説明

膜の洗浄方法及び膜の洗浄装置

【課題】 膜の透過性能を低下させることなく膜ろ過運転を安定して継続することができる膜の洗浄方法及び膜の洗浄装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、被処理水を膜ろ過処理する膜の洗浄方法において、
前記被処理水を膜ろ過する膜ろ過工程と、前記膜ろ過工程後にろ過とは逆方向にろ過水を通水して前記膜の逆流洗浄を行う逆流洗浄工程と、前記膜ろ過工程および前記逆流洗浄工程を予め定めた所定回数繰り返した後または膜の目詰まりに応じて、前記膜ろ過水に薬品を添加して前記膜の逆流洗浄を行う薬品添加逆流洗浄工程とを有し、前記薬品添加逆流洗浄工程が、酸を添加する薬品として使用する酸添加逆流洗浄工程と、還元剤を添加する薬品として使用する還元剤添加逆流洗浄工程とを組み合わせて、前記膜の洗浄を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水を膜ろ過処理する膜の洗浄方法および膜の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排水処理や浄水処理等の分野では膜を用いた水処理装置が使用されている。この膜を用いた水処理装置では、長時間の運転によってファウリングが起こり、ろ過性能が低下する。そのため運転サイクルにおいて、所定時間のろ過工程後に、物理洗浄を実施し、ファウリングを低減するようにしている。この物理洗浄には、膜ろ過水を逆流させる逆流洗浄(逆洗)、膜の一次側での水流によるフラッシング、空気により膜を振動させるエアースクラビングなどがあり、物理的な作用によって付着物質を取り除いている。
【0003】
しかしながら、これら物理洗浄を実施していても次第にファウリングは進行し、ファウリングによりろ過性能が低下した膜は薬品洗浄を実施することとなる。
薬品洗浄は物理洗浄では除去しきれない物質を薬品によって分解または溶解させて除去する洗浄方法である。薬品洗浄方法の一つとして、薬品を含む水で逆洗し、薬品浸漬工程を設けて膜の洗浄効果を向上させる洗浄方法が考案されている。
【0004】
特許文献1では、酸化剤による洗浄の後、還元剤による洗浄を行う方法が提案されており、特許文献2では、無機酸溶液に還元剤を加えた洗浄方法が提案されている。
【0005】
また、マンガンや鉄を含む原水に酸化剤による前処理を行った水を原水とする膜の洗浄方法として、膜の一次側を還元剤で洗浄する方法が記載されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平9−290141号公報
【特許文献2】特開2000−202255号公報
【特許文献3】特開2006−305444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、薬品洗浄において、膜のファウリング物質に適した薬品種類の選定や洗浄順序の決定を適性に行わないと、薬品の濃度を高めたり、接触時間を長くしたりする必要が生じ、ろ過性能を初期化できないなどの問題があった。また、薬液を混合した洗浄方法では、化学反応の点から混合する薬品の種類が限定されるなどの問題があった。
【0007】
また、マンガンや鉄を含む原水の膜ろ過における定期的な逆流洗浄では、膜ろ過水に透過した溶解性の金属が酸化し、二次側の膜面で析出し目詰まりを起こすことがあった。また、薬品を添加して行う薬品洗浄では、添加される薬品により、原水もしくは膜ろ過水中の溶解性物質が懸濁化され、膜の目詰まりが加速されることがあった。このように膜の目詰まりは、一次側の膜面だけでなく、膜の内部や逆流洗浄によって膜の二次側膜表面に析出することにより発生する恐れがあった。酸化されて膜に付着した溶解性金属は一般に行われている酸、アルカリの薬液洗浄では除去できない場合や、溶解に時間、高濃度薬品を要した。
【0008】
特許文献3記載では、一次側のみを洗浄しているため、膜の細孔内や膜の二次側の目詰まり物質が除去できない。また一次側から二次側へ還元剤を通水して薬品洗浄を行う方法では、膜の二次側に溶解した高濃度のマンガンや鉄などの金属が透過され、膜ろ過水が汚染される恐れや、ろ過側(二次側)の膜面や配管内で再酸化されて析出されるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、膜の透過性能を低下させることなく膜ろ過運転を安定して継続することができる膜の洗浄方法及び膜の洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の膜の洗浄方法は、被処理水を膜ろ過する工程と、膜ろ過工程後に該ろ過とは逆方向にろ過水を通水して前記膜の逆流洗浄を行う工程と、ろ過および逆流洗浄を所定回数繰り返した後に(定期的に)前記膜ろ過水に薬品を添加して逆流洗浄を行う薬品添加逆流洗浄工程とを有する膜ろ過システムにおいて、前記薬品添加逆流洗浄工程として、前記添加薬品に酸を使用する酸添加逆流洗浄工程と、還元剤を使用する還元剤添加逆流工程とを組み合わせて、前記膜の洗浄を行うことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、逆洗水に酸および還元剤を添加し薬品添加された膜ろ過水を二次側から一次側に通過させることで膜の表面(一次側と二次側の両方)および膜細孔内に析出した金属酸化物による目詰まり物質を溶解して排除することができる。これにより、膜表面に堆積して、通常の薬液洗浄では除去できない堆積物質を溶解して取り除くことができ、また、溶解された高濃度の金属酸化物は一次側から排出されるため膜ろ過水に混入する恐れがなくなり、水質が保たれる。これによって、膜の透過性能を低下させることなく、膜ろ過運転を安定して継続することができる。また、酸と還元剤による工程を別工程で実施することにより、酸を混合すると化学反応を起こす還元剤などの使用が可能となる。その結果、ファウリング物質に適した薬品の選定ができる。
【0012】
また、前記薬品添加逆流洗浄工程における、前記酸添加逆流洗浄と前記還元剤添加逆流洗浄の頻度を、前記膜の目詰まりなどの汚染状況に応じてそれぞれ設定することを特徴とする。この構成によれば、還元溶解によって除去できる成分が多い(少ない)場合は、前記還元剤添加逆流洗浄の頻度を、酸溶解によって除去できる成分が多い(少ない)場合は、酸添加逆流洗浄の頻度をあげる(下げる)ことで、膜の洗浄を効率的に行い、薬品の使用量を低減することが出来る。
【0013】
また、前記薬品添加逆流洗浄工程は、前記還元剤による薬品添加逆流洗浄工程に次いで前記酸溶液による薬品添加逆流洗浄工程を連続で行うことを特徴とする。この構成によれば、水中の酸化金属を還元剤によって還元溶解させた後、酸によって更に膜面に付着した金属成分などを酸溶解させることができ、一度の薬品洗浄工程において膜の初期化を速やかに行うことが出来る。
【0014】
また、本発明は、前記膜を通過して、前記膜ろ過水に含有する溶解性金属が、酸化されたことで析出した金属酸化物質を、前記還元剤で溶解して、前記膜の二次側から一次側に通過させることが望ましい。また、本発明は、前記被処理水に含有する溶解性金属が、酸化されたことで、前記ろ過膜の一次側または二次側、または膜細孔内に析出した金属酸化物質を、前記還元剤で溶解して、前記ろ過膜の一次側に逆流させることが望ましい。
【0015】
前記薬品添加逆流洗浄工程として、前記酸添加逆流洗浄と前記還元剤添加逆洗逆流洗浄との組み合わせ洗浄と、さらに酸化剤を使用した酸化剤添加逆流洗浄を実施することを特徴とする。この構成によれば、酸化剤を用いることで膜システム内の殺菌や、有機物の除去ができる。
【0016】
前記薬品添加逆流洗浄として、前記酸添加逆流洗浄と前記還元剤添加逆洗逆流洗浄との組み合わせ洗浄の後に、前記酸化剤添加逆流洗浄を行うことを特徴とする。この構成によれば、酸化剤添加逆流洗浄を最後に行うことにより、酸や還元剤で溶解し、膜装置内に残存した溶解性の物質を酸化させる事ができ、透過水(処理水)への溶解性物質の混入を防ぐことができる。
【0017】
前記被処理水は、マンガン、鉄及びアルミニウムのうちの少なくとも1つを含有することを特徴とする。
【0018】
本発明の膜の洗浄装置は、被処理水をろ過する膜モジュールと、ろ過水を貯留して前記膜モジュールに前記膜ろ過水を通水して前記膜モジュールを洗浄する逆流洗浄手段と、前記膜ろ過水に薬品を添加する薬品添加手段とを備え、前記薬液添加手段は、前記添加する薬品として酸溶液を前記膜ろ過水に添加する酸溶液添加手段と、前記添加する薬品として還元剤を前記ろ過水に添加する還元剤添加手段とを有する。
【0019】
また、本発明の膜の洗浄装置は、前記薬液添加手段として、添加する薬液が酸化剤である酸化剤添加手段を更に有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、膜の透過性能を低下させることなく膜ろ過運転を安定して継続することができる膜の洗浄方法及び膜の洗浄装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の最良の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る水処理装置100の構成図である。図1に示すように、水処理装置100は、原水タンク2、運転ポンプ3、膜入口バルブ4、膜ろ過装置5、膜出口バルブ6、逆洗タンク入口バルブ7、逆洗タンク8、逆洗ポンプ10、逆洗バルブ11、逆洗排水バルブ12、還元剤タンク14、還元剤注入ポンプ15、還元剤注入バルブ16、酸タンク17、酸注入ポンプ18、酸注入バルブ19、酸化剤タンク20、酸化剤注入ポンプ21、酸化剤注入バルブ22及び薬品注入設備28等を有する。
【0023】
この水処理装置100は、水中に含まれる汚濁物質を膜ろ過装置5によって膜分離して水を製造するものであって、膜による被処理水のろ過後に、ろ過とは逆方向に膜ろ過水を通水し、定期的に逆流洗浄を行う。
【0024】
被処理水である原水1は、例えばマンガン、鉄又はアルミニウムを含有している。原水タンク2は、原水1を貯留するものである。膜ろ過装置5には、原水タンク2からの原水1を膜ろ過装置5へ供給する原水供給管31が接続されている。この原水供給管31には、運転ポンプ3と膜入口バルブ4が設けられている。
【0025】
膜ろ過装置5は、内部に例えば内圧式中空糸からなる膜モジュール51を有し、中空糸膜のストロー状の中央穴へ、原水1を注入し、外側で膜ろ過水が得られるよう構成されている。膜の材質は、ポリエテールスルホンもしくはポリスルホンとポリビニルピロリドンとの混合物であるのが望ましい。
【0026】
この膜ろ過装置5内の膜は、膜ろ過水に少なくとも還元剤及び酸溶液を添加した薬品洗浄が行われ、薬品を添加した膜ろ過水をろ過とは逆方向に通水し、膜の一次側、細孔内及び二次側(処理水側)の洗浄が行われる。
【0027】
逆洗水タンク8には、膜ろ過装置5内の各膜モジュール51に連通し膜ろ過水を逆洗水タンク8に導く膜ろ過水供給管32、タンク内の膜ろ過水を処理水9として取り出す処理水管33と、タンク内の膜ろ過水を逆洗水として膜ろ過装置5に向けて送る逆洗水供給管34とが接続されている。膜ろ過水供給管32には、膜出口バルブ6と逆洗タンク入口バルブ7とが設けられている。逆洗水供給管34は、膜ろ過水供給管32の管路途中に接続されている。また、膜ろ過装置5には、逆洗排水管35が接続されている。
【0028】
還元剤タンク14は、還元剤を貯留するものである。ここで、還元剤は、例えば重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウムなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0029】
酸タンク17は、酸性溶液を貯留するものである。ここで、酸性溶液は、硫酸、硝酸、塩酸などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。酸性溶液は、pH5以下、特にpH2〜4であることが望ましい。
【0030】
酸化剤タンク20は、酸化剤を貯留するものである。酸化剤の設備については原水の水質に応じて適宜設ける。
【0031】
逆洗水供給管34には、還元剤タンク14から導かれた還元剤注入管36と、酸タンク17から導かれた酸注入管37と、酸化剤タンク20から導かれた酸化剤注入管38とが接続されている。還元剤注入管36には、還元剤注入ポンプ15と還元剤注入バルブ16が設けられている。酸注入管37には、酸注入ポンプ18と酸注入バルブ19が設けられている。酸化剤注入管38には、酸化剤注入ポンプ21と酸化剤注入バルブ22が設けられている。
【0032】
また、逆洗排水管35の管路は、薬品排水処理タンク24から導かれた薬品排水処理管39に接続されている。薬品排水処理管39には、薬品洗浄排水バルブ23が設けられている。
【0033】
薬品注入設備28は、薬品タンク40、41を有する。薬品排水処理タンク24には、薬品タンク40内の薬品を供給する薬品供給管42と、薬品タンク41内の薬品を供給する薬品供給管43とが接続されている。薬品供給管42には、薬品供給ポンプ44と薬品供給バルブ45が設けられている。薬品供給管43には、薬品供給ポンプ46と薬品供給バルブ47が設けられている。
【0034】
薬品排水処理タンク24内は、攪拌機26によって攪拌され、pH計・ORP計27によって、薬品排水処理タンク24内のpHや酸化還元電位が計測される。膜モジュール51の一次側より排出される薬品洗浄排水は、薬品洗浄排水バルブ23を介して薬品排水処理タンク24へ供給され、pH及び酸化還元電位が所定の範囲になるよう薬品処理が施され排水25として排出される。
【0035】
次に、水処理装置100の運転方法について説明する。水処理装置100の運転は、膜ろ過装置5内の膜モジュール51の一次側から原水1を通水し膜ろ過処理を行って膜ろ過水を得る膜ろ過工程、膜ろ過工程後に膜の二次側からろ過とは逆方向に膜ろ過水を通水して膜の逆流洗浄を行う逆流洗浄工程、膜ろ過水に薬品を添加して膜の二次側から一次側に通水して膜の逆流洗浄を行う薬品添加逆流洗浄工程から成り立っている。それぞれの運転条件は原水条件などに応じて決められる。膜ろ過工程と逆流洗浄工程を予め定めた所定回数繰り返し実施した後又は膜の目詰まりに応じて膜差圧が所定値に達した時点で、逆流洗浄工程の代わりとして、薬品添加逆流洗浄が行われる。
【0036】
膜ろ過工程では、膜入口バルブ4、膜出口バルブ6及び逆洗タンク入口バルブ7を開き、原水タンク2内の原水1は、運転ポンプ3によって膜入口バルブ4を介して膜ろ過装置5内の膜モジュール51の一次側(原水側)に通水される。次いで、膜ろ過装置5によって膜ろ過された処理水は、膜出口バルブ6及び逆洗タンク入口バルブ7を介して、逆洗水タンク8に貯留される。そして、逆洗水タンク8に貯留された膜ろ過水9は、処理水管33によって処理水として次の工程に送られる。
【0037】
逆流洗浄工程では、膜入口バルブ4及び逆洗タンク入口バルブ7を閉じ、膜出口バルブ6、逆洗バルブ11及び逆洗排水バルブ12を開き、逆洗ポンプ10によって、逆洗水タンク8内の処理水の一部を膜ろ過装置5内の膜モジュール51の二次側から一次側に通流し、膜モジュール51の一次側より排出される逆洗排水13は、逆洗排水バルブ12を介して排出される。
【0038】
薬品添加逆流洗浄工程では、還元剤を添加する薬品として使用する還元剤添加逆流洗浄工程と、酸を添加する薬品として使用する酸添加逆流洗浄工程と、必要に応じて酸化剤を使用した酸化剤添加逆流洗浄工程とを組み合わせて膜の洗浄を行う。酸化剤添加逆流洗浄工程は必要な場合のみ実施、設置する。
【0039】
還元剤添加逆流洗浄工程では、還元剤ポンプ15により還元剤を還元剤注入バルブ16を通じて膜ろ過装置5内の膜内部が所定の還元剤濃度となるよう逆洗水タンク8から圧送された膜ろ過水に注入し、20分〜30分の範囲で浸漬を行う。このようにして、薬品添加逆流洗浄工程では、薬品を膜に導入した後、所定時間保持することで堆積物質を十分に溶解させて取り除くことができる。上記において還元剤の濃度は1%以下であることが望ましい。
【0040】
そして、浸漬した後、逆洗排水バルブ12及び薬品洗浄排水バルブ23を開き、膜ろ過装置5内の膜のリンスとして、逆洗水タンク8の膜ろ過水を用いた逆洗を実施し、膜ろ過装置5内の膜内の還元剤含有洗浄排水を排水処理タンク24に排出する。排出した還元剤含有排液は、薬品排水処理設備28により中和された後、排水25として排水される。
【0041】
また、逆流洗浄工程において、膜ろ過水が膜を通過することによって、膜ろ過水に含有する溶解性金属が、酸化により膜の二次側に析出する。このため、還元剤添加逆流洗浄工程で膜の二次側から一次側に膜ろ過水を通過させることによって、還元剤により膜の二次側に析出した金属酸化物質を溶解することができる。また、被処理水に含有する溶解性金属が、酸化されたことで、膜の一次側または膜細孔内に析出する。このため、還元剤添加逆流洗浄工程で膜の一次側または膜細孔内に析出した金属酸化物質を還元剤により溶解し、膜の一次側から系外に排出させるようにする。これにより溶解された高濃度の金属酸化物は一次側から排出されるため膜ろ過水に混入する恐れがないため水質が保たれる。よって膜の透過性能を低下させることなく、膜ろ過運転を安定して継続することができる。
【0042】
同様の手順で酸添加逆流洗浄工程、酸化剤添加逆流洗浄工程が実施される。酸添加逆流洗浄工程では、酸注入ポンプ18により酸性溶液を酸注入バルブ19を通じて膜ろ過装置5内の膜内部が所定の酸性溶液濃度となるよう逆洗水タンク8から圧送された膜ろ過水に注入し、20分〜30分の範囲で浸漬を行う。浸漬した後、逆洗排水バルブ12及び薬品洗浄排水バルブ23を開き、膜ろ過装置5内の膜のリンスとして、逆洗水タンク8の膜ろ過水を用いた逆洗を実施し、膜ろ過装置5内の膜内部の酸性溶液含有洗浄排水を排水処理タンク24に排出する。排出した酸性溶液含有排液は、薬品排水処理設備28により中和された後、排水25として排水される。
【0043】
また、酸化剤添加逆流洗浄工程では、膜システム内の殺菌や有機物の除去を行うために酸化剤注入ポンプ21により酸化剤を酸化剤注入バルブ22を通じて膜ろ過装置5の膜内部が所定の酸化剤濃度となるよう逆洗水タンク8から圧送された膜ろ過水に注入し、20分〜30分の範囲で浸漬を行う。浸漬した後、逆洗排水バルブ12及び薬品洗浄排水バルブ23を開き、膜ろ過装置5内の膜のリンスとして、逆洗水タンク8の膜ろ過水を用いた逆洗を実施し、膜ろ過装置5内の膜内部の酸化剤含有洗浄排水を排水処理タンク24に排出する。排出した酸化剤含有排液は、薬品排水処理設備28により中和された後、排水25として排水される。酸化剤添加逆流洗浄工程は、酸添加逆流洗浄工程と還元剤添加逆流洗浄工程との組み合わせ洗浄の後に行う。酸化剤添加逆流洗浄を最後に行うことにより、酸や還元剤で溶解し、膜ろ過装置5内に残存した溶解性の物質を酸化させる事ができ、処理水への溶解性物質の混入を防ぐことができる。
【0044】
図2は、図1に示した水処理装置100を用いて、洗浄に用いる薬品の種類を変更した場合の膜差圧を示すものである。この図2では、本発明実施における洗浄順序の効果を示している。表1は、図2における条件を示している。ここでは、酸性溶液として硫酸、還元剤として重亜硫酸ナトリウム、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いている。それぞれの薬品添加逆流洗浄工程における濃度、接触時間は変えることなく表1に示す条件で、それぞれの組み合わせを検討した。
【0045】
運転工程は図3に示す通り行った。原水タンク2に入れた膜供給水を、運転ポンプ3により膜ろ過装置5内の膜へ送水し全量ろ過を30分実施し、膜ろ過水を逆洗ポンプ10により膜モジュール51の二次側から一次側へと送水し、逆流洗浄を実施した。ろ過及び逆流洗浄を41回行った後、薬品添加逆流洗浄を実施した。ろ過及び逆流洗浄の回数は、薬品添加逆流洗浄工程が1日に1回程度となるよう設定した。それぞれの薬品添加工程は連続して行った。
【表1】

【0046】
図2に示す通り、いずれの運転条件においてもろ過及び逆流洗浄を繰り返しながらも徐々に膜差圧は上昇し(図中「黒○」印)、1日に1回実施する薬品添加逆流洗浄によって膜差圧はある程度回復した(図中「◇」印)。しかしながら、図2及び表1の運転(1),(2)に示す通り、硫酸と次亜塩素酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムの組み合わせでは、薬品洗浄によってある程度膜差圧は回復するものの膜差圧は徐々に増加し、膜差圧を完全に初期化することはできなかった。一方、運転(3)では運転(1)、(2)と同じ接触時間で、膜差圧は上昇せず、膜の初期化が可能であった。更に、運転(4)に示すとおり、重亜硫酸ナトリウムと硫酸による洗浄に次亜塩素酸ナトリウムの洗浄を実施した場合、運転(3)と同様に膜差圧が安定である上に、膜差圧の水準が低下した。これは、次亜塩素酸ナトリウムによって有機物に由来する膜目詰まりが除去できたためと考えられる。
【0047】
尚、重亜硫酸ナトリウムを還元剤として用いた場合には、重亜硫酸ナトリウムと酸を混合すると、亜硫酸ガスが発生する危険があるため通常実施できない。このため、酸と還元剤による工程を別工程で実施することにより、酸を混合すると化学反応を起こす還元剤などの使用が可能となる。その結果、ファウリング物質に適した薬品の選定ができる。
【0048】
表2に、重亜硫酸ナトリウム及び硫酸による薬品洗浄の洗浄排水中の主要成分を分析した結果を示した。
【表2】

【0049】
還元剤によって、マンガンは溶解されるが、鉄やアルミニウム、有機物成分は溶解しなかった。一方、酸洗浄では、マンガンは溶解しにくいが、鉄やアルミニウムなどの無機金属は溶解し、TOC(被処理水の全有機炭素)などに代表される有機物成分も溶解した。表2の結果に示すとおり、水中の金属酸化物は、限られた接触時間、濃度では、酸では溶解できないもの、還元剤では溶解できないものがあることを確認した。このような金属酸化物を含む原水を膜ろ過する場合には、酸と還元剤を組み合わせることにより、効率的に膜の洗浄を行うことが可能となる。
【0050】
上記薬品添加逆流洗浄工程では、還元剤、酸の順序で注入することが望ましい。その理由は、図4に示す結果による。図4は、薬品添加逆流洗浄において、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄のみを行う運転を10日間繰り返し、薬品洗浄後の膜差圧を上昇させた後(図中△)、重亜硫酸ナトリウムと硫酸による洗浄を実施した結果である。図中「黒○」印は、硫酸洗浄に引き続き重亜硫酸ナトリウムによる洗浄を行ったもので、図中「黒□」印は、重亜硫酸ナトリウムによる洗浄に引き続き硫酸洗浄を行った結果である。この結果より、重亜硫酸ナトリウムと硫酸洗浄を繰り返すと、膜ろ過装置5内の膜は初期化できることが分かる。
【0051】
ただし、短期間で初期化できるのは、硫酸洗浄に先立ち重亜硫酸ナトリウム洗浄を行った(図中黒□)であることが分かる。これにより、重亜硫酸ナトリウムによる洗浄に引き続き硫酸洗浄を実施することが好ましいと分かるが、本発明はこれに限定されるものではない。このようにして、薬品添加逆流洗浄工程では、還元剤添加逆流洗浄工程に次いで酸添加逆流洗浄工程を行うことにより、水中の酸化金属を還元剤によって還元溶解させた後、酸によって更に膜面に付着した金属成分などを酸溶解させることができ、一度の薬品洗浄工程において膜の初期化を速やかに行うことが出来る。
【0052】
図5は、薬品添加逆流洗浄において、酸添加薬品洗浄と還元剤添加薬品洗浄の頻度を変更した場合のフロー図である。図6は図5に基づき運転した場合の膜差圧である。運転Aは、所定回数(41回)ろ過及び逆流洗浄を繰り返した後、薬品添加逆流洗浄として1日1回、還元剤添加逆流洗浄及び酸添加逆流洗浄を実施したものである。運転B、Cは、還元剤添逆流洗浄及び酸添加逆流洗浄の頻度を変えて運転したものであり、運転Bは、通常は酸添加逆流洗浄を行い、薬品洗浄の5回に1回を還元剤添加逆流洗浄とし、運転Cは、通常は還元剤添逆流洗浄を行い、薬品洗浄の5回に1回は酸添加逆流洗浄を行ったものである。
【0053】
運転Aでは、還元剤かつ酸添加逆流洗浄を薬品洗浄の都度行うことで、膜差圧の上昇を起こすことなく、運転出来ている。一方、運転Bでは、酸添加逆流洗浄を継続中は(b=1〜4)、徐々に膜差圧の上昇が見られるが、5回に1回の還元剤添加逆流洗浄で、膜差圧を初期化できており、運転Aより薬品の使用量を減らすことが可能である。運転Cでは、5回に1回の硫酸洗浄では、膜差圧を初期化できず、この原水においては、運転Bの通り、酸洗浄を優先して行う必要がることが分かった。このように、原水の水質によっては薬品洗浄の都度、酸及び還元剤による洗浄を連続で行う必要はなく、間隔をあけて適宜酸もしくは還元剤による洗浄を行うことで膜を初期化できた。
【0054】
したがって、酸添加逆流洗浄工程と還元剤添加逆流洗浄工程の頻度を、膜の目詰まりなどの汚染状況に応じてそれぞれ設定するのが望ましい。例えば、還元溶解によって除去できる成分が多い場合は、還元剤添加逆流洗浄の頻度をあげ、酸溶解によって除去できる成分が多い場合は、酸添加逆流洗浄の頻度をあげるようにする。反対に、還元溶解によって除去できる成分が少ない場合は、還元剤添加逆流洗浄の頻度を下げ、酸溶解によって除去できる成分が少ない場合は、酸添加逆流洗浄の頻度を下げるようにする。これによって、膜の洗浄を効率的に行い、薬品の使用量を低減することが出来る。
【0055】
尚、水処理装置100が本発明の膜の洗浄装置に対応する。また、膜出口バルブ6、逆洗タンク入口バルブ7、逆洗水タンク8、逆洗ポンプ10、膜ろ過水供給管32、逆洗水供給管34が逆洗洗浄手段として機能し、還元剤タンク14、還元剤注入ポンプ15、還元剤注入バルブ16、還元剤注入管36が還元剤を膜ろ過水に添加する還元剤添加手段として機能し、酸タンク17、酸注入ポンプ18、酸注入バルブ19、酸注入管37が酸溶液を膜ろ過水に添加する酸溶液添加手段として機能し、酸化剤タンク20、酸化剤注入ポンプ21、酸化剤注入バルブ22、酸化剤注入管38が酸化剤添加手段として機能する。
【0056】
上記実施形態によれば、原水に金属成分を含む水をろ過する膜ろ過装置の膜の洗浄において、薬品洗浄に還元剤及び酸溶液を使用することで、還元剤による還元溶解と酸による酸溶解ができ、膜面に強固に付着する金属酸化物を除去することが出来る。薬品添加逆流洗浄工程においては、膜ろ過水に薬品を添加して、薬品が添加された膜ろ過水をろ過とは逆方向の二次側から一時側に通水し、膜ろ過装置5内の膜の洗浄を行う。これによって、膜の一時側及び二次側の膜面及び膜細孔内に析出した酸化マンガンや酸化鉄、アルミニウム等の金属成分を効率的に溶解できる。これにより、膜ろ過装置5内の膜表面に堆積して、通常の薬液洗浄では除去できない堆積物質を溶解して取り除くことができ、また、薬品洗浄により溶解した高濃度の金属成分が膜ろ過水に混入する恐れがなくなる。これによって、膜の透過性能を低下させることなく、長期に安定した膜ろ過運転が可能となり、膜の運転を効率的に行うことが可能となる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。上記実施形態では、薬品洗浄の薬品に還元剤と酸性溶液を使用するが、還元剤と酸性溶液による洗浄に加え、アルカリ性溶液や、酸化剤を用いた洗浄を併用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態に係る水処理装置の構成図である。
【図2】図1に示した水処理装置を用いて、洗浄に用いる薬品の種類を変更した場合の薬品洗浄後の膜差圧を示すものである。
【図3】図2に示した運転の工程を示す図である。
【図4】次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄を所定日数繰り返した後、重亜硫酸ナトリウムと硫酸による洗浄を実施した結果である。
【図5】還元剤(重亜硫酸ナトリウム)添加薬品逆流洗浄と酸(硫酸)添加薬品逆流洗浄の頻度を変更した場合の運転方法を示したフロー図である。
【図6】還元剤(重亜硫酸ナトリウム)添加薬品逆流洗浄と酸(硫酸)添加薬品逆流洗浄の頻度を変更した場合の膜差圧を示した図である。
【符号の説明】
【0059】
1・・・原水
2・・・原水タンク
3・・・運転ポンプ
4・・・膜入口バルブ
5・・・膜ろ過装置
6・・・膜出口バルブ
7・・・逆洗タンク入口バルブ
8・・・膜ろ過水、逆洗水タンク
9・・・処理水
10・・・逆洗ポンプ
11・・・逆洗バルブ
12・・・逆洗排水バルブ
13・・・逆洗排水
14・・・還元剤タンク
15・・・還元剤注入ポンプ
16・・・還元剤注入バルブ
17・・・酸タンク
18・・・酸注入ポンプ
19・・・酸注入バルブ
20・・・酸化剤タンク
21・・・酸化剤注入ポンプ
22・・・酸化剤注入バルブ
23・・・薬品洗浄排水バルブ
24・・・薬品排水処理タンク
25・・・排水
26・・・攪拌機
27・・・pH、ORP計
28・・・薬品排水処理に関わる薬品注入設備
100・・・水処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を膜ろ過処理する膜の洗浄方法において、
前記被処理水を膜ろ過する膜ろ過工程と、
前記膜ろ過工程後にろ過とは逆方向にろ過水を通水して前記膜の逆流洗浄を行う逆流洗浄工程と、
前記膜ろ過工程および前記逆流洗浄工程を予め定めた所定回数繰り返した後または膜の目詰まりに応じて、前記膜ろ過水に薬品を添加して前記膜の逆流洗浄を行う薬品添加逆流洗浄工程とを有し、
前記薬品添加逆流洗浄工程が、添加する薬品として酸を使用する酸添加逆流洗浄工程と、添加する薬品として還元剤を使用する還元剤添加逆流洗浄工程とを組み合わせて、前記膜の洗浄を行うことを特徴とする膜の洗浄方法。
【請求項2】
前記薬品添加逆流洗浄工程における、前記酸添加逆流洗浄工程と前記還元剤添加逆流洗浄工程を実行する頻度を、前記膜の目詰まりに応じて、それぞれ設定することを特徴とする請求項1記載の膜の洗浄方法。
【請求項3】
前記薬品添加逆流洗浄工程は、前記還元剤添加逆流洗浄工程に次いで前記酸添加逆流洗浄工程を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項2に記載の膜の洗浄方法。
【請求項4】
前記膜を通過して、前記膜ろ過水に含有する溶解性金属が、酸化により前記膜の二次側に析出した金属酸化物質を、前記還元剤添加逆流洗浄工程で前記還元剤により溶解し、前記膜の二次側から一次側に通過させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の膜の洗浄方法。
【請求項5】
前記被処理水に含有する溶解性金属が、酸化されたことで、前記膜の一次側または膜細孔内に析出した金属酸化物質を、前記還元剤添加逆流洗浄工程で前記還元剤により溶解し、前記膜の一次側から系外に排出させることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の膜の洗浄方法。
【請求項6】
前記薬品添加逆流洗浄工程が、前記酸添加逆流洗浄工程と前記還元剤添加逆流洗浄工程との組み合わせ洗浄に、酸化剤を使用した酸化剤添加逆流洗浄工程を更に組み合わせることを特徴とする請求項1〜請求項5に記載の膜の洗浄方法。
【請求項7】
前記薬品添加逆流洗浄工程が、前記酸添加逆流洗浄工程と前記還元剤添加逆流洗浄工程との組み合わせ洗浄の後に、前記酸化剤添加逆流洗浄工程を行うことを特徴とする請求項6記載の膜の洗浄方法。
【請求項8】
前記被処理水は、マンガン、鉄及びアルミニウムのうちの少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の膜の洗浄方法。
【請求項9】
被処理水をろ過する膜モジュールと、
ろ過水を貯留して前記膜モジュールに前記膜ろ過水を通水して前記膜モジュールを洗浄する逆流洗浄手段と、
前記ろ過水に薬品を添加する薬品添加手段と、を備え、
前記薬液添加手段は、前記添加する薬品として酸溶液を前記膜ろ過水に添加する酸溶液添加手段と、
前記添加する薬品として還元剤を前記膜ろ過水に添加する還元剤添加手段とを有することを特徴とする膜の洗浄装置。
【請求項10】
前記薬品添加手段は、前記添加する薬品として酸化剤を前記膜ろ過水に添加する酸化剤添加手段を更に有することを特徴とする請求項9に記載の膜の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−279431(P2008−279431A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26959(P2008−26959)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】