説明

膜エレメント

【課題】
軽量であり、十分な剛性を有し、かつ透過水流量が大きな膜エレメントを提供する。
【解決手段】
ろ過膜と、前記ろ過膜を支持するろ板とを有する膜エレメントであって、前記ろ板の表面は、前記ろ過膜で覆われた部分の略全体が網目構造を有し、前記ろ板の前記網目構造を有する表面の内側は、流水空間を形成していることを特徴とする。この構成によれば、ろ板は中空で、表面が網目構造を有することによって軽量化され、ろ過膜を通過した膜透過水は速やかに網目構造を通ってろ板内部の流水空間に導かれるので、流水量を大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理などにおいて固液のろ過分離に用いられる平板状膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
工場排水からの懸濁物質除去や有機系廃水処理における活性汚泥の分離において、処理槽内に複数の平板状膜エレメントを浸漬した膜ろ過装置が知られている。膜エレメント内部を吸引負圧とすることにより、被処理水は膜エレメント外部から内部に向けてろ過膜を通過し、懸濁物質はろ過膜に捕捉され、膜透過水は膜エレメント集水口から外部に取り出される。ろ過膜に捕捉された膜面堆積物は、膜エレメント下方に設けられた散気装置からの気泡によって生じる、膜に平行な処理水の流れによって膜面から離脱する。さらに、ろ過膜は定期・不定期に、膜エレメント内部から外部に向けて流体を流通させる逆洗によって、クリーニングされる。
【0003】
膜エレメントには、樹脂製で矩形平板状のろ板の両面に、透過水の流水経路となる繊維シート等のスペーサーを介してろ過膜を配置し、周縁部をシールしたものがよく用いられる。
【0004】
特許文献1には、表面に微小孔を設けた中空構造のろ板を使用し、中空構造内部に支持材を設けることによって、ろ板の剛性を確保しつつ軽量化を図った膜エレメントが開示されている。中空空間を透過水の流水経路とすることで、膜透過水は、スペーサーによって確保された流水経路から、ろ板表面の微小孔を通って内部の流水経路に至り、透過水流量も大きくできる。また、ろ板表面全面に膜透過水を導く微小溝を形成し、スペーサーを排した膜エレメントも開示されている。
【0005】
特許文献2には、特許文献1と同じく、表面に微小孔が設けられ支持材を有する中空構造のろ板を使用し、スペーサーを排した膜エレメントが開示されている。さらに微小孔の周りのろ過膜をろ板に直接止着することにより逆洗可能な膜エレメントが開示されている。
【0006】
特許文献3には、表面に膜透過水の流水経路となる溝を形成したろ板を使用し、周縁部だけでなく面央部においてもろ過膜とろ板を接合することによって、エレメントが大型になっても、逆洗時にろ過膜の膨らみが過大となって破損することのない膜エレメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−194947号公報
【特許文献2】特開平8−10587号公報
【特許文献3】特開2008−49239号公報
【特許文献4】特開2006−231139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、表面に微小孔が設けられた中空構造のろ板を使用しても、繊維シート等のスペーサーで形成される流水経路は流路断面が小さいため、膜透過水が微小孔まで流れる間の抵抗が大きく、透過水流量の増大には限界があった。スペーサーを使用しない場合には、吸引負圧によりろ過膜がろ板表面に密着する結果、流路断面はさらに小さくなり、流水量の増大の効果も小さかった。その一方で、ろ板表面に多数の孔を設けようとしても、孔同士の間隔が狭くなるとろ板の剛性が低下するという問題があった。また、ろ板表面に流水溝を形成する方法では、溝部分が折れ目となってろ板が湾曲しやすくなるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、軽量であり、十分な剛性を有し、かつ透過水流量が大きな膜エレメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の膜エレメントは、ろ過膜と、前記ろ過膜を支持するろ板とを有する膜エレメントであって、前記ろ板の表面は、前記ろ過膜で覆われた部分の略全体が網目構造を有し、前記ろ板の前記網目構造を有する表面の内側は、流水空間を形成していることを特徴とする。
【0011】
上記構成の膜エレメントによれば、ろ板は中空で、表面が網目構造を有することによって軽量化され、ろ過膜を通過した膜透過水は速やかに網目構造を通ってろ板内部の流水空間に導かれるので、流水量を大きくすることができる。
【0012】
本発明の一実施態様として、前記網目構造の開口は、前記ろ板の厚み方向に沿って、ろ板外表面から内部に向かって漸次小さくなるように形成されていることが好ましい。あるいは、前記網目構造は一体として成形されており、前記網目構造の開口は、前記ろ板の厚さ方向に沿って、ろ板外表面から内部に向かって漸次小さくなる部分を有するように形成されていることが好ましい。このようにすれば、透過水の流水量に影響するろ板表面における開口率を大きく維持したまま、ろ板の剛性をより大きくすることができる。
【0013】
本発明の別の実施態様として、前記網目構造の開口率は、前記ろ板外表面において50%以上とすることが好ましい。また、前記網目構造の開口の形状は、最も断面積の小さい部分において、幅が0.2mm以上であることが好ましい。さらに、前記網目構造の開口の形状は、前記ろ板外表面において、幅が15mm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の別の実施態様として、前記流水空間には、前記網目構造を有する面を垂直に支持する一つ以上の支持材を設け、前記ろ板表面の前記支持材の位置する部分は平滑に形成されており、かつ前記ろ過膜が接合されていることが好ましい。また、前記ろ過膜と支持材の接合部の間隔は、60mm以上150mm以下であることがさらに好ましい。このようにすれば、軽量で剛性が高く流水量が多いという本発明の作用効果を維持したまま、大型であっても逆洗可能な強度を有する膜エレメントとすることができる。さらに、本発明の編目構造により逆洗の際の流水量が大きいので、膜面の洗浄を効果的に行うことができる。
【0015】
本発明の別の実施態様として、前記ろ過膜が接合された前記支持材に加えて、前記ろ過膜が接合されていない支持材を設けることができる。このろ過膜が接合されていない支持材は、吸引ろ過時のろ板の強度を向上させるもので、ろ板の網目構造部等と一体として設計を最適化することにより、より軽量な膜エレメントとすることができる。
【0016】
本発明の別の実施態様として、前記ろ板は、射出成形による2つの部品を接合して作製することが好ましい。ろ板の網目構造部と周縁部が一体として成形されるので、ろ板の強度が向上し、特に内部から圧力がかかる逆洗時の強度が向上する。また、形状設計の自由度を増すことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、軽量であり、十分な剛性を有し、かつ透過水流量が大きな膜エレメントを提供することができる。また、ろ板外表面における網目の開口率を大きくすることによって、スペーサーを配置しなくても透過水流量を大きくすることができる。また、ろ過膜固定支持材を設けて、ろ板面央部でもろ過膜をろ板を接合することによって、大型であっても逆洗可能な強度を有する膜エレメントとすることができる。また、射出成形による2つの部品を接合してろ板を形成することで、ろ板の強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る膜エレメントの斜視図
【図2】本発明に係る膜エレメントの断面図
【図3】本発明に係るろ板の網目構造部分の断面図
【図4】ろ過膜の凹みを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照しながら説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る膜エレメントの斜視図である。図2は図1のAA断面図で、説明の便宜のために厚さ方向を拡大して示しているので、縮尺は正確ではない。平板状のろ板2の両面にろ過膜1が配されている。ろ板2は中空構造を有している。ろ過膜1の配された面は、ほぼ全体が概ね均一な網目構造を有している(21)。ろ板2の両面にある網目構造面21に挟まれたろ板中央部分は、厚みがほぼ一定の流水空間26を形成し、網目構造面を垂直に支持する支持材22,23(以下「リブ」という)が設けられている。端面25には開口はない。ろ過膜1は、ろ板の網目構造面21のすべての開口を覆うように、ろ板周縁部24に溶着されている(31)。これによって、処理液は必ずろ過膜1を通過してエレメント外部から内部に侵入することになる。透過水はろ板の一部に設けられた集水口4を通して外部に回収される。また、ろ過膜1は、ろ板周縁部24以外のろ板面央部でも、リブ22に相対する位置で、ろ板に溶着されている(32)。これによって、逆洗時にろ過膜が必要以上に膨らんで、破損することを防いでいる。
【0021】
本実施形態におけるろ過膜には、合成樹脂製の不織布を基材として、その両面に平均孔径が0.4μmである微孔を多数有する高分子膜層が形成されたものを使用した。JIS K 3802の定義から精密ろ過膜と呼ばれるものである。ろ過膜の種類はこれに限定されるものではなく、より小さな固体を分離するための限外ろ過膜を始め、平膜タイプの種々の膜を使用することができる。
【0022】
本実施形態におけるろ板2は略長方形の形状を有し、大きさは500mm×1000mm×厚さ6mmである。本発明を実施するためのろ板の形状は、矩形、円形、その他種々の形状を取り得るが、少なくとも平板状であることを要する。ろ板の大きさには特に制限はないが、本発明による軽量・高剛性等の効果が特に望まれる製品として、ろ板が大型であることが好ましい。ろ板形状が矩形の場合には、短辺が400mm以上あることが好ましい。
【0023】
本実施形態におけるろ板2は、ABS樹脂を使用して作製した。ろ板には、本件発明の構造を実現できるものであれば、種々の材料を使用することができるが、比重が小さいことや成型性が良いことから熱可塑性樹脂を使用することが好ましく、軟化点が低い熱可塑性樹脂を使用することがさらに好ましい。また、後述する熱溶着法によってろ板とろ過膜を接合する場合にも、低温で溶着可能な樹脂を使用することが好ましい。そのような樹脂の例としては、PVC樹脂、ABS樹脂が挙げられる。
【0024】
本実施形態におけるろ板2は、厚さ方向に半分に分割した2個の部品を射出成形し、ろ板周縁部24全周および後述するろ過膜固定リブ22を接着剤で貼り合わせて作製した(27,28)。成形方法は、各種の公知の方法を採用することができる。特許文献1、2に示されるように、中空体部品とその開口端を塞ぐ部品とを接合することもできる。しかし、網目構造面22と周縁部24を一体として成形できることが、エレメント内部から圧力がかかる逆洗時のろ板強度が飛躍的に向上するので好ましい。例えば、射出成形、プレス成形、真空成形、などが挙げられる。なかでも、網目構造面21、周縁部24、リブ22,23、集水口4、その他膜エレメント固定用の周辺部造作等を一体で成形することができる射出成形法を利用することが特に好ましい。
【0025】
ろ板2の表面は、ろ過膜1の有効利用面積を大きくするために、ろ過膜1で覆われる部分の略全体を網目構造21とする。ここで略全体とは、周縁部24のろ過膜とろ板を接合した部分(ろ過膜−ろ板周縁部接合線31)よりも内側で、製造工程における接合位置精度等を考慮してろ過膜−ろ板周縁部接合線31の近傍は除き、さらに、ろ過膜固定リブ22を設けた場合には、その接合部分(ろ過膜−ろ過膜固定リブ接合線32)とその近傍を除くことを意味する。
【0026】
本実施形態においては、網目の開口の形状は正方形とし、これをろ板外周の辺と45度の角度をなす格子状に、2.5mm周期で配列した。しかし、形状、配列はこれに限定されるものではない。形状は、正方形、長方形、各種多角形、円形、長孔等とすることができ、配列は、格子状、千鳥状、亀甲状等とすることができ、配列の角度も自在に設定することができる。
【0027】
また、網目の開口は、ろ過膜堆積物(ケーク)が均一に堆積するように、網目構造面21の全体にわたって均一に分布していることが好ましい。
【0028】
図3は、本実施形態における網目構造部分21の網地を形成する糸に相当する部分(以下「梁53」という)の長さ方向と垂直な断面図である。開口54は、ろ板2の厚さ方向に沿って、ろ板外表面51から内部に向かって漸次小さくなり、網目構造−流水空間境界面52では幅1mmとなっている。逆に梁53の断面は、ろ板外表面51付近では曲率半径が0.5mmの円弧を描いており、内部に向かって漸次太くなって、網目構造−流水空間境界面52では幅1.5mmとなっている。
【0029】
網目の開口率が大きいほど、透過水流量が大きくなるが、ろ板2の剛性が小さくなる。ここで、透過水流量に大きく影響するのは、ろ過膜1と接するろ板外表面51における開口54(以下「外表面開口55」という)の面積割合(以下「外表面開口率」という)である。すなわち、膜透過水は、ろ過膜1とろ板表面51の間を、スペーサーを配置する場合は、スペーサーによって形成される流水経路を通って外表面開口55に達し、開口54を通ってろ板内部の流水空間26に導かれる。スペーサーを配置しない場合は、吸引負圧により密着したろ過膜1とろ板表面51の間を通って外表面開口55に達し、開口54を通ってろ板内部の流水空間26に導かれる。この経路のうち流水抵抗が大きいのは、膜透過水が外表面開口55に至るまでの部分である。外表面開口率が大きければ、ろ過膜1を通過した透過水が外表面開口55に到達するまでの距離は平均的に短くなり、流水抵抗は小さくなり、透過水流量は大きくなる。透過水がいったん開口54に達すると、開口の大きさが透過水流量に及ぼす影響は小さい。したがって、透過水流量を大きくするには、外表面開口率が大きければよい。
【0030】
一方、ろ板2の剛性は、梁53の断面形状・断面積に依存するので、外表面開口率を大きくしても、ろ板の内部側では開口を小さくすることによって、剛性の低下を抑えることができる。つまり、高透過水流量と高剛性をより高い水準で両立することができる。具体的には、個々の開口54について、外表面では大きく、内側ではそれよりも小さく、その断面積がろ板の厚さ方向に沿って漸次変化するようにしておけばよい。
【0031】
図3においては、開口の断面積(ろ板の面に平行な断面の面積)は、ろ板外表面51において最大で、網目構造−流水空間境界面52で最小である。網目構造面は吸引ろ過時にろ過膜によってろ板内側へと押されるので、網目構造面の最も内側で開口断面積が最小となるのは、強度設計の点で合理的である。
もっとも、本発明における開口断面積はろ板外表面51と網目構造−流水空間境界面52の間で最小となってもよい。ただしその場合には、透過水流量と剛性を高い水準で両立するためには、開口54は、ろ板の厚さ方向に沿ってろ板外表面から内部に向かって漸次小さくなる部分を有していることが必要である。また、梁の部分は、ろ板外表面51の平坦性を高めるためには、縦横に交差するように糸を接合した一般的な金網のような構造ではなく、射出成形等によって一体に成形されている必要がある。
【0032】
ろ板外表面51における開口の大きさや開口率を考える場合には、開口とそうでない部分との境界をどう画定するかという問題がある。梁53の断面形状が略三角形であって、その頂点でろ過膜1を支持しているとしても、現実には梁とろ過膜とはある有限の幅を持って接している。また、ろ板外表面の開口の周縁(エッジ)は、ろ過膜が傷つかないように、面取加工されるのが通常と考えられる。
ここで、膜透過水が流れる際の抵抗はわずかな隙間があれば顕著に下がることを考慮すると、外表面開口55の周縁(エッジ)が面取加工(C加工、R加工)されている場合には、面取加工がされている部分は開口54に含まれると考えるのが妥当である。例えば、図3においては、梁断面の頂上の左右直近の領域は開口に属すると考えるのが妥当であり、外表面開口率は100%とみなすことができる。
【0033】
なお、外表面開口エッジがR加工されていると、実際には吸引ろ過時にろ過膜が凹んで、ろ過膜とろ板が密着する部分ができる。図4に示すように、凹んだろ過膜の断面形状が円弧をなすと仮定すると、開口幅(図4中のL)と凹み量(同D)から密着部分の幅(同X)を求めることができる。表1に計算結果を示す。
大型の膜エレメントは−20kPa(膜間差圧)程度の負圧で使用されることが多いが、設計圧力としては−90kPa(膜間差圧)程度の負圧に耐えるように設計される。膜間差圧とは、膜を介して膜エレメント外部の圧力を基準にした膜エレメント内部の圧力で定義する。膜内部に向けて加圧されている時を負圧とよび、膜外部に向けて加圧されている時を正圧とよぶ。なお、大気圧下の開放系で使用する場合は、膜間差圧は内部圧力(ゲージ圧)とも言う。本実施形態で使用したろ過膜では、外表面開口の正方形の一辺が2.5〜4mmの範囲では、−90kPa(膜間差圧)で吸引したときの凹み量は一辺の長さの2〜4%であった。表1の結果を利用すると、例えば一辺が2.5mm、凹み量が3%、R加工の曲率半径が0.5mmの場合には、密着部分を除いた外表面開口率は約91%となる。また、開口が大きくなると、ろ過膜の厚さの影響等が小さくなるため、凹み量は大きくなり、5〜10%になる。その場合は、密着幅も大きくなるが、開口自体も大きくなっているので、開口率に与える影響は依然として小さい。
実際にはより小さな負圧で膜エレメントが使用されることを考えると、上記の通り、R加工がされている部分は開口54に含まれるとみなすことができる。
【0034】
【表1】

【0035】
断面積が一定の穿孔を設けたときには、例えば半径rの孔を互いにr隔てて稠密充填配列したとしても開口率は約40%であり、それよりも大きい開口率を実現することは強度の点から難しい。本発明によれば、それよりも大きい外表面開口率を実現することができるので、透過水流量を大きくするために、外表面開口率は50%以上とすることが好ましく、80%以上とすることが特に好ましい。
【0036】
本実施形態における網目構造部分21の厚さは、1.5mmである。網目構造部分の厚さは、材料の強度、梁の断面形状、後述する空隙保持リブ23の設置間隔などを考慮して定めることができるが、薄すぎるとろ板の剛性が不十分となるので、1mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがさらに好ましい。逆に厚すぎると、ろ板の重量が大きくなる。一般的なろ板が厚さ6〜8mmの樹脂板であることから、軽量化の効果を享受するには、網目構造部分の厚さは4mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
従来技術のろ板表面に微小溝を形成する方法では、溝部分が折れ目となってろ板が湾曲しやすくなる問題があった。網目構造においては、梁が縦横に伸びているので、網目構造面21の厚さは全体に亘って均一であり、そのような問題はない。このこともろ板の剛性を高めることに役立っている。
【0038】
外表面開口55が大きすぎると、膜エレメント内部を吸引して負圧を与えて、ろ過膜1が開口54内に引き込まれたときに、ろ過膜の開口のエッジに当たる部分が傷つくおそれがある。与えられた負圧はろ過膜の外表面開口部分全体に作用し、開口のエッジ部分でろ板からの反力、ろ過膜内の引張応力と釣り合うので、ろ板外表面における開口面積:開口エッジ長さの比が大きいほどろ過膜にかかる力が大きくなるからである。
【0039】
前述の通り、大型の膜エレメントは−90kPa(膜間差圧)程度の負圧に耐えるように設計される。そこで、−90kPa(膜間差圧)の負圧をかけて吸引した後の、ろ過膜の損傷の有無を実験で確認した。本実施形態における網目構造では、前述の通り、外表面開口は一辺が2.5mmの正方形であり、梁はろ過膜との接触部が曲率半径0.5mmのR加工がされている。この場合には、ろ過膜の損傷は確認できなかった。次に、梁の断面形状・大きさは変えず、開口を一辺が4mmの正方形とした場合には、梁に押しつけられた跡がろ過膜表面に認められたが、ろ過膜の損傷は確認できなかった。
後述するエレメント内に正圧を加えた実験では、間隔115mmの平行線で固定されたろ過膜は、内部から12kPa(膜間差圧)の圧力を加えられても、まったく損傷を受けなかった。簡単な近似計算によれば、−90kPa(膜間差圧)の負圧が加えられても、外表面開口の幅が115×12/90=約15.3mmより小さければ、ろ過膜は損傷を受けることがないと考えられる。
以上より、外表面開口の大きさは、幅が15mmよりも小さいことが好ましく、4mm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
以上の通り、外表面開口55の大きさの好ましい範囲は、開口形状の幅によって規定するのが合理的である。ここで、形状の幅とは、正方形では1辺の長さ、長方形では短辺の長さ、円では直径、楕円では短径、長孔ではその幅のことをいう。また、通念上幅が一意に定まらない場合は、ろ過膜の開口内への最大凹み量を規定する寸法を、ここでいう幅と定義することができる。例えば、三角形では内接円の直径であり、一般には、開口形状に内接する円のうち最大のものの直径である。
【0041】
開口の最小断面積は、小さすぎると加工上の問題が発生する。例えば、射出成型時に樹脂の回り込みよって孔が塞がる問題が発生する。したがって、開口形状が正方形の場合は、一辺の長さが0.2mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがさらに好ましい。0.2mm以上であれば孔の塞がりが発生する確率は十分に小さく、0.5mm以上であればその確率は無視できるほど小さいからである。また、射出成型時の樹脂の回り込みに対しても、前記外表面開口におけるろ過膜の凹み量と同様に、開口形状の幅によって好ましい範囲を規定することができる。すなわち、長方形では短辺の長さ、円では直径、楕円では短径、長孔ではその幅であり、通念上幅が一意に定まらない場合は、三角形では内接円の直径であり、一般には開口形状に内接する円のうち最大のものの直径である。
【0042】
ろ板2の2つの網目構造面21の内側には、前記2つの網目構造面21とろ板周縁部24に囲まれた、流水空間26が形成されている。本実施形態においては、その大きさは、450mm×950mm×厚さ3mmである。
【0043】
ろ板内部の流水空間26において、網目構造面を垂直に支持するリブは、2つの機能を実現している。吸引ろ過時に網目構造面21の間隔を保持するための空隙保持機能と、ろ過膜1を接合して、逆洗時にろ過膜1が外側に膨らむのを抑えるろ過膜固定機能である。
【0044】
ろ過膜固定のためのリブ(以下「ろ過膜固定リブ22」という)は、2つの網目構造面21を接合しており、さらにろ板表面においてろ過膜が接合されている(32)。本実施形態においては、流水空間26の長辺に平行に、幅7mm、長さ910mmのろ過膜固定リブ22を、流水空間の短辺方向をほぼ4等分するように、間隔115mmで、3本設けた。本実施形態では、ろ板を厚さ方向に半分に分割した部品を射出成形したので、ろ過膜固定リブもその厚さ方向に二分割されていた。この2つの部品に分かれたリブを接着剤で接合した(28)。網目構造面21のろ過膜固定リブ22の位置する部分は網目を排し、その表面を平滑に形成して、ろ過膜1を熱溶着で接合した(32)。
【0045】
ここでろ過膜固定リブ22の寸法は、本実施形態に限定されるものではないが、幅が広すぎるとろ板表面に開口のない領域が多くなる問題があり、幅が狭すぎると逆洗時に内圧のかかるろ過膜1に引っ張られてリブの接着面28が破壊するおそれがある。また、後述する熱溶着法によるとろ過膜−ろ過膜固定リブ接合線32の幅は約2mmとなるので、ろ過膜固定リブの幅は3mm以上であることが望ましい。結果としてろ過膜固定リブの幅は、3〜12mmの範囲にあることが好ましく、5〜8mmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0046】
ろ過膜固定リブ22の配置形状は、特に限定されないが、直線状とするのが簡明である。
【0047】
ろ過膜1の固定されたろ板周縁部31とろ過膜固定リブ22の間隔、ろ過膜固定リブ22同士の間隔(以上を合わせて「ろ過膜固定間隔29」という)は、間隔が広すぎると、逆洗時にろ過膜1が過大に膨らんで、隣接する膜エレメントのろ過膜同士が接触する不都合を生じるし、ろ過膜−ろ板接合部にかかる力が大きくなってろ過膜が破損する確率が高くなるので好ましくない。また、間隔が狭すぎると、透過水の通過に寄与しない部分が増えるので好ましくない。
【0048】
本実施形態に係る膜エレメント(ろ過膜固定間隔は115mmである)について、内部から圧力を加えて、ろ過膜の膨らみ(ろ板表面51からの距離の最大値。通常はろ過膜固定間隔29の中央部分で観察される)、破損等の状況を観察した。まず、集水口4から水道水を注入して圧力をかけると、内部圧力10kPaでろ過膜の膨らみは8mmとなり、水がろ過膜を透過して漏出するので、内部圧力をこれより上げることはできなかった。次にろ過膜表面に空気が通らない処理を施し、集水口から空気を注入して圧力をかけた。内部圧力を上げるにしたがって、ろ過膜の膨らみは徐々に大きくなった。ろ過膜の膨らみ量は、加圧が10kPaで8mm、12kPaで10mm、18kPaで13mmとなり、これ以上は膨らまなかった。このうち、加圧が12kPaを超えると、圧力を0に戻してもろ過膜の一部にしわが残った。ろ過膜の損傷は確認できなかったが、ろ過膜の基材である不織布に、局所的に不可逆な伸びが起こった可能性も否定できない。さらに加圧を続けると、加圧25kPaでろ板が変形し始め、32kPaでろ板骨格が破損した。したがって本実施形態では、ろ過膜−ろ板接合強度が問題となることはなかった。
【0049】
さらに発明者らは、逆洗時にろ過膜1が膨らむことによって、ろ過膜表面に堆積したろ過膜堆積層が剥がれやすくなることを発見した。すなわち、ろ過膜1が外側に膨らんで伸びることによって、ろ過膜堆積層とろ過膜表面の間にずれが生じ、その剪断力によって、ろ過膜堆積物層がろ過膜表面から離脱するのである。本実施形態に係る膜エレメント(ろ過膜固定間隔は115mmである)での実験によると、ろ過膜の膨らみが3mm以上でろ過膜堆積層が離脱した。堆積層が離脱する膨らみ量は、堆積層の性状に大きく依存するが、ろ過膜の膨らみは5mm以上あることが好ましいと考えられる。
【0050】
以上の通り、逆洗時のろ過膜の膨らみには最適範囲があり、その上限値は膨らみ量とろ過膜が破損しないことで定まり、その下限値はろ過膜堆積層が離脱できるかどうかで定まる。ろ過膜が破損しないためには、逆洗時圧力を25kPa以下、好ましくは18kPa以下、さらに好ましくは12kPa以下とするのがよい。隣接する膜エレメントとの間隔を考慮すると、膜の膨らみ量は13mm以下とすることが好ましい。内圧12kPaで膨らみ量を5〜13mmとするには、ろ過膜固定間隔29は60〜150mm以下とすればよい。ろ過膜の膨らみは、逆洗時圧力の他、ろ過膜の基材の物性等にも依存するが、実用的な条件内では、ろ過膜固定間隔29の影響が大きい。ろ過膜固定間隔は、より好ましくは80〜130mmの範囲にあれば、ほぼ最適なろ過膜の膨らみを得ることができる。
【0051】
本実施形態においては、ろ過膜固定リブ22の両端は、ろ過膜−ろ板周縁接合線31から20mm離れているが、これに限定されるものではない。ろ過膜−ろ過膜固定リブ接合線32の端(以下「ろ過膜−リブ接合端33」という)とろ過膜−ろ板周縁接合線31の距離は、逆洗時のろ過膜の破損を防止するためには、ろ過膜固定間隔29よりも小さいことが好ましい。また、逆洗時にろ過膜が膨らむと、ろ過膜−リブ接合端33に応力が集中するので、ろ過膜−リブ接合端33とろ過膜−ろ板周縁接合線31の距離は50mm以下であることがさらに好ましい。
【0052】
ろ過膜固定リブ22の片端または両端はろ板周縁部24と連接していてもよく、ろ過膜−ろ過膜固定リブ接合線32とろ過膜−ろ板周縁接合線31とがつながっていてもよい。ただし、ろ過膜固定リブ22の両端がろ板周縁部24と連接した場合には、複数に区画された流水空間26のそれぞれに対して集水口4を設けるか、ろ過膜固定リブ22の一部に区画された流水空間26同士を繋ぐ通水路を設ける必要がある。
【0053】
空隙保持のためのリブ(以下「空隙保持リブ23」という)は、吸引ろ過時に空隙を保持できさえすればよい。
本実施形態においては、ろ板周縁部24とろ過膜固定リブ22の中間、およびろ過膜固定リブ22同士の中間の計4カ所に、幅5mm、長さ910mmの直線状の空隙保持リブ23を設けた。ろ過膜固定リブと空隙保持リブの間隔は約55mmであった。
本実施形態では、ろ板を厚さ方向に半分に分割した部品を射出成形したので、空隙保持リブもその厚さ方向に二分割されていた。この2つの部品に分かれたリブは、ろ過膜固定リブ22とは異なり、特に接着しなかった。したがって2つの網目構造面21同士も空隙保持リブ23を介して接合されているわけではない。また、空隙保持リブ23がある部分では開口54は塞がれているが、ろ板外表面は平滑に形成しておらず、網目構造面の形状はそのまま残した。射出成形型製作の便宜のためで、これに限定されるものではない。
【0054】
空隙保持リブ23の配置形状は、特に限定されない。本実施形態のように直線状にしてもよいし、小さな島状のリブを適当に隔離して配置することもできる。空隙保持リブ23の配置間隔は、吸引ろ過時に(ろ板が潰れて)相対する2つの網目構造面21同士が接触しなければよい。好ましい配置間隔は、網目構造面21の曲げ剛性に依存し、曲げ剛性は面の厚み等に強く依存するので、空隙固定リブ23の間隔だけを単独で設計するのではなく、ろ板全体として形状設計を行うのが望ましい。なお、ろ過膜固定リブ22は空隙保持機能を兼ね備えるので、ろ過膜固定リブ以外に空隙保持リブ23を設けなくてもよい場合もある。
【0055】
ろ過膜1とろ板2の接合方法には、接着剤を用いて固着させる方法や、超音波を用いて溶着する方法など公知の方法が使用できる。しかし、ろ過膜1とろ板2の接合部には逆洗時に応力が集中するので、ろ過膜1の基材の強度低下が小さい、熱板を使用した熱溶着法によるのが好ましい。
【0056】
ろ板2外周部には、透過水を膜エレメント外へ排出するための集水口4、複数の膜エレメントを平行に並べてモジュールを組み立てる際の固定具のための孔などが設けられる。このような周辺部材も、射出成形で一体に製作することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 ろ過膜
2 ろ板
21 網目構造部
22 ろ過膜固定リブ
23 空隙保持リブ
24 ろ板周縁部
25 ろ板端面
26 流水空間
27 ろ板周縁部接着面
28 ろ過膜固定リブ接着面
29 ろ過膜固定間隔
31 ろ過膜−ろ板周縁接合線
32 ろ過膜−ろ過膜固定リブ接合線
33 ろ過膜−リブ接合端
4 集水口
51 ろ板外表面
52 網目構造面−流水空間境界面
53 網地の梁
54 網目の開口
55 外表面開口
56 内側開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過膜と、前記ろ過膜を支持するろ板とを有する膜エレメントであって、
前記ろ板の表面は、前記ろ過膜で覆われた部分の略全体が網目構造を有し、
前記ろ板の内部には、前記網目構造の内側に流水空間を形成している
ことを特徴とする膜エレメント。
【請求項2】
前記網目構造の開口は、前記ろ板の厚さ方向に沿って、ろ板外表面から内部に向かって漸次小さくなる
ことを特徴とする請求項1に記載の膜エレメント。
【請求項3】
前記網目構造は一体に成形されており、
前記網目構造の開口は、前記ろ板の厚さ方向に沿って、ろ板外表面から内部に向かって漸次小さくなる部分を有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の膜エレメント。
【請求項4】
前記網目構造の開口率は、前記ろ板外表面において50%以上である
こと特徴とする請求項2または3に記載の膜エレメント。
【請求項5】
前記網目構造の開口の形状は、最も断面積の小さい部分において、幅が0.2mm以上である
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の膜エレメント。
【請求項6】
前記網目構造の開口の形状は、前記ろ板外表面において、幅が15mm以下である
ことを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の膜エレメント。
【請求項7】
前記流水空間には、前記網目構造を有する面を垂直に支持する一つ以上の支持材を設け、
前記ろ板表面の前記支持材の位置する部分は平滑に形成されており、かつ前記ろ過膜が接合されている
ことを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の膜エレメント。
【請求項8】
前記ろ過膜と支持材の接合部の間隔は、60mm以上、150mm以下である
ことを特徴とする請求項7に記載の膜エレメント。
【請求項9】
前記流水空間には、前記ろ過膜が接合された前記支持材に加えて、
前記網目構造を有する面を垂直に支持し、前記ろ過膜が接合されていない支持材を設けた
ことを特徴とする請求項7または8に記載の膜エレメント。
【請求項10】
前記ろ板は、射出成形による2つの部品を接合して作製された
ことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の膜エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−45515(P2012−45515A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192065(P2010−192065)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(503442592)株式会社ユアサメンブレンシステム (28)
【Fターム(参考)】