説明

腸の炎症性疾患及び1型糖尿病を治療するためのAPL型ペプチドの使用

本発明は、医薬分野、具体的にはクローン病、潰瘍性大腸炎及び1型真正糖尿病を治療するための医薬組成物を調製するための、60kDaのヒト熱ショックタンパク質に由来するAPL型ペプチド又はその類似体の使用に関する。前記ペプチドは消化管内に体内分布し、クローン病患者の腸固有層及び末梢血の活性化T細胞のアポトーシス誘導を促進する。さらに、このペプチドは、1型真正糖尿病患者の単核細胞のアポトーシスを誘導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬分野、特に、炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎等)及び1型糖尿病を治療するためのAPLペプチド(改変型ペプチドリガンド、略語APL)又はその類似体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クローン病や潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患は、常在菌に対する強力なエフェクター機能を有する腸固有層T細胞が活性化されることに起因している。しかし、これらリンパ球を慢性的に活性化する正確な機序は、いまだ明らかでない(Balfour R(2006)疾患の機序:クローン病及び潰瘍性大腸炎の発病学(Mechanism of Disease:pathogenesis of Crohn’s disease and ulcerative colitis)、Nature clinical practice、Gastroenterology & Hepatology 3(7):390〜407頁)。
【0003】
消化管には約2×10個の細菌が存在しており、この免疫学的圧力は免疫系に対する驚くべき難題を意味している。免疫系は、病原性微生物に対する適切な応答性と無害な微生物に対する寛容性の間でバランスを取らなければならない。粘膜免疫系は、アポトーシスによって活性化T細胞を減少させる等、不必要で制御の効かない炎症応答を回避するためのいくつかの機序を有している(Peppelenbosch MP及びvan Deventer SJH(2004)T細胞のアポトーシス及び炎症性腸疾患(T cell apoptosis and inflammatory bowel disease)、Gut 53:1556〜1558頁)。
【0004】
標準状態の免疫系は、エフェクターT細胞の応答を刺激することなく、速やかに侵襲性腸内細菌の感染を除去し、先天性免疫応答を下方制御し、傷ついた粘膜を治癒する。対照的に、遺伝的に感受性の高い宿主の免疫系は、適切な先天性応答を開始すること及び/又は共生微生物因子に対する寛容原性免疫応答を起こすことができず、その後に共生細菌に対する病原性T細胞の応答を活性化し慢性腸炎へと進行する(Podolsky DK(2002)炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease)、N Engl J Med 347:417〜29頁)。
【0005】
すなわち、炎症性腸疾患は、急性腸内感染等の環境刺激によって起こる炎症過程を適切に制御する機序の障害に起因している。T細胞のアポトーシスに対する抵抗性、下方制御シグナルに対する応答の欠如並びに管腔抗原及び免疫増強剤への継続的な曝露によって、この炎症応答は維持される(Mudter J及びNeurath MF(2007)T細胞のアポトーシス及び炎症性腸疾患の制御:治療との関連(Apoptosis of T cells and the control of inflammatory bowel disease:therapeutic implications)、Gut 56:293〜303頁)。
【0006】
クローン病は、マクロファージ、好中球及びT細胞の腸への動員の亢進によって特徴づけられ、これらは共刺激性接着分子及びTH1(ヘルパーT細胞1、略語TH1)に関連する炎症誘発性サイトカイン(例えば、インターロイキン(IL)−6(IL−6)及び腫瘍壊死因子−α(TNF−α))の発現量の増加、並びにTH17(ヘルパーT細胞17、略語TH17)の細胞応答(IL−12、I−23及びIL−27等)をもたらす(Balfour R(2006)疾患の機序:クローン病及び潰瘍性大腸炎の病因(Mechanism of Disease:pathogenesis of Crohn’s disease and ulcerative colitis)、Nature clinical practice、Gastroenterology & Hepatology 3(7):390〜407頁)。
【0007】
腸内の炎症細胞数を、細胞の動員、増殖、及び壊死又はアポトーシスによる細胞死によって測定する。正常な腸粘膜由来の粘膜固有層T細胞は、活性化誘発性の細胞死(Fas/FasL系による)を受けやすく、これによってリンパ球の増殖を制御することができる(Bu Pら(2001)アポトーシス:腸粘膜免疫系の不応答性を維持する機序の1つ(Apoptosis:one of the mechanisms that maintains unresponsiveness of the intestinal mucosal immune system)、J Immunol 166:6399〜6403頁)。しかし、データはクローン病患者の粘膜固有層T細胞がアポトーシスに抵抗性であることを示しており、この抵抗性は、疾患の永続化及び炎症の慢性化の一因となる恐れがある活性型エフェクターTH1細胞の集団の増殖をもたらす可能性がある(Boirivant Mら(1999)クローン病及び他の胃腸炎における粘膜固有層T細胞は、CD2経路誘導性アポトーシス障害を示す(Lamina propria T cells in Crohn’s disease and other gastrointestinal inflammation show defective CD2 pathroute−induced apoptosis)、Gastroenterology 116:557〜565頁)。
【0008】
クローン病患者の粘膜T細胞におけるアポトーシス障害は、Bcl−2のような抗アポトーシス分子とBaxのようなアポトーシス促進分子の比率の不均衡に起因しており、この不均衡がこれら細胞の生存を長びかせ、アポトーシスシグナルの抵抗性をもたらす(Ina Kら(1999)複数のアポトーシスシグナルについてのクローン病T細胞の抵抗性は、粘膜Bcl2/Baxの不均衡と関連している(Resistance of Crohn’s disease T cells of multiple apoptotic signals is associated with Bcl2/Bax mucosal imbalance)、J Immunol 163:1081〜90頁;Itoh Jら(2001)粘膜T細胞によるBax発現量の減少は、クローン病におけるアポトーシス抵抗性に有利に作用する(Decreased Bax expression by mucosal T cells favours resistance to apoptosis in Crohn’s disease)、Gut 49:35〜41頁)。一方で、Sturm及び同僚は、クローン病、潰瘍性大腸炎の患者及び健常対照に由来する粘膜T細胞の細胞周期特性を調べた。クローン病患者の粘膜T細胞は、潰瘍性大腸炎患者又は健常対照の粘膜細胞と比較して、おそらく活性化依存的アポトーシスの異常の結果として周期が速く進むので、著しく高い細胞増殖能を有していることが明らかになった。これらのことから、クローン病患者の粘膜が反応亢進状態を示すT細胞を過剰に含み、また共生細菌に対する寛容性を失っている理由を説明できる可能性がある(Sturm Aら(2004)異なる細胞周期速度は、クローン病及び潰瘍性大腸炎の粘膜T細胞の異なる機能的能力に基づいている(Divergent cell cycle kinetics underlies the distinct functional capacity of mucosal T cells in Crohn’s disease and ulcerative colitis)、Gut 53:1624〜1631頁)。
【0009】
これらの実験的証拠は、クローン病は、細胞増殖事象がアポトーシスによる死に勝ることにより、この疾患原因における重要な因子である可能性がある、炎症部位への反応性T細胞の蓄積をもたらす疾患であるという事実を支持している。この意味において、この疾患の治療に使用される最も強力な生物学的製剤は、単球及びT細胞においてアポトーシスを誘導する製剤、例えば、TNFα、IL−12又はIL−6受容体に対する抗体であると思われる(Lugeringら(2001)インフリキシマブは、カスパーゼ依存的経路に対する活性を使用して慢性クローン病患者由来の単球にアポトーシスを誘導する。(Infliximab induces apoptosis in monocytes from patients with chronic Crohn’s disease by using it activates to caspase dependent pathroute)、Gastroenterology 121:1145〜57頁)、(Stallmachら(2004)インターロイキン12 p40−IgG2b融合タンパク質はT細胞に媒介される炎症を抑制する:クローン病及び生きた実験的大腸炎における消炎作用(An interleukin12 p40−IgG2b coalition protein abrogates T cell mediated inflammation:anti−inflammatory activity in Crohn’s disease and experimental colitis in alive)、Gut 53:339〜45頁)、(Atreya Rら(2000)インターロイキン6トランスシグナル遮断薬は、慢性腸炎におけるアポトーシスに対するT細胞の抵抗性を抑制する:クローン病及び生きた実験的大腸炎における証拠(Blockade of interleukin 6 trans−signaling suppresses T−cell resistance against apoptosis in chronic intestinal inflammation: evidence in Crohn’s disease and experimental colitis in alive)、Nat Med 6:583〜588頁)。特に、TNFαに対する抗体は、ステロイド無反応性クローン病患者に長期的な寛解を誘導するのに重要な選択肢である。
【0010】
インフリキシマブは、大きな親和性と特異性によって遊離のTNFα及び結合したTNFαの両方に結合してその効果を中和するマウス可変領域とヒト免疫グロブリンG1(IgG1)分子の定常領域を含むキメラモノクローナル抗体(AcM)である(Knight DMKら(1993)マウス−ヒトキメラ抗TNF抗体の構築及び最初の特徴づけ(Construction and initial characterization of a mouse−human chimeric anti−TNF antibody)、Mol Immunol 30:1443〜1453頁)。
【0011】
エタネルセプトは、ヒト腫瘍壊死因子受容体2(TNFR2)の可溶性部位をヒトIgG1のFc部位に融合させた単量体鎖を2本含む組み換えタンパク質である(Mohler KMら(1993)可溶性腫瘍壊死因子(TNF)受容体は、致死的な内毒血症の有効な治療薬であり、TNF運搬体及びTNF拮抗薬として同時に機能する(Soluble tumor necrosis factor (TNF) receptors are effective therapeutic agents in lethal endotoxemia and function simultaneously as both TNF carriers and TNF antagonists)、J Immunol 151:1548〜1561頁)。この分子は、関節リウマチ(RA)等、別の炎症性疾患の治療における利用が奏功している(Moreland LWら(1999)関節リウマチにおけるエタネルセプト治療、無作為及び対照臨床試験へ(Etanercept therapy in rheumatoid arthritis.To randomized,controlled trial)、Ann Intern Med 130:478〜486頁)。しかしインフリキシマブに反して、エタネルセプトはクローン病において臨床的な有益性を示さない。Van den Brandeと同僚は、クローン病の治療における両薬剤の効果の差が、単球及び活性化した粘膜固有層T細胞のアポトーシスを誘導するインフリキシマブの能力に起因することを実証した(Van de Brande JMHら(2003)インフリキシマブは、クローン病患者由来の粘膜固有層Tリンパ球のアポトーシスを誘導するが、エタネルセプトは誘導しない(Infliximab but not Etanercept induces apoptosis in lamina propria T−Lymphocytes from patients with Crohn’s disease)、Gastroenterology 124:1774〜1785頁)。エタネルセプトは、アポトーシス促進効果によってクローン病に有効であると示唆されてきたインフリキシマブのようなアポトーシスを誘導しない。
【0012】
インフリキシマブ及びT細胞にアポトーシスを誘導する他の薬剤を使用して治療したクローン病患者で得た臨床結果は、粘膜のT細胞区画においてアポトーシスが回復することがクローン病の成功治療の重要な因子になる可能性を示唆している。
【0013】
これまでに、インフリキシマブはクローン病患者の治療用として最も成功した治療法である。この治療法は、潰瘍性大腸炎患者においても有望な結果を伴って利用されている。しかし、この治療法を使用すると広範囲にわたって免疫抑制が起こるためこれらの患者において結核及びマイコプラズマ病のような疾患の発病率を増加させる等、一群の副作用が生じる(Kooloos WM.(2007)関節リウマチ及びクローン病の抗TNF治療における薬理遺伝学の潜在的役割(Potential role of pharmacogenetics in anti−TNF treatment of rheumatoid arthritis and Crohn’s disease)、Drug Discovery Today 12:125〜31頁)。従って、現在の主要な課題は特異性を有し、広範囲にわたる免疫抑制を引き起こすことなく病原性細胞を排除できる治療戦略を開発することである。
【0014】
この目的のために、この1年、免疫応答を抑制するのでなくそれを調節することを意図して抗原特異的戦略が応用されてきた。この意味で、末梢寛容性機序を誘導するために、このような条件で天然自己抗原又はAPLペプチドが使用され投与されてきた(Prakken Bら(2004)エピトープ特異的免疫療法は、RAにおける炎症誘発性T細胞の免疫偏向を誘導する(Epitope−specific immunotherapy induces immune deviation of proinflammatory T cells in RA)、PNAS 12(101):4228〜33頁;Ben−David Hら(2005)二重改変ペプチドリガンドによるCD4CD25制御性事象を介した筋無力症誘起性T細胞応答の下方制御は、アポトーシスを引き起こす(Down−regulation of myasthenogenic T cell response by to dual altered peptide ligand via CD4CD25−regulated events leading to apoptosis)、PNAS 102(6):2028〜33頁;Paas−Rozner Mら(2001)異なる経路によって投与された二重改変ペプチドリガンドによる実験的自己免疫重症筋無力症に関連する応答の能動的抑制の性質(The nature of the active suppression of responses associated with experimental autoimmune myasthenia gravis by a dual altered peptide ligand administrered by different routes)、PNAS 98(22):12642〜7頁)。
【0015】
APLは、T細胞受容体又は主要組織適合複合体との接触に不可欠な位置に1つ又は複数の置換を有し、T細胞が完全に活性化するために必要な事象のカスケードを妨害又は改変する免疫原性ペプチドの類似体である(Bielekova B及びMartin R(2001)改変ペプチドリガンドを介した抗原特異的免疫調節(Antigen−specific immunomodulation via altered peptide ligands)、J Mol Med 79:552〜65頁)。ペプチドリガンドの固有の特性を実験的に操作する能力により、免疫細胞応答の性質、経過及び力を適当に変えることができる。国際特許出願公開第2006/032216号において、60kDaのヒト熱ショックタンパク質(略語Hsp60)に由来するAPLペプチド、及びRAを治療するためのこれらペプチドの製剤の使用が特許請求されている。1型真正糖尿病は、インスリンを産生する膵臓のβ細胞を破壊するT細胞によって媒介される自己免疫器官特異的疾患であり、糖代謝の調節解除を引き起こす(Brown L及びEisenbarth GS(1990)1型糖尿病:ヒト、マウス及びラットの慢性自己免疫疾患(Type 1 diabetes:A chronic autoimmune disease of human, mouse, and rat)、Annu Rev Immunol 8:647〜79頁)。この疾患の臨床症状は、免疫系が80〜90%近くの膵臓細胞を不活性化した後に現れる。現在の治療法は、インスリンの体内生産を維持するために膵細胞に永久的な損傷が起こる前に、自己免疫過程を止めるための安全で、特異的で有効な方法を発見することを目的としている。寛容性の誘導は、1型糖尿病の治療にまで拡大した概念である。Irun Cohen及び同僚は、この疾患を診断及び治療するためのヒトHsp60ペプチドの使用を保護している(米国特許第6,682,897号)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前述した問題を解決し、炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎等)及び1型真正糖尿病を治療するための新規な治療選択肢を提供する。本発明の本質は、炎症性腸疾患及び1型真正糖尿病を治療するための医薬組成物を製造するための、ヒトHsp60に由来する免疫調節因子APLペプチド又はその類似体の使用である。配列がSIDLKDKYKNIGAKLVQLVANNTNEEAであるこのペプチドを、配列番号1として配列表中で識別する。
【0017】
このペプチドは、クローン病患者の活性化された腸固有層及び末梢血T細胞のアポトーシス誘導を促進することにより、TNFα抗体の使用に伴って起こるような非特異的免疫抑制を引き起こすことなく、この疾患の発病機序に関与するT細胞クローンの阻害をもたらす。炎症性腸疾患を治療するための、この免疫調節因子APLペプチド又はその類似体の使用は、この疾患に特徴的な炎症過程に寄与しているT細胞クローンを中和することを対象としている。
【0018】
本発明の製剤は、病原性活性型T細胞を中和するためのその高い特異性によって特徴づけられる。この製剤は結核やマイコプラズマ病を引き起こす日和見感染のような副作用を最小限に抑え、この事実はこの製剤の安全性に著しく寄与している。日和見感染は、インフリキシマブのような薬剤の使用又はメトトレキセートの使用に起因するリンパ腫等の腫瘍過程の発症によって起こる広範囲にわたる免疫抑制と関連している。
【0019】
炎症性腸疾患を治療するための薬剤の製造における前述の免疫調節因子ペプチドの使用には、それを非経口的経路(例えば、皮内、皮下、静脈等)によって投与することとは、その活性成分は主に消化管(胃、小腸及び大腸)へと体内分布される利点もある。また、このペプチドは必要な時間これらの器官に滞留し、その生物学的機序を発揮する。前述したように、腸疾患では消化管内で常在菌に対するエフェクターT細胞の制御の効かない活性化が起こっている。このペプチドの体内分布及び病原性管腔T細胞のアポトーシス誘導能が、クローン病及び潰瘍性大腸炎の治療にこのAPLペプチドを使用することの合理性を正当化している。本発明の製剤の使用は、1型糖尿病のような寛解−再発症状によって特徴づけられる他の炎症性疾患にまで広げることができ、それら疾患においても自己反応性T細胞が重要な役割を担っている。
【0020】
配列表中で配列番号1として識別されるAPLは、国際特許出願公開第2006/032216号においてRAを治療するためのペプチド製剤の使用について特許請求されている。しかしこの特許出願は、このペプチドが炎症性腸疾患及び1型真正糖尿病の治療に使用され得るということを特許請求も示唆もしていない。
【0021】
炎症性腸疾患は自己免疫性疾患とみなされていない。なぜなら自己抗原に対する免疫応答がその炎症の開始及び維持に関与しておらず、少なくとも現在まで必然的に関連がある自己抗原は知られていないからであり、この点が自己免疫性疾患とは対照的である。これら疾患の原因は、常在菌の存在及び共生生物に対する免疫応答に依存している。この事実を支持する実験的証拠の1つは、無菌条件下では腸管内菌叢が再構成されない限り実験的IBD疾患(炎症性腸疾患)が誘導され得ないことである(Chandranら(2003)炎症性腸疾患:GALT及び腸管内細菌叢の機能不全(II)(Inflammatory bowel disease:dysfunction of GALT and gut bacterial flora(II))、Surgeon 1:125〜136頁;Stroberら(2002)炎症の粘膜モデルの免疫学(The immunology of mucosal models of inflammation)、Annu.Rev.Immunol 20:495〜549頁)。従っておそらく、細菌抗原がこの疾患の誘導を引き起こすものと予想される。
【0022】
米国特許第6,682,897号において、Irun Cohen及び同僚は、1型糖尿病を診断及び治療するためのヒトHsp60ペプチドの使用を公開した。配列番号1として識別される配列はその特許に含まれておらず、配列番号1のペプチドに類似の生物学的活性も考慮されていない。これらの著者とは異なり、本発明者らは、この病状の発生に関与する病原性T細胞にアポトーシスを誘導するための配列番号1のペプチド(ヒトHsp60由来APLペプチド)の使用を本発明において開示する。
【0023】
本発明の例によって、配列番号1のペプチドの特性が初めて明らかになった。その特性は、消化管へのペプチドの体内分布、並びにクローン病、潰瘍性大腸炎及び1型糖尿病を治療するためのこのペプチドの使用を可能にする病原性T細胞クローンのアポトーシスを誘導するそのペプチドの能力と関連している。当業者は、国際特許出願公開第2006/032216号において提供される要素に基づいて本発明で特許請求されているこのペプチドの新規な使用を予測することはできなかった。
【0024】
配列番号1として識別される配列のペプチド又はその類似体は、常法のペプチド合成法によって作製することができ、後で示す例に記載されているような実験において誘導される免疫応答のレベル及び特性によって評価することができる。
【0025】
本発明の状況において、類似体という用語は、記載された配列(配列番号1)に1個又は複数個の変異を含むが、その記載されたペプチドと同じ生物学的活性を保持しているAPLペプチドを指す。この修飾は、1つのアミノ酸の置換、欠失又は挿入(好ましくは置換)であることができる。この類似体は、記載されたペプチドのうち好ましくは9個未満の修飾、より好ましくは6個未満の修飾、さらに好ましくは2個未満の修飾を含むことができる。
【0026】
配列番号1として識別されるヒトHsp60由来のAPLペプチド又はその類似体を含む、炎症性腸疾患及び1型糖尿病を治療するための医薬組成物も本発明の目的である。本発明の医薬組成物中のペプチドの量は、宿主において有効な免疫応答をもたらす量である。その有効量は、クローン病の炎症兆候を著しく減少させこれら疾患の経過に特徴的な消化管の炎症性病巣を消滅させる、T細胞のアポトーシスを誘導する投与量である。治療過程で患者に投与されるこの医薬組成物の量は、一般に年齢、性別、全体的な健康、及び免疫応答レベルのような特定の要因によって変化する可能性がある。
【0027】
本発明は、炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎等)及び1型糖尿病の治療方法にも関する。その方法は、配列番号1として識別されるペプチド又はその類似体を含む有効量の医薬組成物を患者に投与することを含む。本発明によれば、炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎等)及び1型糖尿病の治療過程でこの医薬組成物は非経口的又は粘膜経路で投与される。本発明によれば、この医薬組成物は、皮内経路、皮下経路、筋肉内経路及び静脈経路を含む群から選択される非経口的経路によって投与される。他の実施形態では、この医薬組成物は、直腸経路及び経口経路を含む群から選択される粘膜経路によって投与される。これらの疾患の性質から、このAPLペプチド又はその類似体は、浣腸として、又は経口経路で投与するのに適した医薬品形態として投与される製剤の一部であることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】活動性クローン病患者(A)及び健常なドナー(B)由来の末梢血単核細胞の生存率に対する配列番号1のペプチドの効果を表す図である。異なる文字は、陰性対照(0μg/mL)とこの群中で評価した各用量のペプチドとの間の統計的有意差を示している。
【図2】クローン病患者由来の末梢血単核細胞において配列番号1のペプチドによって誘導されるアポトーシスを実証するための透過型電子顕微鏡の図である。パネルA、B:無処理の細胞(陰性対照)。パネルC〜H:配列番号1のペプチド(40μg/mL)を用いて処理した細胞。大量の空胞形成(AV);核断片化(NF);クロマチンの核周囲への凝縮及び移動(CMC);完全な細胞質オルガネラ(ICO);アポトーシス小体(AB);アポトーシス小体の貪食(P AB)。
【図3】クローン病患者の腸固有層由来の単核細胞において配列番号1のペプチドによって誘導されるアポトーシスを実証するための透過型電子顕微鏡の図である。パネルA、B:無処理の細胞(陰性対照)。パネルC、D:配列番号1のペプチド(40μg/mL)を用いて処理した細胞。核断片化(NF);クロマチンの核周囲への凝縮及び移動(CMC);アポトーシス小体(AB)。
【図4】非活動性クローン病患者由来の単核細胞の生存率に対する配列番号1のペプチドの効果を表す図である。X軸において、A:抗CD3抗体を用いて活性化していない細胞、B:抗CD3抗体を用いて活性化した細胞。異なる文字は、陰性対照(0μg/mL)とこの群中で評価した各用量のペプチドとの間の統計的有意差を示している。
【図5】1型真正糖尿病患者由来の末梢血単核細胞において配列番号1のペプチドによって誘導されるアポトーシスを実証するための透過型電子顕微鏡の図である。パネルA、B:無処理の細胞(陰性対照)。パネルC、D:配列番号1のペプチド(40μg/mL)を用いて処理した細胞。核断片化(NF);クロマチンの核周囲への凝縮及び移動(CMC);アポトーシス小体(AB);アポトーシス小体の貪食(P AB)。
【図6A】ルイスラット(Lewis Rat)における配列番号1のペプチドの体内分布試験の図である。静脈経路0.25mg/体重1kg。分析した組織は:1.肝臓;2.脾臓;3.腎臓;4.心臓;5.肺;6.頸神経節;7.腋窩上腕神経節;8.腸間膜幹神経節;9.骨盤神経節;10.甲状腺;11.胃;12.小腸;13.大腸である。
【図6B】ルイスラット(Lewis Rat)における配列番号1のペプチドの体内分布試験の図である。静脈経路1mg/体重1kg。分析した組織は、1.肝臓;2.脾臓;3.腎臓;4.心臓;5.肺;6.頸神経節;7.腋窩上腕神経節;8.腸間膜幹神経節;9.骨盤神経節;10.甲状腺;11.胃;12.小腸;13.大腸である。
【図6C】ルイスラット(Lewis Rat)における配列番号1のペプチドの体内分布試験の図である。皮内経路0.25mg/体重1kg。分析した組織は、1.肝臓;2.脾臓;3.腎臓;4.心臓;5.肺;6.頸神経節;7.腋窩上腕神経節;8.腸間膜幹神経節;9.骨盤神経節;10.甲状腺;11.胃;12.小腸;13.大腸である。
【図6D】ルイスラット(Lewis Rat)における配列番号1のペプチドの体内分布試験の図である。皮内経路1mg/体重1kg。分析した組織は、1.肝臓;2.脾臓;3.腎臓;4.心臓;5.肺;6.頸神経節;7.腋窩上腕神経節;8.腸間膜幹神経節;9.骨盤神経節;10.甲状腺;11.胃;12.小腸;13.大腸である。
【実施例】
【0029】
(例1)
活動性クローン病患者及び健常なドナー由来の末梢血単核細胞の生存率に対するAPLペプチドの効果。
クローン病患者及び健常なドナー由来の血液を静脈穿刺によって抽出し、抗凝固剤溶液(クエン酸ナトリウム123mM、リン酸一ナトリウム18.5mM、クエン酸17mM、ブドウ糖141.5mM)を含む無菌チューブに採取した。各患者由来の血液を1×リン酸緩衝生理食塩水溶液(略語1×PBS)で1:2に希釈し、15mLの遠心分離チューブ中で5mLのこの希釈液を3mLのFicoll−Paque(商標)Plus(Amersham Biosciences AB、Sweden)に添加し、1200rpmで30分間遠心分離した。単核細胞に相当する環を抽出した。その後、この細胞を15mLの1×PBSで2回洗浄し、各洗浄の後にそれらを900rpmで遠心分離した。最後に、この細胞ペレットを10%のウシ胎児血清を含み、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、HEPES 25mM/L、L−グルタミン2mM(全てGibco BRLから入手した)を補充したRPMI1640に懸濁した。希釈した細胞懸濁液由来の細胞(補充したRPMIで1:20に希釈し、トリパンブルー(Boehringer Manheim、Germany)で1:2に希釈)を、ノイバウエル(Neubauer)血球計算板を使用して計数した。
【0030】
単核細胞を、平底96穴プレート(Costar、USA)に100μLの最終容量で10個細胞/ウェルの密度で播種し、異なる濃度のAPLペプチド(配列番号1)(10、40、160μg/mL)と一緒に3個組で72時間処理した。無処理の細胞を、基礎増殖の対照として使用した。
【0031】
細胞生存率に対するAPLペプチドの効果を、3−(4,5−ジメチルジアゾール−2−イル)−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT、Sigma、USA)法を使用して、供給元によって記載された手順に従って測定した。MTTは、代謝的に活性な細胞中に見られるミトコンドリア脱水素酵素によって組織培養培地に不溶のホルマザン生成物へと還元される。562nmの吸光度によって測定されるホルマザン生成物の量は、培養液中の生細胞数に正比例する。5%COの湿潤雰囲気下、37℃で72時間細胞を培養した後、20μLのMTT(5mg/mL)を各ウェルに添加した。次に、プレートを、等しい培養条件で4時間インキュベーションした。その後、100μLの2−ブタノール溶液(20%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、50%の2−ブタノール、5mLの2N塩酸)を添加し、穏やかにピペッティングして各ウェルを均質化した。その後、ホルマザン生成物を完全に溶解するために、プレートを37℃で30分間連続的に撹拌し続けた。最後に、96穴プレートリーダーを使用して562nmの吸光度を記録した。
【0032】
GraphPad Prism Softwareプログラムを使用して統計解析した。そのデータを、平均値±標準誤差(SE)として表示した。統計的検定にクラスカル−ウォリス検定(Kruskal−Wallis)を使用した。これは多重比較用のノンパラメトリック検定法である。次に、ダン検定(Dunn test)を使用して、統計的に差異のある培地の群を特定した。p<0.05の値を有意であるとみなした。
【0033】
図1に示すように、APLペプチド処理は、全てのペプチド投与量において活動性クローン病患者由来の末梢血単核細胞の生存率を無処理の細胞と比較して有意に減少させる(p<0.001)。しかし、このペプチドを用いた処理は、健常なドナー由来の単核細胞の生存率には影響を及ぼさない(この実験で評価したAPLペプチドのどの用量においても及ぼさない)。この結果は、クローン病患者の細胞においてこのペプチドによって誘導される細胞死機序に特異性があることを示唆している。これらの結果は、5人の活動性クローン病患者及び5人の健常なドナーを代表している。
【0034】
(例2)
クローン病患者由来の末梢血単核細胞においてAPLペプチドが誘導する細胞死機序の透過型電子顕微鏡による同定。
活動性クローン病患者由来の末梢血単核細胞においてAPLペプチド(本発明において配列番号1と識別される)によって誘導される細胞死機序が、アポトーシスによって媒介されるかどうか同定するために、この試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で分析した。この技術によって、アポトーシスの発生の異論のない判定基準となるアポトーシス細胞の形態的特徴を可視化することが可能になる。これらの特徴は以下の通りである:高電子密度の核(初期のクロマチンの核周囲移動)、核断片化、無秩序で完全な細胞質オルガネラ、大きくて識別可能な空胞、細胞表面の変化及びアポトーシス小体への細胞の崩壊。隣接した細胞によるアポトーシス小体の貪食過程も、この技術で観察することができる(White Mら(2004)電子顕微鏡に基づいてアポトーシスを検出するための形態学的手法(A morphologic approach to detect apoptosis based on electron microscopy)、Methods Mol Biol 285:105〜11頁)。
【0035】
クローン病患者の末梢血から単離した単核細胞(10×10個細胞)を、濃度40μg/mLのAPLペプチドを含む場合と含まない場合とで72時間培養した。無処理の細胞を、このアッセイの対照として使用した。72時間インキュベーションした後、この試料を0.1Mリン酸緩衝液中の1%のグルタルアルデヒド溶液及び4%のパラホルムアルデヒドを使用して1時間固定した。次に、この細胞を1×PBSで洗浄し、2%の四酸化オスミウム溶液を使用して1時間処理した。その後、細胞を0.1Mのカコジル酸緩衝液を用いて2回洗浄し、アルコールの濃度を増加させながら(30〜100%)その試料を脱水した。続いて、エポキシ樹脂Spurrを使用してこの細胞に浸透させ(Spurr AR(1969)電子顕微鏡用低粘性エポキシ樹脂包埋剤(A low−viscosity epoxy resin embedding medium for electron microscopy)、J Ultrastruct Head 26(1):31〜43頁)、70℃で24時間重合させた。この超微細切片(40nm)を、ウルトラミクロトーム(Nova、LKB)を使用して切り、ニッケルグリルに封入した。その後、これらの試料をメタノールに過飽和させたウラニル酢酸溶液を用いて5分間染色した。Electronic Microscope JEOL/JEM 2000 EX(JEOL、日本)で分析を行った。
【0036】
TEMによって得た活動性クローン病患者由来の単核細胞の結果を図2に示す。観察される通り、無処理の細胞は正常な形態(A、B)を有する。しかし、APLペプチド(配列番号1)を用いて処理した細胞では、アポトーシス過程に特徴的な形態的変化を観察することができる(C〜H)。特に、クロマチンの核周囲への凝縮及び移動(CMC)を観察することができる。CMCは細胞の核(N)においてアポトーシス中に起こる最初の形態的変化の1つである。同様に、これら試料中に核断片化(NF)及びアポトーシス小体(AB)を観察した。さらに、細胞残屑が存在することから、アポトーシス小体の貪食(P AB)が起こったことが分かる。図2Fに観察されるように、細胞質オルガネラは完全なままであり(ICO)、これはアポトーシスによる細胞死の特徴である。これらの結果は、活動性クローン病患者由来の単核細胞においてこのAPLペプチドで誘導される細胞死の機序が、アポトーシスによって媒介されていることを実証している。
【0037】
TEMによって行ったこれら患者細胞の分析により、単核細胞の中でアポトーシスを起こしている細胞集団を同定することも可能になった。血液の異なる型の白血球(単球、リンパ球及び多形核球)が異なる形態を有するので、この結果が可能であった。単核細胞の中で、リンパ球がアポトーシスを起こしている集団であることを同定した。形態的な観点から言えば、リンパ球は単球より小さく、また丸い核を有し、細胞原形質が少ない。さらに、リンパ球は単球の特徴である弛緩したクロマチン又は馬蹄形をした核を呈さない(Junqueira LC及びCarneiro J(2005)Basic Histology、第6版、Masson編、Barcelona、Spain)。
【0038】
(例3)
クローン病患者由来の腸固有層単核細胞においてAPLペプチドによって誘導される細胞死機序の同定。
文書同意が得られたら、炎症部分に相当する腸組織由来の試料を採取した。試料を、マグネシウム及びカルシウムを含まない冷ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中で維持した。Bull及びBookmanによって記されているジチオスレイトール/エチレンジアミン四酢酸/コラーゲン分解酵素法(Bull DMK及びBookman MA(1977)ヒト腸管粘膜リンパ性細胞の単離及び機能的な特徴づけ(Isolation and functional characterization of human intestinal mucosal lymphoid cells)、J Clin Invest 59:966〜974頁)に、Van Tol及び同僚によって行われた修正(Van Tol EAら(1992)CD56細胞接着分子は、腸固有層由来の非主要組織適合複合体拘束性細胞毒性単核細胞を検出するための主要な決定因子である(The CD56 adhesion molecule is the major determinant for detecting non−major histocompatibility complex−restricted cytotoxic mononuclear cells from the intestinal lamina propria)、Eur J Immunol 22:23〜29頁)を加えて使用し、これらの組織から粘膜固有層単核細胞を単離した。
【0039】
クローン病患者由来の粘膜固有層単核細胞(10×10個細胞)を、APLペプチド(配列番号1)(40μg/mL)を含む場合と含まない場合とで72時間培養した。TEMで行った分析から、APLペプチドで処理した細胞において、クロマチンの核周辺への移動(CMC)、核断片化(NF)及びアポトーシス小体(AB)等、この型の細胞死に特徴的ないくつかの形態が観察できるように、このペプチドがこの集団の大部分にアポトーシスによる死を誘導することが明らかになった(C〜E)(図3)。無処理の細胞は、正常な形態(A〜B)を有している。
【0040】
(例4)
抗CD3抗体で活性化した後の、不活性クローン病患者由来の末梢血単核細胞の生存率の減少。
不活性クローン病患者由来の末梢血単核細胞を、抗CD3抗体(eBiosciences)を用いて5%COの湿った雰囲気中で、37℃で72時間活性化した。抗CD3抗体の添加により、この細胞集団中のT細胞にポリクローナル活性化がもたらされる。活性化したリンパ球を、1×PBS溶液で洗浄し、続いて1×10個細胞を異なる濃度(10、40、160μg/mL)のAPLペプチド(配列番号1)と一緒に1時間インキュベーションした。抗CD3抗体無しに72時間培養した末梢血単核細胞を、活性化アッセイの対照(非活性化細胞)として使用した。その後、これら活性化していない細胞を同濃度のAPLペプチドと一緒に培養した。
【0041】
例1で説明したように細胞生存率をMTT法を使用して測定した。図4Aに観察できる通り、APLペプチドは不活性クローン病患者由来の単核細胞の生存率を減少させない。しかし、このペプチドは、抗CD3抗体を用いてあらかじめ活性化したこれら細胞(B)の生存率を著しく減少させた。この結果と例1及び例2において示される結果、つまりこのペプチドは健常なドナー由来の単核細胞の生存率に影響を及ぼさない(例1)、及び活動性クローン病患者由来の単核細胞の主要な集団としてアポトーシスを起こしているリンパ球が同定される(例2)という結果と合わせるとこのAPLペプチド(配列番号1)が高い特異性を持って病原性活性化T細胞にアポトーシスを誘導できるということが示唆される。
【0042】
(例5)
1型真正糖尿病患者由来の末梢血単核細胞の生存率に対するAPLペプチドの効果の評価。
例1で記載したように、1型真正糖尿病患者由来の末梢血単核細胞を、Ficoll−Paque(商標)PLUSに重層し遠心分離することにより単離した。評価のために、10×10個細胞をAPLペプチド(40μg/mL)で72時間処理した。無処理の細胞を、このアッセイの対照として使用した。図5に示す通り、このペプチドで処理した細胞は、(例2において)前述したアポトーシス途中の細胞の形態を有している(パネルC〜D)。一方で、無処理の細胞(パネルA、B)は、正常な形態を有している。この結果は、このAPLペプチドが1型真正糖尿病患者由来の単核細胞にアポトーシスを誘導することを実証している。
【0043】
(例6)
ルイスラットにおけるAPLペプチド(配列番号1として識別される)の体内分布試験。
APLペプチド(配列番号1として識別される)を同位体I125で標識し、これを静脈経路及び皮内経路によって0.25mg及び1mg/体重1kgの用量でルイスラットに投与した。ペプチドを接種して4時間後及び24時間後に、各実験群から6匹の動物を屠殺した。異なる器官で放射能レベルを測定した。結果を、放射能用量パーセント/組織1gで表している。
【0044】
この試験から、このペプチドが消化管(胃、小腸及び大腸)へと体内分布され、その生物学的機序を発揮するのに必要な時間これらの器官にとどまっていることが示された。この結果は、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患を治療するためのこのペプチドの使用を支持している。さらに、消化管は末梢寛容性の誘導に優れた部位であるので、このペプチドを1型真正糖尿病のような他の自己免疫性疾患の治療に対して適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患及び1型糖尿病を治療するための医薬組成物を製造するための、ヒトhsp60に由来し配列番号1として識別されるAPLペプチド又はその類似体の使用。
【請求項2】
前記炎症性腸疾患が、クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む群から選択される、請求項1に記載のAPLペプチドの使用。
【請求項3】
前記医薬組成物が、媒体又は医薬として許容される賦形剤を含む、請求項1に記載のAPLペプチドの使用。
【請求項4】
炎症性腸疾患及び1型糖尿病の患者の病原性T細胞クローンにアポトーシスを誘導するための、ヒトhsp60に由来し配列番号1として識別されるAPLペプチド又はその類似体の使用。
【請求項5】
前記炎症性腸疾患が、クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む群から選択される、請求項4に記載のAPLペプチドの使用。
【請求項6】
前記医薬組成物が、非経口又は粘膜経路によって投与される、請求項1に記載のAPLペプチドの使用。
【請求項7】
前記医薬組成物が、皮内経路、皮下経路、筋肉内経路、静脈経路を含む群から選択される非経口経路によって投与される、請求項6に記載のAPLペプチドの使用。
【請求項8】
前記医薬組成物が、直腸経路及び経口経路を含む群から選択される粘膜経路によって投与される、請求項6に記載のAPLペプチドの使用。
【請求項9】
ヒトhsp60に由来し配列番号1として識別されるAPLペプチド又はその類似体を含む治療上有効な量の医薬組成物を患者に投与することを含む、炎症性腸疾患及び1型糖尿病の治療方法。
【請求項10】
前記炎症性腸疾患がクローン病及び潰瘍性大腸炎を含む群から選択される、請求項9に記載の治療方法。
【請求項11】
前記医薬組成物が非経口又は粘膜経路によって投与される、請求項9に記載の治療方法。
【請求項12】
前記医薬組成物が、皮内経路、皮下経路、筋肉内経路、静脈経路を含む群から選択される非経口経路によって投与される、請求項11に記載の治療方法。
【請求項13】
前記医薬組成物が、直腸経路及び経口経路を含む群から選択される粘膜経路によって投与される、請求項11に記載の治療方法。
【請求項14】
配列番号1として識別されるヒトhsp60に由来するAPLペプチド又はその類似体を含む、炎症性腸疾患及び1型糖尿病を治療するための医薬組成物。
【請求項15】
前記炎症性腸疾患が、クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む群から選択される、請求項14に記載の医薬組成物。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公表番号】特表2012−514013(P2012−514013A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543973(P2011−543973)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【国際出願番号】PCT/CU2009/000009
【国際公開番号】WO2010/075824
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】