説明

膜スカホールドタンパク質

【課題】膜タンパク質は、組換え形態での発現、精製および特徴づけが困難である。これは、少なくとも一部は、その疎水性の特性または部分的に疎水性の特性に起因する。これを解決することが課題である。
【解決手段】膜スカホールドタンパク質(MSP)は、標的膜または他の疎水性もしくは部分的に疎水性のタンパク質もしくは膜フラグメントとアセンブルして、そのネイティブの形態および機能を保存する可溶性のナノスケール粒子を形成する。この粒子は、リポソームまたは界面活性剤ミセルを超えて改善される。リン脂質の存在下で、MSPは、ナノ範囲のリン脂質二重層ディスクを形成し、MSPは、二重層ドメインの周辺で、粒子を安定化する。この粒子二重層構造は、溶液中または固体支持体上での組み込まれたタンパク質の操作(走査プローブ顕微鏡または表面プラズモン共鳴のような、表面感受性技術の使用を含む)を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2000年11月20日に出願された米国仮出願番号60/252
,233号の一部継続出願である。
【0002】
(連邦研究支援の承認)
本発明は、少なくとも一部分、国立衛生研究所からの基金(認可番号R01G
M31756、R01GM33775、GM63574および5F32GM19
024)でなされた。従って、合衆国政府は本発明において特定の権利をもつ。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
本発明の分野は、分子生物学および膜技術を包含する。より詳細には、本発明
は、人工膜スカホールドタンパク質(MSP)、これらをコードする配列、ベク
ターおよび組換え宿主細胞、これらの組換え生産のための方法、および繋がれた
か、包埋膜タンパク質または内在性膜タンパク質のような、完全または部分的に
疎水性のタンパク質を、これら膜タンパク質の生物学的活性を維持しながら、安
定化、分散および可溶化するため、または膜フラグメントを安定化、分散および
可溶化するための上記膜スカホールドタンパク質を用いる方法に関する。
【0004】
数年前、本発明者らは、配向された様式での雲母上への合成高密度リポタンパ
ク質ディスク(rHDL、アポA−I)への吸着を基礎にした、走査プローブ顕
微鏡法による膜タンパク質の研究のための新しいシステムを開発した(Carl
sonら、1997;Bayburtら、1998;Bayburtら、200
0;Carlsonら、2000)。観察された円板状構造の直径は、5.5ナ
ノメーターの高さをともなって約10nmである。観察されたこの5.5nm高
さのトポロジーは、原子的に平坦な雲母表面上でエピタキシャルに配向した単膜
二重層と最も適合している(Carlsonら、1997)。
【0005】
精製された膜タンパク質は、特定のそのような円板状構造のホスホリピド二重
層に再構築され、そして原子間力顕微鏡、または配向されたタンパク質−二重層
アセンブリの表面を利用する分光学的技術による検査のいずれかのために、溶液
中または次いで適切な表面上に吸着させて研究され得る。さらに、膜タンパク質
を含む基礎となる円板状構造は、容易に認識され、そして試料の質を判定するた
めの参照の点およびイメージを提供する。繋がれた膜タンパク質であるNADP
H−シトクロムP450レダクターゼが、rHDL二重層ディスク中に組み込ま
れ、そして物理的に研究された(Bayburtら、1998;Bayburt
ら、2000)。このレダクターゼは、10nm直径のrHDLディスク中に組
み込まれ得、これらのディスクは、雲母上に吸着され得、そして二重層構造の頂
部から突出するレダクターゼの触媒ドメインがイメージされ得る。この組み込ま
れた酵素は、このような表面上で活性であり、代謝回転数は、粒子状膜調製物で
得られたのと一致する。力曲線分析を用い、このドメインの高さ、およびAFM
プローブの力の下のその圧縮性が推定された(Bayburtら、2000)。
二重層表面の上のこの分子の高さは、最近のX線結晶構造を基礎にした予想され
た高さに対応している(Wangら、1997)。シトクロムP450レダクタ
ーゼは、本発明のMSP支持ナノスケール構造中に活性形態で組み込まれ得る。
【0006】
高密度リポタンパク質(HDL)は、アポA−Iと称されるタンパク質成分お
よび種々のホスホリピドのアセンブリである。HDL粒子は、逆コレステロール
トランスポートのための主要導管として作用することにより哺乳動物コレステロ
ールホメオスタシスにおいて重要な役割を演じている(Fieldingおよび
Fielding、1991)。コレステロールトランスポーターとしてのHD
Lの機能は、HDL−関連酵素レシチン−コレステロールアシルトランスフェラ
ーゼ、またはLCATの活性に依存し(Glomset、1968;Jonas
、1991)、これは、HDLリポタンパク質粒子中へのコレステロールエステ
ルの挿入を媒介する。アポA−Iタンパク質の特定の部分は、この酵素の活性に
必要である(Holvoetら、1995)。さらに、アポA−Iタンパク質の
一部分は、N末端の球状ドメイン中に存在し、そして細胞表面レセプターとの相
互作用を担うと考えられている。HDL粒子の1つの初期の形態は、染色された
調製物の電子顕微鏡検査に基づく円板状のものであると仮定されている(For
teら、1971)。本発明者らの実験室は、水性条件下の合成形態のAFM研
究を用い、これを確認した。しかし、この形態は、インビボの循環において優勢
な形態ではない。むしろ、このアポA−I構造は、球状形態を安定化するために
進化したように見える。
【0007】
HDLディスクの構造に対する2つの一般モデルが提案されている。1つのモ
デルは、湾曲するセグメント化されたαらせんロッドから構成される水平バンド
または「ベルト」として、環状の二重層セクションを取り囲むアポA−Iタンパ
ク質を有する(Wlodawerら、1979)。他のモデルは、一連のαらせ
んセグメント中で、二重層のエッジを垂直に横切るタンパク質を有する(Bog
uskiら、1986)。両方のモデルは、主に、間接的な実験証拠に基づいて
おり、そしてそれらの間を区別する決定的な手段は出現していない。アポA−I
遺伝子の配列分析は、このタンパク質が、ほぼ二重層の厚さと一致する、ほぼ2
2アミノ酸長の一連のらせんに折り畳まれることを示唆する。このディスクにお
けるらせんの配置が、コンピューターモデリング(Phillipsら、199
7)および減衰総反射率赤外分光光度法測定(Waldら、1990)により推
定されている。これらの努力は、これらのらせんが、アシル鎖にほぼ平行に横た
わり、そして二重層の厚さよりわずかに短いことを示唆した。タンパク質および
脂質のこの配置は、ピケットフェンスモデルと一致する。
【0008】
ベルトモデルは、特定の電子顕微鏡法および中性子散乱データ(Wlodaw
erら、1979)と一致し、ここでは、これららせんは、二重層ディスクのエ
ッジのまわりを「ベルト」のように長軸方向に配置されている。二色法測定のた
めに試料配向の新たな方法を用いるより最近の赤外分光光度法研究は、先の研究
に比較して、ベルトモデルにより一致している(Waldら、1990;Kop
pakaら、1999)。これまで、どのモデルが正確であるかに関し、たとえ
、脂質なしで結晶化されたアポA−Iの低解像度x線結晶構造が得られたとして
も(Borhaniら、1997)、人を引き付ける直接的証拠はない。N末端
が短縮化されたアポA−Iの低解像度結晶構造は、蹄鉄形状に折り曲げられ、そ
して組合せられて約125×80×40Åの環状凝集物を与える、4つのらせん
ロッドから構成されるテトラマー種を含む単位セルを示す。このベルト立体配置
中のダイマー種は、円板状粒子を形成し得ることが示唆された。
【0009】
逆コレステロール輸送サイクルおよびHDL粒子の成熟に関するデータに収集
された情報は、アポA−Iタンパク質が、それを膜と自発的に相互作用させ、リ
ポタンパク質粒子の形成を生じる特有の性質をもつことを示唆する。初期のアポ
A−I脂質結合事象が提案されているが(Rogersら、1998)、二重層
会合形態の円板状粒子への変換は不明のままである。利用可能な証拠は、脂質フ
リーのアポA−Iの安定化エネルギーはかなり低く、そして2つのコンフォーマ
ー(conformer)間に平衡があることを示唆する(Atkinsonお
よびSmall、1986;Rogersら、1998)。1つのコンフォーマ
ーは、長いらせんロッドであり得、そして他は、ほぼ半分の長さのらせん「ヘア
ピン」構造であり得る。低い安定化エネルギーおよび立体構造可塑性は、アポA
−Iが、それが脂質膜と遭遇するとき構造的に再組織化されるのを可能にし、そ
れ故、膜およびタンパク質の両方において構造的変化が生じるに違いないことを
可能にすることを促進し、別個のリポタンパク質粒子を生成することが示唆され
ている(Rogersら、1998)。一旦これらの粒子が形成されると、アポ
A−Iは、なお、このリポタンパク質粒子の動力学的機能性に寄与する特定の立
体構造変化を受け得る。これらの相互作用および変化のすべては、タンパク質−
脂質界面で生じる。従って、アポA−Iそれ自身が、安定なナノメーターサイズ
のホスホリピド二重層を生成するために理想的であり得ると信じる理由はほとん
どない。
【0010】
合成rHDLが、特定のタンパク質−脂質比、および脂質の相転移温度または
それ以上の温度における、アポA−Iのホスファチジルコリンリポソームとの相
互作用に際して自発的に形成される(Jonas、1986)。アポA−Iとホ
スホリピドとの混合物の界面活性剤透析の方法をまた用いて粒子状構造を形成し
、そして精製された膜タンパク質を組み込む方法が与えられる。形成される円板
状粒子のサイズは、形成混合物のタンパク質対脂質の比に依存し、そして二重膜
ドメインの直径を反映する(Brouilletteら、1984;Waldら
、1990)。従って、サイズのクラスが、ホスホリピドディクスの周において
会合したアポA−I分子の数から生じる。これらのクラスは、ディスクあたりの
アポA−Iタンパク質分子の化学量論について、LP1、LP2、LP3、およ
びLP4と称される。これらのLPクラス内の可変サイズがまた、アポA−Iの
立体構造における不均一性に起因して生じる。本発明の1つの局面は、この不均
一性の原因となる構造を識別し、そしてそれをなくし単分散のディスク構造の集
団を生成する能力に基づく。現在、10nm直径より大きい均一粒子の形成は、
2〜4個会合したアポA−I分子を含む種の混合物からの粒子の分離を必要とし
、その一方、10nm直径の粒子が、低アポA−I/ホスホリピド比における形
成の間の主要形態てある。単一サイズクラスの純度、および高効率の膜タンパク
質または膜フラグメント組み込みを得るための能力は、アポA−I構造の改変を
必要とする。
【0011】
異なる型の脂質凝集物が、精製された膜タンパク質の再構築および研究のため
に用いられており;これらは、膜分散物、界面活性剤ミセルおよびリポソームを
含む。図1を参照のこと。生化学的および物理的研究のための精製された系は、
いくつかの系では必ずしも固有ではない、安定性を必要とする。リポソームは、
水性の内面を含む閉じた球状の二重層殻である。界面活性剤透析またはその他の
方法によるリポソーム中への再構築は、代表的には、外部スペースおよび管腔ス
ペースに対する、タンパク質のランダム配向を生じる。リガンドまたはタンパク
質標的は、通常、親水性または荷電しているので、図1に示されるようなリポソ
ーム二重層を通過し得ず、これはいくつかの例では有利ではない。リポソーム二
重層の両側面は、バルク溶媒に接近可能ではないので、二重層の対向する側面上
のドメイン間のカップリング効果は研究され得ない。リポソームはまた、凝集お
よび融合する傾向があり、そして、通常、約1週間より長い期間、または停止し
た流れまたは激しい混合のような特定の物理的操作下では不安定である。規定さ
れた円筒型ポアサイズを通って押し出すことにより得られたリポソームのサイズ
は、一様の直径を示すよりむしろ、サイズ分布において多分散である。
【0012】
リポソームはまた、光散乱、および二重層中に存在する膜タンパク質の凝集に
起因する困難性を提示し得る。リポソームの表面領域は相対的に大きい(10
〜10Å)。単一膜タンパク質をもつリポソームを得るために、大きな脂質/
タンパク質モル比を必要とする。界面活性剤ミセルは、膜タンパク質の膜に包埋
された部分との相互作用による膜タンパク質の可溶化を可能にし、そして使用容
易である。界面活性剤ミセルは動的であり、そしてサブユニット解離を促進する
構造的動揺を受け、そしてしばしば、希釈溶液中でタンパク質を取り扱う能力に
おいて困難性を提示する。しかし、過剰の界面活性剤ミセルが、非凝集かつ可溶
性状態にあるタンパク質を維持するために必要である。界面活性剤はまた、温和
な変性性であり得、そしてしばしばホスホリピド二重層系で見出される性質を維
持しない。特定のホスホリピド種は、しばしば、タンパク質構造および機能を支
持および調整するために必要である(Tocanneら、1994)。従って、
界面活性剤可溶化膜タンパク質の構造、機能,および安定性は疑問であり得る。
過剰の界面活性剤ミセルが必要であるので、タンパク質複合体は、タンパク質濃
度および界面活性剤タンパク質比に依存して解離し得る。対照的に、本発明のM
SPナノ構造は、別個のサイズおよび組成のホスホリピド二重層模倣ドメイン、
および単層リポソームより大きな安定性およびより小さな表面積を有して、構造
的により頑丈である。このディスク構造は、二重層様界面活性剤の両側面への接
近を可能にし、そしてまたリポソームの二重層構造のような二重層構造を提供す
る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Carlson J.W.ら(1997)Biophys.J.73:1184−1189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
当該技術分野には、膜タンパク質およびその他の疎水性または部分的に疎水性
であるタンパク質の、これらタンパク質のネイティブな活性および性質が保存さ
れるような分散のための、安定で規定された組成物に対する長年求められた必要
性がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の要旨)
本明細書で用いられる膜スカホールドタンパク質(MSP)は、それ自身が、
ホスホリピドおよびホスホリピド混合物と自己アセンブルするか、またはホスホ
リピドの非存在下でナノメーターサイズの膜二重層に自己アセンブルする人工タ
ンパク質である。これらナノメーターサイズアセンブリのサブセットはね形状が
円板状であり、そしてナノディスク(disc)またはナノディスク(disk
)構造と呼ばれている。これらの「ナノスケール」粒子は、直径が、約5〜約5
00nm、約5〜約100nmまたは約5〜約50nmであり得る。ホスホリピ
ドおよびMSPを含むこれらの構造は、正常膜の全体の二重膜構造を保存するが
、これは、溶液中で可溶性であり、かつ種々の表面にアセンブルまたは固定され
得る、システムを提供する。詳細に例示されるMSPのアミノ酸配列は、配列番
号6、配列番号9、配列番号17、配列番号19、配列番号23、配列番号29
、配列番号43、配列番号44および配列番号45に与えられる。
【0016】
本発明は、本発明のMSPを用いて形成されるナノメータースケールホスホリ
ピド二重層構造またはナノディスクの使用をさらに提供し、さらなる疎水性また
は部分的に疎水性のタンパク質分子の組み込みに有用である。これらのさらなる
タンパク質は、例えば、界面活性剤の使用により可溶化され得、そしてこの可溶
化されたタンパク質は、ホスホリピドとともにまたはなしでMSPの溶液に添加
され得、そしてこのナノスケール粒子は自己アセンブルし、その結果、MSPお
よびさらなるタンパク質は、安定かつ可溶性粒子中に組み込まれる。次いで、任
意の界面活性剤は、透析により除去され得る。これらのタンパク質は、生存する
生物の種々の膜構造中に天然に見出され、MSP支持ナノ二重層またはナノディ
スク中で可溶化され、そして標的タンパク質のネイティブ構造および活性は、こ
れらのMSP支持構造中で保存される。疎水性または部分的に疎水性のタンパク
質の他に、膜フラグメントまたは破壊された膜が、本発明のMSPとアセンブル
され得る。
【0017】
MSP支持構造中に組み込まれた天然のタンパク質のネイティブな構造および
リガンド結合が維持されるように、MSP支持二重層またはナノディスクを溶液
中で用いるかまたは多数の表面に適用し得る。具体的に例示したように、MSP
支持構造体は、(例えば、表面プラズモン共鳴技術における使用のために)金表
面に固定される。
【0018】
本発明は、本発明の少なくとも1つのMSPを含むナノスケールの脂質二重層
またはナノディスクへの内在性膜タンパク質の組み込みのための方法に関する。
3つのクラスの膜タンパク質(係留膜タンパク質、包埋膜タンパク質および内在
性膜タンパク質)が、本発明の方法において用いられ得る。第一の膜タンパク質
のクラスは、係留膜タンパク質である;このクラスは、NADPH−シトクロム
P450レダクターゼおよびヒト組織因子によって例示される。包埋膜タンパク
質の例としては、ウサギの肝臓ミクロソーム由来のシトクロムP450 2B4
、ヒト肝臓ミクロソーム由来のシトクロムP450 3A4および昆虫ミクロソ
ーム由来のシトクロムP450 6B1が挙げられるがこれらに限定されない。
内在性膜タンパク質は、Halobacterium halobium由来の
バクテリオドロプシン、Homo sapiens由来の5−ヒドロキシトリプ
タミン1A Gタンパク質共役レセプターおよび他のGタンパク質共役タンパク
質レセプターを含むがこれらに限定されない、7ヘリックス膜貫通タンパク質に
よって例示される。各クラスの膜タンパク質のメンバーは、本発明のMSPおよ
び方法を用いてナノスケールの構造体中に成功裏に組み込まれた。特に、細胞表
面レセプター、特にGタンパク質共役レセプターは、あるクラスの膜スカホール
ドタンパク質(MSP)から形成されたナノ二重層の二重層構造体中に組み込ま
れ得る。
【0019】
本発明者らは、得られるナノスケールのリポタンパク質粒子における、より大
きな安定性、サイズの均質性および有用な官能基のために、スカホールドタンパ
ク質(MSP)を操作することによって、構造的技術、生化学的技術および薬学
的技術において使用するためのナノディスクを開発した。これらの粒子は、(例
えば、ヒドロゲル中または金バイオセンサ表面上で)ディスクの精製および物理
的操作のためのタグを形成し得、そしてこれらは、迅速かつ再現性のあるアッセ
イおよび結晶化のための実体として役立ち得る。ナノ粒子および膜タンパク質の
スカホールドは、生物工学、製薬産業ならびに基礎研究において有用である。さ
らに、本発明者らの知見および関連技術によって含まれない構造原理および機能
原理は、分子レベルでのタンパク質と脂質二重層との相互作用の理解を促進する

【0020】
本発明の別の局面は、膜タンパク質を可溶化し得かつ機能的に安定な単分散リ
ン脂質二重層会合形態で複合体を形成し得る、あるクラスの膜スカホールドタン
パク質(MSP)に関する。さらに、このMSPは、一重膜タンパク質の物理的
操作の手段を提供する。MSPは、ヒトアポリポタンパク質A−Iに倣ってモデ
ル化され、これは、特定の条件下では、リン脂質と自己アセンブリして、100
Å〜200Åの直径を有する円盤状構造を形成し得る(Brouillette
ら、1984)。他の両親媒性タンパク質もまた、出発点として役立ち得る。ア
ポタンパク質A−Iは既知であるが、これは、どのような一般的方法においても
、完全に無関係な起源の係留膜タンパク質、包埋膜タンパク質および内在性膜タ
ンパク質を可溶化および研究するためには用いられていない。本発明の特定の実
施形態は、膜タンパク質の可溶化、操作および研究のための脂質結合MSPの使
用である。
【0021】
本発明はさらに、親分子の配列を変更することによって、遺伝子操作されたM
SPを用いてMSPのサイズを膜粒子形成に関して最小にし、そして自己アセン
ブリナノ粒子の安定性および単分散性を増大させる、材料および方法を提供する
。特に、本発明者らは、Gタンパク質共役レセプターの研究のためのMSPを開
発した。Gタンパク質共役レセプター(GPCR)は、哺乳動物細胞膜(ここで
これらはシグナル伝達要素として機能し、いくつかのクラスの生物活性リガンド
に結合し、そして情報を細胞内機構に伝達する)における重要でかつ多様なクラ
スの薬学的標的である。本発明の人工MSPは、膜結合形態のGPCRを安定化
および可溶化して、高処理能力スクリーニング適用における使用のための溶液中
または固体支持体上での精製および操作、ならびに表面プラズモンバイオセンサ
および走査プローブ技術の表面上での精製および操作を可能にする。本発明の人
工MSPを用いて、可溶性形態での組換え膜タンパク質の発現および精製を容易
にし得る。
【0022】
本発明の範囲内にはまた、MSPをコードする組換えDNA分子およびこれら
の組換えDNA分子を含む宿主細胞(これは、MSPを生成するために用いられ
る)が存在する。これらの組換えDNA分子によってコードされるMSPとして
は、以下を含むがこれらに限定されないアミノ酸配列を含むMSPが挙げられる
:配列番号6、配列番号9、配列番号17、配列番号19、配列番号23、配列
番号29、配列番号43、配列番号44および配列番号45。
したがって、本発明は、以下を提供する。
(1) 膜スカホールドタンパク質であって、上記膜スカホールドタン
パク質は、水性環境において、それリン脂質の非存在下で自己アセンブルするか
、またはリン脂質もしくはリン脂質の混合物とアセンブルして、直径約5nmと
約500nmとの間のナノスケールの粒子になり、ここで、上記膜スカホールドタ
ンパク質は、両親媒性であり、そして上記膜スカホールドタンパク質は、少なくと
も1つのαヘリックスを形成する、膜スカホールドタンパク質。
(2) 上記膜スカホールドタンパク質が、リン脂質またはリン脂質
の混合物とアセンブルして、直径約5nmと約500nmとの間のナノスケール
の粒子になり、リン脂質二重層が形成される、項目1に記載の膜スカホールド
タンパク質。
(3) 上記リン脂質二重層が、円盤状である、項目2に記載の膜
スカホールドタンパク質。
(4) 上記膜スカホールドタンパク質が、少なくとも1つの疎水性
または部分的に疎水性のタンパク質と一緒に自己アセンブルし、直径約5nmと
約500nmとの間のナノスケールの粒子を形成し、上記ナノスケールの粒子は、
上記膜スカホールドタンパク質および少なくとも1つの疎水性または部分的に疎水
性のタンパク質を含む、項目1に記載の膜スカホールドタンパク質。
(5) 上記膜スカホールドタンパク質が、リン脂質の非存在下で自
己アセンブルして、直径約5nmと約500nmとの間のナノスケールの粒子を
形成する、項目1〜4のいずれか1項に記載の膜スカホールドタンパク質。
(6) 上記ナノスケールの粒子が、直径約5〜約100nmである
、項目5に記載の膜スカホールドタンパク質。
(7) 上記ナノスケールの粒子が、直径約5〜約50nmである、
項目6に記載の膜スカホールドタンパク質。
(8) 上記膜スカホールドタンパク質が、配列番号6、配列番号9
、配列番号17、配列番号19、配列番号23、配列番号29、配列番号43、
配列番号44および配列番号45からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む
、項目1〜7のいずれか1項に記載の膜スカホールドタンパク質。
(9) ナノスケールの粒子であって、上記ナノスケールの粒子は、請
求項1〜8のいずれか1項に記載の膜スカホールドタンパク質および少なくとも
1つの疎水性または部分的に疎水性のタンパク質を含み、そして必要に応じてリ
ン脂質またはリン脂質の混合物をさらに含み、ここで、上記ナノスケールの粒子は
、約5nmと約500nmとの間の直径を有する、ナノスケールの粒子。
(10) 上記疎水性または部分的に疎水性のタンパク質が、膜タン
パク質である、項目9に記載のナノスケールの粒子。
(11) 上記膜タンパク質が、係留膜タンパク質である、項目1
0に記載のナノスケールの粒子。
(12) 上記膜タンパク質が、包埋膜タンパク質である、項目1
0に記載のナノスケールの粒子。
(13) 上記膜タンパク質が、内在性膜タンパク質である、項目
10に記載のナノスケールの粒子。
(14) 上記膜タンパク質が、7個の膜貫通セグメントを有する、
セグメント13に記載のナノスケールの粒子。
(15) 上記膜タンパク質が、レセプタータンパク質である、請求
項10に記載のナノスケールの粒子。
(16) 上記膜タンパク質が、Gタンパク質共役レセプターである
、項目10に記載のナノスケールの粒子。
(17) 上記Gタンパク質共役レセプターが、5−ヒドロキシトリ
プタミンレセプターである、項目16に記載のナノスケールの粒子。
(18) 上記膜スカホールドタンパク質が、上記疎水性タンパク質
と遺伝的に融合される、項目8に記載のナノスケールの粒子。
(19) 上記膜スカホールドタンパク質が、配列番号6、配列番号
9、配列番号17、配列番号19、配列番号23、配列番号29、配列番号43
、配列番号44および配列番号45からなる群より選択されるアミノ酸配列を含
む、項目9〜18のいずれかに記載のナノスケールの粒子。
(20) 少なくとも1つの疎水性または部分的に疎水性のタンパク
質を、ナノスケールの粒子に組み込むための方法であって、上記ナノスケールの粒
子は、水溶液中で安定かつ可溶性であり、上記方法は、膜スカホールドタンパク質
および少なくとも1つの疎水性または部分的に疎水性のタンパク質を、必要に応
じて少なくとも1つのリン脂質の存在下で、水溶液中でナノスケールの粒子に自
己アセンブルさせて、それによってナノスケールの粒子を形成する工程を包含す
る、方法。
(21) 上記少なくとも1つの疎水性または部分的に疎水性のタン
パク質が、膜タンパク質である、項目20に記載の方法。
(22) 上記膜タンパク質が、係留膜タンパク質、包埋膜タンパク
質または内在性膜タンパク質である、項目21に記載の方法。
(23) 上記膜タンパク質が、組織因子である、項目22に記載
の方法。
(24) 上記膜タンパク質が、レセプタータンパク質である、請求
項21に記載の方法。
(25) 上記レセプタータンパク質が、Gタンパク質共役レセプタ
ーである、項目24に記載の方法。
(26) 上記Gタンパク質共役レセプターが、5−ヒドロキシトリ
プタミンレセプターである、項目25に記載の方法。
(27) 上記膜スカホールドタンパク質が、配列番号6、配列番号
9、配列番号17、配列番号19、配列番号23、配列番号29、配列番号43
、配列番号44および配列番号45からなる群より選択されるアミノ酸配列を含
む、項目20〜26のいずれかに記載の方法。
(28) 上記少なくとも1つの疎水性または部分的に疎水性のタン
パク質が、膜または膜フラグメントに会合する、項目20〜27のいずれかに
記載の方法。
(29) レセプタータンパク質に対するリガンド結合の競合因子を
同定するための方法であって、上記レセプタータンパク質は、膜スカホールドタン
パク質と共にナノスケールの粒子中に組み込まれ、上記方法は、以下の工程:
(a)膜スカホールドタンパク質とレセプタータンパク質とを含むナノスケー
ルの粒子を、検出可能なリガンドと接触させて、ナノスケールの粒子に結合した
検出可能なリガンドを生成する、工程;
(b)上記ナノスケールの粒子に結合したリガンドを、試験化合物と接触させる
工程;
(c)上記ナノスケールの粒子から放出される検出可能なリガンドを測定する工
程、
を包含し、それによって、ナノスケールの粒子に結合したリガンドを接触させる
工程が、上記検出可能なリガンドの放出を生じる場合に、リガンド結合の競合因子
を同定する、方法。
(30) 上記レセプタータンパク質が、膜タンパク質である、請求
項29に記載の方法。
(31) 上記レセプタータンパク質が、Gタンパク質共役レセプタ
ーである、項目30に記載の方法。
(32) 上記Gタンパク質共役レセプターが、5−ヒドロキシトリ
プタミンレセプターである、項目31に記載の方法。
(33) 上記膜スカホールドタンパク質が、配列番号6、配列番号
9、配列番号17、配列番号19、配列番号23、配列番号29、配列番号43
、配列番号44および配列番号45からなる群より選択されるアミノ酸配列を含
む、項目29〜32のいずれかに記載の方法。
(34) 膜スカホールドタンパク質をコードするDNA分子であっ
て、上記膜スカホールドタンパク質は、配列番号6、配列番号9、配列番号17、
配列番号19、配列番号23、配列番号29、配列番号43、配列番号44およ
び配列番号45からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、DNA分子。
(35) 項目34に記載のDNA分子を含む、組換え宿主細胞。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、膜タンパク質を組み込む異なった型の脂質凝集を概略的に例示する。小さな円および三角形は、それぞれ、このレセプタータンパク質の細胞内ドメインおよび細胞外ドメインについてのリガンドを表す。
【図2】図2は、αヘリックスのホイール構造を示し、このホイール構造は、αヘリックスにその両親媒性特性を与える、疎水性アミノ酸側鎖および親水性アミノ酸側鎖の配置を有する。
【図3A】図3Aは、二重層のMSP安定化についての「ピケットフェンス(picket fence)」モデルの概略表示である。これらの円は、直径が約1.5nmであり、そしてヘリックスの1回転当たり0.54nm(1回転当たり3.6アミノ酸残基)である、単一のαヘリックスを表す。
【図3B】図3Bは、MSPに支持された二重層の「ベルト」モデルの概略を示す。これらの長方形は、約1.5nmの直径および約3.9nmのヘリックス長を有する、単一のαヘリックスを表す。
【図4】図4は、親アポA−I分子についての、配列および2次構造予測を表す。星印は、ヘリックスの繰り返しの境界を示す。太字で、下線を引いた配列は、αヘリックス構造を示し、イタリック体は、β構造を示し、そしてプレーンテキストは、潜在的なターンを示す。
【図5】図5A〜図5Gは、種々の操作されたMSP構造を図解し、配列解析に基づいて、ピケットフェンストポロジーおよびヘリックスアサイメントで示される。図5A:MSP1は、ハーフリピート(半反復)の位置を示す。ハーフリピート1は、分子動力学シミュレーションに基づいて乱雑化される(Phillips、1997)。図5B:ヒンジドメインの運動。図5C:ハーフリピートの除去。図5D:ヘリックス3およびヘリックス4とのヒンジドメインの置換。図5E:MSP2、これは、MSP1の配列のタンデムな重複を有する。図5F:MSP1Δ1を作製するためのハーフリピート1の除去。図5G:MSP2Δ1を形成するためのMSP1Δ1のタンデムリピート。
【図6】図6A〜図6Bは、人工MSPを増幅するために使用されるPCRストラテジーを、図として例示する。
【図7】図7A〜図7Bは、長いリンカー配列を有するMSP2の線図(図7A)およびこのリンカー配列を有さないMSP2の線図(図7B)を例示する。
【図8】図8A〜図8Bは、ヘリックス4およびヘリックス5を欠く、MSP1誘導体をコードする人工配列を構築し、かつこれを発現するためのストラテジーを例示する。
【図9】図9A〜図9Bは、ヘリックス5よびヘリックス6を欠く、MSP1誘導体をコードする人工配列を構築し、かつこれを発現するためのストラテジーを例示する。
【図10】図10は、MSP1構造へと再配置されたバクテリオロドプシンのゲル濾過溶出プロファイルを提供する。
【図11】図11は、リン酸脂質の添加の非存在下でのMSP1によって可溶化されたバクテリオロドプシンのゲル濾過クロマトグラムを示す。バクテリオロドプシンは、550nmでの吸光度によって検出されるが、一方、MSP1とバクテリオロドプシンタンパク質とは、280nmにおける吸光度によって検出される。
【図12】図12は、リン酸脂質の添加の非存在下でのMSP2によって可溶化されたバクテリオロドプシンのゲル濾過クロマトグラムである。バクテリオロドプシンは、550nmでの吸光度によって検出されるが、MSP2とバクテリオロドプシンタンパク質とは、280nmにおける吸光度によって検出される。
【図13】図13は、MSPに対する脂質の比を変える、ナノスケール粒子の形成を例示する。粒子は、脂質 対 MSPの示されたモル比において形成され、そして、この粒子は、ネイティブの勾配ゲル電気泳動によって、分離された。右に示されるように、MSP1は、直径が8.2nm、9.6nmおよび10.6nmの粒子を形成する。MSP2は、主に9.6nmの粒子を形成する。
【図14】図14は、トリプトファン蛍光によってモニターされたときの、ジパルミトイルホスファチジルコリンによる、複合体におけるMSP1およびMSP2の粒子(直径9nm)の化学変性の結果を示す。励起は280nmで存在し、そしてこの緩衝剤は10mM Hepeps H7.5;0.15M NaClであった。
【図15】図15A〜15Bは、ディスクに組み込まれ、そして固相支持体に付着された、膜タンパク質を示す。図15A:金の上での、レセプター−標的複合体の、ディスク結合レセプターおよびリガンドにより誘導されるアセンブリ。図15B:ゲルマトリクスにおけるディスク結合レセプター。
【図16】図16Aは、8nmおよび10nmのサイズを示す保持時間および25〜28分での組織因子活性(Tissue Factor activity)を有する、ナノディスク粒子のサイジングカラムおける、HPLCの結果を示す。図16Bは、8〜25%勾配のゲルを使用したSDS−PAGEの結果を示す;HPLCによって単離され、かつTFを含む、MSP1に支持されたナノディスク二重層は予測された分子量を有する。
【図17】図17A〜図17Bは、8〜25%勾配ゲルを使用して、ネイティブPAGEによって決定されるようなディスクへのシトクロムb5の分離を示す。レーン1、分子量マーカー;レーン2、シトクロムb5;レーン3、ディスク;レーン4、ディスク/シトクロム5b;レーン5およびレーン6、陰イオン交換カラムから溶出した2つのプ−ルを表すディスクにおける、陰イオン交換精製したシトクロムb5。図17Aは、クマシーブルーで染色されたタンパク質を示す。図17Bは、ヘム特異的染色を示す。232kDaマーカータンパク質(カタラーゼ)はまた、ヘムに対して染色されたことに留意のこと。
【図18】図18は、85%DPPC、15%POPCからなる10nmの二重層ディスクへと組み込まれたシトクロムP450 3A4のクロマトグラムである。
【図19】図19は、85%DPPC、15%POPSからなる10nmの二重層ディスクへと組み込まれたシトクロムP450 3A4のクロマトグラムである。
【図20】図20は、100%DPPCからなる10nm二重層ディスクへと組み込まれたシトクロムP450 3A4のクロマトグラムである。
【図21】図21は、3つのディスクサンプルを用いた、8〜25%勾配ゲルにおけるPAGEの結果であり、この結果はナノディスク粒子のサイズと相関する。
【図22】図22は、Superdex200サイジングカラムにおける、MSP可溶化シトクロムP450 6B1のHPLCクロマトグラフィーの結果を例示する。保持時間は、約1個の6B1(420nmトレース)を含むナノディスク粒子を示す。この流速は、0.25ml/分である。
【図23】図23は、サンプル1(シトクロムP450 6B1およびNADPH P450レダクターゼを同時発現する細胞由来のミクロソーム膜で調製したナノディスク)を用いたPAGEの結果を例示する。サンプル2は、コントロールミクロソームを含む。
【図24】図24は、[CO−Fe2+−CO−Fe3+]光学的差スペクトルを提供する。ナノディスクに取りこまれた活性シトクロムP450 6B1は、450nmで吸光する。
【図25】図25は、Superdexサイジングカラムによって分離されたサンプルのクロマトグラムを示す。保持時間は、サイズが10nmのrHDL粒子を示す。
【図26】図26は、MSPナノディスクにおける、シトクロムP450レダクターゼおよびシトクロムP450 6B1の同時組み込みを例示する。456nmでの吸光度(主に、レダクターゼ) 対 420nmでの吸光度(主に、P450)の比が、保持時間の関数としてプロットされる。約26分でのピークは、レダクターゼとシトクロムとの両方を含むナノディスク集団を示す。
【図27】図27は、表面プラズモン共鳴によってモニターされる、金表面への、カルボキシル末端化されたチオールを含むDPPCナノディスクの結合を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
本願において使用される略語としては、以下が挙げられる:A、Ala、アラ
ニン;M、Met、メチオニン;C、Cys、システイン;N、Asn、アスパ
ラギン;D、Asp、アスパラギン酸;P、Pro、プロリン;E、Glu、グ
ルタミン酸;Q、Gln、グルタミン;F、Phe、フェニルアラニン;R、A
rg、アルギニン;G、Gly、グリシン;S、Ser、セリン;H、His、
ヒスチジン;T、Thr、スレオニン、I、Ile、イソロイシン;V、Val
、バリン;K、Lys、リジン;W、Try、トリプトファン;L、Leu、ロ
イシン;Y、Tyr、チロシン;MSP、膜スカホールドタンパク質;DPPC
、ジパルミトイルホスファチジルコリン;PC,ホスファチジルコリン;PS、
ホスファチジルセリン;BR、バクテリオロドプシン。
【0025】
最も単純な単細胞生物は、水性物質で満たされた中心領域ならびに種々の可溶
性低分子および高分子からなる。二重層構造で配置されたリン脂質からなる膜が
、この領域を囲んでいる。より複雑な生存細胞においては、膜によってまた囲ま
れた内部区画および構造が存在する。これらの膜構造内に包埋または会合した、
多くのタンパク質分子が存在し、そしてこれらのいわゆる膜タンパク質は、しば
しば、情報およびエネルギーの伝達および処理を含む細胞機能を決定するために
、最も重要である。膜タンパク質を研究する際の最も大きな問題は、リン脂質二
重層の内側が疎水性であり、そして膜タンパク質の包埋または係留された部分自
体もまた疎水性であることである。これらの膜タンパク質をそれらのネイティブ
な膜環境から単離する際に、これらのタンパク質が不活性な凝集体を形成するこ
とを防止することが、非常に困難である。本発明は、それ自体ネイティブ様のリ
ン脂質二重層である可溶性ナノ粒子を生成する方法を提供し、この中に、目的の
疎水性タンパク質(標的タンパク質)が組み込まれて、標的タンパク質を可溶性
の単分散実態として維持し得る。これは、膜タンパク質のような疎水性タンパク
質を、ナノメートル規模の構造体に組み込むことによって、達成される。
【0026】
膜スカホールドタンパク質(MSP)とは、本明細書中で使用される場合、リ
ン脂質およびリン脂質混合物をナノメートルサイズの膜二重層に自己アセンブリ
させる、人工タンパク質である。これらのナノメートルサイズのアセンブリのサ
ブセットは、形状が円盤状であり、そしてナノディスクまたはナノディスク構造
と称される。これらの構造は、通常の膜の二重層構造全体を保存するが、溶液中
に可溶であり、かつ種々の表面にアセンブリまたは固定され得る系を提供する。
【0027】
本発明のMSPは、両親媒性でなければならず、この構造の一部が、多少親水
性であり、そして水性溶媒に面し、そして他の部分が、多少疎水性であり、そし
て安定化されるべき疎水性二重層の中心に面する。基本的な生化学的文献の調査
により、この必要な両親媒性特徴を有するタンパク質構造の2つの候補が明らか
となる:αヘリックスおよびβシート。文献中には、βシートが折り畳まれて、
「内側」が疎水性でありそして「外側」が親水性である構造を作製し得る例が存
在するが、これらの構造の最も単純なものにおいて、このように形成される中心
キャビティは小さい。このような小さな内部領域は、リン脂質二重層を安定化さ
せ得るが、この大きさは、任意の所望の膜タンパク質標的を組み込むためには小
さすぎる。従って、本発明者らは、本発明のMSPを、基本的な両親媒性構築ブ
ロックとしてαヘリックスを有するように設計した。各MSPは、より疎水性の
残基(例えば、A、C、F、G、I、L、M、V、WまたはY)を優先的にヘリ
ックスの片面に有し、そしてより極性のまたは荷電した残基(D、E、N、Q、
S、T、H、KまたはR)を、このヘリックスの他方の面に有する、両親媒性α
ヘリックスを形成するアミノ酸配列を有する。概略的表現については、図2を参
照のこと。さらに、この螺旋構造は、約20〜25アミノ酸ごとにプロリン残基
(P)で終止して、「ねじれ」を形成するか、またはターンを開始して、円盤状
のリン脂質二重層の縁部の周囲でのMSPの「巻き込み」を容易にする。図2を
参照のこと。図2は、一般化された線型アミノ酸配列および螺旋状ホイール図を
示し、このヘリックスの片側における、疎水性アミノ酸の優先的な配置を示す。
正確なアミノ酸配列は、設計された線型配列における疎水性アミノ酸の位置およ
び数が変化し得る。いずれかの螺旋軸が、ナノディスク二重層の垂線に対して平
行または垂直のいずれかである、単純なモデルが作製され得る;図3Aおよび3
Bを参照のこと。およそ10nmの直径を有するディスクを作製するためには、
MSPは、この一般化された両親媒性配列を有する、約12〜約20以上の繰り
返し単位を含む。好ましくは、このタンパク質は、両親媒性αヘリックスからな
り、このヘリックスの各々が、14アミノ酸と25アミノ酸との間の長さを有し
、ヘリックス形成のために折り畳み不可能な残基(例えば、プロリン)によって
線状配列で終止し、これは、脂質二重層の疎水性コアを安定化させる、小さな螺
旋構築ブロックを形成する。これらの小さな螺旋セグメントは、約1〜約5のア
ミノ酸残基で、一緒に結合される。10nmの円盤粒子の縁部を、与えられる「
ベルト」モデルまたは「ピケットフェンス」モデルでカバーするためには、10
〜20の間のこのようなヘリックスが必要であり、図3Aおよび3Bの単純な図
の分析に基づくと、16が最適な数である。従って、本発明者らは、所望の両親
媒性ヘリックスを含むタンパク質を発現するように、合成遺伝子を構築した。
【0028】
本発明のMSPは、係留膜タンパク質、包埋膜タンパク質、または内在性膜タ
ンパク質を、ナノスケールの構造体中で安定化するために使用され得る。係留膜
タンパク質は、大部分が、二重層の外側であり比較的単純な(例えば、単一パス
のヘリックス)比較的可溶性の球状ドメインからなり、これが、このドメインを
膜二重層に繋留する。この球状のドメインは、本質的に、配向が細胞外であり得
るか、または細胞質であり得る。包埋膜タンパク質とは、本明細書中で定義され
る場合、ポリペプチドの膜繋留セグメントを含むがタンパク質の表面に疎水性ア
ミノ酸の集団を有し、この疎水性ドメインが、膜二重層に包埋されている、タン
パク質である。内在性膜タンパク質は、優先的に、膜二重層の内部に位置する;
このタンパク質の比較的小さな部分は、細胞内の水性環境または細胞外の水性環
境に曝露される。
【0029】
係留膜タンパク質のクラスは、NADPH−シトクロムP450レダクターゼ
(例えば、ラット肝臓小胞体由来)、シトクロムb5およびヒト組織因子によっ
て、例示される。NADPH−シトクロムP450レダクターゼは、小胞体にお
いて見出される膜タンパク質であり、そしてピリジンヌクレオチドの脱水および
膜結合シトクロムP450への電子移動を触媒する。類似の構造のアイソザイム
は、ヒト、植物、他の哺乳動物、昆虫などにおいて見出される。組織因子(TF
)、またはトロンボプラスチンは、血液凝固カスケードの開始に重要な、30,
000DaのI型係留膜タンパク質である。この膜結合タンパク質は、第VII
因子に対する活性化補因子(血液凝固における最初の酵素段階を実施する、可溶
性セリンプロテアーゼ)として働く。組織因子の発現は、血漿に直接接触しない
細胞に制限され、血管構造の周囲および生物全体に、「止血エンベロープ」を形
成する。高レベルのTFが、皮膚、脳、および血管を囲む外膜層において見出さ
れる。TF:VII複合体は、膜表面でアセンブリされて、高い活性を示さなけ
ればならず、そして最適な活性は、その膜が負に荷電したヘッド基を有するリン
脂質を含む場合にのみ見られる。シトクロムb5は、膜二重層に貫入する単一の
膜アンカードメインを有する、膜に繋留(係留)したヘムタンパク質である。ネ
イティブな膜から可溶化されたシトクロムb5は、界面活性剤の非存在下で大き
な凝集物として存在し、そしてネイティブなポリアクリルアミドゲル電気泳動(
PAGE)において、不連続なバンドよりむしろ、スミアとして現れる(図17
、レーン2)。本発明において教示されるMSPを使用する自己アセンブリプロ
セス(ここで、シトクロムb5がMSPおよびリン脂質の調製物に添加される)
を介する、ナノディスクの形成の結果として、シトクロムb5が、ディスクの大
きさの構造体に組み込まれる(図17のレーン4)。このことは、右側のパネル
においてナノディスクに対応するバンドの、強いヘム染色によって、裏付けられ
る。陰イオン交換クロマトグラフィーによって分離された、シトクロムb5を含
むナノディスクは、図17のレーン5および6に示される。2つのピークが、こ
の陰イオン交換カラムから、310mM NaClの近くおよび370mM N
aClの近くで、溶出した。ディスク単独は、310mM NaClの近くで溶
出し、そしてシトクロムb5単独は、450mM NaClと700mM Na
Clとの間で溶出することが、観察された。このデータは、シトクロムb5がM
SP技術を使用して可溶化されること、ならびにシトクロムb5を含むディスク
複合体が、所望でない凝集物質からクロマトグラフィーによって分離および精製
され得ることを示す。精製された物質のヘム発色団の光吸収特性は、ヘム活性部
位がネイティブのコンホメーションに存在することを示す。
【0030】
包埋膜タンパク質の例としては、ウサギ肝臓ミクロソーム由来のシトクロムP
450 2B4、ヒト肝臓ミクロソーム由来のP450 3A4、および昆虫ミ
クロソーム由来のシトクロムP450 6B1が挙げられるが、これらに限定さ
れない。シトクロムP450は、全ての形態の生命において見出される酵素のス
ーパーファミリーである。多くの哺乳動物P450の1つの役割は、生体異物を
解毒することである;例えば、ヒト肝臓P450は、内因性化合物および外因性
化合物の大部分を解毒し、そしてこれらの酵素は、摂取された薬物全ての平均血
漿寿命を決定する。最も広範に研究されるヒト肝臓シトクロムP450の1つは
、シトクロムP450 3A4(CYP 3A4)である。この膜結合P450
は、ヒト肝臓において最も高度に発現されるP450であり、そして全ての医薬
品のほぼ50%を代謝する原因である(Guengerich,F.P.,Cy
tochrome P450.Cytochrome P450,P.R.Or
tiz de Montellano編、1995、New York:Ple
num Press.473−535)。シトクロムP450の研究のためのナ
ノディスク技術の有用性を実証するために、本発明者らは、CYP 3A4を、
MSPに支持されたナノ二重層ディスクに組み込んだ。図18〜21は、カラム
から溶出するCYP 3A4の保持時間(417nmの吸光度によって観察され
た)およびナノディスクの保持時間(MSPとP450との両方を吸収する28
0nmでモニタリングされた)が同時であり、約24分であることを示す。この
溶出時間はまた、ディスクタンパク質複合体の計算された保持時間に密接に相関
する。このことを支持するさらなる証拠は、溶出したナノディスク粒子の大きさ
を直接的に測定する、ネイティブのポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE
)である(図21)。
【0031】
シトクロムP450 6B1(CYP 6B1)は、大きなシトクロムP45
0モノオキシゲナーゼタンパク質スーパーファミリーのメンバーであり、そして
包埋膜タンパク質の別の例である。CYP 6B1は、Papilio pol
yxenes(アメリカクロアゲハ)(これは、フラノクマリン(大部分の生物
に対して光毒性である植物代謝産物)を生成する植物を専らえさとするから単離
された。CYP 6B1は、エポキシ化反応であると考えられる反応によって、
フラノクマリンの解毒を触媒する(Ma,Rら(1994)Arch.Bioc
hem.Biophys.310(2),332−40)。本発明のMSP技術
の新たな適用を示すために、本発明者らは、膜タンパク質のレパートリーを含む
単離された膜が、MSPを含むナノディスクに組み込まれ得ることを実証する。
特に重要な実施形態は、通常の昆虫細胞培養物(異種発現系として広範に使用さ
れる、バキュロウイルス発現系)の使用である。従って、本発明者らは、過剰発
現された昆虫CYP 6B1および過剰発現された昆虫NADPHシトクロムP
450レダクターゼを含むミクロソーム調製物が産生されるように同時感染させ
た、市販のSf9昆虫細胞株を使用した。従って、本発明者らは、MSPナノデ
ィスクを使用して別のシトクロムP450系を可溶性単分散粒子に組み込み得る
ことのみでなく、このP450の供給源がまた、単に、クローニングされたCY
P 6B1遺伝子で感染されたSf9細胞株由来の膜全体であり得ることを実証
した。従って、MSPに支持されたナノディスクは、ハイスループットスクリー
ニング事業(例えば、膜結合タンパク質に対するリガンドの同定)における使用
のため、または新たな医薬の同定のために、製造され得る。この適用は、目的の
標的タンパク質を含む膜フラグメントの他の任意の供給源(例えば、任意の哺乳
動物細胞培養系、または哺乳動物発現系)に拡張され得る。
【0032】
本発明のナノディスク技術の重要な用途は、酵素活性またはレセプター結合活
性についてのハイスループットスクリーニングにおいてである。多くのこのよう
な系において、例えば、P450モノオキシゲナーゼ触媒またはGタンパク質共
役レセプターに組み込まれた対応するGタンパク質のために必要な電子移動パー
トナーの、ナノディスクに組み込まれた1つより多くの膜タンパク質標的を有す
ることは、有利である。これらの状況におけるMSPナノディスク技術の用途を
実証するために、本発明者らは、NADPHシトクロムP450レダクターゼお
よびシトクロムP450 6B1を、首尾よく組み込んだ。本明細書中で実証さ
れるように、各標的膜タンパク質は、MSPを使用してナノディスクに個々に組
み込まれ得るか、またはこれらは、組み合わせて組み込まれ得る。レダクターゼ
に対するシトクロムP450の内因性の相対量は、レダクターゼ1分子あたり約
10〜20分子のP450である(Feyereisen,R(1999)An
nual Review of Entomology 44,501−533
)。ディスクへの再形成の後のCYP6B1の活性を得るためには、P450分
子およびレダクターゼ分子の両方が、単一のディスクに分割されるように、過剰
量のレダクターゼがこの再形成混合物に添加されることが好ましい。ミクロソー
ム調製物に、外因的に添加されたレダクターゼを補充することが、達成された。
このサンプルを、Superdexサイジングカラムによって分離し、ここで、
280nmにおける吸光度は、MSP1の存在を示し、420nmおよび456
nmにおける吸光度は、鉄を含む種の存在を示し、そして456nmにおける吸
光度はまた、レダクターゼの存在を示す(図25)。456nm対420nmの
比をプロットし、これは、456nmにおける吸光度がCYP 6B1に関する
吸光度より高く、従って、レダクターゼによる吸光度に起因し得る、クロマトグ
ラムの位置を示す(図26)。保持時間は、CYP6B1とレダクターゼとの両
方を含む10nmの粒子の存在に相関した。図22〜24もまた参照のこと。
【0033】
内在性膜タンパク質は、7ヘリックス膜貫通タンパク質によって例示され、こ
れには、Halobacterium halobium由来のバクテリオロド
プシン、Homo sapiens由来の5−ヒドロキシトリプタミン1A G
タンパク質共役レセプター、および他のGタンパク質共役タンパク質レセプター
が挙げられるが、これらに限定されない。膜タンパク質の各クラスのメンバーは
、本発明のMSPおよび方法を使用して、ナノスケールの構造に首尾よく組み込
まれた。特に、細胞表面レセプター、および特に、Gタンパク質共役レセプター
は、膜スカホールドタンパク質(MSP)のクラスから形成したナノ二重層の二
重層構造に組み込まれ得る。BRは、本明細書中以下に記載れるように、MSP
ナノディスクに組み込まれ、そして本発明者らは、ヒト由来のGタンパク質共役
レセプターを5−HT−1A(セロトニン)に対するホストにする膜画分を提供
する、市販の昆虫細胞発現系を使用した。ナノディスクへの5−HT−1Aの組
み込みについて示されたリガンド結合活性は、このタンパク質が、本発明のナノ
ディスクにおいて、活性コンホメーションにあることを示す。
【0034】
図10は、MSP/BR/ジミリストイルホスファチジルコリン合成混合物の
ゲル濾過溶出プロフィールを示し、バクテリオロドプシンが可溶化されたことを
実証する。MSPの非存在下では、バクテリオロドプシンは、ボイド画分におい
て定量的に溶出する。バクテリオロドプシンの主要なピークは、大部分のMSP
ディスクよりわずかに早い位置で溶出する(較正標準のStoke半径に基づい
て、小さな複合体は約100Åの直径)。BRを含む、より大きな複合体もまた
形成される。この複合体に存在するBRは、6Hisタグを含む操作されたMS
Pを通してのニッケルアフィニティーカラムに特異的に結合し得、そしてこのカ
ラムから溶出され得る。さらに、ゲル濾過におけるBRの溶出プロフィールは、
BRの非存在下でのMSPディスクの溶出プロフィールによく似ている。複合体
におけるBRのスペクトルは、界面活性剤で可溶化されたモノマーBRのスペク
トルに類似しており、そして4℃での貯蔵の際に、数週間変化しないようである
。驚くべきことに、MSPは、外因的に添加されたリン脂質の非存在下で、BR
を定量的に可溶化する。脂質に乏しいこれらの複合体はまた、小さなMSP/リ
ン脂質ディスクの大きさである。
【0035】
本発明者らは、短いリンカーにより連結されたMSP1のタンデム反復を新た
な分子を作製するように設計することによって、人工MSP(MSP2)を作製
した。図5Gおよび配列番号17を参照のこと。比較的多量(数十ミリグラム/
リットルの細胞培養物)の本発明の人工MSPを、細菌発現系において生成する
。本発明者らの構築物は、形成され得るサイズクラス(3つのMSP1分子に対
応するクラス)の数を減少する。予備的な証拠は、MSP2と共に形成される主
な種のサイズが、2つのMSP1分子および4つのMSP1分子に対応すること
を示す。さらに、MSP1を含む調製物において、低いリン脂質:MSPの比で
見出される膜スカホールドタンパク質の代替のコンフォメーションに起因する最
小のディスクサイズが、MSP2には存在しない。理論に縛られることは望まな
いが、本発明者らは、より小さな粒子は、一分子のMSP2を含み、より大きな
ディスクが、2分子のMSP2を含むと考える。
【0036】
スカホールドタンパク質(MSP)は、円盤状リン脂質二重層実体の構造にお
ける可変性を最小限にし、より大きな構造的安定性およびディスク構造の増加し
たサイズ均質性を提供し、そしてディスクの精製および物理的操作のための有用
な機能性(例えば、タグ)を組み込むように操作される。ディスクの均質性は、
単一の膜タンパク質または単一の膜タンパク質複合体をディスクの単一のサイズ
クラスのディスクに効率的に組み込むために必要である。親分子であるapo
A−Iは、ディスク構造の安定化を越える機能を有し;これには、細胞レセプタ
ー結合、LCAT活性化、および種々のリポタンパク種間の構造変換が挙げられ
る(Forteら、1971;Holvoetら、1995;Fidge、19
99)。これらの機能的領域は、不必要であり、そしてしばしば、本発明の人工
二重層系において有害である。人工スカホールドタンパク質は、両親媒性螺旋膜
タンパク質構造の研究において使用され得る。
【0037】
二次構造の予測は、スカホールドタンパク質の構造的特徴を評価する方法を提
供する。この構造の大部分は、図4に示されるように、反復配列中のプロリンに
より中断されるαヘリックスから構成される。8〜9個のαヘリックスは、ディ
スクの形態の脂質と会合していると考えられる。apo A−IのN末端領域の
特徴は、より球状であることが予想される。分子のこの部分を、ディスクを形成
し得る構築物を生成するために、取り出した。高度な単分散性を有するディスク
構築物を産生するMSPが望ましい。中心ヘリックス(99〜186)は、関連
のタンパク質であるアポリポタンパクA−IIの脂質を含まない形態(これはデ
ィスク構造体の溶液に添加される)により置換され得(DurbinおよびJo
nas、1999)、これらのヘリックスは、「ヒンジ」ドメインの一部であり
得(図5A〜5B)、これはディスクの縁部から解離し、LP2、LP3および
LP4クラス内の種々の粒径を生成する(Jonasら、1989)。解離した
ヒンジ領域を有するディスク形態はまた、タンパク質分解(これは望ましくない
)に対してより感受性である(DaltonおよびSwaney、1993)。
中心ヘリックスの対(100−143、122−165、および144−186
)の欠失は、全長apo A−Iより小さいサイズのディスクを形成する組換え
体を生じ、そしてさらに、2つの変異体(122−165および144−186
)は、化学変性に対する安定性を増加する(Frankら、1997)。さらな
る研究は、ヘリックス5および6(143−186)を別のヘリックスのセット
と置き換えた(図5D)。ヘリックス3および4は、ディスクに安定性を与える
と考えられる領域を含む(Frankら、1997)。ヘリックス3は、高い脂
質親和性を有し、塩架橋を介する脂質結合形態に安定性を与えると考えられる。
ヘリックス1はまた、高い脂質親和性を有し、完全に螺旋状である(Roger
sら、1998)。ヘリックス対5−6の代わりにヘリックス対1−2を組み込
む構築物が所望される。半反復の役割は、非常に興味が持たれる。これらの11
マー反復は、αヘリックスであることが予測されるが、杭柵モデルにおいて二重
層を架橋するのに十分に長くない。杭柵モデルにおけるディスクの分子動力学的
モデルにおいて、半反復1に対応する領域は、実際に、「フロッピー(登録商標)」であり、
そして脂質と相互作用せず、一方、半反復2は、ヘッド基領域付近の二重層に対
して平行であることが見出された(図5Aおよび5C)。このような構造は、得
られるディスクに障害を与え得る。半反復の役割を確認し、MSP構造および機
能をさらに最適化するために、変異誘発および指向された進化を使用して、本明
細書中以下に記載される改変体を作製した。
【0038】
MSPディスクに組み込まれたレセプターは、構造的、生化学的および薬学的
な検索において有用である。膜タンパク質の研究は、現在、不溶性膜分散物、界
面活性ミセルおよびリポソームに限定されている。多くの場合、界面活性剤を用
いて得られるか得られないかもしれない、生化学的および物理学的研究のための
精製された系は、安定性を必要とする。界面活性ミセルは、動力学的であり、そ
してサブユニットの解離を促進しかつ希釈溶液においてタンパク質を扱う能力の
困難性を示す構造的変動を受ける。MSPナノ二重層(ナノディスク)は、構造
的により強固であり、別個のサイズおよび組成のリン脂質二重層模倣ドメインを
有し、そして単層リポソームよりも大きな安定性および小さな表面積を有する。
本発明の粒子は、4℃で少なくとも一ヶ月間、サイズおよび構造において安定で
ある。
【0039】
シグナル伝達エレメントは、膜全体に存在するが、小胞は、膜の一方の面を、
親水性試薬およびエフェクタータンパク質にアクセス可能にする。本発明の特定
の実施形態は、キャリア粒子上の膜結合形態の薬学的標的(例えば、GPCR、
イオンチャネル、レセプターキナーゼ、およびホスファターゼ)を安定化するた
めに、ディスクを使用する。本発明者らは、GPCRに注目して、タンパク質を
複数の架橋ヘリックスと共に、本発明のディスクに組み込んだ。本発明者らは、
モデルの蛇行したレセプターである、バクテリオロドプシンを首尾良く組み込ん
だ。バクテリオロドプシンは、GPCRのモデルであり、これは、薬物発見のた
めの現在の標的である。現在は、種々の生物体由来の1000を越える有望なG
タンパク質レセプターがクローニングされており、そしていわゆる「オーファン
」レセプターの多くは、天然リガンドの同定を待っている。リガンドクラスとし
ては、ペプチドホルモン、エイコサノイド、脂質、カルシウム、ヌクレオチドお
よび生体アミンが挙げられる。GPCRは、現在市販されている医薬の半分より
多くの割合を占めると考えられる。当業者は、過度の実験を行うことなく、この
構造クラスの膜タンパク質の組込み方法を最適化し得る。再構成されたレセプタ
ーの構造の特徴付けは、以下に記載されるように、化学分析、分光法および原子
間力顕微鏡を使用して実施される。
【0040】
本発明のMSPは、膜タンパク質を可溶化、安定化、操作するために、ディス
クにおいて使用される。本発明のMSPは、ディスク上に処方された場合、ハイ
スループットスクリーニングまたは固相アッセイ技術のための表面技術(例えば
、バイオセンサチップ)において適用可能である。ディスクスカホールドについ
ての本発明者らの研究はまた、表面会合アセンブリを含んだ。例えば、SPRバ
イオセンサは、光学要素上の約50nm厚の金フィルムを使用して、表面プラズ
モンをこの金フィルムの表面の誘電性成分(サンプル)に結合する。MSP安定
化二重層は、システインをMSPに操作することによって、生体模倣層含有タン
パク質または他の目的の標的として使用するために、表面に結合され得る(図1
5A)。金表面に分子を結合するためにチオールを使用することは、周知である
。システインの置換は、システイン残基の置換のために使用されるモデルに依存
する。ベルトモデルに基づいて、システインは、両親媒性ヘリックスの軸の極性
面に沿って配置され得るが、ただし、システイン残基は、ヘリックス−ヘリック
ス界面には位置しない。このベルトのヘリックス−ヘリックス界面は、apo
A−I Milano(R173C)(これは、ジスルフィド結合ダイマーを形
成する)の位置を表すと考えられる(Segrestら、1999)。代替の方
法は、可撓性の、すなわちC末端リンカー内にシステインを導入することである
。このような構築物は、理論上は、ベルト形態または杭柵形態のいずれかのディ
スクを金表面に結合し得る。あるいは、チオール脂質は、二重層ドメインに組み
込まれ得る。SPRに加えて、金上の表面結合ディスクは、STMおよび電気化
学研究(例えば、膜結合レドックスタンパク質(例えば、シトクロムP450お
よびその黄色蛋白)、ならびにイオンチャネル)において使用され得る。
【0041】
SPRデータはまた、誘電性の薄膜(例えば、通常はSPRの基板として使用
される、金属フィルムに塗布された二酸化ケイ素)を使用して行われる測定から
得られ得る。この技術のバリエーションは、結合プラズモン導波管共鳴(CPW
R)と命名された(Salamonら、1997a)。シリカは、これらのプラ
ズモン共鳴実験において活性表面として使用され得るため、自己構築二重層を生
成するプロセスは、マイカまたは他の酸化ケイ素表面の表面上で表面を生成する
ために使用される同じ手順に単純化され得る。このことは、SPR実験に使用さ
れる条件を、AFM実験に使用される条件と直接比較可能にするという付加的な
利点を有する。CPWR技術は、シリカコーティングを金属フィルムスライド(
これはSPR分光法で現在使用される)に単に加えることによって、本発明者ら
のSPR機器を用いて容易に実施され得る。
【0042】
利用可能なシステイン基を有するMSPはまた、化学反応性基またはゲルマト
リクスにおける固定化のための親和性タグでの特異的標識を可能にする。反応性
結合基を有するヒドロゲルは、SPR測定のためのタンパク質を固定化するため
に有用である。ヒドロゲルの構成(図15B)において、ディスクは、リガンド
結合のために利用可能な細胞内ドメインおよび細胞外ドメインの両方を含む、単
分散性形態の二重層構築膜タンパク質のためのキャリアとして働く。本発明者ら
は、Hisタグを含むディスクが、BRを固定化するために使用され得る金属キ
レートマトリクスに結合することを、すでに証明した。このことは、ディスク構
造の別の用途、すなわち、生体分離プロセスのための親和性マトリクスの調製お
よびリガンド親和性の測定を示す。本発明の粒子および技術は、薬物発見、構造
/機能の相関付け、および膜タンパク質の構造決定のために有用である。
【0043】
膜タンパク質の構造決定に対する現在の制限は、多量の膜タンパク質を生成し
、そしてこれらのタンパク質を結晶化する能力である。MSPは、膜タンパク質
の安定化および発現のためのキャリアとして有用である。MSPは、界面活性剤
の代わりに、結晶化のための膜タンパク質を可溶化するのに役立ち得る。実際に
、脂質結合形態のMSPが構造的に安定でありかつ堅い(rigid)場合、結
晶化は、MSPを通して結晶接触を導入することによって促進される。本発明者
らは、MSP1またはMSP2が、外因性脂質の存在下および非存在下において
BRを可溶化するために使用され得ることをすでに証明した。MSP領域を有す
る膜タンパク質とのさらなる非例示的な融合構築物は、当該分野で公知の多数の
ベクターのいずれかを使用して、Escherichia coliにおいて発
現され得る。このように、安定かつ可溶性形態の膜タンパク質(これは膜アンカ
ーを含む)は、多量に生成される。MSPが添加されたリン脂質の非存在下でB
Rを安定化するという興味深い発見は、界面活性剤または脂質添加物の非存在下
で、膜タンパク質を安定化するために人工MSPを使用することを可能にする。
本発明の人工MSPは、BRおよび他の膜タンパク質(シトクロムP450、シ
トクロムP450レダクターゼおよびお5−HT−1Aレセプターを含むが、こ
れらに限定されない)の可溶化に使用され得る。
【0044】
一般的に膜タンパク質、特にGタンパク質共役レセプター(GPCR)を提供
する膜スカホールドタンパク質(MSP)を、均質生化学的アッセイまたは結晶
化に適切な環境で使用する際の1つの重要な目的は、粒子の均質な調製を有する
弧とである。全長ヒトApo−AIおよびその誘導体から代替の膜スカホールド
タンパク質までの範囲の、本発明者らが記載した膜スカホールドタンパク質(短
縮型ヒトApo−AI(t−MP)(アミノ末端可溶性ドメインは除去されてい
る)、欠失変異体(1つ以上のタンパク質セグメントが除去されている)、およ
び上記の物質のいずれか(ヒスチジンタグが組み込まれている)を含むが、これ
らに限定されない)は、溶液中でリン脂質と自己構築される場合に、主に8〜1
0nmの粒子を形成する。しかし、最初の再構築の際に、他のサイズの粒子が存
在する。標準的なサイズ分離クロマトグラフィーは単一のサイズクラスの粒子を
精製するために使用され得るが、標的タンパク質とMSPとリン脂質との最初の
再構築混合物のサイズ分布を最小限にすることが好ましい。8〜10nmの粒子
は名目上、2つのMSPタンパク質、Apo−AIタンパク質またはApo−A
I誘導タンパク質から構成される。従って、本発明者らは、2つの短縮型Apo
−AIタンパク質(MSP1と呼ぶ)が遺伝的に、単一のポリペプチド鎖から構
成されるスカホールドタンパク質を形成する傾向がある、膜スカホールドタンパ
ク質を構築した。これは、図5Gに概略的に例示される。
【0045】
ナノスケールのリン脂質二重層内で安定化され得るGPCRとしては、クラス
A(ロドプシン様)GPCRが挙げられ、これはアミン、ペプチド、ホルモンタ
ンパク質、ロドプシン、嗅覚プロスタノイド、ヌクレオチド様化合物、カンナビ
ノイド、血小板活性化因子、ゴナドトロピン放出ホルモン、チロトロピン放出ホ
ルモンおよび分泌促進物質、メラトニン、ならびにリゾスフィンゴリピドおよび
LPAに結合する。アミンリガンドを有するGPCRとしては、アセチルコリン
またはムスカリン性レセプター、アデノレセプター、ドパミン、ヒスタミン、セ
ロトニンまたはオクトパミンレセプターが挙げられるが、これらに限定されず;
ペプチドリガンとしては、アンギオテンシンリガンド、ボンベシンリガンド、ブ
ラジキニンリガンド、アナフィラトキシンリガンド、Fmet−leu−phe
リガンド、インターロイキン−8リガンド、ケモカインリガンド、コレシストキ
ニンリガンド、エンドセリンリガンド、メラノコルチンリガンド、神経ペプチド
Yリガンド、神経ペプチドリガンド、オピオイドリガンド、ソマトスタチンリガ
ンド、タキキニンリガンド、トロンビンバソプレシン様リガンド、ガラニンリガ
ンド、プロテイナーゼ活性化リガンド、オレキシンリガンドおよび神経ペプチド
FFリガンド、アドレノメデュリン(G10D)リガンド、GPR37/エンド
セリンB様リガンド、ケモカインレセプター様リガンドおよびニューロメディン
Uリガンドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
他の特定のGPCRのリガンドとしては、とりわけ、ホルモンタンパク質、ロ
ドプシン、嗅覚プロスタノイド、ヌクレオチド様化合物(アデノシン、プリンレ
セプター)、カンナビノイド、血小板活性化因子、ゴナドトロピン放出ホルモン
、チロトロピン放出ホルモンおよび分泌促進物質、メラトニン、ならびにリゾス
フィンゴリピドおよびLPAが挙げられる。クラスBセクレチン様GPCRとし
ては、以下に結合するGPCRが挙げられるが、これらに限定されない:カルシ
トニン、副腎皮質刺激ホルモン放出因子、胃抑制性ポリペプチド、グルカゴン、
成長ホルモン放出ホルモン、副甲状腺ホルモン、PACAP、セクレチン、血管
作用性腸ポリペプチド、利尿ホルモン、EMR1およびラトロフィリン(lat
rophilin)。クラスC代謝生成物産性グルタメートレセプターとしては
、とりわけ、以下に結合するレセプターが挙げられる:代謝生成物産性グルタメ
ート、細胞外カルシウム感作またはGABA−B。そのリガンドが未だ知られて
いない「嗅覚」レセプターもまた、本発明のアッセイの潜在的な標的である。
【0047】
特定のリガンドの結合を示すか、またはMSP支持型GPCRに結合するリガ
ンドのインヒビターもしくはコンペティターを同定するために使用され得る、本
発明のアッセイにおいて、種々の標識が、リガンド分子内(例えば、放射性同位
体、例えば、H、14C、35S、32P)に組み込まれ得るか、または検出
可能な化合物がリガンド分子に結合され得るが、ただし、同族レセプターに対す
る結合は、標識に起因して、有意には減少されない。標識としては、125I、
131I、蛍光化合物、発光化合物などが挙げられるが、これらに限定されない

【0048】
融合されたMSP間のリンカー配列の必要な特性は、この融合されたタンパク
質が、2つの別々のMSPと類似の様式で、粒子を構築するような可撓性および
可溶性である。Gly−Gly−Gly−Ser/Thr−(配列番号46)の
繰返しからなるリンカー配列は、これらの特性を有する。このリンカーの長さを
最小にすることがまた、所望される。本発明者らは、本明細書の以下で記載され
るように、Kpn Iに対するコンセンサスDNA制限部位に対応する、この最
小のリンカーである−GT−との融合体を構築する。このKpn I部位は、K
pn Iを用いた制限および任意の所望のリンカーをコードする二本鎖合成DN
Aの挿入により任意の所望のリンカー配列を容易に挿入する方法を提供する(R
obinsonら、1998)。本発明者らはまた、リンカー配列−GTGGG
SGGGT−(配列番号15)を含む融合構築物を作製した。しかし、最小のリ
ンカーを有するMSP2は、2つのMSP1タンパク質を含む粒子と非常に類似
する粒子を構築する。
【0049】
MSP2スカホールドタンパク質についての完全なアミノ酸配列および核酸配
列は、表7および8において示される(配列番号16および配列番号17も参照
のこと)。このMSP2融合タンパク質を、E.coli中で発現し、そして単
一のMSPについて記載されるのと同一の手順を基本的に使用して、均質となる
まで精製した。このMSP2タンパク質は、有効なスカホールドタンパク質とし
て役立ち、可溶な界面活性剤を除去して、リン脂質とともに自己構築する。サン
プルの不均質性の取り組みについて、図13は、粒子の平均直径(Å)として標
識された個々のピークを有する、ネイティブな勾配のポリアクリルアミドゲルの
デンシトメトリートレースを示す。明らかに、特に、公称10nm粒子に対応す
る200の脂質/二量体の比において、大きな単分散性がMSP2タンパク質に
よって与えられる。
【0050】
重要なことに、このディスクの全体的な安定性は、化学的に誘導された変性お
よびトリプトファン残基の溶媒への曝露によってモニタリングされるように、図
14に示されるようなモノマー膜のスカホールドタンパク質の融合によって変質
されない。
【0051】
ディスク構造および関連するタンパク質の特徴付けにおいて使用される重要な
技術は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)である。SPMは、走査型トンネル顕
微鏡(STM)で最初に開発された走査原理を利用する、任意の顕微鏡のための
アンブレラターム(umbrella term)であるが、これらの顕微鏡は
、非常に変化し得るので、これらの指針となる中心的な原理に関して、最良に議
論される。この技術は、生物学的な膜および関連するタンパク質、二重層構造お
よび組み込まれた膜タンパク質表面の分析において使用されている。SPMは、
全ての空間的な3次元方向への独立した移動度(スキャニング)を、この表面の
いくつかの特徴を検出(プローブ)し得る検出システムと組み合わせる。プロー
ブされ得る種々の表面特徴(伝導率、表面力、圧縮性、キャパシタンス、磁気、
蛍光発光)が、得られ得る情報の価値を示す。原子間力顕微鏡の優れたz軸感度
により、rHDL単層に結合するタンパク質の存在を容易に検出可能にし、本発
明者らは、MSPにより支持されたナノディスクにおいて固定された、十分に特
徴付けられた内在性膜タンパク質および固着膜タンパク質について示した(Ba
yburtら、1998)。AFMを用いて可能となる正確な高さ測定の有用性
の他の例は、本研究者のrHDLの正確な高さの定量化(Carlsonら、1
997)、および種々のナノディスクアセンブリにおいてAFMプローブの力を
調節することによって得られる膜タンパク質の高さの測定である(Baybur
tら、2000)。MSPから形成されるディスクの表面会合は、ヒトアポA−
Iタンパク質およびその改良された改変体の利用を可能にし、SPMによって表
面のリン脂質二重層に組み込まれた単一の膜タンパク質の生物物理学的な特性を
直接的に調査し得る。ディスクが原子レベルで(atomically)フラッ
トな伝導性表面(例えば、金)に結合する能力は、走査型トンネル顕微鏡(ST
M)にとって必要である。理論的に、酸化還元活性系を介したトンネル効果を使
用して、酵素の機能状態をプローブし得る(Friisら、1999;Mukh
opadhyayら、2000)。これらの2つの技術は、相補的なデータを提
供し、そして二重層/溶液の界面で生じる事象を可能な限り完全な画像として作
製するために一緒に使用され得る。ディスクを金の表面上に配置する能力はまた
、表面プラズモン共鳴(SPR)の使用も可能にする。膜タンパク質のこのよう
な人口の脂質二重層への挿入、または表面に会合したタンパク質とこれらの相互
作用は、SPRによって検出および定量され得る。
【0052】
ディスクの安定性の測定およびクラス中のサイズ分散性の決定は、作製される
構築物を評価するために必要である。ゲル濾過および未変性のゲル電気泳動を使
用して、異なるサイズのクラスを分離し、そして定量する。分光法を使用して、
操作したMSPの二次構造(CD)および脂質会合(蛍光)特性(理論に基づく
安定性および化学的変性を含む)を定量する。ディスク中の成分の組成および化
学量論は、従来の方法によって定量される(Jonas、1986)。
【0053】
AFMを使用して、製造された系の脂質およびタンパク質成分の構造的な編成
に基づいて、分子分解能のデータを提供する。この技術は、大気中、真空中、お
よび水性流体および非水性流体下で使用され得る。この後者の能力は、生物科学
において、この技術を最も重要な走査型プローブ技術にする。このAFMは、非
常に汎用性のある装置であり、この装置は、種々の異なるモードにおける力デー
タの画像および他の形態(例えば、接点力、タッピング力、位相力、および側方
力)を獲得し得る(Sarid、1994)。これらの全ての走査型モードは、
Digital Instruments Multimode Scanni
ng Probe Microscope(Digital Instrume
nts,Plainview,N.Y.)で市販され、そしてこれらは、rHD
Lおよび生物学的緩衝液中でrHDL層と会合されるタンパク質を画像化するた
めに首尾良く使用されている。この装置をまた、STMおよび電子化学モードに
おいても使用して、金に会合した構造および組み込まれた酸化還元タンパク質の
特性を研究し得る。
【0054】
本明細書中で使用される場合、膜スカホールドタンパク質は、リン脂質および
リン脂質混合物をナノメーターサイズの膜二重層に自己構築する、タンパク質ま
たはポリペプチドである。これらの構造のサブセットは、円盤形状であり、そし
てナノディスクと呼ばれる。疎水性タンパク質(例えば、膜タンパク質)または
膜フラグメントは、これらの粒子と会合し得、この疎水性タンパク質または膜フ
ラグメントは、安定な構造で効率的に可溶化され、これにより、酵素の活性また
はリガンドの結合に関して、このタンパク質の機能を維持する。これらの粒子は
、溶液中で安定であるか、またはこれらは、この表面に関して、有利に均一な配
向で表面に固定され得る。本明細書中で使用される場合、MSPを含むナノ粒子
(別の疎水性のタンパク質または部分的に疎水性のタンパク質を含むか、または
含まないナノ粒子)は、約5〜約500nm、望ましくは、約5〜約100nm
、または約5〜約50nmの直径であり得る。約5〜約15nmの直径のナノ粒
子(ディスク)は、特に有用である。
【0055】
本発明者らは、MSP1およびMSP2の両方が、バクテリオロドプシンとと
もに構築することを示した。添加されたリン脂質の非存在下で、粒子が、MSP
1(図11)またはMSP2(図12)とともに形成される場合、最初の再構成
混合物から、2つのバクテリオロドプシン含有種が観測される。本発明者らは、
これらの種を形成するバクテリオロドプシンの可溶性のためにMSPが絶対に必
要とされることを見出した。なぜならば、形成混合物由来のMSPを含まないと
、ゲル濾過カラムの空隙容量中で溶出する、大きな非特異的なバクテリオロドプ
シンの凝集が生じるからである。図11の15分目にある小さなピークは、BR
の凝集を示す。これらの実験において、バクテリオロドプシンの大部分は、MS
Pの存在下で可溶化されるようである。観測された粒子の2つのサイズは、この
構造において変性コンフォメーションを組み込む推定「ヒンジドメイン」と完全
に一致する。先行技術から、この可撓性ヒンジ領域は、MSP1に対する推定に
より、ヒトApo−AIのらせん体5および6に対応するらせん体を構成すると
考えられている。従って、9.8nmの直径のバクテリオロドプシン含有粒子に
おいて、このタンパク質構造のこれらの可撓性部分は、この構造の疎水性コアと
会合するが、7.6nmの直径の粒子において、このらせん領域は、この疎水性
コアから解離して、より小さな直径粒子を形成するようである。
【0056】
親のApo−AIタンパク質のさらなる改変は、より効果的かつ安定な膜スカ
ホールドタンパク質を形成し得る。例えば、BR/MSP構造の均一性を増加し
、そして上述のタンパク質構造の可撓性「ヒンジ」領域の問題を処理するために
、本発明者らは、ヒンジドメイン領域を欠失させ、2つの新しい膜スカホールド
タンパク質を産生した。第1の場合において、推定らせん領域4および5をMS
P1ヒスチジンタグ化構造から欠失させて、MSP1D5−6と呼ばれる構造を
産生した。第2の実験において、推定ヘリックス5および6を欠失させて、MS
P1D4−5と呼ばれる物質を産生した。本発明者らは、lac調節構造におい
て、イソプロピル−チオ−b−D−ガラクトピラノシドを用いた発現の誘導によ
り、高レベルで発現される、これらのタンパク質をE.coli中で過剰発現さ
せた。
【0057】
複数の粒子サイズのクラスの形成を避ける代替の方法は、MSP構造を操作す
ることであり、このヒンジドメインのらせん体は、この粒子の疎水性コアに対し
てより高い親和性を有するらせん体と置換される。この場合、より高い親和性相
互作用は、より小さい種の形成を所望せず、ここで、このヒンジドメインは、解
離される。この実験の指針において、本発明者らは、このヒンジ領域(らせん5
および6)を、らせん1および2に対応するネイティブ配列に対応するタンパク
質配列と置換するように選択した。別の形態において、本発明者らは、膜スカホ
ールドタンパク質をコードするDNA構造を選択し、ここで、推定らせん領域3
および4に対応するタンパク質配列を使用して、バクテリオロドプシンと脂質と
の構築の際に、単一のサイズの粒子を得る目的で、このヒンジ領域を置換する。
【0058】
親のヒトApo−AIタンパク質中に存在する、いわゆる「半反復(half
−repeat)」単位はまた、MSPアセンブリ中のコンフォメーション不均
質性を生じ得る。例えば、このピケットフェンスモデルにおいて、これらのらせ
ん体は、この二重層平面に対して平行なコンフォメーションを取り、そしてタン
パク質配列の他の領域が寄与すると考えられる場合、この粒子の疎水性コアとの
相互作用に主な役割を果たさない。この「ベルトモデル」において、これらの短
いらせん体の反復は、MSPが異なるコンフォメーションを取ることを可能にす
る、セグメント化された移動度を生じ得る。換言すれば、構造エレメントのタイ
プの数が最小化されるMSPは、膜スカホールドタンパク質概念の最も所望され
る実施形態である。従って、内在性膜タンパク質標的に可溶化する能力に関して
、膜スカホールドタンパク質の構造をさらに最適化するために、本発明者らは、
両方の半反復単位を欠失する誘導体配列を操作して、単純化されたMSP構造を
産生し得る。
【0059】
本発明のMSPと特異的に反応する、モノクローナル抗体またはポリクローナ
ル抗体(好ましくは、モノクローナル抗体)は、当該分野で公知の方法によって
作製され得る。例えば、HarlowおよびLane(1988)Antibo
dies:A Laboratory Manual,Cold Spring
Harbor Laboratories;Goding(1986)Mon
oclonal Antibodies:Principles and Pr
actice,第2版,Academic Press,New York;お
よびAusubelら(1993)Current Protocols in
Molecular Biology,Wiley Interscienc
e,New York,NYを参照のこと。
【0060】
クローニング、DNAの単離、増幅、および精製のため標準的な技術、DNA
リガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどに関連する酵素反
応のための標準的な技術、および種々の分離技術は、当業者に公知の技術であり
、普通に使用される技術である。多くの標準的な技術が、以下に記載されている
:Sambrookら(1989)Molecular Cloning,第2
版,Cold Spring Harbor Laboratory,Plai
nview,New York;Maniatisら(1982)Molecu
lar Cloning,Cold Spring Harbor Labor
atory,Plainview,New York;Wu(編)(1993)
Meth.Enzymol.218,第1部;Wu(編)(1979)Meth
.Enzymol.68;Wuら(編)(1983)Meth.Enzymol
.100および101;GrossmanおよびMoldave(編)Meth
.Enzymol.65;Miller(編)(1972)Experimen
ts in Molecular Genetics,Cold Spring
Harbor Laboratory,Cold Spring Harbo
r,New York;OldおよびPrimrose(1981)Princ
iples of Gene Manipulation,Universit
y of California Press,Berkeley;Schle
ifおよびWensink(1982)Practical Methods
in Molecular Biology;Glover(編)(1985)
DNA Cloning 第1巻および第II巻,IRL Press,Oxf
ord,UK;HamesおよびHiggins(編)(1985)Nucle
ic Acid Hybridization,IRL Press,Oxfo
rd,UK;SetlowおよびHollaender(1979)Genet
ic Engineering;PrinciplesおよびMethods,
第1〜4巻,Plenum Press,New York;ならびにAusu
belら(1992)Current Protocols in Molec
ular Biology,Greene/Wiley,New York,N
Y。使用した略語および命名法は、当該分野で標準的であり、そして本明細書中
で引用されるような専門雑誌中で普通に使用される。
【0061】
本出願において引用される全ての参考文献は、本発明の開示と矛盾が生じない
範囲で本明細書中で参考として援用されている。
【0062】
本明細書中で提供される記載は、本明細書中で権利を主張する場合、本発明の
範囲を限定するように意図されない。当業者に生じる、例示の物品および方法に
おける任意のバリエーションは、本発明の範囲内であると意図される。
【実施例】
【0063】
(実施例1.MSPの発現のための組換えDNA分子の構築)
以下に示されるヒトproApoAIコード配列を、pET−28(Nova
gen,Madison,WI)におけるNco IとHind III部位(
下線が引かれている)との間に挿入した。開始コドンおよび終止コドンは、太字
である。クローニングに使用される制限エンドヌクレアーゼ認識部位に、下線を
引く。
【0064】
(表1.ProApoAIコード配列(配列番号1)クローニングにおいて使
用した制限部位に下線を引き、そして翻訳の開始シグナルおよび終止シグナルを
、太字で示す)。
【0065】
【化1】


(表2.ProApoIアミノ酸配列(配列番号2))
【0066】
【化2】


MSP1コード配列の構築を、以下のようにして達成した。MSP1(Pro
ApoAIのN末端ドメインを欠く短縮型タンパク質)をコードするDNAを、
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)変異誘発によって産生するために、プライマー
を設計した(Higuchiら、1988)。プライマー1(配列番号3)。
【0067】
【化3】


は、MSP1の精製および操作のためにN−末端6−ヒスチジンタグ、およびヒ
スチジンタグタグの除去のためにXa因子切断部位を導入する。Xa因子は、タ
ンパク質配列IEGR中のRの後ろを切断する。プライマー2(配列番号4)
【0068】
【化4】


を、逆方向プライマーとして使用した。
【0069】
【化5】

【0070】
【化6】


N−末端ヒスチジンタグなしでのMSP1の生成のために、プライマー1を、
配列番号8に提供される配列を生成するためにプライマー1a:
【0071】
【化7】


(配列番号7)で置換した。
【0072】
【化8】

【0073】
【化9】


タンデム型リピートを有するMSP(MSP2)の生成を、以下に記載される
ように実行した。次のプライマーを、MSP2を生成するために使用した(図6
A〜6Bを参照のこと):
プライマー3(配列番号10):
【0074】
【化10】


プライマー3a(配列番号11):
【0075】
【化11】


プライマー4(配列番号12):
【0076】
【化12】

プライマー5(配列番号13):
【0077】
【化13】


プライマー6(配列番号14):
【0078】
【化14】


最初のPCRにおいて、プライマー2(またはN−末端ヒスチジンタグのための
プライマー2a)およびプライマー4を使用して、MSP遺伝子の3’末端にリ
ンカー(アミノ酸配列
【0079】
【化15】


(配列番号15)をコードする)を付加し、MSP−Aを生成した。2回目のP
CRにおいて、リンカーを、MSP遺伝子の5’末端に付加し、MSP−Bを生
成した。KpnIを用いたMSP−AおよびMSP−Bの処理、および引き続く
連結は、次の構築物:一方はリンカーを有し、もう一方はリンカーを有さないも
の、を生成した。KpnI部位は、KpnIでの制限および所望のリンカーをコ
ードする二本鎖合成DNAとの再連結によって、任意の所望のリンカー配列を挿
入する簡単な方法を提供する。図7A〜7Bを参照のこと。
【0080】
【化16】

【0081】
【化17】

【0082】
【化18】

【0083】
【化19】


ヒンジ領域を除去するために、ヘリックス4および5の除去を、次のPCRプ
ライマーならびに鋳型としてMSP1コード配列のSac IおよびHind
IIIフラグメントを使用してMSP1のC末端部分を構成することによって実
行した。
【0084】
プライマーA(配列番号20):
【0085】
【化20】


プライマーB(配列番号21):
【0086】
【化21】


この増幅産物を、Sac IおよびHind IIIで消化し、そして配列決定
のためにpLitmus28に連結した。pET 28ベクターにおいてSac
I+Hind IIIで処理したヒスチジン化タグMSP1構築物を、MSP
1D4−5を生成するために上記の断片と連結した。
【0087】
【化22】

【0088】
【化23】


ヘリックス5および6の除去を、同じ様式で行なったが、以下のプライマーを
用いた2つの別々のPCR工程を、1回目の反応(反応1、プライマーC:
【0089】
【化24】

、配列番号24;およびプライマーD:
【0090】
【化25】


、配列番号25)および2回目の反応(反応2、プライマーE:
【0091】
【化26】


、配列番号26;およびプライマーF:
【0092】
【化27】


、配列番号27)において使用した。
【0093】
PCR産物は、ヘリックス5および6の両方が欠失するMPSのN末端部分お
よびC末端部分をコードし、そしてNhe I制限部位をそれぞれ含む。Nhe
I、Nco IおよびHind IIIを用いてのPCR生産物の消化後、フ
ラグメントを、Nco I+Hind IIIで処理したpET 28に連結し
、ヘリックス5および6が欠失したMSP1D5−6のDNA配列を生成した。
図9A〜9Bを参照のこと。
【0094】
【化28】

【0095】
【化29】


(実施例2.合成MSP遺伝子の構築)
MSP1の合成遺伝子を、PCRを用いて補充された次の重複合成オリゴヌク
レオチドを使用して作製した。コドン使用頻度を、E.coliでの発現のため
に至適化し、そして制限部位を、遺伝子のさらなる遺伝子操作のために導入した

【0096】
合成ヌクレオチドtaps1a(配列番号30)
【0097】
【化30】


合成ヌクレオチドtaps2a(配列番号31)
【0098】
【化31】


合成ヌクレオチドtaps3a(配列番号32)
【0099】
【化32】


合成ヌクレオチドtaps4a(配列番号33)
【0100】
【化33】


合成ヌクレオチドtaps5a(配列番号34)
【0101】
【化34】


合成ヌクレオチドtaps6a(配列番号35)
【0102】
【化35】


合成ヌクレオチドtaps1b(配列番号36)
【0103】
【化36】


合成ヌクレオチドtaps2b(配列番号37)
【0104】
【化37】


合成ヌクレオチドtaps3b(配列番号38)
【0105】
【化38】


合成ヌクレオチドtaps4b(配列番号39)
【0106】
【化39】


合成ヌクレオチドtaps5b(配列番号40)
【0107】
【化40】


合成ヌクレオチドtaps6b(配列番号41)
【0108】
【化41】

【0109】
【化42】


以下は、半分の繰り返しが欠失したMSPpポリペプチドのアミノ酸配列であ
る。
【0110】
【化43】

【0111】
【化44】

【0112】
【化45】


容易に生成し得る他の構築物は、上記の置換(すなわち、以下:ヒンジ欠失、
ヒンジ置換、半分の繰り返しの欠失、ヒスチジンタグ、MSP2に対する異なる
リンカーの任意の組み合わせを伴なう、MSP1またはMSP2)を含む。
【0113】
(実施例3.組換えMSPの発現)
MSPタンパク質を発現するために、核酸構築物を、pET28発現ベクター
中のNco I部位とHind III部位との間に挿入し、そしてE.col
i BL21(DE3)中に形質転換した。形質転換体を、選抜のためにカナマ
イシンを使用したLBプレート上で増殖させた。コロニーを、30μg/ml
カナマイシンを含むLB培地で増殖させる5mlの開始培養物を接種するために
使用した。過剰発現のために、30μg/ml カナマイシンを含む100容量
のLB培地に1容量のオーバーナイト培養液を添加することによって、培養物を
接種し、そして振盪フラスコ中、37℃で増殖させた。600nmの吸光度で0
.6〜0.8に達するときに、イソプロピル b−D−チオガラクトピラノシド
(IPTG)を1mMの濃度まで添加し、発現を誘導し、そして細胞を遠心分離
で回収する前に3〜4時間以上増殖させた。細胞ペレットを、瞬間凍結し、そし
て−80℃で保存した。
【0114】
(実施例4.組換えMSPの精製)
ヒスチジンタグ化MSPの精製を、以下のように行なった。1リットルの発現
培養液からの凍結細胞ペレットを、25ミリリットルの、1mMのフェニルメチ
ルスルフォニルフルオリドを含む20mM Tris HCl(pH7.5)中
に再懸濁した。Triton −X100(t−オクチルフェノキシポリエトキ
シエタノール)を、1%の最終濃度になるように蒸留水中の10%(w/v)ス
トックから添加した。再懸濁された細胞を、50%デューティサイクル、5のパ
ワーセッティングで、1分オン5分オフの4サイクル間、ブランソンプローブソ
ニファー(Branson probe sonifier)を用いて氷上で超
音波処理した。生じた溶解物を、Beckman Ti 45 ローターの超遠
心分離機において、30,000rpmで30分間遠心分離した。生じた上清を
、0.22mmナイロンシリンジフィルターを通して濾過した。塩濃度を、水中
の4M NaClストックから0.5Mに調整し、そしてカラムに充填した5m
l Hi−Trapニッケル(Pharmacia,Piscataway,N
J)に適用した。
【0115】
6H−MSP1のために、カラムを、1% Triton X−100を含む
20ml 緩衝液(10mM Tris(pH8)、0.5M NaCl)、続
いて、20ml 緩衝液+50mM コール酸ナトリウム、次いで20ml 緩
衝液そして100mM イミダゾールを含む緩衝液20mlを用いて洗浄した。
His−タグ化ポリペプチドを、0.5Mイミダゾール含む緩衝液15mlで溶
出する。
【0116】
6H−MSP2のために、カラムを1% Triton X−100を含む2
0ml 緩衝液(10mM Tris(pH8)、0.5M NaCl);20
ml 緩衝液+50mM コレート;20ml 緩衝液;35mM イミダゾー
ルを含む緩衝液20ml用いて、洗浄した。次いで、His−タグ化ポリペプチ
ドを、0.5Mイミダゾールを含む緩衝液15mlで溶出し、そして精製したタ
ンパク質を、10,000MW カットオフのセルロース透析膜を用いて、10
mM Tris(pH8)、0.15M NaClに対して透析する。
【0117】
(実施例6.MSPを含むナノスケール粒子の生成)
本発明のMSPタンパク質を脂質を用いて再構成するために、精製MSPを、
10,000MWカットオフのフィルターを用いて加圧限外濾過デバイス(Am
icon)中で、約2〜6mgタンパク質/mlまで濃縮した。タンパク質の濃
度を、ビシンコニン酸(bicinchonic acid)アッセイ(Pie
rce Chemical,Rockford,IL)、または理論的な吸収係
数を用いてA280の測定によって決定した。クロロホルムストック溶液中のリ
ン脂質(この場合、ジパルミトイルホスファチジルコリンであるが、異なるホス
ファチジルコリンおよびホスファチジルコリンと他の脂質との混合物も使用し得
る)を、窒素流下で乾燥し、そして真空下で終夜静置した。ホスフェート分析を
実施して、クロロホルムストック溶液の濃度を決定した。乾燥させた脂質フィル
ムを、0.15M NaClおよび50mMコール酸ナトリウムを含む10mM
Tris HCl(pH8.0またはpH7.5)の緩衝液に再懸濁し、25
mMの最終脂質濃度を得た。懸濁液を、ボルテックスし、そして50℃に加熱し
て透明な溶液を得た。リン脂質溶液を、MSP1:脂質について2:200のモ
ル比およびMSP2:脂質について1:200のモル比を得るように、MSPの
溶液(2〜6mg/mlタンパク質)に加えた。この混合物を、37℃で一晩イ
ンキュベートし、次いでコレートを含まない1000容量の緩衝液に対して、緩
衝液を4回交換しながら2日〜3日かけて透析した。
【0118】
(実施例7.係留(tethered)膜タンパク質の組み込み)
組織因子(TF)は、代表的な係留膜タンパク質である。この係留膜タンパク
質に対するMSP技術の価値を実証するために、組換えヒトTFを、MSP支持
ナノディスク中に組み込んだ。この組換えタンパク質は、細胞外ドメイン、膜貫
通アンカー、および短縮細胞質ゾルドメインから成る。短縮は、細菌酵素によっ
てタンパク質分解を受けるタンパク質のC末端部分を取り除くことによって、タ
ンパク質の均質性を増大させる。この改変は、TF活性に影響を与えない。タン
パク質に対するさらなる改変としては、N末端輸送ペプチドおよびHPC4エピ
トープタグが挙げられる。この輸送ペプチドは、組換えE.coli宿主細胞の
膜間腔(ペプチド配列が切断される空間)に発現したタンパク質を指向する。H
PC4エピトープは、Ca2+依存性抗体を用いたアフィニティー精製を可能に
し(Rezaieら、1992)、そしてTF活性に影響を与えない。
【0119】
80%ホスファチジルコリンおよび20%ホスファチジルセリンを含む25m
Mの脂質混合物を、10mM Tris Cl、150mM NaCl(pH8
.0)中の50mM コレートで、可溶化した。TF、MSP1および脂質(1
:10:1000の比)を混合し、そして37℃で一晩インキュベートした。次
いで、サンプルを、10mM Tris Cl、150mM NaCl(pH8
.0)を含む緩衝液(コール酸を含まない)に対して、2時間37℃で(10,
000ダルトン分子量カットオフの膜にて)透析した。次いで、透析を、さらに
6時間、2時間ごとに緩衝液と交換しながら4℃で続けた。次いで、約1mlの
サンプルを、YM−10遠心分離濃縮装置を用いて250μlより下に濃縮し、
そしてPharmacia 10/30 Superdex 200 HR ゲ
ル濾過カラムに注入した。サンプルを、上記に記載するのと同一の緩衝液(コー
ル酸を含まない)を用いて、0.5ml/分で溶出した。クロマトグラフィーか
らの画分を、8%〜25%勾配のSDSポリアクリルアミドゲルで泳動し、外見
上の大きさを決定し、次いで凝固活性について確認した。MSP1ナノディスク
の過剰集団中に組み込まれたTFの溶出を示すクロマトグラムを、図16A〜1
6Bに示す。
【0120】
いくつかのディスク画分中のTFの活性を、ヒト血清を用いた凝固アッセイに
よって決定した。活性を、凝固時間の逆元として画分25〜28においてモニタ
ーした。活性は、40hr−1にて画分25で最も高く、そして30hr−1
て画分28を通して減少した。このことは、ナノディスクピークの先端がMSP
支持二重層におけるTFの組み込みに起因してより大きい有効質量を有するとい
う点で、サイズクロマトグラムから予想される。したがって、このアッセイは、
TFが活性なコンフォメーションでナノディスクに組み込まれること、およびナ
ノディスクの膜環境がネイティブの膜系の環境を非常に模倣するということを実
証する。
【0121】
シトクロムb5は、膜二重層を貫通する単一膜固着アンカードメインを有する
、膜結合ヘムタンパク質である。そのネイティブな膜から可溶化されたシトクロ
ムb5は、界面活性剤の非存在下で大きな凝集体として存在し、ネイティブポリ
アクリルアミドゲル電気泳動上での分離したバンドよりもスメアーに現れる。自
己アセンブリプロセスを介したナノディスクの形成(ここで、シトクロムb5は
、MSPおよび脂質の調製物に添加される)は、シトクロムb5のナノディスク
構造への組み込みを生じる。これは、右のパネルの図17Bを参照して、レーン
4におけるナノディスクに対応するバンドの強力なヘム染色によって確認される
。陰イオン交換クロマトグラフィーによって分離されるシトクロムb5含有ナノ
ディスクを、図17Bのレーン5および6に示す。2つのピークを、310mM
NaCl付近および370 NaCl付近にて、陰イオン交換カラムから溶出
した。ディスク単独を310mM NaCl付近で溶出し、シトクロムb5単独
を450mM NaClと700mM NaClとの間で溶出した。これらのデ
ータは、シトクロムb5がMSP技術を用いて好首尾に可溶化され得ること、お
よびシトクロムb5を含むディスク複合体がクロマトグラフィーによって分離さ
れ得、そして所望されない凝集材料から精製され得ることを示す。精製材料のヘ
ム発色団の光学吸収特性は、ネイティブコンフォメーションにおけるヘム活性部
位を実証する。
【0122】
ナノディスクをまた、20μlのapo A−I(10mg/ml)、6.6
μl シトクロムb5(0.5mM)および50μl 卵ホスファチジルコリン
/コール酸ナトリウム(11.2卵PC、6.2mg/ml コール酸ナトリウ
ム)を混合し、一晩4℃でインキュベートすることによって形成させ得、続いて
コレートを除去するために透析した。精製を、25mM Tris Cl(pH
8.0)中で平衡化したPharmacia MonoQ FPLC陰イオン交
換カラムを用いて達成した。直線勾配を、0〜1M NaClで20分間、0.
5ml/分にて実行した。
【0123】
(実施例8.包埋(embedded)膜タンパク質組み込み)
ウサギ肝臓ミクロソーム由来のシトクロムP450 2B4、ヒト肝臓ミクロ
ソーム中に天然に見出されるシトクロムP450 3A4、および昆虫ミクロソ
ーム由来のシトクロムP450 6B1は、代表的な包埋膜タンパク質である。
【0124】
シトクロムP450 2B4を、フェノバルビタールを用いた誘導後に、ウサ
ギ肝臓ミクロソームから単離した。2B4ナノディスクの形成は、以下のようで
ある。シトクロム P450 2B4を、界面活性剤透析方法によってディスク
中に再構成した。この緩衝液は、10mM Tris−HCl(pH8.0)、
0.1M NaCl、10%(v/v)グリセロールからなる。apo A−I
、コール酸およびリン脂質の混合物(1:220:110のモル比)を、37℃
で8時間インキュベートし、続いてP450(1:0.5、apo A−I:P
450モル比)を添加し、室温で一晩インキュベートした。この混合物を、10
,000MWカットオフのslide−a−lyzer(Pierce Che
mical Co.,Rockford,IL)を用いて室温で2時間透析し、
続いて、緩衝液を交換し、透析を4℃で続けた。P450含量の82%がこれら
の条件下で再生され得ることが見出された。透析後、この混合物を、再構成緩衝
液中で平衡化したSuperdex 200 HR10/30ゲル濾過カラム(
Pharmacia,Uppsala,Sweden)上に注入し、室温で0.
25ml/分の流速にて0.5mlの画分で収集した。画分を8〜25%勾配の
ネイティブゲル上でのネイティブポリアクリルアミドゲル勾配ゲル電気泳動、お
よびPhastgelシステム(Pharmacia,Uppsala,Swe
den)を用いてクマシー染色を使用して、アッセイした。
【0125】
通常肝臓ミクロソーム由来のヒトシトクロムP450 3A4をまた、クロー
ニングし、E.coli中で発現させ、精製し、そしてMSP支持二重層ナノデ
ィスクに組み込んだ。10ナノモルのMSP2、1マイクロモルの脂質、5ナノ
モルのシトクロムP450 3A4タンパク質および2マイクロモルのコール酸
を、一緒に37℃で2時間インキュベートした。次いで、このインキュベートし
た混合物を、10K Slide−A−lyzer Dialysis Cas
sette(Pierce Chemical Co.,Rockford,I
L)中で透析した。この透析は、10mM リン酸カリウム(pH7.4)、1
50mM NaCl緩衝液を用いて実行した。サンプルを37℃で6時間透析し
、続いて緩衝液を交換し、そして12時間間隔で2回緩衝液を交換しながら4℃
で透析を続けた。次いで、サンプルを、透析緩衝液中で平衡化したSuperd
ex 200 HR 10/30カラム(Pharmacia,Uppsala
,SE)上で、室温にて0.5ml/分の流速で分画した。
【0126】
4つのグラフ(図18〜20)は、カラムから溶出されるシトクロムP450
3A4(417nmの吸光度で観察される)およびナノディスク(MSPおよ
び3A4タンパク質の両方が吸収する280nmにてモニターされる)の保持時
間が同時(約24分)であることを示す。この溶出時間はまた、ディスクタンパ
ク質複合体の計算した保持時間と密接に相関する。このことを支持するさらなる
証拠は、溶出粒子のサイズを直接測定するネイティブポリアクリルアミドゲル電
気泳動である(図21)。
【0127】
シトクロムP450 6B1は、別のモデルの包埋膜タンパク質である。この
シトクロムは、Papilio polyxenes(黒アゲハ)から単離され
た。これらの蝶は、もっぱらフラノクマリン(ほとんどの生物に対して光毒性で
ある植物代謝物)を産生する植物を餌とする。シトクロム6B1は、フラノクマ
リンの解毒を触媒する。
【0128】
本発明のMSP方法論の新規有用性を示すために、本発明者らは、膜タンパク
質のレパートリーを含む単離された膜が、膜タンパク質をナノディスクに組み込
むための供給源として求められ得ることを実証した。重要な例示的な実施形態は
、異種発現系として広範に使用される、一般的な昆虫細胞(Sf9)−バキュロ
ウイルス発現系の使用である。したがって、本発明者らは、ミクロソーム調製物
が過剰発現された昆虫6B1および過剰発現された昆虫NADPHシトクロムP
450レダクターゼも含むように、同時感染された昆虫細胞株を使用した。これ
らの実験において、本発明者らは、MSPナノディスクを使用して、別のシトク
ロムP450システムを可溶性単分散粒子に組み込み得ることを実証するだけで
なく、このP450の供給源が単にこのタンパク質を含む膜全体であり得ること
も実証する。
【0129】
標準的なバキュロウイルス発現系を使用して、過剰発現された昆虫シトクロム
6B1および昆虫NADPH P450レダクターゼを有するミクロソーム調製
物を得た。ミクロソーム調製物に含まれる脂質濃度に基づいて、MSP技術を使
用して、110:1:220の脂質:MSP1:コレートの比率で用いて、ミク
ロソームタンパク質をナノ粒子ディスク中にアセンブリさせた。ミクロソームサ
ンプルを、コレートを用いて界面活性剤で可溶化し、そしてMSP1と混合した
。サンプルを4℃で2時間インキュベートした。界面活性剤を、透析または疎水
性ビーズによって除去し得る。この実験において、BIOBEADS(疎水性ビ
ーズ、BioRad、Hercules,CA)を過剰に添加し(1mlのディ
スク混合物当たり0.25g)、4℃で2時間インキュベートして界面活性剤を
除去した。サンプルをビーズから外し、His−タグ化MSPを、Ni2+
脂を用いたバッチ精製方法を用いることによって単離した。次いで、MSPディ
スクを、Superdexサイジングカラムクロマトグラフィーによって単離し
た(図22)。His−タグ化ディスクへのP450の組み込みの後、ニッケ
ルアフィニティーカラム精製した分画およびサイジングカラム精製した分画のC
O吸収分光法を行った(図24)。SDS−PAGEを実行して、ディスクへの
シトクロムP450 6B1の組み込みを確認した(図23)。
【0130】
シトクロムP450のレダクターゼに対する内因性(天然の)比率は、約10
〜20である。ディスクへの再構成後のシトクロムP450 6B1の活性を得
るために、過剰量のレダクターゼが再構成混合物に添加されることが好ましく、
その結果、P450分子およびレダクターゼ分子の両方が、単一のディスクに分
けられる。レダクターゼが外因性に添加されたミクロソーム調製物の追加が、好
首尾に実証された。
【0131】
ミクロソーム調製物を用いてディスクを作製するためのプロトコルを、1ヶ所
改変して使用した。コレートを用いたミクロソーム調製の可溶化工程後であって
、かつMSP1の添加前に、外因性ラットレダクターゼを添加した。そうでなけ
れば、同一のディスクアセンブリ手順および精製手順を続けた。サンプルを、S
uperdexサイジングカラムによって分離し、ここで、280nmにおける
吸光度は、MSP1の存在を示し、420nmおよび456nmにおける吸光度
は、鉄の種の存在を示し、そして456nmにおける吸光度はまた、レダクター
ゼの存在を示す。456〜420nmの比率プロットを作製した;これは、45
6nmでの吸光度がシトクロムP450 6B1と関連する吸光度を超え、ゆえ
に、レダクターゼによる吸光度に寄与し得る、クロマトグラム上の位置を示し、
。保持時間は、シトクロムP450 6B1およびレダクターゼを含む10nm
粒子の存在を反映する(図26)。
【0132】
精製されたタンパク質、膜フラグメントまたは破壊された膜を有するMSP支
持ナノディスクを、例えば、高スループットのスクリーニングベンチャーに使用
して、新規の医薬および他の生物学的に活性な分子を同定し得る。
【0133】
(実施例9.内在性膜タンパク質組み込み)
バクテリオロドプシンは、モデルの内在性膜タンパク質である。バクテリオロ
ドプシンを、以下の手順を用いてナノスケール構造に組み込んだ。このプロトコ
ルは、他のタンパク質に対しても有用である。バクテリオロドプシンを、Sig
ma(St.Louis,MO)から凍結乾燥した紫膜として得た。1mg B
Rを、1mlの25mM リン酸カリウム(pH6.9)に懸濁した。同じ緩衝
液中の1mlの90mM n−オクチル B−D−グルコピラノシドを添加し、
サンプルを暗所に24℃で一晩静置した。この処理によって、界面活性剤で可溶
化されたモノマー形態を生じる(Dencherら、1982)。BRを定量し
、550nmにて63,000のモル吸光率と見積もった。BR(7.8μM)
を、MSP1(97mM)またはMSP2(110mM)およびコレート(50
mM)と混合し、10:1のMSP1:BRまたは5:1のMSP2:BRの最
終モル比および約8mMのコレート濃度を得た。リン脂質を用いた再構成のため
に、脂質を、50mM コレートの存在下で上記のように可溶化し、1(MSP
1):110(脂質):0.1(BR)のモル比で、MSP1と混合した。この
混合物を室温で約3時間インキュベートし、続いて、10,000MWカットオ
フの透析デバイス(Slide−a−lyzer,Pierce Chemic
al)を用いて、1000容量の緩衝液に対して一晩透析した。緩衝液を数回交
換しながら、透析を4℃で2日間続けた。10mM HEPES(pH7.5)
、0.15M NaCl緩衝液を使用し得る。この緩衝液(pH7.5またはp
H8)もまた、好首尾に使用した。
【0134】
ヒト由来の5−ヒドロキシトリプタミン 1A Gタンパク質共役レセプター
を、MSP含有ナノ粒子に組み込んだ。市販の昆虫細胞発現系(これは、ヒト5
−ヒドロキシトリプタミン 1A GPCRを含有する膜画分を提供する)を、
MSP組成物を用いて支持した。簡単に言うと、5−HTレセプター含有膜調製
物を、45:45:10の比でリン脂質(ホスファチジルコリン、ホスファチジ
ルエタノールアミン、ホスファチジルセリン)、MSP1およびコレートと混合
した。
【0135】
市販のSf9昆虫細胞膜調製物(Sigma Chemical Co.,S
t.Louis,MO)中で過剰発現される5−HT1Aレセプターを、以下の
プロトコルを用いて可溶化した。クロロホルム中のPOPC、POPS、および
POPE(Avanti Phospholipid)を、45:10:45の
モル比で混合し、窒素流下で乾燥させ、ついで、数時間減圧下に置いて、残留溶
媒を除去した。リン脂質を、25mM リン脂質濃度にて、50mM Tris
(pH7.4)、0.2M NaCl、50mM コール酸ナトリウムの緩衝液
中に分散させた。5マイクロリットルのsf9膜調製物(0.2mg/ml タ
ンパク質)、緩衝液中の1.62マイクロリットルのリン脂質、2.4マイクロ
リットルのMSP1(4.2mg/ml)および0.28マイクロリットルの4
M NaClを混合し、氷上で1時間静置した。この混合物を、50mM Tr
is(pH7.4)を用いて100マイクロリットルの総容量に希釈し、4℃に
て50mM Tris(pH7.4)に対して、mini slide−a−l
yzer(Pierce Chemical)中で透析した(1リットルの緩衝
液を2回交換)。ナノディスクに会合した5HT1Aレセプター量を決定するた
めに、放射性標識したリガンドをレセプターに結合させ、そしてディスク−レセ
プター−リガンド複合体を、以下のプロトコルに従って、MSP1の存在下で6
−ヒスチジンタグを用いて単離した。透析後、この混合物を、50mM Tri
s(pH7.4)を用いて200マイクロリットルの総容量に希釈した。95マ
イクロリットルの希釈した混合物を、2つのチューブの各々に入れた。105マ
イクロリットルのストック試薬を添加して、最終容量200マイクロリットル中
、50mM Tris(pH7.4)、10mM MgSO4、0.5mM E
DTA、0.1% アスコルビン酸の最終濃度を得た。トリチウム標識した8−
ヒドロキシ−DPAT(比放射能135000Ci/モル)を各チューブに添加
して、1.5nMの濃度を得た。コントロールとして、標識していないメテルゴ
リン(最終濃度100マイクロモル濃度)を競合リガンドとして一方のチューブ
に添加した。氷上で1時間後、この混合物を200マイクロリットルのNiキレ
ート樹脂に適用して、6ヒスチジンタグ化MSP1ディスクと会合するレセプタ
ーに特異的に結合させた。この樹脂を0.5mlの冷50mM Tris(pH
7.4)を用いて3回洗浄し、非特異的に結合したリガンドを除去した。レセプ
ター/ディスク複合体に結合した、特異的に結合した放射性標識8−ヒドロキシ
−DPATを、10mM Tris(pH7.4)、0.5M NaCl中の0
.5mlの0.5モル濃度イミダゾールを用いて溶出した。シンチレーションカ
クテルを溶出物と混合し、特異的に結合した放射性リガンドを、シンチレーショ
ン計数によって決定した。sf9膜に最初に存在したレセプターのうち、5%と
15%との間のレセプターが、MSP1ナノディスクと会合することが見出され
た。
【0136】
5−HT GPCRが組み込まれる粒子を透析した。機能性(リガンド結合に
関して)を、トリチウム化した8−OH−DPAT(このレセプターのアゴニス
ト)を含む緩衝液に対する透析を用いて試験した。次いで、その粒子をNi−N
TAカラムに流し、MSP1上のヒスチジンタグを介して結合させ、その粒子に
結合していない8−OH−DPATからその粒子を分離させ、次いで、カラムに
結合した物質を溶出した。トリチウム標識したアゴニストの会合を実証し、これ
によって、組み込まれたGPCRがアゴニストに結合するというその能力を保持
することを示した。
【0137】
(実施例10.MSP支持されたナノディスクリン脂質アセンブリの分析)
膜スカホールドタンパク質およびリン脂質の自己アセンブリから生じる、さら
なる標的タンパク質を有するかまたは有さない粒子を、以下のように分析した。
【0138】
バクテリオロドプシン含有粒子を透析して、得られた混合物をSuperde
x 200 HR10/30ゲル濾過カラム(Pharmacia)に注入し、
そして室温にて0.5ml/分で緩衝液を用いて溶出した。吸光度をタンパク質
について280nmでモニタリングし、BRについて550nmでモニタリング
した。0.5mlの画分を収集した。サイログロブリン(669kDa、ストー
クス直径170A)、フェリチン(440kDa、ストークス直径122A)、
カタラーゼ(232kDa、ストークス直径92A)、乳酸デヒドロゲナーゼ(
140kDa、ストークス直径82A)、ウシ血清アルブミン(66kDa、ス
トークス直径71A)、およびウマ心臓シトクロムc(12.4kDa、ストー
クス直径35.6A)の混合物を使用してカラムを較正した。
【0139】
原子間力顕微鏡(AFM)を、緩衝液下の鋭い硝酸ケイ素プローブを用いる接
触モードで、Digital Instruments Nanoscope
IIIaを用いて実行した。MSP1およびMSP2のジパルミトイルホスファ
チジルコリン粒子を、10mM Tris(pH8)、0.15M NaCl、
2mM CaCl中、1:50の第Xa因子:MSPタンパク質(質量)で8
時間処理した。2〜10mlのサンプルを、新たに切断した雲母表面上に、20
mlの画像化緩衝液(10mM Tris(pH8)、0.15M NaCl、
10mM MgCl)と共に配置し、そして流体セル中にサンプルを載せる前
に、30分以上インキュベートした。数mlの緩衝液を、流体セルを通して流し
て、未吸着の物質を除去した。
【0140】
ナノスケールの粒子のリン酸分析を、以下のように実行した。リン酸アッセイ
手順は、Chenら(1956)Anal.Chem.28:1756−175
8ならびにFiskeおよびSubbarow(1925)から適合させた。ほ
ぼ40nmolのリン酸脂質を含有するサンプルを、ガラスチューブ中で乾燥さ
せた。75mlの8.9N HSOを各チューブに添加し、そして210℃
で30分間加熱した。1滴の30% Hを各チューブに添加し、そして3
0分間加熱した。チューブを冷却し、0.65mlのHOを添加し、その後8
3.3mlの2.5%(w/v)モリブデン酸アンモニウム四水和物を添加し、
その後ボルテックスして、83.3mlの10%(w/v)アスコルビン酸を添
加した。混合後、チューブを沸騰水浴中に7分間配置した。吸光度を、820n
mで読み取った。吸光度を、0〜100nmolのリン酸の、リン酸カリウム標
準を使用して較正した。カラムクロマトグラフィーからの緩衝液ブランクを、M
SPタンパク質について含んだ。
【0141】
(実施例12.表面上のMSP支持された構造)
MSPおよび目的のタンパク質を含むナノディスクを、金表面上にアセンブル
し得る。これの有用性は、溶液に対する、ナノディスクアセンブリ中に組み込ま
れた標的の、得られるエピタキシャル提示に関する。このことは、誘電性造影剤
を用いて標的タンパク質にタグ化された他の高分子または低分子の結合を定量す
るための、理想的な系を提供する。このような測定を達成する一般的な方法は、
表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使用する。SPRは、表面での生体分子の
相互作用をモニタリングするために使用される一般的な技術である。SPRが、
金表面上の未標識タンパク質の相互作用を迅速に検出および定量する能力は、デ
ィスク上の多様な膜タンパク質(包埋タンパク質および可溶化タンパク質)につ
いての、高スループットチップアッセイを生み出すために有用である。
【0142】
さらなるチオール化脂質およびMSP1タンパク質を含むか、または含まない
かのいずれかである、リン脂質DPPCからなるディスクを、以下のように調製
した。ホスファチジルコリンを含有する25mMの脂質混合物を、10mM T
ris Cl中50mMのコール酸塩で可溶化し、150mM NaClをpH
8.0で合わせて、37℃で一晩インキュベートした。チオール化ディスクにつ
いて、90%のホスファチジルコリンおよび10%のチオール化脂質(ATA−
TEG−DSPA、Northern Lipids)を、チオール化脂質中の
チオールを曝すために、3.3mM Tris Cl、66.7mMのホウ酸、
150mM NaCl中にpH9.0で可溶化した。MSP1および脂質(1:
100)を合わせて、37℃で一晩インキュベートした。次いで、このサンプル
を、10mM Tris Cl、150mM NaCl(pH8.0)を含有す
る緩衝液(コール酸を含まない)に対して37℃で2時間透析した(10,00
0MWのカットオフ膜)。次いで、透析を、2時間毎に緩衝液を交換して、さら
に6時間4℃にて継続した。約1mlのサンプルをYM−10遠心分離濃縮機を
使用して250μl未満に濃縮し、そしてPharmaciaの10/30 S
uperdex 200 HRゲル濾過カラムに注入した。サンプルを、0.5
ml/分の流速で、コール酸を含まない上記の緩衝液を使用して、このカラムか
ら溶出した。クロマトグラフィーからの画分を、8〜25%の勾配のポリアクリ
ルアミドゲルを使用する、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析して、
見かけのサイズを決定した。
【0143】
記載されるように調製したナノディスクサンプル(3〜20μM)を、SPR
機器に注入して、このディスクが金表面に結合するか否かを決定した。DPPC
および10%チオール化脂質のディスクの両方が、金表面に吸着し、そして修飾
された金表面は、単層のメチル終結チオール(ノナンチオール)またはカルボキ
シ終結チオール(11−メルカプトウンデカン酸)で被覆された。チオール化デ
ィスクを、3.3mM Tris、66.7mM ホウ酸、150mM NaC
l(pH9.0)からなる緩衝液を使用して注入した。DPPCディスクを、1
0mM Tris、150mM NaCl(pH7.5またはpH8.0)を使
用して注入した。全ての条件下で、このディスクは、過酷な条件(0.5M H
Cl)でさえも、取り除かれなかった。表面被覆は、注入されたディスクの濃度
の増加と共に増加することが示された(3μM 対 19μM)。ディスクは、
完全にパックされた単層を含まない;従って、表面被覆は、0.547の妨害制
限(同一の非重複硬質スフィアとしての表面モデリングディスクへの、ランダム
な連続的吸収に基づく、理論的最大被覆)によって制限される。ディスクの全単
層についての被覆を、5.5nmのディスク高さおよび1.45と1.5との間
の屈折率の仮定に基づいて算定した。全単層値に妨害制限を乗じて、最大被覆を
決定し、次いで、この最大被覆を使用して、実験値に基づく被覆%を決定した。
ディスク濃度が少なくとも10μMであった場合、この推定被覆は、約62%と
約103%の間であった。ナノディスクの金表面に対する会合を実証する得られ
たSRPトレースは、図27に示される。
【0144】
(文献の列挙)
【0145】

【表1】




(配列表)

【数1】











































【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図3B】
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【公開番号】特開2010−138177(P2010−138177A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291498(P2009−291498)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【分割の表示】特願2007−244302(P2007−244302)の分割
【原出願日】平成13年11月20日(2001.11.20)
【出願人】(500436215)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシテイ オブ イリノイ (3)
【Fターム(参考)】