説明

腐食の推定方法及び装置

【課題】 現在の減肉深さ、腐食検討対象物周りに存する媒質の比抵抗、さらに余寿命を合理的な基準に基づいて推定し、産業資源を有効に利用できる技術を提供する。
【解決手段】 土壌等の媒質中に配設され、腐食検討対象物である埋設管のアノード部とコンクリート建物内の鉄筋であるカソード部との間に形成されるマクロセルにより発生する腐食を推定するに、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、現在の減肉深さrと媒質の比抵抗ρとを求め、求められた現在の減肉深さrと前記媒質の比抵抗ρとに基づいて、腐食検討対象物の余寿命T−tを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の腐食の推定にあっては、被覆損傷状態をその面積の推定によりおこなっているのみであった。このような被覆損傷の面積を推定する場合、土壌中に埋設された埋設管にあっては、その接地抵抗を測定し、この接地抵抗から経験式に基づいて、被覆損傷面積を求め、腐食の問題があるか否かが判断している。
例えば、この種の被覆損傷の面積Sの推定にあたっては、土壌の比抵抗をρ、接地抵抗をRsとして、S=K(ρ/Rs)として求めることができる。
この技術は、従来、慣用的に行われてきた技術であり、特に文献を示すことができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来技術では、被覆損傷面積Sを求めることが過ぎず、現場にある埋設管の具体的な減肉量や余寿命を推定することができず、従来、真に問題となる腐食状況より、かなり安全側で腐食管理を行っているのが実情である。
さらに、埋設管周りにある土壌等の比抵抗に関しては、別途測定したり、経験値を使用することとされており、実際に腐食が発生している部位の媒質(例えば土壌)の比抵抗を合理的に求めることはできなかった。
結果、この種の埋設管の管理を合理的な基準に基づいて行っているとは言えず、産業資源の管理上、無駄があった。
【0004】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、現在の減肉深さ、腐食検討対象物周りに存する媒質の比抵抗、さらに余寿命を合理的な基準に基づいて推定することができ、産業資源を有効に利用できる技術を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、腐食検討対象物の減肉深さ、腐食検討対象物周りに存する媒質の比抵抗、腐食検討対象物の余寿命を合理的に推定する技術に関するが、その共通原理は、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、その仮定の下に推定を実行することにある。
ここで、本願にいう回転楕円は球を含む概念であり、平面状の腐食検討対象物の表面から回転楕円を半割りにした状態(図4(a)に例示的に短軸に対して長軸が2倍であることを示す)で、腐食が、腐食始点から深さ方向及びその周部に進行するものとする。
従って、この状態の腐食は、図4(a)の紙面表裏方向及び深さ方向が短軸となり、図4(b)の紙面に沿った横方向が長軸となる半割り状の回転楕円となる。
【0006】
このように比較的解析が容易な具体的形状を仮定することで、合理的な解析が可能となるとともに、下記するように、腐食検討対象物が媒質中に配設された配設期間と、アノード部とカソード部との間に発生している電位差とアノード部と媒質との間の抵抗とに基づいて、前記腐食の減肉深さ、腐食検討対象物周りに存する媒質の比抵抗、腐食検討対象物の余寿命を合理的に推定することが可能となる。
また、発明者による検討では、本願方法を採用して現場の状態を良好に代表できる。
以下、順に説明する。
【0007】
1 腐食検討対象物の減肉深さ
ここで、減肉深さとは、現状で腐食検討対象物に単一の腐食が発生しているとした場合の、その現在の減肉深さをいう。
そして、媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定方法にあっては、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づいて、前記腐食の減肉深さrを推定するものとする。
【0008】
上記のように、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、この状態で減肉が進行するものとすると、減肉深さrは、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsに基づいた一定の関係を満たす。
そこで、腐食検討対象物に関する配設期間t、電位差ΔE及び抵抗Rsを求めることにより、減肉深さの推定を合理的に行うことができる。
【0009】
さらに具体的には、Aを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求めることができる。
【0010】
この手法に基づいて減肉深さを求める装置としては、
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定装置を、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づき、Aを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求める減肉深さ導出手段を備えて構成することができる。
【0011】
2 媒質の比抵抗の推定
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定を行うには、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づいて、前記媒質の比抵抗ρを求める。
【0012】
上記のように、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、この状態で減肉が進行するものとすると、減肉深さrは、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsに基づいた一定の関係を満たす。
さらに、この状態において、媒質の比抵抗は、一定環境下に配設期間tだけ配設されて、腐食が進んだと見なすことができるため、判明する減肉深さrとの関係から、これを推定することができる。
そこで、腐食検討対象物に関する配設期間t、電位差ΔE及び抵抗Rsを求めることにより、媒質の比抵抗の推定を合理的に行うことができる。
【0013】
具体的には、a及びAを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求め、
kを媒質の比抵抗ρに関する定数として、
前記媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r)として求めることができる。
【0014】
この方法を使用する、媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定装置は、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間と、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づき、a及びAを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求める減肉深さ導出手段を備えるとともに、
kを媒質の比抵抗ρに関する定数として、
前記媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r)として求める比抵抗導出手段を備える腐食の推定装置とできる。
【0015】
3 腐食検討対象物の余寿命
これまで説明してきた腐食の推定方法により、腐食検討対象物の現在の減肉深さと、その周部に存在する媒質の比抵抗を求めることができる。
さらに、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なすことにより、その減肉の時間的な変化が決まる。
そこで、腐食検討対象物の余寿命を求めることも可能となる。
ここで、余寿命とは、減肉深さが腐食検討対象物の肉厚(元の肉厚)に到達するに要する、現在からの時間を言い、この状態で腐食が貫通することを意味する。
【0016】
そこで、本願にあっては、媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定するに当たって、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、現在の減肉深さrと前記媒質の比抵抗ρとを求め、
求められた現在の減肉深さrと前記媒質の比抵抗ρとに基づいて、
前記腐食検討対象物の余寿命T−tを求める。
即ち、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なすことにより、減肉深さ及び媒質の比抵抗の関するとして、腐食検討対象物の余寿命を関数として求めることが可能となり、結果的に具体的に余寿命を得ることができる。
【0017】
また、媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定方法としては、
これまで説明してきた方法に従って、前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rs、及び前記腐食検討対象物の肉厚Rに基づいて、減肉深さと媒質の比抵抗を求めるとともに、これらとの関係で、前記腐食検討対象物の余寿命T−tを求めることもできる。
【0018】
具体的には、a及びAを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求め、
kを媒質の比抵抗ρに関する定数として、
前記媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r)として求め、
さらに、前記腐食検討対象物の余寿命T−tを、
{A×π×k×ρ×(R−r)}/(K×ΔE×a)として求めるのである。
このようにすることで、現場での測定値を参考にして、腐食検討対象物の余寿命を得ることができる。
【0019】
この方法を使用する、媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定装置としては、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づき、a及びAを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求める減肉深さ導出手段を備えるとともに、
kを媒質の比抵抗ρに関する定数として、
前記媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r)として求める比抵抗導出手段を備え、
前記腐食検討対象物の肉厚をRとして、
前記腐食検討対象物の余寿命T−tを、
{A×π×k×ρ×(R−r)}/(K×ΔE×a)として求める余寿命導出手段を備えた構成とできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態について、以下、A:腐食の推定装置、B:腐食の推定方法、C:本願手法の導出過程の順に、図面に基づいて説明する。
【0021】
A:腐食の推定装置
図1は、本願に係る腐食の推定装置1のシステム構成を示す図であり、この推定装置1は、入力に従って、所定の演算処理を実行し、演算結果を出力するコンピュータによって構成されている。
コンピュータは、良く知られているように、作業者が入力操作を行うキーボード等の入力部1aと、演算結果を出力するためのディスプレイ、プリンター等の出力部1bとを備えて構成されるとともに、演算部1cにおける演算に必要な係数、定数、近似式を記憶した記憶部1dと、入力部1aから入力される入力情報に従って、記憶部1dに記憶された記憶情報を使用して、所定の演算式に従って出力情報を得る演算部1cを備えて構成されており、この演算部1cに備えられる導出手段2で導出された結果が、前記出力部1bより出力される構成が採用されている。
【0022】
前記演算部1cは、演算処理を実行するハードウェアと所定の演算を実行するように構成されたソフトウェアとの協働により、一定の入力から一定の出力を得ることができる導出手段2が構築されている。ここで、本願に係る腐食の推定装置1にあっては、図1に示すように、減肉深さ導出手段2a、比抵抗導出手段2b、余寿命導出手段2cの3種の導出手段2が備えられている。以下、それぞれの手段2a,2b,2cに関して説明する。
【0023】
1 減肉深さ導出手段2a
この手段2aは、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なして、その減肉深さrを求める手段である。
この手段2aにあっては、入力されてくる腐食検討対象物が媒質中に配設された配設期間tと、別途測定されるアノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、アノード部と媒質との間の抵抗Rsとに基づき、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として、現在の減肉深さを求める。
【0024】
図1にあっては、下記数1として示している。
【数1】

【0025】
ここで、Aは、記憶部1dに記憶されている形状係数であり、腐食を回転楕円と見なした場合に決定される形状係数である。さらに、Kも記憶部1dに記憶されている係数であり、電流から腐食速度への換算係数である。
【0026】
2 比抵抗導出手段2b
この手段2bは、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なして、腐食検討対象物の周部にある媒質の比抵抗を求める手段である。
この手段2bにあっては、図1に示すように、減肉深さ導出手段2aにより導出される現在の減肉深さrが使用される。一方、記憶部1dには、媒質の比抵抗ρに関する定数kが記憶されており、この定数kを使用する。
【0027】
比抵抗導出手段2bは、媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r)とする。図1にあっては、下記数2として示している。
【0028】
【数2】

【0029】
3 余寿命導出手段2c
この手段2cは、腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なして、腐食検討対象物の余寿命を求める手段である。
この余寿命導出手段2cでは、前記減肉深さ導出手段2aにより導出される減肉深さrと、前記比抵抗導出手段2bにより導出される媒質の比抵抗ρが使用されるとともに、別途、入力される腐食検討対象物の肉厚Rが使用される。
この余寿命導出手段2cでは、腐食検討対象物の余寿命T−tを、{A×π×k×ρ×(R−r)}/(K×ΔE×a)として求める。図1にあっては、以下の数3として示している。
【0030】
【数3】

【0031】
従って、この装置1では、図1に示すように、配設期間t、腐食検討対象物の肉厚R、電位差ΔE、抵抗Rsと推定に使用する回転楕円の種別を入力として、腐食検討対象物の減肉深さr、媒質の比抵抗ρ、及び余寿命T−tを出力として得ることができる。
【0032】
B:腐食の推定方法
以下、図2、3、4に基づいて、この腐食の推定装置1を使用して腐食の状況を推定する手順に関して説明する。
この例にあっては、具体的な腐食推定の対象である土壌3(本願にいう媒質となる)中に埋設された絶縁性塗覆層4を有する埋設管5(本願にいう腐食検討対象物となる)であって、塗覆層4に欠陥が発生し、埋設管5の一部が土壌3に直接接触して腐食を発生している場合に関して説明する。この例の場合、埋設管5の一端が鉄筋コンクリートの建物6内で、その鉄筋7に電気的に導通しており、鉄筋7−埋設管5−埋設管の土壌3に接触する部位に発生した腐食部8−土壌3−コンクリート9−鉄筋7を介するマクロセルMCが形成されることとなる。従って、埋設管の土壌3に接触する部位に発生した腐食部8の近傍の埋設管部位が本願にいうアノード部となり、鉄筋7がカソード部となる。
【0033】
図3には、このようなマクロセルMCの形成状況が示されており、図3(a)及び(b)に、これまで説明してきた抵抗である接地抵抗を従来方式あるいはクランプ接地抵抗計10を使用して測定する状況を示している。
このマクロセルMCを対象とする場合、これまで説明してきた腐食検討対象物が媒質中に配設された配設期間tは埋設期間であり、アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEは図3(a)に示すように、土壌3に電極11bを設置して、埋設管5との電位差V0を測定することで得ることができる。このとき、交流電流源14から電流を流すことはない。
【0034】
一方、アノード部と媒質との間の抵抗は、図3(a)に示す接地抵抗測定用のシステムC1において、電流計11により測定される電流量A0と電圧計13により測定される電位差V0との関係から求めることが可能である。このシステムC1では、電極11a,11bに対して、交流電流源14が設けられ、電極11aとコンクリート9、鉄筋7、埋設管5、電流計12を介する電流測定回路15を流れる電流量A0を測定するとともに、土壌3と埋設管5間との電位差V0を電圧測定回路16で測定することにより、接地抵抗Rs=V0/A0を得ることができる。
【0035】
一方、図3(b)に示すように、クランプ式の接地抵抗計10を使用したシステムC2にて求めることも可能である。このクランプ式の接地抵抗計10にあっては、一方のクランプ10aでマクロセルMC内に一定電圧の交流電流を流し、他方のクランプ10bでマクロセルMC内に発生する電流を測定することで、マクロセルの抵抗(実際は埋設管5と土壌3との間の接地抵抗Rsにより代表される値となり、この値を使用できる)を得ることができる。
【0036】
図2に戻って、本願の腐食の推定工程は、現場作業において実測値を得る工程と、得られた実測値に基づいて、これを本願独特の腐食の推定装置1に入力して、所定の出力を得る工程から成立している。無論、これらを所定のシーケンスに従って順次、一装置で行なうものとすることもできる。
【0037】
1 現場作業
この現場作業にあっては、埋設管5の埋設年数tと肉厚Rの確認を行う(ステップ1)とともに、現場にて、図3(a)に示す電流計12及び電圧計13を有するシステムC1単独若しくは図3(b)に示すシステムC2を併用して、電位差ΔE、接地抵抗Rsを測定する(ステップ2)。引き続いて、推定に採用する回転楕円の特定を実行する(ステップ3)。この回転楕円は、図4(a)に示すように、減肉深さrに対して、その長軸径がa・rの関係にある回転楕円であることを示している。この回転楕円にあっては、aを1とすると球と意味しており、aを2とすると、長軸と短軸の関係比が2の回転楕円となる。aを1とするとA=0.5であり、aを2とすると、A=2.33である。
aの値は、任意に設定可能であるが、通常、発明者はaを2に設定している。
【0038】
2 腐食の推定装置による解析
上記のようにして得られた情報が、再度図2に戻って、本願に係る腐食の推定装置1に入力される。
この装置1の演算部1cにそれぞれ備えられる導出手段2a、2b、2cの構成は、先に説明したところであり、減肉深さ導出手段2aからは現在の減肉深さrが、比抵抗導出手段2bからは埋設管5周りの土壌3の比抵抗ρが導出される。
さらに、これらの導出手段2a,2bからの導出結果を使用して、余寿命導出手段2cにより埋設管の余寿命T−tが導出される。このようにして導出された結果は、出力部1bより出力される(ステップ4)。
【0039】
本願の腐食の推定方法に従った場合の、埋設管5のおける埋設年数tと減肉深さrの関係を、土壌比抵抗ρ(接地抵抗Rs)をパラメータとして、図4(b)に示した。
この図からも判明するように、腐食が半回転楕円状に均等に進行するとの仮定のもとでは、減肉深さrは、埋設年数tの1/3次関数となり、土壌比抵抗ρ(接地抵抗Rs)に従った推定が可能となる。
同図には、埋設年数tが25年までを実線で、それ以降を破線で示した。さらに、同図上側に推定される余寿命T−tを示した。この図からも判明するように、本願方法による推定では、土壌比抵抗ρ(接地抵抗Rs)を知ることで、余寿命T−tを良好に推定することが実質上可能となる。さらに、接地抵抗値が20kΩ以上あれば、充分に余裕があることが判る。
【0040】
C:本願手法の導出過程
以上、説明してきたように、本願にあっては、腐食を、腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進むものと見なす。即ち、腐食は、図4(a)に示すように、その長軸が腐食検討対象物の表面で形成され、その深さ方向及び前記長軸に直交する方向に短軸を成すように、均等に進行するものと仮定する。
【0041】
この仮定の下にあっては、腐食体積速度dV/dtは、数4、5を経て数6のように、減肉深さrを用いて表される。
【0042】
【数4】

【0043】
さらに、抵抗(埋設管の場合は接地抵抗)Rsは数5に示す様に、
【0044】
【数5】

【0045】
なので
【0046】
【数6】

【0047】
となる。
ここで、
Kは比例定数(電流から腐食速度への換算係数で具体的には1.16m/year/mA)、ΔEはアノード部とカソード部との電位差、
ρは土壌比抵抗、
kは近似式よりk=-10-6ρ+0.17
である。
【0048】
一方、減肉速度dr/dtは数7のように表される。
【0049】
【数7】

【0050】
ここで、Aは楕円の形状に依存する形状係数であり、aが2の場合はA=2.33であり、aが1である場合はA=0.5となる。
【0051】
これを積分すると、下記数8のようになる。
【0052】
【数8】

ここで、
t2=t(現在時間) , t1=0
r2=r(現在の減肉深さ) , r1=0(初期値)
【0053】
を代入して現在の減肉深さrの計算式は下記数9のようになる。
【0054】
【数9】

【0055】
この式において、比抵抗ρを抵抗Rsに置換することで、これまで説明してきた減肉深さrの式である数1を得ることができる。
媒質の比抵抗ρは以下の数10となる。
【0056】
【数10】

【0057】
一方、余寿命は、現在、時間はtで減肉深さrとし、時間Tで貫通深さR(腐食検討対象物の肉厚)に達するとすると余寿命T−tは数11で表される。
【0058】
【数11】

【0059】
〔別実施の形態〕
これまで説明してきた腐食の推定方法にあっては、マクロセル腐食を基礎に、その減肉深さr、媒質の比抵抗ρ及び余寿命T−tを求める例を示したが、このようにして求められる物理量に対して、実験的に従来から認められてきたミクロセル腐食を加味して、腐食の推定を行ってもよい。
図5に、このようにマクロセルとミクロセルとによる腐食が発生している場合における腐食の推定装置の機能ブロック図を図1に対応して示した。
図1との対比で説明すると、減肉深さ導出手段50a、比抵抗導出手段50bにおける演算式に、ミクロセルの項が加わることとなる。
ミクロセルによる腐食は、媒質(埋設管の場合は土壌)中における配設期間t(埋設管の場合は埋設期間)の関するとなることが知られており、その減肉量は実験式により、C×tα(ここで、C及びαは共に実験的に求められる定数)となる。
そこで、ミクロセルをも考慮した減肉深さ導出手段50aにより導出される減肉深さは、数1に示すマクロセルによる減肉深さにミクロセルによる減肉深さを加算したものとできる。さらに、比抵抗導出手段50bにおける演算に関しても、ミクロセルを考慮したものとする。
【0060】
以下、先に説明した本願手法の導出過程に沿って説明する。
先に説明した半回転楕円状にマクロセル腐食が進行し、それにミクロセル腐食の減肉量が加わるとすると、この状態の腐食では減肉深さrは、数12のように表される。
【0061】
【数12】

【0062】
従って、比抵抗は数13の様になる。
【0063】
【数13】

【産業上の利用可能性】
【0064】
現在の減肉深さ、腐食検討対象物周りに存する媒質の比抵抗、さらに余寿命を合理的な基準に基づいて推定することができ、産業資源を有効に利用できる技術を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本願に係る腐食の推定装置のシステム構成を示す図
【図2】本願に係る腐食の推定方法の手順を示すフロー図
【図3】アノード部、カソード部間の電位差、接地抵抗の測定状況を示す図
【図4】埋設年数と減肉深さの関係を示す図
【図5】本願に係る腐食の推定装置の別実施形態のシステム構成を示す図
【符号の説明】
【0066】
1 腐食の推定装置
2 導出手段
2a 減肉深さ導出手段
2b 比抵抗導出手段
2c 余寿命導出手段
3 土壌(媒質)
5 埋設管(腐食検討対象物)
8 腐食部
MC マクロセル
Rs 抵抗(接地抵抗)
ΔE 電位差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定方法であって、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づいて、前記腐食の減肉深さrを推定する腐食の推定方法。
【請求項2】
Aを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求める請求項1記載の腐食の推定方法。
【請求項3】
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定装置であって、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づき、Aを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求める減肉深さ導出手段を備えた腐食の推定装置。
【請求項4】
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定方法であって、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づいて、前記媒質の比抵抗ρを求める腐食の推定方法。
【請求項5】
a及びAを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求め、kを媒質の比抵抗ρに関する定数として、
前記媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r)として求める請求項4記載の腐食の推定方法。
【請求項6】
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定装置であって、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間と、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づき、a及びAを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求める減肉深さ導出手段を備えるとともに、
kを媒質の比抵抗ρに関する定数として、
前記媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r)として求める比抵抗導出手段を備えた腐食の推定装置。
【請求項7】
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定方法であって、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、現在の減肉深さrと前記媒質の比抵抗ρとを求め、
求められた現在の減肉深さrと前記媒質の比抵抗ρとに基づいて、
前記腐食検討対象物の余寿命T−tを求める腐食の推定方法。
【請求項8】
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定方法であって、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rs、及び前記腐食検討対象物の肉厚Rに基づいて、前記腐食検討対象物の余寿命T−tを求める腐食の推定方法。
【請求項9】
a及びAを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)の立方根として求め、
kを媒質の比抵抗ρに関する定数として、
前記媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r
として求め、
前記腐食検討対象物の余寿命T−tを、
{A×π×k×ρ×(R−r)}/(K×ΔE×a)として求める請求項8記載の腐食の推定方法。
【請求項10】
媒質中に配設され、腐食検討対象物のアノード部とカソード部との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の推定装置であって、
前記腐食を腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む楕円状腐食と見なし、前記腐食検討対象物が前記媒質中に配設された配設期間tと、前記アノード部とカソード部との間に発生している電位差ΔEと、前記アノード部と前記媒質との間の抵抗Rsとに基づき、a及びAを回転楕円の形状に依存する形状係数、Kを電流から腐食速度への換算係数として、
前記減肉深さrを、(K×ΔE×t)/(A×π×Rs)として求める減肉深さ導出手段を備えるとともに、
kを媒質の比抵抗ρに関する定数として、
前記媒質の比抵抗ρを、(K×ΔE×a×t)/(A×π×k×r)として求める比抵抗導出手段を備え、
前記腐食検討対象物の肉厚をRとして、
前記腐食検討対象物の余寿命T−tを、
{A×π×k×ρ×(R−r)}/(K×ΔE×a)として求める余寿命導出手段を備えた腐食の推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−284280(P2006−284280A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102382(P2005−102382)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】