、CCR2阻害剤であるプロパゲルマニウム(propagermanium:PG)を用いてI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現を確認した。
【0025】
2.結果
上記確認結果を図3に示す。正常糖濃度下(5mM glucose)ではCCR2のmRNA発現は認められなかった。一方、高糖または高浸透圧状態ではCCR2のmRNA発現を確認した。ここにMCP-1を添加したところ、高糖単独に比較して、I型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現がさらに亢進したことを確認した。
さらに、プロパゲルマニウムによるCCR2阻害により、亢進したI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現は一部抑制されたことを確認した。
【0026】
以上により、高糖条件下及び/又はMCP-1存在下のfibrocyteはI型コラーゲンおよびTGF-β1の発現を亢進することを確認した。。さらに、プロパゲルマニウムは、亢進したI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現を抑制することを確認した。
【実施例2】
【0027】
腎線維化が心線維化を増悪させるか、さらに、心線維化に腎線維化が加わった場合に、fibrocyteの心への浸潤が増悪するかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0028】
(腎線維化が心線維化を増悪させるかの確認)
1.方法
8週雄性B6マウスに浸透圧ポンプを用いてアンジオテンシンII (2.8mg/kg/day)を皮下投与し、心線維化を惹起した。同時に、一側尿管結紮(UUO)を行い、腎線維化モデルを作成した。UUO施行後14日目に屠殺し、心組織を得た。さらに、心重量測定を行い、組織学的にはAzan染色による心線維化面積率をコンピューターで解析した。
【0029】
2.結果
上記確認結果を図4に示す。UUO施行により血圧は上昇した。アンジオテンシンII単独投与によりさらに血圧が上昇したが、UUOにアンジオテンシンIIを投与した群との間には差を認めなかった。心重量の確認では、アンジオテンシンII 単独投与した群に比較して、UUOにアンジオテンシンIIを投与した群で心体重比が増加した。さらに、、UUOにアンジオテンシンIIを投与した群は、アンジオテンシンII を単独投与した群と比較して、心線維化が増悪した。
【0030】
(心線維化に腎線維化が加わった場合のfibrocyteの心への浸潤の確認)
1.方法
8週雄性B6マウスに浸透圧ポンプを用いてアンジオテンシンII (2.8mg/kg/day)を皮下投与し、心線維化を惹起した。同時に、一側尿管結紮(UUO)を行い、腎線維化モデルを作成した。UUO施行後14日目に屠殺し、心組織を得た。さらに、心におけるfibrocyte浸潤を検討する目的でCD45/I型コラーゲン二重染色を行い、その数を検討した。
【0031】
2.結果
上記確認結果を図5に示す。アンジオテンシンII投与による心線維化の惹起により、心におけるCD45/I型コラーゲン二重陽性細胞数が増加した。UUOにアンジオテンシンIIを投与した群は、アンジオテンシンII を単独投与した群と比較して、CD45/I型コラーゲン二重陽性細胞数がさらに増加した。
【0032】
以上により、心線維化に腎線維化(UUO)が加わった場合に、心線維化はより増悪することを確認した。さらに、心線維化に腎線維化(UUO)が加わった場合に、fibrocyteの心への浸潤が増悪することを確認した。
【実施例3】
【0033】
fibrocyteが線維化、アルブミン尿及び腎機能に関与するかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0034】
1.方法
8週齢の雄性CCR2ノックアウトマウスおよび対照マウス(BALB/c)にストレプトゾトシンを腹腔内投与し1型糖尿病モデルマウスを作成した。対照マウスを2群に分け、PG投与群にはCCR2阻害薬であるプロパゲルマニウムを経口投与した。投与後16週目に屠殺し、血液、尿および腎組織を得た。
さらに、腎線維化をコンピュータ画像解析にて評価した。また、腎におけるfibrocyte浸潤を検討する目的でCD45およびI型コラーゲンの二重染色を行った。腎機能の評価として尿素窒素およびクレアチニン値を測定した。尿中アルブミン濃度を測定し尿中アルブミン排泄量を検討した。
【0035】
2.結果
上記確認結果を図6に示す。糖尿病腎において、CD45/I型コラーゲンの二重陽性細胞は主に腎間質において同定された。その数は対照マウスに比してCCR2ノックアウトマウスおよびPG投与マウスで減少した。また、間質線維化面積率はCCR2ノックアウトマウスおよびPG投与マウスにおいて対照マウスに比して低下し、この程度は腎におけるfibrocyte数と相関した。また、尿中アルブミン排泄量および尿素窒素およびクレアチニン値とも相関した。
【0036】
以上により、腎におけるfibrocyteは1型糖尿病における腎症の進展に関与することを確認した。これにより、腎におけるfibrocyteをマーカーとして、1型糖尿病における腎症の進行度を判定できる。
【実施例4】
【0037】
(末梢血のfibrocyteの挙動の確認)
末梢血のfibrocyteがどの組織に浸潤するかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0038】
1.方法
8週雄性NOD.CB17-Prkdcscid/Jマウスに浸透圧ポンプを用いてアンジオテンシンII (2.8mg/kg/day)を皮下投与し、心線維化を惹起した。同時に一側尿管結紮(UUO)を行い、腎線維化モデルを作成した。次に、PKH26標識ヒトfibrocyte 1×105個をマウスに尾静注した。UUO施行後14日目に屠殺し、心組織におけるPKH26陽性細胞数を確認した。
【0039】
2.結果
上記確認結果を図7に示す。UUOにアンジオテンシンIIを投与した群において、心におけるPKH26陽性細胞がみられた。
【0040】
以上により、腎障害を契機に、末梢血のfibrocyteは心に浸潤することを確認した。これにより、心内のfibrocyteを測定することにより、心線維化の進行度を判定できる。
【実施例5】
【0041】
(糖尿病性腎症におけるfibrocyteの浸潤の確認)
糖尿病性腎症におけるfibrocyteが腎組織に浸潤しているかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0042】
1.方法
8週齢の雄性CCR2ノックアウトマウスおよび対照マウス(BALB/c)にストレプトゾトシンを腹腔内投与し、1型糖尿病モデルマウスを作成した。対照マウスを2群に分け、PG投与群にはCCR2阻害薬であるプロパゲルマニウム(PG)を経口投与した。投与後16週目に屠殺し、腎組織を得た。腎におけるCCR2陽性fibrocyte浸潤を確認する目的でCCR2およびI型コラーゲンの二重染色を行った。
【0043】
2.結果
上記確認結果を図8に示す。糖尿病腎において、CCR2/I型コラーゲンの二重陽性細胞は主に腎間質において同定された。その数は対照糖尿病マウスに比してPG投与マウスで減少したことを確認した。
【0044】
以上により、1型糖尿病性腎症モデルにおいて、CCR2/I型コラーゲン2重陽性細胞は、一部CCR2を介して腎に浸潤することを確認した。さらに、プロパゲルマニウムが線維化を抑制することを確認した。
これにより、腎のCCR2/I型コラーゲン2重陽性細胞をマーカーとして、1型糖尿病における腎症の進行度を判定できる。さらに、プロパゲルマニウムを含む組成物が線維化抑制剤となる。
【実施例6】
【0045】
(糖尿病性腎症におけるfibrocyteが線維化に関与するかの確認)
糖尿病性腎症におけるfibrocyteが線維化に関与するかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0046】
1.方法
8週齢の雄性CCR2ノックアウトマウスおよび対照マウス(BALB/c)にストレプトゾトシンを腹腔内投与し1型糖尿病モデルマウスを作成した。対照マウスを2群に分け、PG投与群にはCCR2阻害薬であるプロパゲルマニウム(PG)を経口投与した。投与後16週目に屠殺し、腎組織を得た。腎におけるfibrocyte浸潤を確認する目的でCD45およびI型コラーゲンの二重染色を行った。
【0047】
2.結果
上記確認結果を図9に示す。糖尿病腎において、CD45/I型コラーゲンの二重陽性細胞は主に腎間質において同定された。その数は対照糖尿病マウスに比してCCR2ノックアウトマウスおよびPG投与マウスで減少したことを確認した。
【0048】
以上により、マウス1型糖尿病性腎症モデルにおいて、CD45/I型コラーゲン2重陽性細胞は、一部CCR2を介して腎に浸潤することを確認した。さらに、プロパゲルマニウムが線維化を抑制することを確認した。
これにより、腎のCD45/I型コラーゲン2重陽性細胞をマーカーとして、1型糖尿病における腎症の進行度を判定できる。さらに、プロパゲルマニウムを含む組成物が線維化抑制剤となる。
【実施例7】
【0049】
(膠原病性間質性肺炎患者の血中のfibrocyte濃度の確認)
膠原病性間質性肺炎患者の血中のfibrocyte濃度は、健常者の血中のfibrocyte濃度と比較した。詳細は、以下の通りである。
【0050】
1.方法
膠原病性間質性肺炎患者及び健常者より、ヘパリン入り採血管によって末梢血である試料を得た。該試料を、抗ヒトCD45抗体及び抗ヒトI型コラーゲン抗体を用いて、フローサイトメトリー法にてCD45/I型コラーゲン二重陽性細胞(fibrocyte)数を測定した。
【0051】
2.結果
上記測定結果では、膠原病性間質性肺炎患者由来の末梢血中のfibrocyteの濃度(1.53%)は、健常者の末梢血中のfibrocyteの濃度(0.32%)と比較して、約5倍となった。
【0052】
以上により、末梢血のfibrocyteの濃度を測定することにより、膠原病性間質性肺炎であるかどうかを検査することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明では、腎症の進行度の判定方法、膠原病性間質性肺炎の検査方法、並びにプロパゲルマニウムを含む糖尿病性腎症患者用腎線維化抑制剤を提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、fibrocyteをマーカーと腎症の進行度の判定方法、膠原病性間質性肺炎の検査方法、並びにプロパゲルマニウムを含む線維化抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
線維化は、病因を問わず臓器不全に至る共通進展である。したがって、臓器線維化の早期診断とその治療の確立が、臓器不全への進展阻止を考える上で重要である。
【0003】
腎臓病を例に挙げると、本邦における末期腎臓不全による慢性透析患者は28万人を超え、毎年約1万人増加し続いている。この透析患者の増加は医学的、社会的並びに医療経済上大きな問題となっており、腎線線維化制御は重要な課題である。また、腎臓病の存在が末期腎不全の危険因子であるばかりでなく、心臓病や動脈硬化といった心血管障害の危険因子となることも近年明らかとなり、この心腎連関の診断・治療法確立は緊急の問題である。
さらに、全身性強皮症や多発性筋炎/皮膚筋炎をはじめとした膠原病において、呼吸不全に至る間質性肺炎/肺線維症の合併は予後不良因子となることも知られており、その制御は重要である。
【0004】
一方で、臓器線維化に対して早期に治療することで、以降の臓器不全進展を抑制できることが、腎臓病、心血管病をはじめ明らかになってきた。しかしながら、各種臓器線維化を正確、迅速、および簡便に評価する技術はこれまで存在しなかった(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci USA 103(38):14098-14103, 2006
【非特許文献2】Biochem Biophys Res Commun 353(1):104-108, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コラーゲン産生能を有する骨髄由来の白血球系細胞であるfibrocyteが、心臓、肺、肝臓、腎臓および皮膚といった各種臓器線維化の進展過程に関与することが明らかとなり注目されている。
しかしながら、fibrocyteが各種臓器の線維化にどのように関与しているかが不明である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、fibrocyteが各種の疾患の進行に影響を与えるかどうかを検討した。
そして、本発明者らは、腎におけるfibrocyteは腎症の進展に関与することを見出し、fibrocyteをマーカーとした腎症の進行度の判定方法を完成した。
さらに、本発明者らは、末梢血中のfibrocyteの濃度が膠原病性間質性肺炎と相関あることを見出し、fibrocyteをマーカーとした膠原病性間質性肺炎の検査方法を完成した。
加えて、本発明者らは、プロパゲルマニウムを含む線維化抑制剤を完成した。
【0008】
本発明は以下からなる。
(1)腎症患者から取得した腎臓試料におけるfibrocyteの浸潤度を測定することにより、腎症の進行度を判定する方法。
(2)前記腎症は、糖尿病性腎症である前項1の方法。
(3)末梢血中のfibrocyteの濃度を測定することを特徴とする、膠原病性間質性肺炎の検査方法。
(4)プロパゲルマニウムを含む腎繊維化抑制剤。
(5)プロパゲルマニウムを含む糖尿病性腎症患者用腎線維化抑制剤。
(6)プロパゲルマニウムを含む1型糖尿病性腎症患者用腎線維化抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、腎症の進行度の判定方法、膠原病性間質性肺炎の検査方法、並びに糖尿病性腎症患者用腎線維化抑制剤を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】高糖条件下及びMCP-1存在下でのfibrocyteの挙動の確認(実施例1)
【図2】高糖刺激と高浸透圧刺激時のfibrocyteにおけるI型コラーゲン及びTGF-β1の発現機構の解明(実施例1)
【図3】fibrocyteにおけるMCP-1/CCR2の系の確認(実施例1)
【図4】腎線維化が心線維化を増悪させるかの確認(実施例2)
【図5】心線維化に腎線維化が加わった場合のfibrocyteの心への浸潤の確認(実施例2)
【図6】fibrocyteが線維化、アルブミン尿及び腎機能に関与するかの確認(実施例3)
【図7】末梢血のfibrocyteの挙動の確認(実施例4)
【図8】糖尿病性腎症におけるfibrocyteの浸潤の確認(実施例5)
【図9】糖尿病性腎症におけるfibrocyteが線維化に関与するかの確認(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(fibrocyte)
fibrocyteは、末梢血白血球中の0.1-0.5%を占め、ヒトおよびマウス血中から分離可能である。fibrocyteの特徴的マーカーとして、白血球系細胞マーカーであるCD45陽性であり、同時にI型コラーゲン陽性であることが挙げられる。
また、fibrocyteは、炎症性サイトカイン、細胞遊走を誘導するケモカイン、増殖因子等の様々なサイトカインを放出する。このことは、fibrocyteが炎症及びその後に起こる線維化の拡大に重要な役割を果たしていることを示している。
【0012】
(fibrocyteの測定方法)
fibrocyteは、自体公知の測定方法を利用することができる。
例えば、末梢血中のfibrocyte濃度を測定する場合には、抗ヒトCD45抗体及び抗ヒトI型コラーゲン抗体を用いて、フローサイトメトリー法にてCD45/I型コラーゲン二重陽性細胞数を測定する。
例えば、組織のfibrocyteの浸潤度を測定する場合には、取得した生検組織中のfibrocyteを染色して、組織中のfibrocyte染色細胞数の割合を測定する。
【0013】
(腎症の進行度を判定する方法)
本発明の腎症の進行度を判定する方法は、腎症患者から取得した腎臓試料(腎生検)におけるfibrocyteの浸潤度を測定する。
例えば、予め腎症の進行度がわかる腎臓試料(初期、中期及び末期)中のfibrocyteの浸潤度を測定して、各腎症の進行度におけるfibrocyteの浸潤度の指標を作成する。
そして、腎症患者のfibrocyteの浸潤度を、該指標と比較して、腎症の進行度を判定する。
なお、好ましくは、腎症患者は、糖尿病性腎症患者を対象とする。
【0014】
(膠原病性間質性肺炎の検査方法)
本発明の膠原病性間質性肺炎の検査方法は、患者から取得した末梢血中のfibrocyteの濃度を測定する。
例えば、患者から取得した末梢血中のfibrocyteの濃度が、健常者から取得した末梢血中のfibrocyteの濃度と比較して、約1.5〜約10倍高い場合には、膠原病性間質性肺炎である可能性が高い。
【0015】
(本発明の腎線維化抑制剤)
本発明の腎線維化抑制剤は、有効成分として、プロパゲルマニウムを含む。なお。プロパゲルマニウムは、市販品(例えば、株式会社三和化学研究所の商品名セルシオン)を利用することができる。
特に、本発明の腎線維化抑制剤は、糖尿病性腎症患者、特に1型糖尿病性腎症患者を対象としている。
【0016】
本発明の腎線維化抑制剤には、有効成分以外として、担体を含有しても良い。担体としては、乳糖、ショ糖、デキストラン類等の糖類、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系高分子性物質、アルブミン等の天然性高分子物質が例示される。
また、プロパゲルマニウムを0.001重量%〜10重量%に対して担体を0.001重量%〜60重量%を含有するように調製された組成物として使用することが好ましい。
【0017】
本発明の腎線維化抑制剤は、通常は経口製剤として用いられるが、座剤、鼻腔製剤、注射製剤等としても利用することができる。本発明の腎線維化抑制剤をヒトに投与する場合の投与量は、剤型・患者の年齢等に依存するが、一日当たり1mg〜1500mgの範囲内であり、体重50kgの成人に対する経口投与では、一日当たり60mg〜120mgが好ましい。
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
高糖条件下及びMCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)存在下でのfibrocyteの挙動を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0020】
(高糖条件下のfibrocyteにおける、I型コラーゲン及びTGF-β1の発現の確認)
1.方法
公知の方法にて正常ヒト末梢血より単核球分画を分離・培養し、fibrocyteを得た(J Hypertens 2008)。ここに、ブドウ糖濃度(5mM、15mM、または30mM)による影響、または浸透圧コントロールとしてのマニトールによるI型コラーゲンおよびTGF-β1の産生に及ぼす影響を、リアルタイムRT-PCR法にて確認した。また、時間的影響(0、12、または24時間)も同様に確認した。
【0021】
2.結果
上記確認結果を図1に示す。fibrocyteにおいて、高糖濃度刺激により濃度および時間依存的にI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現が亢進した。この発現の一部はマニトールによる浸透圧刺激によっても認められた。
【0022】
(高糖刺激と高浸透圧刺激時のfibrocyteにおけるI型コラーゲン及びTGF-β1の発現機構の解明)
1.方法
高糖刺激と高浸透圧刺激時のfibrocyteにおけるI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現に差を認めたことから、これらの分子発現における糖特異的経路の有無について確認した。
まず、培養ヒトfibrocyteにおけるグルコーストランスポータ(GLUT)の存在とそのisotypeについてRT-PCR法で確認した。次に、GLUTの阻害剤(cytochalasin B)を用いて、高糖または高浸透圧状態におけるI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現の変化をリアルタイムRT-PCR法で確認した。
【0023】
2.結果
上記確認結果を図2に示す。培養ヒトfibrocyteにはGLUT1および3のmRNAが発現することを確認した。また、cytochalasin Bを用いたGLUT阻害実験では、高糖におけるI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現は高浸透圧状態におけるレベルまで低下することを確認した。
以上により、高糖条件下でのfibrocyteによるI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現はGLUTを介していることを確認した。
【0024】
(fibrocyteにおけるMCP-1/CCR2の系の確認)
1.方法
試験管内で培養したヒトfibrocyteにおけるMCP-1/CCR2の系を検討した。
はじめに、培養ヒトfibrocyteにおけるCCR2のmRNA発現をRT-PCR法にて確認した。次に、高糖下でMCP-1を添加し、そのI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現におよぼす影響をリアルタイムRT-PCR法で確認した。同様に、CCR2阻害剤であるプロパゲルマニウム(propagermanium:PG)を用いてI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現を確認した。
【0025】
2.結果
上記確認結果を図3に示す。正常糖濃度下(5mM glucose)ではCCR2のmRNA発現は認められなかった。一方、高糖または高浸透圧状態ではCCR2のmRNA発現を確認した。ここにMCP-1を添加したところ、高糖単独に比較して、I型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現がさらに亢進したことを確認した。
さらに、プロパゲルマニウムによるCCR2阻害により、亢進したI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現は一部抑制されたことを確認した。
【0026】
以上により、高糖条件下及び/又はMCP-1存在下のfibrocyteはI型コラーゲンおよびTGF-β1の発現を亢進することを確認した。。さらに、プロパゲルマニウムは、亢進したI型コラーゲンおよびTGF-β1のmRNA発現を抑制することを確認した。
【実施例2】
【0027】
腎線維化が心線維化を増悪させるか、さらに、心線維化に腎線維化が加わった場合に、fibrocyteの心への浸潤が増悪するかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0028】
(腎線維化が心線維化を増悪させるかの確認)
1.方法
8週雄性B6マウスに浸透圧ポンプを用いてアンジオテンシンII (2.8mg/kg/day)を皮下投与し、心線維化を惹起した。同時に、一側尿管結紮(UUO)を行い、腎線維化モデルを作成した。UUO施行後14日目に屠殺し、心組織を得た。さらに、心重量測定を行い、組織学的にはAzan染色による心線維化面積率をコンピューターで解析した。
【0029】
2.結果
上記確認結果を図4に示す。UUO施行により血圧は上昇した。アンジオテンシンII単独投与によりさらに血圧が上昇したが、UUOにアンジオテンシンIIを投与した群との間には差を認めなかった。心重量の確認では、アンジオテンシンII 単独投与した群に比較して、UUOにアンジオテンシンIIを投与した群で心体重比が増加した。さらに、、UUOにアンジオテンシンIIを投与した群は、アンジオテンシンII を単独投与した群と比較して、心線維化が増悪した。
【0030】
(心線維化に腎線維化が加わった場合のfibrocyteの心への浸潤の確認)
1.方法
8週雄性B6マウスに浸透圧ポンプを用いてアンジオテンシンII (2.8mg/kg/day)を皮下投与し、心線維化を惹起した。同時に、一側尿管結紮(UUO)を行い、腎線維化モデルを作成した。UUO施行後14日目に屠殺し、心組織を得た。さらに、心におけるfibrocyte浸潤を検討する目的でCD45/I型コラーゲン二重染色を行い、その数を検討した。
【0031】
2.結果
上記確認結果を図5に示す。アンジオテンシンII投与による心線維化の惹起により、心におけるCD45/I型コラーゲン二重陽性細胞数が増加した。UUOにアンジオテンシンIIを投与した群は、アンジオテンシンII を単独投与した群と比較して、CD45/I型コラーゲン二重陽性細胞数がさらに増加した。
【0032】
以上により、心線維化に腎線維化(UUO)が加わった場合に、心線維化はより増悪することを確認した。さらに、心線維化に腎線維化(UUO)が加わった場合に、fibrocyteの心への浸潤が増悪することを確認した。
【実施例3】
【0033】
fibrocyteが線維化、アルブミン尿及び腎機能に関与するかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0034】
1.方法
8週齢の雄性CCR2ノックアウトマウスおよび対照マウス(BALB/c)にストレプトゾトシンを腹腔内投与し1型糖尿病モデルマウスを作成した。対照マウスを2群に分け、PG投与群にはCCR2阻害薬であるプロパゲルマニウムを経口投与した。投与後16週目に屠殺し、血液、尿および腎組織を得た。
さらに、腎線維化をコンピュータ画像解析にて評価した。また、腎におけるfibrocyte浸潤を検討する目的でCD45およびI型コラーゲンの二重染色を行った。腎機能の評価として尿素窒素およびクレアチニン値を測定した。尿中アルブミン濃度を測定し尿中アルブミン排泄量を検討した。
【0035】
2.結果
上記確認結果を図6に示す。糖尿病腎において、CD45/I型コラーゲンの二重陽性細胞は主に腎間質において同定された。その数は対照マウスに比してCCR2ノックアウトマウスおよびPG投与マウスで減少した。また、間質線維化面積率はCCR2ノックアウトマウスおよびPG投与マウスにおいて対照マウスに比して低下し、この程度は腎におけるfibrocyte数と相関した。また、尿中アルブミン排泄量および尿素窒素およびクレアチニン値とも相関した。
【0036】
以上により、腎におけるfibrocyteは1型糖尿病における腎症の進展に関与することを確認した。これにより、腎におけるfibrocyteをマーカーとして、1型糖尿病における腎症の進行度を判定できる。
【実施例4】
【0037】
(末梢血のfibrocyteの挙動の確認)
末梢血のfibrocyteがどの組織に浸潤するかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0038】
1.方法
8週雄性NOD.CB17-Prkdcscid/Jマウスに浸透圧ポンプを用いてアンジオテンシンII (2.8mg/kg/day)を皮下投与し、心線維化を惹起した。同時に一側尿管結紮(UUO)を行い、腎線維化モデルを作成した。次に、PKH26標識ヒトfibrocyte 1×105個をマウスに尾静注した。UUO施行後14日目に屠殺し、心組織におけるPKH26陽性細胞数を確認した。
【0039】
2.結果
上記確認結果を図7に示す。UUOにアンジオテンシンIIを投与した群において、心におけるPKH26陽性細胞がみられた。
【0040】
以上により、腎障害を契機に、末梢血のfibrocyteは心に浸潤することを確認した。これにより、心内のfibrocyteを測定することにより、心線維化の進行度を判定できる。
【実施例5】
【0041】
(糖尿病性腎症におけるfibrocyteの浸潤の確認)
糖尿病性腎症におけるfibrocyteが腎組織に浸潤しているかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0042】
1.方法
8週齢の雄性CCR2ノックアウトマウスおよび対照マウス(BALB/c)にストレプトゾトシンを腹腔内投与し、1型糖尿病モデルマウスを作成した。対照マウスを2群に分け、PG投与群にはCCR2阻害薬であるプロパゲルマニウム(PG)を経口投与した。投与後16週目に屠殺し、腎組織を得た。腎におけるCCR2陽性fibrocyte浸潤を確認する目的でCCR2およびI型コラーゲンの二重染色を行った。
【0043】
2.結果
上記確認結果を図8に示す。糖尿病腎において、CCR2/I型コラーゲンの二重陽性細胞は主に腎間質において同定された。その数は対照糖尿病マウスに比してPG投与マウスで減少したことを確認した。
【0044】
以上により、1型糖尿病性腎症モデルにおいて、CCR2/I型コラーゲン2重陽性細胞は、一部CCR2を介して腎に浸潤することを確認した。さらに、プロパゲルマニウムが線維化を抑制することを確認した。
これにより、腎のCCR2/I型コラーゲン2重陽性細胞をマーカーとして、1型糖尿病における腎症の進行度を判定できる。さらに、プロパゲルマニウムを含む組成物が線維化抑制剤となる。
【実施例6】
【0045】
(糖尿病性腎症におけるfibrocyteが線維化に関与するかの確認)
糖尿病性腎症におけるfibrocyteが線維化に関与するかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0046】
1.方法
8週齢の雄性CCR2ノックアウトマウスおよび対照マウス(BALB/c)にストレプトゾトシンを腹腔内投与し1型糖尿病モデルマウスを作成した。対照マウスを2群に分け、PG投与群にはCCR2阻害薬であるプロパゲルマニウム(PG)を経口投与した。投与後16週目に屠殺し、腎組織を得た。腎におけるfibrocyte浸潤を確認する目的でCD45およびI型コラーゲンの二重染色を行った。
【0047】
2.結果
上記確認結果を図9に示す。糖尿病腎において、CD45/I型コラーゲンの二重陽性細胞は主に腎間質において同定された。その数は対照糖尿病マウスに比してCCR2ノックアウトマウスおよびPG投与マウスで減少したことを確認した。
【0048】
以上により、マウス1型糖尿病性腎症モデルにおいて、CD45/I型コラーゲン2重陽性細胞は、一部CCR2を介して腎に浸潤することを確認した。さらに、プロパゲルマニウムが線維化を抑制することを確認した。
これにより、腎のCD45/I型コラーゲン2重陽性細胞をマーカーとして、1型糖尿病における腎症の進行度を判定できる。さらに、プロパゲルマニウムを含む組成物が線維化抑制剤となる。
【実施例7】
【0049】
(膠原病性間質性肺炎患者の血中のfibrocyte濃度の確認)
膠原病性間質性肺炎患者の血中のfibrocyte濃度は、健常者の血中のfibrocyte濃度と比較した。詳細は、以下の通りである。
【0050】
1.方法
膠原病性間質性肺炎患者及び健常者より、ヘパリン入り採血管によって末梢血である試料を得た。該試料を、抗ヒトCD45抗体及び抗ヒトI型コラーゲン抗体を用いて、フローサイトメトリー法にてCD45/I型コラーゲン二重陽性細胞(fibrocyte)数を測定した。
【0051】
2.結果
上記測定結果では、膠原病性間質性肺炎患者由来の末梢血中のfibrocyteの濃度(1.53%)は、健常者の末梢血中のfibrocyteの濃度(0.32%)と比較して、約5倍となった。
【0052】
以上により、末梢血のfibrocyteの濃度を測定することにより、膠原病性間質性肺炎であるかどうかを検査することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明では、腎症の進行度の判定方法、膠原病性間質性肺炎の検査方法、並びにプロパゲルマニウムを含む糖尿病性腎症患者用腎線維化抑制剤を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎症患者から取得した腎臓試料におけるfibrocyteの浸潤度を測定することにより、腎症の進行度を判定する方法。
【請求項2】
前記腎症は、糖尿病性腎症である請求項1の方法。
【請求項3】
末梢血中のfibrocyteの濃度を測定することを特徴とする、膠原病性間質性肺炎の検査方法。
【請求項4】
プロパゲルマニウムを含む腎繊維化抑制剤。
【請求項5】
プロパゲルマニウムを含む糖尿病性腎症患者用腎繊維化抑制剤。
【請求項6】
プロパゲルマニウムを含む1型糖尿病性腎症患者用腎繊維化抑制剤。
【請求項1】
腎症患者から取得した腎臓試料におけるfibrocyteの浸潤度を測定することにより、腎症の進行度を判定する方法。
【請求項2】
前記腎症は、糖尿病性腎症である請求項1の方法。
【請求項3】
末梢血中のfibrocyteの濃度を測定することを特徴とする、膠原病性間質性肺炎の検査方法。
【請求項4】
プロパゲルマニウムを含む腎繊維化抑制剤。
【請求項5】
プロパゲルマニウムを含む糖尿病性腎症患者用腎繊維化抑制剤。
【請求項6】
プロパゲルマニウムを含む1型糖尿病性腎症患者用腎繊維化抑制剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−127879(P2012−127879A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281080(P2010−281080)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名等〕 社団法人日本腎臓学会 第53回日本腎臓学会学術総会 〔主催者名〕 第53回日本腎臓学会学術総会 総会長 槇野 博史 〔開催日〕 平成22年6月17日
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名等〕 社団法人日本腎臓学会 第53回日本腎臓学会学術総会 〔主催者名〕 第53回日本腎臓学会学術総会 総会長 槇野 博史 〔開催日〕 平成22年6月17日
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】
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