説明

腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)を産生するように遺伝子操作された腫瘍帰巣細胞

本発明は、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRIAL)をコードするアデノウイルスベクターを遺伝子導入した、TRIALを発現する腫瘍帰巣細胞、特にCD34細胞及びNK細胞に関するものである。本発明の細胞は、腫瘍、特にリンパ腫の点滴治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)を発現する腫瘍帰巣細胞、及び抗腫瘍療法におけるその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調節不全のアポトーシスメカニズムは、リンパ球増殖障害の発症機序と進行に主要な役割を果たし、新生細胞を正常な寿命を越えて生存させ、最終的に放射線化学療法耐性を獲得する[1]。したがって、アポトーシス経路は、悪性細胞のアポトーシス感受性を回復させ、又はアポトーシスのアゴニストを活性化するための魅力的な治療標的であることを意味する[2]。アポトーシス遺伝子及びタンパク質を調節するために、アポトーシスの内部経路(Bcl−2、Bcl−X)、外部経路(DR4、DR5、FLIP)、又は集束経路(cIAP2)のいずれかを標的とするいくつかの戦略を想定することができる[3]。
【0003】
腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)は、細胞死受容体リガンドであるTNFファミリーに属する[4]。
【0004】
TRAILをコードする単離DNA配列、該DNA配列を含む発現ベクター、及び組換えTRAILポリペプチドは、WO97/01633号に開示されている。
【0005】
TRAILは、多くのがん細胞の細胞表面に発現する細胞死受容体4(DR4)及び細胞死受容体5(DR5)に結合する[5]。可溶性TRAILがDR4又はDR5に結合することにより、カスパーゼ活性化とアポトーシスをもたらす[6]。
【0006】
Liu Zhongyuら、J Clin Invest.Vol.112、No.9、2003.11.9、1332−1341は、組換えアデノウイルスによってTRIALを形質導入した樹状細胞、及び関節炎の治療における潜在的な医学的用途について開示している。それらの細胞をがん治療に使用する可能性についての記載はない。
【0007】
In vitro及びin vivo試験は、可溶性組換えTRAILが、高度ながん細胞特異性及び強力な抗腫瘍活性により、抗がん治療に主要な役割を果たすことを示唆している[7]。実際、TRAILは、正常細胞に危害を加えずに、多くの形質転換細胞においてアポトーシスを選択性に誘導する[4]。更に、マウスへのTRAIL投与は、大腸癌[8、9]、乳癌[10]、多発性骨髄腫[11]、又は神経膠腫[12、13]の腫瘍異種移植に対して顕著な効果を発揮する。
【0008】
マウス及びヒト以外の霊長類における毒性試験により、正常な肝細胞及びケラチン生成細胞は、3量体型TRAILに耐性である[14、15]が、非最適化TRAIL製剤又はリガンドの抗体結合変異体によって誘導されるアポトーシスに対して顕著な感受性を示す[16]ことが実証されている。3量体型TRAILを高用量で用いた場合、肝毒性が主要な問題を代表するかどうかについは依然として議論の余地がある。
【0009】
可溶性TRAILの使用に対する更なる限界は、アポトーシスが起こるには長期のインキュベーション時間か非常に高用量の可溶性TRAILを必要とする相当数の各種腫瘍細胞株において観察されるアポトーシス応答障害によって代表される[17、18]。静脈内注入後のTRAILの薬物動態プロファイル(血漿半減期は32分、排出半減期は4.8時間)を考えると、長期間の曝露や高濃度の条件は、何らかのin vivo治療戦略に転換可能ではない[10]。可溶性組換えTRAILに関する限界を克服し、腫瘍細胞を特異的に標的とするために、さまざまな動物モデルを用いて、いくつかのアデノウイルス介在TRAIL遺伝子移入アプローチが近年利用されつつある[19、20]。
【0010】
しかしながら、遺伝子移入アプローチは、腫瘍の高率感染と有効であるべき免疫クリアランスの回避とに大きく依存している[21]。更に、アデノウイルスベクターの全身感染に関するいくつかの安全性の問題は依然として取り組まねばならない問題である[22]。例えば、TRAILのアデノウイルスによる遺伝子移入は、肝癌細胞のアポトーシス応答障害を克服するが、初代培養ヒト肝細胞において重度のアポトーシスを引き起こす[19]。近年、アデノウイルスに基づいた遺伝子治療アプローチは、TRAILをコードするアデノウイルスの腫瘍内送達に主に依存している[23]。局所抗腫瘍活性にも関わらず、TRAILの腫瘍内送達は全身性抗腫瘍活性を示さず、したがって臨床的価値を失っている。
【0011】
さまざまな細胞種は腫瘍に優先的に帰巣し[24]、抗がん分子を産生するために必要な構築体を搭載できることが知られている。その帰巣性により、CD34細胞[25]及びナチュラルキラー(NK)細胞[26]は、抗がん分子の送達媒体として用いることができる。
【0012】
CD34細胞は、静脈内注射の後、永続的な骨髄コロニー形成能、並びに一過性の肝臓及び脾臓のコロニー形成能を含めた特異的帰巣性を示す[27〜30]。これらの帰巣性は、骨髄微小環境及び腫瘍微小環境に存在する間質細胞で発現する特定リガンド(例えばSDF−I、VCAM−Iなど)と相互作用する接着受容体(例えばCXCR−4、VLA−4、VLA−5、CD44など)の発現に厳密に関連している[31〜34]。
【0013】
NK細胞は、主要組織適合性複合体の非制限的メカニズムを介して、腫瘍細胞に対する細胞性免疫防御において必須の役割を果たすリンパ球のサブセットである[35]。静脈内注射の後、NK細胞は骨髄及びリンパ器官に帰巣し、適切なサイトカインシグナルの影響下で腫瘍部位に血管外遊出する。したがって、多くのグループは、治療目的で腫瘍へ帰巣させるためにNK細胞を使用することを模索している[36〜38]。
【0014】
たとえNK細胞の腫瘍帰巣性が公知であっても、遺伝子改変細胞は、導入遺伝子の種類に応じたストレスを受ける。TRIAL遺伝子を導入した場合、ストレスの結果として、細胞は元の腫瘍帰巣性を失い得る。したがって、成功への合理的期待は存在せず、検討される特定のアプローチが実行可能であるかどうかを確認するには実際の実験が必要である。
【0015】
現在、TRAILを発現するように遺伝子操作されたCD34細胞及びNK細胞は、in vivoで細胞介在抗腫瘍活性を達成するために有利に利用できることがわかっている。
【非特許文献1】Danial,N.N.及びS.J.Korsmeyer、細胞死:重要管理点。Cell、2004、116(2):p.205−19.
【非特許文献2】Blagosklonny,M.V.、がん細胞において細胞死を選択的に実行するための有望な戦略。Oncogene、2004、23(16):p.2967−75.
【非特許文献3】Waxman,D.J.及びP.S.Schwartz、改良された抗がん遺伝子治療のためのアポトーシスの利用。Cancer Res、2003、63(24):p.8563−72.
【非特許文献4】Ashkenazi,A.及びV.M.Dixit、細胞死受容体:シグナル伝達と調節。Science、1998、281(5381):p.1305−8.
【非特許文献5】Ashkenazi,A.及びV.M.Dixit、細胞死受容体とおとり受容体によるアポトーシス制御。Curr Opin Cell Biol、1999、11(2):p.255−60.
【非特許文献6】Wang,S.及びW.S.El−Deiry、TRAIL、及びTNFファミリー細胞死受容体によるアポトーシス誘導。Oncogene、2003、22(53):p.8628−33.
【非特許文献7】Almasan,A.及びA.Ashkenazi、Apo2L/TRAIL:アポトーシスシグナル伝達、生物学、及びがん治療の可能性、Cytokine Growth Factor Rev,2003、14(3−4):p.337−48.
【非特許文献8】LeBlanc,H.ら、プロアポトーシスBcl−2相同体Baxの突然変異による不活性化を介した細胞死受容体誘導性アポトーシスに対する腫瘍細胞の耐性。Nat Med、2002、8(3):p.274−81.
【非特許文献9】Ashkenazi,A.ら、組換え可溶性Apo2リガンドの安全性と抗腫瘍活性。J.Clin.Invest.、1999、104(2):p.155−162.
【非特許文献10】Walczak,H.ら、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンドのin vivo殺腫瘍活性。Nat Med、1999、5(2):p.157−63.
【非特許文献11】Mitsiades,C.S.ら、TRAIL/Apo2Lリガンドは多発性骨髄腫においてアポトーシスを選択的に誘導し、薬物耐性を克服する:治療への応用。Blood、2001、98(3):p.795−804.
【非特許文献12】Fulda,S.ら、Smacアゴニストは、in vivoでApo2L/TRAIL誘導性又は抗がん剤誘導性アポトーシスに対する感受性を増加させ、悪性神経膠腫の退縮を誘導する。Nature Medicine、2002、8(8):p.808−815.
【非特許文献13】Pollack,I.F.、M.Erff、及びA.Ashkenazi、可溶性Apo2L/腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンドによるアポトーシスシグナル伝達の直接刺激は、神経膠腫細胞を選択的に殺傷する。Clinical Cancer Research、2001、7(5):p.1362−1369.
【非特許文献14】Lawrence,D.ら、組換え型Apo2L/TRAILの特異的肝細胞毒性。Nat Med、2001、7(4):p.383−5.
【非特許文献15】Qin,J.ら、正常内皮細胞の早期アポトーシスの回避。Nature Medicine、2001、7(4):p.385−386.
【非特許文献16】Jo,M.ら、正常ヒト肝細胞において腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンドによって誘導されるアポトーシス。Nat Med、2000、6(5):p.564−7.
【非特許文献17】Johnston,J.B.ら、慢性リンパ性白血病におけるクロラムブシル誘導性及びフルダラビン誘導性アポトーシスにおけるTRAIL/APO2−L細胞死受容体の役割。Oncogene、2003、22(51):p.8356−69.
【非特許文献18】Yamanaka,T.ら、化学療法剤はヒト肝細胞癌細胞株においてTRAIL誘導性アポトーシスを増大させる。Hepatology、2000、32(3):p.482−90.
【非特許文献19】Armeanu,S.ら、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンドのアデノウイルスによる遺伝子移入は肝癌細胞の応答障害を克服するが、初代培養ヒト肝細胞では重度のアポトーシスを引き起こす。Cancer Res、2003、63(10):p.2369−72.
【非特許文献20】Voelkel−Johnson,C、D.L.King、及びJ.S.Norris、可溶性TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL/Apo2L)に対する前立腺癌細胞の耐性は、ドキソルビシン、又は全長TRAILのアデノウイルスによる送達によって克服することができる。Cancer Gene Ther、2002、9(2):p.164−72.
【非特許文献21】McCormick,F.、がん遺伝子治療:末端又は最先端?Nat Rev Cancer、2001、1(2):p.130−41.
【非特許文献22】Somia,N.及びI.M.Verma、遺伝子治療:試行錯誤。Nat Rev Genet、2000、g(2):p.91−9.
【非特許文献23】Griffith,T.S.及びE.L.Broghammer、TRAIL組換えアデノウイルスによる病変内局注療法後の腫瘍増殖の抑制。Mol.Ther、2001、4(3):p.257−66.
【非特許文献24】Harrington,K.ら、がん遺伝子治療の媒体としての細胞:標的ベクターと全身送達とのあいだの失われた連結?Hum Gene Ther、2002、13(11):p.1263−80.
【非特許文献25】Rafii,S.及びD.Lyden、臓器の血管新生及び再生のための幹細胞及び前駆細胞の治療的移植。Nat Med、2003、9(6):p.702−12.
【非特許文献26】Rosenberg,S.A.、Karnofsky記念講演.がんの免疫療法と遺伝子治療。J Clin Oncol、1992、10(2):p.180−99.
【非特許文献27】Hardy,C.L.、造血幹細胞の骨髄への帰巣。Am J Med Sci、1995、309(5):p.260−6.
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【非特許文献39】Griffith,T.S.ら、TNF関連アポトーシス誘導リガンド/Apo−2リガンド遺伝子のアデノウイルス介在移入は腫瘍細胞アポトーシスを誘導する。J Immunol、2000、165(5):p.2886−94.
【非特許文献40】Kazhdan I.及びR.A. Marciniak、細胞死受容体4(DR4)は、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)に対する感受性にかかわりなく乳癌細胞を効率的に殺傷する。Cancer Gene Ther、2004、11:p.691−698.
【発明の詳細な説明】
【0016】
発明の説明
本発明によれば、腫瘍帰巣細胞は、アデノウイルス介在遺伝子移入によって、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)を産生するように遺伝子操作されている。本発明による細胞は、上記欠点を引き起こすことなく、腫瘍部位へTRAILを送達するために全身投与することができる。
【0017】
したがって、本発明は、TRAILを発現する腫瘍帰巣細胞、及びそれらを含有するTRAIL製剤に関するものである。また、本発明は、抗がん治療用、特にヒトリンパ腫治療用の細胞組成物を調製するための細胞の使用に関するものである。
【0018】
本発明の細胞は、腫瘍帰巣細胞に、好適なプロモーター、例えばCMVプロモーターの制御下にてヒトTRAIL遺伝子(Ad−TRAIL)をコードする複製欠損性アデノウイルスを導入することによって得ることができる。形質導入は、分子生物学者に周知の方法にしたがって、好ましくは実施例に記載の方法にしたがって、実施することができる。
【0019】
本発明によれば、「腫瘍帰巣」細胞という用語は:(1)静脈内注射の後、腫瘍組織へ帰巣可能であり、且つ(2)適当量の膜結合TRAIL(mTRAIL)を少なくとも数日間発現可能な細胞を定義するために用いられる。
【0020】
血液から腫瘍堆積物へ帰巣可能な腫瘍帰巣細胞の例としては、造血細胞、即ち成長因子で処置されたがん患者の末梢血から採取したCD34造血細胞;末梢血から採取したNK細胞;末梢血単核球の生体外培養によって得たサイトカイン誘導性キラー細胞(CIK);内皮細胞及び内皮前駆細胞;腫瘍浸潤リンパ球(TIL);リンホカイン活性化キラー細胞(LAK);マクロファージ;間葉系幹細胞(MSC)(末梢血又はヒト組織から新たに単離したもの、又は生体外培養したもの)、並びに腫瘍探索能を保持し、mTRAILを発現するように遺伝子操作されたヒト細胞株が挙げられる。mTRAILを適当に発現させるには、組織特異的プロモーター及び/又はエンハンサーのような適切な遺伝子調節配列を伴うプラスミドやウイルスベクターの使用を含め、いくつかの方法を想定することができる。
【0021】
CD34細胞とNK細胞が特に好ましい。
【0022】
NK細胞の最適な形質導入効率は、NK細胞をN−アセチルシステイン(10mM)とともに18時間プレインキュベーションすることによって得ることができる。プレインキュベーション後、NK細胞を、無血清条件下、37℃でAd−TRAILの段階的感染効率(MOI)(50〜500)に曝露する。次に血清添加培地(RPMI−1640/FBS 20%)を加え、数時間後、培養物にGene Booster(1:200)を添加し、更に18時間インキュベーションする。
【0023】
CD34細胞に対し、N−アセチルシステインとのプレインキュベーション以外は、同様の方法を用いることができる。
【0024】
本発明の組成物は、『レミントンの薬学』(Mack出版社、ニュージャージー州、1991)に報告されているもののような、非経口投与、特に静脈内投与に好適なビヒクルを用いることによって調製することができる。
【0025】
例えば、使用できる賦形剤には、組成物を受容する個人に有害でない医薬品、例えば、湿潤剤又は乳化剤、緩衝液のような補助剤との混合物であってもよい、水、食塩水、グリセロール、及びエタノールなどが含まれる。適切な用量は、いくつかある要因の中で特に、処置すべき被験者の性別、年齢、及び病態、疾患の重篤度に依存するであろう。適切な有効量は、熟練技術者によって容易に決定することができ、いずれにせよ臨床試験により決定することができる。治療的に有効な用量は、通常約10〜約1015の形質導入細胞であろう。他の用量は、当然ながら、慣用の実験、即ち、用量反応曲線に依拠し、最大許容量(MTD)を決定し、又は限定数の患者において第I相臨床試験を実施することによって確立することができる。投薬処置は、単回用量であっても、複数回用量のスケジュールであってもよい。更に、必要に応じて高用量を被験者に投与することもできる。熟練技術者は、最も有効な用法・用量を容易に決定するであろう。
【0026】
以下の実施例により、明解で説得力のある下記の証拠を提供しつつ、本発明をより詳細に説明する:
(i) CD34幹細胞及びNK細胞は、TRAILを発現するアデノベクターをin vitroで効率的に形質導入することができる;
(ii) 形質導入により、これらの細胞サブタイプは細胞表面でTRAILを一過性に発現する;
(iii) このように短期間のTRAIL発現は、形質導入細胞とともに共培養したTRAIL感受性及びTRAIL耐性腫瘍細胞において検出される強力なアポトーシス効果と関連がある;
(iv) 初期腫瘍又は進行腫瘍を有するNOD/SCIDへの形質導入細胞のin vivo注射は、マウスの生存期間の顕著な延長と関連があり、アデノウイルスで形質導入されたCD34細胞及びNK細胞は、治療目的の全身TRAIL送達のための媒体として効率的に役立つことができることを示唆している。
【0027】
静脈内投与の有効性は、腫瘍内送達に基づいたプロトコールと比較して、本発明の明確な利点を提供する。
【0028】
mTRAIL発現ヒト細胞のin vitro抗腫瘍効果のメカニズムは、mTRAILと腫瘍細胞上のその同族受容体との直接反応によって引き起こされるアポトーシスである可能性が最も高いが、そのin vivo抗腫瘍活性のメカニズムは不明である。腫瘍細胞の直接殺傷は、TRAIL受容体を発現する、腫瘍を埋め込んだ非腫瘍細胞(血管、血管周囲、間質、並びに腫瘍の成長及び腫瘍細胞の生存に重大な役割を有する他の細胞種)のアポトーシスから生ずる間接的増殖阻害効果とおそらく共役している。当然ながら、本発明は、観察された活性の実際のメカニズムに基づいた仮説によって限定されるものではなく、現行の実験は、in vivoで観察される抗腫瘍活性のメカニズムをよりよく理解することを目的としている。
【実施例1】
【0029】
アデノウイルス介在遺伝子移入後にTRAILを発現するCD34細胞又はNK細胞とともに共培養したリンパ腫細胞株におけるアポトーシスのin vitro誘発
リンパ腫細胞株と、アデノウイルス介在遺伝子移入後にTRAILを発現するように遺伝子操作されたCD34細胞又はNK細胞との共培養の効果について評価した。
【0030】
最初のin vitro実験では、TRAILを発現するアデノウイルスベクター(Ad−TRAIL)を用いて、CD34細胞及びNK細胞のアデノウイルス感染のための最適条件を定めた。次いで、PE結合−抗TRAILモノクローナル抗体(クローンRik−2)を用いて、CD34細胞及びNK細胞の表面におけるTRAIL発現の経時変化をモニターした。最後に、Ad−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞をリンパ腫細胞株と共培養することによって、膜結合TRAILのリンパ腫細胞株におけるアポトーシス誘導能について評価した。
【0031】
方法
ヒトTRAIL遺伝子をコードするアデノウイルス CMVプロモーターから発現されるヒトTRAIL遺伝子をコードする複製欠損性アデノウイルス(Ad−TRAIL)をこれらの実験に用いた[39]。Ad−TRAILは、pAd5CMVK−NpAのXhoI/NotI部位にクローニングされたヒトTRAILの全長コード配列を含有する。得られたプラスミドとE1遺伝子を欠失させたアデノウイルス骨格配列(Ad5)とをヒト胚性腎293細胞へトランスフェクションし、ウイルス粒子を単離し、TRAIL発現の解析のために増幅させる。A549プラークアッセイにより、組換えアデノウイルスを複製適格ウイルスに対してスクリーニングし、293細胞のプラークアッセイによりウイルス力価を決定する。精製ウイルスを、3%ショ糖含有PBS中に保存し、使用するまで−80℃に維持する。TRAIL遺伝子産物を形質導入細胞の細胞表面で発現させ、フローサイトメトリーで測定することができる。
【0032】
CD34細胞へのアデノウイルス形質導入 Ad−TRAILを形質導入すべきCD34細胞は、化学療法を受け、造血成長因子で処置された同意したがん患者の末梢血から採取した。CD34細胞は、白血球搬出法サンプルから、免疫磁気技術と正の選択(Miltenyi Biotech)により濃縮した。アデノウイルスを形質導入するため、CD34細胞を、最終感染効率(MOI)が100〜1,000となるよう適切に希釈されたAd−TRAILストックを含有する1mlの無血清培地(IMDM)の入った35mmペトリ皿に2×10/mlで蒔いた。2時間のインキュベーション(37℃、5%CO)後、培養物に1mlのIMDM/FBS 20%を添加し、4時間後、GeneBooster(1:200)を加えた。細胞を更に18時間インキュベーションし、次に血清含有培地で大規模に洗浄し(3回)、最後に、PE結合−抗TRAIL抗体を用いた直接免疫蛍光法で形質導入効率について評価した。
【0033】
NK細胞へのアデノウイルス形質導入 Ad−TRAILを形質導入すべきNK細胞は、同意した健常ドナーの末梢血から採取した。NK細胞は、白血球搬出法サンプルから免疫磁気技術と正の選択(Miltenyi Biotech)により濃縮した。形質導入前に、NK細胞を、10%FBS及びN−アセチルシステイン(10mM)を添加したRPMI−1640中でインキュベーションした(18時間、37℃)。アデノウイルスを形質導入するため、NK細胞を、最終感染効率(MOI)が50〜500となるよう適切に希釈されたAd−TRAILストックを含有する1mlの無血清培地(RPMI−1640)の入った35mmペトリ皿に2×10/mlで蒔いた。2時間のインキュベーション(37℃、5%CO)後、培養物に1mlのRPMI−1640/FBS 20%を添加し、4時間後、GeneBooster(1:200)を加えた。細胞を更に18時間インキュベーションし、次に血清含有培地で大規模に洗浄し(3回)、最後に、PE結合−抗TRAIL抗体を用いた直接免疫抗体法で形質導入効率について評価した。
【0034】
共培養 CD34細胞又はNK細胞の膜上に発現したTRAILのアポトーシス誘発活性を共培養実験にてin vitroで試験した。簡潔に言えば、Ad−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞(エフェクター細胞)をリンパ腫細胞(標的細胞)と共培養した。共培養開始後24時間及び48時間にアポトーシス誘導を評価した。これらの実験では、エフェクター細胞の形質導入効率に基づいて、エフェクター細胞:標的細胞の比を計算した。
【0035】
結果
CD34細胞へのアデノウイルス形質導入 予備実験により、CD34細胞の最適形質導入効率は、CD34細胞(2×10/ml)を、無血清条件下、段階的MOI(100〜1,000の範囲)のAd−TRAILに2時間(37℃)曝露することによって一貫して達成されたことを実証した。次に等量の血清添加培地(IMDM/FBS 20%)を加え、4時間後、培養物にGene Booster(1:200)を添加し、更に18時間インキュベーションした。最後に、細胞を血清含有培地で大規模に洗浄し(3回)、PE結合−抗TRAIL抗体を用いた直接免疫蛍光法でトランス遺伝子発現について評価した。
【0036】
対照細胞ではバックグラウンドTRAILシグナルは検出されなかったが、アデノウイルスに曝露した細胞は、MOI依存性様式で増加するTRAIL陽性CD34細胞の割合を示した。代表的な実験では、TRAIL陽性CD34細胞の割合は、MOIが100及び1,000においてそれぞれ25%及び84%であった。
【0037】
上記感染プロトコールは、MOI 1,000において、TRAIL発現CD34細胞の平均(±SD)が83±8%(70〜95%の範囲、n=5)の最大遺伝子移入効率を一貫して生じた。トリパンブルーによる色素排除試験にて評価した細胞生存率は、MOI 1,000もの高率に影響されなかった(生存細胞≧85%)。
【0038】
トランス遺伝子発現の経時変化について評価するために、CD34細胞にMOI 1,000で形質導入し、形質導入後7日目までTRAIL発現について解析した。これらの実験では、CD34細胞を生存させるために、培養物に低用量(3ng/ml)の顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を添加した。表1に示すように、相当な割合のCD34細胞(25%)が、形質導入後120時間までTRAILを発現し続けた。
【0039】
【表1】

【0040】
NK細胞へのアデノウイルス形質導入 予備実験により、NK細胞の最適形質導入効率は、NK細胞をN−アセチルシステイン(10mM)とともに18時間プレインキュベーションすることによって一貫して達成されたことを実証した。プレインキュベーション後、NK細胞(2×10/ml)を、無血清条件下、段階的MOI(50〜500の範囲)のAd−TRAILに2時間(37℃)曝露した。次に等量の血清添加培地(RPMI−1640/FBS 20%)を加え、4時間後、培養物にGene Booster(1:200)を添加し、更に18時間インキュベーションした。最後に、細胞を血清含有培地で大規模に洗浄し(3回)、PE結合−抗TRAIL抗体を用いた直接免疫蛍光法でトランス遺伝子発現について評価した。
【0041】
アデノウイルスに曝露した細胞は、MOI依存性様式で増加するTRAIL陽性NK細胞の割合を示した。代表的な実験では、TRAIL陽性NK細胞の割合は、MOIが50、100、及び500においてそれぞれ30%、45%、及び46%であった。
【0042】
上記感染プロトコールは、MOI 100において、TRAIL発現NK細胞の平均(±SD)が61±18%(45〜84%の範囲、n=4)の最大遺伝子移入効率を一貫して生じた。トリパンブルーによる色素排除試験にて評価した細胞生存率は、MOI 100もの高率に影響されなかった(生存細胞≧85%)。
【0043】
トランス遺伝子発現の経時変化について評価するために、NK細胞にMOI 100で形質導入し、形質導入後7日目までTRAIL発現について解析した。表2に示すように、形質導入したNK細胞は、形質導入後168時間までTRAILを発現し続けた。
【0044】
【表2】

【0045】
共培養 最後に、Ad−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞(エフェクター細胞)と腫瘍細胞株(標的細胞)とを共培養することによって、リンパ細胞株における膜結合TRAILのアポトーシス誘発能について評価した。これらの実験のために、可溶性TRAILに対する感受性によって2つの細胞株を選択した。具体的には、TRAIL感受性KMS−11細胞株及びTRAIL耐性JVM−2細胞株を用いた。
【0046】
上記感染プロトコールにしたがい、最適条件下で形質導入したCD34細胞又はNK細胞を、アデノウイルスへの初期曝露24時間後に収集し、大規模に洗浄し、KMS−11細胞又はJVM−2細胞と共培養した。
【0047】
Ad−TRAIL/CD34細胞をエフェクター細胞:標的細胞比0.8:1で共培養したところ、24時間の共培養後、KMS−11細胞に関し、相当な割合(81%)のアポトーシス細胞及び壊死細胞を検出した。アポトーシス細胞の量は、48時間の共培養後、更に増加した(アポトーシス細胞93%)。
【0048】
Ad−TRAIL/NK細胞をエフェクター細胞:標的細胞比0.6:1で共培養したところ、24時間の共培養後、KMS−11細胞に関し、相当な割合(83%)のアポトーシス細胞及び壊死細胞を検出した。アポトーシス細胞の量は、48時間の共培養後、更に増加した(アポトーシス細胞85%)。
【0049】
TRAIL感受性KMS−11細胞株の場合、膜結合TRAILが発揮するアポトーシス効果の有効性は、高用量(100ng/ml)の可溶性TRAILに24時間〜48時間曝露することによって発揮される有効性と同様であった(表3)。しかしながら、静脈内注入後のTRAILの薬物動態プロファイル(血漿半減期は32分、排出半減期は4.8時間)を考えると、48時間又は24時間でさえも、in vivoで100ng/mlで持続曝露を達成することはできない。
【0050】
【表3】

【0051】
また、Ad−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞を可溶性TRAIL耐性JVM−2細胞株とインキュベーションすることによって、共培養実験を行った。
【0052】
Ad−TRAIL/CD34細胞をエフェクター細胞:標的細胞比0.8:1で共培養したところ、48時間の共培養後、TRAIL耐性JVM−2細胞に関し、相当な割合(51%)のアポトーシス細胞及び壊死細胞を検出した。
【0053】
Ad−TRAIL/NK細胞をエフェクター細胞:標的細胞比0.6:1で共培養したところ、48時間の共培養後、TRAIL耐性JVM−2細胞に関し、相当な割合(53%)のアポトーシス細胞及び壊死細胞を検出した。
【0054】
TRAIL耐性JVM−2細胞株の場合、膜結合TRAILが発揮するアポトーシス効果の有効性は、高用量(100ng/ml)の可溶性TRAILに48時間曝露することによって発揮される有効性よりも顕著に高かった(表4)。
【0055】
【表4】

【0056】
細胞介在TRAIL送達によるアポトーシス活性の有効性を更に探究するため、エフェクター細胞(Ad−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞)を、標的細胞(KMS−11細胞株)と、さまざまなエフェクター細胞:標的細胞比で24時間共培養した。
【0057】
表5に示すように、Ad−TRAIL/CD34細胞は、エフェクター細胞:標的細胞比0.4:1に調整した共培養において、相当な割合(66%)のKMS−11細胞のアポトーシス又は壊死を誘発した。
【0058】
【表5】

【0059】
表6に示すように、Ad−TRAIL/NK細胞は、エフェクター細胞:標的細胞比0.3:1に調整した共培養において、相当な割合(64%)のKMS−11細胞のアポトーシス又は壊死を誘発した。
【0060】
【表6】

【実施例2】
【0061】
アデノウイルス介在遺伝子移入後にTRAILを発現するように遺伝子操作されたCD34細胞又はNK細胞の、NOD/SCIDマウスにおけるin vivo抗がん活性の評価
Ad−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞による治療可能性について調べるために、NOD/SCIDマウスに、TRAIL感受性KMS−11多発性骨髄腫細胞株を再注入した。その後、マウスにAd−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞を注射し、細胞に基づいたTRAIL送達による抗腫瘍効果の計測値としてマウスの生存を用いた。
【0062】
方法
Ad−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞の抗腫瘍活性の評価 体重20〜25gの6〜8週齢雌性NOD/SCIDマウスは、Charles River(ミラノ、イタリア)から購入した。マウスは、我々の施設の指針にしたがい、標準的実験室条件下で飼育した。動物に対して実施した実験手順は、国立腫瘍学研究所の動物実験に関する倫理委員会によって認可されており、英国癌研究調整委員会の指針にしたがって実施した。
【0063】
マウスに、KMS−11細胞を静脈内(IV)接種した(0.5×10/マウス)。Ad−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞による処置(1×10/マウス)は、腫瘍細胞の接種後7日目又は17日目に開始し、4週間にわたる毎週のIV注射から成る。再注入したAd−TRAIL/CD34細胞又はAd−TRAIL/NK細胞の平均形質導入効率は、それぞれ83±8%及び61±18%であった。したがって、各マウスは、4回の注射にわたり、平均3.32×10TRAIL発現CD34細胞数及び2.44×10TRAIL発現NK細胞数を受けた。腫瘍の出現、体重測定、及び毒性に関して週2回マウスをチェックした。各群の動物の生存期間を記録し、群間の差異を統計解析によって評価した。適切な対照群には:(i)腫瘍細胞のみを注射したマウス;(iii)腫瘍細胞+非形質導入CD34細胞又はNK細胞を注射したマウス、が含まれる。
【0064】
結果
Ad−TRAIL/CD34細胞 KMS−11細胞を異種移植したマウス(0.5×10/マウス)を、2つの異なるスケジュールにしたがい、週1回の頻度でAd−TRAIL/CD34細胞の4回のIV注射により処置した。即ち、早期腫瘍の治療はKMS−11細胞の注射後7日目に開始し、進行腫瘍の治療は17日目に開始した。再注入したAd−TRAIL/CD34細胞の平均形質導入効率は83±8%(平均±SD、n=9)であったため、各マウスは、4回の注射にわたり、平均3.32×10TRAIL発現CD34細胞数を受けた。
【0065】
図1に示すように、KMS−11細胞単独を注射したNOD/SCIDマウスの生存期間の中央値は56日であった。野生型CD34細胞の注射は生存期間の中央値(56日)に影響を及ぼさなかったが、初期腫瘍に対しAd−TRAIL/CD34細胞で処置したNOD/SCIDマウスの生存期間の中央値は111日を示した(p≦0.001)。
【0066】
進行腫瘍をAd−TRAIL/CD34細胞で処置した効果を図2に示す。KMS−11細胞単独を注射したNOD/SCIDマウスの生存期間の中央値は56日であった。野生型CD34細胞の注射は生存期間の中央値(56日)に影響を及ぼさなかったが、進行腫瘍のAd−TRAIL/CD34細胞による処置は、生存期間の中央値の顕著な延長(98日、p≦0.007)を伴った。
【0067】
Ad−TRAIL/NK細胞 KMS−11細胞を異種移植したマウス(0.5×10/マウス)を、週1回の頻度でAd−TRAIL/NK細胞の4回のIV注射により処置した。NK細胞の再注入は、腫瘍増殖初期のKMS−11細胞注射後7日目に開始した。この実験の場合、再注入したAd−TRAIL/NK細胞の平均形質導入効率は61±18%であった。したがって、各マウスは、4回の注射にわたり、平均2.44×10TRAIL発現NK細胞数を受けた。
【0068】
図3に示すように、KMS−11細胞単独を注射したNOD/SCIDマウスの生存期間の中央値は56日であった。野生型NK細胞の注射は生存期間の中央値(50日)に影響を及ぼさなかったが、初期腫瘍のAd−TRAIL/NK細胞による処置は、生存期間の中央値の顕著な延長(74日、p≦0.03)を伴った。
【実施例3】
【0069】
CD34/Ad−TRAIL細胞の乳癌細胞株に対するin vitro抗腫瘍活性
かなりの割合の乳癌細胞株は、TRAILおとり受容体によるTRAIL隔離、R1及びR2受容体の発現喪失、FLIP過剰発現などを含めた多くのメカニズムにより、TRAIL誘導アポトーシスに対して耐性である[40]。sTRAIL耐性リンパ腫細胞株は、mTRAILに曝露したとき、実際にTRAIL反応性になることを示した我々の先の結果に基づき、2つの乳癌細胞株のsTRAIL及びmTRAILに対する感受性を調べた。
【0070】
乳癌細胞株のsTRAILの殺傷効果に対する感受性を、CD34/Ad−TRAIL細胞と共培養したsTRAIL感受性及びsTRAIL耐性乳癌細胞株のアポトーシスのin vitro誘発に関する評価と比較して評価した。
【0071】
2つの乳癌細胞株、即ちMCF−7及びMDA−MB−361を用いた。sTRAILの殺傷効果に対する個々の細胞株の感受性を評価するために、腫瘍細胞(5〜10×10/ml)を、低用量(10ng/ml)及び高用量(100ng/ml)のsTRAILに72時間曝露した。その後、アネキシンV/ヨウ化プロピジウム2重染色でアポトーシスについて評価した。
【0072】
方法
細胞株 乳癌細胞株MCF−7及びMDA−MB−361は、それぞれ、DSMZ(ブラウンシュワイク、ドイツ、EU)及びATCC(マナッサス、バージニア州、米国)から購入した。細胞は、マイコプラズマの混入に関し、ポリメラーゼ連鎖反応によって定期的に試験した。全てのin vitro実験は、指数関数的に増殖している細胞を用いて行った。
【0073】
アネキシンVの発現 アネキシンV−FITCアッセイ(ファーミンジェン)を用いて、初期又は後期アポトーシス及び壊死を起こした細胞の割合を定量した。簡潔に言えば、解析すべき細胞を冷PBSで2回洗浄し、次に結合バッファー(10nM HEPES、140nM NaCl、5nM CaCl、pH7.4)中に再懸濁させた。インキュベーション後、0.1mlの細胞懸濁液を5mlの培養管に移し、5μLのアネキシンV−FITC及び10μLのヨウ化プロピジウムを加えた。ボルテックス後、サンプルを暗所中、室温にて15分間インキュベーションした。インキュベーションの終わりに、0.4mLの結合バッファーを加え、フローサイトメトリーにて直ちに細胞を解析した。
【0074】
結果
sTRAILとのインキュベーションがアポトーシスの誘発に関連するかどうかを調べるため、MCF−7細胞株及びMDA−MB−361細胞株をsTRAIL(10〜100ng/ml、72時間)に曝露し、次にアポトーシス細胞及び壊死細胞の割合をFACS解析にて検出した。表7に示すように、MCF−7細胞ではsTRAILに曝露してもアポトーシス反応を誘導しなかったが、100ng/mlのsTRAILに72時間曝露したとき、MDA−MB−361細胞によって顕著な細胞死反応が生じた。これらの結果によれば、MCF−7はsTRAIL耐性細胞株であるが、MDA−MB−361はsTRAIL感受性細胞株である。
【0075】
【表7】

【0076】
次に、アデノウイルス介在遺伝子移入後にTRAILを発現するCD34細胞(CD34/Ad−TRAIL)と共培養した乳癌細胞株におけるアポトーシスのin vitro誘発について評価した。
【0077】
方法
ヒトTRAIL遺伝子をコードするアデノウイルス CMVプロモーターから発現されるヒトTRAIL遺伝子をコードする複製欠損性アデノウイルス(Ad−TRAIL)をこれらの実験に用いた[39]。Ad−TRAILは、pAd5CMVK−NpAのXhoI/NotI部位にクローニングされたヒトTRAILの全長コード配列を含有する。得られたプラスミドとE1遺伝子を欠失させたアデノウイルス骨格配列(Ad5)とをヒト胚性腎293細胞へトランスフェクションし、ウイルス粒子を単離し、TRAIL発現の解析のために増幅させる。A549プラークアッセイにより、組換えアデノウイルスを複製適格ウイルスに対してスクリーニングし、293細胞のプラークアッセイによりウイルス力価を決定する。精製ウイルスを、3%ショ糖含有PBS中に保存し、使用するまで−80℃に維持する。TRAIL遺伝子産物を形質導入細胞の細胞表面で発現させ、フローサイトメトリーで測定することができる。
【0078】
CD34細胞へのアデノウイルス形質導入 Ad−TRAILを形質導入すべきCD34細胞は、化学療法を受け、造血成長因子で処置された同意したがん患者の末梢血から採取した。CD34細胞は、白血球搬出法サンプルから、免疫磁気技術と正の選択(Miltenyi Biotech)により濃縮した。アデノウイルスを形質導入するため、CD34細胞を、感染効率(MOI)が500となるように適切に希釈されたAd−TRAILストックを含有する1mlの無血清培地(IMDM)の入った35mmペトリ皿に2×10/mlで蒔いた。2時間のインキュベーション(37℃、5%CO)後、培養物に1mlのIMDM/FBS 20%を添加し、4時間後、GeneBooster(1:200)を加えた。細胞を更に18時間インキュベーションし、次に血清含有培地で大規模に洗浄し(3回)、最後に、PE結合−抗TRAIL抗体を用いた直接免疫蛍光法で形質導入効率について評価した。
【0079】
共培養 mTRAILのアポトーシス誘発活性をin vitroで共培養実験にて試験した。簡潔に言えば、CD34/Ad−TRAIL細胞(エフェクター細胞)を乳癌細胞(標的細胞)と共培養した。共培養開始後48時間にアポトーシス誘導を評価した。これらの実験では、エフェクター細胞:標的細胞比1:1及び4:1を用いた。
【0080】
結果
CD34細胞へのアデノウイルス形質導入 CD34細胞の最適形質導入効率は、CD34細胞(2×10/ml)を、無血清条件下、段階的Ad−TRAILに2時間(37℃)曝露することによって、MOI 500にて一貫して達成された。対照細胞ではバックグラウンドTRAILシグナルが検出されなかったが、TRAIL発現細胞は、TRAIL陽性CD34細胞の割合が93±8%(平均±SD)を示した。トリパンブルーによる色素排除試験にて評価した細胞生存率は、MOI 1,000もの高率に影響されなかった(生存細胞≧85%)。
【0081】
共培養 CD34/Ad−TRAIL細胞(エフェクター細胞)と腫瘍細胞(標的細胞)とを共培養することによって、乳癌細胞株におけるmTRAILのアポトーシス誘発能について評価した。CD34/Ad−TRAIL細胞を、アデノウイルスへの初期曝露後24時間に収集し、大規模に洗浄し、MCF−7細胞又はMDA−MB−361細胞と共培養した。これらの実験では、2つのエフェクター細胞:標的細胞比、即ち1:1及び4:1を用いた。結果を表8にまとめる。
【0082】
【表8】

【0083】
CD34/Ad−TRAIL細胞を、sTRAIL感受性MDA−MB−361細胞とE:T比1:1(細胞死=28%)及びE:T比4:1(細胞死=50%)にて48時間共培養することによって顕著な割合の細胞死が検出された。
【0084】
sTRAIL感受性MDA−MB−361細胞株の場合、mTRAILに48時間曝露することによって発揮されるアポトーシス効果の有効性は、高用量(100ng/ml)のsTRAILに72時間曝露することによって発揮される有効性と同様であった(表7)。
【0085】
CD34/Ad−TRAILの細胞障害効果が実際にmTRAILによるものであることを証明するために、MDA−MB−361細胞を擬似形質導入CD34細胞と共培養した。表2に示すように、MDA−MB−361細胞と模擬形質導入CD34細胞との共培養は、最高のE:T比にてのみ検出されるわずかな細胞死効果を伴った。このようにわずかな細胞死誘導は、過密培養に関連していると思われる。
【0086】
CD34/Ad−TRAILの細胞死活性が、CD34のAd−TRAIL感染の終わりに洗浄除去されなかった遊離のアデノウイルス粒子によるものである可能性を排除するため、MDA−MB−361細胞を10プラーク形成単位(pfu)に曝露させた。MDA−MB−361細胞を10ウイルス粒子に曝露させても細胞毒性の証拠は全く検出できなかった(表8)。
【0087】
pfu数は以下のようにして計算した。
【0088】
5×10CD34細胞をMOI 500にて感染させるために、250×10pfuを用いて、これを1mlのCD34細胞懸濁液に加えた。
【0089】
感染の終わりに、CD34細胞を培地中で3回洗浄した。各洗浄工程に関し、1:20の希釈係数を用いた。即ち、懸濁培養物を少なくとも8,000倍に希釈した。
【0090】
洗浄工程の終わりに250×10pfuが依然として懸濁培養中にあることを想定して、これを8,000倍に希釈した。即ち、<50,000の残存pfuを共培養に加えることが予想された。
【0091】
したがって、共培養において検出された細胞死活性が、洗浄除去されなかった遊離のアデノウイルス粒子によるものであることを排除するため、乳癌細胞株を、20を乗じた理論残存pfu値と等しいpfu数(#3を参照されたい)に曝露させた(即ち50,000×20=10pfu)。
【0092】
次に、CD34/Ad−TRAIL細胞をsTRAIL耐性MCF−7細胞株とともにインキュベーションすることによって共培養実験を行った。これらの実験では、CD34/Ad−TRAIL細胞をsTRAIL耐性MCF−7細胞とE:T比4:1にて48時間共培養することにより、顕著な割合の細胞死を検出した(細胞死=64%)が、E:T比1:1では細胞死は全く検出できなかった。
【0093】
sTRAIL耐性MCF−7細胞株の場合、mTRAILに48時間曝露することによって発揮されるアポトーシス効果の有効性は、高用量(100ng/ml)のsTRAILに72時間曝露することによって発揮される有効性よりも顕著に高かった(表7及び表8)。
【0094】
CD34/Ad−TRAILの細胞障害効果が実際にmTRAILによるものであることを証明するため、MCF−7細胞を擬似形質導入CD34細胞と共培養した。表8に示すように、MCF−7細胞と擬似形質導入CD34細胞との共培養は、過密培養に関連していると思われるわずかな細胞死効果を伴った。
【0095】
CD34/Ad−TRAILの細胞死活性が、CD34のAd−TRAIL感染の終わりに洗浄除去されなかった遊離のアデノウイルス粒子によるものである可能性を排除するため、MCF−7細胞を10pfuに曝露させた。MCF−7細胞を10pfuに曝露しても細胞毒性の証拠は全く検出できなかった(表8)。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】初期KMS−11異種移植片を有するNOD/SCIDマウスの生存期間に対するAd−TRAIL/CD34細胞の効果を示す。
【図2】進行期KMS−11異種移植片を有するNOD/SCIDマウスの生存期間に対するAd−TRAIL/CD34細胞の効果を示す。
【図3】初期KMS−11異種移植片を有するNOD/SCIDマウスの生存期間に対するAd−TRAIL/NK細胞の効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンドを発現する、樹状細胞ではない腫瘍帰巣細胞。
【請求項2】
腫瘍帰巣細胞に腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンドをコードするアデノウイルスベクターを形質導入することによって得ることが可能な、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
腫瘍帰巣細胞が、成長因子で処置されたがん患者の末梢血から採取したCD34造血細胞;末梢血から採取したNK細胞;末梢血単核球の生体外培養によって得たサイトカイン誘導性キラー細胞(CIK);内皮細胞及び内皮前駆細胞;腫瘍浸潤リンパ球(TIL);リンホカイン活性化キラー細胞(LAK);マクロファージ;間葉系幹細胞(MSC)から選択される、請求項1又は2に記載の細胞。
【請求項4】
NK細胞又はCD34細胞に腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンドをコードするアデノウイルスベクターを形質導入することによって得ることが可能な、請求項3に記載の細胞。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞を、生理的に許容可能なビヒクルとの混合物で含有する細胞製剤。
【請求項6】
腫瘍治療用医薬を調製するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項7】
腫瘍がリンパ腫である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
腫瘍が乳癌である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
医薬が静脈内投与される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−507961(P2008−507961A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522989(P2007−522989)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007957
【国際公開番号】WO2006/010558
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(506102293)ドムペ・ファ.ル.マ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (11)
【Fターム(参考)】