説明

腫瘍マーカータンパク質およびその使用

本発明は、腫瘍マーカータンパク質および1人または複数の癌患者の体液からのその調製に関する。前記体液は、自然に存在するまたは癌もしくは癌の医療行為の結果生じる体腔または体空に集まったものである。本発明はまた、癌に罹患している患者から採取した排泄物からの腫瘍マーカータンパク質の調製にも関する。腫瘍マーカータンパク質は、癌関連の抗腫瘍マーカー自己抗体の検出における免疫アッセイ試薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、腫瘍マーカータンパク質および1人または複数の癌患者の体液からのその調製に関する。前記体液は、自然に存在するまたは癌もしくは癌の医療行為の結果生じる、体腔または体空に集まったものである。例示的な体液は、腹水、胸水、漿液腫、水瘤および創傷ドレナージ液である。本発明はまた、癌に罹患している患者から採取した排泄物からの腫瘍マーカータンパク質の調製にも関する。
【0002】
前記腫瘍マーカータンパク質は、循環腫瘍マーカーまたは腫瘍細胞表面もしくは細胞内に発現されるマーカーに対する自己抗体を検出することあるいは定量的に測定することを含む癌の検出方法、および様々な研究用途に有用である。本発明は、このような使用も目的とする。
【発明の背景】
【0003】
患者における癌の発生および進行は、一般に患者の体液中におけるマーカーの存在に関連していることが判明しており、これらの「腫瘍マーカー」は癌の生物学の様々な側面を反映している(Fateh−Maghadam,A.&Steilber,P. (1993) Sensible use of tumour markers.、Verlag GMBH出版、ISBN3−926725−07−9参照)。腫瘍マーカーは、多くの場合「正常」細胞によって発現される野生型タンパク質の改変型であることが判明しており、この改変は一次アミノ酸配列の変化、二次、三次もしくは四次構造の変化、または翻訳後修飾の変化、たとえば異常なグリコシル化であり得る。さらに、遺伝子増幅または異常な転写調節の結果である可能性のある、腫瘍細胞においてアップレギュレーションまたは過剰発現されている野生型タンパク質も、腫瘍マーカーとなり得る。
【0004】
体液中に存在する腫瘍マーカーの確立されたアッセイは、腫瘍塊を反映する腫瘍マーカーの検出に焦点を置いている傾向にあり、したがって、疾患プロセスの後期、たとえば転移性疾患の診断において貴重である。これらのマーカーのうち最も幅広く使用されているものには、いずれも主に全身病の負荷および治療後の再発の指標として有用であった癌胎児性抗原(CEA)およびCA15.3と呼ばれる糖タンパク質が含まれる(Molina,R.、Zanon,G.、Filella,X.他、Use of serial carcinoembryonic antigen and CA15.3 assays in detecting relapses in breast cancer patiens.、(1995)、Breast Cancer Res Treat、36:41〜48)。これらのマーカーは、疾患の初期、たとえば早期検出または無症候性患者のスクリーニングにおいては使用が限定されている。このようにして、疾患プロセスの初期において診断を支援するのに有用な体液中に存在する腫瘍マーカーの探索中に、本発明者らは、腫瘍塊自体に依存しないマーカーを同定することを試みた。
【0005】
「正常」細胞によって発現される野生型タンパク質と対応する腫瘍マーカータンパク質との差により、一部の場合では、腫瘍マーカータンパク質が個体の免疫系に「非自己」として認識されることにつながり、したがってその個体において免疫応答が誘発され得る。これは、腫瘍マーカータンパク質に対して免疫学的に特異的な自己抗体の産生をもたらす液性(すなわちB細胞媒介性)免疫応答であり得る。自己抗体とは、抗原が実際にはその個体由来であるにもかかわらずその個体の免疫系が外来性であると認識する抗原に向けられた、天然に存在する抗体である。これは、循環遊離自己抗体として、または自己抗体とその標的腫瘍マーカータンパク質とが結合したものからなる循環免疫複合体の形で、循環中に存在し得る。
【0006】
体液中の腫瘍マーカータンパク質の直接の測定または検出の代替として、自己抗体の産生に関して腫瘍マーカータンパク質の存在に対する個体の免疫応答を測定するためにアッセイを開発し得る。このようなアッセイは、本質的に、腫瘍マーカータンパク質の存在の間接的な検出を構成する。免疫応答の性質のため、自己抗体は非常に僅かな量の循環腫瘍マーカータンパク質によって誘発され得る可能性が高く、その結果、腫瘍マーカーに対する免疫応答の検出に依存する間接的な方法は体液中の腫瘍マーカーを直接測定する方法よりも感度が高くなる。したがって、自己抗体の産生に基づくアッセイ方法は、疾患プロセスの初期において、および場合によっては無症候性患者のスクリーニングに関連して、たとえば無症候性個体の集団の中から疾患を発生する「危険性のある」個体を同定するためのスクリーニングにおいて特に貴重となり得る。さらに、これらは再発性疾患の早期検出に有用であり得る。
【0007】
血清自己抗体を誘発することが観察されている腫瘍マーカータンパク質には、70kdの熱ショックタンパク質(hsp70)に結合するその能力によって定義することができる、米国特許第5,652,115号に記載されている突然変異体p53タンパク質の特定のクラスが含まれる。p53自己抗体は、多くの様々な良性および悪性状態にある患者(米国特許第5,652,115号に記載)で検出することができるが、それぞれの場合で、患者のうちの小集団にしか存在しない。たとえば、乳癌患者の血清中のp53タンパク質に対する自己抗体を検出するためのELISAアッセイを利用した1つの研究では、患者の26%および対照対象の1.3%でp53自己抗体が産生されたことが報告されている(Mudenda,B.、Green,J.A.、Green,B.他、The relationship between serum p53 autoantibodies and characteristics of human breast cancer、(1994)、Br J Cancer、69:4445〜4449)。血清自己抗体を誘発させることが知られている第2の腫瘍マーカータンパク質は、上皮ムチンMUC1である(Hinoda,Y.他、(1993)、Immunol Lett.、35:163〜168;Kotera,Y.他、(1994)、Cancer Res.54:2856〜2860)。
【0008】
国際公開公報WO99/58978号は、2種以上の異なる腫瘍マーカーに対する個体の免疫応答の評価に基づいた、癌の検出/診断に使用する方法を記載している。これらの方法は、一般に、個体から採取した体液の試料を、それぞれが個別の腫瘍マーカータンパク質由来である2種以上の異なる腫瘍マーカー抗原のパネルと接触させ、腫瘍マーカータンパク質に免疫学的に特異的な循環自己抗体に結合した腫瘍マーカー抗原の複合体の形成を検出することを含む。このような循環自己抗体の存在を、癌の存在の指標とする。
【0009】
循環自己抗体の検出に基づいた癌の検出方法は、多くの場合、循環自己抗体と反応性がある「免疫アッセイ試薬」を利用する免疫アッセイである。典型的には、このようなアッセイで使用する「試薬」は、組換え腫瘍マーカータンパク質(細菌、昆虫、酵母もしくは哺乳動物細胞内で発現される)または化学合成腫瘍マーカー抗原を含み、これは実質的に完全な腫瘍マーカータンパク質、もしくは短いペプチド抗原などのその断片を含み得る。抗腫瘍自己抗体を検出するための免疫アッセイ試薬の基盤として使用する他の潜在的な腫瘍関連タンパク質源には、培養腫瘍細胞(およびその増殖に使用した使用済み培地)、腫瘍組織、および腫瘍症を有する個体由来の血清が含まれる。これらの源のほとんどが、以下に記載するように顕著な欠点を有する。
【0010】
培養腫瘍細胞(およびその使用済み培地)では、発現されたタンパク質の量は、回収時の増殖相に応じて変化し、量および質にばらつきが生じる可能性がある。さらに、所望のタンパク質は一般に低濃度で存在し、したがって、十分な量のタンパク質を精製するには時間がかかる。さらに、新生物の増殖中に異種性となる可能性が高い腫瘍中の細胞ストックとは異なり、細胞ストックはクローン性となり、これによりタンパク質にばらつきが生じる(特にグリコシル化の程度)。
【0011】
細菌細胞内で発現される組換えタンパク質はグリコシル化されておらず、したがって、これらは自然にグリコシル化されたタンパク質とは顕著に異なる。さらに、組換えによって発現させたタンパク質のリフォールディングは妥当でないかもしれず、これにより自己抗体の認識に正しくないコンホメーションが与えられる。
【0012】
腫瘍組織は通常、少量でしか入手可能でなく、それからタンパク質を精製することは困難かつ時間がかかる。
【0013】
血清試料は通常、少量でしか入手可能でなく、したがって、十分な量のタンパク質を精製することは困難である。
【0014】
本発明者らは、今回、腹水、胸水、漿液腫、水瘤または創傷ドレナージ液などの、腫瘍が存在する、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空由来の体液、あるいは排泄物由来の体液から精製した腫瘍マーカー抗原の、自己抗体免疫アッセイの「試薬」としての使用によって得られる顕著な利点を決定した。具体的には、本発明者らは、上記の定義した体腔または体空由来の体液から精製した腫瘍マーカー抗原を含む試薬を使用することにより、感度の上昇が生じ(「正常」体液由来の試薬を使用した場合と比べて)、より「臨床的に関連のある」結果がもたらされることを観察した。また、このような体液をアッセイ試薬源として使用するにより得られる顕著な実用上の利点も存在する。
【発明の概要】
【0015】
第1態様では、本発明は、癌関連の抗腫瘍性自己抗体を検出する方法であって、このような自己抗体の存在について試験する試料を免疫アッセイ試薬と接触させること、および免疫アッセイ試薬と試料中に存在する任意の癌関連の抗腫瘍性自己抗体との特異的結合によって形成された複合体の存在を検出することを含む免疫アッセイであり、免疫アッセイ試薬が、1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質を含み、前記腫瘍マーカータンパク質が癌関連の抗腫瘍性自己抗体と選択的反応性を示す方法に関する。
【0016】
第2態様では、本発明は、癌関連の抗腫瘍性自己抗体と選択的反応性を示す免疫アッセイ試薬の製造における、1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質の使用に関する。
【0017】
第3態様では、本発明は、腫瘍マーカータンパク質を調製する方法であって、前記腫瘍マーカータンパク質を体液から単離することを含み、前記体液が、
(i)腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空から採取したものであり、かつ
(ii)前記体液が2人以上の癌患者のプールした体液試料を表す
方法に関する。
【0018】
第4態様では、本発明は、腫瘍マーカータンパク質を調製する方法であって、前記腫瘍マーカータンパク質を排泄物から単離することを含み、
(i)前記排泄物またはその任意の成分が腫瘍または腫瘍細胞と接触したことがあり、かつ
(ii)前記排泄物が2人以上の癌患者のプールした排泄物試料を表す
方法に関する。
【0019】
第5態様では、本発明は、上述の方法を用いて調製した、実質的に免疫グロブリンを含まない腫瘍マーカータンパク質調製物、ならびに前記調製物を含むキットおよび試薬に関する。
【発明の詳細な説明】
【0020】
第1態様では、本発明は、「癌関連の」抗腫瘍性自己抗体を検出する方法に関する。
【0021】
用語「癌関連の」抗腫瘍性自己抗体とは、癌の病状に特徴的であり、癌の病状で優先的に発現している腫瘍マーカータンパク質型上に存在するエピトープに向けられた自己抗体をいう。
【0022】
本発明の方法は、1種または複数種の腫瘍マーカータンパク質に免疫学的に特異的な自己抗体を検出および/または定量的に測定するための免疫アッセイを含み、免疫アッセイで使用する「免疫アッセイ試薬」が、1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質を含むことを特徴とする。一般に、排泄物は癌が存在する器官を通るはずであり、ここで排泄物が前記癌と接触する、または排泄物が身体の他の場所で癌と接触した1つもしくは複数の成分を含むこととなる。具体的な例は、胆嚢内で癌と接触し得るが糞便中に現れる胆汁である。
【0023】
免疫アッセイ試薬は、癌関連の抗腫瘍性自己抗体と「選択的反応性」を示す。本明細書中で使用する「選択的反応性」とは、腫瘍マーカータンパク質が、任意の抗体、または正常な、すなわち腫瘍を有さない状態で存在する同じ抗原に対して作製された自己抗体と比較して、腫瘍関連抗原に対する自己抗体に対してより高い親和性を有することを意味する。
【0024】
用語「体腔または体空」には、自然に存在する腔または空間であれ、つぶれた腔もしくは以前の腔を含めた、疾患または医療行為の結果生じる腔であれ、任意の体腔または体空が含まれる。体液は、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた腔または空間由来である。好ましくは、「体腔由来の体液」は、腫瘍誘発性の体液である、すなわち、体液は疾患プロセス、たとえば腫瘍細胞の存在に応答して、またはその結果として産生された体液である。体液の例は、腹水、胸水、漿液腫、水瘤および創傷ドレナージ液である。
【0025】
不確かさを避けるために、「体腔または体空由来の体液」には、全血液や血清などの全身循環由来の体液は含まれない。
【0026】
用語「排泄物」には、とりわけ、尿、糞便、および精液が含まれる。
【0027】
たとえばELISA、ラジオイムノアッセイなどの免疫アッセイの一般的特徴は当業者に周知である(Immunoassay、E.DiamandisおよびT.Christopoulus、Academic Press,Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ、1996参照)。特定の免疫学的特異性を有する抗体(たとえば、所定の腫瘍マーカータンパク質と免疫学的反応性を有する自己抗体)を検出するための免疫アッセイは、一般に、試験下の抗体と特異的な免疫学的反応性を示す試薬の使用を必要とする。アッセイの形態次第では、この試薬を固体担体上に固定することができる。抗体の存在について試験する試料を試薬と接触させ、必要な免疫学的反応性の抗体が試料中に存在する場合は、これらは試薬と免疫学的に反応して自己抗体−試薬の複合体を形成し、次いでこれを検出するまたは定量的に測定し得る。
【0028】
「免疫アッセイ試薬」の基盤として使用する腫瘍マーカータンパク質の適切な試料は、1人または複数の癌患者の体腔または体空由来の体液および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物由来の体液から、当分野で一般的に知られているものなどの標準のタンパク質精製技術を用いて単離し得る。たとえば、腫瘍マーカータンパク質を、アフィニティークロマトグラフィーによって、腫瘍マーカータンパク質に免疫学的に特異的な適切な抗体(または抗体断片)を用いて単離し得る。本発明者らは、添付の実施例にて、いくつかの様々な腫瘍マーカータンパク質を、アフィニティークロマトグラフィーに基づいた精製方法を用いて精製し得ることを示した。任意の他の腫瘍マーカータンパク質に用いられる類似の精製方法を適切な抗体または抗体断片を使用して用いることができることは、当業者に明らかであろう。
【0029】
体腔および/または排泄物由来の体液の出発物質を1人または複数の癌患者から採取する。本文脈では、用語「癌患者」には、以前に癌に罹患していると診断されたことがある個体が含まれる。体液/排泄物は、単一の患者から採取してもよく、または2人以上の患者の試料を一緒にプールしてもよい。試料は、同一または異なる種類の癌の、同一または異なる段階に罹患している2人以上の患者からプールし得る。試料はまた、単一または複数の患者の異なる種類の体液または排泄物からもプールし得る。有利には、特定の種類の癌に罹患している癌患者(もしくは複数の患者)から採取した体液および/または排泄物から調製した免疫アッセイ試薬を用いて、他の個体において同種類の癌の診断を支援し得る。
【0030】
一実施形態では、体液/排泄物を採取する「癌患者」は、後にアッセイ試薬を用いて試験することを意図する患者と同一であり得る。たとえば、癌を診断された患者から調製した試薬のストックを、後日、同じ患者の免疫状態を評価するために、たとえば疾患の進行を監視するためおよび/またはその患者における抗癌治療の経過の有効性を評価するために使用し得る。
【0031】
「免疫アッセイ試薬」または「腫瘍マーカー調製物」は、腫瘍マーカータンパク質の実質的に全体、たとえば実質的に体液/排泄物から単離したままの腫瘍マーカータンパク質を含んでいるか、または腫瘍マーカータンパク質の断片を含んでいてよい。免疫アッセイ試薬として有効となるには、このような「断片」はすべて、試薬を用いて試験することが望まれる(自己)抗体との免疫学的反応性を保持していなければならない。適切な断片は、たとえば、単離した腫瘍マーカータンパク質の化学的または酵素的切断によって調製し得る。
【0032】
使用する免疫アッセイの詳細な性質次第では、「試薬」または「腫瘍マーカータンパク質調製物」は、腫瘍マーカータンパク質に天然に存在しないある種の望ましい特徴を与える1つまたは複数のさらなる分子に連結した、腫瘍マーカータンパク質またはその断片を含み得る。たとえば、腫瘍マーカータンパク質を、蛍光標識、提色標識、発光標識、放射標識または金コロイドなどの重金属等の表示標識とコンジュゲートさせ得る。
【0033】
本明細書中に記載した方法によって調製した腫瘍マーカータンパク質は、ビーズまたはマルチウェルプレートのプレートの表面などの固体担体上で使用するために固定することもできる。固定化は、吸収または共有結合によるものであり得る。
【0034】
腫瘍マーカータンパク質(またはこのようなタンパク質を含むアッセイ試薬)は、たとえばアフィニティークロマトグラフィーによる単離の後、汚染免疫グロブリンを特異的に除去するためにタンパク質調製物を処理するおかげで、好ましくは実質的に免疫グロブリンを含まない。
【0035】
1人または複数の癌患者から採取した体腔体液および/または排泄物から単離した腫瘍マーカータンパク質(もしくはその断片)を含む免疫アッセイ試薬の使用は、癌の臨床検出(診断、疾患の再発または疾患の進行の監視などを含む)において、組換えによって発現させたまたは化学合成のポリペプチドなどの他の試薬の使用を超える顕著な利点を提供する。
【0036】
癌患者から単離した腫瘍マーカータンパク質の詳細な特徴が腫瘍マーカータンパク質を単離した原料物質(たとえば組織または体液)に応じて変化するかもしれないことは予想され得る。たとえば、尿から単離したタンパク質の特徴は全血液や血清から単離したタンパク質と異なるかもしれず、これらもまた、腹水や胸水から単離したタンパク質とは異なるかもしれない。立ち代って、このことは腫瘍マーカータンパク質のアッセイ試薬としての利用性に影響を与え得る。
【0037】
実際、驚くべきことに、本発明者らは、癌患者の体腔由来の体液または排泄物、特に腹水、胸水、漿液腫もしくは創傷ドレナージ液から単離した腫瘍マーカータンパク質から調製した試薬が、一般に、「正常」個体から単離した同等のタンパク質に基づいた試薬よりも癌関連の自己抗体に対する特異性が高いことを観察した。癌関連の自己抗体に対するこの特異性の増大は、癌患者の体腔由来の体液または排泄物から調製した試薬の使用に基づいた免疫アッセイにより、癌に対する免疫応答の検出において、より「臨床的に関連のある」結果が生じることを意味する。
【0038】
本発明以前は、癌患者の体腔由来の体液または排泄物から調製した抗原を含む試薬がどのように自己抗体の免疫学的検出用の試薬として機能するかは不明確であった。具体的には、このような抗原が癌関連の自己抗体に対してより高い特異性を示すかどうかが不明であった。このような源由来の抗原が、癌関連の自己抗体を検出するその能力に関して血液もしくは血清から調製した抗原と同様にまたはそれより良好に機能するかどうかが予測できなかった。腫瘍マーカータンパク質が体腔および体空由来の体液中に存在し得ることは知られていたが、これらの体腔および体空中の抗原が分解される可能性の方が一般的に高い。立ち代って、このことは、これらが血清由来の抗原ほど良好に自己抗体を検出できないかもしれないことを意味する。さらに、腔由来の体液および排泄物由来の抗原が血清由来の抗原と免疫学的に類似しているかどうかを確実に結論づけることができなかった。したがって、癌患者の腔由来の体液および排泄物から調製した抗原が免疫アッセイ試薬ほど良好に機能するという観察は驚くべきであった。
【0039】
本発明者らは、腹水、胸水、漿液腫または創傷ドレナージ液などの癌患者の体腔由来の体液から調製した試薬の使用において観察された特異性の向上は、患者の体腔または体空内のこのような体液の起源によるものであると主張する。主要な器官と接触している腫瘍が存在していることにより体腔または体空を起源とする体液がより多くの腫瘍マーカータンパク質の「癌関連の」型を拾い得ると主張されており、実際これは、癌の病状に関連しており、より少ない対応する「正常」タンパク質が含まれる。免疫応答(すなわち自己抗体の産生)の発生を引き起こすのは一般に「腫瘍」マーカータンパク質とその「正常」な対応物との差であるので、本発明者らは、癌患者から単離した腫瘍マーカーの使用に基づいた試薬が同等の「正常」タンパク質よりも癌の自己抗体に対して特異性が高いと仮定する。添付の実施例で示すように、このことは実際に、腹水、胸水または漿液腫から単離した腫瘍マーカー抗原の場合にそうである。
【0040】
腫瘍マーカータンパク質源として腹水、胸水、漿液腫、水瘤または創傷ドレナージ液を使用することに関連するさらなる実用上の利点が存在する。これらの体液は、治療戦略の一部として患者から比較的大容量で容易に取り出し得る。これ以外の方法では廃棄されるこの材料は、有用なアッセイ試薬の貴重な源である。
【0041】
腹水、胸水、漿液腫、水瘤または創傷ドレナージ液などの体液が大容量で産生されると考えると、このような体液中の腫瘍マーカータンパク質の濃度が、このような体液を抗原の実用的な源として使用することを可能にするのに十分に高いかどうかが懸念された。このような体液では、血液または血清と比較して腫瘍マーカータンパク質の濃度がより薄いことが当然予測される。驚くべきことに、本発明者らは、このような体液中の腫瘍マーカータンパク質の濃度が実際には血清よりも有意に高いことを観察した。したがって、このような体液から腫瘍マーカータンパク質を回収する際の収率に関して相当な利点が得られる。
【0042】
さらに、2人以上の患者の体腔体液試料または排泄物をプールすることによってさらなる顕著な利点が得られることも、本発明者らによって観察されている。タンパク質の収率を増加させる以外に、この産物は個体試料由来のマーカータンパク質と少なくとも同等に良好な検出率を与え、同時に、バッチ間でその特徴がより一貫している。したがって、抗原の親和性が毎回十分であることに頼ることができる。
【0043】
特定の実施形態では、本発明の方法は、それぞれが異なる腫瘍マーカータンパク質または同一の腫瘍マーカータンパク質上の異なるエピトープに対する特異性を有する2種類以上の自己抗体を(同時に)検出する免疫アッセイを含み得る。これらの方法は、典型的には、それぞれの試薬が異なる腫瘍マーカータンパク質を含む2種以上のアッセイ試薬のパネルの使用を含む。本明細書中で以降「パネルアッセイ」と呼ぶことがあるこれらの方法では、腫瘍または他の発癌性/新生物性の変化に対する個体の全体的な免疫応答を監視するために2種以上の試薬のパネルを利用する。したがって、これらの方法では、どの腫瘍マーカーが自己抗体の産生を生じる免疫応答を誘発させるかを示す、所定の個体における免疫応答の「プロフィール」を検出する。2種以上の異なる腫瘍マーカーに対する自己抗体の産生を監視するための2種以上の試薬のパネルの使用は、一般に単一のマーカーに対する自己抗体の検出よりも感度が高く、誤った陰性結果の頻度がはるかに低い。
【0044】
本発明の方法は循環遊離自己抗体の検出に好ましいが、当業者には理解されるように、たとえば標識した腫瘍マーカーの競合的使用によって、免疫複合体中に存在する自己抗体の検出に適応させ得る。
【0045】
好ましい応用では、本発明の方法は、ヒト対象または患者において癌関連の抗腫瘍性自己抗体の存在を検出するために使用し、最も好ましくは対象/患者から採取した体液の試料で実施するin vitro免疫アッセイの形をとる。このようなin vitro免疫アッセイは非侵襲性であり、患者における自己抗体産生のプロフィールを構築するために必要と考えられるだけの回数、「危険性のある」個体のスクリーニングにおいてなど疾患の発症前に、または疾患が経過する間中、繰り返すことができる(本方法の好ましい応用に関連して以下に詳述する)。自己抗体の存在について免疫アッセイによって試験する物質に関して本明細書中で使用する用語「体液」には、とりわけ、血漿、血清、全血、尿、汗、リンパ液、糞便、脳脊髄液、腹水、胸水、精液、痰または乳頭吸引液が含まれる。使用する体液の種類は、関与する癌の種類およびアッセイを使用する臨床の状況に応じて変化し得る。一般に、血清または血漿の試料でアッセイを行うことが好ましい。
【0046】
前述のように、癌関連の自己抗体を検出/定量するために使用する「免疫アッセイ」は、当分野で知られている標準の技術に従って実施し得る。最も好ましい実施形態では、免疫アッセイはELISAであり得る。ELISAは当分野において一般的によく知られている。典型的な「サンドイッチ」ELISAでは、試験下の自己抗体に対して特異性を有する試薬を固体表面(たとえば標準のマイクロタイターアッセイプレートのウェル、またはマイクロビーズの表面)上に固定し、自己抗体の存在について試験する体液の試料を固定した試薬と接触させる。試料中に存在する所望の特異性の任意の自己抗体が、固定した試薬に結合する。その後、任意の適切な方法を用いて、結合した自己抗体/試薬の複合体を検出し得る。好ましい一実施形態では、ヒト免疫グロブリンの1つまたは複数のクラスに共通のエピトープを特異的に認識する、標識した二次抗ヒト免疫グロブリン抗体を、自己抗体/試薬の複合体の検出に使用する。典型的には、二次抗体は抗IgGまたは抗IgMである。二次抗体は通常、検出可能なマーカー、典型的にはたとえばペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素マーカーで標識し、これにより、検出可能な産物、たとえば提色、化学発光または蛍光産物を生じる酵素の基質を加えることによって、定量的な検出が可能となる。当分野で知られている他の種類の検出可能な標識を使用してもよく、同等の効果が得られる。
【0047】
ELISAは、目的が試料中に自己抗体が存在するか存在しないかを決定するだけである定性的形式で行うか、または試料中に存在する自己抗体の量の測定を提供する定量的形式で行い得る。定量的アッセイでは、試験下の自己抗体と類似の特異性を有する既知の濃度の抗体を含む一連の標準試料から得られたシグナルを測定することによって(アッセイで使用するものと同じ検出反応を使用する)検量線を作成し得る。その後、試験下の試料中に存在する自己抗体の量を検量線から内挿し得る。
【0048】
パネルアッセイは、2種以上のアッセイ試薬のそれぞれをマルチウェルアッセイプレートの別々のウェル内に入れるマルチウェル形式で行うか、あるいは、2種以上のアッセイ試薬を単一の容器内に入れるシングルポット形式で行い得る。
【0049】
本発明の方法は、本質的にすべての腫瘍マーカータンパク質に対する自己抗体を検出するための使用に適用させ得る。適切な「アッセイ試薬」は癌患者の体腔由来の体液および/または排泄物から調製し得る。具体的には、本方法を、上皮成長因子受容体関連タンパク質c−erbB2(Dsouza,B.他、(1993)、Oncogene.、8:1797〜1806)、糖タンパク質MUC1(Batra,S.K.他、(1992)、Int.J.Pancreatology.、12:271〜283)ならびにシグナル伝達/細胞周期調節タンパク質Myc(Blackwood,E.M.他、(1994)、Molecular Biology of the Cell、5:597〜609)、p53(Matlashewski,G.他、(1984)、EMBO J.、3:3257〜3262;Wolf,D.他、(1985)、Mol.Cell.Biol.、5:1887〜1893)およびras(またはRas)(Capella,G.他、(1991)、Environ Health Perspectives.、93:125〜131)、ならびにBRCA1(Scully,R.他、(1997)、PNAS、94:5605〜10)、BRCA2(Sharan,S.K.他、(1997)、Nature.、386:804〜810)、APC(Su,L.K.他、(1993)、Cancer Res.、53:2728〜2731;Munemitsu,S.他、(1995)、PNAS、92:3046〜50)、CA125(Nouwen,E.J.他、(1990)、Differentiation.、45:192〜8)、PSA(Rosenberg,R.S.他、(1998)、Biochem Biophys Res Commun.、248:935〜939)、癌胎児性抗原CEA(Duffy,M.J.、(2001)、Clin Chem、4月、47(4):624〜30)、およびCA19.9(Haga,Y.他、(1989)、Clin Biochem、(1989)10月、22(5):363〜8)に対する自己抗体を検出/測定するように適用させ得る。しかし、本発明はこれらの具体的な腫瘍マーカーに対する自己抗体の検出に限定されることを意図しない。
【0050】
本発明のアッセイ方法は、様々な異なる臨床状況で使用し得る。具体的には、本方法を、癌の検出もしくは診断、患者における癌もしくは他の新生物性疾患の進行の監視、無症候性ヒト対象における初期の新生物性の変化もしくは初期の発癌性の変化の検出、癌を発生する危険性が高い対象を同定するための無症候性ヒト対象の集団のスクリーニング、抗癌治療に対する癌患者の応答の監視、以前に癌に罹患していると診断されたことがあり、存在する癌の量を低減させるために抗癌治療を受けた患者における再発性疾患の検出、または特定の患者で使用する抗癌ワクチンの選択において使用し得る。
【0051】
本発明者らは、一般に癌関連の自己抗体のレベルが病状と正の相関を示すことを観察した(その内容が本明細書中に参考として組み込まれている国際公開公報WO99/58979号参照)。したがって、本発明の方法を臨床用途で使用する場合、適切な対照と比較した場合に抗腫瘍マーカー自己抗体のレベルが上昇していることは、癌の病状の指標として捉えられる。
【0052】
たとえば、免疫アッセイを癌の診断で使用する場合、「正常」対照個体と比較して自己抗体のレベルが上昇していることは、個体が癌に罹患していることの指標として捉えられる。「正常」対照個体は、好ましくは年齢の一致した、臨床、イメージングおよび/または生化学的基準に基づいた癌の診断をまったく有さない対照である。
【0053】
免疫アッセイを患者における癌または他の新生物性疾患の進行の監視で使用する場合、「正常対照」と比較して自己抗体のレベルが上昇していることは、患者において癌が存在することの指標として捉えられる。「正常対照」とは、好ましくは年齢の一致した、臨床、イメージングおよび/または生化学的基準に基づいた癌の診断をまったく有さない対照個体中に存在する自己抗体のレベルであり得る。あるいは、「正常対照」は試験下の特定の患者のために確立した「基準」レベルであり得る。「基準」レベルは、たとえば、最初の癌の診断または再発性の癌の診断がなされた際に存在する自己抗体のレベルであり得る。基準レベルを超える増加はすべて、患者に存在する癌の量が増加したことの指標として捉えられ、一方、基準より低い低減はすべて、患者に存在する癌の量が低減したことの指標として捉えられる。また、「基準」値は、たとえば、新しい治療を開始する前のレベルであり得る。自己抗体のレベルの変化は、治療の有効性の指標として捉えられる。治療に対する正の応答を示す「変化」の方向(すなわち増加または低減)は、治療の詳細な性質に依存する。任意の治療について、正の結果を示す自己抗体レベルの「変化」の方向を容易に決定し得る。これは、たとえば自己抗体レベルを、治療に対する応答の他の臨床指標または生化学的指標と比較して監視することによって行う。
【0054】
免疫アッセイを、癌を発生する危険性が高い対象を同定するための無症候性ヒト対象の集団のスクリーニングに使用する場合、「正常」対照個体と比較して自己抗体のレベルが上昇している個体は、癌を発生する「危険性のある」にあると同定される。「正常」対照個体は、好ましくは、癌を発生する素因をまったく有さない、または癌を発生する危険性の有意な上昇がまったくみられないと同定された、年齢の一致した対照である。これの例外は、年齢自体が主要な危険因子である場合かもしれない。
【0055】
免疫アッセイを抗癌治療に対する癌患者の応答の監視に使用する場合、治療後に自己抗体のレベルが低下していることは、患者が治療に正に応答したことの指標として捉えられる。治療を開始する前に取得した自己抗体の基準レベルは、治療が自己抗体レベルの「低下」をもたらすかどうかを決定するための比較目的で使用し得る。
【0056】
免疫アッセイを再発性疾患の検出に使用する場合、「正常対照」と比較して患者の自己抗体のレベルが上昇していることは、疾患が再発したことの指標として捉えられる。「正常対照」は、好ましくは年齢の一致した、臨床、イメージングおよび/または生化学的基準に基づいた癌の診断をまったく有さない対照個体中に存在する自己抗体のレベルであり得る。あるいは、「正常対照」は試験下の特定の患者のために確立した「基準」レベルであり得る。「基準」レベルは、たとえば、臨床、イメージングおよび/または生化学的基準に基づいた疾患の寛解期の間に存在する自己抗体のレベルであり得る。
【0057】
本発明のアッセイ方法は、多くの異なる種類の癌、たとえば乳癌、膀胱癌、大腸癌、前立腺癌および卵巣癌の検出に応用し得る。アッセイは、既存のスクリーニングおよび調査方法を補い得る。たとえば、原発性乳癌の場合、自己抗体の免疫アッセイを使用して、X線撮影では疑わしく見えない、マンモグラム上の小さな病変で生検を行うこと、または乳房イメージングを行うもしくは予定よりも早くイメージングを繰り返すことを、臨床家に警告することができる。診療室では、本発明のアッセイ方法は、その成功が作業者に依存する可能性がある現在のイメージング技術(すなわちマンモグラフィーおよび超音波)よりも客観的かつ再現性があることが予想される。
【0058】
「パネルアッセイ」は、特定の臨床用途を考慮してあつらえ得る。少なくともp53およびc−erbB2に対する自己抗体を検出するための試薬のパネルは、多くの種類の癌に特に有用であり、検出する特定の癌、または検出する特定の癌のある時期との関連が知られている他のマーカーを任意選択で追加することができる。たとえば、乳癌には、パネルはMUC1、c−myc、BRCA1、BRCA2およびPSAのうち少なくとも一つを含み得、膀胱癌には、パネルは任意選択でMUC1およびc−mycのうち少なくとも一つを含み得、大腸癌にはrasおよびAPCのうち少なくとも一つを、前立腺癌にはPSA、BRCA1およびBRCA2のうち少なくとも一つを、または卵巣癌にはBRCA1、BRCA2およびCA125のうち少なくとも一つを含み得る。p53またはc−erbB2が必ずしも必須ではない他の好ましい実施形態が存在する。たとえば、乳癌の場合、適切なパネルを以下から選択することができる。
p53およびMUC1と、任意選択でc−erbB2、c−myc、BRCA1、BRCA2およびPSAのうち少なくとも一つ;
p53およびc−mycと、任意選択でc−erbB2、MUC1、BRCA1、BRCA2およびPSAのうち少なくとも一つ;
p53およびBRCA1と、任意選択でc−erB2、MUC1、c−myc、BRCA2およびPSAのうち少なくとも一つ;
p53およびBRCA2と、任意選択でc−erbB2、MUC1、c−myc、BRCA1およびPSAのうち少なくとも一つ;
c−erbB2およびMUC1と、任意選択でp53、c−myc、BRCA1、BRCA2およびPSAのうち少なくとも一つ;
c−erbB2およびc−mycと、任意選択でp53、MUC1、BRCA1、BRCA2およびPSAのうち少なくとも一つ;
c−erbB2およびBRCA1と、任意選択でp53、MUC1、c−myc、BRCA2およびPSAのうち少なくとも一つ;
c−erbB2およびBRCA2と、任意選択でp53、MUC1、c−myc、BRCA1およびPSAのうち少なくとも一つ。
【0059】
大腸癌の場合、適切なパネルを以下から選択することができる。
p53およびrasと、任意選択でc−erbB2およびAPCのうち少なくとも一つ;
p53およびAPCと、任意選択でc−erbB2およびRasのうち少なくとも一つ;
RasおよびAPCと、任意選択でp53およびc−erbB2のうち少なくとも一つ。
このようなパネルは、CEAまたはCA19−9も含み得る。
【0060】
前立腺癌の場合、適切なパネルをたとえば以下から選択することができる。
p53およびPSAと、任意選択でBRCA1、BRCA2およびc−erbB2のうち少なくとも一つ;
c−erbB2およびPSAと、任意選択でp53、BRCA1およびBRCA2のうち少なくとも一つ。
【0061】
卵巣癌の場合、適切なパネルをたとえば以下から選択することができる。
p53およびCA125と、任意選択でc−erbB2、BRCA1およびBRCA2のうち少なくとも一つ;
c−erbB2およびCA125と、任意選択でp53、BRCA1およびBRCA2のうち少なくとも一つ。
【0062】
さらなる実施形態では、本発明の免疫アッセイ方法を、特定の患者で使用する抗癌ワクチンの選択で使用し得る。この実施形態では、異なる腫瘍マーカータンパク質のそれぞれに対する患者の免疫応答の相対強度を決定するために、患者から採取した体液の試料を、それぞれが異なる腫瘍マーカータンパク質に対応する2種以上の免疫アッセイ試薬のパネルを用いて試験する。所定の1種または複数種の腫瘍マーカータンパク質に対する「免疫応答の強度」は、免疫アッセイを用いて検出されるその腫瘍マーカータンパク質に特異的な癌関連の自己抗体の存在および/または量によって示される。自己抗体を定量する場合は、癌関連の自己抗体のレベルが高いほど免疫応答が強力である。その後、患者において最も強力な1つまたは複数の免疫応答(すなわち最も高い自己抗体のレベル)を誘発させると同定された1種または複数種の腫瘍マーカータンパク質を選択して、患者で使用する抗癌ワクチンの基盤を形成する。
【0063】
さらなる実施形態では、本発明は特定の腫瘍マーカータンパク質に基づいた抗癌ワクチンを用いた対象のワクチン接種が液性免疫応答(すなわち前記腫瘍マーカータンパク質に対する抗体)の誘発に成功したかどうかを監視する方法を提供する。この方法は、癌関連の抗腫瘍性自己抗体を測定するために使用する免疫アッセイ方法(すなわち癌患者から採取した体腔体液または排泄物から精製した腫瘍マーカータンパク質に基づいた免疫アッセイ試薬の使用)と同じ方法に基づいており、唯一の差は、アッセイで測定するものが自己抗体の応答ではなく抗体の応答であることである。
【0064】
本実施形態では、以前に抗癌ワクチン(たとえば関連する腫瘍マーカータンパク質もしくはその抗原性断片を含む免疫原性調製物、または前記関連する腫瘍マーカータンパク質をコードしている核酸を含むワクチン)で処置したことがある患者から採取した体液の試料を免疫アッセイ試薬と接触させ、免疫アッセイ試薬と試料中に存在する癌関連の抗体との特異的結合によって形成された複合体を検出する。ここでも、免疫アッセイ試薬は、1人もしくは複数の癌患者の本明細書中で定義した体腔もしくは体空由来の前記体液から調製した腫瘍マーカータンパク質の試料、および/または1人もしくは複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質の試料を含む。
【0065】
癌などの検出における臨床用途に加えて、本発明の方法は、癌関連の抗腫瘍性自己抗体の存在について試験することが所望される任意の用途で使用し得る。たとえば、本発明の方法は、研究室において研究ツールとしての用途をもち得る。
【0066】
本発明によって提供される腫瘍マーカータンパク質調製物は、本発明のアッセイ方法で使用する免疫アッセイ試薬(の成分)として有利に使用される。しかし、腫瘍マーカータンパク質調製物の有用性はこのような使用に限定されない。たとえば、これらも研究室において研究ツールとしての用途をもち得る。さらに、腫瘍マーカータンパク質が治療剤としての有用性をもつことが可能である。本明細書中で定義する体液によって提供された大量のタンパク質が利用可能なことにより、特定の腫瘍マーカータンパク質の治療剤としての有効性を決定するための、ヒトまたは非ヒト動物におけるin vitroまたはin vivoの前臨床および臨床試験が可能となる。このような試験方法は、本明細書中に記載した様々な腫瘍マーカータンパク質のそれぞれかつすべてに適用される。
【0067】
本発明の腫瘍マーカー調製物の別の有用性は、癌の存在または癌の危険性の診断試験の開発と併せて使用する較正用物質としてであり、この試験は、患者の臨床試料中の任意の特定の腫瘍マーカータンパク質の存在および/またはレベルを決定することに基づく。本発明の腫瘍マーカータンパク質調製物を、このような試験用の検量線を構築するために使用することができる。具体的には、本発明のこの態様には、以下が含まれる。
【0068】
臨床試料中の所定の腫瘍マーカータンパク質を測定または検出するためのアッセイを較正する方法であって、
a)それぞれが前記所定の腫瘍マーカータンパク質を含み、それぞれが他の前記試料のそれぞれとは異なる腫瘍マーカータンパク質の濃度を有する、本発明の方法に従って調製した腫瘍マーカータンパク質の試料を少なくとも2つ調製するステップと、
b) i)分光測定もしくは分光光度方法、および/または
ii)前記腫瘍マーカータンパク質に対する抗体試薬
を用いて、前記試料それぞれの前記腫瘍マーカータンパク質の濃度の定量的測定を実施するステップと、
c)ステップ(b)で得られた測定値に基づいて腫瘍マーカータンパク質の濃度の検量線を構築するステップと
を含む方法。
【0069】
このような検量線は、本明細書中に記載した特異的腫瘍マーカータンパク質の任意のものまたはすべてについて構築し得る。
【0070】
本発明は、添付の図と共に、以下の実験実施例を参照してさらに理解されるであろう。
【0071】
(実施例1) MUC1抗原を精製する一般的なプロトコル
モノクローナル抗MUC1抗体B55(NCRC11、Xoma Corporationとしても知られる)をCNBr−セファロースビーズとコンジュゲートさせる。B55の代わりに他の抗MUC1モノクローナル抗体でもよい。
【0072】
腫瘍誘発体液(たとえば胸水、腹水、漿液腫または創傷ドレナージ液)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1/10に希釈し、0.45μmで濾過する。
【0073】
希釈した体液を抗MUC1セファロースビーズ(25mlの希釈した体液に対して、1mlの充填した体積のビーズ)と共に、終夜4℃で回転させながらインキュベートするか(「バッチ」法)、または抗MUC1セファロースビーズを含む充填したカラムで再循環させる(「カラム」法)。
【0074】
「バッチ」法
ビーズを遠心分離によって充填し、上清を除去する。
ビーズを5〜10mlのPBSに再懸濁させ、10分間回転させ、その後、遠心分離によって充填して上清を除去する。5回(またはA280nm〜0になるまで)繰り返す。
ビーズを5mlの100mM DEA、pH11に再懸濁させ、室温で10分間回転させる。
ビーズを遠心分離によって充填して上清を除去し、pH7のトリス緩衝液を加えることによってpHを7に調節し、最低24時間の間PBSに対して透析する(100DEA画分)。
ビーズを5mlのPBSに再懸濁させ、10分間回転させ、その後、ビーズを遠心分離によって充填して上清を除去し、pH7のトリス緩衝液を加えることによってpHを7に調節し、最低24時間の間PBSに対して透析する(DEA後画分)。
この2つの画分をプールして−20℃で保存する前に、各画分のMUC1の含有量を、たとえばモノクローナル抗MUC1抗体C595(Cancer Research Campaign Laboratories、英国から入手可能)(詳細は実施例5を参照)またはB55を用いて、ELISAによって確認する。
【0075】
「カラム」法
カラムを5倍カラム容積のPBSで、または溶出液の読取値がA280nmで約0になるまで洗浄する。
1倍カラム容積の100 mM DEA、pH11を流し、次いで5倍カラム容積のPBSを流す。
DEAを流す時点からPBSを流す時点まで溶出液画分を回収する(2ml)。
画分を終夜PBSに対して透析する。
画分を、たとえばモノクローナル抗MUC1抗体C595またはB55を用いて、ELISAによってMUC1の含有量についてアッセイし、MUC1の陽性画分をプールして−20℃で保存する。
汚染免疫グロブリンを除去するために、MUC1のプールした画分を50mMまでのジチオスレイトール(DTT)と共に30分間インキュベートし、その後、ヨードアセトアミド(75mMまで)と共にインキュベートした後、S300カラムでゲル濾過を行う。
MUC1およびヒト免疫グロブリン(Ig)含有量について、生じる画分(5ml)をELISAによってアッセイする。
MUC1含有画分(ヒトIgで汚染されていない)をプールし、−20℃で保存する。
【0076】
(実施例2a) MUC16抗原(以前はCA125として知られている)を精製する一般的なプロトコル
1体積(たとえば50ml)の飽和硫酸アンモニウムを、1体積(たとえば50ml)の腫瘍誘発体液(たとえば胸水、腹水、漿液腫または創傷ドレナージ液)に加え、終夜4℃でインキュベートした。
生じた沈殿物を遠心分離(標準のベンチトップ遠心分離機で、3500rpmで30分間)によって回収し、1/2体積のPBS中に再懸濁させる。
PBSを溶出緩衝液として用いて、この再懸濁をS300カラム(2.5×100cm)のゲル濾過クロマトグラフィーに供する。
画分(5または10ml)を回収し、たとえばICNの抗CA125または抗MUC16抗体VK8(Memorial Sloane Kettering、ニューヨーク)を用いて、ELISAによってMUC16についてアッセイし、MUC16の陽性画分をプールして−20℃で保存する。
汚染免疫グロブリンを除去するために、MUC16のプールをNaSCN(1.5Mまで)と共に10分間、DTT(50mMまで)と共に30分間、次いでヨードアセトアミド(75mMまで)と共に30分間インキュベートし、その後、たとえばS300またはSuperdex(商標)75カラムでゲル濾過を行う。
MUC16およびヒト免疫グロブリン(Ig)含有量について、生じた画分(5ml)をELISAによってアッセイする。
MUC16含有画分(ヒトIgで汚染されていない)をプールし、−20℃で保存する。
【0077】
(実施例2b) Ig後破壊ゲル濾過クロマトグラフィー
上述の様式で調製した試料で、Ig後破壊ゲル濾過からの画分を、抗MUC16抗体VK8を用いてMUC16について、および抗ヒトIgを用いてヒトIgについてアッセイした。結果を図1に示す。明らかに示されているように、実質的に免疫グロブリンを含まない2つのMUC16ピークが溶出されている。
【0078】
(実施例3) c−myc抗原の精製
以下以外は、MUC1の精製方法(実施例1)に従う。
モノクローナル抗c−myc抗体9E10(ATCC)を使用する(または同等の抗c−myc抗体)。
ゲル濾過をSuperdex(商標)75カラムで行う。
【0079】
電気泳動およびウエスタンブロット
MUC1、MUC16およびc−myc画分の純度を、BioRad(商標)Mini Protean III(商標)システムおよびDryBlot(商標)システムを使用して、標準のプロトコルに従って、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウエスタンブロットによって評価する。
銀染色によってc−mycのタンパク質パターンがゲル上に現された(図2)。モノクローナル抗体9E10を用いてc−mycのウエスタンブロットをイムノプロービングした(図3)。それぞれの場合で、c−mycならびに免疫グロブリン重鎖および軽鎖を同定する。
【0080】
(実施例4) 標準の自己抗体アッセイ
PBSで適切に希釈した腫瘍抗原(たとえば実施例1〜3に従って調製されるMUC1、MUC16またはc−myc)を標準の96ウェルマイクロタイタープレートに1ウェルあたり50μl入れ、終夜空気乾燥させた。
残留塩の結晶を除去するためにプレートをPBS/Tween(商標)で1回洗浄する。
プレートを0.1%カゼインまたは1%BSAのPBS溶液で60分間ブロックする。
プレートをPBS/Tween(商標)で3回洗浄する。
血清(PBS/0.1%カゼインで1/100に希釈した)を3つ組(1ウェルあたり50μl)で入れ、モノクローナル抗体対照も入れる。
60分間室温で、振盪しながらインキュベートする。
プレートをPBS/Tween(商標)で4回洗浄する。
西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)−コンジュゲート抗Ig抗体(Dako)を、各ウェル(1ウェルあたり50μl)に、抗ヒトには1/8000の希釈率で、抗マウスには1/1000の希釈率で加える。
60分間室温で、振盪しながらインキュベートする。
プレートをPBS/Tween(商標)で4回洗浄する。
1ウェルあたり50μlのTMB(テトラメチルベンザジン)を加え、10分間の間A650nmで動力学的に読み取った。
【0081】
実験データ
実施例4に記載の方法を使用して、MUC1およびMUC16に対する癌関連の自己抗体を、本明細書中に記載した様々な源から単離したMUC1およびMUC16を用いて、様々な血清中で測定した。得られた結果を図4〜6に示す。
【0082】
図4は、様々な体液、すなわち尿(「正常」個体由来)、癌患者由来の胸水および進行乳癌患者由来の血清(ABC血清)から単離したMUC1に対する患者の血清自己抗体の反応性の比較を示す図である。試験した患者血清は、本人は乳癌の徴候をまったく示さないが乳癌の家族歴(すなわち1人または複数の親戚が若い年齢で乳癌に罹患した)を有する個体由来または原発性乳癌に罹患している個体由来であった。
【0083】
尿(正常)、胸水またはABC血清から単離したMUC1を抗原として利用して、標準の自己抗体ELISAを上述のように行った。データは、MUC1抗原のそれぞれに対してDF3抗MUC1モノクローナル抗体(血清試料と対比)を使用した内部対照反応で規格化した。
【0084】
図から見受けられるように、正常尿(nMUC1)由来のMUC1は、その反応性が胸水(PE)またはABC血清由来のMUC1に比べて一貫して低かった。さらに、PE由来のMUC1は、癌関連のMUC1自己抗体に対する反応性についてABCに罹患している患者の血清から単離したMUC1と類似しており、したがって、同様の診断値であった。
【0085】
図5は、試験したすべての血清試料が正常個体(乳癌も乳癌の家族歴もない)についてであったこと以外は図4と同一の演習の結果を示す図である。図から見られるように、3つの異なる抗原に対する血清の反応性に有意な差は存在しない。
【0086】
図6は、卵巣腫瘤(手術前)に罹患している患者の血清由来のMUC16癌関連の自己抗体の、正常個体の血清および乳癌の患者の腹水から単離したMUC16(CA125)に対する反応性を示す図である。抗原は実施例2と同様に調製し、自己抗体は実施例4に記載のELISAアッセイを用いて検出した。
【0087】
図から見られるように、「正常」MUC16と比較して、腹水由来のMUC16抗原で癌関連のMUC16自己抗体の反応性が大きく増強していることが見られる。したがって、この実験結果では癌関連の自己抗体を検出するための抗原源としての腹水の有用性が確認された。
【0088】
(実施例5) 腹水、胸水、漿液腫および創傷ドレナージ液中の癌関連のMUC1レベルの測定
癌に罹患している患者の血清中に見つかるMUC1レベルを、それぞれの場合で血清試料を採取した患者と同じ患者中の腹水、胸水、創傷ドレナージ液または漿液腫中に見つかるレベルと比較した。試料中のMUC1を以下のプロトコルに従って定量した。
【0089】
捕捉MUC1 ELISAプロトコル
1ウェルあたり50μlの抗体溶液をマイクロタイタープレートの3つ組のウェルに分配し(通常1μg ml−1のC595(IgG)および適切な陰性対照)、室温で振盪しながら1時間インキュベートし、タンパク質をプレートに吸着させる。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて4回洗浄する。
1%のBSAを1ウェルあたり100μl使用してプレートをブロックし、室温で振盪しながら1時間インキュベートする。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて4回洗浄する。
1ウェルあたり50μlの試験する体液(PBSで1/10に希釈)を入れ、室温で振盪しながら1時間インキュベートする。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて4回洗浄する。
1ウェルあたり50μlのビオチン標識したC595(1μg/ml)を加え、室温で振盪しながら1時間インキュベートする。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて4回洗浄する。
1ウェルあたり50μlのエキストラアビジンペルオキシダイスを1/1000の希釈率で加え、室温で振盪しながら1時間インキュベートする。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて4回洗浄する。
1ウェルあたり50μlのTMB基質を加え、650nmで10分間動的に読み取った。
【0090】
結果を図7および8に示す。
【0091】
データから容易に分かるように、癌関連のMUC1抗原の血清レベルは腹水、胸水、漿液腫または創傷ドレナージ液のいずれで見つかるレベルよりも有意に低かった。したがって、これらの体腔体液から腫瘍マーカー抗原を回収することは、収率に関して相当な利益が得られる。
【0092】
(実施例6) 漿液腫由来の癌関連のMUC1に対して精製したヒト抗MUC1抗体の反応性
患者Mの漿液腫由来のヒト抗体を、イムノアフィニティークロマトグラフィーで、同じ癌患者Mの漿液腫液由来のMUC1に対して精製した。その後、精製した抗体をBSAにコンジュゲートしたMUC1タンパク質コアペプチドならびに癌の診断の2年間に採取した患者Mの尿および癌の診断後に採取した患者Mの漿液腫由来のMUC1に対して試験した。漿液腫からの抗体の精製は、以下のプロトコルに従って実施した。
【0093】
ヒト抗MUC1抗体の精製
ヒト抗MUC1自己抗体の精製は、アフィニティークロマトグラフィーによって行った。
PBS、pH7.6で10倍に希釈した漿液腫液を、(製造者の指示に従って)Pt−MUC1に結合させたCNBrセファロース(Pharmacia)からなるカラムの形式でアフィニティーマトリックスに載せ、0.5ml/分で終夜4℃で再循環させた。
漿液腫液を適用させた後、カラムを15mlのPBSで洗浄し(A280nmの読取値が0に戻ることを確実にする)、10mlの3M NaSCNを1m/分で用いて抗体を溶出させた。
全体を通して1mlの画分を回収し、PBSに対して透析することによって脱塩し、ELISAによって抗体の存在について試験した。
陽性の画分をプールし、抗体の純度を確認し(PAGEによる)、抗体の濃度を決定した。
上記で同定した3つのMUC1抗原に対する精製した抗体のアッセイを、以下のプロトコルに従って実施した。
【0094】
MUC1 ELISAプロトコル
1ウェルあたり50μlのMUC1抗原溶液をマイクロタイタープレートの3つ組のウェルに分配し、室温で終夜乾燥する。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて2回洗浄する。
1%のBSAを1ウェルあたり100μl使用してプレートをブロックし、室温で振盪しながら1時間インキュベートする。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて2回洗浄する。
1ウェルあたり50μlの精製した抗体溶液を1μg/mlで加え、室温で振盪しながら1時間インキュベートする。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて4回洗浄する。
製造者の指示に従って新しく希釈した1ウェルあたり50μlのα−ヒトIg HRP(DAKO)を加え、室温で振盪しながら1時間インキュベートする。
プレートをPBS/Tweenで、1ウェルあたり250μlを用いて4回洗浄する。
1ウェルあたり50μlのTMB基質を加え、650nmで10分間動的に読み取る。
【0095】
結果を図9に示す。
【0096】
MUC1ペプチドに対する抗体の反応性は無視できるほどであった。正常なMUC1に対する抗体の反応性は、患者Mの漿液腫由来のMUC1に対して見られるものよりも相当低かった。この結果から、正常なMUC1分子は、その免疫認識に関して癌に罹患している個体由来の漿液腫液で見つかるものとは実質的に異なることが推論することができる。
【0097】
(実施例7) プールした腹水および胸水から精製したMUC1に対する血清の反応性
MUC1を、実施例1に記載のプロトコルを用いて進行乳癌に罹患している患者のプールした腹水およびプールした胸水から精製し、原発性乳癌に罹患している患者由来の血清に対するその反応性を、実施例4に記載のように測定した。プールした体液由来の抗原を、それぞれの場合でそれぞれABCに罹患している患者の腹水または胸水の3つの個別の試料から単離した抗原と比較した。結果を図10および11に示す。
【0098】
腹水および胸水のどちらの場合でも、プールした体液由来のMUC1の反応性は個体試料から単離したものと同様に良好であった。さらに、個体由来の試料の使用には反応性に広い範囲のばらつきが存在するが、プールした試料は産物のより大きな一貫性をもたらすので、反応性がプールした試料のバッチ間で有意にばらつくとは考えられない。
【0099】
(実施例8) MUC1を用いた検量線
胸水から単離したMUC1の段階希釈液を調製した。これらのMUC1の濃度は、ヒト血清を使用しない以外は実施例4に示した方法によって測定した。検出は、マウスB55抗体、次いでDako抗マウスHRPによって行い、動的な読取りではなく終点を読み取った。
【0100】
結果を図12に示し、これにより本発明に従って調製した腫瘍マーカータンパク質の較正用物質としての有用性が確認される。
【0101】
腫瘍マーカータンパク質に対する抗体の源
以下にアフィニティークロマトグラフィーによる腫瘍マーカータンパク質の精製に使用し得る抗体の源を示す。アフィニティークロマトグラフィーは、(MUC1に関して)実施例1に記載した一般的な方法に従って、適切な改変を用いて行い得る。関連するマーカータンパク質に特異的な他の抗体も使用し得ることが理解されよう。
【0102】
癌胎児性抗原(CEA):
1116NS−3d、ATCC番号CRL−8019、CEAに対するモノクローナル抗体産生Bリンパ球ハイブリドーマ;T84.66A3.1A.1F2、ATCC番号HB−8747、CEAに対するモノクローナル抗体産生Bリンパ球ハイブリドーマ。
【0103】
P53:
Serotec Ltd、Kidlington、オックスフォードOX5 1JE、英国、から市販されているウサギ抗ヒトp53ポリクローナル。
Sigmaから市販されているモノクローナル抗p53、クローンBP53−12。
【0104】
CA19−9:
Serotec Ltd、Kidlington、オックスフォードOX5 1JE、英国、から市販されているマウス抗ヒトCA19−9モノクローナル、クローン1116−NS−19−9タイプ、IgG1。
【0105】
H−ras p21:
Santa Cruz Biotechnology,Inc.、サンタクルーズ、カリフォルニア州、米国、から市販されているウサギポリクローナルIgG。
【0106】
BRCA1:
Santa Cruz Biotechnology,Inc.、サンタクルーズ、カリフォルニア州、米国、から市販されているウサギポリクローナルIgG。
【0107】
BRCA2:
Santa Cruz Biotechnology,Inc.、サンタクルーズ、カリフォルニア州、米国、から市販されているヤギポリクローナルIgG。
【0108】
APC:
Santa Cruz Biotechnology,Inc.、サンタクルーズ、カリフォルニア州、米国、から市販されているウサギポリクローナルIgG。
【0109】
PSA:
Santa Cruz Biotechnology,Inc.、サンタクルーズ、カリフォルニア州、米国、から市販されているマウスモノクローナルIgG。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】腹水由来のMUC16(CA125)調製物の、Ig後破壊ゲル濾過クロマトグラムを示す図である。
【図2】イムノアフィニティークロマトグラフィー後の、腹水由来のc−myc精製物の銀染色したゲルを示す図である。
【図3】イムノアフィニティークロマトグラフィー後の、腹水由来のc−myc精製物のイムノプロービングしたブロットを示す図である。
【図4】様々な体液、すなわち尿(「正常」個体由来)、癌患者由来の胸水および進行乳癌患者由来の血清(ABC血清)から単離したMUC1に対する、患者の血清(本人は乳癌の徴候をまったく示さないが乳癌の家族歴を有する患者、および原発性乳癌に罹患している患者)自己抗体の反応性の比較を示す図である。
【図5】様々な体液、すなわち尿のMUC1(正常)、癌患者および進行乳癌患者(ABC血清)由来の胸水由来のMUC1に対する、正常個体由来の血清中の自己抗体の反応性を示す図である。
【図6】腹水由来の正常MUC16(CA125)および腫瘍関連MUC16に対する、卵巣腫瘤に罹患している手術前の患者由来の血清試料中の自己抗体の反応性を示す図である。
【図7】血清、胸水および腹水中の癌関連のMUC1の濃度を示す図である。
【図8】血清、創傷ドレナージ液および漿液腫中の癌関連のMUC1の濃度を示す図である。
【図9】癌の診断の2年間に採取した患者Mの精製した尿のMUC1、患者Mの漿液腫由来のMUC1、癌の診断後およびMUC1タンパク質核ペプチドとコンジュゲートしたウシ血清アルブミンに対する、癌に罹患している患者Mの漿液腫由来の精製した自己抗体の反応性を示す図である。
【図10】プールした腹水から精製したMUC1および癌患者の個々の腹水試料から精製したMUC1に対する、血清自己抗体の反応性を示す図である。
【図11】プールした胸水から精製したMUC1および癌患者の個々の胸水試料から精製したMUC1に対する、血清自己抗体の反応性の反応性を示す図である。
【図12】胸水由来のMUC1から作成した検量線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌関連の抗腫瘍性自己抗体を検出する方法であって、
このような自己抗体の存在について試験する試料を免疫アッセイ試薬と接触させること、および
前記免疫アッセイ試薬と前記試料中に存在する任意の癌関連の抗腫瘍性自己抗体との特異的結合によって形成された複合体の存在を検出すること
を含む免疫アッセイであり、
前記免疫アッセイ試薬が、1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質を含み、
前記腫瘍マーカータンパク質が癌関連の抗腫瘍性自己抗体と選択的反応性を示す、方法。
【請求項2】
それぞれが異なる腫瘍マーカータンパク質または同一の腫瘍マーカータンパク質の2種以上のエピトープに免疫学的に特異的な、2種以上の自己抗体の存在を検出および/または定量的に測定するために免疫アッセイを行うことを含み、
前記免疫アッセイを、試薬の少なくとも1種が1人もしくは複数の癌患者の体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/または1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質を含む、2種以上の免疫アッセイ試薬のパネルを用いて実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記患者から採取した体液の試料であり、
正常対照個体と比較して自己抗体のレベルが上昇していることは、前記個体が癌に罹患しているまたは癌を発生中であることの指標として捉えられる、
患者において癌を検出または診断するための請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項4】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記患者から採取した体液の試料であり、
正常対照と比較して自己抗体のレベルが上昇していることは、前記患者において癌が存在することの指標として捉えられる、
患者において癌または他の新生物性疾患の進行を監視することにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項5】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記対象から採取した体液の試料であり、
正常対照個体と比較して自己抗体のレベルが上昇していることは、前記対象における初期の新生物性または初期の発癌性変化の指標として捉えられる、
無症候性対象において初期の新生物性または初期の発癌性変化を検出することにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項6】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記対象から採取した体液の試料であり、
正常対照個体と比較して対象の自己抗体のレベルが上昇していることは、癌を発生する危険性があると同定される、
癌を発症する危険性が高い対象を同定するための無症候性ヒト対象の集団のスクリーニングにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項7】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記患者から採取した体液の試料であり、
治療後に自己抗体のレベルが低下していることは、前記患者が前記治療に肯定的に応答したことの指標として捉えられる、
癌患者の抗癌治療に対する応答を監視することにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項8】
患者が存在する癌の量を低減させるために抗癌治療を受けており、
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記患者から採取した体液の試料であり、
正常対照と比較して前記患者の自己抗体のレベルが上昇していることは、疾患が再発したことの指標として捉えられる、
既に癌に罹患していると診断されたことがある患者において再発性疾患を検出することにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項9】
前記免疫アッセイを、異なる腫瘍マーカータンパク質のそれぞれに対する前記患者の免疫応答の相対強度を決定するためにそれぞれが前記異なる腫瘍マーカータンパク質に対応する2種以上の免疫アッセイ試薬のパネルを用いて実施し、
前記患者において最も強力な1つまたは複数の免疫応答を誘発させると同定された1種または複数種の腫瘍マーカータンパク質を選択して前記患者で使用する抗癌ワクチンの基盤を形成する、
特定の患者で使用する抗癌ワクチンの選択における請求項2に記載の方法の使用。
【請求項10】
腫瘍マーカータンパク質もしくはその抗原性断片または前記腫瘍マーカータンパク質を発現する核酸配列を含む免疫原性調製物を患者に投与することを含むワクチン接種手順が、前記患者において前記腫瘍マーカータンパク質に対する癌関連の抗体の誘発に成功したかどうかを決定する方法であって、
前記患者の体液の試料を免疫アッセイ試薬と接触させること、および
前記免疫アッセイ試薬と前記試料中に存在する任意の癌関連の抗体との特異的結合によって形成された複合体の存在を検出すること
を含む免疫アッセイであり、
前記免疫アッセイ試薬が1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空から調製した腫瘍マーカータンパク質の試料、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質を含み、
前記腫瘍マーカータンパク質が癌関連の抗腫瘍抗体と選択的反応性を示す、方法。
【請求項11】
前記体腔または体空由来の体液が腹水、胸水、漿液腫、水瘤または創傷ドレナージ液である、請求項1、2または10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記体腔または体空由来の体液が腹水、胸水、漿液腫、水瘤または創傷ドレナージ液である、請求項3〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記排泄物が尿、糞便または精液である、請求項1、2または10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記排泄物が尿、糞便または精液である、請求項3〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記腫瘍マーカータンパク質がMUC1、MUC16またはc−mycから選択される、請求項11または13に記載の方法。
【請求項16】
前記腫瘍マーカータンパク質がMUC1、MUC16またはc−mycから選択される、請求項12または14に記載の使用。
【請求項17】
前記腫瘍マーカータンパク質がc−erbB2、p53、ras、BRCA1、BRCA2、APC、PSA、CEA、およびCA19.9から選択される、請求項1、2、10、11または13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記腫瘍マーカータンパク質がc−erbB2、p53、ras、BRCA1、BRCA2、APC、PSA、CEAおよびCA19.9から選択される、請求項3〜9、12または14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
癌関連の抗腫瘍性自己抗体と選択的反応性を示す免疫アッセイ試薬の製造における、1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物由来の腫瘍マーカータンパク質の使用。
【請求項20】
腫瘍マーカータンパク質を調製する方法であって、
前記腫瘍マーカータンパク質を体液から単離することを含み、
前記体液が、
(i)腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空から採取したものであり、かつ
(ii)前記体液が2人以上の癌患者のプールした体液試料を表す
方法。
【請求項21】
前記体液が腹水、胸水、漿液腫、水瘤もしくは創傷ドレナージ液またはそれらの混合物である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記腫瘍マーカータンパク質がMUC1である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍マーカータンパク質がc−erbB2、p53、ras、BRCA1、BRCA2、APC、PSA、CEA、CA19.9、MUC16またはc−mycである、請求項20または21に記載の方法。
【請求項24】
腫瘍マーカータンパク質を調製する方法であって、
腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空から採取した体液由来の前記腫瘍マーカータンパク質を単離することを含み、
前記体液が創傷ドレナージ液、漿液腫、水瘤またはそれらの混合物である方法。
【請求項25】
腫瘍マーカータンパク質を調製する方法であって、
前記腫瘍マーカータンパク質を排泄物から単離することを含み、
(i)前記排泄物またはその任意の成分が以前に腫瘍または腫瘍細胞と接触したことがあり、かつ
(ii)前記排泄物が2人以上の癌患者のプールした排泄物試料を表す
方法。
【請求項26】
前記排泄物が尿、糞便または精液である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記排泄物の関連する成分が胆汁である、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記腫瘍マーカータンパク質がMUC1、c−erbB2、p53、ras、BRCA1、BRCA2、APC、PSA、CEA、CA19.9、MUC16またはc−mycである、請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記腫瘍マーカーを前記体液または排泄物からアフィニティークロマトグラフィーによって精製する、請求項20〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記腫瘍マーカータンパク質から汚染免疫グロブリンを除去するステップを含む、請求項20〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記単離した腫瘍マーカータンパク質を固体担体に固定するさらなるステップを含む、請求項20〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
実質的に免疫グロブリンを含まない、請求項20〜31のいずれか一項に記載の方法によって調製した腫瘍マーカータンパク質の調製物。
【請求項33】
固体担体に固定した請求項31に記載の腫瘍マーカータンパク質の調製物を含む、免疫アッセイの実施に適切なキットまたは試薬。
【請求項34】
前記固体担体がマルチウェルプレートのウェルの表面またはビーズである、請求項33に記載のキットまたは試薬。
【請求項35】
前記固定した腫瘍マーカータンパク質が前記固体担体に吸収されている、吸着しているまたは共有結合している、請求項32または33に記載のキットまたは試薬。
【請求項36】
前記腫瘍マーカータンパク質の治療上の有効性または安全性のin vitro試験の評価における、請求項32に記載の調製物の使用。
【請求項37】
前記腫瘍マーカータンパク質の治療上の有効性または安全性のin vivo試験を評価するための組成物の製造における、請求項32に記載の調製物の使用。
【請求項38】
臨床試料中の所定の腫瘍マーカータンパク質を測定または検出するためのアッセイを較正する方法であって、
a)それぞれが前記所定の腫瘍マーカータンパク質を含み、それぞれが他の前記試料のそれぞれとは異なる腫瘍マーカータンパク質の濃度を有する、請求項32に記載の調製物の少なくとも2つの試料を調製するステップと、
b) (i)分光光度方法、および/または
(ii)前記腫瘍マーカータンパク質に対する抗体試薬
を用いて、前記試料それぞれの前記腫瘍マーカータンパク質の濃度の定量的測定を実施するステップと、
c)前記ステップ(b)で得られた測定値に基づいて腫瘍マーカータンパク質の濃度の検量線を構築するステップと
を含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌関連の抗腫瘍性自己抗体を検出する方法であって、
このような自己抗体の存在について試験する試料を免疫アッセイ試薬と接触させること、および
前記免疫アッセイ試薬と前記試料中に存在する任意の癌関連の抗腫瘍性自己抗体との特異的結合によって形成された複合体の存在を検出すること
を含む免疫アッセイであり、
前記免疫アッセイ試薬が、1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質を含み、
前記腫瘍マーカータンパク質が癌関連の抗腫瘍性自己抗体と選択的反応性を示す、方法。
【請求項2】
それぞれが異なる腫瘍マーカータンパク質または同一の腫瘍マーカータンパク質の2種以上のエピトープに免疫学的に特異的な、2種以上の自己抗体の存在を検出および/または定量的に測定するために免疫アッセイを行うことを含み、
前記免疫アッセイを、試薬の少なくとも1種が1人もしくは複数の癌患者の体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/または1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質を含む、2種以上の免疫アッセイ試薬のパネルを用いて実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記患者から採取した体液の試料であり、
正常対照個体と比較して自己抗体のレベルが上昇していることは、前記個体が癌に罹患しているまたは癌を発生中であることの指標として捉えられる、
患者において癌を検出または診断するための請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項4】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記患者から採取した体液の試料であり、
正常対照と比較して自己抗体のレベルが上昇していることは、前記患者において癌が存在することの指標として捉えられる、
患者において癌または他の新生物性疾患の進行を監視することにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項5】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記対象から採取した体液の試料であり、
正常対照個体と比較して自己抗体のレベルが上昇していることは、前記対象における初期の新生物性または初期の発癌性変化の指標として捉えられる、
無症候性対象において初期の新生物性または初期の発癌性変化を検出することにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項6】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記対象から採取した体液の試料であり、
正常対照個体と比較して対象の自己抗体のレベルが上昇していることは、癌を発生する危険性があると同定される、
癌を発症する危険性が高い対象を同定するための無症候性ヒト対象の集団のスクリーニングにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項7】
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記患者から採取した体液の試料であり、
治療後に自己抗体のレベルが低下していることは、前記患者が前記治療に肯定的に応答したことの指標として捉えられる、
癌患者の抗癌治療に対する応答を監視することにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項8】
患者が存在する癌の量を低減させるために抗癌治療を受けており、
前記免疫アッセイを用いて試験する前記試料が前記患者から採取した体液の試料であり、
正常対照と比較して前記患者の自己抗体のレベルが上昇していることは、疾患が再発したことの指標として捉えられる、
既に癌に罹患していると診断されたことがある患者において再発性疾患を検出することにおける請求項1または請求項2に記載の方法の使用。
【請求項9】
前記免疫アッセイを、異なる腫瘍マーカータンパク質のそれぞれに対する前記患者の免疫応答の相対強度を決定するためにそれぞれが前記異なる腫瘍マーカータンパク質に対応する2種以上の免疫アッセイ試薬のパネルを用いて実施し、
前記患者において最も強力な1つまたは複数の免疫応答を誘発させると同定された1種または複数種の腫瘍マーカータンパク質を選択して前記患者で使用する抗癌ワクチンの基盤を形成する、
特定の患者で使用する抗癌ワクチンの選択における請求項2に記載の方法の使用。
【請求項10】
腫瘍マーカータンパク質もしくはその抗原性断片または前記腫瘍マーカータンパク質を発現する核酸配列を含む免疫原性調製物を患者に投与することを含むワクチン接種手順が、前記患者において前記腫瘍マーカータンパク質に対する癌関連の抗体の誘発に成功したかどうかを決定する方法であって、
前記患者の体液の試料を免疫アッセイ試薬と接触させること、および
前記免疫アッセイ試薬と前記試料中に存在する任意の癌関連の抗体との特異的結合によって形成された複合体の存在を検出すること
を含む免疫アッセイであり、
前記免疫アッセイ試薬が1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空から調製した腫瘍マーカータンパク質の試料、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物から調製した腫瘍マーカータンパク質を含み、
前記腫瘍マーカータンパク質が癌関連の抗腫瘍抗体と選択的反応性を示す、方法。
【請求項11】
前記体腔または体空由来の体液が腹水、胸水、漿液腫、水瘤または創傷ドレナージ液である、請求項1、2または10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記体腔または体空由来の体液が腹水、胸水、漿液腫、水瘤または創傷ドレナージ液である、請求項3〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記排泄物が尿、糞便または精液である、請求項1、2または10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記排泄物が尿、糞便または精液である、請求項3〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記腫瘍マーカータンパク質がMUC1、MUC16またはc−mycから選択される、請求項11または13に記載の方法。
【請求項16】
前記腫瘍マーカータンパク質がMUC1、MUC16またはc−mycから選択される、請求項12または14に記載の使用。
【請求項17】
前記腫瘍マーカータンパク質がc−erbB2、p53、ras、BRCA1、BRCA2、APC、PSA、CEA、およびCA19.9から選択される、請求項1、2、10、11または13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記腫瘍マーカータンパク質がc−erbB2、p53、ras、BRCA1、BRCA2、APC、PSA、CEAおよびCA19.9から選択される、請求項3〜9、12または14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
癌関連の抗腫瘍性自己抗体と選択的反応性を示す免疫アッセイ試薬の製造における、1人もしくは複数の癌患者の、腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空由来の体液から調製した腫瘍マーカータンパク質、および/あるいは1人または複数の癌患者の排泄物由来の腫瘍マーカータンパク質の使用。
【請求項20】
腫瘍マーカータンパク質を調製する方法であって、
前記腫瘍マーカータンパク質を体液から単離することを含み、
前記体液が、
(i)腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空から採取したものであり、かつ
(ii)前記体液が2人以上の癌患者のプールした体液試料を表す
方法。
【請求項21】
前記体液が腹水、胸水、漿液腫、水瘤もしくは創傷ドレナージ液またはそれらの混合物である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記腫瘍マーカータンパク質がMUC1である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍マーカータンパク質がc−erbB2、p53、ras、BRCA1、BRCA2、APC、PSA、CEA、CA19.9、MUC16またはc−mycである、請求項20または21に記載の方法。
【請求項24】
腫瘍マーカータンパク質を調製する方法であって、
腫瘍が存在するもしくは存在していた、または腫瘍が関連しているもしくは関連していた体腔または体空から採取した体液由来の前記腫瘍マーカータンパク質を単離することを含み、
前記体液が創傷ドレナージ液、漿液腫、水瘤またはそれらの混合物である方法。
【請求項25】
腫瘍マーカータンパク質を調製する方法であって、
前記腫瘍マーカータンパク質を排泄物から単離することを含み、
(i)前記排泄物またはその任意の成分が以前に腫瘍または腫瘍細胞と接触したことがあり、かつ
(ii)前記排泄物が2人以上の癌患者のプールした排泄物試料を表す
方法。
【請求項26】
前記排泄物が尿、糞便または精液である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記排泄物の関連する成分が胆汁である、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記腫瘍マーカータンパク質がMUC1、c−erbB2、p53、ras、BRCA1、BRCA2、APC、PSA、CEA、CA19.9、MUC16またはc−mycである、請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記腫瘍マーカーを前記体液または排泄物からアフィニティークロマトグラフィーによって精製する、請求項20〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記腫瘍マーカータンパク質から汚染免疫グロブリンを除去するステップを含む、請求項20〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記単離した腫瘍マーカータンパク質を固体担体に固定するさらなるステップを含む、請求項20〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
実質的に免疫グロブリンを含まない、請求項20〜31のいずれか一項に記載の方法によって調製した腫瘍マーカータンパク質の調製物。
【請求項33】
固体担体に固定した請求項32に記載の腫瘍マーカータンパク質の調製物を含む、免疫アッセイの実施に適切なキットまたは試薬。
【請求項34】
前記固体担体がマルチウェルプレートのウェルの表面またはビーズである、請求項33に記載のキットまたは試薬。
【請求項35】
前記固定した腫瘍マーカータンパク質が前記固体担体に吸収されている、吸着しているまたは共有結合している、請求項33または34に記載のキットまたは試薬。
【請求項36】
前記腫瘍マーカータンパク質の治療上の有効性または安全性のin vitro試験の評価における、請求項32に記載の調製物の使用。
【請求項37】
前記腫瘍マーカータンパク質の治療上の有効性または安全性のin vivo試験を評価するための組成物の製造における、請求項32に記載の調製物の使用。
【請求項38】
臨床試料中の所定の腫瘍マーカータンパク質を測定または検出するためのアッセイを較正する方法であって、
a)それぞれが前記所定の腫瘍マーカータンパク質を含み、それぞれが他の前記試料のそれぞれとは異なる腫瘍マーカータンパク質の濃度を有する、請求項32に記載の調製物の少なくとも2つの試料を調製するステップと、
b) (i)分光光度方法、および/または
(ii)前記腫瘍マーカータンパク質に対する抗体試薬
を用いて、前記試料それぞれの前記腫瘍マーカータンパク質の濃度の定量的測定を実施するステップと、
c)前記ステップ(b)で得られた測定値に基づいて腫瘍マーカータンパク質の濃度の検量線を構築するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−506612(P2006−506612A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550841(P2004−550841)
【出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004950
【国際公開番号】WO2004/044590
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505178479)ザ ユニヴァーシティー オブ ノッティンガム (1)
【Fターム(参考)】