説明

膜カートリッジ

【課題】流路面積を広く設定でき、しかも濾板の強度の劣化を抑制でき、浸漬型膜分離装置に複数の膜カートリッジを平行に充填した状態において、膜カートリッジの間の流路幅が不均一となることを抑制できるとともに、上昇流の流れを濾過膜の膜面全体に有効に作用させて膜カートリッジの間の流路閉塞および濾過膜の目詰まりを防止できる膜カートリッジを提供する。
【解決手段】濾板52の表面に濾過膜53を配置し、濾過膜53と濾板52との間の通液流路55に連通する集液部56を濾板52の上部に設けてなる膜カートリッジ51であって、濾板52は濾板面に通液流路をなす所定パターンの通液溝61bを有し、通液溝61bは濾板52の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜カートリッジに関し、下水、産業排水、生活排水等における固液分離技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来の水処理、例えば膜分離活性汚泥処理(MBR)においては、下水、産業排水、生活排水等を活性汚泥処理する反応槽内に浸漬型膜分離装置を浸漬している。この浸漬型膜分離装置には、例えば図14〜図15に示すものがある。これは反応槽1に浸漬する浸漬型膜分離装置2が本体ケーシング3の内部に複数枚の有機平膜型の膜カートリッジ4を所定間隔で平行に配列して充填したものである。各膜カートリッジ4は樹脂製の濾板4aの表裏の両面に有機平膜からなる濾過膜4bを有するものであり、膜面を上下方向に沿わせて配置している。
【0003】
本体ケーシング3の下部に配置する散気ケース3aの下端開口付近には膜カートリッジ4の下方に位置して散気装置5を配置しており、散気装置5より噴出する膜面洗浄気体の全量が本体ケーシング3に流入する。各膜カートリッジ4はチューブ(図示省略)を介してヘッダー(図示省略)に接続している。
【0004】
上記した浸漬型膜分離装置2では、平行に配列した膜カートリッジ4の相互間に槽内混合液が流れる流路を形成し、散気装置5より噴出する空気のエアリフト作用により固気液混相の上昇流6を生じさせ、この上昇流6によって槽内混合液を膜カートリッジ4の相互間の流路に供給する。
【0005】
膜カートリッジ4には吸引ポンプ7によって吸引圧を与えており、槽内混合液が膜カートリッジ4の膜面に沿ってクロスフローで流れる間に、濾過膜4bに作用する膜間差圧を駆動圧として濾過膜4bで槽内混合液を濾過し、濾過膜4bを透過した濾過液を処理水として取り出している。
【0006】
また、槽内混合液をクロスフローで供給することにより、膜カートリッジ4の膜面に固形分8が膜間差圧で押し付けられて付着することを抑制し、固気液混相の上昇流6で膜面の付着物を洗い流して洗浄している。
【0007】
上記した構成における膜カートリッジの濾板としては、他に特許文献1に開示する構成がある。これは、図13に示すように、両面に平膜を配置する通水性の流路スペーサ21に平行な多数の突条22を設け、突条22の間に溝23を形成している。
【0008】
また、特許文献2には、濾板の表裏面に、上下方向の縦導水路と、途中で複数の縦導水路に連通する複数の傾斜導水路とを形成する構成が開示されている。
また、特許文献3には、膜支持体の表面を濾過膜で覆った濾過膜モジュールにおいて、膜支持体の表面に膜透過液の流路となる凹部を形成するとともに、この凹部に連通して、前記透過液を吸引して外部に導く透過液吸引管を設ける構成が開示されている。
【特許文献1】特開平7−194945号公報
【特許文献2】特開2003−117358公報
【特許文献3】特開平6−178920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで上記した構成、つまり、散気装置5より噴出する空気のエアリフト作用により固気液混相の上昇流6を生じさせ、この上昇流6によって槽内混合液を膜カートリッジ4の相互間の流路に供給することで、膜カートリッジ4の膜面に固形分8が膜間差圧で吸い寄せられて付着することを抑制し、固気液混相の上昇流6で膜面の付着物を洗い流して洗浄する構成において、散気装置5より噴出する空気のエアリフト作用を有効に利用し、かつ膜カートリッジ4の1枚当たりの膜透過水量を増加させるために、膜カートリッジ4を縦方向に長く形成する場合がある。
【0010】
この場合に、膜面で濾過された膜透過水は膜カートリッジの上端の一箇所に設けた集液部に集めて取り出されるために、濾板上の集液部に近い箇所になるほど流速が高くなり、濾板と濾過膜との間の流路抵抗(圧力損失)が大きくなる。
【0011】
この流路の抵抗が大きくなることで、集液部から近い箇所、すなわち膜カートリッジの下部になるほど十分な濾過圧力(膜間差圧)が得られなくなり、膜カートリッジの下端側ではほとんど膜透過水を得られず、膜面全体をより有効に利用した均等な濾過を行えなかった。
【0012】
このため、膜カートリッジに複数の集液部を設けて各集液部で膜透過水を分散して集液し、流路抵抗(圧力損失)を小さくすることが考えられる。この場合には、濾過圧力(膜間差圧)が膜面全体に等しく作用し、濾過膜の膜面全体を有効に利用して濾過を行うことができる。
【0013】
しかし、膜カートリッジに複数の集液部を設けると、集液部の数だけ集液用の配管が必要になり、複数の膜カートリッジによって濾過ユニットを構成する場合に、配管が煩雑となり、配管のためのスペースを確保するために濾過ユニットが大きくなり、反応槽において濾過ユニットが占めるスペースが大きくなって施工面でのデメリットが生じる。また、膜カートリッジを製造する際の材料費、加工費、加工点数が上がり、製造コストが高くなる問題があった。
【0014】
本発明は流路面積を広く設定でき、しかも濾板の強度の劣化を抑制でき、浸漬型膜分離装置に複数の膜カートリッジを平行に充填した状態において、膜カートリッジの間の流路幅が不均一となることを抑制できるとともに、上昇流の流れを濾過膜の膜面全体に有効に作用させて膜カートリッジの間の流路閉塞および濾過膜の目詰まりを防止できる膜カートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した課題を解決するために、本発明の膜カートリッジは、濾板の表面に濾過膜を配置し、濾過膜と濾板との間の通液流路に連通する集液部を濾板の上部に設けてなる膜カートリッジであって、濾板は濾板面に通液流路をなす所定パターンの通液溝を有し、通液溝は濾板の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰り返すことを特徴とする。
【0016】
本発明の膜カートリッジにおいて、濾板は表裏の濾板面に所定パターンの通液溝を有し、一方の濾板面の通液溝を他方の濾板面に投影する状態において、一方の濾板面の通液溝と他方の濾板面の通液溝はずれた位置に存在し、かつ一方の濾板面の通液溝と他方の濾板面の通液溝の同一方向成分が同一直線状に存在しないことを特徴とする。
【0017】
本発明の膜カートリッジにおいて、所定パターンの通液溝は、四角形状のセルを斜めに傾斜させて千鳥状に配列する状態において、セルの周囲に形成されるセル相互間の溝からなることを特徴とする。
【0018】
本発明の膜カートリッジにおいて、所定パターンの通液溝は、六角形状のセルを千鳥状に配列する状態において、セルの周囲に形成されるセル相互間の溝からなることを特徴とする。
【0019】
本発明の膜カートリッジにおいて、所定パターンの通液溝は、四角形状のセルを千鳥状に配列する状態において、セルの周囲に形成されるセル相互間の溝からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、通液溝はその流路形態が直線的でないために、濾板の強度が流路を直線的に形成するものに比べて大きくなり、流路面積を広く設定することができる。
さらに、濾板の濾板表裏の濾板面に形成する通液溝パターンは、一方の濾板面に形成する通液溝パターンを他方の濾板面に投影する状態において双方の通液溝パターンがずれた位置に存在するので、濾板表裏の濾板面に通液溝パターンを形成するにもかかわらず、濾板の強度の劣化を抑制できる。
【0021】
また、濾板の表裏における通液溝の位置関係がことなることで、浸漬型膜分離装置に複数の膜カートリッジを平行に充填した状態において、隣接する膜カートリッジの相対向する双方の濾板面において通液溝の位置が濾板面に沿う方向においてずれることになる。
【0022】
このため、浸漬型膜分離装置の運転時には、隣接する膜カートリッジの相対向する双方の濾板面において通液溝の位置が濾板面に沿う方向においてずれることで、一方の濾過膜において通液溝対応して固形分が付着し易い部位と、他方の濾過膜において通液溝対応して固形分が付着し易い部位とが双方の膜カートリッジの間の流路幅方向において重ならず、膜カートリッジの間の流路幅が不均一となることを抑制できるとともに、上昇流の流れを濾過膜の膜面全体に有効に作用させて膜カートリッジの間の流路閉塞および濾過膜の目詰まりを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図2に示すように、膜カートリッジ51は濾板52の表裏面に配置した濾過膜53を周縁部の固定部54で濾板52に固着しており、固着の方法としては溶着、接着等がある。濾板52と濾過膜53の間には通液流路55を形成しており、必要に応じてスペーサ(図示省略)を配置する。
【0024】
図1に示すように、濾板52は通液流路55に連通する集液部56を濾板上部で濾板幅方向の一側に有しており、濾過膜53に覆われた濾板52の濾板面に所定パターンの通液溝パターン61aが形成されている。集液部56は濾板52の側部の上部位置に設けたヘッダー形成部62に貫通孔52aで連通している。
【0025】
図6に示すように、通液溝パターン61aの通液溝61bは、一方の濾板面に形成する通液溝パターン61aを他方の濾板面に投影する状態において双方の通液溝パターン61aがずれた位置に存在し、かつ一方の濾板面に形成する通液溝パターン61aと他方の濾板面に形成する通液溝パターン61aとにおける同一方向成分が同一直線上に存在しない。
【0026】
本実施の形態では通液溝パターンの一例としてハニカム状の通液溝61bを開示しているが、他のパターンとすることも可能であり、後に図6〜図9において各通液溝パターンについて説明する。
【0027】
濾板52は濾板面における集液部56の直近領域に調整部57を集液部56に接して設けている。この調整部57には所定パターンの集液溝パターン56aを形成しており、集液溝パターン56aは格子状に集液溝56bを形成し、集液溝56bと集液溝56bの間に山部56cを形成してなり、集液溝56bを直線状に形成することで流路抵抗を減じている。本実施の形態においては集液溝パターン56aの一例として格子状に形成した集液溝56bを開示したが、他のパターンとすることも可能である。
【0028】
濾板52は、集液溝パターン56aが抵抗係数調整手段としての流路網をなし、通液溝パターン61aに比べて集液溝パターン56aにおいて単位面積当たりの溝数を多く形成することで、集液溝パターン56aの抵抗係数が通液溝パターン61aの抵抗係数より小さくなるように調節されている。
【0029】
ここで、図1に示す濾板52の形態と、同濾板52における流路調整部57の集液溝パターン56aを周辺の通液溝パターン61aと同じハニカム状とした形態とにおける吸引圧力と清水透過水量の関係を図4に示す。
【0030】
ここでの条件は、濾過膜がMF膜であり、濾板サイズが500mm×1500mmであり、集液部57のサイズが100mm×150mmであり、通液溝は幅3mm、深さ2mmであり、ハニカムは一辺40mmであり、集液溝は幅3mm、深さ2mm、溝間隔5mmである。
【0031】
図4より、抵抗係数調整手段の存在によって透過液流束が高く維持できることが明らかである。
本実施の形態においては、抵抗係数調整手段の流路網をなす集液溝パターン56aにおいて通液溝パターン61aよりも流路の抵抗係数(圧力の損失係数)を段階的に減少させた。しかし、抵抗係数調整手段は、通液溝パターン61aおよび集液溝パターン56aの抵抗係数が集液部56に近いほどに漸次に減少し、あるいは断続的に減少することでも実現できる。また、抵抗係数調整手段は、流路断面積を大きくしても実現できる。
【0032】
本実施の形態においては、集液溝パターン56aは濾板52自体に形成しているが、集液部56に濾板52を表裏に貫通する開口部を形成し、開口部に濾板52とは別体の組込部材を配置し、この組込部材に集液溝パターン56aを形成しても良い。
【0033】
図2および図3に示すように、濾板52は、濾過膜53を配置する濾板面に比べて膜カートリッジ51の配列方向に突出する濾板肉厚部52bを両側部に濾板52の全高にわたって形成している。膜カートリッジ51は隣接し合う膜カートリッジ51の濾板52が濾板肉厚部52bで相互に当接して連結されることで、後述する複数の膜カートリッジ51の集合体としての濾過ユニット70を形成する。
【0034】
また、濾板52は濾板肉厚部52bに濾板連結部をなす濾板連結用凸部52cと濾板連結用窪み部52dを形成している。濾板連結部は隣接し合う膜カートリッジ51の濾板52の相対位置を位置決めするものであり、濾板連結用凸部52cは濾板肉厚部52bの表裏の一方面に膜カートリッジ51の配列方向に突出して形成しており、濾板連結用窪み部52dは濾板肉厚部52bの表裏の他方面に濾板連結用凸部52cの形状に相応する形状に形成している。濾板連結用凸部52cおよび濾板連結用窪み部52dは濾板肉厚部52bに形成した連結用孔91を囲んで形成しており、連結用孔91の開口縁をなす。連結用孔91は連結用ロッド92を挿通するためのものであり、濾板52およびヘッダー形成部62を表裏方向に貫通し、所定間隔で複数個所に形成している。
【0035】
図2および図3に示すように、濾板52の側部の上部位置に設けたヘッダー形成部62は膜カートリッジ51の配列方向に貫通するヘッダー流路部62aを有し、ヘッダー流路部62aが貫通孔52aおよび集液部56を介して濾板52と濾過膜53の通液流路55に連通する。
【0036】
ヘッダー形成部62は濾過膜53を配置する濾板52の表面に比べて膜カートリッジ51の配列方向に突出するヘッダー肉厚部62bを有しており、隣接し合う膜カートリッジ51のヘッダー形成部62がヘッダー肉厚部62bで相互に当接して濾過ユニット70のヘッダー60を形成する。
【0037】
ヘッダー形成部62は、ヘッダー肉厚部62bにヘッダー連結部をなすヘッダー連結用凸部62cとヘッダー連結用窪み部62dを形成している。ヘッダー連結部は隣接し合う膜カートリッジ51のヘッダー形成部62の相対位置を位置決めするものであり、ヘッダー連結用凸部62cはヘッダー肉厚部62bの表裏の一方面に膜カートリッジ51の配列方向に突出して形成しており、ヘッダー連結用窪み部62dはヘッダー肉厚部62bの表裏の他方面にヘッダー連結用凸部62cの形状に相応する形状に形成している。
【0038】
ヘッダー連結用凸部62cおよびヘッダー連結用窪み部62dはヘッダー流路部62aを囲んで形成しており、ヘッダー流路部62aの開口縁をなす。ヘッダー連結用凸部62cおよびヘッダー連結用窪み部62dの外周にはOリング溝62eを形成しており、Oリング溝62eにOリング62fを配置している。
【0039】
図5に示すように、ヘッダー形成部62には濾板52の貫通孔52aの成型を容易に行うための型抜き孔62gを形成することも可能である。型抜き孔62gは貫通孔52aと直線状の位置に形成し、濾板52の成型後に栓体62hを接着固定して水密に封止する。本実施の形態において、ヘッダー形成部62は濾板52と一体に形成しているが、濾板52と別体の組込部材として形成し、濾板52に接続して組み込むことも可能である。この場合には、濾板52の貫通孔52aの成型が容易となる。
【0040】
図6に示すように、ハニカム状の通液溝パターン61aは、六角形状のセル61cを千鳥状に配列し、セル61cの周囲に通液溝61bを形成することも可能であり、通液溝61bが濾板52の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰返している。
【0041】
また、図7(a)に示すように、ハニカム状の通液溝パターン61aは、六角形状のセル61cを横方向の行と縦方向の列との格子状に配列し、行と行の間にひし形状のセル61dを配置し、セル61c、61dの周囲に通液溝61bを形成することも可能であり、通液溝61bが濾板52の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰返している。
【0042】
また、図7(b)に示すように、ハニカム状の通液溝パターン61aは、五角形状のセル61eを横方向の行と縦方向の列との格子状に配列し、セル61eの周囲に通液溝61bを形成することも可能であり、通液溝61bが濾板52の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰返し、2行毎に横方向に直線状に連続している。
【0043】
また、図8(a)に示すように、ハニカム状の通液溝パターン61aは、四角形状のセル61fを千鳥状に配列し、セル61fの周囲に通液溝61bを形成することも可能であり、通液溝61bが濾板52の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰返している。
【0044】
また、図8(b)に示すように、ハニカム状の通液溝パターン61aは、四角形状のセル61gを千鳥状に、かつ斜めに傾斜して配列し、セル61gの周囲に通液溝61bを形成することも可能であり、通液溝61bが濾板52の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰返している。
【0045】
また、図9(a)に示すように、ハニカム状の通液溝パターン61aは、半円扇状のセル61hを千鳥状に配列し、各セル61hが上部側ほど濾板面から隆起する形状をなし、セル61hの周囲に通液溝61bを形成することも可能であり、通液溝61bが濾板52の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰返している。
【0046】
図示を省略しているが、濾板52の表裏の一方の濾板面に形成する通液溝パターン61aは、一方の濾板面に形成する通液溝パターン61aを他方の濾板面に投影する状態において双方の通液溝パターン61aがずれた位置に存在する。
【0047】
また、図9(b)に示すように、ハニカム状の通液溝パターン61aは、大円形状のセル61iを横方向の行と縦方向の列との格子状に配列し、行と行の間に小円形状のセル61jを配置し、セル61i、61jの周囲に通液溝61bを形成することも可能であり、通液溝61bが濾板52の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰返している。
【0048】
図示を省略しているが、濾板52の表裏の一方の濾板面に形成する通液溝パターン61aは、一方の濾板面に形成する通液溝パターン61aを他方の濾板面に投影する状態において双方の通液溝パターン61aがずれた位置に存在する。
【0049】
図12に示すように、本実施の形態における浸漬型膜分離装置100は、複数の膜カートリッジ51を平行に重ね合わせて濾過ユニット70を構成している。
濾過ユニット70では、図3に示すように、隣接する膜カートリッジ51の双方の濾板52が濾板肉厚部52bで相互に当接して双方の膜カートリッジ51の間に上下方向の流路を形成し、一方の濾板52の濾板連結用凸部52cが他方の濾板52の濾板連結用窪み部52dに嵌合して隣接する膜カートリッジ51の濾板52の相対位置を位置決めしている。また、双方のヘッダー形成部62がヘッダー肉厚部62bで相互に当接し、一方の膜カートリッジ51のヘッダー連結用凸部62cが他方の膜カートリッジ51のヘッダー連結用窪み部62dに嵌合して隣接するヘッダー形成部62の相対位置を位置決めしている。そして、連結用孔91に連結用ロッド92を挿通し、連結用ロッド92に螺合するナット(図示省略)を締め付けることで、複数の膜カートリッジ51を一体化している。
【0050】
この複数の膜カートリッジ51の集合体をなす濾過ユニット70は、隣接し合う膜カートリッジ51の相互に当接する濾板肉厚部52bおよびヘッダー肉厚部62bにより濾過ユニット70の側壁71(図3参照)を形成し、連接する複数のヘッダー形成部62によりヘッダー60を形成し、ヘッダー形成部62のヘッダー流路部62aが連続することでヘッダー60におけるヘッダー流路を形成する。
【0051】
そして、複数の濾過ユニット70を所定間隙をあけて上下に重ねて散気ケース100a上に配置し、散気ケース100aの内部に散気装置80を配置している。また、ヘッダー60のヘッダー流路に接続して吸引装置(図示省略)を設けており、吸引装置を所定条件で運転制御する運転制御装置を備えている。また、複数の浸漬型膜分離装置100を反応槽1の内部に所定間隔で配置することで複数の濾過ユニット70を水平方向に沿って配列している。
【0052】
以下、上記した構成における作用を説明する。浸漬型膜分離装置で膜カートリッジ51を使用する状態において、濾過膜53には通液流路55と濾過膜53を隔てた外部との間において膜間差圧が作用し、通液流路55および集液部56は膜カートリッジ51の外部に比べて減圧状態となり、内部と外部の差圧(膜間差圧)が大きいほどに濾過膜53が濾板52に密着しようとする。
【0053】
このような、通液流路55および集液部56が減圧環境にある状態で、集液部56の直近の調整部57では集液溝パターン56aの集液溝56bと集液溝56bの間にある山部56cが濾過膜53を支持し、濾過膜53の変形に起因する集液部56の流路の狭まりを抑制し、集液溝パターン56aの集液溝56bにおいて所定の流路を確保することができる。また、ハニカム状の通液溝パターン61aでは各セルで濾過膜53を支持し、濾過膜53の変形に起因する集液部56の流路の狭まりを抑制し、通液溝61bにおいて所定の流路断面を確保することができる。
【0054】
このため、濾過膜53を透過した膜透過液が通液流路55を通して集液部56に流入するに際し、抵抗係数調整手段の作用を受ける通液流路55は、集液部56に接する直近領域の集液溝パターン56aにおいて抵抗係数が小さくなることで、膜透過液が円滑に流れる状態を確保できる。
【0055】
したがって、集液部56から近い箇所、すなわち膜カートリッジ51の上部において濾過膜53を透過して通液流路55に流入する膜透過液と、集液部56から離れた箇所、すなわち膜カートリッジ51の下部において濾過膜53を透過して通液流路55に流入する膜透過液とが、集液部56へ円滑に流れる状態を確保できる。よって、濾過膜53に作用する膜間差圧を膜全面において均等化しようとする効果が働き、濾過膜53の膜面全体を濾過に有効に利用できる。
【0056】
また、通液溝パターン61aの通液溝61bが集液部56および調整部57へ向かう斜め方向流路を形成するので、ろ過液が集液部56および調整部57へ導かれ易くなる。通液溝61bはその流路形態が直線的でないために、濾板52の強度が流路を直線的に形成するものに比べて大きくなり、流路面積を広く設定することができる。
【0057】
さらに、濾板52の濾板表裏の濾板面に形成する通液溝パターン61aは、一方の濾板面に形成する通液溝パターン61aを他方の濾板面に投影する状態において双方の通液溝パターン61aがずれた位置に存在するので、濾板表裏の濾板面に通液溝パターン61aを形成するにもかかわらず、濾板52の強度の劣化を抑制できる。また、浸漬型膜分離装置に複数の膜カートリッジ51を平行に充填した状態において、隣接する膜カートリッジ51の相対向する双方の濾板面において通液溝61bの位置が濾板面に沿う方向においてずれることになる。この関係は図6に示す濾板52の表裏における通液溝61bの位置関係と同様となる。
【0058】
ところで、浸漬型膜分離装置の運転時には、濾過膜53の通液溝61bに対応する部位の膜面に固形分が膜間差圧で吸い寄せられて付着し易いが、隣接する膜カートリッジ51の相対向する双方の濾板面において通液溝61bの位置が濾板面に沿う方向においてずれることで、隣接する膜カートリッジ51の相対向する一方の濾過膜53において固形分が付着し易い部位と、他方の濾過膜53において固形分が付着し易い部位とが双方の膜カートリッジ51の間の流路幅方向において重ならず、膜カートリッジ51の間の流路幅が不均一となることを抑制できるとともに、上昇流の流れを濾過膜53の膜面全体に有効に作用させて膜カートリッジ51の間の流路閉塞および濾過膜53の目詰まりを防止できる。
【0059】
さらに、濾板52の側部においてヘッダー形成部62が直接に集液部56に連通することで、従来において必要であった各膜カートリッジとヘッダーとを接続するチューブが不要となり、チューブにごみが絡まって大きな面積の抵抗体となることがなく、上昇流に対する抵抗体がなくなる。
【0060】
このため、図12に示すように、反応槽1内に複数基の浸漬型膜分離装置100を設置する場合にあって、上昇流6の反転をスムーズに行うために必要なフリーボードの高さが低くなり、上昇流6がスムーズに下降流9に反転するために必要な浸漬型膜分離装置100の相互間の距離L2を狭くすることができ、反応槽1の限られた領域内において浸漬型膜分離装置100の相互間に上昇流6の反転をスムーズに行うための距離L2を十分に確保できる。よって、反応槽1内における水流の流れ方向を均一化でき、結果として膜面に対する上昇流の洗浄作用が均一となる。
【0061】
また、上昇流6がスムーズに下降流9に反転するために必要な浸漬型膜分離装置100の相互間の距離L2を狭くすることができるので、反応槽1の限られた領域内において浸漬型膜分離装置100の相互間に上昇流6の反転をスムーズに行うための距離L2を十分に確保しつつ、複数基の浸漬型膜分離装置100を反応槽1の中央部に配置し、反応槽1の端部側に浸漬型膜分離装置100の存在しない領域を大きく設定することができる。
【0062】
このため、浸漬型膜分離装置100の存在しない領域において下降流9の流れを阻害する抵抗が全くなくなるので、結果として膜面に対する上昇流6の洗浄作用が均一となり、浸漬型膜分離装置の安定継続使用期間を長くすることができ、上昇流6を生じさせる動力を低減できる。
【0063】
図10は本発明に係る膜カートリッジ51の他の実施の形態を示すものであり、濾板52にバイパス流路55aを形成している。バイパス流路55aは濾板幅方向の一側に濾板52の上下方向に沿って形成しており、濾板52の濾板面から突出して濾板幅方向の一側と平行に形成した一条の凸部55bの間に形成している。凸部55bは複数でも良い。
【0064】
このバイパス流路55aは凸部55bが濾過膜53と強く密着して障壁となるため、膜透過液が凸部55bを越えて流れることがない。
このため、図11に示すように、バイパス流路55aは隣接する通液流路55の近領域Aに対して凸部55bによって隔てられて不連通であり、一端が集液部56に向けて開口し、他端が集液部56から離間した通液流路55の遠領域Bに向けて開口している。凸部55bは集液部56に接続しても良く、集液部56との間に所定距離をあけても良い。また、バイパス流路55aは濾板52の内部にトンネル状に形成することも可能である。
【0065】
ところで、本実施の形態の膜カートリッジ51では、通液流路55を近領域Aと遠領域Bに水理的に区分しているが、遠領域Bをさらに複数に区分し、各区分した領域ごとにバイパス流路55aを設けることも可能である。また、近領域Aと遠領域Bとの間に物理的な障壁を設けることも可能である。
【0066】
上記した構成により、濾過膜53を透過して通液流路55を流れる膜透過液のうち、集液部56に近い近領域Aを流れる膜透過液はバイパス流路55aを通ることなく集液部56に流入する。一方、濾過膜53を透過して通液流路55の集液部56から遠い遠領域Bを流れる膜透過液は少なくとも一部が、近領域Aを流れる膜透過液に合流することなく、バイパス流路55aを通して集液部56へ流入する。
【0067】
このように、遠領域Bの膜透過液が集液部56へ円滑に流れることをバイパス流路55aによって確保することで、濾過膜53を透過して通液流路55へ流入する膜透過液を部分毎に区分し、膜透過液が流れる経路を分散して集液を行うことで、膜透過液が集中することで発生する通液流路55の流路抵抗の高まりを抑制することができる。
【0068】
よって、集液部56の数を増やすことなく流路抵抗の上昇を抑制し、濾過膜53に作用する膜間差圧を膜全面において均等化しようとする効果が働き、集液部56から離れた濾過膜53の領域を有効に利用して濾過膜53の膜面全体を濾過に利用できる。
【0069】
その結果、集液部56に近い領域ほど透過流束が高くなるという現象を軽減でき、従来の膜カートリッジに比べて膜カートリッジ51の1枚当たりの設定流量が同じ場合には、膜面が汚れ難い状態を保つことができる。
【0070】
また、バイパス流路55aによって膜透過液の流路分割(分散)を図ることで、1枚の大きな膜カートリッジ51内において小さな膜カートリッジがあたかも複数枚存在しているか、あるいは、実際は1つの集液部56しかないのにも拘らず、複数箇所に集液部が存在するかのような効果を得ることができる。
【0071】
また、バイパス流路55aを濾板幅方向の一側に濾板52の上下方向に沿って形成することで、凸部55bが膜面の幅方向において占める割合を最小限に抑えることができ、凸部55bが膜カートリッジ51の膜面に沿った上昇流の流れを阻害することを最小限に抑えることができる。
【0072】
また、通液溝61bが集液部56又は、バイパス流路55aの入口に向かう斜め方向流路を形成するので、ろ過液が集液部56、調整部57およびバイパス流路55aの入口に導かれ易くなる。
【0073】
また、通液溝61bは、濾板52のある地点から集液部56に至る経路は、流路を直線的に形成するものに比べて長くなり、流路抵抗が大きくなる。このため、バイパス流路55aを設けない場合には通液溝61bのデメリットが大きくなるが、バイパス流路55aを設けることで通液溝61bを流れる経路が短くなり、圧力損失を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)本発明の実施の形態における膜カートリッジの濾板を示す正面図、(b)流路調整部の拡大図
【図2】同実施の形態における膜カートリッジの濾板の濾板肉厚部を示す断面図
【図3】(a)同実施の形態における膜カートリッジのヘッダー形成部を示す断面図、(b)同膜カートリッジの濾板を示す断面図
【図4】本発明に係る抵抗係数調整手段の有無による比較を示すグラフ図
【図5】(a)本発明の他の実施の形態におけるヘッダー形成部を示す正面図、(b)同側面図
【図6】本発明の実施の形態における膜カートリッジのハニカム状の通液溝パターンを示す拡大図
【図7】(a)本発明の他の実施の形態における膜カートリッジのハニカム状の通液溝パターンを示す拡大図、(b)本発明の他の実施の形態における膜カートリッジのハニカム状の通液溝パターンを示す拡大図
【図8】(a)本発明の他の実施の形態における膜カートリッジのハニカム状の通液溝パターンを示す拡大図、(b)本発明の他の実施の形態における膜カートリッジのハニカム状の通液溝パターンを示す拡大図
【図9】(a)本発明の他の実施の形態における膜カートリッジのハニカム状の通液溝パターンを示す拡大図、(b)本発明の他の実施の形態における膜カートリッジのハニカム状の通液溝パターンを示す拡大図
【図10】本発明の他の実施の形態における膜カートリッジの濾板を示す正面図
【図11】図10に示した膜カートリッジの模式図
【図12】本発明の浸漬型膜分離装置の配置構成を示す模式図
【図13】(a)従来の膜カートリッジの濾板の構造を示す正面図、(b)同側面図
【図14】従来の浸漬型膜分離装置を示す模式図
【図15】従来の浸漬型膜分離装置の作用を示す説明図
【符号の説明】
【0075】
51 膜カートリッジ
52 濾板
52a 貫通孔
52b 濾板肉厚部
52c 濾板連結用凸部
52d 濾板連結用窪み部
53 濾過膜
54 固定部
55 通液流路
55a バイパス流路
55b 凸部
56 集液部
56a 集液溝パターン
56b 集液溝
56c 山部
57 流路調整部
60 ヘッダー
61a 通液溝パターン
61b 通液溝
61c 六角形状のセル
61d ひし形状のセル
61e 五角形状のセル
61f、61g 四角形状のセル
61h 半円扇状のセル
61i 大円形状のセル
61j 小円形状のセル
62 ヘッダー形成部
62a ヘッダー流路部
62b ヘッダー肉厚部
62c ヘッダー連結用凸部
62d ヘッダー連結用窪み部
62e Oリング溝
62f Oリング
62g 型抜き孔
62h 栓体
70 濾過ユニット
71 側壁
80 散気装置
91 連結用孔
92 連結用ロッド
100 浸漬型膜分離装置
100a 散気ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾板の表面に濾過膜を配置し、濾過膜と濾板との間の通液流路に連通する集液部を濾板の上部に設けてなる膜カートリッジであって、
濾板は濾板面に通液流路をなす所定パターンの通液溝を有し、通液溝は濾板の上下方向において直線状に連続せず、合流と分岐を繰り返すことを特徴とする膜カートリッジ。
【請求項2】
濾板は表裏の濾板面に所定パターンの通液溝を有し、一方の濾板面の通液溝を他方の濾板面に投影する状態において、一方の濾板面の通液溝と他方の濾板面の通液溝はずれた位置に存在し、かつ一方の濾板面の通液溝と他方の濾板面の通液溝の同一方向成分が同一直線状に存在しないことを特徴とする請求項1に記載の膜カートリッジ。
【請求項3】
所定パターンの通液溝は、四角形状のセルを斜めに傾斜させて千鳥状に配列する状態において、セルの周囲に形成されるセル相互間の溝からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の膜カートリッジ。
【請求項4】
所定パターンの通液溝は、六角形状のセルを千鳥状に配列する状態において、セルの周囲に形成されるセル相互間の溝からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の膜カートリッジ。
【請求項5】
所定パターンの通液溝は、四角形状のセルを千鳥状に配列する状態において、セルの周囲に形成されるセル相互間の溝からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の膜カートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−223763(P2012−223763A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153160(P2012−153160)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2007−89984(P2007−89984)の分割
【原出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】