説明

腫瘍イメージング剤

【課題】上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼインヒビターを利用した新規なイメージング剤を提供すること。
【解決手段】本発明の腫瘍イメージング剤は、下記化合物[{(6,7−ジメトキシ−エトキシ)−キノリン−4−イル}−(3−エチニル−フェニル)−アミン]に代表される特定のキノリン誘導体を放射性標識した標識化合物から成る。該特定のキノリン誘導体は、EGFRチロシンキナーゼを阻害する作用を示し、これを用いた本発明の腫瘍イメージング剤は、腫瘍組織への集積比が1よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノリン骨格を有する化合物を利用した腫瘍イメージング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor; EGFR)は、細胞内チロシンキナーゼドメインと、膜貫通ドメインと、細胞外リガンド結合ドメインから成る膜貫通型レセプターであり、様々な悪性腫瘍で過剰発現していることが知られている。近年、EGFRを標的とした分子標的治療薬が頭頚部癌、大腸癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、乳癌に臨床応用されている。そのようなEGFR標的治療薬としては、ゲフィチニブやエルロチニブなどが挙げられるが、これらはEGFRチロシンキナーゼのATP結合部位にATPと競合的に結合することにより、EGFRの自己リン酸化を阻害し、シグナル伝達を遮断する作用を示す。
【0003】
欧米でのEGFRチロシンキナーゼインヒビターを利用した分子標的製剤の臨床治験では、著名な効果を示す症例がいる一方で、死亡などの重篤な副作用が報告されている。また、欧米での臨床治験では、対象が免疫組織染色にてEGFR陽性であることが条件とされていた。しかしEGFRの遺伝子変異をみる標準的な測定・評価方法が確立されておらず、方法・手技により検出率が異なる可能性があること、また切除不能肺癌においては正常細胞の混入の少ない検体を得ることが困難なことがしばしばあることが問題とされてきた。また、EGFRチロシンキナーゼインヒビターを標的とした分子標的薬剤として市販されたゲフィチニブ(商品名イレッサ)は、米国で遺伝子変異がゲフィチニブの感受性予測因子であると報告されたが、その後遺伝子変異と感受性とが完全には一致しないことが研究で示され、遺伝子変異は本剤投与の適応を決定するほどの確実性・現実性はないと判断されている。
【0004】
EGFRチロシンキナーゼインヒビターを利用した分子標的放射線イメージング製剤の開発により、ガンマ線あるいはポジトロン機能画像を評価することで、すでに市販されている分子標的治療薬が持つ致命的な副作用発現の予見や、治療対象となるEGFR発現症例のよりよい選択が可能になることが期待される。
【0005】
EGFRチロシンキナーゼインヒビターを利用したイメージング製剤としては、イスラエルのグループが報告した非特許文献1〜2及び特許文献1に記載のイメージング剤や、特許文献2に記載のイメージング剤がある。しかし、これらはいずれもキナゾリン骨格を有する化合物であり、キノリン骨格を有するものではない。
【0006】
【特許文献1】特表2007−505101号公報
【特許文献2】特開2007−191430号公報
【非特許文献1】J. Med. Chem. (2005) vol.48, p.5337-5348
【非特許文献2】Int. J. Cancer: (2002) vol.101, p.360-370
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、EGFRチロシンキナーゼインヒビターを利用した新規なイメージング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、キノリン骨格を有する4−アニリノキノリン誘導体がEGFRチロシンキナーゼを阻害する能力を有し、該誘導体を放射性標識した化合物が生体内において正常筋肉組織よりも腫瘍に有意に多く蓄積することを見出し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(I)
【0010】
【化1】

[式中
R1、R2、R3はそれぞれ独立して
(1)R基、
(2)ハロゲン、
(3)−NHR基、−RNHR'NR''基、−RNHR'OR''基、若しくは−RNHR'SR''基、
(4)−OR基、−OROR'基、−ROR'NR''基、−ROR'OR''基、若しくは−ROR'SR''基、又は
(5)−SR基、−RSR'NR''基、−RSR'OR''基、若しくは−RSR'SR''基
(ここでR、R'及びR''はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10のアルキル基又はアルキレン基を表し、該アルキル基又はアルキレン基中の炭素原子は=O又は=Sで置換されていてもよい)
を表し、
R4、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立して
(1)ハロゲン、
(2)−OH、−NH2、若しくは−NO2又は
(3)炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、若しくはアルキニル基(ここでアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基中の炭素原子はハロゲンで置換されていてもよい)
を表す]
で示されるキノリン誘導体を放射性標識した標識化合物から成る腫瘍イメージング剤を提供する。また、本発明は、グラブス触媒を用いた閉環メタセシス反応により、2位に置換基を有するアニリン化合物からキノリン骨格を合成する工程を含む、上記本発明の腫瘍イメージング剤に用いられる上記一般式(I)で示されるキノリン誘導体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、EGFRチロシンキナーゼ阻害活性を有するキノリン誘導体を利用した新規な腫瘍イメージング剤が提供された。本発明の腫瘍イメージング剤を生体に投与し、該イメージング剤からの放射線を体外で測定し解析することにより、腫瘍を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いられるキノリン誘導体は、上記一般式(I)で示されるものである。上記した置換基R1ないしR3が表し得るアルキル基及びアルキレン基、並びにR4ないしR8が表し得るアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は、直鎖及び分枝鎖の両者を包含するものとする。また、R1ないしR3が表し得るアルキル基及びアルキレン基においては、1以上の炭素原子が=O又は=Sで置換されていてもよい。すなわち、該アルキル基及びアルキレン基の炭素鎖を構成する炭素原子は、カルボニル基又はチオカルボニル基を形成していてもよい。上記「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。キノリン骨格4位に結合するアニリノ基の環構造上の置換基R4ないしR8が表し得るアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基においては、炭素鎖を構成する1以上の炭素原子がハロゲンで置換されていてもよい(すなわち、炭素原子がハロゲンと結合していてもよい)。
【0013】
上記した一般式(I)のキノリン誘導体のうち、好ましい置換基の例としては以下のものが挙げられる。
【0014】
R1、R2、R3が表し得るアルキル基及びアルキレン基としては、炭素数1〜4であるものが好ましい。また、R4、R5、R6、R7、R8が表し得るアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基としては、炭素数1〜4であるものが好ましい。
【0015】
キノリン骨格の6位及び7位にそれぞれ結合する置換基R1及びR2としては、それぞれ独立してR基又は−OROR'基が好ましく、中でも両者が−OROR'基であることが好ましい。特に好ましくは、R1及びR2は両者共に2-メトキシエトキシ基(−OCH2CH2OCH3)である。
【0016】
キノリン骨格の4位を置換するアニリノ基の窒素原子に結合する置換基R3としては、上記したR基が好ましく、中でも水素が好ましい。
【0017】
4位のアニリノ基の環構造上の置換基としては、R4、R5、R6、R8が水素又はハロゲン(F,Cl,Br,I)であり、R7が炭素数1〜4のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であることが好ましい。中でも、R4、R5、R6、R8が水素であることが好ましく、R7が炭素数1〜4のアルキニル基、特にエチニル基であることが好ましい。
【0018】
上記した一般式(I)で示されるキノリン誘導体は、この分野で公知の常法により、市販の化合物から容易に調製することができる。R3が水素である一般式(I)のキノリン誘導体の合成方法を下記スキーム1に例示する。詳細な具体例は下記実施例に記載するとおりである。
【0019】
【化2】

【0020】
(R1'、R2'は上記R1、R2の定義とそれぞれ同じであり、R4ないしR8は上記定義に同じ。ZはTMS(トリメチルシリル)基又はTBS(tert-ブチルジメチルシリル)基を表す)
【0021】
まず、2位に置換基を有するアニリン化合物(i)から、該2位の置換基を利用し、閉環メタセシス反応によりキノリン骨格を合成する(v)。アニリン化合物(i)は市販品を好ましく用いることができ、4位及び5位に置換基R1、R2のもとになる置換基R1'、R2'を有していてもよい。ジクロロメタン溶媒(1molのアニリン化合物(i)に対し7〜15L程度)中で、アニリン化合物(i)を1〜2当量程度の塩化トシル及び2〜5当量程度のピリジンと室温で1〜5時間程度反応させ、アミノ基をトシル化する(化合物(ii))。次いで、ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒(1molの化合物(ii)に対し10〜20L程度)中で、化合物(ii)を1〜3当量程度のK2CO3及び臭化アリルと反応させ(65℃〜95℃程度で1〜5時間程度)、アミノ基にアリル基を結合させる(化合物(iii))。化合物(iii)を2〜6当量程度のNaIと混合した後、アセトニトリル溶媒(1molの化合物(iii)に対し10〜20L程度)に溶解し、2〜6当量程度のトリエチルアミン及びZCl(ZはTMS又はTBS)を加えて1〜5時間程度加熱還流することにより反応させ、2位の置換基を置換オレフィン基に変換する(化合物(iv))。次いで、化合物(iv)を、ジクロロメタン溶媒(1molの化合物(iv)に対し30〜50L程度)中で、0.05当量程度のグラブス触媒を用いて45〜65℃程度で30分間〜2時間程度閉環メタセシス反応させることにより、キノリン骨格を合成する(化合物(v))。この化合物(v)に塩化ホスホリル(1molの化合物(v)に対し2〜10L程度)を加えて1〜6時間程度加熱還流すると、4−クロロキノリン化合物(vi)が得られるので、これを1〜5当量程度の置換アニリンとイソプロパノール等のアルコール溶媒(1molの化合物(vi)に対し10〜20L)中で1〜6時間程度加熱還流して反応させることにより、キノリン誘導体(I')が得られる。所望により、キノリン骨格6位及び7位の置換基R1'、R2'を異なる置換基に常法により変換してもよい(キノリン誘導体(I''))。また、置換基R3が上記(1)〜(5)に示される水素以外の基である一般式(I)のキノリン誘導体は、上記一般式(I')又は(I'')の化合物から公知の常法により得ることができる。
【0022】
上記の通り、本発明で用いられるキノリン誘導体は、閉環メタセシス反応を利用することで、従来法での合成よりも収率よく得ることができる。従来行なわれているキノリン骨格の合成方法は、強酸性、高温(200℃程度)条件下という激しい反応条件下で10〜30%程度の低い収率でキノリン骨格を得るものであるが、本発明の方法により、グラブス触媒を用いた閉環メタセシス反応を利用すると、前駆体であるアニリン化合物(スキーム1においては化合物(iii))から80〜90%程度の高収率でキノリン骨格を合成することができる。
【0023】
使用するグラブス触媒は、第一世代グラブス触媒(下記1st)若しくは第二世代グラブス触媒(下記2nd)又はこれらの改良型触媒として知られるいずれの触媒であってもよいが、安定性及び反応性の観点からは第二世代グラブス触媒又はその改良型触媒が好ましい。このような触媒は市販されており、また合成方法も公知であるため、入手は容易である。
【0024】
【化3】

【0025】
本発明の腫瘍イメージング剤は、上記した一般式(I)で示されるキノリン誘導体を放射性標識した化合物から成る。標識に用いる放射性物質としては、PET(陽電子断層撮影法)やSPECT(単一光子放射型コンピュータ断層撮影法)等において使用されるイメージング剤の標識に通常用いられる放射性物質であれば特に限定されず、例えば放射性ハロゲン(123I、18F等)、放射性金属(68Ga等の放射性ガリウム、99mTc等の放射性テクネチウム等)11C、13N、15O等を用いることができる。
【0026】
放射性ハロゲンによる標識は、上記した一般式(I)のキノリン誘導体中のハロゲンを放射性ハロゲンとすることにより、容易に行うことができる。また、11C、13N、15O等による標識は、上記キノリン誘導体の骨格構造(キノリン骨格及びアニリン環)中又は上記置換基中にこれらの放射性原子を適用することにより、容易に行うことができる。このような放射性原子の導入は、この分野で周知の常法により行なうことができる。
【0027】
放射性ガリウムや放射性テクネチウム等の放射性金属による標識は、例えば、上記したキノリン誘導体に二官能性キレート剤構造を導入し、該キレート剤を介して放射性金属を結合させることにより、容易に行うことができる。このような手法はこの分野において公知の常法であり、導入する二官能性キレート剤は種々のものが公知であり、市販品も存在する。例えば、二官能性キレート剤としては、ジアミノジチオール(DADT)類、ヒドラジノニコチンアミド(HYNIC)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)や、European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging (2007) vol.34, No.3, p.354-362,及びAcad Radiol. (2007) Sep, 14(9), p.1050-1057に記載のポリグルタミン酸ペプチド(GAP)が挙げられるが、これらに限定されない。このような二官能性キレート剤は、上記キノリン誘導体中のアミノ基を利用して容易に該誘導体中に導入できる。従って、このような手法により放射性金属標識を行う場合、上記キノリン誘導体は、末端にアミノ基を有する置換基を有することが好ましい。例えば、一般式(I)のキノリン誘導体が、R3が水素である上記一般式(I')の化合物である場合、キノリン骨格の4位に結合するアミノ基を利用してキレート剤構造を導入することができる。
【0028】
例えば、本発明で用いられる標識化合物としては、置換基R3が水素である一般式(I)のキノリン誘導体のキノリン骨格4位のアミノ基にキレート剤構造を導入した下記一般式(II)
【0029】
【化4】

【0030】
[式中、R1、R2、R4、R5、R6、R7、R8は前記定義に同じであり、Xはキレート剤構造を表す]
で示される化合物のキレート剤構造部分に放射性金属を結合させた標識化合物を挙げることができるが、これに限定されない。
【0031】
本発明の腫瘍イメージング剤は、PETやSPECTのような非侵襲の検出技術におけるイメージング剤として用いることができる。下記実施例に記載される通り、本発明の腫瘍イメージング剤を生体内に投与すると、正常筋肉組織よりも腫瘍組織に有意に多く蓄積するので、放射性標識からの放射線を検出・解析することで生体内の腫瘍を検出することができる。
【0032】
本発明の腫瘍イメージング剤は、通常、投与に適した緩衝液に溶解し、血管内投与により生体内に投与される。投与量は、特に限定されないが、通常、対象動物の体重1kg当たり1MBq〜15MBq程度、特に1.5MBq〜5MBq程度である。対象動物は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0034】
市販の2-アセチル-4,5-ジメトキシ-アニリンから[6,7-ジメトキシ-エトキシ)-キノリン-4-イル]-(3-エチニル-フェニル)-アミン(YCU07)を合成した。従来の技術は強い酸性で激しい反応条件(200℃)で10−30%の収率だが、本発明は、閉環メタセシスという鍵反応を応用することによりグラブス錯体を用いて穏やかな条件下(50℃)で80−90%の収率を得る新しい技術である。
【0035】
【化5】

【0036】
具体的な合成方法は、2-アミノ-4,5-ジメトキシアセトフェノン(1)(500 mg, 2.60 mmol)と塩化トシル(TsCl、591 mg, 1.2当量)を混ぜ、Ar置換した後、CH2Cl2(30 mL)を溶かし、ピリジン(0.63 mL, 3.0当量)を加えた。室温で2時間攪拌し、TLCで原料の消失を確認した後、飽和NaHCO3水溶液(10 mL)を加えた。AcOEt(30mL x 3)で抽出し、有機層を飽和食塩水(10 mL)で洗浄した後、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに再結しN-トシル-2-アミノ-4,5-ジメトキシアセトフェノン(2)(845 mg, 収率93%)を白い結晶として得た。
【0037】
次にN-トシル-2-アミノ-4,5-ジメトキシアセトフェノン(2)(845 mg, 2.23 mmol)とK2CO3(443 mg, 1.5当量)を混ぜ、Ar置換した後、DMF(30 mL)を溶かし、臭化アリル(0.26 mL, 1.5当量)を加えた。80度で2時間攪拌し、TLCで原料の消失を確認した後、飽和NaHCO3水溶液(10 mL)を加えた。Et2O (30mL x 3)で抽出し、有機層を飽和食塩水 (10 mL)で洗浄した後、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに再結晶しN-アリル-N-トシル-2-アミノ-4,5-ジメトキシアセトフェノン(3)(818 mg, 収率88%)を白い結晶として得た。
【0038】
N-アリル-N-トシル-2−アミノ-4,5−ジメトキシアセトフェノン(3)(818 mg, 2.1 mmol)とNaI(1.259 g, 4.0当量)を混ぜ、ポンプで100℃10分乾燥した後、Ar置換し、CH3CN(30 mL)を溶かしてEt3N(1.15 mL, 4.0当量)、TMSCl(トリメチルシリルクロリド、1.14 mL, 4.0当量)を順次加え、2時間加熱還流した。TLCで原料の消失を確認した後、室温まで冷却し、Et3N (0.1 mL)を加え、Et2O(30mL x 3)で抽出し、有機層を飽和食塩水(10 mL)で洗浄した後、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣(N-アリル-N-トシル-2-[1-(トリメチル-シラニロキシ-ビニル]-4,5-ジメトキシ-アニリン(4)、970 mg, 2.1 mmol)、第二世代グラブス触媒 (89 mg, 0.05当量)をはかりとり、Ar置換した後、CH2Cl2 (89 mL)に溶かし、50度で1時間攪拌した。TLCで原料の消失を確認し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに再結晶しN-トシル-4-ヒドロキシ-6,7-ジメトキシキノリン(5)(600 mg, 収率79%)を白い結晶として得た。
【0039】
N-トシル-4-ヒドロキシ-6,7-ジメトキシキノリン(5)(200 mg, 0.56 mmol)をはかりとり、POCl3 (2.78 mL) を加えた後、3時間加熱還流した。TLCで原料の消失を確認した後、室温まで冷却し、10% HCl (3.0 mL)を加え、CH2Cl2 (10mL x 3)で抽出し、有機層を飽和食塩水(5 mL)で洗浄した後、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、さらに再結晶し4-クロロ-6,7-ジメトキシキノリン(6) (77 mg, 収率61%)を黄色結晶として得た。
【0040】
4-クロロ-6,7-ジメトキシキノリン(6)(77 mg, 0.34 mmol), 3-エチニルアニリン(0.07 mL, 2当量), イソプロピルアルコール(5 mL)を順次加え、3時間加熱還流した。TLCで原料の消失を確認した後、室温まで冷却し、飽和NaHCO3水溶液(5 mL)を加えた。AcOEt (10mL x 3)で抽出し、有機層を飽和食塩水(5 mL)で洗浄した後、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し(3-エチニル-フェニル)-6,7-ジメトキシキノリン-4-イル-アミン(7)(36 mg, 収率35%)を黄色固体として得た。
【0041】
(3-エチニル-フェニル)-6,7-ジメトキシキノリン-4-イル-アミン(7)(71 mg, 0.23 mmol)をCH2Cl2(5 mL)に溶かし、-30度でBBr3のCH2Cl2溶液(2.5 mL, excess)を加え、-30度から室温まで戻しながら3時間攪拌することにより、脱メチル化を行なった。TLCで原料の消失を確認した後、飽和NaHCO3水溶液(10 mL)を加えた。AcOEt(10mL x 3)で抽出し、有機層を飽和食塩水(5 mL)で洗浄した後、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し(3-エチニル-フェニル)-6,7-ジヒドロキシキノリン-4-イル-アミン(8)(47 mg, 収率73%)を黄色固体として得た。
【0042】
(3-エチニル-フェニル)-6,7-ジヒドロキシキノリン-4-イル-アミン(8)(47 mg, 0.17 mmol), NaH (9.8 mg, 2.4当量) を、THF (5 mL) に溶かし、0度で15分攪拌した後、2-ブロモエチルメチルエーテル(0.03 mL, 2当量)を加え、室温で12時間攪拌した。TLCで原料の消失を確認した後、飽和NaHCO3水溶液(10 mL)を加えた。AcOEt(10mL x 3)で抽出し、有機層を飽和食塩水(5 mL)で洗浄した後、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製しYCU07 (14 mg, 収率34%)を黄色固体として得た。
【0043】
European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging (2007) vol.34, No.3, p.354-362,及びAcad Radiol. (2007) Sep, 14(9), p.1050-1057記載の方法に準じて、上記で得られたYCU07のキノリン骨格4位のアミノ基に公知のキレート剤(ポリグルタミン酸ペプチド、GAP)を結合させ、これを介して68Gaを結合させることにより、YCU07への標識を行い、分子標的ポジトロンイメージング製剤(68Ga-GAP-YCU07)を調製した。
【0044】
【化6】

【0045】
キレート剤のポリグルタミン酸ペプチド(GAP)としては、上記式中に示される分子量1,500〜3,000(n=10-20)のものを用いた。まず、GAPのナトリウム塩500mgを2mlの2N塩酸に溶解して酸性型に変換し、該溶液を分子量カットオフ値1,000のSpectra/POR molecular porous membrane(Spectrum Medical Industries Inc.)を用いて48時間透析した。凍結乾燥後、酸性型GAP(357.7 mg, 0.1589 mmol)を10mlのDMFに溶解した。該溶液にYCU07(62.36mg, 0.1589 mmol)、4-N,N-ジメチルアミノピリジン(23.30mg,0.1907mmol)を加えた。この混合物を室温で2日間撹拌した。減圧下でDMFを蒸発させた後、1N炭酸水素ナトリウムを添加してクロロホルムで抽出した。水層を48時間透析(分子量カットオフ値1,000)し、生成物を凍結乾燥することにより、キノリン骨格4位のアミノ基にGAPを結合させた化合物(GAP-YCU07、120mg)を得た。
【0046】
標識に用いる68Gaは、市販の68Ge/68Ga generator(Eckert & Ziegler Isotope Products Inc., USA)から抽出して得た。具体的には、68Ge/68Ga generatorから0.5NのHClで68Gaを抽出し、酸性溶液をアニオン樹脂カートリッジに通液して68Gaを捕捉した。カートリッジを4N塩酸で洗浄し乾燥させた後、68GaCl3として水を用いて68Gaを溶出させ、水酸化ナトリウムと酢酸ナトリウムを用いてpHを4-5に調整した。GAP-YCU07のアセテートバッファー溶液を68GaCl3溶液に添加し、37℃で20分間反応させることで、YCU07の68Ga標識化合物(68Ga-GAP-YCU07)を得た。
【0047】
In vitro実験
YCU07(10μM)のEGFRチロシンキナーゼ阻害作用を、A431腫瘍細胞を用いてELISA定量法により測定した。具体的には、以下のとおりに行なった。A431腫瘍細胞にYCU07を10μMの濃度で添加し、バッファー(50mM HEPES, PH7.4, 20mM MgCl2, 0.2mM Na3VO4)中で25℃、60分間インキュベートした。次いで、Journal of Biological Chemistry (1996) vol.271, p.311-318 及びANALYTICAL BIOCHEMISTRY (1992) vol. 203, No.1, p.151-157の論文報告に従いEGFR Receptor チロシンキナーゼの活性の抑制効果を測定した。
【0048】
動物実験1
ヒト類表皮癌A431を6週令のBALB/cヌードマウスに移植した腫瘍モデルに対し、0.5MBq/0.5mg/0.5ml(PH6.4)の68Ga-GAP-YCU07を尾静脈から注射し、30分後に屠殺し、OCT(optimal cutting temperature)コンパウンドおよび液体窒素を用いてLeica CM3600(ライカマイクロシステムズ)により凍結薄層組織切片を作製した。該切片は、マウスをほぼ体軸に沿う方向で、腫瘍部を縦断するように切断して作製した。該切片を、Instant Imager (Perkin-Elmer)にて撮像し、筋肉組織に対する腫瘍組織の集積比を算出した。
【0049】
動物実験2
ヒト類表皮癌A431を6週令のBALB/cヌードマウスに移植した腫瘍モデルに4MBq/2mg/0.5ml(PH6.7)の68Ga標識YCU07を尾静脈から注射し、30分後に屠殺し解剖して腫瘍と筋肉を取り出し、Cobra gamma counter(Packard)でカウントし、筋肉組織に対する腫瘍組織の集積比を算出した。
【0050】
結果
In Vitro 実験
A431腫瘍細胞を用いたEGFRチロシンキナーゼ阻害作用試験において、24%の阻害作用を示した。すなわち、10μMのYCU07を添加したA431腫瘍細胞では、EGFRチロシンキナーゼの活性が、YCU07非添加のA431腫瘍細胞の活性の24%まで低下していた。
【0051】
動物実験1
Autoradiographic image上の筋肉組織に対する腫瘍組織の集積比は1.35と1より高い集積を示した(図1)。
【0052】
動物実験2
A431腫瘍移植したBALB/cヌードマウスの生体内分布の実験ではT/M比が1.7±0.7と1よりも高値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】動物実験1において作製した腫瘍モデルマウスの凍結切片像(上段)と、該切片からの放射線を撮像した図(下段)である。枠内が腫瘍組織であり、図の左側が頭部、右側が尾部方向である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

[式中
R1、R2、R3はそれぞれ独立して
(1)R基、
(2)ハロゲン、
(3)−NHR基、−RNHR'NR''基、−RNHR'OR''基、若しくは−RNHR'SR''基、
(4)−OR基、−OROR'基、−ROR'NR''基、−ROR'OR''基、若しくは−ROR'SR''基、又は
(5)−SR基、−RSR'NR''基、−RSR'OR''基、若しくは−RSR'SR''基
(ここでR、R'及びR''はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10のアルキル基又はアルキレン基を表し、該アルキル基又はアルキレン基中の炭素原子は=O又は=Sで置換されていてもよい)
を表し、
R4、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立して
(1)ハロゲン、
(2)−OH、−NH2、若しくは−NO2又は
(3)炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、若しくはアルキニル基(ここでアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基中の炭素原子はハロゲンで置換されていてもよい)
を表す]
で示されるキノリン誘導体を放射性標識した標識化合物から成る腫瘍イメージング剤。
【請求項2】
一般式(I)において、前記全てのアルキル基、アルキレン基、アルケニル基及びアルキニル基の炭素数が1〜4である請求項1記載の腫瘍イメージング剤。
【請求項3】
一般式(I)において、R4、R5、R6、R8が水素であり、R7がエチニル基である請求項1又は2記載の腫瘍イメージング剤。
【請求項4】
一般式(I)において、R1、R2がそれぞれ独立して水素又は−OROR'基であり、R3が水素である請求項3記載の腫瘍イメージング剤。
【請求項5】
一般式(I)において、R1、R2が共に−OROR'基である請求項4記載の腫瘍イメージング剤。
【請求項6】
前記−OROR'基が2−メトキシエトキシ基である請求項5記載の腫瘍イメージング剤。
【請求項7】
前記放射性標識は放射性ハロゲン、放射性ガリウム又は放射性テクネチウムである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の腫瘍イメージング剤。
【請求項8】
前記標識化合物が下記一般式(II)
【化2】

[式中、R1、R2、R4、R5、R6、R7、R8は前記定義に同じであり、Xはキレート剤構造を表す]
で示される化合物のキレート剤構造部分に放射性金属が結合したものである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の腫瘍イメージング剤。
【請求項9】
グラブス触媒を用いた閉環メタセシス反応により、2位に置換基を有するアニリン化合物からキノリン骨格を合成する工程を含む、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の腫瘍イメージング剤に用いられる前記一般式(I)で示されるキノリン誘導体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−161478(P2009−161478A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292(P2008−292)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】