説明

腫瘍の療法のためのLCMV−GPシュードタイプ化VSVベクターおよび腫瘍浸潤性ウイルス産生細胞

本発明は、VSVのGタンパク質の代わりにリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPを産生する組換えVSVウイルスおよびウイルスベクター、LCMV−GP−シュードタイプ化VSVビリオンを産生するウイルス産生細胞、並びに固形腫瘍、特に脳腫瘍の療法における前記ベクターおよび細胞の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPをコードする遺伝子を含む水疱性口内炎(VSV)由来組換えウイルスおよびウイルスベクター、GP−LCMV−シュードタイプ化VSVビリオンを産生するパッケージング細胞、並びに固形腫瘍の療法のための薬学的組成物の調製のための前記ビリオンおよびパッケージング細胞の使用に関する。
【0002】
従来技術の説明
原発性頭蓋内脳腫瘍の最大の群である悪性神経膠腫は、依然として解決されていない治療問題を示す。熱心な基礎研究に因りこれらの腫瘍の生物学の知識は増えてきたが、臨床的な進歩および予後は、依然として極めて不良である。
【0003】
悪性神経膠腫は、神経上皮を起源とする腫瘍であり、そして細胞学的に上衣腫、乏突起神経膠腫、乏突起星状細胞腫、星状細胞腫および神経膠芽腫に分類される。60%超の比率を占めるびまん性浸潤性星状細胞腫(WHOグレードII〜IV)は、頭蓋内腫瘍の最大の群を示す。2001年に改訂されたWHO分類は、主として星状細胞腫のための格付けスキームとして確立されている。WHOによると、脳腫瘍は、組織学的基準により4つの悪性度に割り当てられる(KleihusおよびCavenee, 2000)。びまん性浸潤性星状細胞腫の予後は、一般に不良である。予後は、一方で悪性度に依存し、他方で、腫瘍の位置および療法の手順に依存する。WHOグレードIIの星状細胞腫の患者の平均生存率は5年より長く、WHOグレードIIIの星状細胞腫では2〜5年であり、WHOグレードIV(=神経膠芽腫)の星状細胞腫−神経膠芽腫では1年未満である。
【0004】
腫瘍の分子病態発生は、複雑な過程であり、そして細胞周期の制御に関与する種々の遺伝子の突然変異に基づく。癌抑制遺伝子p53の突然変異は、ヒト腫瘍において最も頻繁に見られる変化であり、そして低悪性度の星状細胞腫の発生並びに続発性神経膠芽腫への進行にも関与する。しかしながら、初発の神経膠芽腫は、非常に稀にしかp53の突然変異を有さない。びまん性星状細胞腫の悪性傾向を示すさらに他の遺伝子は、第19染色体の長腕上に存在すると疑われている。神経膠芽腫の症例において頻繁に変化しているさらに他の遺伝子は、癌遺伝子MDM2およびMDM4並びにまた癌抑制遺伝子p14ARFであり、これらはp53依存性の細胞周期の制御に関与している(DaiおよびHolland, 2001)。EGFレセプター遺伝子の増幅が、原発性神経膠芽腫の30〜40%において観察され、それ故、この腫瘍群において最も頻繁に増幅される発癌遺伝子である(Holland, 2001)。大半の悪性神経膠腫は、化学療法または放射線療法に対して良好に応答しない。この理由は、アポトーシスの調節にも関与する細胞周期関連遺伝子の突然変異であると考えられる。
【0005】
悪性神経膠腫のためのより効果的な療法が、緊急に必要とされる。なぜなら、化学療法または放射線療法などの既存の療法からは、疾病の予後に関する有意な改善が、全く期待されないからである。これに対し、神経膠芽腫の遺伝子療法は、有望な可能性を提供し、これを開拓する必要がある。複数の異なる非常に効果的な遺伝子が、この目的のために開発された。それらの殆どについて、動物実験のデータを入手することができる(ShirおよびLevitzki, 2001)。これらの治療遺伝子を、4つの異なる活性原理に割り当てることができる:
(i)いわゆる自殺遺伝子の遺伝子産物は、前駆体を細胞障害性分子へと変換する。例は、ガンシクロビルの投薬と関連した単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(TK)である。特に有利な点は、毒性のあるガンシクロビル三リン酸が隣接細胞に拡散し、それによってバイスタンダー効果が起こることである。近年、この酵素の活性がさらに増加した。HSV TKは、現在、腫瘍細胞並びに移植されたベクター産生細胞を排除するための非常に効率的な可能性のあるものである。
(ii)IL−4などの免疫刺激サイトカインの発現は、腫瘍細胞に対する自然免疫を刺激することができる。
(iii)エンドスタチンなどの抗血管新生タンパク質の分泌により血管が欠失し、それ故、代謝的に非常に活発な腫瘍組織における栄養分の供給が欠乏する。腫瘍は、実質的に「飢餓」する。
(iv)最後に、これらの細胞の制御されていない増殖を阻害するために、腫瘍細胞のシグナル伝達または細胞周期に関与する一連の遺伝子が、記載された。しかしながら、臨床においてこれらの遺伝子を使用する可能性は、限定されている。なぜなら、これらの遺伝子は、遺伝子の改変された細胞自体においてしか作用せず、そして最初に記載した活性原理としてのバイスタンダー効果は有さないからである。このことは、治療効果を達成するために、実質的に全ての悪性細胞を遺伝子的に改変しなければならないことを意味し、これは理想的なベクター系を用いてさえも無理である。
【0006】
良好な神経膠芽腫の遺伝子療法のための最も重要な必要条件は、多数の既存の非常に効果的な作用原理によって提供される。しかしながら、依然として解決されていない問題は、非効率的な遺伝子導入、および標的細胞における治療遺伝子の不十分な発現である。このことは、多数の効率的な治療遺伝子が存在するにも関わらず、臨床では神経膠芽腫の遺伝子療法が失敗している理由である。
【0007】
物理化学的トランスフェクション法を上回るウイルスによる遺伝子導入の利点は、より高い遺伝子導入率および遺伝子の長期発現である。なぜなら、ウイルスは、そのゲノムを細胞に導入しそれを発現させるための特に効率的な機序を発達させてきたからである。特に複製能を有するウイルス、例えばとりわけ、単純ヘルペスウイルス(HSV)、アデノウイルス(Ad)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)および水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、現在、腫瘍退縮ウイルス(OV)として使用されている。神経膠芽腫の最適なウイルス療法のために、OVは以下の特徴を有するべきである:
(i)それらは、腫瘍特異的な指向性を有するべきであり、それによってウイルス複製および細胞溶解は、腫瘍組織に限定されて留まる。ウイルスエンベロープの改変によって、または腫瘍特異的プロモーターの使用によってこの特性を増強させることができる。神経膠腫細胞のほんの一部しか処置中に分裂していないと想定されるので、増殖中の細胞だけでなく休止細胞にも感染するウイルスが有利である。
(ii)安全性に関連する面に関しては、高い遺伝子的安定性および腫瘍組織外における低毒性が、臨床使用のために特に適している。このことは、GMP条件下における高いウイルス力価およびベクターの精製を可能とする。理想的には、OVはヒトに対して非病原性であるべきであり、そして個体群間で低い感染率を有するべきである。既存免疫は時期尚早なウイルスの中和をもたらし、これにより効率的な療法が可能とならないだろう。
【0008】
神経膠芽腫の療法における腫瘍退縮ウイルスの顕著な例は、弱毒化HSV変異体G207および1716並びにアデノウイルスONYX−015である。CNS腫瘍の処置のための腫瘍退縮HSVの使用に対する深刻な反対は、正常な脳細胞におけるその高いレベルの複製であり、これは生命を危うくする脳炎をもたらす可能性がある。さらに、残留する可能性に加えて、潜在性HSVが再活性化される可能性がある。複数の遺伝子を欠失させることによって生成したHSV変異体1716は、CNSの急速に増殖中の細胞において選択的に複製するが、有糸分裂後のニューロン中では複製しない。これにより、HSVの神経毒性はかなり減少した。HSV1716を用いてラットおよびマウスの実験的神経膠腫を処置することより、腫瘍細胞が選択的に破壊されたが、周辺の脳組織は損傷を受けずに留まった。ONYX−015は、神経膠芽腫の療法のために開発されたさらなる腫瘍退縮ウイルスである。このアデノウイルスは、E1B遺伝子の欠失を通して、p53の欠損した細胞を選択的に溶解しようとする。
【0009】
腫瘍退縮HSV並びにONYX−015は、神経膠腫の処置のためにすでに臨床的に試験された。どちらの弱毒化腫瘍退縮ウイルスも、第I/II相臨床試験において十分な安全性を示した。ウイルスを腫瘍内に注射するかまたは切除空洞に注射するかに関係なく、処置に対して良好な耐容性を示し、そして重篤な副作用は、全く観察されなかった。しかしながら、細胞溶解効果は、単なる一過性の性質であり、その後、常に再発を伴った(Cutter et al., 2206)。通常、神経膠腫の増殖速度は、ウイルスの増幅速度および従って伝播波を上回るので、腫瘍退縮のみによる神経膠腫の破壊は疑問である。事実、効率的な処置のために、複数の活性原理の組合せが、必要とされる。OVにおいて自殺遺伝子または免疫調節遺伝子を使用することによって、前臨床試験において相乗作用が、実証された(Tyminski et al., 2005; Fukuhara et al., 2005)。
【0010】
前記のDNAウイルスの他に、腫瘍退縮RNAウイルスも、開発中である。VSVは、エンベロープを有するマイナス鎖のウイルスであり、その宿主域は、げっ歯類および家畜を含む。ヒトへの感染は、稀であり、そして大半は、無症候性である。個体群間の血清有病率は非常に低いために、VSV中和抗体による療法の効率の障害は、予期されない。VSVの感染および細胞質における複製は、細胞周期とは関係なく行なわれ、よって活発に分裂している細胞および休止細胞に同等に感染する。VSVによる新生物細胞の効率的かつ優先的な溶解は、これらの細胞における大半は欠陥のあるインターフェロンシグナル伝達経路および随伴するウイルス複製に関連する(Wollmann et al., 2007)。また、細胞性免疫応答とは関係なく、遺伝子Myc、Rasまたはp53に欠陥を有する腫瘍細胞も、VSVの繁殖を支持することが実証された(Barber, 2004)。VSVの腫瘍特異性は、組換えウイルスの調製によって近年さらに最適化された。ここでの主な焦点は、Mタンパク質に突然変異を有する変異体(ΔM51)である。この変異体は、健康細胞においてインターフェロン応答を妨げることはできず、これによりそのような細胞におけるウイルス複製は、抑制される。IFN応答に欠陥のある腫瘍細胞において、ウイルスは、複製することができ、従って、選択的に腫瘍退縮的に活性であることができる。VSVΔM51は、全身適用後でさえも、マウスモデルにおいてヒト神経膠腫の安全かつ効率的な腫瘍退縮を示した(Lun et al., 2006)。
【0011】
脳への直接的なウイルスベクターの適用には、腫瘍細胞に対する高い選択性が必要とされ、そしてそれは比較的少容量でのみ可能である。従って、効率的な遺伝子導入は、神経膠腫細胞に対して強く発達した指向性を有する高度に濃縮されたベクター調製物(>10/ml)を用いてのみ達成することができる。ガンマレトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターの場合、ベクターの指向性およびベクターの安定性は、非レトロウイルスエンベロープタンパク質を組み込むことによって影響を受け得る。多くの場合、レトロウイルスエンベロープタンパク質は、より安定なVSVのGタンパク質で置換されている。これらのいわゆるシュードタイプ化ベクターの問題は、VSV−Gが、すなわち生産細胞において並びに周囲の健康組織に対して細胞毒性であることであり、これは以前から臨床でこのようなVSV−Gシュードタイプを広範に使用する際の障害であった。
【0012】
本発明者らは以前、CNSの神経膠細胞への効率的な遺伝子の導入を可能とする、レトロウイルスベクタータイプを開発した。この新たなベクタータイプでは、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質(GP)がウイルスエンベロープタンパク質としての機能を果たす(Miletic et al., 1999; Beyer et al., 2002; EP 1 006 196)。比較によるin vitroおよびin vivoにおける指向性研究において、LCMV−GPシュードタイプは優先的に神経膠腫細胞を形質導入することが実証された(Miletic et al., 2004; Miletic et al., 2007)。これに対し、VSV−Gシュードタイプは優先的にニューロンを形質導入し;神経膠腫細胞における遺伝子導入は、LCMV−GPシュードタイプよりも効率が低かった。また、個々の浸潤性腫瘍細胞も、LCMV−GPシュードタイプによって効率的に形質導入された。ラット神経膠腫モデルにおいて、90%のラットが、LCMV−GPシュードタイプ化レンチウイルスベクターの腫瘍内注射によって治癒された(Miletic et al.; 2007b)。使用したベクターは、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(TK)をコードし、形質導入細胞並びに周辺の細胞においてガンシクロビルを細胞障害性の三リン酸化合物へと変換するという効果を伴った。
【0013】
神経膠腫への選択的な遺伝子の導入、しかしまた腫瘍内全体における効率的なベクターの分布も、療法の成功にとって決定的である。それ故、本発明者らは、腫瘍内全体でシュードタイプ化ベクターを放出すると考えられる腫瘍浸潤性パッケージング細胞を開発した(WO 2006/008074)。遊走能を有する有望な細胞型は、骨髄から単離することができる多能性成体前駆細胞である(Jiang et al., 2002)。移植実験において、これらの細胞の遊走挙動を、ラット神経膠腫モデルを使用して調べた。前駆細胞は腫瘍塊に効率的に浸透したが、周辺の健康な脳組織には浸潤しなかったことが実証された(Fischer et al., 2007)。3T3マウス線維芽細胞、Rat−1ラット線維芽細胞またはヒト293Tなどの従来の細胞系は、全く腫瘍への浸潤を示さなかった。むしろ、これらの細胞は、注射部位または近傍に局所的に限定され、そして神経膠腫特異的な遊走は、示さなかった。
【0014】
さらなる研究において、本発明者らは、ラット神経膠腫モデルにおけるTK発現前駆細胞の治療効力を調べた。この研究の結果は、70%のラットにおける腫瘍の破壊は、前駆細胞と腫瘍細胞との間のバイスタンダー効果だけに起因していたというものであった(Miletic et al., 2007)。さらに、画像診断法を用いて、前駆細胞の腫瘍内局在化が、確認された。処置された無症候ラットの脳の組織学的切片は、腫瘍の位置における顕著な瘢痕組織と共に空洞を有し;このことは、動物における腫瘍が、遺伝子療法によって成功裏に根絶されたことを示す。これらの前駆細胞の強力な増殖能のお陰で、遺伝子改変とその後の個々のパッケージング細胞クローンの選択が、可能である。ガンマレトロウイルスLCMV−GPシュードタイプのための、前駆細胞に基づいたパッケージング細胞が、開発された。これらのパッケージング細胞は、1〜7×10E3TU/mlの力価で連続的にレトロウイルスベクターを産生した。力価は数週間にわたりそして細胞の凍結解凍の反復後も安定して留まった(Fischer et al., 2007)。
【0015】
in vivoにおける非効率な遺伝子導入および治療的に効果的な遺伝子がないことが、現在、神経膠芽腫の良好な遺伝子療法の障害となっている。神経膠腫の遺伝子療法および腫瘍退縮ウイルス療法のための以前から公知のベクターは、種々の理由から最適ではない。以前の遺伝子導入法の効率、特異性および安全性を、患者への治療的に効果的な遺伝子の導入が可能となる程度まで高めなければならない。
【0016】
それ故、本発明の目的は、神経膠腫といった高度に悪性の脳腫瘍および他の固形腫瘍の療法用の治療遺伝子のための高度に強力な腫瘍退縮ウイルス遺伝子導入系を開発することである。
【0017】
発明の要約
それ故、本発明の主題は、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPをコードする遺伝子を含み、VSVのエンベロープタンパク質Gをコードする機能的遺伝子を全く含まない、水疱性口内炎ウイルス(VSV)シュードタイプベクターである。LCMV−GPは、LCMVの糖タンパク質GP−1またはGP−2であり得る。
【0018】
さらなる態様によると、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターにおいて、VSVのエンベロープタンパク質Gは、LCMVのGP(LCMV−GP)によって置換されている。
【0019】
さらなる態様によると、前記ベクターは、VSVのタンパク質N、L、PおよびMをコードするn、l、pおよびm遺伝子の群より選択される少なくとも1つの遺伝子を欠失する。
【0020】
さらなる態様によると、VSVのMタンパク質は、VSVの細胞病原性を減少させる突然変異を含む。VSVの細胞病原性を低減させる突然変異の例は、Mタンパク質の37PSAP40領域におけるアミノ酸交換並びに突然変異M33A、M51A、V221F、S226Rまたはその組合せである。
【0021】
さらなる態様によると、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターは、少なくとも1つの治療的に適用可能な導入遺伝子を含む。導入遺伝子は、自殺遺伝子または免疫刺激遺伝子であり得る。自殺遺伝子の例は、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV−TK)、シトシンデアミナーゼ、FKBP−FASまたはFKBP−カスパーゼ9をコードする遺伝子である。免疫刺激遺伝子の例は、サイトカインIL−2、IL−4、IL−12、中和性抗TGFβまたはFlt3Lをコードする遺伝子である。
【0022】
さらなる態様によると、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターは、マーカー遺伝子を含む。マーカー遺伝子は、LacZ、抗生物質耐性遺伝子、または蛍光タンパク質(GFP、REP、GGPなど)をコードする遺伝子であり得る。
【0023】
本発明の主題はさらに、少なくとも2つの補完的で複製性の(cr)VSVベクターを含むVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系であり、前記ベクター系の1つのベクターはLCMV−GPをコードする遺伝子gpを含み、前記ベクター系はさらにVSVのタンパク質N、L、PおよびMをコードする遺伝子n、l、pおよびmを含み、VSVのエンベロープタンパク質Gをコードする機能的遺伝子は全く含まず、前記ベクター系の各ベクターは、遺伝子(「補完的な遺伝子」)gp、n、l、pおよびmの1つを欠失し、そして欠失遺伝子は、前記ベクター系のいずれかの他のベクター上に存在する。遺伝子mおよびgpが、好ましい補完的な遺伝子である。
【0024】
さらなる態様によると、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系のMタンパク質は、前記で説明したように、VSVの細胞病原性を減少させる突然変異を含む。
【0025】
さらなる態様によると、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系は、前記で説明したように、少なくとも1つの治療的に適用可能な導入遺伝子および/またはマーカー遺伝子を含む。導入遺伝子/マーカー遺伝子は、前記ベクター系のいずれかのベクター上に位置し得る。
【0026】
本発明の主題はさらに、エンベロープタンパク質としてLCMVのGPタンパク質を含むLCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオンである。
【0027】
本発明の主題はさらに、LCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオンを産生する、ウイルス産生細胞である。
【0028】
さらなる態様によると、ウイルス産生細胞は、成体幹細胞である。成体幹細胞は、多能性成体前駆細胞(MAPC)、神経幹細胞(NSC)、間葉系幹細胞(MSC)、またはMSCに由来するBM−TIC細胞(骨髄由来腫瘍浸潤細胞)であり得る。
【0029】
さらなる態様によると、ウイルス産生細胞は、VSVのタンパク質N、L、PおよびMをそれぞれコードする遺伝子n、l、pおよびm並びにLCMV−GP糖タンパク質をコードする遺伝子gpからなる群より選択される遺伝子の発現のための1つ以上の発現カセットを含む。
【0030】
さらなる態様によると、ウイルス産生細胞はさらに、LCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオンへのパッケージングのための導入遺伝子用ベクターを含む。
【0031】
さらなる態様によると、遺伝子導入用ベクターは、前記に説明したように、治療的に適用可能な導入遺伝子および/またはマーカー遺伝子を含む。
【0032】
本発明の主題はさらに、細胞に導入遺伝子を導入するためのin vitroにおける方法であり、前記方法においては細胞を、LCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオンを用いて形質導入し、ここで前記ビリオンは導入遺伝子を含む。
【0033】
本発明の主題はさらに、細胞に導入遺伝子を導入するためのin vitroにおける方法であり、前記方法においては細胞を、LCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオンを産生するウイルス産生細胞と接触させ、ここで前記ビリオンは導入遺伝子を含む。
【0034】
細胞が、腫瘍細胞、例えば神経膠腫細胞であることが好ましい。
【0035】
本発明の主題はさらに、固形腫瘍の療法のための薬学的組成物の調製のための本発明のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクターまたはVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系の使用である。
【0036】
本発明の主題は、固形腫瘍の療法のための薬学的組成物の調製のためのLCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオンの使用である。
【0037】
本発明の主題はさらに、固形腫瘍の療法のための薬学的組成物の調製のための本発明のウイルス産生細胞の使用である。腫瘍が、脳腫瘍、特に神経膠腫であることが好ましい。
【0038】
さらなる態様によると、少なくとも2つのウイルス産生細胞が、固形腫瘍の療法のための薬学的組成物の調製のために使用され、第1のウイルス産生細胞は、VSV−LCMV−PGシュードタイプベクター系の第1ベクターを含み、そして第2のパッケージング細胞は、VSV−LCMV−PGシュードタイプベクター系の第2のベクターを含む。
【0039】
さらに、本発明の主題は、VSV−LCMV−PGシュードタイプベクター、VSV−LCMV−PGシュードタイプベクター系、LCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオン、またはLCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオンを産生するウイルス産生細胞を含む薬学的組成物である。前記組成物はまた、適切な補助物質および/または担体を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】LCMV GPを用いてのVSVgfp ncp−ΔGベクターのシュードタイプ化。
【図2】VSV(LCMV GP)ベクターを用いての神経膠腫細胞系の形質導入。
【図3】BM−TICにおけるLCMV GPを用いてのVSVgfp ncp−ΔGベクターのシュードタイプ化。
【図4】cr VSV(LCMV−GP)ベクター系の図解。a)ベクターの1つは、リン酸化タンパク質Pの代わりにrfpを、そしてVSV−Gの代わりにLCMVP−GPを含む。b)補完的なベクターは、a)に欠失しているPタンパク質をコードするが、治療遺伝子として、ウイルス糖タンパク質の代わりに、例えば単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(TK)を含む。両方のベクターが、改変されたM遺伝子(Mncp)を含む。
【図5】ウイルスベクターの図解。最適化ベクターにおいては、Pタンパク質の代わりに治療遺伝子がクローニングされると考えられる。免疫調節遺伝子(IL−12、Flt3L)に加えて、第2ベクターはさらにHSVのチミジンキナーゼも含む。
【0041】
本発明の説明
本発明は、組換え水疱性口内炎ウイルス(VSV)およびVSVベクターに関する。VSVゲノムは、タンパク質L、M、N、PおよびGをコードし、そしてウイルスの繁殖に必須である5つの遺伝子l、m、n、pおよびgを含む。Nは、VSVゲノムRNAをパッケージングする核タンパク質であり;VSVゲノムは、RNA−タンパク質複合体としてしか複製することができない。LおよびPは一緒に、ポリメラーゼ複合体を形成し、これは、VSVゲノムを複製し、そしてVSVmRNAを転写する。Mは、脂質エンベロープとヌクレオカプシドとの間に一種のキットを形成する基質タンパク質であり、そしてこれは細胞膜における粒子の出芽に重要である。Gは、ウイルスエンベロープに取り込まれたエンベロープタンパク質であり、そしてこれはウイルスの感染性に必須である。
【0042】
本発明の主題は、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター、およびLCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオンである。本発明のベクターは、VSVのGタンパク質をコードする遺伝子gの代わりに、GPタンパク質をコードする遺伝子gpを含む。従って、本発明のウイルス/ビリオンは、エンベロープタンパク質としてLCMV−GPタンパク質を含む。GPタンパク質は、GP1またはGP2であり得る。
【0043】
本発明は、種々のLCMV株に由来するGPタンパク質を含む。特に、LCMV−GP変異体は、LCMV野生型またはLCMV株のLCMV−WE、LCMV−WE−HPI、LCMV−WE−HPIoptに由来し得る(WO 2006/008074)。
【0044】
水疱性口内炎ウイルスに基づいたベクターは、レトロウイルスベクターを上回る利点を有する:
(i)VSVベクターは、腫瘍退縮性であり、そして他の腫瘍退縮性ウイルスベクターと比較して特に高い腫瘍退縮活性を有する:
(ii)VSVベクターは、優先的に腫瘍細胞において複製し、そして他の腫瘍退縮性ウイルスベクターと比較して特に高い複製能を有する。
(iii)VSVベクターは、活発に分裂している細胞と同様に、休止腫瘍細胞にも感染する。
(iv)VSVベクターは、強力な自然体液性および細胞性免疫応答を誘導する。
(v)VSVベクターは、純粋に細胞質で複製し、すなわち、RNAウイルスのようにそれらは宿主細胞のゲノムに組み込んだり、または複製能を有するウイルス中に組換えたりすることができない。
(vi)VSVベクターはパッケージングし易い。
(vii)VSV糖タンパク質は、外来のエンベロープタンパク質と交換可能である。VSVエンベロープに以前に取り込まれた糖タンパク質の例は、HIVgp160(OwensおよびRose 1993)、HCVE1/E2(Tani et al., 2007)、SARS S(Ge et al., 2006)、およびLassa GP(Garbutt et al., 2004)である。
【0045】
総合すると、VSVベクターは、特に高い治療能を有する。
【0046】
本発明によるVSV−LCMV−GPシュードタイプベクターの別の利点は、健康な脳細胞、すなわちニューロンに対する、LMCV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVウイルスのかなり低減された毒性である。VSVの神経毒性は、VSVのGタンパク質に起因する(Shinosaki et al., 2005)。実際に、VSV−Gシュードタイプは、優先的に正常ニューロンに感染する。向神経性は、腫瘍退縮性VSVの全ての適用における用量制限因子であるので、本発明によるベクターの使用は全ての腫瘍に対して非常に利点がある。
【0047】
さらに、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターは、脳腫瘍細胞に対して向上した特異性を有し、これは使用されるLCMV−GP糖タンパク質の神経膠腫特異的な指向性および腫瘍細胞におけるVSVの選択的な転写/複製に由来する。VSV−Gとは対照的に、LCMV−GPエンベロープタンパク質は、神経膠芽腫細胞に対して特に指向性を有する。しかしながら、本発明によるベクターを、CNS外の他の腫瘍においても使用することができる。なぜなら、そこでも、特に全身適用の場合にはVSVの神経毒性が用量制限因子であるからである。
【0048】
LCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたベクターは、非シュードタイプ化ベクターが有さない3つの重要な特徴を有する、すなわち:
(i)LCMV−GPは、細胞毒性ではない。
(ii)LCMV−GPシュードタイプベクターを、感染性を失うことなく超遠心分離によって濃縮することができる。
(iii)LCMV−GPシュードタイプベクターは、神経膠細胞に対して好ましい指向性を示し、一方ニューロンは非効率的に感染される。
【0049】
本発明は、複製欠損ウイルス並びに複製能を有するウイルスを含む。後者は追加の利点を有する。なぜなら、繁殖することができるウイルスを使用して高い形質導入率を達成することができるからである。この点で、複製可能な腫瘍退縮性ウイルスベクターは、複製能を有さないベクターよりも効率的である。
【0050】
治療使用における複製可能なウイルスの使用中の安全性を高めるために、VSVウイルスの複製、腫瘍退縮および産生が、少なくとも2つの複製欠損性で相互補完性のベクターによって感染された細胞においてしか行なわれないことを確実とするベクター系を、提供する。
【0051】
それ故、本発明の主題は、少なくとも2つの補完的なVSVベクターを含む、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系である。このような補完的で複製性の(cr)VSVベクターを腫瘍内に限定された程度で伝播させることができ、これは遺伝子導入および腫瘍退縮の効率を高める。従って、本発明によるベクター系は、神経膠腫および他の腫瘍への遺伝子導入のための、制限された繁殖能を有する腫瘍退縮性VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターの調製を可能とする。
【0052】
本発明によるベクター系の原理は、前記系の各ベクターが、VSVの必須遺伝子m、n、lおよびpの1つまたはLCMVのgpを欠失しているが、しかしながら、前記系のいずれかの他のベクター上に存在するというものである。LCMV−GPをコードする遺伝子gp並びに可能な追加の遺伝子、例えば治療遺伝子および/またはマーカー遺伝子が、前記系のいずれかのベクター上に存在し得る。
【0053】
本発明によるベクター系の種々の変異体が、可能である。例えば、ベクター系は、図5に説明したように2つのベクターからなり得る。第1のベクターは、VSVのGの代わりにLCMVのGPを含み、そしてPタンパク質をコードする遺伝子pの欠失を含む。また、第2ベクターは、VSV−Gを全く含まないが、VSVのPタンパク質を発現する。各ベクターは、VSVの核タンパク質(N)およびポリメラーゼ(L)並びにMタンパク質のより細胞病原性の少ない変異体(Mncp)を発現する。第1ベクターはさらに、マーカー遺伝子rfpを有し、第2ベクターは、自殺遺伝子HSV−TKおよびマーカー遺伝子gfpを有する。図6に説明した変異体において、両方のベクターが、治療遺伝子を含むことができ、第1ベクターは、例えば、Flt3LまたはIL−12を含み、そして第2ベクターは例えばHSV−TKを含む。
【0054】
現在までに、神経膠芽腫の療法のための種々の概念が、探求されてきた:(i)自殺遺伝子の導入、(ii)免疫刺激遺伝子を使用したおよびサイトカインに基づいた免疫療法を用いての神経膠芽腫に関連した免疫抑制の排除、(iii)腫瘍誘発血管新生に拮抗する因子の導入、(iv)細胞周期モデュレーターの使用、および(v)アポトーシスの誘導。本発明の目的のために、最初の3つのアプローチ(i〜iii)を最初に考慮する予定である。
【0055】
その固有の腫瘍退縮特性に加えて、VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターおよびそれに基づいたベクター系は、自殺遺伝子および/または免疫刺激遺伝子を導入することによってさらに改良され得る。自殺タンパク質の例は、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV−TK)、サイトカインデアミナーゼ、FKBP−FAS、FKBP−カスパーゼ9である。免疫刺激タンパク質の例は、サイトカイン、例えばIL−2、IL−4、IL−12およびFlt3L、中和性抗TGFβである。4.5kbまでのサイズを有する遺伝子の挿入は、VSVゲノムによって耐容性が示され、よって2つ以上の治療遺伝子(例えばHSV−TK+サイトカイン)を1つのVSVゲノム内で合わせることが可能でさえある。さらに、遺伝子産物は、いわゆるバイスタンダー効果によって非感染腫瘍細胞に対してもその作用を発揮する。
【0056】
注射されたウイルスベクターは、注射部位から腫瘍組織中にほんの数ミリメートルしか浸透しない。ベクター分布を最適化するために、および腫瘍の標的化破壊のために、腫瘍中に特異的に遊走し、これにより注射部位から遠い部位でウイルスを放出する、腫瘍浸潤性ウイルス産生細胞を使用する。
【0057】
本発明の意味におけるウイルス産生細胞は、非複製性ベクターからのビリオンの産生のための古典的なパッケージング細胞、並びに繁殖することのできるベクターからのビリオンの産生のための生産細胞を含む。パッケージング細胞は通常、パッケージングしようとするそれぞれのベクターに欠けているおよび/またはビリオンの産生のために必要である、必須遺伝子の発現のための1つ以上のプラスミドを含む。
【0058】
以前の研究において、ウイルスベクターを導入するためにパッケージング細胞を、使用したが;しかしながら、これは、腫瘍内では遊走しない線維芽細胞が主に関与していた(Short et al., 1990, Culver et al., 1992)。これに対し、成体幹細胞、特に神経幹細胞(NSC)および間葉系幹細胞(MSC)は、高い遊走能を有する。それらは、腫瘍組織に限局されて留まり、これにより腫瘍組織への非常に効率的であるがしかしまた特異的でもある遺伝子の導入が、達成される。しかしながら、これらの幹細胞は、in vitroにおいて有限の継代能しか有さない。
【0059】
成体間葉系幹細胞の亜集団、いわゆるBM−TCI(骨髄由来腫瘍浸潤性細胞)は、実験的に誘発した神経膠腫への注射後、全体の腫瘍に浸潤し、そしてさらに、腫瘍塊から遠くの個々の腫瘍細胞を追跡する(Miletic et al., 2007)。BM−TICは、成体骨髄から単離され、高い増殖能を有し、そしてMLV(Fischer et al., 2007)およびVSVベクターのための遊走産生細胞として使用することができる。
【0060】
従って、本発明の主題は、腫瘍退縮性VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターを産生するウイルス産生細胞である。特に、これらは、その遊走中に腫瘍内で前記ベクターを放出する、腫瘍浸潤性生産細胞である。好ましい細胞は、成体幹細胞、特に神経幹細胞(NSC)および間葉系幹細胞(MSC)である。特に好ましい細胞は、MSCに由来するBM−TIC細胞である。
【0061】
ラブドウイルス産生細胞の調製のための障害は、タンパク質MおよびGの細胞病原性である。VSVのGタンパク質は、本発明のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクターにおいてLCMVの神経膠腫特異的かつ非細胞毒性の糖タンパク質によって置換されているので、Mタンパク質のみが、依然として問題である。VSV産生細胞系におけるMタンパク質の毒性を低減させるために、Mタンパク質の非細胞病原性変異体を、使用することができる。
【0062】
それ故、本発明のウイルス産生細胞、および従ってまた前記細胞によって産生されたVSV−LCMV−GPシュードタイプベクターは、突然変異Mタンパク質をコードする遺伝子を含み得る。このベクター変異体は、腫瘍細胞に対して選択的に腫瘍退縮性であるが、健康細胞に対しては毒性ではない。Mタンパク質の37PSAP40領域におけるアミノ酸交換を有するか、またはMタンパク質のPSAP領域外に単一(M51R)もしくは複数(V221FおよびS226R;M33AおよびM51A)の突然変異を有する、M変異体が好ましい。突然変異M33A、M51R、V22FおよびS226Rを有するMタンパク質が特に好ましい。パッケージング細胞における効率的なウイルス産生を確実にするために、M変異体を、ウイルス性インターフェロンアンタゴニストを用いて安定にトランスフェクションすることができる。
【0063】
さらに、本発明の主題は、遺伝子導入のためのin vitroにおける方法であり、導入遺伝子を含むLCMV−GP−VSVシュードタイプベクターまたはLCMV−GP−VSVシュードタイプベクター系を、細胞に、直接的にまたは本発明によるウイルス産生細胞(パッケージング細胞)を用いてのいずれかで導入する。少なくとも2つのベクターを有するcrベクター系を使用する場合、少なくとも2つのパッケージング細胞を使用し、細胞の各々が、(複製能を有さない)crベクターの1つを産生する。VSVウイルスの産生は、crベクター系の全てのベクターを用いて感染させ、従って全ての必須なウイルス遺伝子を含む細胞においてのみ行なわれる。
【0064】
さらに、本発明は、治療方法における薬物としての本発明によるベクターおよびウイルス産生細胞の使用に関する。特に、本発明によるベクターおよびウイルス産生細胞は、固形腫瘍の療法のために使用される。治療効果は、治療遺伝子の使用によってだけでなく、組換えベクターおよびウイルスの腫瘍退縮特性によっても引き起こされる。
【0065】
固形腫瘍は、脳腫瘍、肝臓腫瘍、特に肝細胞癌、肺腫瘍、特に気管支癌、および腸腫瘍、特に結腸癌であり得る。好ましい腫瘍は、脳腫瘍、例えば神経膠腫、特に上衣腫、乏突起神経膠腫、乏突起星状細胞腫、星状細胞腫、神経膠芽腫または髄芽腫である。
【0066】
本発明の主題はさらに、本発明のベクター、ビリオン、ウイルス産生細胞並びに場合により担体および補助物質などの添加剤を含む、薬学的組成物である。
【0067】
治療遺伝子のウイルス退縮および導入効率を高めるために、ベクターを連続的に放出する腫瘍浸潤性ウイルス産生細胞を、腫瘍への直接的な移植のために製剤化する。
【0068】
本発明は、以下の実施例を用いて説明される。
【0069】
実施例
実施例1:LCMV−GP−シュードタイプ化ベクターによる神経膠腫細胞の形質導入
GFPをコードするがウイルスエンベロープタンパク質はコードしない欠陥VSVベクター(VSVgfp−ncp−ΔG)を、今度はLCMVのGPを安定に発現するBHK−21およびvero細胞に形質導入した。24ウェルプレートの1つの窪みあたり1×10E5個の細胞(BHK−21、−GP、vero、−GP)を播種し、そして4時間後にMOI=5でVSVgfp−ncp−ΔGベクターを用いて形質導入した。24時化後、培養上清を回収し、そしてBHK−21における力価を、GFP発現のFACS分析によって決定した。図1は、形質導入細胞がLCMV−GP−シュードタイプ化VSVベクターを産生し、使用する細胞型に依存して、シュードタイプ力価は2〜7×10E5TU/mlの間で変動したことを示す。
【0070】
シュードタイプは神経膠腫への遺伝子導入に用いられる予定であったので、ベクターの形質導入効率を、種々の神経膠腫細胞系について確認した。2つのヒト神経膠腫細胞系(U87、G44)および1つのラット神経膠腫細胞系(9L)を試験した。BHK−21を再度対照として使用した。24ウェルプレートの1つの窪みあたり1×10E5個の細胞を播種し、そして4時間後にMOI=0.3(BHK−21上で滴定)でVSV−LCMV−GPシュードタイプベクターを用いて形質導入した。24時間後、GFP発現細胞の比率をFACSによって決定し、そして力価をそれから計算した。図2は、神経膠腫細胞系がLCMV−GP−シュードタイプ化VSVベクターによって効率的に形質導入されたことを示す。
【0071】
実施例2:多能性前駆細胞へのVSV−LCMV−GPシュードタイプベクターのパッケージング
本発明者らは、C. Verfaillie (Jiang et al., 2002)のプロトコールに従って単離された幹細胞が、腫瘍浸潤特性を有することをすでに実証している。その遊走能だけを調べ、その分化能は調べなかったので、これらの細胞をBM−TICと呼んだ(骨髄由来種腫瘍浸潤細胞、bone marrow derived tumor infiltrating cells)。VSVベクターについてのBM−TICのパッケージング能を試験するために、LCMV−GP−発現BM−TICを、欠陥VSV-GFPベクターを用いて形質導入した。24ウェルプレートの1つの窪みあたり1×10E5個の細胞(BM−TIC、−GP、BHK−21)を播種し、そして4時間後にMOI=5でVSVgfp−ncp−ΔGベクターを用いて形質導入した。24時間後、培養上清を回収し、そしてBHK−21細胞上で滴定した。図3は、VSV−LCMV−GPシュードタイプをまたBM−TIC中でも調製することができることを示す。しかしながら、力価は、例えばBHK−21細胞の場合よりも低い(図1参照)。
【0072】
実施例3:補完的で複製性の(cr)VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターの開発
繁殖することのできるウイルスを用いて高い形質導入率を、達成することができる。神経膠腫への遺伝子導入率を高め、そして同時に高度の安全性を確実にするために、限定された程度で複製能を有するVSVシュードタイプベクターを、確立した。補完的で欠陥のあるウイルスを用いた系が、レトロウイルス(Trajecevski et al., 2004)および種々のフラビウイルス(Riepl & Mandl, 2007)のために記載されている。このような系の原理は、2つの不完全なレプリコンの間にウイルスゲノムを分配することである。1つの同じ細胞が両方のベクターで感染され、そしてこの同時感染を通してのみウイルスゲノムをパッケージングするために必要な全ての成分を含む場合にのみ、感染性ウイルスが産生される。
【0073】
図4は、本発明によるベクター系の補完的なベクターの例を示す。効率的な複製およびパッケージングのために、第1ベクターはリン酸化タンパク質Pを欠失している。これらのベクターのウイルス力価をより簡単な方法で決定できるようにするために、ベクターは、Pの代わりに赤色蛍光タンパク質(rfp)を含む。欠失しているPの機能は、第2ベクターによる細胞の同時感染中に補完される。しかしながら、後者単独では繁殖できない。なぜなら、必須のエンベロープタンパク質VSV−Gを欠失しているからである。このベクターを用いて、治療遺伝子が適用される。
【0074】
プラス鎖RNAウイルスのゲノムRNAのみが感染性であるが、VSVなどのマイナス鎖RNAウイルスは、クローン化ウイルスcDNAから感染性ビリオンを生成するために、ウイルスRNAゲノムに加えて、少なくともウイルス核タンパク質(N)およびウイルスポリメラーゼ(L)を必要とする。組換えVSVを調製するための系は、BSR T7/5細胞において構成的に発現されているT7−RNAポリメラーゼを使用した、ウイルス(+)RNA並びにウイルスタンパク質N、PおよびLの細胞質における発現に基づく。所望のベクターを調製するために、ゲノム構築物を、N、PおよびLのための発現プラスミド並びにベクターb)(図4)の場合さらにVSV−Gのための発現プラスミドと共に、BSR T7/5に同時トランスフェクションする。欠失している成分をトランスで発現する細胞上でこのようにして得られたウイルスを継代させることによって、力価をかなり高めることができる。LCMV−GP欠損ベクターのために、GPを安定に発現するBHK−21細胞系が確立された。P欠損ベクターのために、Pタンパク質を発現するBHK−21細胞系が確立された。
【0075】
cr LCMV−GPシュードタイプVSVベクターの調製および特徴付け
その力価およびその形質導入効率に関して個々のベクターを特徴付けた後、in vitroにおけるベクターの伝播を調べる。このために、BHK−21細胞を、両方のベクターで同時感染させ、そしてネイティブなBHK−21上での培養上清の連続継代による新たなベクターの複製および従って生成を調べる。これらの実験を、単層並びにスフェロイドとして培養される種々の神経膠芽腫細胞系(G44、G62、U87)を用いて繰り返す。
【0076】
腫瘍スフェロイドは、単層培養物よりも腫瘍の性質および不均一性を反映する、3次元のオルガノイド細胞群である。活発に分裂している腫瘍細胞は、緩い構造で細胞凝集物の縁に位置し、一方、内側のより深部に位置する細胞はもはや分裂せず、壊死領域の形成がここで起こる(Carlson et al., 1984)。スフェロイドを用いての実験は、cr VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系の腫瘍内形質導入効率、伝播の動態学、および腫瘍退縮効果に関する情報を提供する。従って、これらのスフェロイドは、動物において実験を実施する必要を伴わず、前記系の初期の最適化を可能とする。cr LCMV−GPシュードタイプ化VSVベクターの毒性の可能性、腫瘍退縮の治療的有効性、および腫瘍排除後の残留ウイルスの存在を、動物モデルにおいて調べる(実施例6参照)。
【0077】
ウイルスRNAポリメラーゼは、全くリコンビナーゼ活性を有さず、そして細胞質には全く細胞性リコンビナーゼが存在しないので、2つのマイナス鎖RNAウイルス間の組換えは、RNAポリメラーゼのテンプレートスイッチによってのみ行なうことができる。しかしながら、これは極めてまれな事象である(Finke & Conzelmann, 2005; Spann et al., 2003)。組換え体で複製性のVSVの生成は安全性リスクを示し、そしてこれを調べる。このために、ウイルスRNAを同時感染細胞の培養上清から種々の時点で単離し、そしてノザンブロットで導入遺伝子特異的(例えばgfp)プローブを用いて調べる。「過剰な長さ」を有するRNA種を検出できる場合、上清からのウイルスをプラーク精製し、そしてその感染性について標準的な方法を用いて調べ、そしてその後、分子生物学を用いて特徴付ける。
【0078】
実施例4:治療的に効果的なVSV(LCMV−GP)シュードタイプベクターの調製のための遊走生産細胞の確立
遊走VSV−LCMV−GP生産細胞を、crVSVベクターおよび複製能を有するVSV−LCMV−GPベクターのために確立する。
【0079】
種々のM変異体の調製および特徴付け
VSV Mタンパク質はVSVサイクル内に2つの必須の仕事を有する。一方で、それは、ウイルスの会合および出芽のためのビリオンの構造成分として必須である。他方で、それは、宿主のタンパク質合成に向けられるその「宿主シャットオフ」活性を通して、およびアポトーシスの誘導を通してウイルスの病態発生に著しく寄与する。これに関して、Mの重要な機能は、IFN mRNAの核−細胞質輸送の阻害である。それにより、ウイルス感染に対する細胞の最初の防御機序が、抑制される。
【0080】
この強力な細胞障害性効果に因り、長期間、細胞系においてMタンパク質を発現することは、不可能である。しかしながら、ウイルスの弱毒化をもたらすMタンパク質における複数の突然変異が知られている。Irieおよび共同研究者は、Mタンパク質のいわゆる37PSAP40領域におけるアミノ酸交換によって、細胞病原性の大きく低下したVSV突然変異体を作製したことを実証した(Irie et al., 2007)。さらに、マウス実験において示されるように、PSAP領域外に単一(M51R)または複数(V221FおよびS226R;M33AおよびM51A)の突然変異を有するM変異体もまた、非常に弱毒化される(Desforges et al., 2001; JayakarおよびWhitt, 2002)。これらのウイルスは、IFN−α/βの放出を抑制することができず、従って、感染から動物を防御する抗ウイルス状態を誘導する。しかしながら、IFN系において欠陥を有することが多い腫瘍においては、これらのウイルスは、繁殖しそして腫瘍を溶解することができる。安全性の理由から、このような弱毒化変異体は、遺伝子療法のために特に重要である。なぜならそれらは、腫瘍細胞において優先的に複製するからである。
【0081】
また、本発明者らは、記載の突然変異M33A、M51R、V221FおよびS226Rを含み、そしてもはやIFN−βの合成を抑制することができない、Mタンパク質の非細胞病原性変異体(Mncp)をクローニングした。この変異体は、IFN非コンピテント細胞上で親ウイルスと類似した効率的な様式で複製するが、IFNコンピテント細胞上では減弱される。BM−TICにおける効率的なウイルス産生を確実にするために、細胞を、ウイルス性インターフェロンアンタゴニストを用いて安定にトランスフェクションする(Haller et al., 2006)。
【0082】
VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターのためのBM−TIC由来産生細胞の調製および特徴付け
腫瘍細胞は主に、VSV−LCMV−GPシュードタイプの神経膠腫特異的指向性に因り形質導入される。それ故、依然として特定の細胞病原性を示すM変異体を用いて作業することも、可能である。BM−TICにおける毒性作用を低く維持するために、抗ウイルス性MxAタンパク質を、Tet誘導性プロモーターを介して細胞中で発現させるべきである。Tet誘導性プロモーターを有するレトロウイルスベクターは公知である(Loew et al., 2006)。Tet応答性エレメント(tTA)も、レトロウイルスベクターを介してBM−TICに導入する。MxAは、RNAウイルスに対して抗ウイルス活性を有するインターフェロン誘導GTPアーゼである(Pavlovic et al., 1992; StaeheliおよびPavlovic, 1991)。それは細胞質中で大きなオリゴマーの形態で存在し、毒性ではなく、そして今まで知られていない機序によってVSVの複製を阻害する。LCMV−GPを発現するBM−TICを、Tetにより調節されるMxAおよびtTAベクターを用いて形質導入し、そして続いてVSVベクターを用いて感染させる。抗生物質が培地中に存在する限り、細胞は、MxAの存在に因りVSV(LCMV−GP)を用いての増殖性感染に対して抵抗性である。in vivoにおける適用中にのみ、抗生物質が除去され、そしてVSV(LCMV−GP)のウイルス複製および産生が、次第に始まる。2日間の半減期を有するMxAは非常に安定であるので、突然変異体MxA(L612K)を代替的に使用することができる。MxA(L612A)は、野生型タンパク質と同じ有効性でVSVの感染を阻害するが、オリゴマーを形成することはできない。これによってそれは不安定化され、そして僅か2時間という短い半減期を有する(Janzen et al., 2000)。
【0083】
両方の生産細胞、すなわち、非細胞病原性Mを有するベクターを産生するBM−TIC並びにMxAの発現を通してVSVに関連した溶解に対して防御されているBM−TICは、以下のように特徴付けられる:
(i)ベクター力価およびベクター産生持続時間を決定する。
(ii)ベクター力価に対する細胞の凍結および解凍の影響を分析する。
(iii)細胞が依然として腫瘍浸潤特性を有し、そしてその形質導入効率が腫瘍組織において達成されるかどうかを、最初にスフェロイドモデルにおいてそしてその後は動物モデルにおいて分析する。
(iv)産生されたベクター上清を、複製性VSVの存在について確認する。
【0084】
実施例5:治療遺伝子のクローニングおよびパッケージング
自殺遺伝子を、本発明に従って治療遺伝子として使用することができる。このような遺伝子の例は、臨床において最も多くの経験を有する単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV−TK)である。HSV−TKの恒常的発現を通して、パッケージング細胞および形質導入細胞を療法の終了時に確実に排除することができ、これによって有糸分裂の活発なパッケージング細胞から危険が生じる可能性が全くなくなる。
【0085】
悪性神経膠腫の免疫療法のために、すなわち、脳における不十分に発達した局所的な免疫応答を強化するために、免疫調節遺伝子を使用することができる。このような遺伝子の例は、サイトカイン、特にIL−12およびFlt3Lである。抗原による刺激後、IL−12は、樹状細胞、マクロファージおよびB細胞などの抗原提示細胞によって自然に分泌され、そして強力なTh1に基づいた抗腫瘍免疫応答を媒介する。それはTh1細胞へのナイーブT細胞の成長および分化を増強し、従って、神経膠腫により誘発されるT細胞増殖およびIFN−γ産生の抑制に拮抗する。IL−12は、ナチュラルキラー細胞およびCD8+細胞の細胞障害活性を増強し、そしてさらに抗血管新生活性も有する(Majewski et al., 1996)。複数の動物モデルにおいて、神経膠腫に対するIL−12により媒介される免疫応答の有効性が、すでに印象的な方法で実証されている(Toda et al., 1998; Kikuchi et al., 1999)。サイトカインFlt3Lは、抗原提示樹状細胞の増殖および分化にとって必須であり、従って、遺伝子療法の目的に特によく適しているようである。Sumiaおよび共同研究者は、ラット/マウスにおいて、Flt3L遺伝子を用いて神経膠腫を脳内で形質導入した後、樹状細胞の強力で局所的な流入を観察した。処置したラットの70%が、腫瘍退縮を示し、そして生き残った。
【0086】
サイトカインと自殺遺伝子(TK)の組合せは、最大限の安全性を提供するだけでなく、バイスタンダー効果に因り低い形質導入効率で良好な療法を可能とする。このアプローチは、神経膠芽腫の遺伝子療法の効率を増加させるために、3つの活性原理、すなわち、ウイルス性腫瘍退縮、自殺遺伝子により誘発されるアポトーシス、および局所的な免疫刺激を組み合わせる。
【0087】
最初に、IL−12およびFlt3Lを、VSVベクターにクローニングする。IL−12は種特異的に活性であり、よってラット神経膠腫モデルにおいて試験するためにはマウスIL−12を使用しなければならない。これに対し、ヒトおよびマウスFlt3Lの70%超が相同であり、そして両方の種において交差反応性である。免疫刺激遺伝子を、p遺伝子の位置にクローニングし、他方で第2ベクター上ではTKgfpまたはgfpに、VSV−G遺伝子を置き換える。以下の遺伝子組合せを、cr VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系の2つのベクターにクローニングする(図5):
1)ベクターa=IL12またはFlt3L+ベクターb=TKgfp(またはTK)
2)ベクターa=IL12またはFlt3L+ベクターb=gfp
3)ベクターa=IL12またはFlt3L+ベクターb=空
4)ベクターa=空+ベクターb=TKgfp(またはTK)
5)ベクターa=空+ベクターb=gfp
6)ベクターa=空+ベクターb=空
【0088】
クローニング後、神経膠腫細胞系およびBM−TICを形質導入し、そして上清中に含まれるサイトカインの濃度をELISAによって確認する。生理学的に関連する量の産生のために、ベクターを超遠心分離を介して濃縮する。ベクターを最初にスフェロイドの形質導入のために使用し、そしてバイスタンダー致死に対するその受容能をこの系において調べる。その後、ベクター上清を、調製したパッケージング細胞と一緒に、ベルゲンの我々の共同パートナーに送る。そこで、同系ラット神経膠腫モデルにおけるin vivo試験を行なう。ガンシクロビルの適用後の処置マウスの生存率を評価する。同時に、TKの非存在下における免疫療法の治療有効性を調べる。ベクター組合せ6)は、腫瘍退縮の有効性に関する情報を提供する。腫瘍のサイズおよび従って療法の成功を、MRIおよびPETを介してモニタリングする(Miletic et al., 2007)。免疫調節遺伝子の効果を、浸潤細胞検出のための免疫組織化学的方法により評価する。以下の段落で記載するように、治療アプローチを、ヒト神経膠腫モデルにおいても調べる。
【0089】
実施例6:2つの神経膠腫モデルにおける治療活性原理の試験
組換えVSVベクターを最初にin vitroにおいて特徴付け、そしてその後、その有効性について動物モデルにおいて調査する。この目的のために、2つの特に意味のあるラットモデルを使用する。
【0090】
同系9Lラット神経膠腫モデルを、免疫学的局面の検査および免疫治療法の実施のために使用する。この目的のために、神経膠腫細胞系をFisherラットの脳に移植し、これはその後、数日以内に腫瘍を発達させる。Fisherラットから単離された9L神経膠肉腫細胞は、腫瘍細胞系として役立てた。その後、種々のベクターまたは細胞系を、誘発された腫瘍に定位的に注射する。このラットモデルは以下の特徴を有する:
(i)それは、個体間のばらつきの少ない再現性の良好な系を示す。
(ii)腫瘍は、ヒト神経膠腫と類似した特徴、例えば、侵襲性および活動性の増殖挙動並びに免疫抑制因子としてのTGFβ2の産生などを有する。
(iii)SCID/ヌードマウスモデルまたはラット異種移植片モデルとは対照的に、前記系は、免疫学的局面の検査または免疫治療法の試験を可能とする。
【0091】
ヌードラットにおけるヒト神経膠腫モデルを、ヒト神経膠腫細胞に対する、本発明によるベクターおよび細胞の腫瘍退縮活性を試験するために使用する。ラット異種移植片モデルは、ヒト神経膠腫の種々の増殖特徴をシミュレーションする。ここでは規定の神経膠芽腫細胞系ではなく患者由来の原発性の腫瘍材料を、腫瘍の確立のために使用し、これはヒト神経膠腫内の異質性をシミュレーションすることを可能とする(Sakariassen et al., 2006)。ヌードラットにおけるヒト神経膠腫の連続継代によって、悪性腫瘍発達の種々の時期をマッピングすることができ、これにより療法の成功を調べることができる。ヒト神経膠腫モデルは、治療アプローチの検証に特に良く適している。なぜならそれは以下の特徴を有するからである:
(i)腫瘍は、ヒト神経膠腫に類似した特徴、例えば侵襲性および活動性の増殖挙動などを有する。神経膠腫細胞系ではなく原発性の患者の材料を、腫瘍の確立のために使用する。
(ii)腫瘍の連続継代を通して、悪性腫瘍発達の種々の時期をマッピングすることができ、そして療法の成功を確認することができる。第1世代の腫瘍は、ゆっくりと成長し、高度に侵襲性であり、そして低度の神経血管新生を有する。強力な増殖および低下した侵襲性を有する高度に血管新生化した表現型は継代を通して発達する。
(iii)高度に侵襲性で非血管新生性の神経膠腫の細胞表現型は、腫瘍幹細胞の1つに類似している。従って、この動物モデルは、ヒトGBMの幹細胞成分に対する我々の概念の治療有効性の試験を可能とする。
【0092】
腫瘍の2つのカテゴリーを識別することができる。
(i)ゆっくりとした高度に侵襲性の増殖挙動を有する初期腫瘍。これらの腫瘍は、低度の血管新生しか有さない。
(ii)血液が十分に供給されそして急速に増殖する後期腫瘍。この表現型は、侵襲性が低い。
【0093】
ヒト神経膠腫モデルは、自殺遺伝子療法並びにウイルス腫瘍退縮を調べるのに非常に良く適している。しかしながら、現在までに、遺伝子治療法の免疫治療有効性の分析のために使用することができるヒト神経膠芽腫のための動物モデルは、全く存在しない。
【0094】
療法の成功は、画像診断法によりおよび最終的には組織学的技術を用いて分析および評価される。最初に、補完的で複製性のVSV(LCMV−GP)シュードタイプの作用機構を、ラット神経膠腫モデルへの濃縮ベクター上清の腫瘍内注射によって調べる。形質導入効率および腫瘍内のgfpコードベクターの分布を、数日後に、凍結切片の蛍光顕微鏡分析を用いて調べる。さらに、免疫細胞の腫瘍退縮および侵襲を免疫組織化学的に評価する。補足として、ヒト神経膠芽腫のための動物モデルにおける有効性も調べる。
【0095】
同じモデルにおいて、BM−TIC産生細胞の遊走能および産生されたVSVベクターの感染性を調べる。この目的のために、細胞を緑色のダイで染色し、ここで放出されたベクターはrfpをコードする。このアプローチは、BM−TICと形質導入された腫瘍細胞との間の簡単な蛍光に基づいた識別を可能とする。
【0096】
最後に、個々の導入遺伝子をコードするシュードタイプの治療効率を比較する。この目的のために、パッケージング細胞およびまた濃縮ベクター上清を、確立された9L腫瘍に注射する。ベクターは、TKと組み合わせた免疫刺激遺伝子を含む。ガンシクロビル投与は、ベクターまたはパッケージング細胞の定位的投与の2日後に開始する。ベクターの免疫調節成分の治療効力を、TKのみを含むベクターを受けた動物において評価する。処置の完了時に、個々の療法概念の有効性を、画像診断法(MRI;PET)を用いて腫瘍サイズに基づいて評価する。免疫療法を用いて処置されたラットの脳の一部を、免疫状態の特徴付けのために使用する。凍結切片上におけるMHC分子の発現並びにT細胞、顆粒球、マクロファージおよびミクログリア細胞の分布を、免疫組織化学的方法によって調べる。さらに、脳内浸潤細胞の量および表現型組成を、フローサイトメトリーによって分析する。最善の治療効果を有する製剤を、ヒト神経膠腫の処置のために適応させる。このようなプロトタイプを直接、前臨床安全性試験に、およびGMP製造のためのそれぞれの方法を確立した後に臨床試験に移行することができる。
【0097】
【表1】







【0098】
【表2】

【0099】
【表3】



【図4a)】

【図4b)】

【図5a)】

【図5b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
VSV−LCMV−GPシュードタイプベクターが、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質GPをコードする遺伝子を含み、そしてVSVのエンベロープタンパク質Gをコードする機能的遺伝子を欠失していることを特徴とする、前記VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター。
【請求項2】
エンベロープタンパク質Gが、LCMVのGPによって置換されていることを特徴とする、請求項1に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター。
【請求項3】
VSVのMタンパク質が、VSVの細胞病原性を減少させる突然変異を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター。
【請求項4】
系が、少なくとも1つの導入遺伝子を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター。
【請求項5】
導入遺伝子が、自殺タンパク質、免疫刺激タンパク質またはマーカータンパク質をコードすることを特徴とする、請求項4に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター。
【請求項6】
自殺タンパク質が、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV−TK)、シトシンデアミナーゼ、FKBP−FASまたはFKBP−カスパーゼ9であることを特徴とする、請求項5に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター。
【請求項7】
免疫刺激タンパク質が、IL−2、IL−4、IL−12、中和性抗TGFβまたはFlt3Lであることを特徴とする、請求項5に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター。
【請求項8】
VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系が、少なくとも2つの補完的で複製性のVSVベクターを含み、ここで前記系は、VSVのタンパク質N、L、PおよびMをコードする遺伝子n、l、pおよびm、ならびにLCMV−GPをコードする遺伝子gpを含み、そしてVSVのGタンパク質をコードする機能的遺伝子を欠失し、ここで前記系の各ベクターは、遺伝子n、l、p、mおよびgpの1つを欠失し、そしてここで欠失遺伝子は、前記系のいずれかの他のベクター上に存在することを特徴とする、前記VSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系。
【請求項9】
VSVのMタンパク質が、VSVの細胞病原性を減少させる少なくとも1つの突然変異を含むことを特徴とする、請求項8に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系。
【請求項10】
前記系が、少なくとも1つの導入遺伝子を含むことを特徴とする、請求項8に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系。
【請求項11】
ビリオンが、エンベロープタンパク質としてLCMVのGPタンパク質を含むことを特徴とする、シュードタイプ化VSVビリオン。
【請求項12】
細胞が、請求項11に記載のシュードタイプ化VSVビリオンを産生することを特徴とする、ウイルス産生細胞。
【請求項13】
細胞が、成体幹細胞であることを特徴とする、請求項12に記載のウイルス産生細胞。
【請求項14】
成体幹細胞が、多能性成体前駆細胞(MAPC)、神経幹細胞(NSC)、間葉系幹細胞(MSC)または骨髄由来腫瘍浸潤細胞(BM−TIC)であることを特徴とする、請求項12または13に記載のウイルス産生細胞。
【請求項15】
ウイルス産生細胞が、VSVのタンパク質N、L、PおよびMをコードする遺伝子n、l、pおよびmならびにLCMV−GP糖タンパク質をコードする遺伝子gpからなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現のための1つ以上の発現カセットを含むことを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載の前記ウイルス産生細胞。
【請求項16】
ウイルス産生細胞が、LCMV−GPを用いてシュードタイプ化されたVSVビリオン中にパッケージングするための遺伝子導入用ベクターを含み、前記遺伝子導入用ベクターは導入遺伝子を含むことを特徴とする、請求項12〜15のいずれか1項に記載のウイルス産生細胞。
【請求項17】
導入遺伝子が、自殺タンパク質、免疫刺激タンパク質および/またはマーカータンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項16に記載のウイルス産生細胞。
【請求項18】
細胞を、請求項11に記載のシュードタイプ化ビリオンを用いて形質導入し、前記ビリオンは導入遺伝子を含むことを特徴とする、in vitroにおいて細胞に導入遺伝子を導入するための方法。
【請求項19】
細胞に、請求項16または17に記載のウイルス産生細胞を接触させることを特徴とする、in vitroにおいて細胞に導入遺伝子を導入するための方法。
【請求項20】
細胞が、腫瘍細胞であることを特徴とする、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
固形腫瘍の療法のための薬学的組成物の調製のための、請求項1〜7のいずれか1項に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター、請求項8〜10のいずれか1項に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系、請求項11に記載のシュードタイプ化VSVビリオン、または請求項12〜17のいずれか1項に記載のウイルス産生細胞の使用。
【請求項22】
腫瘍が、脳腫瘍であることを特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
腫瘍が、悪性脳腫瘍であることを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
薬学的組成物が、請求項1〜7のいずれか1項に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター、請求項8〜10のいずれか1項に記載のVSV−LCMV−GPシュードタイプベクター系、請求項11に記載のシュードタイプ化VSVビリオン、または請求項12〜17のいずれか1項に記載のウイルス産生細胞を含むことを特徴とする、前記薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−504944(P2012−504944A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530417(P2011−530417)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007230
【国際公開番号】WO2010/040526
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(511089826)
【氏名又は名称原語表記】LAER,Dorothee von
【Fターム(参考)】