腐食量推定方法、腐食量推定装置、及び鉄筋コンクリートの管理方法
【課題】異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食を従来よりも精度よく推定する。
【解決手段】異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定方法であって、鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を取得する定数情報取得ステップと、前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報によって特定される前記定数情報とに基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定ステップと、を備える。
【解決手段】異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定方法であって、鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を取得する定数情報取得ステップと、前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報によって特定される前記定数情報とに基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定ステップと、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食量推定方法、腐食量推定装置、及び鉄筋コンクリートの管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートにおける鉄筋の腐食状態や鉄筋コンクリートに発生するひび割れを評価する技術が数多く知られている。例えば、特許文献1には、コンクリート中性化深さの差をパラメータαとして試験より求めて鉄筋コンクリート中にある鉄筋の発錆時期を計算する方法、鉄筋コンクリート中の鉄筋位置での相対湿度による腐食速度を試験より求め、腐食開始後の腐食減量比を計算する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、鉄筋コンクリート構造物に発生したひび割れの実測データに基づいて算出した推定単位ひび割れ幅と、推定単位ひび割れ本数とから推定平均ひび割れ幅を算出し、算出した推定平均ひび割れ幅と、ひび割れの実測データに基づいて取得した実測平均ひび割れ幅と実測最大ひび割れ幅との関係に基づいて、新設する鉄筋コンクリート構造物の最大ひび割れ幅を推定する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、コンクリート構造物の自主管理支援システムとして、携帯型のひび割れ幅測定装置を用いて管理者が定期的に測定したコンクリート構造物のひび割れ幅データを自主管理支援サーバに対して送信し、自主管理支援サーバにおいて、受信したひび割れ幅データを時系列に記憶し、さらに、定期的に測定されたひび割れ幅データの経時変化に基づいて、コンクリート構造物の劣化度を判定することが開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、腐食による鉄筋コンクリート構造物の寿命予測に関する技術として、かぶり厚さ、丸鋼の鉄筋径、塩分濃度、水セメント比、温度、湿度、酸素濃度から腐食による鉄筋コンクリート構造物の寿命を予測することが開示されている。
【0006】
また、従来の鉄筋コンクリート構造物の寿命予測は、鉄筋として丸鋼を想定したものであるが、異形鉄筋は丸鋼に比べてひび割れ発生限界腐食量が大きくなることが知られている(例えば、非特許文献2を参照)。更に、従来の鉄筋コンクリート構造物の寿命予測は、塩分混入コンクリートを対象したものが殆どであるが、塩害による腐食とコンクリートの中性化による腐食では、錆の形態が異なることが知られている(例えば、非特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4108568号公報
【特許文献2】特開2009−19472号公報
【特許文献3】特開2008−107198号公報
【特許文献4】特開2002−328096号公報
【0008】
【非特許文献1】森永繁、入野一男、太田達見、土本凱士、「腐食による鉄筋コンクリート構造物の寿命予測 コンクリート工学論文集」、1990年1月、第1巻第1号、p.177−188
【非特許文献2】武若耕司、松本進、「コンクリート中の鉄筋腐食がRC部材の力学的性状に及ぼす影響 第6回コンクリート工学年次講演会論文集」、1984年、p.177−180
【非特許文献3】須田久美子、MISRA Sudhir、本橋賢一、「腐食ひび割れ発生限界腐食量に関する解析的検討 コンクリート工学年次論文報告集」、1992年、Vol.14,No.1、p.751−756
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鉄筋コンクリートにおける鉄筋の腐食状態や鉄筋コンクリートに発生するひび割れを評価する技術(以下、従来の評価技術という。)が数多く知られている。そして、従来の評価技術は、鉄筋コンクリートの鉄筋として丸鋼を用い、また、塩害による腐食を想定したものが殆どである。しかしながら、既存の鉄筋コンクリート構造物では、鉄筋には丸鋼ではなく異形鉄筋が用いられていることが多く、従来の評価技術では、既存の鉄筋コンクリート構造物の正確な評価が行えないといった懸念がある。
【0010】
本発明では、上記の問題に鑑み、異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食を従来よりも精度よく推定可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上述した課題を解決するため、試験体から得られる異形鉄筋径毎の定数及びひび割れ発生時腐食と、腐食量を推定する鉄筋コンクリートのひび割れ幅、かぶり厚さに基づいて、腐食量を推定することとした。
【0012】
より詳細には、本発明は、異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定方法であって、鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を取得する定数情報取得ステップと、前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に対応する前記定数情報と、に基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定ステップと、を備える。
【0013】
本発明に係る腐食量推定方法によれば、腐食量を推定するに際して、異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を考慮することで、異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食量を精度よく推定することができる。定数情報は、試験体の腐食量と試験体のひび割れの測定指標を予め試験によって求めることで得ることができる。測定指標には、試験体のひび割れ幅が例示される。なお、ひび割れ幅に代えて、表面変位量を用いてもよい。表面変位量とは、試験体の表面に存在するひび割れの変形量を意味する。ひび割れ発生時腐食量情報は、試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関する情報である。本発明に係る腐食量推定方法では、定数情報及びひび割れ発生時腐食情報は、試験体から予め得ることができる。従って、推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅情報とかぶり厚さ情報と異形鉄筋径に対応する前記定数情報によって腐食量を推定することができる。
【0014】
ここで、鉄筋コンクリート構造物のうち、建築構造物では、塩害による腐食よりも鉄筋コンクリートの中性化による腐食が問題となっている。しかしながら、従来の評価技術は、塩害による腐食に関するものが多く、鉄筋コンクリートの中性化による腐食量を推定可能な技術が求められている。
【0015】
そこで、本発明に係る腐食量推定方法において、前記ひび割れ発生時腐食量情報は、鉄筋コンクリートの中性化による中性化腐食量情報と、塩害による塩害腐食量情報とを含み
、前記定数情報は、鉄筋コンクリートの中性化による中性化定数情報と、塩害による塩害定数情報とを含み、前記腐食量推定ステップでは、前記推定対象となる鉄筋コンクリートにおける異形鉄筋の腐食が該鉄筋コンクリートの中性化による場合、前記ひび割れ発生時腐食量情報として前記中性化腐食量情報を用い、前記定数情報として、前記中性化定数情報を用いて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定し、前記推定対象となる鉄筋コンクリートにおける異形鉄筋の腐食が塩害による場合、前記ひび割れ発生時腐食量情報として前記塩害腐食量情報を用い、前記定数情報として、前記塩害定数情報を用いて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定するようにしてもよい。
【0016】
本発明によれば、鉄筋コンクリートの中性化による腐食の腐食量も容易かつ精度よく推定することができる。
【0017】
ここで、本発明に係る腐食量推定方法における前記腐食量推定ステップでは、前記ひび割れ発生時の腐食量に対して、前記ひび割れ幅を前記かぶり厚さで除し、かつ前記異形鉄筋径毎の定数を乗じた値を加えることで、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定してもよい。
【0018】
また、本発明に係る腐食量推定方法において、前記腐食量推定ステップでは、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋同士の間隔に関する鉄筋間隔情報を更に考慮して、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定してもよい。異形鉄筋同士の間隔、換言すると鉄筋ピッチを更に考慮することで、より精度よく鉄筋コンクリートの腐食量を推定することができる。
【0019】
また、本発明に係る腐食量推定方法は、前記腐食量推定ステップで推定された腐食量に基づいて、前記腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートからのコンクリートの剥離の危険性を評価する剥離評価ステップを更に備えるようにしてもよい。本発明によれば、コンクリートの剥離の危険性を評価することが可能となる。
【0020】
また、前記剥離評価ステップでは、前記コンクリートの剥離の危険性を段階的に判断するための複数の判断基準と前記腐食量推定ステップで推定された腐食量とを比較し、前記推定対象となる鉄筋コンクリートからのコンクリートの剥離の危険性を段階的に評価するようにしてもよい。本発明によれば、鉄筋コンクリートの余寿命や補修時期を精度よく判断することが可能となる。
【0021】
ここで、上述した本発明に係る腐食量推定方法は、コンピュータが各ステップを実行することで腐食量の推定を容易に行うことができる。但し、必ずしもコンピュータが各ステップを実行する必要はない。
【0022】
また、本発明は、上述した腐食量推定方法を実現させるプログラムであってもよい。更に、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体であってもよい。この場合、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。なお、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【0023】
更に、本発明は、上述した腐食量推定方法を実行する腐食量推定処理装置として特定することもできる。具体的には、本発明は、異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定装置であって、鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報
を記憶する記憶部と、前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部で取得された、前記ひび割れ発生時腐食量情報と、前記ひび割れ幅情報と、前記かぶり厚さ情報と、前記鉄筋径情報に対応する前記定数情報と、に基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定部と、前記腐食量推定部による推定結果を出力する出力部と、を備える。
【0024】
更に、本発明は、上述した腐食量推定方法を活用した、鉄筋コンクリートの管理方法として特定することもできる。具体的には、本発明は、上述した腐食量推定方法を実行する工程を簡易診断工程と位置づけ、該簡易診断工程と、簡易診断工程の診断結果に基づいて、更なる診断が必要とされる場合に実行する、腐食量の推定を簡易診断工程よりも詳細に行う詳細診断工程と、簡易診断工程又は詳細診断工程の診断結果に基づいて、改修が必要とされる場合に実行する、延命化対策工程と、を含む鉄筋コンクリートの管理方法として特定することもできる。
【0025】
本発明によれば、上述した腐食量推定方法を活用し、鉄筋コンクリートの適切な管理を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食を従来よりも精度よく推定可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に係る腐食量推定装置の概略構成を示す。
【図2】実施形態に係る腐食量推定装置の機能ブロック図を示す。
【図3】鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定処理のフロー図を示す。
【図4】入力画面の一例を示す。
【図5A】電食による腐食促進試験結果のうち、中性化によるひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。
【図5B】電食による腐食促進試験結果のうち、塩害によるひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。
【図6】腐食量とひび割れ幅に関するグラフの一例を示す。
【図7】単位ひび割れ幅当りの腐食量とかぶり厚さの逆数に関するグラフの一例を示す。
【図8】定数情報に関するデータベースの一例を示す。
【図9】腐食レベル判断テーブルの一例を示す。
【図10】入力画面のその他の例を示す。
【図11】腐食量推定方法を活用した、鉄筋コンクリートの管理方法の手順を示す。
【図12】劣化レベルの判定指標を示す。
【図13】第一試験における、試験体の形状および寸法を示す。
【図14】第一試験における試験体を電食する様子を示す。
【図15A】第二試験における、試験体の形状および寸法を示す(@50)。
【図15B】第二試験における、試験体の形状および寸法を示す(@75)。
【図15C】第二試験における、試験体の形状および寸法を示す(@100)。
【図16】第二試験における、剥離方法の様子を示す。
【図17】第二試験における、ひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。
【図18】第二試験における、ひび割れ幅と鉄筋ピッチの関係を示す。
【図19】主筋の平均腐食量と剥離応力の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明に係る腐食量推定方法の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、腐食量推定方法を腐食量推定装置によって実現する場合を例に説明する。また、本発明に係る腐食量推定方法を活用した、鉄筋コンクリートの管理方法についても合わせて説明する。
【0029】
[第一実施形態]
<構成>
図1は、実施形態に係る腐食量推定装置(以下、単に推定装置ともいう。)5の概略構成を示す。図2は、推定装置5の機能ブロック図を示す。推定装置5は、汎用のコンピュータによって構成され、制御部10を格納する筐体1、ディスプレイ等の表示部2、ポインティングデバイスやキーボード等の操作部3、外部機器と接続可能なインターフェース4備える。
【0030】
表示部2は、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、CRT(Cathode Ray Tube)、エレクトロルミネッセンスパネル等である。操作部3は、コンピュータの入力装置であり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス等が含まれる。キーボードは、ユーザの入力操作に応じて、入力されたキーに対応する電気信号をキーボードの不図示のキーボードコントローラに送信する。キーボードコントローラは、その電気信号に対応する符号をCPU11に送信する。CPU11は、ユーザの入力操作に応じて、文字入力先を示す文字カーソルを画面上に表示し、画面上を移動させる。ポインティングデバイスは、ユーザ操作を検知して、操作信号を不図示のポインティングデバイス制御装置(例えば、不図示のマウスコントローラ、又は、インターフェース4等)に送信する。CPU11のデバイスドライバは、ポインティングデバイス制御装置からの操作信号に基づき、表示部2上の画面にポインタを表示し、画面上を移動させる。インターフェース4は、USB等のシリアルインターフェース、あるいは、PCI(Peripheral Component Interconnect)、ISA(Industry Standard Architecture )、EISA(Extended ISA)、ATA(AT Attachment)、IDE(Integrated Drive Electronics)、IEEE1394、SCSI(Small Computer System Interface)等のパラレルインターフェースのいずれでもよい。
【0031】
制御部10は、CPU(中央演算処理装置)11、メモリ12、情報取得部13、推定部14、剥離評価部15、出力部16、記憶部17を備える。CPU11は、バスを介して上述した記憶部17等の各ハードウェアと接続されている。CPU11は、記憶部17等のハードウェアを制御すると共に、例えばメモリ12に格納された制御プログラムに従って、所定の処理を実行する。
【0032】
メモリ12は、揮発性のRAM(Random Access Memory)と、不揮発性のROM(Read Only Memory)を含む。ROMには、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read−Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read−Only Memory)のような書き換え可能な半導体メモリを含む。
【0033】
記憶部17は、ハードディスクドライブ(以下、HDDとする。)や半導体メモリにより構成することができる。記憶部17は、例えば、異形鉄筋の腐食量と鉄筋コンクリートのひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報
を記憶する。
【0034】
情報取得部13は、鉄筋コンクリートからなる試験体のひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報を取得する。これらの各情報は、操作部3を介して入力することができ、その結果、情報取得部13は、各情報を取得することができる。
【0035】
推定部14は、情報取得部13で取得された、ひび割れ発生時腐食量情報と、ひび割れ幅情報と、かぶり厚さ情報と、鉄筋径情報によって特定される記憶部17に記憶される定数情報と、に基づいて、推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する。
【0036】
出力部16は、推定部14で算出された推定結果、すなわち鉄筋コンクリートの腐食量を出力する。具体的には、出力部16は、例えば推定結果を表示部2に表示させる。なお、出力部16は、インターフェース4を介して推定装置5の外部に出力することもできる。
【0037】
<腐食量推定処理>
図3は、鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定処理(以下、単に推定処理ともいう)のフロー図を示す。ステップS01では、情報取得部13は、ひび割れ発生時腐食量情報、ひび割れ幅情報、かぶり厚さ情報、鉄筋径情報を取得する。ひび割れ発生時腐食量情報、ひび割れ幅情報、かぶり厚さ情報は、操作部3を介して入力される。また、定数情報は、鉄筋径情報を操作部3を介して入力することで取得される。
【0038】
図4は、入力画面の一例を示す。このような入力画面は、表示部2に表示される。試験者等は、操作部3を介して必要な情報を入力する。図4に示す入力画面は、ひび割れ発生時腐食量入力領域、かぶり厚さ入力領域、ひび割れ幅入力領域、鉄筋径入力領域、腐食の原因入力領域、決定ボタン、リセットボタンを有する。鉄筋径(鉄筋径情報)は、例えばD13、D16から選択可能である。また、腐食の原因については、塩害、中性化、塩害+中性化から選択可能である。その後、決定ボタンが選択されることで、推定処理が開始される。また、リセットボタンが選択されると、入力した情報が初期化される。
【0039】
ここで、情報取得部13が取得する各種情報、換言すると、操作部3を介して入力されるパラメータであって、推定処理に必要なパラメータについて説明する。
【0040】
ひび割れ発生時腐食量は、ひび割れ発生時における腐食量であり、電食による腐食促進試験により予め得ることができる。図5Aは、電食による腐食促進試験結果のうち、中性化によるひび割れ発生時の腐食量のグラフであり、図5Bは、電食による腐食促進試験結果のうち、塩害によるひび割れ発生時の腐食量のグラフである。何れのグラフも、横軸は、かぶり厚と鉄筋径(異形鉄筋の鉄筋径)であり、縦軸はひび割れ発生時の腐食量を示す。図5Aに示すように、例えば中性化によるひび割れ発生時の腐食量Q0は、かぶり厚15mm、鉄筋径D13の場合、平均値は約15mg/cm2であり、標準偏差σは約9mg/cm2である。また、図5Bに示すように、例えば、塩害によるひび割れ発生時の腐食量Q0は、かぶり厚15mm、鉄筋径D13の場合、平均値は約20mg/cm2であり、標準偏差σは約5mg/cm2である。ひび割れ発生時腐食量は、操作部3を介して直接入力してもよく、また、鉄筋径及びかぶり厚が入力されると自動的に選択されるようにしてもよい。鉄筋径とは、本実施形態では、異形鉄筋の径を意味する。かぶり厚さは、鉄筋から試験体の表面までの距離を意味する。
【0041】
ひび割れ幅情報は、ひび割れの幅に関する情報であり、本実施形態では最大ひび割れ幅を意味する。なお、ひび割れ幅情報に代えて、表面変位量に関する表面変位量情報を用いてもよい。表面変位量とは、鉄筋コンクリートの表面に存在するひび割れの変形量を意味する。
【0042】
定数情報は、異形鉄筋の径毎に与えられる定数であり、異形鉄筋の腐食量と鉄筋コンクリートのひび割れの測定指標との相関関係から求めることができる。ここで、図6は、腐食量とひび割れ幅に関するグラフの一例である。図6において、横軸は最大ひび割れ幅であり、縦軸は腐食量を示し、図6は、鉄筋径がD13であり、腐食の原因が中性化の場合の腐食量のグラフに関する。図6には、3つの回帰直線(かぶり厚が15mm(図6においてC15で示す)、かぶり厚が30mm(図6においてC30で示す)、かぶり厚が45mm(図6においてC45で示す))が示されている。例えば、かぶり厚15mmに関する回帰直線は、図5Aにおけるひび割れ発生時の腐食量の平均値(●印)をy切片とする回帰式に対応する。図6における回帰式の傾きは、ひび割れ幅が1mm広がるときの腐食量によって算出される。なお、図6に示すように、腐食量とひび割れ幅には比例関係が確認できる。
【0043】
また、図7は、単位ひび割れ幅当りの腐食量とかぶり厚さの逆数に関するグラフの一例である。図7において、横軸はかぶり厚さの逆数であり、縦軸は単位ひび割れ幅当りの腐食量、換言すると図6における回帰直線の傾きを示す。図7に示す回帰直線は、鉄筋径がD13の場合であり、図6に示す3つの回帰直線の傾きから算出される。そして、図7に示す回帰直線の傾きが、定数情報に相当する。すなわち、鉄筋径がD13であり、腐食の原因が中性化の場合における定数情報は、8104(約8100)となる。以上説明した手順によって定数情報を鉄筋径及び腐食の原因毎に算出し、記憶部17に予め記憶させる。図8は、定数情報に関するデータベースの一例を示す。図8に示すデータベースは、腐食の原因が中性化によるものであり、鉄筋径D13と鉄筋径D16の夫々の定数情報を格納する。
【0044】
情報取得部13による各情報の取得が完了すると、ステップS02へ進む。ステップS02では、推定部14は、情報取得部13で取得された、ひび割れ発生時腐食量情報と、ひび割れ幅情報と、かぶり厚さ情報と、鉄筋径情報から特定される定数情報と、に基づいて、推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する。具体的には、式1によって、ひび割れ幅から腐食量が推定される。なお、式1は、図7に示す回帰式に対応する。腐食量が推定されると、ステップS03へ進む。
ΔQ=Q0+a・w/C・・・式1
ΔQ:腐食量 (mg/cm2)
C:かぶり厚さ(mm)
w:ひび割れ幅(mm)
Q0:ひび割れ発生時の腐食量
中性化による腐食の場合:Q0=15mg/cm2
塩分による腐食の場合:Q0=20mg/cm2
a:鉄筋径によって決まる定数
ひび割れ幅の場合,D13では8100,D16では5600
【0045】
ステップS03では、剥離評価部15は、推定された腐食量の腐食レベルを判定する。ここで、図9は、腐食レベル判断テーブルの一例を示す。図9に示す腐食レベル判断テーブルは、記憶部13に格納され、腐食量に応じて劣化状態が予め規定されている。剥離評価部15は、記憶部17に格納される腐食レベル判断テーブルにアクセスし、推定された腐食量に基づいて腐食レベルを判定する。腐食レベルの判定が完了すると、ステップS04へ進む。なお、ステップS03の処理を省略してより簡易な処理としてもよい。
【0046】
ステップS04では、出力部16は、腐食レベルの判定結果を出力する。例えば、腐食レベルがレベルAと判定された場合には、出力部16は、表示部2に、メッセージとして「レベルA:微小なひび割れ程度で全く問題なし」を表示させる。なお、ステップS03の処理を省略した場合には、出力部16は、表示部2に、推定された腐食量を表示させることができる。腐食レベルの判定結果の出力が完了すると、腐食量推定処理が終了する。
【0047】
<腐食量推定処理の変形例>
次に、腐食量推定処理の変形例について説明する。変形例に係る腐食量推定処理では、更に鉄筋ピッチを考慮して、腐食量を推定する。具体的には、図3に示す腐食量推定処理のステップS01において、情報取得部13は、更に鉄筋同士の間隔に関する鉄筋間隔情報(鉄筋ピッチ)を取得する。ここで、図10は、入力画面のその他の例を示す。図10に示す入力画面は、鉄筋ピッチ入力領域を更に有しており、操作部3を介して、鉄筋ピッチの選択が可能である。鉄筋ピッチは、50mm(@50)から150mm(@150)の範囲で選択可能である。なお、直接数値を入力できるようにしてもよい。
【0048】
また、ステップS02では、推定部14は、情報取得部13で取得された、ひび割れ発生時腐食量情報と、ひび割れ幅情報と、かぶり厚さ情報と、鉄筋間隔情報(鉄筋ピッチ)と、鉄筋径情報によって特定される定数情報と、に基づいて、推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する。具体的には、式2によって、ひび割れ幅から腐食量が推定される。なお、式2の適用範囲は、鉄筋径D13からD16、鉄筋ピッチ@50から150である。
ΔQ=Q0+a・w・(@−50)/100/C・・・式2
ΔQ:腐食量(mg/cm2)
C:かぶり厚さ(mm)
w:ひび割れ幅(mm)
Q0:ひび割れ発生時の腐食量
中性化による腐食の場合:Q0=15mg/cm2
塩分による腐食の場合:Q0=20mg/cm2
a:鉄筋径によって決まる定数
ひび割れ幅の場合,D13では8100,D16では5600
【0049】
なお、ステップS03では、腐食量推定処理と同じく、剥離評価部15は、推定された腐食量の腐食レベルを判定する。また、腐食レベルの判定に代えて、剥離評価部15は、推定された腐食量が、予め規定した剥離基準値を上回っているか否か判定してもよい。剥離基準値は、例えば、40mg/cm2とすることができる。ステップS04では、出力部16は、腐食レベルの判定結果、又は推定された腐食量が、予め規定した剥離基準値を上回っているか否かを出力する。例えば、推定された腐食量が、予め規定した剥離基準値を上回っていると判定された場合には、出力部16は、表示部2に、メッセージとして「推定された腐食量が、予め規定した剥離基準値を上回っています」を表示させる。以上により、鉄変形例に係る筋腐食量推定処理が終了する。
【0050】
<効果>
以上説明した実施形態に係る腐食量推定装置5によれば、腐食量を推定するに際して、異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を考慮することで、ひび割れ幅から、異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食量を容易かつ精度よく評価することができる。また、変形例に係る腐食量推定処理によれば、鉄筋ピッチを変更しての腐食の推定が可能となり、既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食量をより精度よく評価することができる。
【0051】
<活用方法>
次に、上述した腐食量推定方法の活用方法について説明する。図11は、腐食量推定方法を活用した、鉄筋コンクリートの管理方法の手順を示す。ステップS11では、簡易診断工程として、上述した腐食量推定処理(ステップS01からステップS04)が行われる。簡易診断工程は、極力躯体を傷めずに短期間に経済的な方法で劣化診断や余寿命評価を行えればよい。従って、腐食ひび割れが生じている場合には、腐食量推定処理を行うことが好ましいが、他の評価方法を用いてもよい。例えば、上述した腐食量推定処理におけるステップ01、02に代えて、若しくは、ステップ01、02の処理と共に、特許第4108568号公報(特許文献1)に記載の方法によって腐食量を算出するようにしてもよい。簡易診断工程では、非破壊検査を主体とすることが好ましく、中性化深さについては小径ドリルを用いた微破壊の検査とする。なお、劣化診断および余寿命の評価方法は、調査結果に基づき、中性化残り、腐食確率、腐食量を算出し、建物の目標供用期間経過後(例えば30年後)の劣化レベルを推定し判定することができる。簡易診断工程では、検査精度、サンプリングによるバラツキを考慮して、評価結果に余裕をもたせて判断することが好ましい。簡易診断工程が終了すると、ステップS12へ進む。
【0052】
ステップS12では、詳細診断工程を行うか否かが判断される。簡易診断工程において、レベルA(微小なひび割れ程度で全く問題なし)又はレベルB(各所にひび割れが発生する)との判定結果が出力されている場合には、余寿命が十分にある(ステップS13)と判断される。また、簡易診断工程において、レベルC(浮きが生じ各所に剥離があり、使用性に問題あり)又はレベルD(鉄筋の断面が欠損し部材の構造性能に問題あり)との判定結果が出力されている場合には、詳細診断工程(ステップS14)、若しくは、延命化対策工程(ステップS16)へ進む。
【0053】
なお、簡易診断工程では、中性化残り、腐食確率、腐食量を算出してもよく、この場合には、例えば、図12に示す劣化レベルの判定指標に基づいて、詳細診断工程を行うか否かを判断してもよい。図12は、劣化レベルの判定指標を示す。
【0054】
ステップS14では、腐食量の推定を簡易診断工程よりも詳細に行う詳細診断工程が行われる。詳細診断工程では、コアボーリングやはつり調査等の破壊検査、自然電位・分極抵抗などの非破壊検査により、広範な範囲について詳細な調査が行われる。その結果、中性化残り、腐食確率、腐食量が算出され、更に、例えば図12に示す劣化レベルの判定指標に基づいて、劣化レベルが判定される。詳細診断工程が終了すると、ステップS15へ進む。
【0055】
ステップS15では、延命化対策工程を行うか否かが判断される。詳細診断工程において、レベルA(微小なひび割れ程度で全く問題なし)又はレベルB(各所にひび割れが発生する)との判定結果が出力されている場合には、余寿命が十分にある(ステップS13)と判断される。また、詳細診断工程において、レベルC(浮きが生じ各所に剥離があり、使用性に問題あり)又はレベルD(鉄筋の断面が欠損し部材の構造性能に問題あり)との判定結果が出力されている場合には、延命化対策工程(ステップS16)、若しくは、建替え等についての検討(ステップS17)へ進む。
【0056】
ステップS16では、延命化対策が行われる。具体的には、改修・補修技術、耐久性回復技術の適用検討、概算補修費用の算出が行われる。その後、コストメリットがあるか否かの判断が行われ、コストメリットがあれば改修等が行われる。一方、コストメリットが無い場合には、ステップS17へ進み、建替え等についての検討が行われる。
【0057】
以上説明したように、腐食量推定方法を活用することで、十分な余寿命があるか、延命化対策を行う必要があるかといった判断を容易に行うことができ、その結果、鉄筋コンク
リート構造物の管理を適切に行うことが可能となる。
【0058】
<試験>
次に、先に行った試験について説明する。
【0059】
[第一試験]
腐食量とひび割れ幅の関係を確認するための試験(以下、第一試験ともいう)では、鉄筋の腐食が始まり構造物が劣化する過程において、コンクリート表面の外観変化、すなわちひび割れの発生状況から、腐食の進行程度を簡便に評価する手法の検討を目的に行った。
【0060】
(第一試験の概要)
材料には普通ポルトランドセメント、鹿島陸砂(粗粒率:2.65,表乾比重:2.62g/cm3,吸水率:2.13%)、岩舟産砂岩(粗粒率:6.64,表乾比重:2.66g/cm3,吸水率:0.88%)、AE減水剤標準型を使用した。塩化物イオン量の調整には市販の人工海水を用いた。コンクリートの調合と試験結果を表1に示す。また、試験因子と水準を表2に示す。鉄筋径、かぶり厚さおよび劣化要因(中性化、塩害)を因子とした。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
試験体の形状および寸法を図13に示す。鉄筋に導通用コードを取り付けエポキシ樹脂でコーティングした。鉄筋の交差部には配力筋に絶縁テープを巻いた。コンクリートを打込み脱型した後、試験面以外の4面に樹脂モルタルを設置した。材齢28日まで気中養生を行った。その後中性化試験体は、高濃度の炭酸ガス雰囲気下でかぶり深さまでコンクリートを中性化させた。塩害試験体は塩化物イオンを2.4kg/m3内在させたコンクリートを用いた。
【0064】
20℃湿度95%以上の室内にて、図14に示すように鉄筋に電流を流入させ電食させた。塩害試験体は材齢50日から電食を開始し、中性化試験体は、全ての試験体の中性化処理が終了した後(材齢150日)から電食を開始した。鉄筋コンクリート面に配した陰極は、電食中に表面ひび割れが目視観察できる形状とし、電極とコンクリート間の接触抵抗を下げる目的で電解液を用いた。試験体は積算電流量で2〜4種類とした。
【0065】
電食時には通電量と表面のひび割れ幅の記録を行った。電食を終了した後、試験体から鉄筋をはつり出してクエン酸二アンモニウム10%と2−メルカプトベンゾチアゾール1
50ppm溶液に1時間浸漬後、ワイヤーブラシで除去し腐食区間に対する腐食量を求めた。
【0066】
(第一試験の結果)
図5Aは、電食による腐食促進試験結果のうち、中性化によるひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。図5Bは、電食による腐食促進試験結果のうち、塩害によるひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。図5Aに示すように、例えば中性化によるひび割れ発生時の腐食量Q0は、かぶり厚15mm、鉄筋径D13の場合、平均値は約15mg/cm2であり、標準偏差σは約9mg/cm2であることが確認された。また、図5Bに示すように、例えば、塩害によるひび割れ発生時の腐食量Q0は、かぶり厚15mm、鉄筋径D13の場合、平均値は約20mg/cm2であり、標準偏差σは約5mg/cm2であることが確認された。
【0067】
先に説明したように、図6は、腐食量とひび割れ幅に関するグラフの一例である。図6には、3つの回帰直線が示されている。例えば、かぶり厚15mmに関する回帰直線は、図5Aにおけるひび割れ発生時の腐食量の平均値(●印)をy切片とする回帰式に対応する。何れの回帰直線においてもひび割れの増大に伴い腐食量が大きくなる傾向であることが確認された。
【0068】
また、図7は、単位ひび割れ幅当りの腐食量とかぶり厚さの逆数に関するグラフの一例である。図7に示すように、単位ひび割れ幅当りの腐食量、換言すると図6における回帰直線の傾きと、かぶり厚さの逆数は、比例関係にあることが確認された。従って、ΔQ:腐食量 (mg/cm2)、C:かぶり厚さ(mm)、w:ひび割れ幅(mm)、Q0:ひび割れ発生時の腐食量には、ΔQ=Q0 + a・w/Cの関係式が成り立つことが確認された。
【0069】
[第二試験]
鉄筋ピッチが異なる場合の腐食量適用式の適用性を確認するための試験及びかぶりコンクリートの剥離・剥落の危険性の評価方法を確認するための試験(以下、第二試験ともいう)は、鉄筋ピッチが異なる場合の腐食量適用式の適用性の確認、及びかぶりコンクリートの剥離・剥落の危険性の評価方法の確認を目的に行った。
【0070】
(第二試験の概要)
コンクリートの調合と試験結果を表3に示す。使用材料は腐食量とひび割れ幅の関係を確認するための試験と同じとした。調合は塩化物イオン量2.4kg/m3を混入したものとした。
【0071】
【表3】
【0072】
試験体の形状および寸法を図15A、図15B、図15Cに示す。鉄筋はD16、かぶり厚さは30mmとし、鉄筋ピッチを50mm、75mm、100mmの3種類とした。鉄筋には通電用のコードを取り付け、端部をポキシ樹脂でコーティングした。厚さ200mmのスラブを模擬してコンクリートを打込み、下面の主筋を試験対象として電食させた。試験体は目標とする腐食量が40mg/cm2、60mg/cm2となるよう各2体作成した。比較用として、電食させない試験体も作成した。なお、本試験体では、小口面のひ
び割れを観察する目的で、樹脂モルタルは設置しなかった。
【0073】
電食方法は、第一試験と同じ方法とし、主筋それぞれに対して1台の直流安定化電源用いた。材齢50日から電食を開始した。
【0074】
電食時には通電量と小口面のひび割れ幅と表面のひび割れ幅をクラックゲージおよびマイクロスコープで測定した。電食終了後、割れ領域を確認する目的で小口面のひび割れからインクを染み込ませたのち、図16に示すように配力筋を反力台に載せ主筋を載荷して、かぶりコンクリートの剥離荷重を測定した。取り出した鉄筋を、クエン酸二アンモニウム10%と2−メルカプトベンゾチアゾール150ppm溶液に1時間浸漬後、ワイヤーブラシで除去し重量減少量を測定した。
【0075】
(第二試験の結果)
図17は、第二試験における、ひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。図18は、第二試験における、ひび割れ幅と鉄筋ピッチの関係を示す。図17に示すように、鉄筋ピッチ50mmでは、上面にひび割れが発生せず、鉄筋ピッチ75mm及び鉄筋ピッチ100mmでは、上面にひび割れが発生した。従って、鉄筋ピッチが75mm以上であればひび割れ幅から腐食量を推定できることが確認された。また、図18に示すように、鉄筋ピッチが狭くなると、同じ腐食量であっても表面変位が小さくなり、鉄筋ピッチと表面変位が比例関係にあることが確認された。第一試験において、単位ひび割れ幅当りの腐食量、換言すると図6における回帰直線の傾きと、かぶり厚さの逆数は、比例関係にあることが確認され、また、第二試験において、鉄筋ピッチと表面変位が比例関係にあることが確認された。従って、鉄筋ピッチを考慮すると、ΔQ:腐食量 (mg/cm2)、C:かぶり厚さ(mm)、w:ひび割れ幅(mm)、Q0:ひび割れ発生時の腐食量、@鉄筋ピッチには、ΔQ=Q0 + a・w(@−50)/100/Cの関係式が成り立つ。
【0076】
図19に主筋の平均腐食量と剥離応力の関係を示す。剥離応力は健全なものでも0.6N/mm2程度であり、コンクリート母材の割裂引張り強度の試験値2.6N/mm2に対し、約1/4程度と小さいことが確認された。第二試験によれば健全なものに対し腐食量が40mg/cm2程度までであれば、剥離応力の低下は僅かであることが確認された。一方で、60mg/cm2程度まで腐食が進行すると剥離応力は約1/3程度まで低下していることが確認された。従って、鉄筋径D16、かぶり厚さ30mmの条件では、腐食量60mg/cm2が使用性の限界であり、基準値としては剥離応力の低下が僅かである40mg/cm2とすることが好ましいことが確認された。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明はこれらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・筐体
2・・・表示部
3・・・操作部
4・・・インターフェース
5・・・推定装置
10・・・制御部
11・・・CPU
12・・・メモリ
13・・・情報取得部
14・・・算出部
15・・・剥離評価部
16・・・出力部
17・・・記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食量推定方法、腐食量推定装置、及び鉄筋コンクリートの管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートにおける鉄筋の腐食状態や鉄筋コンクリートに発生するひび割れを評価する技術が数多く知られている。例えば、特許文献1には、コンクリート中性化深さの差をパラメータαとして試験より求めて鉄筋コンクリート中にある鉄筋の発錆時期を計算する方法、鉄筋コンクリート中の鉄筋位置での相対湿度による腐食速度を試験より求め、腐食開始後の腐食減量比を計算する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、鉄筋コンクリート構造物に発生したひび割れの実測データに基づいて算出した推定単位ひび割れ幅と、推定単位ひび割れ本数とから推定平均ひび割れ幅を算出し、算出した推定平均ひび割れ幅と、ひび割れの実測データに基づいて取得した実測平均ひび割れ幅と実測最大ひび割れ幅との関係に基づいて、新設する鉄筋コンクリート構造物の最大ひび割れ幅を推定する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、コンクリート構造物の自主管理支援システムとして、携帯型のひび割れ幅測定装置を用いて管理者が定期的に測定したコンクリート構造物のひび割れ幅データを自主管理支援サーバに対して送信し、自主管理支援サーバにおいて、受信したひび割れ幅データを時系列に記憶し、さらに、定期的に測定されたひび割れ幅データの経時変化に基づいて、コンクリート構造物の劣化度を判定することが開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、腐食による鉄筋コンクリート構造物の寿命予測に関する技術として、かぶり厚さ、丸鋼の鉄筋径、塩分濃度、水セメント比、温度、湿度、酸素濃度から腐食による鉄筋コンクリート構造物の寿命を予測することが開示されている。
【0006】
また、従来の鉄筋コンクリート構造物の寿命予測は、鉄筋として丸鋼を想定したものであるが、異形鉄筋は丸鋼に比べてひび割れ発生限界腐食量が大きくなることが知られている(例えば、非特許文献2を参照)。更に、従来の鉄筋コンクリート構造物の寿命予測は、塩分混入コンクリートを対象したものが殆どであるが、塩害による腐食とコンクリートの中性化による腐食では、錆の形態が異なることが知られている(例えば、非特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4108568号公報
【特許文献2】特開2009−19472号公報
【特許文献3】特開2008−107198号公報
【特許文献4】特開2002−328096号公報
【0008】
【非特許文献1】森永繁、入野一男、太田達見、土本凱士、「腐食による鉄筋コンクリート構造物の寿命予測 コンクリート工学論文集」、1990年1月、第1巻第1号、p.177−188
【非特許文献2】武若耕司、松本進、「コンクリート中の鉄筋腐食がRC部材の力学的性状に及ぼす影響 第6回コンクリート工学年次講演会論文集」、1984年、p.177−180
【非特許文献3】須田久美子、MISRA Sudhir、本橋賢一、「腐食ひび割れ発生限界腐食量に関する解析的検討 コンクリート工学年次論文報告集」、1992年、Vol.14,No.1、p.751−756
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鉄筋コンクリートにおける鉄筋の腐食状態や鉄筋コンクリートに発生するひび割れを評価する技術(以下、従来の評価技術という。)が数多く知られている。そして、従来の評価技術は、鉄筋コンクリートの鉄筋として丸鋼を用い、また、塩害による腐食を想定したものが殆どである。しかしながら、既存の鉄筋コンクリート構造物では、鉄筋には丸鋼ではなく異形鉄筋が用いられていることが多く、従来の評価技術では、既存の鉄筋コンクリート構造物の正確な評価が行えないといった懸念がある。
【0010】
本発明では、上記の問題に鑑み、異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食を従来よりも精度よく推定可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上述した課題を解決するため、試験体から得られる異形鉄筋径毎の定数及びひび割れ発生時腐食と、腐食量を推定する鉄筋コンクリートのひび割れ幅、かぶり厚さに基づいて、腐食量を推定することとした。
【0012】
より詳細には、本発明は、異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定方法であって、鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を取得する定数情報取得ステップと、前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に対応する前記定数情報と、に基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定ステップと、を備える。
【0013】
本発明に係る腐食量推定方法によれば、腐食量を推定するに際して、異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を考慮することで、異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食量を精度よく推定することができる。定数情報は、試験体の腐食量と試験体のひび割れの測定指標を予め試験によって求めることで得ることができる。測定指標には、試験体のひび割れ幅が例示される。なお、ひび割れ幅に代えて、表面変位量を用いてもよい。表面変位量とは、試験体の表面に存在するひび割れの変形量を意味する。ひび割れ発生時腐食量情報は、試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関する情報である。本発明に係る腐食量推定方法では、定数情報及びひび割れ発生時腐食情報は、試験体から予め得ることができる。従って、推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅情報とかぶり厚さ情報と異形鉄筋径に対応する前記定数情報によって腐食量を推定することができる。
【0014】
ここで、鉄筋コンクリート構造物のうち、建築構造物では、塩害による腐食よりも鉄筋コンクリートの中性化による腐食が問題となっている。しかしながら、従来の評価技術は、塩害による腐食に関するものが多く、鉄筋コンクリートの中性化による腐食量を推定可能な技術が求められている。
【0015】
そこで、本発明に係る腐食量推定方法において、前記ひび割れ発生時腐食量情報は、鉄筋コンクリートの中性化による中性化腐食量情報と、塩害による塩害腐食量情報とを含み
、前記定数情報は、鉄筋コンクリートの中性化による中性化定数情報と、塩害による塩害定数情報とを含み、前記腐食量推定ステップでは、前記推定対象となる鉄筋コンクリートにおける異形鉄筋の腐食が該鉄筋コンクリートの中性化による場合、前記ひび割れ発生時腐食量情報として前記中性化腐食量情報を用い、前記定数情報として、前記中性化定数情報を用いて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定し、前記推定対象となる鉄筋コンクリートにおける異形鉄筋の腐食が塩害による場合、前記ひび割れ発生時腐食量情報として前記塩害腐食量情報を用い、前記定数情報として、前記塩害定数情報を用いて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定するようにしてもよい。
【0016】
本発明によれば、鉄筋コンクリートの中性化による腐食の腐食量も容易かつ精度よく推定することができる。
【0017】
ここで、本発明に係る腐食量推定方法における前記腐食量推定ステップでは、前記ひび割れ発生時の腐食量に対して、前記ひび割れ幅を前記かぶり厚さで除し、かつ前記異形鉄筋径毎の定数を乗じた値を加えることで、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定してもよい。
【0018】
また、本発明に係る腐食量推定方法において、前記腐食量推定ステップでは、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋同士の間隔に関する鉄筋間隔情報を更に考慮して、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定してもよい。異形鉄筋同士の間隔、換言すると鉄筋ピッチを更に考慮することで、より精度よく鉄筋コンクリートの腐食量を推定することができる。
【0019】
また、本発明に係る腐食量推定方法は、前記腐食量推定ステップで推定された腐食量に基づいて、前記腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートからのコンクリートの剥離の危険性を評価する剥離評価ステップを更に備えるようにしてもよい。本発明によれば、コンクリートの剥離の危険性を評価することが可能となる。
【0020】
また、前記剥離評価ステップでは、前記コンクリートの剥離の危険性を段階的に判断するための複数の判断基準と前記腐食量推定ステップで推定された腐食量とを比較し、前記推定対象となる鉄筋コンクリートからのコンクリートの剥離の危険性を段階的に評価するようにしてもよい。本発明によれば、鉄筋コンクリートの余寿命や補修時期を精度よく判断することが可能となる。
【0021】
ここで、上述した本発明に係る腐食量推定方法は、コンピュータが各ステップを実行することで腐食量の推定を容易に行うことができる。但し、必ずしもコンピュータが各ステップを実行する必要はない。
【0022】
また、本発明は、上述した腐食量推定方法を実現させるプログラムであってもよい。更に、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体であってもよい。この場合、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。なお、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【0023】
更に、本発明は、上述した腐食量推定方法を実行する腐食量推定処理装置として特定することもできる。具体的には、本発明は、異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定装置であって、鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報
を記憶する記憶部と、前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部で取得された、前記ひび割れ発生時腐食量情報と、前記ひび割れ幅情報と、前記かぶり厚さ情報と、前記鉄筋径情報に対応する前記定数情報と、に基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定部と、前記腐食量推定部による推定結果を出力する出力部と、を備える。
【0024】
更に、本発明は、上述した腐食量推定方法を活用した、鉄筋コンクリートの管理方法として特定することもできる。具体的には、本発明は、上述した腐食量推定方法を実行する工程を簡易診断工程と位置づけ、該簡易診断工程と、簡易診断工程の診断結果に基づいて、更なる診断が必要とされる場合に実行する、腐食量の推定を簡易診断工程よりも詳細に行う詳細診断工程と、簡易診断工程又は詳細診断工程の診断結果に基づいて、改修が必要とされる場合に実行する、延命化対策工程と、を含む鉄筋コンクリートの管理方法として特定することもできる。
【0025】
本発明によれば、上述した腐食量推定方法を活用し、鉄筋コンクリートの適切な管理を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食を従来よりも精度よく推定可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に係る腐食量推定装置の概略構成を示す。
【図2】実施形態に係る腐食量推定装置の機能ブロック図を示す。
【図3】鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定処理のフロー図を示す。
【図4】入力画面の一例を示す。
【図5A】電食による腐食促進試験結果のうち、中性化によるひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。
【図5B】電食による腐食促進試験結果のうち、塩害によるひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。
【図6】腐食量とひび割れ幅に関するグラフの一例を示す。
【図7】単位ひび割れ幅当りの腐食量とかぶり厚さの逆数に関するグラフの一例を示す。
【図8】定数情報に関するデータベースの一例を示す。
【図9】腐食レベル判断テーブルの一例を示す。
【図10】入力画面のその他の例を示す。
【図11】腐食量推定方法を活用した、鉄筋コンクリートの管理方法の手順を示す。
【図12】劣化レベルの判定指標を示す。
【図13】第一試験における、試験体の形状および寸法を示す。
【図14】第一試験における試験体を電食する様子を示す。
【図15A】第二試験における、試験体の形状および寸法を示す(@50)。
【図15B】第二試験における、試験体の形状および寸法を示す(@75)。
【図15C】第二試験における、試験体の形状および寸法を示す(@100)。
【図16】第二試験における、剥離方法の様子を示す。
【図17】第二試験における、ひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。
【図18】第二試験における、ひび割れ幅と鉄筋ピッチの関係を示す。
【図19】主筋の平均腐食量と剥離応力の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明に係る腐食量推定方法の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、腐食量推定方法を腐食量推定装置によって実現する場合を例に説明する。また、本発明に係る腐食量推定方法を活用した、鉄筋コンクリートの管理方法についても合わせて説明する。
【0029】
[第一実施形態]
<構成>
図1は、実施形態に係る腐食量推定装置(以下、単に推定装置ともいう。)5の概略構成を示す。図2は、推定装置5の機能ブロック図を示す。推定装置5は、汎用のコンピュータによって構成され、制御部10を格納する筐体1、ディスプレイ等の表示部2、ポインティングデバイスやキーボード等の操作部3、外部機器と接続可能なインターフェース4備える。
【0030】
表示部2は、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、CRT(Cathode Ray Tube)、エレクトロルミネッセンスパネル等である。操作部3は、コンピュータの入力装置であり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス等が含まれる。キーボードは、ユーザの入力操作に応じて、入力されたキーに対応する電気信号をキーボードの不図示のキーボードコントローラに送信する。キーボードコントローラは、その電気信号に対応する符号をCPU11に送信する。CPU11は、ユーザの入力操作に応じて、文字入力先を示す文字カーソルを画面上に表示し、画面上を移動させる。ポインティングデバイスは、ユーザ操作を検知して、操作信号を不図示のポインティングデバイス制御装置(例えば、不図示のマウスコントローラ、又は、インターフェース4等)に送信する。CPU11のデバイスドライバは、ポインティングデバイス制御装置からの操作信号に基づき、表示部2上の画面にポインタを表示し、画面上を移動させる。インターフェース4は、USB等のシリアルインターフェース、あるいは、PCI(Peripheral Component Interconnect)、ISA(Industry Standard Architecture )、EISA(Extended ISA)、ATA(AT Attachment)、IDE(Integrated Drive Electronics)、IEEE1394、SCSI(Small Computer System Interface)等のパラレルインターフェースのいずれでもよい。
【0031】
制御部10は、CPU(中央演算処理装置)11、メモリ12、情報取得部13、推定部14、剥離評価部15、出力部16、記憶部17を備える。CPU11は、バスを介して上述した記憶部17等の各ハードウェアと接続されている。CPU11は、記憶部17等のハードウェアを制御すると共に、例えばメモリ12に格納された制御プログラムに従って、所定の処理を実行する。
【0032】
メモリ12は、揮発性のRAM(Random Access Memory)と、不揮発性のROM(Read Only Memory)を含む。ROMには、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read−Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read−Only Memory)のような書き換え可能な半導体メモリを含む。
【0033】
記憶部17は、ハードディスクドライブ(以下、HDDとする。)や半導体メモリにより構成することができる。記憶部17は、例えば、異形鉄筋の腐食量と鉄筋コンクリートのひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報
を記憶する。
【0034】
情報取得部13は、鉄筋コンクリートからなる試験体のひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報を取得する。これらの各情報は、操作部3を介して入力することができ、その結果、情報取得部13は、各情報を取得することができる。
【0035】
推定部14は、情報取得部13で取得された、ひび割れ発生時腐食量情報と、ひび割れ幅情報と、かぶり厚さ情報と、鉄筋径情報によって特定される記憶部17に記憶される定数情報と、に基づいて、推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する。
【0036】
出力部16は、推定部14で算出された推定結果、すなわち鉄筋コンクリートの腐食量を出力する。具体的には、出力部16は、例えば推定結果を表示部2に表示させる。なお、出力部16は、インターフェース4を介して推定装置5の外部に出力することもできる。
【0037】
<腐食量推定処理>
図3は、鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定処理(以下、単に推定処理ともいう)のフロー図を示す。ステップS01では、情報取得部13は、ひび割れ発生時腐食量情報、ひび割れ幅情報、かぶり厚さ情報、鉄筋径情報を取得する。ひび割れ発生時腐食量情報、ひび割れ幅情報、かぶり厚さ情報は、操作部3を介して入力される。また、定数情報は、鉄筋径情報を操作部3を介して入力することで取得される。
【0038】
図4は、入力画面の一例を示す。このような入力画面は、表示部2に表示される。試験者等は、操作部3を介して必要な情報を入力する。図4に示す入力画面は、ひび割れ発生時腐食量入力領域、かぶり厚さ入力領域、ひび割れ幅入力領域、鉄筋径入力領域、腐食の原因入力領域、決定ボタン、リセットボタンを有する。鉄筋径(鉄筋径情報)は、例えばD13、D16から選択可能である。また、腐食の原因については、塩害、中性化、塩害+中性化から選択可能である。その後、決定ボタンが選択されることで、推定処理が開始される。また、リセットボタンが選択されると、入力した情報が初期化される。
【0039】
ここで、情報取得部13が取得する各種情報、換言すると、操作部3を介して入力されるパラメータであって、推定処理に必要なパラメータについて説明する。
【0040】
ひび割れ発生時腐食量は、ひび割れ発生時における腐食量であり、電食による腐食促進試験により予め得ることができる。図5Aは、電食による腐食促進試験結果のうち、中性化によるひび割れ発生時の腐食量のグラフであり、図5Bは、電食による腐食促進試験結果のうち、塩害によるひび割れ発生時の腐食量のグラフである。何れのグラフも、横軸は、かぶり厚と鉄筋径(異形鉄筋の鉄筋径)であり、縦軸はひび割れ発生時の腐食量を示す。図5Aに示すように、例えば中性化によるひび割れ発生時の腐食量Q0は、かぶり厚15mm、鉄筋径D13の場合、平均値は約15mg/cm2であり、標準偏差σは約9mg/cm2である。また、図5Bに示すように、例えば、塩害によるひび割れ発生時の腐食量Q0は、かぶり厚15mm、鉄筋径D13の場合、平均値は約20mg/cm2であり、標準偏差σは約5mg/cm2である。ひび割れ発生時腐食量は、操作部3を介して直接入力してもよく、また、鉄筋径及びかぶり厚が入力されると自動的に選択されるようにしてもよい。鉄筋径とは、本実施形態では、異形鉄筋の径を意味する。かぶり厚さは、鉄筋から試験体の表面までの距離を意味する。
【0041】
ひび割れ幅情報は、ひび割れの幅に関する情報であり、本実施形態では最大ひび割れ幅を意味する。なお、ひび割れ幅情報に代えて、表面変位量に関する表面変位量情報を用いてもよい。表面変位量とは、鉄筋コンクリートの表面に存在するひび割れの変形量を意味する。
【0042】
定数情報は、異形鉄筋の径毎に与えられる定数であり、異形鉄筋の腐食量と鉄筋コンクリートのひび割れの測定指標との相関関係から求めることができる。ここで、図6は、腐食量とひび割れ幅に関するグラフの一例である。図6において、横軸は最大ひび割れ幅であり、縦軸は腐食量を示し、図6は、鉄筋径がD13であり、腐食の原因が中性化の場合の腐食量のグラフに関する。図6には、3つの回帰直線(かぶり厚が15mm(図6においてC15で示す)、かぶり厚が30mm(図6においてC30で示す)、かぶり厚が45mm(図6においてC45で示す))が示されている。例えば、かぶり厚15mmに関する回帰直線は、図5Aにおけるひび割れ発生時の腐食量の平均値(●印)をy切片とする回帰式に対応する。図6における回帰式の傾きは、ひび割れ幅が1mm広がるときの腐食量によって算出される。なお、図6に示すように、腐食量とひび割れ幅には比例関係が確認できる。
【0043】
また、図7は、単位ひび割れ幅当りの腐食量とかぶり厚さの逆数に関するグラフの一例である。図7において、横軸はかぶり厚さの逆数であり、縦軸は単位ひび割れ幅当りの腐食量、換言すると図6における回帰直線の傾きを示す。図7に示す回帰直線は、鉄筋径がD13の場合であり、図6に示す3つの回帰直線の傾きから算出される。そして、図7に示す回帰直線の傾きが、定数情報に相当する。すなわち、鉄筋径がD13であり、腐食の原因が中性化の場合における定数情報は、8104(約8100)となる。以上説明した手順によって定数情報を鉄筋径及び腐食の原因毎に算出し、記憶部17に予め記憶させる。図8は、定数情報に関するデータベースの一例を示す。図8に示すデータベースは、腐食の原因が中性化によるものであり、鉄筋径D13と鉄筋径D16の夫々の定数情報を格納する。
【0044】
情報取得部13による各情報の取得が完了すると、ステップS02へ進む。ステップS02では、推定部14は、情報取得部13で取得された、ひび割れ発生時腐食量情報と、ひび割れ幅情報と、かぶり厚さ情報と、鉄筋径情報から特定される定数情報と、に基づいて、推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する。具体的には、式1によって、ひび割れ幅から腐食量が推定される。なお、式1は、図7に示す回帰式に対応する。腐食量が推定されると、ステップS03へ進む。
ΔQ=Q0+a・w/C・・・式1
ΔQ:腐食量 (mg/cm2)
C:かぶり厚さ(mm)
w:ひび割れ幅(mm)
Q0:ひび割れ発生時の腐食量
中性化による腐食の場合:Q0=15mg/cm2
塩分による腐食の場合:Q0=20mg/cm2
a:鉄筋径によって決まる定数
ひび割れ幅の場合,D13では8100,D16では5600
【0045】
ステップS03では、剥離評価部15は、推定された腐食量の腐食レベルを判定する。ここで、図9は、腐食レベル判断テーブルの一例を示す。図9に示す腐食レベル判断テーブルは、記憶部13に格納され、腐食量に応じて劣化状態が予め規定されている。剥離評価部15は、記憶部17に格納される腐食レベル判断テーブルにアクセスし、推定された腐食量に基づいて腐食レベルを判定する。腐食レベルの判定が完了すると、ステップS04へ進む。なお、ステップS03の処理を省略してより簡易な処理としてもよい。
【0046】
ステップS04では、出力部16は、腐食レベルの判定結果を出力する。例えば、腐食レベルがレベルAと判定された場合には、出力部16は、表示部2に、メッセージとして「レベルA:微小なひび割れ程度で全く問題なし」を表示させる。なお、ステップS03の処理を省略した場合には、出力部16は、表示部2に、推定された腐食量を表示させることができる。腐食レベルの判定結果の出力が完了すると、腐食量推定処理が終了する。
【0047】
<腐食量推定処理の変形例>
次に、腐食量推定処理の変形例について説明する。変形例に係る腐食量推定処理では、更に鉄筋ピッチを考慮して、腐食量を推定する。具体的には、図3に示す腐食量推定処理のステップS01において、情報取得部13は、更に鉄筋同士の間隔に関する鉄筋間隔情報(鉄筋ピッチ)を取得する。ここで、図10は、入力画面のその他の例を示す。図10に示す入力画面は、鉄筋ピッチ入力領域を更に有しており、操作部3を介して、鉄筋ピッチの選択が可能である。鉄筋ピッチは、50mm(@50)から150mm(@150)の範囲で選択可能である。なお、直接数値を入力できるようにしてもよい。
【0048】
また、ステップS02では、推定部14は、情報取得部13で取得された、ひび割れ発生時腐食量情報と、ひび割れ幅情報と、かぶり厚さ情報と、鉄筋間隔情報(鉄筋ピッチ)と、鉄筋径情報によって特定される定数情報と、に基づいて、推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する。具体的には、式2によって、ひび割れ幅から腐食量が推定される。なお、式2の適用範囲は、鉄筋径D13からD16、鉄筋ピッチ@50から150である。
ΔQ=Q0+a・w・(@−50)/100/C・・・式2
ΔQ:腐食量(mg/cm2)
C:かぶり厚さ(mm)
w:ひび割れ幅(mm)
Q0:ひび割れ発生時の腐食量
中性化による腐食の場合:Q0=15mg/cm2
塩分による腐食の場合:Q0=20mg/cm2
a:鉄筋径によって決まる定数
ひび割れ幅の場合,D13では8100,D16では5600
【0049】
なお、ステップS03では、腐食量推定処理と同じく、剥離評価部15は、推定された腐食量の腐食レベルを判定する。また、腐食レベルの判定に代えて、剥離評価部15は、推定された腐食量が、予め規定した剥離基準値を上回っているか否か判定してもよい。剥離基準値は、例えば、40mg/cm2とすることができる。ステップS04では、出力部16は、腐食レベルの判定結果、又は推定された腐食量が、予め規定した剥離基準値を上回っているか否かを出力する。例えば、推定された腐食量が、予め規定した剥離基準値を上回っていると判定された場合には、出力部16は、表示部2に、メッセージとして「推定された腐食量が、予め規定した剥離基準値を上回っています」を表示させる。以上により、鉄変形例に係る筋腐食量推定処理が終了する。
【0050】
<効果>
以上説明した実施形態に係る腐食量推定装置5によれば、腐食量を推定するに際して、異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を考慮することで、ひび割れ幅から、異形鉄筋を用いた既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食量を容易かつ精度よく評価することができる。また、変形例に係る腐食量推定処理によれば、鉄筋ピッチを変更しての腐食の推定が可能となり、既存の鉄筋コンクリート構造物における腐食量をより精度よく評価することができる。
【0051】
<活用方法>
次に、上述した腐食量推定方法の活用方法について説明する。図11は、腐食量推定方法を活用した、鉄筋コンクリートの管理方法の手順を示す。ステップS11では、簡易診断工程として、上述した腐食量推定処理(ステップS01からステップS04)が行われる。簡易診断工程は、極力躯体を傷めずに短期間に経済的な方法で劣化診断や余寿命評価を行えればよい。従って、腐食ひび割れが生じている場合には、腐食量推定処理を行うことが好ましいが、他の評価方法を用いてもよい。例えば、上述した腐食量推定処理におけるステップ01、02に代えて、若しくは、ステップ01、02の処理と共に、特許第4108568号公報(特許文献1)に記載の方法によって腐食量を算出するようにしてもよい。簡易診断工程では、非破壊検査を主体とすることが好ましく、中性化深さについては小径ドリルを用いた微破壊の検査とする。なお、劣化診断および余寿命の評価方法は、調査結果に基づき、中性化残り、腐食確率、腐食量を算出し、建物の目標供用期間経過後(例えば30年後)の劣化レベルを推定し判定することができる。簡易診断工程では、検査精度、サンプリングによるバラツキを考慮して、評価結果に余裕をもたせて判断することが好ましい。簡易診断工程が終了すると、ステップS12へ進む。
【0052】
ステップS12では、詳細診断工程を行うか否かが判断される。簡易診断工程において、レベルA(微小なひび割れ程度で全く問題なし)又はレベルB(各所にひび割れが発生する)との判定結果が出力されている場合には、余寿命が十分にある(ステップS13)と判断される。また、簡易診断工程において、レベルC(浮きが生じ各所に剥離があり、使用性に問題あり)又はレベルD(鉄筋の断面が欠損し部材の構造性能に問題あり)との判定結果が出力されている場合には、詳細診断工程(ステップS14)、若しくは、延命化対策工程(ステップS16)へ進む。
【0053】
なお、簡易診断工程では、中性化残り、腐食確率、腐食量を算出してもよく、この場合には、例えば、図12に示す劣化レベルの判定指標に基づいて、詳細診断工程を行うか否かを判断してもよい。図12は、劣化レベルの判定指標を示す。
【0054】
ステップS14では、腐食量の推定を簡易診断工程よりも詳細に行う詳細診断工程が行われる。詳細診断工程では、コアボーリングやはつり調査等の破壊検査、自然電位・分極抵抗などの非破壊検査により、広範な範囲について詳細な調査が行われる。その結果、中性化残り、腐食確率、腐食量が算出され、更に、例えば図12に示す劣化レベルの判定指標に基づいて、劣化レベルが判定される。詳細診断工程が終了すると、ステップS15へ進む。
【0055】
ステップS15では、延命化対策工程を行うか否かが判断される。詳細診断工程において、レベルA(微小なひび割れ程度で全く問題なし)又はレベルB(各所にひび割れが発生する)との判定結果が出力されている場合には、余寿命が十分にある(ステップS13)と判断される。また、詳細診断工程において、レベルC(浮きが生じ各所に剥離があり、使用性に問題あり)又はレベルD(鉄筋の断面が欠損し部材の構造性能に問題あり)との判定結果が出力されている場合には、延命化対策工程(ステップS16)、若しくは、建替え等についての検討(ステップS17)へ進む。
【0056】
ステップS16では、延命化対策が行われる。具体的には、改修・補修技術、耐久性回復技術の適用検討、概算補修費用の算出が行われる。その後、コストメリットがあるか否かの判断が行われ、コストメリットがあれば改修等が行われる。一方、コストメリットが無い場合には、ステップS17へ進み、建替え等についての検討が行われる。
【0057】
以上説明したように、腐食量推定方法を活用することで、十分な余寿命があるか、延命化対策を行う必要があるかといった判断を容易に行うことができ、その結果、鉄筋コンク
リート構造物の管理を適切に行うことが可能となる。
【0058】
<試験>
次に、先に行った試験について説明する。
【0059】
[第一試験]
腐食量とひび割れ幅の関係を確認するための試験(以下、第一試験ともいう)では、鉄筋の腐食が始まり構造物が劣化する過程において、コンクリート表面の外観変化、すなわちひび割れの発生状況から、腐食の進行程度を簡便に評価する手法の検討を目的に行った。
【0060】
(第一試験の概要)
材料には普通ポルトランドセメント、鹿島陸砂(粗粒率:2.65,表乾比重:2.62g/cm3,吸水率:2.13%)、岩舟産砂岩(粗粒率:6.64,表乾比重:2.66g/cm3,吸水率:0.88%)、AE減水剤標準型を使用した。塩化物イオン量の調整には市販の人工海水を用いた。コンクリートの調合と試験結果を表1に示す。また、試験因子と水準を表2に示す。鉄筋径、かぶり厚さおよび劣化要因(中性化、塩害)を因子とした。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
試験体の形状および寸法を図13に示す。鉄筋に導通用コードを取り付けエポキシ樹脂でコーティングした。鉄筋の交差部には配力筋に絶縁テープを巻いた。コンクリートを打込み脱型した後、試験面以外の4面に樹脂モルタルを設置した。材齢28日まで気中養生を行った。その後中性化試験体は、高濃度の炭酸ガス雰囲気下でかぶり深さまでコンクリートを中性化させた。塩害試験体は塩化物イオンを2.4kg/m3内在させたコンクリートを用いた。
【0064】
20℃湿度95%以上の室内にて、図14に示すように鉄筋に電流を流入させ電食させた。塩害試験体は材齢50日から電食を開始し、中性化試験体は、全ての試験体の中性化処理が終了した後(材齢150日)から電食を開始した。鉄筋コンクリート面に配した陰極は、電食中に表面ひび割れが目視観察できる形状とし、電極とコンクリート間の接触抵抗を下げる目的で電解液を用いた。試験体は積算電流量で2〜4種類とした。
【0065】
電食時には通電量と表面のひび割れ幅の記録を行った。電食を終了した後、試験体から鉄筋をはつり出してクエン酸二アンモニウム10%と2−メルカプトベンゾチアゾール1
50ppm溶液に1時間浸漬後、ワイヤーブラシで除去し腐食区間に対する腐食量を求めた。
【0066】
(第一試験の結果)
図5Aは、電食による腐食促進試験結果のうち、中性化によるひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。図5Bは、電食による腐食促進試験結果のうち、塩害によるひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。図5Aに示すように、例えば中性化によるひび割れ発生時の腐食量Q0は、かぶり厚15mm、鉄筋径D13の場合、平均値は約15mg/cm2であり、標準偏差σは約9mg/cm2であることが確認された。また、図5Bに示すように、例えば、塩害によるひび割れ発生時の腐食量Q0は、かぶり厚15mm、鉄筋径D13の場合、平均値は約20mg/cm2であり、標準偏差σは約5mg/cm2であることが確認された。
【0067】
先に説明したように、図6は、腐食量とひび割れ幅に関するグラフの一例である。図6には、3つの回帰直線が示されている。例えば、かぶり厚15mmに関する回帰直線は、図5Aにおけるひび割れ発生時の腐食量の平均値(●印)をy切片とする回帰式に対応する。何れの回帰直線においてもひび割れの増大に伴い腐食量が大きくなる傾向であることが確認された。
【0068】
また、図7は、単位ひび割れ幅当りの腐食量とかぶり厚さの逆数に関するグラフの一例である。図7に示すように、単位ひび割れ幅当りの腐食量、換言すると図6における回帰直線の傾きと、かぶり厚さの逆数は、比例関係にあることが確認された。従って、ΔQ:腐食量 (mg/cm2)、C:かぶり厚さ(mm)、w:ひび割れ幅(mm)、Q0:ひび割れ発生時の腐食量には、ΔQ=Q0 + a・w/Cの関係式が成り立つことが確認された。
【0069】
[第二試験]
鉄筋ピッチが異なる場合の腐食量適用式の適用性を確認するための試験及びかぶりコンクリートの剥離・剥落の危険性の評価方法を確認するための試験(以下、第二試験ともいう)は、鉄筋ピッチが異なる場合の腐食量適用式の適用性の確認、及びかぶりコンクリートの剥離・剥落の危険性の評価方法の確認を目的に行った。
【0070】
(第二試験の概要)
コンクリートの調合と試験結果を表3に示す。使用材料は腐食量とひび割れ幅の関係を確認するための試験と同じとした。調合は塩化物イオン量2.4kg/m3を混入したものとした。
【0071】
【表3】
【0072】
試験体の形状および寸法を図15A、図15B、図15Cに示す。鉄筋はD16、かぶり厚さは30mmとし、鉄筋ピッチを50mm、75mm、100mmの3種類とした。鉄筋には通電用のコードを取り付け、端部をポキシ樹脂でコーティングした。厚さ200mmのスラブを模擬してコンクリートを打込み、下面の主筋を試験対象として電食させた。試験体は目標とする腐食量が40mg/cm2、60mg/cm2となるよう各2体作成した。比較用として、電食させない試験体も作成した。なお、本試験体では、小口面のひ
び割れを観察する目的で、樹脂モルタルは設置しなかった。
【0073】
電食方法は、第一試験と同じ方法とし、主筋それぞれに対して1台の直流安定化電源用いた。材齢50日から電食を開始した。
【0074】
電食時には通電量と小口面のひび割れ幅と表面のひび割れ幅をクラックゲージおよびマイクロスコープで測定した。電食終了後、割れ領域を確認する目的で小口面のひび割れからインクを染み込ませたのち、図16に示すように配力筋を反力台に載せ主筋を載荷して、かぶりコンクリートの剥離荷重を測定した。取り出した鉄筋を、クエン酸二アンモニウム10%と2−メルカプトベンゾチアゾール150ppm溶液に1時間浸漬後、ワイヤーブラシで除去し重量減少量を測定した。
【0075】
(第二試験の結果)
図17は、第二試験における、ひび割れ発生時の腐食量のグラフを示す。図18は、第二試験における、ひび割れ幅と鉄筋ピッチの関係を示す。図17に示すように、鉄筋ピッチ50mmでは、上面にひび割れが発生せず、鉄筋ピッチ75mm及び鉄筋ピッチ100mmでは、上面にひび割れが発生した。従って、鉄筋ピッチが75mm以上であればひび割れ幅から腐食量を推定できることが確認された。また、図18に示すように、鉄筋ピッチが狭くなると、同じ腐食量であっても表面変位が小さくなり、鉄筋ピッチと表面変位が比例関係にあることが確認された。第一試験において、単位ひび割れ幅当りの腐食量、換言すると図6における回帰直線の傾きと、かぶり厚さの逆数は、比例関係にあることが確認され、また、第二試験において、鉄筋ピッチと表面変位が比例関係にあることが確認された。従って、鉄筋ピッチを考慮すると、ΔQ:腐食量 (mg/cm2)、C:かぶり厚さ(mm)、w:ひび割れ幅(mm)、Q0:ひび割れ発生時の腐食量、@鉄筋ピッチには、ΔQ=Q0 + a・w(@−50)/100/Cの関係式が成り立つ。
【0076】
図19に主筋の平均腐食量と剥離応力の関係を示す。剥離応力は健全なものでも0.6N/mm2程度であり、コンクリート母材の割裂引張り強度の試験値2.6N/mm2に対し、約1/4程度と小さいことが確認された。第二試験によれば健全なものに対し腐食量が40mg/cm2程度までであれば、剥離応力の低下は僅かであることが確認された。一方で、60mg/cm2程度まで腐食が進行すると剥離応力は約1/3程度まで低下していることが確認された。従って、鉄筋径D16、かぶり厚さ30mmの条件では、腐食量60mg/cm2が使用性の限界であり、基準値としては剥離応力の低下が僅かである40mg/cm2とすることが好ましいことが確認された。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明はこれらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・筐体
2・・・表示部
3・・・操作部
4・・・インターフェース
5・・・推定装置
10・・・制御部
11・・・CPU
12・・・メモリ
13・・・情報取得部
14・・・算出部
15・・・剥離評価部
16・・・出力部
17・・・記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定方法であって、
鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を取得する定数情報取得ステップと、
前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報によって特定される前記定数情報とに基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定ステップと、
を備える腐食量推定方法。
【請求項2】
前記ひび割れ発生時腐食量情報は、鉄筋コンクリートの中性化による中性化腐食量情報と、塩害による塩害腐食量情報とを含み、
前記定数情報は、鉄筋コンクリートの中性化による中性化定数情報と、塩害による塩害定数情報とを含み、
前記腐食量推定ステップでは、前記推定対象となる鉄筋コンクリートにおける異形鉄筋の腐食が該鉄筋コンクリートの中性化による場合、前記ひび割れ発生時腐食量情報として前記中性化腐食量情報を用い、前記定数情報として、前記中性化定数情報を用いて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定し、前記推定対象となる鉄筋コンクリートにおける異形鉄筋の腐食が塩害による場合、前記ひび割れ発生時腐食量情報として前記塩害腐食量情報を用い、前記定数情報として、前記塩害定数情報を用いて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する、請求項1に記載の腐食量推定方法。
【請求項3】
前記腐食量推定ステップでは、前記ひび割れ発生時の腐食量に対して、前記ひび割れ幅を前記かぶり厚さで除し、かつ前記異形鉄筋径毎の定数を乗じた値を加えることで、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する、請求項1又は2に記載の腐食量推定方法。
【請求項4】
前記腐食量推定ステップでは、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋同士の間隔に関する鉄筋間隔情報を更に考慮して、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する、請求項1から3の何れか1項に記載の腐食量推定方法。
【請求項5】
前記腐食量推定ステップで推定された腐食量に基づいて、前記腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートからのコンクリートの剥離の危険性を評価する剥離評価ステップを更に備える、請求項1から4の何れか1項に記載の腐食量推定方法。
【請求項6】
前記剥離評価ステップでは、前記コンクリートの剥離の危険性を段階的に判断するための複数の判断基準と前記腐食量推定ステップで推定された腐食量とを比較し、前記推定対象となる鉄筋コンクリートからのコンクリートの剥離の危険性を段階的に評価する、請求項5に記載の腐食量推定方法。
【請求項7】
異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定装置であって、
鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を記憶する記憶部と、
前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対
象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得された、前記ひび割れ発生時腐食量情報と、前記ひび割れ幅情報と、前記かぶり厚さ情報と、前記鉄筋径情報に対応する前記定数情報と、に基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定部と、
前記腐食量推定部による推定結果を出力する出力部と、
を備える腐食量推定装置。
【請求項8】
異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの管理方法であって、
請求項1から6のうち少なくとも何れか1項に記載の腐食量推定方法を実行する簡易診断工程と、
前記簡易診断工程の診断結果に基づいて、更なる診断が必要とされる場合に実行する、腐食量の推定を前記簡易診断工程よりも詳細に行う詳細診断工程と、
前記簡易診断工程又は前記詳細診断工程の診断結果に基づいて、改修が必要とされる場合に実行する、延命化対策工程と、を備える鉄筋コンクリートの管理方法。
【請求項1】
異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定方法であって、
鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を取得する定数情報取得ステップと、
前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報によって特定される前記定数情報とに基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定ステップと、
を備える腐食量推定方法。
【請求項2】
前記ひび割れ発生時腐食量情報は、鉄筋コンクリートの中性化による中性化腐食量情報と、塩害による塩害腐食量情報とを含み、
前記定数情報は、鉄筋コンクリートの中性化による中性化定数情報と、塩害による塩害定数情報とを含み、
前記腐食量推定ステップでは、前記推定対象となる鉄筋コンクリートにおける異形鉄筋の腐食が該鉄筋コンクリートの中性化による場合、前記ひび割れ発生時腐食量情報として前記中性化腐食量情報を用い、前記定数情報として、前記中性化定数情報を用いて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定し、前記推定対象となる鉄筋コンクリートにおける異形鉄筋の腐食が塩害による場合、前記ひび割れ発生時腐食量情報として前記塩害腐食量情報を用い、前記定数情報として、前記塩害定数情報を用いて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する、請求項1に記載の腐食量推定方法。
【請求項3】
前記腐食量推定ステップでは、前記ひび割れ発生時の腐食量に対して、前記ひび割れ幅を前記かぶり厚さで除し、かつ前記異形鉄筋径毎の定数を乗じた値を加えることで、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する、請求項1又は2に記載の腐食量推定方法。
【請求項4】
前記腐食量推定ステップでは、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋同士の間隔に関する鉄筋間隔情報を更に考慮して、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する、請求項1から3の何れか1項に記載の腐食量推定方法。
【請求項5】
前記腐食量推定ステップで推定された腐食量に基づいて、前記腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートからのコンクリートの剥離の危険性を評価する剥離評価ステップを更に備える、請求項1から4の何れか1項に記載の腐食量推定方法。
【請求項6】
前記剥離評価ステップでは、前記コンクリートの剥離の危険性を段階的に判断するための複数の判断基準と前記腐食量推定ステップで推定された腐食量とを比較し、前記推定対象となる鉄筋コンクリートからのコンクリートの剥離の危険性を段階的に評価する、請求項5に記載の腐食量推定方法。
【請求項7】
異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定装置であって、
鉄筋コンクリートからなる試験体の腐食量と該試験体のひび割れの測定指標との相関関係から求められる異形鉄筋径毎の定数に関する定数情報を記憶する記憶部と、
前記試験体から得られるひび割れ発生時の腐食量に関するひび割れ発生時腐食量情報と、腐食量の推定対象となる鉄筋コンクリートのひび割れ幅に関するひび割れ幅情報と、前記推定対象となる鉄筋コンクリートのかぶり厚さに関するかぶり厚さ情報と、前記推定対
象となる鉄筋コンクリートの異形鉄筋径に関する鉄筋径情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得された、前記ひび割れ発生時腐食量情報と、前記ひび割れ幅情報と、前記かぶり厚さ情報と、前記鉄筋径情報に対応する前記定数情報と、に基づいて、前記推定対象となる鉄筋コンクリートの腐食量を推定する腐食量推定部と、
前記腐食量推定部による推定結果を出力する出力部と、
を備える腐食量推定装置。
【請求項8】
異形鉄筋を用いた鉄筋コンクリートの管理方法であって、
請求項1から6のうち少なくとも何れか1項に記載の腐食量推定方法を実行する簡易診断工程と、
前記簡易診断工程の診断結果に基づいて、更なる診断が必要とされる場合に実行する、腐食量の推定を前記簡易診断工程よりも詳細に行う詳細診断工程と、
前記簡易診断工程又は前記詳細診断工程の診断結果に基づいて、改修が必要とされる場合に実行する、延命化対策工程と、を備える鉄筋コンクリートの管理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−257245(P2011−257245A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131429(P2010−131429)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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