説明

腰痛改善作業用装具

【課題】 装着者に応じて、腰部を伸ばす力を調整することができる腰痛改善作業用装具を提供することを目的とする。
【解決手段】 腰ベルトと胸ベルトと伸縮部材30を備えた腰痛改善作業用装具においてその伸長により腰椎の間隔を広げる方向に力を加える伸縮部材30は、筒体31と、軸方向に相対移動可能な状態で筒体31の内側に挿入される棒状体32と、棒状体32の挿入される側の端部付近に固定されている第1の滑車33と、弾性体34とを備えており、
弾性体34は、張力が加えられている状態において、その両端の係合部35が筒体31の弾性体端固定部36に固定されると共に、第1の滑車33に架けられ、その弾性力により伸縮部材30が伸長する方向に力を加えるものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰や背筋の痛みを緩和することを目的としたコルセット形状の腰痛改善作業用装具に関する。
【背景技術】
【0002】
背骨の中には知覚に関する神経があり、この神経が腰痛の原因となる。腰痛の原因となる病気としては、椎間板ヘルニアが挙げられる。ここで、椎間板ヘルニアとは、椎骨の間に挟まれた組織であってクッションの役割を果たす椎間板から、無理な姿勢等によるストレスを原因として、その内部のゲル状の組織である髄核が飛び出すことにより神経を圧迫する病気である。この椎間板ヘルニアは腰痛の原因となる病気の典型的なものだが、腰痛の原因はこれだけではなく、加齢、一時的な疲れ、物を持ち上げるとき等に腰に過大な負荷が加えられること等、種々のものがある。これら様々な原因により生じる腰痛の治療、緩和を目的として、種々の技術が提案されている。
例えば、各腰髄の間を緩めて腰痛を改善させることを目的とする装置として、患者が自分の操作により左右の脇の下を支点として腰部に装着されたベルトを押し下げる腰髄伸長器(特許文献1)、上体けい引具(特許文献2)、身体装着型腰椎負荷分散装具(特許文献3)等が提案されている。
また、腰痛の牽引治療を目的として、伸び縮みする支柱によって腰部と胸部とを牽引する腰痛牽引治療器(特許文献4)、患者の背部の痛みを軽減し損傷を治癒するために脊椎を伸長させることを目的として、患者の脇下部及び腰の付近に位置する二つの対峙するベルトが弾性のある手段によって互いに保持し合う構成のストレッチコルセット(特許文献5)、垂直方向に作用する力を脊椎に作用させることを目的として、上部水平支持部材と下部水平支持部材と複数の垂直支持部材により結合されている歩行者用脊椎牽引装置(特許文献6)、装着した状態でも普段通りの生活を可能とすることを目的として、脇の下側位置に固定した上部取着部材と、腰の近傍位置の胴部に固定した状態で装着される下部取着部材と、両者を所定の位置に装着するときに付勢力により椎骨を強制的に伸ばす変形性を有している付勢手段とを備えた構成の椎骨伸長装置(特許文献7)、脊椎が受ける圧迫を減少させて、使用者の痛みを和らげることを目的として、ベルトを上部と下部の2つに分けて両者の距離を調整可能な軸で連接する医療用ベルトの支承装置(特許文献8)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−163608号公報
【特許文献2】特開平9−554号公報
【特許文献3】特開2001−46413号公報
【特許文献4】特開平3−70555号公報
【特許文献5】特表平11−506351号公報
【特許文献6】特表2000−507836号公報
【特許文献7】特開2005―349177号公報
【特許文献8】実用新案登録第3149522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に記載の装置はいずれも、腰痛の改善、治療を目的として、腰部に装着されたベルトと両脇を支持する部材との間を伸長させるものである。このため、これら文献に記載の装置には、日常生活において着用して、歩行や椅子からの立ち上がり動作時の腰痛を緩和することができないという問題がある。
そこで、特許文献4〜8に記載の装置は、患者の腰回りに加え、胸回りなどを覆い、両者を弾性のある部材で繋ぐことにより、装着した状態のままで歩行等の動作を行うことを可能としている。しかし、これら文献に記載の装置は、腰部を伸ばすための弾性体の力を装着者の腰の状態に応じて調整することが困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、装着者に応じて、腰部を伸ばす力を調整することができる腰痛改善作業用装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の腰痛改善作業用装具は、腰回りを囲んで固定される腰ベルトと、胸回りを囲んで固定される胸ベルトと、所定値以上の力が加えられると縮む所定長さの範囲内において伸縮可能な伸縮部材とを備えており、前記伸縮部材が、一端において前記腰ベルトに接続されており、他端において前記胸ベルトに接続されており、その伸長により腰椎の間隔を広げる方向に力を加える腰痛改善作業用装具において、前記伸縮部材は、筒体と、軸方向に相対移動可能な状態で当該筒体の内側に挿入される棒状体と、前記棒状体の挿入される側の端部付近に固定されている第1の滑車と、弾性体と、を備えており、前記弾性体は、張力が加えられている状態において、その両端が前記筒体の弾性体端固定部に固定されると共に、前記第1の滑車に架けられ、その弾性力により前記伸縮部材が伸長する方向に力を加えるものであることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の腰痛改善作業用装具において、前記筒体には前記弾性体固定部が複数設けられており、前記弾性体の両端に係合部が設けられており、当該係合部と前記弾性体端固定部との係合により前記弾性体の両端を前記筒体に固定するものであることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の腰痛改善作業用装具において、前記係合部が半球凸状部を備えており、前記固定部が半球凹状部と、前記弾性体が通過可能であって前記半球凸状部が通過することができない幅の切欠き部とを備えており、前記係合部と前記弾性体端固定部とが係合している状態において、半球凹状部から突出するつまみ部が前記半球凸状部に設けられていることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の腰痛改善作業用装具において、前記伸縮部材が、装着時において、装着者の前右側、前左側、後右側及び後左側となる位置に設けられていることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の腰痛改善作業用装具において、前記腰ベルト及び前記胸ベルトが、装着時における装着者の前右側、前左側、後右側及び後左側となる位置であって装着者と接触する側に緩衝材を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項6記載の本発明は、請求項1に記載の腰痛改善作業用装具において、前記伸縮部材が、その両端において、軸方向に対して屈曲可能な屈曲可能部を備えており、当該屈曲可能部を介して、前記腰ベルト及び前記胸ベルトに固定されていることを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載の腰痛改善作業用装具において、前記腰ベルト及び前記胸ベルトが、前記屈曲可能部の固定用の横長孔を備えていることを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項6に記載の腰痛改善作業用装具において、前記屈曲可能部が、半球状凸部と半球状凹部とを備えており、前記半球状凸部の半球状凸面と前記半球状凹部の半球状凹面とが当接するように、半球状凸部孔と半球状凹部孔に挿通される保持用弾性体の張力によって保持されるものであることを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項8に記載の腰痛改善作業用装具において、前記半球状凸部孔及び前記半球状凹部孔の半球状凸面及び半球状凹面との境界に斜面が設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項10記載の本発明は、請求項1に記載の腰痛改善作業用装具において、前記弾性体に張力が加えられている状態においては、前記伸縮部材の端部が前記腰ベルト又は前記胸ベルトのうちの少なくとも一方に設けられている凹部に挿入されることにより、前記腰ベルト又は前記胸ベルトに固定され、前記弾性体に張力が加えられていない状態においては、その端部が前記腰ベルト又は前記胸ベルトのうちの少なくとも一方の前記凹部から抜き取ることが可能なものであることを特徴とする。
請求項11記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の腰痛改善作業用装具において、前記弾性体が、前記筒体に設けられている第2の滑車に架けられていることを特徴とする。
請求項12記載の本発明は、請求項1に記載の腰痛改善作業用装具において、前記胸ベルトの着用時に前方となる側に、切り抜き部が設けられていることを特徴とする。
請求項13記載の本発明は、請求項1に記載の腰痛改善作業用装具において、前記胸ベルト及び前記腰ベルトがいずれも、着用時に前後となる部分にベルト用弾性体により連結された部分を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、弾性体の種類や弾性体に加える張力を変化させることにより、伸縮部材によって腰ベルトと胸ベルトに加えられる力を容易に調整することができる。また、弾性体の長さを変化させることにより、筒体から突出する棒状体の長さを変化させて、腰ベルトと胸ベルトとの距離を容易に調整することができる。
したがって、本発明によれば、同一姿勢でなす作業時、歩行時、椅子から立ち上がる時等において腰や背筋の痛みを緩和すること、正しい姿勢へ矯正すること、装着者の体型に対応することといった種々の目的に応じて、腰椎の間隔を広げる方向に力を加える伸縮部材の力及び長さを調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1による腰痛改善作業用装具を前側斜め上から見た斜視図
【図2】図1の腰痛改善作業用装具を後ろ側斜め上から見た斜視図
【図3】図1の腰痛改善作業用装具を構成する伸縮部材を斜め上から見た斜視図
【図4】図3の伸縮部材の内部構造を示す説明図
【図5】屈曲可能部の断面図
【図6】半球状凸面と半球状凹面との当接部付近における半球状凸部孔と半球状凹部孔の構成を説明するための断面図
【図7】図3の伸縮部材の内部構造を示す斜視図
【図8】図3の伸縮部材の構成を説明する分解図
【図9】図1の腰痛改善作業用装具を構成するベルトを前側斜め上から見た斜視図
【図10】弾性体と係合部との構造を示す一部破断斜視図
【図11】本発明の実施例2による腰痛改善作業用装具を前側斜め上から見た斜視図
【図12】図11の弾性体と係合部の構造を示す一部破断斜視図
【図13】本発明の実施例3による腰痛改善作業用装具を前側斜め上から見た斜視図
【図14】図13の胸ベルトの本体左側の分解図
【図15】図13の腹ベルトの本体左側の分解図
【図16】図11の胸ベルトの本体左側の分解図
【図17】図11の腹ベルトの本体左側の分解図
【図18】図1の腰痛改善作業用装具を装着した状態の正面図
【図19】図1の腰痛改善作業用装具を装着した状態の背面図
【図20】図1の腰痛改善作業用装具を装着して体を横に傾けた状態の正面図
【図21】図1の腰痛改善作業用装具を装着した状態の側面図
【図22】図1の腰痛改善作業用装具を装着して体を前に傾けた状態の側面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態による腰痛改善作業用装具は、腰回りを囲んで固定される腰ベルトと、胸回りを囲んで固定される胸ベルトと、所定値以上の力が加えられると縮む所定長さの範囲内において伸縮可能な伸縮部材とを備えており、伸縮部材が、一端において腰ベルトに接続されており、他端において胸ベルトに接続されており、その伸長により腰椎の間隔を広げる方向に力を加える腰痛改善作業用装具において、伸縮部材は、筒体と、軸方向に相対移動可能な状態で当該筒体の内側に挿入される棒状体と、棒状体の挿入される側の端部付近に固定されている第1の滑車と、弾性体と、を備えており、弾性体は、張力が加えられている状態において、その両端が筒体の弾性体端固定部に固定されると共に、第1の滑車に架けられ、その弾性力により伸縮部材が伸長する方向に力を加えるものである。
本実施の形態によれば、腰痛改善作業用装具が装着された状態において、弾性体の張力によって筒体内部から棒状体が突出する方向に、腰椎の間隔を広げる力を加えることができる。そして、この力は、弾性体の弾性や弾性体に加える張力により容易に調整することができる。また、棒状体が突出する力、すなわち伸縮部材が伸長する方向に生じる力は、所定範囲内では伸縮部材の長さに反比例する。このため、腰痛改善作業用装具を装着した状態において、通常の作業を行う場合には抵抗とならず、腰に大きな負担がかかる無理な姿勢が生じる場合に選択的に大きな抵抗を生じさせることを簡単な構成により実現できる。また、弾性体に張力が加えられる位置を調整することにより、筒体から突出する棒状体の長さすなわち伸縮部材の長さをも併せて調整することができる。
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態による腰痛改善作業用装具において、筒体には弾性体固定部が複数設けられており、弾性体の両端に係合部が設けられており、当該係合部と弾性体端固定部との係合により弾性体の両端を固定するものである。
本実施の形態によれば、係合部を係合させる弾性体固定部を変化させることにより、(1)弾性体に張力が生じる位置を変化させて伸縮部材の長さを変化させること、(2)伸縮部材により加えられる力を変化させることを簡易な構成により容易に実現することができる。
本発明の第3の実施形態は、第2の実施形態による腰痛改善作業用装具において、係合部が半球凸状部を備えており、固定部が半球凹状部と、弾性体が通過可能であって半球凸状部が通過することができない幅の切欠き部とを備えており、係合部と弾性体端固定部とが係合している状態において、半球凹状部から突出するつまみ部が半球凸状部に設けられているものである。
本実施の形態によれば、つまみ部を引っ張って半球凸状部と半球凹状部との係合を解くことができる。これにより、係合部と係合させる弾性体固定部を容易に変えることができるから、伸縮部材の長さ及び力の調整が容易となる。
本発明の第4の実施形態は、第1から第3のいずれかの実施形態による腰痛改善作業用装具において、伸縮部材が、装着時において、装着者の前右側、前左側、後右側及び後左側となる位置に設けられているものである。
本実施の形態によれば、4箇所に設けられた伸縮部材の長さ及び伸長する力を目的に応じて変化させることができる。例えば、本発明の腰痛改善作業用装具を正しい姿勢維持やギックリ腰の予防目的で用いる場合、全ての伸縮部材の伸張する力を均一にすることにより、腰椎の間隔を広げる方向にバランスよく力を加えることとすれば良い。また、装着者が椎間板ヘルニアである場合や加齢に伴って腰が曲がりかけている場合には、伸縮部材が設けられている位置に応じて伸長する力を変化させることにより、腰椎の前後左右に加えられる力を異ならせることができる。これにより、左右どちらか痛い方を持ち上げて、反対側を下げることにより椎間板ヘルニアによる痛みを緩和したり、個々人の腰の曲り具合に対応させたりすることが容易となる。
なお、第2の実施形態のように、伸縮部材の筒体が複数の弾性体固定部を備えている構成とすれば、伸縮部材が設けられている位置に応じて係合部を係合させる位置を異ならせることにより、各伸張部材が伸張する力を容易に変化させることができる。
本発明の第5の実施形態は、第4の実施形態による腰痛改善作業用装具において、腰ベルト及び胸ベルトが、装着時における装着者の前右側、前左側、後右側及び後左側となる位置であって装着者と接触する側に緩衝材を備えているものである。
本実施の形態によれば、伸縮部材が設けられている位置に対応した、最も力の加わりやすい領域に緩衝材が設けられているから、緩衝材により腰ベルト及び胸ベルトに加えられる圧力を吸収して、腰痛吸収作業用装具の装着性を向上させることができる。
【0012】
本発明の第6の実施形態は、第1の実施形態による腰痛改善作業用装具において、伸縮部材が、その両端において、軸方向に対して屈曲可能な屈曲可能部を備えており、当該屈曲可能部を介して、腰ベルト及び胸ベルトに固定されているものである。
本実施の形態によれば、屈曲可能部を介して腰ベルト及び胸ベルトに伸縮部材を固定することにより、身体の動きに起因するねじれを屈曲可能部により吸収することができる。したがって、腰痛改善作業用装具の性能及び快適性を向上させることが可能となる。
本発明の第7の実施形態は、第6の実施形態による腰痛改善作業用装具において、腰ベルト及び胸ベルトが、屈曲可能部の固定用の横長孔を備えているものである。
本実施の形態によれば、横長孔の横方向すなわち腰ベルト及び胸ベルトの周方向における屈曲可能部を固定する位置を変化させることにより、屈曲可能部の位置を被装着者に対応させることが可能となる。
本発明の第8の実施形態は、第6の実施形態による腰痛改善作業用装具において、屈曲可能部が、半球状凸部と半球状凹部とを備えており、半球状凸部の半球状凸面と半球状凹部の半球状凹面とが当接するように、半球状凸部孔と半球状凹部孔に挿通される保持用弾性体の張力によって保持されるものである。
本実施形態の腰痛改善作業用装具は、装着されている状態においては、伸縮部材により、半球状凸部と半球状凹部が近づく方向の力が加えられている。ここで、着用者の身体の動きに起因して、半球状凸部と半球状凹部とが離れる方向に加えられる力は小さい。したがって、両者の位置関係を保持用弾性体の張力によって保持することができる。これに対して、着用者の身体の動きに起因して、屈曲可能部が屈曲する方向に加えられる力は大きい。本実施形態の屈曲可能部によれば、従来の一方が他方を覆う構造の屈曲部よりも半球状凸部側と半球状凹部側の何れも太く構成することができる。したがって、屈曲可能部を十分な強度を備えたものとすることが容易となる。
本発明の第9の実施形態は、第8の実施形態の腰痛改善作業用装具において、半球状凸部孔及び半球状凹部孔の半球状凸面及び半球状凹面との境界に斜面が設けられているものである。
本実施の形態によれば、斜面を設けることにより、半球状凸面及び半球状凹面との境界に形成された角との接触による弾性体の損傷を抑制することができる。
【0013】
本発明の第10の実施形態は、第1の実施形態による腰痛改善作業用装具において、弾性体に張力が加えられている状態においては、伸縮部材の端部が腰ベルト又は胸ベルトのうちの少なくとも一方に設けられている凹部に挿入されることにより、腰ベルト又は胸ベルトに固定され、弾性体に張力が加えられていない状態においては、その端部が腰ベルト又は胸ベルトのうちの少なくとも一方の凹部から抜き取ることが可能なものである。
本実施の形態によれば、一方を上記のように弾性体に張力が加えられていない状態において抜き取り可能な構造とすることで、腰痛改善作業用装具の着脱作業を容易に行うことができる。なお、腰痛改善作業用装具が装着されている状態においては、その端部が凹部に挿入される方向の力が加えられているから、凹部から伸長部が不意に外れることはない。
本発明の第11の実施形態は、第1又は第2の実施形態による腰痛改善作業用装具において、弾性体が、筒体に設けられている第2の滑車に架けられているものである。
本実施の形態のように第2の滑車を設ける構成によれば、伸縮部材内部における、弾性体の経路を長くすることができるから、伸長する力及び伸縮部材の長さの調整範囲を大きくすることが可能となる。
また、第2の実施形態のように弾性体固定部が複数設けられている構成を採用する場合、弾性体を固定する弾性体固定部の位置の自由度も大きくなり、作業性が向上する。
本発明の第12の実施形態は、第1の実施形態による腰痛改善作業用装具において、前記胸ベルトの着用時に前方となる側に、切り抜き部が設けられているものである。
本実施の形態では切り抜き部が設けられていることにより、女性が着用した際に胸ベルトによる胸の圧迫を軽減することができる。
本発明の第13の実施形態は、第1の実施形態による腰痛改善作業用装具において、胸ベルト及び腰ベルトがいずれも、着用時に前後となる部分にベルト用弾性体により連結された部分を備えているものである。
本実施の形態によれば、胸ベルト及び腰ベルトをベルト用弾性体で連結することにより、呼吸に伴うサイズ変化を吸収できるから、装着時の快適性を向上させることができる。
【実施例】
【0014】
〔実施例1〕
以下、本発明の一実施例による腰痛改善作業用装具について説明する。
図1は、本発明の実施例1による腰痛改善作業用装具100を前側斜め上から見た斜視図であり、図2は、腰痛改善作業用装具を後ろ側斜め上から見た斜視図である。これらの図に示すように、本実施例の腰痛改善作業用装具100は、腰ベルト10、胸ベルト20、4つの伸縮部材30とを備えている。
腰ベルト10は、被装着者に装着された状態において、被装着者の腰回りを囲んで固定されるものである。腰ベルト10は、装着された状態において、被装着者の前側と後側のそれぞれにおいて、2つの本体部11が弾性体12aと弾性体12bにより接合されている。
胸ベルト20も、腰ベルト10と同様の構成であって、装着された状態において、被装着者の腰回りを囲んで固定されるものである。腰ベルト20は、2つの本体部21が、装着された状態では被装着者の前側と後側のそれぞれにおいて、弾性体22aと弾性体22bにより接合されている。
伸縮部材30は、被装着者に装着された状態において、装着腰ベルト10と胸ベルト20との間を伸長することにより腰椎の間隔を広げる方向に力を加えるものである。本実施例においては、装着された状態における装着者の前側左右及び後ろ側左右の合計4箇所において、伸縮部材30の両端が腰ベルト10と胸ベルト20に取付けられている。
腹ベルト10の本体部11及び胸ベルト20の本体部21には、装着時における装着者の前右側、前左側、後右側及び後左側となる位置であって装着者と接触する側、すなわち凹部25が設けられている領域の反対側の面に緩衝材26を備えている。このように、腰痛吸収作業用装具100には、伸縮部材30に対応して4つの緩衝材26が、装着時において装着者と接する側の面に設けられている。したがって、腰痛吸収作業用装具100の装着感を向上させるとともに、経時的にズレが発生することを防止することができる。また、緩衝材26の装着者側の面を体の凹凸に合わせた形状とすることにより、腰痛吸収作業用装具100のフィット感を向上させることができる。緩衝材26の形状は、例えば、使用部位に応じた形状として成型することや、個々の使用者の体型に合せてカットすること等により調整すればよい。緩衝材26としては、緩衝材として一般的に用いられているスポンジなどを用いることができるが、好ましい素材としてネオプレン(慣用名)が挙げられる。ネオプレンを用いた緩衝材26は耐久性が非常に良好であり、通常使用において加えられる力により千切れるといった問題が生じない。
【0015】
伸縮部材30の上端が、弾性体34に張力が加えられている状態においては、胸ベルト20に設けられている凹部25に挿入されることにより胸ベルト20に固定され、弾性体34に張力が加えられていない状態においては、伸縮部材30を凹部25から抜き取ることが可能な構成となっている。この構成によれば、装着されている際は、伸縮部材30により腰ベルト10と胸ベルト20との間を広げる方向の力が加えられているから、凹部25において伸縮部材30が胸ベルト20に対して固定される。これとともに、腰痛改善作業用装具100を取り外す際には、容易に胸ベルト20と伸縮部材30とを分割することが可能となる。したがって、脱着時の作業性を向上させることができる。なお、伸縮部材30が胸ベルト20との接合部において凹部25に挿入されることにより固定される構成としたが、同様の構成により伸縮部材30に腰ベルト10を固定することとしても良い。
また、伸縮部材30が腰ベルト10と胸ベルト20の両方とも凹部25において固定される構成としても良い。しかし、伸縮部材30の一方を上述した手段により固定すれば、腰ベルト10と胸ベルト20とを分解することができる。したがって、上記固定のための構成は一方のみに採用すれば良い。また、作業性の観点から、胸ベルト20側に上記固定のための構成を採用することが好ましい。
【0016】
図3は、図1の腰痛改善作業用装具を構成する伸縮部材を斜め上から見た斜視図であり、同図の(a)(b)(c)は、伸縮部材30の長さを変化させた状態を示している。図4は、図3の伸縮部材の内部構造を説明するために、手前側を取り去った状態を示す説明図である。
これらの図に示すように、伸縮部材30は、筒体31と、軸方向に相対移動可能な状態で筒体31の内側に挿入される棒状体32と、棒状体32の挿入される側の端部付近に固定されている第1の滑車33と、弾性体34とを備えており、弾性体34は、張力が加えられている状態において、その両端の係合部35が筒体31に複数設けられている弾性体端固定部36a・36b・36cのいずれかに固定されると共に、第1の滑車33に架けられ、その弾性力により伸縮部材が伸長する方向(図4では左右の方向)に力を加えるものである。
また、筒体31には、棒状体32が引出されることにより、第1の滑車33との距離が近くなる側に、第1の滑車33に架かる側の弾性体34が、第2の滑車38の内側に位置するように2つの第2の滑車38が設けられている。そして、弾性体34は、筒体31に設けられている第2の滑車38に架けられている状態で、その両端の係合部35が筒体31の弾性体端固定部36a・36b・36cのいずれかに固定される。なお、以下では、弾性体端固定部36a・36b・36cを区別しない場合、弾性体端固定部36と記す。
また、伸縮部材30は、その両端に屈曲可能部40を備えており、屈曲可能部40を介して、腰ベルト10及び胸ベルト20に固定されている(図1参照)。
【0017】
図3(a)及び図4(a)は、係合部35を弾性体端固定部36aと係合させた状態を示している。本実施例においては、弾性体34の長さを棒状体32の略2倍としているから、これらの図に示すように、弾性体34両端の係合部35を弾性体端固定部36aと係合させることにより、棒状体32の先端付近に設けられている第1の滑車33が筒体31の奥まで挿入された状態において、弾性体34に張力が加えられることとなる。これにより、伸縮部材30の長さを短くすることができる。
図3(b)及び図4(b)は、係合部35を弾性体端固定部36bと係合させた状態を示している。これらの図に示すように、弾性体34両端の係合部35を弾性体端固定部36bと係合させることにより、棒状体32の先端付近に設けられている第1の滑車33が筒体31の中程まで挿入された状態において、弾性体34に張力が加えられることとなる。これにより、伸縮部材30の長さを、図3(a)及び図4(a)に示したものよりも長くすることができる。
図3(c)及び図4(c)は、係合部35を弾性体端固定部36cと係合させた状態を示している。これらの図に示すように、弾性体34両端の係合部35を弾性体端固定部36cと係合させることにより、棒状体32の先端付近に設けられている第1の滑車33が、筒体31の第2の滑車38付近に位置する状態において、弾性体34に張力が加えられることとなる。これにより、伸縮部材30の長さを図3(b)及び図4(b)に示したものよりもさらに長くすることができる。
上述したように、係合部35を係合させる弾性体端固定部36を変化させることにより、伸縮部材30の長さを変化させることができると共に、所定長さ(例えば、図3(a)に示したように、筒体31内部に棒状体32の全体が略挿入された状態)における、伸縮部材30が伸長する力をも変化させることができる。図3、図4では、(c)(b)(a)の順に伸縮部材30が伸長する力が大きくなる。
図3、図4では、弾性体34両端の係合部35を弾性体端固定部36a・36b・36cのうちの同じ部位の弾性体端固定部36と係合させる構成を示したが、弾性体端固定部35を異なる部位の弾性体端固定部36と係合させることもできる。これにより、伸縮部材30の長さの調整できる段階をさらに多くすることが可能となる。また、弾性体端固定部36の数は上述した3組に限られるものではなく、必要に応じた数とすれば良い。
弾性体34としては、例えば弾性のある高分子よりなる紐状体(高分子紐)を用いることとができる。高分子紐を用いることにより、用途や症状の変化に応じて取り替えることにより、伸縮部材30の伸長による腰椎の間隔を広げる方向に加える力を容易に変化させることができる。なお、後述する保持用弾性体及びベルト用弾性体と共通の高分子紐を用いることとしてもよい。
【0018】
図5は屈曲可能部40の断面図である。屈曲可能部40は、伸縮部材30の両端に設けられており、伸縮部材30の長手方向(軸方向)に対して屈曲可能なものである。伸縮部材30が屈曲可能部40を介して、腰ベルト10及び胸ベルト20に固定されることにより、被着用者の動きに起因する、腰ベルト10及び胸ベルト20と伸縮部材30との間の歪みなどの力を吸収して、装着性を向上させることができる。
屈曲可能部40は、半球状凸部41と半球状凹部42とを備えており、半球状凸部41の半球状凸面41Sと半球状凹部42の半球状凹面42Sとが当接するように、半球状凸部41の半球状凸部孔41Hと半球状凹部42の半球状凹部孔42Hに保持用弾性体43が挿通されており、その張力によって保持されている。この構成により、半球状凸部41と半球状凹部42との間で関節様の動きをして、半球状凸面41Sと半球状凹面42Sとが当接した状態で摺動することにより、屈曲可能部40が伸縮部材30の長手方向(軸方向)に対して屈曲可能となっている。
図6は、半球状凸面41Sと半球状凹面42Sとの当接面付近における、半球状凸部孔41Hと半球状凹部孔42Hの構成を説明するための断面図である。同図に示すように、半球状凸部孔41H及び半球状凹部孔42Hは何れも、半球状凸面41S及び半球状凹面42Sとの境界において、斜面41HS及び斜面42HSが設けられている。このように斜面を設けることにより、屈曲可能部40が屈曲する際に保持用弾性体43が、半球状凸面41S及び半球状凹面42Sとの境界の角で擦れて破損することを抑制することができる。なお、斜面は平面である必要はなく、擦れによる保持用弾性体43の破損を抑制するという目的を達成するためには、むしろなだらかな曲面として構成する方が好ましい。
【0019】
図7は、図3の伸縮部材の内部構造を示す斜視図である。また、図8は、図3の伸縮部材の構成を説明する分解図である。これらの同図に示すように、伸縮部材30の内部は、弾性体34がその中心部付近において、棒状体32の先端付近に設けられている第1の滑車33に架かっており、両側で第2の滑車38に架かった後に筒体31の外部に出て、その両端に係合部35が設けられている。本実施例においては、係合部35に弾性体34が通過可能な径の孔が貫通するように形成されており、弾性体34が当該孔を貫通した状態で、弾性体34の端部に当該孔の径よりも大きなキャップをかぶせることにより、係合部35を弾性体34の両端に固定している。
本実施例においては、係合部35は半球凸状部35Sを備えており、弾性体端固定部36が半球凸状部35Sと、弾性体34が通過可能であり半球凸状部35Sが通過することができない幅の切欠き部36a1とを備えており、係合部35と弾性体端固定部36aと係合している状態において、弾性体端固定部36aの半球凹状部36a2から突出するつまみ部39が前記半球状凸部に連なって設けられている。この構成により、係合部35が弾性体端固定部36aと係合した状態においては、半球凹状部36a2と半球凸状部35Sとの曲面が当接することとなるから、係合部35が滑らかに動く。また、係合部35には、係合部35が弾性体端固定部36と係合している状態における操作性を考慮して、つまみ部39が設けられている。この構成により、弾性体端固定部36と係合部35との係合、および係合の解除をスムーズに行い、伸縮部材30の長さの調整の作業性を向上させることができる。
なお、この切欠き部36a1及び半球凹状部36a2と同様の構成を、弾性体端固定部36b及び弾性体端固定部36cも備えている。切欠き部36a1と同様の構成については、図8中に切欠き部36b1、切欠き部36c1として示している。
【0020】
図9は、図1の腰痛改善作業用装具100を構成する腰ベルト10を前側斜め上から見た斜視図である。同図に示すように腰ベルト10は、着用時に前となる部分及び後ろとなる部分において、弾性体12a及び弾性体12bにより本体部11が連結されている。このように、弾性体12a及び弾性体12bにより連結される構成を備えることにより、腰ベルト10の長さを呼吸による胴回りの変化に対応させることができる。このため、例えば、面ファスナーなどのように固定後にはその長さが変化しないものと比較して、装着感及び装着状態の保持性を良好とすることができる。なお、凹部15は、胸ベルト20について説明した凹部25に相当するものである。
また、腰ベルト10では、装着時に後ろ側になる側に、腰当16を備えているが、これ以外は、胸ベルト20と同一の構成を備えている。胸ベルト20が設けられる胸回りは、呼吸に伴う変化が大きいから、上記の構成による装着間及び装着状態の保持性の向上が顕著である。
【0021】
図10は、腰痛改善作業用装具100に用いられる弾性体の斜視図であり、図中では、説明の便宜上、係合部等の内部構造を示すために一部を取り除いた状態を示している。同図の(a)は腰ベルト10及び胸ベルト20の本体11及び本体21を後ろ側で連結するために用いられる弾性体12b及び22bを、(b)はこれらを前側で連結するために用いられる弾性体12a及び22aを、(c)は伸縮部材30に弾性を付与するために用いられる弾性体34を、(d)は屈曲可能部40を屈曲可能な状態で保持するために用いられる保持用弾性体43を示している。図10に示したように、これらに共通の弾性体として同じ素材・形状の高分子紐を用いることとすれば、部品の共通化によるコスト削減を実現することができる。また、各部位に要求される性質や着用者の特徴を考慮して、各部位ごとに別の弾性体を用いることとしても良い。
【0022】
〔実施例2〕
本実施例の腰痛改善作業用装具200は、図11に示すように、胸ベルト20及び腰ベルト10に代えて着用時に前方となる側に、切り抜き部115、切り抜き部125が設けられている胸ベルト120、腰ベルト110を備えている点において、腰痛改善作業用装具100とは相違している。なお、実施例1において説明した部材と同じ部材については、同じ符号を付して本実施例では説明を省略する。
図12は、弾性体と係合部の構造を示す一部破断斜視図である。同図の(a)は腰ベルト110及び胸ベルト120の本体111及び本体121を後ろ側で連結するために用いられる弾性体12b及び22bを、(b)はこれらを前側で連結するために用いられる弾性体112a及び122aを、(c)は伸縮部材30に弾性を付与するために用いられる弾性体34を、(d)は屈曲可能部40を屈曲可能な状態で保持するために用いられる保持用弾性体43を示している。このように、本実施例では、腰ベルト110及び胸ベルト120に、切り抜き部115及び切り抜き部125を設けたことに対応して、これらを前側で連結するために用いられる弾性体112a及び122aの構成のみ腰痛改善作業用装具100とは異なっているが、他のものは腰痛改善作業用装具100と同様である。
本実施例の腰痛改善作業用装具200は、胸ベルト120の装着時に前方となる側に切り抜き部125が設けられていることにより、女性が使用した場合の胸が圧迫される問題を解消することができる。なお、この問題を解消するためには、必ずしも腰ベルト10にまで切り抜き部115を設けることは必要ではないが、本実施例では、腰ベルト110も胸ベルト120と略同様の構成として、共通の部品を使用可能としている。
【0023】
〔実施例3〕
本実施例の腰痛改善作業用装具300は、装着時に凹部25の横方向位置の調整機構を備えている構成において、実施例1及び2の腰痛改善作業用装具とは相違している。なお、実施例1又は2において説明した部材と同じ部材については、同じ符号を付して本実施例では説明を省略する。
図13は、本発明の実施例3による腰痛改善作業用装具300を前側斜め上から見た斜視図である。同図に示すように、腰痛改善作業用装具300は、胸ベルト220の本体部221の外側面(装着時において装着者と接さない面)に取付けられている凹部取付け板225の一部として凹部25が設けられている。この構成において、実施例2の腰痛吸収作業用装具200と異なっている。この相違する構成については、図14〜図16の分解図を参照して後に説明する。
図14は、図13に示した胸ベルト220の本体部221左側の分解図であり、図15は、図13に示した腹ベルト210の本体部211左側の分解図である。これらの図に示すように、本体部211・221には、横長孔226が形成されている。この横長孔226を通過するねじ釘229により、その間に本体部211又は本体部221を挟んだ状態で、凹部取付け板225と凹部取付け板227とを連結して、固定する。この固定の際、横長孔226のどの位置において、凹部取付け板225と凹部取付け板227とを連結するかにより、凹部25のその横方向の位置を調整することが可能となる。また、図14及び図15に示すように、緩衝材26が取付け板227の本体部211・221との反対側の面に設けられているから、腰痛改善作業用装具300の装着性は良好なものとなる。
図16は、図11に示した胸ベルト220の本体部221左側の分解図であり、図17は、図11に示した腹ベルト210の本体部211左側の分解図である。これらの図に示す実施例は、凹部25が本体部211・221外側面の取付け板235ではなく内側面の凹部取付け板237の一部として設けられている構成において、図14及び図15に示したものと相違している。このため、本体部211・221には、横長孔226に加えて、凹部25を通過させるための凹部25用横長孔236を備えている。この構成により、図14及び図15を参酌して説明したもの同様に、凹部取付け板235と凹部取付け板237とをねじ釘229により固定することで、凹部25の固定時においてその横方向の位置を調整することが可能となる。
【0024】
〔実施例4〕
腰痛のほとんどは加齢を起因とするものである。また、多くの腰痛は、背骨の周囲にある神経に刺激が加えられることにより発生する。そして、背骨や筋肉への負荷がそれらの許容量を超えると、それに伴う神経の炎症が生じることにより痛みを感じるようになる。背骨に対する荷重を負担する能力のうち、70%を椎間板が受け持ち、30%を椎間関節が受け持っている。
この椎間板は弾力に富む組織であり、その弾力は多くの水分を含有することに起因する。この椎間板のなかの髄核の水分含有量が加齢に伴って減少することにより、弾力が失われてしまう。これが、腰痛の原因となる。
このように加齢に伴う退行性変化によって、背骨にかかる衝撃を吸収する主な役割を果たしている椎間板の弾力が減少する。しかしながら、背骨回りの腹筋や背筋などの筋肉も背骨を安定させる機能を備えており、これら筋肉のバランスを保つことも腰痛の抑制に効果的である。
【0025】
本実施例では、腹筋や背筋同様、背骨の前後のバランスを保つ機能を備えた実施例1の腰痛改善作業用装具100を装着して行った実験の結果について説明する。なお、本実施例では実施例1の腰痛改善作業用装具100を装着した場合について説明するが、実施例2の腰痛改善作業用装具200又は実施例3の腰痛改善作業用装具300を装着した場合にも、同様の効果が得られる。
図18及び図19は、図1の腰痛改善作業用装具を装着した状態の正面図及び背面図であり、図20は図1の腰痛改善作業用装具を装着した状態で体を横に傾けた状態の正面図である。
図18及び図19に示すように、腰痛改善作業用装具100を装着することにより、前後左右に設けられている伸縮部材30の働きにより、腰部への負担を軽減することができると共に、正しい姿勢を維持することが容易となる。
また、腰痛改善作業用装具100を装着した状態で体を横に傾けると、図20に示すように、傾けた側の伸縮部材30の持ち上げ力(伸長する力)により、急激な姿勢の変化を防止するとともに、ただしい姿勢に戻す際の腰への負担を軽減することができる。伸縮部材30はその両側に屈曲可能部40を備えているから、動きにより生じる腰ベルト10と伸縮部材30、及び胸ベルト20と伸縮部材30との間のズレを吸収して、伸縮部材30による持ち上げ力を被装着者に効果的に伝えることができる。
本実施例で用いた腰痛改善作業用装具100は、着用した状態において、持ち上げ力(伸長する力)を5kg迄の範囲で調整可能であって伸縮範囲(可動範囲)が132mmである伸縮部材30を用いた。実験の結果、下記の効果を実感することができた。
通常装着においては、持ち上げ力を中程度(2kg〜3kg)程度にすることが好適であった。
また、伸縮部材30の持ち上げ力を強(5kg程度)として、椅子に20分位座ることにより、腰痛がほとんど治った。
また、伸縮部材30の持ち上げ力を中程度(2kg〜3kg)程度として、腰痛改善作業用装具100を装着して1キロメートル位歩くことにより、上半身が軽くなることを実感することができた。この際、腰ベルト10や胸ベルト20にズレが生じることはなかった。伸縮部材30がクッションの役割を果たし、正しい姿勢により軽快に歩くことができた。
また、腰痛改善作業用装具100を装着しない場合に感じていた腰痛を、腰痛改善作業用装具100の装着により感じなくなった。
【0026】
日常動作により腰にかかる負担を椎間板という背骨にクッションにあたる部分にかかる圧力を基準として評価すると以下のとおりとなる。真っ直ぐに立った状態における圧力を100とすると、仰向けで寝た状態では25、横向きに寝た状態では75、立って上体を軽く傾けると150、椅子に真っ直ぐに腰掛けると140、椅子に腰掛けて上体を前に傾けると186となる。
図21は、実施例1の腰痛改善作業用装具100を装着した状態の側面図であり、図22は、実施例1の腰痛改善作業用装具100を装着して体を前に傾けた状態を示す側面図である。図22に示すように、体を前に傾けた場合、前側の伸縮部材30の持ち上げ力により、腰に架かる負担を軽減することができる。また、腰痛改善作業用装具100を装着することにより、真っ直ぐに立った状態においても、伸縮部材30の持ち上げ力により腰への負担を軽減することができる。
腰痛改善作業用装具100を装着した状態で、10キログラムの物を持ち上げたところ、腰痛が発生することはなかった。また、腰痛改善作業用装具100の装着により、ギックリ腰を予防することができると考えられる。
腰痛改善作業用装具100の備えている4本の伸縮部材30の持ち上げ力を、装着者が痛みを感じる箇所に対応させて調整することとしても良い。また、着用者の上半身の形に合わせて伸縮部材30の持ち上げ力を前後で異ならせることにより、例えば、加齢により腰の曲りかけた人の姿勢を矯正し、腰痛の発生を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、腰痛の予防、改善するための装具に適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
10、110 腰ベルト
12a、12b、22a、22b、112a、122a ベルト用弾性体
15 凹部
20、120 胸ベルト
25 凹部
26 緩衝材
30 伸縮部材
31 筒体
32 棒状体
33 第1の滑車
34 弾性体
35 係合部
35S 半球凸状部
36a・36b・36c 弾性紐端固定部
36a1・36b1・36c1 切欠き部
36a2 半球凹状部
39 つまみ部
40 屈曲可能部
41 半球状凸部
41S 半球状凸面
41H 半球状凸部孔
41HS 傾面
42 半球状凹部
42H 半球状凹部孔
42S 半球状凹面
42HS 傾面
43 保持用弾性体
100、200、300 腰痛吸収作業用装具
125 切り抜き部
226 横長孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰回りを囲んで固定される腰ベルトと、胸回りを囲んで固定される胸ベルトと、所定値以上の力が加えられると縮む所定長さの範囲内において伸縮可能な伸縮部材とを備えており、前記伸縮部材が、一端において前記腰ベルトに接続されており、他端において前記胸ベルトに接続されており、その伸長により腰椎の間隔を広げる方向に力を加える腰痛改善作業用装具において、
前記伸縮部材は、筒体と、軸方向に相対移動可能な状態で当該筒体の内側に挿入される棒状体と、前記棒状体の挿入される側の端部付近に固定されている第1の滑車と、弾性体と、を備えており、
前記弾性体は、張力が加えられている状態において、その両端が前記筒体の弾性体端固定部に固定されると共に、前記第1の滑車に架けられ、その弾性力により前記伸縮部材が伸長する方向に力を加えるものであることを特徴とする腰痛改善作業用装具。
【請求項2】
前記筒体には前記弾性体固定部が複数設けられており、前記弾性体の両端に係合部が設けられており、当該係合部と前記弾性体端固定部との係合により前記弾性体の両端を前記筒体に固定するものであることを特徴とする請求項1に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項3】
前記係合部が半球凸状部を備えており、前記固定部が半球凹状部と、前記弾性体が通過可能であって前記半球凸状部が通過することができない幅の切欠き部とを備えており、前記係合部と前記弾性体端固定部とが係合している状態において、半球凹状部から突出するつまみ部が前記半球凸状部に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項4】
前記伸縮部材が、装着時において、装着者の前右側、前左側、後右側及び後左側となる位置に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項5】
前記腰ベルト及び前記胸ベルトが、装着時における装着者の前右側、前左側、後右側及び後左側となる位置であって装着者と接触する側に緩衝材を備えていることを特徴とする請求項4に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項6】
前記伸縮部材が、その両端において、軸方向に対して屈曲可能な屈曲可能部を備えており、当該屈曲可能部を介して、前記腰ベルト及び前記胸ベルトに固定されていることを特徴とする請求項1に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項7】
前記腰ベルト及び前記胸ベルトが、前記屈曲可能部の固定用の横長孔を備えていることを特徴とする請求項6に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項8】
前記屈曲可能部が、半球状凸部と半球状凹部とを備えており、前記半球状凸部の半球状凸面と前記半球状凹部の半球状凹面とが当接するように、半球状凸部孔と前記半球状凹部孔に挿通される保持用弾性体の張力によって保持されるものであることを特徴とする請求項6に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項9】
前記半球状凸部孔及び前記半球状凹部孔の半球状凸面及び半球状凹面との境界に斜面が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項10】
前記弾性体に張力が加えられている状態においては、前記伸縮部材の端部が前記腰ベルト又は前記胸ベルトのうちの少なくとも一方に設けられている凹部に挿入されることにより、前記腰ベルト又は前記胸ベルトに固定され、前記弾性体に張力が加えられていない状態においては、その端部が前記腰ベルト又は前記胸ベルトのうちの少なくとも一方の前記凹部から抜き取ることが可能なものであることを特徴とする請求項1に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項11】
前記弾性体が、前記筒体に設けられている第2の滑車に架けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項12】
前記胸ベルトの着用時に前方となる側に、切り抜き部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の腰痛改善作業用装具。
【請求項13】
前記胸ベルト及び前記腰ベルトがいずれも、着用時に前後となる部分にベルト用弾性体により連結された部分を備えていることを特徴とする請求項1に記載の腰痛改善作業用装具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate