説明

膜イオン交換クロマトグラフィーのための媒体

【課題】ウイルスを高収率と高純度で精製することができる媒体を提供する。
【解決手段】本発明は、クロマトグラフィーに使用する媒体であって、媒体はポリエチレンイミンなどのポリマーにより表面がコートされた膜である。固定化されたポリマーコーティングを電荷修飾剤により修飾し、媒体に第4級アミンが導入する。媒体は、ウイルスのクロマトグラフィー精製に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容が資料として本出願に組み込まれる2007年11月19日出願の米国仮出願第61/003,694号明細書に基づく優先権を主張する。
【0002】
ウイルス精製は、バイオセパレーションでは新しい分野である。遺伝子治療臨床研究のために純粋なウイルスが必要となっており、従来技術、すなわち、超遠心分離法は、もはや経済的ではない。より迅速で、低廉で、スケールアップが可能な精製技術が必要である。クロマトグラフィーは、当初はビーズ形式で、ウイルス精製に使用されてきた。クロマトグラフィーベースのウイルス精製の最初の報告は約半世紀前まで遡ることになる(例えば、Haruna, I.; Yaoi, H.; Kono, R.; Watanabe, I., Separation of adenovirus by chromatography on DEAE-cellulose. Virology 1961, 13, (2), 264を参照)。ビーズクロマトグラフィーの能力及び使用制限が深刻になってきた昨今、膜クロマトグラフィーが注目されてきている。
【背景技術】
【0003】
例えば第4級アンモニウムをベースとした陰イオン交換体などの強力な陰イオン交換体は、生体液、特に、工業的生物学的薬剤の溶液などの溶液中に存在するエンドトキシン、ウイルス、核酸及び宿主細胞タンパク質(HCP)などの負に帯電した多くの不純物を捕捉するポリッシング媒体(polishing media)として工程の下流に使用する。従来、陰イオン交換体は、ビーズタイプのものが提供され、使用されてきた。例えば、GEヘルスケアバイオサイエンスAB社(GE Healthcare Bio-Sciences AB)のQ Sepharose(登録商標)である。しかしながら、ビーズベースのシステムは処理能力に制限があり、不純物を効果的に捕捉するには大容量のカラムが必要となる。
【0004】
ビーズベースクロマトグラフィーにおいては、吸着作用のために利用可能なエリアの大部分はビーズの内部である。その結果、物質移行の速度が細孔分散により制御され、分離工程は、本質的に、遅いものとなる。この拡散抵抗を最小にし、付随して、動的結合能を最大にするために、小さい径のビーズを使用することができる。しかしながら、小径ビーズの使用はカラム圧の圧力降下が増大するという代償を払う必要がある。結果的に、カラムによる分離の最適化は、しばしば、効率/熱的能力(小さいビーズが好ましい)とカラム圧力降下(大きいビーズが好ましい)両方を妥協させることにより行う。
【0005】
それとは反対に、膜ベースのクロマトグラフィーシステム[膜ソルベル(sorber)とも示す]においては、リガンドが直接的に対流中の膜孔に結合し、それによって、物質移行の内部細孔拡散の効果を消滅させることができる。さらに、効果的な流速分配器を備えた密な膜の細孔径分布を伴った微多孔膜基材の使用により、軸方向分散を最小化することができ、全ての活性サイトの均質な利用を提供することができる。結果的に、膜ソルベル媒体の物質移行は、ビーズベースのクロマトグラフィー媒体の物質移行と比較して、より規則正しくでき、それにより、高い効率と高い流動性の両方を有した分離が可能となる。単一膜又は積層膜であってさえも、ビーズベースの媒体と比較して非常に薄く、減少した圧力降下がクロマトグラフィーベットに沿って観察され、それにより流速と生産性を上げることができる。必要な結合能は、装置の構造が高さに対する径の比(d/h)が非常に大きくなるように十分な内部表面エリアを有する膜を利用することで得ることができる。クロマトグラフィービーズの結合能の大部分はビーズ内部によるものであるので、流入吸着物質のサイズが大きくなればなるほど(例えば、タンパク質分子がウイルス粒子になれば)、ビーズと比較して膜ベースのクロマトグラフィーシステムの利点が大きくなる。
【0006】
厳密にデザインされた膜ソルベルは、標準的な調整ビーズベースの樹脂と比較して10〜100倍のクロマトグラフィー効率を有する。その結果、膜ソルベルと同じレベルの分離を達成するために、流入させる高さ(bed height)は1/10以下ですむ。ビーズベースのシステムでは、流入させる高さが10〜30cmであるのに対して、膜ソルベルでは流入長(bed length)は1〜5mmである。大量の膜ソルベルのために必要とされる最大のカラムの縦横比のために、装置の設計は重要になる。膜ソルベルに関連した本来のその利点を維持するためには、適切な注入口及び排気口の分配器は、効率的かつ効果的に膜を利用できるようにする必要がある。膜ソルベル技術は、理想的には、この用途に適している。しかしながら、現在商業的に利用可能な膜ソルベルは、その低い結合能、不純物からの低い分離能、及び、精製物質の抽出の困難性を含む様々な不利益がある。
【0007】
吸収(作用)(Absorption)とは、吸収する物質の本体の浸透性により巻き取られる物質を指す。吸着(作用)(Adsorption)とは、吸着メディアの表面上に、バルク層からの分子の動きを言う。収着(Sorption)とは、吸着(作用)と吸収(作用)を含む一般用語である。同様に、本願に示す収着物質又は収着装置は、吸着(作用)と吸収(作用)の片方、又は両方の物質又は装置である。
【0008】
膜ソルベルは、高い多孔性を有し、吸収した物質の溶液がその孔を流れる時、(吸着及び/又は吸収した)物質を除去する能力を有する相互に連結した媒体である。膜ソルベルの特性及び必要とされる用途での能力は、媒体の構造(骨格)と共に溶液に露出されるその表面の性質に依存する。典型的には、多孔性媒体は、最初に水に不溶か膨潤するポリマーから形成し、許容できる機械的特性を有する。多孔性媒体は、好ましくは、周知の技術である相分離方法によって作成される多孔性膜シートである。例としては、Zeman LJ, Zydney AL, Microfiltration and Ultrafiltration: Principles and Applications, New York: Marcel Dekker, 1996が挙げられる。中空糸膜及び管状膜も、又、許容できる使用可能な骨格である。セパレーション(選択)処理工程では、通常、必要な吸着特性を与えるために、形成された多孔性構造の膜の外側又は表面及び内側を修飾する必要がある。膜構造が疎水性ポリマーからしばしば作成されるので、表面の修飾のステップの別の目的は、表面を親水性とするか、水に水和できるようにすることである。
【0009】
本発明は、ウイルス(例えばアデノウイルス)を精製するように設計された陰イオン交換クロマトグラフィメディアに関する。アデノウイルスは、遺伝子治療研究における選択できるベクターのひとつである。アデノウイルスは、安定で、非エンベロープであり、容易に細胞に感染する。最も一般的な血清型は、Ad5とラベルされる。アデノウイルスは研究室で容易に発現させることができるが、更なるトランスフェクション研究において偽陽性シグナルを避けるために、細胞タンパク質から完全な精製が要求される。当然に、純粋なアデノウイルスは、その最終的な用途(すなわち遺伝子治療と予防接種)のためにも必要である。電気泳動による研究においては、Ad5はpH8附近で強い負電荷を有することが示され、細胞可溶化物懸濁液の大部分の種がこのpHでより弱い電荷を有する。これにより、陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製がAd5の精製に適していることとなる。
【0010】
ウイルス除去及び精製のための陰イオン交換膜は、米国特許第7,160,464号明細書に示されており、化学グラフト技術によりすでに製造されている。それによれば、一つ以上の正に荷電する官能基を有する重合側鎖でグラフト化される膜の製造が示されている。膜修飾技術に通じている当業者であれば、グラフト製造が、全ての膜基材に特異的であり、さらなる先進の器材と広範囲な技術開発が必要であることを直ちに認めるであろう。本発明は、膜の直接のコーティングに基づく正に荷電する膜ソルベルを作成することで十分に単純なアプローチを提供する。他の先行文献によれば、荷電した表面コーティングを支持膜に直接的に架橋することなしに陰イオン交換膜を製造する方法が開示されている。米国特許第6,780,327号明細書によれば、多孔性基材、並びに、ポリマー骨格及び正に荷電したペンダント基を含む架橋コーティングを備えた正に荷電した膜の製造について開示しており、ここで、正に荷電したペンダント基は極性スペーサ基を介して一重結合により骨格と直接的に結合している。しかしながら、極性スペーサ基の存在により、膜表面とソルベント分子の間に、双極子相互作用及び水素結合などのさらなる相互作用を付加することとになる。後者は、従来の生物的分離技術では調節するのが、非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7,160,464号明細書
【特許文献2】米国特許第6,780,327号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Haruna, I.; Yaoi, H.; Kono, R.; Watanabe, I., Separation of adenovirus by chromatography on DEAE-cellulose. Virology 1961, 13, (2), 264
【非特許文献2】Zeman LJ, Zydney AL, Microfiltration and Ultrafiltration: Principles and Applications, New York: Marcel Dekker, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、イオン強度により容易に調整、微調整が可能な電荷相互作用を主に介して溶液成分との相互作用できる収着媒体の作成が望まれている。例えば、アデノウイルス精製の典型的な用途においては、高イオン強度(高塩濃度)は、膜からウイルスを溶出するのに使用される。もし他の相互作用形式が存在するとすれば、精製ウイルスの収率は低くなる。従って、本発明は、一重の無極性リンカーによりコーティングポリマー骨格と結合した正に荷電した官能基を有する微多孔膜表面の架橋コーティングの製造を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従来技術の当該問題を解決するために、本発明は、媒体を含んだ陰イオン交換体のような媒体及び装置を提供し、ここで、陰イオン交換コーティングは、非選択的低タンパク質結合性(low non-specific protein binding)を有しつつ親水性基材上に形成される。正電荷は無極性リンカーによってコーティング骨格と結合し、基礎となる膜物質は、超高分子量ポリエチレンであることが好ましい。媒体は、結合−溶出モードで作用し、高イオン強度により溶出を促進させることができる。媒体は、優れた用途性能、苛性除去性能を示し、装置製造を容易にすることができる。
【0015】
ある実施形態例においては、本発明は、多孔を有する第一外面及び多孔を有する第二外面並びに両面の間に多孔層を有する基材を備えた多孔性収着媒体に関し、前記基材が、親水性であり、基材の固体マトリックス並びに前記第一及び第二外表面を実質的に覆う収着物質を有し、前記収着物質が、無極性リンカーを介して結合した第4級アンモニウム官能基を有する架橋ポリマーを含む、多孔性収着媒体に関する。ある実施形態例においては、前記架橋ポリマーが、前記架橋ポリマーと反応可能な部分と前記無極性リンカーを介して結合した第4級アンモニウム官能基を有する有機化合物を含む電荷修飾剤により修飾される。前記有機化合物が式Y−Z−N(CH33+-であり、Yは反応性脱離基であり、Zは無極性の脂肪族又は芳香族リンカーであり、Xは水溶性の酸の負電荷のイオンである。
【0016】
ある実施形態例によれば、本発明は、ウイルスを含んだ溶液を膜に透過させて、ウイルスを膜に吸着させ、膜を緩衝液で洗浄し、膜からウイルスを溶出させる、ウイルスを精製する方法に関し、前記膜は、多孔を有する第一外面及び多孔を有する第二外面、並びに、両面の間に多孔層を有する基材を含み、前記基材が、親水性であり、基材の固体マトリックス並びに前記第一及び第二外表面を実質的に覆う収着物質を有し、前記収着物質が、無極性リンカーを介して結合した第4級アンモニウム官能基を有する架橋ポリマーを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ある実施形態例における膜の表面プロファイルを示したものである。
【図2】アデノウイルスの滴定曲線のグラフである。
【図3】種々のウイルス精製膜のアデノウイルスの吸着及び溶出量を示したグラフである。
【図4】当初細胞溶出物、通過物、洗浄溶液及び溶出物を示したSDS−PAGEである。
【図5】溶出したAd5とBPTMABのPEI修飾の割合の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、多孔、多孔上に形成されたポリマーコーティング及び自己保持基材を有する多孔性クロマトグラフィー媒体又は多孔性収着媒体、並びに、このような媒体を含んだ陰イオン交換体に関する。当該媒体は、特に、細胞溶解物などの溶液からウイルスを着実に除去するのに適している。
【0019】
多孔性基材は、基材の幾何学的又は物理学的構造に関連して2つの表面を有している。シートは、頂点と底の2つの表面、又は第一及び第二の表面を有する。これらは、通常「面」と示す。使用する時、流体は、一方の(表)面から基材を介して他方の(表)面に流れる。
【0020】
2つの表面の間の層の形態は多孔である。この多孔性部位は、孔を有する表面を持つ。「表面(surface)」、「表面(surfaces)」、「表面エリア」又は同様の言葉に関連する混乱を避けるために、幾何学的表面を外側、顔面又は面とした。又、孔に存在する表面エリアは、内部又は孔表面エリアと示す。
【0021】
多孔性物質は、空の空間を有する孔、並びに、物質の物理的実体となる固体マトリックス又はスケルトンを含む。例えば、ポリマー微多孔膜においては、相分離したポリマーはマトリックスを提供する。ここで、媒体の表面のコーティングと被膜について検討した。発明者らが、これにより意図するところは、内部及び外部表面を、完全に孔をブロックしないようにコーティングし、それにより、対流的な流れを保持するために有意な割合の構造を保持することである。特に、内部表面エリアにおいては、コーティングと被膜は、マトリックスがコーティング又は被膜されることを意味し、有意な割合の孔を開孔したままにしておく。
【0022】
吸収は、吸収性物質の本体の浸透性によって物質を集めることを意味する。吸着は、分子のバルク層から吸着層への動きを意味する。収着は吸収及び吸着の両方を含む一般的な用語である。同様に、ここでソルベルを示す収着物質又は装置は、吸収及び吸着の両方の物質又は装置を示す。
【0023】
本発明の膜クロマトグラフィー媒体は、多孔性基材の上で形成される陰イオン交換コーティングを含む。多孔性基材は、コーティングのための支持骨格として作用する。基材は、処理、製造され、着実で完全な装置とすべきである。孔の構造は、均一の流れ分布、高い流動性及び高い表面積を提供する必要がある。基材は、膜で形成されたシート状であることが好ましい。好ましい基材は、合成であるか天然重合材料から製造される。熱可塑性物質は、この使用に有用なポリマーである。熱可塑性物質としては、ポリオレフィンであり、これに制限されないが、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン、層状ポリエチレン/ポリプロピレン繊維、PVDF、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリ塩化ビニル、及び、(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのような)ポリエステル類、ポリアミド、ポリメチルメタクリレートのようなアクリル酸、スチレンポリマー、並びに、これらの混合物などが挙げられる。他の合成材料としては、セルロース、エポキシ、ウレタンなども含む。基材も、非選択的低タンパク質結合性を有する必要がある。
【0024】
好適な基材としては、例えば、約0.1〜約10μmの細孔径を有する微細孔濾過膜である。基材の材料としては、親水性でも疎水性であっても良い。親水性基材材料の例としては、これに制限されないが、Durapore(登録商標、ミリポアコーポレーション、マサチューセッツ州ビレリカ(Millipore Corporation, Billerica MA))などの表面を処理した親水性多孔性膜の他に、多糖及びポリアミドなどが挙げられる。疎水性基材材料の例としては、これに制限されないが、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル類、ポリアクリレート及びポリメタクリレートなどが挙げられる。多孔性構造は、例えば、溶液層反転、温度によって誘発される相分離、空気成形、トラックエッチング加工、伸張、焼結、レーザー穿孔などの、当業者に既知のあらゆる方法によって、基材材料から作成する。本発明の普遍的な性質のために、実質的に、多孔性構造を作成するどんな方法であっても、膜ソルベルの支持骨格製造に適している。超高分子量ポリエチレンから製造される基材材料が、特に機械的特性、化学安定性、腐食安定性及びガンマ安定性の組み合わせに有効であることを見出した。疎水性基材が使用される場合、例えば当業者に既知の修飾工程により、親水性としなければならない。適切な修飾工程は、米国特許第4,618,533号明細書及び米国特許第4,944,879号明細書に開示されている。基材の低タンパク質結合性表面の親水化(例えば、<50μg/cm2のタンパク質結合)を行うことが好ましい。
【0025】
コーティングポリマーは、吸着ヒドロゲルを形成し不純物を引きつけ保持する化学官能基(結合基)を提供する。あるいは、コーティングポリマーは、結合基を組み込むために簡単に修飾可能である化学官能基を有する。タンパク質と他の不純物がコーティング厚みに捕えられることができるように、吸着能力を増加させ、コーティングは生体分子に浸透する。好ましいコーティングポリマーは、分岐又は未分岐のポリエチレンイミンである。
【0026】
コーティングは、典型的には、総コーティング基材量の少なくとも約3%を構成し、好ましくは(総基材量の)約5%〜約10%である。ある実施形態例においては、コーティングはかなり均一な厚みで基材をカバーする。乾燥コーティングの適切な厚みは、約10nm〜約50nmである。
【0027】
架橋剤はポリマーと反応し、ポリマーを水に不溶とし、そして、支持骨格の表面を保持する。適切な架橋剤は、例えばポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEG−DGE)などの低タンパク結合性を有するものを含む。コーティング溶液で使用される架橋剤の量は、ポリマー上及び架橋剤上の反応官能基のモル比に基づく。好ましい比率は約20〜約2000であり、より好ましくは約40〜約400であり、最も好ましくは約80〜約200である。より少ない架橋剤は不完全な架橋結合となる一方で(例えば、あるポリマー分子は完全に溶解している)、より多くの架橋剤は膨潤するヒドロゲルの能力を阻害し、そして収着能力を減少させる。
【0028】
膜クロマトグラフィー用途のために第4級アンモニウム官能基をコーティングに導入するために、固定化されたコーティングを、電荷修飾剤により修飾する。好適な添加修飾剤は固定化されたコーティングと反応可能な部分と無極性リンカーを介して結合した第4級アンモニウム官能基を有する有機化合物である。これらの化合物は式Y−Z−N(Alk)3+-を有し、Yは反応性脱離基であり、Zは無極性の脂肪族又は芳香族リンカーであり、Xは水溶性の酸の負電荷のイオンである。反応性脱離基Yは、リガンド及び膜コーティング間の反応を促進し、リンカーとコーティングの間の直接結合の形成を引き起こして、脱離する。通常、「良好な」脱離基は、比較的穏やかな条件で高い反応収率が得られるものである。脱離基Yの例としては、Br-、Cl-、I-、F-のハロゲン、及び、スルホニル誘導体(TsO-、CF3SO3-、C49SO3-など)が挙げられる。脱離基の化学は、例えば、M.B. Smith及びJ. Marchの、Comprehensive Organic Chemistry、5th ed.、 Wiley Interscience、2001を参照されたい。通常、触媒は、カップリング反応を達成させ、脱離基を脱離させる必要がある。反応の性質によっては、酸又は塩基が触媒となる。始まっているコーティングが重合アミンを構成するとき、塩基性触媒は、通常、アミン窒素の求核性を促進する必要がある。この塩基性触媒は、あらゆる強無機塩基(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又は、バリウムの水酸化物)又は有機塩基(四アルキル水酸化アンモニウム)を使用することができる。無極性リンカーは、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素[例えば、nが2〜10の(CH2n]、−(CH2n−C(CH32−のような枝分かれ脂肪族炭化水素、若しくは、フェニレン、トリレン、キシリレンなどの芳香族基、又は、芳香族及び脂肪族の組み合わせなどで良い。第4級陰アンモニウム基−N(Alk)3+は好ましくはトリメチルアンモニウム基であり、しかしながら、エチル、フェニル、ベンジル、ヒドロキシエチルなどの他のアルキル基又はアリール基であっても良い。陰イオンXは、水溶性の有機又は無機酸であれば良い。陰イオンXの例としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、アセテート、プロピオン酸、リン酸水素、硫酸水素、クエン酸、重炭酸、メチルスルホン酸、スルファミン酸などであり、これに限定されない。適切な電荷修飾剤としては、2−クロロエチルトリメチル塩化アンモニウム(塩化クロロコリン)、2−ブロモエチルトリメチル塩化アンモニウム、3−クロロプロピルトリメチル塩化アンモニウム(CPTMAC)及び3−ブロモプロピルトリメチル臭化アンモニウム(BPTMAB)が挙げられる。又、好ましい電荷修飾剤としては、3−ブロモプロピルトリメチル臭化アンモニウム(BPTMAB)である。
【0029】
修飾の割合、すなわち、電荷修飾化合物と架橋されたコーティングが反応する反応官能基の割合は、溶質が主に電荷相互作用により膜表面と相互作用できる程度に十分に高い必要がある。例えば、PEIには水素結合のドナー基(第二級アミン)があり、それにより第4級アンモニウム基により変換されなくても及び/又は変換されても、溶出したウイルスの収率を下げることになる。修飾の割合としては、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは少なくとも30%である。PEI繰り返しユニット及びBPTMABの相対的なサイズのために(立体構造による制約)、50%を超えるような修正の割合を達成することは実質的に不可能である。
【0030】
コーティングした基材形成のための好ましい方法はとしては;
1)コーティングポリマー及び架橋剤を製造し、そして、ポリマーが容易に架橋剤と反応するようにpHを調整する;
2)1)の溶液に多孔性構造を浸す;
3)溶液から多孔性構造を取り出し、そして、過剰な溶液を除去する;
4)多孔性構造を乾燥させ、架橋させる;
5)電荷修飾化合物を含んだ溶液に多孔性構造を、特定の時間、浸す;
6)修飾化合物の溶液から多孔性構造を取り出し、水で洗浄し、乾燥させる。
【0031】
図1には、ある実施形態例における膜の構造が示されている。この実施形態例においては、微小孔超高分子ポリエチレン膜は、最初に遊離基開始剤とUVによる活性化を使用し、その表面のジメチルアクリルアミドとメチレンビスアクリルアミドの共重合により修飾される。このように修飾された膜は0.65μmの孔サイズを有し、又、インテグリス社(Entegris)から商業的に入手可能で、MPLCと称されている。このような膜は、その表面が低タンパク結合性により特徴付けられ、この膜と結合するIgGは40〜50μg/cm2であり、DURAPORE(登録商標)膜よりも約2〜3倍高いが、しかし、イモビロンP(Immobilon P)及び他の同様の疎水性で商業的に使用可能な高結合性膜よりも6〜7倍低い。
【0032】
修飾された膜は、ポリエチレンイミン(PEI)、架橋剤、及び、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEG−DGE)を含む溶液によりコートされる。コーティングは、24時間室温にて、乾燥及び硬化させ、水で洗浄し、さらに、水酸化ナトリウムでpH13とした3−ブロモプロピルトリメチル臭化アンモニウム(BPTAB)の50%水性溶液により修飾する。
【0033】
得られた膜は、陰イオン性染料(例えば、Ponceau S)の高い吸着によって示されるように、外表面は高密度の正電荷となっている。膜は腐食性媒体中でも安定であり、多様な装置に加工される。それは、容易にプリーツをつけることができ、ヒートシールでき、外側被膜できる。
以下の実施例は例示目的であり、本発明はこれらに限定される訳ではない。
【実施例】
【0034】
実施例1
0.65μmの孔サイズの親水化したポリエチレン膜の6×6”(インチ)のシートを、7重量%のポリエチレンイミン(シグマアルドリッチ、Sigma-Aldrich)、0.35%のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ、Sigma-Aldrich)及び0.03Mの水酸化ナトリウムを含んだ水性溶液によりコートした。過剰な溶液を除去し、膜を一晩乾燥させた。続いて、水で洗浄し、0.1M水酸化ナトリウム及び3−ブロモプロピルトリメチル臭化アンモニウム(BPTMAB)の50%溶液の100ml中に浸した。膜を溶液中に48時間放置し、濃縮NaOHを定期的に添加し、pH13を維持した。その後、膜を溶液から取り出し、水で洗浄し、乾燥させた。
【0035】
実施例2
実施例1で製造した膜をアデノウイルスの精製に使用した。凍結及び解凍の複数のサイクルによって感染した細胞から最初にアデノウイルスを抽出した。上澄み液に残っている可視可能なウイルス粒子など細胞残屑を遠心分離により除去した。上澄み液をBenzonase(登録商標)によって処理した。さらに、上澄みを0.2μmの微小孔性膜フィルタに通して、精製した。溶液は、平衡化緩衝液pH8、NaCl濃度100mMにより希釈した。同様の緩衝液を膜の精製条件化に使用した。ウイルス溶液を、ウイルス粒子が吸着する膜にゆっくり流し、細胞残屑の多くはフィルタを通過させた。その後、膜をpH8、NaCl濃度200〜250mMの緩衝液で洗浄し、弱い結合で結合していた残屑を除去した。最終的に、pH8、NaCl濃度1000mMの溶出緩衝液で、ウイルスを膜から溶出させた。
【0036】
ウイルスの濃度は、我々が開発した緑色蛍光蛋白(GFP)アッセイによりアッセイした。図2は、ウイルス粒子の濃度に対応する(顕微鏡下での)緑色蛍光蛋白の範囲を示したものである。データの大多数は3日のGFPアッセイで得られた。ウイルスの保持と溶出のデータは図3に示した。
【0037】
本発明の収着媒体の特徴のひとつは精製するアデノウイルスの高収率と高純度である。黒の棒グラフは膜から回収できたアデノウイルスに対応し、図3のオープン棒グラフは細胞溶解物から保持したアデノウイルスに対応する。このデータの高い回収率(>70%)は、媒体がアデノウイルスへの使用に適していることを示している。
【0038】
ウイルス粒子の純度を図4に示した電気泳動によって分析した。本発明の膜PEI−BPTMABであれば、高い純度で溶出ウイルス溶液が得られ、BSAのバンドが見えておらず、商業的に利用可能な膜Aに比較して優れている。
【0039】
実施例4
実施例1に従って反応混合物中のBPTMABの濃度を様々に変化させ、修飾の割合が異なる膜を製造した。図5は、BPTMABのPEI修飾の割合が溶出するウイルスの割合に直接的に影響があることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔を有する第一外面及び多孔を有する第二外面並びに両面の間に多孔層を有する基材を備えた多孔性収着媒体であって、
前記基材が、親水性であり、基材の固体マトリックス並びに前記第一及び第二外表面を実質的に覆う収着物質を有し、
前記収着物質が、無極性リンカーを介して結合した第4級アンモニウム官能基を有する架橋ポリマーを含む、多孔性収着媒体。
【請求項2】
前記基材が微多孔膜を有する請求項1に記載の多孔性収着媒体。
【請求項3】
前記膜がポリオレフィンである請求項2に記載の多孔性収着媒体。
【請求項4】
前記ポリオレフィンがポリエチレンである請求項3に記載の多孔性収着媒体。
【請求項5】
前記基材が超高分子量ポリエチレン膜である請求項1に記載の多孔性収着媒体。
【請求項6】
前記架橋ポリマーがポリエチレンイミンを含む請求項1に記載の多孔性収着媒体。
【請求項7】
前記架橋ポリマーが、前記無極性リンカーを介して前記架橋ポリマーと反応可能な部分に結合した第4級アンモニウム官能基を有する有機化合物を含む電荷修飾剤により修飾される、請求項1に記載の多孔性収着媒体。
【請求項8】
前記有機化合物が式Y−Z−N(CH33+-であり、
Yは反応性脱離基であり、
Zは無極性の脂肪族又は芳香族リンカーであり、
そして、
Xは水溶性の酸の負電荷のイオンである、請求項7に記載の多孔性収着媒体。
【請求項9】
Yは、Br-、Cl-、I-、TsO-及びCF3SO3-からなる群から選択され、
Zは、(CH2nであり、nは2〜10である、請求項8に記載の多孔性収着媒体。
【請求項10】
第4級アンモニウム官能基が3−ブロモプロピルトリメチル臭化アンモニウムによりポリエチレンイミンに与えられる、請求項6に記載の多孔性収着媒体。
【請求項11】
ウイルスを含んだ溶液を膜に透過させて、ウイルスを膜に吸着させ、
膜を緩衝液で洗浄し、膜からウイルスを溶出させる、ウイルスを精製する方法であって、
前記膜は、多孔を有する第一外面及び多孔を有する第二外面並びに両面の間に多孔層を有する基材を含み、
前記基材が、親水性であり、基材の固体マトリックス並びに前記第一及び第二外表面を実質的に覆う収着物質を有し、
前記収着物質が、無極性リンカーを介して結合した第4級アンモニウム官能基を有する架橋ポリマーを含む方法。
【請求項12】
前記架橋ポリマーが、前記無極性リンカーを介して前記架橋ポリマーと反応可能な部分に結合した第4級アンモニウム官能基を有する有機化合物を含む電荷修飾剤により修飾される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機化合物が式Y−Z−N(CH33+-であり、
Yは反応性脱離基であり、
Zは無極性の脂肪族又は芳香族リンカーであり、
そして、
Xは水溶性の酸の負電荷のイオンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
多孔を有する第一外面及び多孔を有する第二外面並びに両面の間に多孔層を有する基材を備えた多孔性収着媒体を含む陰イオン交換体であって、
前記基材が、親水性であり、基材の固体マトリックス並びに前記第一及び第二外表面を実質的に覆う収着物質を有し、
前記収着物質が、無極性リンカーを介して結合した第4級アンモニウム官能基を有する架橋ポリマーを含む、陰イオン交換体。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−51970(P2013−51970A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253694(P2012−253694)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2008−295590(P2008−295590)の分割
【原出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(504115013)イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン (33)
【Fターム(参考)】