膜−触媒層接合体の製造方法及び形状保持フィルム
【課題】第2触媒層4bを形成する際に第2形状保持フィルム3が膨らむことを抑えることができる膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】第2形状保持フィルム3として蒸気排出用の孔3aを設けた形状保持フィルムを用い、当該孔3aが第1触媒層4a上に位置するように第2形状保持フィルム3を高分子電解質膜1に貼り付ける。
【解決手段】第2形状保持フィルム3として蒸気排出用の孔3aを設けた形状保持フィルムを用い、当該孔3aが第1触媒層4a上に位置するように第2形状保持フィルム3を高分子電解質膜1に貼り付ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器、自動車などの移動体、分散発電システム及び家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動電源として使用される燃料電池に関し、特に当該燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法、並びに当該製造方法に用いる形状保持フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱と水とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池は、一般的には複数のセルを積層し、それらをボルト又はバンドなどの締結部材で加圧締結することにより構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。
【0004】
MEAは、高分子電解質膜と、当該高分子電解質膜の両面に配置された一対の電極層によって構成されている。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。一対の電極層はそれぞれ、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、当該触媒層の上に配置される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。ここでは、高分子電解質膜と触媒層との接合体を膜−触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)という。前記アノード電極に燃料ガスが接触すると共に前記カソード電極に酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱と水とが発生する。
【0005】
次に、図10A〜図10Fを用いて、従来の膜−触媒層接合体の製造方法の一例を説明する(例えば、特許文献1:特開2002−289207号公報参照)。
【0006】
まず、図10Aに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に第1形状保持フィルム102を貼り付ける。次いで、図10Bに示すように、高分子電解質膜101の他方の面に、第1触媒インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層104aを形成する。次いで、図10Cに示すように、第1触媒層104a上に第2形状保持フィルム103を貼り付ける。次いで、図10Dに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に貼り付けられた第1形状保持フィルム102を除去する。次いで、図10Eに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に、第2触媒インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層104bを形成する。次いで、図10Fに示すように、第2触媒層104b上に第3形状保持フィルム105を貼り付ける。
【0007】
前記のように、高分子電解質膜101上に触媒インクを直接印刷又は塗布して膜−触媒層接合体を製造する技術は、高分子電解質膜101と触媒層104a,104bとの界面抵抗を極めて低くすることができることから、理想的な膜−触媒層接合体の製造方法として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−289207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の製造方法では、第2触媒層104bを形成する際に、図11に示すように第2形状保持フィルム103が風船のように膨らむことがある。第2形状保持フィルム103の膨れは、特にロール・ツー・ロール方式の製造装置を用いて膜−触媒層接合体を製造する場合に、搬送トラブルや巻取り不良などを引き起こす原因となる。
【0010】
本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、第2触媒層を形成する際に第2形状保持フィルムが膨らむことを抑えることができる膜−触媒層接合体の製造方法、並びに当該製造方法に用いる形状保持フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1形状保持フィルムが貼り付けられた高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、
前記第1触媒層を形成した前記電解質膜の他方の面に、孔を設けた第2形状保持フィルムを、前記孔が前記第1触媒層上に位置するように貼り付ける第2フィルム貼付工程と、
前記第2形状保持フィルムを貼り付けた前記電解質膜から前記第1形状保持フィルムを剥離する第1フィルム剥離工程と、
前記第1形状保持フィルムを剥離して露出させた前記電解質膜上に第2触媒インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層を形成する第2触媒層形成工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法によれば、複数の孔を設けた第2形状保持フィルムを用いるようにしているので、第2触媒層を形成する際に第2形状保持フィルムが膨らむことを抑えることができる。これにより、搬送トラブルや巻取り不良の発生を抑えることができる。その結果、ロール・ツー・ロール方式の製造装置を用いて膜−触媒層接合体を製造することができ、膜−触媒層接合体の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略説明図である。
【図2A】本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図2B】図2Aに続く工程を示す断面図である。
【図2C】図2Bに続く工程を示す断面図である。
【図2D】図2Cに続く工程を示す断面図である。
【図2E】図2Dに続く工程を示す断面図である。
【図2F】図2Eに続く工程を示す断面図である。
【図3】全面に孔が設けられた第2形状保持フィルムの平面図である。
【図4】第2形状保持フィルムの開孔率と膨れ高さとの関係を示すグラフである。
【図5】高分子電解質膜上に第1触媒層が連続的に形成された状態を示す平面図である。
【図6】図5に示すように連続的に形成された第1触媒層と接する部分にのみ孔が設けられた第2形状保持フィルムを示す平面図である。
【図7】第1触媒層を形成した高分子電解質膜の第1面に、図6の第2形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図8】高分子電解質膜上に第1触媒層が間欠的に形成された状態を示す平面図である。
【図9】図8に示すように連続的に形成された第1触媒層と接する部分にのみ孔が設けられた第2形状保持フィルムを示す平面図である。
【図10A】従来の膜−触媒層接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図10B】図10Aに続く工程を示す断面図である。
【図10C】図10Bに続く工程を示す断面図である。
【図10D】図10Cに続く工程を示す断面図である。
【図10E】図10Dに続く工程を示す断面図である。
【図10F】図10Eに続く工程を示す断面図である。
【図11】第2形状保持フィルムが風船のように膨らんだ状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発明者らは、前記従来技術の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0015】
図10Eに示すように第1触媒層104a上に第2形状保持フィルム103を形成する場合、それらに用いる材料の性質上、それらを直接接着することは困難である。このため、前記従来の製造方法では、第1触媒層104aよりも高分子電解質膜101及び第2形状保持フィルム103のサイズを大きくして、高分子電解質膜101と第2形状保持フィルム103とを接着するようにしている。このため、第1触媒層104aと第2形状保持フィルム103との間には、高分子電解質膜101と第2形状保持フィルム103との接着により密閉されたミクロな空間が存在している。
【0016】
一方、高分子電解質膜101の他方の面に塗布した第2触媒インクを乾燥する際、第2触媒インクの溶媒が蒸発して蒸気が発生する。本発明の発明者らは、この蒸気が高分子電解質膜を通過して前記密閉されたミクロな空間に移動し当該空間で拡散することが、第2形状保持フィルムを風船のように膨らませる原因であることを見出した。そこで、本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、第2形状保持フィルムの第1触媒層に接する部分に孔を設けることで、第2形状保持フィルムの膨らみが劇的に減少することを見出し、以下の本発明に想到した。
【0017】
本発明の第1態様によれば、燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1形状保持フィルムが貼り付けられた高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、
前記第1触媒層を形成した前記電解質膜の他方の面に、孔を設けた第2形状保持フィルムを、前記孔が前記第1触媒層上に位置するように貼り付ける第2フィルム貼付工程と、
前記第2形状保持フィルムを貼り付けた前記電解質膜から前記第1形状保持フィルムを剥離する第1フィルム剥離工程と、
前記第1形状保持フィルムを剥離して露出させた前記電解質膜上に第2触媒インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層を形成する第2触媒層形成工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の第2態様によれば、前記孔は、前記第2形状保持フィルムに複数設けられている、第1態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0019】
本発明の第3態様によれば、前記複数の孔の形状は、それぞれ円形である、第2態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の第4態様によれば、前記複数の孔は、一定の配置ピッチで設けられている、第2又は3態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の第5態様によれば、前記複数の孔は、それぞれ均等な大きさである、第2〜4態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の第6態様によれば、前記複数の孔は、前記第2形状保持フィルムが前記第1触媒層と接する部分にのみ設けられている、第2〜5態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0023】
本発明の第7態様によれば、前記複数の孔は、前記第2形状保持フィルムの全体に設けられている、第2〜5態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0024】
本発明の第8態様によれば、燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造に用いられる形状保持フィルムであって、触媒層と接する部分に孔が設けられた形状保持フィルム。
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
《実施形態》
図1は、本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す図である。本実施形態にかかる膜−触媒層接合体は、例えば、携帯型電子機器、自動車などの移動体、分散発電システム及び家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動電源として使用される燃料電池に用いられるものである。
【0027】
図1において、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置は、いわゆるロール・ツー・ロール方式の製造装置である。具体的には、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置は、供給ロール11と、剥離装置12と、バックアップロール13と、ダイ14と、乾燥装置15と、形状保持フィルム供給装置16と、貼付装置17と、巻取りロール18とを備えている。
【0028】
供給ロール11には、高分子フィルム10が巻回されている。本実施形態において、高分子フィルム10とは、図2A〜図2Fのいずれかに示す構造を有する高分子フィルム10a〜10fをいう。
【0029】
図2Aに示すように高分子電解質膜1の第1面(他方の面)に第1触媒層4aを形成する場合、供給ロール11には、図2Aに示す構造を有する高分子フィルム10aが巻回される。すなわち、供給ロール11には、シート状の高分子電解質膜1の第2面(一方の面)に第1形状保持フィルム2を貼り付けた構造を有する高分子フィルム10aが巻回される。
【0030】
また、図2Eに示すように高分子電解質膜1の第2面(一方の面)に第2触媒層4bを形成する場合、供給ロール11には、図2Cに示す構造を有する高分子フィルム10cが巻回される。すなわち、供給ロール11には、シート状の高分子電解質膜1の第1面(他方の面)に第1触媒層4aを覆うように第2形状保持フィルム3を貼り付けると共に、第2面(一方の面)に第1形状保持フィルム2を貼り付けた構造を有する高分子フィルム10cが巻回される。第2形状保持フィルム3には、図3に示すように、蒸気を排出するための孔3aが複数設けられている。複数の孔3aは、例えば、パンチングにより円形に形成されている。
【0031】
高分子電解質膜1としては、フッ素系や炭化水素系など従来から用いられている多種多様な高分子電解質膜を用いることができる。例えば、高分子電解質膜1として、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)など)を使用することができる。高分子電解質膜1は、通常、非常に薄く且つ少しの湿気でも変形し易い部材である。このため、高分子電解質膜1の第1面又は第2面に第1,第2,又は第3形状保持フィルム2,3,又は5を貼り付けるようにしている。
【0032】
第1,第2,又は第3形状保持フィルム2,3,5としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂などを用いることができる。第1,第2,又は第3形状保持フィルム2,3,5は、ラミネート加工時に熱変形しない耐熱性を有するフィルムであればよい。
【0033】
供給ロール11から引き出された高分子フィルム10は、バックアップロール13に懸架され、巻取りロール18に巻き取られる。巻取りロール18は、図示しないモータを備え、当該モータの駆動力により連続的に回転することで、高分子フィルム10を連続的に巻き取る。本実施形態においては、後述するように高分子フィルム10が供給ロール11から引き出されて巻取りロール18に巻き取られるまでの間に高分子電解質膜1の第1面(又は第2面)に第1触媒層4a(又は第2触媒層4b)が形成されるようにしているので、膜−触媒層接合体の大量生産が可能である。
【0034】
剥離装置12は、供給ロール11から図2Cに示す高分子フィルム10cが供給されるときに、高分子電解質膜1から第1形状保持フィルム2を剥離する装置である。この剥離装置12が第1形状保持フィルム2を剥離することにより、バックアップロール13には図2Dに示す高分子フィルム10dが供給されることになる。なお、供給ロール11から図2Aの高分子フィルム10aが供給されるときには、剥離装置12は駆動しない。
【0035】
バックアップロール13は、例えば、直径が300mmに設定された円柱形の部材である。なお、高分子電解質膜1に第1形状保持フィルム2又は第2形状保持フィルム3を貼り付けるようにしているので、バックアップロール13に吸引機能を設ける必要はない。
【0036】
ダイ14は、高分子フィルム10を介してバックアップロール13と対向する位置に配置されている。ダイ14には、供給ポンプPが接続されている。ダイ14は、供給ポンプPから供給された触媒層形成用の触媒インクを、高分子フィルム10のバックアップロール13と接触する部分に向けて吐出(塗布)可能に構成されている。
【0037】
触媒インクは、白金系金属触媒を担持したカーボン微粒子を溶媒で混合したインクである。金属触媒としては、例えば、プラチナ、ルテニウム、ロジウム、及びイリジウムなどを用いることができる。カーボン粉末としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、及びアセチレンブラックなどを用いることができる。溶媒としては、水、エタノール、n-プロパノール及びn-ブタノールなどのアルコール系、並びに、エーテル系、エステル系及びフッ素系などの有機溶剤を用いることができる。白金系金属触媒インクの溶媒を乾燥することで、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする第1及び第2触媒層4a,4bを形成することができる。
【0038】
乾燥装置15は、バックアップロール13よりも搬送方向Xの下流側において、高分子フィルム10を包囲するように配置されている。乾燥装置15は、ダイ14により高分子電解質膜1の第1面(又は第2面)に塗布された触媒インクを、高分子電解質膜1の第1面及び第2面の両方から加熱して乾燥させる装置である。この乾燥装置15による乾燥により、触媒インクの溶媒が完全に乾燥して第1触媒層4a(又は第2触媒層4b)が形成される。乾燥装置15としては、例えば、対流式熱風乾燥装置を用いることができる。
【0039】
形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15よりも搬送方向Xの下流側に配置されている。形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15により図2Bに示す高分子フィルム10bが形成されたとき、当該高分子フィルム10bの第1面に第2形状保持フィルム3を貼り付ける装置である。また、形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15により図2Eに示す高分子フィルム10eが形成されたとき、当該高分子フィルム10eの第2面に第3形状保持フィルム5を貼り付ける装置でもある。
【0040】
貼付装置17は、形状保持フィルム供給装置16よりも搬送方向Xの下流側に配置されている。貼付装置17は、高分子電解質膜1の第1面又は第2面に、第1、第2、又は第3形状保持フィルム1〜3を所定の接合強度を保つように貼付可能に構成されている。具体的には、貼付装置17は、一組の円柱形の貼付ロール17a,17bにより構成されている。貼付ロール17a,17bは、例えば直径が200mmの円柱形の部材である。貼付ロール17a,17bは、それらの間に高分子フィルム10が供給されたとき、互いに接近して高分子フィルム10に所定の圧力及び熱を加えることができるように構成されている。
【0041】
次に、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法について説明する。
【0042】
まず、高分子電解質膜1の第2面(一方の面)に第1形状保持フィルム2を貼り付けて、図2Aに示す高分子フィルム10aを作成する(第1フィルム貼付工程)。
【0043】
次いで、図2Aに示す高分子フィルム10aを供給ロール11に巻回し、図1に示すように、バックアップロール13に懸架されて巻取りロール18に巻き取られるように高分子フィルム10aをセットする。
【0044】
次いで、巻取りロール18のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム10aを供給ロール11から巻取りロール18に向けて連続的に送る。
【0045】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール13上に位置した高分子フィルム10aに、触媒インクを供給ポンプPからダイ14を通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜1の第1面(他方の面)に触媒インクが塗布される。
【0046】
次いで、前記送り動作により乾燥装置15内に送られた触媒インク塗布済みの高分子フィルム10aを、乾燥装置15により加熱する。これにより、高分子電解質膜1の第1面及び第2面の両方から高分子電解質膜1が加熱されて触媒インクが乾燥され、図2Bに示すように第1触媒層4aが形成される(第1触媒層形成工程)。
【0047】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置16の下方に送られた図2Bに示す高分子フィルム10bの第1面上に、形状保持フィルム供給装置16により、複数の孔を設けた第2形状保持フィルム3を供給する。これにより、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが未接合の図2Cに示す高分子フィルム10cが形成される。
【0048】
次いで、前記送り動作により貼付装置17の貼付ロール17a,17b間に送られた前記未接合の高分子フィルム10cに対して、貼付ロール17a,17bより圧力及び熱を加える。この圧力及び熱により、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とを接合する(第2フィルム貼付工程)。
【0049】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図2Cに示す高分子フィルム10cが巻取りロール18に巻き取られる。
【0050】
次いで、図2Cに示す高分子フィルム10cを供給リール11に巻回し、図1に示すように、バックアップロール13に懸架されて巻取りロール18に巻き取られるように高分子フィルム10cをセットする。このとき、高分子フィルム10dの第2面(第1触媒層4aを形成していない面)がダイ13に対して露出するように、高分子フィルム10cをセットする。
【0051】
次いで、巻取りロール18のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム10cを供給ロール11から巻取りロール18に向けて連続的に送る。
【0052】
次いで、前記送り動作により剥離装置12の下方に送られた高分子フィルム10cから第1形状保持フィルム2を剥離して、図2Dに示す高分子フィルム10dを作成する(第1フィルム剥離工程)。
【0053】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール13上に位置した高分子フィルム10dに、触媒インクを供給ポンプPからダイ14を通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜1の第2面に触媒インクが塗布される。なお、このとき、高分子電解質膜1の第2面に塗布する触媒インク(第2触媒インク)は、高分子電解質膜1の第1面に塗布した触媒インク(第1触媒インク)と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
次いで、前記送り動作により乾燥装置15内に送られた触媒インク塗布済みの高分子フィルム10dを、乾燥装置15により加熱する。これにより、高分子電解質膜1の第1面及び第2面の両方から高分子電解質膜1が加熱されて触媒インクが乾燥され、図2Eに示すように第2触媒層4bが形成される(第2触媒層形成工程)。このとき、触媒インクの溶媒の乾燥により発生した蒸気が、第2形状保持フィルム3の複数の孔3aから外部へ排出されるので、第2形状保持フィルム3が膨らむことを抑えることができる。
【0055】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置16の下方に送られた図2Eに示す高分子フィルム10eの第2面上に、形状保持フィルム供給装置16により第3形状保持フィルム5を供給する。これにより、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とが未接合の図2Fに示す高分子フィルム10fが形成される。
【0056】
次いで、前記送り動作により貼付装置17の貼付ロール17a,17b間に送られた前記未接合の高分子フィルム10fに対して、貼付ロール17a,17bより加圧及び加熱する。この加圧及び加熱により、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とを接合する(第3フィルム貼付工程)。なお、第2形状保持フィルム5と第1触媒層4aとは接合しないので、触媒インクの溶媒の乾燥により発生した蒸気が、孔3aから排出されずに、第2形状保持フィルム5と第1触媒層4aとの間の微小な空間に滞留することがあり得る。これに対して、前記のように加圧及び加熱することで、前記微小な空間に滞留した蒸気を孔3aに誘導して外部に排出することができる。
【0057】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図2Fに示す高分子フィルム10fが巻取りロール18に巻き取られる。これにより、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体が製造される。
【0058】
本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法によれば、複数の孔3aを設けた第2形状保持フィルム3を用いるようにしているので、触媒インクの溶媒の乾燥により発生した蒸気を複数の孔3aから排出することができる。これにより、第2形状保持フィルム3が膨らむことを抑えることができ、高分子フィルム10eが貼付ロール17a,17b間で詰まるなどの搬送トラブルや、高分子フィルム10eが巻取ロール18に適切に巻き取られないなどの巻取り不良の発生を抑えることができる。その結果、ロール・ツー・ロール方式の製造装置を用いて膜−触媒層接合体を製造することが可能となり、膜−触媒層接合体の生産効率を向上させることができる。
【0059】
次に、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法による第2形状保持フィルム3の膨れやフィルムの接着状態を検証した結果について説明する。下記表1には、第2形状保持フィルム3の孔3aの直径及び配置ピッチを変えて形成した複数の高分子フィルム10に関するデータが示されている。図4は、下記表1のデータに基づいて、第2形状保持フィルム3の開孔率と膨れ高さとの関係をグラフ化したものである。
【0060】
【表1】
【0061】
表1において「配置ピッチ」とは、互いに隣接する孔3a,3aの中心間距離を意味する。
また、表1において「開孔率」とは、第2形状保持フィルム3と触媒層1aとが接する部分全体に対する複数の孔3aが占める割合をいう。
【0062】
また、表1において「フィルムの接着」とは、第2形状保持フィルム3と高分子電解質膜1との接着状態を意味する。「フィルムの接着」の欄において、バツ印は、接着不良により高分子フィルム10c又は10dに製品として成り立たないレベルの大きなシワが発生したことを意味する。丸印は、高分子フィルム10c又は10dに製品としては問題のないレベルの小さなシワが発生したことを意味する。二重丸は、高分子フィルム10c又は10dにシワが発生しなかったことを意味する。なお、高分子フィルムにシワが発生した場合には、高分子電解質膜1がダメージを受けて、発電性能が低下することになる。
【0063】
また、表1において「膨れ高さ」とは、図2eに示す高分子フィルム10eを形成する際に発生した第2形状保持フィルム3の膨れの高さを意味する。「膨れ高さ」の欄において、バツ印は、搬送トラブル等の不良が発生するレベルの大きな膨れが第2形状保持フィルム3に発生したことを意味する。丸印は、搬送トラブル等の不良が発生しないレベルの小さな膨れが第2形状保持フィルム3に発生したことを意味する。二重丸は、第2形状保持フィルム3の膨れが発生しなかったことを意味する。
【0064】
また、表1において「判定」とは、表1に示す直径及び配置ピッチの孔を有する各高分子フィルムが膜−触媒層接合体として使用されることが好ましいか否かの判定を意味する。「判定」の欄において、バツ印は、膜−触媒層接合体として使用することが好ましくないことを意味する。丸印は、多少のシワ又は膨れが発生するものの、膜−触媒層接合体として使用しても搬送トラブル等の不良が生じず、膜−触媒層接合体として使用することが好ましいことを意味する。二重丸は、シワや膨れが発生せず、膜−触媒層接合体として使用することがより好ましいことを意味する。
【0065】
なお、ここでは、高分子電解質膜1として、フッ素系の高分子電解質膜を用いた。また、第1及び第2形状保持フィルム2,3として、それぞれ片面に表面処理を施した膜厚75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した。第2形状保持フィルム3の複数の孔3aは、パンチングにより第2形状保持フィルム3の全体に一定の配置ピッチで形成した。孔3aの形状は円形とした。第2形状保持フィルム3を高分子電解質膜1に貼り付ける際、貼付装置17による加圧力は0.1〜1.0MPaとし、貼付装置17による加熱温度は80〜150℃とした。
【0066】
また、第1触媒層4aを形成する場合及び第2触媒層4bを形成する場合の両方共、高分子フィルム10の搬送速度は、0.5m/分とした。また、乾燥装置15による加熱温度は60℃とし、乾燥装置15による加熱時間は5分間とした。
【0067】
また、第1触媒層4aを形成する触媒インクとして、カーボンブラック5gにイオン交換水10gを添加した後、エタノール溶液10gを添加し、超音波振動を加えながら混合した触媒インクを用いた。カーボンブラックとしては、平均粒径3nmの白金を50重量%担持した平均粒径50〜60nmのカーボンブラックを用いた。エタノール溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を91重量%含むエタノール溶液を用いた。
【0068】
また、第2触媒層4bを形成する触媒インクとして、カーボンブラック5gにイオン交換水15gを添加した後、エタノール溶液10gを添加し、超音波振動を加えながら混合した触媒インクを用いた。カーボンブラックとしては、平均粒径2〜3nmの白金とルテニウムの合金を50重量%担持した平均粒径50〜60nmのカーボンブラックを用いた。エタノール溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を91重量%含むエタノール溶液を用いた。
【0069】
表1において、孔無しの高分子フィルムと、孔の直径が0.5mmで配置ピッチが50mmの高分子フィルムとを比較すると、判定はバツになっているが、第2形状保持フィルム3の膨れ高さが大幅に抑えられている(60mm→20mm)ことが分かる。これにより、技術上の下限である直径0.5mm程度の孔を設けるだけでも、第2形状保持フィルム3の膨れ高さが大幅に抑えられることが分かる。
【0070】
また、表1より、孔の直径が1.0mmで配置ピッチが50mmの高分子フィルムでは、膨れ高さが一層抑えられている(20mm→5mm)ことが分かる。これは、開孔率が大きくなったことにより、蒸気が排出されやすくなったためと考えられる。従って、開孔率が0.001%以上であれば、第2形状保持フィルム3の膨れの抑制効果を十分に得られると考えられる。また、表1より、開孔率を大きくする程、第2形状保持フィルム3の膨れ高さを抑えられることが分かる。
【0071】
また、表1より、開孔率が63%の高分子フィルムでは、製品として成り立たないレベルの大きなシワが発生していることが分かる。これは、開孔率が大き過ぎるために、第2形状保持フィルム3と高分子電解質膜1との接着面積が小さく、両者の接着が不十分になっているためと考えられる。一方、開孔率が57%の高分子フィルムに発生したシワは、製品としては問題のないレベルである。このことから、開孔率の上限は、60%程度と考えられる。
【0072】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の様態で実施できる。例えば、孔3aは、第2形状保持フィルム3に複数設けられるものとしたが、本発明はこれに限定されず、1つであってもよい。この場合でも、孔3aを設けない従来の構成に比べて、第2形状保持フィルム3の膨れを抑えることができる。なお、高分子フィルムの巻取り易さや接着強度を考慮した場合には、孔3aは複数設けられることが好ましい。
【0073】
また、前記実施形態では、図3に示すように、複数の孔3aを第2形状保持フィルム3の全体に設けたが、本発明はこれに限定されない。複数の孔3aは、第2形状保持フィルム3が第1触媒層4aに接する部分にのみ設けられてもよい。例えば、図5に示すように第1触媒層4aが搬送方向Xに沿って連続的に形成された場合には、複数の孔3aは、図6及び図7に示すように設けられてもよい。また、図8に示すように第1触媒層4aが搬送方向Xに沿って間欠的に形成された場合には、複数の孔3aは、図9に示すように設けられてもよい。これらの場合、第2形状保持フィルム3と高分子電解質膜1との接着部分には孔3aが設けられないので、第2形状保持フィルム3と高分子電解質膜1との接着強度をより強くすることができる。
【0074】
また、前記実施形態では、複数の孔3aの形状を円形としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、複数の孔3aの形状は、三角形、四角形、楕円形などであってもよい。なお、第2形状保持フィルム3に線状の切り込みを入れたような場合であっても、当該切り込みから蒸気を排出することができ、第2形状保持フィルム3の膨れを抑えることができる。但し、この場合、接着強度が低下したり、巻取りロール18での高分子フィルムの巻取りが困難になるなどの新たな課題が生じる。このため、複数の孔3aは、円形又は円形に近い形状であることが好ましい。また、複数の孔3aの大きさは、同程度であることが好ましい。
【0075】
また、複数の孔3aは、一定の配置ピッチで設けられることが好ましい。これにより、触媒インクの溶媒の蒸発により発生した蒸気を効果的に外部へ排出することができるとともに、そのような複数の孔3aを形成する加工も容易である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法は、第2触媒層を形成する際に第2形状フィルムが膨らむことを抑えることができるので、例えば、携帯型電子機器、自動車などの移動体、分散発電システム及び家庭用コージェネレーションシステムなどの駆動電源として使用される燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0077】
1 高分子電解質膜
2 第1形状保持フィルム
3 第2形状保持フィルム
4a 第1触媒層
4b 第2触媒層
5 第3形状保持フィルム
10 高分子フィルム
11 供給ロール
12 剥離装置
13 バックアップロール
14 ダイ
15 乾燥装置
16 形状保持フィルム供給装置
17 貼付装置
17a,17b 貼付ロール
18 巻取りロール
P 供給ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器、自動車などの移動体、分散発電システム及び家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動電源として使用される燃料電池に関し、特に当該燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法、並びに当該製造方法に用いる形状保持フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱と水とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池は、一般的には複数のセルを積層し、それらをボルト又はバンドなどの締結部材で加圧締結することにより構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。
【0004】
MEAは、高分子電解質膜と、当該高分子電解質膜の両面に配置された一対の電極層によって構成されている。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。一対の電極層はそれぞれ、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、当該触媒層の上に配置される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。ここでは、高分子電解質膜と触媒層との接合体を膜−触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)という。前記アノード電極に燃料ガスが接触すると共に前記カソード電極に酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱と水とが発生する。
【0005】
次に、図10A〜図10Fを用いて、従来の膜−触媒層接合体の製造方法の一例を説明する(例えば、特許文献1:特開2002−289207号公報参照)。
【0006】
まず、図10Aに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に第1形状保持フィルム102を貼り付ける。次いで、図10Bに示すように、高分子電解質膜101の他方の面に、第1触媒インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層104aを形成する。次いで、図10Cに示すように、第1触媒層104a上に第2形状保持フィルム103を貼り付ける。次いで、図10Dに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に貼り付けられた第1形状保持フィルム102を除去する。次いで、図10Eに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に、第2触媒インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層104bを形成する。次いで、図10Fに示すように、第2触媒層104b上に第3形状保持フィルム105を貼り付ける。
【0007】
前記のように、高分子電解質膜101上に触媒インクを直接印刷又は塗布して膜−触媒層接合体を製造する技術は、高分子電解質膜101と触媒層104a,104bとの界面抵抗を極めて低くすることができることから、理想的な膜−触媒層接合体の製造方法として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−289207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の製造方法では、第2触媒層104bを形成する際に、図11に示すように第2形状保持フィルム103が風船のように膨らむことがある。第2形状保持フィルム103の膨れは、特にロール・ツー・ロール方式の製造装置を用いて膜−触媒層接合体を製造する場合に、搬送トラブルや巻取り不良などを引き起こす原因となる。
【0010】
本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、第2触媒層を形成する際に第2形状保持フィルムが膨らむことを抑えることができる膜−触媒層接合体の製造方法、並びに当該製造方法に用いる形状保持フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1形状保持フィルムが貼り付けられた高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、
前記第1触媒層を形成した前記電解質膜の他方の面に、孔を設けた第2形状保持フィルムを、前記孔が前記第1触媒層上に位置するように貼り付ける第2フィルム貼付工程と、
前記第2形状保持フィルムを貼り付けた前記電解質膜から前記第1形状保持フィルムを剥離する第1フィルム剥離工程と、
前記第1形状保持フィルムを剥離して露出させた前記電解質膜上に第2触媒インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層を形成する第2触媒層形成工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法によれば、複数の孔を設けた第2形状保持フィルムを用いるようにしているので、第2触媒層を形成する際に第2形状保持フィルムが膨らむことを抑えることができる。これにより、搬送トラブルや巻取り不良の発生を抑えることができる。その結果、ロール・ツー・ロール方式の製造装置を用いて膜−触媒層接合体を製造することができ、膜−触媒層接合体の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略説明図である。
【図2A】本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図2B】図2Aに続く工程を示す断面図である。
【図2C】図2Bに続く工程を示す断面図である。
【図2D】図2Cに続く工程を示す断面図である。
【図2E】図2Dに続く工程を示す断面図である。
【図2F】図2Eに続く工程を示す断面図である。
【図3】全面に孔が設けられた第2形状保持フィルムの平面図である。
【図4】第2形状保持フィルムの開孔率と膨れ高さとの関係を示すグラフである。
【図5】高分子電解質膜上に第1触媒層が連続的に形成された状態を示す平面図である。
【図6】図5に示すように連続的に形成された第1触媒層と接する部分にのみ孔が設けられた第2形状保持フィルムを示す平面図である。
【図7】第1触媒層を形成した高分子電解質膜の第1面に、図6の第2形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図8】高分子電解質膜上に第1触媒層が間欠的に形成された状態を示す平面図である。
【図9】図8に示すように連続的に形成された第1触媒層と接する部分にのみ孔が設けられた第2形状保持フィルムを示す平面図である。
【図10A】従来の膜−触媒層接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図10B】図10Aに続く工程を示す断面図である。
【図10C】図10Bに続く工程を示す断面図である。
【図10D】図10Cに続く工程を示す断面図である。
【図10E】図10Dに続く工程を示す断面図である。
【図10F】図10Eに続く工程を示す断面図である。
【図11】第2形状保持フィルムが風船のように膨らんだ状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発明者らは、前記従来技術の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0015】
図10Eに示すように第1触媒層104a上に第2形状保持フィルム103を形成する場合、それらに用いる材料の性質上、それらを直接接着することは困難である。このため、前記従来の製造方法では、第1触媒層104aよりも高分子電解質膜101及び第2形状保持フィルム103のサイズを大きくして、高分子電解質膜101と第2形状保持フィルム103とを接着するようにしている。このため、第1触媒層104aと第2形状保持フィルム103との間には、高分子電解質膜101と第2形状保持フィルム103との接着により密閉されたミクロな空間が存在している。
【0016】
一方、高分子電解質膜101の他方の面に塗布した第2触媒インクを乾燥する際、第2触媒インクの溶媒が蒸発して蒸気が発生する。本発明の発明者らは、この蒸気が高分子電解質膜を通過して前記密閉されたミクロな空間に移動し当該空間で拡散することが、第2形状保持フィルムを風船のように膨らませる原因であることを見出した。そこで、本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、第2形状保持フィルムの第1触媒層に接する部分に孔を設けることで、第2形状保持フィルムの膨らみが劇的に減少することを見出し、以下の本発明に想到した。
【0017】
本発明の第1態様によれば、燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1形状保持フィルムが貼り付けられた高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、
前記第1触媒層を形成した前記電解質膜の他方の面に、孔を設けた第2形状保持フィルムを、前記孔が前記第1触媒層上に位置するように貼り付ける第2フィルム貼付工程と、
前記第2形状保持フィルムを貼り付けた前記電解質膜から前記第1形状保持フィルムを剥離する第1フィルム剥離工程と、
前記第1形状保持フィルムを剥離して露出させた前記電解質膜上に第2触媒インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層を形成する第2触媒層形成工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の第2態様によれば、前記孔は、前記第2形状保持フィルムに複数設けられている、第1態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0019】
本発明の第3態様によれば、前記複数の孔の形状は、それぞれ円形である、第2態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の第4態様によれば、前記複数の孔は、一定の配置ピッチで設けられている、第2又は3態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の第5態様によれば、前記複数の孔は、それぞれ均等な大きさである、第2〜4態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の第6態様によれば、前記複数の孔は、前記第2形状保持フィルムが前記第1触媒層と接する部分にのみ設けられている、第2〜5態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0023】
本発明の第7態様によれば、前記複数の孔は、前記第2形状保持フィルムの全体に設けられている、第2〜5態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0024】
本発明の第8態様によれば、燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造に用いられる形状保持フィルムであって、触媒層と接する部分に孔が設けられた形状保持フィルム。
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
《実施形態》
図1は、本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す図である。本実施形態にかかる膜−触媒層接合体は、例えば、携帯型電子機器、自動車などの移動体、分散発電システム及び家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動電源として使用される燃料電池に用いられるものである。
【0027】
図1において、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置は、いわゆるロール・ツー・ロール方式の製造装置である。具体的には、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置は、供給ロール11と、剥離装置12と、バックアップロール13と、ダイ14と、乾燥装置15と、形状保持フィルム供給装置16と、貼付装置17と、巻取りロール18とを備えている。
【0028】
供給ロール11には、高分子フィルム10が巻回されている。本実施形態において、高分子フィルム10とは、図2A〜図2Fのいずれかに示す構造を有する高分子フィルム10a〜10fをいう。
【0029】
図2Aに示すように高分子電解質膜1の第1面(他方の面)に第1触媒層4aを形成する場合、供給ロール11には、図2Aに示す構造を有する高分子フィルム10aが巻回される。すなわち、供給ロール11には、シート状の高分子電解質膜1の第2面(一方の面)に第1形状保持フィルム2を貼り付けた構造を有する高分子フィルム10aが巻回される。
【0030】
また、図2Eに示すように高分子電解質膜1の第2面(一方の面)に第2触媒層4bを形成する場合、供給ロール11には、図2Cに示す構造を有する高分子フィルム10cが巻回される。すなわち、供給ロール11には、シート状の高分子電解質膜1の第1面(他方の面)に第1触媒層4aを覆うように第2形状保持フィルム3を貼り付けると共に、第2面(一方の面)に第1形状保持フィルム2を貼り付けた構造を有する高分子フィルム10cが巻回される。第2形状保持フィルム3には、図3に示すように、蒸気を排出するための孔3aが複数設けられている。複数の孔3aは、例えば、パンチングにより円形に形成されている。
【0031】
高分子電解質膜1としては、フッ素系や炭化水素系など従来から用いられている多種多様な高分子電解質膜を用いることができる。例えば、高分子電解質膜1として、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)など)を使用することができる。高分子電解質膜1は、通常、非常に薄く且つ少しの湿気でも変形し易い部材である。このため、高分子電解質膜1の第1面又は第2面に第1,第2,又は第3形状保持フィルム2,3,又は5を貼り付けるようにしている。
【0032】
第1,第2,又は第3形状保持フィルム2,3,5としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂などを用いることができる。第1,第2,又は第3形状保持フィルム2,3,5は、ラミネート加工時に熱変形しない耐熱性を有するフィルムであればよい。
【0033】
供給ロール11から引き出された高分子フィルム10は、バックアップロール13に懸架され、巻取りロール18に巻き取られる。巻取りロール18は、図示しないモータを備え、当該モータの駆動力により連続的に回転することで、高分子フィルム10を連続的に巻き取る。本実施形態においては、後述するように高分子フィルム10が供給ロール11から引き出されて巻取りロール18に巻き取られるまでの間に高分子電解質膜1の第1面(又は第2面)に第1触媒層4a(又は第2触媒層4b)が形成されるようにしているので、膜−触媒層接合体の大量生産が可能である。
【0034】
剥離装置12は、供給ロール11から図2Cに示す高分子フィルム10cが供給されるときに、高分子電解質膜1から第1形状保持フィルム2を剥離する装置である。この剥離装置12が第1形状保持フィルム2を剥離することにより、バックアップロール13には図2Dに示す高分子フィルム10dが供給されることになる。なお、供給ロール11から図2Aの高分子フィルム10aが供給されるときには、剥離装置12は駆動しない。
【0035】
バックアップロール13は、例えば、直径が300mmに設定された円柱形の部材である。なお、高分子電解質膜1に第1形状保持フィルム2又は第2形状保持フィルム3を貼り付けるようにしているので、バックアップロール13に吸引機能を設ける必要はない。
【0036】
ダイ14は、高分子フィルム10を介してバックアップロール13と対向する位置に配置されている。ダイ14には、供給ポンプPが接続されている。ダイ14は、供給ポンプPから供給された触媒層形成用の触媒インクを、高分子フィルム10のバックアップロール13と接触する部分に向けて吐出(塗布)可能に構成されている。
【0037】
触媒インクは、白金系金属触媒を担持したカーボン微粒子を溶媒で混合したインクである。金属触媒としては、例えば、プラチナ、ルテニウム、ロジウム、及びイリジウムなどを用いることができる。カーボン粉末としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、及びアセチレンブラックなどを用いることができる。溶媒としては、水、エタノール、n-プロパノール及びn-ブタノールなどのアルコール系、並びに、エーテル系、エステル系及びフッ素系などの有機溶剤を用いることができる。白金系金属触媒インクの溶媒を乾燥することで、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする第1及び第2触媒層4a,4bを形成することができる。
【0038】
乾燥装置15は、バックアップロール13よりも搬送方向Xの下流側において、高分子フィルム10を包囲するように配置されている。乾燥装置15は、ダイ14により高分子電解質膜1の第1面(又は第2面)に塗布された触媒インクを、高分子電解質膜1の第1面及び第2面の両方から加熱して乾燥させる装置である。この乾燥装置15による乾燥により、触媒インクの溶媒が完全に乾燥して第1触媒層4a(又は第2触媒層4b)が形成される。乾燥装置15としては、例えば、対流式熱風乾燥装置を用いることができる。
【0039】
形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15よりも搬送方向Xの下流側に配置されている。形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15により図2Bに示す高分子フィルム10bが形成されたとき、当該高分子フィルム10bの第1面に第2形状保持フィルム3を貼り付ける装置である。また、形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15により図2Eに示す高分子フィルム10eが形成されたとき、当該高分子フィルム10eの第2面に第3形状保持フィルム5を貼り付ける装置でもある。
【0040】
貼付装置17は、形状保持フィルム供給装置16よりも搬送方向Xの下流側に配置されている。貼付装置17は、高分子電解質膜1の第1面又は第2面に、第1、第2、又は第3形状保持フィルム1〜3を所定の接合強度を保つように貼付可能に構成されている。具体的には、貼付装置17は、一組の円柱形の貼付ロール17a,17bにより構成されている。貼付ロール17a,17bは、例えば直径が200mmの円柱形の部材である。貼付ロール17a,17bは、それらの間に高分子フィルム10が供給されたとき、互いに接近して高分子フィルム10に所定の圧力及び熱を加えることができるように構成されている。
【0041】
次に、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法について説明する。
【0042】
まず、高分子電解質膜1の第2面(一方の面)に第1形状保持フィルム2を貼り付けて、図2Aに示す高分子フィルム10aを作成する(第1フィルム貼付工程)。
【0043】
次いで、図2Aに示す高分子フィルム10aを供給ロール11に巻回し、図1に示すように、バックアップロール13に懸架されて巻取りロール18に巻き取られるように高分子フィルム10aをセットする。
【0044】
次いで、巻取りロール18のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム10aを供給ロール11から巻取りロール18に向けて連続的に送る。
【0045】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール13上に位置した高分子フィルム10aに、触媒インクを供給ポンプPからダイ14を通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜1の第1面(他方の面)に触媒インクが塗布される。
【0046】
次いで、前記送り動作により乾燥装置15内に送られた触媒インク塗布済みの高分子フィルム10aを、乾燥装置15により加熱する。これにより、高分子電解質膜1の第1面及び第2面の両方から高分子電解質膜1が加熱されて触媒インクが乾燥され、図2Bに示すように第1触媒層4aが形成される(第1触媒層形成工程)。
【0047】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置16の下方に送られた図2Bに示す高分子フィルム10bの第1面上に、形状保持フィルム供給装置16により、複数の孔を設けた第2形状保持フィルム3を供給する。これにより、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが未接合の図2Cに示す高分子フィルム10cが形成される。
【0048】
次いで、前記送り動作により貼付装置17の貼付ロール17a,17b間に送られた前記未接合の高分子フィルム10cに対して、貼付ロール17a,17bより圧力及び熱を加える。この圧力及び熱により、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とを接合する(第2フィルム貼付工程)。
【0049】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図2Cに示す高分子フィルム10cが巻取りロール18に巻き取られる。
【0050】
次いで、図2Cに示す高分子フィルム10cを供給リール11に巻回し、図1に示すように、バックアップロール13に懸架されて巻取りロール18に巻き取られるように高分子フィルム10cをセットする。このとき、高分子フィルム10dの第2面(第1触媒層4aを形成していない面)がダイ13に対して露出するように、高分子フィルム10cをセットする。
【0051】
次いで、巻取りロール18のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム10cを供給ロール11から巻取りロール18に向けて連続的に送る。
【0052】
次いで、前記送り動作により剥離装置12の下方に送られた高分子フィルム10cから第1形状保持フィルム2を剥離して、図2Dに示す高分子フィルム10dを作成する(第1フィルム剥離工程)。
【0053】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール13上に位置した高分子フィルム10dに、触媒インクを供給ポンプPからダイ14を通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜1の第2面に触媒インクが塗布される。なお、このとき、高分子電解質膜1の第2面に塗布する触媒インク(第2触媒インク)は、高分子電解質膜1の第1面に塗布した触媒インク(第1触媒インク)と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
次いで、前記送り動作により乾燥装置15内に送られた触媒インク塗布済みの高分子フィルム10dを、乾燥装置15により加熱する。これにより、高分子電解質膜1の第1面及び第2面の両方から高分子電解質膜1が加熱されて触媒インクが乾燥され、図2Eに示すように第2触媒層4bが形成される(第2触媒層形成工程)。このとき、触媒インクの溶媒の乾燥により発生した蒸気が、第2形状保持フィルム3の複数の孔3aから外部へ排出されるので、第2形状保持フィルム3が膨らむことを抑えることができる。
【0055】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置16の下方に送られた図2Eに示す高分子フィルム10eの第2面上に、形状保持フィルム供給装置16により第3形状保持フィルム5を供給する。これにより、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とが未接合の図2Fに示す高分子フィルム10fが形成される。
【0056】
次いで、前記送り動作により貼付装置17の貼付ロール17a,17b間に送られた前記未接合の高分子フィルム10fに対して、貼付ロール17a,17bより加圧及び加熱する。この加圧及び加熱により、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とを接合する(第3フィルム貼付工程)。なお、第2形状保持フィルム5と第1触媒層4aとは接合しないので、触媒インクの溶媒の乾燥により発生した蒸気が、孔3aから排出されずに、第2形状保持フィルム5と第1触媒層4aとの間の微小な空間に滞留することがあり得る。これに対して、前記のように加圧及び加熱することで、前記微小な空間に滞留した蒸気を孔3aに誘導して外部に排出することができる。
【0057】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図2Fに示す高分子フィルム10fが巻取りロール18に巻き取られる。これにより、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体が製造される。
【0058】
本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法によれば、複数の孔3aを設けた第2形状保持フィルム3を用いるようにしているので、触媒インクの溶媒の乾燥により発生した蒸気を複数の孔3aから排出することができる。これにより、第2形状保持フィルム3が膨らむことを抑えることができ、高分子フィルム10eが貼付ロール17a,17b間で詰まるなどの搬送トラブルや、高分子フィルム10eが巻取ロール18に適切に巻き取られないなどの巻取り不良の発生を抑えることができる。その結果、ロール・ツー・ロール方式の製造装置を用いて膜−触媒層接合体を製造することが可能となり、膜−触媒層接合体の生産効率を向上させることができる。
【0059】
次に、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法による第2形状保持フィルム3の膨れやフィルムの接着状態を検証した結果について説明する。下記表1には、第2形状保持フィルム3の孔3aの直径及び配置ピッチを変えて形成した複数の高分子フィルム10に関するデータが示されている。図4は、下記表1のデータに基づいて、第2形状保持フィルム3の開孔率と膨れ高さとの関係をグラフ化したものである。
【0060】
【表1】
【0061】
表1において「配置ピッチ」とは、互いに隣接する孔3a,3aの中心間距離を意味する。
また、表1において「開孔率」とは、第2形状保持フィルム3と触媒層1aとが接する部分全体に対する複数の孔3aが占める割合をいう。
【0062】
また、表1において「フィルムの接着」とは、第2形状保持フィルム3と高分子電解質膜1との接着状態を意味する。「フィルムの接着」の欄において、バツ印は、接着不良により高分子フィルム10c又は10dに製品として成り立たないレベルの大きなシワが発生したことを意味する。丸印は、高分子フィルム10c又は10dに製品としては問題のないレベルの小さなシワが発生したことを意味する。二重丸は、高分子フィルム10c又は10dにシワが発生しなかったことを意味する。なお、高分子フィルムにシワが発生した場合には、高分子電解質膜1がダメージを受けて、発電性能が低下することになる。
【0063】
また、表1において「膨れ高さ」とは、図2eに示す高分子フィルム10eを形成する際に発生した第2形状保持フィルム3の膨れの高さを意味する。「膨れ高さ」の欄において、バツ印は、搬送トラブル等の不良が発生するレベルの大きな膨れが第2形状保持フィルム3に発生したことを意味する。丸印は、搬送トラブル等の不良が発生しないレベルの小さな膨れが第2形状保持フィルム3に発生したことを意味する。二重丸は、第2形状保持フィルム3の膨れが発生しなかったことを意味する。
【0064】
また、表1において「判定」とは、表1に示す直径及び配置ピッチの孔を有する各高分子フィルムが膜−触媒層接合体として使用されることが好ましいか否かの判定を意味する。「判定」の欄において、バツ印は、膜−触媒層接合体として使用することが好ましくないことを意味する。丸印は、多少のシワ又は膨れが発生するものの、膜−触媒層接合体として使用しても搬送トラブル等の不良が生じず、膜−触媒層接合体として使用することが好ましいことを意味する。二重丸は、シワや膨れが発生せず、膜−触媒層接合体として使用することがより好ましいことを意味する。
【0065】
なお、ここでは、高分子電解質膜1として、フッ素系の高分子電解質膜を用いた。また、第1及び第2形状保持フィルム2,3として、それぞれ片面に表面処理を施した膜厚75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した。第2形状保持フィルム3の複数の孔3aは、パンチングにより第2形状保持フィルム3の全体に一定の配置ピッチで形成した。孔3aの形状は円形とした。第2形状保持フィルム3を高分子電解質膜1に貼り付ける際、貼付装置17による加圧力は0.1〜1.0MPaとし、貼付装置17による加熱温度は80〜150℃とした。
【0066】
また、第1触媒層4aを形成する場合及び第2触媒層4bを形成する場合の両方共、高分子フィルム10の搬送速度は、0.5m/分とした。また、乾燥装置15による加熱温度は60℃とし、乾燥装置15による加熱時間は5分間とした。
【0067】
また、第1触媒層4aを形成する触媒インクとして、カーボンブラック5gにイオン交換水10gを添加した後、エタノール溶液10gを添加し、超音波振動を加えながら混合した触媒インクを用いた。カーボンブラックとしては、平均粒径3nmの白金を50重量%担持した平均粒径50〜60nmのカーボンブラックを用いた。エタノール溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を91重量%含むエタノール溶液を用いた。
【0068】
また、第2触媒層4bを形成する触媒インクとして、カーボンブラック5gにイオン交換水15gを添加した後、エタノール溶液10gを添加し、超音波振動を加えながら混合した触媒インクを用いた。カーボンブラックとしては、平均粒径2〜3nmの白金とルテニウムの合金を50重量%担持した平均粒径50〜60nmのカーボンブラックを用いた。エタノール溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を91重量%含むエタノール溶液を用いた。
【0069】
表1において、孔無しの高分子フィルムと、孔の直径が0.5mmで配置ピッチが50mmの高分子フィルムとを比較すると、判定はバツになっているが、第2形状保持フィルム3の膨れ高さが大幅に抑えられている(60mm→20mm)ことが分かる。これにより、技術上の下限である直径0.5mm程度の孔を設けるだけでも、第2形状保持フィルム3の膨れ高さが大幅に抑えられることが分かる。
【0070】
また、表1より、孔の直径が1.0mmで配置ピッチが50mmの高分子フィルムでは、膨れ高さが一層抑えられている(20mm→5mm)ことが分かる。これは、開孔率が大きくなったことにより、蒸気が排出されやすくなったためと考えられる。従って、開孔率が0.001%以上であれば、第2形状保持フィルム3の膨れの抑制効果を十分に得られると考えられる。また、表1より、開孔率を大きくする程、第2形状保持フィルム3の膨れ高さを抑えられることが分かる。
【0071】
また、表1より、開孔率が63%の高分子フィルムでは、製品として成り立たないレベルの大きなシワが発生していることが分かる。これは、開孔率が大き過ぎるために、第2形状保持フィルム3と高分子電解質膜1との接着面積が小さく、両者の接着が不十分になっているためと考えられる。一方、開孔率が57%の高分子フィルムに発生したシワは、製品としては問題のないレベルである。このことから、開孔率の上限は、60%程度と考えられる。
【0072】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の様態で実施できる。例えば、孔3aは、第2形状保持フィルム3に複数設けられるものとしたが、本発明はこれに限定されず、1つであってもよい。この場合でも、孔3aを設けない従来の構成に比べて、第2形状保持フィルム3の膨れを抑えることができる。なお、高分子フィルムの巻取り易さや接着強度を考慮した場合には、孔3aは複数設けられることが好ましい。
【0073】
また、前記実施形態では、図3に示すように、複数の孔3aを第2形状保持フィルム3の全体に設けたが、本発明はこれに限定されない。複数の孔3aは、第2形状保持フィルム3が第1触媒層4aに接する部分にのみ設けられてもよい。例えば、図5に示すように第1触媒層4aが搬送方向Xに沿って連続的に形成された場合には、複数の孔3aは、図6及び図7に示すように設けられてもよい。また、図8に示すように第1触媒層4aが搬送方向Xに沿って間欠的に形成された場合には、複数の孔3aは、図9に示すように設けられてもよい。これらの場合、第2形状保持フィルム3と高分子電解質膜1との接着部分には孔3aが設けられないので、第2形状保持フィルム3と高分子電解質膜1との接着強度をより強くすることができる。
【0074】
また、前記実施形態では、複数の孔3aの形状を円形としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、複数の孔3aの形状は、三角形、四角形、楕円形などであってもよい。なお、第2形状保持フィルム3に線状の切り込みを入れたような場合であっても、当該切り込みから蒸気を排出することができ、第2形状保持フィルム3の膨れを抑えることができる。但し、この場合、接着強度が低下したり、巻取りロール18での高分子フィルムの巻取りが困難になるなどの新たな課題が生じる。このため、複数の孔3aは、円形又は円形に近い形状であることが好ましい。また、複数の孔3aの大きさは、同程度であることが好ましい。
【0075】
また、複数の孔3aは、一定の配置ピッチで設けられることが好ましい。これにより、触媒インクの溶媒の蒸発により発生した蒸気を効果的に外部へ排出することができるとともに、そのような複数の孔3aを形成する加工も容易である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法は、第2触媒層を形成する際に第2形状フィルムが膨らむことを抑えることができるので、例えば、携帯型電子機器、自動車などの移動体、分散発電システム及び家庭用コージェネレーションシステムなどの駆動電源として使用される燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0077】
1 高分子電解質膜
2 第1形状保持フィルム
3 第2形状保持フィルム
4a 第1触媒層
4b 第2触媒層
5 第3形状保持フィルム
10 高分子フィルム
11 供給ロール
12 剥離装置
13 バックアップロール
14 ダイ
15 乾燥装置
16 形状保持フィルム供給装置
17 貼付装置
17a,17b 貼付ロール
18 巻取りロール
P 供給ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1形状保持フィルムが貼り付けられた高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、
前記第1触媒層を形成した前記電解質膜の他方の面に、孔を設けた第2形状保持フィルムを、前記孔が前記第1触媒層上に位置するように貼り付ける第2フィルム貼付工程と、
前記第2形状保持フィルムを貼り付けた前記電解質膜から前記第1形状保持フィルムを剥離する第1フィルム剥離工程と、
前記第1形状保持フィルムを剥離して露出させた前記電解質膜上に第2触媒インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層を形成する第2触媒層形成工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項2】
前記孔は、前記第2形状保持フィルムに複数設けられている、請求項1に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項3】
前記複数の孔の形状は、それぞれ円形である、請求項2に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項4】
前記複数の孔は、一定の配置ピッチで設けられている、請求項2又は3に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項5】
前記複数の孔は、それぞれ均等な大きさである、請求項2〜4のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項6】
前記複数の孔は、前記第2形状保持フィルムが前記第1触媒層と接する部分にのみ設けられている、請求項2〜5のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項7】
前記複数の孔は、前記第2形状保持フィルムの全体に設けられている、請求項2〜5のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項8】
燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造に用いられる形状保持フィルムであって、
触媒層と接する部分に孔が設けられた形状保持フィルム。
【請求項1】
燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1形状保持フィルムが貼り付けられた高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層を形成する第1触媒層形成工程と、
前記第1触媒層を形成した前記電解質膜の他方の面に、孔を設けた第2形状保持フィルムを、前記孔が前記第1触媒層上に位置するように貼り付ける第2フィルム貼付工程と、
前記第2形状保持フィルムを貼り付けた前記電解質膜から前記第1形状保持フィルムを剥離する第1フィルム剥離工程と、
前記第1形状保持フィルムを剥離して露出させた前記電解質膜上に第2触媒インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層を形成する第2触媒層形成工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項2】
前記孔は、前記第2形状保持フィルムに複数設けられている、請求項1に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項3】
前記複数の孔の形状は、それぞれ円形である、請求項2に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項4】
前記複数の孔は、一定の配置ピッチで設けられている、請求項2又は3に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項5】
前記複数の孔は、それぞれ均等な大きさである、請求項2〜4のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項6】
前記複数の孔は、前記第2形状保持フィルムが前記第1触媒層と接する部分にのみ設けられている、請求項2〜5のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項7】
前記複数の孔は、前記第2形状保持フィルムの全体に設けられている、請求項2〜5のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項8】
燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造に用いられる形状保持フィルムであって、
触媒層と接する部分に孔が設けられた形状保持フィルム。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図11】
【公開番号】特開2012−129051(P2012−129051A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278986(P2010−278986)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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