説明

膜タンパク質の可溶化

膜タンパク質の可溶化のための方法が提供される。この方法は、膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む細胞成分に適用される。スチレン対マレイン酸の比率が、1:2〜10:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体は、細胞成分と混合され、共重合体、脂質、およびタンパク質をもたらし、可溶性の高分子集合体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜タンパク質の可溶化に関する。このようなタンパク質は、通常、生細胞の膜に見出される。
【背景技術】
【0002】
脂質二重膜は、分子細胞生物学において周知の構造である。これらの膜は、糖脂質およびリン脂質の二重膜から形成され、各リン脂質分子は、親水性の極性頭部と、疎水性のアシル基の尾部とを有し、二重膜中の前記分子は平行に並んでおり、親水性の極性頭部が、膜の内側表面と外側表面とを形成し、疎水性の尾部が膜の内部を形成する。ステロールのような他の脂質も、脂質二重膜において見出される。このような脂質二重膜は、原核生物および真核生物の両者の細胞膜、ならびに真核生物の多くの細胞内小器官の周囲の膜を含む。
【0003】
本発明は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)と、イオンチャネルと、トランスポーターとを含む膜内在性タンパク質、すなわちそのような膜に、交差し、埋め込まれ、または組み入れられた全てのタンパク質での使用に特に適している。真核生物のタンパク質の約3分の1は、承認された薬の40%の標的と同様に、このようにして膜に関連している。膜内在性タンパク質は、通常、疎水性であって膜二重層の疎水性内部に位置する1つ以上の領域と、親水性であって膜から外部に広がる1つ以上の領域とを有する。親水性領域は、膜の片側、または両側に位置してもよい。
【0004】
GPCRは、7回膜貫通αヘリックスを含むことによって特徴付けられるタンパク質の一群である。タンパク質は、クラス1(ロドプシン関連)、クラス2(セクレチン関連)、およびクラス3(代謝型グルタミン酸受容体関連)の3つの一般的クラスに分類される。縮れた(frizzled)および滑らかな(smoothened)GPCRも存在する。GPCRは、全ての哺乳類などで見出される。特に、GPCRは、多くの生理的プロセスを制御し、多くの薬の標的となる。したがって、それらは薬理学上非常に重要であると考えられる。GPCRは、アゴニストおよびアンタゴニストのような異なる薬理学上の分類のリガンドに関連する複数の特徴的な構造で存在し、機能するためにこれらの構造の間を循環していると考えられる(Kenakin T. (1997) Ann N Y Acad Sci, 812, 116-125)。
【0005】
全てのタンパク質と同様に、膜内在性タンパク質の機能は、その三次元構造に依存する。この構造は、埋め込まれた領域と膜二重層の内部との疎水性相互作用、タンパク質の埋め込まれていない領域と極性のリン脂質頭部とのイオン相互作用、および周囲の水性媒体によって、ならびにタンパク質自体内部の相互作用(疎水性およびイオン性の両者)によって安定化する。膜タンパク質の代表的な機能は、イオンおよび小分子の細胞膜を横切る輸送、ならびに受容体によるリガンドの認識、ならびに膜を横切るシグナル伝達を含む。
【0006】
界面活性剤の使用によって、膜タンパク質をそれらの天然の環境から取り出すことができる。界面活性剤は、親水性の極性頭部と疎水性尾部とを備える膜二重層のリン脂質の分子構造と同様の一般的な分子構造を有する。そのように、界面活性剤は、膜タンパク質の親水性および疎水性領域の両者に結合することができ、タンパク質を水に可溶化することができる。このことは、標準的なクロマトグラム法を用いて多くの異なるタンパク質を分離することを可能とし、タンパク質の特性評価(例えば、標準的なシークエンシング方法を用いる)の可能性を拡げる。そのようなタンパク質抽出方法は、米国特許第5,763,586号明細書に記載されている。
【0007】
しかし、界面活性剤と脂質二重層との間の構造上の相違を考慮すると、界面活性剤がタンパク質の構造に影響を与えるであろうことが予測される。加えて、SDSのような界面活性剤中のタンパク質の変性は、多くの場合、分子量の評価および他の特性評価を実行するために望ましいものである。しかし、天然の構造のそのような損失の全ては、機能の消失をもたらすであろう。このように、界面活性剤中における可溶化は、天然タンパク質の機能を決定するための信頼性のある方法を提供するものではない。
【0008】
特に、GPCRは、単離すると一般的に不安定であり、ウシロドプシン(例外的に安定である)のように、結晶化に耐えられることが証明されたものはほとんどない。安定で活性のある膜タンパク質を可溶化し特性評価をするための一般的な方法の不足は、それらの機序を定義し、利用することを困難にしている。
【0009】
天然の膜タンパク質の環境により近い環境中で膜タンパク質を可溶化する試みがなされてきたが、依然として、クロマトグラフィーの、分離および特性評価を可能とするのみである。
【0010】
例えば、発行された英国特許出願GB2445013には、界面活性剤と脂質との高分子集合体が記載されており、前記集合体は、100nm未満の直径であることが記載されている。これらの集合体は、二重層ディスクであると考えられる。前記集合体は、集合体(タンパク質を含まない)と、界面活性剤で安定化されたタンパク質溶液との透析によって、膜タンパク質の可溶化のために用いることができることが指摘されている。そして、タンパク質を含む集合体は、タンパク質との相互作用のための候補のスクリーニングに用いられてもよい。
【0011】
同様に、発行された国際(PCT)特許出願WO2006/129127は、スチレンおよびマレイン酸(少なくとも1:1の比率)の共重合体の高分子集合体と、(合成)脂質との組み合わせを開示している。合成脂質中において安定化した精製タンパク質に重合体溶液を添加することによって、または重合体/脂質集合体に精製タンパク質を添加することによって、膜タンパク質を組み込む集合体を形成することも開示されている。
【0012】
したがって、天然の膜環境の特性を保持する方法で膜タンパク質を可溶化する機序が必要である。
【発明の概要】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、膜タンパク質を可溶化するための方法であって、膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む細胞成分を提供すること、スチレン対マレイン酸の比率が1:2〜10:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供すること、ならびに共重合体を細胞成分と混合し、共重合体、脂質、およびタンパク質をもたらし、高分子集合体を形成することを含む方法が提供される。
【0014】
本明細書において、「関連した膜脂質」は、膜タンパク質と同じ供給源に由来するべきであることが理解されるであろう。一実施形態では、細胞成分を提供することは、添加された脂質の存在しない細胞成分を提供することを含む。
【0015】
驚くべきことに、膜タンパク質を、細胞成分から抽出することができ、タンパク質の初期精製の必要なしに高分子集合体に組み込むことが可能であることが発明者らによって見出された。理論によって束縛されることを望むものではないが、タンパク質の初期精製なしに、タンパク質の天然の環境に由来する脂質と共にタンパク質が組み込まれている、高分子集合体を形成することは、タンパク質がその天然の構造を保持する可能性を最大にすると考えられる。したがって、前記方法は、天然タンパク質の機能および特性のより正確な評価を可能にする。
【0016】
一実施形態において、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することは、スチレンおよび無水マレイン酸の共重合体を提供することと、無水マレイン酸をマレイン酸に加水分解することとを含む。スチレンおよび無水マレイン酸の共重合体は、SMA(登録商標)2000およびSMA(登録商標)3000の商品名で、Sartomer Company Inc., Exton PA, USAから購入することができる。適した加水分解法は、当分野において公知である。
【0017】
一実施形態において、膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む細胞成分を提供することは、全細胞を提供することを含む。
【0018】
タンパク質がその天然の構造を保持している、高分子集合体の形成を可能にすることによって、結合リガンドを保持するタンパク質の能力が増加する。そして、得られる高分子集合体は、タンパク質とリガンドとの間の相互作用についての知見を提供するために使用することができ、したがって、タンパク質の機能についての知見を提供するために使用することができる。
【0019】
さらなる実施形態において、前記方法は、高分子集合体を処置し、他の細胞構成要素を消化、または除去することをさらに含む。
【0020】
代替的な実施形態において、膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む細胞成分を提供することは、精製された膜成分を提供することを含む。そのような精製された膜成分は、部分的に、または少なくとも実質的に、例えば核酸のような他の細胞成分が存在しなくてもよい。例えば、精製された膜成分を提供することは、当該分野において公知である、溶解細胞の遠心を含んでもよい。
【0021】
高分子集合体溶液中におけるDNAの存在は、粘性を増加させ、精製における困難性をもたらし得ることが見出された。したがって、高分子の集合前に他の細胞構成要素から膜成分を分離することによって、または集合体を含む液体の処置によって、本発明の方法で製造される高分子集合体には、少なくとも実質的に核酸が存在しないことを確実にすることは有利である。
【0022】
一実施形態において、膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む細胞成分を提供することは、膜タンパク質と、タンパク質に結合したリガンドと、関連した膜脂質とを含む細胞成分を提供することを含み、共重合体を細胞成分と混合し、共重合体、脂質、およびタンパク質をもたらし、高分子集合体を形成することは、共重合体を細胞成分と混合し、共重合体、脂質、タンパク質、およびリガンドをもたらし、高分子集合体を形成することを含む。
【0023】
一実施形態において、スチレン対マレイン酸の比率が0.5:1〜10:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することは、スチレン対マレイン酸の比率が1:1〜5:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することを含む。さらに他の実施形態において、スチレン対マレイン酸の比率は、1.5:1〜4:1の間、または2:1〜3:1の間である。
【0024】
天然の重合過程のために、そのような単量体の比率はバルク平均であり、定義された単量体の配列を有する特定の分子構造の記述であると考えられない。それでも、一般的には、前記モノマー型が共重合体中に分布していると考えられる。
【0025】
一実施形態において、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することは、3000Da〜120000Daの間の分子量を有する、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することを含む。さらに他の実施形態において、共重合体は、5000Da〜15000Daの間の分子量を有する。さらなる他の実施形態において、共重合体は7000〜10000Daの間の分子量を有する。
【0026】
一実施形態において、共重合体を細胞成分と混合し、共重合体、脂質、およびタンパク質をもたらし、高分子集合体を形成することは、pH6〜9の間で、共重合体を細胞成分と混合することを含む。さらに他の実施形態において、共重合体を細胞成分と混合し、共重合体、脂質、およびタンパク質をもたらし、高分子集合体を形成することは、pH6.5〜8.5の間で、共重合体を細胞成分と混合することを含む。さらなる他の実施形態において、共重合体を細胞成分と混合し、共重合体、脂質、およびタンパク質をもたらし、高分子集合体を形成することは、pH7〜8の間で、共重合体を細胞成分と混合することを含む。
【0027】
一実施形態において、前記方法は、高分子集合体を精製することをさらに含む。例えば、前記方法は、高分子集合体のクロマトグラフィー精製を含んでもよい。精製タグ(例えば、複数のヒスチジン残基、またはグルタチオンSトランスフェラーゼ酵素)を含むように遺伝子操作された特定の膜タンパク質の集合体を単離するために望まれる場合、前記高分子集合体を、例えばアフィニティクロマトグラフィーのような、特定の精製タグの使用に適した任意の方法によって精製することができる。当業者に容易に理解されるように、当該分野において周知である他のタンパク質精製方法も使用してもよい。
【0028】
一実施形態において、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することは、識別のために標識されたスチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することを含む。好ましい標識は、例えば、蛍光物質およびラジオアイソトープを含む。
【0029】
一実施形態において、共重合体と細胞成分との混合は、少なくとも15℃、または少なくとも20℃の温度で実行される。付加的に、または代替的に、共重合体を細胞成分と混合することが、細胞成分のゲル−液相転移温度よりも高い温度で実行されてもよい。
【0030】
生化学的研究において、タンパク質を扱う場合(および特にタンパク質の天然の構造を維持することが望まれる場合)、全ての処理を低温で実行するべきであることが周知である。したがって、タンパク質の処理(例えば、抽出など)は、通常冷蔵室で実行される。低温で作業する目的は、変性および酸化を含む(しかし、これらに限定されない)タンパク質の全ての劣化を防ぐためである。しかし、そのような低温において、細胞成分は、ゲル様の構造を形成する傾向を有し、その結果、処理を達成することは困難であり、望まれるよりも時間がかかる。
【0031】
驚くべきことに、本発明の方法は、高温で処理を実行することができるほど、タンパク質を安定化することが本発明者らによって見出された。特に、ゲル−液相転移温度またはそれよりも高い温度で処理を実行することができ、それによってタンパク質の安定性を犠牲にすることなく、(高分子集合体の形態で)タンパク質を可溶化するために必要な時間が減少する。
【0032】
ゲル−液相転移温度は、当該分野において十分に理解され、リン脂質二重層におけるリン脂質のアクリル鎖の長さによって影響を受けることが知られている。バクテリアおよびヒトにおける多くの脂質は、炭素原子数12〜14個の間の鎖の長さを有し、20〜40℃の間の転移温度である。
【0033】
さらに他の実施形態において、細胞成分を共重合体と混合することは、さらに混合物の超音波処理を含む。このことは、細胞成分と共重合体との混合を、細胞成分中の膜を壊すことによって促進する。
【0034】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様の方法に係る生成可能な高分子集合体が提供される。
【0035】
本発明の第3の態様によれば、スチレン対マレイン酸の比率が1:2〜10:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体と、膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む高分子集合体が提供される。
【0036】
本明細書において、「関連した膜脂質」は、天然の細胞において、膜タンパク質と同じ膜に見出される膜脂質であるべきことが理解されるであろう。
【0037】
一実施形態において、関連した膜脂質は、天然の細胞において、膜タンパク質を取り囲む膜脂質であり、天然のタンパク質−脂質複合体を形成する。
【0038】
一実施形態において、スチレンおよびマレイン酸の共重合体は、スチレン対マレイン酸の比率が1:1〜5:1の間である。さらに他の実施形態において、スチレン対マレイン酸の比率は、1.5:1〜4:1の間、または2:1〜3:1の間である。
【0039】
天然の重合過程のために、そのような単量体の比率はバルク平均であり、定義された単量体の配列を有する特定の分子構造の記述であると考えられない。それでも、一般的には、前記モノマー型が共重合体中に分布していると考えられる。
【0040】
一実施形態において、スチレンおよびマレイン酸の共重合体は、3000Da〜12000Daの間の分子量を有する。さらに他の実施形態において、前記共重合体は、5000Da〜15000Daの間の分子量を有する。さらなる他の実施形態において、前記共重合体は、7000〜10000Daの間の分子量を有する。
【0041】
一実施形態において、スチレンおよびマレイン酸の共重合体は、識別を促進するために標識される。適した標識は、例えば、蛍光物質およびラジオアイソトープを含む。
【0042】
本発明の第2の態様および第3の態様の高分子集合体は、多くの応用ができると考えられる。天然の脂質環境中の膜タンパク質の、溶解およびクロマトグラフィー分離に加えて、そのようなタンパク質の天然に生じた無傷のオリゴマー(例えば、二量体など)を精製し、そのようなタンパク質のリガンド(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)への結合を調べ、質量分析によってその結合を観察するために前記集合体を使用することができる。特に、GPCRを含む集合体は、そのような目的のために有用であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
本発明の態様の例を、添付の図を参照して以下に記載する。
【図1】図1は、加水分解の前(実線)と後(点線)におけるスチレンおよび無水マレイン(酸)の共重合体のFTIRスペクトルを示す。
【図2】図2は、ピキア(Pichia)膜成分の濃度増加を用いる集合体形成のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を示す。
【図3】図3は、樹脂精製の間における連続的な洗浄工程の後、精製されたヒトA2aアデノシン受容体(hA2aR)集合体のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を示す。
【図4】異なる分子量の重合体を用いて形成された、精製されたPagP集合体のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を示す。
【実施例】
【0044】
SMA共重合体の調製−方法1
2:1の単量体比率を有する、低分子量スチレンおよび無水マレイン酸の共重合体(Sartomer Europe, Paris, FranceからSMA(登録商標)2000Pとして市販されている)を、1.0M 水酸化ナトリウム中で可溶化し、2時間還流し、続いて4℃で48時間インキュベートし、スチレンおよびマレイン酸の共重合体に対応する5%保存液を得た。反応の終了は、凍結乾燥物のフーリエ変換赤外(FTIR)分光分析によって確認した(図1)。1778cm-1における無水物のカルボニル基のピークが、1568cm-1におけるカルボン酸のカルボニル基のピークによって置き換えられたことが見て取れた。続いて、前記試料を、50mM Tris(pH8)中で十分に透析し、水酸化ナトリウムを除去した。
【0045】
SMA共重合体の調製−方法2
10%(w/v)粉末SMA(登録商標)2000P(方法1と同様)を、1M NaOH中で2時間還流した。重合体を4℃に冷却し、続いて、IR分析によって加水分解が終了したと評価されるまで2日間保存した。続いて、重合体を、HClの添加によって沈殿させ、pH3以下とした。得られた懸濁液を6000×gで10分間遠心し、上清を除去した。続いて、重合体を再懸濁し、HOで洗浄した。遠心、分離、および洗浄を2回繰り返し、続いて重合体をHO中に再懸濁し、pH7を超えるように調製し、重合体を再度可溶化した。重合体溶液を、HOに対して2日間透析して、全てのさらなる混入物を除去し、続いて凍結し、凍結乾燥させた。
【0046】
比較例:精製された重合体からの高分子集合体の形成
未標識のPagPタンパク質を、pETCrcAHΔSプラスミド(Bishop et al (2000) EMBO J 19:5071-5080)を用いて、細胞質内封入体として大腸菌(Escherichia coli)において発現させ、Hwang et al(2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99(21):13560-5に記載されたように精製した。沈殿したPagPを、5% SDS中で溶解させ、50mM Tris(pH8)に対して5日間透析(3500kDaの分子量カットオフ)し、過剰のSDSを除去した。得られた試料は0.5mM PagPを含んでいた。続いて、固体のn−オクチル−β−D−グルコース(β−OG)を100mMの最終濃度となるようにゆっくりと溶解させ、エタノールを1%となるように加えた。ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)を最終濃度が2%(w/v)となるように添加し、完全に溶解するまで撹拌した。無極性ポリスチレン吸着体であるバイオビーズSM−2を、製造者の仕様書に沿って2回添加してβ−OG界面活性剤を除去し、続いて4℃で混合しながら16時間放置した。この処理を、多層状の小胞(MLVs)からなる不透明な脂質溶液が作製されるまで繰り返した。
【0047】
この溶液を室温にして、40mM Tris(pH8)中の5%スチレンおよびマレイン酸(SMA)の共重合体溶液を1:1(v/v)となるように添加し、溶液が透明になるまで撹拌しながら放置した。続いて、過剰の共重合体/脂質を、標準的なHisTrap精製手順(GE Healthcare)を用いて除去した。
【0048】
実施例1:E.Coli膜からの高分子集合体の形成
N末端シグナルペプチドを含むPagPのコンストラクトを、pET21b発現ベクター(Novagen)に組み込み、標準的な分子生物学的手法を用いて大腸菌株BL21(DE3)(Novagen)の外膜にC末端ヒスタグ融合タンパク質として強制発現させた。アンピシリン抵抗性(100μg/ml)によって選別した細胞を、Luria broth(LB)培地でOD600が0.4となるまで37℃で増殖させ、その時点で温度を18℃に低下させた。600nmでの吸光度が0.6に到達したときに、1mM IPTGの添加によって発現を誘導した。16時間後、細胞ペレットを6000×gで15分間遠心して収集した。細胞を、50mM Tris(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液(pH8)、1M NaCl、およびコンプリートプロテアーゼインヒビター(Roche)中に再度懸濁させ、Emulsiflex C3(Avestin)によって溶解させた。細胞溶解液を5000×gで遠心し、細胞片を除去し、続いて、上清を75000×gで1時間遠心して膜画分をペレット化した。
【0049】
生膜を、50mM Tris(pH8)+1M NaCl+10%グリセロール(E.Coli培養2L当たり約20ml)に4℃で再懸濁し、280nmにおける吸光度によって評価されるように、20〜40mg/mlの間の最終タンパク質濃度とした。50mM Tris(pH8)+1M NaCl+10%グリセロール中の5%(w/v) 加水分解SMA2000P共重合体の等量を、1%(w/v)DMPC(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)(Avanti Polar Lipids)と同様に、(2.5%(w/v)の最終濃度となるように)試料に添加した。この溶液を、固定台に置き、全てのDMPCが溶解するまで、20℃で穏やかに撹拌した(約1〜2時間)。得られた溶液を4℃、75000×gで1時間遠心し、組み込まれていない成分を除去し、E.Coli膜タンパク質共重合体の集合体を溶液中に残した。
【0050】
タンパク質共重合体集合体を、5ml Histrap(GE Healthcare)カラム、または5ml Co2+IPAP(GE Healthcare)カラムのいずれかを用いて、標準的な金属キレートクロマトグラフィー(Crowe et al (1994) Methods Mol. Biol. 31 371-387)によって精製した。生の集合溶液を、0.2ml/minの割合で添加し、結合を最大とした。カラムは、カラム体積の5倍洗浄し、非特異的に結合した混入物を除去し、50mM Tris(pH8)+1M NaCl+50mM EDTAを用いて精製されたタンパク質共重合体集合体を1ml画分に溶出させた。
【0051】
実施例2:ピキア膜からの高分子集合体の形成
ピキア・パストリス(Pischia Pastoris)形質転換体を、成長培地において一晩培養し、メタノールの添加によってタンパク質の生産を誘導した。試料を、誘導後に遠心によって収集し、上清をデカントし、細胞ペレットを凍結させた。ピキア膜を、50mM Tris(pH8)+50mM NaCl中に再懸濁し、続いてEmulsiflex C3 cell disrupter (Avestin)を用いて細胞を破壊し、100000×gで1時間遠心することによって細胞から調製した。
【0052】
生膜を、6%(w/v)の最終濃度となるように、4℃で50mM Tris(pH8)+50mM NaCl中に再懸濁した。50mM Tris(pH8)+50mM NaCl中の加水分解SMA重合体(5% w/v)の等量を、2.5%(w/v)の最終濃度となるように添加した。試料を20℃で5分間振とうしながら放置し、集合体の形成を生じさせた。不溶性/組み込まれていない成分を、75000×gで30分間遠心することによって除去し、生ピキア膜タンパク質共重合体の集合体を溶液中に残した。
【0053】
実施例3:ピキア膜の添加
ピキア膜を実施例2のように単離した。生膜を、50mM Tris(pH8)+50mM NaClに4℃で再懸濁し、試料1ml当たり0〜400mgの濃度範囲(0〜40% w/v)とした。50mM Tris(pH8)+50mM NaCl中の加水分解SMA重合体(5% w/v)の等量を、各試料に添加し、2.5%(w/v)の最終濃度とした。試料を、20℃で5分間振とうしながら放置し、集合体形成を生じさせた。不溶性/組み込まれていない成分を75000×gで30分間遠心することによって除去し、生ピキア膜タンパク質共重合体の集合体を溶液中に残した。結果を図2に示した。
【0054】
実施例4:ピキア膜からの高分子集合体の形成と精製
ピキア膜を実施例2のように単離した。生膜を可溶化緩衝液(50mM Tris−HCl、10%グリセロール、500mM NaCl、2.5%(w/v)加水分解SMA重合体(hSMA)、1% DMPC(Avanti))(pH8)中に再懸濁した。スラリーを、室温で1〜2時間撹拌し、続いてBeckman Type 70.1 Ti Rotor中において150,000×gで45分間遠心した。可溶化し、過剰発現したヒトA2aアデノシン受容体(hA2aR)を含む上清をさらなる使用のために確保した。
【0055】
精製を0〜4℃で実行した。可溶化したhA2aRを含む上清を、再懸濁緩衝液(50mM Tris−HCl、10%グリセロール、500mM NaCl)(pH8)中において、混合液が再懸濁緩衝液中において20mM イミダゾールの最終濃度を有するように80mM イミダゾールで希釈した。試料を、一晩ゆっくりと回転させながらNi2+−NTA樹脂(Qiagen)とインキュベートした。例によって、樹脂の1.5mlを、元の培養に由来する20gの細胞ペレットについて使用した。樹脂の体積の洗浄緩衝液(再懸濁緩衝液に60mM イミダゾールを加えたもの(pH8))で樹脂を5回洗浄し、樹脂の体積の20倍を超えない溶出緩衝液(再懸濁緩衝液に250mM イミダゾールを加えたもの(pH8))を用いて受容体を溶出した。
【0056】
hA2aRを含む画分を、Vivapin 20濃縮器(30kDaカットオフ、Sigma-Aldrich)を用いて濃縮し、AKTA(商標)purifier FPLC system(GE Healthcare)に取り付けられたSuperdex 200 10/300 GLカラムに注入する前に、ゲル濾過溶出緩衝液(50mM Tris−HCl、10% グリセロール、150mM NaCl)(pH8)で十分に洗浄した。画分を、ゲル濾過溶出緩衝液(50mM Tris−HCl、10% グリセロール、150mM NaCl)(pH8)で溶出した。結果を図3に示す。
【0057】
実施例5:分子量の幅を有する重合体を用いる、E.Coli膜からの高分子集合体の形成
XZ−09−006(6kDa)、XZ−09−008(10kDa)、SZ33030(30kDa)、SZ42010(10kDa)、SZ28065(65kDa)、およびSZ28110(110kDa)のスチレンおよび無水マレイン酸の共重合体(上述したように、単量体の比率が2:1である)(Polyscope Polymers, Hollandから市販されている)を用いた。重合体を、水の代わりに0.1M Tris(pH8)に対して透析したことを除いて、方法2と同様に重合体を調製した。重合体は、Sartomer SMA(登録商標)200Pから得られたものよりも高い精製度を有していることがわかった(希釈に続く透析によって測定した)。
【0058】
PagPを発現させ、分子集合体を実施例1に記載された手順に従って精製した。結果を図4に示す。高分子集合体の形成は、Sartomer SMA(登録商標)2000Pから得られた重合体よりも遅くなった。特に、高分子集合体の形成は、より高い分子量の重合体で最も遅くなった。高分子集合体は、少なくとも室温で3日間安定であるとみられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜タンパク質を可溶化するための方法であって、
膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む細胞成分を提供することと、
スチレン対マレイン酸の比率が1:2〜10:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することと、
共重合体を細胞成分と混合し、共重合体、脂質、およびタンパク質をもたらし、可溶性の高分子集合体を形成することとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
細胞成分を提供することが、添加された脂質の存在しない細胞成分を提供することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することが、スチレンおよび無水マレイン酸の共重合体を提供することと、無水マレイン酸をマレイン酸に加水分解することとを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む細胞成分を提供することが、全細胞を提供することを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
高分子集合体の溶液を処置し、他の細胞構成要素を消化または除去することを、さらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む細胞成分を提供することが、精製された膜成分を提供することを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
スチレン対マレイン酸の比率が0.5:1〜10:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することは、スチレン対マレイン酸の比率が1:1〜5:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
スチレン対マレイン酸の比率が0.5:1〜10:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することは、スチレン対マレイン酸の比率が2:1〜3:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
スチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することが、3000Da〜120000Daの間の分子量を有するスチレンおよびマレイン酸の共重合体を提供することを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
高分子集合体を精製することを、さらに含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の、生成可能な高分子集合体。
【請求項12】
スチレン対マレイン酸の比率が1:2〜10:1の間である、スチレンおよびマレイン酸の共重合体と、膜タンパク質と、関連した膜脂質とを含む高分子集合体。
【請求項13】
スチレンおよびマレイン酸の共重合体が、2:1〜3:1の間のスチレン対マレイン酸の比率を有することを特徴とする請求項12に記載の高分子集合体。
【請求項14】
スチレンおよびマレイン酸の共重合体が、3000Da〜120000Daの間の分子量を有することを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の高分子集合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−532853(P2012−532853A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519054(P2012−519054)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001309
【国際公開番号】WO2011/004158
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(305031567)ザ ユニバーシティ オブ バーミンガム (12)
【Fターム(参考)】