説明

腰掛式便器

【課題】大腿部が便座と接する領域の安定性を増して座り心地を向上させる腰掛式便器を提供することを目的とする。
【解決手段】便座5は卵型の開口部2の周囲に凸状の土手4が取り囲んで形成され、凸状の土手4は、使用者の臀部と大腿部を安定して快適に保持できるように複数の曲面で形成されている。いま、曲線22、23、24は凸状の土手4の稜線である。大腿部が着座する領域5bにおいては、卵形状の開口部2の中心点20から、前部方向に略α=略40度の線を描き、この線上における曲線22、23、24と交わる交点を点26、27、28とすると、点26、27間の距離K3は点27、28間の距離K4よりも短い。このように、大腿部が着座する領域5bにおける前記凸状の土手4は、前記便座5の内側の斜面(K3の近傍)よりも外側の斜面(K4の近傍)がなだらかに形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰掛式便器(洋式便器)に関し、使用者が快適に着座して用便することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腰掛式便器(洋式便器)の機能性に関して、便器本体においては用便後の便をいかに清潔に効率良く流すかということに主眼が置かれていた。
また、便座においては、快適に臀部が着座しやすいように凸状(山型の断面)の土手の形状にするとともに、特に冬場に使用者が着座したとき臀部に感じる冷たさを解消するために便座にヒーター等が装着されることが知られている。
【0003】
ここで、従来、市場に出回っている便器本体51の形状は、図5(a)に示すように、日本工業規格(JIS―A5207−1995)において定められている形状をベースに設計されており、JISにおける各寸法は、長さP=470mm、幅Q=355mm、大腿部の領域の半径R=343mm、前端部50の半径S=120mmである。
【0004】
そして、便器本体51は卵型の形状で、臀部が着座する領域51aと大腿部が着座する領域51bの中間点Q1が便器本体の中心として最大の幅Qになるように形成され、大腿部が着座する領域51bにおける幅Qは前端部50に亘って先細りの形状である。そして、臀部が着座する領域51aの便器幅は特に定められていない。このように、日本工業規格の規格によれば、特に便器本体51の前部を重点に規定している。
【0005】
図5(b)に示すように、近年の便器本体51の形状は、便器本体51の前部を日本工業規格の規格に基づく形状とし、後部は用便後に紙を使用しなくても洗浄できるウオッシュレット等の高機能性を装備する為のスペース確保、或いはデザイン的な見地から、中間点Q1から後部にかけて幅Qをそのまま平行に伸ばす形状が多い。
【0006】
そして、便座52の外形は、図5(c)に示すように、便器本体51の外形と略同様に形成され、臀部が着座する領域52aと大腿部が着座する領域52bの中間点T1から臀部の領域52a及び便座取付穴中心までは便座の幅Tは平行(端部T2、端部T3)に延長される。そして、大腿部の領域52bでは中間点T1から前端部54近傍に亘って先細りの形状である。
【0007】
ところが、この先細りの形状では、大腿部が便座と接する着座面積が充分に確保することができないので、安定感が得られず、座り心地(ホールド感)が快適でなく、また大腿部に局部的な荷重が集中して長時間座ると足がしびれるという問題があった。
【0008】
この問題を解決する手段として、大腿部が便座と接する領域の面積を広くすることが考えられる。
【0009】
図6(特許文献1)に示すように、本願とは課題が異なるが、便座60の幅を全域平行にする構成が図に開示されており、この構成であれば大腿部の着座面積を広くすることができる。
【特許文献1】特開平9−13474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1の便座では、大腿部の着座面積を広くすることができるが、便座の構造が平板状であるため、大腿部が便座と接する領域が不安定であり座り心地が悪いという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、便座の幅を広くして、大腿部が着座する着座面積を広くするとともに、便座を大腿部の外形形状に対応した形状にして、大腿部が便座と接する領域の荷重を分散して安定性を増すとともに座り心地を向上させることができる腰掛式便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、中央部の卵形の開口を取り囲む凸状(断面)の土手からなる便座と便器本体とからなる腰掛式便器であって、前記便座の平面視の外形形状は、臀部が着座する領域としての前記便座の後部が前記便座の後端部から前記便座の略中央部にかけて連続的に幅広に拡張し、大腿部が着座する領域としての前記便座の前部が略半円形に形成され、大腿部が着座する領域における前記凸状の土手が、大腿部の外形形状に略対応するように、前記凸状の土手の高さが連続的に曲面形状に抉られて形成されることを特徴とする。
【0013】
この腰掛式便器では、便座の後部が便座の後端部から便座の略中央部にかけて連続的に幅広に拡張するので、大腿部が着座する領域の便座の面積を広くすることができる。また、大腿部の外形形状に対応するように、前記凸状の土手の高さが連続的に曲面状に抉られて形成されるので、大腿部の外形形状に対応した便座形状にできる。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の腰掛式便器であって、前記便座の、大腿部が着座する領域における前記凸状の土手は、前記便座の内側の斜面よりも外側の斜面がなだらかに形成され、この外側の斜面は、大腿部が前記便座から離れる位置において、斜面の高さが最低高さとなるように形成されることを特徴とする。
【0015】
この腰掛式便器では、便座が大腿部の外形形状に対応した形状にできる。また、自然に大腿部が下方に延びる方向に斜面を形成することができる。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の腰掛式便器であって、前記便座の裏側の外周端部近傍に設けた複数の便座脚を保持するように、前記便器本体の形状を平面視で前記便座の外形と略同形状に形成することを特徴とする。
【0017】
この腰掛式便器では、便器本体の前部の幅が広く略円形形状に形成される。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、便座の大腿部が着座する面積を広くすることができる。また、便座が大腿部の外形形状に対応した形状にできる。このため、大腿部が便座と接する領域の荷重が分散できて、安定性を増すとともに、座り心地を向上させることができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、便座が大腿部の外形形状に対応した形状になり、着座面積を広くすることができる。また、大腿部が下方に延びる方向に斜面を形成することができる。このため、大腿部が便座と接する領域の安定性を増すとともに、荷重を分散して座り心地を向上させることができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、便器本体の前部が略円形形状に形成されて前部の幅が広くなる。このため、便器本体の洗浄水による旋回洗浄における洗浄効果が向上する。小便をするときに、幅が広くなるので小便が飛散することがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
【0022】
<腰掛式便器の構成>
図1、2に示すように、本発明の実施形態における腰掛式便器1は、中央領域2に設けられる略楕円形状の開口部2を取り囲む凸状(断面)の土手4からなる便座5と便器本体6とから構成される。
【0023】
前記便座5の平面視の外形形状は、臀部が着座する領域を含む前記便座5の後部7の後端部8から前記便座5の中央部9にかけて前記便座5の全幅10が連続的に拡張し、大腿部が着座する領域5bを含む前記便座5の前部11が前記便座5の中央部9の全幅10を直径とする略半円形に形成される。
【0024】
そして、大腿部が着座する領域5bにおける前記凸状の土手4は、大腿部の外形形状に対応するように、前記土手4(高さH)が連続的に曲面形状Mに抉られて形成される。
【0025】
便座5はヒンジ部30によって腰掛式便器1の後端部8に開閉自在に固着される。さらに、便器蓋31も同様に便座5を覆うようにヒンジ部32によって閉蓋できるようになっている。
【0026】
ここで後端部の幅Eは使用者の臀部の大きさに対応するので、図5(c)で説明した従来の腰掛式便器の便座の幅Tと略同じ幅である。さらに、中央領域2の略楕円形状の開口部2は臀部が便座に安定して保持されるとともに大便が安定して通過できる大きさが求められるので、この開口部2の形状や寸法は従来の形状と略同等である。
【0027】
このことから、本発明の実施形態における便座5は、後端部8から便座5の中央部9にかけて便座5の全幅10が連続的に拡張するので、従来の便座に比べて、便座5の前部11の両端が迫り出した形状であるため、大腿部が着座する領域5bの面積を広くすることができる。
【0028】
便座の前部の外周部分は略半円形に形成されるが、この形状に合わせて、便座の裏側の外周端部近傍に設けた複数の便座脚34を保持できるように、便器本体の形状も前記便座の外形形状と略同じ形状に形成される。
【0029】
図3(a)、(b)に示すように、便座5の平面形状は、例えば、後端部8の幅E=略355mm、全幅F=略390mm、全長(便座取付穴中心を基準として)G=略440mm,略楕円形状(卵型)の開口部2の横幅E1=略205mm,全長G1=略315mmである。
【0030】
便座5は略楕円形状(卵型)の開口部2の周囲に凸状の土手4が取り囲んで形成され、凸状の土手4は、使用者の大腿部を安定して快適に保持できるように曲面Mに形成されている。
【0031】
いま、便座5の表面の曲面を、開口部2を取り囲む5本の曲線21、22、23、24、25を用いて説明する。曲線21は便座5の内輪郭線、曲線25は便座5の外輪郭線である。曲線22、23、24は凸状の土手4の稜線(稜線であって、等高線ではない)である。
【0032】
ここで、臀部が着座する領域5aにおいては、曲線23が便座5の幅方向に広がっているので、曲線21、23間の長さが、幅方向の距離K1は長さ方向の長さK2よりも長い。このため、臀部の形状に対応して幅方向になだらかな曲面傾斜を形成している。
【0033】
大腿部が着座する領域5bにおいては、卵型の開口部2の中心点20(ここでは、横幅E1が最大幅である近傍位置を中心とする)から、前部方向に略α=略40度の直線を描き、この直線上における曲線22、23、24と交わる交点を点26、27、28とすると、点26、27間の距離K3は点27、28間の距離K4よりも短い。
【0034】
このため、大腿部が着座する領域5bにおける前記凸状の土手4は、前記便座5の内側の斜面(K3の近傍)よりも外側の斜面(K4の近傍)がなだらかに形成される。
【0035】
そして、大腿部が便座5に着座する位置である点27の近傍領域が、凸状の土手4の稜線としての曲線23の高さが一番低く形成される。そして、大腿部が便座5から離れる位置としての曲線24の点28において、斜面の高さHが最低高さとなるように形成される。
【0036】
ここで、曲線21、22間と曲線23、24間は、それぞれ便座5の内側と外側の凸状の土手4としての立ち上がりの面取り用であり、実質的に使用者の臀部や大腿部が着座することはない。
【0037】
<腰掛式便器の作用>
上記の様に、便座の平面視の形状は、後端部から中央部にかけて全幅が連続的に拡張し、前部が前記便座の中央部の全幅を直径とする略半円形に形成される。さらに、大腿部が着座する領域における凸状の土手は、大腿部の外形形状に対応して曲面に形成される。
【0038】
その曲面の形状は、大腿部の略中心として便座5に着座する位置である点27の近傍領域が、凸状の土手4の稜線としての曲線23の高さが一番低く形成される。そして、凸状の土手は内側の斜面よりも外側の斜面がなだらかに形成され、大腿部が便座5から離れる位置としての点28において、斜面の高さHが最低高さとなるように形成される。
【0039】
そのため、図4に示すように、便座に座ったときに、自然状態の大腿部が着座する面積が増える(増加領域16)とともに、大腿部の外形形状に対応して曲面に形成されるので、便座に着座したときの疲労感を軽減できる。
【0040】
実験によれば、一番疲労感を感じると考えられる大腿部の中心領域15における面圧は、従来品に比べて略25%減少することができた。
【0041】
尚、従来、大腿部が着座する領域が狭かったので、暖房効果があまり得られなかったが、本願発明によれば、大腿部が着座する便座の前部の外周部分の増加領域16(従来の便座に比べて増える領域)に暖房用ヒーターを増設することができるので、大腿部の着座する領域を広範囲に暖房できて効率の良い暖房効果が得られる。
【0042】
また、図2で説明したように、大腿部が着座する領域が増える便座の前部の外周部分は、略半円形に形成される。この形状に合わせて、便座の裏側の外周端部近傍に設けた複数の便座脚34を保持するように便器本体の形状を前記便座の外形形状と略同じ形状に形成すると、便器本体6の前部11は平面視で略円形形状になる。
【0043】
そのため、便器の洗浄水が旋回しやすくなり便器のボール面の洗浄効果が向上する。また、便器本体の前部の間口が広くなるので小便時に飛び散ることがないので衛生的である。
【0044】
以上、本発明の実施形態を図面に基づいて説明したが、上記の実施例はいずれも本発明の一例を示したものであり、本発明はこれらに限定されるべきでないということはいうまでもない。
【0045】
たとえば、便座の形状は、略楕円形状の開口部を取り囲む凸状(山型の断面)の土手で形成されるが、必ずしも全周が連続したドーナツ状の便座でなくてもよく、U字型の便座であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態における腰掛式便器の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における腰掛式便器の側面図である。
【図3】本発明の実施形態における腰掛式便器の、(a)は便座の平面図、(b)は図3(a)におけるA−A断面図である。
【図4】本発明の実施形態における腰掛式便器の、便座に着座する大腿部と臀部の平面図である。
【図5】従来の便器の、(a)は日本工業規格による平面(寸法)図、(b)は一般的な便器の平面図、(c)は図5(b)に示す便器用の便座の平面図である。
【図6】従来の腰掛式便器を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 腰掛式便器
2 開口部
4 土手
5 便座
5b 領域
6 便器本体
8 中央部
20 中心点
22 曲線、
23 曲線
24 曲線
26 点
27 点
28 点
D 高さ
E 幅
E1 横幅
M 曲面形状
K3 距離
K4 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略楕円形状の開口部を取り囲む凸状(山型の断面)の土手からなる便座と便器本体とからなる腰掛式便器であって、
前記便座の平面視の形状は、臀部が着座する領域を含む前記便座の後部の後端部から前記便座の中央部にかけて前記便座の全幅が連続的に拡張し、大腿部が着座する領域を含む前記便座の前部が前記便座の中央部の全幅を直径とする略半円形に形成され、
大腿部が着座する領域における前記凸状の土手が、大腿部の外形形状に対応するように、前記凸状の土手の高さが連続的に曲面形状に抉られて形成されることを特徴とする腰掛式便器。
【請求項2】
請求項1に記載の腰掛式便器であって、
前記便座の、大腿部が着座する領域における前記凸状の土手は、前記便座の内側の斜面よりも外側の斜面がなだらかに形成され、この外側の斜面は、大腿部が前記便座から離れる位置において、前記斜面の高さが最低高さとなるように形成されることを特徴とする腰掛式便器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の腰掛式便器であって、前記便座の裏側の外周端部近傍に設けた複数の便座脚を保持するように、平面視で前記便器本体の形状を前記便座の外形と略同形状に形成することを特徴とする腰掛式便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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