腫瘍治療を目的とするヘルペスベクターの使用
【課題】腫瘍患者の自己腫瘍細胞を取り扱うことなく、或いは、特異的抗原の同定或いは精製を行わず、複数の転移腫瘍を呈する或いはその危険性のある患者の全身性免疫反応を誘導する方法の提供。
【解決手段】(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には感染しない単純ヘルペスウイルス(HSV)と(B)腫瘍細胞タイプに特異的な、接種細胞および非接種細胞を死滅させる免疫反応を誘起するウイルス用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を該患者の腫瘍に接種する。該薬学的組成物はまた、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする発現可能なヌクレオチド配列を含む欠損型HSVベクターを含むか、腫瘍細胞には感染するが正常細胞には感染しない第二のHSVを含む。
【解決手段】(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には感染しない単純ヘルペスウイルス(HSV)と(B)腫瘍細胞タイプに特異的な、接種細胞および非接種細胞を死滅させる免疫反応を誘起するウイルス用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を該患者の腫瘍に接種する。該薬学的組成物はまた、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする発現可能なヌクレオチド配列を含む欠損型HSVベクターを含むか、腫瘍細胞には感染するが正常細胞には感染しない第二のHSVを含む。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
腫瘍特異的免疫誘導は、標準的毒性治療薬を使用することなく、人体の自己防御機構を利用する期待から、腫瘍の存在、増殖、再発生を長期的に防ぐものとして、癌治療の魅力的な方法となっている。この方法は、検出を免れる可能性のある小さな転移腫瘍を破壊し、また、再発腫瘍に対する免疫付与の可能性を秘めた魅力的な方法である。
【0002】
原則的に免疫治療は、腫瘍特異的抗原の有無と、抗原を提示する腫瘍細胞を認識する細胞毒性免疫反応を誘導できるかどうかにかかっている。細胞毒性Tリンパ球(CTL)は共刺激分子と結合して、細胞表面上に提示される細胞タンパク質由来のペプチドと複合する主要組織適合性複合体(MHC)クラスIを認識する。(Muellerら、Annu. Rev. Immunol. 7: 445-80、1989(非特許文献1)参照)。事実、様々なヒト腫瘍から腫瘍特異的抗原が検出されている。(Rothら、Adv. Immunol. 57: 281-351、1994(非特許文献2)、Boonら、Annu. Rev. Immunol. 12: 337-65、1994(非特許文献3)参照。)
【0003】
癌ワクチンの方法では、アジュバンド又はサイトカインと結合させて送達される死滅させた腫瘍細胞または溶解物の使用に関心が寄せられてきた。最近になり、免疫エフェクター細胞に対する腫瘍細胞の視覚感度を向上させるため、サイトカイン、MHC分子、共刺激分子、或いは腫瘍抗原の遺伝子の腫瘍細胞への転移が行われるようになってきた。(Dranoff & Mulligan、Adv. Immunol. 58: 417-54、1995(非特許文献4)参照。)
【0004】
治療を目的とする「癌ワクチン」の使用にはしかし大きな困難が伴う。特に、従来の方法では患者の自己腫瘍細胞を得、培養しインビトロでの増殖を行い、照射し、その後予防接種する、或いは特異的腫瘍抗原を同定し、精製することが必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Muellerら、Annu. Rev. Immunol. 7: 445-80、1989
【非特許文献2】Rothら、Adv. Immunol. 57: 281-351、1994
【非特許文献3】Boonら、Annu. Rev. Immunol. 12: 337-65、1994
【非特許文献4】Dranoff & Mulligan、Adv. Immunol. 58: 417-54、1995
【発明の概要】
【0006】
従って本発明の目的は、腫瘍患者の自己腫瘍細胞を取り扱うことなく、或いは、特異的抗原の同定或いは精製を行わず、複数の転移腫瘍を呈する或いはその危険性のある患者の全身性免疫反応を誘導する方法を提供する。
【0007】
この方法を実施するためのベクターを提供することもまた、本発明の目的である。
【0008】
これら及びその他の目的を達成するために、本発明は所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者における全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する方法を提供する。発明の一つの側面によれば、この方法は、患者の腫瘍への、
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらない単純ヘルペスウイルス、及び、
(B)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、単純ヘルペスウイルス用の薬学的に許容される媒体から本質的に成る、薬学的組成物の接種を有する。一つの形態に従えば、ウイルスは分裂細胞中で複製し、非分裂細胞中では複製が弱まる。別の形態に従えば、ウイルスは複製欠損である。また別の形態に従えば、ウイルスは条件付き複製反応能を有する。また別の形態に従えば、ウイルスはワクチン株である。さらに別の形態においては、ウイルスのゲノムは少なくとも一つの免疫モジューレータをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する。
【0009】
本発明の別の局面に従えば、本方法は、
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらず、免疫学的特徴が腫瘍細胞の種類に特異的であり、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応の誘導から本質的に成る単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を含む欠損単純ヘルペスウイルスベクターと、
(C)瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス及び欠損ベクター用の薬学的に許容される媒体
とを有する薬学的組成物を患者の腫瘍へ接種する段階を含む。
【0010】
本発明のまた別の局面によれば、本方法は
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらず、免疫学的特徴が腫瘍細胞の種類に特異的であり、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応の誘導から本質的に成る第一の単純ヘルペスウイルスと、
(B)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらない第二の単純ヘルペスウイルスと、
(C)瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス用の薬学的に許容される媒体
とを有する薬学的組成物を患者の腫瘍へ接種する段階を含む。
【0011】
本発明のまた別の局面によれば、本方法は
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらず、ゲノムが少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を含む第一の単純ヘルペスウイルスと、
(B)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらず、ゲノムが少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を含む第二の単純ヘルペスウイルスと、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス用の薬学的に許容される媒体
とを有する薬学的組成物を患者の腫瘍へ接種する段階を含む。
【0012】
本発明のまた別の局面によれば、本方法は
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらない単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有するウイルスベクターと、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、免疫反応を誘導し、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導するウイルス及びウイルスベクター用の薬学的に許容される媒体
とを有する薬学的組成物を患者の腫瘍に接種する段階を含む。ウイルスベクターは例えばアデノウイルス、アデノウイルス関連ベクター、レトロウイルスベクター、または、ワクシニアウイルスベクターである可能性がある。
【0013】
本発明の方法に有効な変異型ウイルスもまた提供される。本発明の一つの局面に従えば、本明細書において(i)機能性γ34.5遺伝子産物、及び、(ii)リボヌクレイチド還元酵素の双方を発現不可能で、ゲノムが少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する、単純ヘルペスウイルスが提供される。本発明の別の局面によれば、本明細書において、ゲノムが変化して少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込む、単純ヘルペスウイルスICP4変異体tsKが提供される。
【0014】
本研究の方法を実行する組成物もまた提供される。本発明の一つの局面によれば、所与の細胞の種類の複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する組成物は、
(A)(i)機能性γ34.5遺伝子産物及び、(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現できない単純ヘルペスウイルス、及び
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターを有する。
【0015】
本発明の別の局面によれば、所与の細胞の種類の複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者における全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する組成物は、
(A)複製欠損であり、その免疫学的特徴が腫瘍細胞種特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応から本質的に成る単純ヘルペスウイルス、及び、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターを有する。
【0016】
本発明のまた別の局面によれば、所与の細胞の種類の複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者における全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する組成物は、
(A)条件付き複製反応能を有する単純ヘルペスウイルス、及び、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターを有する。
【0017】
本発明のこれら及び他の目的及び側面は本明細書に含まれる開示を鑑みて、当業者には明らかとなると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】図1AはBALB/cマウスのCT26腫瘍へのG207の腫瘍内接種による、接種腫瘍(rt)及び別の非接種腫瘍(lt)の増殖の抑制を示す。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図1B】図1BはBALB/cマウスのCT26腫瘍へのG207の皮内接種は、腫瘍増殖に有意な影響を及ぼさないことを示す。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEM を示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図1C】図1CはG207腫瘍内投与量の増加による、BALB/cマウスのCT26腫瘍の両側の腫瘍増殖の減少が示されている。棒グラフは各群6個体の平均を示す。
【図2】図2にはDBA/2マウスのM3マウスメラノーマ細胞へのG207の腫瘍内接種が接種腫瘍(rt)及び別の非接種腫瘍(lt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス6-7個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図3】図3では同系A/JマウスのマウスN18神経芽細胞腫細胞へのG207の腫瘍内接種が、接種腫瘍(左側腫瘍、Lt)及び別の非接種腫瘍(右側腫瘍、Rt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス8個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図4】図4ではBALB/cマウスのCT26腫瘍へのtsKの腫瘍内接種が接種腫瘍(Rt)及び別の非接種腫瘍(Lt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図5】図5AはプラスミドpHCL-tkを示す。図5BはプラスミドpHCIL12-tkを示す。
【図6】図6はdvIL12/G207を接種した細胞内のIL-2の分泌を示す。
【図7】図7ではBALB/cマウスのCT26腫瘍へのdvlacz/G207又はdvIL12/G207の腫瘍内接種が接種腫瘍(Rt)及び別の非接種腫瘍(Lt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図8】図8はdvlacZ/G207、dvIL12/G207又は偽処理(mock)をポスト接種したマウスの生存率を示す。
【図9】図9ではBALB/cマウスのCT26腫瘍へのdvIL12/tsk又はdvlacZ/tsKの腫瘍内接種が接種腫瘍(Rt)及び別の非接種腫瘍(Lt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図10】図10はdvlacZ/tsK、dvIL12/tsK又は偽処理をポスト接種したマウスの生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましい態様の詳細な説明
複数の転移腫瘍を呈する患者における全身性免疫反応を誘導するための新しい改良された方法が開発されてきている。これらの開発に従えば、本発明は少なくとも一つの変異型単純ヘルペスウイルス(HSV)の接種により所与の細胞の種類の複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者に全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する方法を提供する。接種は接種腫瘍及び別の樹立非接種腫瘍を死滅させる、非常に特異的な抗腫瘍免疫反応を援用する。
【0020】
複数の転移腫瘍を呈する患者を治療する可能性があることは、単一の腫瘍体積にのみ着目する従来の方法と比較して大きな利点を有する。従来の細胞毒性ウイルスベクターに基づいた方法の効能は、患者の全ての腫瘍細胞のウイルス感染に左右される。インビトロで、ウイルスベクターの広範囲な、又は、全身性の分布を得ることは困難であるが、しかし、それゆえ局在化充実性腫瘍の腫瘍細胞の全てに感染することは困難であり、複数の転移腫瘍を呈する患者内の全ての腫瘍細胞に感染することもまた事実上不可能である。本発明の方法では、ウイルスベクターの標的を、全ての腫瘍細胞とする必要がないため、これを必要とする方法に比べ明らかな利点がある。さらに、近年の主要癌治療の発展に伴い、多くの癌患者がより長く生存し、また、それゆえ複数の転移腫瘍の発達の危機に曝されている。従って、これらの患者を効果的に治療できれば、癌治療における大きな発展となる。
【0021】
本発明に従って用いられるウイルスは、腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には十分広がらない、もしくは、正常細胞内又は組織内で十分に複製しない変異型単純ヘルペスウイルスであり、それによって、正常細胞内やひとりでに疾病や病原を引き起こさない。例えば、複製欠損ウイルスと同様、分裂細胞内で複製し、非分裂細胞内では増殖が弱まるウイルスは、本発明に従えば有効である。このウイルスは、タイプ1(HSV-1)或いは、タイプ2(HSV-2)であろう。多様なHSV-1変異体はインサイチューで腫瘍細胞を破壊し、しかし、正常細胞には影響を及ぼさないために、局所細胞毒性腫瘍治療に用いられてきた(Minetaら、Nature Medicine 1: 938-43、1995、Martuzaら、Science 252: 854-56、1991、Boviatsisら、Gene Therapy 1: 323-331、1994、Randazzoら、Virology: 211、94-101、1995、Andreanskyら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 11313-18、1996参照)。HSVのワクチン株が利用可能であるのと同様に、本発明に従いこれらのいずれの変異体の利用が可能である。単純ヘルペスウイルスに対して、予測不可能なウイルスの広がりを治療することが可能な多くの抗ウイルス剤が入手可能である(例えばアシクロビルやフォスカルネット)。
【0022】
本発明の好ましい態様においては、ウイルスは分裂細胞で複製するが、非分裂細胞では複製が弱められる。例えば米国特許第5,585,096号では、(i)機能性γ34.5遺伝子産物、及び、(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現できないG207株で示されている。(米国特許第5,585,096号の内容は本明細書に参考文献として引用されている。)細胞死につながる溶菌感染を行いながら、G207は分裂細胞内で複製するが、非分裂細胞内での感染は非常に弱く、従って、ウイルスの広がりを腫瘍に限定することができる。G207は非神経病因性であり、マウスや非ヒト霊長類ではその疾患が検出されない。(Minetaら、Nature Nedicine 1: 938-43、1995)
【0023】
本発明の別の局面の従えば、本ウイルスは複製欠損である。このようなウイルスの例としてIOP4の温度感受性単純ヘルペスウイルス変異体であるtsKがある(Davisonら、J. Gen. Virol. 65: 859-63、1984参照)。tsKの複製能は温度依存性で、31.5度で複製許容、39.5度で複製不許容となる、。TsKはこの温度間で複製能を変化させながら複製することができる。人体の体温は約39.5度であるため、tsKはインビボでは複製欠損であると予想される。このことはラットにおけるtsKのインビボの実験で確認されている。
【0024】
本発明の、また別の局面に従えば、本ウイルスは条件付き複製反応能をもつ。このようなウイルスの例にはG92Aがあり、その複製反応能は細胞の種類に左右される。G92Aの詳細は1995年7月7日出願の米国特許登録番号08/486,147に記載されており、その内容をここに参照として引用する。
【0025】
本発明の一つの態様において、変異型単純ヘルペスウイルスの免疫学的特徴は、腫瘍の種類に特異的で、接種腫瘍及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応の誘導から本質的に成る。上記で用いられたように、「本質的に成る」という用語は本発明の具体的側面に大いに影響を与える別の面を除外する。たとえば本形態に従えば、変異型ウイルスのゲノムは、IL-2のような発現可能な免疫モジュレーターを有さない。後に示すように、本発明の別の形態はそのゲノムが発現可能な免疫モジュレーターを持つ変異型ウイルスを含む。
【0026】
本発明のまた別の態様は、複数の転移腫瘍を患う或いは患う可能性のある患者に投与される、単純ヘルペスウイルスとその薬学的に許容される媒体とから本質的に成る組成物に関連する。本組成物は、インサイチューで、腫瘍細胞に直接投与される。本記載において「本質的に成る」というフレーズは本発明の具体的側面に大いに影響を与える別の段階或いは面を除外する。従って、限定すれば、本形態の組成物は、別のウイルスが加わると本発明のプロトコールが複雑化するため、例えば処方された単純ヘルペスウイルスのみ、または欠損ウイルスベクターを含む。本発明はまた、例えば化学療法や、放射線療法等の別の治療と組み合わせて、本組成物を投与することを含んでいる。
【0027】
別の態様に従えば、複数の変異型単純ヘルペスウイルスを投薬する。この形態に於いては、複数の変異型単純ヘルペスウイルス、及び、一つの薬学的に許容されるウイルス用媒体を含有する単一の組成物が投与されるか、または、それぞれの組成物が少なくとも一つの変異型単純ヘルペスウイルス及び一つのウイルスもしくは複数のウイルス用の薬学的に許容される媒体からなる複数の組成物の投与により実行される。一つの形態に於いては、(A)第一の変異型単純ヘルペスウイルス、(B)第二の変異型単純ヘルペスウイルス、及び(C)これらのウイルス用の薬学的に許容される媒体、から成る組成物を投与する。別の形態に於いては、(A)第一の変異型単純ヘルペスウイルス、(B)第二の変異型単純ヘルペスウイルス、及び(C)これらのウイルス用の薬学的に許容される媒体から本質的に成る組成物を投与する。上記に定めたように、「本質的に成る」という用語は本発明の具体的側面に大いに影響を与える別の段階又は面を除外する。従って、本形態は、別のウイルス又は欠損ウイルスベクターを含まず、処方された第一及び第二の変異型単純ヘルペスウイルスの投与を伴う可能性がある。
【0028】
本発明に従えば、腫瘍を一つ或いは複数の変異型単純ヘルペスウイルスに接種すると、接種腫瘍の細胞の種類に特異的で、接種腫瘍と非接種腫瘍細胞を死滅させる全身性腫瘍特異的免疫反応が誘導される。誘導された細胞死は、例えば、腫瘍増殖の抑制や、腫瘍の縮小の形で観察される。下記に示す例では、誘導された細胞死が、接種腫瘍及び別の樹立非接種腫瘍の腫瘍増殖の抑制の形で観察される。幾つかの例では、腫瘍は、検出不可能にまで収縮する。マウスモデルを用いたCT26の実験では、優性腫瘍抗原である主要組織適合性複合体(MHC)クラスI制限ペプチドを意識する細胞毒性Tリンパ球(CD8+)に、免疫反応は相関していた。
【0029】
上述のように、本組成物はインサイチューで患者の腫瘍細胞に直接投与される。これは、例えば、腫瘍を外部メラノーマ細胞や定位空間的に腫瘍床に減量手術する等の、手術、例えば、手術中の腫瘍内接種により、当分野で周知の方法により実行される。腫瘍を標的にするための別の方法も適切である。一般的に最大安全投与量は、腫瘍に容易に接近できる場合には、週単位で投与され、或いは、手術や腫瘍生検の間に投与される。
【0030】
薬学的に許容される媒体は、周知の薬学的に許容される媒体より選択され、ウイルスに適合したものであるべきである。例えば、媒体は希釈剤、溶媒、緩衝剤、及び/または、保存料でありうる。薬学的に許容される媒体の例には、塩化ナトリウムを含有するリン酸緩衝液がある。別の薬学的に許容される媒体としては、塩、保存料、緩衝剤やREMINGTONの薬学科学(REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE, 第15版、Easton編、Mack Publishing Co. 1405-1412頁及び1461-1487頁、1975)及び国民医薬品集XIV(The National Formulary XIV.、第14版、Washington編、American Pharmaceutical Association、1975)に記載のような、液体溶液や、無毒性賦形剤があり、上記文献の内容を参考文献としてここに引用する。
【0031】
Huangら(Science 264: 961-65, 1994)は、MHCクラスI制限腫瘍抗原に対する免疫反応の初回免疫は、CDB+細胞への提示に先立つ、ホストの骨髄由来抗原提示細胞(APCs)への抗原の移動に関連していることを示した。本発明者らは、いずれの説にも束縛されることを好まないが、腫瘍の局所HSV感染は循環する前駆体をAPCsに分化することを誘導する可能性があると考える。マクロフファージの副集合はMHCクラスI分子上の外因性抗原をCD8+T細胞に提示することができる(Rockら、J. Immunol. 150: 438-46、1993)。腫瘍細胞の溶菌破壊又はウイルス誘導細胞死は腫瘍抗原を放出し、次いでAPScに捕獲され、排出するリンパ節へと送達される可能性がある。そこで、それらが加工されCD8+T細胞に提示されるかもしれない。HSV特異的及び腫瘍特異的結合認識は反応強度に重要な役割を果す可能性がある。複製反応能HSVに感染した腫瘍細胞は細胞膜から出芽する成熟中のビリオンを有し、APScのようにMHCクラスI提示のためのウイルス抗原を加工する可能性がある。従って、HSV感染腫瘍細胞は、直接、T細胞仲介免疫反応を誘導する可能性がある。ウイルス及び腫瘍抗原の共提示により誘導された免疫反応はその後、共発現した抗原のうちのひとつのみにより触発される可能性がある。
【0032】
また別の好ましい態様においては、ひとつ又は複数のモジュレーターは、上記の変異型単純ヘルペスウイルスと共に腫瘍細胞に移入される。本発明において便宜な免疫モジュレーターの例には、サイトカイン、共刺激分子、及びケモカインが含まれる。ひとつ又はそれ以上の免疫モジュレーターが、例えば、一つまたは複数のサイトカインまたは別の免疫モジュレーター遺伝子をコードする、ひとつ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を有する一つの変異型単純ヘルペスウイルスによるか、または、各々が、一つまたは複数のサイトカインまたは別の免疫モジュレーター遺伝子をコードする、ひとつ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を有する複数の変異型単純ヘルペスウイルスによって移入される。非単純ヘルペスウイルスベクターもまた、一つまたは複数の免疫モジュレーターのトランスファーに用いられる。例えば、一つまたは複数の免疫モジュレーター遺伝子をコードする、ひとつ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を有する、一つまたは複数のアデノウイルスベクター、アデノウイルス関連ベクター、レトロウイルスベクター、或いは、ワクシニアウイルスベクターを本形態に従って、用いることができる。例えば、免疫活性サイトカインの遺伝子の移動ついて述べたShawlerら、Adv. Pharacol. 40: 309-37, 1997を参照されたし。
【0033】
本発明はまた、変異型単純ヘルペスウイルスと一つまたは複数の免疫モジュレーターの遺伝子を含む欠損ヘルペスシンプレックスベクターを患者に投与し、変異型単純ヘルペスウイルスが欠損ヘルペスシンプレックスベクターのヘルパーウイルスとして機能する状況を包含する。さらに、本発明は一つまたは複数の変異型単純ヘルペスウイルス、及び複数の欠損単純ヘルペスウイルスベクターの投与を含有し、それぞれの欠損ベクターは一つまたは複数の免疫モジュレーターの遺伝子を含み、先の一つ又は複数のウイルスが欠損ベクターのヘルパーウイルスとして機能し、一つ又は複数のヘルパーウイルスが投与され、例えば変異型単純ヘルペスウイルスのような、ヘルパーウイルスの免疫学的特性は、腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応の誘導から本質的に成る。従って、本明細書で用いられる「本質的に成る」とは、本発明の具体的側面に大いに影響を与える別の面を除外する。さらにこのフレーズの使用は、例えば、例えばIL-2のような免疫モジュレーターを発現できるヘルパーウイルスベクターの投与を、例えば除外する。
【0034】
本発明に従えば、有効な免疫モジュレーターの例には、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL- 12、G-CSF、GM-CSF、IFN-α、IFN-γ、TNF-α、B7が含まれる(例えばParmianiら、Adv. Pharmacol. 40: 259-89、1997、Shawler ら、Adv. Pharmacol. 40: 309、1997参照。)便宜上、IL-12の使用を後述の考察に例としてあげる。しかしながら、IL-12の代わりにまたはIL-12と共に他の免疫モジュレーターを利用することも可能であることは理解されるはずである。本明細書において「免疫モジュレーター」という用語は、一つまたは複数の免疫モジュレーターを示すことが理解されるはずである。
【0035】
サイトカインIL-12は35kD(p35)及び40kD(p40)のサブユニットを有し、NK又はT細胞上に存在するレセプターに結合するヘテロ二重体のサイトカインである。高親和性レセプターは各々が低親和性レセプターとして働く二つのβタイプのサイトカインレセプターサブユニットから成る。IL-12は免疫システムにおける多機能性役割を担っており、T細胞及びNK細胞の増殖と細胞毒性機能を増大させ、IFN-γの生産を制御し、CD4+Tヘルパー(Th1)細胞の発生を促す。
【0036】
IL-12の抗腫瘍機能は、固定及び転移性の双方において、組換えIL-12の全身性投与を用いて、繊維芽細胞又はIL-12を分泌するように設計された組換えIL-12において、IL-12を発現するウイルスベクターにおいての、多くの異なったマウス腫瘍モデルにおいて証明されている。IL-12免疫治療は、例えばCT26、C26、MCH-1-Al、及びTS/Aのような他の細胞株にはあまり有効でない(Zitvogelら、Eur. J. Immunol. 26: 1335-41、1996参照)。rIL-12の全身性送達は種々の動物モデルにおいて有効な抗腫瘍作用をもつことが示されている。しかし、IL-12に長期照射すると、多くのサイトカインにおいて見られるような有毒副作用を示す。
【0037】
免疫調節遺伝子の腫瘍細胞への直接的な移入は、推定腫瘍抗原と共同して、その作用位置で腫瘍中に発現するという利点を有する。本発明によれば、従って、インサイチューで腫瘍を修飾し腫瘍細胞を免疫モジュレーター生産源とすることができる。
【0038】
欠損単純ヘルペスウイルスベクターは、ウイルス遺伝子が欠損しているため、自己増殖ができないが、ヘルパー単純ヘルペスウイルスの存在下、DNAの複製とその後のウイルス粒子へのパッケージングを補助する特異的なHSV配列を含んでいるプラスミドに基づくベクターである。(Limら、BioTechniques 20(3): 460、1996、Spaete & Frenkel、Cell 30: 295-304, 1982)。本発明に従えば、一つまたは複数のサイトカイン又は別の免疫モジュレーターをコードする一つまたは複数のヌクレオチド配列を、欠損単純ヘルペスウイルスベクターは有する。上記のあらゆる単純ヘルペスウイルスを、例えば複製反応能ウイルス、複製欠損ウイルス、又は、条件付き複製反応能ウイルス等の、ヘルパーウイルスとして使用できる。ウイルスゲノムのDNAの長さ(-153kb)は、パッケージされているので、各々の欠損ベクターは免疫モジュレーター遺伝子の複数のコピーを有することができる。例えば、 IL-12を有する欠損ベクターはIL-12遺伝子の約15のコピーを有することができ(IL-12を有するプラスミドのサイズに基づく)、分裂及び非分裂細胞を高率で導入することが可能である。ウイルスDNAは感染細胞のゲノムへ組み込まれず、IL-12の発現を動因するCMVプロモターがあれば、発現は高まるが、一過性である。本発明のひとつの側面によれば欠損HSVベクターはヘルパーウイルスとしてのG207と組み合わせて、IL-12のような一つまたは複数の免疫モジュレーターを移入するために用いることができる。本発明の別の側面によれば、欠損HSVベクターはヘルパーウイルスとしてのTsKと組み合わせて、IL-12のような一つまたは複数の免疫モジュレーターを移入するために用いることができる。欠損ヘルペスウイルスベクターの構築及びヘルパーウイルスとの使用は当分野では周知である(例えば上記Spaete & Frankel、及びGellerら、Proc. Nat’l Acad. Sci. USA、87: 8950-54, 1999参照)。
【0039】
欠損IL-12含有ベクターは多くの異なった腫瘍細胞に感染し、そしてこれら感染腫瘍細胞はインビボでIL-12を生産、分泌する。HSV感染に高感受性でありながら、しかし、ヘルパーウイルスは複製しにくく、従って急速にはヘルパーウイルスにより破壊されない細胞は、インビボでのIL-12を高生産できる可能性がある。IL-12は単純ヘルペスウイルスにより誘導される免疫反応に対するアジュバントとしての機能する。マウスモデルの研究においては、免疫反応の促進は、下記の実施例にその詳細が記載のされるように、腫瘍特異的CTL機能の高い誘導と脾臓細胞によるIFN-γの生産に相関する。
【0040】
本発明によれば、一つまたは複数の免疫モジュレーター及び一つまたは複数のヘルパー単純ヘルペスウイルスを含む一つまたは複数の欠損単純ヘルペスウイルスを用いて、接種腫瘍及び、その他、すなわち、非接種腫瘍の細胞を死滅させる。この抗腫瘍作用は、腫瘍を変異型単純ヘルペスウイルスに単独で接種して観察されるよりも、有意に高く、相乗効果を示している。
【0041】
上記のように、本発明に従い誘導された免疫反応は接種腫瘍の細胞を沈静し、沈静し、また別の非接種腫瘍を含む非接種腫瘍を死滅させる。この作用は本方法を所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する患者の治療に有効となる。また、本方法は投与ウイルスが直接標的としない腫瘍細胞も沈静させるため、局在非転移腫瘍の治療を改善できる。
【0042】
本発明に従い、非転移腫瘍、転移の可能性のある腫瘍、転移能が既に示された腫瘍を含むあらゆる種類の腫瘍を治療することができる。本発明に従い治療することができる腫瘍細胞の種類の例には、星状細胞腫、乏枝膠腫、随膜腫、神経線維腫、膠芽腫、上衣腫、シュワン細胞腫、神経線維肉腫、髄芽腫が含まれる。本発明はまた、メラノーマ細胞、膵臓癌細胞、前立腺癌細胞、頭部及び頚部癌細胞、乳癌細胞、肺癌細胞、結腸癌細胞、リンパ腫細胞、卵巣癌細胞、腎癌細胞、神経芽細胞腫、鱗状細胞癌腫、肉腫、中皮腫瘍、類表皮腫細胞の治療に有効である。
【0043】
本発明の態様は、本発明の側面を詳細に示す具体例により示される。これらの具体例は本発明の特異的な側面を示すもので、その範囲を限定するものでは無い。
【実施例】
【0044】
実施例1 CT26細胞株におけるCT207の抗腫瘍効能
CT207の抗腫瘍効能をCT26細胞の両側樹立皮下腫瘍モデルにおいて下記の通り評価した。
【0045】
細胞株
マウス結腸直腸癌腫CT26細胞株は免疫治療の研究における相乗効果腫瘍モデルとして広く利用されている。(Fearonら、Cancer Res. 35: 2975-80, 1988, Wangら、J. Immunol. 54: 4685-92、1995、Huangら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 9730-35、1996)。CT26は、雌BALB/cマウス(H-2d)への、N-ニトロソ-N-メチルウレタンの結腸内注入により誘導される、移植可能な結腸上皮腫瘍である。(Corbettら、Cancer Res. 35: 2434-39、1975)
【0046】
正常マウスにおいてはCT26ほとんど免疫原性でない。103-104個の細胞が致死腫瘍を発生させ、検出可能な腫瘍特異的CTLを誘導しない。(上記Fearonら、上記Wangら、参照。)内因性自己指向性マウス白血病プロウイルス(MuLV)env-1の外皮タンパク質由来の非変異型ノナマー(nonamer)であるAH1は、 CT26に対する免疫優性MHCクラスI制限抗体として同定された(上記Huangら、参照)。ペプチド特異的CTL株の養子免疫細胞移入は、樹立上皮CT26腫瘍を治癒させ、腫瘍特異的CTLの誘導と抗腫瘍効果の間の相関が示された。
【0047】
単純ヘルペスウイルスは多くのラット細胞内では増殖せず、G207のような弱毒ウイルスもまた、多くのマウス腫瘍内で十分に増殖しない。これとは対照的に、ヒト腫瘍株内では十分に増殖する。しかしながら、ヒト腫瘍株の研究には無胸腺マウスの使用が必要とされる。G207のような、弱毒条件付き複製ヘルペスベクターの免疫効果の研究のための良好な相乗効果システムの模索が数年続けられ、CT26がモデル細胞株として選ばれた。
【0048】
CT26株の感染
雌BALB/cマウス(国立癌研究所、Rockville、MD)の両側の側腹部に、腫瘍細胞(1X105個)を皮下注入した。皮下腫瘍が触知可能な程に増殖している時(約直径5mm)、マウスを50μlのウイルスバッファー(150mM塩化ナトリウム、20mMTris、pH7.5)及び改変イーグル培地(MEM)(1:1)中のG207ウイルス、或いは、ウイルス接種に使用される同様の方法を用いて偽感染細胞から調整した偽感染抽出物(mock)50μlのいずれかを、マウスの右側腫瘍に片側接種した。7日後、幾つかの実験において同様の組成物の二回目の接種を行った。腫瘍の大きさは外側カリパスにより測定した。すべての動物実験方法はGergetown大学動物管理及び使用委員会により承認されている。
【0049】
図1Cに示すように、G207の接種により、偽接種の対照群に比べ、接種腫瘍(Rt)及びその対側の対照物である非接種腫瘍細胞(Lt)の両細胞で腫瘍増殖の抑制が見られた。(ポスト感染21日後、p<0.0005(Rt)、及びp<0.001(Lt)、非二点比較tテスト)。一回目の接種から7日後の二回目の接種時、接種腫瘍では、G207からのLacZ発現がX-gal組織化学により検出されたが、非接種腫瘍では検出されなかった。
【0050】
G207の投与量が少ない場合(7x103プラーク形成ユニット(pfu))、二回の内腫瘍接種により、両側腫瘍の増殖抑制が対照群と比較して有意に誘導されたが(ポスト感染21日後、p<0.01(Rt)、及びp<0.05(Lt)、非二点比較tテスト)、投与量が多い場合よりも、その度合い少なかった(図1C)。
【0051】
5X107pfuのG207を一回片側腫瘍内接種した場合(図1A)、7X105pfuを二回腫瘍内接種した対照群(図1C)に比べ、両側腫瘍の増殖が大きく抑制された。
【0052】
左側腹部に樹立片側腫瘍のあるマウスの右側腹部へG207を皮内接種したが抗腫瘍効果は見られず、非接種反側腫瘍への抗腫瘍作用はG207の腫瘍内接種に左右された(図1B参照)。
【0053】
免疫反応におけるT細胞の役割
本発明による、単純ヘルペスウイルスに誘導される腫瘍増殖の抑制におけるT細胞の潜在的役割を評価するため、腫瘍内G207接種の抗腫瘍効能を無胸腺マウスにおいて試験した。7X105pfuのG207の腫瘍内接種の影響はみられなかった。投与量が多い場合には(5X107 pfu)、偽接種腫瘍と比較して、若干、ウイルス腫瘍増殖の抑制がみられたが、非接種反側腫瘍への影響は観察されなかった。無胸腺マウスの反側腫瘍への影響がみられなかったことは、T細胞が誘導免疫反応を構成していることを示唆するものである。
【0054】
腫瘍特異的CTL反応
単純ヘルペスウイルスが腫瘍特異的CTL反応を誘導するかを確認するため、一回目の接種12日後に得た脾臓細胞からインビトロでエフェクター細胞を発生させ、51Cr放出解析を行った。
【0055】
G207又は偽接種した個々のマウスから得られた脾臓細胞(3x106個)の単一細胞懸濁液を1X106個のミトマイシンCで処理したCT26細胞で培養した(100μg/mlのミトマイシCで、1時間)。エフェクター細胞をインビトロ培養の6日後収集し、記載の比で標的細胞と混合した。標的細胞を50μCiのNa51Cro4(51Cr)で60分間培養した。Kojimaら(Immunity 1: 357-64、1994)の記載に従い、51Cr放出アッセイを4時間行った。%特異的溶菌は以下のようにして、三つ組の検体から算出した。
[(実験cpm-自発cpm)/(最大cpm-自発cpm)]X100
【0056】
A20はBALB/cマウスの自発細網細胞新生物由来のB細胞リンパ腫細胞株(Ig+、Ia+、H-24)である(Kimら、J. Immunol. 122: 549-54、1979)。A20はタンパク質抗原をMHC制限抗原活性Tリンパ球に提示することができる(Glimcherら、J. Exp. Med. 155: 445-59、1982参照)。
【0057】
腫瘍内をG207で処置したマウスはCT26細胞に対しては高度に特異的にCTL反応が見られたが、A20リンパ腫細胞(H-2dについても)に対しては反応が見られなかった。G207で皮下に処置したマウス、もしくは非感染細胞抽出液で腫瘍内を処置したものについては特異的なCTL反応は検出されなかった。何も接種していないマウスでは、(A20およびCT26に対して)わずかな非特異的CTL反応があった。
【0058】
単純ヘルペスウイルスを腫瘍内に接種したマウスにおいて生じるCTLが、CT26の免疫主要MHCのクラス1制限された抗原性ペプチドAH1を認識できるかどうかも評価された。AH1は9残基のSPSYVYHQPであるが、CT26由来の免疫主要ペプチドであり、MHCのクラス1Ld分子により提示される。La-に結合しているAH1ペプチドは内因性MuLVの二つのenv遺伝子の産物のうちのひとつであるgp70に由来している。ファン(Huang)ら、上記、はCT26細胞がMuLVのenv遺伝子産物を発現するがBALB/cマウスの通常の組織は発現しないこと、およびウイルス抗原gp70は免疫システムに対する潜在的な主要排除システムとして機能できることを示した。AH1ペプチドはHPLCおよびアミノ酸解析により決定されたところによれば99%以上の純度で、ペプチドテクノロジー社(Peptide Technologies、ワシントンD. C.)により合成された。
【0059】
H-2Ld 制限されたPB15AB.35-43、LPYLGWLVFはマウスの肥満細胞腫P815細胞に由来する免疫主要ペプチドである。ヴァン=デン=アインド (Van den Eynde)ら、J. exp. Med. 173: 1373-84 (1991)。
【0060】
腫瘍内にG207を接種したマウス由来のエフェクター細胞はCT26細胞、およびLd 制限されたペプチドAH1でパルス刺激されたA20細胞の特異的溶解を示したが、Ld 制限されたペプチドP815ABでパルス刺激されたA20細胞は溶解を示さなかった。インビトロでのCTL活性はCD8+細胞の除去により完全に消滅するが、CD4+細胞の除去では消滅しなかった。
【0061】
G207ウイルスの皮内接種または非感染細胞抽出液の腫瘍内接種ではCT26に対する特異的T細胞の活性化は増強しなかった。これに対してG207の腫瘍内接種により内因性の抗原を発現している腫瘍に対するインビボでのプライミングでは、抗原ペプチド特異的なCTL反応が誘導された。これらの結果は単純ヘルペスウイルスを腫瘍に接種すると、内因性の抗原発現に対して潜在的に寛容になる機構を凌駕できることを示している。無胸腺マウスで接種されなかった腫瘍に対して抗腫瘍応答がなかったこと、およびインビトロでCD8+細胞の除去によりCTL活性が欠失したことは、CTLによるT細胞の仲介するMHCクラスI制限認識に対する重要な役割を示唆している。
【0062】
実施例2 M3マウスメラノーマ細胞におけるG207の抗腫瘍効果
M3マウスメラノーマ細胞 (3 x 105)をDBA/2マウスの脇腹に両側から接種した。腫瘍が最大の直径5 mmとなったとき、右脇腹の腫瘍に対し、G207を5 x 107 pfu、または(陰性対照として)感染させていないVero細胞から調製した同等量を一度接種した。
【0063】
G207の接種により、接種した腫瘍の増殖が阻害され (p < 0.0005) 、また非接種腫瘍の増殖も有意に阻害された (p < 0.02)。図2。
【0064】
実施例3 マウスN18神経芽細胞腫細胞におけるG207の抗腫瘍効果
マウスN18神経芽細胞腫細胞を同質遺伝子的なA/Jマウスに両側性に皮下に移植した。腫瘍移植後8日で、107 pfuのG207、または非感染液が左の腫瘍に注射された。8匹の動物のうち6匹において、G207の接種により両側の腫瘍の消失が起こった。図3。
【0065】
皮下および脳内腫瘍
N18神経芽細胞腫細胞がA/Jマウスの左脇腹に両側性に皮下に移植された。3日後、N18神経芽細胞腫細胞がマウスの右前頭葉に脳内移植された。10および13日めに、皮下の腫瘍のみにG207 (マウス11匹)または非感染液(マウス11匹)が注射された。脳への移植35日以内にすべての非感染液処置マウスは脳内腫瘍により死亡するか、または腫瘍が存在した。G207処置マウス11匹中4匹では脳内に腫瘍がなく、G207処置したマウスの1匹は長期に生存した。G207処置は遠位の脳内腫瘍の増殖を阻止し、腫瘍を有する動物の生存率を増大させた(ウィルコックス(Wilcox)検定でP < 0.05)。
【0066】
N18の再接種
N18細胞に対して過去に曝露歴のない10匹のA/Jマウス(未接種群)、前にN18細胞の皮下注射を自発的に排除した30匹のA/Jマウス(排除群)および以前N18の皮下腫瘍が確立し、G207の腫瘍内注射により治癒した12匹のA/Jマウス(治癒群)に対しN18細胞が皮下注射された。治癒群の動物では一匹も腫瘍増殖の徴候が認められなかったが、一方未接種群および排除群では多くの動物で顕著な腫瘍の増殖を認めた。
【0067】
実施例4 tsKの抗腫瘍効果
マウスのCT26大腸癌細胞を同質遺伝子的なBALB/cマウスに両側的に、皮下移植した。ICP4での温度感受性単純ヘルペスウイルス変異株であるtsKを105 pfu、または非感染液を右腫瘍に注射し、同じ組成物の2度目の接種を7日後に行った(7日目)。tsKの接種により両方の腫瘍において腫瘍増殖の有意な阻害が起こった(21日目でp<0.05)。図4
【0068】
実施例5 IL-12を含む欠損ベクターおよびヘルパーウイルスG207の抗腫瘍効果
マウス結腸直腸癌細胞系CT26がIL-12を含む欠損ベクターおよびヘルパーウイルスとしてG207の抗腫瘍効果を評価するために使用された。
【0069】
欠損ベクターの作製
同様な大きさの2つのアンプリコンプラスミドpHCIL12-tkおよびpHCL-tkを構築した。これらはCMVIEプロモーターの支配下に、それぞれマウスIL-12の2つのサブユニット (p40およびp35)、またはlacZをコードしている(図5Aおよび5B参照)。IL-12はヘテロダイマーとして機能し、両方のサブユニットは単一の欠損ベクターから、内部リボソーム開始部位(IRES)によって二つのシストロンを持つメッセージとして発現される。
【0070】
2重カセットのアンプリコンプラスミドであるpHCL-tkは、HSV-1のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、およびpHSV-106(有限会社Life Technologies、ロックビル(Rockville)、米国メリーランド州)由来の平滑末端化されたBamHI断片を、pHCLの平滑末端化されたSpe I部位に挿入することにより構築された(図5A)。
【0071】
p40のコード領域、BL-pSV40由来のBamHI断片、マウスIL-12のp35由来のcDNA、DFG-mIL-12由来のウマの脳心筋炎ウイルス(EMCV)のIRES (IRES-p35)、およびDFG-mIL-12由来のBamHI断片が、p40-IRES-35をつくるためにLITMUS 2B(New England Biolabs、米国メリーランド州)のBglII/BamHI部位にサブクローンされた。IL-12をコードする二重カセットアンプリコンプラスミドであるpHCIL12-tkは、p40-IRES-p35カセットであるSnaB1/AflII断片を、pSR-oriの平滑末端化されたSalI部位に挿入し、その後pHCIL12-tkをつくるためにHSV TKの平滑末端化されたBamHI断片を平滑末端化されたSphI部位に挿入することにより構築された。図5B。
【0072】
γ34.5遺伝子、およびICP6を不活化させる大腸菌(E. coli)のlac Z遺伝子挿入の両方のコピーともに欠損を含むG207が、欠損ベクター (dv) のストックの産生のためのヘルパーウイルスとして使用された。精製したアンプリコンプラスミドDNA (pHCIL12-tkおよびpHCL-tk)とC207ウイルスDNAを、lipofectAMINE(登録商標)(有限会社Life Technologies、ロックビル(Rockville)、米国メリーランド州)を使用して、製造者の記載に従って Vero細胞に同時に遺伝子導入し、その後完全な細胞変性効果が起こるまで34.5℃で培養された。ウイルスはその後回収され、ヘルパーウイルスの複製阻止が観察されるまでVero細胞で4倍希釈されて継代された。IL-12を含む欠損ベクターはdvIL12/G207と呼ばれ、lacZを含む欠損ベクターはdvlacZ/G207と呼ばれる。
【0073】
欠損ベクターストックのタイター測定
凍結融解 / 超音波法を行い、低速遠心(2000 x gで4℃10分間)により細胞破砕物を除去した後、欠損ベクターのストックのタイターが測定された。G207ヘルパーウイルスのタイターはVero細胞を使用し、34.5℃でプラークアッセイ後のpfuの数として表現された。dvIL12/G207に対しては、IL-12の発現が決定され、最大の発現量の継代(4代目)のところで、5 x 107 pfu / mlのG207のヘルパーウイルスタイターとともに使用された。dvlacZ/G207のタイターはG207によるプラーク形成後、X-gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)の組織染色による陽性の単一細胞の算出(欠損粒子単位、dpu)によって決定され、5 x 106dpuおよびヘルパーウイルスが5 x 107pfuであった。
【0074】
細胞培養
アフリカミドリザル腎細胞(Vero)細胞は10%仔ウシ血清(CS)を含むDMEMで培養された。MC-38マウス大腸腺癌、Harding-Passeyマウスメラノーマ、MDA-MB-435ヒト乳腺癌、およびCT26細胞は、10%熱非働化FCS (Hyclone、米国ユタ州ローガン)、およびペニシリン-ストレプトマイシン(株式会社Sigma Chemical、米国ミズーリ州セントルイス)を含むDMEMで培養された。A20(American Type Culture Collection、米国メリーランド州ロックビル、ATCC TIB 208)はBALB/cマウスにおける自発的な網状組織細胞新生物に由来するB細胞リンパ腫細胞系(Ig+、Ia+、H-2d)であるが、10%熱非働化FCS、50μMの2-ME、2 mMのグルタミン、20mMのHepes緩衝液、およびペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI 1640で培養された。
【0075】
IL-12の検出
IL-12の発現と分泌は、培養している腫瘍細胞に細胞あたり1 pfuの感染多重性(MOI)で感染後、ELISA解析により決定された。
【0076】
感染24時間後、感染細胞上清の一部が除かれ、ドライアイス/エタノール浴中で急速凍結され、IL-12の検出のために-80℃で保存された。腫瘍および血液は欠損ベクター処理したマウスから集められ、ドライアイス/エタノール浴中で急速凍結された。凍結組織は500μMのPMSF、0.5μg/mlのロイペプチン、および0.7μg/mlのペプスタチンを含む氷冷PBSで懸濁された。懸濁物はその後10秒間2回超音波処理され、4℃5分間の微量遠心機での遠心により清浄とされた。免疫反応性のIL-12量は、AbのペアとrIL-12を使用してサンドイッチELISAにより決定された。rIL-12の標準化合物は同じ培養液または検体のような緩衝液(これは、血清検体に対してマウス血清)で希釈された。
【0077】
簡潔に記せば、抗マウスIL-12mAb (9A5)でコートした96穴プレートを試験検体とともに室温で一晩インキュベートした。洗浄後、プレートをペルオキシダーゼ標識された抗マウスIL-12 p40 Ab(5C3)とともに2時間インキュベートし、その後発色させた。吸光度は450 nmで測定した。
【0078】
CT26(マウス大腸癌)、Harding-Passey(マウスメラノーマ)、MCA-38(マウス大腸腺癌)、MDA-MB-435(ヒト乳腺癌)細胞をdvIL12/G207に感染させると、24時間で最大1.5 ngマウスIL-12/105腫瘍細胞の分泌が起こった。図6。非感染、またはdvlacZ/G207を感染させた腫瘍細胞培養液の上清ではIL-12は検出されなかった。IL-12合成および分泌量は、CT26細胞にdvIL12/G207を感染後1日でピークに達し、おそらくは細胞死によって感染後3日までには検出されないレベルまで低下する。
【0079】
皮下腫瘍モデル
BALB/cおよびBALB/c (nu/nu)マウスは米国立癌研究所(National Cancer Institute)もしくはチャールズリバー(Charles River)(米国マサチューセッツ州ウィルミントン)から入手した。すべての動物実験手順はジョージタウン大学動物愛護および利用委員会により許諾されている。
【0080】
CT26腫瘍細胞 (1 x 105)はマウスの両側の脇腹に皮下(s.c.)注射した。皮下腫瘍が明白に増殖したとき(最大直径約5mm)、ウイルス緩衝液(150 mM NaCl、20 mM Tris、pH 7.5)中の欠損HSVベクター(7 x 105 pfuのヘルパーウイルス)50μl、または50μlのウイルス緩衝液をマウスに対し右側の腫瘍に片側のみ接種し、7日後に同じ組成物の2度目の注射を行った。指示してあるところでは何も感染させていない抽出液がウイルス緩衝液のかわりに使用された。欠損ベクターストック対G207ストックに存在するウイルス因子の相違(これは粒子とpfuの比)が考えられたため、ヘルパーウイルスG207単独よりもむしろdvlacZ/G207をdvIL12/G207接種に対する対照として使用した。G207およびdvlacZは共に大腸菌(E.coli)のlacZを含み、それ故対照となる欠損ベクターによって、他の外来性抗原は発現されなかった。
【0081】
腫瘍の大きさは外部のカリパスにより測定し、腫瘍の容積を計算した(V = h x w x d)。動物が瀕死になっているか、もしくはその皮下腫瘍の直径が18 mmに達したら、この動物を屠殺し、生存研究においてはこれを死亡日として記録した。統計的な差はStatView 4.5(有限会社Abacus Concepts、米国カリフォルニア州バークレイ)を使用して計算し、ここで平均の腫瘍体積は非対t検定により、生存の平均はANOVA検定(Fisherのpost-hoc比較解析)により、および生存における差はLogrank(Mantel-Cox)検定により評価した。
【0082】
dvIL12/G207の接種により、接種された腫瘍、およびその非接種反対側のもう片方において同様に、腫瘍の増殖の有意な減少が示され、非常に顕著な抗腫瘍効果が示された(図7)。dvIL12/G207を接種した腫瘍の6つのうち2つにおいて、検出できない大きさまで縮小した。dvlacZ/G207の接種においてもまたdvIL12/G207よりははるかに軽度であったが、接種・非接種両方の腫瘍で、対照に比較して腫瘍増殖の有意な減少が起こった(図7)。
【0083】
マウスはその後さらに生存の経過観察がなされたが、このとき両側の腫瘍のいずれかが直径18mm以上の大きさになったときにマウスを屠殺した。欠損ベクター処置した動物の生存は、それ故非接種腫瘍の増殖を反映しているが、対照動物よりも有意に長期であった。dvIL12/G207で片側を処置したマウスでは、dvlacZ/G207で処置したマウスよりも長期に生存した(図8)。IL-12はdvIL12/G207を接種した腫瘍において接種後1日目および5日目で検出されたが(腫瘍当たり約50〜100pg)、血清中においてはIL-12は検出されなかった。
【0084】
免疫応答におけるT細胞の役割
欠損HSVベクターの誘導する抗腫瘍応答におけるT細胞の可能な役割を調べるため、両側のCT26皮下腫瘍をBALB/c(nu/nu)無胸腺マウスで確立した。上記で議論された免疫適格性マウスモデルの場合と同様、dvIL12/G207、dvlacZ/G207、または非感染抽出液の片側腫瘍内接種を腫瘍が明確になったとき(最大直径約5mm)に右側の腫瘍に対して実施し、同じ組成物の2度目の接種を7日後に行った。
【0085】
dvIL12/G207を注射した右側腫瘍の増殖にわずかな遅れがあったものの、有意な腫瘍増殖阻止は、接種または反対側の非接種腫瘍両方において認められなかった。CT26腫瘍は免疫適格性マウスの場合よりも無胸腺マウスにおいて、多少より急速に増殖した。
【0086】
腫瘍特異的CTL応答
腫瘍増殖阻止が増大するCTL活性と関連があるかどうかを試験するため、51Cr放出試験を使用して、欠損HSVベクターを腫瘍内接種したときインビトロでCT26特異的CTL活性を引き起こすことができるかどうかが調べられた。
【0087】
BALB/cマウスで皮下腫瘍が最大直径約5mmに達したときにdvIL12/G207またはdvlacZ/G207が腫瘍内に接種され、同一組成物の2度目の接種が7日後に行われた。脾細胞の単一細胞懸濁液を24穴プレート中3 x106細胞/mlの濃度で、10%非働化FCS、50μM 2-ME、2 mMグルタミン、20 mMHepes、およびペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI1640中培養した。さらに、1 x106の不活化CT26細胞または1μg/mlのペプチドAH1を培養液に添加した。不活化にはCT26腫瘍細胞を100μg/mlのマイトマイシンCを含む培養液で1時間インキュベートし、その後2度洗浄した。エフェクター細胞はインビトロ培養の6日後に回収した。
【0088】
4時間の51Cr放出試験は上述のように行った。簡潔に記せば、標的細胞は50μCiのNa51CrO4(51Cr)と60分間インキュベートした。A20細胞は1μg/mlのLd-制限されたペプチドAH1またはP815ABで標識前に1時間パルス刺激された。標的細胞がその後、指示されているE/T比でエフェクター細胞と4時間混合された。51Cr放出量はγ計数により決定され、特異的溶解パーセントは以下のように3つの検体から計算された:(実験的cpm-自発的cpm)/(最大cpm-自発的cpm)x 100。
【0089】
マイトマイシンC処置したCT26細胞で再度刺激を行ったdvIL12/G207処置マウス由来のエフェクター細胞では、CT26標的細胞およびペプチドAH1でパルス刺激されたA20細胞の特異的溶解を示した。パルス刺激していないA20細胞またはLd制限されたペプチドP815ABでパルス刺激されたA20細胞では明確な溶解は観察されなかった。dvIL12/G207またはdvlacZ/G207で処置したマウス由来のエフェクター細胞をペプチドAH1で再刺激すると、ペプチドAH1でパルス刺激した標的A20細胞およびCT26細胞の特異的溶解を示したが、パルス刺激していないA20細胞では特異的溶解を示さなかった。dvIL12/G207により生じるCTL活性のレベルは、dvlacZ/G207により生じるものよりも有意に大きかった。dvIL12/G207を接種した動物からのエフェクター細胞を再刺激しなかった場合、CT26を特異的に溶解することはできたが、A20細胞を溶解することはできなかった。
【0090】
特定のTリンパ球のサブタイプの集合またはIFN-γ産生における腫瘍内のIL-12発現の効果もまた決定された。脾細胞がdvIL12/G207またはdvlacZ/G207を2度目に接種後5日目で単離され、ELISAによりIFN-γ産生が、FACS解析により脾臓Tリンパ球のサブセットがテストされた。簡潔に述べれば、脾細胞の単一細胞懸濁液を洗浄し、10%非働化FCSを含むRPMI1640培地に再懸濁した。細胞(3 x 106 /ml) を24穴プレート中24時間培養した。上清が集められ、Endogen(米国マサチューセッツ州ウォバーン)から入手した抗IFN-γAbペアを使用してサンドイッチELISA法により試験が行われた。
【0091】
dvIL12/G207およびdvlacZ/G207処置したマウスにおいて、ヘルパーT細胞(CD4)および細胞障害性T細胞(CD8a)の同様なパーセンテージが観察された。dvIL12/G207で処置したマウス由来の脾細胞では、以下に示すようにdvlacZ/G207処置したマウスよりも有意に多量のIFN-γを産生していた。
【0092】
〔表〕
【0093】
実施例6 tsKおよびIL-12を含むベクターの抗腫瘍効果
IL-12とtsK、またはlacZとtsKを含む欠損ベクターが調製された。欠損ベクタープラスミドpHCIL12-tkおよびpHCL-tkは上述のように調製した。欠損ベクターはヘルパーウイルスtsK DNAおよびpHCIL12-tkまたはpHCL-tkをVero細胞に共形質転換することにより産生された。形質転換された細胞は31.5℃(tsKが複製可能な温度)で、全体に細胞変性効果が観察されるまでインキュベートした。細胞は、G207ヘルパーウイルスに対して上記に記載してあるとおり継代した。カプリット(Kaplitt)ら、Moc. Cell. Neurosci. 2: 320-30 (1991)も参照のこと。IL-12を含む欠損ベクターはdvIL12/tsKと呼ばれ、lacZを含む欠損ベクターはdvlacZ/tsKと呼ばれる。
【0094】
CT26マウス大腸癌細胞は、上述のように同質遺伝子的なBALB/cマウスの両側に皮下移植した。右側の腫瘍にdvlacZ/tsK、dvIL12/tsKまたは非感染のいずれかを接種し、同じ組成物を用いて2度目の接種を7日後に行った。dvlacZ/tsKの接種では両方の腫瘍で腫瘍増殖の有意な阻止が起こった (22日目でp<0.01)。dvIL12/tsKの接種ではdvlacZ/tsKを接種した腫瘍に比較して、両方の腫瘍でより高い腫瘍増殖阻止が起こっていた(p<0.001)。図9。
【0095】
接種マウスの生存もまた経過観察した。マウスが瀕死になるかまたは腫瘍が直径18 mm以上に達したらマウスを屠殺した。図10に示されているとおり、dvlacZを接種されたマウスで非感染物を接種されたマウスに比較して、有意に長期に生存し(p<0.01)、dvIL12/tsKを接種したマウスではdvlac/tsKまたは非感染物を接種したマウスよりも有意に長期に生存した(p<0.01)。
【0096】
実施例7 tsKおよびGMCSFを含むベクターの抗腫瘍効果
Harding-Passeyメラノーマ細胞をC57BL/6マウスの両脇腹に皮下移植した。腫瘍が最大直径約5 mmとなったとき(0日目)に、dvlacZ/tsK(アンプリコンプラスミドpHCL-tkから産生され、大腸菌(E. coli)のlacZを発現する)またはdvGMCSF/tsK(アンプリコンプラスミドpHCGMCSF-tkから産生され、その構造はIL-12 DNAの代わりにマウスGM-CSF cDNAを含む以外はpHCIL12-tkに同じ;GM-CSFの発現はELISAによって検出される)のいずれかの欠損ウイルスベクターとヘルパーtsKウイルス、もしくはウイルス緩衝液を右脇腹の腫瘍に注射した。dvGMCSF/tsK処置したマウスではdvlacZ/tsKもしくは緩衝液処置したマウスよりも長期の生存が示され、また両側の腫瘍の両方において腫瘍増殖の低下が示された。
【0097】
説明、特定の実施例およびデータは典型的な態様を示しているが、実例として提示されたものであり本発明を制限する意図はない。本明細書に含まれる考察、開示およびデータから、本発明の範囲における様々な変更や改変が当業者には明らかとなると思われるが、これらは本発明の一部と考えられる。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
腫瘍特異的免疫誘導は、標準的毒性治療薬を使用することなく、人体の自己防御機構を利用する期待から、腫瘍の存在、増殖、再発生を長期的に防ぐものとして、癌治療の魅力的な方法となっている。この方法は、検出を免れる可能性のある小さな転移腫瘍を破壊し、また、再発腫瘍に対する免疫付与の可能性を秘めた魅力的な方法である。
【0002】
原則的に免疫治療は、腫瘍特異的抗原の有無と、抗原を提示する腫瘍細胞を認識する細胞毒性免疫反応を誘導できるかどうかにかかっている。細胞毒性Tリンパ球(CTL)は共刺激分子と結合して、細胞表面上に提示される細胞タンパク質由来のペプチドと複合する主要組織適合性複合体(MHC)クラスIを認識する。(Muellerら、Annu. Rev. Immunol. 7: 445-80、1989(非特許文献1)参照)。事実、様々なヒト腫瘍から腫瘍特異的抗原が検出されている。(Rothら、Adv. Immunol. 57: 281-351、1994(非特許文献2)、Boonら、Annu. Rev. Immunol. 12: 337-65、1994(非特許文献3)参照。)
【0003】
癌ワクチンの方法では、アジュバンド又はサイトカインと結合させて送達される死滅させた腫瘍細胞または溶解物の使用に関心が寄せられてきた。最近になり、免疫エフェクター細胞に対する腫瘍細胞の視覚感度を向上させるため、サイトカイン、MHC分子、共刺激分子、或いは腫瘍抗原の遺伝子の腫瘍細胞への転移が行われるようになってきた。(Dranoff & Mulligan、Adv. Immunol. 58: 417-54、1995(非特許文献4)参照。)
【0004】
治療を目的とする「癌ワクチン」の使用にはしかし大きな困難が伴う。特に、従来の方法では患者の自己腫瘍細胞を得、培養しインビトロでの増殖を行い、照射し、その後予防接種する、或いは特異的腫瘍抗原を同定し、精製することが必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Muellerら、Annu. Rev. Immunol. 7: 445-80、1989
【非特許文献2】Rothら、Adv. Immunol. 57: 281-351、1994
【非特許文献3】Boonら、Annu. Rev. Immunol. 12: 337-65、1994
【非特許文献4】Dranoff & Mulligan、Adv. Immunol. 58: 417-54、1995
【発明の概要】
【0006】
従って本発明の目的は、腫瘍患者の自己腫瘍細胞を取り扱うことなく、或いは、特異的抗原の同定或いは精製を行わず、複数の転移腫瘍を呈する或いはその危険性のある患者の全身性免疫反応を誘導する方法を提供する。
【0007】
この方法を実施するためのベクターを提供することもまた、本発明の目的である。
【0008】
これら及びその他の目的を達成するために、本発明は所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者における全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する方法を提供する。発明の一つの側面によれば、この方法は、患者の腫瘍への、
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらない単純ヘルペスウイルス、及び、
(B)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、単純ヘルペスウイルス用の薬学的に許容される媒体から本質的に成る、薬学的組成物の接種を有する。一つの形態に従えば、ウイルスは分裂細胞中で複製し、非分裂細胞中では複製が弱まる。別の形態に従えば、ウイルスは複製欠損である。また別の形態に従えば、ウイルスは条件付き複製反応能を有する。また別の形態に従えば、ウイルスはワクチン株である。さらに別の形態においては、ウイルスのゲノムは少なくとも一つの免疫モジューレータをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する。
【0009】
本発明の別の局面に従えば、本方法は、
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらず、免疫学的特徴が腫瘍細胞の種類に特異的であり、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応の誘導から本質的に成る単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を含む欠損単純ヘルペスウイルスベクターと、
(C)瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス及び欠損ベクター用の薬学的に許容される媒体
とを有する薬学的組成物を患者の腫瘍へ接種する段階を含む。
【0010】
本発明のまた別の局面によれば、本方法は
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらず、免疫学的特徴が腫瘍細胞の種類に特異的であり、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応の誘導から本質的に成る第一の単純ヘルペスウイルスと、
(B)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらない第二の単純ヘルペスウイルスと、
(C)瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス用の薬学的に許容される媒体
とを有する薬学的組成物を患者の腫瘍へ接種する段階を含む。
【0011】
本発明のまた別の局面によれば、本方法は
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらず、ゲノムが少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を含む第一の単純ヘルペスウイルスと、
(B)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらず、ゲノムが少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を含む第二の単純ヘルペスウイルスと、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス用の薬学的に許容される媒体
とを有する薬学的組成物を患者の腫瘍へ接種する段階を含む。
【0012】
本発明のまた別の局面によれば、本方法は
(A)腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には広がらない単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有するウイルスベクターと、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、免疫反応を誘導し、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導するウイルス及びウイルスベクター用の薬学的に許容される媒体
とを有する薬学的組成物を患者の腫瘍に接種する段階を含む。ウイルスベクターは例えばアデノウイルス、アデノウイルス関連ベクター、レトロウイルスベクター、または、ワクシニアウイルスベクターである可能性がある。
【0013】
本発明の方法に有効な変異型ウイルスもまた提供される。本発明の一つの局面に従えば、本明細書において(i)機能性γ34.5遺伝子産物、及び、(ii)リボヌクレイチド還元酵素の双方を発現不可能で、ゲノムが少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する、単純ヘルペスウイルスが提供される。本発明の別の局面によれば、本明細書において、ゲノムが変化して少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込む、単純ヘルペスウイルスICP4変異体tsKが提供される。
【0014】
本研究の方法を実行する組成物もまた提供される。本発明の一つの局面によれば、所与の細胞の種類の複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する組成物は、
(A)(i)機能性γ34.5遺伝子産物及び、(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現できない単純ヘルペスウイルス、及び
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターを有する。
【0015】
本発明の別の局面によれば、所与の細胞の種類の複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者における全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する組成物は、
(A)複製欠損であり、その免疫学的特徴が腫瘍細胞種特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応から本質的に成る単純ヘルペスウイルス、及び、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターを有する。
【0016】
本発明のまた別の局面によれば、所与の細胞の種類の複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者における全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する組成物は、
(A)条件付き複製反応能を有する単純ヘルペスウイルス、及び、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターを有する。
【0017】
本発明のこれら及び他の目的及び側面は本明細書に含まれる開示を鑑みて、当業者には明らかとなると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】図1AはBALB/cマウスのCT26腫瘍へのG207の腫瘍内接種による、接種腫瘍(rt)及び別の非接種腫瘍(lt)の増殖の抑制を示す。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図1B】図1BはBALB/cマウスのCT26腫瘍へのG207の皮内接種は、腫瘍増殖に有意な影響を及ぼさないことを示す。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEM を示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図1C】図1CはG207腫瘍内投与量の増加による、BALB/cマウスのCT26腫瘍の両側の腫瘍増殖の減少が示されている。棒グラフは各群6個体の平均を示す。
【図2】図2にはDBA/2マウスのM3マウスメラノーマ細胞へのG207の腫瘍内接種が接種腫瘍(rt)及び別の非接種腫瘍(lt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス6-7個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図3】図3では同系A/JマウスのマウスN18神経芽細胞腫細胞へのG207の腫瘍内接種が、接種腫瘍(左側腫瘍、Lt)及び別の非接種腫瘍(右側腫瘍、Rt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス8個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図4】図4ではBALB/cマウスのCT26腫瘍へのtsKの腫瘍内接種が接種腫瘍(Rt)及び別の非接種腫瘍(Lt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図5】図5AはプラスミドpHCL-tkを示す。図5BはプラスミドpHCIL12-tkを示す。
【図6】図6はdvIL12/G207を接種した細胞内のIL-2の分泌を示す。
【図7】図7ではBALB/cマウスのCT26腫瘍へのdvlacz/G207又はdvIL12/G207の腫瘍内接種が接種腫瘍(Rt)及び別の非接種腫瘍(Lt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図8】図8はdvlacZ/G207、dvIL12/G207又は偽処理(mock)をポスト接種したマウスの生存率を示す。
【図9】図9ではBALB/cマウスのCT26腫瘍へのdvIL12/tsk又はdvlacZ/tsKの腫瘍内接種が接種腫瘍(Rt)及び別の非接種腫瘍(Lt)の増殖を抑制することが示されている。棒グラフは各群のマウス6個体の平均±SEMを示す。腫瘍体積を幅X長さX高さにより求めた。
【図10】図10はdvlacZ/tsK、dvIL12/tsK又は偽処理をポスト接種したマウスの生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましい態様の詳細な説明
複数の転移腫瘍を呈する患者における全身性免疫反応を誘導するための新しい改良された方法が開発されてきている。これらの開発に従えば、本発明は少なくとも一つの変異型単純ヘルペスウイルス(HSV)の接種により所与の細胞の種類の複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者に全身性抗腫瘍免疫反応を誘導する方法を提供する。接種は接種腫瘍及び別の樹立非接種腫瘍を死滅させる、非常に特異的な抗腫瘍免疫反応を援用する。
【0020】
複数の転移腫瘍を呈する患者を治療する可能性があることは、単一の腫瘍体積にのみ着目する従来の方法と比較して大きな利点を有する。従来の細胞毒性ウイルスベクターに基づいた方法の効能は、患者の全ての腫瘍細胞のウイルス感染に左右される。インビトロで、ウイルスベクターの広範囲な、又は、全身性の分布を得ることは困難であるが、しかし、それゆえ局在化充実性腫瘍の腫瘍細胞の全てに感染することは困難であり、複数の転移腫瘍を呈する患者内の全ての腫瘍細胞に感染することもまた事実上不可能である。本発明の方法では、ウイルスベクターの標的を、全ての腫瘍細胞とする必要がないため、これを必要とする方法に比べ明らかな利点がある。さらに、近年の主要癌治療の発展に伴い、多くの癌患者がより長く生存し、また、それゆえ複数の転移腫瘍の発達の危機に曝されている。従って、これらの患者を効果的に治療できれば、癌治療における大きな発展となる。
【0021】
本発明に従って用いられるウイルスは、腫瘍細胞には感染するが、正常細胞には十分広がらない、もしくは、正常細胞内又は組織内で十分に複製しない変異型単純ヘルペスウイルスであり、それによって、正常細胞内やひとりでに疾病や病原を引き起こさない。例えば、複製欠損ウイルスと同様、分裂細胞内で複製し、非分裂細胞内では増殖が弱まるウイルスは、本発明に従えば有効である。このウイルスは、タイプ1(HSV-1)或いは、タイプ2(HSV-2)であろう。多様なHSV-1変異体はインサイチューで腫瘍細胞を破壊し、しかし、正常細胞には影響を及ぼさないために、局所細胞毒性腫瘍治療に用いられてきた(Minetaら、Nature Medicine 1: 938-43、1995、Martuzaら、Science 252: 854-56、1991、Boviatsisら、Gene Therapy 1: 323-331、1994、Randazzoら、Virology: 211、94-101、1995、Andreanskyら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 11313-18、1996参照)。HSVのワクチン株が利用可能であるのと同様に、本発明に従いこれらのいずれの変異体の利用が可能である。単純ヘルペスウイルスに対して、予測不可能なウイルスの広がりを治療することが可能な多くの抗ウイルス剤が入手可能である(例えばアシクロビルやフォスカルネット)。
【0022】
本発明の好ましい態様においては、ウイルスは分裂細胞で複製するが、非分裂細胞では複製が弱められる。例えば米国特許第5,585,096号では、(i)機能性γ34.5遺伝子産物、及び、(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現できないG207株で示されている。(米国特許第5,585,096号の内容は本明細書に参考文献として引用されている。)細胞死につながる溶菌感染を行いながら、G207は分裂細胞内で複製するが、非分裂細胞内での感染は非常に弱く、従って、ウイルスの広がりを腫瘍に限定することができる。G207は非神経病因性であり、マウスや非ヒト霊長類ではその疾患が検出されない。(Minetaら、Nature Nedicine 1: 938-43、1995)
【0023】
本発明の別の局面の従えば、本ウイルスは複製欠損である。このようなウイルスの例としてIOP4の温度感受性単純ヘルペスウイルス変異体であるtsKがある(Davisonら、J. Gen. Virol. 65: 859-63、1984参照)。tsKの複製能は温度依存性で、31.5度で複製許容、39.5度で複製不許容となる、。TsKはこの温度間で複製能を変化させながら複製することができる。人体の体温は約39.5度であるため、tsKはインビボでは複製欠損であると予想される。このことはラットにおけるtsKのインビボの実験で確認されている。
【0024】
本発明の、また別の局面に従えば、本ウイルスは条件付き複製反応能をもつ。このようなウイルスの例にはG92Aがあり、その複製反応能は細胞の種類に左右される。G92Aの詳細は1995年7月7日出願の米国特許登録番号08/486,147に記載されており、その内容をここに参照として引用する。
【0025】
本発明の一つの態様において、変異型単純ヘルペスウイルスの免疫学的特徴は、腫瘍の種類に特異的で、接種腫瘍及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応の誘導から本質的に成る。上記で用いられたように、「本質的に成る」という用語は本発明の具体的側面に大いに影響を与える別の面を除外する。たとえば本形態に従えば、変異型ウイルスのゲノムは、IL-2のような発現可能な免疫モジュレーターを有さない。後に示すように、本発明の別の形態はそのゲノムが発現可能な免疫モジュレーターを持つ変異型ウイルスを含む。
【0026】
本発明のまた別の態様は、複数の転移腫瘍を患う或いは患う可能性のある患者に投与される、単純ヘルペスウイルスとその薬学的に許容される媒体とから本質的に成る組成物に関連する。本組成物は、インサイチューで、腫瘍細胞に直接投与される。本記載において「本質的に成る」というフレーズは本発明の具体的側面に大いに影響を与える別の段階或いは面を除外する。従って、限定すれば、本形態の組成物は、別のウイルスが加わると本発明のプロトコールが複雑化するため、例えば処方された単純ヘルペスウイルスのみ、または欠損ウイルスベクターを含む。本発明はまた、例えば化学療法や、放射線療法等の別の治療と組み合わせて、本組成物を投与することを含んでいる。
【0027】
別の態様に従えば、複数の変異型単純ヘルペスウイルスを投薬する。この形態に於いては、複数の変異型単純ヘルペスウイルス、及び、一つの薬学的に許容されるウイルス用媒体を含有する単一の組成物が投与されるか、または、それぞれの組成物が少なくとも一つの変異型単純ヘルペスウイルス及び一つのウイルスもしくは複数のウイルス用の薬学的に許容される媒体からなる複数の組成物の投与により実行される。一つの形態に於いては、(A)第一の変異型単純ヘルペスウイルス、(B)第二の変異型単純ヘルペスウイルス、及び(C)これらのウイルス用の薬学的に許容される媒体、から成る組成物を投与する。別の形態に於いては、(A)第一の変異型単純ヘルペスウイルス、(B)第二の変異型単純ヘルペスウイルス、及び(C)これらのウイルス用の薬学的に許容される媒体から本質的に成る組成物を投与する。上記に定めたように、「本質的に成る」という用語は本発明の具体的側面に大いに影響を与える別の段階又は面を除外する。従って、本形態は、別のウイルス又は欠損ウイルスベクターを含まず、処方された第一及び第二の変異型単純ヘルペスウイルスの投与を伴う可能性がある。
【0028】
本発明に従えば、腫瘍を一つ或いは複数の変異型単純ヘルペスウイルスに接種すると、接種腫瘍の細胞の種類に特異的で、接種腫瘍と非接種腫瘍細胞を死滅させる全身性腫瘍特異的免疫反応が誘導される。誘導された細胞死は、例えば、腫瘍増殖の抑制や、腫瘍の縮小の形で観察される。下記に示す例では、誘導された細胞死が、接種腫瘍及び別の樹立非接種腫瘍の腫瘍増殖の抑制の形で観察される。幾つかの例では、腫瘍は、検出不可能にまで収縮する。マウスモデルを用いたCT26の実験では、優性腫瘍抗原である主要組織適合性複合体(MHC)クラスI制限ペプチドを意識する細胞毒性Tリンパ球(CD8+)に、免疫反応は相関していた。
【0029】
上述のように、本組成物はインサイチューで患者の腫瘍細胞に直接投与される。これは、例えば、腫瘍を外部メラノーマ細胞や定位空間的に腫瘍床に減量手術する等の、手術、例えば、手術中の腫瘍内接種により、当分野で周知の方法により実行される。腫瘍を標的にするための別の方法も適切である。一般的に最大安全投与量は、腫瘍に容易に接近できる場合には、週単位で投与され、或いは、手術や腫瘍生検の間に投与される。
【0030】
薬学的に許容される媒体は、周知の薬学的に許容される媒体より選択され、ウイルスに適合したものであるべきである。例えば、媒体は希釈剤、溶媒、緩衝剤、及び/または、保存料でありうる。薬学的に許容される媒体の例には、塩化ナトリウムを含有するリン酸緩衝液がある。別の薬学的に許容される媒体としては、塩、保存料、緩衝剤やREMINGTONの薬学科学(REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE, 第15版、Easton編、Mack Publishing Co. 1405-1412頁及び1461-1487頁、1975)及び国民医薬品集XIV(The National Formulary XIV.、第14版、Washington編、American Pharmaceutical Association、1975)に記載のような、液体溶液や、無毒性賦形剤があり、上記文献の内容を参考文献としてここに引用する。
【0031】
Huangら(Science 264: 961-65, 1994)は、MHCクラスI制限腫瘍抗原に対する免疫反応の初回免疫は、CDB+細胞への提示に先立つ、ホストの骨髄由来抗原提示細胞(APCs)への抗原の移動に関連していることを示した。本発明者らは、いずれの説にも束縛されることを好まないが、腫瘍の局所HSV感染は循環する前駆体をAPCsに分化することを誘導する可能性があると考える。マクロフファージの副集合はMHCクラスI分子上の外因性抗原をCD8+T細胞に提示することができる(Rockら、J. Immunol. 150: 438-46、1993)。腫瘍細胞の溶菌破壊又はウイルス誘導細胞死は腫瘍抗原を放出し、次いでAPScに捕獲され、排出するリンパ節へと送達される可能性がある。そこで、それらが加工されCD8+T細胞に提示されるかもしれない。HSV特異的及び腫瘍特異的結合認識は反応強度に重要な役割を果す可能性がある。複製反応能HSVに感染した腫瘍細胞は細胞膜から出芽する成熟中のビリオンを有し、APScのようにMHCクラスI提示のためのウイルス抗原を加工する可能性がある。従って、HSV感染腫瘍細胞は、直接、T細胞仲介免疫反応を誘導する可能性がある。ウイルス及び腫瘍抗原の共提示により誘導された免疫反応はその後、共発現した抗原のうちのひとつのみにより触発される可能性がある。
【0032】
また別の好ましい態様においては、ひとつ又は複数のモジュレーターは、上記の変異型単純ヘルペスウイルスと共に腫瘍細胞に移入される。本発明において便宜な免疫モジュレーターの例には、サイトカイン、共刺激分子、及びケモカインが含まれる。ひとつ又はそれ以上の免疫モジュレーターが、例えば、一つまたは複数のサイトカインまたは別の免疫モジュレーター遺伝子をコードする、ひとつ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を有する一つの変異型単純ヘルペスウイルスによるか、または、各々が、一つまたは複数のサイトカインまたは別の免疫モジュレーター遺伝子をコードする、ひとつ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を有する複数の変異型単純ヘルペスウイルスによって移入される。非単純ヘルペスウイルスベクターもまた、一つまたは複数の免疫モジュレーターのトランスファーに用いられる。例えば、一つまたは複数の免疫モジュレーター遺伝子をコードする、ひとつ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を有する、一つまたは複数のアデノウイルスベクター、アデノウイルス関連ベクター、レトロウイルスベクター、或いは、ワクシニアウイルスベクターを本形態に従って、用いることができる。例えば、免疫活性サイトカインの遺伝子の移動ついて述べたShawlerら、Adv. Pharacol. 40: 309-37, 1997を参照されたし。
【0033】
本発明はまた、変異型単純ヘルペスウイルスと一つまたは複数の免疫モジュレーターの遺伝子を含む欠損ヘルペスシンプレックスベクターを患者に投与し、変異型単純ヘルペスウイルスが欠損ヘルペスシンプレックスベクターのヘルパーウイルスとして機能する状況を包含する。さらに、本発明は一つまたは複数の変異型単純ヘルペスウイルス、及び複数の欠損単純ヘルペスウイルスベクターの投与を含有し、それぞれの欠損ベクターは一つまたは複数の免疫モジュレーターの遺伝子を含み、先の一つ又は複数のウイルスが欠損ベクターのヘルパーウイルスとして機能し、一つ又は複数のヘルパーウイルスが投与され、例えば変異型単純ヘルペスウイルスのような、ヘルパーウイルスの免疫学的特性は、腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応の誘導から本質的に成る。従って、本明細書で用いられる「本質的に成る」とは、本発明の具体的側面に大いに影響を与える別の面を除外する。さらにこのフレーズの使用は、例えば、例えばIL-2のような免疫モジュレーターを発現できるヘルパーウイルスベクターの投与を、例えば除外する。
【0034】
本発明に従えば、有効な免疫モジュレーターの例には、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL- 12、G-CSF、GM-CSF、IFN-α、IFN-γ、TNF-α、B7が含まれる(例えばParmianiら、Adv. Pharmacol. 40: 259-89、1997、Shawler ら、Adv. Pharmacol. 40: 309、1997参照。)便宜上、IL-12の使用を後述の考察に例としてあげる。しかしながら、IL-12の代わりにまたはIL-12と共に他の免疫モジュレーターを利用することも可能であることは理解されるはずである。本明細書において「免疫モジュレーター」という用語は、一つまたは複数の免疫モジュレーターを示すことが理解されるはずである。
【0035】
サイトカインIL-12は35kD(p35)及び40kD(p40)のサブユニットを有し、NK又はT細胞上に存在するレセプターに結合するヘテロ二重体のサイトカインである。高親和性レセプターは各々が低親和性レセプターとして働く二つのβタイプのサイトカインレセプターサブユニットから成る。IL-12は免疫システムにおける多機能性役割を担っており、T細胞及びNK細胞の増殖と細胞毒性機能を増大させ、IFN-γの生産を制御し、CD4+Tヘルパー(Th1)細胞の発生を促す。
【0036】
IL-12の抗腫瘍機能は、固定及び転移性の双方において、組換えIL-12の全身性投与を用いて、繊維芽細胞又はIL-12を分泌するように設計された組換えIL-12において、IL-12を発現するウイルスベクターにおいての、多くの異なったマウス腫瘍モデルにおいて証明されている。IL-12免疫治療は、例えばCT26、C26、MCH-1-Al、及びTS/Aのような他の細胞株にはあまり有効でない(Zitvogelら、Eur. J. Immunol. 26: 1335-41、1996参照)。rIL-12の全身性送達は種々の動物モデルにおいて有効な抗腫瘍作用をもつことが示されている。しかし、IL-12に長期照射すると、多くのサイトカインにおいて見られるような有毒副作用を示す。
【0037】
免疫調節遺伝子の腫瘍細胞への直接的な移入は、推定腫瘍抗原と共同して、その作用位置で腫瘍中に発現するという利点を有する。本発明によれば、従って、インサイチューで腫瘍を修飾し腫瘍細胞を免疫モジュレーター生産源とすることができる。
【0038】
欠損単純ヘルペスウイルスベクターは、ウイルス遺伝子が欠損しているため、自己増殖ができないが、ヘルパー単純ヘルペスウイルスの存在下、DNAの複製とその後のウイルス粒子へのパッケージングを補助する特異的なHSV配列を含んでいるプラスミドに基づくベクターである。(Limら、BioTechniques 20(3): 460、1996、Spaete & Frenkel、Cell 30: 295-304, 1982)。本発明に従えば、一つまたは複数のサイトカイン又は別の免疫モジュレーターをコードする一つまたは複数のヌクレオチド配列を、欠損単純ヘルペスウイルスベクターは有する。上記のあらゆる単純ヘルペスウイルスを、例えば複製反応能ウイルス、複製欠損ウイルス、又は、条件付き複製反応能ウイルス等の、ヘルパーウイルスとして使用できる。ウイルスゲノムのDNAの長さ(-153kb)は、パッケージされているので、各々の欠損ベクターは免疫モジュレーター遺伝子の複数のコピーを有することができる。例えば、 IL-12を有する欠損ベクターはIL-12遺伝子の約15のコピーを有することができ(IL-12を有するプラスミドのサイズに基づく)、分裂及び非分裂細胞を高率で導入することが可能である。ウイルスDNAは感染細胞のゲノムへ組み込まれず、IL-12の発現を動因するCMVプロモターがあれば、発現は高まるが、一過性である。本発明のひとつの側面によれば欠損HSVベクターはヘルパーウイルスとしてのG207と組み合わせて、IL-12のような一つまたは複数の免疫モジュレーターを移入するために用いることができる。本発明の別の側面によれば、欠損HSVベクターはヘルパーウイルスとしてのTsKと組み合わせて、IL-12のような一つまたは複数の免疫モジュレーターを移入するために用いることができる。欠損ヘルペスウイルスベクターの構築及びヘルパーウイルスとの使用は当分野では周知である(例えば上記Spaete & Frankel、及びGellerら、Proc. Nat’l Acad. Sci. USA、87: 8950-54, 1999参照)。
【0039】
欠損IL-12含有ベクターは多くの異なった腫瘍細胞に感染し、そしてこれら感染腫瘍細胞はインビボでIL-12を生産、分泌する。HSV感染に高感受性でありながら、しかし、ヘルパーウイルスは複製しにくく、従って急速にはヘルパーウイルスにより破壊されない細胞は、インビボでのIL-12を高生産できる可能性がある。IL-12は単純ヘルペスウイルスにより誘導される免疫反応に対するアジュバントとしての機能する。マウスモデルの研究においては、免疫反応の促進は、下記の実施例にその詳細が記載のされるように、腫瘍特異的CTL機能の高い誘導と脾臓細胞によるIFN-γの生産に相関する。
【0040】
本発明によれば、一つまたは複数の免疫モジュレーター及び一つまたは複数のヘルパー単純ヘルペスウイルスを含む一つまたは複数の欠損単純ヘルペスウイルスを用いて、接種腫瘍及び、その他、すなわち、非接種腫瘍の細胞を死滅させる。この抗腫瘍作用は、腫瘍を変異型単純ヘルペスウイルスに単独で接種して観察されるよりも、有意に高く、相乗効果を示している。
【0041】
上記のように、本発明に従い誘導された免疫反応は接種腫瘍の細胞を沈静し、沈静し、また別の非接種腫瘍を含む非接種腫瘍を死滅させる。この作用は本方法を所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する患者の治療に有効となる。また、本方法は投与ウイルスが直接標的としない腫瘍細胞も沈静させるため、局在非転移腫瘍の治療を改善できる。
【0042】
本発明に従い、非転移腫瘍、転移の可能性のある腫瘍、転移能が既に示された腫瘍を含むあらゆる種類の腫瘍を治療することができる。本発明に従い治療することができる腫瘍細胞の種類の例には、星状細胞腫、乏枝膠腫、随膜腫、神経線維腫、膠芽腫、上衣腫、シュワン細胞腫、神経線維肉腫、髄芽腫が含まれる。本発明はまた、メラノーマ細胞、膵臓癌細胞、前立腺癌細胞、頭部及び頚部癌細胞、乳癌細胞、肺癌細胞、結腸癌細胞、リンパ腫細胞、卵巣癌細胞、腎癌細胞、神経芽細胞腫、鱗状細胞癌腫、肉腫、中皮腫瘍、類表皮腫細胞の治療に有効である。
【0043】
本発明の態様は、本発明の側面を詳細に示す具体例により示される。これらの具体例は本発明の特異的な側面を示すもので、その範囲を限定するものでは無い。
【実施例】
【0044】
実施例1 CT26細胞株におけるCT207の抗腫瘍効能
CT207の抗腫瘍効能をCT26細胞の両側樹立皮下腫瘍モデルにおいて下記の通り評価した。
【0045】
細胞株
マウス結腸直腸癌腫CT26細胞株は免疫治療の研究における相乗効果腫瘍モデルとして広く利用されている。(Fearonら、Cancer Res. 35: 2975-80, 1988, Wangら、J. Immunol. 54: 4685-92、1995、Huangら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 9730-35、1996)。CT26は、雌BALB/cマウス(H-2d)への、N-ニトロソ-N-メチルウレタンの結腸内注入により誘導される、移植可能な結腸上皮腫瘍である。(Corbettら、Cancer Res. 35: 2434-39、1975)
【0046】
正常マウスにおいてはCT26ほとんど免疫原性でない。103-104個の細胞が致死腫瘍を発生させ、検出可能な腫瘍特異的CTLを誘導しない。(上記Fearonら、上記Wangら、参照。)内因性自己指向性マウス白血病プロウイルス(MuLV)env-1の外皮タンパク質由来の非変異型ノナマー(nonamer)であるAH1は、 CT26に対する免疫優性MHCクラスI制限抗体として同定された(上記Huangら、参照)。ペプチド特異的CTL株の養子免疫細胞移入は、樹立上皮CT26腫瘍を治癒させ、腫瘍特異的CTLの誘導と抗腫瘍効果の間の相関が示された。
【0047】
単純ヘルペスウイルスは多くのラット細胞内では増殖せず、G207のような弱毒ウイルスもまた、多くのマウス腫瘍内で十分に増殖しない。これとは対照的に、ヒト腫瘍株内では十分に増殖する。しかしながら、ヒト腫瘍株の研究には無胸腺マウスの使用が必要とされる。G207のような、弱毒条件付き複製ヘルペスベクターの免疫効果の研究のための良好な相乗効果システムの模索が数年続けられ、CT26がモデル細胞株として選ばれた。
【0048】
CT26株の感染
雌BALB/cマウス(国立癌研究所、Rockville、MD)の両側の側腹部に、腫瘍細胞(1X105個)を皮下注入した。皮下腫瘍が触知可能な程に増殖している時(約直径5mm)、マウスを50μlのウイルスバッファー(150mM塩化ナトリウム、20mMTris、pH7.5)及び改変イーグル培地(MEM)(1:1)中のG207ウイルス、或いは、ウイルス接種に使用される同様の方法を用いて偽感染細胞から調整した偽感染抽出物(mock)50μlのいずれかを、マウスの右側腫瘍に片側接種した。7日後、幾つかの実験において同様の組成物の二回目の接種を行った。腫瘍の大きさは外側カリパスにより測定した。すべての動物実験方法はGergetown大学動物管理及び使用委員会により承認されている。
【0049】
図1Cに示すように、G207の接種により、偽接種の対照群に比べ、接種腫瘍(Rt)及びその対側の対照物である非接種腫瘍細胞(Lt)の両細胞で腫瘍増殖の抑制が見られた。(ポスト感染21日後、p<0.0005(Rt)、及びp<0.001(Lt)、非二点比較tテスト)。一回目の接種から7日後の二回目の接種時、接種腫瘍では、G207からのLacZ発現がX-gal組織化学により検出されたが、非接種腫瘍では検出されなかった。
【0050】
G207の投与量が少ない場合(7x103プラーク形成ユニット(pfu))、二回の内腫瘍接種により、両側腫瘍の増殖抑制が対照群と比較して有意に誘導されたが(ポスト感染21日後、p<0.01(Rt)、及びp<0.05(Lt)、非二点比較tテスト)、投与量が多い場合よりも、その度合い少なかった(図1C)。
【0051】
5X107pfuのG207を一回片側腫瘍内接種した場合(図1A)、7X105pfuを二回腫瘍内接種した対照群(図1C)に比べ、両側腫瘍の増殖が大きく抑制された。
【0052】
左側腹部に樹立片側腫瘍のあるマウスの右側腹部へG207を皮内接種したが抗腫瘍効果は見られず、非接種反側腫瘍への抗腫瘍作用はG207の腫瘍内接種に左右された(図1B参照)。
【0053】
免疫反応におけるT細胞の役割
本発明による、単純ヘルペスウイルスに誘導される腫瘍増殖の抑制におけるT細胞の潜在的役割を評価するため、腫瘍内G207接種の抗腫瘍効能を無胸腺マウスにおいて試験した。7X105pfuのG207の腫瘍内接種の影響はみられなかった。投与量が多い場合には(5X107 pfu)、偽接種腫瘍と比較して、若干、ウイルス腫瘍増殖の抑制がみられたが、非接種反側腫瘍への影響は観察されなかった。無胸腺マウスの反側腫瘍への影響がみられなかったことは、T細胞が誘導免疫反応を構成していることを示唆するものである。
【0054】
腫瘍特異的CTL反応
単純ヘルペスウイルスが腫瘍特異的CTL反応を誘導するかを確認するため、一回目の接種12日後に得た脾臓細胞からインビトロでエフェクター細胞を発生させ、51Cr放出解析を行った。
【0055】
G207又は偽接種した個々のマウスから得られた脾臓細胞(3x106個)の単一細胞懸濁液を1X106個のミトマイシンCで処理したCT26細胞で培養した(100μg/mlのミトマイシCで、1時間)。エフェクター細胞をインビトロ培養の6日後収集し、記載の比で標的細胞と混合した。標的細胞を50μCiのNa51Cro4(51Cr)で60分間培養した。Kojimaら(Immunity 1: 357-64、1994)の記載に従い、51Cr放出アッセイを4時間行った。%特異的溶菌は以下のようにして、三つ組の検体から算出した。
[(実験cpm-自発cpm)/(最大cpm-自発cpm)]X100
【0056】
A20はBALB/cマウスの自発細網細胞新生物由来のB細胞リンパ腫細胞株(Ig+、Ia+、H-24)である(Kimら、J. Immunol. 122: 549-54、1979)。A20はタンパク質抗原をMHC制限抗原活性Tリンパ球に提示することができる(Glimcherら、J. Exp. Med. 155: 445-59、1982参照)。
【0057】
腫瘍内をG207で処置したマウスはCT26細胞に対しては高度に特異的にCTL反応が見られたが、A20リンパ腫細胞(H-2dについても)に対しては反応が見られなかった。G207で皮下に処置したマウス、もしくは非感染細胞抽出液で腫瘍内を処置したものについては特異的なCTL反応は検出されなかった。何も接種していないマウスでは、(A20およびCT26に対して)わずかな非特異的CTL反応があった。
【0058】
単純ヘルペスウイルスを腫瘍内に接種したマウスにおいて生じるCTLが、CT26の免疫主要MHCのクラス1制限された抗原性ペプチドAH1を認識できるかどうかも評価された。AH1は9残基のSPSYVYHQPであるが、CT26由来の免疫主要ペプチドであり、MHCのクラス1Ld分子により提示される。La-に結合しているAH1ペプチドは内因性MuLVの二つのenv遺伝子の産物のうちのひとつであるgp70に由来している。ファン(Huang)ら、上記、はCT26細胞がMuLVのenv遺伝子産物を発現するがBALB/cマウスの通常の組織は発現しないこと、およびウイルス抗原gp70は免疫システムに対する潜在的な主要排除システムとして機能できることを示した。AH1ペプチドはHPLCおよびアミノ酸解析により決定されたところによれば99%以上の純度で、ペプチドテクノロジー社(Peptide Technologies、ワシントンD. C.)により合成された。
【0059】
H-2Ld 制限されたPB15AB.35-43、LPYLGWLVFはマウスの肥満細胞腫P815細胞に由来する免疫主要ペプチドである。ヴァン=デン=アインド (Van den Eynde)ら、J. exp. Med. 173: 1373-84 (1991)。
【0060】
腫瘍内にG207を接種したマウス由来のエフェクター細胞はCT26細胞、およびLd 制限されたペプチドAH1でパルス刺激されたA20細胞の特異的溶解を示したが、Ld 制限されたペプチドP815ABでパルス刺激されたA20細胞は溶解を示さなかった。インビトロでのCTL活性はCD8+細胞の除去により完全に消滅するが、CD4+細胞の除去では消滅しなかった。
【0061】
G207ウイルスの皮内接種または非感染細胞抽出液の腫瘍内接種ではCT26に対する特異的T細胞の活性化は増強しなかった。これに対してG207の腫瘍内接種により内因性の抗原を発現している腫瘍に対するインビボでのプライミングでは、抗原ペプチド特異的なCTL反応が誘導された。これらの結果は単純ヘルペスウイルスを腫瘍に接種すると、内因性の抗原発現に対して潜在的に寛容になる機構を凌駕できることを示している。無胸腺マウスで接種されなかった腫瘍に対して抗腫瘍応答がなかったこと、およびインビトロでCD8+細胞の除去によりCTL活性が欠失したことは、CTLによるT細胞の仲介するMHCクラスI制限認識に対する重要な役割を示唆している。
【0062】
実施例2 M3マウスメラノーマ細胞におけるG207の抗腫瘍効果
M3マウスメラノーマ細胞 (3 x 105)をDBA/2マウスの脇腹に両側から接種した。腫瘍が最大の直径5 mmとなったとき、右脇腹の腫瘍に対し、G207を5 x 107 pfu、または(陰性対照として)感染させていないVero細胞から調製した同等量を一度接種した。
【0063】
G207の接種により、接種した腫瘍の増殖が阻害され (p < 0.0005) 、また非接種腫瘍の増殖も有意に阻害された (p < 0.02)。図2。
【0064】
実施例3 マウスN18神経芽細胞腫細胞におけるG207の抗腫瘍効果
マウスN18神経芽細胞腫細胞を同質遺伝子的なA/Jマウスに両側性に皮下に移植した。腫瘍移植後8日で、107 pfuのG207、または非感染液が左の腫瘍に注射された。8匹の動物のうち6匹において、G207の接種により両側の腫瘍の消失が起こった。図3。
【0065】
皮下および脳内腫瘍
N18神経芽細胞腫細胞がA/Jマウスの左脇腹に両側性に皮下に移植された。3日後、N18神経芽細胞腫細胞がマウスの右前頭葉に脳内移植された。10および13日めに、皮下の腫瘍のみにG207 (マウス11匹)または非感染液(マウス11匹)が注射された。脳への移植35日以内にすべての非感染液処置マウスは脳内腫瘍により死亡するか、または腫瘍が存在した。G207処置マウス11匹中4匹では脳内に腫瘍がなく、G207処置したマウスの1匹は長期に生存した。G207処置は遠位の脳内腫瘍の増殖を阻止し、腫瘍を有する動物の生存率を増大させた(ウィルコックス(Wilcox)検定でP < 0.05)。
【0066】
N18の再接種
N18細胞に対して過去に曝露歴のない10匹のA/Jマウス(未接種群)、前にN18細胞の皮下注射を自発的に排除した30匹のA/Jマウス(排除群)および以前N18の皮下腫瘍が確立し、G207の腫瘍内注射により治癒した12匹のA/Jマウス(治癒群)に対しN18細胞が皮下注射された。治癒群の動物では一匹も腫瘍増殖の徴候が認められなかったが、一方未接種群および排除群では多くの動物で顕著な腫瘍の増殖を認めた。
【0067】
実施例4 tsKの抗腫瘍効果
マウスのCT26大腸癌細胞を同質遺伝子的なBALB/cマウスに両側的に、皮下移植した。ICP4での温度感受性単純ヘルペスウイルス変異株であるtsKを105 pfu、または非感染液を右腫瘍に注射し、同じ組成物の2度目の接種を7日後に行った(7日目)。tsKの接種により両方の腫瘍において腫瘍増殖の有意な阻害が起こった(21日目でp<0.05)。図4
【0068】
実施例5 IL-12を含む欠損ベクターおよびヘルパーウイルスG207の抗腫瘍効果
マウス結腸直腸癌細胞系CT26がIL-12を含む欠損ベクターおよびヘルパーウイルスとしてG207の抗腫瘍効果を評価するために使用された。
【0069】
欠損ベクターの作製
同様な大きさの2つのアンプリコンプラスミドpHCIL12-tkおよびpHCL-tkを構築した。これらはCMVIEプロモーターの支配下に、それぞれマウスIL-12の2つのサブユニット (p40およびp35)、またはlacZをコードしている(図5Aおよび5B参照)。IL-12はヘテロダイマーとして機能し、両方のサブユニットは単一の欠損ベクターから、内部リボソーム開始部位(IRES)によって二つのシストロンを持つメッセージとして発現される。
【0070】
2重カセットのアンプリコンプラスミドであるpHCL-tkは、HSV-1のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、およびpHSV-106(有限会社Life Technologies、ロックビル(Rockville)、米国メリーランド州)由来の平滑末端化されたBamHI断片を、pHCLの平滑末端化されたSpe I部位に挿入することにより構築された(図5A)。
【0071】
p40のコード領域、BL-pSV40由来のBamHI断片、マウスIL-12のp35由来のcDNA、DFG-mIL-12由来のウマの脳心筋炎ウイルス(EMCV)のIRES (IRES-p35)、およびDFG-mIL-12由来のBamHI断片が、p40-IRES-35をつくるためにLITMUS 2B(New England Biolabs、米国メリーランド州)のBglII/BamHI部位にサブクローンされた。IL-12をコードする二重カセットアンプリコンプラスミドであるpHCIL12-tkは、p40-IRES-p35カセットであるSnaB1/AflII断片を、pSR-oriの平滑末端化されたSalI部位に挿入し、その後pHCIL12-tkをつくるためにHSV TKの平滑末端化されたBamHI断片を平滑末端化されたSphI部位に挿入することにより構築された。図5B。
【0072】
γ34.5遺伝子、およびICP6を不活化させる大腸菌(E. coli)のlac Z遺伝子挿入の両方のコピーともに欠損を含むG207が、欠損ベクター (dv) のストックの産生のためのヘルパーウイルスとして使用された。精製したアンプリコンプラスミドDNA (pHCIL12-tkおよびpHCL-tk)とC207ウイルスDNAを、lipofectAMINE(登録商標)(有限会社Life Technologies、ロックビル(Rockville)、米国メリーランド州)を使用して、製造者の記載に従って Vero細胞に同時に遺伝子導入し、その後完全な細胞変性効果が起こるまで34.5℃で培養された。ウイルスはその後回収され、ヘルパーウイルスの複製阻止が観察されるまでVero細胞で4倍希釈されて継代された。IL-12を含む欠損ベクターはdvIL12/G207と呼ばれ、lacZを含む欠損ベクターはdvlacZ/G207と呼ばれる。
【0073】
欠損ベクターストックのタイター測定
凍結融解 / 超音波法を行い、低速遠心(2000 x gで4℃10分間)により細胞破砕物を除去した後、欠損ベクターのストックのタイターが測定された。G207ヘルパーウイルスのタイターはVero細胞を使用し、34.5℃でプラークアッセイ後のpfuの数として表現された。dvIL12/G207に対しては、IL-12の発現が決定され、最大の発現量の継代(4代目)のところで、5 x 107 pfu / mlのG207のヘルパーウイルスタイターとともに使用された。dvlacZ/G207のタイターはG207によるプラーク形成後、X-gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)の組織染色による陽性の単一細胞の算出(欠損粒子単位、dpu)によって決定され、5 x 106dpuおよびヘルパーウイルスが5 x 107pfuであった。
【0074】
細胞培養
アフリカミドリザル腎細胞(Vero)細胞は10%仔ウシ血清(CS)を含むDMEMで培養された。MC-38マウス大腸腺癌、Harding-Passeyマウスメラノーマ、MDA-MB-435ヒト乳腺癌、およびCT26細胞は、10%熱非働化FCS (Hyclone、米国ユタ州ローガン)、およびペニシリン-ストレプトマイシン(株式会社Sigma Chemical、米国ミズーリ州セントルイス)を含むDMEMで培養された。A20(American Type Culture Collection、米国メリーランド州ロックビル、ATCC TIB 208)はBALB/cマウスにおける自発的な網状組織細胞新生物に由来するB細胞リンパ腫細胞系(Ig+、Ia+、H-2d)であるが、10%熱非働化FCS、50μMの2-ME、2 mMのグルタミン、20mMのHepes緩衝液、およびペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI 1640で培養された。
【0075】
IL-12の検出
IL-12の発現と分泌は、培養している腫瘍細胞に細胞あたり1 pfuの感染多重性(MOI)で感染後、ELISA解析により決定された。
【0076】
感染24時間後、感染細胞上清の一部が除かれ、ドライアイス/エタノール浴中で急速凍結され、IL-12の検出のために-80℃で保存された。腫瘍および血液は欠損ベクター処理したマウスから集められ、ドライアイス/エタノール浴中で急速凍結された。凍結組織は500μMのPMSF、0.5μg/mlのロイペプチン、および0.7μg/mlのペプスタチンを含む氷冷PBSで懸濁された。懸濁物はその後10秒間2回超音波処理され、4℃5分間の微量遠心機での遠心により清浄とされた。免疫反応性のIL-12量は、AbのペアとrIL-12を使用してサンドイッチELISAにより決定された。rIL-12の標準化合物は同じ培養液または検体のような緩衝液(これは、血清検体に対してマウス血清)で希釈された。
【0077】
簡潔に記せば、抗マウスIL-12mAb (9A5)でコートした96穴プレートを試験検体とともに室温で一晩インキュベートした。洗浄後、プレートをペルオキシダーゼ標識された抗マウスIL-12 p40 Ab(5C3)とともに2時間インキュベートし、その後発色させた。吸光度は450 nmで測定した。
【0078】
CT26(マウス大腸癌)、Harding-Passey(マウスメラノーマ)、MCA-38(マウス大腸腺癌)、MDA-MB-435(ヒト乳腺癌)細胞をdvIL12/G207に感染させると、24時間で最大1.5 ngマウスIL-12/105腫瘍細胞の分泌が起こった。図6。非感染、またはdvlacZ/G207を感染させた腫瘍細胞培養液の上清ではIL-12は検出されなかった。IL-12合成および分泌量は、CT26細胞にdvIL12/G207を感染後1日でピークに達し、おそらくは細胞死によって感染後3日までには検出されないレベルまで低下する。
【0079】
皮下腫瘍モデル
BALB/cおよびBALB/c (nu/nu)マウスは米国立癌研究所(National Cancer Institute)もしくはチャールズリバー(Charles River)(米国マサチューセッツ州ウィルミントン)から入手した。すべての動物実験手順はジョージタウン大学動物愛護および利用委員会により許諾されている。
【0080】
CT26腫瘍細胞 (1 x 105)はマウスの両側の脇腹に皮下(s.c.)注射した。皮下腫瘍が明白に増殖したとき(最大直径約5mm)、ウイルス緩衝液(150 mM NaCl、20 mM Tris、pH 7.5)中の欠損HSVベクター(7 x 105 pfuのヘルパーウイルス)50μl、または50μlのウイルス緩衝液をマウスに対し右側の腫瘍に片側のみ接種し、7日後に同じ組成物の2度目の注射を行った。指示してあるところでは何も感染させていない抽出液がウイルス緩衝液のかわりに使用された。欠損ベクターストック対G207ストックに存在するウイルス因子の相違(これは粒子とpfuの比)が考えられたため、ヘルパーウイルスG207単独よりもむしろdvlacZ/G207をdvIL12/G207接種に対する対照として使用した。G207およびdvlacZは共に大腸菌(E.coli)のlacZを含み、それ故対照となる欠損ベクターによって、他の外来性抗原は発現されなかった。
【0081】
腫瘍の大きさは外部のカリパスにより測定し、腫瘍の容積を計算した(V = h x w x d)。動物が瀕死になっているか、もしくはその皮下腫瘍の直径が18 mmに達したら、この動物を屠殺し、生存研究においてはこれを死亡日として記録した。統計的な差はStatView 4.5(有限会社Abacus Concepts、米国カリフォルニア州バークレイ)を使用して計算し、ここで平均の腫瘍体積は非対t検定により、生存の平均はANOVA検定(Fisherのpost-hoc比較解析)により、および生存における差はLogrank(Mantel-Cox)検定により評価した。
【0082】
dvIL12/G207の接種により、接種された腫瘍、およびその非接種反対側のもう片方において同様に、腫瘍の増殖の有意な減少が示され、非常に顕著な抗腫瘍効果が示された(図7)。dvIL12/G207を接種した腫瘍の6つのうち2つにおいて、検出できない大きさまで縮小した。dvlacZ/G207の接種においてもまたdvIL12/G207よりははるかに軽度であったが、接種・非接種両方の腫瘍で、対照に比較して腫瘍増殖の有意な減少が起こった(図7)。
【0083】
マウスはその後さらに生存の経過観察がなされたが、このとき両側の腫瘍のいずれかが直径18mm以上の大きさになったときにマウスを屠殺した。欠損ベクター処置した動物の生存は、それ故非接種腫瘍の増殖を反映しているが、対照動物よりも有意に長期であった。dvIL12/G207で片側を処置したマウスでは、dvlacZ/G207で処置したマウスよりも長期に生存した(図8)。IL-12はdvIL12/G207を接種した腫瘍において接種後1日目および5日目で検出されたが(腫瘍当たり約50〜100pg)、血清中においてはIL-12は検出されなかった。
【0084】
免疫応答におけるT細胞の役割
欠損HSVベクターの誘導する抗腫瘍応答におけるT細胞の可能な役割を調べるため、両側のCT26皮下腫瘍をBALB/c(nu/nu)無胸腺マウスで確立した。上記で議論された免疫適格性マウスモデルの場合と同様、dvIL12/G207、dvlacZ/G207、または非感染抽出液の片側腫瘍内接種を腫瘍が明確になったとき(最大直径約5mm)に右側の腫瘍に対して実施し、同じ組成物の2度目の接種を7日後に行った。
【0085】
dvIL12/G207を注射した右側腫瘍の増殖にわずかな遅れがあったものの、有意な腫瘍増殖阻止は、接種または反対側の非接種腫瘍両方において認められなかった。CT26腫瘍は免疫適格性マウスの場合よりも無胸腺マウスにおいて、多少より急速に増殖した。
【0086】
腫瘍特異的CTL応答
腫瘍増殖阻止が増大するCTL活性と関連があるかどうかを試験するため、51Cr放出試験を使用して、欠損HSVベクターを腫瘍内接種したときインビトロでCT26特異的CTL活性を引き起こすことができるかどうかが調べられた。
【0087】
BALB/cマウスで皮下腫瘍が最大直径約5mmに達したときにdvIL12/G207またはdvlacZ/G207が腫瘍内に接種され、同一組成物の2度目の接種が7日後に行われた。脾細胞の単一細胞懸濁液を24穴プレート中3 x106細胞/mlの濃度で、10%非働化FCS、50μM 2-ME、2 mMグルタミン、20 mMHepes、およびペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI1640中培養した。さらに、1 x106の不活化CT26細胞または1μg/mlのペプチドAH1を培養液に添加した。不活化にはCT26腫瘍細胞を100μg/mlのマイトマイシンCを含む培養液で1時間インキュベートし、その後2度洗浄した。エフェクター細胞はインビトロ培養の6日後に回収した。
【0088】
4時間の51Cr放出試験は上述のように行った。簡潔に記せば、標的細胞は50μCiのNa51CrO4(51Cr)と60分間インキュベートした。A20細胞は1μg/mlのLd-制限されたペプチドAH1またはP815ABで標識前に1時間パルス刺激された。標的細胞がその後、指示されているE/T比でエフェクター細胞と4時間混合された。51Cr放出量はγ計数により決定され、特異的溶解パーセントは以下のように3つの検体から計算された:(実験的cpm-自発的cpm)/(最大cpm-自発的cpm)x 100。
【0089】
マイトマイシンC処置したCT26細胞で再度刺激を行ったdvIL12/G207処置マウス由来のエフェクター細胞では、CT26標的細胞およびペプチドAH1でパルス刺激されたA20細胞の特異的溶解を示した。パルス刺激していないA20細胞またはLd制限されたペプチドP815ABでパルス刺激されたA20細胞では明確な溶解は観察されなかった。dvIL12/G207またはdvlacZ/G207で処置したマウス由来のエフェクター細胞をペプチドAH1で再刺激すると、ペプチドAH1でパルス刺激した標的A20細胞およびCT26細胞の特異的溶解を示したが、パルス刺激していないA20細胞では特異的溶解を示さなかった。dvIL12/G207により生じるCTL活性のレベルは、dvlacZ/G207により生じるものよりも有意に大きかった。dvIL12/G207を接種した動物からのエフェクター細胞を再刺激しなかった場合、CT26を特異的に溶解することはできたが、A20細胞を溶解することはできなかった。
【0090】
特定のTリンパ球のサブタイプの集合またはIFN-γ産生における腫瘍内のIL-12発現の効果もまた決定された。脾細胞がdvIL12/G207またはdvlacZ/G207を2度目に接種後5日目で単離され、ELISAによりIFN-γ産生が、FACS解析により脾臓Tリンパ球のサブセットがテストされた。簡潔に述べれば、脾細胞の単一細胞懸濁液を洗浄し、10%非働化FCSを含むRPMI1640培地に再懸濁した。細胞(3 x 106 /ml) を24穴プレート中24時間培養した。上清が集められ、Endogen(米国マサチューセッツ州ウォバーン)から入手した抗IFN-γAbペアを使用してサンドイッチELISA法により試験が行われた。
【0091】
dvIL12/G207およびdvlacZ/G207処置したマウスにおいて、ヘルパーT細胞(CD4)および細胞障害性T細胞(CD8a)の同様なパーセンテージが観察された。dvIL12/G207で処置したマウス由来の脾細胞では、以下に示すようにdvlacZ/G207処置したマウスよりも有意に多量のIFN-γを産生していた。
【0092】
〔表〕
【0093】
実施例6 tsKおよびIL-12を含むベクターの抗腫瘍効果
IL-12とtsK、またはlacZとtsKを含む欠損ベクターが調製された。欠損ベクタープラスミドpHCIL12-tkおよびpHCL-tkは上述のように調製した。欠損ベクターはヘルパーウイルスtsK DNAおよびpHCIL12-tkまたはpHCL-tkをVero細胞に共形質転換することにより産生された。形質転換された細胞は31.5℃(tsKが複製可能な温度)で、全体に細胞変性効果が観察されるまでインキュベートした。細胞は、G207ヘルパーウイルスに対して上記に記載してあるとおり継代した。カプリット(Kaplitt)ら、Moc. Cell. Neurosci. 2: 320-30 (1991)も参照のこと。IL-12を含む欠損ベクターはdvIL12/tsKと呼ばれ、lacZを含む欠損ベクターはdvlacZ/tsKと呼ばれる。
【0094】
CT26マウス大腸癌細胞は、上述のように同質遺伝子的なBALB/cマウスの両側に皮下移植した。右側の腫瘍にdvlacZ/tsK、dvIL12/tsKまたは非感染のいずれかを接種し、同じ組成物を用いて2度目の接種を7日後に行った。dvlacZ/tsKの接種では両方の腫瘍で腫瘍増殖の有意な阻止が起こった (22日目でp<0.01)。dvIL12/tsKの接種ではdvlacZ/tsKを接種した腫瘍に比較して、両方の腫瘍でより高い腫瘍増殖阻止が起こっていた(p<0.001)。図9。
【0095】
接種マウスの生存もまた経過観察した。マウスが瀕死になるかまたは腫瘍が直径18 mm以上に達したらマウスを屠殺した。図10に示されているとおり、dvlacZを接種されたマウスで非感染物を接種されたマウスに比較して、有意に長期に生存し(p<0.01)、dvIL12/tsKを接種したマウスではdvlac/tsKまたは非感染物を接種したマウスよりも有意に長期に生存した(p<0.01)。
【0096】
実施例7 tsKおよびGMCSFを含むベクターの抗腫瘍効果
Harding-Passeyメラノーマ細胞をC57BL/6マウスの両脇腹に皮下移植した。腫瘍が最大直径約5 mmとなったとき(0日目)に、dvlacZ/tsK(アンプリコンプラスミドpHCL-tkから産生され、大腸菌(E. coli)のlacZを発現する)またはdvGMCSF/tsK(アンプリコンプラスミドpHCGMCSF-tkから産生され、その構造はIL-12 DNAの代わりにマウスGM-CSF cDNAを含む以外はpHCIL12-tkに同じ;GM-CSFの発現はELISAによって検出される)のいずれかの欠損ウイルスベクターとヘルパーtsKウイルス、もしくはウイルス緩衝液を右脇腹の腫瘍に注射した。dvGMCSF/tsK処置したマウスではdvlacZ/tsKもしくは緩衝液処置したマウスよりも長期の生存が示され、また両側の腫瘍の両方において腫瘍増殖の低下が示された。
【0097】
説明、特定の実施例およびデータは典型的な態様を示しているが、実例として提示されたものであり本発明を制限する意図はない。本明細書に含まれる考察、開示およびデータから、本発明の範囲における様々な変更や改変が当業者には明らかとなると思われるが、これらは本発明の一部と考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)単純ヘルペスウイルスのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有し、腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらない単純ヘルペスウイルスと、
(B)腫瘍細胞の種類に特異的な、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、単純ヘルペスウイルス用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項2】
ウイルスが分裂細胞内で複製し、非分裂細胞内では複製の減退を示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ウイルスが(i)機能性γ34.5遺伝子産物及び(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現することができない、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ウイルスが同義遺伝子変異体G207であり、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ウイルスが複製欠損性である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ウイルスが温度感受性変異体である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ウイルスがICP4変異体tsKであり、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ウイルスが条件付き複製応答能を有する請求項1記載の方法。
【請求項9】
ウイルスが変異体G92Aであり、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ウイルスがワクチン株の一つである請求項1記載の方法。
【請求項11】
ウイルスがHSVタイプ-1(HSV-1)ウイルスである請求項1記載の方法。
【請求項12】
ウイルスがHSVタイプ-2(HSV-2)ウイルスである請求項1記載の方法。
【請求項13】
腫瘍細胞が星状細胞腫、乏突起膠腫、随膜腫、神経線維腫、膠芽腫、上衣腫、シュワン細胞腫、神経線維肉腫、及び髄芽腫から成る群より選択される種類である請求項1記載の方法。
【請求項14】
腫瘍細胞がメラノーマ細胞、膵臓癌細胞、前立腺癌腫細胞、頭部及び頚部癌細胞、乳癌細胞、肺癌細胞、結腸癌細胞、リンパ腫細胞、卵巣癌細胞、腎癌細胞、神経芽細胞腫、鱗状細胞癌腫、髄芽腫、肝癌腫細胞、中皮腫瘍、および類表皮腫細胞から成る群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項15】
免疫モジュレーターがサイトカイン、ケモカイン、及び共刺激分子(co-stimulatory molecule)から成る群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項16】
患者が複数の転移腫瘍を呈する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらず、その免疫学的特徴が、腫瘍細胞の種類に特異的な、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を本質的に誘導することから成る、単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする、少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する、欠損単純ヘルペスウイルスベクターと、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス及び欠損ベクター用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項18】
免疫モジュレーターがサイトカイン、ケモカイン、及び共刺激分子から成る群より選択される請求項17記載の方法。
【請求項19】
(i)機能性γ34.5遺伝子産物及び、(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現することができない単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュ−レーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する単純ヘルペスウイルス。
【請求項20】
同義遺伝子変異体G207であり、そのゲノムが、発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている請求項19記載のウイルス。
【請求項21】
ゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている単純ヘルペスウイルスICP4変異体tsK。
【請求項22】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起するための組成物であって、
(A)(i)機能性γ34.5遺伝子産物及び(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現することができない単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターとを含む組成物。
【請求項23】
ウイルス(A)が同義遺伝子変異体G207である、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起するための組成物であって、
(A)複製欠損性であり、その免疫学的特徴が、腫瘍細胞の種類に特異的な、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導することから本質的に成る、単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターとを含む組成物。
【請求項25】
ウイルス(A)がICP4変異体tsKである請求項24記載の組成物。
【請求項26】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起するための組成物であって、
(A)条件付き複製反応能を有する単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターとを含む組成物。
【請求項27】
ウイルス(A)が変異体G92Aである請求項26記載の組成物。
【請求項28】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらず、その免疫学的特徴が、腫瘍細胞の種類に特異的な、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応から本質的に成る、第一の単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(B)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には感染しない第二の単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を、患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項29】
第二の単純ヘルペスウイルスのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する請求項28記載の方法。
【請求項30】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらず、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する第一の単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(B)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらず、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する第二の単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を、患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項31】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらない単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有するウイルスベクターと、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス及びウイルスベクター用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を、患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項32】
ウイルスベクタ−が、アデノウイルスベクター、アデノウイルス関連ベクター、レトロウイルスベクター、およびワクシニアウイルスベクターから成る群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
免疫モジュレーターがサイトカイン、ケモカイン、及び共刺激分子から成る群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項1】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)単純ヘルペスウイルスのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有し、腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらない単純ヘルペスウイルスと、
(B)腫瘍細胞の種類に特異的な、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、単純ヘルペスウイルス用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項2】
ウイルスが分裂細胞内で複製し、非分裂細胞内では複製の減退を示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ウイルスが(i)機能性γ34.5遺伝子産物及び(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現することができない、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ウイルスが同義遺伝子変異体G207であり、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ウイルスが複製欠損性である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ウイルスが温度感受性変異体である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ウイルスがICP4変異体tsKであり、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ウイルスが条件付き複製応答能を有する請求項1記載の方法。
【請求項9】
ウイルスが変異体G92Aであり、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ウイルスがワクチン株の一つである請求項1記載の方法。
【請求項11】
ウイルスがHSVタイプ-1(HSV-1)ウイルスである請求項1記載の方法。
【請求項12】
ウイルスがHSVタイプ-2(HSV-2)ウイルスである請求項1記載の方法。
【請求項13】
腫瘍細胞が星状細胞腫、乏突起膠腫、随膜腫、神経線維腫、膠芽腫、上衣腫、シュワン細胞腫、神経線維肉腫、及び髄芽腫から成る群より選択される種類である請求項1記載の方法。
【請求項14】
腫瘍細胞がメラノーマ細胞、膵臓癌細胞、前立腺癌腫細胞、頭部及び頚部癌細胞、乳癌細胞、肺癌細胞、結腸癌細胞、リンパ腫細胞、卵巣癌細胞、腎癌細胞、神経芽細胞腫、鱗状細胞癌腫、髄芽腫、肝癌腫細胞、中皮腫瘍、および類表皮腫細胞から成る群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項15】
免疫モジュレーターがサイトカイン、ケモカイン、及び共刺激分子(co-stimulatory molecule)から成る群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項16】
患者が複数の転移腫瘍を呈する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらず、その免疫学的特徴が、腫瘍細胞の種類に特異的な、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を本質的に誘導することから成る、単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする、少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する、欠損単純ヘルペスウイルスベクターと、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス及び欠損ベクター用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項18】
免疫モジュレーターがサイトカイン、ケモカイン、及び共刺激分子から成る群より選択される請求項17記載の方法。
【請求項19】
(i)機能性γ34.5遺伝子産物及び、(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現することができない単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュ−レーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する単純ヘルペスウイルス。
【請求項20】
同義遺伝子変異体G207であり、そのゲノムが、発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている請求項19記載のウイルス。
【請求項21】
ゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を取り込むよう改変されている単純ヘルペスウイルスICP4変異体tsK。
【請求項22】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起するための組成物であって、
(A)(i)機能性γ34.5遺伝子産物及び(ii)リボヌクレオチド還元酵素の双方を発現することができない単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターとを含む組成物。
【請求項23】
ウイルス(A)が同義遺伝子変異体G207である、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起するための組成物であって、
(A)複製欠損性であり、その免疫学的特徴が、腫瘍細胞の種類に特異的な、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導することから本質的に成る、単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターとを含む組成物。
【請求項25】
ウイルス(A)がICP4変異体tsKである請求項24記載の組成物。
【請求項26】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起するための組成物であって、
(A)条件付き複製反応能を有する単純ヘルペスウイルスと、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する欠損単純ヘルペスウイルスベクターとを含む組成物。
【請求項27】
ウイルス(A)が変異体G92Aである請求項26記載の組成物。
【請求項28】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらず、その免疫学的特徴が、腫瘍細胞の種類に特異的な、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応から本質的に成る、第一の単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(B)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には感染しない第二の単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を、患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項29】
第二の単純ヘルペスウイルスのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する請求項28記載の方法。
【請求項30】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらず、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する第一の単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(B)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらず、そのゲノムが、少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有する第二の単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を、患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項31】
所与の細胞タイプの複数の転移腫瘍を呈する、またはその発症の危険性のある患者において全身性抗腫瘍免疫反応を誘起する方法であって、
(A)腫瘍細胞には感染するが正常細胞には広がらない単純ヘルペスウイルス(HSV)と、
(B)少なくとも一つの免疫モジュレーターをコードする少なくとも一つの発現可能なヌクレオチド配列を有するウイルスベクターと、
(C)腫瘍細胞の種類に特異的で、接種腫瘍細胞及び非接種腫瘍細胞を死滅させる免疫反応を誘導する、ウイルス及びウイルスベクター用の薬学的に許容される媒体とから本質的に成る薬学的組成物を、患者の腫瘍に接種する段階を含む方法。
【請求項32】
ウイルスベクタ−が、アデノウイルスベクター、アデノウイルス関連ベクター、レトロウイルスベクター、およびワクシニアウイルスベクターから成る群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
免疫モジュレーターがサイトカイン、ケモカイン、及び共刺激分子から成る群より選択される、請求項31記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−67114(P2012−67114A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242601(P2011−242601)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2000−506984(P2000−506984)の分割
【原出願日】平成10年8月12日(1998.8.12)
【出願人】(500091955)ジョージタウン ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2000−506984(P2000−506984)の分割
【原出願日】平成10年8月12日(1998.8.12)
【出願人】(500091955)ジョージタウン ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】
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