腐食環境センサおよび腐食環境評価方法
【課題】簡単な構造で安価に製作でき、耐久性に優れ簡単に取り扱い得る腐食環境センサ、腐食感度に優れる腐食環境センサ、腐食環境における腐食速度を評価可能な腐食環境センサおよび腐食環境評価方法、を提供する。
【解決手段】鋼製板片の表面にCrの成分比率が異なるFe−Crの複数種の溶射被膜を形成した腐食環境センサ1を準備し、その腐食環境センサ1を所定期間腐食環境下に置き、その所定期間の進行中に腐食環境センサ1の表面を測色計13で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得し、その表色データを用いてコンピュータ15により腐食環境における腐食速度を評価する。
【解決手段】鋼製板片の表面にCrの成分比率が異なるFe−Crの複数種の溶射被膜を形成した腐食環境センサ1を準備し、その腐食環境センサ1を所定期間腐食環境下に置き、その所定期間の進行中に腐食環境センサ1の表面を測色計13で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得し、その表色データを用いてコンピュータ15により腐食環境における腐食速度を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のベース板片にCrやNiなどの所定の金属Mの成分比率を異ならせたFe−Mの複数種の被膜を形成してなる腐食環境センサと、この腐食環境センサを用いて腐食環境における腐食速度を評価する腐食環境評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物の損傷のうちの多くを占める腐食や疲労は、供用時間の経過と共に発生頻度は上がる。近年の腐食損傷事例の増加につれて、維持管理の重要性が広く認識され始め、効率的な予防保全のためにも、供用中の鋼構造物に対する腐食劣化予測やライフ・サイクル・コストをも考慮した最適な予防方法が求められている。
【0003】
鋼構造物の腐食の進行の程度を評価する技術として、特許文献1には、鋼構造物の腐食部分を腐食したカラーサンプルと共に撮影して、画像処理によって鋼構造物の腐食の進行の程度を評価する技術が提案されている。
特許文献2には、電気・電子機器に採用されている金属材料の大気中での暴露日数に対する腐食減量を用いて腐食環境の程度を示す環境評価点を算定し、金属材料の寿命を診断する技術が記載されている。
【0004】
大気中に置かれた鋼構造物の腐食の原因は、大気中に含まれる水分(結露、雨水)飛来塩分、種々の大気汚染物質(SO2 ,SO3 ,NO,NO2 ,H2 S,NH3 など)、気温などの複合されたものであるが、これら因子の単独分析では腐食との対応は困難である。また、合理的な防蝕設計を行うためにも、付着塩分量、大気汚染物質、温度、湿度などの腐食因子と腐食状態(部位,程度,速度)との定量的な関係を明らかにする必要があるとされている。大気中の鋼構造物の腐食に関しては、対象表面が乾燥するため、電気化学的モニタリング手法は容易ではない。鋼材の暴露試験では、長い時間と多くのコストがかかる。
【0005】
そこで、鋼材よりも短時間で腐食因子から腐食状況を知ることのできる複数種類の金属片を用いることで、腐食環境を評価することができることに着目して、本願出願人は、金属の腐食による状態変化を利用することで鋼構造物の腐食因子を容易に特定することのできる腐食環境センサを提案した(特願2003−357560号)。
【特許文献1】特許第3329767号公報
【特許文献2】特開2001−215187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願出願人が特願2003−357560号で提案した腐食環境センサは、腐食環境の腐食因子の濃度に関連する腐食性向を検知するのには有効であるが、腐食環境下の経過時間に対する腐食の感度が鈍いために、腐食速度を検知するには適していない。
特許文献1の技術は鋼構造物の外観に現れる腐食の程度を評価する技術であるから、鋼構造物の腐食があまり進行してない構築初期の状態では適用できないという問題がある。 また、簡単に短期間で腐食環境を評価することが難しく、また、鋼構造物の設置後腐食が発生しない段階では適用できないので、鋼構造物の設置予定場所の腐食環境を予め評価することができない。
【0007】
本発明の目的は、腐食感度に優れる簡単な構造の腐食環境センサを提供すること、腐食環境における腐食速度を評価可能な腐食環境評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の腐食環境センサは、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から択一的に選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成したことを特徴とするものである。尚、前記ベース板片は鋼、ステンレスなどの金属製の板片でもよく、セラミックス製の板片でもよい。また、被膜は、溶射により形成される溶射被膜又は気相蒸着法で形成される被膜が望ましい。
Fe−Mの複数種の被膜の膜厚は100μm程度であり、金属組織的に安定性の乏しい被膜であるため被膜は腐食され易いが、金属Mの成分比率が大きくなる程腐食されにくくなる。そのため、合金金属の成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を採用することにより、腐食能の低い腐食環境から腐食能の高い腐食環境においても、何れかの被膜を確実に腐食させることができるから、腐食感度に優れる腐食環境センサを実現することができる。そして、複数種の被膜の腐食の程度から腐食状態や腐食速度を評価することも可能である。
【0009】
尚、予め標準的な腐食環境において腐食させたマスターとしての腐食環境センサの腐食履歴と、前記とは別の評価対象の腐食環境において腐食させた腐食環境センサの腐食履歴を比較することによっても、その腐食環境における腐食速度を評価可能となる。
【0010】
請求項2の腐食環境センサは、1又は複数の鋼製板片の表面に、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の被膜を形成したことを特徴とする。
この腐食環境センサでは、基本的に請求項1とほぼ同様の作用が得られる。
請求項3の腐食環境センサは、請求項1又は2に記載の発明において、前記被膜が溶射により形成された溶射被膜であることを特徴とする。
請求項4の腐食環境センサは、請求項1の発明において、前記ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であることを特徴とする。
【0011】
請求項5の腐食環境評価方法は、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から択一的に選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した腐食環境センサを準備する準備工程と、前記腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置く腐食工程と、前記所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得するデータ取得工程と、前記表色データを用いて腐食環境における腐食速度を評価する評価工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
請求項1と同様の腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置くと、金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜の腐食が進行していくが、金属Mの成分比率が高いものほど腐食しにくい。この所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得する。腐食の進行に応じて、腐食環境センサの表面の色が微妙に変化していくため、前記の表色データは腐食の度合いを反映したものとなる。
【0013】
しかも、腐食環境の腐食能に応じた被膜が確実に腐食するため、その表色データを用いて腐食環境における腐食状態や腐食速度を評価することができる。尚、この腐食速度の評価に際しては、予め標準的な腐食環境において腐食させた腐食環境センサの腐食履歴と、別の腐食環境において腐食させた腐食環境センサの腐食履歴とを比較することで、腐食速度を評価することもできる。
請求項6の腐食環境評価方法は、請求項5の発明において、前記ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の腐食環境センサによれば、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した構成であるので、簡単な構造で安価に製作可能な腐食環境センサを実現することができる。
【0015】
しかも、金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を採用することにより、腐食能の低い腐食環境においても腐食能の高い腐食環境においても、何れかの被膜を確実に腐食させることができるから、腐食感度の高い腐食環境センサを実現でき、複数種の被膜の腐食の程度から腐食状態や腐食速度を評価することができる。
【0016】
請求項2の腐食環境センサによれば、基本的に請求項1と同様の効果が得られる。
鋼製板片を採用すると共に前記金属MとしてCrを採用するため、被膜の形成やコストの面で有利である。
請求項3の腐食環境センサによれば、被膜として溶射被膜を採用するため、被膜の成分比率を自由に設定できる。
請求項4の腐食環境センサによれば、ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であるので、被膜を形成しやすく、耐久性に優れるセンサとなる。
【0017】
請求項5の腐食環境評価方法によれば、請求項1の腐食環境センサと同様のものを採用し、その腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置き、この所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得し、その表色データを用いて腐食環境における腐食速度を評価するため、簡単な構造で安価に製作でき且つ取り扱いの簡単な腐食環境センサにより、腐食環境を評価することが可能となり、鋼構造物を設置予定地の腐食環境を予め評価可能となる。腐食速度を評価できるため、既存の鋼構造物に対する防蝕対策やその施工周期、設置予定の鋼構造物に対する防蝕対策やその施工周期を経済的に立案可能になる。
請求項6の腐食環境評価方法によれば、ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であるので、被膜を形成しやすく、耐久性に優れるセンサとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本願の腐食環境センサは、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成したものである。
本願の腐食環境評価方法は、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した腐食環境センサを準備する準備工程と、前記腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置く腐食工程と、前記所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得するデータ取得工程と、前記表色データに基づいて腐食環境における腐食速度を評価する評価工程とを備えたものである。
【実施例1】
【0019】
この実施例における2種類の腐食環境センサ1,2について説明し、次に腐食環境評価システムと腐食環境評価方法について説明する。
図1に示す腐食環境センサ1は、1枚の厚さ2〜3mmの鋼製の板片1m(ベース板片)の表面に、Crの成分比率が異なる4種類のFe−Crの溶射被膜(例えば膜厚100μm)を形成したものであり、溶射被膜部1a〜1dが、Crの成分比率20,30,36,40%の溶射被膜部分(センサ部1a〜1dという場合もある)を示し、溶射被膜部1a〜1dの各々の大きさは例えば20mm×30mmである。尚、腐食環境センサ1の供用前の状態では、センサ部1a〜1dの表面が封止膜で気密状に封止され、供用開始時にその封止膜を除去して大気中に暴露するものとする。
【0020】
尚、腐食環境センサ1を多数製作する際の生産性を高める為には、溶射被膜のセンサ部1a〜1dを溶射被膜の種類別に多数連続的に製作し、その後分断してセンサ部とすることが望ましいので、4つのセンサ部1a〜1dを4つの鋼製の板片1mに夫々構成し、それらを合成樹脂や金属製の基板に固定してもよい。
【0021】
この腐食環境センサ1を大気中に種々の腐食因子(水分,塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物、硫化水素、アンモニアなど)を含む腐食環境下に暴露しておくと、4種類のFe−Crの溶射被膜部1a〜1dが、Crの成分比率が小さい被膜ほど腐食速度が速くなるような異なる腐食履歴で腐食していく。ここで、溶射被膜ではなくFe−Cr合金の場合には、Cr成分比率が10%以上になると耐蝕性が著しく向上することは公知であるが、この腐食環境センサ1の溶射被膜の場合は、膜厚も薄く、金属組織的な安定性に欠けるため、Crの成分比率20,30,36,40%と高い値であるにもかかわらず腐食環境下で確実に腐食する。
【0022】
図2に示す腐食環境センサ2は、1枚の厚さ2〜3mmのSUS304製の板片2m(ベース板片)の表面に、Crの成分比率が異なる4種類のFe−Crの溶射被膜(例えば膜厚100μm)を形成したものであり、溶接被膜部2a〜2dが、Crの成分比率33,36,38,40%の溶射被膜部分(センサ部2a〜2d)を示し、溶射被膜部2a〜2dの各々の大きさは例えば20mm×30mmである。尚、腐食環境センサ1と同様に、センサ部2a〜2dを4つのSUS板片に夫々構成し、それらを合成樹脂や金属製の基板に固定してもよい。また、この腐食環境センサ2の場合も、供用前は封止膜で気密状に封止されており、供用開始時に封止膜が除去される
【0023】
この腐食環境センサ2も、前記腐食環境センサ1と同様に、大気中に種々の腐食因子(水分,塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物、硫化水素、アンモニナなど)を含む腐食環境下に暴露しておくと、4種類のFe−Crの溶射被膜が、Crの成分比率が小さい被膜ほど腐食の進行度合いが大きくなり腐食速度が速くなるような異なる腐食履歴で腐食していく。
【0024】
図3に示す腐食環境評価システム10は、1又は複数の腐食環境センサ1と、1又は複数の腐食環境センサ2と、腐食させた腐食環境センサの表面を測色する分光型測色計13と、この分光型測色計13で測定した明度(L*)と、色相と彩度を表す色度(a*,b*)を数値化した表色データ(L*,a*,b*)をコンピュータ15に入力するためのインターフェース14と、このインターフェース14に接続されたコンピュータ15(コンピュータ本体、ディスプレイ、キーボード、マウスなど)とを有する。尚、本明細書と図面において、表色データの(L*,a*,b*)を*印を省略して(L,a,b)と記載する。
【0025】
前記コンピュータ15のハードディスクには、前記の2種類の腐食環境センサ1,2に対応する2種類の腐食環境マスター11,12から得た表色マスターデータが格納されている。この第1の表色マスターデータは、腐食環境センサ1からなる腐食環境マスター11を所定の標準的な腐食環境の大気中の所定位置に4ケ月暴露させ、この4ケ月の進行中に2,3日毎に腐食環境マスター11を所定位置から取り外して、分光型測色計13で測定してから再度、所定位置にセットするのを繰り返して取得したものである。この第1の表色マスターデータは図示省略するが、後述の評価対象の腐食環境における腐食環境センサ1の腐食履歴を示す図4〜図7のようになる。但し、第1の表色マスターデータは、腐食環境が異なるため腐食履歴も図示のものと異なるものになる。尚、図4〜図7において横軸は暴露期間であり、縦軸は色彩値(明度と色度を数値化したレベル)を示す。
【0026】
第2の表色マスターデータは、腐食環境センサ2と同じ腐食環境マスター12を用いて上記と同様にして作成したデータであり、この第2の表色マスターデータは図示省略するが、別の評価対象の腐食環境における腐食環境センサ2の腐食履歴を示す図8〜図11のようになる。但し、第2の表色マスターデータは、腐食環境が異なるため腐食履歴も図示のものと異なるものになる。
【0027】
次に、この腐食環境評価システム10により道路橋や鉄橋などの鋼構造物が設置されている場所の腐食環境を評価する腐食環境評価方法について説明する。
最初にの準備工程において1つの腐食環境センサ1を準備する。尚、本実施例では、腐食環境センサ1と第1の表色マスターデータを用いる場合を例にして説明する。次に腐食工程において、腐食環境センサ1を所定期間(本実施例の場合、4ケ月)の間、大気中に露出している鋼構造物に着脱可能に固定し、鋼構造物と同じ腐食環境下に置いて腐食させる。
【0028】
次に、データ取得工程において、前記所定期間の進行中に腐食環境センサ1の表面を、2〜3日毎に前記の分光型測色計13で1又は複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データ(L,a,b)を取得する。このようにして取得した表色データ(L,a,b)に基づいて図4〜図7のような腐食履歴のグラフを作成する。
【0029】
次に、評価工程において、図4〜図7のグラフを目視にて観察することにより、或いは、表色データを所定の評価プログラムでデータ処理することにより、腐食環境における腐食状態や腐食速度を評価する。図4、図5に示すCr20%、30%のセンサ部1a,1bの場合、ラインLとラインbから、約20日の間に腐食が急速に進行し(これを急速進行期間という)、その後緩慢に腐食が進行したことが分かる。
【0030】
図6に示すCr36%のセンサ部1cの場合、ラインLとラインbから、約50日の間に腐食が低速で進行し、その後緩慢に腐食が進行したことが分かる。そして、図7に示すCr40%のセンサ部1dの場合、全期間に亙って腐食は殆ど進行していない。ここで、例えば、Cr36%のセンサ部1cがCr30%のセンサ部1bと同等まで腐食する所要日数が短い程、腐食速度が高いと評価することができる。一方、図4〜図6におけるラインL、ラインa、ラインbの時間変化率の最大値、平均値、移動平均値などの何れかが大きい場合には腐食速度も大きいと評価することもできる。
【0031】
ここで、前記の標準的腐食環境下で腐食させたものから得た表色マスターデータ(L,a,b)を用いて、腐食環境や腐食速度を評価することも可能である。図4〜図7のものを、前記の表色マスターデータの腐食履歴と比較し、Fe−Cr(20%)やFe−Cr(30%)のセンサ部1a,1bにおける前記の急速進行期間が20日よりも長い場合には、その腐食環境は、前記の基準腐食環境よりも腐食因子の濃度が薄い(腐食能の低い)腐食環境であり、腐食速度も低いことが分かる。
【0032】
前記急速進行期間が20日よりも短い場合には、その腐食環境は、前記の基準腐食環境よりも腐食因子の濃度が濃い(腐食能の高い)腐食環境であり、腐食速度も高いことが分かる。また、ラインLに示すL値やa値やb値の時間積分値をパラメータとして、腐食環境や腐食速度を評価することも可能である。
尚、例えば、前記とは別の腐食環境において腐食させた場合に、Fe−Cr(36%)のセンサ部1cにおけるラインLやラインbが、図4、図5のような特性になっている場合には、その腐食環境の腐食能は非常に高く、腐食速度も高いと評価することもできる。
【0033】
前記腐食環境センサ1は、1つの鋼の板片1mの表面に、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の溶射被膜を形成した構成であるので、簡単な構造で、耐久に優れ、安価に製作可能な腐食環境センサ1を実現することができる。
しかも、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の溶射被膜を採用することにより、腐食能の低い腐食環境においても腐食能の高い腐食環境においても、何れかの溶射被膜を確実に腐食させることができるから、腐食感度の高い腐食環境センサ1を実現でき、複数種の溶射被膜の腐食の程度から腐食状態や腐食速度を評価することができる。尚、前記金属MとしてCrを採用するため、溶射被膜の形成やコストの面で有利である。また、溶射被膜であるので、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の被膜を簡単に自由に形成することができる。
【0034】
前記の腐食環境センサ1を所定期間、評価対象の腐食環境下に置き、この所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色計13で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データ(L,a,b)を取得し、その表色データ(L,a,b)を用いて腐食環境における腐食速度を評価するため、簡単な構造で安価に製作でき且つ取り扱いの簡単な腐食環境センサ1により、腐食環境を評価することが可能となり、鋼構造物を設置予定地の腐食環境を予め評価可能となる。そして、腐食速度を評価できるため、既存の鋼構造物に対する防蝕対策やその施工周期、設置予定の鋼構造物に対する防蝕対策や施工周期を経済的に立案可能になる。
【0035】
次に、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1)前記腐食環境センサ1,2のベース板片(1m,2m)を鋼やSUS以外の金属材料(アルミ、真鍮、チタンなど)の板片で構成してもよく、セラミックス製の板片で構成してもよい。
【0036】
2)腐食環境センサ1,2は、Fe−Crの溶射被膜を採用しているが、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した腐食環境センサを採用してもよい。
腐食環境センサ1,2の被膜の合金成分Crの成分比率の前記の値(20,30,36,40%など)は一例に過ぎず、合金成分の金属Mに応じた種々の成分比率を採用可能である。また、Fe−Mの複数種の被膜は溶射被膜に限定されるものではなく、気相蒸着法(PVD、CVD、スパッタリングなど)又はメッキにより形成される被膜でもよい。
【0037】
3)1カ所の腐食環境に対して構造の異なる複数種類の腐食環境センサを適用することで、腐食環境を評価する評価精度を高めることも可能である。
4)その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で前記実施例に変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の腐食環境センサの平面図である。
【図2】別の腐食環境センサの平面図である。
【図3】腐食環境評価システムの構成図である。
【図4】センサ部1aから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図5】センサ部1bから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図6】センサ部1cから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図7】センサ部1dから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図8】センサ部2aから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図9】センサ部2bから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図10】センサ部2cから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図11】センサ部2dから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1,2 腐食環境センサ
1a〜1d センサ部
2a〜2d センサ部
10 腐食環境評価システム
11,12 腐食環境マスター
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のベース板片にCrやNiなどの所定の金属Mの成分比率を異ならせたFe−Mの複数種の被膜を形成してなる腐食環境センサと、この腐食環境センサを用いて腐食環境における腐食速度を評価する腐食環境評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物の損傷のうちの多くを占める腐食や疲労は、供用時間の経過と共に発生頻度は上がる。近年の腐食損傷事例の増加につれて、維持管理の重要性が広く認識され始め、効率的な予防保全のためにも、供用中の鋼構造物に対する腐食劣化予測やライフ・サイクル・コストをも考慮した最適な予防方法が求められている。
【0003】
鋼構造物の腐食の進行の程度を評価する技術として、特許文献1には、鋼構造物の腐食部分を腐食したカラーサンプルと共に撮影して、画像処理によって鋼構造物の腐食の進行の程度を評価する技術が提案されている。
特許文献2には、電気・電子機器に採用されている金属材料の大気中での暴露日数に対する腐食減量を用いて腐食環境の程度を示す環境評価点を算定し、金属材料の寿命を診断する技術が記載されている。
【0004】
大気中に置かれた鋼構造物の腐食の原因は、大気中に含まれる水分(結露、雨水)飛来塩分、種々の大気汚染物質(SO2 ,SO3 ,NO,NO2 ,H2 S,NH3 など)、気温などの複合されたものであるが、これら因子の単独分析では腐食との対応は困難である。また、合理的な防蝕設計を行うためにも、付着塩分量、大気汚染物質、温度、湿度などの腐食因子と腐食状態(部位,程度,速度)との定量的な関係を明らかにする必要があるとされている。大気中の鋼構造物の腐食に関しては、対象表面が乾燥するため、電気化学的モニタリング手法は容易ではない。鋼材の暴露試験では、長い時間と多くのコストがかかる。
【0005】
そこで、鋼材よりも短時間で腐食因子から腐食状況を知ることのできる複数種類の金属片を用いることで、腐食環境を評価することができることに着目して、本願出願人は、金属の腐食による状態変化を利用することで鋼構造物の腐食因子を容易に特定することのできる腐食環境センサを提案した(特願2003−357560号)。
【特許文献1】特許第3329767号公報
【特許文献2】特開2001−215187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願出願人が特願2003−357560号で提案した腐食環境センサは、腐食環境の腐食因子の濃度に関連する腐食性向を検知するのには有効であるが、腐食環境下の経過時間に対する腐食の感度が鈍いために、腐食速度を検知するには適していない。
特許文献1の技術は鋼構造物の外観に現れる腐食の程度を評価する技術であるから、鋼構造物の腐食があまり進行してない構築初期の状態では適用できないという問題がある。 また、簡単に短期間で腐食環境を評価することが難しく、また、鋼構造物の設置後腐食が発生しない段階では適用できないので、鋼構造物の設置予定場所の腐食環境を予め評価することができない。
【0007】
本発明の目的は、腐食感度に優れる簡単な構造の腐食環境センサを提供すること、腐食環境における腐食速度を評価可能な腐食環境評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の腐食環境センサは、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から択一的に選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成したことを特徴とするものである。尚、前記ベース板片は鋼、ステンレスなどの金属製の板片でもよく、セラミックス製の板片でもよい。また、被膜は、溶射により形成される溶射被膜又は気相蒸着法で形成される被膜が望ましい。
Fe−Mの複数種の被膜の膜厚は100μm程度であり、金属組織的に安定性の乏しい被膜であるため被膜は腐食され易いが、金属Mの成分比率が大きくなる程腐食されにくくなる。そのため、合金金属の成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を採用することにより、腐食能の低い腐食環境から腐食能の高い腐食環境においても、何れかの被膜を確実に腐食させることができるから、腐食感度に優れる腐食環境センサを実現することができる。そして、複数種の被膜の腐食の程度から腐食状態や腐食速度を評価することも可能である。
【0009】
尚、予め標準的な腐食環境において腐食させたマスターとしての腐食環境センサの腐食履歴と、前記とは別の評価対象の腐食環境において腐食させた腐食環境センサの腐食履歴を比較することによっても、その腐食環境における腐食速度を評価可能となる。
【0010】
請求項2の腐食環境センサは、1又は複数の鋼製板片の表面に、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の被膜を形成したことを特徴とする。
この腐食環境センサでは、基本的に請求項1とほぼ同様の作用が得られる。
請求項3の腐食環境センサは、請求項1又は2に記載の発明において、前記被膜が溶射により形成された溶射被膜であることを特徴とする。
請求項4の腐食環境センサは、請求項1の発明において、前記ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であることを特徴とする。
【0011】
請求項5の腐食環境評価方法は、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から択一的に選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した腐食環境センサを準備する準備工程と、前記腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置く腐食工程と、前記所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得するデータ取得工程と、前記表色データを用いて腐食環境における腐食速度を評価する評価工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
請求項1と同様の腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置くと、金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜の腐食が進行していくが、金属Mの成分比率が高いものほど腐食しにくい。この所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得する。腐食の進行に応じて、腐食環境センサの表面の色が微妙に変化していくため、前記の表色データは腐食の度合いを反映したものとなる。
【0013】
しかも、腐食環境の腐食能に応じた被膜が確実に腐食するため、その表色データを用いて腐食環境における腐食状態や腐食速度を評価することができる。尚、この腐食速度の評価に際しては、予め標準的な腐食環境において腐食させた腐食環境センサの腐食履歴と、別の腐食環境において腐食させた腐食環境センサの腐食履歴とを比較することで、腐食速度を評価することもできる。
請求項6の腐食環境評価方法は、請求項5の発明において、前記ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の腐食環境センサによれば、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した構成であるので、簡単な構造で安価に製作可能な腐食環境センサを実現することができる。
【0015】
しかも、金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を採用することにより、腐食能の低い腐食環境においても腐食能の高い腐食環境においても、何れかの被膜を確実に腐食させることができるから、腐食感度の高い腐食環境センサを実現でき、複数種の被膜の腐食の程度から腐食状態や腐食速度を評価することができる。
【0016】
請求項2の腐食環境センサによれば、基本的に請求項1と同様の効果が得られる。
鋼製板片を採用すると共に前記金属MとしてCrを採用するため、被膜の形成やコストの面で有利である。
請求項3の腐食環境センサによれば、被膜として溶射被膜を採用するため、被膜の成分比率を自由に設定できる。
請求項4の腐食環境センサによれば、ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であるので、被膜を形成しやすく、耐久性に優れるセンサとなる。
【0017】
請求項5の腐食環境評価方法によれば、請求項1の腐食環境センサと同様のものを採用し、その腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置き、この所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得し、その表色データを用いて腐食環境における腐食速度を評価するため、簡単な構造で安価に製作でき且つ取り扱いの簡単な腐食環境センサにより、腐食環境を評価することが可能となり、鋼構造物を設置予定地の腐食環境を予め評価可能となる。腐食速度を評価できるため、既存の鋼構造物に対する防蝕対策やその施工周期、設置予定の鋼構造物に対する防蝕対策やその施工周期を経済的に立案可能になる。
請求項6の腐食環境評価方法によれば、ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であるので、被膜を形成しやすく、耐久性に優れるセンサとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本願の腐食環境センサは、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成したものである。
本願の腐食環境評価方法は、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した腐食環境センサを準備する準備工程と、前記腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置く腐食工程と、前記所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得するデータ取得工程と、前記表色データに基づいて腐食環境における腐食速度を評価する評価工程とを備えたものである。
【実施例1】
【0019】
この実施例における2種類の腐食環境センサ1,2について説明し、次に腐食環境評価システムと腐食環境評価方法について説明する。
図1に示す腐食環境センサ1は、1枚の厚さ2〜3mmの鋼製の板片1m(ベース板片)の表面に、Crの成分比率が異なる4種類のFe−Crの溶射被膜(例えば膜厚100μm)を形成したものであり、溶射被膜部1a〜1dが、Crの成分比率20,30,36,40%の溶射被膜部分(センサ部1a〜1dという場合もある)を示し、溶射被膜部1a〜1dの各々の大きさは例えば20mm×30mmである。尚、腐食環境センサ1の供用前の状態では、センサ部1a〜1dの表面が封止膜で気密状に封止され、供用開始時にその封止膜を除去して大気中に暴露するものとする。
【0020】
尚、腐食環境センサ1を多数製作する際の生産性を高める為には、溶射被膜のセンサ部1a〜1dを溶射被膜の種類別に多数連続的に製作し、その後分断してセンサ部とすることが望ましいので、4つのセンサ部1a〜1dを4つの鋼製の板片1mに夫々構成し、それらを合成樹脂や金属製の基板に固定してもよい。
【0021】
この腐食環境センサ1を大気中に種々の腐食因子(水分,塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物、硫化水素、アンモニアなど)を含む腐食環境下に暴露しておくと、4種類のFe−Crの溶射被膜部1a〜1dが、Crの成分比率が小さい被膜ほど腐食速度が速くなるような異なる腐食履歴で腐食していく。ここで、溶射被膜ではなくFe−Cr合金の場合には、Cr成分比率が10%以上になると耐蝕性が著しく向上することは公知であるが、この腐食環境センサ1の溶射被膜の場合は、膜厚も薄く、金属組織的な安定性に欠けるため、Crの成分比率20,30,36,40%と高い値であるにもかかわらず腐食環境下で確実に腐食する。
【0022】
図2に示す腐食環境センサ2は、1枚の厚さ2〜3mmのSUS304製の板片2m(ベース板片)の表面に、Crの成分比率が異なる4種類のFe−Crの溶射被膜(例えば膜厚100μm)を形成したものであり、溶接被膜部2a〜2dが、Crの成分比率33,36,38,40%の溶射被膜部分(センサ部2a〜2d)を示し、溶射被膜部2a〜2dの各々の大きさは例えば20mm×30mmである。尚、腐食環境センサ1と同様に、センサ部2a〜2dを4つのSUS板片に夫々構成し、それらを合成樹脂や金属製の基板に固定してもよい。また、この腐食環境センサ2の場合も、供用前は封止膜で気密状に封止されており、供用開始時に封止膜が除去される
【0023】
この腐食環境センサ2も、前記腐食環境センサ1と同様に、大気中に種々の腐食因子(水分,塩分、硫黄酸化物、窒素酸化物、硫化水素、アンモニナなど)を含む腐食環境下に暴露しておくと、4種類のFe−Crの溶射被膜が、Crの成分比率が小さい被膜ほど腐食の進行度合いが大きくなり腐食速度が速くなるような異なる腐食履歴で腐食していく。
【0024】
図3に示す腐食環境評価システム10は、1又は複数の腐食環境センサ1と、1又は複数の腐食環境センサ2と、腐食させた腐食環境センサの表面を測色する分光型測色計13と、この分光型測色計13で測定した明度(L*)と、色相と彩度を表す色度(a*,b*)を数値化した表色データ(L*,a*,b*)をコンピュータ15に入力するためのインターフェース14と、このインターフェース14に接続されたコンピュータ15(コンピュータ本体、ディスプレイ、キーボード、マウスなど)とを有する。尚、本明細書と図面において、表色データの(L*,a*,b*)を*印を省略して(L,a,b)と記載する。
【0025】
前記コンピュータ15のハードディスクには、前記の2種類の腐食環境センサ1,2に対応する2種類の腐食環境マスター11,12から得た表色マスターデータが格納されている。この第1の表色マスターデータは、腐食環境センサ1からなる腐食環境マスター11を所定の標準的な腐食環境の大気中の所定位置に4ケ月暴露させ、この4ケ月の進行中に2,3日毎に腐食環境マスター11を所定位置から取り外して、分光型測色計13で測定してから再度、所定位置にセットするのを繰り返して取得したものである。この第1の表色マスターデータは図示省略するが、後述の評価対象の腐食環境における腐食環境センサ1の腐食履歴を示す図4〜図7のようになる。但し、第1の表色マスターデータは、腐食環境が異なるため腐食履歴も図示のものと異なるものになる。尚、図4〜図7において横軸は暴露期間であり、縦軸は色彩値(明度と色度を数値化したレベル)を示す。
【0026】
第2の表色マスターデータは、腐食環境センサ2と同じ腐食環境マスター12を用いて上記と同様にして作成したデータであり、この第2の表色マスターデータは図示省略するが、別の評価対象の腐食環境における腐食環境センサ2の腐食履歴を示す図8〜図11のようになる。但し、第2の表色マスターデータは、腐食環境が異なるため腐食履歴も図示のものと異なるものになる。
【0027】
次に、この腐食環境評価システム10により道路橋や鉄橋などの鋼構造物が設置されている場所の腐食環境を評価する腐食環境評価方法について説明する。
最初にの準備工程において1つの腐食環境センサ1を準備する。尚、本実施例では、腐食環境センサ1と第1の表色マスターデータを用いる場合を例にして説明する。次に腐食工程において、腐食環境センサ1を所定期間(本実施例の場合、4ケ月)の間、大気中に露出している鋼構造物に着脱可能に固定し、鋼構造物と同じ腐食環境下に置いて腐食させる。
【0028】
次に、データ取得工程において、前記所定期間の進行中に腐食環境センサ1の表面を、2〜3日毎に前記の分光型測色計13で1又は複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データ(L,a,b)を取得する。このようにして取得した表色データ(L,a,b)に基づいて図4〜図7のような腐食履歴のグラフを作成する。
【0029】
次に、評価工程において、図4〜図7のグラフを目視にて観察することにより、或いは、表色データを所定の評価プログラムでデータ処理することにより、腐食環境における腐食状態や腐食速度を評価する。図4、図5に示すCr20%、30%のセンサ部1a,1bの場合、ラインLとラインbから、約20日の間に腐食が急速に進行し(これを急速進行期間という)、その後緩慢に腐食が進行したことが分かる。
【0030】
図6に示すCr36%のセンサ部1cの場合、ラインLとラインbから、約50日の間に腐食が低速で進行し、その後緩慢に腐食が進行したことが分かる。そして、図7に示すCr40%のセンサ部1dの場合、全期間に亙って腐食は殆ど進行していない。ここで、例えば、Cr36%のセンサ部1cがCr30%のセンサ部1bと同等まで腐食する所要日数が短い程、腐食速度が高いと評価することができる。一方、図4〜図6におけるラインL、ラインa、ラインbの時間変化率の最大値、平均値、移動平均値などの何れかが大きい場合には腐食速度も大きいと評価することもできる。
【0031】
ここで、前記の標準的腐食環境下で腐食させたものから得た表色マスターデータ(L,a,b)を用いて、腐食環境や腐食速度を評価することも可能である。図4〜図7のものを、前記の表色マスターデータの腐食履歴と比較し、Fe−Cr(20%)やFe−Cr(30%)のセンサ部1a,1bにおける前記の急速進行期間が20日よりも長い場合には、その腐食環境は、前記の基準腐食環境よりも腐食因子の濃度が薄い(腐食能の低い)腐食環境であり、腐食速度も低いことが分かる。
【0032】
前記急速進行期間が20日よりも短い場合には、その腐食環境は、前記の基準腐食環境よりも腐食因子の濃度が濃い(腐食能の高い)腐食環境であり、腐食速度も高いことが分かる。また、ラインLに示すL値やa値やb値の時間積分値をパラメータとして、腐食環境や腐食速度を評価することも可能である。
尚、例えば、前記とは別の腐食環境において腐食させた場合に、Fe−Cr(36%)のセンサ部1cにおけるラインLやラインbが、図4、図5のような特性になっている場合には、その腐食環境の腐食能は非常に高く、腐食速度も高いと評価することもできる。
【0033】
前記腐食環境センサ1は、1つの鋼の板片1mの表面に、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の溶射被膜を形成した構成であるので、簡単な構造で、耐久に優れ、安価に製作可能な腐食環境センサ1を実現することができる。
しかも、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の溶射被膜を採用することにより、腐食能の低い腐食環境においても腐食能の高い腐食環境においても、何れかの溶射被膜を確実に腐食させることができるから、腐食感度の高い腐食環境センサ1を実現でき、複数種の溶射被膜の腐食の程度から腐食状態や腐食速度を評価することができる。尚、前記金属MとしてCrを採用するため、溶射被膜の形成やコストの面で有利である。また、溶射被膜であるので、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の被膜を簡単に自由に形成することができる。
【0034】
前記の腐食環境センサ1を所定期間、評価対象の腐食環境下に置き、この所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色計13で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データ(L,a,b)を取得し、その表色データ(L,a,b)を用いて腐食環境における腐食速度を評価するため、簡単な構造で安価に製作でき且つ取り扱いの簡単な腐食環境センサ1により、腐食環境を評価することが可能となり、鋼構造物を設置予定地の腐食環境を予め評価可能となる。そして、腐食速度を評価できるため、既存の鋼構造物に対する防蝕対策やその施工周期、設置予定の鋼構造物に対する防蝕対策や施工周期を経済的に立案可能になる。
【0035】
次に、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1)前記腐食環境センサ1,2のベース板片(1m,2m)を鋼やSUS以外の金属材料(アルミ、真鍮、チタンなど)の板片で構成してもよく、セラミックス製の板片で構成してもよい。
【0036】
2)腐食環境センサ1,2は、Fe−Crの溶射被膜を採用しているが、1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した腐食環境センサを採用してもよい。
腐食環境センサ1,2の被膜の合金成分Crの成分比率の前記の値(20,30,36,40%など)は一例に過ぎず、合金成分の金属Mに応じた種々の成分比率を採用可能である。また、Fe−Mの複数種の被膜は溶射被膜に限定されるものではなく、気相蒸着法(PVD、CVD、スパッタリングなど)又はメッキにより形成される被膜でもよい。
【0037】
3)1カ所の腐食環境に対して構造の異なる複数種類の腐食環境センサを適用することで、腐食環境を評価する評価精度を高めることも可能である。
4)その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で前記実施例に変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の腐食環境センサの平面図である。
【図2】別の腐食環境センサの平面図である。
【図3】腐食環境評価システムの構成図である。
【図4】センサ部1aから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図5】センサ部1bから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図6】センサ部1cから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図7】センサ部1dから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図8】センサ部2aから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図9】センサ部2bから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図10】センサ部2cから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【図11】センサ部2dから得た表色データが示す腐食履歴のグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1,2 腐食環境センサ
1a〜1d センサ部
2a〜2d センサ部
10 腐食環境評価システム
11,12 腐食環境マスター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成したことを特徴とする腐食環境センサ。
【請求項2】
1又は複数の鋼製板片の表面に、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の被膜を形成したことを特徴とする腐食環境センサ。
【請求項3】
前記被膜が溶射により形成された溶射被膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の腐食環境センサ。
【請求項4】
前記ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であることを特徴とする請求項1に記載の腐食環境センサ。
【請求項5】
1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した腐食環境センサを準備する準備工程と、
前記腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置く腐食工程と、
前記所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得するデータ取得工程と、
前記表色データを用いて腐食環境における腐食速度を評価する評価工程と、
を備えたことを特徴とする腐食環境評価方法。
【請求項6】
前記ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であることを特徴とする請求項5に記載の腐食環境評価方法。
【請求項1】
1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成したことを特徴とする腐食環境センサ。
【請求項2】
1又は複数の鋼製板片の表面に、Crの成分比率が異なるFe−Crの複数種の被膜を形成したことを特徴とする腐食環境センサ。
【請求項3】
前記被膜が溶射により形成された溶射被膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の腐食環境センサ。
【請求項4】
前記ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であることを特徴とする請求項1に記載の腐食環境センサ。
【請求項5】
1又は複数のベース板片の表面に、(Cr、Ni、Co、Zn、Al)から選択される金属Mの成分比率が異なるFe−Mの複数種の被膜を形成した腐食環境センサを準備する準備工程と、
前記腐食環境センサを所定期間腐食環境下に置く腐食工程と、
前記所定期間の進行中に腐食環境センサの表面を測色手段で複数回測定して明度と色相と彩度に関する表色データを取得するデータ取得工程と、
前記表色データを用いて腐食環境における腐食速度を評価する評価工程と、
を備えたことを特徴とする腐食環境評価方法。
【請求項6】
前記ベース板片が金属製又はセラミックス製の板片であることを特徴とする請求項5に記載の腐食環境評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−64469(P2006−64469A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245625(P2004−245625)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
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