説明

膜分離装置の運転方法

【課題】第一の分離膜装置とその洗浄排水を固液分離処理する第二の分離膜装置を用いて、原水水質変動があっても分離膜の閉塞を回避でき、かつ安定した回収率を維持できる膜分離装置の運転方法を提供する。
【解決手段】原水の水質変化検出手段と、原水を膜濾過する第一の分離膜装置と、第一の分離膜装置の洗浄排水を膜濾過することにより濾過水を得るとともに所定の濾過時間ごとに洗浄機構により分離膜を洗浄する第二の分離膜装置を備えた膜分離装置の運転方法において、原水水質に応じて第一の分離膜装置の濾過時間を変更するに際し、変更前と変更後の濾過時間の比率の実質的に逆数に相当する分、第二の分離膜装置の膜濾過流量を変更することを特徴とする膜分離装置の運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密濾過膜や限外濾過膜、逆浸透膜などの分離膜を用いて、分離膜を透過した透過水や分離膜によって阻止された濃縮水を得る膜分離装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密濾過膜や限外濾過膜などの膜モジュールを用いた膜分離装置は、海水の淡水化、純水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野や、ワイン、果汁濃縮などの食品分野など、各種産業で広汎に採用されている。
【0003】
一般にこれら膜分離装置では、定期時間ごとに分離膜の二次側から一次側へ分離膜の透過水や清澄水を圧送して洗浄を行う方法が採用されている。
【0004】
膜分離装置では、濾過の工程と洗浄の工程については時間や流量などを予め設定して自動運転することが多く、水質変動がある原水へも数多く適用されている。このような膜分離装置では、原水水質が急激に悪化した場合には、所定の濾過、洗浄の運転条件では、濾過時の分離膜閉塞に洗浄が追いつかず、造水量が低下してしまったり、分離膜自体が完全に閉塞して使えなくなってしまうというような懸念がある。
【0005】
このような事態を回避するための膜分離装置や方法が考案されている。例えば特許文献1には、原水の水質変化と膜分離装置の濾過水量の減少傾向を検出して、分離膜を自動洗浄する方法が開示されている。また、特許文献2には、原水の濁度検出値に基づいて、分離膜の洗浄間隔を設定する膜分離装置が記載されている。
【0006】
また、膜分離装置の運転は、分離膜の閉塞をなるべく抑制するために、凝集沈殿濾過やイオン交換樹脂などを用いた水処理装置に比較して、低い回収率で運用されることが多い。
【0007】
このような膜分離装置の回収率を高める目的で、分離膜の洗浄排水を分離膜装置を用いて固液分離処理し、原水へ返送したり、処理水とする方法が考案されている。例えば特許文献3や特許文献4においては、第一の分離膜装置の洗浄排水を第二の分離膜装置で固液分離して、洗浄排水を浄水として得る装置、方法が提案されている。
【特許文献1】特開平4−247226号公報
【特許文献2】特許第3198612号公報
【特許文献3】特許第3223568号公報
【特許文献4】特開平7−213875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2と特許文献3や特許文献4に示された装置、方法を組み合わせれば、原水水質変動によっても分離膜の閉塞を回避し、かつ回収率を向上した膜分離装置が提供可能と考えられるが、以下のような問題が挙げられる。
【0009】
すなわち、膜分離装置の回収率を向上する目的で第一の分離膜装置と第一の分離膜装置の洗浄水を固液分離処理するための第二の分離膜装置を備えるシステムとし、原水水質変動の影響を緩和する目的で、原水水質変動に応じて第一の分離膜装置の濾過時間を変更する運転方法を適用した場合、原水水質の悪化時に第一の分離膜装置の濾過時間が短縮されれば、第一の分離膜装置より排出される洗浄排水は、濾過時間の短縮分に応じて増加する。つまり、第二の分離膜装置への供給水が第一の分離膜装置の濾過時間の短縮分に応じて増加することとなり、第二の分離膜装置で行うはずの固液分離処理が破綻するおそれが生じ、目標とする回収率向上が達成できない。
【0010】
そこで本発明の課題は、第一の分離膜装置とその洗浄排水を固液分離処理する第二の分離膜装置を用いて、原水水質変動があっても分離膜の閉塞を回避でき、かつ安定した回収率を維持できる膜分離装置の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る膜分離装置の運転方法は、原水の水質変化を検出する手段と、原水を膜濾過することにより濾過水を得るとともに所定の濾過時間ごとに洗浄機構により分離膜を洗浄する第一の分離膜装置と、第一の分離膜装置の洗浄排水を膜濾過することにより濾過水を得るとともに所定の濾過時間ごとに洗浄機構により分離膜を洗浄する第二の分離膜装置を備えた膜分離装置の運転方法において、検出される原水水質の値に応じて第一の分離膜装置の濾過時間を変更するに際し、変更前と変更後の濾過時間の比率の実質的に逆数に相当する分、第二の分離膜装置の膜濾過流量を変更することを特徴とする方法からなる。
【0012】
本発明者らは、原水水質変動があっても分離膜を閉塞することなく安定運転可能で、回収率も高く維持できる膜分離装置の運転方法を開発する目的で、膜分離装置全体を第一の分離膜装置と第二の分離膜装置との組み合わせで構成し、第二の分離膜装置に洗浄排水の回収機能をもたせ回収率を維持し、原水水質変動の分離膜への影響を回避するために、原水水質変動に応じて第一の分離膜装置の濾過時間を変更する手法を検討した。
【0013】
しかしながら、原水水質の悪化時に第一の分離膜装置の濾過時間が短縮された場合には、第一の分離膜装置より排出される洗浄排水量が初期設定値よりも増加してしまうため、第二の分離膜装置での処理が破綻することに突当たり、種々の検討を試みた。
【0014】
その結果、第一の分離膜装置の洗浄排水が増加する分に応じて、第二の分離膜装置の膜濾過流量を増加する方法で、第二の分離膜装置の処理を破綻させることなく膜分離装置全体の連続運転が可能であると考えた。この際、第二の分離膜装置は原水水質悪化時に濾過流量が増えることになり、第二の分離膜装置の膜閉塞が懸念されたが、もともと第二の分離膜装置は洗浄排水を処理するため、分離膜の有効面積あたりの膜濾過流量は低く設定されることが多く、また、第二の分離膜装置がシステム全体に占める規模は小さいため、原水水質悪化時に濾過流量が増えることによっても、運転安定性へ影響が少ないことを検証できた。
【発明の効果】
【0015】
したがって、本発明によれば、原水水質変動があっても、膜分離装置の分離膜の閉塞を回避し、かつ、設定の回収率を確保可能な膜分離装置の運転方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る膜分離装置の運転方法の実施に用いる膜分離装置を示している。図1の膜分離装置は、第一の分離膜装置1と第二の分離膜装置2を備えており、原水水質を測定する(水質変化を検出する)手段としての濁度計4を通った原水3が第一の分離膜装置1に送られる。第一の分離膜装置1は、原水槽11、膜モジュール13、膜濾過水槽14より構成され、原水ポンプ12と逆洗ポンプ15を備えている。第二の分離膜装置2は、第一の分離膜装置1の洗浄排水を第二の分離膜装置2の供給水として貯留する供給水槽21、膜モジュール23と膜濾過水槽25より構成され、供給水ポンプ22、逆洗ポンプ26、膜濾過水流量計24を備えている。
【0017】
原水3は濁度計4を通り、原水槽11へ導入される。原水槽11で受けた原水は、原水ポンプ12によって膜モジュール12へ供給される。膜モジュール12の分離膜を透過した透過水は膜濾過水槽14へ貯留され、最終的に処理水5となる。膜モジュールは貯留された膜濾過水を用いて定期的に逆流洗浄を行う。膜モジュール12の洗浄により排出される洗浄排水16は、第二の分離膜装置2の供給水槽21へ貯留される。貯留された第一の分離膜装置1の洗浄排水は、供給ポンプ22によって第二の分離膜装置2の膜モジュール23へ送られる。膜モジュール23の分離膜を透過した透過水は膜濾過水流量計24を通り、膜濾過水槽25へ貯留され、最終的に第一の分離膜装置1の濾過水と合流して処理水5となる。膜モジュール23は貯留された膜濾過水を逆洗ポンプ26により分離膜の二次側から一次側へと送ることにより、定期的に逆流洗浄を行う。膜モジュール23の洗浄により排出される洗浄排水27は系外へ排出される。
【0018】
濁度計4および膜濾過水流量計24の検出信号は、制御装置30に送られ、制御装置30からは、検出される原水水質の値に応じて第一の分離膜装置1の濾過時間を変更するに際し、変更前と変更後の濾過時間の比率の実質的に逆数に相当する分、第二の分離膜装置2の膜濾過流量を変更するように、供給ポンプ22に作動信号を送る。
【0019】
例えば、上記実施態様に係る装置では、原水濁度が5度以上の値を示した場合、第一の分離膜装置1の濾過時間を1/2とし、第二の分離膜装置2の濾過流量を2倍とする制御が行われる。
【0020】
原水濁度5度未満の場合は、第一の分離膜装置1と第二の分離膜装置2ともに初期設定の濾過時間、濾過流量にて運転を行う。
【0021】
原水濁度が5度以上となったとき、第一の分離膜装置1の濾過時間は1/2となり、同時に第二の分離膜装置2の濾過流量が2倍となる。濾過流量は、膜濾過水流量計24による流量検出の値を参照しながら、供給ポンプ22の回転数制御にて制御される。
【0022】
再び原水濁度が5度未満となった場合には、第一の分離膜装置1と第二の分離膜装置2ともに初期設定の濾過時間、濾過流量にて運転を行う。
【0023】
図1に示した装置は本発明の実施形態の例を示すものであって、本発明はその要旨を越えない限り、何ら図示のものに限定されるものではない。
【0024】
実施の形態では、第一の分離膜装置1、第二の分離膜装置2ともに模式的に膜モジュール1本の装置を例示したが、例示以上の複数本数、複数ユニットを使用する装置にも本発明は適用可能である。
【0025】
膜モジュールやエレメントの形状には、中空糸膜、管状膜、平膜、スパイラルなどがあり、いずれの形状のものでも本発明を適用可能である。
【0026】
膜モジュールの通水方式としては、内圧型、外圧型などあらゆる通水方式が適用可能であり、クロスフロー濾過やデッドエンド濾過などあらゆる濾過方法が適用可能である。
【0027】
分離膜の素材には、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、セラミック、各種金属など、分離膜に用いられているあらゆる素材が適用可能である。
【0028】
分離膜の種類としては、精密濾過膜や限外濾過膜、逆浸透膜など液体処理に用いられる、様々な膜種へ適用可能であるが、特に分画分子量数千程度から分離孔径数μmの分離膜へ好適に適用される。
【0029】
第一の分離膜装置1と第二の分離膜装置2で使用される膜モジュールやエレメントは同一としても、異なるものとしてもよく、また、通水方式、濾過方法も同一としても、異なるものとしてもよい。
【0030】
本発明における原水(被処理水)は、特に限定されるものではなく、本発明は、河川水、湖沼水、地下水、工業用水、上水、各種排水処理や果汁濃縮等有価物回収などに適用可能である。
【0031】
実施の形態では水質計器に濁度計を示したが、色度計、TOC計、pH計、ORP計、BOD計、COD計、水温計など、対象とする原水の水質変動を検出し得るものならば、すべて原水水質計器に適用可能である。
【0032】
実施の形態では、原水水質の値に対して一点の設定値を設け、その設定値に対する上下で第一の分離膜装置1の濾過時間、第二の分離膜装置2の濾過流量を変更する方法を示したが、設定値を二点、三点として複数段階で濾過時間、濾過流量の変更値を設けることも可能であり、また、連続で変更していくことも可能である。
【0033】
実施の形態では、濾過時間、濾過流量を変更する値と初期設定に戻す原水水質の値を同一の値としたが、原水の性状や用途に応じてそれらの値を異なる別々の設定値とすることも可能である。
【0034】
実施の形態では、第二の分離膜装置2の膜濾過流量の制御を膜濾過水流量計と原水ポンプとの回転数制御としたが、膜濾過水流量計とバルブの開度による調整など、本発明の主旨を超えない限り、あらゆる流量制御方法を適用することができる。
【0035】
本発明における膜分離装置では凝集剤を使用することも可能であり、凝集薬品には、ポリ塩化アルミニウム、硫酸ばんど、塩化鉄、硫酸鉄などの無機凝集剤のほかに、アクリルアミド系などの有機高分子凝集剤も適用可能であり、さらには各種凝集補助剤や酸、アルカリなどのpH調整薬品も添加薬品として使用可能である。
【0036】
本発明における分離膜の洗浄には、加圧空気を用いた空気揺動を組み合わせる洗浄方法や洗浄水に酸化剤などの薬品を添加する方法やフラッシング洗浄方法や逆洗水をドレンする工程と水を充填する工程の組みあわせによる洗浄方法なども適用可能である。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
本発明の実施の形態で述べた、図1の装置を二台用いて、本発明のシステムの運転安定性と回収率の優位性を確認した。原水には、伏流水を使用し、第一の分離膜モジュールにはXUNV-3203(旭化成ケミカルズ社製)、第二の分離膜モジュールにはXUNP-1003L(旭化成ケミカルズ社製)を用いた。原水水質計器には、濁度計OT-202N(オルガノ社製)を用いた。表1に、二台の装置の運転条件を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
条件1では本発明の方法を採用し、原水濁度が1度以上となった時に第一の分離膜装置の濾過時間を短縮し、同時に第二の分離膜装置の濾過流量を上げる運転方法とした(本発明)。条件2では比較のために原水濁度が1度以上となった時に第一の分離膜装置の濾過時間のみを短縮する運転方法とした(比較例)。
【0040】
上記試験における、原水濁度の変化を図2に、そのときの各運転条件の第一、第二の分離膜装置における各分離膜(第一、第二の分離膜)の膜間差圧を図3に、膜分離装置全体の回収率を図4に、それぞれ示す。
【0041】
図2に示すように、試験の期間中、原水濁度が1度を超えるピークが2回あったが、両運転条件とも濾過時間短縮の効果があり、第一、第二の分離膜ともに膜間差圧(図3)はほぼ安定であった。
【0042】
一方で回収率(図4)については、本発明の条件1では期間を通じてほとんど変化はなく安定であったが、第二の分離膜装置の濾過流量の増加を実施しない条件2では、原水濁度が1度以上となった期間で全体回収率が低下した。
【0043】
このように、本発明に係る方法では、水質変動がある原水においても膜の閉塞が起こりにくく、安定した回収率を確保できる運転が可能であることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施態様に係る膜分離装置の運転方法の実施に用いる膜分離装置の概略機器系統図である。
【図2】本発明による効果確認試験に用いた原水の水質変動(濁度変動)特性図である。
【図3】試験における膜間差圧の変化を示す特性図である。
【図4】試験における全体回収率の変化を示す特性図である。
【符号の説明】
【0045】
1 第一の分離膜装置
2 第二の分離膜装置
3 原水
4 原水水質の検出手段としての濁度計
5 処理水
11 原水槽
12 原水ポンプ
13、23 膜モジュール
14、25 膜濾過水槽
15、26 逆洗ポンプ
16、27 洗浄排水
21 供給水槽
22 供給水ポンプ
24 膜濾過水流量計
30 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水の水質変化を検出する手段と、原水を膜濾過することにより濾過水を得るとともに所定の濾過時間ごとに洗浄機構により分離膜を洗浄する第一の分離膜装置と、第一の分離膜装置の洗浄排水を膜濾過することにより濾過水を得るとともに所定の濾過時間ごとに洗浄機構により分離膜を洗浄する第二の分離膜装置を備えた膜分離装置の運転方法において、検出される原水水質の値に応じて第一の分離膜装置の濾過時間を変更するに際し、変更前と変更後の濾過時間の比率の実質的に逆数に相当する分、第二の分離膜装置の膜濾過流量を変更することを特徴とする膜分離装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−326473(P2006−326473A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152709(P2005−152709)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】