説明

腸管出血性大腸菌ワクチン

【課題】分泌性腸管出血性大腸菌(EHEC)抗原に対する免疫応答を刺激する組成物及びそのための方法を提供する。
【解決手段】上記組成物は、EHEC細胞培養液上清を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管出血性大腸菌に対する哺乳動物の免疫反応を惹起する組成物及び方法に関する。とりわけ、本発明は、哺乳動物における腸管出血性大腸菌の定着(住みつき)を治療、及び阻止するための細胞培養液上清の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管出血性大腸菌(EHEC)は、志賀毒素大腸菌(STEC)、ベロ毒素原性大腸菌(VTEC)とも呼ばれるが、人間に、下痢、出血性大腸炎、溶血性尿毒症症候群、腎不全、及び死を引き起こす病原性大腸菌である。志賀毒素様毒素産生性EHEC株の多くは人間に対し病原性を有するが、人間の疾病の主因は、血清型O157:H7のEHEC株である。この大腸菌は、人間の大腸における定着性を有するが、この定着は、幾つかの病原性決定因子が転座インチミンレセプター(translocated Intimin receptor)、すなわちTir、を含むIII型分泌系を介して宿主細胞へ輸送されるという独特の機構によって行われる(DeVinney et al., Infect. Immun. (1999) 67:2389)。これら病原体は、とりわけ、腸細胞膜へのTirの輸送を可能にする病原性決定因子EspA、EspB、及びEspDを分泌する。Tirは、宿主細胞膜へ組み込まれ、細菌外膜タンパク、インチミンに対するレセプターとして作用する。Tir−インチミン結合体は、EHECを腸細胞の表面に結合し、結合したEHECの下方でアクチン細胞骨格転位(再構成)を引き起こし、このためペデスタル構造(pedestal formation)が形成される。EspA、EspB、Tir及びインチミンは、すべて、EHECが腸内で首尾よく定着するための本質的要素である。
【0003】
EHECは、反芻動物及びその他の哺乳動物の腸で定着するが、通常これらの動物には目に見えて分かるような(顕性の)疾病は引き起こさない。しかしながら、血清型O157:H7のEHEC(以下「EHEC O157:H7」という)により汚染された肉や水により、アメリカ合衆国及びカナダにおいては、人間に対しては、年間約50,000例のEHEC O157:H7感染が起こっており、そのうち約500人が死に至っている。1994年には、人間に対するEHEC O157:H7感染に関連する経済コストは、年間50億ドル以上と推定されている。
【0004】
はじめて報告された汚染肉を原因とするEHEC O157:H7(の感染症)の大発生は、1982年であった。その後、健康な反芻動物(ウシ、乳牛、羊を含むがこれらに限定されない)にもEHEC O157:H7が感染することが明らかとなった。実際に、USDAの報告によれば、ウシの50%までがその生涯の任意の時点においてEHEC O157:H7キャリアであり、従ってEHEC O157:H7をその糞便と共に排泄する。
【0005】
屠殺牛は大量処理され、人間に感染するのに必要なEHEC O157:H7の数は少ない(10〜100)ので、健康なウシにおけるEHEC O157:H7の定着は、相変わらず深刻な健康問題となっている。この問題に対処するため、屠殺の際にEHEC O157:H7を検出して殺菌し、腸内EHEC O157:H7数を低減するようウシの餌を変更し、EHEC O157:H7の定着を阻止するよう動物を免疫(接種)する方法の改善に対し集中的に研究が行われた(Zacek D. Animal Health and Veterinary Vaccines, Alberta Research Counsel, Edmonton, Canada, 1997)。近年、組換えEspA(国際公開WO 97/40063)、組換えTIR(国際公開WO 99/24576)、組換えEspB及び組換えインチミン(Li et al., Infec. Immun. (2000) 68:5090-5095)を含むEHEC O157:H7タンパク質の組換え生産及びその使用が開示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 97/40063
【特許文献2】WO 99/24576
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zacek D. Animal Health and Veterinary Vaccines, Alberta Research Counsel, Edmonton, Canada, 1997
【非特許文献2】Li et al., Infec. Immun. (2000) 68:5090-5095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、抗原として使用するために必要な量の組換えタンパク質の生産及び精製は、何れも困難且つ高価である。現状では、ウシ及びその他の動物におけるEHEC O157:H7の定着を阻止し、及びそれによってEHECの環境への排泄を低減するための効果的な方法は見出されていない。
【0009】
それゆえ、EHEC感染症を治療及び阻止するための、並びにEHECで汚染された肉や水と関連する健康問題の発生を低減するよう哺乳動物におけるEHECの定着を低減するための新たな組成物及び方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の必要性を充足するための組成物及び方法を提供する。特に、本発明の方法は、EHEC培養液由来の細胞培養液上清(以下「CCS」という)を含む組成物を使用し、1以上のEHEC分泌抗原に対する免疫反応を惹起して、EHEC感染症の治療及び/又はEHEC感染症の阻止及び/又は哺乳動物におけるEHECの定着の低減を行う。本発明の組成物は、同時に投与されるべきアジュバントの有無に拘らず与える(投与)することができる。本発明のある実施形態では、EspA及びTirは、上記細胞培養液上清タンパク質のうちの少なくとも20%を占める。EHEC培養液上清は、EHECの血清型の何れに由来しても良いが、EHEC O157:H7やEHEC:NM(非運動性:non-motile)等のEHEC O157の培養液に由来するのが好ましい。本発明の細胞培養液上清は、容易且つ比較的安価に製造することができ、毒性が最小となるような投与量でも有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
EspA、EspB、Tir及びインチミンは、宿主上皮細胞シグナル伝達系の活性化(A)及び宿主上皮細胞へのEHECの直接的(intimate)付着(E)のために必要である。従って、以下の仮説に拘束されるわけではないが、本発明のCCSの哺乳動物への投与により、EspAやTirのような1以上の分泌性抗原に対する、EHECの腸上皮細胞への付着を阻止する免疫反応が刺激されると考えられる。
【0012】
従って、本発明の目的の1つは、EHEC分泌抗原に対する免疫反応を刺激し、哺乳動物におけるEHEC感染症を治療及び/又は阻止するのに有効なワクチンを提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、反芻動物又はその他の哺乳動物におけるEHECの定着を低減、阻止及び/又は排除(排出:eliminate)するのに有効なワクチンを提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、EHECを環境へ排泄する動物の数を低減することである。
【0015】
本発明の他の目的は、感染動物によりその(外部)環境へ排泄されるEHECの数を低減することである。
【0016】
本発明の他の目的は、EHECが感染動物により環境へ排泄される時間を低減することである。
【0017】
本発明の他の目的は、環境のEHEC汚染を低減することである。
【0018】
本発明の他の目的は、肉及び/又は水のEHEC汚染を低減することである。
【0019】
本発明の他の目的は、人間へのEHEC感染を治療、阻止及び/又は低減することである。
【0020】
本発明の他の目的は、他の生物学的抗EHEC剤への補助剤として有効なワクチンを提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、化学的抗EHEC剤への補助剤として有効なワクチンを提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、生物学的に製造される抗EHEC剤への補助剤として有効なワクチンを提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、核酸をベースとする抗EHEC剤への補助剤として有効なワクチンを提供することである。
【0024】
本発明の他の目的は、組換えタンパク質抗EHEC剤への補助剤として有効なワクチンを提供することである。
【0025】
本発明の他の目的は、反芻動物におけるEHECの定着を低減するのに有効なワクチン接種スケジュールを提供することである。
【0026】
本発明の他の目的は、反芻動物により排泄されるEHECを低減するのに有効なワクチン接種スケジュールを提供することである。
【0027】
本発明の他の目的は、EHEC O157:H7及び/又はEHEC O157:NMの定着等のウシにおけるEHEC O157の定着を低減するのに有効なワクチンを提供することである。
【0028】
本発明の他の目的は、EHEC O157:H7及び/又はEHEC O157:NMの定着等のウシにおけるEHEC O157の定着を阻止するのに有効なワクチンを提供することである。
【0029】
本発明の他の目的は、EHEC O157:H7及び/又はEHEC O157:NMの定着等のウシにおけるEHEC O157の定着を排除(排出:eliminate)するのに有効なワクチンを提供することである。
【0030】
本発明の他の目的は、EHEC O157:H7及び/又はEHEC O157:NMの排泄等の、EHEC O157を環境へ排泄するウシの数を低減することである。
【0031】
本発明の他の目的は、EHEC O157:H7及び/又はEHEC O157:NMの排泄等の、感染ウシにより環境へ排泄されるEHEC O157の数を低減することである。
【0032】
本発明の他の目的は、EHEC O157:H7及び/又はEHEC O157:NMの排泄等の、EHEC O157が感染ウシにより環境へ排泄される時間を低減することである。
【0033】
本発明の他の目的は、他の抗EHEC O157剤への補助剤として有効なワクチンを提供することである。
【0034】
本発明の他の目的は、ウシにおけるEHEC O157の定着を低減するのに有効なワクチン接種スケジュールを提供することである。
【0035】
本発明の他の目的は、ウシによるEHEC O157の排泄を低減するのに有効なワクチン接種スケジュールを提供することである。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、腸管出血性大腸菌(EHEC)細胞培養液上清と免疫アジュバントとを含むワクチン組成物が提供される。ある実施形態では、EHECは、EHEC O157:H7及び/又はEHEC O157:NMである。その他の実施形態では、免疫アジュバントは、ミネラルオイル及びジメチルジオクタデシルアンモニウム・ブロマイド等の水中油型エマルジョンから構成される。更なる実施形態では、免疫アジュバントは、VSA3である。VSA3は、約20%(v/v)〜約40%(v/v)の濃度、好ましくは30%(v/v)の濃度で含有されることが可能である。
【0037】
更なる実施形態では、ワクチン組成物は、更に、EspA、EspB、EspD、及びTirからなる群から選択される1又は2以上の組換え又は精製EHEC分泌抗原を含む。他の実施形態では、EspA+Tirは、ワクチン組成物中において細胞タンパク質の少なくとも20%を占める。
【0038】
本発明の他の一実施形態によれば、分泌性腸管出血性大腸菌(EHEC)抗原に対する哺乳動物の免疫学的反応を惹起する方法が提供される。この方法は、EHEC細胞培養液上清を含む組成物の治療有効量を哺乳動物へ投与することから構成される。他の実施形態では、EHECは、EHEC O157:H7及び/又はEHEC O157:NMである。更なる実施形態では、哺乳動物は、人間、又はウシ等の反芻動物である。更なる実施形態では、上記組成物は、更に、例えばミネラルオイル及びジメチルジオクタデシルアンモニウム・ブロマイド等の水中油型エマルジョン等から構成される免疫アジュバントを含む。更なる実施形態では、当該免疫アジュバントは、VSA3である。上記組成物は、更に、EspA、EspB、EspD、及びTirからなる群から選択される1以上の組換え又は精製EHEC分泌抗原を含むことができる。更なる実施形態では、EspA+Tirは、上記組成物中において細胞タンパク質の少なくとも20%を占める。
【0039】
本発明の更に他の一実施形態によれば、分泌性腸管出血性大腸菌O157:H7(EHEC O157:H7)抗原に対する反芻動物の免疫学的反応を惹起する方法が提供される。この方法は、EHEC O157:H7細胞培養液上清及びVSA3を含む組成物の治療有効量を反芻動物へ投与することから構成される。他の実施形態では、VSA3は、約20%(v/v)〜約40%(v/v)、好ましくは約30%(v/v)の濃度で上記組成物中に含有される。
【0040】
本発明の更なる一実施形態によれば、EHEC細胞培養液上清及び免疫アジュバントを含む組成物の治療有効量を反芻動物へ投与することから構成される、反芻動物における腸管出血性大腸菌(EHEC)の定着を低減する方法が提供される。
【0041】
本発明の更に他の一実施形態によれば、EHEC細胞培養液上清及び免疫アジュバントを含む組成物の治療有効量を反芻動物へ投与することから構成される、反芻動物からの腸管出血性大腸菌(EHEC)の排泄を低減する方法が提供される。
【0042】
本発明の上記の各実施形態及び更に他の形態は、以下に示す詳細な説明及び図面を参照することにより明らかとなる。更に、より詳細な手順や組成物を記載している参考文献も以下に示してある。
【0043】
詳細な説明
本発明の実施には、特段の定めがない限り、当業者の通常の知識に含まれる分子生物学、微生物学、組換えDNA技術及び免疫学の従来の技術が使用されるものとする。このような技術は、各種文献に詳細に説明されている。例えば、サムブルックら(Sambrook, Fritsch & Maniatis)、 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Vols. I, II, and III, Second Edition (1989); パーバル(Perbal, B.)、 A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); 一連の Methods In Enzymology (S. Colowick and N. Kaplan eds., Academic Press, Inc.); 及び Handbook of Experimental Immunology, Vols. I-IV (D.M. Weir and C.C. Blackwell eds., 1986, Blackwell Scientific Publications)を参照されたい。
【0044】
A.定義
本発明を説明するにあたって、以下の用語を用いるが、これらの定義は、以下に示すとおりである。
【0045】
まず注意すべきことは、本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形(「a」、「an」、及び「the」)は、特段に明示しない限り複数の対象も意味するということである。従って、例えば、「EHEC細菌(an EHEC bacterium)」という記載は、2又は3以上の当該細菌等も意味するものとする。
【0046】
本書においては、用語EHEC「細胞培養液上清」又は「CCS」は、1以上のEHEC血清型の細胞培養液から得られる上清であって、EHEC菌体細胞ないし当該細胞の溶菌液は実質的に含まず、且つ増殖培地に分泌されたEHEC抗原の混合物を含む上清を意味するものとする。通常、EHEC「CCS」は、少なくとも分泌抗原EspA、EspB、EspD及びTir、及びそれらのフラグメント又は凝集体を含む。 本発明のCCSは、例えばEspF及びMAP等の他の分泌タンパク質、志賀毒素1及び2の一方又は両方、並びにIII型系によっては分泌されない約100kDaのタンパク質であるEspPも含み得る。EHEC感染症の緩和(lessen)ないし阻止、及び/又はEHECの定着の緩和ないし抑制を行うよう宿主の免疫反応を刺激する機能をCCSが維持する限り、タンパク質は、天然の形態、又は変性若しくは分解した形態で存在し得る。場合により、CCSには、例えば追加的なEspA、EspB、EspD及び/又はTir並びに他の分泌タンパク質の何れかのような追加の組換え又は精製分泌抗原を補充することも可能であり、及びインチミンを補充することも可能である。幾つかの実施形態では、EspA+Tirは、細胞培養液上清タンパク質の少なくとも20%を占める。
【0047】
本書においては、組換えEspA、組換えEspB、組換えEspD及び組換えTir等の「組換え」EHEC分泌タンパク質、並びに「組換えインチミン」は、当該タンパク質が少なくとも1つの特異的エピトープ又は活性を保持する限り、全長ポリペプチド配列、基準(参照)配列のフラグメント又は基準配列の置換、欠失及び/又は付加を意味するものとする。通常、基準配列の類似体は、全長基準配列に対し、少なくとも約50%の配列同一性、好ましくは少なくとも約75%〜85%の配列同一性、より好ましくは約90%〜95%以上の配列同一性を示す。大腸菌O157:H7ゲノムの完全配列(これは種々のO157:H7分泌タンパク質の配列を含む)については、例えば、GenBank登録番号AE005594、AE005595、AP002566、AE005174、NC_002695、NC_002655を参照されたい。幾つかの大腸菌血清型からのEspAの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、国際公開番号WO 97/40063、並びにGenBank登録番号Y13068、U80908、U5681、Z54352、AJ225021、AJ225020、AJ225019、AJ225018、AJ225017、AJ225016、AJ225015、AF022236及びAF200363を参照されたい。幾つかの大腸菌血清型からのTirの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、国際公開番号WO99/24576号、並びにGenBank登録番号AF125993、AF132728、AF045568、AF022236、AF70067、AF070068、AF013122、AF200363、AF113597、AF070069、AB036053、AB026719、U5904及びU59502を参照されたい。幾つかの大腸菌血清型からのインチミンの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、GenBank登録番号U32312、U38618、U59503、U66102、AF081183、AF081182、AF130315、AF339751、AJ308551、AF301015、AF329681、AF319597、AJ275089-AJ275113を参照されたい。幾つかの大腸菌血清型からのEspBの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、GenBank登録番号U80796、U65681、Y13068、Y13859、X96953、X99670、X96953、Z21555、AF254454、AF254455、AF254456、AF254457、AF054421、AF059713、AF144008、AF144009を参照されたい。幾つかの大腸菌血清型からのEspDの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、GenBank登録番号Y13068、Y13859、Y17875、Y17874、Y09228、U65681、AF054421及びAF064683を参照されたい。
【0048】
「相同性(ホモロジー)」とは、2つのポリヌクレオチド部分間又は2つのポリペプチド部分間におけるパーセント(で表した)類似性を意味する。2つのDNAないし2つのポリペプチド配列は、分子の所定の長さに亘って配列が少なくとも約80%〜約85%、好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%〜約98%の配列類似性を示すとき、互いに「実質的に相同」であるという。本書においては、実質的に相同とは、特定のDNAないしポリペプチド配列と完全な同一性を示す配列も意味するものとする。
【0049】
パーセント配列同一性は、配列を整列させ、当該整列させた2つの配列間でマッチングしている正確な数を数え、より短いほうの配列の長さで割り、その結果を100倍することにより、2つの分子間の配列情報を直接比較することによって決定することができる。このような分析を支援するために容易に入手可能なコンピュータプログラムを使用することができる。例えば、ALIGN, Dayhoff, M.O. in Atlas of Protein Sequence and Structure M.O. Dayhoff ed., 5 Suppl. 3:353-358, National biomedical Research Foundation, Washington, DCを使用することができるが、これは、ペプチド分析のための Smith and Waterman (1981) Advances in Appl. Math. 2:482-489 の局所的相同性アルゴリズムを採用している。塩基配列の同一性を決定するためのプログラムとしては、Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 (Genetics Computer Group, Madison, WIから入手可能) が利用できる。例えば、同様にSmith and Watermanアルゴリズムに基づくBESTFIT、FASTA及びGAPの各プログラムを利用できる。これらプログラムは、製造元が推奨しかつ上記Wisconsin Sequence Analysis Packageに記載されているデフォルト(規定値)のパラメータによって容易に使用することができる。例えば、基準(参照)配列に対する特定の塩基配列のパーセント同一性は、デフォルトのスコアリングテーブルと6ヶ所の塩基位置のギャップペナルティ(gap penalty)を用いるSmith and Watermanの相同性アルゴリズムによって決定することができる。
【0050】
また、相同性は、相同性領域間で安定な二重鎖を形成する条件下でポリヌクレオチドをハイブリダイズし、一本鎖特異的ヌクレアーゼによって切断(消化)し、切断されたフラグメントのサイズを決定することによっても決定することもできる。実質的に相同なDNA配列は、例えば、特定のシステムについて決められるストリンジェントな条件の下でのサザンブロット法によって同定することができる。適切なハイブリダイゼーションのための条件の決定は、当業者の通常の知識に属する。例えば、サムブルックら(上掲)、DNA Cloning(上掲)、Nucleic Acid Hybridization(上掲)を参照されたい。
【0051】
本書において、「ワクチン」とは、例えばIII型分泌EHEC抗原のようなEHEC抗原に対する免疫反応を刺激(惹起)するよう作用するCCS組成物を意味するものとする。免疫反応は、EHEC感染又はEHECの定着・排泄に対する完全な保護及び/又は治療を提供する必要はない。EHEC細菌の定着・排泄に対する部分的保護であっても、排泄と汚染肉生産が低減される場合は、有用である。場合によっては、ワクチンは、免疫反応を促進するため免疫アジュバントを含み得る。用語「アジュバント」は、特定の抗原又は抗原の組み合わせに対する免疫反応を促進するように非特異的態様で作用する剤であって、従って目的の抗原に対し十分な免疫反応を引き起こすための、所与の何れのワクチンにおける必要な抗原の量、及び/又は必要な接種の回数を低減するものを意味する。例えば、A.C. Allison J. Reticuloendothel. Soc. (1979) 26:619-630を参照されたい。このようなアジュバントについては、以下に詳細に説明する。
【0052】
本書において、「定着」とは、例えば反芻動物等の哺乳動物の腸管におけるEHECの存在を意味するものとする。
【0053】
本書において、「排泄」とは、糞便中のEHECの存在を意味するものとする。
【0054】
本書において、「治療量」、「有効量」、及び「〜に有効な量」とは、CCS中に存在する分泌抗原に対する免疫反応を惹起し、以って例えば反芻動物等の哺乳動物におけるEHEC感染症及び/又はEHECの定着の低減又は阻止、及び/又はEHECを排泄する動物の個体数の低減、及び/又は動物から排泄されるEHECの個数の低減、及び/又は動物によるEHEC排泄の時間(期間)の低減、をさせるために有効なワクチンの量を意味するものとする。
【0055】
本書において、「免疫化」又は「免疫する」とは、CCSの投与であって、当該CCSに存在する1又は2以上の分泌抗原に対する免疫学的反応を惹起するために、当該CCSが投与される動物の免疫システムを刺激するのに有効な量で、追加的な組換え又は精製EHEC抗原(例えばEspA、Tir、EspB、EspD及び/又はインチミン)の含有の有無に拘らずに行うCCSの投与を意味するものとする。
【0056】
用語「エピトープ」は、特定のB細胞及び/又はT細胞が反応する抗原又はハプテンの部位を意味するものとする。また、「エピトープ」は、「抗原決定因子(antigenic determinant)」ないし「抗原決定基(antigenic determinant site)」と同義である。
【0057】
組成物ないしワクチンへの「免疫学的反応」とは、目的の組成物ないしワクチンに対する細胞性及び/又は抗体媒介性免疫反応の宿主における形成を意味するものとする。「免疫学的反応」には、通常、1以上の以下の効果:目的の組成物ないしワクチンに含まれる1又は複数の抗原に対し特異的に形成される抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサT細胞、及び/又はキラーT細胞及び/又はγδT細胞の産生を含むが、これらに限定されない。宿主は、EHEC感染症が緩和(lessen)及び/又は阻止され、EHECの定着に対する抵抗性が腸に付与され、EHECを排泄する動物の個体数が低減され、動物によって排泄されるEHECの数が低減され、及び/又は動物によるEHECの排泄時間(期間)が低減されるような治療的又は保護的な免疫学的反応を示すことが好ましい。
【0058】
用語「免疫原性」タンパク質ないしポリペプチドは、上述した免疫学的反応を惹起するアミノ酸配列を意味するものとする。本書においては、「免疫原性」タンパク質ないしポリペプチドは、問題の特定のEHECタンパク質の全長配列、そのアナログ、凝集体、又はその免疫原性フラグメントを含むものとする。「免疫原性フラグメント」は、1又は2以上のエピトープを含みかつ従って上述の免疫学的反応を惹起する分泌EHECタンパク質のフラグメントを意味するものとする。このようなフラグメントは、当業者の通常の知識に属する非常に多くのエピトープマッピング技術の何れを用いても同定することができる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66 (Glenn E. Morris, Ed., 1996) Humana Press, Totowa, New Jerseyを参照されたい。例えば、直鎖状のエピトープは、固相支持体(solid support)上で多数のペプチド(これは、タンパク質分子の部分に相当する)を同時に合成し、該ペプチドを該支持体に付着させたまま該ペプチドを抗体と反応させることによって決定することができる。このような技術は、当業者の通常の知識に属しており、例えば、米国特許第4,708,871号、 Geysen et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3998-4002、Geysen et al. (1986) Molec. Immunol. 23:709-715を参照されたい。同様に、高次構造を有するエピトープも、例えばX線結晶学及び二次元核磁気共鳴を用いアミノ酸の空間的な配座(立体構造)を決定することによって容易に同定することができる。例えば、Epitope Mapping Protocols(上掲)を参照されたい。また、タンパク質の抗原性領域は、例えばOxford Molecular Groupから入手可能なソフトウェアプログラムOmiga version 1.0を用いて計算されるプロット等の標準的な抗原性(antigenicity)及び疎水性親水性指標(hydropathy)プロットによって同定することができる。このコンピュータプログラムは、抗原性プロフィールを決定するためにHopp/Woods法、Hopp et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA (1981) 78:3824-3828 を使用し、疎水性親水性指標プロットのためにKyte-Doolittle技術、Kyte et al., J. Mol. Biol. (1982) 157:105-132を使用する。
【0059】
免疫原性フラグメントは、本発明の目的のためには、通常、親EHEC分泌タンパク質分子の少なくとも約3個のアミノ酸、好ましくは少なくとも約5個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも約10〜約15個のアミノ酸、最も好ましくは25個又はそれ以上のアミノ酸を含む。フラグメントの長さに関しては決定的な上限はなく、フラグメントは、タンパク質配列のほぼ全長、或いは特定のEHEC分泌タンパク質の2以上のエピトープを含む融合タンパク質でさえも含むことができる。
【0060】
「天然の」タンパク質ないしポリペプチドとは、タンパク質の自然発生源から単離されるタンパク質ないしポリペプチドを意味する。「組換え」ポリペプチドとは、組換えDNA技術によって生産される、すなわち目的のポリペプチドをコードする外来DNA構築物が導入された細胞によって生産されるポリペプチドを意味するものとする。「合成」ポリペプチドとは、化学的合成法によって生産されるポリペプチドを意味するものとする。
【0061】
用語「治療(treatment)」は、本書においては、(i)感染又は再感染の阻止(予防)、又は(ii)目的の感染症(疾病)の症状の緩和ないし解消(治療)を意味するものとする。
【0062】
「哺乳動物被検体(mammalian subject)」は哺乳類(哺乳綱)の何れのメンバーをも意味し、人間、及び他の全ての乳腺を有する動物(雌雄を問わない)、例えば、ウシ、ブタ、Ovis(ヒツジ及びヤギ)種等を含む反芻動物を含むがこれらに限定されない。本書では、「哺乳動物被検体」を特定の年齢に限定して用いない。従って、成体、新生児、及び胎児の何れもこの語に含まれる。
【0063】
B.一般的方法
本発明の中核をなすのは、EHEC分泌抗原を含むEHEC培養物に由来する細胞培養液上清が、投与される動物において免疫反応を引き起こし、以って例えば定着に対する保護のようなEHEC感染に対する保護作用をなすことを明らかにすることである。幾つかの実施形態では、組成物は、EspA、EspB、EspD及び/又はTir等を含むEHEC分泌抗原の混合物を含むがこれらに限定されない。また、本発明のCCSは、例えばEspF、MAP、志賀毒素1及び2の一方又は両方、並びにIII型分泌系によっては分泌されないほぼ100kDaのタンパク質であるEspP等の他の分泌タンパク質も含み得る。他の実施形態では、CCSは、追加的な組換え又は精製EHEC抗原、例えば、追加的なEspA、EspB、EspD、Tir、インチミン等が補充される。幾つかの実施形態では、EspA + Tirは、細胞培養液上清タンパク質の少なくとも20%を占める。組成物は、複数のEHEC生物に対する保護作用を奏するため2以上のEHEC血清型に由来する細胞培養液上清(複数)と追加的なアジュバント(複数)を含むこともできる。更に、医薬的に受容可能なアジュバントを、細胞培養液上清と共に投与することも可能である。組成物は、1又は2以上の分泌抗原に対する免疫反応を惹起し、以ってEHEC感染を低減又は排除(eliminate)するのに有効な量が投与される。場合によっては、動物におけるEHECの定着は、低減又は排除される。好ましい実施形態では、動物は、ウシ、ヒツジ又はその他の反芻動物である。特に好ましい実施形態では、細胞培養液上清は、EHEC O157:H7又はEHEC O157:NMの細胞培養物に由来する。
【0064】
CCSによる免疫は、免疫された動物の免疫システムを刺激し、例えばEspA、EspB、EspD、Tir等の1以上の分泌抗原に対する抗体を産生させ、EHECが腸管上皮細胞に付着するのを阻止し、EHECの定着を阻害し、以って動物によるEHECの排泄を低減する。このようなEHECの排泄の低減により、EHECによる食物や水の汚染は低減し、人間に対しEHECにより引き起こされる感染症(疾病)も低減される。更に、EHECの定着及びウシによるEHECの排泄を阻止、低減及び排除するというCCS免疫の予期しなかった驚くような能力は、医学分野において長期に亘って満たされなかったニーズに応え、人間に対する重要な便益を提供する。
【0065】
更に、本発明のCCSは、例えば人間等の他の哺乳動物におけるEHEC感染の治療又は阻止に利用することができる。人間に対して用いられる場合、CCSは、毒性を低減するため志賀毒素1及び2の一方又は両方をノックアウトすることにより作られた突然変異EHECから作ることができる。
【0066】
上述の通り、CCSの治療上の有効性は、1以上の組換え又は精製分泌抗原を添加することによって増強することができる。例えば、組換え又は精製EspA、EspB、EspD、Tir等、それらのフラグメント及び/又はそれらのアナログを添加することによって当該有効性を増強することができる。また、インチミンを添加することも可能である。CCSの治療有効性を増強する他の方法としては、CCSと天然又は合成担体との複合体を形成し、他の抗EHEC剤の投与の前/同時/後に当該CCSを投与する方法があるが、これに限定されない。当該剤としては、生物学的、生物工学的、化学的、核酸ベース的及び組換えタンパク質的抗EHEC剤等が含まれる。
【0067】
宿主内で定着するためにEspA、Tir等のタンパク質を必要とするEHECの血清型以外の病原性細菌に由来するCCSも、動物の免疫システムを刺激し、分泌EHEC抗原に対する抗体を産生させて、細菌が動物の腸管上皮細胞に結合することを低減するために使用することができる。このような細菌種としては、シトロトバクテル・ロデンチウム(Citrotobacter rodentium)が含まれるが、これに限定されない。
【0068】
本発明で使用されるCCSは、どの血清型のEHECの培養物からも取得することができる。当該EHEC血清型には、血清型O157、O158、O5、O8、O18、O26、O45、O48、O52、O55、O75、O76、O78、O84、O91、O103、O104、O111、O113、O114、O116、O118、O119、O121、O125、O28、O145、O146、O163、O165が含まれるがこれらに限定されない。このようなEHEC血清型は、感染動物の血清から容易に取得できる。EHECの単離方法は、当業者の通常の知識に属する。例えば、Elder et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000) 97:2999; Van Donkersgoed et al., Can. Vet. J. (1999) 40:332; Van Donkersgoed et al., Can. Vet. J. (2001) 42:714を参照されたい。 このような方法は、通常、セフィキシム及びテルライトを補充したソルビトール・マッコンキー(MacConkey)寒天培地上での直接的なプレーティングか、免疫磁気濃縮後当該同じ培地上でプレーティングすることを必要とする。更に、CCSは、毒性を低減するため志賀毒素1及び/又は2の発現をノックアウトするよう遺伝子操作されたEHEC血清型から取得することもできる。
【0069】
CCSは、通常、III型抗原分泌に有利な条件下において好適な培地でEHEC細菌を培養することによって作ることができる。EHEC細菌を培養するための好適な培地及び条件は、当業者の通常の知識に属するものであり、例えば、米国特許第6,136,554号及び第6,165,743号、並びにLi et al., Infec. Immun. (2000) 68:5090-5095、 Fey et al., Emerg. Infect. Dis. (2000) Volume 6に記載されている。CCSを取得するための特に好ましい方法によれば、まず、細菌をLB(Luria-Bertani)培地で約8〜48時間、好ましくは約12〜24時間増殖させ、この培地を、20〜100mM、好ましくは30〜50mM、最も好ましくは約44mMのNaHCOと、4〜20mM、好ましくは5〜10mM、最も好ましくは約8mMのMgSOと、0.1〜1.5%、好ましくは0.2〜1%、最も好ましくは0.4%のグルコースと、0.05〜0.5%、好ましくは0.07〜0.2%、最も好ましくは約0.1%のカザミノ酸とを補充したM−9最小培地で、約1:5〜1:50、好ましくは約1:5〜1:25、より好ましくは約1:10に希釈する。培地は、通常、37℃、2〜10%CO、好ましくは約5%COで、約600nmに対し吸光度0.7〜0.8に維持される。そして遠心機によって細胞を全て除去し、透析、限外濾過等によって、例えば10〜1000倍又はそれ以上(例えば100倍)に上清を濃縮する。総タンパク質は、当業者の通常の知識に属する方法によって容易に決定することができる。
【0070】
上述の通り、CCSは、例えばEspA、EspB、EspD及び/又はTir等の追加的なEHEC分泌タンパク質で補充することができる。また、インチミンも添加することができる。これらのタンパク質は、当業者の通常の知識に属する組換え技術を用いて作ることができる。例えば、代表的な組換えEHEC分泌タンパク質の生産について記載されている国際公開WO97/40063号及びWO99/24576号を参照されたい。特に、種々の血清型に由来するEspA、EspB、EspD、Tir及びインチミンの配列は、既知であり且つ文献にも記載されている。例えば、種々のO157:H7分泌タンパク質の配列を含む大腸菌O157:H7ゲノムの完全配列についてGenBank登録番号AE005594、AE005595、AP002566、AE005174、NC_002695、NC_002655を参照されたい。また、幾つかの大腸菌血清型由来のEspAの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、国際公開WO97/40063号、並びにGenBank登録番号Y13068、U80908、U5681、Z54352、AJ225021、AJ225020、AJ225019、AJ225018、AJ225017、AJ225016、AJ225015、AF022236及びAF200363を参照されたい。また、幾つかの大腸菌血清型由来のTirの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、国際公開WO99/24576号、並びにGenBank登録番号AF125993、AF132728、AF045568、AF022236、AF70067、AF070068、AF013122、AF200363、AF113597、AF070069、AB036053、AB026719、U5904及びU59502を参照されたい。また、幾つかの大腸菌血清型由来のインチミンの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、GenBank登録番号U32312、U38618、U59503、U66102、AF081183、AF081182、AF130315、AF339751、AJ308551、AF301015、AF329681、AF319597、AJ275089-AJ275113を参照されたい。また、幾つかの大腸菌血清型由来のEspBの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、GenBank登録番号U80796、U65681、Y13068、Y13859、X96953、X99670、X96953、Z21555、AF254454、AF254455、AF254456、AF254457、AF054421、AF059713、AF144008、AF144009を参照されたい。また、幾つかの大腸菌血清型由来のEspDの塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、GenBank登録番号Y13068、Y13859、Y17875、Y17874、Y09228、U65681、AF054421及びAF064683を参照されたい。
【0071】
これらの配列はオリゴヌクレオチドプローブをデザインするために用いることができ、他の大腸菌血清型からの遺伝子のためのゲノム又はcDNAライブラリーのスクリーニングに用いることができる。オリゴヌクレオチドプローブやDNAライブラリーを調製することと同様に、核酸ハイブリダイゼーションによりこれらをスクリーニングするための基本的な戦略は、当該分野の通常の知識を有する者にとって周知である。例えば、DNA Cloning: Vol. I(上掲)、Nucleic Acid Hybridization(上掲)、Oligonucleotide Synthesis(上掲)、Sambrook et al.(上掲)を参照されたい。スクリーニングされたライブラリーからの1つのクローンが陽性ハイブリダイゼーションによって同定されたならば、特定のライブラリー挿入断片がIII型遺伝子又はそのホモログを含んでいることは、制限酵素分析やDNA塩基配列の決定により確認することができる。次いで、標準的な技法を用いて種々の遺伝子をさらに単離することができ、そして、所望により、PCR法又は制限酵素により完全長配列の一部を欠失させることができる。
【0072】
同様に、フェノール抽出等の公知の方法を用いて細菌から直接遺伝子を単離することができ、当該配列は所望の変更を加えるためにさらに操作される。DNAの取得、及び単離に用いられる種々の技法については、例えば、Sambrook et al.(上掲)の既述を参照されたい。あるいは、目的タンパク質をコードするDNA配列は、クローン化するよりむしろ合成により調製することができる。特定のアミノ酸配列に適したコドンを用いてDNA配列をデザインすることができる。一般的に、その配列が発現のために用いられるときは、意図された宿主にとっての好ましいコドンを選択することができるであろう。完全な配列は、標準的な方法によって調製され、重複(オーバーラップ)した複数のオリゴヌクレオチドから組立て、完全なコーディング配列へと構築することができる。例えば、Edge (1981) Nature 292:756; Nambair et al. (1984) Science 223:1299; Jay et al. (1984) J. Biol. Chem. 259:6311を参照されたい。
【0073】
所望のタンパク質に対するコーディング配列が調製、又は単離されたならば、それらは任意の好ましいベクター又は複製単位(レプリコン)へクローン化され得る。数多くのクローニングベクターは当業者に公知であり、適切なクローニングベクターを見出すのは、選択の問題である。クローン化のための組換えDNAベクター及びそれらを形質転換できる宿主細胞の具体例は、バクテリオファージλ(大腸菌)、pBR322(大腸菌)、pACYC177(大腸菌)、pKT230(グラム陰性細菌)、 pGV1106(グラム陰性細菌)、pLAFR1(グラム陰性細菌)、pME290(非大腸菌グラム陰性細菌)、pHV14(大腸菌及び枯草菌)、pBD9 (バチルス)、pIJ61(ストレプトマイセス)、pUC6(ストレプトマイセス)、YIp5(酵母)、YCp19(酵母)及びウシパピローマウイルス(哺乳類細胞)である。サムブルックら(上掲)、DNA Cloning(上掲)、パーバル(上掲)を参照されたい。
【0074】
遺伝子はプロモーター、リボソーム結合部位(細菌での発現の場合)、及び、任意に、オペレーター(以下、「調節」領域と総称する)の制御下に配置することができ、それにより所望のタンパク質をコードしているDNA配列は、この発現構築体を含むベクターによって形質転換された宿主細胞中でRNAへ転写される。当該コーディング配列はシグナルペプチド又はリーダー配列を含んでもよく、又は含まなくてもよい。リーダー配列は、翻訳後のプロセッシング段階で宿主により除去され得る。例えば、米国特許第4,431,739号、第4,425,437号、第4,338,397号を参照されたい。
【0075】
宿主細胞の増殖に関連して当該タンパク質配列の発現を制御する他の制御配列もまた好ましい。これらの制御配列は当業者に公知であり、例えば、制御物質の存在を含む化学的又は物理的刺激に応答して遺伝子の発現をオン又はオフにする例が挙げられる。他のタイプの制御領域、例えば、エンハンサー配列もまたベクター内に存在してもよい。
【0076】
調節配列及び他の制御配列は、上述したクローニングベクターのようなベクターへ挿入される前にコーディング配列に連結され得る。あるいは、コーディング配列は、すでに調節配列と適当な制限酵素切断部位を備えた発現ベクターへ直接クローン化され得る。
【0077】
ある場合には、適切な向きで調節配列に連結されるようにコーディング配列を改変する必要がある。タンパク質の変異体又は類似体(アナログ)を製造することもまた望ましい。変異体又は類似体は、当該タンパク質をコードする配列の一部を欠失するか、1つの配列を挿入するか、及び/又は当該配列内の1以上のヌクレオチドを置換することによって調製され得る。部位特異的変異導入法のようなヌクレオチド配列を改変する技術は、例えば、サムブルックら(上掲)、DNA Cloning(上掲)、Nucleic Acid Hybridization(上掲)に記載されている。
【0078】
次いで、当該発現ベクターが適切な宿主細胞を形質転換するために用いられる。数多くの哺乳動物細胞株が技術的に知られ、これらはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手可能な不死化細胞株を含む。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓(COS)、ヒト肝細胞性ガン細胞(例えば、Hep G2)、Madin-Darbyウシ腎臓(「MDBK」)細胞のみならずその他の細胞があるが、これらに限定されない。同様に、大腸菌(E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、及び連鎖球菌(Streptococcus spp.)等の細菌宿主も本発明の発現構築物として用いられるであろう。本発明に有用な酵母宿主は、とりわけ、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・マルトーサ(Candida maltosa)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、Kluyveromyces fragilis、 Kluyveromyces lactis、 Pichia guillerimondii、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)及び Yarrowia lipolyticaが含まれる。バキュロウイルス発現ベクターを使用する昆虫細胞には、とりわけ、 Aedes aegypti、 Autographa californica、 Bombyx mori、 Drosophila melanogaster、 Spodoptera frugiperda, 及び Trichoplusia niが含まれる。
【0079】
発現システム及び選択された宿主にも依存するが、本発明のタンパク質は、目的タンパク質が発現されるような条件下で、上述した発現ベクターにより形質転換された宿主細胞を培養することによって製造される。次いで、当該タンパク質は宿主細胞から単離、精製される。適切な増殖条件及び回収方法の選択は当該技術分野における通常の技術である。
【0080】
本発明のタンパク質は、公知のアミノ酸配列や目的遺伝子のDNA配列から推測されるアミノ酸配列を用いて、固相ペプチド合成法等の化学合成法により製造することもできる。このような種々の方法は当業者にとって公知であり、例えば、固相ペプチド合成技術としては、J.M. Stewart and J. D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd Ed., Pierce Chemical Co., Rockford, IL (1984)及び G. Barany and R. B. Merrifield, The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, editors E. Gross and J. Meienhofer, Vol. 2, Academic Press, New York, (1980), pp. 3-254を、及び、古典的な液相合成方法としては、M. Bodansky, Principles of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Berlin (1984) and E. Gross and J. Meienhofer, Eds., The Peptides: Analysis, Synthesis,
Biology, 上掲, Vol. 1を参照されたい。ペプチドの化学合成は、当該抗原の小さな断片が目的とする被検体における免疫応答を引き起こすことができる場合には好ましいであろう。
【0081】
上記細胞培養液上清及び、所望により、さらなる組換え及び/又は精製タンパク質が製造されたならば、それらは哺乳動物被検体へ与えるための組成物へと製剤化される。このCCSは、単独で、あるいは医薬的に許容される溶媒又は賦形剤と混合されて投与される。好ましい溶媒としては、例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノール等、及びそれらの組合わせである。加えて、当該溶媒は少量の補助剤を含んでもよく、この補助剤は、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤、又はワクチン組成物の場合のアジュバント等であり、ワクチンの効果を増強する。好ましいアジュバントについては、さらに以下に説明する。本発明の組成物は、薬剤、サイトカイン、又は他の生物学的応答の修飾因子等の補助的な物質を含んでもよい。
【0082】
上記に説明したように、本発明のワクチン組成物は、1以上のEHEC抗原の免疫原性をさらに向上させるためのアジュバントを含んでもよい。このようなアジュバントは任意の化合物又はEHEC抗原若しくは抗原の組合わせに対する免疫応答を増強するように作用する化合物を含み、これによりワクチンに必要な抗原量、及び/又は十分な免疫応答を起こすために必要な投与回数を減少させることができる。アジュバントは、例えば、乳化剤、ムラミルジペプチド、アブリジン、水酸化アルミニウム、キトサンをベースとするアジュバント、及び任意のサポニン等の水溶性アジュバント、オイル、及びアンフィジェン、リポ多糖(LPS)細菌細胞壁抽出物、細菌DNA、合成オリゴヌクレオチド及びそれらの組み合わせ(Schijns et al., Curr. Opi. Immunol. (2000) 12:456)、抗酸菌(Mycobacterial phlei (M. phlei) 細胞壁抽出物(MCWE)(U.S. Patent No.4,744,984)、 抗酸菌DNA (M-DNA)、抗酸菌DNAと抗酸菌細胞壁複合体(MCC)等の、その他の公知の物質を含んでもよい。例えば、ここで乳化剤として役立つであろう化合物は天然の及び合成の乳化剤を含み、陰イオン性のみならず、陽イオン性及び非イオン性化合物である。合成化合物の中で、陰イオン性乳化剤は、例えば、ラウリン酸及びオレイン酸のカリウム、ナトリウム及びアンモニウム塩、脂肪酸のカルシウム、マグネシウム及びアルミニウム塩(すなわち、金属セッケン)、及びラウリル硫酸ナトリウム等の有機スルホン酸塩である。合成陽イオン性化合物は、例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(cetyltrimethylammonium bromide)を含み、一方、合成非イオン性化合物には、グリセロールエステル(例えば、グリセリル・モノステアリン酸(glyceryl monostearate))、ポリオキシエチレングリコールエステル又はエーテル、並びにソルビタン・脂肪酸エステル(例えば、ソルビタン・モノパルミチン酸(sorbitan monopalmitate))及びそれらのポリオキシエチレン誘導体(例えば、ポリオキシエチレン・ソルビタン・モノパルミチン酸(polyoxyethylene sorbitan monopalmitate))が例示される。天然の乳化剤には、アカシア(アラビアゴム)、ゼラチン、レシチン及びコレステロールが含まれる。
【0083】
その他の適したアジュバントは、例えば、単一の油、油混合物、油中水型エマルジョン(乳剤)、又は水中油型エマルジョン(乳剤)等の油成分から構成される。油は、ミネラルオイル(鉱油)、植物油、又は動物油でありうる。ミネラルオイル、又は油成分がミネラルオイルである水中油型エマルジョンが好ましい。これについて、「ミネラルオイル(鉱油)」とは、ペトロラタム(petrolatum)から蒸留技術により得られる液体の炭化水素混合物と定義され、「流動パラフィン(liquid paraffin)」、「流動ペトロラタム(liquid petrolatum)」及び「ホワイト油(white mineral oil)」と同義語である。この用語はまた、「軽油(light mineral oil)」すなわち、「ペトロラタムの蒸留によって同様に得られるがミネラルオイルよりも若干低い比重を有する油」をも含むものである。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(上掲)を参照されたい。特に好ましい1つの油成分は、商品名「EMULSIGEN PLUS」としてネブラスカ州ラルストン(Ralston, Nebraska)のMVP Laboratoriesから販売され、軽油と0.05%ホルマリン及び防腐剤としての30μg/mlのゲンタマイシンを含む水中油型エマルジョンである。適切な動物油には、例えば、タラの肝油、オヒョウ油( halibut oil)、ニシン油(menhaden oil)、オレンジラフィー油(orange roughy oil)及びサメの肝油が含まれ、これらはすべて市販品として入手可能である。適切な植物油には、カノーラ油 (canola oil)、扁桃油、綿実油、トウモロコシ油、オリーブ油、ピーナツ油、ベニバナ油(safflower oil)、ゴマ油、大豆油等を含むがこれらに限定されない。
【0084】
あるいは、数多くの脂肪族窒素性塩基がワクチン製剤のアジュバントとして使用され得る。例えば、公知の免疫アジュバントは、アミン類、4級アンモニウム化合物、グアニジン、ベンザミジン及びチオウレア類を含む(Gall, D.
(1966) Immunology 11:369-386)。具体的な化合物には、dimethyldioctadecyl-ammonium bromide (DDA)(available from Kodak) and N,N-dioctadecyl-N,N-bis(2-hydroxyethyl)propanediamine ("avridine")が含まれる。免疫アジュバントとしてのDDAの使用は、例えば、the Kodak Laboratory Chemicals Bulletin 56(1): 1-5 (1986); Adv. Drug Deliv. Rev. 5(3):163-187 (1990); J. Controlled Release 7:123-132 (1988); Clin. Exp. Immunol. 78(2):256-262 (1989); J. Immunol. Methods 97(2):159-164 (1987); Immunology 58(2):245-250 (1986); and Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 68(3):201-208 (1982)に記載されている。アブリジンもまた周知のアジュバントである。例えば、Wolff, IIIらに与えられた米国特許第4,310,550号を参照されたい。ここには、一般名としてのN,N-higher alkyl-N',N'-bis(2-hydroxyethyl)propane diamines、及び具体的にはアブリジンのワクチンアジュバントとしての使用について記載されている。Babiukに与えられた米国特許第5,151,267号、及びBabiuk et al. (1986) Virology 159:57-66もまたワクチンアジュバントとしてのアブリジンの使用に関する。
【0085】
ここでの使用に特に好ましいものは、DDAを含み、EMULSIGEN PLUSアジュバントの改良型で「VSA3」として知られているアジュバントである(米国特許第5,951,988号参照)。
【0086】
CCSワクチン組成物は、CCS製剤とアジュバントとを均一且つ親密に会合させることにより調製することができ、それには当業者に周知である混合、超音波処理、及び微小流体化を含む技法が用いられるがこれらに限定されない。アジュバントは、好ましくはワクチンの約10〜50%(v/v)、より好ましくは約20〜40%(v/v)及び最も好ましくは約20〜30%又は35%(v/v)又はこれらの範囲内の整数%含むであろう。
【0087】
本発明の組成物は、通常、注射剤として、液体溶液又は懸濁液の何れか、又は注射の前に液体溶媒中に溶液又は懸濁液とするに適した固形の形態として調製される。当該製剤はまた、乳化された、又は有効成分がリポソーム媒体又は他の持続する運搬のために用いられる特定の担体(carriers)に封入された(encapsulated)固形の形態として調製されてもよい。例えば、当該ワクチンは油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン、部位特異的エマルジョン、長期滞在型エマルジョン、粘着性エマルジョン、マイクロエマルジョン、ナノエマルジョン、リポソーム、微粒子、ミクロスフェア、ナノスフェア、ナノ粒子及び種々の天然又は合成ポリマー、例えば、エチレンビニルアセテートコポリマーやHytrel(登録商標)コポリマー等の非再吸収性不浸透性ポリマー、ハイドロゲル等の膨潤性ポリマー、又はコラーゲンや吸収性縫合糸を製造するために用いられるような特定のポリ酸又はポリエステル等の再吸収性ポリマーの形態であってもよく、これらはワクチンの持続的な放出を可能とする。
【0088】
さらに、ポリペプチドは中性の、又は塩の形態の何れかで組成物へ製剤化することができる。医薬的に許容される塩には、酸付加塩(有効成分のポリペプチドのアミノ基が遊離の形態で)を含み、これらは、例えば、塩酸又はリン酸等の無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸で形成される。遊離のカルボキシル基から形成される塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、又は水酸化第二鉄等の無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカニン等の有機塩基に由来してもよい。
【0089】
このような剤形の実際の調製方法は、当業者にとって公知であるか、又は明白であろう。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 18th edition, 1990を参照されたい。
【0090】
当該組成物は、分泌されたEHEC抗原の有効量を含むように処方され、その厳密な量は当業者によって容易に決定することができる。当該投与量は治療される動物及び当該動物の免疫系の抗体合成能力に依存する。投与される成分又は剤形は治療される被検動物に所望の状態を達成するに十分な1以上の分泌されたEHEC抗原の一定量を含む。本発明の目的のための、組換え及び/又は精製された分泌EHEC抗原を添加又は無添加のCCSを含有するワクチンの1つの治療上の有効量は、約0.05〜1500μgの分泌されたEHECタンパク質、好ましくは約10〜1000μgの分泌されたEHECタンパク質、より好ましくは約30〜500μgの、最も好ましくは約40〜300μgの分泌されたEHECタンパク質、又はこれらの範囲内の整数を含む。EspA+Tirだけでなく、他のEHEC抗原は全CCSタンパク質の約10%から50%含まれても良く、例えば、約15%から40%及び好ましくは約15%から25%である。もし、組換えEspA+組換えTirを補充する場合は、当該ワクチンは約5〜500μgのタンパク質、より好ましくは約10〜250μg及び最も好ましくは約20〜125μg含むことができる。
【0091】
投与の経路は、経口、局所、皮下、筋肉内、静脈内の、皮下の、皮内の、経皮的な及び皮下を含むがこれらに限定されない。投与の経路によって投与量あたりの用量は、好ましくは約0.001〜10ml、より好ましくは約0.01から5ml及び最も好ましくは約0.1〜3mlである。ワクチンは1回の投与により投与することができ、又は複数回投与(ブースト)により1つの予定に従い、そして年齢、体重及び被検体動物の状態に適した期間にわたって、特定のワクチン製剤及び投与経路で投与することができる。
【0092】
如何なる適切な医薬投与手段も当該ワクチンを脊椎動物へ投与することができる。例えば、従来の注射針、ばね、又は圧縮ガス(空気)インジェクター(U.S. Patent Nos. 1,605,763 to Smoot; 3,788,315 to Laurens; 3,853,125 to Clark et al.; 4,596,556 to Morrow et al.; and 5,062,830 to Dunlap)、液体ジェットインジェクター(U.S. Patent Nos. 2,754,818 to Scherer; 3,330,276 to Gordon; and 4,518,385 to Lindmayer et al.)、及び粒子インジェクター(U.S. Patent Nos. 5,149,655 to McCabe et al. and 5,204,253 to Sanford et al.)はすべて当該組成物の投与に適当である。
【0093】
ジェットインジェクターを用いる場合は、液体ワクチン組成物の1回のジェットを高圧、高速条件下、例えば、1200〜1400PSIで噴出され、それによって皮膚に穴をあけ、免疫に適した深さまで貫通する。
【0094】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、同時に、その範囲の如何なる限定をも構成するものではない。それどころか、それらの種々の他の実施形態、改変、及び均等物であって、その記載を読むことによって本発明の精神及び/又は添付請求の範囲から逸脱することなく当業者に示唆するものを当然含むと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離されたCCSタンパク質の電気泳動パターンである。
【図2】ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離されたEspA、Tir、EspB、及びインチミンの電気泳動パターンである。
【図3】CCSワクチンで免疫し、続いてEHEC O157:H7を投与したウシによるEHEC O157:H7の糞便からの排泄量である。
【図4】以前に感染したことのあるウシにおける、EHEC O157:H7の糞便からの排泄の再活性化である。
【図5】組換えEspA+Tirワクチン、及び組換えEspB+インチミンワクチンによる免疫化に対する血清学的反応である。
【図6】組換えEspA+Tirワクチン、及び生理食塩水ワクチンによる免疫後の排泄糞便中のEHEC O157:H7である。
【図7】実施例6のワクチン試験における大腸菌O157:H7を排泄する動物の個体数の経時変化。生理食塩水中に再懸濁された糞便試料を、セフィキシム及びテルライトを補充したソルビトール・マッコンキー(Sorbitol MaConkey)寒天培地に直接プレーティングすることにより菌体を検出した。棒グラフの塗り潰した部分はコントロールのグループであり、斜線部分はEHECワクチン投与グループである。
【図8】EHEC分泌タンパクに対するワクチン接種した動物の血清のイムノブロット分析。各ブロットには、野生型大腸菌O157:H7(EHEC)、III型分泌変異体(ΔSepB)、Tir変異体(ΔTir)及び精製グルタチオン-s−トランスフェラーゼ:Tir融合タンパク(GST−Tir)からの分泌タンパクが含まれる。各タンパクは、SDS−10%PAGEによって分離し、クーマシーブルーで染色し(図8A、左上のパネル)、又はニトロセルロースに移し、3種類のワクチン処方物によってそれぞれ免疫された動物の代表血清で標識した(図8A、上の(右側の3つの)各パネル)。下の4つのパネル(図8B)は、試験開始後0日、21日、25日及び49日に採取した、EHECワクチンが投与された1匹の代表動物の血清で標識したものに関する。
【図9】実施例6の試験の大腸菌O157:H7を排泄した動物の各グループのパーセント(図9A)及び回収菌体総数(図9B)の経時変化。J. Van Donkersgoed et al., Can. Vet. J. (2001) 42:714に記載されている免疫磁気濃縮後、セフィキシム及びテルライトを補充したソルビトール・マッコンキー(Sorbitol MaConkey)寒天培地に糞便をプレーティングすることにより菌体を検出した。図9Aの棒グラフの塗り潰し部分は、コントロール、斜線部分は、EHECワクチン、空白部分は、ΔTirワクチンを表す。図9Bの■はコントロール、●はEHECワクチン、▲はΔTirワクチンを表す。
【実施例1】
【0096】
細胞培養液上清(CCS)の調製
野生型EHEC O157:H7をCCSタンパク質の合成が最大となる条件で増殖させた(Li et al., Infect. Immun. (2000) 68:5090)。簡単に説明すると、EHEC O157:H7の一晩静置培養液は、37℃(±5%炭酸ガス)で一晩LB(Luria-Betani)培地で増殖させた。この培養液を0.1%カザミノ酸、0.4%グルコース、8mM硫酸マグネシウム(MgSO)及び44mM炭酸水素ナトリウム(NaHCO)を添加したM9最小培地で1:10に希釈した。培養液は、5%炭酸ガスの下37℃で静置し600nmの吸光度が0.7〜0.8になるまで培養した(6〜8時間)。4℃で、8000回転、20分間遠心分離することにより細菌を除去した。この上清を限外ろ過により100倍に濃縮し、全タンパク質量をBCA(bicinchonic acid)プロテインアッセイ法で決定した。
【0097】
図1は、SDS−10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)と、続いてクーマシーブルー染色によって得られた分子量マーカー(レーン1)及び典型的なCCSタンパク質パターン(レーン2)を示す。EspA(25kD)、EspB/EspD(40kD)、分解されていないTir(70kD)及び分解されたTir(55kD)の位置を示した。HP Scanjet 5100C及びID softwareプログラムを用いた濃度測定分析により決定した結果、EspAは、分解されていないTirの約5%、分解されたTirの約20%、及び全タンパク質の約6%であった。しかしながら、クーマシーブルーで染色したSDS−ポリアクリルアミドゲルの濃度測定により決定されたタンパク質の割合は、バックグラウンド染色の変動や、クーマシーブルー染色の取り込みの変動や、バンドによる濃さのばらつきや、その他当業者に公知の種々の因子のために正確ではない。
【実施例2】
【0098】
組換えタンパク質の調製
EspA、EspB、インチミン及びTirをコードする遺伝子を単離した(Li et al., Infect. Immun. (2000) 68:5090)。EHEC O157:H7の臨床分離株をDNAの供給源として用いた。EspA、EspB、Tir、及びインチミンの280個のカルボキシ末端アミノ酸をコードするeae領域は、染色体DNAからPCRにより増幅し、単一の制限酵素切断部位を導入して適当なプラスミドにクローン化した。生成したプラスミドを切断し、ヒスチジンタグ融合物が生成するように連結した。プラスミドは発現用大腸菌株に電気的に導入し、この大腸菌を増殖させた(Ngeleka et al., Infect. Immun. (1996) 64:3118)。遺伝子発現はIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトプラノシド)による誘導により、Tacプロモーターを用いて作動させた。細菌はペレット化し、トリス緩衝化生理的食塩水中に再懸濁し、超音波処理により溶菌させた。溶菌液は不溶物を除去するために遠心分離し、ヒスチジンタグを含むタンパク質を特異的に結合するニッケルアフィニティークロマトグラフィーカラム固定相を通してヒスチジンタグタンパク質を精製した。調製されたすべてのタンパク質は使用時まで−20℃で保存した。
【0099】
組換えタンパク質の純度は10%ゲルを用いたSDS−PAGEにより、クーマシーブルー染色により評価した。上記クロマトグラフィーにより精製された組換えタンパク質の典型的なゲルパターンを図2に示す。組換えEspA(レーン2)、組換えEspB(レーン3)及び組換えインチミン(レーン4)は、比較的純粋な形態で回収されたが、組換えTir(レーン5)は多少の分解を受けていた。
【実施例3】
【0100】
ワクチンの製剤化および投与
ワクチンは、CCS又は組換えEspA+組換えTirを、30〜40%アジュバントを含む基材2mlに混合することにより製剤化した。ワクチンは皮下に投与した。動物を1日目及び、3〜4週間の間隔をおいて再び免疫(追加免疫又はブーストという。)した。最初の免疫の前、夫々のブースト時、及び実験終了時に血清試料を採取した。
【0101】
免疫に対する血清学的な応答を酵素結合免疫吸着検定法(ELISA法)を用いて決定した。100μlの組換えEspA (0.16μg/ウェル)、組換えTir (0.1μg/ウェル)、組換えEspB (0.24μg/ウェル)及び組換えインチミン (0.187μg/ウェル)を用いてマイクロタイタープレートのウェルにコート(被膜)し、当該プレートを4℃で一晩インキュベートした。ウェルを3回洗浄し、0.5%脱脂乾燥ミルクを含むリン酸緩衝化生理的食塩水でブロッキングした。段階希釈した血清を各ウェルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。ウェルを洗浄及びブロッキングし、100μlのペルオキシダーゼ接合ウサギ抗ウシ免疫グロブリンG抗体(1:5000)を各ウェルに添加して37℃で1時間インキュベートした。ウェルを洗浄し、プレートを492nmの波長で吸光度を測定した。
【実施例4】
【0102】
実験動物
8歳から12歳の間の複数のウシを地元の牧場から購入した。夫々の動物から14日間毎日糞便試料を採取した。糞便試料中のEHEC O157:H7の数をレインボーアガーにプレーティングして測定した。当該プレートを37℃で2日間インキュベートし、黒いコロニー数を数えた。増殖は0〜5で得点(スコア)化した。スコア0(EHEC O157:H7なし)の動物をすべての実験に用いた。
【実施例5】
【0103】
動物定着モデル
2ヶ月より長い間感染が維持されたウシのEHEC O157:H7定着モデルを用量−滴定プロトコルにより開発した。
【0104】
EHEC O157:H7は実施例1に示した方法で増殖させた。24頭のウシを8頭ずつ3つのグループに分割した。グループ1は10、グループ2は10、グループ3は1010CFU(定着ユニット)のEHEC O157:H7を、第0日に50ml容量で口腔−胃挿管によって接種された。
【0105】
排泄を監視(モニター)するため、第1日から第14日まで糞便材料を収集した。糞便材料は重さを測定し、滅菌した生理的食塩水に懸濁し、培養液に接種した。培養液の濁度は実施例1のように測定した。
【0106】
図3に示したように、グループ2(10CFU)のウシにより排泄されたEHEC O157:H7の数と、グループ3(1010CFU)のウシにより排泄されたEHEC O157:H7の数との間には有意な差異は認められなかった。グループ2のウシは、14日間の夫々の日にほとんどのEHEC O157:H7を排泄した。グループ2のウシにより排泄されたEHEC O157:H7の数は第6日に最大値に達し第14日にはゼロにまで減少した。
【0107】
EHEC O157:H7を排泄した動物(以下「陽性」という。)は、EHEC O157:H7の排泄が検出できないレベルに減少するまで、さらに40日間維持した。以前に陽性であった動物(以下「キャリアー(保菌動物)」という。)により排泄されたEHEC O157:H7は、24時間摂食を抑制し、市販のクロストリジウムの又はH. somnusワクチンを接種することにより再活性化した。図4に示したように、EHEC O157:H7を排泄する保菌動物の数は、第6及び7日には約50%の最大値に達し、第15日にはゼロに減少した。
【0108】
10CFUの投与量は、感染後の14日間に検出可能な数の排泄されたEHEC O157:H7を産生し(図3)、持続的に感染した動物に帰結した(図4)ため、以後の実験において投与する量としてこの投与量を用いた。
【実施例6】
【0109】
CCSの保護能力
分泌タンパク質のワクチンとしての潜在能力をテストするため、CCSを油を主材料とするアジュバントであるVSA3(米国特許第5,951,988号、S. van Drunen Littel-van den Hurk et al., Vaccine (1993) 11:25)と、2ml中に200μgのCCSタンパク質と30容量%(v/v)のアジュバントとなるように混合した(CCSワクチン)。対照群のために、滅菌した生理的食塩水をVSA3と、2ml中に0μgのCCSタンパク質と30容量%(v/v)のアジュバントとなるように混合した(生理食塩水ワクチン)。
【0110】
16頭のウシを8頭ずつ2つのグループに分けた。第1日及び第22日(ブースト)に、グループ1のウシは2mlのCCSワクチンを皮下に投与され(試験群)、グループ2のウシは2mlの生理食塩水ワクチンを皮下に投与された(対照群)。ELISA(実施例3)により、第1日(免疫前)、第22日及び第36日に抗体陽転が起きたかどうか検定した。表1の第22日に示したように、グループ1の動物は、EspA及びTirに対する特異的な抗体価を示した。また、第36日には、これらの抗体価は大きく増加を示した。グループ2の動物は、第22日及び第36日に特異的な抗体価を示さなかった。特に、EHECワクチンを接種されたグループは、初回免疫と第1回の追加免疫後にタイプ3分泌タンパク質に対する特異的な抗体価が13倍に上昇し、偽薬ワクチングループでは1頭だけが抗体陽転したのに対し、EHECワクチングループの8頭の動物は特異的な抗体価において45倍の増加を示した(X, p=0.0002)。
【0111】
[表1]CCS免疫に対する血清学的応答

【0112】
第36日に、グループ1及びグループ2の動物に10CFUのEHEC O157:H7を口腔−胃挿管によって投与し、糞便への排泄を14日間モニターした(実施例5)。表2にまとめたように、EHEC O157:H7を排泄した試験群の動物は対照群の動物より少なく、その排泄した試験群動物は、対照群動物よりも短い期間EHEC O157:H7を排泄した(図7)。特に、ワクチン接種した動物において排泄された日数の中央値は、偽薬グループの3.5日に比べて1.5日であった(Wilcoxin Signed Rank Test, p=0.08)。偽薬で免疫された8頭の動物のうち7頭が試験期間中当該細菌を排泄し、それらの動物のうち4頭が4日又はそれ以上の連続する期間当該細菌を排泄した。このことは、それらの動物は持続的に感染していることを示している。EHECワクチンで免疫した8頭の動物のうち5頭は試験期間中のある時点で当該細菌を排泄したが1頭だけが連続する2日以上の間当該細菌を排泄した。このことは、定着は一過性であり、偽薬グループよりも有意に少ないことを示す。糞便試料から単離された全細菌数は、EHECで免疫されたグループでは偽薬グループに比べて有意に低下していた(Wilcoxin Signed Rank Test, p=0.05)。前者は回収された糞便1g当たりの6.25定着ユニット(CFU)の中央値を有するのに対し、後者は81.25CFU/gの中央値を有した。従って、3型分泌タンパク質を用いたワクチンは、糞便の培養液で検出される排泄された細菌数だけでなく当該生物を排泄した動物の排泄日数の減少によって反映されるように、当該生物の小腸への定着能力を減少させるように思われる。
【0113】
[表2]試験群及び対照群による排泄

【0114】
これらのデータは、CCSがウシにおいて、EHEC O157:H7を排泄する動物数及びEHEC O157:H7が排泄される日数の両方を減少させる抗体応答を誘導することを示す。
【0115】
ワクチン製剤の有効性を高めるために、6頭の子ウシのグループを上記方法により、分泌タンパク質の3つの投与量(50μg、100μg、200μg)の1つ又は偽薬で免疫し、第0日、第21日(ブースト)および第35日に採取した血清サンプルを用いて血清学的応答を測定した。EHECワクチンを投与されたグループの間では如何なる時点においても抗-EHEC、抗-Tir、又は抗-EspA応答について有意な差異は認められなかったが、3つの投与量のすべてのグループは、第21日及び第35日における偽薬グループよりも有意に高かった。従って、第2のワクチン投与試験は、1歳児のウシの3つのグループに50μgの分泌タンパク質(n=13)、Tir変異株から得られた50μgの分泌タンパク質(ΔTir, n=10)又は偽薬(n=25)を用いて3回免疫するように計画した。用いたアジュバントはVSA3であり、動物は第0日、第21日、第35日に皮下投与により免疫され、続いて第49日に大腸菌O157:H7を投与された。免疫に対する血清学的応答を表3に示した(第0日及び第49日のみ)。上述した試験と同様の結果が観察された。ΔTirワクチンを投与されたグループは、野生株から調製されたワクチンを投与されたグループと同様に全分泌タンパク質に対して同等の応答を示したが、予測したように、Tirに対しては有意に減少した応答を示した(Wilcoxin Signed Rank Test, p=0.006)。しかしながら、前者のグループは、確かに抗-Tir抗体レベルの上昇を示しており(Wilcoxin Signed Rank Test, p=0.009)、これは、免疫的に関連する分子を生産する生物に曝すか、又は大腸菌O157:H7に曝すかの何れかであることを示している。これは、さらに偽薬グループにおいては大腸菌O157:H7の投与日において抗-Tir抗体に有意な上昇があったが、偽薬グループとΔTirグループとで差がないという観察によって支持される。EspAに対する応答はEHECとΔTirワクチングループの両方で同様であり、偽薬で免疫した動物よりもはるかに高い。EspAに対する応答は、EHEC及びΔTirワクチングループの双方において同様であり(p=0.45, Kruskal-Wallis ANOVA)、偽薬グループよりも有意に高い応答を示した(p<0.0001)。
【0116】
[表3]野生型大腸菌O157:H7(EHEC)、又は同質遺伝子型Tir変異株(ΔTir)から調製された分泌タンパク質、又は偽薬を用いた血清学的免疫応答中央値。力価は血清の最後の陽性希釈率( )の幾何平均値として表した。括弧内の数字は25%から75%の順位を示す。

【0117】
夫々のワクチン製剤に対する免疫応答は、グループごとに代表的な2頭の動物から得られた血清を用いたウェスタンブロッティングによっても定性的に分析した。代表的な動物についての結果を図8に示した。III型分泌系によって分泌されたタンパク質はウシにおいて高度に免疫原性を有することが示された。EHEC及びΔTirワクチングループにおける応答は、後者のグループにおいて欠けているTirに対する応答を除いて同様であった(図8、上部パネル)。EspB、EspD及びTirはすべて反応性があり、第21日の第2免疫によってリポ多糖類に対する大きな応答も認められた。ワクチン接種動物における免疫応答の速度論(キネティクス)は、抗−Tir抗体が43kDa及び100kDaタンパク質に対する抗体のように単一の免疫によって検出できることを示す(図8、下部パネル)。後者のタンパク質はsepB及びtir変異株と同様に野生株によっても生産され、100kDaタンパク質はおそらく、III型でないEHEC分泌タンパク質であるEspPである。
【0118】
第49日に大腸菌O157:H7を経口投与した後、夫々のグループは当該生物の糞便中への排泄について14日間毎日モニターされた。この実験においては、細菌は直接プレーティング法よりも以下の免疫濃縮法(J. Van Donkersgoed et al., Can. Vet. J. (2001) 42:714、Chapman及びSiddons, J. Med. Microbiol. (1996) 44:267)により培養された。なぜならば、この感染モデルにおいては1歳児のウシは子ウシよりも少ない量しか排泄しないからである。投与の日、偽薬グループの2頭の動物は大腸菌O157:H7について培養陽性であり、試験から除外した。偽薬で免疫した動物は、2つのEHECワクチングループに比べて、投与後当該生物をはるかに多く排泄した(図9)。偽薬ワクチンを接種された動物は、中央値で4日間当該生物を排泄したが、これは他の2つのワクチンを接種されたグループによる中央値の0日よりも有意に長かった(p=0.0002, Kruskal-Wallis ANOVA)。EHEC及びΔTirワクチングループから回収された細菌は著しく少なかった(p=0.04, Kruskal-Wallis ANOVA)。感染後2日目以降、偽薬ワクチングループ動物の78%は少なくとも1日当該生物を排泄したが、これに比べてEHECワクチングループでは15%、及びΔTirワクチングループでは30%であった(表4)。
【0119】
上記に示されたデータは、EHECの病原性因子、すなわち、III型分泌系によって分泌されるそれらは、EHEC O157:H7等のようなEHEC細菌のウシへの定着を減少させるための有効なワクチン成分として使用し得ることを示す。ウシは当該生物へ自然にさらされただけではこれらのタンパク質に対して通常大きな血清学的な応答を示さないが、これらのタンパク質はヒトにおける感染後の免疫応答の主要なターゲットである(Li et al., Infect. Immun. (2000) 68:5090)。しかしながら、これらのタンパク質を用いてワクチン接種された動物は抗原刺激されており、当該生物の経口投与によって抗−EHEC及び抗−Tir価の上昇を示す。
【0120】
Tirはウシ小腸への定着にとって必要と思われ、このことはΔTir大腸菌O157:H7株からの分泌タンパク質を含むワクチンが同質遺伝子型の野生型単離株からの同様な製剤ほど有効でないという観察によって支持される。しかしながら、前者のワクチンは偽薬よりもはるかに有効であることから、定着に対する免疫は自然界では多因子性であることを示唆する。このことは免疫応答においてリポ多糖類だけでなく何種類かのタンパク質成分が認識されることを示すウェスタンブロッティング分析によって支持される。リポ多糖類による保護の寄与は知られていないがこの分子に対する抗体の存在は、ネズミEHECモデルにおける保護と関連していない(Conlan et al., Can. J. Microbiol. (1999) 45:279; Conlan et al., Can. J. Microbiol. (2000) 46:283)。また、組換えTir及びEspAを用いた免疫は排泄された細菌数を減少させることができるが、実際の動物数や排泄期間は減少しない。
【0121】
非O157血清型の罹患率は、北アメリカにおいて上昇しており、他の地理的位置においてもEHEC感染のかなりの割合を占めると思われる。タイプ3の分泌抗原は非O157EHEC血清型間で比較的保存されているらしく、このワクチン製剤はO157LPS抗原に基づく製剤に比べて広く交差保護的である可能性がある。
【0122】
[表4]投与後2日から14日の間に大腸菌O157:H7を排泄した動物数

【実施例7】
【0123】
組換えEspA+組換えTir及び組換えEspB+組換えインチミンの保護能力
組換えEspA、組換えTir、組換えEspB及び組換えインチミンは、油基材のアジュバント、VSA3と混合し、2mlの投与量あたり50μgの組換えEspA+組換えTir又は組換えEspB+組換えインチミンと30%(v/v)のアジュバントを含むようにした。滅菌した生理食塩水をVSA3と混合し、2mlの投与量あたり0μgの組換えEspA+組換えTir又は組換えEspB+組換えインチミンと30%(v/v)のアジュバントを含むようにした。
【0124】
34頭のウシを4つのグループに分けた。グループ1の10頭のウシを組換えEspA+組換えTirワクチン(試験群)で、及びグループ2の10頭のウシを組換えEspB+組換えインチミンワクチン(試験群)で第1日、第22日(ブースト)及び第36日に免疫した。グループ3の7頭のウシと、グループ4の7頭のウシを生理食塩水ワクチン(対照群)で第1日、第22日(ブースト)及び第36日に免疫した。抗体陽転を第1日(免疫前)、第22日及び第36日にELISA法(実施例3)により試験した。図5に示したように、第22日には、グループ1の動物は組換えEspA及び組換えTirに対する特異的な抗体価を示し、グループ2の動物は組換えEspB及び組換えインチミンに対する特異的な抗体価を示した。また、図5に示したように、第36日には、グループ1の動物は組換えTirに対しては特異的な抗体価の上昇を示したが組換えEspAに対しては特異的な抗体価に変化がなく、グループ2の動物は組換えインチミンに対しては特異的な抗体価の上昇を示したが組換えEspBに対しては特異的な抗体価の減少を示した。グループ3と4の動物は第22日及び第36日において特異的な抗体価を示さなかった。
【0125】
第36日に、グループ1〜4の動物に10CFUのEHEC O157:H7を投与し、14日間毎日排泄物をモニターした(実施例5)。図6に示したように、グループ1(組換えTir+組換えEspA)の動物とグループ3(生理食塩水)の動物との排泄物の違いは、投与後の最初の5日間は小さかった。しかし、投与後の第2週には、グループ1の動物とグループ3の動物との違いは明らかとなった。EHEC O157:H7を排泄したグループ1の動物数はグループ3の動物数よりも少なかった。グループ1の動物は、グループ2の動物よりも少ない量のEHEC O157:H7を糞便中に、より少ない期間排泄した。グループ2(組換えEspB+組換えインチミン)とグループ4(生理食塩水)の動物の間での排泄量の差は、排泄した動物数、排泄したEHEC O157:H7の数及び排泄した期間に関しては明らかでなかった。
【0126】
これらのデータは、組換えEspA+組換えTirワクチンによって誘発された抗体応答はウシのEHEC O157:H7定着を阻止するが、組換えEspB+組換えインチミンワクチンによって誘発された抗体応答はウシのEHEC O157:H7定着を阻止しなかったことを示す。
【実施例8】
【0127】
CCS+組換えEspA+組換えTirの保護能力
CCS、CCS+組換えEspA、CCS+組換えTir、CCS+組換えEspA+組換えTir及び生理食塩水を夫々アジュバントと混合する。
【0128】
25頭のウシを5頭ずつ5つのグループに分け、第1日、及び第22日(ブースト)に免疫する。グループ1はCCSワクチンを、グループ2はCCS+組換えEspAワクチンを、グループ3はCCS+組換えTirワクチンを、グループ4はCCS+組換えEspA+組換えTirワクチンを、及びグループ5は生理食塩水ワクチンを夫々投与する。抗体陽転を第1日(免疫前)、第22日(ブースト)及び第36日にELISA法(実施例3)により試験する。第22日、及び第36日に、1〜5の夫々のグループはEspA及びTirに対する特異的な抗体価を示すが、グループ6の動物は特異的な抗体価を示さない。
【0129】
第36日に、グループ1〜5の動物に10CFUのEHEC O157:H7を投与し、14日間毎日排泄物をモニターする。EHEC O157:H7を排泄するグループ1〜4の動物はグループ5の動物よりも少ない。グループ5の動物はほとんどのEHEC O157:H7を排泄する。グループ1の動物はグループ5の動物よりも少ない量のEHEC O157:H7を排泄し、グループ2〜4の動物はグループ1の動物よりも少ない量のEHEC O157:H7を排泄する。
【実施例9】
【0130】
種々の抗原を用いたCCSの保護能力
CCSは、2mlの用量が夫々0、50、100又は200μgのCCSと30%(v/v)のアジュバントを含有するようにアジュバントと混合される(表5)。
【0131】
[表5]種々のアジュバントによるCCSの保護能力

【0132】
72頭のウシを8頭ずつ9グループに分ける。グループ1〜8の動物はCCS+アジュバント(表5)で、グループ9のウシは生理食塩水+アジュバントで、第1日及び第22日(ブースト)に免疫される。抗体陽転が起きたかどうかを、第1日(免疫前)、第22日(ブースト)及び第36日にELISA(実施例3)により試験される。グループ1〜8(CCS+アジュバント)の動物は、第22日及び第36日に、EspA及びTirに対する特異的な抗体価を示す。グループ9(生理食塩水+アジュバント)の動物は第22日及び第36日に特異的な抗体価を示さない。
【実施例10】
【0133】
乳牛におけるCCSの保護能力
20頭の成人の乳牛を10頭の2グループに分ける。グループ1はCCSワクチンで、グループ2は生理食塩水ワクチンで、夫々第1日及び第22日(ブースト)に免疫する。抗体陽転が起きたかどうかを、第1日(免疫前)、第22日及び第36日にELISA(実施例3)により試験する。第22日及び第36日にグループ1の乳牛はEspA及びTirに対する特異的な抗体価を示すが、グループ2の乳牛は特異的な抗体価を示さない。
【0134】
第36日に、グループ1および2の乳牛に10CFUのEHEC O157:H7を投与し、14日間毎日排泄物をモニターする。EHEC O157:H7を排泄したグループ1の乳牛はグループ2の乳牛よりも少ない。グループ1の乳牛は、グループ2の乳牛よりも少ない量のEHEC O157:H7をより少ない期間排泄する。
【0135】
初期免疫から6ヵ月後、グループ1および2の乳牛に皮下を経由して再度免疫する(第2ブースト)。第2ブースト後14日目に抗体価をELISA(実施例3)により試験する。グループ1の乳牛はEspA及びTirに対する特異的な抗体価を示すが、グループ2の乳牛は特異的な抗体価を示さない。
【0136】
第2ブースト後14日目に、グループ1および2の乳牛に再度10CFUのEHEC O157:H7を投与し、14日間毎日排泄物をモニターする(実施例5)。EHEC O157:H7を排泄したグループ1(CCS)の乳牛はグループ2(生理食塩水)の乳牛よりも少ない。グループ1の乳牛は、グループ2の乳牛よりも少ない量のEHEC O157:H7をより少ない期間排泄する。
【実施例11】
【0137】
子ウシにおけるCCSの保護能力
10頭の離乳した子ウシ(生後3〜6ヶ月)を5頭ずつの2グループに分け、肥育場へ入る前(第0日)及び肥育場へ入る日(第1日、ブースト)に免疫する。グループ1の子ウシはCCSワクチンを投与され、グループ2の子ウシは生理食塩水ワクチンを投与される。抗体陽転が起きたかどうかを、第0日、第1日、及び第14日にELISA(実施例3)により試験する。グループ1(CCS)の子ウシはEspA及びTirに対する特異的な抗体価を示すのに対して、グループ2(生理食塩水)の子ウシは特異的な抗体価を示さない。
【0138】
第14日に、グループ1および2の子ウシに10CFUのEHEC O157:H7を投与し、14日間毎日排泄物をモニターする(実施例5)。EHEC O157:H7を排泄するグループ1の子ウシはグループ2の子ウシよりも少ない。グループ1の子ウシは、グループ2の子ウシよりもEHEC O157:H7をより少ない期間排泄する。
【0139】
10頭の離乳した子ウシ(生後3〜6ヶ月)を5頭ずつの2グループに分け、肥育場へ入る日(第1日)及び肥育場における第22日(ブースト)に免疫する。グループ1の子ウシはCCSワクチンを投与され、グループ2の子ウシは生理食塩水ワクチンを投与される。抗体陽転が起きたかどうかを、第1日(免疫前)、第22日及び第36日にELISA(実施例3)により試験する。グループ1(CCS)の子ウシはEspA及びTirに対する特異的な抗体価を示すのに対して、グループ2(生理食塩水)の子ウシは特異的な抗体価を示さない。
【0140】
第36日に、グループ1および2の子ウシに10CFUのEHEC O157:H7を投与し、14日間毎日排泄物をモニターする(実施例5)。EHEC O157:H7を排泄するグループ1の子ウシはグループ2の子ウシよりも少ない。グループ1の子ウシは、グループ2の子ウシよりもEHEC O157:H7をより少ない期間排泄する。
【実施例12】
【0141】
ヒツジにおけるCCSの保護能力
20頭の成人のヒツジを10頭ずつの2グループに分ける。グループ1はCCSワクチンで、グループ2は生理食塩水ワクチンで、夫々第1日及び第22日(ブースト)に免疫する。抗体陽転が起きたかどうかを、第1日(免疫前)、第22日及び第36日にELISA(実施例3)により試験する。第22日及び第36日にグループ1の乳牛はEspA及びTirに対する特異的な抗体価を示すのに対し、グループ2の乳牛は特異的な抗体価を示さない。
【0142】
第36日に、グループ1および2のヒツジに10CFUのEHEC O157:H7を投与し、14日間毎日排泄物をモニターする。EHEC O157:H7を排泄するグループ1のヒツジはグループ2のヒツジよりも少ない。グループ1の乳牛は、グループ2の乳牛よりも少ない量のEHEC O157:H7をより少ない期間排泄する。
【0143】
このように、腸管出血性大腸菌の哺乳動物への定着を治療し、阻止する組成物及びそのための方法が開示された。本発明の主題についての好ましい実施形態が詳細に開示されているが、その明らかな変形は、添付クレームに規定された本発明の精神と範囲から逸脱しないものと理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸管出血性大腸菌(EHEC)細胞培養液上清と免疫アジュバントとを含むことを特徴とするワクチン組成物。
【請求項2】
前記EHECは、EHEC O157:H7であることを特徴とする請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
前記EHECは、EHEC O157:NMであることを特徴とする請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記免疫アジュバントは、水中油型エマルジョンから構成されることを特徴とする請求項1〜3の一に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
前記免疫アジュバントは、ミネラルオイルとジメチルジオクタデシルアンモニウム・ブロマイドとを含むことを特徴とする請求項4に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記免疫アジュバントは、VSA3であることを特徴とする請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記VSA3は、約20%(v/v)〜約40%(v/v)の濃度でワクチン組成物中に含まれることを特徴とする請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
前記VSA3は、約30%(v/v)の濃度でワクチン組成物中に含まれることを特徴とする請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
EspA、EspB、EspD、Tir及びインチミンからなる群から選択される1以上の組換え又は精製EHEC抗原を更に含むことを特徴とする請求項1〜8の一に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
EspA+Tir は、ワクチン組成物中の細胞タンパク質の少なくとも20%を占めることを特徴とする請求項9に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
分泌性EHEC抗原に対する哺乳動物の免疫反応を惹起する組成物の製造への腸管出血性大腸菌(EHEC)細胞培養液上清の使用。
【請求項12】
前記EHECは、EHEC O157:H7であることを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記哺乳動物は、反芻動物であることを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記反芻動物は、ウシ(bovine subject)であることを特徴とする請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記組成物は、更に、免疫アジュバントを含むことを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項16】
前記免疫アジュバントは、水中油型エマルジョンから構成されることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記免疫アジュバントは、ミネラルオイルとジメチルジオクタデシルアンモニウム・ブロマイドとを含むことを特徴とする請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記免疫アジュバントは、VSA3であることを特徴とする請求項17に記載の使用。
【請求項19】
EspA、EspB、EspD、Tir及びインチミンからなる群から選択される1以上の組換え又は精製EHEC抗原を更に含むことを特徴とする請求項11〜18の一に記載の使用。
【請求項20】
EspA+Tir は、ワクチン組成物中の細胞タンパク質の少なくとも20%を占めることを特徴とする請求項19に記載の使用。
【請求項21】
分泌性腸管出血性大腸菌(EHEC)抗原に対する哺乳動物の免疫反応を惹起する方法であって、EHEC細胞培養液上清を含む組成物の治療有効量を該哺乳動物へ投与することを特徴とする方法。
【請求項22】
分泌性腸管出血性大腸菌O157:H7(EHEC O157:H7)抗原に対する反芻動物の免疫反応を惹起する方法であって、EHEC O157:H7細胞培養液上清及びVSA3を含む組成物の治療有効量を該反芻動物へ投与することを特徴とする方法。
【請求項23】
前記VSA3は、約20%(v/v)〜約40%(v/v)の濃度で前記組成物中に含まれることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記VSA3は、約30%(v/v)の濃度でワクチン組成物中に含まれることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
反芻動物における分泌性腸管出血性大腸菌(EHEC)の定着(住みつき)を低減する方法であって、EHEC細胞培養液上清及び免疫アジュバントを含む組成物の治療有効量を該反芻動物へ投与することを特徴とする方法。
【請求項26】
反芻動物からの分泌性腸管出血性大腸菌(EHEC)の排泄(shedding)を低減する方法であって、EHEC細胞培養液上清及び免疫アジュバントを含む組成物の治療有効量を該反芻動物へ投与することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−132742(P2009−132742A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66448(P2009−66448)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【分割の表示】特願2002−554130(P2002−554130)の分割
【原出願日】平成14年1月3日(2002.1.3)
【出願人】(503240747)ユニバーシティー オブ サスカチェワン (1)
【出願人】(303061166)ザ ユニバーシティー オブ ブリティッシュ コロンビア (2)
【Fターム(参考)】